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特許異議申立

2024-700075

植物成長促進組成物

審判番号
2024-700075
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-134366
登録番号
7317275
請求日
2024年01月31日
審決日
2025年04月22日
公報発行日
2025年07月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社AGRI SMILE
  • 【権利者代理人】稲葉 良幸
  • 【権利者代理人】斉藤 直彦
  • 【権利者代理人】山中 遙加
  • 【異議申立人】木村 昌明
審判長/審判官
  • 審判長 阪野 誠司
  • 審判官 野田 定文
  • 審判官 井上 典之
分類
P1651.537-YAA(A01N) / P1651.536-YAA(A01N) / P1651.113-YAA(A01N) / P1651.121-YAA(A01N) / P1651.851-YAA(A01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7317275号発明「植物成長促進組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7317275号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第7317275号の請求項1~2、4~5に係る特許を維持する。 特許第7317275号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7317275号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2022-134366号)は、令和4年8月25日に出願され、令和5年7月21日に特許権の設定の登録(請求項の数:5)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和6年1月31日に特許異議申立人 木村 昌明 (以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~5に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。 その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和6年 2月16日付け 手続補正指令(方式)(申立人宛て) 同年 3月 7日 手続補正書(方式)の提出(申立人) 同年 6月24日付け 取消理由通知(特許権者宛て) 同年 8月20日 面接(特許権者) 同年 同月26日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) 同年 9月 9日付け 手続補正指令(方式)(特許権者宛て) 同年 同月25日 手続補正書(方式)の提出(特許権者) 同年10月 4日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人宛て) 同年11月 8日 意見書の提出(申立人) 同年 同月22日 手続補正書(方式)の提出(申立人) 同年12月16日付け 取消理由通知(決定の予告) 令和7年 2月10日 応対記録(特許権者、日付は初回応対日) 同年 2月18日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) なお、令和6年8月26日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「先の訂正請求」という。)は、令和7年2月18日提出の訂正請求書による訂正の請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 また、申立人には、先の訂正請求に対する意見書の提出の機会が与えられており、下記第2で述べる本件訂正請求により、本件特許の特許請求の範囲が相当程度減縮され、本件特許異議申立事件において提出された全ての証拠及び意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても、本件訂正請求による訂正後の本件特許の請求項1~2、4~5に係る特許を維持すべきとの結論になると合議体は判断した。 したがって、取消理由通知(決定の予告)に対してされた本件訂正請求については、申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるといえるから(特許法第120条の5第5項ただし書)、申立人に再度の意見書を提出する機会を与えないこととした。 第2 訂正の請求について 1 訂正の請求の趣旨 令和7年2月18日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、 「特許第7317275号(以下、「本件特許」という)の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」 というものである。 2 訂正の内容 (1) 本件訂正前後の特許請求の範囲の記載 ア 本件訂正前の特許請求の範囲の記載 本件訂正前(本件特許の設定登録時)の本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを有効成分として含み、 温度ストレス、化学的ストレス、光ストレス、乾燥ストレス、pHストレス、塩ストレス、低酸素ストレス、食害ストレス、物理的ストレス、病害ストレスからなる群から選択される1種以上に対するストレス耐性向上作用を有する、非生物的ストレス耐性向上用組成物。 【請求項2】 茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、および分蘖の促進からなる群から選択される1種以上の植物成長促進作用を有する、請求項1記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物。 【請求項3】 ストレス応答系の遺伝子を活性化させる、請求項1又は2に記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物。 【請求項4】 請求項1又は2に記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用する、非生物的ストレス耐性向上方法。 【請求項5】 培養液に対する前記非生物的ストレス耐性向上用組成物の使用量が0.1~5体積%である、請求項4記載の非生物的ストレス耐性向上方法。」 イ 本件訂正後の特許請求の範囲の記載 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものである。 なお、下線は本件訂正による記載の変更箇所を示す。 「【請求項1】 赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を有効成分として含む、飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物。 【請求項2】 茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、および分蘖の促進からなる群から選択される1種以上の植物成長促進作用を有する、請求項1記載の飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 請求項1又は2に記載の飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用する、飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法。 【請求項5】 培養液に対する前記飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物の使用量が0.1~5体積%である、請求項4記載の飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法。」 (2) 訂正事項 本件訂正の具体的な内容は、上記(1)アに摘記した本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の記載、上記(1)イに摘記した本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載、及び、本件訂正請求書の記載からみて、以下の訂正事項1~8からなるものであると認められる。 なお、下線は本件訂正による記載の変更箇所を示す。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「赤パプリカエキスを」 と記載されているのを、 「赤パプリカエキスを含む親水性画分を」 に訂正する。 また、請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に 「温度ストレス、化学的ストレス、光ストレス、乾燥ストレス、pHストレス、塩ストレス、低酸素ストレス、食害ストレス、物理的ストレス、病害ストレスからなる群から選択される1種以上に対するストレス耐性向上作用を有する、非生物的ストレス耐性向上用組成物」 と記載されているのを、 「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」 に訂正する。 また、請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2に 「非生物的ストレス耐性向上用組成物」 と記載されているのを、 「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」 と訂正する。 また、請求項2の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4に 「非生物的ストレス耐性向上用組成物」 と記載されているのを、 「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」 と訂正する。 また、請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項5に 「非生物的ストレス耐性向上用組成物」 と記載されているのを、 「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」 と訂正する。 キ 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項4に 「非生物的ストレス耐性向上方法」 と記載されているのを、 「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法」 と訂正する。 また、請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。 ク 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項5に 「非生物的ストレス耐性向上方法」 と記載されているのを、 「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法」 と訂正する。 (3) 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は、それぞれ請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用するものであり、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する「一群の請求項」である。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」である、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5についてされたものである。 3 訂正事項についての訂正要件の判断 訂正事項1~8についての訂正要件の判断は、以下のとおりである。 なお、下線は、訂正による記載の変更箇所を示すもののほか、当審合議体が便宜のために付したものである。また、「・・・」は摘記の省略を示す。 (1) 訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載の「赤パプリカエキス」を「赤パプリカエキスを含む親水性画分」とするものであるところ、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0033】には、 「得られた赤パプリカ濃縮液はカラムなどを通して分画することで、特定の成分を含む赤パプリカエキスを得ることができる。分画工程では、例えば、カラムを通すことで親水性画分と疎水性画分が得られるが、このうち親水性画分を赤パプリカエキスとして用いることが好ましい。」 と記載されていることから、「赤パプリカエキス」には、「親水性画分」に含まれるものと「疎水性画分」に含まれるものとがあると認められる。そして、訂正事項1に係る訂正は、そのうちの一方の「親水性画分」に限定するものであるから、当該「赤パプリカエキス」を限定するものといえる。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 本件明細書には、段落【0033】に上記アで指摘した事項が記載されていることに加えて、段落【0042】に 「上記で得られた赤パプリカエキスを含む親水性画分を飢餓状態のイネの生育する培養液・・・に・・・添加・・・し、・・・」 という事項も記載されていることから、請求項1に記載された「赤パプリカエキス」を「赤パプリカエキスを含む親水性画分」とすることは、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 訂正事項1に係る訂正は、上記ア及びイで述べたとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、本件明細書等に記載事項の範囲内においてするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項1についてのまとめ 上記ア~ウのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2) 訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2に係る訂正は、請求項1において、組成物の用途とされている「非生物的ストレス耐性向上」について、その「ストレス耐性向上」の対象の選択肢として列記されている10種のストレスを、そのうちの1つである「化学的ストレス」のみに限定し、さらに当該「化学的ストレス」を「飢餓状態による」ものに限定するものである。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項の追加の有無 本件明細書には、段落【0017】に、非生物的ストレスの例として列記された10種のストレスのうちの一つとして「化学的ストレス」が記載されており、段落【0042】に、「上記で得られた赤パプリカエキスを含む親水性画分を飢餓状態のイネの生育する培養液」という事項が記載され、同段落には、「ここでの飢餓状態とは、以下の表1に示す栄養成分未満の状態であることを指す。」と記載されており、それに続く【表1】に、「木村氏B液組成表」が記載され、同液に含まれる「N」や「P2O5」等の栄養成分の濃度が示されている。 そして、「N」や「P2O5」等の栄養成分は、いずれも化学物質であって、上記表1に示す栄養成分未満の状態が飢餓状態とされていることから、飢餓状態による、これらの化学物質の不足は、植物が受けるストレスであるといえ、「化学的ストレス」に該当するものといえる。 そうすると、請求項1に記載されている10種のストレスについて、そのうちの一つである「化学的ストレス」に限定し、さらに限定した「飢餓状態による化学的ストレス」とすることは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 訂正事項2に係る訂正は、上記ア及びイで述べたとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、本件明細書等に記載事項の範囲内においてするものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項2についてのまとめ 上記ア~ウのとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3) 訂正事項3、5~8について 訂正事項3、5~8に係る訂正は、訂正事項2により、請求項1に記載されている「組成物」の用途である「非生物的ストレス耐性向上」が、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」に限定されることに伴い、これに整合するように、請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項2、4~5に記載されている「非生物的ストレス耐性向上用組成物」を「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」に限定し、請求項4~5に記載されている「非生物的ストレス耐性向上方法」を「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法」に限定するものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、上記(2)イ及びウで述べたのと同様の理由により、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、いずれも本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3、5~8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (4) 訂正事項4について 訂正事項4に係る訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (5) 独立特許要件について 訂正事項1~8に係る訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を訂正の目的とするものであるが、本件特許異議申立事件においては、本件訂正前の全ての請求項である請求項1~5に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、本件訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5のうち、訂正後の請求項1~2、4~5に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。