特許異議申立
2023-700088
衣料害虫用防除組成物、並びに、当該組成物を用いた衣料消臭方法及び衣料防虫消臭方法
- 審判番号
- 2023-700088
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-556017
- 登録番号
- 7109578
- 請求日
- 2023年01月27日
- 審決日
- 2024年02月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本除蟲菊株式会社
- 【権利者代理人】沖中 仁
- 【権利者代理人】日東 伸二
- 【異議申立人】山本 純司
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 齊藤 真由美
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1651.113-YAA(A01N) / P1651.121-YAA(A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7109578号発明「衣料害虫用防除組成物、並びに、当該組成物を用いた衣料消臭方法及び衣料防虫消臭方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7109578号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4、6、7〕について訂正することを認める。
特許第7109578号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7109578号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願(特願2020-556017号)は、2019年(令和元年)10月31日(優先権主張 2018年(平成30年)11月6日(以下「本件優先日」という)、日本国)を国際出願日として出願され、令和4年7月21日に特許権の設定の登録がされ、同年同月29日にその特許掲載公報が発行され、令和5年1月27日に、その請求項1~5に係る特許に対し、特許異議申立人 山本 純司 (以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 6月26日付け 取消理由通知
同年 8月18日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 9月 1日付け 訂正請求があった旨の通知
同年10月 5日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正請求について
1 訂正の請求の趣旨及び訂正の内容
令和5年8月18日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は、
「特許第7109578号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3、4、6、7について訂正することを求める。」
というものであり、その訂正の内容は、訂正請求書の記載及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、以下の訂正事項1及び2からなるものである。
なお、下線は訂正による記載の変更箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、」
と記載されているのを、
「前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
(訂正事項2-1)
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1~3の何れか一項に記載の衣料害虫用防除組成物を用いた衣料消臭方法であって、前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料消臭方法。」
とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「衣料害虫用防除組成物を用いた衣料消臭方法であって、前記衣料害虫用防除組成物は、防虫成分と香料成分とを含有し、前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであり、前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料消臭方法。」
に訂正する。
(訂正事項2-2)
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1~3の何れか一項に記載の衣料害虫用防除組成物を用いた衣料消臭方法であって、前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料消臭方法。」
とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式へ改めた請求項4を引用して
「前記香料成分の含有量が1~20質量%である請求項4に記載の衣料消臭方法。」
と記載し、新たに請求項6とする。
(訂正事項2-3)
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1~3の何れか一項に記載の衣料害虫用防除組成物を用いた衣料消臭方法であって、前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料消臭方法。」
とあるうち、請求項3を引用するものについて、独立形式へ改めた請求項4又は当該請求項4を引用する請求項6を引用して
「前記香料成分(a)と前記防虫成分(b)との配合比(a/b)が、重量比として、0.1~2.0である請求項4又は6に記載の衣料消臭方法。」
と記載し、新たに請求項7とする。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、それぞれ請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4、6及び7は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」である。
3 別の訂正単位とする求めについて
本件訂正請求における訂正後の請求項4、6及び7については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがされている。そして、訂正後の請求項6及び7は、それぞれ訂正後の請求項4の記載を直接的又は間接的に引用している。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項である訂正後の請求項1~3について、また、一群の請求項である訂正後の請求項4、6及び7ついて、当該請求をするものである。
4 訂正事項についての訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る訂正は、請求項1において、「香料成分」として択一的に記載されている選択肢の中から、「リリアール」及び「サリチル酸ベンジル」を削除するものであり、請求項1に記載の「香料成分」の選択肢を限定するものである。
訂正後の請求項2及び3は、訂正後の請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用しているから、訂正事項1は、訂正後の請求項2及び3においても「香料成分」の選択肢を限定するものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項1に係る訂正は、前記アで述べたとおり、訂正前の請求項1において、「香料成分」として択一的に記載されている選択肢の中から、「リリアール」及び「サリチル酸ベンジル」を削除し、請求項1に記載の「香料成分」の選択肢を限定するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
前記ア及びイで述べたとおり、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「香料成分」の選択肢を限定するものであって、本件明細書等に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3の何れか一項を引用するものであるところ、引用先の請求項ごとにそれぞれ分離した上で、
(訂正事項2-1)に係る訂正は、訂正前の請求項4において訂正前の請求項1を引用するものを、訂正前の請求項1の発明特定事項の全てを変更することなく、請求項1の記載を引用しない形式(独立形式)に書き換えるものであり、
(訂正事項2-2)に係る訂正は、訂正前の請求項4において訂正前の請求項2を引用するものを、独立形式に書き換えた請求項4を引用する、新たな請求項6とするものであり、
(訂正事項2-3)に係る訂正は、訂正前の請求項4において訂正前の請求項3を引用するものを、独立形式に書き換えた請求項4を引用する、新たな請求項7とするものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、(訂正事項2-1)~(訂正事項2-3)に係る訂正全体として、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無、及び、特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項2に係る訂正は、前記アで述べたとおり、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3の何れか一項を引用するものであるところ、引用する訂正前の請求項1~3のそれぞれの発明特定事項を変更することなく独立形式の請求項4並びに同項を引用する請求項6及び請求項7に分離するという、記載形式を変更するものに過ぎないから、本件明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2に係る訂正は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件特許異議申立事件においては、本件訂正前の全ての請求項である請求項1~5に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1~4、6及び7に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
5 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
そして、前記2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1~4、6及び7は特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」であるが、前記3で述べたとおり、本件訂正請求においては、訂正後の請求項4、6及び7について、「別の訂正単位とする求め」がされている。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4、6、7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(下線は本件訂正による記載の変更箇所を示す。)
「【請求項1】
防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物であって、
前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである衣料害虫用防除組成物。
【請求項2】
前記香料成分の含有量が1~20質量%である請求項1に記載の衣料害虫用防除組成物。
【請求項3】
前記香料成分(a)と前記防虫成分(b)との配合比(a/b)が、重量比として、0.1~2.0である請求項1又は2に記載の衣料害虫用防除組成物。
【請求項4】
衣料害虫用防除組成物を用いた衣料消臭方法であって、
前記衣料害虫用防除組成物は、防虫成分と香料成分とを含有し、
前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであり、
前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料消臭方法。
【請求項5】
衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法であって、
収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程と、
前記衣料に十分な防虫効果及び消臭効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程と、
を包含し、
前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである衣料防虫消臭方法。
【請求項6】
前記香料成分の含有量が1~20質量%である請求項4に記載の衣料消臭方法。
【請求項7】
前記香料成分(a)と前記防虫成分(b)との配合比(a/b)が、重量比として、0.1~2.0である請求項4又は6に記載の衣料消臭方法。」
第4 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要及び証拠方法
申立人は、証拠方法として、下記(1)のとおり、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付した甲第1号証~甲第10号証(以下「甲1」~「甲10」という。)及び令和5年10月5日提出の意見書に添付した参考資料1~参考資料11(以下「資1」~「資11」という。)を提出し、申立書の記載全体からみて、下記(2)に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張しているものと認められる。
なお、ここでいう「請求項1」等は、本件訂正前の請求項1等である。
(1)証拠方法
甲1:特開2015-38055号公報
甲2:特開2015-20968号公報
甲3:特開2013-136524号公報
甲4:特開2014-136685号公報
甲5:特開2014-31362号公報
甲6:特開2013-14574号公報
甲7:国際公開第2009/107813号
甲8:特開2001-199807号公報
甲9:特開2016-29035号公報
甲10:特開2014-185087号公報
資1:特開2017-93520号公報
資2:特開2015-107919号公報
資3:Chemical Bookウェブサイト、「サリチル酸ベンジル」(CAS番号)「118-58-1」、公開日:不明、印刷日:2022年12月19日、[online]、インターネットURL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB3484524.htm
資4:Chemical Bookウェブサイト、「安息香酸ベンジル」(CAS番号)「120-51-4」、公開日:不明、印刷日:2022年12月19日、[online]、インターネットURL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB9152283.htm
資5:エステー株式会社ホームページ、「さわやかに香る防虫剤「かおりムシューダ」を新発売パッケージデザインに佐野研二郎氏 (MR_DESIGN)を起用」、公開日:2010年8月4日、[online]、インターネットURL:https://www.st-c.co.jp/news/newsrelease/2010/20100804_000320.html
資6:エステー株式会社ホームページ、「収納空間の気になる男性のニオイをしっかり消臭「かおりムシューダ1年間有効」<フレッシュグリーンの香り>を新発売」、公開日:2016年1月27日、[online]、インターネットURL:https://www.st-c.co.jp/news/newsrelease/2016/20160127_003614.html
資7:薬事日報ウェブサイト、「【新製品】「ピレパラアース」から洗いたての香りの新製品 アース製薬」、公開日:2012年8月27日、[online]、インターネットURL:https://www.yakuji.co.jp/entry28010.html
資8:白元アース株式会社ホームページ、「おしゃれなクリスタル容器の香り付き防虫剤『ミセスロイドクリスタル ジュエルブーケの香り』『ミセスロイドクリスタル ブリリアントソープの香り』新発売」、公開日:2015年7月17日、[online]、インターネットURL:http://www.hakugen-earth.co.jp/topics/2015/20150717_263.html
資9:白元アース株式会社ホームページ、「防虫剤のミセスロイドがパワーアップして新登場!無香タイプの『ミセスロイド』、芳香タイプの『フローラルミセスロイド』新発売」、公開日:2015年7月17日、[online]、インターネットURL:http://www.hakugen-earth.co.jp/topics/2015/20150717_260.html
資10:エステー株式会社ホームページ、「悪臭や気になるニオイを消臭する方法について教えてください。」、公開日:2013年4月30日、[online]、インターネットURL:https://products.st-c.co.jp/plus/question/9823/
資11:人間工学、Vol.26、No.5、1990年、p.271-282
(2)申立理由の概要
ア 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)
請求項1~5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲2~甲4に記載された技術的事項、並びに、甲5及び甲6に記載された周知技術に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
イ 申立理由2(甲6を主引例とする進歩性欠如)
請求項1~5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6に記載された発明及び甲7に記載された技術的事項に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
ウ 申立理由3(甲8を主引例とする進歩性欠如)
請求項1及び3~5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8に記載された発明、甲2~甲4に記載された技術的事項、並びに、甲5及び甲6に記載された周知技術に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び3~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
エ 申立理由4(甲9を主引例とする進歩性欠如)
請求項1、2、4及び5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲9に記載された発明、甲2~甲4に記載された技術的事項、並びに、甲5及び甲6に記載された周知技術に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
オ 申立理由5(甲10を主引例とする進歩性欠如)
請求項1~5に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲10に記載された発明及び甲7に記載された技術的事項に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~3に係る特許について、令和5年6月26日付け取消理由通知書により当審合議体が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(新規性欠如)
請求項1~3に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8及び甲9に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
請求項1~3に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8及び甲9に記載された発明に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
なお、上記取消理由2(進歩性欠如)は、前記申立理由3のうち請求項1及び3に係る特許を対象とするもの、及び、前記申立理由4のうち請求項1及び2に係る特許を対象とするもの、に対応するものである。
第5 当審合議体の判断
当審合議体は、本件訂正後の請求項1~7に係る特許は、前記取消理由1及び2、並びに、前記申立理由1~5によっては、取り消すことはできないものと判断する。
その理由の詳細は以下のとおりである。
1 取消理由についての判断
当審合議体が通知した取消理由2において、副引例として用いていない文献(甲1~甲7及び甲10)についても、ここで副引例として検討した上での判断を併せて説示する。
(1)甲1~甲10の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
なお、摘記中の下線は、特に注釈がない限り当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。以下、他の文献の摘記についても同様である。
甲1a
「【請求項1】
樹脂を含む担体に、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分と、250~400℃の範囲に沸点を有する香料成分とを担持させた香り付き防虫剤。
・・・
【請求項6】
前記ピレスロイド系防虫成分は、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、及びエムペントリンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1~5の何れか一項に記載の香り付き防虫剤。
【請求項7】
前記香料成分は、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、インドールアロマ、インドール、メチルセドリルケトン、メチルβ-ナフチルケトン、メチルジヒドロジャスモネート、ローズフェノン、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、α-イオノン、β-イオノン、ジフェニルオキシド、ダマセノン、フェニルアセティックアシッド、ダマスコンα、ダマスコンβ、及びダマスコンδからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1~6の何れか一項に記載の香り付き防虫剤。」
甲1b
「【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分を長期間に亘って揮散し続けることができ、さらに、当該ピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とを連動させることが可能な香り付き防虫剤、香り付き防虫器、及び香り付き防虫剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る香り付き防虫剤の特徴構成は、
樹脂を含む担体に、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分と、250~400℃の範囲に沸点を有する香料成分とを担持させたことにある。
・・・
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る香り付き防虫剤に含まれる香料成分は、250~400℃の範囲に沸点を有しており、比較的揮散し難いものであるため、芳香が長期に亘って持続する。上記香料成分と、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分(以下、単に「ピレスロイド系防虫成分」とする。)とを組み合わせることにより、ピレスロイド系防虫成分の持続期間全体に亘って香料成分を揮散し続けることが可能となる。従って、ピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とを連動させることが可能となる。
また、本発明に係る香り付き防虫剤には、220~500℃の範囲に沸点を有するパラフィン系炭化水素、酸部分の炭素数とアルコール部分の炭素数との合計が12~20である脂肪族カルボン酸エステル化合物、及び/又はグリコールエーテル系化合物が含まれているため、ピレスロイド系防虫成分及び香料成分を担体に担持させるにあたり、ピレスロイド系防虫成分及び香料成分を満遍なく分散させることができる。そのため、担体の部位によってピレスロイド系防虫成分及び香料成分の揮散状態にばらつきが生じることがなく、担体全体からピレスロイド系防虫成分及び香料成分を略均等に揮散させることができる。また、担体からのピレスロイド系防虫成分及び香料成分の揮散状態のコントロール性も良好なものとなる。その結果、処理空間に効果的にピレスロイド系防虫成分及び香料成分を十分且つ適切に行き渡らせることが可能となる。担体としてネット状の編物を使用すれば、ピレスロイド系防虫成分及び香料成分の揮散状態を良好なものとすることができる。ここで、220~500℃の範囲に沸点を有するパラフィン系炭化水素を含む場合、香料成分の沸点とパラフィン系炭化水素の沸点との差が50℃以下であるため、香料成分の揮散量を適切に調整しながら、長期間に亘って揮散させることができ、所望の期間に亘り芳香が持続する。また、香料成分とパラフィン系炭化水素、酸部分の炭素数とアルコール部分の炭素数との合計が12~20である脂肪族カルボン酸エステル化合物、及び/又はグリコールエーテル系化合物とを共存させることにより、香料成分は担体に担持されても成分分解等が生じず、香料成分の安定性が向上する。そのため、香料成分の芳香効果の安定性が確保され、理想の期間に亘って香料成分を揮散し、芳香を持続させることができる。
さらに、上記のようにピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とが連動しているため、使用者は香り付き防虫剤の使用開始と同時に香料成分の芳香を感知し、香り付き防虫剤の使用実感を得ることができる。そして、使用者が芳香を感知することができなくなると、香り付き防虫剤が寿命に近づいたことが容易に認識できるので、防虫剤の使用を終了したり、新たな商品に交換する目安となる。
一方、芳香には一般に人をリラックスさせる効果があり、本発明の香り付き防虫剤を構成する香料成分においても、同様の効果を期待できる。そのため、防虫剤でありながら、芳香によるリラックス効果も使用者に与えることができる。
本発明に係る香り付き防虫器、及び香り付き防虫剤の製造方法についても、上記と同様の優れた作用効果を奏する。」
甲1c
「【0024】
初めに、本明細書では、ピレスロイド系防虫成分による駆除効果や忌避効果を「防虫効果」と称して説明する。この防虫効果は、飛翔害虫(衣料害虫を含む)等の害虫の幼虫及び成虫を殺虫する効果の他、害虫を寄せ付けない忌避効果、住居や衣類等への侵入防止効果、衣類等の食害防止効果等を包摂する総合的な効果を意味する。本発明が対象とする害虫としては、例えば、蚊、ブユ、ユスリカ、チョウバエ、ガ、ヨコバイ、カメムシ、羽アリ等が挙げられる。
・・・
【0026】
(A)ピレスロイド系防虫成分
