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特許異議申立

2026-700169

人体用害虫忌避剤乳化組成物

審判番号
2026-700169
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-004289
登録番号
7730549
請求日
2026年02月25日
審決日
2026年06月30日
公報発行日
2026年07月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】フマキラー株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人前田特許事務所
  • 【異議申立人】石井 健治
審判長/審判官
  • 審判長 齋藤 恵
  • 審判官 宮田 透
  • 審判官 新留 豊
分類
P1651.113-Y (A01N) / P1651.121-Y (A01N) / P1651.537-Y (A01N) / P1651.536-Y (A01N) / P1651.55 -Y (A01N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第3項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7730549号発明「人体用害虫忌避剤乳化組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7730549号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7730549号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願(特願2022-4289号)は、令和4年1月14日の出願であって、令和7年8月20日に特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和8年2月25日に特許異議申立人 石井 健治(以下「申立人」という。)により、本件請求項1~8に係る特許に対し、特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~8に係る発明(以下請求項の番号順に「本件発明1」等といい、併せて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される以下に示すとおりのものである。 「【請求項1】 忌避有効成分(a)と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)と、水溶性高分子(c)と、水とを含む人体用害虫忌避剤乳化組成物であって、 前記ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲が8~24質量%である、人体用害虫忌避剤乳化組成物。 【請求項2】 前記忌避有効成分(a)が、イカリジンおよびディートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の人体用害虫忌避剤乳化組成物。 【請求項3】 前記グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)のHLBが8~19である、請求項1または2に記載の人体用害虫忌避剤乳化組成物。 【請求項4】 前記水溶性高分子(c)の濃度は、人体用害虫忌避剤の全質量に対して0.01~2質量%である、請求項1から3のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤乳化組成物。 【請求項5】 前記グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)の濃度と、前記忌避有効成分(a)の濃度との濃度比(R=b/a)が、R=0.5~2.0である、請求項1から4のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤乳化組成物。 【請求項6】 前記グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステルであり、前記脂肪酸の炭素数は12以上で、前記グリセリン脂肪酸エステルのHLBが8以下である、請求項1から5のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤乳化組成物。 【請求項7】 前記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、ポリエチレングリコールと脂肪酸のエステルであり、前記脂肪酸の炭素数は12以上で、前記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルのHLBが9以上である、請求項1から6のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤乳化組成物。 【請求項8】 前記忌避有効成分(a)の濃度範囲が5~30質量%である、請求項1から7のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤乳化組成物。」 第3 特許異議申立理由について 1 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記2に示す甲第1号証~甲第4号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」~「甲4」ともいう。)を提出し、請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(5)に示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張している。 申立理由の概要は、申立書の記載全体からみて、以下のとおりと認められる。 (1)申立理由1(新規性欠如) ア (申立理由1-1)甲1を主引例とする新規性欠如 請求項1~5、7及び8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ (申立理由1-2)甲2を主引例とする新規性欠如 請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ウ (申立理由1-3)甲3を主引例とする新規性欠如 請求項1、2、4、5及び8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 エ (申立理由1-4)甲4を主引例とする新規性欠如 請求項1~5、7及び8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(進歩性欠如) ア (申立理由2-1)甲1を主引例とする進歩性欠如 請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ (申立理由2-2)甲2を主引例とする進歩性欠如 請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ウ (申立理由2-3)甲3を主引例とする進歩性欠如 請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 エ (申立理由2-4)甲4を主引例とする進歩性欠如 請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (3)申立理由3(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1~8に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (4)申立理由4(実施可能要件違反) 本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、請求項1~8に係る特許は、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (5)申立理由5(補正要件違反) 請求項1~8について、令和7年6月26日提出の手続補正書による[請求項1]についての補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないものであり、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。 2 証拠方法 提出された証拠方法は次のとおりである。 甲1:特開平11-263701号公報 甲2:特開平11-1404号公報 甲3:米国特許出願公開第2006/0153891号明細書 甲4:特開2015-6996号公報 第4 当審合議体の判断 当審合議体は、本件特許の請求項1~8に係る特許は、申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。 なお、以下において、表中の枠線は、申立人が付加したものであり、下線は特に注釈がない限り当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。 1 文献の記載事項 (1)甲1の記載事項 (甲1a) 「【請求項1】害虫忌避成分と、乳化剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、皮膚保護剤としてメチルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリシロキサンから選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とするクリームおよび乳液状害虫忌避組成物。」 (甲1b) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は害虫忌避組成物に関し、さらに詳しくはその持続性と使用感を改善したクリームおよび乳液状害虫忌避組成物に係る。 ・・・ 【0006】 【発明が解決しようとする課題】最近のアウトドアの流行により、蚊、ハチ、アブ、ブユ、ダニ、ノミ、ナンキンムシ、ムカデ、ゲジゲジ等による被害が増加しており、特に野外にてツツガムシ病、ライム病などの刺咬害虫による問題も深刻化している。