特許異議申立
2023-701334
スプレー製品
- 審判番号
- 2023-701334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-034588
- 登録番号
- 7293434
- 請求日
- 2023年12月19日
- 審決日
- 2024年09月03日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本除蟲菊株式会社
- 【権利者代理人】沖中 仁
- 【権利者代理人】日東 伸二
- 【異議申立人】相澤 幸之助
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 小石 真弓
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.113-YAA(A01N) / P1651.121-YAA(A01N) / P1651.536-YAA(A01N) / P1651.537-YAA(A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7293434号発明「スプレー製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7293434号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7293434号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7293434号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願(特願2022-34588号)は、平成30年4月16日(優先権主張 平成29年4月17日(日本))を出願日とする特願2018-78139号の一部を、令和4年3月7日に新たな特許出願としたものであって、令和5年6月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月19日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和5年12月19日に特許異議申立人 相澤 幸之助(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~4(全請求項)に係る特許に対し、特許異議の申立てがされ、令和6年3月1日付けで当審合議体は特許権者に対して取消理由を通知し、その指定期間内である同年4月25日に特許権者から訂正請求書が提出され、同年同月30日に意見書が提出され、同年6月11日付けで当審合議体は申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定に基づく訂正請求があった旨の通知をし、その指定期間内である同年7月12日に申立人から意見書の提出があったものである。
第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨
令和6年4月25日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、
「特許第7293434号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」
というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正請求書の記載及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、次の訂正事項1-1及び1-2からなるものであると認められる。下線は、訂正による記載の変更箇所を示す。
なお、訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、いずれも請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1-1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~4にそれぞれ対応する訂正後の請求項1~4に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
(訂正事項1-1)
特許請求の範囲の請求項1に
「前記冷感香料は、l-メントール、メンチルアセテート、乳酸メンチル、l-メンチルグリセリルエーテル、メンチルピロリドンカルボン酸、N-エチル-p-メンタンカルボキシアミド、dl-カンファー、イソプレゴール、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、スピラントール、酢酸リナリル、サリチル酸メチル、3-l-メトキシプロパンジオール、7-メチル-3,4-ジヒドロ-(2H)-1,5-ベンゾジオキセピン-3-オン、2,4-ジメチル-3-シクロヘキセニルカルボキシアルデヒド、及びメチル-N-3,7-ジメチル-7-ヒドロキシオクチリデン-アンスラニレートからなる群から選択される少なくとも一つであり、」と記載されているのを、
「前記冷感香料は、l-メントール、メンチルアセテート、dl-カンファー、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、酢酸リナリル、及びサリチル酸メチルからなる群から選択される少なくとも一つであり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する)。
(訂正事項1-2)
特許請求の範囲の請求項1に
「スプレー製品(但し、前記容器に噴射剤が封入されている場合を除く)。」と記載されているのを、
「スプレー製品(但し、前記容器に噴射剤が封入されている場合、及びセルロース繊維を含有する場合を除く)。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する)。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての判断
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1―1による訂正は、訂正前の請求項1に記載されている「冷感香料」が
「l-メントール、メンチルアセテート、乳酸メンチル、l-メンチルグリセリルエーテル、メンチルピロリドンカルボン酸、N-エチル-p-メンタンカルボキシアミド、dl-カンファー、イソプレゴール、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、スピラントール、酢酸リナリル、サリチル酸メチル、3-l-メトキシプロパンジオール、7-メチル-3,4-ジヒドロ-(2H)-1,5-ベンゾジオキセピン-3-オン、2,4-ジメチル-3-シクロヘキセニルカルボキシアルデヒド、及びメチル-N-3,7-ジメチル-7-ヒドロキシオクチリデン-アンスラニレートからなる群から選択される少なくとも一つ」
であったものを、選択肢の一部を削除して
「l-メントール、メンチルアセテート、dl-カンファー、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、酢酸リナリル、及びサリチル酸メチルからなる群から選択される少なくとも一つ」
に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1-1による訂正は、訂正前の冷感香料として挙げられていた成分の一部を削除するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1-1による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項1-2について
訂正事項1-2による訂正は、訂正前の請求項1の「スプレー製品」において、「セルロース繊維を含有する場合を除く」ものであるが、これは、令和6年3月1日付けで通知した取消理由(新規性欠如)に対応して、甲1に記載された事項を、いわゆる「除くクレーム」により除外する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1-2による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~4に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正事項1-1~1-2による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正後の請求項1~4に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