ピレスロイド系防虫成分は、常温で揮散性を有するものが使用される。ここで、「常温で揮散性を有する」とは、25℃において、0.001Pa以上の蒸気圧を示すことを意味し、揮散量として0.005mg/hr以上であれば、常温で揮散性を有するとみなすことができる。そのようなピレスロイド系防虫成分として、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、及びエムペントリン等が挙げられる。これらのピレスロイド系防虫成分は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物の形態で使用しても構わない。また、これらのピレスロイド系防虫成分には、不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらを単独又は任意の混合物として使用することも可能である。ちなみに、ピレスロイド系防虫成分の沸点は、大気圧下で300~400℃程度である。」
甲1d
「【実施例】
【0061】
本発明の香り付き防虫剤の効果を確認するため、防虫(忌避)効果及び芳香効果の持続性試験を実施した。PETからなる繊維(単繊維を28~42本撚り合わせたもの)に捲縮加工を施し、得られた繊維を用いてレース編みによるネット状の担体を作製した。この担体に薬剤を担持させて香り付き防虫剤を作製し、これを住居のベランダに吊るして、防虫(忌避)効果及び芳香効果を3ヵ月間追跡した。実施例1~9、及び比較例1~4の香り付き防虫剤の配合を以下に示す。
【0062】
〔実施例1〕
ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.8g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:10%)に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55-S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例1の香り付き防虫剤を得た。
・・・
【0077】
実施例1~11の香り付き防虫剤による防虫(忌避)効果及び芳香効果の持続性試験の結果を表1に示す。・・・表1、及び表2において、防虫(忌避)効果は、害虫の忌避率により評価した。○は忌避率75%以上、△は忌避率50%以上75%未満、×は忌避率50%未満である。芳香効果は、10人のパネラーによる官能試験により評価した。○は芳香をはっきりと感じたもの、△は芳香がやや弱いと感じたもの、×は芳香を感じなかったものである。
【0078】
【表1】
[図:0001411264000001.jpg]
」
イ 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
甲2a
「【0013】
<香り付き薬剤揮散体の担持成分>
本発明の香り付き薬剤揮散体においては、(A)常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と、(B)250~400℃の範囲に沸点を有する香料成分を、それぞれ別々の担体に担持させて各担持体が形成される。以下、各成分について説明する。
【0014】
(A-1)ピレスロイド系防虫成分
ピレスロイド系防虫成分は、常温で揮散性を有するものが使用される。ここで、「常温で揮散性を有する」とは、25℃において、0.001Pa以上の蒸気圧を示すことを意味し、揮散量として0.005mg/hr以上であれば、常温で揮散性を有するとみなすことができる。そのようなピレスロイド系防虫成分として、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、及びエムペントリン等が挙げられる。」
甲2b
「【0031】
本発明で用いる香料成分担持体には、上記香料成分に加えて、幾分揮散性の高い飛翔害虫忌避香料組成物を配合することも可能である。ここで、飛翔害虫忌避香料組成物は、飛翔害虫忌避香料として、(a)一般式(1)
CH3-COO-R1 ・・・ (1)
(式中、R1は炭素数が6~12のアルコール残基を示す。)で表される酢酸エステル化合物;及び/又は
一般式(2)
R2-CH2-COO-CH2-CH=CH2 ・・・ (2)
(式中、R2は炭素数が4~7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロ アルコキシ基、又はフェノキシ基を示す。)で表されるアリルエステル化合物から選ばれる1種又は2種以上の香料成分と、
(b)モノテルペン系アルコール又は炭素数が10の芳香族アルコールから選ばれる1種又は2種以上の香料成分とを含有する。
・・・
【0034】
上記の(b)モノテルペン系アルコール又は炭素数が10の芳香族アルコールとしては、例えば、テルピネオール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、テトラヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、オイゲノール、及びp-メンタン-3,8-ジオール等が挙げられる。
・・・
【0036】
また、本発明で用いる香料成分担持体には、飛翔害虫忌避香料として、上記以外の香料成分、例えば、リモネン等のモノテルペン系炭化水素、メントン、カルボン、プレゴン、カンファー、ダマスコン等のモノテルペン系ケトン、シトラール、シトロネラール、ネラール、ペリラアルデヒド等のモノテルペン系アルデヒド、シンナミルフォーメート、ゲラニルフォーメート等のエステル化合物、フェニルエチルアルコールを添加しても構わない。」
ウ 甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
甲3a
「【0011】
本発明の液体式芳香性飛翔害虫忌避材の一般的な形態としては、図1に示したように、飛翔害虫忌避香料成分と揮散助剤からなる液体香料剤6を適当な容器1に入れ、開放した容器の一部に貼り付けた液体香料剤透過性フィルム2から、液体香料剤6が揮散するように構成される。
【0012】
従来から昆虫、ダニ等の害虫類に多様な活性を示す天然又は合成香料成分は多く知られてきた。
例えば、アルコール系香料ではシンナミルアルコール、リナロール、テルピネオール、シトロネロール、ジヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、アルデヒド系香料ではベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、ヘリオトロピン、バニリン、シトラール、シトロネラール、デカナール、エーテル系香料ではイソアネトール、dl-ローズオキサイド、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタール、リナロールオキサイド、エステル系香料ではプロピオン酸プロピル、酢酸イソアミル、酢酸シス-3-ヘキセニル、ヘプタン酸メチル、酢酸ベンジル、蟻酸フェニルエチル、ヘキサン酸アリル、酢酸スチラリル、酢酸フェニルエチル、ヘプタン酸アリル、酢酸アニシル、オクタン酸アリル、
イソアミルオキシ酢酸アリル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、酢酸リナリル、酢酸イソボルニル、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、酢酸2-ターシャリーブチルシクロヘキシル、酢酸4-ターシャリーブチルシクロヘキシル、シクロヘキシルオキシ酢酸アリル、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、フェニル酢酸フェニルエチル、ケトン系香料としてはラズベリーケトン、カロン、βイオノン、αダマスコン、カシュメラン、イソ・イー・スーパー等が知られている。」
甲3b
「【0019】
・・・
また、常温揮散性のピレスロイド系殺虫成分、例えば、エムペントリン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2,2-ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレート[トランスフルトリン]、4-メチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート[プロフルトリン]、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシレート[メトフルトリン]などを添加すれば防虫・忌避効果の向上を図ることが可能となる。」
エ 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
甲4a
「【0008】
本発明の衣料用防虫剤は、防虫活性成分として、
カリクソール(エチル-2-メチル-6-ペンチル-4-オキソシクロヘキシ-2-エンカルボキシレート:以下、化合物1と称する)、
ヘディオン(ジヒドロジャスモン酸メチル:以下、化合物2と称する)、
イソEスーパー(2-アセチル-2,3,8,8-テトラメチルオクタリン:以下、化合物3と称する)、
3,7-ジメチル-1-オクタノール(以下、化合物4と称する)、
4-イソプロピルシクロヘキサノール(apo patchone:以下、化合物5と称する)、
2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトニトリル(peonile:化合物6と称する)
エストラゴール(以下、化合物7と称する)、
3,7-ジメチル-2,6-ノナジエンニトリル(lemonile:以下、化合物8と称する)及び
フェニルヘキサノール(3-メチル-5-フェニル-1-ペンタノール:以下、化合物9と称す)
から選ばれる1種又は2種以上の香料成分を含有することを特徴とする。
・・・
【0011】
本発明の衣料用防虫剤には、上記防虫活性成分ほかに、常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分や別の防虫活性のある香料成分を配合し、防虫効果を高めると共に、香りの調香に供することもできる。
常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分としては、エンペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等が挙げられる。」
オ 甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
甲5a
「【0008】
本発明の薬剤揮散体は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を揮散させて芳香を伴った防虫効果を発現せしめるとともに、この芳香の消失を前記薬剤揮散体の使用終期と連動させたのでその有用性は極めて高い。そして、この薬剤揮散体を用いた飛翔害虫の防虫方法も顕著な実用性を有するものである。
・・・
【0010】
本発明では、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分と沸点が250℃以上400℃以下の持続性香料成分を同一の樹脂担体に保持させて薬剤揮散体を調製し、通常この薬剤揮散体は開口部を有するプラスチック容器に収納して用いられる。
前者の常温揮散性ピレスロイド系防虫成分としては、常温において空気中に揮散する性質を有し、25℃における蒸気圧が0.001Pa以上0.1Pa以下程度であるものが好ましい。具体的には、揮散性能と安全性等の点から、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、及びエムペントリンの少なくとも1種があげられる。」
カ 甲6の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
甲6a
「【請求項1】
(a)防虫香料成分として、以下の式(I):
CH3-COO-R ・・・ (I)
(R:炭素数が6~12のアルコール残基)
で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、
(b)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分と、
を含む衣料用防虫剤。
・・・
【請求項4】
前記ピレスロイド系殺虫成分は、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びテラレスリンからなる群から選択される少なくとも一種のピレスロイド系化合物である請求項1~3の何れか一項に記載の衣料用防虫剤。
・・・
【請求項6】
(c)第二防虫香料成分として、テルペン化合物を含む請求項1~5の何れか一項に記載の衣料用防虫剤。
【請求項7】
(d)前記防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分として、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、及びオレンジャークリスタルからなる群から選択される少なくとも一種の香料を含む請求項1~6の何れか一項に記載の衣料用防虫剤。」
甲6b
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エムペントリン等のピレスロイド系殺虫成分は、使用を開始すると徐々に揮散し、通常の使用では6~12ヵ月程度に亘って殺虫効果が持続する。一方、香料成分として使用されるテルペン系化合物は、ピレスロイド系殺虫成分に比べて使用開始時からの揮散性が高い。このため、特許文献1及び2のように、ピレスロイド系殺虫成分とテルペン系化合物とを併用した場合、ピレスロイド系殺虫成分は十分な殺虫効果を発揮するまでにしばらく時間を要するのに対し、テルペン系化合物は使用初期段階から揮散するため時間の経過とともに防虫効果が低下する。その結果、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って増強された殺虫効果及び防虫効果(ピレスロイド系殺虫成分とテルペン系化合物との相乗効果)を発揮し続けることは困難である。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って増強された殺虫効果及び防虫効果を発揮し続けることが可能な芳香性を備えた衣料用防虫剤を提供することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0016】
本発明の衣料用防虫剤は、防虫香料成分として特定の酢酸エステル化合物と常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分とを組み合わせることにより、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って防虫香料成分を作用させることができる。その結果、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果により、増強された効果を長期に亘って発揮し続けることが可能となる。また、防虫香料成分を配合することで、長期に亘って芳香性が付与された衣料用防虫剤として商品の付加価値が高まる。また、第二防虫香料成分としてテルペン化合物を配合することで、芳香性がさらに高まるとともに、特に使用初期段階の防虫効果が増強される。さらに、持続性香料成分を配合することで、増強された防虫効果及び芳香性をさらに長続きさせることが可能となる。ピレスロイド系殺虫成分と組み合わせる酢酸エステル化合物、テルペン化合物、及び持続性香料成分は、人畜に対する安全性が高いため、本発明の衣料用防虫剤は家庭用等に好適であり、実用性に優れている。」
甲6c
「【0020】
本発明の衣料用防虫剤は、(a)防虫香料成分として、以下の式(I):
CH3-COO-R ・・・ (I)
(R:炭素数が6~12のアルコール残基)
で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、(b)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分とを含むように調製される。さらに、本発明の衣料用防虫剤は、防虫香料成分及びピレスロイド系殺虫成分に加えて、(c)第二防虫香料成分、及び(d)防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分を含むように調製され得る。以下、各成分について説明する。
【0021】
(a)防虫香料成分
防虫香料成分として使用する前記式(I)で表される特定の酢酸エステル化合物は、後述のピレスロイド系殺虫成分と化学構造的に類似のエステル化合物である。酢酸エステル化合物の揮散性は、後述の第二防虫香料成分として添加し得るテルペン化合物の揮散性と概して同等程度であり、且つピレスロイド系殺虫成分の揮散性より大きいという特性を有する。このため、酢酸エステル化合物は、ピレスロイド系殺虫成分と協同して、使用初期段階から数ヵ月以上の長期に亘って相乗効果による増強された防虫効果を発揮することが可能となる。また、衣料用防虫剤の持続期間中は、酢酸エステル化合物によって芳香性が高められる。従って、防虫香料成分を配合することで、長期に亘って芳香性が付与された衣料用防虫剤として商品の付加価値が高まる。
・・・
【0023】
(b)ピレスロイド系殺虫成分
上記防虫香料成分と組み合わせて使用されるピレスロイド系殺虫成分としては、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びテラレスリンなどが挙げられる。これらのピレスロイド系殺虫成分は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。また、これらのピレスロイド系殺虫成分には、不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらを単独又は任意の混合物として使用することも可能である。
【0024】
(c)第二防虫香料成分
本発明の衣料用防虫剤は、使用初期段階における防虫効果をさらに増強するために、第二防虫香料成分として、テルペン化合物を含有し得る。上述の防虫香料成分にテルペン化合物を併用すると、使用初期段階の防虫効果が長時間持続することが本発明者らによって確認された。また、テルペン化合物は調香剤としての機能も有しており、このため、より長期に亘って芳香性を高めることができる。テルペン化合物としては、テルピネオール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール等のテルペン系アルコール、シトロネラール、シトラール、ジメチルオクタナール等のテルペン系アルデヒド、カルボン、ジヒドロカルボン、プレゴン、メントン等のテルペン系ケトンなどが挙げられる。・・・・・
【0025】
(d)持続性香料成分
本発明の衣料用防虫剤は、防虫効果及び芳香の持続性をさらに高めるために、持続性香料成分を含有し得る。上述の防虫香料成分及び第二防虫香料成分に加えて、持続性香料成分を使用すると、使用後期段階における防虫効果の減退が少なくなり、6~およそ12ヵ月の長期の使用にも耐え得る衣料用防虫剤を実現することができる。持続性香料成分としては、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、オレンジャークリスタルなどが挙げられる。これらの持続性香料成分は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。」
甲6d
「【実施例】
【0037】
本発明の衣料用防虫剤の効果を確認するため、液状物として調製した衣料用防虫剤を面積11cm2、厚さ1mmのパルプ紙に含浸させて防虫マットを作製した。この防虫マットを使用し、以下の食害防止効力試験、及び芳香の持続性試験を実施した。
【0038】
〔食害防止効力試験〕
容量50Lの衣装箱を準備し、その内部に供試用の防虫マットを載置し、衣装箱を蓋で密封した。この衣装箱を、温度27℃、湿度65%の室内で保管し、食害防止効力試験に供した。試験では、開始直後、1ヶ月後、3ヶ月後の各時点において衣装箱の蓋を開け、防虫マットの10cm上方に、30日令で体重30~35mg/頭のイガ幼虫20頭と羊毛試験布(2cm×2cm,40~45mg)とを入れたカゴを設置し、7日間放置した後、カゴから羊毛試験布を回収し、食害率(食害量/元の重量×100)を測定するとともに、死虫率を求めた。
【0039】
〔芳香の持続試験〕
食害防止効力試験において衣装箱の蓋を開けた際に、試験開始時の防虫マットに相当する標準サンプルからの芳香の変化を、モニター10人による官能試験により評価した。評価基準は、8人以上が芳香の変化を感じない場合を「○」、3~5人が芳香の変化を感じる場合を「△」、6人以上がはっきりと芳香の変化を感じる場合を「×」とした。
・・・
【0047】
<実施例10~17>
実施例10~17として、本発明に従い、(a)防虫香料成分としての前記式(I)で表される酢酸エステル化合物、(b)ピレスロイド系殺虫成分、及び(d)持続性香料成分を含有した衣料用防虫剤を調製した。これらのうち、実施例10及び13~16については、(c)第二防虫香料成分としてのテルペン化合物、及び/又は他成分をさらに含有するものとして調製した。・・・実施例10~17、及び比較例5~8で使用した衣料用防虫剤の組成を表3に示す。
【0048】
【表3】
[図:0001411264000002.jpg]
【0049】
実施例10~17、及び比較例5~8の衣料用防虫剤による食害防止効力試験、及び芳香の持続性試験の各結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
[図:0001411264000003.jpg]
【0051】
実施例10~17の結果より、本発明の衣料用防虫剤は、試験開始直後から8ヵ月後まで、高い食害防止効果が見られるとともに、死虫率も最終的に100%に達していた。つまり、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と防虫香料成分による防虫効果との相乗効果に加え、持続性香料成分による持続効果も重なって、増強された効果をより長期に亘って発揮し続けることが確認された。また、芳香の持続性についても、試験開始直後から8ヵ月後まで、顕著な減退は見られなかった。さらに、本発明の衣料用防虫剤は、使用初期段階における防虫効果及び芳香性が増強されることが確認された。実施例10~17では、防虫香料成分である酢酸エステル化合物とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((a):(b))が重量比で0.02:1~0.4:1の範囲において、持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((d):(b))が重量比で0.02:1~0.4:1の範囲において、実用的な効果が見られた。」
キ 甲7の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
甲7a
「[0010] 即ち、本発明の芳香剤組成物は、閉鎖された収納空間内で香気を均質且つ一定の強さで保持することができ、更には収納空間の開閉を繰り返しても収納空間内に均質且つ一定の強さの香気を満たすことが可能である。而して、本発明の芳香剤組成物は、引き出しや下駄箱等の収納空間内に設置されることにより、これらの収納空間に所望の香気を満たし、更には内部の収納物に対して所望の付香を施すこともできる。
・・・
[0011]I. 芳香剤組成物(当審注:下線は原文のとおり。)
・・・
[0012] 本発明の芳香剤組成物に含まれる香料としては、天然香料、天然香料から分離された単品香料、合成された単品香料、及びこれらの調合香料のいずれであってもよく、従来公知の香料を使用することができる。具体的には、・・・、フェニルエチルアルコール、・・・、テオラヒドロゲラニオール、・・・、ヘリオナール、・・・、サリチル酸シス-3-ヘキセニル、サリチル酸ベンジル、・・・、ジヒドロジャスモン酸メチル、・・・、ラズベリーケトン、・・・、シクロペンタデカノリド、・・・等が例示される。
・・・
[0014] これらの香料の中でも、好ましくは常圧での沸点が50~360℃、好ましくは70~340℃、更に好ましくは90~310℃のものが例示される。なお、調合香料の場合には、ここでいう沸点は、調合香料自体の沸点を指し、必ずしも調合香料中の各単品香料が上記沸点範囲を充足していることを必要とするものではない。これらの香料を使用することによって、閉鎖された収納空間内に放たれる香気を均質且つ一定の強さにするという本発明の効果を一層顕著に奏させることが可能になる。
・・・
[0016] 本発明の芳香剤組成物中の香料の配合割合については、使用する香料の種類、期待される芳香効果等に応じて異なるため、一律に規定することはできないが、一例として、該芳香剤組成物の総重量に対して香料が総量で10~85重量%、好ましくは25~85重量%、更に好ましくは45~75重量%となる割合を挙げることができる。」
甲7b
「[0032] 本発明の芳香剤組成物に配合可能な防虫成分としては、具体的には、ピレスロイド系化合物、ナフタレン系化合物、パラジクロロベンゼン系化合物、樟脳等が挙げられる。
・・・
[0037] また、本発明の芳香剤組成物は、収納空間内の収納物に対して香気を付与することができるので、衣類の収納空間に設置することによって、収納されている衣類に対して、快適な香気を付香することができる。このような本発明の効果に鑑みれば、本発明の芳香剤組成物が使用される収納空間の好適な一例として、衣類の収納空間が例示される。」
ク 甲8の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
甲8a
「【請求項10】 少なくとも1個の環と、該環の外に少なくとも1個の酸素原子、窒素原子または硫黄原子から選ばれた原子をもち、かつ、炭素数が15以下である化合物、該化合物と同様の揮散性を有する1種または2種以上の有香成分およびピレスロイド系化合物を含有する繊維害虫卵孵化抑制剤組成物。
【請求項11】 有香成分の沸点が約230℃ないし約300℃である請求項第10項記載の繊維害虫卵孵化抑制剤組成物。
【請求項12】 繊維製品に、繊維害虫の卵孵化抑制に必要な量の請求項第1項ないし第6項の何れかの項記載の繊維害虫卵孵化抑制剤、または請求項第7項ないし第11項の何れかの項記載の繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用することを特徴とする防虫方法。」
甲8b
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】防虫剤としてのパラジクロルベンゼンやナフタリンは、特有の強い香りを有しており、その香りを抑制されることが求められている。
また、防虫作用を有しながら、今までに防虫剤として知られていなかった物質の提供も求められている。
【0004】
【課題を解決するための手段】ところで、本発明者らは繊維害虫用防虫剤の作用機序を明らかにすべく、繊維害虫の幼虫の他、卵および成虫についての作用を詳細に検討していたところ、繊維害虫防虫剤として利用される代表的な化合物には、防虫剤として使用されるより低い使用濃度において卵孵化抑制という全く新しい作用を有することを見出した。そして、このような繊維害虫の卵孵化抑制作用を利用すれば、卵から幼虫への孵化を防ぐことができるので、従来の防虫剤の使用濃度より低い濃度で繊維製品の食害を防止しうる新しい防虫剤となし得る可能性があることに気付いた。そこで、更に、種々の種類の化合物について広く検索を行った結果、繊維害虫の孵化抑制作用を有する多くの物質を見出し、本発明を完成した。また、これらの物質は、有香成分やピレスロイド系化合物等と組み合わせることにより、よりすぐれた組成物が得られることを知り、本発明を完成した。
【0005】すなわち本発明の目的は、少なくとも1個の環と、該環の外に少なくとも1個の酸素原子、窒素原子または硫黄原子から選ばれた原子をもち、かつ、炭素数が15以下である化合物を有効成分として含有する繊維害虫卵孵化抑制剤である。