また、本件訂正後の請求項3は削除されるから、独立して特許を受けることができるか否かを判断すべき対象が存在しない。 4 訂正の請求についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の本件特許の請求項1~2、4~5(以下、請求項の番号順に「本件訂正請求項1」等ということがある。)の記載は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~2、4~5に記載された上記第2の2(1)イに摘記したとおりのものであり(請求項3は本件訂正により削除される。)、本件訂正請求項1~2、4~5に係る発明は、上記の本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~2、4~5に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(以下、請求項の番号順に「本件訂正発明1」等といい、これらを総称して「本件訂正発明」ということがある。)。 第4 特許異議の申立ての理由及び当審において通知した取消理由の概要 1 特許異議の申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記(6)アに示す甲第1号証~甲第20号証(以下「甲1」等と略記する。)を提出し、その後、令和6年3月7日提出の手続補正書(方式)に添付して下記(6)イに示す甲1の1、甲2の1、甲5の1、甲16の1を提出し、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべきであるとの特許異議の申し立てをしており、その理由(以下「申立理由」という。)の概要は、申立書の記載全体からみて、下記(1)~(5)に示すとおりのものと認める。 なお、ここでいう「請求項1」及び「本件発明1」等は、本件特許の設定登録時の請求項1及び当該請求項1に係る発明等のことである。 (1) 申立理由1(甲1又は甲2を主引例とする進歩性欠如) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1又は甲2に記載された発明、及び、甲1~甲14に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2) 申立理由2(甲6~甲9のいずれかに基づく新規性欠如) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6~甲9のいずれかに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3) 申立理由3(甲6~甲9のいずれかを主引例とする進歩性欠如) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6~甲9のいずれかに記載された発明、及び、甲1~甲14に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4) 申立理由4(実施可能要件違反) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記(ア)~(サ)の点で、本件特許の請求項1~5に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (ア) 親水性画分以外の実施例がない点(疎水性画分が記載されていない 点) (イ) 特定の濃度以外は記載されていない点 (ウ) 飢餓ストレス以外が記載されていない点 (エ) 飢餓状態の条件が不明である点 (オ) 後出しデータは許容できない点 (カ) 遺伝子発現結果からは実際のストレス耐性向上作用につながるか どうかが不明である点 (キ) 対象植物がイネ以外記載されていない点 (ク) イネの幼苗の根の重さ以外は記載されていない点 (ケ) ストレス応答系遺伝子を活性化させることのデータは、後出しデータ である点 (コ) 植物及び植物の生育する土壌に使用した例が記載されていない点 (サ) 比較例に記載した腐植酸系資材の意味が不明である点 (5) 申立理由5(サポート要件違反) 本件特許の請求項1~5の記載は、上記(4)の(ア)~(サ)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (6) 申立理由6(明確性要件違反) 本件特許の請求項1~5の記載は、下記(ア)~(ウ)の点で、特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (ア) ストレスの種類に飢餓ストレスが入っていない点 (イ) 「非生物的ストレス」の意味が明確でない点 (ウ) 「ストレス応答系」の遺伝子の範囲が明確でない点 (6)証拠方法 ア 申立書に添付して提出された証拠方法 甲1 文部科学省,日本食品標準成分表2020年版(八訂), 第2章(データ),食品番号06247,索引番号756, [online],[令和6年1月17日検索],インターネット <URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/ mext_01110.html> 甲2 文部科学省,日本食品標準成分表2020年版(八訂), アミノ酸成分表編 電子書籍(第2章を除く),食品番号06247, 索引番号756,[online],[令和6年1月17日検索],インター ネット <URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/ mext_01110.html> 甲3 石倉久之ほか,『図説生化学 第2版』,丸善株式会社, 平成6年2月20日 第2刷発行,56~57頁 甲4 糸川嘉則,「代替医療としての「ビタミン・ミネラル」」, 日本補完代替医療学会誌,2004年2月,第1巻,第1号, 41~52頁 甲5 文部科学省,日本食品標準成分表2020年版(八訂), 電子書籍(第2章を除く),334~335頁, [online],[令和6年1月17日検索],インターネット <URL: https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/ mext_01110.html> 甲6 Sam Mils,"Potential of exogenous L-amino acids in salinity stress alleviation during germination and early post- germinative seedling growth of Lactuca sativa L.", (A thesis submitted as a partial requirement to attain a Master of Science degree),August 2014,インターネット <URL: https://ir.canterbury.ac.nz/items/ac4a94a8-c344-46cb- ab8a973878b7cb05> 甲7 Md. Musfiqur Rahman,et al.,"Potential determinants of salinity tolerance in rice (Oryza sativa L.) and modulation of tolerance by exogenous ascorbic acid application", Journal of Phytology,2020.11.19, 12,p.86-98, <URL: https://updatepublishing.com/journal/index.php/jp> 甲8 Sanjeev Kumar,et al.,"Heat-stress induced inhibition in growth and chlorosis in mungbean (Phaseolus aureus Roxb.) is partly mitigated by ascorbic acid application and is related to reduction in oxidative stress", Acta Physiol. Plant,(2011),33,p.2091-2101 甲9 Sanjeev Kumar et al.,"α-Tocopherol Application Modulates the Response of Wheat (Triticum aestivum L.) Seedlings to Elevated Temperatures by Mitigation of Stress Injury and Enhancement of Antioxidants", J. Plant Growth Regul.,(2013), 32, p.307-314 甲10 独立行政法人 農畜産振興機構,「栄養成分別野菜ランキング」, 最終更新日:2021年1月29日, [online],[令和6年1月17日検索],インターネット <URL: https://www.alic.go.jp/y-kanri/yagyomu03_000001_ 00040.html> 甲11 茅野充男,「培養液組成に関して」,ハイドロポニックス, 1991,4(2),p.100-102 甲12 江原宏,「イネの対肥料反応性に関する研究」,三重大生物資源 紀要,平成5年3月26日,第10号,1~50頁 甲13 Naoki Yamaji,et al.,"A node-based switch for preferential distribution of manganese in rice", Nature COMMUNICATONS,2013,p.1-11 甲14 Jiali Yan,et al.,"A loss-of-function allele of OsHMA3 associated with high cadmium accumulation in shoots and grain of Japonica rice cultivars", Plant,Cell & Environment,(2016),39,p.1941-1954 甲15 山中隆幸,「明細書の記載要件に関する考察 -実施可能要件・ サポート要件を中心として-」, パテント,2008,Vol.61,No.7,p.4-15 甲16 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部,溝井順哉,「植物が 高温や乾燥などの劣悪なストレスに素早く応答するしくみを発見 ~高温・乾燥ストレス応答性転写因子 DREB2A のストレスによる 活性化機構の解明~」,2018年12月3日,[online], [令和6年1月24日検索],インターネット <URL: https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20181203- 1.html> 甲17 Feng Qin,et al.,"Heat shock protein 101 (HSP101) promotes flowering under nonstress conditions", Plant Physiology,2021,186,p.407-419 甲18 Pedro E. Lazaro-Mixteco,et al.,"The Absence of Heat "Shock Protein HSP101 Affects the Proteome of Mature and Germinating Maize Embryos", Journal of Proteome Research,2012,11,p.3246-3258 甲19 Jorge Nieto-Sotelo,et al.,"Maize HSP101 Plays Important Roles in Both Induced and Basal Thermotolerance and Primary Root Growth", The Plant Cell,2002,14,p.1621-1633 甲20 Abdugaffor Ablazov,et al.,"The Apocarotenoid Zaxinone Is a Positive Regulator of Strigolactone and Abscisic Acid Biosynthesis in Arabidopsis Roots", Frontiers in Plant Science,2020,11,Article 578 (当審注:甲15~20は、本件特許が実施可能要件違反及びサポート要件違反であることを示すために提出された参考文献である。) イ 令和6年3月7日提出の手続補正書(方式)に添付して提出された 証拠方法 甲1の1 甲1について、URLから画面表示に至るまでの流れの書類 甲2の1 甲2について、URLから画面表示に至るまでの流れの書類 甲5の1 甲5について、URLから画面表示に至るまでの流れの書類 甲16の1 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部,甲16の掲載日 (公知日)が記載された書類,[online],インターネット, [令和6年2月29日検索], <URL: https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/> 2 当審合議体が通知した取消理由の概要 (1) 先の取消理由通知の取消理由の概要 当審合議体が令和6年6月24日付け取消理由通知(以下「先の取消理由通知」という。)で特許権者に通知した取消理由の概要は、下記ア~ウのとおりであり、先の取消理由通知の取消理由と申立理由との対応関係は、下記エのとおりである。 なお、ここでいう「請求項1」及び「本件発明1」等は、本件特許の設定登録時の請求項1及び当該請求項1に係る発明等のことである。 ア 取消理由1(明確性要件違反) 本件特許の請求項1~5の記載は、下記(ア)及び(イ)の点で、特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (ア) 「非生物的ストレス」の意味が明確でない点 (イ) 「非生物的ストレス耐性向上用」の範囲と「飢餓状態」の関係が明確 でない点 イ 取消理由2(サポート要件違反) 本件特許の請求項1~5の記載は、下記(ア)~(エ)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (ア) 赤パプリカエキスが10種のストレスの1種以上に対する「ストレス 耐性向上作用」を有すると当業者が認識できない点 (イ) 「飢餓状態」が「非生物的ストレス」に該当するとした場合でも、赤 パプリカエキスを含む組成物を「非生物的ストレス耐性向上用」の用途 とし得ると認識できない点 (ウ) 「赤パプリカエキスを含む親水性画分」以外の態様について「非生物 的ストレス耐性向上用」の用途とし得ると認識できない点 (エ) 審査段階の意見書で提示された「ストレス応答系の遺伝子の活性化」 の試験結果は参酌できない点 ウ 取消理由3(実施可能要件違反) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記イの(ア)~(エ)の点で、本件特許の請求項1~5に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 エ 先の取消理由通知の取消理由と申立理由との対応関係 取消理由1(明確性要件違反)の(ア)及び(イ)の点は、申立理由6(明確性要件違反)の(イ)及び(ア)の点と、それぞれ同旨である。 取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(ア)、(イ)及び(ウ)の点は、申立理由5(サポート要件違反)及び申立理由4(実施可能要件違反)の(ウ)、(エ)及び(ア)の点と、それぞれ同旨である。 取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(エ)の点は、申立理由5及び申立理由4の(オ)及び(ケ)の点と同旨である。 上記の先の取消理由通知の取消理由と申立理由との対応関係を、下記(2)エの「決定予告の取消理由と、先の取消理由通知の取消理由と、申立理由との対応関係」と併せて一覧表にすると、次のとおりである。 [図:0001424564000001.jpg] ※: 取消理由通知で採用しなかった申立理由 (2) 取消理由通知(決定の予告)の取消理由の概要 当審合議体が令和6年12月16日付け取消理由通知(決定の予告)(以下「決定予告」と略記する。)で特許権者に通知した取消理由の概要は、下記ア~ウのとおりであり、決定予告の取消理由と、先の取消理由通知の取消理由と、申立理由との対応関係は、下記エのとおりである。 なお、ここでいう「先の本件訂正請求項1」及び「先の本件訂正発明1」等は、先の訂正請求により訂正された本件特許の請求項1及び当該請求項1に係る発明等のことである。 ア 取消理由1(明確性要件違反) 先の本件訂正請求項1~2、4~5の記載は、下記(ア)及び(イ)の点で、特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (ア) 「非生物的ストレス」の意味が明確でない点 (イ) 「飢餓状態」の意味が明確でない点 イ 取消理由2(サポート要件違反) 先の本件訂正請求項1~2、4~5の記載は、下記(ア)及び(イ)の点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (ア) 赤パプリカエキスを含む組成物を「非生物的ストレス耐性向上用」の 用途とし得ると認識できない点 (イ) 審査段階の意見書で提示された「ストレス応答系の遺伝子の活性化」 の試験結果は参酌できない点 ウ 取消理由3(実施可能要件違反) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記イの(ア)及び(イ)の点で、先の本件訂正請求項1~2、4~5に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、これらの請求項に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 エ 決定予告の取消理由と、先の取消理由通知の取消理由と、申立理由との 対応関係 決定予告の取消理由1(明確性要件違反)の(ア)の点は、先の取消理由通知の取消理由1(明確性要件違反)の(ア)の点と同旨であり、また、申立理由6(明確性要件違反)の(イ)の点と同旨である。 決定予告の取消理由1(明確性要件違反)の(イ)の点は、先の取消理由通知では指摘していなかった新たな取消理由であり、申立理由6(明確性要件違反)でも主張されていない。 