特許異議申立
2023-701315
ニッケル粉末およびニッケル粉末の製造方法
- 審判番号
- 2023-701315
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-170584
- 登録番号
- 7293591
- 請求日
- 2023年12月13日
- 審決日
- 2025年02月07日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友金属鉱山株式会社
- 【権利者代理人】瀧野 文雄
- 【権利者代理人】津田 俊明
- 【権利者代理人】福田 康弘
- 【権利者代理人】渡辺 篤司
- 【異議申立人】藤井 正剛
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1652.113-YAA(B22F) / P1652.121-YAA(B22F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7293591号発明「ニッケル粉末およびニッケル粉末の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7293591号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4~7〕について訂正することを認める。
特許第7293591号の請求項4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7293591号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願(特願2018-170584号。以下、「本願」という。)は、平成30年 9月12日の出願であって、令和 5年 6月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月13日に、その請求項4に係る特許について、特許異議申立人である藤井正剛(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。
令和 6年 3月22日付け 審尋(申立人に対する)
5月20日提出 回答書(申立人)
8月13日付け 取消理由通知書
10月 9日提出 意見書、訂正請求書(特許権者)
11月25日提出 意見書(申立人)
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨
令和6年10月 9日提出の訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、特許第7293591号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4~7について訂正することを求める、というものである。
2 訂正事項
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は以下の訂正事項を含む。なお、訂正箇所には下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下である、ニッケル粉末。」と記載されているのを、
「下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下である、ニッケル粉末。」と訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmである、請求項4に記載のニッケル粉末。」と記載されているのを、
「個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmである、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)」と訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上である、請求項4または5に記載のニッケル粉末。」と記載されているうち、請求項4を引用するものについて、独立形式に改めて、
「個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上である、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)」と訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上である、請求項4または5に記載のニッケル粉末。」と記載されているうち、請求項5を引用するものについて、独立形式に改めて、
「個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmであり、
個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上である、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)」と訂正し、新たに請求項7とする。
3 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4の「ニッケル粉末」が「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下である」ことを限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項1は、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0076】の「湿式法によるニッケル粉末には、薬剤起因の不純物である塩素やアルカリ金属等が含有される場合がある。これらの不純物は、積層セラミックコンデンサ等の製造時において内部電極の欠陥発生の原因となる可能性があるため、可能な限り低減することが好ましい。具体的には、塩素、アルカリ金属ともに、含有量が0.01質量%以下であることが好ましい。」との記載(下線は当審が付した。)に基づいて訂正するものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5が請求項4を引用するものであったところ、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めるための訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6が請求項4または5を引用するものであったところ、請求項4を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めるための訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6が請求項4または5を引用するものであったところ、請求項5を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めるための訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、また、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかである。