【0006】また本発明の別の目的は、上記の化合物に、該化合物と同様の揮散性を有する1種または2種以上の有香成分および/またはピレスロイド系化合物を含有する繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を提供することである。
【0007】更に本発明の他の別の目的は、繊維製品に、繊維害虫の卵孵化抑制に必要な量の上記繊維害虫卵孵化抑制剤または繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用する防虫方法を提供することである。」
甲8c
「【0014】本発明の繊維害虫卵孵化抑制剤の有効成分として用いられる上記化合物の具体的な例として、以下の化合物を挙げることができる。アルコールとしては、・・・フェノキシエタノール、・・・等を例示することができる。
・・・
【0034】本発明においては、有効成分である上記化合物(以下、「本発明化合物」という)の二種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの化合物の多くは、天然物に含まれている成分であり、香料としても用いられている。また、一般的に穏やかな香りや快い香りをもち、ピレスロイド系化合物に比して安価である。
・・・
【0036】本発明化合物のうち、特に好ましいもののひとつは、2-フェノキシエタノールである。この化合物は、香りが特に穏やかであり、相対的に安価であり、比較的少量で卵孵化抑制効果を十分発揮することができる。
・・・
【0038】第二の利用法は、本発明化合物と少量の有香成分を併用して、快い香りを感知できる微香の防虫剤とすることである。・・・
【0039】第二の利用法において採用しうる有香成分の例としては、炭化水素、アルコール、フェノールおよびその誘導体、アルデヒド、アセタール、ケトン、エーテル、有機酸、ラクトン、エステル等や窒素、硫黄を含有する化合物が挙げられる。
【0040】例えば、2-フェノキシエタノールと組み合わせるのに適する有香成分としては、次の化合物が挙げられる。
・・・
【0043】アルデヒドの具体例としては・・・、リリアール、・・・等が挙げられる。
・・・
【0052】有香成分としては、1種類だけを用いることも2種以上を用いることもできる。有香成分の量は、本化合物に対して、0.5%ないし20%、好ましくは1%ないし10%である。
・・・
【0054】すなわち、ピレスロイド系化合物として、エムペントリン、ノックスリン等の比較的揮散性の大きいものを用い、両化合物の揮散性の違いを相殺するように両者の比率を選べば、全使用期間を通して両化合物を作用させることができる。
・・・
【0056】第四の利用法は、第二の利用法と同様に本発明化合物と、該化合物と同様の揮散性を有する有香成分を併用するのに加え、さらにピレスロイド系化合物を併用する方法である。 例えば、本発明化合物として前記の2-フェノキシエタノールを採用すれば、第二の利用法と同様に防虫効果を快い香りで実感することができるとともに、第三の利用法と同様に特定の時期の防虫効果を増強することができる。」
甲8d
「【0068】実施例 83、84
卵孵化抑制実用試験:所定量の試験物質を含浸させた濾紙を片面ポリエチレン片面ポリエステルのフィルムに包み、防虫剤とした。市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、約80%の容量の羊毛製の衣類を入れ、その上に1辺4cmの正方形の試験用サージと防虫剤を置いた。衣裳ケースの外寸は、巾43cm、奥行き64cm、高さ23cmであり、正面引き出し上部と外枠の間に5mmの隙間がある。衣裳ケースを25℃、60%RHの恒温恒湿室に入れて、7日間保った後、産卵後1日のイガの卵50個を衣裳ケース内のサージの上に置いた。さらに12日間同温湿度に保持した後、衣裳ケースを開け、孵化した卵の数を数えて、孵化率を算出した。孵化していた場合には、孵化直後の若齢幼虫の生死を判別し、これより卵の通算の生存率を算出した。・・・
・・・
【0074】実施例 87
繊維害虫卵孵化抑制剤組成物(2):次の組成で繊維害虫卵孵化抑制剤組成物(防虫剤)を調製した。
(組 成)
2-フェノキシエタノール 93重量部
エムペントリン 7重量部
【0075】本組成物 1.0gを含浸させた濾紙をポリエステルシートの上に置き、中央に開口部をもつポリエステル不織布で蓋をして、防虫剤とした。この防虫剤2個を使い、実施例83と同様にして卵孵化実用試験を行った結果、孵化率、生存率はともに0%であった。
【0076】実施例 88
繊維害虫卵孵化抑制剤組成物(3):次の組成で繊維害虫卵孵化抑制剤組成物(防虫剤)を調製した。
(組 成)
2-フェノキシエタノール 90重量部
エムペントリン 7重量部
酢酸デシル 1重量部
L-カルボン 1重量部
リリアール 1重量部
【0077】本組成物 1.0gを含浸させた濾紙をポリエステルシートの上に置き、中央に開口部をもつポリエステル不織布で蓋をして、防虫剤とした。実施例87と同様にして卵孵化実用試験を行った結果、孵化率、生存率はともに0%であった。」
ケ 甲9の記載事項
甲9には、以下の事項が記載されている。
甲9a
「【請求項1】
常温揮散性のピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制するための吸着抑制剤であって、
構造中に、炭素-炭素不飽和結合を1以上有する6員環および水酸基をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物からなることを特徴とする吸着抑制剤。
【請求項2】
前記化合物が、ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド、サリチル酸ベンジルおよび4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンカルボアルデヒドからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の吸着抑制剤。
【請求項3】
常温揮散性のピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制する方法であって、請求項1又は請求項2に記載の吸着抑制剤を前記ピレスロイド系化合物と一緒に用いることを特徴とする吸着抑制方法。
【請求項4】
常温揮散性のピレスロイド系化合物と、構造中に、炭素-炭素不飽和結合を1以上有する6員環および水酸基をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物からなる吸着抑制剤とを含有する害虫防除組成物を含浸させた含浸体を、オレフィン樹脂を含有する樹脂組成物から形成された容器に収容してなることを特徴とする害虫防除製品。」
甲9b
「【0003】
従来用いられている防虫剤の薬剤としては、例えば、パラジクロロベンゼン、カンファー、ナフタレン等が挙げられる。しかし、これらの薬剤は特有の臭いがあるため、最近ではこれらに代わり、臭気の少ない常温揮散性のピレスロイド系化合物が広く使用されている。このような防虫剤は、ピレスロイド系化合物を含浸させた含浸体を、樹脂製容器に収容し、該容器に設けられた揮散口からピレスロイド系化合物を揮散させるように構成されている。また樹脂製容器の材料には、主にポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂が用いられている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
・・・
【0008】
したがって本発明の目的は、常温揮散性のピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制し、特にオレフィン系樹脂へのピレスロイド系化合物の吸着を抑制し得るピレスロイド系化合物の樹脂への吸着抑制剤および吸着抑制方法並びに害虫防除製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、常温揮発性のピレスロイド系化合物と特定の化合物とを組み合わせることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸着抑制剤は、常温揮散性のピレスロイド系化合物と一緒に用いた際に、該ピレスロイド系化合物が樹脂に吸着するのを十分に抑制することができる。このため、本発明の吸着抑制剤を含有した害虫防除組成物は、樹脂製容器に保存されているときにもピレスロイド系化合物の樹脂への吸着が抑制されるため、使用期間中の十分な防虫効果を発揮することができる。
また、本発明の吸着抑制方法は、上記本発明の吸着抑制剤をピレスロイド系化合物と一緒に用いるので、常温揮散性のピレスロイド系化合物が樹脂に吸着するのを抑制し、長期間にわたり十分な防虫効果を発揮することができる。
また、本発明の害虫防除製品は、常温揮散性のピレスロイド系化合物と、上記本発明の吸着抑制剤とを含有する害虫防除組成物を含浸させた含浸体を、樹脂組成物から形成された容器に収容してなるので、有効成分である常温揮散性のピレスロイド系化合物が樹脂を含有する樹脂組成物に吸着するのを抑制し、長期間にわたり十分な防虫効果を発揮することができる。
・・・
【0013】
以下、本発明の実施形態をさらに詳しく説明する。
本発明のピレスロイド系化合物の樹脂への吸着抑制剤(以下、単に「本発明の吸着抑制剤」ともいう)は、構造式中に、炭素-炭素不飽和結合を1以上有する6員環および水酸基をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物(以下、「特定化合物」と言うことがある)からなるものである。
・・・
【0015】
特定化合物の具体例として、例えば、下記式(1)で表されるヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド、下記式(2)で表されるサリチル酸ベンジル、下記式(3)で表される4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンカルボアルデヒド等が挙げられる。下記式(1)の特定化合物は、商品名LYRAL(IFF社製)として容易に入手することができる。
・・・
【0017】
【化2】
[図:0001411264000004.jpg]
・・・
【0019】
本発明の吸着抑制剤が樹脂への吸着抑制を対象とするピレスロイド系化合物は、常温で揮散するピレスロイド系化合物であれば特に限定されず、例えば、エムペントリン、トランスフルスリン、メトフルトリン、プロフルトリン、テトラメスリン等が挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。・・・」
甲9c
「【0023】
害虫防除組成物としては、ピレスロイド系化合物および特定化合物以外にも、従来公知の各種添加剤を必要に応じて配合することができる。
例えば、BHT、BHA等の安定化剤、フローラル、ブーケ等の香料、青色、黄色、赤色等の色素、光触媒、活性炭、炭等の脱臭剤、竹、柿、グレープフルーツ等の抽出物、銀や銅化合物等の除菌剤、パラフィン、ナフテン等の有機溶剤、終点判別機能等を併用してもよい。
【0024】
香料に含有する香料成分は、例えば、γ-ウンデカラクトン、ガラクソリド、イソEスーパー、クマリン、イオノン、フェニルエチルアルコール、フェニルヘキサノール、ムスクケトン、ローズフェノン、ジヒドロミルセノール、ヘキシルアセテート、イソペンチルアセテート、スチラリルアセテート、ブチルシクロヘキシルアセテート、ベンジルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルベンゾエート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、メチルヒドロシンナミックアルデヒド、青葉アルコール、青葉アルデヒド、リリアール、シトロネロール、テルピネオール、オイゲノール、リナロール、ゲラニオール、オレンジオイル、ヘディオンなどが挙げられる。
・・・
【0029】
本発明の害虫防除製品は、使用開始前は気体非透過性のフィルムに密封保存され、使用時にはこれを開封し取り出した後、洋服ダンス、引き出し、衣装ケース等の収納容器内に設置することにより使用することができる。本発明の害虫防除製品は、ピレスロイド系化合物の樹脂製容器への吸着が抑制されつつ、長期間にわたり効率的に揮散し、イガ、コイガ、カツオブシムシなどの衣類害虫の幼虫、成虫の被害から衣類などを保護することができる。」
甲9d
「【0031】
<試験例1>
(実施例1~5、比較例1)
下記表1に記載した各成分を、室温下(約25℃)で撹拌下、混合・溶解し、実施例1~5および比較例1の害虫防除組成物を調製した。
図1に示すように、得られた害虫防除組成物を、ポリエステル製不織布1(長手方向130mm、短手方向64mm、厚み0.46mm、目付け量170g/m2)に含浸させ、この不織布を、前面および背面に揮散用開口部3を設けたポリプロピレン(PP)製容器2の内部に収容し、検体を作製した。・・・
【0032】
得られた2個の検体を、長手方向220mm×短手方向150mmのガゼット袋(構成:ポリエチレンテレフタレート12μm/ポリサンドラミネート15μm/アルミニウム7μm/無延伸ポリプロピレン30μm;無延伸ポリプロピレン(PP)で形成された層が最内層である。)に入れ、50℃で2週間、段ボール(容量27.8L)内で保管した。
2週間経過後、不織布におけるエムペントリンの残存量およびPP製容器におけるエムペントリンの吸着量をガスクロマトグラフィー分析により評価した。
なお試験は4回繰り返して行い、その平均値を算出した。また、PP製容器に対するエムペントリンの吸着量の改善率を以下の式から算出した。それぞれの結果を表2に示す。
【0033】
【数1】
[図:0001411264000005.jpg]
【0034】
【表1】
[図:0001411264000006.jpg]
【0035】
【表2】
[図:0001411264000007.jpg]
【0036】
表2の結果から、実施例1~5は、本発明の特定化合物を用いていない比較例1に比べ、常温揮散性のピレスロイド系化合物(エムペントリン)が樹脂製容器に吸着するのを抑制できることがわかった。よって、エムペントリンによる防虫効果を長期間にわたり十分に発揮できると考えられる。」
コ 甲10の記載事項
甲10には、以下の事項が記載されている。
甲10a
「【請求項1】
下記の一般式 化1
【化1】
[図:0001411264000008.jpg]
(式中、R1はフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、スチリル基、フェノキシメチル基を、
R2はフェニル基、ベンジル基、炭素数1ないし10のアルキル基または炭素数3ないし10のアルケニル基を示す。)
で表されるエステル化合物を少なくとも1種を含有することを特徴とする衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤。
・・・
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤が処理されたシート状担体により形成され、かつ一部に開放部を有してもよい略閉塞状の袋体に衣類を保管させる衣類の防虫方法。」
甲10b
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらに記載の薬剤や方法でも、幼虫の発生を抑制する効果は必ずしも満足のいくものとは言えず、依然として検討の余地があった。
したがって、衣類の害虫被害を防ぐには、幼虫を完全に駆除する、幼虫の発生を完全に抑えることが重要ではあるが、衣類の害虫被害、特に幼虫による食害から衣類を保護するには、必ずしもそれらは必須ではなく、要は衣類に害虫を寄せ付けず侵入させなければ、あるいは僅かに侵入したとしても摂食活動を阻害できれば被害は防ぐことができると考えた。
【0006】
そこで、本発明は、衣類害虫を効果的に衣類に寄せ付けさせない、すなわち衣類への侵入を阻害し、さらには摂食活動を阻害することにより、衣類害虫による被害、特に幼虫による食害から衣類を保護することができる衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤と、該侵入阻害剤および該摂食阻害剤を用いて衣類の害虫被害を防止する方法とを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ある種のエステル化合物が、衣類害虫の幼虫に対して優れた侵入阻害および摂食阻害作用を発揮し、食害から衣類を保護しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、幼虫の衣類への侵入を阻害し、たとえ侵入したとしても摂食活性を低下させ、幼虫から衣類を食害される機会を防ぐことができる。また、本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤は、揮散性の香料成分でもあり、使用に際しては加熱等の特別な揮散手段を必要とせず、常温揮散により環境中に放出させて効果を発揮させることが可能であり、使用に際して衣類に著しい薬品臭が染み付くといった悪影響を及ぼすこともなく、逆に適度に心地よい香りを衣類に賦香することができ、消費者の嗜好にも安全性にも優れている。」
甲10c
「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤は、ベンゼン環を有するある種のエステル化合物を有効成分として用い、様々な衣類の保管場所に処理することにより、または処理した担体を衣類の保管場所に設置し、常温揮散させることにより、さらには衣類に直接処理することにより効果的に幼虫から衣類の食害被害を防ぐことができる。
【0012】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤における有効成分としては、次一般式 化3で表されるものを挙げることができる。
・・・
【0013】
これらの具体例としては、例えば、シス-3-ヘキセニルサリチレート、サリチル酸メチル、サリチル酸プロピル、サリチル酸ヘキシル、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、安息香酸エチル、安息香酸イソアミル、安息香酸イソブチル、安息香酸オクチル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸イソプロピル、ケイ皮酸オクチル、フェノキシ酢酸アリル、フェニル酢酸p-クレジル、2-(シクロヘキシルオキシ)酢酸アリル等を挙げることができ、中でも、シス-3-ヘキセニルサリチレート、サリチル酸ヘキシル、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、安息香酸イソアミル、安息香酸イソブチル、ケイ皮酸エチル、フェノキシ酢酸アリル、フェニル酢酸p-クレジルが特に好ましい。
・・・
【0014】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤には、上記活性成分ほかに、常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分や別の防虫活性のある香料成分を配合し、防虫効果を高めると共に、香りの調香に供することもできる。
常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分としては、エンペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等が挙げられる。」
甲10d
「【0029】
〔実施例:防虫カバーの調製〕
幅約35cm、高さ約140cmのポリプロピレン製前面片及び同形のポリプロピレン製後面片を、重なり部の幅が約10cmとなるように重ねて、幅約60cm、高さ約140cmの前部シートを形成した。一方、前部シートと同形で、侵入阻害活性成分としてシス-3-ヘキセニルサリチレートを、2g/m2の割合で含有させたポリプロピレンスパンボンド(不織布)製後部シートを作成した。両シートを重ね合わせ、両シートの側辺周縁部と下辺周縁部を融着し、一方、重なり部上端を含む上辺周縁部(約12cm)を開放状態として本発明防虫カバーを得た。同様にして薬剤無処理の防虫カバーも作製しコントロールとした。いずれの防虫カバーにも、幅40cm、高さ80cmのウールモスリン生地を収納した後、横方向に約半分の長さに二つ折りし、ポリプロピレン製のフタ付衣装ケース(幅約45cm×奥行約72.5cm×高さ約16.5cm)内に収納した。防虫カバーの開放部の有る上辺周縁部前に、供試虫であるコイガ幼虫40匹置いた後に蓋を閉め、コイガ幼虫の防虫カバー内への24時間後の侵入数を計数し、下記式に基づき侵入阻害率を算出し、さらには下記基準でウール布の食害の程度を観察、評価した。
侵入率(%)=防虫カバー内にいる虫数/供試虫数 ×100
侵入阻害率(%)=(無処理品での侵入率-薬剤処理品での侵入率)/無処理品での侵入率 ×100
(食害程度の評価基準)
-:食害なし
+:ウールモスリン生地の毛足が削がれたような食害が認められるが貫通してはいない
++:食害が認められ貫通孔がある
+++:甚大な食害が認められ、複数または大きな貫通孔がある
結果を表2に示した。
【0030】
【表2】
[図:0001411264000009.jpg]
【0031】
試験の結果、薬剤を処理しないコントロールに比べ、本発明化合物を処理した不織布にて製造した防虫剤カバーは、幼虫がカバー内に侵入するのを顕著に防いでおり、高い侵入阻害活性を示した。また侵入した幼虫による食害痕が認められなかったことから、摂食阻害効果も認められた。」
(2)取消理由1(新規性欠如)及び取消理由2(進歩性欠如)について
ア 甲8を主引例とする場合
(ア)甲8に記載された発明
甲8には、請求項10に、「少なくとも1個の環と、該環の外に少なくとも1個の酸素原子、窒素原子または硫黄原子から選ばれた原子をもち、かつ、炭素数が15以下である化合物、該化合物と同様の揮散性を有する1種または2種以上の有香成分およびピレスロイド系化合物を含有する繊維害虫卵孵化抑制剤組成物。」が記載されており(甲8a)、当該「繊維害虫卵孵化抑制剤」の具体例として、実施例88(甲8d)が記載されている。
そうすると、甲8には、実施例88の繊維害虫卵孵化抑制剤の発明として、次の発明(以下「甲8発明1」)という。)が記載されているといえる。
甲8発明1:
「2-フェノキシエタノール90重量部、エムペントリン7重量部、酢酸デシル1重量部、L-カルボン1重量部、リリアール1重量部の組成で調製された繊維害虫卵孵化抑制剤組成物。」
(イ)本件発明1について
a 本件発明1と甲8発明1との対比
(a)甲8発明1における「エムペントリン」は、ピレスロイド系化合物の防虫成分であるから(甲8c)、甲8発明1における「エムペントリン」と、本件発明1における「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」こととは、「防虫成分」が「エンペントリン」である限りにおいて一致する。
(b)甲8発明1における「リリアール」は、有香成分であるから(甲8c)、甲8発明1における「リリアール」と、本件発明1における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることと、「香料成分」である限りにおいて一致する。
(c)甲8発明1における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」について、「繊維」製品は衣料を含むものである(甲8b)。
また、甲8発明1の「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、害虫卵の孵化を抑制する成分である「2-フェノキシエタノール」の他に、ピレスロイド系化合物の防虫成分である「エムペントリン」を含むものであって、特定時期の防虫効果を増強することができるものである(甲8c)。
そうすると、甲8発明1における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、衣料害虫用の防除組成物といえるから、本件発明1における「衣料害虫用防除組成物」に相当する。
(d)以上によれば、本件発明1と甲8発明1とは、
「防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物であって、
前記防虫成分は、エンペントリンである衣料害虫用防除組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点8-1
香料成分が、本件発明1では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るのに対し、甲8発明1では、「リリアール」である点。
相違点8-2
防虫成分が、本件発明1では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する」とされているのに対し、甲8発明1では、そのような特定はされていない点。
b 相違点の判断
(a)新規性について
相違点8-1について検討する。
甲8発明1における有香成分である「リリアール」は、本件発明1における香料成分である「エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものと、化合物として、異なるものであるから、相違点8-1は、実質的な相違点である。
したがって、相違点8-2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲8に記載された発明であるとはいえない。
(b)進歩性について
相違点8-1について検討する。
甲8における繊維害虫卵孵化抑制剤組成物の有効成分である2-フェノキシエタノールと組み合わせるのに適する有香成分として、甲8の段落【0039】~【0052】(甲8c)には、甲8発明1で用いられている「リリアール」を含め、極めて数多くの化合物が同列に例示され、本件発明1の香料成分の選択肢に含まれるシクロペンタデカノリドも挙げられている。
しかしながら、このように甲8に有香成分として極めて数多くの化合物が同例に例示されている中から、あえて甲8発明1における「リリアール」に代えて或いは追加して、本件発明1において香料成分として特定されている「エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものを選択する動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された事項を検討しても、多数の有香成分が本件優先日前によく知られていたことも踏まえると、甲8における繊維害虫卵孵化抑制剤組成物の有効成分である2-フェノキシエタノールと組み合わせるのに適する有香成分として、本件優先日前によく知られていた数多くの有香成分の中から、あえて甲8発明1における「リリアール」に代えて或いは追加して、「エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものを選択することを、動機付ける記載や示唆はないし、本件優先日前の技術常識からも動機付けられるものでもない。