4 訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の本件特許の請求項1~4の記載は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された以下のとおりのものである(下線は、訂正による記載の変更箇所を示す。また、以下、請求項の番号順に「本件訂正発明1」などといい、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。)。
「【請求項1】
害虫忌避成分と、
忌避増強成分としての冷感香料と、
を含む飛翔害虫忌避組成物を含む飛翔害虫忌避液剤を容器に封入してなるスプレー製品であって、
前記害虫忌避成分は、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、イカリジン、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される一つであり、
前記冷感香料は、l-メントール、メンチルアセテート、dl-カンファー、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、酢酸リナリル、及びサリチル酸メチルからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記飛翔害虫忌避液剤における前記害虫忌避成分の濃度は、5w/v%以上であり、
前記害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比が、5:1~1500:1(質量比)に設定されているスプレー製品(但し、前記容器に噴射剤が封入されている場合、及びセルロース繊維を含有する場合を除く)。
【請求項2】
前記害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比が、50:1~1500:1(質量比)に設定されている請求項1に記載のスプレー製品。
【請求項3】
前記忌避増強成分の揮散期間の80%以上の期間に亘って前記害虫忌避成分が揮散するように構成されている請求項1又は2に記載のスプレー製品。
【請求項4】
抗菌成分をさらに含む請求項1~3の何れか一項に記載のスプレー製品。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記(5)に示す甲1号証~甲9号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」~「甲9」ともいう。)を提出し、申立書の全体の記載からみて、本件訂正前の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(4)に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張しているものと認められる。
(1)申立理由1(甲1を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、又は甲1に記載された発明及び甲1~8に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲2を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、又は甲2に記載された発明及び甲1~8に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反・サポート要件違反)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、下記の点で明細書の発明の詳細な説明に記載したものでもなく、また、当業者が実施できるよう明細書に十分記載されたものではないから、請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。
記
・「害虫忌避組成物に冷感香料を配合することで、害虫忌避成分のハチ類等への忌避効果を増強する」という作用効果が、「害虫忌避成分と冷感香料との相加又は相乗効果」を意味するのでなく、「害虫忌避能を有しない冷感香料による害虫忌避成分の忌避効果の増強」という意味であるならば、そのような増強効果は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、そのような効果を奏するように発明を実施することができない(申立理由3-1)。
・仮に上記効果を奏することが可能だとしても、その作用機序が不明であるため、実施例に記載の特定の害虫忌避成分と冷感香料の組み合わせ以外のものについては上記効果が奏されるとは認められない(申立理由3-2)。
(4)申立理由4(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、下記の点で不明確であるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。
記
・請求項1において冷感香料として列挙されている化合物の中には、ヒトに対して冷感を生じさせない化合物が含まれているので不明確である。また、当該請求項を引用する請求項2~4に係る発明も同様である。
・請求項4の「抗菌成分」について、害虫忌避成分あるいは忌避増強成分が抗菌成分でもある場合、当該害虫忌避成分あるいは忌避増強成分を抗菌成分として含んでよいのであれば、請求項1に記載の害虫忌避成分と忌避増強成分との配合比の意味が不明確となる。
(5)証拠方法
甲1号証:特開2016-69294号公報
甲2号証:特開2014-201581号公報
甲3号証:「忌避剤利用とその現状」、におい・かおり環境学会誌、2016年、47巻2号、p.104~111
甲4号証:「テルペン類の生理活性」、環動昆、1993年、5巻3号、p.120~123
甲5号証:「香料と調香の基礎知識」、初版第4刷、2005年、p.276、277、280、281、302~309、316、317、320~323、326~329
甲6号証:「香料入門」、第1版第1刷、2002年、p.239~241、260~262
甲7号証:「抗菌アロマテラピーへの招待」、第1版第2刷、2012年、p.43~47
甲8号証:特開2009-126804号公報
甲9号証:国際公開第2011/007807号
また、令和6年7月12日付け意見書に添付して下記(6)に示す特許権者の進歩性に関する主張への反論のための参考資料1~3を提出している。
(6)参考資料
参考資料1:「衛生害虫を対象とした人体用忌避剤の有効性と安全性について」、ファルマシア、2021年、57巻5号、p.392~395
参考資料2:特開2003-113392号公報
参考資料3:「VII.香料の基礎知識」、繊維製品消費科学、1993年、34巻2号、p.61~65
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~4に係る特許について、当審合議体が令和6年3月1日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、上記請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(甲1を主引用例とした進歩性欠如)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲1、4及び8、並びに引用例A及びBに記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
本件特許の請求項1~4に係る発明のうち、 冷感香料として、実施例においてその効果が示されていないものを用いたものについては、その発明の課題を解決できると当業者が認識できるものではない。
(4)引用文献
甲1:特開2016-69294号公報
甲4:石田清貴、「テルペンの生理活性」、環動昆、第5巻第3号、p120~123、1993年
甲8:特開2009-126804号公報
引用例A:特開2010-132581号公報
引用例B:特開2016-74645号公報
上記、取消理由1~3は、上記1(1)の申立理由1及び申立理由3-2の一部を採用したものである。
第5 当審合議体の判断
当審合議体は、本件の請求項1~4に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、以下の記載事項の摘記において、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
1 取消理由1及び2(甲1を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如)について
