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特許異議申立

2025-700668

光学ガラス及び光学素子

審判番号
2025-700668
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-038023
登録番号
7608218
請求日
2025年06月26日
審決日
2026年01月27日
公報発行日
2026年04月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社オハラ
  • 【権利者代理人】右田 俊介
  • 【権利者代理人】高橋 政治
  • 【権利者代理人】水野 基樹
  • 【異議申立人】森 一郎
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 増山 淳子
  • 審判官 田口 裕健
分類
P1651.113-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C) / P1651.536-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第184条の13、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7608218号発明「光学ガラス及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7608218号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 特許第7608218号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7608218号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和3年3月10日に出願され、令和6年12月20日にその特許権の設定登録がされ、令和7年1月6日に特許掲載公報が発行された。 その後、その請求項1~3に係る特許に対して、令和7年6月26日に、特許異議申立人森一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年9月29日付けで取消理由が通知され、同年10月21日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年11月21日に申立人により意見書の提出がされた。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和7年10月21日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~3を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「酸化物基準の質量%で、 Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、 ZrO2成分が7.0%以下、 RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)」 とあるのを 「酸化物基準の質量%で、 Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、 ZrO2成分が7.0%以下、 Nb2O5成分が10.0%以下、 RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「酸化物基準の質量%で、 Nb2O5成分 0~18.0%、 WO3成分 0~15.0%、 La2O3成分 0~10.0% である請求項1に記載の光学ガラス。」とあるのを 「酸化物基準の質量%で、 WO3成分 0~15.0%、 La2O3成分 0~10.0% である請求項1に記載の光学ガラス。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」といい、明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「本件明細書等」という。)の【0021】の「Nb2O5成分の含有量は、・・・最も好ましくは10.0%以下を上限とする」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載されたガラスのNb2O5成分の含有量を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1によって請求項1に「Nb2O5成分が10.0%以下」と記載されたことに請求項2の記載を整合させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明) 上記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。 「【請求項1】 酸化物基準の質量%で、 Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、 ZrO2成分が7.0%以下、 Nb2O5成分が10.0%以下、 RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)、 質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下、 質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3が3.0%以上18.0%以下、 質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下 であり、 比重をd、屈折率をndとしたときに、 d≦6.17×nd-7.694の関係を満たす光学ガラス。 【請求項2】 酸化物基準の質量%で、 WO3成分 0~15.0%、 La2O3成分 0~10.0% である請求項1に記載の光学ガラス。 【請求項3】 請求項1または2に記載の光学ガラスからなる光学素子。」 