そうすると、甲8における繊維害虫卵孵化抑制剤組成物の有効成分である2-フェノキシエタノールと組み合わせるのに適する有香成分として、あえて甲8発明1における「リリアール」に代えて或いは追加して、「エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものとすることは、当業者といえども、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術から容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点8-1における他の技術的特定事項である「香料成分が、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する」こと、相違点8-2及び本件発明1の効果について検討するまでもなく、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(c)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲8に記載された発明であるとはいえず、また、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)本件発明2及び3について
本件発明2は、本件発明1において、「前記香料成分の含有量が1~20質量%である」ことを特定して、技術的にさらに限定した発明であり、また、本件発明3は、本件発明1又は2において、「前記香料成分(a)と前記防虫成分(b)との配合比(a/b)が、重量比として、0.1~2.0である」ことを特定し技術的にさらに限定した発明である。
したがって、上記(イ)において本件発明1について説示したのと同様の理由により、本件発明1を技術的にさらに限定した本件発明2及び3も、甲8に記載された発明であるとはいえず、また、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ)申立人の主張について
申立人は、申立書及び令和5年10月5日提出の意見書において、
a 甲8の記載事項を指摘し、それらの記載事項に基づいて、「甲8発明」(申立人認定)が記載されていると認定した上で(申立書45~49頁、上記意見書2~3頁)、この「甲8発明」(申立人認定)において、「リリアール」に代えて、「安息香酸ベンジル、フェニルエチルアルコール、シクロペンタデカノリド」を採用することは、当業者が通常なすことであり、特段の困難性は見いだせない旨(上記意見書9~10頁)、並びに、
b 甲8、甲9、資1、資2及び資5~資11の記載事項を指摘し、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を持続させることは当業者の自明の課題であり、香料成分が消臭機能ないし感覚的消臭効果をも有することは周知であったことから、「甲8発明」(申立人認定)において、香料成分として、甲1~甲4及び甲7~甲9に記載の香料成分を採用することは、当業者が通常なすことであり、特段の困難性は見いだせないこと、また、組み合わせたことにより奏される効果も、組成物として成分組成が同一である以上、同一の作用効果を奏することは自明であるから、本件発明1の効果は当業者の予測の範囲内であり、格別顕著なものともいえない旨(上記意見書10~14頁)、
を主張している。
しかしながら、申立人の上記主張aについては、申立人が認定する上記「甲8発明」(申立人認定)は、甲8における記載事項を申立人が本件発明に対応するように恣意的に組み合わせた発明であって、甲8にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
そして、甲8に記載されていると認定できる発明は、当審合議体が認定した上記(ア)における「甲8発明1」であり、それに基づく判断は、上記(イ)及び(ウ)で説示したとおりである。
また、申立人の上記主張bについては、本件発明1と当審合議体が認定した「甲8発明1」との対比判断について、上記(イ)b(b)で説示したとおりであり、本件発明1は、その効果について検討するまでもなく、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。
(オ)甲8を主引例とした場合の取消理由1及び2のまとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲8に記載された発明であるとはいえず、また、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1~3に係る特許は、甲8を主引例とした場合に、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものではなく、また、同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、甲8を主引例とする場合の取消理由1及び2は理由がない。
イ 甲9を主引例とする場合
(ア)甲9に記載された発明
甲9には、請求項4に、「常温揮散性のピレスロイド系化合物と、構造中に、炭素-炭素不飽和結合を1以上有する6員環および水酸基をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物からなる吸着抑制剤とを含有する害虫防除組成物を含浸させた含浸体を、オレフィン樹脂を含有する樹脂組成物から形成された容器に収容してなることを特徴とする害虫防除製品。」が記載されており(甲9a)、当該「害虫防除製品」に含まれている「害虫防除組成物」の具体例として、実施例5には、【表1】に示す成分組成を有する害虫防除組成物を調製したことが記載されている(甲9d)。
そうすると、甲9には、実施例5の害虫防除組成物の発明として、次の発明(以下「甲9発明1」という。)が記載されているといえる。
甲9発明1:
「エムペントリン440mg、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシエーテル150mg、ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド308mg及びサリチル酸ベンジル132mgからなる、合計1030mgの害虫防除組成物。」
(イ)本件発明1について
a 本件発明1と甲9発明1との対比
(a)甲9発明1における「害虫防除組成物」と、本件発明1における「衣料害虫用防除組成物」とは、「害虫用防除組成物」である限りにおいて一致する。
(b)甲9発明1における「エムペントリン」は、ピレスロイド系化合物の防虫成分であるから(甲9b)、甲9発明1における「エムペントリン」と、本件発明1における「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」こととは、「防虫成分」が「エンペントリン」である限りにおいて一致する。
(c)以上によれば、本件発明1と甲9発明1とは、
「防虫成分を含有する害虫用防除組成物であって、
前記防虫成分は、エンペントリンである害虫用防除組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点9-1
本件発明1では、「香料成分」であって、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものを含有しているのに対し、甲9発明1では、そのような成分を含有していない点。
相違点9-2
防虫成分が、本件発明1では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する」とされているのに対し、甲9発明1では、そのような特定はされていない点。
相違点9-3
害虫用防除組成物が、本件発明1では、「衣料」害虫用であるのに対し、甲9発明1では、そのような特定はされていない点。
b 相違点の判断
(a)新規性について
相違点9-1について検討する。
甲9発明1は、本件発明1における「香料成分」である「エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものを含有するものではないから、相違点9-1は、実質的な相違点である。
したがって、相違点9-2及び相違点9-3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲9に記載された発明であるとはいえない。
(b)進歩性について
相違点9-1について検討する。
甲9には、常温揮散性のピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制し、特にオレフィン系樹脂へのピレスロイド系化合物の吸着を抑制し得るピレスロイド系化合物の樹脂への吸着抑制剤および吸着抑制方法並びに害虫防除製品を提供することを課題とし、当該課題を解決するため、ピレスロイド系化合物の樹脂への吸着抑制剤として、構造中に、炭素-炭素不飽和結合を1以上有する6員環および水酸基をそれぞれ少なくとも1つ含む化合物を適用したこと、当該吸着抑制剤を含有した害虫防除組成物は、ピレスロイド系化合物の樹脂への吸着が抑制されるため、使用期間中の十分な防虫効果を発揮することができるというものであることが記載されている(甲9b)。
甲9発明1は、このような課題を解決した具体例である(甲9d)。このような甲9発明1において、「サリチル酸ベンジル」及び「ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド」は、防虫成分のピレスロイド系化合物であるエンペントリンの樹脂への吸着を抑制するための吸着抑制剤として用いられている化合物である(甲9a、甲9b)。
ここで、甲9には、害虫防除組成物に、ピレスロイド系化合物及び吸着抑制剤以外にも、香料等の従来公知の各種添加剤を必要に応じて配合することができること(甲9c)も記載され、さらに甲9の段落【0024】(甲9c)には、香料に含有される香料成分して、数多くの化合物も例示され、本件発明1の香料成分の選択肢に含まれる、フェニルエチルアルコール、ベンジルベンゾエート(安息香酸ベンジル)及びジヒドロジャスモン酸メチル(ベディオン)も挙げられている。
しかしながら、防虫成分のピレスロイド系化合物であるエンペントリンを含有する、このような甲9発明1の「害虫防除組成物」において、ピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制するための吸着抑制剤として必須の成分である「サリチル酸ベンジル」及び「ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド」に代えて或いは追加して、必要に応じて配合可能な香料に含有される香料成分にすぎない化合物を適用しようという動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲8及び甲10に記載された事項を検討しても、数多くの有香成分が本件優先日前によく知られていたとしても、甲9発明1の「害虫防除組成物」に配合する香料成分として、ピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制するための吸着抑制剤として必須の成分である「サリチル酸ベンジル」及び「ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド」に代えて或いは追加して、本件優先日前によく知られていた数多くの有香成分の中から、本件発明1において香料成分として特定されている「エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものを選択することを、動機付ける記載や示唆はないし、本件優先日前の技術常識からも動機付けられるものでもない。
そうすると、甲9発明1の「害虫防除組成物」において、ピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制するための吸着抑制剤として必須の成分である「サリチル酸ベンジル」及び「ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド」に代えて或いは追加して、本件発明1において香料成分として特定されている「エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るものを適用することは、当業者といえども、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術から容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、相違点9-2、相違点9-3及び本件発明1の効果について検討するまでもなく、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(c)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲9に記載された発明であるとはいえず、また、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)本件発明2及び3について
前記ア(ウ)で説示したとおり、本件発明2及び3は、本件発明1を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、上記(イ)において本件発明1について説示したのと同様の理由により、本件発明1を技術的にさらに限定した本件発明2及び3も、甲9に記載された発明であるとはいえず、また、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ)申立人の主張について
申立人は、申立書及び令和5年10月5日提出の意見書において、
a 甲9の記載事項を指摘し、それらの記載事項に基づいて、「甲9発明」(申立人認定)が記載されていると認定した上で(申立書49~50頁、上記意見書3~4頁)、この「甲9発明」(申立人認定)において、「サリチル酸ベンジル」に代えて、「フェニルエチルアルコール、安息香酸ベンジル、ジヒドロジャスモン酸メチル」を採用することは、当業者が通常なすことであり、特段の困難性は見いだせない旨(上記意見書10頁)、並びに、
b 甲8、甲9、資1、資2及び資5~資11の記載事項を指摘し、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を持続させることは当業者の自明の課題であり、香料成分が消臭機能ないし感覚的消臭効果をも有することは周知であったことから、「甲9発明」(申立人認定)において、香料成分として、甲1~甲4及び甲7~甲9に記載の香料成分を採用することは、当業者が通常なすことであり、特段の困難性は見いだせないこと、また、組み合わせたことにより奏される効果も、組成物として成分組成が同一である以上、同一の作用効果を奏することは自明であるから、本件発明1の効果は当業者の予測の範囲内であり、格別顕著なものともいえない旨(上記意見書10~14頁)、
を主張している。
しかしながら、申立人の上記主張aについては、申立人が認定する上記「甲9発明」(申立人認定)は、甲9における記載事項を、申立人が本件発明に対応するように恣意的に組み合わせた発明であって、甲9にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
そして、甲9に記載されていると認定できる発明は、当審合議体が認定した上記(ア)における「甲9発明1」であり、それに基づく判断は、上記(イ)及び(ウ)で説示したとおりである。
また、申立人の上記主張bについては、本件発明1と当審合議体が認定した「甲9発明1」との対比判断について、上記(イ)b(b)で説示したとおりであり、本件発明1は、その効果について検討するまでもなく、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。
(オ)甲9を主引例とした場合の取消理由1及び2のまとめ
以上のとおり、本件発明1~3は、甲9に記載された発明であるとはいえず、また、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1~3に係る特許は、甲9を主引例とした場合に、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものではなく、また、同法同条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、甲9を主引例とする場合の取消理由1及び2は理由がない。
2 取消理由通知において採用しなかった申立理由についての判断
申立理由1、2及び3のうち、本件訂正前の請求項4及び5に係る特許を対象とする場合、申立理由4のうち、本件訂正前の請求項4及び5に係る特許を対象とする場合、並びに、申立理由5において、申立人が副引例として用いていない文献についても、ここで、副引例として検討した上での判断を併せて説示する。
(1)申立理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如:本件発明1~7)について
ア 甲1に記載された発明
(ア)甲1には、請求項1に、「樹脂を含む担体に、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分と、250~400℃の範囲に沸点を有する香料成分とを担持させた香り付き防虫剤。」が記載されており(甲1a)、当該「香り付き防虫剤」における「担体に」「担持させ」る薬剤の具体例として、実施例1の薬剤(甲1d)が記載されている。
そうすると、甲1には、実施例1の香り付き防虫剤における担体に担持させる薬剤の発明として、次の発明(以下「甲1発明1」)という。)が記載されているといえる。
甲1発明1:
「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55-S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される、香り付き防虫剤における担体に担持させる薬剤。」
(イ)さらに、甲1には、ネット状の担体に上記薬剤を担持させた香り付き防虫剤を作製し、これを住居のベランダに吊して、防虫(忌避)効果及び芳香効果の持続性試験を実施し、3ヶ月後でも防虫(忌避)効果及び芳香効果があることを確認したことが記載されている(甲1d)。これは、上記香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊す、防虫(忌避)及び芳香方法が記載されているといえる。
そうすると、甲1には、さらに上記香り付き防虫剤を用いた方法の発明として、次の発明(以下「甲1発明2」)という。)も記載されているといえる。
甲1発明2:
「ネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55-S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される薬剤を担持させた香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊す、防虫(忌避)及び芳香方法。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明1との対比
a 甲1発明1における「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]」と、本件発明1における「前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」こととは、「防虫成分」である限りにおいて一致する。
b 甲1発明1における「香料成分」である「エチレンブラシレート(沸点;332℃)及び「ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)」と、本件発明1における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることとは、「香料成分」が「エチレンブラシレート」である限りにおいて一致する。
c 甲1発明1における「薬剤」は、香り付き防虫剤における担体に担持させるもので、香り付き防虫剤の薬剤成分であって組成物であるから、害虫用防除組成物といえる。
そうすると、甲1発明1における「薬剤」と、本件発明1における「衣料害虫用防除組成物」とは、「害虫用防除組成物」である限りにおいて一致する。
d 以上によれば、本件発明1と甲1発明1とは、
「防虫成分と香料成分とを含有する害虫用防除組成物であって、
前記香料成分は、エチレンブラシレートである害虫用防除組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-1
香料成分が、本件発明1では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲1発明1では、そのような特定はされていない「エチレンブラシレート(沸点;332℃)」及び「ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)」である点。
相違点1-2
防虫成分が、本件発明1では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲1発明1では、そのような特定はされていない「トランスフルトリン(沸点;340℃)」である点。
相違点1-3
害虫用防除組成物が、本件発明1では、「衣料」害虫用であるのに対し、甲1発明1では、そのように特定されていない点。
(イ)判断
a 相違点について
相違点1-1~1-3は相互に関連するので、まとめて検討する。
(a)本件発明1における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、・・・少なくとも一つであり」、「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」ことに関して、本件明細書には次の記載がある。
「衣類は、着用中に汗臭、加齢臭、タバコ臭等の生活臭が付着することがある。そのため、衣類の管理では、衣料害虫の防除に加えて、衣類に付着する悪臭を消臭することが望まれる。例えば、外衣等は、連日使用することが多いため、クローゼット等の収納空間から取り出す際に、前日に衣類に付着した生活臭が不快感をもたらす虞があり、収納中に悪臭を持続的に消臭できることが望まれる。」(【0005】)
「本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、防虫機能を果たすとともに衣類に付着する悪臭を持続的に消臭可能な衣料害虫防除組成物、及び当該組成物を用いた衣料消臭方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、一回の処理で衣料に防虫効果と持続的な消臭効果とを同時に付与可能な衣料防虫消臭方法を提供することを目的とする。」(【0007】)
「本発明者らが、様々な衣料害虫防除組成物を調製して種々試験を繰り返す中で、特定の防虫成分が香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することを新たに見出したことにより、完成するに至ったものである。」(【0009】)
これらの本件明細書の記載は、特定の香料成分が、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有し、特定の防虫成分である「エンペントリン、及び/又はプロフルトリン」が、特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することにより、防虫成分が衣料害虫に対する防虫機能を果たすととともに、香料成分による消臭機能を長期に亘って持続させて衣類に付着する悪臭を持続的に消臭することができるというものである。
(b)他方、甲1には、香料成分である「エチレンブラシレート(沸点;332℃)」及び「ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)」が、衣料に付着した悪臭の消臭機能を有することや、防虫成分であるエンペントリン又はプロフルトリンが、特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することについては、記載も示唆もされていない。
甲1には、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分を長期間に亘って揮散し続けることができ、さらに、当該ピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とを連動させることが可能な香り付き防虫剤を提供することを課題とし、当該課題を解決するため、樹脂を含む担体に、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分と、250~400℃の範囲に沸点を有する香料成分とを担持させたものであり、香料成分が250~400℃の範囲に沸点を有し比較的揮散し難いものであって、芳香が長期に亘って持続することから、ピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とを連動させることが可能となる、というものであることが記載されている(甲1b)。甲1発明1は、このような課題を解決した具体例である(甲1d)。
甲1発明1における、この香料成分が250~400℃の範囲に沸点を有し比較的揮散し難いものであり芳香が長期に亘って持続することから、ピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とを連動させることが可能となるという機能・効果は、本件発明1における、特定の香料成分による衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能と、特定の防虫成分による特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能とは異なるものである。
(c)このような衣料特有の課題に着目もしていない甲1発明1において、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分として、トランスフルトリン(沸点;340℃)に代えて、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の、消臭機能を持続させる持続機能を有するものを選択しようとし、そのような持続機能を有する常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分として、甲1cにピレスロイド系防虫成分の実施の態様として例示されているものの中から、あえてエンペントリン又はプロフルトリンを選択して適用しようという動機付けがあるとはいえない。
また、甲2~甲10に記載された事項を検討しても、甲1発明1において、トランスフルトリン(沸点;340℃)に代えて、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の、消臭機能を持続させる持続機能を有するエンペントリン又はプロフルトリンを適用することが、本件優先日前の技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲1発明1において、トランスフルトリン(沸点;340℃)に代えて、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の、消臭機能を持続させる持続機能を有するエンペントリン又はプロフルトリンを適用することは、当業者といえども、甲2~甲10に記載された技術的事項及び周知技術から容易に想到し得たとはいえない。
(d)そして、本件発明1は、香料成分が衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有し、防虫成分が香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することにより、防虫成分が衣料害虫に対する防虫機能を果たすととともに、香料成分による消臭機能を長期に亘って持続させて衣類に付着する悪臭を持続的に消臭することができるという、予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