オ 小括
訂正事項1~4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮、又は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正事項1~4はいずれも、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項5~6は、請求項4を引用するものであって、請求項4の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項4~6は一群の請求項を構成するものである。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔4~7〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、特許異議の申立てがされている訂正前の請求項4に係る訂正事項1について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の要件は課されない。
また、特許異議の申立てがされていない訂正前の請求項5~6についての訂正事項2~4は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、同条同項ただし書き第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものではないので、訂正事項2~4について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の要件は課されない。
4 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~7(以下、「本件請求項1~7」という。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件請求項1~7に係る発明を「本件特許発明1」等といい、これらを総称して「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを10秒以内に混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物中の前記水溶性ニッケル塩を還元させてニッケル晶析粉末を得る晶析工程と、を含み、
前記混合工程は、水溶性ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩を含む溶液Aに、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを含む溶液Bを混合する段階、または、
水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩およびヒドラジンを含む溶液Cに、水酸化アルカリを含む溶液Dを混合する段階を含み、
前記混合工程により得た前記混合物の温度は、10℃~25℃である、ニッケル粉末の製造方法。
【請求項2】
前記溶液AまたはBのいずれかはアミン化合物を含み、前記溶液CまたはDのいずれかはアミン化合物を含む、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程後、前記混合物とアミン化合物を混合するアミン化合物混合工程を含む、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
【請求項4】
個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下である、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)
【請求項5】
個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmである、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)
【請求項6】
個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上である、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)
【請求項7】
個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であり、
個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmであり、
個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上である、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に公知となった下記3の甲第1、2号証(以下、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項4に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。なお、ここ第4及び次の第5において、本件請求項4とは本件訂正前の請求項4を意味し、本件特許発明4とは本件訂正前の請求項4に係る発明を意味する。
1 申立理由1(新規性、進歩性;取消理由として採用)
本件特許発明4は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(新規性、進歩性;取消理由として採用)
本件特許発明4は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2016-166391号公報
