特許異議申立
2022-700971
光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
- 審判番号
- 2022-700971
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-112336
- 登録番号
- 7049192
- 請求日
- 2022年10月03日
- 審決日
- 2023年11月13日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社オハラ
- 【権利者代理人】右田 俊介
- 【権利者代理人】高橋 政治
- 【権利者代理人】水野 基樹
- 【異議申立人】越阪部 倫子
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C) / P1651.536-YAA(C03C) / P1651.537-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7049192号発明「光学ガラス、プリフォーム及び光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7049192号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7049192号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7049192号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成30年6月12日(優先権主張 平成29年7月21日、平成30年4月26日)に出願され、令和4年3月29日にその特許権の設定登録がされ、同年4月6日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~5に係る特許に対して、令和4年10月3日に特許異議申立人越阪部倫子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月20日付けで取消理由が通知され、令和5年2月20日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年3月29日に申立人により意見書の提出がされ、同年6月20日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年8月23日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年9月26日に申立人により意見書の提出がされた。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年8月23日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~5を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
なお、本件訂正請求により、令和5年2月20日にされた訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「質量%で、
B2O3成分 5.0~40.0%、
La2O3成分 15.0~55.0%、
Al2O3成分 0超~24.0%、
SiO2成分を5.0%以上、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満、
Ta2O5成分を3.0%以下、
を含有し、
粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であり、
1.62以上1.85以下の屈折率(nd)を有し、40以上65以下のアッベ数(νd)を有する光学ガラス。」とあるのを
「質量%で、
B2O3成分 5.0~40.0%、
La2O3成分 15.0~55.0%、
Al2O3成分 0超~24.0%、
SiO2成分を5.0%以上、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満、
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0%以上70.0%以下、
Yb2O3成分を3.0%以下、
Ta2O5成分を3.0%以下、
を含有し、
粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であり、
1.62以上1.85以下の屈折率(nd)を有し、40以上65以下のアッベ数(νd)を有する光学ガラス。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
訂正事項1は、願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」といい、明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「本件特許明細書等」という。)の【0022】の「Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、30.0%以上70.0%以下の範囲で含有することが好ましい。・・・Ln2O3成分の質量和は、好ましくは30.0%以上、より好ましくは35.0%以上、さらに好ましくは40.0%以上、さらに好ましくは45.0%以上とする。」との記載、及び、段落【0029】の「Yb2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.1%以下とする。」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載されたガラス組成を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
質量%で、
B2O3成分 5.0~40.0%、
La2O3成分 15.0~55.0%、
Al2O3成分 0超~24.0%、
SiO2成分を5.0%以上、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満、
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0%以上70.0%以下、
Yb2O3成分を3.0%以下、
Ta2O5成分を3.0%以下、
を含有し、
粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であり、
1.62以上1.85以下の屈折率(nd)を有し、40以上65以下のアッベ数(νd)を有する光学ガラス。
【請求項2】
(SiO2+Al2O3+Ln2O3)/(RO+Rn2O+ZnO+B2O3+nd×10)の除算値が0.50以上であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学ガラスからなるプリフォーム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光学素子を備える光学機器。」
第4 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 中国特許出願公開第106746597号明細書
甲第2号証 中国特許出願公開第106830670号明細書
甲第3号証 特開平11-71129号公報
甲第4号証 米国特許出願公開第2013/0217807号明細書
甲第5号証 特開2007-31253号公報
甲第6号証 特開2007-254224号公報
甲第7号証 特開2009-208974号公報
甲第8号証 特開2000-16831号公報