b 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明、甲2~甲10に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2及び3について
前記1(2)ア(ウ)で説示したとおり、本件発明2及び3は、本件発明1を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、前記イにおいて本件発明1について説示したのと同様の理由により、本件発明1を技術的にさらに限定した本件発明2及び3も、甲1に記載された発明、甲2~甲10に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲1発明2との対比
a 甲1発明2における「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]」と、本件発明4における「前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」ることとは、「防虫成分」である限りにおいて一致する。
b 甲1発明2における「香料成分」である「エチレンブラシレート(沸点;332℃)」及び「ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)」は、本件発明4における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることと、「香料成分」が「エチレンブラシレート」である限りにおいて一致する。
c 甲1発明2における「薬剤」は、香り付き防虫剤における担体に担持させるもので、香り付き防虫剤の薬剤成分であって組成物であるから、害虫用防除組成物といえる。
そうすると、甲1発明2における「薬剤」と、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物」とは、「害虫用防除組成物」である限りにおいて一致する。
d 甲1発明2における「香り付き防虫剤」は、「ネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]・・・、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)・・・]・・・並びにパラフィン系炭化水素[・・・(50%留分の沸点;341℃)]・・・から構成される薬剤を担持させた」もので担体といえるから、当該「薬剤」を担持させた担体といえる。
そうすると、甲1発明2における「ネット状の担体」に「薬剤を担持させた香り付き防虫剤」は、本件発明4における「前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体」と、「前記害虫用防除組成物を備えた担体」である限りにおいて一致する。
e 甲1発明2における「住居のベランダに吊す」ことは、空間に設置することといえるから、本件発明4における「衣料の収納空間に設置」することと、「空間に設置」する限りにおいて一致する。
f 甲1発明2における「薬剤を担持させた香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊す」ことは、「薬剤を担持させた香り付き防虫剤」を住居空間に吊して、一定期間保持することである。
ここで、甲1発明2における「薬剤」は、「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]・・・、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]・・・、並びにパラフィン系炭化水素[・・・(50%留分の沸点;341℃)]・・・から構成される」もので、揮散性を有するものといえる。
そうすると、甲1発明2における「薬剤を担持させた香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊す」ことは、薬剤を担持させた香り付き防虫剤を住居空間に吊して、一定期間保持し、担体から上記「薬剤」を揮散させていると理解されるから、本件発明4における「前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる」ことと、「前記担体から前記害虫用防除組成物を揮散させる」限りにおいて一致する。
g 甲1発明2における「防虫(忌避)及び芳香方法」は、本件発明4における「衣料消臭方法」と、害虫用防除組成物を用いた「方法」である限りにおいて一致する。
h 以上によれば、本件発明4と甲1発明2とは
「害虫用防除組成物を用いた方法であって、
前記害虫用防除組成物は、防虫成分と香料成分とを含有し、
前記香料成分は、エチレンブラシレートであり、
前記害虫用防除組成物を備えた担体を空間に設置し、前記担体から前記害虫用防除組成物を揮散させる方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-4
香料成分が、本件発明4では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲1発明2では、そのような機能の特定もされていない「エチレンブラシレート(沸点;332℃)」及び「ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)」である点。
相違点1-5
防虫成分が、本件発明4では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲1発明2では、そのような機能の特定もされていない「トランスフルトリン(沸点;340℃)」である点。
相違点1-6
害虫用防除組成物、及び、それを備えた担体の設置について、本件発明4では、害虫用防除組成物が「衣料」害虫用であり、それを「含浸」させた担体を「衣料の収納」空間に設置しているのに対し、甲1発明2では、「薬剤」が衣料害虫用か明らかでなく、それを「担持」させた担体を「住居のベランダに吊」している点。
相違点1-7
害虫用防除組成物を用いた方法が、本件発明4では、「衣料消臭方法」であるのに対し、甲1発明2では、「防虫(忌避)及び芳香方法」である点。
(イ)相違点についての判断
a 相違点1-4~1-7は相互に関連するので、まとめて検討する。
相違点1-4及び1-5は、上記イ(ア)における相違点1-1及び1-2と、香料成分の選択肢に「リリアール」と「サリチル酸ベンジル」が追加されている点を除いて、実質的に同じである。そして、相違点1-6及び1-7は、上記イ(ア)における相違点1-3の害虫用防除組成物が「衣料」害虫用であることについて、設置条件を特定し、衣料消臭方法であるとしたものである。したがって、これらの相違点の判断についても、上記イ(イ)で述べたとおりである。
b 小括
したがって、本件発明4は、甲1に記載された発明、甲2~甲10に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 本件発明6及び7について
本件発明6は、本件発明4において、「前記香料成分の含有量が1~20質量%である」ことを特定して、技術的にさらに限定した発明であり、また、本件発明7は、本件発明4又は6において、「前記香料成分(a)と前記防虫成分(b)との配合比(a/b)が、重量比として、0.1~2.0である」ことを特定して、技術的にさらに限定した発明である。
したがって、上記エにおいて本件発明4について説示したのと同様の理由により、本件発明4を技術的にさらに限定した本件発明6及び7も、甲1に記載された発明、甲2~甲10に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1発明2との対比
a 甲1発明2における「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]」と、本件発明5における「前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」こととは、「防虫成分」である限りにおいて一致する。
b 甲1発明2における「香料成分」である「エチレンブラシレート(沸点;332℃)」及び「ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)」は、本件発明5における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることと、「香料成分」が「エチレンブラシレート」である限りにおいて一致する。
c 甲1発明2における「防虫(忌避)及び芳香方法」は、処理対象に対して防虫(忌避)処理と芳香処理を同時に行う防虫(忌避)芳香方法であるといえる。
そうすると、甲1発明2における「防虫(忌避)及び芳香方法」は、本件発明5における「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」と、「処理対象に対して防虫処理と他の処理とを同時に行う防虫方法」である限りにおいて一致する。
d 甲1発明2における「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55-S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される薬剤」は、防虫成分と香料成分を含有する害虫用防除組成物といえる。
そうすると、甲1発明2における上記「薬剤」は、本件発明5における「防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物」と、「防虫成分と香料成分とを含有する害虫用防除組成物」である限りにおいて一致する。
e 甲1発明2における「ネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55-S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される薬剤を担持させた香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊す」ことは、「薬剤を担持させた香り付き防虫剤」を住居空間内に載置し、一定期間保持することであり、住居空間内に害虫用防除組成物を載置することといえる。
さらに、当該「薬剤」は、「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]・・・、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]・・・、並びにパラフィン系炭化水素[・・・(50%留分の沸点;341℃)]・・・から構成される」もので、揮散性を有するものであるから、甲1発明2の「薬剤を担持させた香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊す」ことは、上記住居空間内に害虫用防除組成物を載置後、十分な防虫効果が付与されるように、前記空間内に前記害虫用防除組成物を揮散させているともいえる。
そうすると、甲1発明2における「薬剤を担持させた香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊す」ことは、本件発明5における「収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程と、
前記衣料に十分な防虫効果及び消臭効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」と、「空間内に防虫成分と香料成分とを含有する害虫用防除組成物を載置する載置工程と、
十分な防虫効果が付与されるように、前記空間内に前記害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」である限りにおいて一致する。
f 以上によれば、本件発明5と甲1発明2とは
「処理対象に対して防虫処理と他の処理とを同時に行う防虫方法であって、
空間内に防虫成分と香料成分とを含有する害虫用防除組成物を載置する載置工程と、
十分な防虫効果が付与されるように、前記空間内に前記害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程と、
を包含し、
前記香料成分は、エチレンブラシレートである防虫方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-8
香料成分が、本件発明5では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲1発明2では、そのような機能の特定もされていない「エチレンブラシレート(沸点;332℃)」及び「ヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)」である点。
相違点1-9
防虫成分が、本件発明5では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲1発明2では、そのような機能の特定もされていない「トランスフルトリン(沸点;340℃)」である点。
相違点1-10
処理対象に対して防虫処理と他の処理とを同時に行う防虫方法について、本件発明5では、処理対象が「衣料」であり、他の処理が「消臭」処理である、「衣料防虫消臭」方法であるのに対し、甲1発明2では、処理対象が明らかでなく、他の処理が「芳香」処理である、「防虫(忌避)及び芳香方法」である点。
相違点1-11
載置工程及び揮散工程について、本件発明5では、収納工程であって、空間内に「処理対象の衣料」を「衣料害虫用防除組成物」とともに収納させ、揮散工程において、「衣料に」十分な防虫効果「及び消臭効果」が付与されるように、衣料害虫用防除組成物を揮散させているのに対し、甲1発明2では、薬剤を担持させた香り付き防虫剤を、住居のベランダに吊すものである点。
(イ)相違点についての判断
a 相違点1-8~1-11は相互に関連するので、まとめて検討する。
相違点1-8及び1-9は、上記イ(ア)における相違点1-1及び1-2と、香料成分の選択肢に「リリアール」と「サリチル酸ベンジル」が追加されている点を除いて、実質的に同じである。そして、相違点1-10及び1-11は、上記イ(ア)における相違点1-3の害虫用防除組成物が「衣料」害虫用であることについて、衣料消臭方法であることと設置場所などの条件を特定したものである。したがって、これらの相違点の判断についても、上記イ(イ)で述べたとおりである。
b 小括
したがって、本件発明5は、甲1に記載された発明、甲2~甲10に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
キ 申立人の主張について
申立人は、申立書及び令和5年10月5日提出の意見書において、甲1の記載事項を指摘し、それらの記載事項に基づいて、「甲1発明」(申立人認定)が記載されている旨(申立書31~34頁、上記意見書4~5頁)、並びに、本件発明は、この「甲1発明」(申立人認定)、甲2~甲6に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨(申立書52~58頁)、を縷々主張している。
しかしながら、申立人が認定する上記「甲1発明」(申立人認定)は、甲1における記載事項を申立人が本件発明に対応するように恣意的に組み合わせた発明であって、甲1にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
そして、甲1に記載されていると認定できる発明は、当審合議体が認定した上記アにおける「甲1発明1」及び「甲1発明2」であり、それに基づく判断は、上記イ~カで説示したとおりである。
また、申立人は、甲1の段落【0056】に、クローゼットに載置可能という記載があることも指摘しているが、その点を考慮しても上記判断に影響はない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ク 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性欠如)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲1に記載された発明、甲2~甲10に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1~7に係る特許は、甲1を主引例とした場合に、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、申立理由1は理由がない。
(2)申立理由2(甲6を主引例とする進歩性欠如:本件発明1~7)について
ア 甲6に記載された発明
(ア)甲6には、請求項7に、請求項1、4及び6を引用して特定される
「(a)防虫香料成分として、以下の式(I):
CH3-COO-R ・・・ (I)
(R:炭素数が6~12のアルコール残基)
で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、
(b)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分で、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びテラレスリンからなる群から選択される少なくとも一種のピレスロイド系化合物と、
(c)第二防虫香料成分として、テルペン化合物と、
(d)前記防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分として、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、及びオレンジャークリスタルからなる群から選択される少なくとも一種の香料
を含む衣料用防虫剤。」が記載されており(甲6a)、当該「衣料用防虫剤」の具体例として、実施例15の衣料用防虫剤(甲6d)が記載されている。
そうすると、甲6には、実施例15の衣料用防虫剤の発明として、次の発明(以下「甲6発明1」)という。)が記載されているといえる。
甲6発明1:
「(a)防虫香料成分として、トリシクロデセニルアセテート、
(b)ピレスロイド系殺虫成分として、メトフルトリン、
(c)第二防虫香料成分のテルペン化合物として、メントール、
(d)持続性香料成分として、エチレンブラシレート、及び、
他成分(防黴剤)として、4-イソプロピル-3-メチルフェノール(IPMP)を含有する衣料用防虫剤。」
(イ)さらに、甲6には、上記衣料用防虫剤をパルプ紙に含浸させて防虫マットを作製し、衣装箱の内部に当該防虫マットを載置し、衣装箱を蓋で密封し、この衣装箱を室内で保管し、羊毛試験布を用いた食害防止効力試験及び芳香の持続試験を実施し、上記衣料用防虫剤は、試験開始直後から8ヵ月後まで、高い食害防止効果があること、及び、長期に亘る芳香の持続効果を確認したことが記載されている(甲6d)。これは、上記衣料用防虫剤をパルプ紙に含浸させて作製した防虫マットを衣装箱の内部に載置し、衣装箱を密封、保管する、衣料防虫及び芳香方法が記載されているといえる。
そうすると、甲6には、さらに上記衣料用防虫剤を用いた衣料防虫及び芳香方法の発明として、次の発明(以下「甲6発明2」)という。)も記載されているといえる。
甲6発明2:
「(a)防虫香料成分として、トリシクロデセニルアセテート、
(b)ピレスロイド系殺虫成分として、メトフルトリン、
(c)第二防虫香料成分のテルペン化合物として、メントール、
(d)持続性香料成分として、エチレンブラシレート、及び、
他成分(防黴剤)として、4-イソプロピル-3-メチルフェノール(IPMP)を含有する衣料用防虫剤を、パルプ紙に含浸させて防虫マットを作製し、当該防虫マットを羊毛試験布とともに衣装箱の内部に載置し、衣装箱を密封、保管する、衣料防虫及び芳香方法。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲6発明1との対比
a 甲6発明1における「ピレスロイド系殺虫成分として」の「メトフルトリン」は、防虫成分といえるから、本件発明1における「前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」ことと、「防虫成分」である限りにおいて一致する。
b 甲6発明1における「持続性香料成分として」の「エチレンブラシレート」は、本件発明1における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることと、「香料成分」が「エチレンブラシレート」である限りにおいて一致する。
c 甲6発明1における「衣料用防虫剤」は、衣料の害虫用の防除組成物といえるから、本件発明1における「衣料害虫用防除組成物」に相当する。
d 以上によれば、本件発明1と甲6発明1とは、
「防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物であって、
前記香料成分は、エチレンブラシレートである衣料害虫用防除組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点6-1
香料成分が、本件発明1では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲6発明1では、「持続性香料成分として」の「エチレンブラシレート」である点。
相違点6-2
防虫成分が、本件発明1では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲6発明1では、そのような特定はされていない「ピレスロイド系殺虫成分として」の「メトフルトリン」である点。
(イ)判断
a 相違点について
相違点6-1及び6-2は相互に関連するので、まとめて検討する。
(a)本件発明1における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、・・・少なくとも一つであり」、「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」ことは、上記(1)イ(イ)a(a)で述べたとおり、特定の香料成分が、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有し、特定の防虫成分である「エンペントリン、及び/又はプロフルトリン」が、特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することにより、防虫成分が衣料害虫に対する防虫機能を果たすととともに、香料成分による消臭機能を長期に亘って持続させて衣類に付着する悪臭を持続的に消臭することができるというものである。
(b)他方、甲6には、持続性香料成分であるエチレンブラシレートが、衣料に付着した悪臭の消臭機能を有することや、防虫成分であるエンペントリン又はプロフルトリンが、特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することについては、記載も示唆もされていない。
甲6には、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って増強された殺虫効果及び防虫効果を発揮し続けることが可能な芳香性を備えた衣料用防虫剤を提供することを課題とし、当該課題を解決するため、防虫香料成分として特定の酢酸エステル化合物と常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分とを組み合わせることにより、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って防虫香料成分を作用させることを可能とし、さらに、持続性香料成分を配合することで、増強された防虫効果及び芳香性をさらに長続きさせることを可能としたものであることが記載されている(甲6b)。甲6発明1は、このような課題を解決した具体例である(甲6d)。
甲6発明1における、常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分であるメトフルトリンに、防虫香料成分として特定の酢酸エステル化合物であるトリシクロデセニルアセテートとを組み合わせることによって、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って防虫香料成分を作用させることを可能とし、さらに、持続性香料成分であるエチレンブラシレートを配合することによって、増強された防虫効果及び芳香性をさらに長続きさせることを可能としたという機能・効果は、本件発明1における、特定の香料成分による衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能と、特定の防虫成分による特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能とは異なるものである。
(c)このような衣料の消臭機能とその持続機能に着目もしていない甲6発明1において、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分として、メトフルトリンに代えて、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の、消臭機能を持続させる持続機能を有するものを選択しようとし、そのような持続機能を有する常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分として、甲6cにピレスロイド系防虫成分の実施の態様として例示されているものの中から、あえてエンペントリン又はプロフルトリンを選択して適用しようという動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された事項を検討しても、甲6発明1において、メトフルトリンに代えて、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有するエンペントリン又はプロフルトリンを適用することが、本件優先日前の技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲6発明1において、メトフルトリンに代えて、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有するエンペントリン又はプロフルトリンを適用することは、当業者といえども、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項及び周知技術から容易に想到し得たとはいえない。
(d)そして、本件発明1は、香料成分が衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有し、防虫成分が香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することにより、防虫成分が衣料害虫に対する防虫機能を果たすととともに、香料成分による消臭機能を長期に亘って持続させて衣類に付着する悪臭を持続的に消臭することができるという、予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
b 小括
したがって、本件発明1は、甲6に記載された発明、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2及び3について
前記1(2)ア(ウ)で説示したとおり、本件発明2及び3は、本件発明1を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、前記イにおいて本件発明1について説示したのと同様の理由により、本件発明1を技術的にさらに限定した本件発明2及び3も、甲6に記載された発明、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲6発明2との対比