(1)引用文献の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
摘記1a:
「【請求項1】
下記の(A)、(B)及び(C)成分を含有することを特徴とする昆虫忌避剤組成物。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロース繊維であって、セルロース分子中の水酸基に置換基が導入されており、置換度が0.01以上0.5以下であり、I型及び/又はII型の結晶構造を有し、アスペクト比が50以上であるセルロース繊維。
(B)昆虫忌避成分
(C)水
【請求項2】
請求項1の昆虫忌避剤組成物を充填してなるスプレー容器入り昆虫忌避剤。」
摘記1b:
「【0005】
しかしながら、このような従来のスプレー式、エアゾール式の昆虫忌避剤にあっては、スプレーされる昆虫忌避剤組成物の粘度が低いため、施用対象物である人体、網戸にスプレーされ付着した昆虫忌避剤組成物が液ダレを起こし、有効に利用されない昆虫忌避剤組成物の割合が多く、忌避剤の薬剤利用効率が悪いため、昆虫忌避効果が低下するという問題があった(特許文献
・・・
【課題を解決するための手段】
・・・
【0011】
本発明の昆虫忌避剤組成物は、ゲル状であってスプレー噴霧可能な昆虫忌避剤の提供が可能となり、スプレー式、エアゾール式の昆虫忌避剤に応用した場合は、施用対象物にスプレーした後の液ダレが発生せず、薬剤利用効率が高いため、昆虫忌避性能が高く、昆虫忌避効果が長時間持続するという優れた効果を発揮する。
・・・
【0016】
本発明の昆虫忌避剤組成物は、特定の(A)セルロース繊維と、(B)昆虫忌避成分と、(C)水とを用いて得ることができる。
【0017】
本発明の(A)セルロース繊維は、数平均繊維径が2nm以上500nm以下であって、セルロース分子中の水酸基に置換基が導入されており、置換度が0.01以上0.5以下であり、I型及び/又はII型の結晶構造を有し、アスペクト比50以上である
上記数平均繊維径は2nm以上500nm以下であり、より好ましくは2nm以上150nm以下である。数平均繊維径が500nmを超えると、セルロース繊維が沈降するため、セルロース繊維を配合することによる機能性を発現することができない。
・・・
【0023】
本発明c(A)セルロース繊維は、アスペクト比が50以上である。より好ましくは100以上である。アスペクト比が50未満の場合、ゲル状組成物がゲル状の性状を保持することが困難となる不具合が生じる。」
摘記1c:
「【0029】
上記(B)昆虫忌避成分としては特に限定されるものではなく、例えば桂皮、樟脳、レモングラス、クローバ、タチジャコウソウ、ジェラニウム、ベルガモント、月桂樹、松、アカモモ、ペニーロイアル、ユーカリおよびインドセンダンなどから得られる精油、抽出液など、ユーカリプトール、α-ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、p-メンテン-3,8-ジオール、テルペノール、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド、2-エチル-1,3-ヘキサジオール、ブチル3,4-ジヒドロキシ-2,2-ジメチル4-オキソ2H-ピラン-6カルボキシレート、n-ヘキシルトリエチレンググリコ-ルモノエーテル、メチル6-n-ベンチル-シクロヘキセン-1-カルボキシレート、ジメチルフタレート、3,7-ジメチル-6-オクテナル、ナフタレン、シトロネール酸、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,3,4,5-ビス(Δ2-ブチレン)テトラハイドロフルフラール、ジ-m-プロピルイソシンコメロネート、2-(4-エトキシフェニル)-2-メチルプロピル-3-フェノキシベンジルエーテル、1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル-2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシレート、1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル-2,2-ジメチル-3-(2'-メチル-1'-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレートなどが挙げられる。これらは、2種類以上を併用しても良い。これらのうち特に好ましいのは、N,N-ジエチル-m-トルアミドである。」
摘記1d:
「【0031】
本発明の昆虫忌避剤組成物には、その効果を妨げない範囲内において、任意の成分を添加しても良い。
【0032】
任意の成分は、次の通りである。すなわち・・・保湿剤防腐剤・・・等が挙げられる。」
摘記1e:
「【0044】
本発明の昆虫忌避剤組成物における、(B)昆虫忌避成分の配合量は、昆虫忌避成分の種類によって異なるが、N,N-ジエチル-m-トルアミドの場合、通常1質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上20質量%以下の範囲内である。1質量%未満では、十分な昆虫忌避効果が得られず、30質量%超添加しても、添加量に見合うだけの昆虫忌避効果が得られない。」
摘記1f:
「【0050】
本発明の昆虫忌避剤組成物をスプレー・噴霧機能を有する容器に充填することにより、スプレー容器入り昆虫忌避剤を得ることが出来る。
スプレー・噴霧機能を有する容器としては、本発明の昆虫忌避剤組成物を容易に充填でき、スプレーとして機能するものであればよいが、汎用性やスプレー精度の高さを考慮すると、特に以下の3つのスプレー容器(1)~(3)であることが好ましい。
【0051】
(1)噴霧可能なポンプ式ノズルを装着したディスペンサー式スプレー容器:本スプレー容器は、大気圧でスプレーでき、加圧ガスなどを必要とせず、かつ容器構造も比較的単純であるので安全性が高く、携帯用に向くスプレー容器である。構造は吸い上げ式のチューブを装着した押し出しポンプ式のノズルと、これを固定し、内容物を充填するねじ式容器からなる。ここでいうディスペンサー式スプレー容器には、スプレー機能を高めるためにポンプ式ノズルの孔径やポンプの1回あたりの押し出し体積等に依存するが、これらの条件は、施用対象物や忌避対象害虫に応じて選定、調整する。」
摘記1g:
「【0054】
本発明の昆虫忌避剤組成物の忌避対象害虫としては、何ら制約はなく、蚊、ブヨ、蝿、サシバエ、ダニ、ノミ、ナンキンムシ、蜂、アブ、蟻、ツツガムシ、ゴキブリ、ムカデ、コガネムシ等が挙げられる。」
摘記1h:
「【実施例】
・・・
【0070】
〔実施例4〕
セルロース繊維1を固形分換算値で1.5質量部(以下「部」と略す)、および、昆虫忌避成分としてN,N-ジエチル-m-トルアミド10部、メントール0.1部、1、3-ブチレングリコール5部、メチルパラベン0.1部を計量し、水を加えて100部とした。次に、真空乳化装置で12000rpmで15分間処理して、昆虫忌避剤組成物を得た。
・・・
【0077】
<昆虫忌避剤組成物のスプレー特性の評価>
実施例1~4、比較例1~4で製造した昆虫忌避剤組成物を、各々、50ml容量のフィンガースプレー容器に25ml充填した。ガラス板を垂直に立て、水平距離で10cmの位置から噴霧し,噴霧状態と付着した液滴の液だれの有無を観察した。下記の基準に従い、スプレー特性(噴霧特性)の評価を行った。
・・・
【0081】
【表1】
[図:0001417637000001.jpg]
」
イ 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
摘記4a:
「蚊については,NISHIMURA et al.(1982)がユーカリプタス・シトリオドーラ油からp-メンタン3,8ジオールに蚊の忌避性のあることを発見した.これには6つの異性体があるが,図7に示した2つの化合物は,ヒトスジシマカ・アカイエカに対して,蚊の忌避剤として良く知られているDeet(N,Nジエチルトルアミド)に匹適する忌避率を示すとされている.」(第122頁の右欄)
ウ 甲8の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
摘記8a:
「【0001】
本発明は、蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、ナンキンムシ等の害虫から人体を守るための人体用害虫忌避剤に関する。
・・・
【0006】