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした新規性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4(甲第4号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(5) 申立理由5(甲第5号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第5号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(6) 申立理由6(甲第6号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第6号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(7) 申立理由7(甲第7号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第7号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、請求項3~5に係る発明は、甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(8) 申立理由8(甲第8号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第8号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(9) 申立理由9(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1、2に記載された各成分含有率の数値範囲の全体にわたって、請求項1、2に記載された物性要件を満たす光学ガラスを得ることを当業者が認識し得ないから、請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明でない。
よって、請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(10) 申立理由10(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1~5に係る発明の組成要件の全体にわたって、当該発明の物性要件を満たす光学ガラスを得るためには、当業者に過度の試行錯誤を要求するものであるから、発明の詳細な説明には、当業者が請求項1~5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和5年6月20日付けの取消理由(決定の予告)は、要するに、先の訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第7号証、甲第8号証参照)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というものである。
3 当審の判断
(1) 取消理由(甲第1号証を主たる証拠とした進歩性欠如)及び申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性欠如)について
事案に鑑み、取消理由及び申立理由1をまとめて検討する。
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の実施例11の「光学ガラス」に注目すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる([0064]、[0072]、[0073]、[0076]~[0078]参照)。
「B2O3含有量が37.86重量%、SiO2含有量が8.65重量%、Al2O3含有量が1.95重量%、La2O3含有量が28.67重量%、Gd2O3含有量が0重量%、Y2O3含有量が6.58重量%、Yb2O3含有量が4.47重量%、BaO含有量が0重量%、SrO含有量が4.67重量%、CaO含有量が0重量%、MgO含有量が0重量%、ZnO含有量が7.15重量%、ZrO2含有量が0重量%、TiO2含有量が0重量%、WO3含有量が0重量%、Ta2O5含有量が0重量%、Nb2O5含有量が0重量%、Li2O含有量が0重量%、Na2O含有量が0重量%、K2O含有量が0重量%、Sb2O3含有量が0重量%、SiO2及びB2O3の合計含有量(SiO2+B2O3)が46.51重量%、B2O3含有量に対するSiO2含有量の比率(SiO2/B2O3)が0.23、La2O3、Gd2O3及びY2O3の合計含有量に対するY2O3含有量の比率(Y2O3/(La2O3+Gd2O3+Y2O3))が0.19、B2O3含有量に対するZrO2含有量の比率(ZrO2/B2O3)が0、SiO2及びB2O3の合計含有量に対するBaO、SrO、CaO及びMgOの合計含有量の比率((BaO+SrO+CaO+MgO)/(SiO2+B2O3))が0.10であるガラス組成を有し、屈折率ndが1.68986、アッベ数νdが54.05、密度ρが3.58g/cm3、粉末法耐水性DWが1類、粉末法耐酸性DAが3類である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「ガラス組成」は、「B2O3含有量が37.86重量%」、「La2O3含有量が28.67重量%」、「Al2O3含有量が1.95重量%」、「SiO2含有量が8.65重量%」、「BaO含有量が0重量%」、「SrO含有量が4.67重量%」、「CaO含有量が0重量%」、「MgO含有量が0重量%」、「Ta2O5含有量が0重量%」であり、BaO、SrO、CaO及びMgOの各含有量から算出した合計含有量が4.67重量%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満」、「Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲1発明の「屈折率ndが1.68986」、「アッベ数νdが54.05」、「粉末法耐酸性DAが3類」であることは、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」、「粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級」であるとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
(相違点1-1)
本件発明1は、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0質量%以上70.0質量%以下で含有しているのに対して、甲1発明は、La2O3含有量が28.67重量%、Gd2O3含有量が0重量%、Y2O3含有量が6.58重量%であり、Lu2O3は含有しておらず、これらの合計含有量は35.25重量%である点。
(相違点1-2)
本件発明1は、Yb2O3成分を3.0質量%以下で含有しているのに対して、甲1発明は、Yb2O3含有量が4.47重量%である点。
(イ) 相違点の検討
まず、相違点1-1からみていくと、当該相違点は、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(以下、「Ln2O3成分の合計含有量」という。)に関する実質的なものであるから、この時点で、本件発明1が甲1発明に対して新規性が欠如するといえない。
そこで、次に、進歩性、すなわち、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性について検討すると、本件特許明細書には、Ln2O3成分の合計含有量を特定範囲に調整することで、所望の屈折率とアッベ数を有するガラスを得やすくすると共に、ガラスの耐失透性を低下させることが記載されている(【0022】)。
他方、甲第1号証には、屈折率ndを1.65~1.72、アッベ数νdを50~60、密度ρを3.7g/cm3以下、粉末法耐水性DWを2類以上、粉末法耐酸性DAを3類以上との物性([0064])を満たすように、La2O3含有量、Gd2O3含有量及びY2O3含有量を特定範囲に調整することは記載されているものの([0039]~[0041])、前記物性を満足するようにLn2O3成分の合計含有量を特定範囲に調整することは記載されておらず、また、このような事項が周知技術であることを示す証拠もない。
したがって、甲1発明のガラス組成において、Ln2O3成分の合計含有量が、40.0質量%以上70.0質量%以下となるように組成調整をすること(相違点1-1に係る本件発明1の構成とすること)は、当業者にとって容易想到の事項といえない。
よって、この時点で、本件発明1が甲1発明に対して進歩性が欠如するともいえない。
(ウ) 小括
以上のとおりであるから、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明(甲1発明)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~5は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張の概要
申立人は、令和5年9月26日付け意見書において、概略、次のことを主張している。
a 主張1
前記相違点1-1に関して、甲第1号証の[0038]~[0041]、[0045]の記載に基づき、甲1発明において、Yb2O3含有量の全量に加えて、Al2O3やSrOの含有量の一部をLa2O3、Gd2O3又はY2O3の含有量に置換して、Ln2O3成分の合計含有量を40質量%以上とすることは、当業者であれば容易になし得ることである(意見書第5頁第2行~第6頁第7行)。