第4 特許異議の申立てについて 1 特許異議申立理由 申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 甲第1号証 中国特許出願公開第109665714号明細書 甲第2号証 実験成績証明書、2025年6月18日、森一郎作成 甲第3号証 特許第5766002号公報 甲第4号証 知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10189号平成29年10月25日判決 甲第5号証 山根 正之、「セラミックス基礎講座4 はじめてガラスを作る人のために」、2005年、第1版第6刷、株式会社内田老鶴圃、77~79ページ、90~96ページ、目次 甲第6号証 HOYA編、「ガラスあれこれ [ミニ博物館]」、昭和61年4月3日、東洋経済新報社、110~113ページ、目次 甲第7号証 日本光学硝子工業会規格 JOGIS 10:2019、光学ガラスの摩耗度の測定方法、令和元年5月31日、一般社団法人日本工学硝子工業会作成 甲第8号証 特開昭60-122747号公報 甲第9号証 特開2012-126608号公報 甲第10号証 特開2021-31354号公報 甲第11号証 国際公開第2021/171950号 (国際出願番号:PCT/JP2021/004108号) 甲第12号証 特開2005-47732号公報 甲第13号証 特開2014-125408号公報 甲第14号証 特開2019-99395号公報 甲第15号証 特開2019-112292号公報 甲第16号証 国際公開第2020/45417号 甲第17号証 特開2017-36188号公報 甲第18号証 国際公開第2013/81027号 甲第19号証 特開2017-36187号公報 参考資料1 特開2018-90474号公報 以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。 (1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲1に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(甲3を主たる証拠とした進歩性欠如) 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲3に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3(拡大先願同一) 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件特許出願後に国際公開がされた甲11に係る特許出願(以下、「先願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、当該請求項に係る特許は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される第29条の2の規定に違反してされたものである。 (4)申立理由4(サポート要件) 本件特許は、設定登録時の請求項1~3の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 甲12~甲19には、本件発明1、2の組成要件をすべて満たすが、本件発明1の「比重をd、屈折率をndとしたときに、d≦6.17×nd-7.694の関係」(以下、「物性関係1」という。)を満たさないか、失透するガラスが記載されている。そうすると、本件発明1、2の組成要件を満たすにも関わらず、物性関係1を満たさないか、安定性に欠ける、すなわち、本件発明の課題を解決できない光学ガラスが多数存在するといえる。 そうすると、本件発明1、2の組成要件で特定される光学ガラスが、高い蓋然性をもって本件発明1の物性関係1を満たし、安定性を有する、すなわち、本件発明の課題を解決するものであることを当業者が認識し得ないから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。 (5)申立理由5(実施可能要件) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 本件発明1、2の組成要件を満たしても本件発明1の物性関係1を満たさないガラス組成が多数存在するところ、本件発明1、2の組成要件及び物性関係1を満たすものを実施しようとした場合に、当業者が過度の試行錯誤を行う必要があるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 2 取消理由の概要 (1)取消理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (2)取消理由2(拡大先願同一) 設定登録時の請求項1~3は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件特許出願後に国際公開がされた先願の国際出願日における先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、当該請求項に係る特許は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される第29条の2の規定に違反してされたものである。 第5 当審の判断 事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由をまとめて検討する。 1 甲号証について (1)甲1の記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。 「 [図:0001434177000001.jpg] 」 (当審訳: [0005] 本発明は、従来技術の欠点を解決するために、屈折率が1.92~2.00、アッベ数が20~30の、優れた透過率を示すホウケイ酸塩系の高屈折率フリント光学ガラスを提供する。) 「 [図:0001434177000002.jpg] [図:0001434177000003.jpg] [図:0001434177000004.jpg] [図:0001434177000005.jpg] [図:0001434177000006.jpg] [図:0001434177000007.jpg] 」 (当審訳: [0093]実施例 [0094]光学ガラスの実施例 [0095]本発明の技術的解決法をさらに明確に説明するために、以下の非限定的な実施例を示す。 [0096]本実施形態では、上記光学ガラスの製造方法を採用し、表1~表2に示す組成の光学ガラスを得る。また、各ガラスの特性を本発明に記載した試験方法により測定し、その測定結果を表1及び表2に示した。 [0097]~[0103]の表については当審訳を省略。 但し、表中の「 [図:0001434177000008.jpg] 」は、「成分」の意味) (2)甲3の記載事項 甲3には、以下の事項が記載されている。 