本発明で用いる(a)害虫忌避成分としては、害虫に対して忌避作用あるいは吸血阻害作用を有する合成あるいは天然の各種化合物が挙げられる。例えば、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル[以降、IR3535と称す]、1-メチルプロピル2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシラート[以降、ピカリジンと称す]、p-メンタン-3,8-ジオール、ユーカリプトール、α―ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、カランー3,4-ジオールなどを例示できる。更に天然物としては、桂皮、シトロネラ、レモングラス、クローバ、ベルガモット、月桂樹、ユーカリなどから採れる精油、抽出液などを例示でき、これらの1種または2種以上を選択して用いることができる。上記化合物及び天然物のなかでは、特に、ディート、IR3535、ピカリジン、及びp-メンタン-3,8-ジオールが好ましい。」
エ 引用例Aの記載事項
引用例Aには、以下の事項が記載されている。
摘記Aa:
「【0002】
従来、蚊、蚋、ユスリカ、ハエ類などの飛翔害虫に対して、ディート(N,N-ジエチル-トルアミド)を含む忌避剤を皮膚表面に塗布する方法が汎用されてきたが、ディートは通常の香料成分と比べると揮散性が幾分低いために空間的な忌避効果は期待できない。」
摘記Ab:
「【0008】
一方、飛翔害虫忌避成分としては、ジャスミン油、ネロリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、オレンジ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、シトロネラ油、レモングラス油、シナモン油、ユーカリ油、タイム油等の精油類、及びその組成成分の中から選ばれる2種以上の精油及び、又はその組成成分があげられる。組成成分の具体例として、シトラール、l-メントール、酢酸シトロネリル、シンナミックアルデヒド、テルピネオール、ノニルアルコール、cis-ジャスモン、チモール、リモネン、リナロール、1,8-シネオール、ゲラニオール、α-ピネン等をあげることができるが、これら以外にも、シトロネラール、シトロネロール、ボルネオール、カンフェン、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、ジャスモン酸メチル、フェニルエチルアセテート、p-メンタン-3,8-ジオール、β-ヨノン、酢酸ノピル等を適宜組み合わせてもよいことはもちろんである。」
オ 引用例Bの記載事項
引用例Bには、以下の事項が記載されている。
摘記Ba:
「【0029】
〔ハチ忌避香料成分〕
エアゾール原液のもう一つの主成分であるハチ忌避香料成分は、ハチが嫌う物質を含有する香料成分である。ハチ忌避香料成分を例示すると、・・・安息香酸メチル、及びサリチル酸メチル等が挙げられる。これらのうち、ハチ忌避効果に優れているフェニルエチルアルコール、レモナイル、安息香酸メチル、及びサリチル酸メチルが好ましく使用される。なお、上掲のハチ忌避香料成分は、単独での使用に限定されず、二種以上を組み合わせて使用しても構わない。また、ハチ忌避香料成分の分子構造に光学異性体や幾何異性体が存在する場合は、それらも本発明に含まれる。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の請求項2に係る発明(摘記1a)に対応した実施例4の記載(摘記1h)、及び忌避対象害虫の記載(摘記1g)からみて、実施例4に係る発明として、甲1には、
「蚊、ブヨ、蝿、サシバエ、ダニ、ノミ、ナンキンムシ、蜂、アブ、蟻、ツツガムシ、ゴキブリ、ムカデ、コガネムシ等を忌避対象害虫とする、セルロース繊維1.5質量部(固形分換算値)、昆虫忌避成分であるN,N-ジエチル-m-トルアミド10質量部、メントール0.1質量部、1、3-ブチレングリコール5質量部、メチルパラベン0.1質量部に、水を加えて100質量部とした昆虫忌避剤組成物をフィンガースプレー容器に充填したスプレー。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)本件訂正発明1について
ア 対比
甲1発明の「昆虫忌避成分であるN,N-ジエチル-m-トルアミド」は、ディートと同じ化合物を意味するから(例えば、甲4の摘記4a)、本件訂正発明1の「害虫忌避成分」である「ディート」に相当し、また、甲1発明の「メントール」は、本件訂正発明1の「忌避増強成分としての冷感香料」である「l-メントール」と、「メントール」であるという点で共通する。
甲1発明における「N,N-ジエチル-m-トルアミド」と「メントール」との配合比(質量比)は10質量部:0.1質量部(つまり、100:1)であるから、本件訂正発明1の害虫忌避成分と忌避増強成分との配合比(質量比)である「5:1~1500:1」の範囲に含まれる。
甲1発明の「蚊、ブヨ、蝿、サシバエ、ダニ、ノミ、ナンキンムシ、蜂、アブ、蟻、ツツガムシ、ゴキブリ、ムカデ、コガネムシ等を忌避対象害虫とする・・・昆虫忌避剤組成物」は、害虫を忌避対象とする組成物であり、また、その組成やスプレーで噴霧されることからみて明らかに液状であるから、本件訂正発明1の「飛翔害虫忌避組成物を含む飛翔害虫忌避液剤」に、「害虫忌避組成物を含む害虫忌避液剤」である点で共通する。
甲1発明の「フィンガースプレー容器に充填したスプレー」について、甲1にはフィンガースプレー容器に噴射剤を封入したことが記載されていないこと(摘記1hの【0077】)、及び、一般にフィンガースプレーとは噴射剤を用いない(エアゾールスプレーではない)スプレーを意味すること(例えば、特開2011-219601号公報の【0036】、特開2009-144288号公報の【0022】)を考慮すれば、甲1発明の「フィンガースプレー容器」は、甲1の【0051】に記載された「大気圧でスプレーでき、加圧ガスなどを必要とせず」「構造は吸い上げ式のチューブを装着した押し出しポンプ式のノズルと、これを固定し、内容物を充填するねじ式容器からなる」「携帯用に向くスプレー容器」の具体例であること(つまり、容器に加圧ガス(噴射剤)を封入しないスプレーであること)は明らかであるから、甲1発明の「フィンガースプレー容器に充填したスプレー」は、本件訂正発明1の「容器に封入してなるスプレー製品であって、・・・スプレー製品(但し、前記容器に噴射剤が封入されている場合を除く)」に相当する。
してみると、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「害虫忌避成分と、メントールと、を含む害虫忌避組成物を含む害虫忌避液剤を容器に封入してなるスプレー製品であって、前記害虫忌避成分は、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、イカリジン、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される一つであり、前記害虫忌避成分とメントールとの配合比が、5:1~1500:1(質量比)に設定されているスプレー製品(但し、前記容器に噴射剤が封入されている場合を除く)。」
という点において一致し、以下の点で一応相違する。
相違点1-1:
本件訂正発明1では、飛翔害虫忌避組成物が「忌避増強成分としての冷感香料」である「l-メントール」等を含むのに対して、甲1発明では、組成物が「メントール」を含むものの、それが「忌避増強成分としての冷感香料」であるとはされておらず、また、メントールが「l-メントール」であるか否かが不明な点。
相違点1-2:
本件訂正発明1では、飛翔害虫忌避液剤における害虫忌避成分(ディート等)の濃度が5w/v%以上であるのに対して、甲1発明では、ディートの濃度が100質量部中で10質量部(つまり、10w/w%)であるが、w/v%が不明である点。
相違点1-3:
本件訂正発明1では、スプレー製品が「セルロース繊維を含有する場合を除く」ものであるのに対して、甲1発明では、セルロース繊維を含有する点。
相違点1-4:
本件訂正発明1では、「害虫忌避組成物」が「飛翔害虫」に対するものであるのに対して、甲1発明では、「蚊、ブヨ、蝿、サシバエ、ダニ、ノミ、ナンキンムシ、蜂、アブ、蟻、ツツガムシ、ゴキブリ、ムカデ、コガネムシ等」である点。
イ 判断
(ア)新規性について
事案に鑑み、まず、相違点1-3について検討すると、甲1発明は、「セルロース繊維1.5質量部」を含有するものであるから、上記相違点1-3は、本件訂正発明1と甲1発明との実質的な相違点である。
したがって、相違点1-1、1-2及び1-4を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
(イ)進歩性について