a 甲6発明2における「ピレスロイド系殺虫成分として、メトフルトリン」は、防虫成分といえるから、本件発明4における「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」ことと、「防虫成分」である限りにおいて一致する。
b 甲6発明2における「持続性香料成分として、エチレンブラシレート」は、本件発明4における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることと、「香料成分」が「エチレンブラシレート」である限りにおいて一致する。
c 甲6発明2における「衣料用防虫剤」は、衣料の害虫用の防除組成物といえるから、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物」に相当する。
d 甲6発明2における「防虫マット」は、「衣料用防虫剤を、パルプ紙に含浸させ」たものであり担体といえるから、当該「衣料用防虫剤」を「含浸させ」た担体といえる。
そうすると、甲6発明2における「衣料用防虫剤」を「パルプ紙に含浸させ」た「防虫マット」は、本件発明4における「前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体」に相当する。
e 甲6発明2における「当該防虫マットを衣装箱の内部に載置し」について、「衣裳箱」は衣料の収納空間といえ、「防虫マットを羊毛試験布とともに衣装箱の内部に載置し」ているから、上記dで述べたことを踏まえると、衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置しているといえる。
そうすると、甲6発明2における「当該防虫マット」を「衣装箱の内部に載置」することは、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置」することに相当する。
f 甲6発明2における「衣装箱を密封、保管する」ことは、当該防虫マットを衣装箱の内部に載置して、密封後一定期間保管することである。
ここで、甲6発明2における、「防虫マット」に含まれている「衣料用防虫剤」は、「(a)防虫香料成分として、トリシクロデセニルアセテート、(b)ピレスロイド系殺虫成分として、メトフルトリン、(c)第二防虫香料成分のテルペン化合物として、メントール」及び「(d)持続性香料成分として、エチレンブラシレート」を含有するもので、殆どの成分が揮散性を有するものである(甲6c)。
そうすると、甲6発明2における「当該防虫マットを羊毛試験布とともに衣装箱の内部に載置し、衣装箱を密封、保管する」ことは、衣装箱の内部に、防虫マットを置いて、衣装箱を密封、保持して、防虫マットに含まれる衣料用防虫剤を揮散させていると理解されるから、本件発明4における「前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる」ことに相当する。
g 甲6発明2における「衣料防虫及び芳香方法」は、本件発明4における「衣料消臭方法」と、「衣料に関する方法」である限りにおいて一致する。
h 以上によれば、本件発明4と甲6発明2とは
「衣料害虫用防除組成物を用いた衣料に関する方法であって、
前記衣料害虫用防除組成物は、防虫成分と香料成分とを含有し、
前記香料成分は、エチレンブラシレートであり、
前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料に関する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点6-3
香料成分が、本件発明4では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲6発明2では、「持続性香料成分として」の「エチレンブラシレート」である点。
相違点6-4
防虫成分が、本件発明4では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲6発明2では、そのような特定はされていない「ピレスロイド系殺虫成分として」の「メトフルトリン」である点。
相違点6-5
衣料に関する方法が、本件発明4では、「衣料消臭方法」であるのに対し、甲6発明2では、「衣料防虫及び芳香方法」である点。
(イ)相違点についての判断
a 相違点6-3~6-5は相互に関連するので、まとめて検討する。
相違点6-3及び6-4は、上記イ(ア)における相違点6-1及び6-2と、香料成分の選択肢に「リリアール」と「サリチル酸ベンジル」が追加されている点を除いて、実質的に同じであり、相違点6-5は、相違点6-1及び6-2に関する衣料害虫用防除組成物を用いて衣料を消臭する方法と特定したものであるから、これらの相違点の判断についても、上記イ(イ)で述べたとおりである。
b 小括
したがって、本件発明4は、甲6に記載された発明、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 本件発明6及び7について
前記(1)オで説示したとおり、本件発明6及び7は、本件発明4を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、上記エにおいて本件発明4について説示したのと同様の理由により、本件発明4を技術的にさらに限定した本件発明6及び7も、甲6に記載された発明、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲6発明2との対比
a 甲6発明2における「ピレスロイド系殺虫成分として、メトフルトリン」は、防虫成分といえるから、本件発明5における「前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」ことと、「防虫成分」である限りにおいて一致する。
b 甲6発明2における「持続性香料成分として、エチレンブラシレート」は、本件発明5における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることと、「香料成分」が「エチレンブラシレート」である限りにおいて一致する。
c 甲6発明2における「衣料防虫及び芳香方法」は、衣料に対して防虫処理と芳香処理を同時に行う衣料防虫及び芳香方法といえる。
そうすると、甲6発明2における「衣料防虫及び芳香方法」は、本件発明5における「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」と、「衣料に対して防虫処理と他の処理とを同時に行う衣料防虫方法」である限りにおいて一致する。
d 甲6発明2における「(a)防虫香料成分として、トリシクロデセニルアセテート、(b)ピレスロイド系殺虫成分として、メトフルトリン、(c)第二防虫香料成分のテルペン化合物として、メントール、(d)持続性香料成分として、エチレンブラシレート、及び、他成分(防黴剤)として、4-イソプロピル-3-メチルフェノール(IPMP)を含有する衣料用防虫剤」は、防虫成分と香料成分を含有する衣料害虫用防除組成物といえる。
そうすると、甲6発明2における上記「衣料用防虫剤」は、本件発明5における「防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物」に相当する。
e 甲6発明2における「衣料用防虫剤を、パルプ紙に含浸させて防虫マットを作製し、当該防虫マットを羊毛試験布とともに衣装箱の内部に載置」することについて、「衣装箱の内部」は収納空間内であり、羊毛試験布は食害防止効力を試験するために用いたものであるから、衣料の代替として用いられていることが理解でき、「衣料用防虫剤」を「パルプ紙に含浸させ」た「防虫マットを羊毛試験布とともに衣装箱の内部に載置」することは、上記dで述べたことを踏まえると、収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物を収納する収納工程といえる。
そうすると、甲6発明2における「衣料用防虫剤を、パルプ紙に含浸させて防虫マットを作製し、当該防虫マットを羊毛試験布とともに衣装箱の内部に載置」することは、本件発明5における「収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程」に相当する。
f 甲6発明2における「衣装箱を密封、保管する」ことは、衣料用防虫剤が含浸している防虫マットを羊毛試験布とともに収納空間内である衣装箱の内部に収納後、密封し、一定期間保管して、十分な防虫効果が付与されるように、前記空間内に衣料用防虫剤を揮散させているといえる。
そうすると、甲6発明2における「衣装箱を密封、保管する」ことは、本件発明5における「前記衣料に十分な防虫効果及び消臭効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」と、「前記衣料に十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」である限りにおいて一致する。
g 以上によれば、本件発明5と甲6発明2とは
「衣料に対して防虫処理と他の処理とを同時に行う衣料防虫方法であって、
収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程と、
前記衣料に十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程と、
を包含し、
前記香料成分は、エチレンブラシレートである防虫方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点6-6
香料成分が、本件発明5では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲6発明2では、「持続性香料成分として」の「エチレンブラシレート」である点。
相違点6-7
防虫成分が、本件発明5では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲6発明2では、そのような特定はされていない「ピレスロイド系殺虫成分として」の「メトフルトリン」である点。
相違点6-8
防虫処理と他の処理とを同時に行う防虫方法について、本件発明5では、他の処理が「消臭」処理である、「衣料防虫消臭」方法であるのに対し、甲6発明2では、他の処理が「芳香」処理である、「衣料防虫及び芳香方法」である点。
(イ)相違点についての判断
a 相違点6-6~6-8は相互に関連するので、まとめて検討する。
相違点6-6及び6-7は、上記イ(ア)における相違点6-1及び6-2と、香料成分の選択肢に「リリアール」と「サリチル酸ベンジル」が追加されている点を除いて、実質的に同じであり、相違点6-8は、相違点6-1及び6-2に関する衣料害虫用防除組成物を用いて衣料に対して防虫処理と消臭処理を同時に行う方法と特定したものであるから、これらの相違点の判断についても、上記イ(イ)で述べたとおりである。
b 小括
したがって、本件発明5は、甲6に記載された発明、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
キ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、甲6の記載事項を指摘し、それらの記載事項に基づき、「甲6発明」(申立人認定)が記載されている旨(申立書37~39頁)、並びに、甲6に記載された発明、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨(申立書58~63頁)、を縷々主張している。
しかしながら、申立人が認定する上記「甲6発明」(申立人認定)は、甲6における記載事項を申立人が本件発明に対応するように恣意的に組み合わせた発明であって、甲6にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
そして、甲6に記載されていると認定できる発明は、当審合議体が認定した上記アにおける「甲6発明1」及び「甲6発明2」であり、それに基づく判断は、上記イ~カで説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ク 申立理由2(甲6を主引例とする進歩性欠如)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲6に記載された発明、甲1~甲5及び甲7~甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1~7に係る特許は、甲6を主引例とした場合に、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、申立理由2は理由がない。
(3)申立理由3(甲8を主引例とする進歩性欠如:本件発明4~7)について
ア 甲8に記載された発明
甲8には、請求項12に、「繊維製品に、繊維害虫の卵孵化抑制に必要な量の・・・請求項第7項ないし第11項の何れかの項記載の繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用することを特徴とする防虫方法。」が記載されており(甲8a)、当該「防虫方法」の具体例として、実施例88には、さらに、実施例87及び実施例83の記載も引用し、上記1(2)ア(ア)において甲8発明1の認定の根拠とした「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」を「含浸させた濾紙をポリエステルシートの上に置き、中央に開口部をもつポリエステル不織布で蓋をして、防虫剤とし」、「市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、・・・羊毛製の衣類を入れ、その上に・・・試験用サージと(上記)防虫剤を置」き、「衣裳ケースを・・・7日間保った後、産卵後1日のイガの卵50個を衣裳ケース内のサージの上に置い」て「さらに12日間同温湿度に保持」して「卵孵化実用試験を行った結果、孵化率、生存率はともに0%であった」ことが記載されており(甲8d)、これは甲8発明1の「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」を適用した防虫方法といえる。
そうすると、甲8には、甲8発明1の「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」を適用した防虫方法の発明として、次の発明(以下「甲8発明2」)という。)が記載されているといえる。
甲8発明2:
「2-フェノキシエタノール90重量部、エムペントリン7重量部、酢酸デシル1重量部、L-カルボン1重量部、リリアール1重量部の組成で調製された繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた濾紙をポリエステルシートの上に置き、中央に開口部をもつポリエステル不織布で蓋をして、防虫剤とし、市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、羊毛製の衣類を入れ、その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する、防虫方法。」
イ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲8発明2との対比
a 甲8発明2における「エムペントリン」は、ピレスロイド系化合物の防虫成分であるから(甲8c)、甲8発明2における「エムペントリン」と、本件発明4における「前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」ることと、「防虫成分」が「エンペントリン」である限りにおいて一致する。
b 甲8発明2における「リリアール」は、有香成分であるから(甲8c)、甲8発明2における「リリアール」と、本件発明4における「前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることと、「香料成分」が「リリアール」である限りにおいて一致する。
c 甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」について、「繊維」製品は衣料を含むものである(甲8b)。
また、甲8発明2の「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、害虫卵の孵化を抑制する成分である「2-フェノキシエタノール」の他に、ピレスロイド系化合物の防虫成分である「エムペントリン」を含むものであって、特定時期の防虫効果を増強することができるものである(甲8c)。
そうすると、甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、衣料害虫用の防除組成物といえるから、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物」に相当する。
d 甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた濾紙」について、濾紙は繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させたもので担体といえるから、甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた濾紙」は、本件発明4における「前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体」に相当する。
e 甲8発明2における「市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、羊毛製の衣類を入れ、その上に上記防虫剤を置いて」について、当該「市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケース」は、そ「の中に、羊毛製の衣類を入れ」てあることから、衣料の収納空間といえ、衣裳ケース中の羊毛製衣類上に「上記防虫剤」を置いており、「上記防虫剤」は「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた濾紙をポリエステルシートの上に置き、中央に開口部をもつポリエステル不織布で蓋をし」たものであるから、上記dで述べたことを踏まえると、衣料の収納空間に衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を設置しているといえる。
そうすると、甲8発明2における「市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、羊毛製の衣類を入れ、その上に上記防虫剤を置」くことは、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置」することに相当する。
f 甲8発明2における「その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する」こととは、衣類の上に、「上記防虫剤」すなわち繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた濾紙を含むものを置いて、一定期間保持することである。
ここで、甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、甲8の請求項10に係る発明である「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」(甲8a)の具体例であり、繊維害虫卵孵化抑制剤の有効成分の化合物(甲8発明2における「2-フェノキシエタノール」)と同様の揮散性を有する有香成分(甲8発明2における「リリアール」)及びピレスロイド系化合物(甲8発明2における「エムペントリン」)を含有するもので、揮散性を有するものといえる。
そうすると、甲8発明2における「その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する」ことは、衣類の上に、繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた担体である濾紙を置いて、一定期間保持して、繊維害虫卵孵化抑制剤の有効成分の化合物である2-フェノキシエタノール、有香成分であるリリアール及びピレスロイド系化合物であるエムペントリンを揮散させていると理解されるから、本件発明4における「前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる」ことに相当する。
g 甲8発明2における「防虫方法」は、「衣裳ケースの中に、羊毛製の衣類を入れ、その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する」防虫方法で、衣料の防虫方法といえるから、甲8発明2における「防虫方法」と、本件発明4における「衣料消臭方法」とは、「衣料に関する方法」である限りにおいて一致する。
h 以上によれば、本件発明4と甲8発明2とは
「衣料害虫用防除組成物を用いた衣料に関する方法であって、
前記衣料害虫用防除組成物は、防虫成分と香料成分とを含有し、
前記香料成分は、リリアールであり、
前記防虫成分は、エンペントリンであり、
前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料に関する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点8-3
香料成分が、本件発明4では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲8発明2では、そのような機能の特定がされていない「リリアール」である点。
相違点8-4
防虫成分が、本件発明4では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」るとされているのに対し、甲8発明2では、そのような機能の特定がされていない「エンペントリン」である点。
相違点8-5
衣料に関する方法が、本件発明4では、「衣料消臭方法」であるのに対し、甲8発明2では、「防虫方法」である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点8-5から検討する。
甲8発明2は、甲8に記載の請求項12に係る防虫方法の発明の具体例として、前記1(2)ア(ア)で認定した甲8発明1の繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用した防虫方法の発明である。この防虫方法に適用される繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を、衣料の「消臭方法」に適用することについては、甲8に記載も示唆もされていない。
甲8には、繊維製品に、繊維害虫の卵孵化抑制に必要な量の、繊維害虫卵孵化抑制作用を有する化合物に、該化合物と同様の揮散性を有する有香成分及びピレスロイド系化合物を含有する繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用する防虫方法を提供することを課題(目的)とすることが記載されており(甲8b)、甲8発明2の認定の根拠とした実施例88の繊維害虫卵孵化抑制剤を用いた試験は、当該課題の解決を確認した具体例である(甲8d)。
甲8の防虫方法で適用される繊維害虫卵孵化抑制剤組成物に含まれる繊維害虫卵孵化抑制作用を有する化合物は、従来、繊維害虫防虫剤として利用される代表的な化合物には、防虫剤として使用されるより低い使用濃度において卵孵化抑制という新しい作用を有することを見出し、当該繊維害虫の卵孵化抑制作用を利用すれば、卵から幼虫への孵化を防ぐことができるため、従来の防虫剤の使用濃度より低い濃度で繊維製品の食害を防止しうる、新しい防虫剤となり得る可能性があることに気付いたものである(甲8b)。
甲8の防虫方法は、この新しい防虫剤となり得る繊維害虫卵孵化抑制作用を有する化合物に、該化合物と同様の揮散性を有する有香成分及びピレスロイド系化合物を含有する繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用する防虫方法であって、この防虫効果を快い香りで実感することができるとともに、特定の時期の防虫効果を増強することができる防虫方法である(甲8c)。
このような「防虫方法」の具体例である甲8発明2を、「衣料消臭方法」とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された事項を検討しても、特定の「防虫方法」を「衣料消臭方法」とすることが、本件優先日前の技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲8発明2の「防虫方法」を、「衣料消臭方法」とすることは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明4は、相違点8-3、相違点8-4及び本件発明4の効果について検討するまでもなく、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明6及び7について
前記(1)オで説示したとおり、本件発明6及び7は、本件発明4を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、前記イにおいて本件発明4について説示したのと同様の理由により、本件発明4を技術的にさらに限定した本件発明6及び7も、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲8発明2との対比
a 甲8発明2における「エムペントリン」は、ピレスロイド系化合物の防虫成分であるから(甲8c)、甲8発明2における「エムペントリン」と、本件発明5における「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」こととは、「防虫成分」が「エンペントリン」である限りにおいて一致する。
b 甲8発明2における「リリアール」は、有香成分であるから(甲8c)、甲8発明2における「リリアール」と、本件発明5における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることとは、「香料成分」が「リリアール」である限りにおいて一致する。
c 甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」について、「繊維」製品は衣料を含むものである(甲8b)。
また、甲8発明2の「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、有香成分である「リリアール」を含み、害虫卵の孵化を抑制する成分である「2-フェノキシエタノール」の他に、ピレスロイド系化合物の防虫成分である「エムペントリン」を含むものであって、特定時期の防虫効果を増強することができるものである(甲8c)。
そうすると、甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、衣料害虫用の防除組成物といえるから、本件発明5における「防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物」に相当する。
d 甲8発明2における「市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、羊毛製の衣類を入れ、その上に上記防虫剤を置いて」について、当該「市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケース」は、そ「の中に、羊毛製の衣類を入れ」てあることから、収納空間といえ、衣裳ケース中の羊毛製衣類上に「上記防虫剤」を置いており、「上記防虫剤」は「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた濾紙をポリエステルシートの上に置き、中央に開口部をもつポリエステル不織布で蓋をし」たものであるから、収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納しているといえる。