甲第2号証:Yuanzhi Chen、外4名、Size- and Structure-Controlled Synthesis and Characterization of Nickel Nanoparticles、Journal of Nanoscience and Nanotechnology、2009年、Vol.9、No.9、pp.5157~5163
第5 令和 6年 8月13日付けで通知した取消理由の概要
1 取消理由1(甲1を主たる引用例とする新規性・進歩性)
本件請求項4に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、また、本件請求項4に係る発明は、仮に、甲1に記載された発明と対比して相違点が存在するとしても、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(甲2を主たる引用例とする新規性・進歩性)
本件請求項4に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、また、本件請求項4に係る発明は、仮に、甲1に記載された発明と対比して相違点が存在するとしても、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
1 取消理由1と申立理由1(甲1を主たる引用例とする新規性・進歩性)について
(1)甲1の記載事項
本願の出願前に公知となった甲1には、「ニッケル粒子の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粒子の製造方法であって、下記の工程I~III;
I)走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径D1が10nm以上30nm以下の範囲内であり、かつ、粒子径の変動係数CV1が0.12以下である種粒子を準備する工程、
II)ニッケル塩と、脂肪族1級モノアミンと、を混合し、加熱することによって、ニッケル塩を有機アミンに溶解させたニッケル錯体溶液を準備する工程、
III)前記種粒子と前記ニッケル錯体溶液とを混合して混合液を得るとともに、該混合液中のニッケルイオンを加熱還元し、前記種粒子を核として金属ニッケルを析出・成長させてニッケル粒子を形成する工程、
を含み、
前記工程IIIでは、前記混合液中のニッケル錯体を、金属元素換算で、前記種粒子又は該種粒子から成長したニッケル粒子の金属元素重量に対して200倍以下に維持することを特徴とするニッケル粒子の製造方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば積層セラミックスコンデンサ(MLCC)の内部電極形成用の導電性ペーストなどの用途に好適に利用できるニッケル粒子の製造方法に関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の実施例では、核となる金属超微粒子の大きさが100nmを超えており、最終的に製造される金属微粒子の平均粒子径も1μm程度であることから、凝集が発生しにくく、粒子径のばらつきに対する許容範囲も広い。そのため、特許文献1の技術は、現在の工業材料に求められる、例えば平均粒子径が300nm以下の小さな金属微粒子の製造に適用できるものではない。
【0007】
本発明の目的は、平均粒子径が例えば300nm以下であって、粒子径が均一でそのばらつきが小さい金属微粒子を安定的に製造することである。」
エ 「【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で作製したニッケル粒子(種粒子)のSEM写真である。
【図2】実施例1で作製したニッケル粒子のSEM写真である。
【図3】実施例4で作製したニッケル粒子(種粒子)のSEM写真である。
【図4】実施例4で作製したニッケル粒子のSEM写真である。
【図5】実施例8で作製したニッケル粒子(種粒子)のSEM写真である。
【図6】実施例8で作製したニッケル粒子のSEM写真である。
【図7】比較例2で作製したニッケル粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態に係るニッケル粒子の製造方法は、工程I~工程IIIを含んでいる。
【0018】
[工程I]
工程Iでは、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径D1が10nm以上30nm以下の範囲内であり、かつ、粒子径の変動係数CV1が0.12以下である種粒子を準備する。
…
【0033】
[工程II]
工程IIでは、ニッケル塩と、脂肪族1級モノアミンと、を混合し、加熱することによってニッケル塩を有機アミンに溶解させたニッケル錯体溶液を準備する。
…
【0041】
[工程III]
本工程は、工程Iで得た種粒子と、工程IIで得たニッケル錯体溶液とを混合して混合液を得るとともに、該混合液中のニッケルイオンを加熱還元し、種粒子を核として金属ニッケルを析出・成長させてニッケル粒子を形成する工程である。」
オ 「【0054】
<ニッケル粒子>
工程IIIで得られるニッケル粒子は、例えば球状、擬球状、長球状、立方体様、切頭四面体様、双角錐状、正八面体様、正十面体様、正二十面体様等の種々の形状であってよいが、例えばニッケル粒子を電子部品の電極に使用した場合の充填密度の向上という観点から、球状又は擬球状が好ましく、球状がより好ましい。ここで、ニッケル粒子の形状は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。ニッケル粒子の平均粒子径は、SEM(走査型電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子について面積を求め、真球に換算したときの粒子径から、個数基準にて求めることができる。
【0055】
工程IIIで得られるニッケル粒子の走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径D2は、例えば100nm以上300nm以下の範囲内が好ましく、100nm以上200nm以下の範囲内がより好ましい。
【0056】