事案に鑑み、まず、相違点1-3について検討すると、甲1は、「従来のスプレー式、エアゾール式の昆虫忌避剤にあっては、スプレーされる昆虫忌避剤組成物の粘度が低いため、施用対象物である人体、網戸にスプレーされ付着した昆虫忌避剤組成物が液ダレを起こす」という課題のもとに、組成物をゲル状としたものであり(摘記1b【0005】)、また、摘記1b(【0017】~【0023】)の記載より、「数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロース繊維であって、セルロース分子中の水酸基に置換基が導入されており、置換度が0.01以上0.5以下であり、I型及び/又はII型の結晶構造を有し、アスペクト比が50以上であるセルロース繊維」を含有させることにより、その課題を解決するものであると解される。
そうすると、甲1発明において、セルロース繊維は必須成分であり、セルロース繊維を含有しないものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、相違点1-1、1-2及び1-4並びに本件訂正発明1の効果について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件訂正発明2~4について
本件訂正発明2~4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て備え、更に限定したものである。
そうすると、本件訂正発明2~4も、上記(1)で説示したのと同様の理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)取消理由1及び2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4に係る特許は、甲1を主引用例とした場合に、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、取消理由1及び2は理由がない。
2 取消理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。
(2)本件訂正発明の課題
本件特許明細書【0007】の記載等からみて、本件訂正発明の課題は「害虫忌避成分の忌避効果を増強させる新たな忌避増強成分を含有する害虫忌避組成物を含む害虫忌避液剤を容器に封入したスプレー製品を提供すること」であると認められる。
(3)検討
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1における、害虫忌避成分、忌避増強成分、それらの濃度や配合比、及びそれらを含む害虫忌避組成物については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0024】~【0031】に、害虫忌避液剤については同【0032】~【0035】に、並びに害虫忌避液剤を容器に封入したスプレー製品とすることについては同【0036】~【0041】において、その説明や技術的意義が記載されている。
そして、本件訂正発明1が、その課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて検討すると、本件訂正発明1は、特定の「害虫忌避成分」と、特定の「忌避増強成分としての冷感香料」を含有するものであるところ、本件特許明細書の実施例においては、本件訂正発明1のスプレー製品が害虫忌避成分の害虫忌避効果を増強させることが示されている。
したがって、本件訂正発明1は発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
具体的には、上記実施例では、本件訂正発明1で挙げられた「冷感香料」のうち、「l-メントール」、「メンチルアセテート」、「dl-カンファー」、「1,4-シネオール」、「ボルネオール」、「酢酸リナリル」及び「サリチル酸メチル」について、害虫忌避組成物に配合することで、配合しない場合よりも忌避効果が高まる(つまり、忌避効果を増強させる)ことが示されている。
また、本件訂正発明1で挙げられた「冷感香料」のうち、「1,8-シネオール」は、忌避効果を有する成分であることが周知であり(例えば、引用例Aの摘記Ab)、害虫忌避組成物に配合することで、配合しない場合よりも忌避効果が高まる(つまり、忌避効果を増強させる)であろうことを当業者が理解できる。
よって、本件訂正発明1で挙げられた「冷感香料」が、「l-メントール」、「メンチルアセテート」、「dl-カンファー」、「1,4-シネオール」、「1,8-シネオール」、「ボルネオール」、「酢酸リナリル」及び「サリチル酸メチル」である場合には、上記課題を解決できることを当業者が理解できるといえる。
そして、本件訂正発明1は、本件訂正により、「冷感香料」が、「l-メントール」、「メンチルアセテート」、「dl-カンファー」、「1,4-シネオール」、「1,8-シネオール」、「ボルネオール」、「酢酸リナリル」及び「サリチル酸メチル」に限定されたので、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなったといえる。
イ 本件訂正発明2~4について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1の害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比の範囲を更に限定し、本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2について「忌避増強成分の揮散期間の80%以上の期間に亘って前記害虫忌避成分が揮散するように構成されている」ことを特定し、本件訂正発明4は、本件訂正発明1~3について「抗菌成分をさらに含む」ことを特定したものである。
そして、本件訂正発明2の配合比については、本件特許明細書【0030】に、本件訂正発明3の輝散特性については同【0016】及び【0017】に、本件訂正発明4の抗菌成分をさらに含む点については、同【0028】及び【0029】に、それぞれその技術的意義も含めて記載されている。
したがって、上記特定に関する記載もあわせてみれば、本件訂正発明2~4も、上記アで説示したのと同様の理由により、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立書の第36頁及び令和6年7月12日付けの意見書第29頁において、取消理由3に関連する申立理由3について、概ね以下の主張をしている。
害虫忌避能を有しない冷感香料が害虫忌避成分の忌避効果を増強することが可能であるとしても、その作用機序が不明であるため、実施例に記載の特定の害虫忌避成分と特定の冷感香料の組み合わせ以外について、冷感香料が害虫忌避成分の忌避効果を増強させることができるとは認められない。
しかしながら、下記のとおり申立人の主張は採用できない。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例を参酌すると、害虫忌避成分が「イカリジン」であり、冷感香料が「l-メントール」、「メンチルアセテート」、「dl-カンファー」、「1,4-シネオール」、「酢酸リナリル」及び「サリチル酸メチル」である場合、害虫忌避成分が「3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル」(IR3535)であって、冷感香料が「l-メントール」及び「ボルネオール」である場合、並びに害虫忌避成分が「ディート」であって、冷感香料が「l-メントール」及び「ボルネオール」である場合については、害虫の忌避率が向上したことが記載されているといえる。
そして、害虫忌避成分と冷感香料の全ての組み合わせについて、害虫忌避効果に関する実験データは記載されていないが、本件訂正によって特定された害虫忌避成分がいずれも周知のものであること、害虫忌避効果に関する、本件特許明細書の一般的記載と整合する実施例の実験データの記載、及び1,8-シネオールが、忌避効果を有する成分であることを総合的に考慮すれば、上記冷感香料の害虫忌避増強効果が、特定の害虫忌避成分の組み合わせにおいてのみ発揮されるものではなく、他の害虫忌避成分についても奏されるであろうことが推認できる。
よって、本件訂正発明で特定される害虫忌避成分及び冷感香料の組み合わせのうち、実施例に記載されていない組み合わせについても、上記発明の詳細な説明の記載から、その課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