b 主張2
甲第1号証の実施例10、16、25及び30の光学ガラスを引用文献1に記載された発明とした場合にも、本件発明1~5は甲第1号証に記載された発明に対して進歩性を備えていない(意見書第6頁第8~34行)。
(イ) 申立人の主張の検討
a 主張1についての検討
前記イ(イ)で検討したとおり、甲1発明には、屈折率nd等の物性を特定範囲にしつつ、Ln2O3成分の合計含有量を40重量%以上70重量%以下に調整する動機付けとなる記載はないから、甲1発明において、Ln2O3成分の合計含有量を40質量%以上に調整することは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
b 主張2についての検討
前記aで検討したのと同様に、甲第1号証には、屈折率nd等の物性を特定範囲にしつつ、Ln2O3成分の合計含有量、及び、RO成分の合計含有量が特定範囲内になるように、他成分の含有量を調整するとの技術思想が記載されていないから、甲第1号証の実施例10、16、25及び30の光学ガラスのガラス組成を調整して、本件発明1のガラス組成にすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) 小括
したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
オ 取消理由及び申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、取消理由及び申立理由1に理由はない。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
甲第2号証の実施例1の「光学ガラス」に注目すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる([0071]~[0078]参照)。
「SiO2含有量が11.60重量%、B2O3含有量が16.20重量%、Al2O3含有量が12.50重量%、ZnO含有量が1.50重量%、ZrO2含有量が0.50重量%、La2O3含有量が51.40重量%、Y2O3含有量が6.00重量%、CeO含有量が0.30重量%であるガラス組成を有し、精密焼鈍後の屈折率ndが1.7469、精密焼鈍後のアッベ数νdが50.91、表面法耐酸性が2級、表面法耐潮性が1級である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「ガラス組成」は、「B2O3含有量が16.20重量%」、「La2O3含有量が51.40重量%」、「Al2O3含有量が12.50重量%」、「SiO2含有量が11.60重量%」、「Y2O3含有量が6.00重量%」であり、BaO、SrO、CaO、MgO、Gd2O3、Lu2O3、Yb2O3、及びTa2O5を含有しておらず、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計含有量が0重量%、La2O3、Gd2O3、Y2O3及びLu2O3の合計含有量が57.4重量%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0%以上70.0%以下、Yb2O3成分を3.0%以下、Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲2発明の「精密焼鈍後の屈折率ndが1.7469」、「精密焼鈍後のアッベ数νdが50.91」であることは、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」であるとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で相違し、その余の点は一致していると認められる。
(相違点2)
本件発明1は、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であるのに対して、甲2発明は、表面法耐酸性が2級である点。
(イ) 相違点の検討
粉末法耐酸性(粉末法による化学的耐久性)と表面法耐酸性とは、測定対象のガラス形状に加えて、酸性溶液の種類や各等級に分類するための判断手法が異なるため、粉末法耐酸性の等級と表面法耐酸性の等級とが対応するものでないことは技術常識である。また、表面法耐酸性が2級のガラスであれば、その粉末法耐酸性は必ず1級~4級となることを示す証拠もない。
したがって、相違点2は実質的なものであるし、また、甲2発明において、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)を1級~4級とすること(相違点2に係る本件発明1の構成とすること)が、当業者にとって容易想到の事項ともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書及び令和5年9月26日付け意見書において、概略、次のことを主張している。
(a) 主張3
化学組成が同一であれば、当然にその光学ガラスを有する物性も同一であるから、本件発明1のガラス組成を満たす甲2発明の光学ガラスは、本件発明1の耐酸性を満足している(特許異議申立書第4頁第40~42行)。
(b) 主張4
甲第12号証(大野正夫、「精密測定器用ガラス材料」、精密機械、1967年、第33巻、第11号、第41~51頁)の第49頁に「ことに耐酸性の場合は粉末法と表面法とがかなり対応する」との記載があることから、甲2発明の表面法耐酸性が2級であることは、粉末法耐酸性の1級~4級に相当すると容易に認識できる(意見書第8頁第1~6行)。
b 申立人の主張の検討
(a) 主張3についての検討
本件発明1は、ガラス成分の含有量や質量比の数値範囲を示したガラス組成を特定しつつ、当該ガラス組成の範囲内において、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)等の物性を満たす光学ガラスを特定するものであるから、甲2発明のガラス組成が、本件発明1のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、本件発明1の物性を満足しているということはできない。
したがって、前記主張3は採用できない。
(b) 主張4についての検討
甲第12号証には、「ガラスの化学的耐久性は一般に(1)耐水性,(2)耐酸性および(3)耐候性の三つが考えられ,種々のガラスについてその値は平行しない。・・・ことに耐酸性の場合は粉末法と表面法とがかなり対応するが,耐水性においては対応性が少なく,ことに耐候性の測定では,・・・粉末法による耐水性との関係は表5に示す日本光学製光学ガラスの値のように必ずしも一致しない。」(第49頁左欄第6行~右欄第2行)と記載され、粉末法耐酸性と表面法耐酸性は、耐水性や耐候性に比べて対応関係があることを示すにとどまり、表面法耐酸性が2級であれば、粉末法耐酸性が1級~4級となることを示すものでないから、甲第12号証の記載を参酌しても、甲2発明の光学ガラスの耐酸性が、粉末法の1級~4級に相当するとは認識できない。
したがって、前記主張4も採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明(甲2発明)であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明(甲2発明)に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
なお、甲第2号証の実施例2~5の「光学ガラス」に注目して、甲第2号証に記載された発明を認定しても同様に判断される。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした新規性欠如)について
ア 甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
甲第3号証の実施例7の「光学ガラス」に注目すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる(【0001】、【0015】、【0017】【表1】参照)。
「SiO2含有量が5.50重量%、B2O3含有量が33.90重量%、Al2O3含有量が3.00重量%、La2O3含有量が42.90重量%、ZrO2含有量が5.50重量%、ZnO含有量が8.90重量%、Li2O含有量が0.20重量%、Sb2O3含有量が0.10重量%であるガラス組成を有し、屈折率ndが1.7196、アッベ数νdが52.8である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲3発明との対比
