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特許異議申立

2023-701238

熱伝導性シート

審判番号
2023-701238
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-541281外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7281093
請求日
2023年11月24日
審決日
2025年01月29日
公報発行日
2025年06月27日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1652.113-YAA(H01L) / P1652.121-YAA(H01L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5、特許法第29条第1項、特許法第29条、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7281093号発明「熱伝導性シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7281093号の特許請求の範囲を、令和6年10月3日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~29〕について訂正することを認める。
特許第7281093号の請求項1~7、9~10、13~29に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

1 特許第7281093号の請求項1~20に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和1年9月4日(優先権主張 平成30年9月7日)を国際出願日とする出願であって、令和5年5月17日にその特許権の設定登録がされ、令和5年5月25日に特許掲載公報が発行された。

2 その後、令和5年11月24日に、特許異議申立人安藤宏(以下「申立人」という。)により、請求項1~7、9~10、13~20に係る特許について特許異議の申立てがされ、当審は、令和6年1月29日付けで取消理由を通知した。

それに対し、特許権者は、その指定期間内である令和6年4月2日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和6年5月17日に意見書を提出し、令和6年6月11日に手続補正書を提出し、令和6年5月17日付け意見書を補正した。

3 その後、当審は令和6年7月29日付で取消理由(決定の予告)を通知し、それに対し、特許権者は、令和6年9月18日に当審と面接し、その指定期間内である令和6年10月3日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和6年11月22日に意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断

特許権者が令和6年4月2日にした訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容

令和6年10月3日提出の訂正請求書による訂正(以下「訂正」という。)の請求は、特許第7281093号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、訂正の内容は、次のとおりである。(下線は、訂正請求書の記載のとおり。)

(1) 訂正事項1

訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、

前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、

前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆している熱伝導性シート。」とあるのを、

「高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する、熱伝導性シート。 」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~7、9、10、12、13、15~17、19及び20も同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2

訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、「前記熱軟化層が、前記熱伝導層の端面にも設けられている、請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性シート。」とあるのを、

「高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
前記熱軟化層が、前記熱伝導層の端面にも設けられている、熱伝導性シート。」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項11、12、13、15~17、19及び20も同様に訂正する。)。

(3) 訂正事項3

訂正前の特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1~8」とあるのを、「請求項1~7」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10、12、13、15~17、19及び20も同様に訂正する。)。

(4) 訂正事項4

訂正前の特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1~9」とあるのを、「請求項1~7及び9」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項12、13、15~17、19及び20も同様に訂正する。)。

(5) 訂正事項5

訂正前の特許請求の範囲の請求項11に、「請求項1~10」とあるのを、「請求項8」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12、13、15~17、19及び20も同様に訂正する。)。

(6) 訂正事項6

訂正前の特許請求の範囲の請求項12に、「請求項11」とあるのを、「請求項1~7及び9~11のいずれか」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13、15~17、19及び20も同様に訂正する。)。

(7) 訂正事項7

訂正前の特許請求の範囲の請求項14に、「前記異方性材料の平均繊維長または平均長軸長は、熱伝導層の厚さよりも短い、請求項1~13のいずれかに記載の熱伝導性シート。」とあるのを、

「高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
前記異方性材料の平均繊維長または平均長軸長は、熱伝導層の厚さよりも短く、
前記異方性材料が、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含有し、
前記繊維材料は、平均繊維長が70μm以上200μm以下の黒鉛化炭素繊維であり、
前記扁平材料は、平均長軸長が40μm以上300μm以下の鱗片状黒鉛である熱伝導性シート。」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項21~29も同様に訂正する。)。

(8) 訂正事項8

訂正前の特許請求の範囲の請求項15に、「請求項1~14」とあるのを、「請求項1~13」に訂正する(請求項15の記載を引用する請求項16、17、19及び20も同様に訂正する。)。

(9) 訂正事項9

訂正前の特許請求の範囲の請求項16に、「請求項1~15」とあるのを、「請求項1~13及び15」に訂正する(請求項16の記載を引用する請求項17、19及び20も同様に訂正する。)。

(10) 訂正事項10

訂正前の特許請求の範囲の請求項17に、「請求項1~16」とあるのを、「請求項1~13、15及び16」に訂正する(請求項17の記載を引用する請求項19及び20も同様に訂正する。)。

(11) 訂正事項11

訂正前の特許請求の範囲の請求項18に、「40%圧縮時の荷重は、50N以下である、請求項1~17のいずれかに記載の熱伝導性シート。」とあるのを、

「高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
40%圧縮時の荷重は、50N以下である、熱伝導性シート。」に訂正する(請求項18の記載を引用する請求項19及び20も同様に訂正する。)。