工程IIIで得られるニッケル粒子は、例えば平均粒子径D2が100nm以上300nm以下の範囲内の成長粒子でありながら、粒子径の変動係数(CV2)が、例えば0.12以下、好ましくは0.10以下という極めて高い均一性を有するものとなる。従って、本実施の形態の方法によって得られるニッケル粒子を、例えばMLCCの内部電極用の導電性ペースト材料として用いる場合に、電極層の表面を平滑にすることが可能になり、電極層の薄層化及び多層化が容易になり、電気的特性を向上させることができる。
…
【0058】
以上のように、工程I~工程IIIを実施することによって、平均粒子径が例えば300nm以下で、かつ、粒子径分布がシャープでCV値が小さなニッケル粒子を安定的に製造することができる。このニッケル粒子は、例えば積層セラミックスコンデンサ(MLCC)の内部電極形成用導電性ペーストなどの電子材料として好適に利用できる。」
カ 「【0060】
[平均粒子径の測定]
SEM(走査型電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径について面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径とした。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。」
キ 「【0063】
[実施例1]
<工程I;種粒子の調製>
6000gのオレイルアミンに80gのギ酸銅四水和物と350gのギ酸ニッケル二水和物を加え、窒素フロー下で120℃、60分間加熱することでギ酸銅とギ酸ニッケルをオレイルアミンに溶解した。
【0064】
上記の溶解液にマイクロ波を照射して190℃まで加熱して、6130gのニッケル粒子スラリー(1-A)を調製した。得られたニッケル粒子スラリー(1-A)の100gを分取して、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いてそれぞれ2回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル粒子(1-B)を調製した。
【0065】
ニッケル粒子(1-B)のSEM写真を図1に示す。図1を参照すると、ニッケル粒子(1-B)の平均粒子径は15nm、CV値は0.09であった。
【0066】
<工程II;ニッケル錯体溶液の調製>
50.0kgのオレイルアミンに20.6kgの酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下で140℃、4時間加熱することでニッケル錯体溶液を調製した。
【0067】
<工程III;混合液の調製及びニッケル粒子の調製>
上記ニッケル錯体溶液の2.82kgを分取し、そこに100gのニッケル粒子スラリー(1-A)を加え、撹拌後、マイクロ波を照射して225℃まで加熱し、その温度を保持しながら、さらに、10分間毎に3回に分けて上記ニッケル錯体溶液を2.60kgずつ添加することによってニッケル粒子スラリー(1-C)を調製した。得られたニッケル粒子スラリー(1-C)を静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いてそれぞれ2回洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル粒子(1-D)を調製した。
【0068】
ニッケル粒子(1-D)のSEM写真を図2に示す。図2を参照すると、ニッケル粒子(1-D)の平均粒子径は108nm、CV値は0.12であった。」
ク 「【0111】
[実施例8]
<工程I;種粒子の調製>
実施例1における80gのギ酸銅四水和物の代わりに、15gのギ酸銅四水和物としたこと以外、実施例1と同様にして、6100gのニッケル粒子スラリー(8-A)を調製後、ニッケル粒子(8-B)を調製した。
【0112】
ニッケル粒子(8-B)のSEM写真を図5に示す。図5を参照すると、ニッケル粒子(8-B)の平均粒子径は29nm、CV値は0.10であった。
【0113】
<工程II;ニッケル錯体溶液の調製>
実施例1と同様にして、ニッケル錯体溶液を調製した。
【0114】
<工程III;混合液の調製及びニッケル粒子の調製>
上記ニッケル錯体溶液の7.90kgを分取し、そこに500gのニッケル粒子スラリー(8-A)を加え、撹拌後、マイクロ波を照射して225℃まで加熱することによってニッケル粒子スラリー(8-C)を調製した。実施例1と同様にして、得られたニッケル粒子スラリー(8-C)の静置分離し、上澄み液の除去後、洗浄及び乾燥してニッケル粒子(8-D)を調製した。
【0115】
ニッケル粒子(8-D)のSEM写真を図6に示す。図6を参照すると、ニッケル粒子(8-D)の平均粒子径は114nm、CV値は0.07であった。」
ケ 「【0136】
実施例1~8、比較例1~3の結果をまとめて表1に示す。
【0137】
【表1】
[図:0001423449000001.jpg]
」
コ 「【図2】
[図:0001423449000002.jpg]
」
サ 「【図6】
[図:0001423449000003.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1)ウによれば、甲1に記載された発明が解決しようとする課題は、平均粒子径が例えば300nm以下であって、粒子径が均一でそのばらつきが小さい金属微粒子を安定的に製造することである。
イ 上記(1)キによれば、実施例1の製造方法により製造されるニッケル粒子は、その平均粒子径が108nmであり、CV値が0.12である(段落【0068】)。
ウ 上記(1)クによれば、実施例8の製造方法により製造されるニッケル粒子は、その平均粒子径が114nmであり、CV値が0.07である(段落【0115】)。
エ 上記(1)カによれば、上記イ、ウにおける平均粒子径とは、SEM(走査型電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径について面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として求めた、一次粒子の平均粒子径のことであり、上記イ、ウにおけるCV値とは、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出されたものである。
オ そうすると、甲1には、実施例1、8のニッケル粒子に注目すると、以下の2つの発明が記載されていると認められる。
「平均粒子径が108nmであり、CV値が0.12であるニッケル粒子。