(5)取消理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正により、本件訂正発明1~4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、その課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものとなったため、本件特許の請求項1~4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、取消理由3は理由がない。
3 取消理由で採用しなかった申立理由及び申立人の意見書の主張について
(1)申立理由2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)
ア 引用文献に記載された事項
甲2には、次の記載がある。
摘記2a:
「【請求項1】
0.08~25.0重量体積%のN,N-ジエチル-m-トルアミドと、0.003~20.0重量体積%の精油と、水とを含有することを特徴とする衛生害虫忌避剤。
・・・
【請求項3】
前記精油が、グレープフルーツ、ゼラニウム、ローズマリー、アニス、アルモワーズ、イランイラン、オレンジ、カナンガ、カモミール、カルダモン、カユプテ、クラリセージ、クローブ、コリアンダー、サイプレス、サンダルウッド、シダーウッド、シトロネラ、ジュニパーベリー、ジンジャー、スペアミント、セージ、ティートリー、ナツメグ、ネロリ、パインニードル、バジル、パチョリー、パルマローザ、フェンネル、ブラックペッパー、ペパーミント、ペチグレン、ベチバー、ベルガモット、マージョラム、マンダリン、ユーカリレモン、ライム、ラベンダー、レモン、レモングラス、ローズウッド、月桃葉油、桂皮油、薄荷油から選ばれる一又は二以上の植物より抽出された精油であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衛生害虫忌避剤。
【請求項4】
前記精油が、オイゲノール、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、酢酸リナリル、シトラール、シトロネラール、シトロネロール、シンナムアルデヒド、テルピネオール、リナロール、d-リモネン、l-メントール、アネトール、α-ピネン、1,8-シネオールから選ばれる一又は二以上の成分を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の衛生害虫忌避剤。」
摘記2b:
「【0001】
本発明は、シラミなどの衛生害虫が人の血液や体液を吸うことを防止するために使用されるN,N-ジエチル-m-トルアミド(以下、DEETともいう)及び精油を含有してなる衛生害虫忌避剤に関する。
・・・
【0007】
そこで、本発明では、シラミなどの人体に対して作用する衛生害虫に対して、人体、タオル、枕などの寝具などに塗布、散布、噴霧などして付着させる使用方法においても、べたつき感や毛髪に対するごわごわする不快感を与えず、DEETと精油による相乗効果により衛生害虫を忌避することができる衛生害虫忌避剤を提供することを目的とする。」
摘記2c:
「【0011】
本発明において使用されるN,N-ジエチル-m-トルアミドは、DEET(ディート)とも呼ばれる昆虫などに対して忌避効果を有する化合物である。N,N-ジエチル-m-トルアミドの配合割合は、0.08~25.0重量体積%であることが好ましく、0.1~23.0重量体積%であることがさらに好ましく、1.0~20.0重量体積%であることがもっとも好ましい。N,N-ジエチル-m-トルアミドが、この範囲で配合されると、シラミなどの衛生害虫に対して精油との相乗効果により有用な忌避効果を有し、さらに、毛髪、特に頭に対して使用する場合は頭髪がごわごわする感触を生じさせない。
・・・
【0014】
上記原料から得られる精油には、揮発性を有する種々の化合物が含有されている。グレープフルーツには、d-リモネン、ミルセン、α-ピネンなどが含有されている。ゼラニウムには、シトロネロール、ゲラニオール、リナロールなどが含有されている。ローズマリーには、α-ピネン、カンファー、1,8-シネオールなどが含有されている。アニスには、(E)-アネトール、リモネン、アニスアルデヒドなどが含有されている。アルモアーズには、1,8-シネオール、ツジョン、ボルネオール、カンファー、ピネン、アルテミシニン(セスキテルペン・ラクトン)リナロール、ネロールなどが含有されている。イランイランには、リナロール、β-カリオレフィン、ゲルマクレンDなどが含有されている。オレンジには、リモネン、ミルセン、β-ビサボレンなどが含有されている。カナンガには、カリオフィレン、酢酸ゲラニル、テルピネオールなどが含有されている。カモミールには、ファルネセン、カマズレン、α-ビサボロールオキサイドBなどが含有されている。カルダモンには、1,8-シネオール、α-テルピニルアセテート、リモネンなどが含有されている。カユプテには、1,8-シネオール、α-テルピネオール、パラ-シメンなどが含有されている。クラリセージには、酢酸リナリル、リナロール、ゲルマクレンDなどが含有されている。クローブには、オイゲノール、β-カリオフィレン、オイゲニルアセテートなどが含有されている。コリアンダーには、d-リナロール、カンファー、α―ピネンなどが含有されている。サイプレスには、α―ピネン、δ-3-カレンなどが含有されている。サンダルウッドには、シス-α-サンタロール、シス-β-サンタロール、epi-β-サンタロールなどが含有されている。シダーウッドには、ツヨプセン、α-セドレン、セドロールなどが含有されている。シトロネラには、ゲラニオール、リモネン、シトロネロールなどが含有されている。ジュニパーベリーには、α-ピネン、ミルセン、β-ファルネセンなどが含有されている。ジンジャーには、ar-クルクメン、α-ジンジベレン、β-セスキフェランドレンなどが含有されている。スペアミントには、(-)-カルボン、ジヒドロカルボン、1,8-シネオールなどが含有されている。セージには、α-ツヨン、β-ツヨン、カンファーなどが含有されている。ティートリーには、テルピネン-4-オール、γ-テルピネン、α-テルピネンなどが含有されている。ナツメグには、α-ピネン、サビネン、β-ピネンなどが含有されている。ネロリには、リナロール、リモネン、βピネンなどが含有されている。パインニードルには、α-ピネン、β-ピネン、ミルセンなどが含有されている。バジルには、リナロール、メチルチャビコール、β-カリオフィレンなどが含有されている。パチョリーには、パチュリアルコール、α-パチュレン、β-カリオフィレンなどが含有されている。パルマローザには、ゲラニオール、酢酸ゲラニル、リナロールなどが含有されている。フェンネルには、(E)-アネトール、リモネン、メチルチャビコールなどが含有されている。ブラックペッパーには、β-3-カリオフィレン、δ-3-カレン、リモネンなどが含有されている。ペチグレンには、リナリルアセテート、リナロール、α―テルピネオールなどが含有されている。ベチバーには、ベチベロール、ベチベン、α-ベチボールなどが含有されている。ベルガモットには、リモネン、リナリルアセテート、リナロールなどが含有されている。マージョラムには、テルピネン-4-オール、シス-サビネンヒドレート、パラ-シメンなどが含有されている。マンダリンには、リモネン、γ-テルピネン、β-ピネンなどが含有されている。ユーカリレモンには、シトロネラール、シトロネロール、シトラールなどが含有されている。ライムには、リモネン、γ-テルピネン、β-ピネンなどが含有されている。ラベンダーには、酢酸リナリル、リナロール、(Z)-β-オシメンなどが含有されている。レモンには、リモネン、β-ピネン、γ-テルピネンなどが含有されている。レモングラスには、ゲラニアール、シトラール、エレモールなどが含有されている。ローズウッドには、リナロール、α-テルピネオール、シスーリナロールオキサイドなどが含有されている。ペパーミントには、l-メントール、l-メントン、メントフランなどが含有されている。桂皮油には、シンナムアルデヒド、t-2-メトキシシンナムアルデヒド、クマリンなど含有されている。月桃葉油には、1,8-シネオール、テルピネン-4-オール、p―サイメンなどが含有されている。薄荷油には、l-メントール、l-メントン、メントフランなどが含有されている。
【0015】
精油の配合割合は、0.003~~20.0重量体積%であることが好ましく、0.005~15.0重量体積%であることがさらに好ましく、0.01~10.0重量体積%であることがもっとも好ましい。精油が、この範囲で配合されると、シラミなどの衛生害虫に対してN,N-ジエチル-m-トルアミドとの相乗効果により有用な忌避効果を有し、従来例よりも配合割合を大きく減少することができる。」
摘記2d:
「【0032】
<実施例30>
容量が100mlのグリフィンビーカーに、N,N-ジエチル-m-トルアミドを12重量体積%、ゼラニウムから精製された精油を0.1重量体積%、エタノールを40重量%、残余として精製水を加え、均一になるまで攪拌し、100mlの衛生害虫忌避剤を得た。