「【0008】 そこで、本発明は、リヒートプレス法でも失透しない優れた熱的安定性を有し、接合レンズの作製に好適な高屈折率高分散光学ガラスを提供することを目的とする。」 「【0056】 【表1】 [図:0001434177000009.jpg] [図:0001434177000010.jpg] 」 (3)先願明細書等(甲11)の記載事項 先願明細書等には、以下の事項が記載されている。 「発明を実施するための形態 [0020] 以下、本発明の一態様について説明する。なお、本発明および本明細書において、ガラス組成は、特記しない限り、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいい、各ガラス成分の表記は慣習にならい、SiO2、TiO2などと記載する。ガラス成分の含有量および合計含有量は、特記しない限り質量基準であり、「%」は「質量%」を意味する。」 「[0182] [表1] [図:0001434177000011.jpg] ・・・ [0184] [表3] [図:0001434177000012.jpg] 」 2 取消理由1及び申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について (1)甲1に記載された発明 上記1(1)によれば、甲1には、光学ガラスの実施例1~20のガラス組成及び光学特性が記載されている。この記載を、実施例1の光学ガラスに着目して整理すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「SiO2が10.5wt%、B2O3が6.5wt%、TiO2が22.5wt%、ZrO2が5.0wt%、ZnOが1.0wt%、Nb2O5が14.0wt%、WO3が2.0wt%、La2O3が7.5wt%、Gd2O3が1.0wt%、Y2O3が0.5wt%、BaOが22.5wt%、SrOが2.0wt%、CaOが4.0wt%、MgOが0.5wt%、Li2Oが0.3wt%、Na2Oが0.2wt%からなる組成を有し、nd=1.96284である光学ガラス。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明の対比 甲1発明では、「La2O3が7.5wt%、Gd2O3が1.0wt%、Y2O3が0.5wt%、」含有され、Yb2O3は含有されないので、La2O3、Gd2O3、Y2O3、Yb2O3の合計であるLn2O3は9.0(=7.5+1.0+0.5+0)wt%となり、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)」に相当する。 甲1発明の「ZrO2が5.0wt%」は、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「ZrO2成分が7.0%以下」に相当する。 甲1発明では、「BaOが22.5wt%、SrOが2.0wt%、CaOが4.0wt%、MgOが0.5wt%」含有されるので、BaO、SrO、CaO、MgOの合計であるROは29.0(=22.5+2.0+4.0+0.5)wt%となり、これは、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)」に相当する。 甲1発明では、「TiO2が22.5wt%」含有されるので、上記のとおりROが29.0wt%であることを踏まえると、TiO2/ROは約0.776(=22.5/29.0)となり、これは、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下」に相当する。 甲1発明では、「Nb2O5が14.0wt%、WO3が2.0wt%」含有され、Bi2O3は含有されないので、「質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3」は、16.0(=14.0+2.0+0)wt%となり、これは、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3が3.0%以上18.0%以下」に相当する。 甲1発明では、「BaOが22.5wt%」含有されるので、上記のとおり、ROが29.0wt%であることを踏まえると、BaO/ROは約0.776(=22.5/29.0)となり、これは、本件発明1の「質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は 「酸化物基準の質量%で、 Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、 ZrO2成分が7.0%以下、 RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)、 質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下、 質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3が3.0%以上18.0%以下、 質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下である、 光学ガラス。」の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1では、「Nb2O5成分が10.0%以下」であるのに対し、甲1発明では「Nb2O5が14.0wt%」である点。 <相違点2> 本件発明1では、「比重をd、屈折率をndとしたときに、d≦6.17×nd-7.694の関係を満たす」(物性関係1を満たす)とされているのに対し、甲1発明では、物性関係1を満たすか不明である点。 イ 判断 まず、新規性欠如について検討する。 甲1発明の「Nb2O5が14.0wt%」は、本件発明1の「Nb2O5成分が10.0%以下」に含まれず、相違点1は実質的な相違点である。 したがって、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。 次に進歩性欠如について検討する。 上記1(1)の[0008]によれば、甲1発明は、「屈折率が1.92~2.00、アッベ数が20~30の、優れた透過率を示すホウケイ酸塩系の高屈折率フリント光学ガラス」を提供することを目的としている一方で、甲1には比重についての記載はない。 