このため、本発明は乳幼児にも安全に使用できて、従来の害虫忌避組成物よりも塗布面上でべとつきを伴うことなく、かつ害虫忌避効果の持続性をさらに向上させ得るクリームおよび乳液状害虫忌避組成物を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者は前記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、乳化剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を配合するとともに、害虫忌避成分とある種の皮膚保護剤を配合することにより、簡便に忌避効果の持続性と使用感の優れたクリームおよび乳液状害虫忌避組成物が製造できることを見出し、本発明を達成するにいたった。 【0008】本発明においては、従来の界面活性剤の代わりにアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いて害虫忌避成分および油性物質を乳化し、耐水性の皮膚保護剤を併用することにより上記の課題を解決することができた。すなわち、本発明に係る害虫忌避組成物は(I)害虫忌避成分、(II)乳化剤としてアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、(III)皮膚保護剤としてメチルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリシロキサンから選ばれた少なくとも1種を配合して成る。 【0009】(I)の害虫忌避成分としては、害虫に対して忌避作用あるいは吸血阻害作用を有する合成あるいは天然の各種の化合物が挙げられる。たとえばN,N-ジエチル-m-トルアミド(以下DEETと略す)・・・ 【0011】(II)のアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体は、アクリル酸とメタクリル酸アルキルの共重合体であり・・・該物質はビー・エフ・グッドリッチ社から「ペミュレン」の商品名で市販されており・・・」 (甲1c) 「【0018】 【実施例】以下に実施例をもって本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は決してこれらに限定されるものではない。配合量は重量%である。 ・・・ 【0020】試験例及び評価方法 (1)忌避効果の測定 各サンプルを人の腕に塗布し、実際に蚊を用いて、各時間経過後の忌避効果を測定し、効果の強さと持続時間を以下の方法で評価した。 ・・・ 【0027】 【表1】 [図:0001437426000001.jpg] 」 (2)甲2の記載事項 (甲2a) 「【請求項1】ポリグリセリンの脂肪酸エステルを含む乳化剤組成物及び害虫忌避成分を含有することを特徴とする乳化状害虫忌避剤。」 (甲2b) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、乳化状害虫忌避剤、詳しくはポリグリセリンの脂肪酸エステル(ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル)を含む乳化剤組成物及び害虫忌避成分を含有する乳化状害虫忌避剤に関する。更に詳しくは、その耐水性乃至撥水性、持続性、付着性及び使用感等に優れた乳化状害虫忌避剤に関する。 【0002】 【従来の技術】例えば、N,N-ジエチル-m-トルアミド(以下、「DEET」と称する。)を含有した害虫忌避剤は従来より知られていたが、この成分が揮発性であることから、皮膚に塗布した際に皮膚表面から揮散し、更に皮膚の発汗による流れ出し等によって皮膚表面から害虫忌避成分が失われやすく、従来その持続性においては問題視する向きがあった。 ・・・ 【0004】 【発明が解決しようとする課題】前記のように持続性向上のために鉱物粉体を使用する方法は、水や汗に流れやすいこと、分散剤に界面活性剤を使用しなければならないため使用感が著しく低下すること、処理部分が乾燥後に当該鉱物粉体により白い粉を吹いたようになり、衣類等の汚れの原因になること等の問題が生じていた。又、ヒマシ油や水性シリコーンを使用する方法は、べとつき感により使用感が悪くなることや土・砂の付着等の問題点が生じていた。 【0005】又、飽和脂肪酸エステル油を配合する方法は、添加するエステル油が皮膚上での後残り感(べたつき感)を与えたり、安定化のために乳化される技術がpHに影響される等製造処方に制約を受けることがあった。特に使用感の点ではDEETは油状であるため、皮膚に塗布した際に皮膚上のべとつき感が大きかった。 ・・・ 【0007】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ポリグリセリンの脂肪酸エステルを含む乳化剤組成物及び害虫忌避成分を含有する乳化状害虫忌避剤は、従来の害虫忌避剤に比較して、耐水性、撥水性及び皮膚感触性に優れ、忌避効果の持続性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、ポリグリセリンの脂肪酸エステルを含む乳化剤組成物及び害虫忌避成分を含有する乳化状害虫忌避剤に関する。本発明による害虫忌避剤は塗膜の耐水性及び撥水性を有し、感触性に優れている。 【0008】 【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を説明する。 本発明の害虫忌避剤は、ヒトや家畜などの動物の皮膚に塗布させることにより害虫、特に刺咬性の害虫を忌避させることができる。 【0009】本発明に用いられるポリグリセリンの脂肪酸エステルは、式: HO-[-CH2-CH(OH)CH2O-]n-H (nは自然数)で示されるポリグリセリンと脂肪酸とのエステルであり、ポリグリセリンの有する水酸基の少なくとも1個が脂肪酸によりエステル化されておればよい。ポリグリセリンは、乳化作用、耐水性及び撥水性の観点から重合度が好ましくは4以上、より好ましくは4~10である。又、脂肪酸残基は同様の観点から好ましくは炭素数12以上で、より好ましくは14~22である。更に、ポリグリセリンの脂肪酸エステルは、高温での安定性の観点からHLB(親水親油バランス)が好ましくは8以下で、より好ましくは4~7である。・・・ 【0012】本発明に用いられる乳化剤組成物には、高級アルコール及び/又は親油性乳化剤を配合することもできる。・・・ 【0013】これ等の高級アルコール及び親油性乳化剤を使用する場合、その含有量は、・・・害虫忌避剤全重量に対しては2重量%以下であり、好ましくは重量0.5%~2重量%である。」 (甲2c) 「【0035】次の表1に示すような配合で本発明の刺咬性害虫忌避剤(実施例4)及び対照となる害虫忌避剤(比較例1~5)を実施例に準じて調製し(配合量はすべて重量%)各評価項目について評価を行った。評価結果を表2に示した。 【0036】 【表1】 [図:0001437426000002.jpg] 」 (3)甲3の記載事項(英文のため、訳文を示す。) (甲3a) 「(請求項28) 「皮膚への局所適用を目的とした乳化組成物であって、 害虫忌避活性成分と、 複数の液滴からなる内側の不連続相と、 外側の連続相と、 乳化剤、又は、乳化剤及び共溶媒の量であって、内側の不連続相に複数の液滴の複数の形式の液滴サイズ分布を生じさせることにより、当該組成物が準安定状態となり、皮膚に適用されたとき、準安定状態ではない同様の組成物の同様の量を適用する場合と比較して、より速い発現又はより長期間の害虫忌避効果を有するのに十分な量を含む乳化組成物。」 (甲3b) 「[0003] 本発明は、改良された、皮膚に対して害虫忌避保護をもたらす害虫忌避乳化組成物に関する。本発明は、また、あるレベルの害虫忌避活性成分によってもたらされる害虫忌避保護を改善する方法に関する。さらに、本発明の乳化組成物によってもたらされる忌避保護は、また、従来技術の害虫忌避組成物よりも少ない害虫忌避活性成分を使用して同じ害虫忌避効果をもたらす方法に関する。」 [0004] 2.従来技術の説明 [0005] 昆虫忌避組成物は、不連続内相の中に疎水性有機防虫剤活性成分を有するエマルジョンの形態で商業的に入手可能である。このようなエマルジョンは、例えば、米国特許第5,916,541号に示されている。 [0006] これまでは、伝統的に非常に安定なエマルジョン(すなわち、小さな均一な液滴サイズを有する)は、適切な昆虫忌避性を提供する昆虫忌避剤のエマルジョンを製造するために必要であったことが当業者によって認められている。そのような安定なエマルジョンは、乳化剤、皮膜形成剤および防虫剤活性成分の比較的高レベルの使用を必要とすることが観察されている。解決されるべき先行技術の問題は、昆虫忌避剤が活性成分の最小量で、好ましくは最大防虫保護製品は、向上した昆虫忌避製品を提供することである。 [0007] 加えて、従来の防虫剤乳濁液に関連する共通の問題は、皮膚への適用後の撥水撥油性の発現における遅延である。この遅延は、従来の昆虫忌避剤エマルジョンが安定である乳濁液の相の破壊のために必要とされる時間に関連する。その結果、消費者は、この時間遅延に起因して、昆虫曝露を経験する可能性がある。 [0008] したがって、従来可能であったよりも活性物質防虫剤の量が少なければ少ないほど高い防虫保護を提供する安定な乳化状態が昆虫忌避組成物を有することが望ましい。」 (甲3c) 「[0047] 以下の例は、従来の乳化組成物と比較した本発明の準安定状態の組成物を示すことのみを目的としており、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。 [図:0001437426000003.jpg] 」 (4)甲4の記載事項 (甲4a) 「【請求項1】 害虫忌避成分と、分子中に極性基を有する液体油と、(メタ)アクリル酸系重合体と、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴とする害虫忌避用組成物。」 (甲4b) 「【0001】 本発明は、害虫忌避用組成物に関する。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、上記問題点等に鑑み、害虫忌避性能の持続性に優れる害虫忌避用組成物を提供することを課題とする。 ・・・ 【0023】 前記害虫忌避用組成物は、皮膚に塗布されたときに、害虫忌避成分(特に、ディート)のベタツキを(メタ)アクリル酸系重合体によって抑えることができる。また、皮膚親和性に優れる水性保護膜を(メタ)アクリル酸系重合体によって皮膚表面に形成させることができるため、皮膚に塗布された時の使用感に優れている。 前記害虫忌避用組成物によれば、例えばエタノールが組成物に配合されていなくとも、害虫忌避成分との相溶性を有する液体油によって、害虫忌避成分(特に、ディート)を組成物中に安定的に配合することができる。従って、エタノールによる皮膚刺激を抑えることができる。また、前記害虫忌避用組成物によれば、害虫忌避成分(特に、ディート)由来の臭いを(メタ)アクリル酸系重合体によって抑えることができ、皮膚に塗布されたときの使用感を格段に優れたものとすることができる。 