審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-700015

窒化ケイ素焼結体の製造方法

審判番号
2024-700015
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-167870
登録番号
7307255
請求日
2024年01月09日
審決日
2024年03月26日
公報発行日
2024年04月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】NTN株式会社
  • 【権利者代理人】和気 光
  • 【権利者代理人】和気 操
  • 【権利者代理人】寺本 諭史
  • 【異議申立人】関 豊美子
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 立木 林
  • 審判官 後藤 政博
分類
P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / P1651.536-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7307255号発明「窒化ケイ素焼結体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7307255号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7307255号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年3月31日(優先権主張 令和2年9月3日)を出願日とする特願2021-60258号(以下、「原出願」という。)の一部を新たな特許出願として令和4年10月19日に出願されたものであり、令和5年7月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行され、その後、令和6年1月9日に、請求項1~3に係る特許について、特許異議申立人 関 豊美子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 希土類元素、アルミニウム元素、および遷移金属元素を含む窒化ケイ素焼結体を製造する方法であって、 前記窒化ケイ素焼結体において、前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、 前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、 前記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径が50μm以下であり、 前記方法は、ケイ素粉末と、前記希土類元素を含む焼結助剤と、前記アルミニウム元素を含む焼結助剤と、前記遷移金属元素を含む焼結助剤とを含む原料粉末が混合されたものを圧粉体に成形する成形工程と、成形された圧粉体を焼結する焼結工程と有し、 前記焼結工程において、焼結温度は1800℃~1950℃の範囲内であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。 【請求項2】 前記希土類元素が、Y、Ce、NdおよびEuからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。 【請求項3】 前記希土類元素がCeを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。」 第3 特許異議の申立てについて 1 特許異議申立理由の概要 申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 甲第1号証:再公表特許WO2005/019133号 甲第2号証:特開平9-268072号公報 甲第3号証:特開平10-324573号公報 甲第4号証:特開昭63-55163号公報 なお、以下では、甲第1号証等を「甲1」等という。 (1) 申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如) 本件発明1~3は、甲1に記載された発明であるか、又は甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書5ページ「理由の要点」(a)、(b)、同22ページ15行~27ページ下から7行)。 よって、本件特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものである。 (2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如) 本件発明1~3は、甲2に記載された発明であるか、又は甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書5ページ「理由の要点」(a)、(b)、同27ページ下から6行~32ページ下から3行)。 よって、本件特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものである。 (3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如) 本件発明1~2は、甲3に記載された発明であるか、又は甲3に記載された発明及び甲2、4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明3は、甲3に記載された発明及び甲2、4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書5ページ「理由の要点」(a)、(b)、同32ページ下から2行~40ページ14行)。 よって、本件特許は、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものである。 (4) 申立理由4(実施可能要件違反) 願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0029】の記載に従い、窒化ケイ素の含有量を同【0048】、焼結助剤の添加量を同【0049】に記載された範囲内に調整した場合であっても、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部の空孔(以下、「表層空孔」ともいう。)の最大径を50μm以下に調整できない例(実施例4、18、28、29)があるから、表層空孔の最大径を50μm以下に調整するための条件が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に十分に記載されているとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない(特許異議申立書5ページ「理由の要点」(c)、同40ページ下から10行~42ページ下から2行)。 よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (5) 申立理由5(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の(i)~(v)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許異議申立書42ページ下から1行~47ページ5行)。 (i) 本件発明は、原料粉末におけるケイ素粉末の含有量について何ら特定されていない。 (ii) 本件発明は、原料粉末における遷移金属元素を含む焼結助剤の割合について、何ら特定されていない。 (iii) 本件発明は、原料粉末における希土類元素を含む焼結助剤の割合とアルミニウム元素を含む焼結助剤の割合について、何ら特定されていない。 (iv) 実施例21~22の結果によれば、焼結温度が1900℃を超えて1950℃である場合には、表層部に存在する空孔の最大径が50μmを超え、且つ転動疲労試験の結果も望ましくないことが示されている。 (v) 本件発明は、表層部の介在物やその径について、何ら特定されていない。 (6) 申立理由6(明確性要件違反) 希土類元素は遷移金属元素の一種であるため、本件発明の窒化ケイ素焼結体が、希土類元素と希土類元素以外の遷移金属元素とを含むのか、希土類元素が含まれていれば遷移金属元素も含まれているとみなせるのか不明であるから、本件発明は明確でない(特許異議申立書5ページ「理由の要点」(e)、同47ページ6~20行)。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 各甲号証の記載事項 (1) 甲1に記載された事項 甲1には、「窒化珪素質焼結体およびその製造方法、並びにそれを用いた耐溶融金属用部材、耐摩耗用部材」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(「・・・」は省略を表す。下線は当審が付した。以下同様。)。 ア「【請求項1】 窒化珪素の結晶と、以下の第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つを含む粒界層とを有した窒化珪素質焼結体であって、 前記粒界層は、第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つが互いに接する隣接相を有することを特徴とする窒化珪素質焼結体。 第1金属珪化物:Fe、Cr、MnおよびCuから成る群から選択された少なくとも1つの第1の金属元素からなる金属珪化物 第2金属珪化物:W、Moのうち少なくとも1つの第2の金属元素からなる金属珪化物 第3金属珪化物:第1の金属元素と第2の金属元素を含む複数金属成分からなる金属珪化物」 イ「【0017】 以下に本発明について詳述する。 本発明の窒化珪素質焼結体は、窒化珪素の結晶と、以下の第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つを含む粒界層とを有した窒化珪素質焼結体であって、粒界層は第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つが互いに接する隣接相を有する窒化珪素質焼結体である。 【0018】 ここで、第1の金属元素とは、Fe、Cr、MnおよびCuからなる群から選ばれる少なくとも1つを指し、その第1の金属元素からなる金属珪化物を第1金属珪化物としている。・・・」 ウ「【0040】 また、上述の窒化珪素質焼結体の特徴に加えて、更に、粒界層に周期律表第3族元素(RE)、AlおよびOからなる非晶質相を含有することが好ましい。・・・非晶質相は、例えば、後述するように周期律表第3族元素の酸化物と酸化アルミニウム粉を製造過程で添加後、成形、焼成することにより焼結体中に生成させることができる。・・・好ましくは、本発明の窒化珪素質焼結体中にREをRE2O3換算で1~20質量%、AlをAl2O3換算で0.1~10質量%含有する。・・・ ・・・ 【0047】 かくして、上記の本発明の窒化珪素質焼結体は、相対密度が97%以上、・・・」 エ「【0052】 次に本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法について説明する。本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法は、 Si粉末、もしくはSi粉末と窒化珪素粉末の混合粉末に、予め平均粒径0.1~20μmのFe、Cr、MnおよびCuのうち少なくとも1つの第1の金属元素の化合物に、平均粒径0.1~30μmのW、Moのうち少なくとも1つの第2の金属元素の化合物を湿式混合、乾燥して得られた予備混合粉末を混合して原料粉末を作製する原料作製工程と、 前記原料粉末と有機結合剤とからなる成形体を作製する成形工程と、 実質的に窒素ガス、アルゴンガス、またはこれらの混合ガスからなる雰囲気中で前記有機結合材を脱脂して脱脂体を作製する脱脂工程と、 脱脂体を実質的に窒素ガス雰囲気中で窒化体に変換する窒化工程と、 窒化体を窒素ガスを含有する非酸化性雰囲気中で焼成して焼結体を作製する焼成工程とを有する。」 オ「【0069】 窒化珪素質焼結体を致密化させることによって機械的特性を向上させるためには、前記焼成工程における最高温度が1600℃以上であることが好ましい。1600℃以上で焼成することにより、相対密度が97%以上の緻密な窒化珪素質焼結体を作製することができ、機械的特性を向上させることができる。また、窒化珪素の結晶の異常粒成長を抑制することにより機械的強度の低下を抑制するためには、焼成の最高温度の上限を1850℃とすることが好ましい。」 (2) 甲2に記載された事項 甲2には、「窒化珪素質焼結体の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 ア「【請求項1】α化率が50%以上の窒化珪素(Si3N4)粉末と、平均粒径2.5~30μmの珪素(Si)粉末とを、Si/(Si3N4+Si)重量比が0.95~0.2の割合からなる主成分に対して、焼結助剤として周期律表第3a族酸化物粉末の1種以上を1~7モル%と、酸化アルミニウム粉末を1~13モル%で添加してなる成形体を、窒素を含む雰囲気中にて1000~1500℃で窒化し、その後1700~2000℃の非酸化性雰囲気中で焼成することを特徴とする窒化珪素質焼結体の製造方法。 【請求項2】前記成形体中に、窒化促進剤として、W、Mn、Fe、Cuの酸化物、炭化物、珪化物のうちの1種以上を全量中、0.1~5重量%の割合で含むことを特徴とする請求項1記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。」 イ「【0008】・・・なお、最終的に得られる焼結体中において、前記周期律表第3a族が酸化物換算で全量中1~7モル%、アルミニウムが酸化物換算で1~13モル%の割合で存在することが望ましい。」 (3) 甲3に記載された事項 甲3には、「窒化珪素焼結体の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 ア「【0011】本発明においては、珪素粉末は酸素の他、通常精製段階で微量のFe、Al、Ca等の金属不純物が混入したものであっても用いることができる。なお、一般に出発原料の純度が高ければ優れた機械的特性を有する焼結体が得られるといわれていることから、不純物の含有量は少ない程良いとも言えるが、窒化は、Fe等の不純物があった方が進む。・・・ 【0012】本発明では、焼結助剤として酸化イットリウム及び酸化アルミニウムを用いる。・・・」 イ「【0028】実施例5~15 (1)表4に示す珪素粉末、焼結助剤を表5の割合で調整し、エタノール中、20時間窒化珪素ボールを用いたボールミル混合を行った。 (2)混合粉末を乾燥後、金型で予備成形した後、1.0t/cm2の圧力で静水圧プレス(CIP)して30×40×8mmの成形体を得た。 (3)成形体を窒素ガス(純度99.99%)圧力雰囲気中で焼結した。なお、実施例では窒化後の焼結体の結晶相を確認するため、表7に示す温度圧力条件で焼結し、窒化後の結晶相を確認した(表5)。・・・ ・・・ 【0031】 【表4】 [図:0001409196000001.jpg] 【0032】 【表5】 [図:0001409196000002.jpg] 【0033】*1:助剤比:珪素の酸素量をSiO2換算した量をA(mol)、酸化アルミニウムの添加量をB(mol)、酸化イットリウムの添加量をC(mol)とした場合、(A+B/2)/Cで混合比を表したもの。 *2:酸化アルミニウム量:SiをSi3N4に換算した場合の量(モル比)を計算して調製した。 *3:総助剤添加量:SiをSi3N4に換算した場合の焼結助剤の添加量の割合。 *4:窒化終了後(<1500℃)の焼結体のα-窒化珪素の含有率(X線分析結果) *5:窒化終了時に未反応Siが残留した。 【0034】 【表6】 [図:0001409196000003.jpg] 【0035】 【表7】 [図:0001409196000004.jpg] 」 (4) 甲4に記載された事項 甲4には、「耐摩耗材用窒化けい素質焼結体」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。 ア「発明者らの実験によれば、空孔の大きさが50μm以上であると接触圧によつてそのまわりにチツピングが容易に発生する傾向があるが、特に重要なことは5μm以上の空孔の分布であつて、複数の上記空孔が近接して存在した場合は局所的にチツピングが発生し易い。 しかして、空孔体積率を5%以下とし、かつ5μm以上の空孔の平均分布を50個/mm2以下とすることで、摺部部材として実用上充分な耐久寿命が得られる。」(2ページ右上欄9~18行) 3 当審の判断 事案に鑑み、まず申立理由6(明確性要件違反)について検討し、その後申立理由1~5について検討する。 (1) 申立理由6(明確性要件違反)について ア 明確性要件の判断手法 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。 イ 明確性要件適合性の判断 (ア) 本件発明の「希土類元素」は、出願時の技術常識を踏まえると、Sc、Y及びランタノイドを指すものと解される。 (イ) 本件特許明細書【0025】に「遷移金属元素は、IUPAC周期表の第3族から第11族までの間に含まれる元素であれば特に限定されてない。」(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様。)と記載されている。 (ウ) 本件特許明細書において、【0015】には、希土類元素の例示として「イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、ユウロピウム(Eu)、エルビウム(Er)など」が記載され、一方で【0025】には、遷移金属元素の例示として「Ti、Cr、Mn」が記載されており、例示される元素に重複はない。 さらに、本件特許明細書の【表2】には「希土類酸化物」と「遷移金属酸化物」とに、【表3】には「希土類元素」と「遷移金属」とに、項目が分けて記載されている。 (エ) 上記(ウ)によれば、本件発明において、「希土類元素」と「遷移金属元素」とは重複しないと解するのが自然であり、上記(ア)、(イ)も併せて考えると、本件発明において「希土類元素」とは、Sc、Y及びランタノイドを意味し、「遷移金属元素」とは、IUPAC周期表の第3族から第11族までの元素のうち、希土類元素を除いたものを意味することが理解できるため、本件発明は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 したがって、上記アの判断手法に従えば、本件発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合する。 なお、本件発明において、希土類元素と遷移金属元素とが重複しないと解する点は、特許権者が本件特許に係る出願の審査過程において令和5年3月13日に提出した意見書の4.における「実施例14(遷移金属は含まない)」との記載とも整合する。 ウ 申立理由6についての結論 以上のとおりであるから、申立理由6は理由がない。 (2) 申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について ア 甲1発明 上記2(1)ア~オの記載事項を、甲1の【請求項1】に係る窒化珪素質焼結体の製造方法に着目して整理すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「 窒化珪素質焼結体の製造方法であって、 窒化珪素質焼結体は、窒化珪素の結晶と、以下の第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つを含む粒界層とを有した窒化珪素質焼結体であって、 前記粒界層は、第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つが互いに接する隣接相を有し、 第1金属珪化物:Fe、Cr、MnおよびCuから成る群から選択された少なくとも1つの第1の金属元素からなる金属珪化物 第2金属珪化物:W、Moのうち少なくとも1つの第2の金属元素からなる金属珪化物 第3金属珪化物:第1の金属元素と第2の金属元素を含む複数金属成分からなる金属珪化物 更に、粒界層に周期律表第3族元素(RE)、AlおよびOからなる非晶質相を含有することが好ましく、 好ましくは、窒化珪素質焼結体中にREをRE2O3換算で1~20質量%、AlをAl2O3換算で0.1~10質量%含有し、 相対密度が97%以上であり、 窒化珪素質焼結体の製造方法は、 Si粉末、もしくはSi粉末と窒化珪素粉末の混合粉末に、予め第1の金属元素の化合物に、第2の金属元素の化合物を湿式混合、乾燥して得られた予備混合粉末を混合して原料粉末を作製する原料作製工程と、 前記原料粉末と有機結合剤とからなる成形体を作製する成形工程と、 焼結体を作製する焼成工程とを有し、 周期律表第3族元素の酸化物と酸化アルミニウム粉を製造過程で添加後、成形、焼成することにより焼結体中に生成させることができ、 前記焼成工程における最高温度が1600℃以上であることが好ましく、最高温度の上限を1850℃とすることが好ましい、窒化珪素質焼結体の製造方法。