そうすると、比重について何ら着目していない甲1発明において、比重と屈折率の関係である物性関係1を満たすようなガラス組成範囲内で、ガラス組成を調整、置換することに対する動機付けはないため、甲1発明において、本件発明1の相違点1、2に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、甲1の実施例1に基いて甲1発明を認定したが、甲1の実施例11に基いて甲1に記載された発明を認定しても、事情は同じである。 ウ 申立人の主張について 申立人は令和7年11月21日に提出した意見書において、甲1に記載された実施例11のガラスは「Nb2O5:11.0wt%」が本件発明1の「Nb2O5成分が10.0%以下」を満たさないが、Nb2O5 2.0wt%をTiO2に置換することを検討すると、そのような実施例11’は、本件発明1~2の組成要件及び物性関係1を満たすため、本件発明1、2は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである旨主張している(第1ページ 3(1)理由2(進歩性について)~第5ページ下から3行)。 しかし、上記イで検討したとおり、比重について何ら着目していない甲1発明において、ガラス組成を、物性関係1を満たすようなガラス組成範囲内で、調整、置換することに対する動機付けはない。 したがって、上記申立人の主張は採用できない。 (3)本件発明2~3について 本件発明2~3は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(2)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明であるといえないし、また、甲1に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)取消理由1及び申立理由1についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由1は理由がない。 3 取消理由2及び申立理由3(拡大先願同一)について (1)先願明細書等に記載された発明 上記1(3)の[0020]によれば、先願明細書等では「%」は「質量%」のことであるので、同(3)の[0182]、[0184]の実施例21に着目して整理すると、先願明細書等には以下の発明が記載されているといえる。 「SiO2が18.61質量%、Al2O3が0.10質量%、B2O3が1.89質量%、Li2Oが1.62質量%、MgOが3.00質量%、CaOが8.73質量%、BaOが20.76質量%、La2O3が2.21質量%、HfO2が0.03質量%、ZrO2が1.64質量%、TiO2が29.74質量%、Nb2O5が11.69質量%からなる組成、比重が3.84、ndが1.93099である光学ガラス。」(以下、「先願発明」という。) (2)本件発明1について 本件発明1と先願発明とを対比する。 先願発明では、「La2O3が2.21質量%」であって、Y2O3、Gd2O3、Yb2O3を含まないので、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」、「Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)」に相当する。 先願発明の「ZrO2が1.64質量%」は、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」、「ZrO2が7.0%以下」に相当する。 先願発明では、「MgOが3.00質量%、CaOが8.73質量%、BaOが20.76質量%」であって、SrOを含まないので、MgO、CaO、BaO、SrOの合計含有量が32.49(=3.00+8.73+20.76)質量%となり、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)」に相当する。 先願発明は、TiO2が29.74質量%であり、上記のとおり、ROが32.49質量%であることを踏まえると、質量比TiO2/ROは約0.915(=29.74/32.49)となり、これは本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下」に相当する。 先願発明は、Nb2O5が11.69質量%であり、WO3及びBi2O3を含有しないから、これは本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「Nb2O5+WO3+Bi2O3が3.0%以上18.0%以下」に相当する。 先願発明は、BaOが20.76質量%であり、上記のとおり、ROが32.49質量%であるので、質量比BaO/ROは約0.639(=20.76/32.49)となり、これは本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下」に相当する。 そして、先願発明ではd=3.84、nd=1.93099、であるので、物性関係1における式の右辺は、6.17×nd-7.694=4.2202083となる。そうすると、2.84≦4.2202083(=6.17×nd-7.694)となるから、先願発明は物性関係1を満たす。 そうすると、本件発明1と先願発明は、 「酸化物基準の質量%で、 Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、 ZrO2成分が7.0%以下、 RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)、 質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下、 質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3が3.0%以上18.0%以下、 質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下 であり、 比重をd、屈折率をndとしたときに、 d≦6.17×nd-7.694の関係を満たす光学ガラス。」である点で一致し、本件発明1では「Nb2O5成分が10.0%以下」であるのに対し、先願発明では、「Nb2O5が11.69質量%」である点(以下、「相違点3」という。)で相違する。 先願発明の「Nb2O5が11.69質量%」は、本件発明1の「Nb2O5成分が10.0%以下」という数値範囲に含まれないから、上記相違点3は実質的なものであるし、この点が、発明を具体化する際の微差程度の事項であるともいえない。 