【0024】 前記害虫忌避用組成物においては、水と液体油と非イオン性界面活性剤とが含まれていることにより、少なくとも液体油が、非イオン性界面活性剤によって水中に分散され、乳化されている。 そして、乳化された害虫忌避用組成物は、液体油が水中に分散されて乳化された分、含まれる水の量が増えることから、例えば皮膚に塗布されたときに、使用感に優れている。 【0025】 また、乳化された害虫忌避用組成物においては、(メタ)アクリル酸系重合体によって乳化された液滴の合一等が抑制されることから、乳化された組成物の乳化安定性が優れたものとなり得る。 また、乳化された害虫忌避用組成物は、例えば皮膚に塗布されたときに、(メタ)アクリル酸系重合体によって皮膚親和性に優れた保護保水膜を皮膚上に形成させることができる。これにより、組成物中の水の揮発が抑制されることから、害虫忌避用組成物は、水分保持力に優れている。 ・・・ 【0028】 前記液体油としては、IOB値が0.1以上のものが好ましい。また、分子中に少なくともカルボン酸エステル基を有する脂肪酸エステル油が好ましい。また、IOB値が0.1以上の脂肪酸エステル油がより好ましい。 前記脂肪酸エステル油は、炭素数6~20の脂肪酸と、アルキルアルコールとがエステル結合してなる化合物である。 斯かるアルキルアルコールとしては、炭素数2~20のものが好ましい。また、分子中に1~3のヒドロキシ基を含むものが好ましい。 ・・・ 【0032】 前記IOB値0.1以上の液体油としては、例えば、パルミチン酸セチル(IOB=0.10)、カプリル酸セチル(IOB=0.12)、2-エチルヘキサン酸セチル(IOB=0.13)、パルミチン酸オクチル(IOB=0.13)、アジピン酸ジ-2-ヘプチルウンデシル(IOB=0.14)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン(IOB=0.14)、イソノナン酸イソトリデシル(IOB=0.14)、ジイソステアリン酸プロピレングリコール(IOB=0.15)、ミリスチン酸イソステアリル(IOB=0.15)、イソノナン酸イソトリデシル(IOB=0.15)、ジステアリン酸プロピレングリコール(IOB=0.15)、ジオレイン酸プロピレングリコール(IOB=0.16)、ジイソステアリン酸プロピレングリコール(IOB=0.16)、ジステアリン酸エチレングリコール(IOB=0.16)、ジステアリン酸グリコール(IOB=0.16)、オリーブ油(IOB=0.16)、マカダミアナッツ油(IOB=0.17)、ミリスチン酸イソプロピル(IOB=0.18)、トリイソステアリン酸グリセリル(IOB=0.18)、イソノナン酸2-エチルヘキシル(IOB=0.18)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン(IOB=0.20)、イソノナン酸イソノニル(IOB=0.20)、デシルテトラデカノール(IOB=0.21)、イソデシルベンゾエート(IOB=0.23)、ジラウリル酸エチレングリコール(IOB=0.23)、トリ(カプリル酸・カプリン酸・ステアリン酸)グリセリル(IOB=0.23)、パルミチン酸オクチル(IOB=0.24)、ジステアリン酸ジエチレングリコール(IOB=0.24)、ジカプリル酸ネオペンチルグリコール(IOB=0.25)、ジオレイン酸ジエチレングリコール(IOB=0.25)、ジイソステアリン酸ジエチレングリコール(IOB=0.25)、オクチルドデカノール(IOB=0.26)、リンゴ酸ジイソステアリル(IOB=0.27)、メトキシケイヒ酸オクチル(IOB=0.28)、オレイルアルコール(IOB=0.28)、ジイソステアリン酸グリセリル(IOB=0.29)、トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン(IOB=0.31)、トリオクタン酸トリメチロールプロパン(IOB=0.31)、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル(IOB=0.32)、ジカプリル酸プロピレングリコール(IOB=0.32)、コハク酸ジ2-エチルヘキシル(IOB=0.32)、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン(IOB=0.33)、エチルヘキサン酸ペンタエリスリット(IOB=0.35)、テトラ(ベヘン酸/安息香酸/エチルヘキサン酸)ペンタエリスリット(IOB=0.35)、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル(IOB=0.35)、トリオクタノイン(IOB=0.35)、テトラオクタン酸ペンタエリスリット(IOB=0.35)、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル(IOB=0.35)、セバシン酸ジイソプロピル(IOB=0.40)、ヒマシ油(IOB=0.42)、オレイン酸(IOB=0.42)、イソステアリン酸(IOB=0.43)、ジ-2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール(IOB=0.47)、サリチル酸オクチル(IOB=0.6)等が挙げられる。これらの液体油は、1種が単独で、又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。」 (甲4c) 「【0048】 前記非イオン性界面活性剤としては、組成物の製剤安定性をより優れたものにできるという点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン性界面活性剤が好ましい。 【0049】 前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン性界面活性剤としては、分子中にソルビタン構造をさらに有するポリオキシエチレンアルキルエーテル型ソルビタン系非イオン性界面活性剤が好ましい。 前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型非イオン性界面活性剤がソルビタン構造をさらに有することにより、組成物の製剤安定性をより優れたものにでき、しかも、害虫忌避成分に起因する組成物の臭いをより抑えることができるという利点がある。 【0050】 前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型ソルビタン系非イオン性界面活性剤としては、分子中にポリオキシエチレン構造とソルビタン構造と脂肪酸エステル構造とを有するものが好ましい。 【0051】 前記界面活性剤の脂肪酸エステル構造としては、ラウリン酸エステル構造、ミリスチン酸エステル構造、パルミチン酸エステル構造、直鎖ステアリン酸エステル構造、イソステアリン酸エステル構造、オレイン酸エステル構造、リシノール酸エステル構造などが挙げられる。 【0052】 前記界面活性剤の脂肪酸エステル構造としては、直鎖ステアリン酸エステル構造が好ましい。即ち、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル型ソルビタン系非イオン性界面活性剤としては、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンが好ましい。 ・・・ 【0062】 前記害虫忌避用組成物は、例えば、ヒトの皮膚に塗布されること、ヒト以外の動物に塗布されること、又は、生物以外の有体物に塗布されること等によって使用される。」 (甲4d) 「【0066】 害虫忌避用組成物の構成成分として、下記に示すものを用いた。そして、下記に示す方法によって、害虫忌避用組成物を製造した。 「害虫忌避成分」 ・N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(ディート)(購入品) 「極性基含有液体油」 ・2-エチルヘキサン酸セチル(IOB値=0.13)(購入品) 「(メタ)アクリル酸系重合体を含有する原料」 ・共重合体含有原料1 アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体 (セピック社製 製品名「シマルゲル(Simulgel)FL」) 共重合体を40質量%含有 ・共重合体含有原料2 アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸Na共重合体 (セピック社製 製品名「シマルゲル(Simulgel)EG」) 共重合体を40質量%含有 ・共重合体含有原料3 アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体 (セピック社製 製品名「SEPINOV EMT10」) 共重合体を 90質量%含有 ・共重合体含有原料4 アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸Na/ジメチルアクリルアミド クロスポリマー 共重合体を 95質量%含有 (セピック社製 製品名「SEPINOV P88」) 「非イオン性界面活性剤」 ・モノステアリン酸ポリオキシエチレン(EO20モル付加)ソルビタン (HLB値=14)(購入品) ・親油性ステアリン酸グリセリン (HLB値=4)(購入品) 「水」 ・イオン交換水 「(メタ)アクリル酸系重合体以外の高分子化合物」 ・ヒドロキシエチルセルロース(購入品) ユニオンカーバイト社製 「ヒドロキシエチルセルロース WP-3」 「極性基含有液体油以外の油」 ・流動パラフィン(IOB=0)(購入品) ・スクワラン (IOB=0)(購入品) 【0067】 (実施例1) 下記の表1に示す組成で各成分を混合することにより、害虫忌避用組成物を製造した。 具体的には、害虫忌避成分、液体油、(メタ)アクリル酸系重合体、及び非イオン性界面活性剤を80℃で均一に溶解させた油相と、80℃の水とを混合し、高速乳化分散機(PRIMIX社製 製品名「ホモミクサーMARKII」)によって撹拌し、乳化し、冷却することにより、クリーム状の害虫忌避用組成物を得た。 表1に示す数値は、害虫忌避用組成物100質量部における質量部を示す。 【0068】 【表1】 [図:0001437426000004.jpg] 【0069】 【表2】 [図:0001437426000005.jpg] 」 2 申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2-1(甲1を主引例とする進歩性欠如)について (1)甲1に記載された発明 甲1には、害虫忌避成分、乳化剤、皮膚保護剤を含む乳液状害虫忌避組成物(甲1a、甲1b)について、比較例のサンプルとともに人の腕に塗布し、実際に蚊を用いて、各時間経過後の忌避効果を測定したことが記載されており(甲1c)、当該比較例の具体的な成分が表1に記載されている。