甲3発明の「ガラス組成」は、「B2O3含有量が33.90重量%」、「La2O3含有量が42.90重量%」、「Al2O3含有量が3.00重量%」、「SiO2含有量が5.50重量%」であり、BaO、SrO、CaO、MgO、Gd2O3、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、及びTa2O5を含有しておらず、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計含有量が0重量%、La2O3、Gd2O3、Y2O3及びLu2O3の合計含有量が42.90重量%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0%以上70.0%以下、Yb2O3成分を3.0%以下、Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲3発明の「屈折率ndが1.7196」、「アッベ数νdが52.8」であることは、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」であるとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で相違し、その余の点は一致していると認められる。
(相違点3)
本件発明1は、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であるのに対して、甲3発明は、その点が明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
相違点3について検討すると、甲3発明の光学ガラスについて、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はないから、相違点3は実質的なものである。
(ウ) 申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書及び令和5年9月26日付け意見書において、概略、次のことを主張している。
(a) 主張5
化学組成が同一であれば、当然にその光学ガラスを有する物性も同一であるから、本件発明1のガラス組成を満たす甲3発明の光学ガラスは、本件発明1の耐酸性を満足している(特許異議申立書第5頁第13~19行、意見書第8頁第7~12行)。
(b) 主張6
甲第13号証(実験成績証明書)に示したとおり、甲第3号証の実施例7の化学組成を用いて日本光学硝子工業会規格「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法」JOGIS06-2009に準じて再現実験を行ったところ、甲第3号証の実施例7は4級(粉末法)の耐酸性を有することが確認されている(意見書第8頁第13~18行)。
b 申立人の主張の検討
(a) 主張5についての検討
前記(2)イ(ウ)b(a)で検討したのと同様に、甲3発明のガラス組成が、本件発明1のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、本件発明1の物性を満足しているということはできない。
したがって、前記主張5は採用できない。
(b) 主張6についての検討
甲第13号証の実験成績証明書は、当該実験成績証明書を作成した本人又はその代理人の署名又は押印がなく、また、申立人自身に再現実験を行うに足りる能力があるとも認められないから、その成立が真正であるとは到底いえない。加えて、このように、当該実験成績証明書における再現実験の実施者が明らかでないことのみならず、実際にどのような材料を用い、どのような条件下で当該再現実験を行ったかなどの詳細も不明であることから、その実験結果の信憑性については疑義があるといわざるを得ない。そうである以上、この実験成績証明書が、形式的証拠力及び実質的証拠力を共に有しているとは認められない。
したがって、前記主張6は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明(甲3発明)であるといえない。
なお、甲第3号証の実施例1~6、8~17、22、23、25、26の「光学ガラス」に注目して、甲第3号証に記載された発明を認定しても、本件発明1とは、少なくとも前記相違点3と同様の点で相違するため、同様に判断される。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明であるといえない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
(4) 申立理由4(甲第4号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第4号証に記載された発明(甲4発明)
甲第4号証の実施例13の「高屈折率ガラス組成物」に注目すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる(第3頁EXAMPLES欄、特に、TABLE 4 参照)。
「Al2O3含有量が16.01wt%、B2O3含有量が8.75wt%、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.00wt%、K2O含有量が0.00wt%、La2O3含有量が16.00wt%、Li2O含有量が0.00wt%、Na2O含有量が0.00wt%、Nb2O5含有量が0.00wt%、SiO2含有量が31.82wt%、TiO2含有量が0.00wt%、WO3含有量が0.00wt%、Y2O3含有量が27.42wt%であるガラス組成を有し、屈折率が1.6516、アッベ数が53.8である、高屈折率ガラス組成物。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲4発明との対比
甲4発明の「ガラス組成」は、「B2O3含有量が8.75wt%」、「La2O3含有量が16.00wt%」、「Al2O3含有量が16.01wt%」、「SiO2含有量が31.82wt%」、「MgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量が0.00wt%」、「Y2O3含有量が27.42wt%」であり、Gd2O3、Lu2O3、Yb2O3及びTa2O5を含有しておらず、La2O3、Gd2O3、Y2O3及びLu2O3の合計含有量が43.42wt%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0%以上70.0%以下、Yb2O3成分を3.0%以下、Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲4発明の「屈折率が1.6516」、「アッベ数が53.8」であることは、甲第4号証の[0030]に記載された「屈折率」及び「アッベ数」の定義を踏まえれば、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」であるとの規定を満足する。
さらに、甲4発明の「高屈折率ガラス組成物」は、本件発明1の「光学ガラス」に相当する。
したがって、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で相違し、その余の点は一致していると認められる。
(相違点4)
本件発明1は、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であるのに対して、甲4発明は、その点が明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
相違点4について検討すると、甲4発明の高屈折率ガラス組成物(光学ガラス)について、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はないから、相違点4は実質的なものであるし、また、甲4発明において、相違点4に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易想到の事項ともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書及び令和5年9月26日付け意見書において、化学組成が同一であれば、当然にその光学ガラスを有する物性も同一であるから、本件発明1のガラス組成を満たす甲4発明の光学ガラスは、本件発明1の耐酸性を満足している旨を主張している(特許異議申立書第6頁第10~17行、意見書第8頁第7~12行)。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)b(a)で検討したのと同様に、甲4発明のガラス組成が、本件発明1のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、本件発明1の物性を満足しているということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明(甲4発明)であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明(甲4発明)に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