ここで、上記平均粒子径とは、SEM(走査型電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径について面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として求めた、一次粒子の平均粒子径のことであり、上記CV値とは、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出されたものである。」(以下、「甲1発明1」という。)
「平均粒子径が114nmであり、CV値が0.07であるニッケル粒子。
ここで、上記平均粒子径とは、SEM(走査型電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径について面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として求めた、一次粒子の平均粒子径のことであり、上記CV値とは、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出されたものである。」(以下、「甲1発明2」という。)
(3)本件特許発明4と甲1発明1、2との対比
ア 甲1発明1、2の「ニッケル粒子」は、粒子の集団としての特性である平均粒子径やCV値が特定されていることから、複数の粒子の集団すなわち粉末を意味するものと解することができるので、本件特許発明4の「ニッケル粉末」に相当する。
イ 甲1発明1、2の「平均粒子径」とは、「SEM(走査型電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径について面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として求めた、一次粒子の平均粒子径のこと」である。
一方、本件特許発明4の「個数平均粒径」とは、「本発明におけるニッケル粉末は、走査型電子顕微鏡写真(SEM像)から個数平均粒径mnおよび体積平均粒径mvを求めることができる」(本願明細書の段落【0075】参照。)ところ、「走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像解析ソフト(株式会社マウンテック製Mac-View)により粒度分布を測定することにより平均粒径を求めた」(本願明細書の段落【0089】参照。)ものであり、「CV値は、例えば倍率40000倍の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)において、100~200個のニッケル粉末粒子の粒径を計測し、その粒子の個数平均粒径(または体積平均粒径)および標準偏差を求め、式(5)、(6)を計算することにより、変動係数CV値(個数)またはCV値(体積)として求めることができる(本願明細書の段落【0077】参照。)ものである。
したがって、甲1発明1、2の「個数基準として求めた」「平均粒子径」と本件特許発明4の「個数平均粒径」は同様の方法で算出されたものであり同じ粒径を意味することは明らかである。
よって、甲1発明1において「平均粒子径が108nmであ」ること、及び、甲1発明2において「平均粒子径が114nmであ」ることは、いずれも、本件特許発明4において、「個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであ」ることに相当する。
ウ 甲1発明1、2の「CV値」とは、「(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出されたもの」であり、当該「(平均粒子径)」とは「個数基準として求めた」ものである。一方、本件特許発明4の「CV値(個数)」とは、「標準偏差÷個数平均粒径×100」によって算出されたものである。したがって、上記イの検討を踏まえると、甲1発明1、2の「CV値」を100倍して%で表したものが本件特許発明4の「CV値(個数)」に該当する。
よって、甲1発明1において「CV値が0.12である」こと、及び、甲1発明2において「CV値が0.07」ることは、いずれも、本件特許発明4において、「[数1]CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)」としたときに「式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であ」ることに相当する。
エ そうすると、本件特許発明4と甲1発明1、2の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「 個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下である、ニッケル粉末。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100・・・(1)」
<相違点1>
「[数2]CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100・・・(2)」としたときの「式2により得られるCV値(体積)」が、本件特許発明4では「16%以下」であるのに対して、甲1発明1、2では特定されておらず、どのような値であるのか不明な点。
<相違点2>
本件特許発明4の「ニッケル粉末」は、「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下である」のに対して、甲1発明1、2の「ニッケル粒子」は、アルカリ金属の含有について特定されておらず、その含有量が不明である点。
(4)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 相違点2に係る本件特許発明4の「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下である」点について、アルカリ金属含有量の上限値は「0.01質量%」であることが特定されている一方で、アルカリ金属含有量の下限値については明記されていないが、「アルカリ金属を含有し」との記載から、アルカリ金属が全く含まれない状態、すなわち含有量0質量%の状態は排除されていると解するのが相当である。なお、本件特許発明4のニッケル粉末にアルカリ金属が含有されるのは、本願明細書の段落【0083】に記載されているように、当該ニッケル粉末の製造工程において、還元剤である抱水ヒドラジンのPH調整のために水酸化ナトリウムが使用されており、ニッケル粉末が晶析する際に上記水酸化ナトリウム由来のナトリウムがニッケル粉末に混入するためであると考えられる。