決定予告の取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(ア)の点は、先の取消理由通知の取消理由4(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(ア)及び(イ)の点と同旨であり、また、申立理由5(サポート要件違反)及び申立理由4(実施可能要件違反)の(ウ)及び(エ)の点と同旨である。 決定予告の取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(イ)の点は、先の取消理由通知の取消理由4(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(エ)の点と同旨であり、また、申立理由5(サポート要件違反)及び申立理由4(実施可能要件違反)の(オ)及び(ケ)の点と同旨である。 上記の決定予告の取消理由と、先の取消理由通知の取消理由と、申立理由との対応関係を、上記(1)エの「先の取消理由通知の取消理由と申立理由との対応関係」と併せて一覧表にしたものは、上記(1)エに示したとおりである。 第5 取消理由についての当審の判断 当審合議体は、本件訂正請求項1~2、4~5に係る特許は、決定予告で通知した取消理由1~3、及び、先の取消理由通知で通知した取消理由1~3によっては、取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。 なお、以下での本件明細書、証拠、及び、特許権者又は申立人の提出書類の記載の摘記中の下線は、特に注釈がなければ、いずれも当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。また、外国語で記載された証拠については、図表の一部を除き、当審合議体による訳文にて摘記する。 1 決定予告で通知した取消理由について (1) 取消理由1(明確性要件違反)について ア 「非生物的ストレス」の意味について 決定予告では、先の本件訂正発明1の「組成物」の用途である「非生物的ストレス耐性向上用」に関して、先の本件訂正請求項1に記載された「飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性向上作用を有する、非生的ストレス耐性向上用組成物」という表記では、「非生物的ストレス」が「飢餓状態による化学的ストレス」に限定されているとは認められず、本件明細書の段落【0017】に列記された10種のストレスを包含するものと認められ、そのうち「食害ストレス」及び「病害ストレス」は、植物にとって有害な生物が関与するものであると解され、「生物的ストレス」といえるところ、上記「非生物的ストレス耐性向上用」との関係を理解できないため、当該「非生物的ストレス」の意味するところが、依然として不明確であり、先の本件訂正請求項1の記載、並びに、同項の記載を直接的に又は間接的に引用する先の本件訂正請求項2、4~5の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない旨を指摘していた。 これに対して、本件訂正請求項1に係る「組成物」は、本件訂正により、その用途が、「非生物的ストレス耐性向上用」から「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定され(「非生物的ストレス」という事項は削除され)、本件訂正請求項2、4~5においても、「組成物」の用途は、本件訂正により、「非生物的ストレス耐性向上用」から「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定され、本件訂正請求項4~5に係る「方法」についても、本件訂正により、「非生物的ストレス耐性向上方法」から「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法」に限定された(「非生物的ストレス」という事項は削除された)。 したがって、決定予告で通知した取消理由1(明確性要件違反)の(ア)の点は、解消している。 なお、申立人は、令和6年11月8日提出の意見書(以下「甲意見書」という。)の2~5頁において、先の本件訂正請求項1~2、4~5に記載された「組成物」の用途である「非生物的ストレス耐性向上用」が不明確である旨を主張しているが、上述したとおり、本件訂正により、本件訂正発明においては「・・・ストレス耐性向上作用を有する」という特定事項も「非生物的ストレス耐性向上用」という特定事項も削除されているから、申立人の上記主張は根拠がなく採用できない。 イ 「飢餓状態」の意味について (ア) 決定予告における指摘の概要 決定予告では、先の本件訂正請求項1に記載された「飢餓状態」との事項に関し、次のa~cの点を根拠に、具体的に如何なる条件を満たせば「飢餓状態」に該当するのか、本件明細書全体の記載を参照しても、明確に把握することができないから、先の本件訂正請求項1の記載、並びに、同項の記載を直接的に又は間接的に引用する先の訂正請求項2、4~5の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない旨を指摘していた。 a 本件明細書の段落【0042】[実施例1]には、 「上記で得られた赤パプリカエキスを含む親水性画分を飢餓状態のイネの生育する培養液600mLに0.6mL添加(0.1体積%)し、イネに与える影響を調査した。」 と記載されており、 「ここでの飢餓状態とは、以下の表1に示す栄養成分未満の状態であることを指す。」 と記載され、これに続いて、次の「表1」: 「【表1】 [図:0001424564000002.jpg] 」 が記載されているが、同表に記載された成分のいずれがどの程度の濃度まで低下すれば「飢餓状態」であるのか明らかでなく、「木村氏B液」は培養液であるが、植物が培養液ではなく土壌で生育している場合には、どのような条件を満たせば「飢餓状態」に該当するのかも不明である。 b 特許権者が先の取消理由通知に対し令和6年8月26日に提出した意見書(以下「乙意見書1」という。)の3頁における、 「飢餓状態は、植物が全く生育しないような状態を指すのではなく、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すと解される。」 との主張について、そのような「飢餓状態」の定義ないし解釈が、当業者にとって一般的な技術常識といえることを確認できるような証拠は提出されていない。 c 上記実施例1おいても、実施例1と同様の方法により行ったとされる実施例2~4においても、実際に用いられた培養液の栄養成分の具体的な組成は不明であるところ、特許権者は、乙意見書1の4頁において、 「本実施例で用いられた飢餓状態のイネは、木村氏B液の組成表に示される栄養成分の2分の1~5分の1(20~50%)程度の状態にあるイネであった。具体的には、組成が以下表Aのとおりである培養液が、イネが生育する、赤パプリカエキスが添加される前の培養液として使用された。」 と釈明し、次の「表A」: 「 [図:0001424564000003.jpg] 」 を提示している。 しかしながら、本件明細書にいう「飢餓状態」でない状態、すなわち上記「木村氏B液組成表」に示す栄養成分の条件を満たしている状態でイネが生育した場合のイネ根部の重量がどの程度であったかを確認できるような対照データが示されていないため、「表A」の組成の培養液で生育したイネが、 「栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)」 であったと認めることもできない。 (イ) 検討 a 特許権者は、決定予告に対し令和7年2月18日に提出した意見書(以下「乙意見書2」という。)」において、「飢餓状態」の意味に関し、「飢餓状態は、植物が全く生育しないような状態を指すのではなく、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すと解される。」という乙意見書1における主張を裏付ける技術文献を提示し、それらに基づく追加主張をするとともに(下記b~d)、本件明細書に記載の実施例の対象となったイネが、栄養が欠乏していた旨(下記e)、及び、通常の状態と比べ植物の生育が劣っている状態であった旨(下記f)を示しているから、本件明細書の記載全体からみて、本件訂正発明の「飢餓状態」の意味は明確であるといえる。 また、乙意見書1の2頁において、同意見書に添付して提出した下記の乙第1号証(以下、乙号証は「乙1」等と略記する。)に記載された以下の事項(摘記乙1a~1b)により、栄養が欠乏している状態は、植物にとって必須な元素(化学物質)が欠乏している状態であるため、化学的ストレスを引き起こすことが知られている旨を示しているから、本件訂正発明における「飢餓状態による化学的ストレス」も明確であるといえる。 <乙意見書1に添付して提出された乙号証> 乙1 R. Dubey, et al., "Chemical Stress on Plants", New Frontiers in Stress Management for Durable Agriculture, March 2020,p.101-128 ・摘記乙1a 「微量栄養素の欠乏又は毒性、重金属及び大気汚染物質による植物における化学的ストレスは、作物の成長と発育に影響を与え、その生産性を阻害し、作物が潜在的な最大収量に到達することを制限する。」 (101頁1~3行) ・摘記乙1b 「これらの必須栄養素はすべて、植物がバランスのとれた割合で必要とするものである。土壌中のこれらの要素の欠乏又は過剰は、いくつかの植物障害やストレスを引き起こす。」 (102頁25~27行) b 特許権者は、乙意見書2に添付して下記の乙2~乙15を提出し、これらの文献に記載された以下の(a)~(l)の事項などに基づいて、「飢餓状態」の用語の意味は明確であり、具体的に如何なる条件を満たせば「飢餓状態」に該当するのかも、本件明細書の記載及び本件特許の出願時における技術常識を参照すれば、明確に把握できる旨を主張している。 <乙意見書2に添付して提出された乙号証> 乙2 新村出編, 『広辞苑 第七版』, 2018年1月12日, 岩波書店, 688頁, 2段, 「きが【飢餓・饑餓】」の項 乙3 田中福代, 「水田への麦わら施用に伴う芳香族カルボン酸の生成 と水稲の生育抑制機構に関する研究」, 九州沖縄農業研究センター報告, 第40号, 2002年, 33-78頁 乙4 特表2015-528296号公報 乙5 特表2018-513133号公報 乙6 『平成23年度 野菜の栽培特性に合わせた土づくりと施肥管理』, 財団法人 日本土壌協会, 1-19頁 乙7 特開2006-343303号公報 乙8 茅野充男, 「植物の栄養診断」, 植物の化学調節, Vol.12, No.2, (1977), p.90-94 乙9 Ludy KEINO, et al., "Nutrients Limiting Soybean (glycine max 1) Growth in Acrisols and Ferralsols of Western Kenya", PLOS ONE, December 30, 2015, p.1-20 乙10 「生理障害」, あきたブランド野菜づくりの手引き, 野菜栽培技術指針, 秋田県農林水産部, 2007年3月, 29-30頁 乙11 『主要園芸作物標準技術体系』, 2005年9月, 岐阜県農林水産局 園芸特産振興室, 2005年9月, 10-11頁 乙12 ミニファイル 土壌分析 植物栄養分野から見た土壌の元素分析, ぶんせき, 2018年7号, 281-282頁 乙13 特許第3969708号 乙14 特表2022-552030号公報 乙15 特表2015-528296号公報 (a) 乙2の記載事項 ・摘記乙2a 「きが【飢餓・饑餓】 うえること。うえ。一時的・地域的現象である飢饉と対比して、永続的・慢性的な食糧不足や低栄養状態にいう場合もある。」 (b) 乙3の記載事項 ・摘記乙3a 「稲麦二毛作田における麦わらの施用はしばしば水稲の生育抑制に繋がる。これは,土壌中のアンモニア態窒素が土壌微生物により有機化されることにより生じる,水稲に吸収可能な窒素の不足(窒素飢餓)が原因とされてきた。」 (33頁「要旨」3~5頁) (c) 乙4の記載事項 ・摘記乙4a 「【0047】 本明細書で使用される「栄養欠乏」という用語は、栄養素欠乏条件下で成長した場合に植物の栄養飢餓を生じる栄養欠乏を指す。」 (d) 乙5の記載事項 ・摘記乙5a 「【0063】 栄養素が存在するが、不十分な量であれば、植物は飢餓の兆候(・・・)を起こす。栄養素が不足している植物の成長は阻まれ(小さい)、葉は薄い緑色または青みがかった濃緑色や、黄色がかったり、あるいは、赤い斑点または縞模様を有する。収穫時に、収量が著しく低下することがある。」 (e) 乙6の記載事項 ・摘記乙6a 「下図は、北海道のタマネギ産地での球肥大開始時点の無機態窒素含量とタマネギ収量との関係を調査したデータですが、3~5mgの無機態窒素量が存在している圃場の収量が高くなっています。 [図:0001424564000004.jpg] 」 (13頁下から2~1行及び図) (f) 乙7の記載事項 ・摘記乙7a 「【請求項1】 植生可能な土壌に改良するための土壌分析システムであって、土壌採取方法が定まっており、土壌の分析項目数が下記に示す15項目以上あって、それぞれの項目について適正範囲値が設定されており、その結果、すべての分析値について解析を行って、適正値になるように肥料や土壌改良材の種類、施肥量の設定ができ、更に適正な土壌改良方法や植生工法を設定できることを特徴する土壌分析システム 土壌分析項目 1.pH(水)、2.腐植含有率、3.りん酸吸収係数、4.塩基置換容量、5.有効態りん酸、6.置換性石灰、7.置換性苦土、8.置換性カリ、9.塩基飽和度、10.石灰飽和度、11.石灰・苦土比、12.苦土・カリ比、13.有効窒素、14.土性、15.土壌硬度」 ・摘記乙7b 「【0027】 上記実施例および比較例について、土壌の分析結果を表1に、補充肥料、改良材と施肥量を表2に、芝の発芽性、生育性を評価した結果を表3にそれぞれ示す。・・・ 【0028】 【表1】 [図:0001424564000005.jpg] 【表2】 [図:0001424564000006.jpg] 【表3】 [図:0001424564000007.jpg] 【0029】 表から明らかなように、実施例1、2は、本発明の土壌分析システムを用いることで、正確に土壌の状態を把握し、適正な肥料と土壌改良材の種類、施肥量を算出したことで、芝の生育試験において、極めて良好な結果を得られた。 ・・・ 【0031】 比較例1は、従来の分析項目数で土壌分析を行ったため、土壌の状態を正確に解析することができず、通常行われるような肥料や堆肥しか施肥しなかったため、初期の発芽は良好だが、根の生育に大切なりん酸不足などから根が伸長できず、2年目以降では芝枯れる現象が発生した。比較例2は、土壌分析はしたものの従来通り、経験と勘による解析のため全く土壌改良ができず、結果として栄養分不足で、発芽性、生育性ともに不良となった。・・・。」 (g) 乙8の記載事項 ・摘記乙8a 「2.土壌養分分析 植物に吸収されやすい可給態養分が土壌に十分にあるか不足しているかを知るための分析である.・・・.表2に微量要素についての限界量の一例を示すが,・・・ ・・・ [図:0001424564000008.jpg] 」 (90頁右欄下から3行~92頁「表2」) (h) 乙9の記載事項 ・摘記乙9a 「 [図:0001424564000009.jpg] 」 (11頁「Table 6」) (i) 乙10の記載事項 ・摘記乙10a 「 [図:0001424564000010.jpg] 」 (30頁「表-3」) (j) 乙11の記載事項 ・摘記乙11a 「 [図:0001424564000011.jpg] [図:0001424564000012.jpg] 」 (27~28頁) (k) 乙12の記載事項 ・摘記乙12a 「 [図:0001424564000013.jpg] 」 (281頁「表1」) (l) 乙13の記載事項 ・摘記乙13a 「【0029】この結果から、植物の栄養欠乏の診断法としては、植物を破砕して得た汁液中の無機成分の化学分析によらずとも、葉面電位の周波数成分を測定することで植物体を非破壊のまま短時間で予測可能なことわかる(当審注:原文の記載のとおり。)。 【0030】 即ち、ミニトマトがN欠乏の時には主に14Hzと20Hzの葉面電位が、P欠乏の時には主に28Hzが、Mg欠乏の時には主に20Hzと7Hzの葉面電位が発生していることから、これらをもって栄養診断をすることが可能である。」 c 摘記乙2aによれば、一般に「飢餓」という用語は、「永続的・慢性的な低栄養状態」を意味する場合があると認められ、摘記乙3a~摘記乙5aによれば、植物の栄養の分野では、栄養素の欠乏や不足の状態が「飢餓」と称されることがあり、そのような状態では、植物の成長・生育が抑制・阻害・低下するものと認められる。 そうすると、植物における「飢餓状態」とは、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すことは、当業者であれば理解できるものといえる。 また、後掲の摘記甲12a~bによれば、培地における木村氏B液の基準濃度が100%から70%に低下すると、実験期間中のイネの乾物増加量が減少し、濃度が40%、10%と低下するにつれ、さらに乾物増加量が減少したことが示されているから、例えば、植物がイネの場合に、木村氏B液の組成表に示される栄養成分が70%以下の状態となると、植物が飢餓状態になると当業者であれば理解することができるといえる。 実際、下記e~fで述べるように、特許権者が乙意見書2で提示した実験結果によれば、本件明細書に記載された実施例で用いられたものと推定される「飢餓条件」の培養液は、各成分の濃度が、木村氏B液と比較すると、約20%~約45%であり、当該「飢餓条件」の培養液を用いた場合には、木村氏B液の組成の条件を実質的に満たす、「通常条件」の培養液を用いた場合と比較すると、イネの生育が劣ることが確認できるから、上記実施例において、赤パプリカエキスを含む親水性画分を添加する前の培養液で生育していたイネは、「飢餓状態」であったと認められる。 d 「飢餓状態」に関し、本件明細書に記載の実施例で具体的に示されているのは、培養液での飢餓状態のみであるが、植物が土壌で生育する場合でも、どの栄養素がどの程度欠乏していると、植物の生育が劣り、飢餓状態に該当するのかは、例えば、次のような事実から、当業者ならば本件特許の出願時の技術常識に基づいて理解することができるといえる。 すなわち、 ・摘記乙6aから、タマネギ収量の低下をもたらす無機態窒素の低い含量を把握することができる。 ・摘記乙7a~bから、芝の生育が不良となるリン酸等の栄養分の不足について把握することができる。 ・摘記乙8aから、微量要素の土壌中における欠乏限界濃度(この濃度以下になると欠乏となる濃度)を把握することができる。 ・摘記乙9aから、ケニアのマサバ(Masaba)の土壌で生育させたダイズの根部の乾燥重量が、完全栄養溶液を与えた場合(Complete)には、0.19gであったのに対して、栄養溶液を与えなかった場合(Control)には、0.11gと低下したことを把握することができる。 ・摘記乙10aから、作物毎に、どの栄養素が欠乏した場合に、どのような症状が発生するか、把握することができる。 ・摘記乙11aから、どの栄養素が欠乏した場合に、どのような症状が発生するかという、作物毎の各栄養素と欠乏症発現との関係や、作物毎の栄養素欠乏の具体的な判定基準について、把握することができる。 ・摘記乙7a~b、摘記乙12a及び摘記乙13aから、土壌における植物の栄養欠乏をどのように分析・診断するかという、具体的な方法を把握することもできる。 e 特許権者は、乙意見書2において、本件明細書に記載された実施例で赤パプリカエキスが添加されたイネが飢餓状態であったことを示すとされる実験結果を、実験方法とともに提示した。 当該実験の概略は、発芽させたイネ12個体を、以下の[表A]: 「 [図:0001424564000014.jpg] 」 に記載の「飢餓条件」と「通常条件」の濃度の培養液に6個体ずつに分けて移し、人工気象器に移して2週間培養し、その後に地上部の長さを測定したところ、 「通常条件」では、平均約272.52mmであったのに対し、 「飢餓条件」では、平均約258.33mmであり、 後者のほうが前者よりも生育が劣っていた、というものである。 ここで、上記[表A]に記載の培養液成分の濃度の単位は(μM)であるところ、本件明細書の段落【0042】に記載の「表1」の「木村氏B液組成表」における成分の濃度の単位は(mg/リットル)であるため、両者の対比ができるように、まず、本件明細書の「表1」の「木村氏B液組成表」の成分の濃度の単位を(μM)に換算すると、次のとおりである。 ■木村氏B液組成表における各成分の濃度の単位の換算 成 分 濃度(mg/リットル) 濃度(μM) N 23.0 1642.04 (NH4-N) 10.2 728.21 (NO3-N) 12.8 913.83 P2O5 13.0 91.59 K2O 17.2 182.60 CaO 20.5 365.57 MgO 22.1 548.33 Fe2O3 2~3 15.52~18.79 次に、上記[表A]に記載の「飢餓条件」の培養液の成分について、上記「表1」の「木村氏B液組成表」の成分に対応するように整理し、それら各成分の濃度について、木村氏B液における各成分の濃度に対する割合を計算すると、次のとおりであり、木村氏B液における各成分の濃度の約20%~約45%の濃度であったことが認められる。 ■[表A]の「飢餓条件」の培養液の各成分の濃度及び木村氏B液における 濃度に対する割合 成 分 濃度(μM) 木村氏B液の濃度に対する割合 N 492.70 約30.01% (NH4-N) 218.72 約30.04% (NO3-N) 273.98 約29.98% P2O5 27.34 約29.85% K2O 82.08 約44.95% CaO 109.39 約29.92% MgO 164.17 約29.94% Fe2O3 3.04 約16.18~24.28% 一方、上記[表A]に記載の「通常条件」の培養液の成分について、上記「表1」の「木村氏B液組成表」の成分に対応するように整理し、それら各成分の濃度について、木村氏B液における各成分の濃度に対する割合を計算すると、次のとおりであり、木村氏B液の組成の条件を実質的に満たすものであったことが認められる。 ■[表A]の「通常条件」の培養液の各成分の濃度及び木村氏B液における 濃度に対する割合 成 分 濃度(μM) 木村氏B液の濃度に対する割合 N 1643.34 約100.08% (NH4-N) 729.34 約100.16% (NO3-N) 914.00 約100.19% P2O5 91.17 約99.54% K2O 273.84 約149.97% CaO 365.00 約99.84% MgO 547.67 約99.88% Fe2O3 10.17 約54.12~81.23% 上記のとおり、[表A]の「飢餓条件」の培養液における、木村氏B液の成分に対応する各成分の濃度は、木村氏B液における各成分の濃度と比較すると、約20%~約45%の濃度であったと認められ、本件明細書に記載の実施例においては、赤パプリカエキスを含む親水性画分が添加された「飢餓状態のイネの生育する培養液」として、[表A]の「飢餓条件」の培養液が用いられたものと推定することができる。 f そして、上記「飢餓条件」の培養液を用いた場合には、木村氏B液の組成の条件を実質的に満たす、[表A]に記載の「通常条件」の培養液を用いた場合と比較すると、イネの生育が劣ること(94.8%≒(258.33/272.52)×100)が確認できる。 (ウ) 申立人の主張について 申立人は、甲意見書の4~8頁において、先の本件訂正請求項1に記載の「飢餓状態による化学的ストレス」が何であるか理解できず、不明確である旨を主張している。 しかし、上記(イ)aで述べたとおり、栄養が欠乏している状態は、植物にとって必須な元素(化学物質)が欠乏している状態であるため、化学的ストレスを引き起こすものと認められるし、また、上記(イ)b~fで詳述したとおり、植物における「飢餓状態」は、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すことは、当業者であれば理解できるものといえ、植物が土壌で生育する場合でも、どの栄養素がどの程度欠乏していると、植物の生育が劣り、飢餓状態に該当するのかは、当業者ならば本件特許の出願時の技術常識に基づいて理解することができるといえる。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (エ) 小括 以上のとおり、本件訂正請求項1~2、4~5に記載された「飢餓状態」という事項の意味するところは明確であるから、決定予告で通知した取消理由1(明確性要件違反)の(イ)の点は、解消している。 (2) 取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件 違反)について ア 赤パプリカエキスを含む組成物を「非生物的ストレス耐性向上用」の 用途とし得ると認識できない点について (ア) 決定予告における指摘の概要 決定予告では、概略、次の指摘をしていた。 先の本件訂正発明1の「組成物」の用途とされる「非生物的ストレス耐性向上用」における「非生物的ストレス」は、先の本件訂正請求項1において「飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性向上作用を有する」との表記があることにより、「飢餓状態による化学的ストレス」に限定されているとは認められず、本件明細書の段落【0017】に例示として列記されたものをはじめとする種々のストレスを包含するものと解される。 一方で、本件明細書において「本発明」の実施例として記載されたイネの根張りの向上効果を確認した試験(実施例1~4)は、赤パプリカエキスを含む親水性画分を、「飢餓状態」のイネの生育する培養液に添加し、イネに与える影響を調査したとされているが、先の本件訂正発明1における「飢餓状態」がどのような状態を意味するのか明らかでなく、特許権者が実施例で用いられたものと釈明する乙意見書1で提示した「表A」の組成の培養液で生育したイネが、特許権者が主張する「飢餓状態」であったことも確認できないから、上記実施例1~4で用いられた「赤パプリカエキスを含む親水性画分」又は当該画分を添加した培養液が、先の本件訂正発明1の組成物の特定事項である「飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性向上作用を有する」という条件を満たすものと直ちに認めることはできず、また、「飢餓状態による化学的ストレス」に限られない、本件明細書の段落【0017】に例示列記された複数の異なるストレスをはじめとする「非生物的ストレス」に該当し得る、あらゆる種々のストレスに対し、耐性を向上し得るものと推認することはできない。 したがって、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を有効成分として含む組成物を、「飢餓状態による化学的ストレス」以外の、あらゆる種々の「非生物的ストレス」について「耐性向上」の用途とし得ることを、当業者が認識できるとはいえないのであるから、本件訂正発明1が、「赤パプリカエキスを用いた植物の非生物的ストレス耐性向上や収量増加のための組成物を提供すること」という課題を解決し得ると、当業者が認識できるとはいえない。 よって、先の本件訂正請求項1~2、3~4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。 また、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を有効成分として含む組成物を、「飢餓状態による化学的ストレス」以外の、あらゆる種々の「非生物的ストレス」について「耐性向上」の用途とし得ることを、当業者が認識できるとはいえないのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が先の本件訂正発明1~2の組成物及び先の本件訂正発明4~5の方法の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 (イ) 検討 a 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の本件訂正請求項1~2、4~5の記載は、上記第2の2(1)イに摘記したとおりである(請求項3は本件訂正により削除される。)。 b 本件訂正発明が解決しようとする課題 本件訂正請求項1~2、4~5の記載、及び、本件明細書全体の記載(特に【0001】~【0006】の記載)からみて、本件訂正発明1~2、4~5が解決しようとする課題は、いずれも共通して、 「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を用いた、植物の飢餓状態による化学的ストレス耐性向上のための組成物を提供すること」 を含むものであると認められる。 c 本件明細書における実施例の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には、上記aで認定した課題の解決手段に関して、実施例として次の事項が記載されている。(摘記中の下線は、当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。) 「【実施例】 【0040】 本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。 【0041】 (根部重量の測定方法) イネの色と形から根部を特定し、特定された根部の重量を微量天秤で瓶量した。 【0042】 [実施例1] 1Kgの赤パプリカのヘタを取り、1cm角に切った後、ミキサーで破砕した。濾布、濾紙を用いた濾過によって夾雑物を取り除いた。得られた濾液をロータリーエバポレータで約10倍濃縮することで濃縮液を得た。続いて、C18カラムを100%メタノールで活性化し、蒸留水で2回洗浄した後、濃縮液をカラムに通すことで、フロースルー画分を親水性画分として取得した。 上記で得られた赤パプリカエキスを含む親水性画分を飢餓状態のイネの生育する培養液600mLに0.6mL添加(0.1体積%)し、イネに与える影響を調査した。その結果、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較してイネ根部の重量が66%増加しており、イネの根張りの向上効果が見られた。 なお、ここでの飢餓状態とは、以下の表1に示す栄養成分未満の状態であることを指す。 【表1】 [図:0001424564000015.jpg] 【0043】 [実施例2] 赤パプリカエキスを含む親水性画分の添加量が0.2mLであること以外は実施例1と同様の方法により行った。その結果、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較してイネ根部の重量が31%増加しており、イネの根張りの向上効果が見られた。 【0044】 [実施例3] 赤パプリカエキスを含む親水性画分の添加量が0.4mLであること以外は実施例1と同様の方法により行った。その結果、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較してイネ根部の重量が43%増加しており、イネの根張りの向上効果が見られた。 【0045】 [実施例4] 赤パプリカエキスを含む親水性画分の添加量が0.8mLであること以外は実施例1と同様の方法により行った。その結果、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較してイネ根部の重量が20%増加しており、イネの根張りの向上効果が見られた。 【0046】 [比較例1] 赤パプリカエキスの代わりに腐植酸系資材を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により行った。その結果、腐植酸系資材を添加していない場合と比較してイネ根部の重量が18%増加していたが、赤パプリカエキスを添加した場合と比較して植物成長促進作用は劣っていた。」 「【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】赤パプリカエキスを添加していない場合と、赤パプリカエキスを含む植物成長促進組成物を0.6mL(実施例1)、0.8mL(実施例4)添加した場合のイネの根張りの向上を観察した画像である。」 「【図1】 [図:0001424564000016.jpg] 」 d 実施例における課題の解決について ここで、実施例1、及び、実施例1と同様の方法により行ったとされる実施例2~4においては、実際に用いられた培養液の栄養成分の具体的な組成が示されておらず、どの成分がどの程度の量で含まれるものであったのかを直ちに把握できないが、上記(1)イ(イ)e~fで述べたとおり、乙意見書2で提示された[表A]の「飢餓条件」の培養液は、木村氏B液における各成分の濃度の約20%~約45%の濃度であり、当該[表A]の「飢餓条件」の培養液が、上記の各実施例において、赤パプリカエキスを含む親水性画分が添加された「飢餓状態のイネの生育する培養液」として用いられたと推定することができ、当該[表A]の「飢餓条件」の培養液を用いた場合、木村氏B液の組成の条件を実質的に満たす[表A]に記載の「通常条件」の培養液を用いた場合と比較すると、イネの生育が劣ることが確認できる。 そして、上記(1)イ(イ)cで説示したとおり、植物における「飢餓状態」とは、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すものと理解することができ、後記する甲12の記載(摘記甲12a~b)によれば、培地における木村氏B液の基準濃度が100%から70%に低下すると、イネの乾物増加量が減少し、濃度が40%、10%と低下するにつれ、さらに乾物増加量が減少したことが示されているから、例えば、植物がイネの場合に、木村氏B液の組成表に示される栄養成分が70%以下の状態となると、植物が飢餓状態になるということを、当業者であれば理解することができるといえる。 そうすると、本件明細書に記載の実施例1~4の試験の結果によれば、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を、それぞれ異なる量で飢餓状態のイネの生育する培養液600mLに添加した場合に、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較して、イネ根部の重量が増加(0.2mL(約0.03体積%)添加で31%増加、0.4mL(約0.07体積%)添加で43%増加、0.6mL(0.1体積%)添加で66%増加、0.8mL(約0.13体積%)添加で66%増加)しており、イネの根張りの向上効果が見られたから、飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性が向上したことを、当業者は認識できるといえる。 したがって、上記実施例1~4で用いられた、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分は、上記bで認定した、 「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を用いた、植物の飢餓状態による化学的ストレス耐性向上のための組成物を提供すること」 という課題を解決できると、当業者は認識し得るといえる。 e 特許請求の範囲の記載と課題解決との対応関係について 先の本件訂正請求項1に係る「組成物」は、 「飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性向上作用を有する、非生物的ストレス耐性向上用」 とされていたが、本件訂正請求項1に係る「組成物」は、本件訂正により、その用途が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定されており(本件特許の設定登録時の請求項1に記載の「・・・作用を有する、」及び「非生物的ストレス」という事項は削除されている。)、また、本件訂正請求項2、4~5においても、「組成物」の用途は、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定され、本件訂正請求項4~5に係る「方法」も「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法」に限定されている。 そして、本件訂正により、本件訂正請求項2、4~5における「組成物」が含む有効成分についても、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」に限定されている。 そうすると、本件訂正発明1~2、4~5は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、上記dで述べた本件明細書の実施例の記載を含む発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、上記bで認定した発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものである。 よって、本件訂正請求項1~2、4~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、当業者が、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を有効成分として含む組成物を製造でき、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」の用途に使用できると、当業者が理解することができるから、当業者が本件訂正発明1~2の組成物及び本件訂正発明4~5の方法の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。 (ウ) 申立人の主張について 申立人は、甲意見書の5~6、8~18頁において、先の本件訂正発明1~2、4~5について、発明の詳細な説明をみても、非生物学的ストレスに含まれるもの全体が耐性向上の作用を有することは、当業者といえども理解することが困難である旨を主張しており、また、本件明細書に記載の実施例で実際に用いられた培養液の具体的組成は不明であるところ、乙意見書1において、当該実施例で赤パプリカエキスが添加される前の培養液として使用されたものとして提示された[表A]に記載の培養液の成分組成は、後出しデータであり採用できない旨、木村氏B液の組成表の栄養成分の20~50%程度の状態は、特段、飢餓状態である肥料の量ではない旨、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている内容は、単に「肥料を添加した後に、赤パプリカエキスの親水性画分を加えた場合に、イネの根が成長するかどうかを試験した」ということだけであり、「飢餓状態による化学的ストレス」について試験されているとは、当業者であっても理解することができない旨、を主張している。 しかしながら、本件訂正により、本件訂正請求項1~2、4~5に記載の「組成物」は、その用途が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定されており、また、上記(イ)dで詳述したとおり、乙意見書2で提示された[表A]の「飢餓条件」の培養液は、木村氏B液における各成分の濃度の約20%~約45%の濃度であって、当該培養液を用いた場合、「通常条件」の培養液を用いた場合よりも、イネの生育が劣り、当該培養液が、本件明細書に記載の各実施例において赤パプリカエキスを含む親水性画分が添加された「飢餓状態のイネの生育する培養液」として用いられたと推定でき、本件明細書に記載の各実施例の試験の結果によれば、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を飢餓状態のイネの生育する培養液に添加した場合には、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較してイネ根部の重量が増加して、イネの根張りの向上効果が見られたということから、飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性が向上したものということができる。 したがって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。 (エ) 小括 以上のとおり、決定予告で通知した取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(ア)の点は、解消している。 イ 審査段階の意見書で提示された「ストレス応答系の遺伝子の活性化」の 試験結果は参酌できない点について (ア) 決定予告における指摘の概要 決定予告では、概略、次の指摘をしていた。 本件特許に係る出願の審査段階において、令和5年4月6日受付の意見書でイネの遺伝子発現の変動について評価した試験の結果が提示されており、赤パプリカエキスにより複数の非生物的ストレスへの応答遺伝子が活性化されることが見出された旨の主張がされている。 しかしながら、当該試験結果によって、赤パプリカエキスを含む親水性画分を「非生物的ストレス耐性向上用」の用途とし得ると当業者が認識できるか否かにかかわらず、本件明細書には、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を含む組成物が、本件明細書の段落【0018】に列記された複数の異なるストレスをはじめとする「非生物的ストレス」に該当し得る、あらゆる種々のストレスに対して、耐性を向上し得ると当業者が認識できるような根拠は見出せず、そのような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められないから、本件明細書における当該瑕疵を事後的に行われた試験結果の事実によって補うことはできない。 したがって、上記意見書において提示された試験結果は、参酌することができない。 (イ) 検討 上記ア(イ)eで説示したとおり、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を有効成分として含む「組成物」を「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」の用途に使用できると、当業者が認識することができるといえる。 そうすると、審査段階での令和5年4月6日受付の意見書で提示された、イネの遺伝子発現の変動について評価した試験の結果によって、赤パプリカエキスを含む親水性画分を「非生物的ストレス耐性向上用」の用途とし得ると、当業者が認識できるか否かにかかわらず、本件訂正請求項1~2、4~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1~2、4~5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。 また、「ストレス応答系の遺伝子を活性化させる」ことを特定事項とする本件特許の設定登録時の請求項3は、本件訂正により削除されるから、判断すべき対象が存在しない。 (ウ) 小括 したがって、決定予告で通知した取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(イ)の点は、解消している。 2 先の取消理由通知で通知した取消理由について 先の取消理由通知で通知した取消理由のうち、決定予告において対応する取消理由を指摘しなかったものについて、以下検討する。 なお、ここでいう「請求項1」及び「本件発明1」等は、本件特許の設定登録時の請求項1及び当該請求項1に係る発明等のことである。 (1) 取消理由1(明確性要件違反)について 先の取消理由通知では、本件明細書に記載の実施例において、赤パプリカエキスを含む親水性画分を「飢餓状態」のイネの生育する培養液に添加してイネに与える影響を調査しているが、当該「飢餓状態」なるものは、本件発明1の組成物について「ストレス耐性向上作用を有する」として列記された10種のストレスのいずれにも該当しないと解されるところ、本件発明1の組成物の用途である「非生物的ストレス耐性向上用」は、「飢餓状態」への耐性の向上の用途を含むのか否か、その範囲が不明確になっているため、請求項1の記載、並びに、同項の記載を直接的に又は間接的に引用する先の請求項2~5の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない旨を指摘していた。 これに対し、本件訂正発明1~2、4~5における「組成物」は、本件訂正により、その用途が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定され、「飢餓状態」については、「化学的ストレス」を引き起こすもので、「化学的ストレス」の態様を限定するものである、ということが明確に規定された。 したがって、先の取消理由通知で通知した取消理由1(明確性要件違反)の(イ)の点は、解消している。 (2) 取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件 違反)について 先の取消理由通知では、本件明細書においては、赤パプリカエキスを含む「親水性画分」を用いた場合の試験結果しか記載されておらず(実施例1~4)、「疎水性画分」を用いた場合の具体的な記載は全くないところ、赤パプリカ濃縮液の「親水性画分」と「疎水性画分」では、その成分組成が大きく異なるものと解され、赤パプリカエキスを含む「親水性画分」を用いた実施例1~4の記載によっては、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキス」を含む組成物を「非生物的ストレス耐性向上用」の用途とし得ると当業者が認識できるとはいえないのであるから、その成分組成が大きく異なる赤パプリカエキスの「疎水性画分」を用いた場合にも、「非生物的ストレス耐性向上用」の用途とし得るものとはいえない旨を指摘していた。 これに対し、本件訂正発明1~2、4~5における「組成物」は、本件訂正により、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を有効成分として含むものに限定され、その用途についても「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定された。そして、上記1(2)ア(イ)で詳述したとおり、本件訂正発明1~2、4~5は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の実施例の記載を含む発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を有効成分として含む組成物を製造でき、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」の用途に使用できると、当業者が理解することができるものである。 したがって、先の取消理由通知で通知した取消理由2(サポート要件違反)及び取消理由3(実施可能要件違反)の(ウ)の点は、解消している。 第6 取消理由通知において採用しなかった申立理由について 先の取消理由通知の取消理由と申立理由との対応関係、及び、決定予告の取消理由と申立理由との対応関係は、上記第4の2(1)エ及び同(2)エに示したとおりである。 以下、取消理由通知において採用しなかった申立理由について検討する。 1 甲号証の記載事項 上記第4の1(6)ア~イに示した申立人が提出した甲号証について、申立理由について判断するために必要な範囲で、それらの記載事項を以下に摘記する。 (1) 甲1の記載事項 甲1の1の記載によれば、甲1は、インターネットでダウンロードできる「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」のデータベースのExcel形式のデータの一部を申立人が加工したものであり、その記載事項は次のとおりである。なお、朱書きの囲いは申立人によるものである(以下、他の甲号証についても同じ。)。 ・摘記甲1a 「 [図:0001424564000017.jpg] 」 (2) 甲2の記載事項 甲2の1の記載によれば、甲2は、インターネットでダウンロードできる「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」のデータベースのExcel形式のデータの一部を申立人が加工したものであり、その記載事項は次のとおりである。 ・摘記甲2a 「 [図:0001424564000018.jpg] 」 (3) 甲3の記載事項 甲3は、生化学のテキストであり、次の事項が記載されている。 ・摘記甲3a 「 水に対する親和性:図では上の方ほど親水性の高いアミノ酸,下の方ほど疎水性の高いアミノ酸になるように並べてある.中ほどは中間的な性質のアミノ酸である.親水性とは水の中に溶け込んでいる状態が安定なことをいう.したがって水に溶けやすい.その理由としては側鎖がイオン化したり(酸性アミノ酸,塩基性アミノ酸),ヒドロキシル基のように水と分子構造が似ていたり(ヒドロキシル基をもつアミノ酸),-CONH2のように水分子と水素結合を作りやすい(グルタミン,アスパラギン),などの場合がある。」 (56頁) ・摘記甲3b 「 [図:0001424564000019.jpg] 」 (57頁) (4) 甲4の記載事項 甲4は、「代替医療としての「ビタミン・ミネラル」」という標題の総説であり、次の事項が記載されている。 ・摘記甲4a 「 [図:0001424564000020.jpg] 」 (42頁) (5) 甲5の記載事項 甲5の1の記載によれば、甲5は、インターネットでダウンロードできる「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」の「アミノ酸成分編」の一部であり、次の事項が記載されている。 ・摘記甲5a 「 [図:0001424564000021.jpg] ・・・ [図:0001424564000022.jpg] 」 (334~335頁) (6) 甲6の記載事項 甲6は、「Lactuca sativa L. の発芽及び発芽後初期における塩ストレス軽減のための外因性L-アミノ酸の可能性」(当審合議体による訳文)という標題の、カンタベリー大学において理学修士号取得のために一部要件として提出された論文であり、次の事項が記載されている(当審合議体による訳文にて摘記する。)。 ・摘記甲6a 「外因性アミノ酸と塩ストレス 有害なレベル(60mM)のNaClの存在下で、7種の外因性アミノ酸(L-アスパラギン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-プロリン、L-フェニルアラニン、L-チロシン及びL-バリン)は、対照処理と比較して、レタスの苗長にプラスの効果をもたらした。特に、L-ロイシン及びL-フェニルアラニンは、苗長に有意な正の増加を促進した(RにおけるP値<0.05)。L-アスパラギン酸、L-セリン及びL-トリプトファンは、60mMのNaCl及び1mMのL-アミノ酸の存在下で、非常に厳しい(>80%)成長減少を示した(図7)。 ・・・ 60mMのNaClの存在下で、以下のアミノ酸:アルギニン、グリシン、ヒスチジン、メチオニン及びフェニルアラニンは、苗長の約40%以上の増加をもたらした。一般に、直接処理又は非NaCl処理の実験に比べ、処理間の苗の大きさのばらつきは少なかった(図11)。有意差のない処理のうち、1つ(L-システイン)を除いた全ての処理で、苗の成長は対照と比べて20%未満の変化しか生じなかった。他の実験とは対照的に、L-アミノ酸による前処理の大部分は、脱イオン水による前処理と比べて、ストレスを受けた苗の成長にプラスの効果をもたらした(図9)。」 (24頁、26頁) (7) 甲7の記載事項 甲7は、「イネ(Oryza sativa L.)の耐塩性の潜在的決定因子と外因性アスコルビン酸の施用による耐性の調節」(当審合議体による訳文)という標題の論文であり、次の事項が記載されている(当審合議体による訳文にて摘記する。)。 ・摘記甲7a 「 [図:0001424564000023.jpg] 」 (89頁「Table 1」) ・摘記甲7b 「新鮮根重量 対照条件では、新鮮根重量はFL-478(166.67 mg)が最大であり、Binadhan-6(77.00 mg)が最小であった(表1)。塩濃度に応答して新鮮根重量の減少が観察され、対照と比べて、最も減少したのは BRRI dhan67(30.30 %)であり、最も減少が少なかったのは Binadhan-8(9.09%)であった。AsA前処理は根の新鮮重量を増加させ、AsA前処理を行わずに塩ストレスを付加した苗と比べて、BRRI dhan67 で最も大きく増加し(30.43 %)、続いて Binadhan-6、Binadhan-10、BRRI dhan28、Binadhan-8、BRRI dhan78 及び FL -478 で増加した(それぞれ、20.00、19.48、18.77、18.57、16.22 及び 15.58%)(表1)。」 (89頁左欄~右欄) (8) 甲8の記載事項 甲8は、「熱ストレス誘導性の緑豆(Phaseolus aureus Roxb.)の成長の阻害及びクロロシスは、アスコルビンの施用により部分的に軽減され、酸化ストレスと関係している」(当審合議体による訳文)という標題の論文であり、次の事項が記載されている(当審合議体による訳文にて摘記する。)。 ・摘記甲8a 「材料及び方法 緑豆(cv. SML 668)の種子は・・・から入手した。この種子を、0.1%塩化水銀で処理し、グロースチャンバー内で、昼/夜(12時間/12時間)の温度を30/20℃、35/25℃、40/30℃、及び45/35℃として、50μM のアスコルビン酸を添加又は無添加で水耕栽培した。アスコルビン酸の濃度は10~100μM の範囲で最適化した。最良の結果が得られたのは50μM であったため、この濃度をさらに評価した。30/20℃で生育させた植物は対照として扱った。種子は、毎日の発芽率と苗の成長(10日目)を追跡した。10日目の新芽を以下のパラメータで分析した。」 (2092頁右欄~左欄) ・摘記甲8b 「結果 発芽及び苗の成長 播種後2日目の発芽は、35/25℃では影響がなかったが、40/30℃及び45/35℃では対照(30/20℃)に比べて、それぞれ23%及び36%低下した(表1)。40/30℃及び45/35℃では、播種後2日目に、それぞれ80%及び73%の発芽を示したが、30/20℃及び35/25℃では、播種後2日目に、それぞれ100%の発芽を示した(表1)。アスコルビン酸(50μM)を添加した場合、播種4日目の発芽率は、40/30℃で85%、45/35℃で80%と、対照に比べ有意に改善した。 苗の成長 苗の成長は、ストレス10日目の根及び芽の長さとして測定した。35/25℃では根及び芽の成長は抑制されなかったが、40/30℃及び45/35℃では芽の成長がそれぞれ18%及び34%抑制された(表1)。根の成長は、これらの温度でそれぞれ13%及び23%抑制された。ASCの施用により、芽の成長は、無処理に比べて40/30℃で16%、35/25℃で30%改善した。根の成長は、ASC処理により、これらの温度でそれぞれ14%及び17%改善した。」 (2093頁右欄) ・摘記甲8c 「 [図:0001424564000024.jpg] 」 (2094頁「Table 1」) (9) 甲9の記載事項 甲9は、「α-トコフェロールの施用は、ストレス傷害の軽減及び抗酸化物質の強化により、コムギ(Triticum aestivum L.)の苗の昇温への応答を調節する」(当審合議体による訳文)という標題の論文であり、次の事項が記載されている(当審合議体による訳文にて摘記する。)。 ・摘記甲9a 「材料及び方法 小麦(Triticum aestivum L.;Cultivar-PBW343)の種子を0.1%の塩化水銀で2分間滅菌した後、蒸留水で2回十分に洗浄した。これらの種子をガラスシャーレ(直径10cm)中で23℃、4日間(明/暗=12/12時間、光強度=250 μmol-2s-1)、4日目に芽と根が出るまで水耕栽培した。これらの苗を、25℃、30℃、及び35℃(明/暗=12/12時間、光強度=250μmol-2s-1)の各温度で、7日間、α-トコフェロール(5μM)の非存在下(対照)又は存在下、グロースチャンバーの制御された条件下に置いた。このトコフェロール濃度は予備生育実験で2.5~10μMの範囲から選んだ。苗を熱ストレスに7日間暴露した後、以下に述べるように、成長、膜のストレス傷害、クロロフィル、光化学効率、及び抗酸化物質について調べた。 成長 23℃で生育し、均一な生育を示した苗を選抜し、25℃、30℃、及び35℃の各温度に7日間暴露した。成長は、対照及びトコフェロール処理植物の芽及び根の長さ(cm)として測定した。」 (308頁左欄) ・摘記甲9b 「結果 成長 芽及び根の成長は温度の上昇とともに抑制され、最高温度で最も低くなった(図1)。