なお、甲第4号証の実施例35、39~73、76~86の「光学ガラス」に注目して、甲第4号証に記載された発明を認定しても、本件発明1とは、少なくとも前記相違点4と同様の点で相違するため、同様に判断される。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由4についての結論
以上のとおりであるから、申立理由4に理由はない。
(5) 申立理由5(甲第5号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第5号証に記載された発明(甲5発明)
甲第5号証の実施例1の「光学ガラス」に注目すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる(【0027】、【0061】、【0062】、【0063】【表1】、【0064】【表2】参照)。
「B2O3含有量が35.50モル%、SiO2含有量が21.00モル%、SiO2及びB2O3の合計含有量(SiO2+B2O3)が56.50モル%、B2O3含有量に対するSiO2含有量の比率(SiO2/B2O3)が0.5915、Al2O3含有量が1.00モル%、La2O3含有量が6.00モル%、Gd2O3含有量が4.00モル%、Y2O3含有量が1.50モル%、Gd2O3及びY2O3の合計含有量(Gd2O3+Y2O3)が5.50モル%、ZrO2含有量が2.50モル%、CaO含有量が5.00モル%、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量(RO)が5.00モル%、ZnO含有量が13.00モル%、MgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量(RO)に対するZnO含有量の比率(ZnO/RO)が2.600、Li2O含有量が10.50モル%であるガラス組成を有し、屈折率ndが1.69984、アッベ数νdが53.02である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲5発明との対比
甲5発明の「ガラス組成」は、質量%に換算すると、B2O3含有量が約25.91質量%、La2O3含有量が約20.49質量%、Al2O3含有量が約1.07質量%、SiO2含有量が約13.23質量%、CaO含有量が約2.94質量%、Gd2O3含有量が約15.20質量%、Y2O3含有量が約3.55質量%であり、BaO、SrO、MgO、Yb2O3、及びTa2O5を含有しておらず、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計含有量が約2.94質量%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満」、「Yb2O3成分を3.0%以下、Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲5発明の「屈折率ndが1.69984」、「アッベ数νdが53.02」であることは、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」であるとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲5発明とは、以下の点で相違し、その余の点は一致していると認められる。
(相違点5-1)
本件発明1は、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0質量%以上70.0質量%以下で含有しているのに対して、甲5発明は、La2O3含有量が約20.49質量%、Gd2O3含有量が約15.20質量%、Y2O3含有量が約3.55質量%であり、Lu2O3は含有しておらず、これらの合計含有量は約39.24質量%である点。
(相違点5-2)
本件発明1は、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であるのに対して、甲5発明は、その点が明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
事案に鑑み、相違点5-2について検討すると、甲5発明の光学ガラスについて、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はないから、相違点5-2は実質的なものであるし、また、甲5発明において、相違点5-2に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易想到の事項ともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、化学組成が同一であれば、当然にその光学ガラスを有する物性も同一であるから、設定登録時の請求項1に係る発明のガラス組成を満たす甲5発明の光学ガラスは、設定登録時の請求項1に係る発明の耐酸性を満足している旨を主張している(特許異議申立書第6頁第30~36行)。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)b(a)で検討したのと同様に、甲5発明のガラス組成が、設定登録時の請求項1に係る発明のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、設定登録時の請求項1に係る発明の物性を満足しているということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、相違点5-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明(甲5発明)であるといえないし、また、甲第5号証に記載された発明(甲5発明)に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
なお、甲第5号証の実施例2~8の「光学ガラス」に注目して、甲第5号証に記載された発明を認定しても同様に判断される。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~5は、甲第5号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由5についての結論
以上のとおりであるから、申立理由5に理由はない。
(6) 申立理由6(甲第6号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第6号証に記載された発明(甲6発明)
甲第6号証の実施例2の「光学ガラス」に注目すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる(【0020】、【0069】、【0071】、【0072】【表1】、【0073】【表2】参照)。
「B2O3含有量が35.50モル%、SiO2含有量が21.00モル%、Al2O3含有量が1.00モル%、La2O3含有量が6.00モル%、Gd2O3含有量が4.00モル%、Y2O3含有量が1.50モル%、ZrO2含有量が2.50モル%、Ta2O5含有量が0.00モル%、CaO含有量が5.00モル%、BaO含有量が0.00モル%、ZnO含有量が13.00モル%、Li2O含有量が10.50モル%であるガラス組成を有し、屈折率ndが1.69984、アッベ数νdが53.02である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲6発明との対比