イ 一方、上記(1)キ、クには、甲1発明1、2の認定の基礎とした実施例1、8のニッケル粒子の製造方法が記載されており、当該製造方法において使用した原料は、オレイルアミン、ギ酸銅四水和物、ギ酸ニッケル二水和物、酢酸ニッケル四水和物のみである。これらの原料についての微量元素分析については何ら記載がないけれども、通常の市販の試薬レベルの高純度のものを使用していると考えられるところ、これら原料には、ナトリウム等のアルカリ金属が含有されているとはいえず、また、これら原料を用いる上記実施例1、8の製造方法においてアルカリ金属が混入する要因があるともいえない。
ウ したがって、甲1発明1、2には、その原料及び製造方法の点から、アルカリ金属が含有されているか否かは不明と言わざるを得ないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明4は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
エ 次に、甲1発明1、2において、相違点2に係る本件特許発明4の特定事項である、「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。
オ 甲1を精査しても、甲1発明1、2のニッケル粒子にアルカリ金属を含有させることについて動機付けるような記載を発見することができない。また、積層セラミックスコンデンサ(MLCC)の内部電極形成用の導電性ペーストに利用されるニッケル粒子にアルカリ金属を含有させることが通常であるとの技術常識が存在するともいえない。
カ したがって、甲1発明1、2において「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下」とすること、すなわち、相違点2に係る本件特許発明4の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
キ よって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1発明1又は甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ク なお、申立人は、令和6年11月25日差出の意見書において、上記第2 2(1)に記載した訂正事項1について、不純物含有量を単に特定するだけであって、技術的意義を有するものではないことを主張するにとどまり、甲1発明1、2にアルカリ金属が含有されていることを示す実験結果や論理的根拠を示しておらず、甲1発明1、2にアルカリ金属を0.01質量%以下含有させることが容易であることも示していない。
(5)小括
以上の検討によれば、取消理由1と申立理由1によっては、本件特許の請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2と申立理由2(甲2を主たる引用例とする新規性、進歩性)について
(1)甲2の記載事項
本願の出願前に公知となった甲2には、「Size- and Structure-Controlled Synthesis and Characterization of Nickel Nanoparticles(当審訳:粒径と構造が制御されたニッケルナノ粒子の合成及び特性)」(論文の標題)に関して、以下の記載がある。
ア 「
[図:0001423449000004.jpg]
」
(第5157頁左欄1~5行目。当審訳:1.導入
金属ナノ粒子は、それらのバルク対応物とは大きく異なるそれらの顕著な特性、ならびに触媒、磁気、光学およびエレクトロニクスの分野における広範な用途のために、非常に興味深い。)
イ 「
[図:0001423449000005.jpg]
[図:0001423449000006.jpg]
」
(第5158頁左欄9~41行目。当審訳:
2.1.化学物質
ニッケル(II)アセチルアセトネート(Ni(acac)2,96%)、トリオクチルフォスファインオキサイド(TOPO,90%)、オレイルアミン(80-90%)は、アクロス社から購入した。トリオクチルフォスファイン(TOP,97%)はストレム社から購入した。オクタデセン(90%)はアルファエイサー社から購入した。ヘキサン、アセトン、エタノールのような他の化学物質はシノファームケミカルレガント社から購入した。全ての化学物質は、追加の精製をすることなく購入時のまま使用した。
2.2.合成
fccNiナノ粒子の合成には、1mmolのNi(acac)2、7mLのオレイルアミン、および設計量(典型的には1mmol)の界面活性剤(TOPまたはTOP/TOPO)を反応フラスコに加え、混合物を高純度アルゴンガス気流下で室温にて20分間磁気撹拌した。混合物をさらに130℃に加熱し20分間保持した。その後、混合物を設計温度(200~250℃)まで急速に加熱し、その温度でさらに30分間保持した後、熱源を除去して室温まで冷却した。反応温度と時間は、所望の結果を得るために変更させることができる。その後、過剰のエタノールを周囲条件下で溶液に添加し、遠心分離によって溶液から黒色沈殿物を分離した。得られた生成物はヘキサンとエタノールの混合物を用いて洗浄し、沈殿を繰り返すことにより分離し、真空中で乾燥した。
hcpNiナノ粒子の合成では、1mmolのNi(acac)2、7mLのオクタデセン、3mmolのオレイルアミン、および設計量のTOPを反応フラスコに加えた。残りの手順は、反応温度範囲を210~240℃に選択した点以外は、fccNiナノ粒子の調製と同様である。)
ウ 「
[図:0001423449000007.jpg]
」
(第5158頁右欄22~27行目。当審訳:この研究では、粒子サイズとサイズ分布の制御に関するさらなる研究を紹介する。後述するように、界面活性剤の濃度と反応温度を制御することで粒子サイズを調整し、非常に狭いサイズ分布を持つfccおよびhcp両方のNiナノ粒子を得ることができる。)
エ 「
[図:0001423449000008.jpg]
」
(第5160頁右欄10~14行目。当審訳:図3(a)は、0.75mmolのTOP存在下、240℃の温度で1時間かけて合成したhcpNiナノ粒子のTEM像である。ナノ粒子の平均直径は27.1±2.3nmで、球形に近い形態をしている。)
オ 「
[図:0001423449000009.jpg]
[図:0001423449000010.jpg]
」
(第5161頁左欄。当審訳:図3:平均径27.1±2.3nmである合成時のままのhcpNiナノ粒子の(a)SAED(制限視野電子回折)パターンを伴う低倍率TEM像、(b)FFTの像を伴う高分解能TEM像、及び(c)XRDパターン。)