【0033】
<実施例31~74>
表4~6に記載された各種原料から精製された精油を0.1重量体積%配合したこと以外は、実施例30と同様に衛生害虫忌避剤を得た。
【0034】
<比較例20~57>
表7~9に記載された各種原料から精製された精油を0.1重量体積%配合し、N,N-ジエチル-m-トルアミドを配合しないこと以外は、実施例30と同様に衛生害虫忌避剤を得た。
【0035】
【表4】
[図:0001417637000002.jpg]
【0036】
【表5】
[図:0001417637000003.jpg]
【0037】
【表6】
[図:0001417637000004.jpg]
」
上記甲6には、次の記載がある。
摘記6a:
「
[図:0001417637000005.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
上記摘記2a、2c及び2d(実施例31)の記載からみて、甲2には、請求項4に対応した実施例31に係る発明として、以下の発明が記載されていると認められる。
「衛生害虫に対して忌避効果を有する化合物であるN,N-ジエチル-m-トルアミドを12重量体積%と、ローズマリーから精製された精油を0.1重量体積%と、エタノールを40重量体積%と水とを混合して得られた衛生害虫忌避剤。」
の発明(以下「甲2発明」という。)
ウ 本件訂正発明1について
(ア)対比
甲2発明における「衛生害虫に対して忌避効果を有する化合物」、「N,N-ジエチル-m-トルアミド」及び「12重量体積%」は、本件訂正発明1における「害虫忌避成分」、「ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、イカリジン、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される一つ」及び「5w/v%以上」に相当する。
甲2発明における「衛生害虫忌避剤」は、「害虫忌避組成物を含む害虫忌避液剤」である点で、本件訂正発明1における「飛翔害虫忌避組成物を含む飛翔害虫忌避液剤」に共通する。
甲2発明の衛生害虫忌避剤は、噴射剤やセルロースを含むものではないので、本件訂正発明1における「容器に噴射剤が封入されている場合、及びセルロース繊維を含有する場合を除く」ことに相当する。
よって、本件訂正発明1と甲2発明は、
「害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物を含む害虫忌避液剤であって、
前記害虫忌避成分は、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、イカリジン、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される一つであり、
前記害虫忌避液剤における前記害虫忌避成分の濃度は、5w/v%以上である害虫忌避液剤(但し、容器に噴射剤が封入されている場合、及びセルロース繊維を含有する場合を除く)。」
という点において一致し、次の点で相違する。
相違点2-1:
本件訂正発明1では、「害虫忌避組成物」及び「害虫忌避液剤」が、「飛翔害虫」に対するものであるのに対し、甲2発明では、「衛生害虫」に対するものである点。
相違点2-2:
本件訂正発明1では、「l-メントール、メンチルアセテート、dl-カンファー、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、酢酸リナリル、及びサリチル酸メチルからなる群から選択される少なくとも一つ」である「忌避増強成分の冷感香料」を含むとされているのに対し、甲2発明では、ローズマリーから精製された精油を含む点。
相違点2-3:
本件訂正発明1では、「飛翔害虫忌避液剤」を「容器に封入してなるスプレー製品」としているのに対し、甲2発明では、そのような特定がなされていない点。
相違点2-4:
本件訂正発明1では、「害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比が、5:1~1500:1(質量比)に設定されている」であるのに対し、甲2発明では、そのような特定がなされていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、まず、相違点2-2について検討すると、摘記2c及び摘記6aの記載からみて、ローズマリー精油には、少なくとも「1,8-シネオール」及び「ボルネオール」が含まれると認められる。
また、本件訂正発明1において上記成分を「忌避増強成分の冷感香料」として添加している点については、他の目的で添加しているものと区別ができないから、甲2発明との実質的な相違点とはならない。
よって、相違点2-2は、実質的な相違点ではない。
次に、相違点2-1について検討すると、甲2発明は、摘記2bの記載より、「シラミなどの衛生害虫が人の血液や体液を吸うことを防止するため」になされたものであると認められ、また、摘記2bの「本発明では、シラミなどの人体に対して作用する衛生害虫に対して、人体、タオル、枕などの寝具などに塗布、散布、噴霧などして付着させる使用方法においても・・・ 」との記載からみて、人体やタオル、寝具等に生息する衛生害虫を忌避することを想定しているものと認められる。そして、人体、タオル、枕などに生息する衛生害虫には、シラミ以外の害虫も包含されているとはいえるが、具体的な害虫の記載はなく、上記使用方法の点からも、甲2発明において、人体、タオル、枕などに生息する衛生害虫としては、飛翔害虫は想定されていないと解される。
そうすると、甲2発明を含めて甲2に記載された発明としては、飛翔害虫に対する忌避は想定されていないといえるので、甲2発明の「衛生害虫忌避剤」を「飛翔害虫忌避組成物」あるいは「飛翔害虫忌避液剤」とすることは、当業者が容易になし得るものであるとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、相違点2-3及び2-4、並びに本件訂正発明1の効果を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件訂正発明2~4について
本件訂正発明2~4は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て備え、更に限定したものであるから、上記ウで説示したのと同様の理由により、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 申立人の主張について
申立人は、申立書第33頁及び令和6年7月12日付けの意見書第26頁において、甲2発明の「衛生害虫」には、蚊が含まれるので「飛翔害虫忌避剤」を充足する旨主張している。
しかしながら、「衛生害虫」という語自体には、蚊のような飛翔害虫も包含され得るが、甲2発明においては、上記ウ(イ)で述べたとおり、飛翔害虫は想定されていないので、甲2発明の「衛生害虫忌避剤」が「飛翔害虫忌避組成物」あるいは「飛翔害虫忌避液剤」に相当するとはいえないし、変更する動機付けもないので、甲2発明を、飛翔害虫に対するものとすることが容易になし得たものであるとはいえない。
カ 申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4に係る特許は、甲2を主引例とした場合に、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由2は理由がない。
(2)申立理由3(実施可能要件違反・サポート要件違反)について
ア 実施可能要件違反について
(ア)本件特許明細書の記載について
本件訂正発明のスプレー製品は、本件特許明細書【0008】~【0040】の記載、実施例の記載及び本件特許の出願時の技術常識から当業者が過度な試行錯誤なく製造でき、害虫忌避成分の忌避効果が増強されたスプレー製品として使用できるように記載されているといえる。
(イ)申立人の主張について
申立人は、申立書の第36頁において、申立理由3について、概ね以下の主張をしていると認められる。
a.「害虫忌避組成物に冷感香料を配合することで、害虫忌避成分のハチ類等への忌避効果を増強する」という作用効果が、「害虫忌避能を有しない冷感香料による害虫忌避成分の忌避効果の増強」を意味するのであれば、かかる増強効果は明細書に記載されておらず、技術常識を参酌したとしても、かかる効果を奏するように発明を実施することができない。
b.害虫忌避能を有しない冷感香料が害虫忌避成分の忌避効果を増強することが可能であるとしても、その作用機序が不明であるため、実施例に記載の特定の害虫忌避成分と特定の冷感香料の組み合わせ以外について、冷感香料が害虫忌避成分の忌避効果を増強させることができるとは認められない。