これらの記載から、次の「甲1発明」が記載されていると認める。 <甲1発明> 「以下の成分を含む、人の腕に塗布する乳液状害虫忌避組成物(配合量は重量%)。 [図:0001437426000006.jpg] 」 (2)本件発明1について ア 甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明の「人の腕に塗布する乳液状害虫忌避組成物」は、本件発明1の「人体用害虫忌避剤乳化組成物」に相当する。 (イ)甲1発明の「DEET」は害虫忌避成分であるから(摘記(甲1b)の【0009】)、本件発明1の「忌避有効成分(a)」に相当する。 (ウ)甲1発明の「モノステアリン酸グリセリル」はグリセリン脂肪酸エステルの1種であり(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/1100/)等参照。)、「テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(40E.O.)」はポリオキシエチレン脂肪酸エステルの1種であり(例えば、日光ケミカルズ株式会社のウェブサイト(https://chemi-navi.nikkolgroup.com/pharmaceuticals/10432)参照。)、いずれも周知のノニオン界面活性剤である。さらに、甲1発明の「ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)」もノニオン界面活性剤である(例えば、日光ケミカルズ株式会社のウェブサイト(https://chemi-navi.nikkolgroup.com/chemicals/10011/)等参照。)から、これらは本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」に相当する。 (エ)甲1発明の「キサンタンガム」は水溶性高分子である(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/viscosity-increasing-agents/3365/)等参照。)から、本件発明1の「水溶性高分子(c)」に相当する。 (オ)甲1発明の「精製水」は本件発明1の「水」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「忌避有効成分(a)と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)と、水溶性高分子(c)と、水とを含む人体用害虫忌避剤乳化組成物。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1-1> 本件発明1では「前記ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲が8~24質量%である」とされているのに対し、甲1発明では、ノニオン界面活性剤である「モノステアリン酸グリセリル」、「テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(40E.O.)」及び「ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)」の総量は2.3重量%(=1+1+0.3)、すなわち2.3質量%である点。 イ 相違点の判断 (ア)新規性について 相違点1-1において、本件発明1と甲1発明は明らかに相違するものであるから、相違点1-1は実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。 (イ)進歩性について 相違点1-1について、引用発明1は甲1における比較例であり、甲1には、比較例のノニオン界面活性剤の配合量を変更することについて記載されていない。 また、甲1には、その特許請求の範囲に記載の発明(摘記(甲1a))について、「従来の界面活性剤の代わりにアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いて害虫忌避成分および油性物質を乳化し」たものであると記載されている(摘記(甲1b)の【0008】)。 これらのことから、甲1を参酌しても、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体に置き換えられた、従来の界面活性剤である上記比較例のノニオン界面活性剤の濃度範囲を、あえて8~24質量%とする動機は見当たらない。 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人は申立書において、甲1発明の「トリ-2エチルヘキサン酸グリセリル、及びモノステアリン酸グリセリルは、本件特許発明1のノニオン界面活性剤(b)のグリセリン脂肪酸エステルに相当する」と主張する(申立書27頁16~18行)。 しかし、「トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル」(別名トリエチルヘキサノイン)は油性基剤であり、界面活性剤に該当しない成分である(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/base/1107/)等参照)。また、甲1に「従来の界面活性剤の代わりにアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いて害虫忌避成分および油性物質を乳化し」たものであると記載されている(摘記(甲1b)の【0008】)ところ、実施例にも「トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル」が含まれていることから(摘記(甲1c))、甲1においてもこれが界面活性剤とは認識されていないことは明らかである。 したがって、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1をさらに限定するものであるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~5、7及び8は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明2~8は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)甲1に基づく新規性欠如・進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~5、7及び8は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、請求項1~5、7及び8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 また、本件発明1~8は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 3 申立理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)及び申立理由2-2(甲2を主引例とする進歩性欠如)について (1)甲2に記載された発明 甲2には、ヒトや家畜などの動物の皮膚に塗布させることにより害虫、特に刺咬性の害虫を忌避させることができる害虫忌避剤である(摘記(1b))、ポリグリセリンの脂肪酸エステルを含む乳化剤組成物(摘記(甲2a))の対照である、比較例1についての記載(特に摘記(2c))からみて、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲2発明> 「以下の配合を有する、ヒトの皮膚に塗布させることにより害虫、特に刺咬性の害虫を忌避させることができる害虫忌避剤である乳化剤組成物(配合量はすべて重量%)。 [図:0001437426000007.jpg] 」 (2)本件発明1について ア 甲2発明との対比 (ア)甲2発明の「ヒトの皮膚に塗布させることにより害虫、特に刺咬性の害虫を忌避させることができる害虫忌避剤である乳化剤組成物」は、本件発明1の「人体用害虫忌避剤乳化組成物」に相当する。 (イ)甲2発明の「DEET」は害虫忌避成分であるから(摘記(甲2b)の【0002】)、本件発明1の「忌避有効成分(a)」に相当する。 (ウ)上記2(2)ア(ウ)で述べたとおり、「モノステアリン酸グリセリル」はグリセリン脂肪酸エステルの1種であり、「テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(40E.O.)」はポリオキシエチレン脂肪酸エステルの1種であり、さらに、「ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)」も上記2成分と同様にノニオン界面活性剤である。それゆえ、甲2発明の「モノステアリン酸グリセリル」、「テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(40E.O.)」及び「ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)」は、本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」に相当する。 (エ)上記2(2)ア(エ)で述べたとおり、「キサンタンガム」は水溶性高分子であるから、甲2発明の「キサンタンガム」は本件発明1の「水溶性高分子(c)」に相当する。 (オ)甲2発明の「精製水」は本件発明1の「水」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、 「忌避有効成分(a)と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)と、水溶性高分子(c)と、水とを含む人体用害虫忌避剤乳化組成物。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点2-1> 本件発明1では「前記ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲が8~24質量%である」とされているのに対し、甲2発明では、ノニオン界面活性剤である「モノステアリン酸グリセリル」、「テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(40E.O.)」