(2)甲2に記載された発明
ア 上記(1)イに記載の製造方法によって、hcpNiナノ粒子が合成される。なお、hcpは「hexagonal close-packed」すなわち、六角形最密充填を意味する。
イ 上記(1)ウによれば、上記アのhcpNiナノ粒子は非常に狭いサイズ分布を持っている。
ウ 上記(1)エ、オによれば、図3(a)は、上記アのhcpNiナノ粒子の低倍率TEM像であり、その平均径は27.1±2.3nmである。
エ そうすると、甲2には、図3(a)のhcpNiナノ粒子に注目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「平均径が27.1±2.3nmであり、非常に狭いサイズ分布を持っている、
hcpNiナノ粒子。」(以下、「甲2発明」という。)
(3)本件特許発明4と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「hcpNiナノ粒子」は、粒子の集団としての特性である平均径が特定されていることから、複数の粒子の集団すなわち粉末を意味するものと解することができるので、本件特許発明4の「ニッケル粉末」に相当する。
イ 甲2発明の「平均径が27.1±2.3nm」について、当該平均径がどのような方法で求めたものか不明であるから、本件特許発明4の「個数平均粒径が0.02μm~0.15μm」であることと直接の対比はできない。
ウ そうすると、本件特許発明4と甲2発明の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「ニッケル粉末。」
<相違点3>
本件特許発明4では「個数平均粒径が0.02μm~0.15μm」であるのに対して、甲2発明では「平均径が27.1±2.3nm」である点。
<相違点4>
「[数1]CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100・・・(1)」としたときの「式(1)により得られるCV値(個数)」が、本件特許発明4では「14%以下」であるのに対して、甲2発明では特定されておらず、どのような値であるのか不明な点。
<相違点5>
「[数2]CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100・・・(2)」としたときの「式2により得られるCV値(体積)」が、本件特許発明4では「16%以下」であるのに対して、甲2発明では特定されておらず、どのような値であるのか不明な点。
<相違点6>
本件特許発明4の「ニッケル粉末」は、「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下である」のに対して、甲2発明の「hcpNiナノ粒子」は、アルカリ金属の含有について特定されておらず、その含有量が不明である点。
(4)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点6について検討する。
ア 上記1(4)アで検討したとおり、相違点6に係る本件特許発明4の「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下である」で特定される、アルカリ金属の含有量の上限値は「0.01質量%」であり、また、アルカリ金属含有量の下限値については明記されていないが、含有量0質量%の状態は排除されていると解するのが相当である。
イ 一方、上記(1)イには、甲2発明の認定の基礎としたhcpNiナノ粒子の製造方法が記載されており、当該製造方法において使用した原料は、Ni(acac)2、オクタデセン、オレイルアミン、およびTOP(界面活性剤)のみである。これらの原料についての微量元素分析については何ら記載がないけれども、上記(1)イの2.1の記載によれば、市販の高純度の原料を購入していると推定されるため、これら原料には、ナトリウム等のアルカリ金属が含有されているとはいえず、また、これら原料を用いる上記製造方法においてアルカリ金属が混入する要因があるともいえない。
ウ したがって、甲2発明には、その原料及び製造方法の点から、アルカリ金属が含有されているか否かは不明と言わざるを得ないから、相違点6は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明4は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
エ 次に、甲2発明において、相違点6に係る本件特許発明4の特定事項である、「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。
オ 甲2を精査しても、甲2発明のhcpNiナノ粒子にアルカリ金属を含有させることについて動機付けるような記載を発見することができない。また、甲2発明のhcpNiナノ粒子のような「触媒、磁気、光学およびエレクトロニクスの分野で利用される金属ナノ粒子」(上記(1)ア参照。)にアルカリ金属を含有させることが通常であるとの技術常識が存在するともいえない。
カ したがって、甲2発明において「アルカリ金属を含有し、前記アルカリ金属の含有量が0.01質量%以下」とすること、すなわち、相違点6に係る本件特許発明4の特定事項を備えたものとすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
キ よって、相違点3~5について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ク なお、申立人は、令和6年11月25日差出の意見書において、上記第2 2(1)に記載した訂正事項1について、不純物含有量を単に特定するだけであって、技術的意義を有するものではないことを主張するにとどまり、甲2発明のhcpNiナノ粒子にアルカリ金属が含有されていることを示す実験結果や論理的根拠を示しておらず、甲2発明にアルカリ金属を0.01質量%以下含有させることが容易であることも示していない。
(5)小括
以上の検討によれば、取消理由2と申立理由2によっては、本件特許の請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、令和 6年 8月13日付けで通知した取消理由及び特許異議の申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701315