そうすると、甲8発明2における「市販のプラスチック製引き出しタイプの衣裳ケースの中に、羊毛製の衣類を入れ、その上に上記防虫剤を置」く工程は、本件発明5における「収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程」に相当する。
e 甲8発明2における「その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する」こととは、衣類の上に、「上記防虫剤」すなわち繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を含浸させた濾紙を含むものを置いて、一定期間保持することである。
ここで、甲8発明2における「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」は、甲8の請求項10に係る発明である「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」(甲8a)の具体例であり、繊維害虫卵孵化抑制剤の有効成分の化合物(2-フェノキシエタノール)と同様の揮散性を有する有香成分(リリアール)及びピレスロイド系化合物(エムペントリン)を含有するもので、いずれも揮散性を有するものといえる。
そして、衣類の上に、これらの揮散性を有する成分を含有する「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」を置いて一定期間保持することにより、これらの成分を揮散させ、衣類に十分な防虫効果が付与されるよう、及び、この防虫効果を快い香りで実感することができるとともに、特定の時期の防虫効果を増強することができるようにしている(甲8c)と理解される。
それ故、甲8発明2における「その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する」は、「繊維害虫卵孵化抑制剤組成物」の揮散成分を揮散させる工程といえる。
そうすると、甲8発明2における「その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する」ことは、本件発明5における「前記衣料に十分な防虫効果及び消臭効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」と、「前記衣料に十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」である限りにおいて一致する。
f 甲8発明2における「防虫方法」は、「衣裳ケースの中に、羊毛製の衣類を入れ、その上に上記防虫剤を置いて一定期間保持する」防虫方法で、衣料に対して防虫処理を行う衣料防虫方法といえるから、甲8発明2における「防虫方法」と、本件発明5における「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」とは、「衣料に対して防虫処理を行う衣料防虫方法」である限りにおいて一致する。
g 以上によれば、本件発明5と甲8発明2とは
「衣料に対して防虫処理を行う衣料防虫方法であって、
収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程と、
前記衣料に十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程と、
を包含し、
前記香料成分は、リリアールであり、
前記防虫成分は、エンペントリンである衣料防虫方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点8-6
香料成分が、本件発明5では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲8発明2では、そのような機能の特定がされていない「リリアール」である点。
相違点8-7
防虫成分が、本件発明5では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」るとされているのに対し、甲8発明2では、そのような機能の特定がされていない「エンペントリン」である点。
相違点8-8
衣料防虫方法が、本件発明5では、「防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」であるのに対し、甲8発明2では、「防虫方法」であって、防虫方法と消臭処理とを同時に行うものではない点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点8-8から検討する。
甲8発明2は、甲8に記載の請求項12に係る防虫方法の発明の具体例として、甲8発明1の繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用した防虫方法の発明である。この防虫方法に適用される繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を、衣料の「防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」に適用することについては、甲8には記載も示唆もされていない。
甲8には、繊維製品に、繊維害虫の卵孵化抑制に必要な量の、繊維害虫卵孵化抑制作用を有する化合物に、該化合物と同様の揮散性を有する有香成分及びピレスロイド系化合物を含有する繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用する防虫方法を提供することを課題(目的)とするものであり(甲8b)、甲8発明2の認定の根拠とした実施例88の繊維害虫卵孵化抑制剤を使用した試験は、当該課題の解決を確認した具体例である(甲8d)。
甲8の防虫方法は、新しい防虫剤となり得る繊維害虫卵孵化抑制作用を有する化合物に、該化合物と同様の揮散性を有する有香成分及びピレスロイド系化合物を含有する繊維害虫卵孵化抑制剤組成物を適用する防虫方法であって、この防虫効果を快い香りで実感することができるとともに、特定の時期の防虫効果を増強することができる(甲8c)防虫方法である。
このような「防虫方法」の具体例である甲8発明2については、有香成分によって防虫効果を快い香りで実感することができるようにする程度の動機付けがあるにとどまり、「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された事項を検討しても、特定の「防虫方法」を、「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」とすることが、本件優先日前の技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲8発明2の「防虫方法」を、「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」とすることは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明5は、相違点8-6、相違点8-7及び本件発明5の効果について検討するまでもなく、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 申立人の主張について
申立人は、申立書及び令和5年10月5日提出の意見書において、甲8の記載事項を指摘し、それらの記載事項に基づいて、「甲8発明」(申立人認定)が記載されている旨(申立書45~49頁、上記意見書2~3頁)、並びに、本件発明4~7は、この「甲8発明」(申立人認定)、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨(申立書67~70頁、上記意見書16~22頁)、を縷々主張している。
しかしながら、申立人が認定する上記「甲8発明」(申立人認定)は、甲8における記載事項を申立人が本件発明に対応するように恣意的に組み合わせた発明であって、甲8にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
そして、甲8に記載されていると認定できる発明は、当審合議体が認定した上記「甲8発明2」であり、それに基づく判断は、上記イ~エで説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
カ 申立理由3(甲8を主引例とする進歩性欠如)のまとめ
以上のとおり、本件発明4~7は、甲8に記載された発明、甲1~甲7、甲9及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明4~7に係る特許は、甲8を主引例とした場合に、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、申立理由3は理由がない。
(4)申立理由4(甲9を主引例とする進歩性欠如:本件発明4~7)について
ア 甲9に記載された発明
甲9の試験例1には、上記1(2)イ(ア)において甲9発明1の認定の根拠とした実施例5の「害虫防除組成物」を「・・・不織布(・・・)に含浸させ、この不織布を・・・ポリプロピレン(PP)製容器・・・に収容して検体を作製し・・・得られた検体を・・・2週間、段ボール(・・・)内で保管した」後、「不織布におるエムペントリンの残存量およびPP製容器におけるエムペントリンの吸着量をガスクロマトグラフィー分析により評価した」ところ、「常温揮散性のピレスロイド系化合物(エムペントリン)が樹脂製容器に吸着するのを抑制できることがわかった。エムペントリンによる防虫効果を長期間にわたり十分に発揮できると考えられる」こと(甲9d)が記載されている。これは、甲9発明1の「害虫防除組成物」を用いた防虫方法といえる。
そうすると、甲9には、甲9発明1の「害虫防除組成物」を適用した防虫方法の発明として、次の発明(以下「甲9発明2」)という。)が記載されているといえる。
甲9発明2:
「エムペントリン440mg、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシエーテル150mg、ヒドロキシメチルペンチルシクロヘキセンカルボキシアルデヒド308mg及びサリチル酸ベンジル132mgからなる、合計1030mgの害虫防除組成物を不織布に含浸させ、この不織布をポリプロピレン製容器に収容した検体を、一定期間段ボール内で保管する、防虫方法。」
イ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲9発明2との対比
a 甲9発明2における「害虫防除組成物」と、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物」とは、「害虫用防除組成物」である限りにおいて一致する。
b 甲9発明2における「エムペントリン」は、ピレスロイド系化合物の防虫成分であるから(甲9b)、甲9発明2における「エムペントリン」と、本件発明4における「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」こととは、「防虫成分」が「エンペントリン」である限りにおいて一致する。
c 甲9発明2における「サリチル酸ベンジル」と、本件発明4における「前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることとは、「サリチル酸ベンジル」である限りにおいて一致する。
d 甲9発明2における「害虫防除組成物を不織布に含浸させ、この不織布」について、不織布は害虫用防除組成物を含浸させたもので担体といえるから、甲9発明2における「害虫防除組成物を不織布に含浸させ、この不織布」は、本件発明4における「前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体」と、「前記害虫用防除組成物を含浸させた担体」である限りにおいて一致する。
e 甲9発明2における「この不織布をポリプロピレン製容器に収容した検体を、一定期間段ボール内で保管する」ことについて、当該「段ボール」は、検体の収納空間といえ、「検体を、段ボール内で保管する」ことは、上記dで述べたことを踏まえると、収納空間に害虫用防除組成物を含浸させた担体を設置しているといえる。
さらに、「検体を、一定期間段ボール内で保管する」ことについて、検体中の「不織布に含浸」している「害虫用防除組成物」は、ピレスロイド系化合物の樹脂製容器への吸着が抑制されつつ、長期間にわたり効率的に揮散することから(甲9c)、担体から害虫用防除組成物を揮散させることといえる。
そうすると、甲9発明2における「この不織布をポリプロピレン製容器に収容した検体を、一定期間段ボール内で保管する」ことは、本件発明4における「前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる」ことと、「前記害虫用防除組成物を含浸させた担体を収納空間に設置し、前記担体から前記害虫用防除組成物を揮散させる」限りにおいて一致する。
f 甲9発明2における「防虫方法」は、本件発明4における「衣料消臭方法」と、害虫用防除組成物を用いた「方法」である限りにおいて一致する。
g 以上によれば、本件発明4と甲9発明2とは
「 害虫用防除組成物を用いた方法であって、
前記害虫用防除組成物は、防虫成分とサリチル酸ベンジルとを含有し、
前記防虫成分は、エンペントリンであり、
前記害虫用防除組成物を含浸させた担体を収納空間に設置し、前記担体から前記害虫用防除組成物を揮散させる方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点9-4
「サリチル酸ベンジル」が、本件発明4では、「香料成分」であって「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ると特定されているのに対し、甲9発明2では、そのような成分種別及び機能の特定がされていない「サリチル酸ベンジル」である点。
相違点9-5
防虫成分が、本件発明4では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」るとされているのに対し、甲9発明2では、そのような機能の特定がされていない「エンペントリン」である点。
相違点9-6
害虫用防除組成物が、本件発明4では、「衣料」害虫用であるのに対し、甲9発明2では、そのような特定がされていない点。
相違点9-7
害虫用防除組成物を用いた方法が、本件発明4では、「衣料消臭方法」であるのに対し、甲9発明2では、「防虫方法」である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点9-7から検討する。
甲9発明2は、甲9発明1の害虫用防除組成物を用いた防虫方法の発明である。この防虫方法に適用される害虫用防除組成物を、「衣料消臭方法」に適用することについては、甲9に記載も示唆もされていない。
甲9には、常温揮散性のピレスロイド系化合物と、そのピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制し得る吸着抑制剤とを含有する害虫防除組成物を用いた防虫方法を提供することを課題とすることが記載されており(甲9b)、甲9発明2の認定の根拠とした実施例5の害虫防除組成物を用いた試験は、当該課題の解決を確認した具体例である(甲9d)。
甲9発明2において、「サリチル酸ベンジル」は、香料成分としてではなく、ピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制する「吸着抑制剤」として用いられており、甲9発明2の防虫方法は、常温揮散性のピレスロイド系化合物と当該吸着抑制剤とを含有する害虫防除組成物を用いることによって、防虫の有効成分である常温揮散性のピレスロイド系化合物が樹脂を含有する樹脂組成物に吸着するのを抑制し、長期間にわたり十分な防虫効果を発揮することができる防虫方法である(甲9b)。
このような甲9発明2の「防虫方法」において、「サリチル酸ベンジル」は、あくまでもピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制する「吸着抑制剤」として用いられているものであって、香料成分として用いられているものではない。なぜならば、甲9には、害虫用防除組成物は、必要に応じて各種添加剤を配合できること、その添加剤の一つとして香料があることが記載され、香料の含有する香料成分として多数の化合物が例示されているが(甲9c)、その中に「サリチル酸ベンジル」は含まれていないからである。
このように、甲9発明2において、「サリチル酸ベンジル」は、あくまでもピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制し得る吸着抑制剤として用いられているものであって、香料成分として用いられているものではない状況下、「衣料消臭方法」にする動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲8及び甲10に記載された事項を検討しても、特定の「防虫方法」を「衣料消臭方法」とすることが、本件優先日前の技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲9発明2の「防虫方法」を、「衣料消臭方法」とすることは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明4は、相違点9-4~相違点9-6及び本件発明4の効果について検討するまでもなく、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明6及び7について
前記(1)オで説示したとおり、本件発明6及び7は、本件発明4を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、前記イにおいて本件発明4について説示したのと同様の理由により、本件発明4を技術的にさらに限定した本件発明6及び7も、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲9発明2との対比
a 甲9発明2における「害虫防除組成物」と、本件発明5における「衣料害虫用防除組成物」とは、「害虫用防除組成物」である限りにおいて一致する。
b 甲9発明2における「エムペントリン」は、ピレスロイド系化合物の防虫成分であるから(甲9b)、甲9発明2における「エムペントリン」と、本件発明5における「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」こととは、「防虫成分」が「エンペントリン」である限りにおいて一致する。
c 甲9発明2における「サリチル酸ベンジル」と、本件発明5における「前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」ることとは、「サリチル酸ベンジル」である限りにおいて一致する。
d 甲9発明2における「害虫防除組成物を不織布に含浸させ、この不織布をポリプロピレン製容器に収容した検体を、一定期間段ボール内で保管する」について、害虫防除組成物を含浸させた不織布を収容した検体を、一定期間段ボール内で保管することは、上記cで述べたことを踏まえると、段ボール内である収納空間内に防虫成分と「サリチル酸ベンジル」とを含有する害虫用防除組成物を収納する収納工程といえるから、本件発明5における「収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程」と、「収納空間内に防虫成分と、サリチル酸ベンジルとを含有する害虫用防除組成物を収納する収納工程」である限りにおいて一致する。
e 甲9発明2における「検体を、一定期間段ボール内で保管する」ことについては、さらに、検体中の不織布に含浸している「害虫用防除組成物」は、ピレスロイド系化合物の樹脂製容器への吸着を抑制しつつ、長期間にわたり効率的にピレスロイド系化合物を揮散することから(甲9c)、十分な防虫効果が付与されるように、収納空間内に害虫用防除組成物を揮散させる工程といえる。
そうすると、甲9発明2における「検体を、一定期間段ボール内で保管する」ことは、本件発明5における「前記衣料に十分な防虫効果及び消臭効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」と、「十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」である限りにおいて一致する。
f 甲9発明2における「防虫方法」は、防虫処理を行うものであるから、本件発明5における「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」と、「防虫処理を行う防虫方法」である限りにおいて一致する。
g 以上によれば、本件発明5と甲9発明2とは
「防虫処理を行う防虫方法であって、
収納空間内に防虫成分とサリチル酸ベンジルとを含有する害虫用防除組成物を収納する収納工程と、
十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程と、
を包含し、
前記防虫成分は、エンペントリンである防虫方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点9-8
「サリチル酸ベンジル」が、本件発明5では、「香料成分」であって、「前記香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲9発明2では、そのような成分種別及び機能の特定がされていない「サリチル酸ベンジル」である点。
相違点9-9
防虫成分が、本件発明5では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」るとされているのに対し、甲9発明2では、そのような機能の特定がされていない「エンペントリン」である点。
相違点9-10
害虫用防除組成物が、本件発明5では、「衣料」害虫用であるのに対し、甲9発明2では、そのような特定がなされていない点。
相違点9-11
防虫処理を行う防虫方法が、本件発明5では、「衣料に対して」「消臭処理」をも「同時に行う」衣料防虫「消臭」方法であるのに対し、甲9発明2では、衣料に対して消臭処理をも同時に行う衣料防虫消臭方法であるのか明らかでない点。
相違点9-12
収納工程について、本件発明5では、収納空間内に「処理対象の衣料」を衣料害虫用防除組成物「とともに」収納するのに対し、甲9発明2では、そのような収納をするのか明らかでない点。
相違点9-13
揮散工程について、本件発明5では、「衣料に」十分な「消臭効果」も付与されるように、衣料害虫用防除組成物を揮散させるのに対し、甲9発明2では、衣料に十分な消臭効果も付与されるように、害虫用防除組成物を揮散させるのか明らかでない点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点9-11から検討する。
甲9発明2は、甲9発明1の害虫用防除組成物を用いた防虫方法の発明であって、この防虫方法に適用される害虫用防除組成物を、防虫方法のみならず、衣料の消臭方法も兼ね備えた「衣料防虫消臭方法」に適用することについては、甲9には記載も示唆もされていない。
甲9には、常温揮散性のピレスロイド系化合物と、そのピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制し得る吸着抑制剤とを含有する害虫防除組成物を用いた防虫方法を提供することを課題とし(甲9b)、甲9発明2は、当該課題を解決した具体例であること(甲9d)が記載されている。
甲9発明2において、「サリチル酸ベンジル」は、ピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制する「吸着抑制剤」として用いられており、甲9発明2の防虫方法は、常温揮散性のピレスロイド系化合物と当該吸着抑制剤とを含有する害虫防除組成物を用いることによって、防虫の有効成分である常温揮散性のピレスロイド系化合物が樹脂を含有する樹脂組成物に吸着するのを抑制し、長期間にわたり十分な防虫効果を発揮することができる防虫方法である(甲9b)。
このような甲9発明2の「防虫方法」において、「サリチル酸ベンジル」は、あくまでもピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制する「吸着抑制剤」として用いられているものであって、香料成分として用いられているものではない。なぜならば、甲9には、害虫用防除組成物は、必要に応じて各種添加剤を配合できること、その添加剤の一つとして香料があることが記載され、香料の含有する香料成分として多数の化合物が例示されているが(甲9c)、その中に「サリチル酸ベンジル」は含まれていないからである。
このように、甲9発明2において、「サリチル酸ベンジル」は、あくまでもピレスロイド系化合物の樹脂への吸着を抑制し得る吸着抑制剤として用いられているものであって、香料成分として用いられているものではない状況下、サリチル酸ベンジルに、衣料の消臭効果をもさらに期待して、甲9発明2の防虫方法に衣料の消臭方法も兼ね備えた「衣料防虫消臭方法」にしようという動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲8及び甲10に記載された事項を検討しても、特定の「防虫方法」を「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」とすることが、本件優先日前の技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲9発明2の「防虫方法」を、「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」とすることは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。
(ウ)小括
したがって、本件発明5は、相違点9-8~相違点9-10、相違点9-12、相違点9-13及び本件発明5の効果について検討するまでもなく、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 申立人の主張について
申立人は、申立書及び令和5年10月5日提出の意見書において、甲9の記載事項を指摘し、それらの記載事項に基づいて、「甲9発明」(申立人認定)が記載されている旨(申立書49~50頁、上記意見書3~4頁)、並びに、本件発明4~7は、この「甲9発明」(申立人認定)、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨(申立書73~76頁、上記意見書16~22頁)、を縷々主張している。
しかしながら、申立人が認定する上記「甲9発明」(申立人認定)は、甲9における記載事項を申立人が本件発明に対応するように恣意的に組み合わせた発明であって、甲9にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
そして、甲9に記載されていると認定できる発明は、当審合議体が認定した上記「甲9発明2」であり、それに基づく判断は、上記イ~エで説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
カ 申立理由4(甲9を主引例とする進歩性欠如)のまとめ
以上のとおり、本件発明4~7は、甲9に記載された発明、甲1~甲8及び甲10に記載された技術的事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明4~7に係る特許は、甲9を主引例とした場合に、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、申立理由4は理由がない。