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲1発明との対比 a 対応関係 (a) 甲1発明の「窒化珪素質焼結体の製造方法」、「Fe、Cr、MnおよびCuから成る群から選択された少なくとも1つの第1の金属元素」及び「W、Moのうち少なくとも1つの第2の金属元素」、「Al」は、それぞれ本件発明1の「窒化ケイ素焼結体を製造する方法」、「遷移金属元素」、「アルミニウム元素」に相当する。 (b) 甲1発明の「第1~第3金属珪化物のうち少なくとも2つを含む粒界層とを有した窒化珪素質焼結体」は、窒化珪素質焼結体中に第1金属(Fe、Cr、Mn、Cu)及び第2金属(W、Mo)を含むものといえるから、本件発明1の「遷移金属元素を含む窒化ケイ素焼結体」に相当する。 (c) 甲1発明の「Si粉末、」「第1の金属元素の化合物」、「第2の金属元素の化合物」を「混合して原料粉末を作製」し「前記原料粉末と有機結合剤とからなる成形体を作製する成形工程」は、本件発明1の「ケイ素粉末と、」「前記遷移金属元素」「を含む原料粉末が混合されたものを」「成形する成形工程」に相当する。 (d) 甲1発明の「焼結体を作製する焼成工程」は、本件発明1の「焼結する焼結工程」に相当する。 b 一致点及び相違点 上記aの対応関係を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、少なくとも相違点1―1~1―3の点で相違する。 <一致点> 「遷移金属元素を含む窒化ケイ素焼結体を製造する方法であって、 前記方法は、ケイ素粉末と、前記遷移金属元素を含む原料粉末が混合されたものを成形する成形工程と、焼結する焼結工程と有する、ことを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。」 <相違点1―1> 本件発明1が、「希土類元素、アルミニウム元素」を含む窒化ケイ素焼結体の製造方法であって、「前記窒化ケイ素焼結体において、前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であ」るのに対し、甲1発明は「粒界層に周期律表第3族元素(RE)、AlおよびOからなる非晶質相を含有することが好ましく、好ましくは、窒化珪素質焼結体中にREをRE2O3換算で1~20質量%、AlをAl2O3換算で0.1~10質量%含有」するものである点。 <相違点1-2> 本件発明1が「窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径が50μm以下であ」るのに対し、甲1発明が「相対密度が97%以上であ」って、表層空孔の有無及びその最大径が不明である点。 <相違点1-3> 本件発明1は、「焼結工程において、焼結温度は1800℃~1950℃の範囲内である」のに対し、甲1発明は、「焼成工程における最高温度が1600℃以上であることが好ましく、最高温度の上限を1850℃とすることが好ましい」ものである点。 (イ) 相違点の検討 事案に鑑み、相違点1―2(表層空孔に係る相違点)から検討する。 a 甲1には、表層空孔の最大径が50μm以下である窒化ケイ素焼結体の製造方法について記載も示唆もない。また、甲1発明の製造方法であれば、表層空孔の最大径が50μm以下となるという出願時の技術常識も確認できない。 よって、上記相違点1―2は実質的なものであるから、本件発明1は甲1発明でない。 b 上記2(4)アによれば、甲4には、「空孔の大きさが50μm以上であると接触圧によつてそのまわりにチツピングが容易に発生する傾向がある」ことは記載されているものの、表層空孔の最大径を50μm以下に調整する方法は記載されていない。 c したがって、甲1発明において相違点1―2に係る本件発明1の構成とすることは、甲1発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易になし得ることとはいえない。 d よって、相違点1―1、1―3及びその他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ) 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明でなく、また甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 本件発明2、3について 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。 したがって、前記イで検討したものと同様の理由により、本件発明2、3は、甲1に記載された発明でなく、また甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 申立人の主張について 申立人は、甲1に記載された窒化珪素質焼結体の原料及び割合は、本件発明1で特定された原料及び割合と同じであり、かつ、甲1に記載された窒化珪素質焼結体の製造方法は、本件特許明細書【0036】~【0039】に記載された製造方法と同じであるから、甲1に記載された窒化珪素質焼結体において表層空孔が存在し、かつその最大径が50μm以下である蓋然性が高い旨を主張する。 しかしながら、少なくとも相違点1―1及び相違点1―3の点で、窒化ケイ素焼結体における成分の割合、及び製造方法の熱処理条件が異なるから、上記主張は採用できない。 加えて、例えば、本件特許明細書の表4、5において、実施例4は「空孔の最大径」が「B」評価であるように、本件発明1で特定された原料及び割合、並びに本件特許明細書【0036】~【0039】に記載された製造方法と差異がないことのみで、表層空孔の最大径が50μm以下になるとはいえない。 したがって、上記主張は採用できない。 オ 申立理由1についての結論 以上のとおりであるから、申立理由1は理由がない。 (3) 申立理由2(甲2を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について ア 甲2発明 上記2(2)に記載された事項を、請求項1を引用する請求項2に係る「窒化珪素質焼結体の製造方法」に着目して整理すると、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「α化率が50%以上の窒化珪素(Si3N4)粉末と、平均粒径2.5~30μmの珪素(Si)粉末とを、Si/(Si3N4+Si)重量比が0.95~0.2の割合からなる主成分に対して、焼結助剤として周期律表第3a族酸化物粉末の1種以上を1~7モル%と、酸化アルミニウム粉末を1~13モル%で添加してなる成形体を、窒素を含む雰囲気中にて1000~1500℃で窒化し、その後1700~2000℃の非酸化性雰囲気中で焼成することを特徴とする窒化珪素質焼結体の製造方法であって、 前記成形体中に、窒化促進剤として、W、Mn、Fe、Cuの酸化物、炭化物、珪化物のうちの1種以上を全量中、0.1~5重量%の割合で含み、 最終的に得られる焼結体中において、前記周期律表第3a族が酸化物換算で全量中1~7モル%、アルミニウムが酸化物換算で1~13モル%の割合で存在することが望ましい、 窒化珪素質焼結体の製造方法。