甲6発明の「ガラス組成」は、質量%に換算すると、B2O3含有量が約25.91質量%、La2O3含有量が約20.49質量%、Al2O3含有量が約1.07質量%、SiO2含有量が約13.23質量%、CaO含有量が約2.94質量%、BaO含有量が0.00質量%、Gd2O3含有量が約15.20質量%、Y2O3含有量が約3.55質量%、Ta2O5含有量が0.00質量%であり、SrO、MgO、及びYb2O3を含有しておらず、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計含有量が約2.94質量%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満」、「Yb2O3成分を3.0%以下、Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲6発明の「屈折率ndが1.69984」、「アッベ数νdが53.02」であることは、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」であるとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲6発明とは、以下の点で相違し、その余の点は一致していると認められる。
(相違点6-1)
本件発明1は、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0質量%以上70.0質量%以下で含有しているのに対して、甲6発明は、La2O3含有量が約20.49質量%、Gd2O3含有量が約15.20質量%、Y2O3含有量が約3.55質量%であり、Lu2O3は含有しておらず、これらの合計含有量は約39.24質量%である点。
(相違点6-2)
本件発明1は、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であるのに対して、甲6発明は、その点が明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
事案に鑑み、相違点6-2について検討すると、甲6発明の光学ガラスについて、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はないから、相違点6-2は実質的なものであるし、また、甲6発明において、相違点6-2に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易想到の事項ともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、化学組成が同一であれば、当然にその光学ガラスを有する物性も同一であるから、設定登録時の請求項1に係る発明のガラス組成を満たす甲6発明の光学ガラスは、設定登録時の請求項1に係る発明の耐酸性を満足している旨を主張している(特許異議申立書第7頁第4~10行)。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)b(a)で検討したのと同様に、甲6発明のガラス組成が、設定登録時の請求項1に係る発明のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、設定登録時の請求項1に係る発明の物性を満足しているということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、相違点6-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明(甲6発明)であるといえないし、また、甲第6号証に記載された発明(甲6発明)に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
なお、甲第6号証の実施例3~9の「光学ガラス」に注目して、甲第6号証に記載された発明を認定しても同様に判断される。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~5は、甲第6号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由6についての結論
以上のとおりであるから、申立理由6に理由はない。
(7) 申立理由7(甲第7号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第7号証に記載された発明(甲7発明)
甲第7号証の実施例1の「光学ガラス」に注目すると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる(【0022】、【0059】、【0061】【表1】参照)。
「B2O3含有量が24.11質量%、La2O3含有量が40.44質量%、SiO2含有量が5.09質量%、ZnO含有量が12.98質量%、Al2O3含有量が0.50質量%、ZrO2含有量が4.99質量%、Nb2O5含有量が4.49質量%、Li2O含有量が0.20質量%、BaO含有量が2.99質量%、WO3含有量が4.19質量%、Sb2O3含有量が0.02質量%、SiO2、B2O3及びAl2O3の合計含有量に対するZrO2、TiO2及びNb2O5の合計含有量の比率((ZrO2+TiO2+Nb2O5)/(SiO2+B2O3+Al2O3))が0.32であるガラス組成を有し、屈折率ndが1.7859、アッベ数νdが44.2である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲7発明との対比
甲7発明の「ガラス組成」は、「B2O3含有量が24.11質量%」、「La2O3含有量が40.44質量%」、「Al2O3含有量が0.50質量%」、「SiO2含有量が5.09質量%」、「BaO含有量が2.99質量%」であり、SrO、CaO、MgO、Gd2O3、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、及びTa2O5を含有しておらず、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計含有量が2.99質量%、La2O3、Gd2O3、Y2O3及びLu2O3の合計含有量が40.44質量%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0%以上70.0%以下、Yb2O3成分を3.0%以下、Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲7発明の「屈折率ndが1.7859」、「アッベ数νdが44.2」であることは、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」であるとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲7発明とは、以下の点で相違し、その余の点は一致していると認められる。
(相違点7)
本件発明1は、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であるのに対して、甲7発明は、その点が明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
相違点7について検討すると、甲7発明の光学ガラスについて、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はないから、相違点7は実質的なものであるし、また、甲7発明において、相違点7に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易想到の事項ともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書及び令和5年9月26日付け意見書において、化学組成が同一であれば、当然にその光学ガラスを有する物性も同一であるから、本件発明1のガラス組成を満たす甲7発明の光学ガラスは、本件発明1の耐酸性を有している旨を主張している(特許異議申立書第7頁第23~29行、意見書第8頁第7~12行)。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)b(a)で検討したのと同様に、甲7発明のガラス組成が、本件発明1のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、本件発明1の物性を満足しているということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明(甲7発明)であるといえないし、また、甲第7号証に記載された発明(甲7発明)に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
なお、甲第7号証の実施例2、3の「光学ガラス」に注目して、甲第7号証に記載された発明を認定しても、本件発明1とは、少なくとも前記相違点7と同様の点で相違するため、同様に判断される。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2~5は、甲第7号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由7についての結論