(5)申立理由5(甲10を主引例とする進歩性欠如:本件発明1、2、4~7)について
ア 甲10に記載された発明
(ア)甲10には、請求項1に、「下記の一般式 化1【化1】(化学構造式及び置換基の説明を省略。)で表されるエステル化合物を少なくとも1種を含有することを特徴とする衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤。」が記載されており(甲10a)、当該「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」の具体例として、「〔実施例:防虫カバーの調製〕」(甲10d)には、上記「エステル化合物」として「シス-3-ヘキセニルサリチレート」を用いた「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」が記載されている。
そうすると、甲10には、上記実施例の「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」の発明として、次の発明(以下「甲10発明1」)という。)が記載されているといえる。
甲10発明1:
「シス-3-ヘキセニルサリチレートを含有する衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤。」
(イ)また、甲10の請求項6には、「請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤が処理されたシート状担体により形成され、かつ一部に開放部を有してもよい略閉塞状の袋体に衣類を保管させる衣類の防虫方法。」(甲10a)が記載され、その具体例として、上記「〔実施例:防虫カバーの調製〕」(甲10d)には、上記甲10発明1が「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」を含有させた不織布製シートから防虫カバー(両シートの側辺周縁部と下辺周縁部を融着し、上辺周縁部を開放状態としたもの)を作成し、その防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納し、24時間後の衣料害虫の侵入阻害及び摂食阻害試験を実施したところ、高い衣料害虫の侵入阻害活性を示し、かつ、摂食阻害効果が認められたことが記載されている(甲10d)。
そうすると、甲10には、さらに上記甲10発明1の衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を適用した衣類の防虫方法の発明として、次の発明(以下「甲10発明2」)という。)も記載されているといえる。
甲10発明2:
「シス-3-ヘキセニルサリチレートを含有する衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納し、24時間保管する衣類の防虫方法。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲10発明1との対比
a 甲10発明1における「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、衣類害虫の幼虫に対して優れた侵入阻害及び摂食阻害作用を有するものであり(甲10b)、防虫成分といえる。
また、当該「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、揮散性を有する香料成分でもある(甲10b)から、香料成分ともいえる。
そうすると、甲10発明1における「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、本件発明1における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有するは、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」ことと、「香料成分は」「シス-3-ヘキセニルサリチレート」であり、「防虫成分」でもある限りにおいて一致する。
b 甲10発明1における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤衣料用防虫剤」は、衣料の害虫用の防除組成物といえるから、本件発明1における「衣料害虫用防除組成物」に相当する。
c 以上によれば、本件発明1と甲10発明1とは、
「防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物であって、
前記香料成分は、シス-3-ヘキセニルサリチレートである衣料害虫用防除組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点10-1
香料成分が、本件発明1では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、安息香酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲10発明1では、そのような機能の特定がされていない「シス-3-ヘキセニルサリチレート」である点。
相違点10-2
防虫成分が、本件発明1では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲10発明1では、そのような機能の特定がされていない「シス-3-ヘキセニルサリチレート」である点。
(イ)判断
a 相違点について
相違点10-1及び10-2は相互に関連するので、まとめて検討する。
(a)本件発明1における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、・・・少なくとも一つであり」、「防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」ことは、上記(1)イ(イ)a(a)で述べたとおり、特定の香料成分が、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有し特定の防虫成分である「エンペントリン、及び/又はプロフルトリン」が、特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することにより、防虫成分が衣料害虫に対する防虫機能を果たすととともに、香料成分による消臭機能を長期に亘って持続させて衣類に付着する悪臭を持続的に消臭することができるというものである。
(b)他方、甲10には、香料成分でもあるシス-3-ヘキセニルサリチレートが、衣料に付着した悪臭の消臭機能を有することや、防虫成分であるエンペントリン又はプロフルトリンが、特定の香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することについては、記載も示唆もされていない。
甲10には、衣類への侵入を阻害し、さらには摂食活動を阻害することにより、衣類害虫による被害、特に幼虫による食害から衣類を保護することができる衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を提供することを課題とし、衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤の有効成分として、シス-3-ヘキセニルサリチレートのような、ベンゼン環を有するある種のエステル化合物を用いることにより、当該課題を解決したものであることが記載されている(甲10b)。甲10発明1は、このような課題を解決した具体例である(甲10d)。
甲10には、さらに、甲10発明1の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤に、その活性成分であるシス-3-ヘキセニルサリチレートのようなベンゼン環を有するある種のエステル化合物のほかに、常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分を配合し、防虫効果を高めることができること、当該常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分としては、エンペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等があることも記載されている(甲10c)。
このような衣料の消臭機能とその持続機能に着目もしていない甲10発明1において、さらに防虫効果を高めようとして、常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分を加える際、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の、消臭機能を持続させる持続機能を有するものを選択しようとし、そのような持続機能を有する常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分として、甲10cにピレスロイド系殺虫成分として例示されているものの中から、あえてエンペントリン又はプロフルトリンを選択して適用しようという動機付けがあるとはいえない。
また、甲1~甲9に記載された事項を検討しても、甲10発明1において、さらに防虫効果を高めようとして、常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分を加える際、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の、消臭機能を持続させる持続機能を有するエンペントリン又はプロフルトリンを適用することが、本件優先日前の技術常識であったとはいえない。
そうすると、甲10発明1において、さらに防虫効果を高めようとして、常温で揮散性を有するピレスロイド系殺虫成分を加える際、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する香料成分の、消臭機能を持続させる持続機能を有するエンペントリン又はプロフルトリンを適用することは、当業者といえども、甲1~甲9に記載された技術的事項から容易に想到し得たとはいえない。
(c)そして、本件発明1は、香料成分が衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有し、防虫成分が香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有することにより、防虫成分が衣料害虫に対する防虫機能を果たすととともに、香料成分による消臭機能を長期に亘って持続させて衣類に付着する悪臭を持続的に消臭することができるという、予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
b 小括
したがって、本件発明1は、甲10に記載された発明、甲1~甲9に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2及び3について
前記1(2)ア(ウ)で説示したとおり、本件発明2及び3は、本件発明1を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、前記イにおいて本件発明1について説示したのと同様の理由により、本件発明1を技術的にさらに限定した本件発明2及び3も、甲10に記載された発明、甲1~甲9に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲10発明2との対比
a 甲10発明2における「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、衣類害虫の幼虫に対して優れた侵入阻害及び摂食阻害作用を有するものであり(甲10b)、防虫成分といえる。
また、当該「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、揮散性を有する香料成分でもある(甲10b)から、香料成分ともいえる。
そうすると、甲10発明2における「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、本件発明4における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」ることと、「香料成分は」「シス-3-ヘキセニルサリチレート」であり、「防虫成分」でもある限りにおいて一致する。
b 甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤衣料用防虫剤」は、衣料の害虫用の防除組成物といえるから、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物」に相当する。
c 甲10発明2における「シス-3-ヘキセニルサリチレートを含有する衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバー」について、「シス-3-ヘキセニルサリチレートを含有」させた「不織布製シートから作成」した「防虫カバー」というのは、シス-3-ヘキセニルサリチレートを含浸させたシート状担体と理解される。
そうすると、甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバー」は、本件発明4における「前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体」に相当する。
d 甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納」について、「防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納」することは、衣装ケースに衣類を保管させるものであることから、衣料の収納空間といえる。さらに、当該「防虫カバー」は「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成」されているから、上記cで述べたことを踏まえると、衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置しているものともいえる。
そうすると、甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納」することは、本件発明4における「衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し」ているものに相当する。
e 甲10発明2における「防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納」することは、「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した」ものに、衣類を保管させることである。
ここで、甲10発明2における、「不織布製シート」に含有させた「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」は、常温揮散により環境中に放出させて効果を発揮させることができるものである(甲10b)。
そうすると、甲10発明2における「防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納」することは、防虫カバー内に、防虫カバーを構成する不織布製シートに含有させた「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」を揮散させていると理解されるから、本件発明4における「前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる」ことに相当する。
f 甲10発明2における「衣類の防虫方法」は、本件発明4における「衣料消臭方法」と、「衣料に関する方法」である限りにおいて一致する。
h 以上によれば、本件発明4と甲10発明2とは
「 衣料害虫用防除組成物を用いた衣料に関する方法であって、
前記衣料害虫用防除組成物は、防虫成分と香料成分とを含有し、
前記香料成分は、シス-3-ヘキセニルサリチレートであり、
前記衣料害虫用防除組成物を含浸させた担体を衣料の収納空間に設置し、前記担体から前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる衣料に関する方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点10-3
香料成分が、本件発明4では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲10発明2では、そのような機能の特定がされていない「シス-3-ヘキセニルサリチレート」である点。
相違点10-4
防虫成分が、本件発明4では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲10発明2では、そのような機能の特定もされていない「シス-3-ヘキセニルサリチレート」である点。
相違点10-5
衣料に関する方法が、本件発明4では、「衣料消臭方法」であるのに対し、甲10発明2では、「防虫方法」である点。
(イ)相違点についての判断
a 相違点10-3~10-5は相互に関連するので、まとめて検討する。
相違点10-3及び10-4は、上記イ(ア)における相違点10-1及び10-2と、香料の選択肢に「リリアール」と「サリチル酸ベンジル」が追加されている点を除いて、実質的に同じであり、相違点10-5は、相違点10-1及び10-2に関する衣料害虫用防除組成物を用いて衣料を消臭する方法として特定したものであるから、これらの相違点の判断についても、上記イ(イ)で述べたとおりである。
b 小括
したがって、本件発明4は、甲10に記載された発明、甲1~甲9に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 本件発明6及び7について
前記(1)オで説示したとおり、本件発明6及び7は、本件発明4を技術的にさらに限定した発明である。
したがって、上記エにおいて本件発明4について説示したのと同様の理由により、本件発明4を技術的にさらに限定した本件発明6及び7も、甲10に記載された発明、甲1~甲9に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲10発明2との対比
a 甲10発明2における「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、衣類害虫の幼虫に対して優れた侵入阻害及び摂食阻害作用を有するものであり(甲10b)、防虫成分といえる。
また、当該「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、揮散性を有する香料成分でもある(甲10b)から、香料成分ともいえる。
そうすると、甲10発明2における「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、本件発明5における「香料成分は、衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記防虫成分は、前記香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンであ」ることと、「香料成分は」「シス-3-ヘキセニルサリチレート」であり、「防虫成分」でもある限りにおいて一致する。
b 甲10発明2における「衣類の防虫方法」は、衣料に対して防虫処理を行う方法といえる。
そうすると、甲10発明2における「衣類の防虫方法」は、本件発明5における「衣料に対して防虫処理と消臭処理とを同時に行う衣料防虫消臭方法」と、「衣料に対して防虫処理を行う衣料防虫方法」である限りにおいて一致する。
c 甲10発明2における「シス-3-ヘキセニルサリチレートを含有する衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」について、上記aで述べたように、「シス-3-ヘキセニルサリチレート」は、防虫成分であるとともに香料成分でもある(甲10b)から、これを含有する「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」は、防虫成分と香料成分を含有する衣料害虫用防除組成物といえる。
そうすると、甲10発明2における「シス-3-ヘキセニルサリチレートを含有する衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤」は、本件発明5における「防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物」に相当する。
d 甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納し、24時間保管する」ことについて、「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納」は衣料を保管させるための収納空間内であり、当該「防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納し、24時間保管する」ことは、上記cで述べたことを踏まえると、収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程といえる。
そうすると、甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納し、24時間保管する」ことは、本件発明5における「収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程」に相当する。
e 甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納し、24時間保管する」ことは、さらに、衣料を一定期間保管して、十分な防虫効果が付与されるように、前記空間内に衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を揮散させているといえる。
そうすると、甲10発明2における「衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させた不織布製シートから作成した防虫カバーに生地を収納した後、衣装ケースに収納し、24時間保管する」ことは、本件発明5における「前記衣料に十分な防虫効果及び消臭効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」と、「前記衣料に十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程」である限りにおいても一致する。
g 以上によれば、本件発明5と甲10発明2とは
「衣料に対して防虫処理を行う衣料防虫方法であって、
収納空間内に処理対象の衣料を防虫成分と香料成分とを含有する衣料害虫用防除組成物とともに収納する収納工程と、
前記衣料に十分な防虫効果が付与されるように、前記収納空間内に前記衣料害虫用防除組成物を揮散させる揮散工程と、
を包含し、
前記香料成分は、エチレンブラシレートである衣料防虫方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点10-6
香料成分が、本件発明5では、「衣料に付着した悪臭を消臭する消臭機能を有する、エチルリナロール、テトラヒドロゲラニオール、フェニルエチルアルコール、ヘリオナール、リリアール、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、シス-3-ヘキセニルサリチレート、ジヒドロジャスモン酸メチル、ラズベリーケトン、エチレンブラシレート、及びシクロペンタデカノリドからなる群から選択される少なくとも一つであ」るとされているのに対し、甲10発明2では、そのような機能の特定がされていない「シス-3-ヘキセニルサリチレート」である点。
相違点10-7
防虫成分が、本件発明5では、「香料成分の消臭機能を持続させる持続機能を有する、エンペントリン、及び/又はプロフルトリンである」のに対し、甲10発明2では、そのような機能の特定がされていない「シス-3-ヘキセニルサリチレート」である点。
相違点10-8
防虫処理を行う防虫方法が、本件発明5では、「消臭処理」をも「同時に」行う衣料「防虫消臭」方法であるのに対し、甲10発明2では、「消臭処理」をも「同時に」行う衣料「防虫消臭」方法であるのか明らかでない点。
相違点10-9
揮散工程について、本件発明5では、「消臭効果」も付与されるように、衣料害虫用防除組成物を揮散させるのに対し、甲10発明2では、「消臭効果」も付与されるように、衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を揮散させるのか明らかでない点。
(イ)相違点についての判断
a 相違点10-6~10-9は相互に関連するので、まとめて検討する。
相違点10-6及び10-7は、上記イ(ア)における相違点10-1及び10-2と、香料成分の選択肢に「リリアール」と「サリチル酸ベンジル」が追加されている点を除いて、実質的に同じであり、相違点10-8及び10-9は、相違点10-1及び10-2に関する衣料害虫用防除組成物を用いて衣料に対して防虫処理と消臭処理を同時に行い消臭効果も発揮させる方法と特定したものであるから、これらの相違点の判断についても、上記イ(イ)で述べたとおりである。
b 小括
したがって、本件発明5は、甲10に記載された発明、甲1~甲9に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
キ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、甲10の記載事項を指摘し、それらの記載事項に基づき、「甲10発明」(申立人認定)が記載されている旨(申立書50~52頁)、並びに、甲10に記載された発明、甲1~甲9に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨(申立書76~82頁)、を縷々主張している。
しかしながら、申立人が認定する上記「甲10発明」(申立人認定)は、甲10における記載事項を申立人が本件発明に対応するように恣意的に組み合わせた発明であって、甲10にそのような発明が記載されていると認定することはできない。
そして、甲10に記載されていると認定できる発明は、当審合議体が認定した上記アにおける「甲10発明1」及び「甲10発明2」であり、それに基づく判断は、上記イ~カで説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
ク 申立理由5(甲10を主引例とする進歩性欠如)のまとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲10に記載された発明、甲1~甲9に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1~7に係る特許は、甲10を主引例とした場合に、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
したがって、申立理由5は理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、本件訂正請求は適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された補正された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4、6、7〕について訂正することを認める。
そして、取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700088