よって、本件発明1は先願発明と同一であるとはいえない。 先願発明は、先願明細書等(甲11)の実施例21に基づいて認定したが、先願明細書等の実施例22又は23に基づいて先願明細書等に記載された発明を認定しても、上記と同様の相違点があり、本件発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。 (3)本件発明2、3について 本件発明2、3は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(2)で検討したのと同様の理由により、先願明細書等に記載された発明であるといえない。 (4)取消理由2及び申立理由3についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由2及び申立理由3は理由がない。 4 申立理由2(甲3を主たる証拠とした進歩性欠如)について (1)甲3に記載された発明 上記1(2)によれば、甲3には、光学ガラスの実施例1~30のガラス組成及び光学特性が記載されている。この記載を、実施例8の光学ガラスに着目して整理すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。 「SiO2が15.85質量%、B2O3が2.03質量%、Li2Oが1.27質量%、CaOが10.21質量%、BaOが23.87質量%、TiO2が29.54質量%、Nb2O5が7.08質量%、La2O3が2.54質量%、ZrO2が7.61質量%からなる組成を有し、nd=1.94372、比重が3.977である光学ガラス。」(以下、「甲3発明」という。) (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲3発明の対比 甲3発明では、「La2O3が2.54質量%」含有され、Gd2O3、Y2O3、Yb2O3は含有されないので、La2O3、Gd2O3、Y2O3、Yb2O3の合計であるLn2O3は2.54%となり、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)」に相当する。 甲3発明の「Nb2O5が7.08質量%」は、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「Nb2O5成分が10.0%以下」に相当する。 甲3発明では、「CaOが10.21質量%、BaOが23.87質量%」含有され、SrO、MgOは含有されないので、MgO、CaO、SrO、BaOの合計であるROは34.08(=10.21+23.87)質量%となり、これは、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)」に相当する。 甲3発明では、「TiO2が29.54質量%」含有されるので、上記のとおりROが34.08質量%であることを踏まえると、TiO2/ROは約0.867(=29.54/34.08)となり、これは、本件発明1の「質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下」に相当する。 甲3発明では、「Nb2O5が7.08質量%」含有され、WO3、Bi2O3は含有されないので、「質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3」は、7.08質量%となり、これは、本件発明1の「酸化物基準の質量%で」「質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3が3.0%以上18.0%以下」に相当する。 甲3発明では、「BaOが23.87質量%」含有されるので、上記のとおり、ROが34.08質量%であることを踏まえると、BaO/ROは約0.700(=23.87/34.08)となり、これは、本件発明1の「質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下」に相当する。 甲3発明では、nd=1.94372、比重が3.977であるから、6.17×nd-7.694は4.299であり、d(=3.977)≦6.17×nd-7.694(=4.299)の関係を満たす。 そうすると、本件発明1と甲3発明を対比すると、両者は 「酸化物基準の質量%で、 Ln2O3成分の含有量の和が10.0%以下(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)、 Nb2O5成分が10.0%以下、 RO成分の含有量の和が23.0%以上(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)、 質量比TiO2/ROが0.5以上1.5以下、 質量和Nb2O5+WO3+Bi2O3が3.0%以5上18.0%以下、 質量比BaO/ROが0.30以上0.95以下であり、 比重をd、屈折率をndとしたときに、 d≦6.17×nd-7.694の関係を満たす光学ガラス。」の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点4> 本件発明1では、「酸化物基準の質量%で」「ZrO2成分が7.0%以下」であるのに対し、甲3発明では「ZrO2が7.61質量%」である点。 イ 判断 相違点4について検討する。 甲3発明は、「リヒートプレス法でも失透しない優れた熱的安定性を有し、接合レンズの作製に好適な高屈折率高分散光学ガラスを提供すること」を課題としている。 そうすると、比重について何ら着目していない甲3発明において、物性関係1を満たすようなガラス組成範囲において、ガラス組成を調整、置換することに対する動機付けはないから、相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。 したがって、本件発明1は、甲3発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、甲3に記載されたガラスNo.8のガラスに対し、例えば、2.00質量%をZrO2からSiO2に置き換えて、SiO2:17.85質量%、ZrO2:5.61%とすれば、本件発明1~2の組成要件及び物性関係1を満たすため、本件発明1、2は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである旨主張している(第19ページ ウ-2 甲3発明 ~第34ページ下から6行)。 