及び「ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)」の総量は2.5重量%(=1+1+0.5)、すなわち2.5質量%である点。 イ 相違点の判断 (ア)新規性について 相違点2-1において、本件発明1と甲2発明は明らかに相違するものであるから、相違点2-1は実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は甲2に記載された発明であるとはいえない。 (イ)進歩性について 相違点2-1について、引用発明2は甲2における比較例であり、甲2には、比較例のノニオン界面活性剤の配合量を変更することについて記載されていない。 また、甲2には、甲2の特許請求の範囲の害虫忌避剤に配合する乳化剤についても、「これ等の高級アルコール及び親油性乳化剤を使用する場合、その含有量は、・・・害虫忌避剤全重量に対しては2重量%以下であり、好ましくは重量0.5%~2重量%である。」と記載されており(摘記(甲2b)の【0013】)、親油性乳化剤を使用する場合でも、その濃度範囲は8~24質量%よりも低くすることが示唆されている。 これらのことから、甲2を参酌しても、ノニオン界面活性剤について、その濃度範囲を8~24質量%とする動機は見当たらない。 したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人は申立書において、甲2発明の「モノステアリン酸グリセリルと、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(40E.0.)と、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリルとの総量の濃度は、8.5質量%(=1.0質量%+0.5質量%十7.0質量%)であり、本件特許発明1の濃度範囲(8~24質量%)に包含される」と主張する(申立書29頁20~24行)。 しかし、上記2(2)ウで述べたとおり、「トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル」(別名トリエチルヘキサノイン)は油性基剤であり、界面活性剤に該当しない成分である。 したがって、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明2~8は、上記(2)と同様の理由により、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)甲2に基づく新規性欠如・進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~8は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定及び特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 4 申立理由1-3(甲3に基づく新規性欠如)及び申立理由2-3(甲3を主引例とする進歩性欠如)について (1)甲3に記載された発明 甲3には、改良された、皮膚に対して害虫忌避保護をもたらす害虫忌避乳化組成物(摘記(甲3a)及び(甲3b))について、従来の乳化組成物を比較例とした成分比較を行っており、当該比較例の具体的な成分が記載されている(摘記(甲3c))。これらの記載から、次の「甲3発明」が記載されていると認める。 <甲3発明> 「以下の成分を有する、害虫忌避乳化組成物。 [図:0001437426000008.jpg] 」 (2)本願発明1について ア 対比・判断 本件発明1と甲3発明を対比する。 (ア)甲3発明の「害虫忌避乳化組成物」は、本件発明1の「害虫忌避剤乳化組成物」に相当する。 (イ)甲3発明の「害虫忌避成分」は本件発明1の「忌避有効成分(a)」に相当する。 (ウ)甲3発明の「主乳化剤(例:セチルリン酸DEA、ステアリン酸PEG-100)」について、「セチルリン酸DEA」はリン酸セチルとジエタノールアミン(DEA)の塩であり(例えばCosmetic-Info.jpウェブサイト(https://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=1125)等参照。)、その構造から陽イオン(カチオン基)と陰イオン(アニオン基)の双方を併せ持っている両性界面活性剤であると認められる。また、「ステアリン酸PEG-100」は非イオン性、つまりノニオン性界面活性剤である(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/2230/)等参照。)。 また、甲3発明の「助乳化剤(例:ベヘニルアルコール、ステアリン酸ポリグリセリル、セチルアルコール、コレス-24)」について、「ステアリン酸ポリグリセリル」及び「コレス-24」はいずれも非イオン性界面活性剤である(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/4140/)及び(https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/533/)等参照。)。他方、「ベヘニルアルコール」及び「セチルアルコール」はいずれも界面活性剤ではなく乳化安定化剤である(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/emulsion-stabilizer/262/)及び(https://cosmetic-ingredients.org/emulsion-stabilizer/498/)等参照。)。 そのため、甲3発明の「主乳化剤」と本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」と、界面活性剤である点で一致する。 (エ)甲3発明の「増粘高分子(例:カーボマー、アクリレーツコポリマー)」について、「カーボマー」及び「アクリレーツコポリマー」は水溶性高分子である(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/viscosity-increasing-agents/5092/)及び(https://cosmetic-ingredients.org/viscosity-increasing-agents/52/)等参照。)。 また、甲3発明の「増粘ガム(例:キサンタンガム、カラギーナン)」について、上記2(2)ア(エ)で述べたとおり、「キサンタンガム」は水溶性高分子である。また、「カラギーナン」は冷水又は熱水に溶ける天然多糖類である(例えば、三晶株式会社ウェブサイト(https://sansho.co.jp/material/basic-carrageenan-1/)等参照。)であり、水溶性の高分子であるといえる。 そのため、甲3発明の「増粘高分子」及び「増粘ガム」は本件発明1の「水溶性高分子(c)」に相当する。 (オ)甲3発明の「水」は本件発明1の「水」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「忌避有効成分(a)と、界面活性剤(b’)と、水溶性高分子(c)と、水とを含む人体用害虫忌避剤乳化組成物。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点3-1> 本件発明1が「人体用」であるのに対し、甲3発明が「人体用」であるか不明な点。 <相違点3-2> 本件発明1が「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」を用いるのに対し、甲3発明は「主乳化剤(例:セチルリン酸DEA、ステアリン酸PEG-100)」及び「助乳化剤(例:ベヘニルアルコール、ステアリン酸ポリグリセリル、セチルアルコール、コレス-24)」を用いる点。 <相違点3-3> 本件発明1では「前記ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲が8~24質量%である」とされているのに対し、甲3発明では、界面活性剤である「主乳化剤」の濃度は2.0~8.0重量%である点。 イ 相違点の判断 (ア)新規性について 相違点3-1について、甲3には従来技術について、「消費者は、この時間遅延に起因して、昆虫曝露を経験する可能性がある。」と記載されており(摘記(甲3b))、「消費者」とは「人」であるから、甲3発明も「人体用」であることが明らかである。 それゆえ、相違点3-1は実質的相違点ではない。 しかし、相違点3-2について、甲3発明の「主乳化剤」は例として2つの成分を挙げ、「助乳化剤」は例として4つの成分を挙げているが、「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエレン脂肪酸エステル」の組合せを含むノニオン界面活性剤は具体的に記載されていないから、相違点3-2は実質的な相違点である。 したがって、本件発明1は甲3に記載された発明であるとはいえない。 (イ)進歩性について 相違点3-2について、従来技術として示された甲3発明について、その成分の組合せを試行錯誤して改良するという動機はないため、甲3を参酌しても、甲3発明の「主乳化剤」と「助乳化剤」から特定の組合せを選択する動機付けは見当たらない。 また、仮にそのような動機付けがあったとしても、甲3の記載から「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエレン脂肪酸エステル」の組合せを選択することはできない。 すなわち、甲3発明の「主乳化剤」に例示される「ステアリン酸PEG-100」は本件発明1の「ポリオキシエチレン脂肪酸エステル」に相当するといえるものの、「助乳化剤」として例示される「ステアリン酸ポリグリセリル」は本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステル」に該当しない。 なぜなら、甲3に記載の「ステアリン酸ポリグリセリル」はその名称のとおり、ポリグリセリンとステアリン酸のエステルであるのに対し、本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステル」は、本件明細書の【0027】にも記載されているとおり、「グリセリンと脂肪酸のエステル」、つまり1つのグリセリン分子に脂肪酸がエステル結合したものと解すべきであり、両者は異なる物質であるためである。 」それゆえ、甲3には「グリセリン脂肪酸エステル」は記載されていないというべきである。 