以上のとおりであるから、申立理由7に理由はない。
(8) 申立理由8(甲第8号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲第8号証に記載された発明(甲8発明)
甲第8号証の実施例3の「光学ガラス」に注目すると、甲第8号証には、次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる(【0041】、【0046】【表1】参照)。
「B2O3含有量が34wt%、La2O3含有量が27wt%、Y2O3含有量が8wt%、SiO2含有量が9wt%、Li2O含有量が4wt%、CaO含有量が3wt%、ZnO含有量が8wt%、ZrO2含有量が5wt%、Al2O3含有量が1wt%、Nb2O5含有量が1wt%であるガラス組成を有し、屈折率ndが1.6935、アッベ数νdが53.0である、光学ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲8発明との対比
甲8発明の「ガラス組成」は、「B2O3含有量が34wt%」、「La2O3含有量が27wt%」、「Al2O3含有量が1wt%」、「SiO2含有量が9wt%」、「CaO含有量が3wt%」であり、BaO、SrO、MgO、Yb2O3、及びTa2O5を含有しておらず、BaO、SrO、CaO及びMgOの合計含有量が3wt%になることから、本件発明1の「質量%で、B2O3成分 5.0~40.0%、La2O3成分 15.0~55.0%、Al2O3成分 0超~24.0%、SiO2成分を5.0%以上、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を5.0%未満」、「Yb2O3成分を3.0%以下、Ta2O5成分を3.0%以下、を含有」するとの規定を満足する。
また、甲8発明の「屈折率ndが1.6935」、「アッベ数νdが53.0」であることは、それぞれ、本件発明1の「1.62以上1.85以下の屈折率(nd)」、「40以上65以下のアッベ数(νd)」であるとの規定を満足する。
したがって、本件発明1と甲8発明とは、以下の点で相違し、その余の点は一致していると認められる。
(相違点8-1)
本件発明1は、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)を40.0質量%以上70.0質量%以下で含有しているのに対して、甲8発明は、La2O3含有量が27wt%であり、Y2O3含有量が8wt%であり、Gd2O3、Lu2O3は含有しておらず、これらの合計含有量は35wt%である点。
(相違点8-2)
本件発明1は、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であるのに対して、甲8発明は、その点が明らかでない点。
(イ) 相違点の検討
事案に鑑み、相違点8-2について検討すると、甲8発明の光学ガラスについて、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はないから、相違点8-2は実質的なものであるし、また、甲8発明において、相違点8-2に係る本件発明1の構成とすることが、当業者にとって容易想到の事項ともいえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、化学組成が同一であれば、当然にその光学ガラスを有する物性も同一であるから、設定登録時の請求項1に係る発明のガラス組成を満たす甲8発明の光学ガラスは、設定登録時の請求項1に係る発明の耐酸性を満足している旨を主張している(特許異議申立書第8頁第1~7行)。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)b(a)で検討したのと同様に、甲8発明のガラス組成が、設定登録時の請求項1に係る発明のガラス組成の範囲に含まれていることのみでは、設定登録時の請求項1に係る発明の物性を満足しているということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ) 小括
以上のとおりであるから、相違点8-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第8号証に記載された発明(甲8発明)であるといえないし、また、甲第8号証に記載された発明(甲8発明)に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
なお、甲第8号証の実施例13の「光学ガラス」に注目して、甲第8号証に記載された発明を認定しても同様に判断される。
ウ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2は、甲第8号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由8についての結論
以上のとおりであるから、申立理由8に理由はない。
(9) 申立理由9(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
以下、この観点で検討を行う。
イ サポート要件適合性の判断
(ア) 本件発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】~【0006】の記載からして、本件発明の課題は、1.62以上の屈折率(nd)、40以上65以下のアッベ数(νd)の光学恒数を有し、良好な化学的耐久性を有する光学ガラスを得ることにあるといえる。
(イ) 特許請求の範囲の記載について
特許請求の範囲の請求項1の記載は、前記第2に記載したとおりであって、本件発明1は、ガラス組成の範囲(組成要件)と、「粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級であり、1.62以上1.85以下の屈折率(nd)を有し、40以上65以下のアッベ数(νd)を有する」こと(物性要件)を特定した発明といえる。
(ウ) 発明の詳細な説明の記載について
a 本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0067】~【0073】には、光学ガラスの物性に関して、屈折率(nd)は1.62以上1.85以下、アッベ数(νd)は40以上65以下が好ましいこと(【0067】)、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1~4級であること(【0070】)が記載されており、具体的には、このような物性を有することにより、本件発明の課題を解決できるといえる。
b また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例欄(【0078】~【0109】)には、実施例1~118として、SiO2含有量が5.30~34.50質量%、B2O3含有量が5.00~38.40質量%、Al2O3含有量が2.00~19.72質量%、La2O3含有量が24.00~52.10質量%、Y2O3含有量が0~15.50質量%、Gd2O3含有量が0~30.00質量%、ZrO2含有量が0~6.20質量%、TiO2含有量が0~5.00質量%、Nb2O5含有量が0~8.00質量%、ZnO含有量が0~21.80質量%、MgO含有量が0~1.00質量%、CaO含有量が0~15.00質量%、SrO含有量が0~3.00質量%、BaO含有量が0~18.00質量%、Li2O含有量が0~1.10質量%、Na2O含有量が0~1.20質量%、K2O含有量が0~2.00質量%、Sb2O3含有量が0~0.10質量%、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)が0~19.00質量%、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)が32.00~64.00質量%の各数値範囲内であって、Yb2O3成分及びTa2O5成分を含有しないガラス組成を有し、屈折率(nd)が1.63~1.84、アッベ数(νd)が42.0~56.4、粉末法耐酸性(RA)が1~4級である光学ガラスが記載されている。そして、実施例1~118の光学ガラスは、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、粉末法耐酸性(RA)が、前記aで検討した物性を満たしていることからして、本件発明の課題を解決できるものといえる。