35℃では、芽及び根の成長は、対照よりも、それぞれ44%及び34%低下した。トコフェロールを施用すると、この温度では、芽で33%、根で20%の低下に抑えられた。」 (309頁右欄) ・摘記甲9c 「 [図:0001424564000025.jpg] 図1 トコフェロール5μMの非存在下及び存在下における熱ストレス下での芽及び根の成長。数値は平均±SE。芽及び根のバーの上の同じ大文字及び小文字がある値は、P < 0.05 で有意差はない(TukeyのLSD検定)」 (310頁左欄「Fig. 1」) (10) 甲10の記載事項 甲10は、「栄養成分別野菜ランキング」という標題のインターネット上の記事であり、次の事項が記載されている。 ・摘記甲10a 「 [図:0001424564000026.jpg] 」 (11) 甲11の記載事項 甲11は、「培養液組成に関して」という標題の論文であり、次の事項が記載されている。 ・摘記甲11a 「1.培養液のイオン濃度 植物が育つ培養液の濃度には大きな開きがある.植物のもつイオン吸収機構が,いずれのイオン濃度にも応対して育てられるように働くためである.表2の木村氏B液や春日井氏液より薄い液でもよく育つ.実際、土壌溶液は、N、P、Kの濃度はこれらの水耕液よりはるかに低濃度である。・・・ [図:0001424564000027.jpg] 」 (100頁右欄) (12) 甲12の記載事項 甲12は、「イネの対肥料反応性に関する研究」という標題の紀要論文であり、次の事項が記載されている。 ・摘記甲12a 「 材料と方法 ・・・。第2葉抽出時(・・・)からは,水道水を培養液に交換し,木村氏B液の基準濃度を100%とした,濃度の異なる7区(10,40,70,100,130,160,090%区)を設けて水耕栽培した。・・・。 結果と考察 ・・・。 実験期間中の乾物増加量(ΔW)には品種間差が認められ,40%以上の濃度区で,その差異が顕著であった(第2-2図)。」 (7頁左欄~右欄) ・摘記甲12b 「 [図:0001424564000028.jpg] 図2-2.異なる栄養濃度の下で発芽から33日間生育させたイネの苗におけるΔWの品種差。 品種は,標準栄養濃度におけるΔW/植物の値によって,3つに分類される:大-ΔW(●),1g≦ΔW;中-ΔW(×),0.6≦ΔW≦1g;及び,小-ΔW(○)、ΔW<0.6g.バーは下側標準偏差を示す(P=0.05).」 (8頁左欄「Fig.2-2.」) (13) 甲13の記載事項 甲13は、「イネにおけるマンガンの優先的分布のための節に基づくスイッチ」(当審合議体による訳文)という標題の論文であり、次の事項が記載されている(当審合議体による訳文にて摘記する。)。 ・摘記甲13a 「水耕栽培実験では、種子を25℃の暗所で一晩水に浸した後、0.5 mM CaCl2溶液に浮かべたネットに移した。7日目に苗を2分の1濃度の木村B溶液を入れた 3.5 1 のプラスチックポットに移した5。この溶液の pH は 5.6 に調整され、養液は2日ごとに更新された。」 (9頁左欄) (14) 甲14の記載事項 甲14は、「イネジャポニカ品種の芽及び穀粒における高カドミウム蓄積に関連するOsHMA3の機能喪失型対立遺伝子」(当審合議体による訳文)という標題の論文であり、次の事項が記載されている(当審合議体による訳文にて摘記する。)。 ・摘記甲14a 「植物は、以下の組成(μM)の 1/2 濃度の木村氏B栄養液で生育させた:90 KH2P04、270 MgS04、180 (NH4)2S04、90 KN03、180 Ca(N03)2、3 H3B03、0.5 MnC12、1 (NH4)6Mo7O24、0.4 ZnS04 及び 20 Fe(III)-EDTA。」 (1942頁右欄~1943頁左欄) 2 申立理由1(甲1又は甲2を主引例とする進歩性欠如)について ア 甲1を主引例とする場合 (ア) 甲1に記載された発明 上記1(1)で述べたように、甲1は、食品標準成分表のデータベースから得たデータの一部を申立人が加工したものであり、その「食品名」の欄には「赤ピーマン 果実 生」との記載があり、可食部100g当たりの種々の成分の含有量が記載されており、その「備考」欄に「別名:パプリカ」及び「廃棄部位:へた、しん及び種子」と記載されていることから(摘記甲1a)、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 ≪甲1発明≫ 「可食部100g当たり以下の成分を含有する、赤ピーマン(別名:パプリカ)の生の果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)。 水分 91.1 g たんぱく質 1.0 g 脂質 0.2 g 炭水化物 7.2 g ビタミン ビタミンA レチノール β-カロテン 940 μg β-クリプトキサンチン 230 μg β-カロテン当量 1,100 μg レチノール活性当量 88 μg ・・・ ビタミンE α-トコフェロール 4.3 mg β-トコフェロール 0.2 mg γ-トコフェロール 0.2 mg ビタミンK 7 μg ビタミンB1 0.06 mg ビタミンB2 0.14 mg ナイアシン 1.2 mg ビタミンB6 0.37 mg 葉酸 68 μg パントテン酸 0.28 mg ビタミンC 170 mg 」 (イ) 本件訂正発明1について a 対比 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生の果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」は、本件訂正発明1における「赤パプリカの果肉」に相当するから、両者には、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「赤パプリカの果肉。」 <相違点1> 赤パプリカの果肉について、本件訂正発明1は、当該果肉から「抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を「有効成分として含む」、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」であることが特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がされておらず、赤パプリカの果肉それ自体である「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生の果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」について、可食部100g当たりの種々の成分の含有量が示されている点。 b 相違点の判断 甲1には、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することも、当該画分を有効成分として「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」とすることについても、何らの記載も示唆もないし、赤パプリカの果肉を、そのように用いることは、甲2~甲14にも記載されておらず、本件特許の出願前の技術常識であったとも認められない。 c 小括 したがって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ) 本件訂正発明2、4~5について 本件訂正発明2は、本件訂正発明1において、さらに「茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、および分蘖の促進からなる群から選択される1種以上の植物成長促進作用を有する」ことを特定するものである。 本件訂正発明4は、本件訂正発明1又は2の「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」を「植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用」する「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上方法」である。 本件訂正発明5は、本件訂正発明4において、「培養液に対する前記飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物の使用量が0.1~5体積%である」ことを特定するものである。 そして、上記(イ)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1をさらに特定した本件訂正発明2、及び、本件訂正発明1の組成物を使用する方法の発明である本件訂正発明4~5も、甲1に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 甲2を主引例とする場合 (ア) 甲2に記載された発明 上記1(2)で述べたように、甲2は、食品標準成分表のデータベースから得たデータの一部を申立人が加工したものであり、その「食品名」の欄には「赤ピーマン 果実 生」との記載があり、甲2の1の2~3頁の説明も参照すると、甲2には、可食部100g当たりの複数のアミノ酸の含有量(単位はmg/100g)が記載されていると認められ、その「備考」欄に「別名:パプリカ」及び「廃棄部位:へた、しん及び種子」と記載されていることから(摘記甲2a)、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 ≪甲2発明≫ 「可食部100g当たり以下のアミノ酸を含有する、赤ピーマン(別名:パプリカ)の生の果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)。 ・・・ イソロイシン 21 mg ロイシン 36 mg リシン(リジン) 36 mg メチオニン 6.1 mg シスチン 19 mg フェニルアラニン 51 mg チロシン 9.1 mg トレオニン(スレオニン) 40 mg トリプトファン 12 mg バリン 31 mg ヒスチジン 17 mg アルギニン 36 mg アラニン 26 mg アスパラギン酸 290 mg グルタミン酸 210 mg グリシン 28 mg プロリン 24 mg セリン 51 mg ヒドロキシプロリン 0 mg アミノ酸組成計 950 mg 」 (イ) 本件訂正発明1について a 対比 本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明における「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生の果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」は、本件訂正発明1における「赤パプリカの果肉」に相当するから、両者には、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「赤パプリカの果肉。」 <相違点2> 赤パプリカの果肉について、本件訂正発明1は、当該果肉から「抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を「有効成分として含む」、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」であることが特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定がされておらず、赤パプリカの果肉それ自体である「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生の果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」について、可食部100g当たりの複数のアミノ酸の含有量が示されている点。 b 相違点の判断 甲2には、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することも、当該画分を有効成分として「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用組成物」とすることについても、何らの記載も示唆もないし、赤パプリカの果肉を、そのように用いることは、甲1、3~14にも記載されておらず、本件特許の出願前の技術常識であったとも認められない。 c 小括 したがって、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ) 本件訂正発明2、4~5について 本件訂正発明2、4~5と本件訂正発明1との関係については、上記ア(ウ)で述べたとおりである。 そして、上記(イ)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1をさらに特定した本件訂正発明2、及び、本件訂正発明1の組成物を使用する方法の発明である本件訂正発明4~5も、甲2に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 申立人の主張について (ア) 申立人の主張の概要 申立人は、申立書の22~25頁において、申立理由1(甲1又は甲2を主引例とする進歩性欠如)について、概略、次のように主張している。 甲1には、赤ピーマンの生の果実に、たんぱく質、脂質、炭水化物、無機質、ビタミン等が含まれていることが記載されている。 甲2には、赤ピーマンの生の果実に、アミノ酸として、イソロイシン、ロイシン、リシン(リジン)、メチオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシン、トレオニン(スレオニン)、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、及び、ヒドロキシプロリンが含まれていることが記載されている。 甲3に、アミノ酸の中で、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、リシン、セリン、及び、トレオニンが親水性の高いアミノ酸であることが記載されている。 甲4に、ビタミンには、4種類の脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、及び、ビタミンK) と、9種類の水溶性ビタミン(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ニコチン酸、パントテン酸、葉酸、ビオチン、及び、ビタミンC)とがあることが記載されている。 甲5に、赤ピーマンが赤パプリカとも呼ばれていることが記載されている。 甲6に、塩ストレス条件下において、親水性アミノ酸であるアルギニンによる前処理で、レタス苗の長さの生育が、無処理(脱イオン水)と比較して回復したことが記載されている。 甲7に、異なる遺伝子型のイネで、塩ストレス条件下において、親水性ビタミンであるアスコルビン酸(AsA)を添加した区では、根の新鮮重量が増加したことが記載されている。 甲8に、高温ストレス条件下において、親水性ビタミンであるアスコルビン酸による前処理で、緑豆の発芽率及び芽及び根の成長が回復したことが記載されている。 甲9に、高温ストレス条件下(35℃)において、小麦苗に疎水性ビタミンであるα-トコフェロールを散布した区では、芽及び根の成長が改善したことが記載されている。 甲10に、ビタミンCを多く含む野菜として、赤ピーマン(パプリカ)が挙げられることが記載されている。 甲11~甲14には、木村氏B液に関連する記載がある。 上記の甲1~甲9の記載から、甲1発明における「親水性のビタミン」、及び、甲2発明における「親水性のアミノ酸」は、本件発明1における「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキス」に相当する。 上記の甲6~甲8の記載事項は、本件発明1における、「温度ストレス、化学的ストレス、光ストレス、乾燥ストレス、pHストレス、塩ストレス、低酸素ストレス、食害ストレス、物理的ストレス、病害ストレスからなる群から選択される1種以上に対するストレス耐性向上作用を有する、非生物的ストレス耐性向上用組成物」に相当する。 さらに、上記の甲10の記載事項も参照すると、赤パプリカには、親水性ビタミン(アスコルビン酸(ビタミンC))等が含まれており、当該アスコルビン酸(ビタミンC)が植物の高温ストレス及び塩ストレス耐性効果を付与することが知られているから、アスコルビン酸(ビタミンC)の含有量が多い野菜である、甲1発明及び甲2発明の赤パプリカのエキスを、非生物的ストレス耐性向上用組成物にしてみることは、当業者が容易に想到できる。 (イ) 申立人の主張についての判断 甲1には、赤パプリカの果肉に親水性ビタミンであるビタミンCが含まれていることが記載されており、甲2には、赤パプリカの果肉に親水性アミノ酸であるアルギニンなどが含まれていることが記載されているものの、甲1にも甲2にも、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することについては記載も示唆もされていない。 また、甲3~甲14にも、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することは記載も示唆もされていないし、甲1~甲14には、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」について何らの記載もない。 そうすると、赤ピーマン(パプリカ)に、植物の高温ストレス及び塩ストレスに対する耐性効果を付与することが知られているアスコルビン酸(ビタミンC)が多く含まれ、また、塩ストレス条件下においてレタス苗の生育の回復の効果が知られている親水性アミノ酸であるアルギニンも含まれているからといって、甲1発明又は甲2発明の「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生の果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」(赤パプリカの果肉)から、「親水性画分を抽出」したうえで、当該画分を有効成分として「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」の組成物とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 3 申立理由2(甲6~甲9のいずれかに基づく新規性欠如)、及び、申立 理由3(甲6~甲9のいずれかを主引例とする進歩性欠如)について ア 甲6を主引例とする場合 (ア) 甲6に記載された発明 摘記甲6aからみて、甲6には、次の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。 ≪甲6発明≫ 「外因性アミノ酸としてのL-アスパラギン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-プロリン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-バリン、アルギニン、グリシン、ヒスチジン又はメチオニンを有効成分として含む、塩ストレスとして有害なレベル(60mM)のNaClの存在下で、レタスの苗長の増加をもたらす組成物。」 (イ) 本件訂正発明1について a 対比 本件訂正発明1と甲6発明とを対比する。 甲6発明における「塩ストレス」は、本件訂正発明1における「飢餓状態による化学的ストレス」と、「化学的ストレス」である点で共通しており、甲6発明において「レタスの苗長の増加をもたらす」ことは、本件訂正発明1における「耐性向上」に相当する。 甲6発明における「L-アスパラギン、L-チロシン、アルギニン又はヒスチジン」は、親水性アミノ酸であるから、本件訂正発明1における「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」と、「親水性物質」である点で共通する。 そうすると、本件訂正発明1と甲6発明の間には、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「親水性物質を有効成分として含む、化学的ストレス耐性向上用組成物。」 <相違点3> 親水性物質が、本件訂正発明1では、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」であるのに対し、甲6発明では、「L-アスパラギン、L-チロシン、アルギニン又はヒスチジン」である点。 <相違点4> 化学的ストレスが、本件訂正発明1では、「飢餓状態による化学的ストレス」であるのに対し、甲6発明では、「塩ストレス」である点。 b 相違点の判断 (a) 新規性について 相違点3は、組成物の成分組成に関するものであり、相違点4は、組成物の用途に関するものであるから、いずれも実質的な相違点である。 したがって、本件訂正発明1は、甲6に記載された発明ではない。 (b) 進歩性について α 相違点3について 甲2には、「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」に、親水性アミノ酸である、アスパラギン、チロシン、アルギニン又はヒスチジンが含まれていることは記載されているが、甲1~甲14のいずれにも、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することについては記載も示唆もされていないし、親水性アミノ酸を得るために赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」することが、本件特許の出願時の技術常識であったとも認められない。 したがって、甲6発明において、「L-アスパラギン、L-チロシン、アルギニン又はヒスチジン」を、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 β 相違点4について 甲6は、その標題が示しているように、あくまでも、Lactuca sativa L.(レタス)の発芽及び発芽後初期における塩ストレス軽減のための外因性L-アミノ酸の可能性について述べた論文であり、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、記載も示唆もされていない。また、甲1~5、7~14にも、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、何らの記載も示唆もないし、塩ストレス軽減に有効な成分が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」にも常に有効であるといった技術常識が、本件特許の出願前に存在したとも認められない。 したがって、甲6発明において、「塩ストレス」への対応を、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 c 小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲6に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ) 本件訂正発明2、4~5について 本件訂正発明2、4~5と本件訂正発明1との関係については、上記2ア(ウ)で述べたとおりである。 そして、上記(イ)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲6に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1をさらに特定した本件訂正発明2、及び、本件訂正発明1の組成物を使用する方法の発明である本件訂正発明4~5も、甲6に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 イ 甲7を主引例とする場合 (ア) 甲7に記載された発明 摘記甲7a~7bからみて、甲7には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているものと認められる。 ≪甲7発明≫ 「外因性アスコルビン酸(AsA)を有効成分として含む、塩ストレス条件下で、前処理によりイネ根の新鮮重量の増加をもたらす組成物。」 (イ) 本件訂正発明1について a 対比 本件訂正発明1と甲7発明とを対比する。 甲7発明における「塩ストレス」は、本件訂正発明1における「飢餓状態による化学的ストレス」と、「化学的ストレス」である点で共通しており、甲7発明において「前処理によりイネ根の新鮮重量の増加をもたらす」ことは、本件訂正発明1における「耐性向上」に相当する。 甲7発明における「アスコルビン酸(AsA)」は、水溶性(親水性)ビタミンであるから、本件訂正発明1における「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」と、「親水性物質」である点で共通する。 そうすると、本件訂正発明1と甲7発明の間には、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「親水性物質を有効成分として含む、化学的ストレス耐性向上用組成物。」 <相違点5> 親水性物質が、本件訂正発明1では、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」であるのに対し、甲7発明では、「アスコルビン酸(AsA)」である点。 <相違点6> 化学的ストレスが、本件訂正発明1では、「飢餓状態による化学的ストレス」であるのに対し、甲7発明では、「塩ストレス」である点。 b 相違点の判断 (a) 新規性について 相違点5は、組成物の成分組成に関するものであり、相違点6は、組成物の用途に関するものであるから、いずれも実質的な相違点である。 したがって、本件訂正発明1は、甲7に記載された発明ではない。 (b) 進歩性について α 相違点5について 甲1には、「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」に、親水性ビタミンであるビタミンC(即ちアスコルビン酸)が含まれていることは記載されているが、甲1~甲14のいずれにも、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することについては記載も示唆もされていないし、アスコルビン酸など親水性ビタミンを得るために赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」することが、本件特許の出願時の技術常識であったとも認められない。 したがって、甲7発明において、「アスコルビン酸(AsA)」を、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 β 相違点6について 甲7は、その標題が示しているように、あくまでも、イネの耐塩性の潜在的決定因子と外因性アスコルビン酸の施用による耐性の調節について述べた論文であり、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、記載も示唆もされていない。また、甲1~6、8~14にも、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、何らの記載も示唆もないし、塩ストレス軽減に有効な成分が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」にも常に有効であるといった技術常識が、本件特許の出願前に存在したとも認められない。 したがって、甲7発明において、「塩ストレス」への対応を、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 c 小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲7に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ) 本件訂正発明2、4~5について 本件訂正発明2、4~5と本件訂正発明1との関係については、上記2ア(ウ)で述べたとおりである。 そして、上記(イ)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲7に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1をさらに特定した本件訂正発明2、及び、本件訂正発明1の組成物を使用する方法の発明である本件訂正発明4~5も、甲7に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 甲8を主引例とする場合 (ア) 甲8に記載された発明 摘記甲8a~8cからみて、甲8には、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されているものと認められる。 ≪甲8発明≫ 「アスコルビン酸を有効成分として含む、熱ストレス条件下で、緑豆の発芽率と苗の成長の改善をもたらす組成物。」 (イ) 本件訂正発明1について a 対比 本件訂正発明1と甲8発明とを対比する。 甲8発明における「熱ストレス」は、本件訂正発明1における「飢餓状態による化学的ストレス」と、「ストレス」である点で共通しており、甲8発明において「緑豆の発芽率と苗の成長の改善をもたらす」ことは、本件訂正発明1における「耐性向上」に相当する。 甲8発明における「アスコルビン酸」は、水溶性(親水性)ビタミンであるから、本件訂正発明1における「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」と、「親水性物質」である点で共通する。 そうすると、本件訂正発明1と甲8発明の間には、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「親水性物質を有効成分として含む、ストレス耐性向上用組成物。」 <相違点7> 親水性物質が、本件訂正発明1では、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」であるのに対し、甲8発明では、「アスコルビン酸」である点。 <相違点8> ストレスが、本件訂正発明1では、「飢餓状態による化学的ストレス」であるのに対し、甲8発明では、「熱ストレス」である点。 b 相違点の判断 (a) 新規性について 相違点7は、組成物の成分組成に関するものであり、相違点8は、組成物の用途に関するものであるから、いずれも実質的な相違点である。 したがって、本件訂正発明1は、甲8に記載された発明ではない。 (b) 進歩性について α 相違点7について 甲1には、「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」に、親水性ビタミンであるビタミンC(即ちアスコルビン酸)が含まれていることは記載されているが、甲1~甲14のいずれにも、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することについては記載も示唆もされていないし、アスコルビン酸など親水性ビタミンを得るために赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」することが、本件特許の出願時の技術常識であったとも認められない。 したがって、甲8発明において、「アスコルビン酸」を、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 β 相違点8について 甲8は、その標題が示しているように、あくまでも、熱ストレス誘導性の緑豆の成長の阻害及びクロロシスのアスコルビンの施用による軽減について述べた論文であって、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、記載も示唆もされていない。また、甲1~7、9~14にも、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、何らの記載も示唆もなく、熱ストレス軽減に有効な成分が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」にも常に有効であるといった技術常識が、本件特許の出願前に存在したとも認められない。 したがって、甲8発明において、「熱ストレス」への対応を、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 c 小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲8に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ) 本件訂正発明2、4~5について 本件訂正発明2、4~5と本件訂正発明1との関係については、上記2ア(ウ)で述べたとおりである。 そして、上記(イ)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲8に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1をさらに特定した本件訂正発明2、及び、本件訂正発明1の組成物を使用する方法の発明である本件訂正発明4~5も、甲8に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 甲9を主引例とする場合 (ア) 甲9に記載された発明 摘記甲9a~9cからみて、甲9には、次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されているものと認められる。 ≪甲9発明≫ 「トコフェロールを有効成分として含む、熱ストレス条件下で、コムギの芽及び根の成長の改善をもたらす組成物。」 (イ) 本件訂正発明1について a 対比 本件訂正発明1と甲9発明とを対比する。 甲9発明における「熱ストレス」は、本件訂正発明1における「飢餓状態による化学的ストレス」と、「ストレス」である点で共通しており、甲9発明において「コムギの芽及び根の成長の改善をもたらす」ことは、本件訂正発明1における「耐性向上」に相当する。 甲9発明における「トコフェロール」は、脂溶性(疎水性)ビタミンであるから、本件訂正発明1における「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」と、一般に「物質」である点で共通する。 そうすると、本件訂正発明1と甲9発明の間には、次の一致点及び相違点があると認められる。 <一致点> 「物質を有効成分として含む、ストレス耐性向上用組成物。」 <相違点9> 物質が、本件訂正発明1では、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」であるのに対し、甲9発明では、「トコフェロール」である点。 <相違点10> ストレスが、本件訂正発明1では、「飢餓状態による化学的ストレス」であるのに対し、甲9発明では、「熱ストレス」である点。 b 相違点の判断 (a) 新規性について 相違点9は、組成物の成分組成に関するものであり、相違点10は、組成物の用途に関するものであるから、いずれも実質的な相違点である。 したがって、本件訂正発明1は、甲9に記載された発明ではない。 (b) 進歩性について α 相違点9について 甲1には、「赤ピーマン(別名:パプリカ)の生果実(廃棄部位:へた、しん及び種子)」に、疎水性ビタミンであるトコフェロールとともに親水性の複数の成分が含まれていることは記載されているが、甲1~甲14のいずれにも、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することは記載も示唆もされていないし、甲8発明における疎水性ビタミンである「トコフェロール」を、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」に敢えて変更することの動機付けは何ら見いだせない。 β 相違点10について 甲9は、その標題が示しているように、あくまでも、α-トコフェロールの施用によるコムギの苗の昇温への応答の調節について述べた論文であり、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、記載も示唆もされていない。また、甲1~7、9~14にも、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、何らの記載も示唆もなく、熱ストレス軽減に有効な成分が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」にも常に有効であるといった技術常識が、本件特許の出願前に存在したとも認められない。 したがって、甲9発明において、「熱ストレス」への対応を、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 c 小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲9に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ) 本件訂正発明2、4~5について 本件訂正発明2、4~5と本件訂正発明1との関係については、上記2ア(ウ)で述べたとおりである。 そして、上記(イ)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲9に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1をさらに特定した本件訂正発明2、及び、本件訂正発明1の組成物を使用する方法の発明である本件訂正発明4~5も、甲9に記載された発明及び甲1~甲14に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 オ 申立人の主張について (ア) 申立人の主張の概要 申立人は、申立書の32~36頁において、申立理由2(甲6~甲9のいずれかに基づく新規性欠如)、及び、申立理由3(甲6~甲9のいずれかを主引例とする進歩性欠如)について、上記2ウ(ア)に示したのと同じ甲6~甲9の記載事項の概要を述べた上で、概略、次のように主張している。 