しかしながら、以下のとおり申立人の主張は採用できない。
a.について
「害虫忌避組成物に冷感香料を配合することで、害虫忌避成分のハチ類等への忌避効果を増強する」という作用効果については、冷感香料が害虫忌避能を有するか否かによらず、所定の冷感香料を配合することで、害虫忌避組成物の害虫忌避成分の忌避効果を増強することであると解される。
そして、上記2(3)(4)において述べたとおり、本件特許明細書の実施例の記載を参酌すると、本件訂正発明の液剤について、冷感香料の添加によって上記害虫忌避効果が増強されることが理解できるので、本件訂正発明は、上記効果を奏するように実施することができるものであると認められる。
b.について
上記2(3)(4)において述べたとおり、本件特許明細書の実施例の記載を参酌すると、実施例に記載されている害虫忌避成分と冷感香料の害虫忌避の増強効果から、本件訂正発明で特定される害虫忌避成分と冷感香料の範囲において、実施例に記載されていない組み合わせについても冷感香料の害虫忌避成分の害虫忌避効果を増強できるものであると推認できる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由3は理由がない。
イ サポート要件違反について
(ア)サポート要件の判断について
本件訂正発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、その課題を解決できると認識できる範囲のものである点については、上記2において述べたとおりである。
(イ)申立人の主張について
a.申立人は、上記ア(イ)において記載した主張a.の中で、「害虫忌避組成物に冷感香料を配合することで、害虫忌避成分のハチ類等への忌避効果を増強する」という作用効果が、害虫忌避能を有しない冷感香料による害虫忌避成分の忌避効果の増強を意味するのであれば、かかる増強効果は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、本件訂正発明は、サポート要件を満たしていない旨主張していると解される。
b.申立人は、上記ア(イ)において記載した主張b.の中で、本件訂正発明は、実施例に記載された害虫忌避成分と冷感香料の組み合わせ以外は、害虫忌避成分の忌避効果の増強するという、本件訂正発明の課題を解決できるものではないと主張していると解される。
しかしながら、以下のとおり申立人の主張は採用できない。
a.について
、上記ア(イ)において述べたとおり、上記「害虫忌避成分のハチ類等への忌避効果を増強する」という効果は、冷感香料が害虫忌避能を有するか否かによらず、所定の冷感香料を配合することで、害虫忌避組成物の害虫忌避成分の忌避効果を増強することであると解され、そして、上記2(4)において述べたとおり、本件特許明細書の実施例等の記載を参酌すると、本件訂正発明の液剤について、冷感香料の添加によって上記害虫忌避効果が増強されることが理解できるので、本件訂正発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。
b.について
上記2(3)(4)及び上記ア(イ)において述べたとおり、本件特許明細書の実施例の記載を参酌すると、実施例に記載されている害虫忌避成分と冷感香料の害虫忌避の増強効果から、本件訂正発明で特定される害虫忌避成分と冷感香料の範囲において、実施例に記載されていない組み合わせについても冷感香料が害虫忌避成分の害虫忌避効果を増強する課題を解決できるものであると推認できる。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるので、本件特許の請求項1~4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由3は理由がない。
(3)申立理由4(明確性要件違反)について
申立人は、申立書の第36頁において、概ね下記の主張をしている。
a.本件請求項1に係る発明において、冷感香料として列挙されている化合物の中には、ヒトに対して冷感を生じさせない化合物(例えば、スピンラトール)が含まれており、かかる記載が請求項1及びその従属請求項に係る発明を不明確にしている。
b.本件請求項4に係る発明は、「抗菌成分」を含有するが、例えば、本件請求項1の害虫忌避成分の1つである、p-メンタン-3,8-ジオール及び本件請求項1の構成要件1B(「忌避増強成分としての冷感香料」及び「「冷感香料は、l-メントール、メンチルアセテート、乳酸メンチル、l-メンチル グリセリルエーテル、メンチルピロリドンカルボン酸、N-エチル-p-メンタンカルボ キシアミド、dl-カンファー、イソプレゴール、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、スピラントール、酢酸リナリル、サリチル酸メチル、3-l-メト キシプロパンジオール、7-メチル-3,4-ジヒドロ-(2H)-1,5-ベンゾジオ キセピン-3-オン、2,4-ジメチル-3-シクロヘキセニルカルボキシアルデヒド、 及びメチル-N-3,7-ジメチル-7-ヒドロキシオクチリデン-アンスラニレートからなる群から選択される少なくとも一つであり」)の各種テルペン類は虫に対する忌避活性を有するだけでなく、抗菌活性も有する。
その場合、本件請求項1の構成要件1F(「前記害虫忌避成分と前記忌避増強成分との配合比が、5:1~1500:1(質量比)に設定されている」)の配合比の条件を満たした後、これらの各種テルペン類を抗菌成分としてさらに含み、その結果本件請求項4に係る発明は、本件請求項1の構成要件1Fの化合物の配合比を逸脱した態様を含むのか、あるいは、「抗菌成分(としてのテルペン類)」をさらに含んだ後でも本件請求項1の構成要件1Fの配合比の条件を満たす必要があるのか不明である。
しかしながら、下記のとおり申立人の主張は採用できない。
a.について
申立人が挙げているスピンラトールは、訂正により冷感香料の選択肢から削除された。
そして、他に列挙されている化合物の中に、冷感を生じさせないと解される物質は見当たらないので、「冷感香料は、l-メントール、メンチルアセテート、dl-カンファー、1,4-シネオール、1,8-シネオール、ボルネオール、酢酸リナリル、及びサリチル酸メチルからなる群から選択される少なくとも一つであり」との記載は明確である。
b.について
本件訂正発明4の「抗菌成分」は、「さらに含む」のであるから、請求項1において特定される害虫忌避成分あるいは冷感香料とは、異なる成分であることを想定されていることは明らかである。
そうすると、仮に、害虫忌避成分あるいは冷感香料に該当する成分が抗菌性を有していたとしても、本件訂正発明4において、当該成分は、害虫忌避成分又は冷感香料として含まれるのであって、抗菌成分としては含まれることはない。
よって、申立人の主張する配合比についての不明確な点はない。
したがって、本件請求項4に係る発明は、その発明の範囲は特定できるので、特許請求の範囲を理解する上で、不明確であるとは認められはない。
以上のとおり、本件特許の請求項1~4の記載は、明確であって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由4は理由がない。
(4)申立人の意見書の主張について
申立人は、令和6年7月12日付けの意見書において、甲1~甲8に基づく進歩性欠如及び訂正の請求に関する意見として、参考資料1~3を提示して、本件特許明細書に記載された実施例のデータ及び特許権者が提出した乙第1号証に記載のデータに関して、害虫忌避組成物の処理範囲や、冷感香料の揮散時間や、忌避率の数値の計算方法に関して、疑義がある旨主張している。
しかしながら、乙第1号証で特許権者が立証しようとする、冷感香料と害虫忌避成分とを組み合わせた場合の忌避効果が、相加効果ではなく相乗効果である旨の内容や妥当性はともかく、本件特許明細書には、害虫忌避成分と冷感香料の併用による忌避効果の増強について記載されているところ、本件特許明細書の記載に明確な不合理な点があるわけでなく、また、上記1で検討したとおり、乙第1号証の記載のデータを参酌せずとも、進歩性の観点から、甲1及び甲2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものではないので、仮に、本件特許明細書の実施例における実験手法について、細部まで明示されておらず直ちに理解できない点があったり、乙第1号証の実験データに疑義があることをもって、取消理由2についての上記判断に影響を及ぼすものとは解されない。
第6 むすび
取消理由通知書に記載した取消理由、並びに、申立人の特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701334