c 加えて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0017】~【0066】には、ガラス成分について、各成分の役割や、各成分の含有量や質量和、質量比の好ましい範囲が記載され、B2O3含有量は5.0%以上40.0%以下(【0017】)、La2O3含有量は15.0%以上55.0%以下(【0018】)、Al2O3含有量は0%超24.0%以下(【0019】)、SiO2含有量は5.0%以上(【0020】)、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は5.0%未満(【0021】)、Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Luからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は40%以上70%以下(【0022】)、Yb2O3含有量は3.0%以下(【0029】)、Ta2O5含有量は3.0%以下(【0033】)が好ましいことが記載されており、これらの記載をもとに、光学ガラス分野の当業者が通常行う試行錯誤により、前記実施例を起点にして、当該組成範囲内において、前記物性を満たす具体的組成に到達可能であることも理解できるといえる。
(エ) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
本件発明1の組成要件は、前記第2のとおりのものであるところ、当該組成要件は、前記(ウ)cで検討した各成分の含有量及び質量和の範囲内であるし、また、本件発明1の物性要件は、前記(ウ)aで検討した物性であるから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らして本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
(オ) 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものである。また、本件発明2~5も事情は同じであるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年9月26日付けの意見書において、本件発明1のガラス組成の範囲(組成要件)を満たす光学ガラスであれば、全ての光学ガラスが本件発明1の物性要件を満足することを前提として、本件発明1のガラス組成の範囲(組成要件)を満たす光学ガラスにおいて、当該物性要件を満たさない光学ガラスが存在することは特殊な現象であるから、このような物性要件の光学ガラスの組成範囲は、実施例に記載された範囲に限定されるべきである旨を主張している(意見書第4頁第6行~末行)。
しかしながら、前記(2)イ(ウ)b(a)で検討したとおり、本件発明1は、ガラス成分の含有量や質量比の数値範囲を示したガラス組成(組成要件)を特定しつつ、当該組成要件の範囲内において、物性要件を満たす光学ガラスをさらに特定するものであるから、申立人の上記主張は、前提が誤っており採用できない。
エ 申立理由9についての結論
以上のとおりであるから、申立理由9に理由はない。
(10) 申立理由10(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件違反についての検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記(9)イ(ウ)bで検討したとおり、実施例1~118が記載されているし、また、前記(9)イ(ウ)cで検討したとおり、各成分の役割や、各成分の含有量や質量和、質量比の好ましい範囲が記載されているから、これらの記載に基いて、当業者が過度な試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるものといえる。
また、本件発明2~5についても事情は同じである。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1~5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
イ 申立人の主張について
申立人は、令和5年9月26日付けの意見書において、本件発明1のガラス組成の範囲(組成要件)を満たす光学ガラスであれば、全ての光学ガラスが本件発明1の物性要件を満足することを前提として、本件発明1のガラス組成の範囲(組成要件)を満たす光学ガラスにおいて、当該物性要件を満たさない光学ガラスが存在することは特殊な現象であるから、このような物性要件の光学ガラスを得るためには、当業者の過度な試行錯誤を要する旨を主張している(意見書第1頁第6行~第4頁第5行)。
しかしながら、前記(9)ウで検討したとおり、申立人の上記主張は、前提が誤っており採用できない。
ウ 申立理由10についての結論
以上のとおりであるから、申立理由10は理由がない。
4 令和5年9月26日付けの意見書で追加された理由について
(1) 追加された理由の概要
申立人は、令和5年9月26日付けの意見書において、新たな甲号証を主たる証拠とした、本件発明1~5に係る特許に対する取消理由を主張している(意見書第6頁第35行~第8頁第20行)。その概要は、以下のとおりである。
ここで、追加された証拠方法は、次のものである。
甲第9号証 特開2005-272183号公報
甲第11号証 特開2013-126935号公報
甲第14号証 特開2005-15302号公報
なお、甲第9号証及び甲第11号証は、令和5年3月29日付けの意見書に添付して、また、甲第14号証は、令和5年9月26日付けの意見書に添付して、それぞれ提出されたものである。
ア 追加理由1
本件発明1~5は、甲第14号証(実施例2、3)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 追加理由2
本件発明1~5は、甲第9号証(実施例1~3、7)又は甲第11号証(実施例137、142~147)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第9号証又は甲第11号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 追加された理由に対する当審の判断
当該理由は、特許異議申立期間経過後に提出された証拠に基づく新たな理由であって、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由でないし、また、以下で検討するとおり、適切な取消理由を構成するものでないから、当該理由は採用できない。
ア 追加理由1について
甲第14号証の実施例2、3の光学ガラスのTa2O5含有量は、それぞれ、9.6質量%(実施例2)、10.8質量%(実施例3)であるところ、甲第14号証には、「Ta2O5は、アッベ数を低下させることなく屈折率を高める効果がある。・・・その含有量は5~25%、好ましくは8.5~20%、さらに好ましくは8.5~15%である。・・・5%より少ないと屈折率の低下とともに、ガラスの分相傾向が強くなり、均質なガラスを得難くなる」こと(【0021】)が記載されているから、当該実施例2、3の光学ガラスのTa2O5含有量を、本件発明1で特定された「3.0質量%以下」にすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
したがって、本件発明1~5は、甲第14号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
イ 追加理由2について
甲第9号証には、実施例1~3、7の光学ガラスの粉末法耐酸性について記載されていないし、また、当該実施例1~3、7の光学ガラスについて、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はない。
また、甲第11号証にも、実施例137、142~147の光学ガラスの粉末法耐酸性について記載されていないし、また、当該実施例137、142~147の光学ガラスについて、粉末法による化学的耐久性(耐酸性)が1級~4級の範囲になっていることを示す証拠はない。
したがって、前記3(3)~(8)で検討したのと同様に、本件発明1~5は、甲第9号証又は甲第11号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第9号証又は甲第11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
(3) 追加された理由についての結論
以上のとおり、令和5年9月26日付けの意見書において主張された前記(1)の理由は採用できない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700971