甲6発明~甲9発明は、本件発明1における「温度ストレス、化学的ストレス、光ストレス、乾燥ストレス、pHストレス、塩ストレス、低酸素ストレス、食害ストレス、物理的ストレス、病害ストレスからなる群から選択される1種以上に対するストレス耐性向上作用を有する、非生物的ストレス耐性向上用組成物」に相当する。 有効成分が、本件発明1では、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキス」であるのに対し、甲6発明~甲9発明では、「親水性のアミノ酸」、「親水性のビタミン」又は「疎水性のビタミン」である点で相違しているが、「赤パプリカの果肉」には、「親水性のアミノ酸」、「親水性のビタミン」又は「疎水性のビタミン」が含まれていることは、上記(4-1)ウ(当審注:上記2ウ(ア)で示した、申立書の22~23頁における甲1~甲14の記載事項が示された項目。)で示したとおり、よく知られていることにすぎないから(甲1発明~甲5発明、甲10発明)、本件発明1は、甲6~甲9に記載されているに等しい。 また、赤パプリカに親水性のビタミン(アスコルビン酸(ビタミンC))等が含まれており、当該アスコルビン酸(ビタミンC)が植物の高温ストレス及び塩ストレスの耐性効果を付与することが知られているから、アスコルビン酸(ビタミンC)の含有量が多い野菜である赤パプリカのエキスを、非生物的ストレス耐性向上用組成物にしてみることは、当業者であれば容易に想到できる。 (イ) 申立人の主張についての判断 本件訂正によって、本件訂正発明1の組成物は、その用途が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定されており、本件訂正発明1における「飢餓状態による化学的ストレス」と、甲6発明における「塩ストレス」との相違(相違点4)、甲7発明における「塩ストレス」との相違(相違点6)、甲8発明における「熱ストレス」との相違(相違点8)、及び、甲9発明における「熱ストレス」との相違(相違点10)が、いずれも実質的な相違点であることは、上述したとおりであるし、甲1~14のいずれにも、「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」については、何らの記載も示唆もなく、塩ストレスや熱ストレスの軽減に有効な成分が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」にも常に有効であるといった技術常識が、本件特許の出願前に存在したとも認められない。 また、本件訂正によって、本件訂正発明1の組成物の有効成分は「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」に限定されているところ、甲1~甲14のいずれにも、赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」して利用することは記載も示唆もされていないし、親水性アミノ酸やアスコルビン酸などの親水性ビタミンを得るために赤パプリカの果肉から「親水性画分を抽出」することが、本件特許の出願時の技術常識であったとも認められない。 そうすると、赤ピーマン(パプリカ)に、植物の高温ストレス及び塩ストレスに対する耐性効果を付与することが知られているアスコルビン酸(ビタミンC)が多く含まれ、また、塩ストレス条件下においてレタス苗の生育の回復の効果が知られている親水性アミノ酸であるアルギニンも含まれているからといって、甲6発明~甲9発明において、その有効成分を敢えて「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」に変更したうえで、その用途を「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に変更することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 したがって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。 4 申立理由4(実施可能要件違反)、及び、申立理由5(サポート要件 違反)について (1) 申立人の主張の概要 上記第4の1(4)~(5)に示した申立理由4(実施可能要件違反)及び申立理由5(サポート要件違反)の(ア)~(サ)の点のうち、取消理由通知において採用しなかった、(イ)、(カ)、(キ)、(ク)、(コ)、(サ)の点について、申立人は、申立書において、概略、次のように主張している。 ア 特定の濃度以外は記載されていない点(イ)について 本件請求項1には、有効成分である「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキス」の濃度が記載されていないが、本件明細書に記載の実施例1では、赤パプリカエキスを含む親水性画分を、飢餓状態のイネが生育する培養液600mLに0.6mL(0.1体積%)添加することが記載され、赤パプリカエキスを含む親水性画分を、実施例2では0.2mL、実施例3では0.4mL、実施例4では0.8mL添加して試験が行われているが、添加量が0.2mL未満の場合、0.8mLを超える場合の試験例は記載されておらず、それらの場合に、イネの根張りの向上効果が得られるかどうかは不明である。 (申立書の38~39頁) イ 遺伝子発現結果からは実際のストレス耐性向上作用につながるかどうか が不明である点(カ)について 本件特許に係る出願の審査段階で令和5年4月6日付で提出された意見書において、高温ストレス、低温ストレス、及び低酸素ストレスヘの応答遺伝子が活性化したことを示すデータが提出されたが、一般に、遺伝子発現したからといって、植物自体にその効果を示したかは、実際に、植物への影響を確認しないと分からないことであり、そうすると、本件明細書の記載から、仮に応答遺伝子が発現する可能性があるとしても、ストレス耐性が向上したか否かについては、発明の詳細な説明の実施例をみて理解できるものとは到底いえない。 (申立書の44~48頁) ウ 対象植物がイネ以外記載されていない点(キ)について 本件請求項1では、適用対象とする植物が限定されていないところ、本件明細書の段落【0027】には、「本実施形態において、植物成長促進組成物の適用対象となる植物は、特に限定されるものではなく、例えば、被子植物及び裸子植物が挙げられる。対象となる植物としては、例えば、・・・」と記載されており、数多くの植物が例示されているが、実施例において実際に適用されているのは、イネのみである。 しかし、通常、植物の種類や部位により非生物的ストレス耐性向上の効果は異なり、例えば、甲20の記載によれば、イネに対しては成長促進効果を示すのに対して、シロイヌナズナではそのような効果を示さず、むしろストレス応答に寄与する化合物(ザキシノン)がある。 また、各ストレスには、種々の要素(作用機序等)が関連しており、イネ以外の全ての植物に対して、赤パプリカエキスが同様に作用するものでないことは明らかである。 (申立書の48~50頁) エ イネの幼苗の根の重さ以外は記載されていない点(ク)について 本件請求項2 には、植物成長促進作用として、「茎葉部若しくは根部の伸長、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、及び分菓の促進」が記載されている。 しかし、本件明細書に記載の実施例では、イネの幼苗の「根の重さ」しか測定されていない。 一般に、「根の重さ」が増加したからといって、「茎葉部の伸長」、「葉数の増加」、「開花の促進」、「結実の促進」、「花の数の増加」、「果実の数の増加」、「植物体重量の増加」、「作物収量の増加」、「緑化」、及び、「分葉の促進」が起こるとは、当業者の技術常識からしてみても、考えにくい。 そして、唯一測定されている上記「イネの幼苗の根の重さ」についても、本件明細書の段落【0042】~【0046】の記載をみると、イネの根に水分が含まれている状態で重量を測定しているのか否かが不明であり、例えば、実施例4ではイネ根部の重量が20%増加しているのに対して、比較例1では18%増加していたと記載されている。イネの根部そのものの重量も理解できないところ、このわずか2%の差異が誤差である可能性も否定できない。 根の伸長であればともかく、根の重量で比較する場合、実施例及び比較例で、具体的に、試験期間、処理回数、試験開始時のイネの大きさ(葉齢)等がわかり、根重の測定方法としては、培養液の水分を除去する等のように、水を除去し、乾燥した後の評価であると記載されていればともかく、試験を行った回数(n数)もわからないような本件明細書の記載では、当業者が、客観的に、発明を実施できる程度に明確かつ十分に理解できない。 (申立書の50~51頁) オ 植物及び植物の生育する土壌に使用した例が記載されていない点(コ) について 本件請求項4には、「請求項1又は2に記載の非生物的ストレス耐性向上用組成物を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用する、非生物的ストレス耐性向上方法。」と記載されているが、本件明細書に記載の実施例では、赤パプリカエキスを培養液に添加した例しか記載されておらず、植物に使用した例及び植物の生育する土壌に使用した例については一切記載されていないから、培養液に添加して使用するのではなく、植物に直接施用した場合にも、同様の効果が得られたのか不明である。 (申立書の51~52頁) カ 比較例に記載した腐植酸系資材の意味が不明である点(サ)について 本件明細書の段落【0046】には、 「【比較例1】 赤パプリカエキスの代わりに腐植酸系資材を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により行った。その結果、腐植酸系資材を添加していない場合と比較してイネ根部の重量が18%増加していたが、赤パプリカエキスを添加した場合と比較して植物成長促進作用は劣っていた。」 と記載されているが、腐植酸系資材が何を意味しているのか、何を使用し、それにはどのような成分が含まれているのか、含まれる成分の濃度はどれだけであるか等について何ら記載されておらず、不明である。 一般に、比較例は、明細書において、本件発明が、どの程度、どのように優れているのかを示すための基準となるものであり、本件発明の効果が予想外の優れた効果であることを立証するために重要なものであるから、このような本件明細書に記載の比較例に基づいて、本件発明の優れた効果を当業者が理解できるとはいえない。 (申立書の52頁) (2) 申立人の主張についての判断 ア 上記(イ)の点について 上記第5の1(2)ア(イ)dで詳述したように、本件明細書に記載の実施例1~4の試験の結果によれば、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を、それぞれ異なる量で飢餓状態のイネの生育する培養液に添加した場合に、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較してイネ根部の重量が増加(0.2mL(約0.03体積%)添加で31%増加、0.4mL(約0.07体積%)添加で43%増加、0.6mL(0.1体積%)添加で66%増加、0.8mL(約0.13体積%)添加で66%増加)しており、イネの根張りの向上効果が見られたから、飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性が向上したことを理解でき、培養液に添加する当該親水性画分の量の違いによって、当該親水性画分のそれぞれ異なった濃度において、どの程度のイネの根張りの向上効果に違いが生じるのかも理解できるから、これらの実施例の記載を参考にすれば、当該親水性画分の添加量が0.2mL未満の場合や0.8mLを超える場合にも、どの程度の効果が得られるかを、当業者は予測できるといえる。 したがって、申立人の主張は採用できない。 イ 上記(カ)の点について 上記第5の1(2)イ(イ)で詳述したように、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、「赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分」を有効成分として含む「組成物」を「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上」の用途に使用できると、当業者が認識することができるといえるから、上記の令和5年4月6日付の意見書で提示された、イネの遺伝子発現の変動について評価した試験の結果によって、赤パプリカエキスを含む親水性画分を「非生物的ストレス耐性向上用」の用途とし得ると、当業者が認識できるか否かにかかわらず、本件訂正請求項1~2、4~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1~2、4~5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。 また、「ストレス応答系の遺伝子を活性化させる」ことを特定事項とする本件特許の設定登録時の請求項3は、本件訂正により削除されるから、判断すべき対象が存在しない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 ウ 上記(キ)の点について 本件訂正発明1~2、4~5における「組成物」は、本件訂正により、その用途が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定されており、植物における「飢餓状態」とは、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すと理解できるから(第5の1(1)イ(イ)cを参照)、飢餓状態のイネの根張りの向上効果が示された本件明細書に記載の実施例1~4の試験の結果から、イネ以外の植物でも、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を含む組成物の適用によって、栄養欠乏状態が解消し、飢餓状態による化学的ストレス耐性が向上すると推定できるといえる。 したがって、申立人の主張は採用できない。 エ 上記(ク)の点について 上記ウで述べたとおり、本件訂正発明1~2、4~5における「組成物」は、本件訂正により、その用途が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定されており、植物における「飢餓状態」とは、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すと理解できるから、本件明細書に記載の実施例1~4の試験では、飢餓状態のイネの根張りの向上効果をイネの幼苗の根の重さによって確認しており、また、【図1】の記載によれば、赤パプリカエキスを添加していない場合(「Cont」)と比較して、赤パプリカエキスを含む組成物を0.6mL(実施例1)添加した場合(「RPs0.6」)及び同組成物を0.8mL(実施例4)添加した場合(「RPs0.8」)では、明らかに根の成長が向上したことを把握できるところ、根以外の部位でも、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を含む組成物の適用によって、栄養欠乏状態が解消し、飢餓状態による化学的ストレス耐性が向上すると推定できるといえる。 したがって、申立人の主張は採用できない。 オ 上記(コ)の点について 上記ウで述べたとおり、本件訂正発明1~2、4~5における「組成物」は、本件訂正により、その用途が「飢餓状態による化学的ストレス耐性向上用」に限定されており、植物における「飢餓状態」とは、栄養が十分な環境下と比べて、栄養が欠乏し、植物の生育が劣っているような状態(すなわち栄養欠乏状態)を指すと理解できるから、本件明細書に記載の実施例1~4の試験では、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を、飢餓状態のイネの生育する培養液に添加し、イネの根張りの向上効果を確認しているが、当該親水性画分を含む組成物を、直接、植物に適用した場合及び植物の生育する土壌に使用した場合にも、栄養欠乏状態が解消し、飢餓状態による化学的ストレス耐性が向上すると推定できるといえる。 したがって、申立人の主張は採用できない。 カ 上記(サ)の点について 上記アで述べたとおり、本件明細書に記載の実施例1~4の試験の結果によれば、赤パプリカの果肉から抽出された赤パプリカエキスを含む親水性画分を、異なる量で飢餓状態のイネの生育する培養液に添加した場合に、赤パプリカエキスを添加していない場合と比較して、イネ根部の重量が増加しており、イネの根張りの向上効果が見られ、飢餓状態による化学的ストレスに対するストレス耐性が向上したことを理解できるから、比較例で用いられた「腐植酸系資材」が不明であることは、本件訂正発明1~2、4~5についてのサポート要件及び実施可能要件の判断を左右するものではない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 5 申立理由6(明確性要件違反)について 上記第4の1(6)に示した申立理由6(明確性要件違反)の(ア)~(ウ)の点のうち、取消理由通知において採用しなかった(ウ)の点について、申立人は、申立書において、概略、次のように主張している。 本件請求項3には、「ストレス応答系」の遺伝子を活性化させる、と記載されているところ、応答系とは、どのような範囲のものまでを意味しているのか、その範囲が不明であり、ストレス応答に関する遺伝子以外も含まれているのか否かが理解できない。 (申立書の53頁) しかしながら、本件訂正により、本件特許の請求項3は削除されるため、上記申立理由6の(ウ)の点については、判断すべき対象が存在しない。 第7 むすび 以上のとおり、本件訂正請求は適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 先の取消理由通知書及び/又は取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の訂正後の請求項1~2、4~5に係る特許を取り消すことはできない。また、その他に本件特許の訂正後の請求項1~2、4~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件特許の請求項3は、本件訂正により削除されるから、申立人による本件特許の請求項3に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、本件特許の請求項3に係る発明の特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700075

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