しかし、上記イで検討したとおり、比重について何ら着目していない甲3発明において、物性関係1を満たすようなガラス組成範囲において、ガラス組成を調整、置換する動機付けはない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (3)本件発明2~3について 本件発明2、3は、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、上記(2)で検討したのと同様の理由により、甲3発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由2は理由がない。 5 申立理由4(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。以下、この観点で検討を行う。 (2)サポート要件適合性の判断 ア 本件発明の課題について 本件明細書の【0008】には、「本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率に対し低比重でありながら、安定性の高いガラスを得ることにある」と記載されている。 そうすると、本件発明は、「屈折率に対し低比重でありながら、安定性の高いガラスを得ること」を課題とするものであるといえる。 イ 特許請求の範囲の記載について 特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記第3に記載したとおりであって、本件発明1は、特定の組成範囲と、「比重をd、屈折率をndとしたときに、d≦6.17×nd-7.694の関係を満たす」こと、「光学ガラス」であることが特定された発明といえる。 ウ 発明の詳細な説明の記載について (ア)発明の詳細な説明の【0006】には、「TiO2成分は比重が小さい一方で安定性を損ない失透を引き起こしやすい成分である」と記載さており、「安定性」が損なわれると「失透を引き起こす」ことが記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0080】には、「本発明の実施例のガラスは、いずれも、失透を生じず安定性の高いガラスであった。一方で、質量比TiO2/ROが1.50を超える比較例Aは失透し、ガラス化しなかった」と記載され、表2において、屈折率及びアッベ数の欄に「失透」とのみ記載されている。 そうすると、【0006】、【0080】の記載から、本件発明の課題の「安定性の高い」とは、失透を引き起こさないことであるといえ、【0080】の記載から、「失透」をしたガラスはガラス化せず、屈折率が測定されないものであることがわかる。 また、通常、失透したガラスは「光学ガラス」としての使用に適しておらず、「光学ガラス」とは失透のないガラスを意味するものである。 してみれば、ガラス化しており、屈折率を測定することができ、「光学ガラス」であるガラスは、失透していないこと、すなわち、「安定性の高いガラス」であるといえる。 (イ)発明の詳細な説明の【0009】には、「比重をd、屈折率をndとしたときに、d≦6.17×nd-7.694の関係とすることで、屈折率に対し低比重でありながら・・」と記載されている。そうすると、「比重をd、屈折率をndとしたときに、d≦6.17×nd-7.694の関係とすること」は「屈折率に対し低比重」であること、と言い換えることができるといえる。 (ウ)サポート要件の充足性について 本件発明1は、「比重をd、屈折率をndとしたときに、d≦6.17×nd-7.694の関係を満たす」から、「屈折率に対し低比重」である。 また、本件発明1は、ガラス化しており、屈折率が測定された、光学ガラスであるから、安定性の高いガラスである。 してみれば、本件発明1は「屈折率に対し低比重でありながら、安定性の高いガラスを得ること」という、本件発明の課題を解決するものであるし、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (3)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、上記第4の1(4)に記載した主張をしており、また、令和7年11月21日に提出した意見書においても同様の主張をしている。 上記主張は、いずれも、本件発明1の組成要件を有する光学ガラスが高い蓋然性をもって物性関係1を満たすことを前提とするものであるが、サポート要件の充足性は、上記(2)で検討したとおり、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるか、発明の課題を解決するものであるか、という観点から検討されるものであるため、それらの主張は、その前提が誤っている。したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (4)申立理由4についての結論 以上のとおりであるから、申立理由4は理由がない。 6 申立理由5(実施可能要件違反)について (1)実施可能要件違反についての検討 本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明で特定された組成を有し、物性関係1を満たす光学ガラスとして、実施例1~21が記載されている。また、その【0018】~【0064】には、各組成成分の屈折率や比重に及ぼす効果、各組成成分の含有量や質量和の好ましい範囲が記載されているから、これらの記載に基づいて、当業者が、過度な試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができるものといえる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 (2)申立人の主張について 上記第4の1(5)における申立人の主張は、本件発明は、組成要件のすべての範囲で物性要件1を満たすことを前提とするものであるところ、本件発明1は、組成要件と物性要件の両方を満たすガラスを特定するものであり、その前提が誤っているので、申立人の上記主張は採用できない。 (3)申立理由5についての結論 以上のとおりであるから、申立理由5は理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、請求項1~3に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700668

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