また、相違点3-3について、仮に甲3発明の主乳化剤として「ステアリン酸PEG-100」を選択し、助乳化剤として「ステアリン酸ポリグリセリル」を選択する動機があり、また「ステアリン酸ポリグリセリル」が本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステル」に相当すると解釈できたとしても、その配合量は合計で2.5~13重量%(すなわち、質量%)(=2.0~8.0重量%+0.5~5重量%)となり、本件発明1の8~24質量%とは範囲が異なる。 この点、甲3には、従来技術として示された甲3発明について、その成分の配合量を試行錯誤して改良するという動機はないため、甲3を参酌しても、甲3発明の「主乳化剤」と「助乳化剤」について配合量を8~24質量%とする動機付けは見当たらない。 さらに、本件明細書の実施例10~16と比較例4~8を比べると、界面活性剤成分を8.0質量%含む実施例10は、同成分を6.41質量%しか含まない比較例5よりも、-5°と50°での安定性が優れており、予想を超える顕著な効果があるといえる。 そのため、甲3発明において、界面活性剤の配合量を8~24質量%とすることは当業者といえども、容易になし得たこととはいえない。 以上のことから、本件発明1は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人は申立書において、甲3には、従来技術としての乳化組成物が記載されており、 「当該従来技術のステアリン酸PEG-100は、本件特許発明1のノニオン界面活性剤(b)のポリオキシエチレン脂肪酸エステルに相当する。 また、ステアリン酸ポリグリセリルと、ステアリン酸PEG-100との総量の濃度は、2.5~13.0重量%(すなわち、質量%)(=2.0~8.0重量%+0.5~5重量%)であり、本件特許発明1の濃度範囲(8~24質量%)と重複する。 したがって、甲第3号証には、発明特定事項(1b)、(1f)が記載されている。」(申立書30頁下から7行~31頁9行) と主張している。 また、上記主張から、甲3発明の「ステアリン酸ポリグリセリル」が本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステル」に相当することを主張しているものと理解できる。 しかしながら、上記イで述べたとおり、甲3の記載からは、甲3発明の「主乳化剤」と「助乳化剤」の組合せの中から、特定の組合せを選択する動機は見当たらず、また仮に「ステアリン酸ポリグリセリル」と「ステアリン酸PEG-100」を選択したとしても、前者は本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステル」に該当せず、仮に該当したとしても、「主乳化剤」と「助乳化剤」の配合量を8~24質量%とする動機は見当たらず、さらにその効果も予測できないから、相違点3-2及び3-3の構成を採用することは、当業者といえども、容易になし得たこととはいえない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1をさらに限定するものであるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2、4、5及び8は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明2~8は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)甲3に基づく新規性欠如・進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1、2、4、5及び8は、甲3に記載された発明であるとはいえないから、請求項1、2、4、5及び8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 また、本件発明1~8は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 5 申立理由1-4(甲4に基づく新規性欠如)及び申立理由2-4(甲4を主引例とする進歩性欠如)について (1)甲4に記載された発明 甲4には、害虫忌避成分と、分子中に極性基を有する液体油と、(メタ)アクリル酸系重合体と、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴とする害虫忌避用組成物(摘記(甲4a))であって、ヒトの皮膚に塗布される組成物(摘記(甲4c))が記載されており、その具体例として、摘記(甲4d)の【0067】、【表1】及び【表2】の実施例1~4において、乳化されたクリーム状の害虫忌避用組成物が記載されている。また、上記表の「共重合体含有原料1」及び「共重合体含有原料2」は摘記(甲4d)の【0066】に記載されている。これらの記載から、甲4には、次の「甲4発明」が記載されていると認める。 <甲4発明> 「害虫忌避成分と、分子中に極性基を有する液体油と、(メタ)アクリル酸系重合体と、非イオン性界面活性剤とを含むことを特徴とする害虫忌避用組成物であって、以下の表に示される実施例1~4のいずれかの組成からなる、ヒトの皮膚に塗布される、乳化されたクリーム状の害虫忌避用組成物。 [図:0001437426000009.jpg] [図:0001437426000010.jpg] ここで、上記の表の「共重合体含有原料1」及び「共重合体含有原料2」は以下の成分からなるものである: ・共重合体含有原料1 アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体 (セピック社製 製品名「シマルゲル(Simulgel)FL」) 共重合体を40質量%含有 ・共重合体含有原料2 アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸Na共重合体 (セピック社製 製品名「シマルゲル(Simulgel)EG」) 共重合体を40質量%含有」 (2)本願発明1について ア 対比・判断 本件発明1と甲4発明を対比する。 (ア)甲4発明の「ヒトの皮膚に塗布される、乳化されたクリーム状の害虫忌避用組成物」は、本件発明1の「人体用害虫忌避剤乳化組成物」に相当する。 (イ)甲4発明の「ディート」は「害虫忌避成分」であるから(摘記(甲4b)の【0023】)、本件発明1の「忌避有効成分(a)」に相当する。 (ウ)甲4発明の「モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン」はノニオン界面活性剤である(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/surfactants-emulsifying-agents/2454/)等参照。)。しかし、本件明細書の【0029】に「ポリオキシエチレン脂肪酸エステル」について「ポリオキシエチレン基の平均繰り返し(エチレンオキサイドの平均付加モル数)したポリエチレングリコールと脂肪酸のエステル」と記載され、ソルビットの付加については言及されていない一方、【0041】には「その他の界面活性剤」として「ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル」が挙げられていることから、甲4発明の「モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン」は、本件発明1の「ポリオキシエチレン脂肪酸エステル」には含まれず、そのため、ノニオン界面活性剤という限度で一致する。 (エ)甲4発明の「共重合体含有原料1」及び「共重合体含有原料2」について、セピック社の製品を扱う株式会社成和化成のウェブサイト(https://seiwakasei.jp/product/seiwa_supply/product01?is_product_confirm=1)には、製品名「Simulgen FL」や、「Simulgel EG」と同様の成分の「Simulgel EG QD」等の製品について、「ポリマー成分に水を加えることで、瞬時に独自のゲルネットワークを形成して活性型となります。乳化と増粘が同時に起こるので、複雑なHLB計算は不要です。」と記載されている。本件明細書【0037】には、「水溶性高分子(c)とは、水に溶解又は分散し、水性溶媒を増粘させることが可能な高分子を指す。」と記載されているが、上記の「共重合体含有原料1」及び「共重合体含有原料2」は、ゲル形成性ではあるものの、水に溶解又は分散することが明らかではない点で、「水溶性」とまではいえず、「高分子」である限りにおいて一致する。 (オ)甲4発明の「水」は本件発明1の「水」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲4発明とは、 「忌避有効成分(a)と、ノニオン界面活性剤(b’)と、高分子(c’)と、水とを含む人体用害虫忌避剤乳化組成物。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点4-1> ノニオン界面活性剤について、本件発明1が「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」を用いるのに対し、甲4発明が「モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン」を用いる点。 <相違点4-2> 本件発明1では「前記ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲が8~24質量%である」とされているのに対し、甲4発明では、「ノニオン界面活性剤」である「モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン」の濃度は1.5重量%である点。 <相違点4-3> 高分子について、本件発明1が「水溶性高分子」を用いるのに対し、甲4発明の「アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体(セピック社製 製品名「シマルゲル(Simulgel)FL」)共重合体を40質量%含有」及び/又は「アクリロイルジメチルタウリンNa/アクリル酸Na共重合体(セピック社製 製品名「シマルゲル(Simulgel)EG」)共重合体を40質量%含有」が「水溶性高分子」に該当するかが不明な点。 イ 相違点の判断 (ア)新規性について 相違点4-1について、上記ア(ウ)で述べたとおり、甲4発明の「モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン」は本件発明1の「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」に該当しないから、相違点4-1は実質的相違点である。 したがって、本件発明1は甲4に記載された発明であるとはいえない。 (イ)進歩性について 相違点4-1について、甲4の摘記(甲4b)には、甲4発明の「2-エチルヘキサン酸セチル」に代えて、液体油として、トリイソステアリン酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸・ステアリン酸)グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル、及びトリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン(「トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル」の誤記と認められる。)を用いても良いと記載されている。 しかしながら、トリイソステアリン酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸・ステアリン酸)グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル、及びトリ(カプリル・カプリン酸)グリセリルは、いずれも油性基剤であり、本件発明1のノニオン界面活性剤である「グリセリン脂肪酸エステル」とは異なるものである(例えば、化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org/base/3263/)、(https://cosmetic-ingredients.org/base/6306/)、(https://cosmetic-ingredients.org/base/6359/)、及び(https://cosmetic-ingredients.org/base/424/)等参照。) したがって、甲4の記載に基づき、甲4発明の「2-エチルヘキサン酸セチル」に代えて、ノニオン界面活性剤である「グリセリン脂肪酸エステル」を用いることが記載されているとはいえない。また、甲4のその他の記載を参酌しても、甲4発明のノニオン界面活性剤として「グリセリン脂肪酸エステル」を使用する動機は見当たらない。 よって、甲4発明において、相違点4-1を採用する動機はなく、そのため相違点4-1の「ノニオン界面活性剤(b)」を使用することを前提とした相違点4-2を採用する動機もない。 以上のことから、甲4発明において、相違点4-1及び相違点4-2に係る技術的事項を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 申立人の主張について 申立人は申立書において、 「甲第4号証には、液体油として・・・2ーエチルヘキサン酸セチル(IOB=O.13)とともに、トリイソステアリン酸グリセリル・・・といったグリセリン脂肪酸エステルが例示されている。・・・甲第4号証の上記グリセリン脂肪酸エステルは、甲第4号証においては液体油と称されているものの、本件特許発明1のノニオン界面活性剤(b)のグリセリン脂肪酸エステルに相当することは明らかである。」 と主張する(申立書32頁6行~32頁下から7行)。 しかしながら、上記イ(イ)で述べたとおり、甲第4号証の「グリセリン脂肪酸エステル」は、本件特許発明1のノニオン界面活性剤(b)のグリセリン脂肪酸エステルに該当しない。 したがって、上記主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1をさらに限定するものであるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2~5、7及び8は、甲4に記載された発明であるとはいえず、また、本件発明2~8は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)甲4に基づく新規性欠如・進歩性欠如についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~5、7及び8は、甲4に記載された発明であるとはいえないから、請求項1~5、7及び8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 また、本件発明1~8は、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 6 申立理由3(サポート要件違反)について (1)本件発明の課題 本件発明の課題は、発明の詳細な説明の記載、特に【0010】の記載から、「舞い散りがなく、手足のみならず、顔や首筋にもムラなく均一に塗布でき、塗布時のべたつき感やぬるつき感、塗布後の肌のツッパリ感が少なく、忌避有効成分の滞留性に優れ、長期保存下でも分離などを生じず、しかも、良好な安定性を有する人体用害虫忌避剤を提供すること」であると認められる。 (2)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、上記課題を解決する手段として、人体用害虫忌避剤を、忌避有効成分(a)と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)と、水溶性高分子(c)と、水とを含んでなるものとすることが記載されている(【0022】)。 そして、具体的な忌避有効成分(a)としては、害虫に対する忌避効果を有する成分であればよいこと(【0024】)、ノニオン界面活性剤(b)に含まれるグリセリン脂肪酸エステルは、例えばグリセリンと脂肪酸のエステルであり、グリセリンの水酸基の少なくとも1個が脂 肪酸によりエステル化されているものを挙げることができること(【0027】)、また(b)に含まれるポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレン基の平均繰り返し(エチレンオキサイドの平均付加モル数)したポリエチレングリコールと脂肪酸のエステルであり、ポリエチレングリコールの水酸基の少なくとも1個以上が脂肪酸によりエステル化されているものであること(【0029】)、さらに、ノニオン界面活性剤(b)のHLBは8~19とすることができ、また9~16であってもよいことが記載されている(【0032】)。 また、ノニオン界面活性剤(b)の濃度は、人体用害虫忌避剤の全質量に対して8~24質量%とすることができ、ノニオン界面活性剤(b)の濃度が上記下限値未満であると、人体用害虫忌避剤の安定性が低下するおそれがあり、上記上限値を超えると、人体用害虫忌避剤の使用感が低下するおそれがあることが記載されている(【0043】)。 さらに、上記水溶性高分子(c)は、水に溶解又は分散し、水性溶媒を増粘させることが可能な高分子であり(【0037】)、乳化・分散させた会合体の吸着層に作用し、立体保護作用や静電反発力に起因し、会合体の安定化に寄与するものであり、人体用害虫忌避剤が水溶性高分子(c)を含むことで、界面活性剤の濃度が少なくても会合体を安定化することができ、長期保存下でも経日粘度変化の低減や会合体の凝集や合一を抑制し、分離を防ぐことができることが記載されている(【0036】)。 そして、以下の【表1】~【表3】に示されるように、種々の成分や配合量を用いた28種の実施例と8種の比較例を作成し、「安定性試験評価」、「舞い散り評価」、「均一塗布のし易さ評価」、「肌への刺激感評価」、「肌のツッパリ感評価」、及び「吸血阻止持続効果試験(害虫忌避試験)」によって評価を行い、本件発明の構成が上記課題を解決しうることが記載されている(【0054】~【0085】)。 「【表1】 [図:0001437426000011.jpg] 」 「【表2】 [図:0001437426000012.jpg] 」 「【表3】 [図:0001437426000013.jpg] 」 したがって、本件発明1~8は、その範囲全体にわたって前記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。 (3)申立人の主張について 申立人は申立書において、以下の旨を主張している。 ア (申立書46頁15行~最下行) 「本件特許発明1は、「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」との発明特定事項を備えている。 しかし、本件特許の出願当初の明細書等には、全体を通して「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる2種以上のノニオン界面活性剤(b)」と記載されており、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル以外のノニオン界面活性剤化合物(以下、「他のノニオン界面活性剤化合物」と称する)を含むノニオン界面活性剤(b)は記載されていない。 したがって、本件特許発明1は、ノニオン界面活性剤(b)がグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル以外に、あらゆる他のノニオン界面活性剤化合物を含む場合において、本件特許発明1の課題を解決し得るとは認められない。」 イ (申立書47頁1行~12行) 「本件特許発明1の「グリセリン脂肪酸エステル」は、炭素数、脂肪酸の数量、飽和・非飽和、直鎖・分岐を一切問わない、あらゆるグリセリン脂肪酸エステルに相当する化合物を包含するものである。また、本件特許発明1の「ポリオキシエチレン脂肪酸エステル」は、炭素数、脂肪酸の数量、ポリオキシエチレン基の重合度、飽和・非飽和、直鎖・分岐を一切問わない、あらゆるポリオキシエチレン脂肪酸エステルに相当する化合物を包含するものである。 これに対し、本件特許明細書の[実施例]においては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしてそれぞれ如何なる化合物を使用したのか記載されておらず、また、当該明細書には、それぞれ如何なる化合物を使用しても本件特許発明1の課題を解決し得ることを示すようなメカニズム等は一切記載されていない。」 ウ 上記主張に対する当審合議体の判断 上記アの主張について、発明の詳細な説明の【0041】には、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステル以外の界面活性剤として、「ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等」のノニオン界面活性剤を例示しており、「これらの界面活性剤は人体用害虫忌避剤の安定性を損ないにくく、好ましい。」と記載している。さらに、上記例示されたノニオン性界面活性剤のうち、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール以外の3種類については、実施例21~23(【表3】参照。)において、それぞれをグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルと組み合わせた組成物が、他の実施例と同様の効果を示したことが記載されている。 