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲2発明との対比 a 対応関係 (a) 甲2発明の「窒化珪素質焼結体の製造方法」は、本件発明1の「窒化ケイ素焼結体の製造方法」に相当する。 (b) 甲2発明の「珪素(Si)粉末と」「焼結助剤として」「酸化アルミニウム粉末を」「添加してなる成形体」とすることは、本件発明1の「ケイ素粉末と、」「アルミニウム元素を含む焼結助剤」「を含む原料粉末」を「成形する成形工程」に相当する。 (c) 甲2発明における「1700~2000℃の非酸化性雰囲気中で焼成すること」は、甲2の明細書【0018】によれば、窒化後の成形体を緻密化させる工程、すなわち焼結させる工程であるから、本件発明1の「焼結する焼結工程」に相当する。 b 一致点及び相違点 上記aの対応関係を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは以下の点で一致し、少なくとも以下の相違点2-1、相違点2―2の点で相違する。 <一致点> 「ケイ素粉末と、アルミニウム元素を含む焼結助剤とを含む原料粉末を成形する成形工程と、焼結する焼結工程と有する、 窒化ケイ素焼結体の製造方法。」 <相違点2―1> 本件発明1が「窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径が50μm以下であ」るのに対し、甲2発明が表層空孔の有無及びその最大径が不明である点。 <相違点2―2> 本件発明1が、焼結工程において、「焼成温度は1800℃~1950℃の範囲内」であるのに対し、甲2発明は「1700~2000℃」の焼成である点。 (イ) 相違点の判断 a 相違点2―1(表層空孔に係る相違点)について検討するに、甲2には、表層空孔の最大径が50μm以下である窒化ケイ素焼結体の製造方法について記載も示唆もない。また、甲2発明の製造方法であれば、表層空孔の最大径が50μm以下となるという出願時の技術常識も確認できない。 よって、上記相違点2―1は実質的なものであるから、本件発明1は甲2発明でない。 b 上記(2)イ(イ)bで検討したとおり、甲4には、表層空孔の最大径を50μm以下に調整する方法は記載されていない。 c したがって、甲2発明において相違点2―1に係る本件発明1の構成とすることは、甲2発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易になし得ることとはいえない。 d よって、相違点2―2及びその他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ) 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2に記載された発明でなく、また甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 本件発明2、3について 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。 したがって、前記イで検討したものと同様の理由により、本件発明2、3は、甲2に記載された発明でなく、また甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 申立人の主張について 申立人は、甲2に記載された窒化珪素質焼結体の原料及び割合は、本件発明1で特定された原料及び割合と同じであり、かつ、甲2に記載された窒化珪素質焼結体の製造方法は、本件特許明細書【0036】~【0039】に記載された製造方法と同じであるから、甲2に記載された窒化珪素質焼結体において表層空孔が存在し、かつその最大径が50μm以下である蓋然性が高い旨を主張する。 しかしながら、少なくとも相違点2―2の点で、製造方法の熱処理条件が異なる。さらに、上記(2)エで検討したとおり、本件発明1で特定された原料及び割合、並びに本件特許明細書【0036】~【0039】に記載された製造方法と差異がなかったことのみで、表層空孔の最大径が50μm以下になるとはいえない。 したがって、当該主張は採用できない。 オ 申立理由2についての結論 以上のとおりであるから、申立理由2は理由がない。 (4) 申立理由3(甲3を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について ア 甲3発明 (ア) 上記2(3)アによれば、甲3に記載された発明において、「珪素粉末は酸素の他、通常精製段階で微量のFe、Al、Ca等の金属不純物が混入したものであっても用いることができる」ことが理解できる。 (イ) 上記2(3)イによれば、甲3における実施例9は、「珪素粉末、焼結助剤を表5の割合で調整し、」「ボールミル混合を行」い、「混合粉末を」「「静水圧プレス(CIP)して」「成形体を得」、「成形体を」「焼結し」たこと(【0028】)、焼結助剤は「酸化アルミニウム」及び「酸化イットリウム」であること(【0031】【表4】)、焼結助剤の割合は、「助剤比」「1.8」、「酸化アルミニウム量」「13.1」「mol%」、「総助剤添加量」「16」「wt.%」であること(【0032】【表5】)、焼結体の「相対密度」は「97」「%」であること(【0034】【表6】)、及び焼結する際の温度条件は最高温度が「1800℃」であることが理解できる。 (ウ) 上記(ア)、(イ)を踏まえ、実施例9に係る窒化珪素焼結体の製造方法に着目して整理すると、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「窒化珪素焼結体の相対密度は97%である、窒化珪素焼結体の製造方法であって、 珪素粉末は酸素の他、通常精製段階で微量のFe、Al、Ca等の金属不純物が混入したものであっても用いることができるものであり、 上記珪素粉末、焼結助剤としての酸化アルミニウム及び酸化イットリウムを、助剤比1.8、酸化アルミニウム量13.1mol%、総助剤添加量16wt.%の割合で調整し、ボールミル混合を行い、 混合粉末を静水圧プレス(CIP)して成形体を得、 成形体を1800℃で焼結する、窒化珪素焼結体の製造方法。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲3発明との対比 a 対応関係 (a) 甲3発明の「窒化珪素焼結体の製造方法」は、本件発明1の「窒化ケイ素焼結体を製造する方法」に相当する。 (b) 甲3発明の「珪素粉末、焼結助剤としての酸化アルミニウム及び酸化イットリウムを、」「ボールミル混合を行」うことは、本件発明1の「ケイ素粉末と、前記希土類元素を含む焼結助剤と、前記アルミニウム元素を含む焼結助剤」「とを含む原料粉末」を「混合」することに相当する。 (c) 甲3発明の「混合粉末を静水圧プレス(CIP)して成形体を得」ることは、粉末に圧力をかけて成形する工程といえるから、本件発明1の「圧粉体に成形する成形工程」に相当する。 (d) 甲3発明の「成形体を1800℃で焼結する」ことは、本件発明1の「焼結温度は1800℃~1950℃の範囲内である」「成形された圧粉体を焼結する焼結工程」に相当する。 b 一致点及び相違点 上記aの対応関係を踏まえると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、少なくとも相違点3の点で相違する。 <一致点> 「窒化ケイ素焼結体を製造する方法であって、 前記方法は、ケイ素粉末と、前記希土類元素を含む焼結助剤と、前記アルミニウム元素を含む焼結助剤とを含む原料粉末が混合されたものを圧粉体に成形する成形工程と、成形された圧粉体を焼結する焼結工程と有し、 前記焼結工程において、焼結温度は1800℃~1950℃の範囲内である、窒化ケイ素焼結体の製造方法。」 <相違点3> 本件発明1が「窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径が50μm以下であ」るのに対し、甲3発明が表層空孔の有無及びその最大径が不明である点。 (イ) 相違点の検討 a 相違点3(表層空孔に係る相違点)について検討するに、甲3には、表層空孔の最大径が50μm以下である窒化ケイ素焼結体の製造方法について記載も示唆もない。また、甲3発明の製造方法であれば、表層空孔の最大径が50μm以下となるという出願時の技術常識も確認できない。 よって、上記相違点3は実質的なものであるから、本件発明1は甲3発明でない。 b 上記(3)イ(イ)aで検討したとおり、甲2には、表層空孔の最大径が50μm以下である窒化ケイ素焼結体の製造方法について記載も示唆もない。 また、上記(2)ア(イ)bで検討したとおり、甲4には、表層空孔の最大径を50μm以下に調整する方法は記載されていない。 c したがって、甲3発明において相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、甲3発明及び甲2、4に記載された事項に基いて当業者が容易になし得ることとはいえない。 d よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲3に記載された発明及び甲2、4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ) 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3に記載された発明でなく、また甲3に記載された発明及び甲2、4に記載された事項に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 本件発明2、3について 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。 したがって、前記イで検討したものと同様の理由により、本件発明2、3は、甲3に記載された発明でなく、また甲3に記載された発明及び甲2、4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 申立人の主張について 申立人は、甲3に記載された窒化珪素焼結体の原料及び割合は、本件発明1で特定された原料及び割合と同じであり、かつ、甲3に記載された窒化珪素焼結体の製造方法は、本件特許明細書【0036】~【0039】に記載された製造方法と同じであるから、甲3に記載された窒化珪素焼結体において表層空孔が存在し、かつその最大径が50μm以下である蓋然性が高い旨を主張する。 しかしながら、上記(2)エで検討したとおり、本件発明1で特定された原料及び割合、並びに本件特許明細書【0036】~【0039】に記載された製造方法と差異がなかったことのみで、表層空孔の最大径が50μm以下になるとはいえない。 したがって、当該主張は採用できない。 オ 申立理由3についての結論 以上のとおりであるから、申立理由3は理由がない。 (5) 申立理由4(実施可能要件違反)について ア 実施可能要件の判断手法 発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に係る規定(実施可能要件)に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要すると解される。そして、この規定のいう「実施」とは、物を生産する方法においては、当該発明に係る方法の使用をする行為等をいうものであるから、実施可能要件を満たすといえるためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産する方法の使用することができる程度のものでなければならない。 イ 本件特許明細書の記載 (ア)「【0006】 本発明は、機械的特性、特に破壊靱性が良好であり、製品に加工した場合に良好な製品寿命を有する窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受の提供を目的とする。」 (イ)「【0023】 一方、窒化ケイ素焼結体を製造するための原料に窒化ケイ素粉末が含まれる場合、窒化ケイ素粉末と、酸化クロム(Cr2O3)などの遷移金属元素を含む焼結助剤(遷移金属元素の酸化物)とを混合すると、焼結助剤が窒化ケイ素粉末を酸化することにより、原料の組成にズレが生じ、良好な焼結を行えなくなることがある。これに対し、PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合には、原料に主にケイ素粉末を用い、原料に含まれる窒化ケイ素粉末の含有量を低減することができるため、上記のような不具合が生じにくく、緻密な窒化ケイ素焼結体を得ることができる。 ・・・ 【0029】 また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有することが好ましい。さらに、該空孔の最大径は、窒化ケイ素焼結体の断面において50μm以下であることが好ましい。・・・空孔の最大径は、例えばPS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合に、原料として用いる窒化ケイ素の含有量および/または焼結助剤の添加量を調整することによって調整することができる。 ・・・ 【0032】 また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、希土類元素を、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下含み、かつ、アルミニウム元素を、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下含んでおり、製造時に、例えば希土類元素を含む焼結助剤およびアルミニウムを含む焼結助剤を相当量用いることで、原料にケイ素粉末を用いた場合でも窒化反応を十分に進行させることができる。その結果、良好な破壊靱性が得られる。・・・」 (ウ)「【0041】 (第2の手法) 第2の手法は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体を製造する方法であって、例えば、ケイ素粉末と焼結助剤を含む原料粉末を乾式で混合する混合工程と、混合された原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを含む。 ・・・ 【0043】 ・・・焼結工程は、・・・例えば窒素雰囲気中で1600℃~1950℃(好ましくは1600℃~1900℃)で熱処理することにより焼結させる第2工程とを有する。・・・ ・・・ 【0046】 上記第1の手法および第2の手法を含む、上記の窒化ケイ素焼結体の製造において、原料粉末に用いる焼結助剤としては、希土類元素、アルミニウム元素、および遷移金属元素を含むものを用いることが好ましく、これらの酸化物を含むことがより好ましい。・・・ ・・・ 【0048】 ・・・原料粉末に含まれる窒化ケイ素粉末の含有量は、上記総重量に対して、通常30重量%以下であり、25重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であってもよく、窒化ケイ素粉末を含んでいなくてもよい。 【0049】 原料粉末に含まれる希土類元素を含む焼結助剤(例えば、希土類元素の酸化物)の含有量は、上記総重量に対して、7重量%以上であり、9重量%以上であることが好ましく、9.5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であってもよい。希土類元素の上記含有量は、17重量%以下であり、15重量%以下であってもよく、14.5重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれるアルミニウム元素を含む焼結助剤(例えば、酸化アルミニウム)の含有量は、上記総重量に対して、5重量%以上であり、9重量%以上であることが好ましく、9.5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であってもよい。アルミニウム元素の上記含有量は、17重量%以下であり、15重量%以下であってもよく、14.5重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれる遷移金属元素を含む焼結助剤(例えば、遷移金属元素の酸化物)の含有量は、上記総重量に対して、通常0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、通常5重量%以下であり、3重量%以下であることがより好ましい。原料粉末に含まれる焼結助剤の含有量が少ないと緻密な窒化ケイ素焼結体が得られにくく、焼結助剤の含有量が多いと窒化ケイ素焼結体の破壊靱性などの機械的特性が低下しやすい。」 (エ)「【0068】 〔試験例1〕 表2に示す配合比で原料粉末を準備し、これに有機バインダを3重量%添加し、メディアとして窒化ケイ素ボールを用い、溶媒としてエタノールを用いて、ボールミルにより回転数200rpmで48時間混合した。混合後のスラリーをスプレードライ法により乾燥して造粒して造粒粉を得た。なお、造粒粉を得るために用いた材料の仕様を表1に示す。 ・・・ 【0070】 <実施例1~実施例26、実施例30、比較例1~2> 上記で得た造粒粉を用い、ゴム型を用いた冷間等圧加圧法により、直径11mmの球状の圧粉体に成形した。・・・その後、窒化させた圧粉体を、2.5℃/min~20℃/minの昇温速度で温度1550℃~1950℃まで昇温し、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)、その焼結温度で4時間保持して窒化ケイ素焼結体を得た。 【0071】 <実施例27~実施例29> 上記で得た造粒粉を用い、ゴム型を用いた冷間等圧加圧法により、直径11mmの球状の圧粉体に成形した。圧粉体を窒素雰囲気中、温度800℃で48時間脱脂した後、20℃/minの昇温速度で温度1800℃まで昇温し、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)、焼結温度1800℃で4時間保持して窒化ケイ素焼結体を得た。実施例27~実施例29では、温度1400℃で4時間窒化させる工程(温度保持)を省略した。 ・・・ 【0075】 【表2】 [図:0001409196000005.jpg] 【0076】 【表3】 [図:0001409196000006.jpg] ・・・ 【0081】 【表4】 [図:0001409196000007.jpg] ・・・ 【0089】 【表5】 [図:0001409196000008.jpg] 」 ウ 実施可能要件適合性の判断 (ア) 上記イ(エ)(【0068】、【0070】、【0071】、【表2】~【表5】)には、実施例1~3、5~7、8~13、14~17、21、及び23~27として、希土類元素を酸化物換算で6.18~11.84wt%、アルミニウム元素を酸化物換算で6.18~11.84wt%、遷移金属を含有し、その表層部に50μm超の空孔が存在しない(空孔の最大径が「A」評価)窒化ケイ素焼結体を、Si、希土類酸化物、Al2O3、及び遷移金属酸化物を材料として、混合、圧粉体に成形し、焼結温度1800~1900℃で焼結したことが記載されている。 (イ) 上記イ(イ)(【0029】)によれば、表層空孔の最大径は、PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合に、原料として用いる窒化ケイ素の含有量および/または焼結助剤の添加量を調整することによって調整することができ、上記イ(ウ)(【0048】、【0049】)によれば、原料粉末に含まれる窒化ケイ素、希土類元素を含む焼結助剤、アルミニウム元素を含む焼結助剤及び遷移金属元素を含む焼結助剤の含有量がそれぞれ記載されている。 (ウ) 上記(ア)、(イ)を踏まえると、実施例1~3、5~7、8~13、14~17、21、及び23~27の製造方法を参考に、窒化ケイ素の含有量や各焼結助剤の添加量を調整すれば、実施例以外にも本件発明に係る製造方法を行い得ることが理解できるから、本件発明に係る製造方法は、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく使用できるものといえる。 (エ) よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記アの判断手法に従えば、特許法第36条第4項第1号の規定に適合する。 上述したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明に対して実施可能要件を満たしているのであるから、申立人の上記1(4)における主張は、実施可能要件の判断を左右するものでなく、当該主張は採用できない。 エ 申立理由4についての結論 以上のとおりであるから、申立理由4は理由がない。 (6) 申立理由5(サポート要件違反)について ア サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ サポート要件適合性の判断 (ア) 上記(5)イ(ア)(【0006】)によれば、本件発明の課題は、機械的特性、特に破壊靭性が良好な窒化ケイ素焼結体の提供といえる。 (イ) 上記(5)イ(イ)、(ウ)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、窒化ケイ素焼結体を製造する方法は、ケイ素粉末と焼結助剤を含む原料粉末を混合し、混合された原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを含み、焼結工程は、1600℃~1950℃で熱処理するものであり、原料粉末に用いる焼結助剤としては、希土類元素、アルミニウム元素、および遷移金属元素を含み(【0041】、【0043】、【0046】)、窒化ケイ素焼結体は、表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径は、窒化ケイ素焼結体の断面において50μm以下であり(【0029】)、窒化ケイ素焼結体は、希土類元素を、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下含み、かつ、アルミニウム元素を、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下含むこと(【0032】)が記載されており、製造時に、例えば希土類元素を含む焼結助剤およびアルミニウムを含む焼結助剤を相当量用いることで、原料にケイ素粉末を用いた場合でも窒化反応を十分に進行させることができ、その結果、良好な破壊靱性が得られること(【0032】)も記載されている。 (ウ) さらに、上記(5)イ(エ)(【0068】、【0070】、【0071】、【表2】~【表5】)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例1~3、5~7、8~13、14~17、21、及び23~27として、希土類元素を酸化物換算で6.18~11.84wt%、アルミニウム元素を酸化物換算で6.18~11.84wt%、遷移金属を含有し、その表層部に50μm超の空孔が存在しない(空孔の最大径が「A」評価)窒化ケイ素焼結体を、Si、希土類酸化物、Al2O3、及び遷移金属酸化物を材料として、混合、圧粉体に成形、焼結温度1800~1900℃で焼結して製造した例が記載されており、当該実施例における窒化ケイ素焼結体の破壊靭性値は、湿式で5.1~7.1MPa・m1/2、乾式で5.1~6.9MPa・m1/2であって、上記(イ)で示される希土類元素及びアルミニウム元素の含有量の範囲外である比較例1、2の破壊靭性値(最大で4.9MPa・m1/2)を上回ることが記載されており、上記(イ)における窒化ケイ素焼結体を製造する方法が、本件発明の課題を解決することを裏付けるものといえる。 (エ) そして、本件発明は、上記第2のとおりの発明であるから、上記(イ)、(ウ)で検討した発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるといえる。 したがって、上記アの判断手法に従えば、本件発明は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。 (オ) 上述したとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしているのであるから、申立人の上記1(5)における主張は、サポート要件の判断を左右するものでなく、当該主張は採用できない。 ウ 申立理由5についての結論 以上のとおりであるから、申立理由5は理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700015

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決146件(NTN株式会社、関 豊美子)
  • 2025-700842異議申立 / 2026-06-12 / 訂正認容ピストンリング
    同じ当事者: NTN株式会社
  • 2025-700389異議申立 / 2026-03-23 / 訂正認容開閉部材駆動装置および便蓋開閉ユニット
    同じ当事者: 関 豊美子
  • 2025-700662異議申立 / 2026-02-04 / 維持窒化ケイ素基板の製造方法及び窒化ケイ素基材
    同じ当事者: 関 豊美子
  • 2025-700003異議申立 / 2025-11-05 / 訂正認容接合体及びパワーモジュール
    同じ当事者: 関 豊美子
  • 2023-700472異議申立 / 2025-07-30 / 訂正認容パラレルリンク機構およびリンク作動装置
    同じ当事者: NTN株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)447件(113・C04B、121・C04B、536・C04B ほか)
  • 2025-701018異議申立 / 2026-05-29 / 訂正認容窒化ケイ素焼結体、回路基板、および窒化ケイ素焼結体の製造方法
    共通の審決分類: 113・C04B、121・C04B、536・C04B、537・C04B
  • 2025-701141異議申立 / 2026-04-27 / 維持多孔質炭素系材料
    共通の審決分類: 113・C04B、121・C04B、536・C04B、537・C04B
  • 2025-701142異議申立 / 2026-03-24 / 維持フッ素電解装置用炭素電極
    共通の審決分類: 113・C04B、121・C04B、536・C04B、537・C04B
  • 2025-700643異議申立 / 2026-02-25 / 訂正認容接合体
    共通の審決分類: 113・C04B、121・C04B、536・C04B、537・C04B
  • 2025-701100異議申立 / 2026-02-13 / 維持窒化ケイ素焼結体、および、窒化ケイ素焼結体の製造方法
    共通の審決分類: 113・C04B、121・C04B、536・C04B、537・C04B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存