したがって、「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」との発明特定事項についても、本願発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。 また、上記イの主張について、グリセリン脂肪酸エステルについて、発明の詳細な説明の【0027】~【0028】には、ラウリン酸グリセリル等、7種類の具体的化合物名や、限定的な範囲で脂肪酸の炭素数が例示されており、またポリオキシエチレン脂肪酸エステルの種類についても、【0030】にラウリン酸ポリエチレングリコール(120E.O.)等、6種類の限られた数の具体例が挙げられている。 この点、実施例において用いられた化合物がどれであるかは明記されていないものの、上記記載からは、一定の共通する性質を有する化合物群が記載されていると認められる。 したがって、上記実施例の記載、並びに技術常識を考慮すれば、「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」に該当する成分であれば、本願発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものである。 よって、上記いずれの主張も採用できない。 7 申立理由4(実施可能要件違反)について (1)本件発明の実施可能要件について 上記6(2)で説示したように、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1~8が、その範囲全体にわたって本件発明の課題を解決できることが記載されているから、本件発明1~8について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (2)申立人の主張について 申立人は申立書において、以下の旨を主張している。 ア (申立書48頁8行~21行) 「本件特許明細書においては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしてそれぞれ、具体的に如何なる化合物を使用すれば本件特許発明1の課題を解決し得ることを示すようなメカニズム等は一切記載されていない。 また、仮に本件特許明細書において、特定のノニオン界面活性剤を用いた場合に本件特許発明1の課題が解決される旨の説明や作用機序の記載が存在するとしても、それは当該特定の化合物についての効果を示すにとどまる。しかし、本件特許の請求項1は、グリセリン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルという広範な化学種を包含するものであり、脂肪酸の炭素鎖長、HLB等が異なる多様な化合物を包含するものである。炭素鎖長が異なる化合物や、異なるHLBを有する別種のノニオン界面活性剤においても同様の効果が得られるか否かは、本件特許明細書の記載からは全く導くことができない。」 イ (申立書48頁下から2行~49頁下から2行) 「本件特許の請求項1のノニオン界面活性剤(b)、これを構成しているグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルのHLBを、本件特許の請求項3、6、7に記載された数値範囲で規定したとしても、上記「(イ)」のとおり、本件特許明細書には、[実施例]で用いた界面活性剤が特定されておらず、それゆえ、当業者が各HLBの数値範囲を再現するために必要な技術情報が記載されているとはいえない。具体的には、当該[実施例]の段落[0057]の表1、及び段落[0058]の表2においては、ノニオン界面活性剤(b)について、「グリセリン脂肪酸エステル」、「POE脂肪酸エステル」としか記載されていない。ところが、各表には「界面活性剤の混合HLB」が記載されている。 しかし、上記のような記載では、ノニオン界面活性剤(b)を構成する「グリセリン脂肪酸エステル」、「POE脂肪酸エステル」における炭素数、ポリエキシエチレン基の重合度、脂肪酸の種類、グリセリン基がモノグリセリン基であるかポリ(ジ、トリ等の重合度が2以上の)グリセリン基であるか等が全く分からない。それゆえ、「グリセリン脂肪酸エステル」、「POE脂肪酸エステル」からそれぞれ具体的な化合物を選択する際の範囲及び組み合わせは極めて広く、選択の結果によってノニオン界面活性剤(b)のHLBは大きく異なるものとなる。 このため、上記[実施例]の各表における「界面活性剤の混合HLB」、すなわち「ノニオン界面活性剤(b)のHLB」は、それを構成する「グリセリン脂肪酸エステル」、「POE脂肪酸エステル」の如何なるHLBの数値を前提に計算した値であるかが不明であり、さらに、本件特許明細書には、「ノニオン界面活性剤(b)のHLB」を規定するために不可欠な、各界面活性剤の具体的な種類及び個々のHLBが記載されていない。 したがって、当業者は、ノニオン界面活性剤(b)、これを構成しているグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルのHLBを、過度の試行錯誤を行うことなく特定の範囲に設定し、実施することができない。 ウ 上記主張に対する当審合議体の判断 上記ア及びイにおけるHLBの点について、発明の詳細な説明の【0028】には、 「脂肪酸の炭素数は12以上とすることができ、また14~22であってもよい。更に、グリセリン脂肪酸エステルのHLBは8以下とすることができ、また2~7であってもよい。」 と記載され、【0031】には、POE脂肪酸エステルについて、 「脂肪酸の炭素数は12以上とすることができ、また14~22であってもよい。POEの数は10~250とすることができ、また100~200であってもよい。更に、POE脂肪酸エステルのHLBは9以上とすることができ、また10~20であってもよい。」 と記載されている。 このように、グリセリン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルについて、例示された化合物に対応するHLBの範囲は一定の傾向を示すことが理解でき、また各実施例の記載を通じて、それぞれの傾向を示すノニオン界面活性剤を組合せた効果として、本願発明の課題が解決できることが理解できる。そして、技術常識を考慮すれば、実施例以外の組合せについても、同様の効果が得られることは理解できるといえる。 他方、申立人は発明の詳細な説明における、これらの成分の組合せや他の配合例について体系的かつ一貫性のある記載に対し、当該記載で示された効果が類推できない場合があること具体的根拠を示すことなく、単に選択しうるグリセリン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルの範囲が広いということを述べるにとどまるため、当該主張は採用できない。 その他の主張については、上記6(2)で述べたことと同様の理由より、いずれも採用できない。 8 申立理由5(補正要件違反)について (1)補正の内容 令和7年6月26日提出の手続補正書による補正には、以下の補正事項1及び2が含まれるものと認められる。 [補正事項1] 請求項1の 「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)」 との記載を 「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」 との記載に補正する。 [補正事項2] 請求項1の 「人体用害虫忌避剤。」 との記載を、 「人体用害虫忌避剤乳化組成物であって、 前記ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲が8~24質量%である、人体用害虫忌避剤乳化組成物」 との記載に補正する。 (2)当審合議体の判断 ア 補正事項1について まず、補正事項1について検討すると、上記6(3)ウで述べたとおり、発明の詳細な説明の【0041】、【表3】の実施例21~23の記載に基づき、「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」との発明特定事項についても、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。 そして、上記補正によって、【0041】及び【表3】は補正されておらず、本件特許の願書に最初に添付した明細書に記載したものと同じであるから、「グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含むノニオン界面活性剤(b)」との発明特定事項についても、本件特許の願書に最初に添付した明細書に記載したものである。 したがって、補正事項1は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項から、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。 イ 補正事項2について 補正事項2について検討すると、ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲については、発明の詳細な説明の【表1】~【表3】に記載された「ノニオン界面活性剤」の濃度の下限値8.00質量%(実施例10)及び上限値24.00質量%(実施例9)に基づき、8~24質量%を読み取ることができ、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステル以外のノニオン界面活性剤を含む実施例21~23についても、ノニオン界面活性剤の合計の濃度は10(=2.5+2.5+5)~17(=7.5+7.5+2)質量%の範囲であり、8~24質量%の範囲内であり、その中央部分と一致する。 そして、【表1】~【表3】は本件特許の願書に最初に添付した明細書に記載したものと同じであるから、「ノニオン界面活性剤(b)の総量の濃度範囲が8~24質量%」との発明特定事項についても、本件特許の願書に最初に添付した明細書に記載したものである。 したがって、補正事項1を含めて考慮した補正事項2について、当初明細書等に記載された事項から、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。 よって、当初明細書等全体の記載を総合すれば、令和7年6月26日提出の手続補正書による補正は、当初明細書等に記載された事項から、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2026-700169

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