(12) 訂正事項12

訂正前の特許請求の範囲の請求項19に、「請求項1~18」とあるのを、「請求項1~13及び15~18」に訂正する(請求項19の記載を引用する請求項20も同様に訂正する。)。

(13) 訂正事項13

訂正前の特許請求の範囲の請求項20に、「請求項1~19」とあるのを、「請求項1~13及び15~19」に訂正する。

(14) 訂正事項14

請求項21として、「前記熱軟化層が、前記熱伝導層の両表面に設けられている、請求項14に記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項21の記載を引用する請求項22~29も同様に訂正する。)。

(15) 訂正事項15

請求項22として、「前記熱軟化層を有しない熱伝導性シートと比較して、熱抵抗値の上昇率が10%以下である、請求項14及び21のいずれかに記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項22の記載を引用する請求項23~29も同様に訂正する。)。

(16) 訂正事項16

請求項23として、「前記熱軟化層が、非シリコーン系材料からなる、請求項14、21及び22のいずれかに記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項23の記載を引用する請求項24~29も同様に訂正する。)。

(17) 訂正事項17

請求項24として、「前記熱軟化層が、非異方性材料を含有する、請求項14及び21~23のいずれかに記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項24の記載を引用する請求項25~29も同様に訂正する。)。

(18) 訂正事項18

請求項25として、「前記熱伝導層が、非異方性材料を含有する、請求項14及び21~24のいずれかに記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項25の記載を引用する請求項26~29も同様に訂正する。)。

(19) 訂正事項19

請求項26として、「前記熱軟化層の厚さは、5~45μmである、請求項14及び21~25のいずれかに記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項26の記載を引用する請求項27~29も同様に訂正する。)。

(20) 訂正事項20

請求項27として、「前記熱軟化層の厚さは、前記熱伝導層の厚さの0.1倍以下である、請求項14及び21~26のいずれかに記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項27の記載を引用する請求項28及び29も同様に訂正する。)。

(21) 訂正事項21

請求項28として、「前記異方性材料の一部が倒れるように配置されている、請求項14及び21~27のいずれかに記載の熱伝導性シート。」を追加する。(請求項28の記載を引用する請求項29も同様に訂正する。)。

(22) 訂正事項22

請求項29として、「請求項14及び21~28のいずれかに記載の熱伝導性シートと、発熱体と、放熱体とを備え、前記熱伝導性シートが前記発熱体と前記放熱体との間に配置される電子機器。」を追加する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 訂正事項1(請求項1)について

ア 訂正の目的

訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「熱軟化層」について、訂正前の請求項11に記載された「融点35~120℃のワックス状物質を含有する」との事項を付加するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)を目的としたものといえる。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正後の請求項1に係る発明は、訂正前の、請求項1のみを引用する請求項11に係る発明であるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(2) 訂正事項2(請求項8)について

ア 訂正の目的

訂正事項2に係る訂正は、訂正前の、請求項1~7を引用する請求項8を、請求項1のみを引用するものとしたうえで独立項とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)、及び、「請求項間の引用関係の解消」(特許法第120条の5第2項ただし書第4号)を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正後の請求項8に係る発明は、訂正前の、請求項1のみを引用する請求項8に係る発明であるから、本件明細書等に記載した事項であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(3) 訂正事項3~5(請求項9~11)について

訂正事項3~5に係る訂正は、いずれも、請求項9~11において、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)を目的としたものといえ、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(4) 訂正事項6(請求項12)について

ア 訂正の目的

訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項12の限定対象であった、訂正前の請求項11に記載された「ワックス状物質」が、訂正事項1によって、請求項1~7、9~10に付加されたことと整合させるためのものであるから、「明瞭でない記載の釈明」(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)を目的とするものである。

また、訂正事項6に係る訂正後の請求項12は、訂正事項1によって減縮された請求項1、又は、訂正事項2によって減縮された請求項8を引用するものとなるから、訂正事項6に係る訂正は、実質的に、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)を目的としたものといえる。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正後の請求項12に係る発明は、訂正前の請求項1~10を引用する請求項11をさらに引用する請求項12に係る発明であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(5) 訂正事項7(請求項14)について

ア 訂正の目的

訂正事項7に係る訂正は、訂正前の、請求項1~13を引用する請求項14を、請求項1~6のみを引用するものとし、繊維材料について、「平均繊維長が70μm以上200μm以下の黒鉛化炭素繊維であり」、扁平材料について「平均長軸長が40μm以上300μm以下」であるとの事項を付加したうえで独立項とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)、及び、「請求項間の引用関係の解消」(特許法第120条の5第2項ただし書第4号)を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

繊維材料についての「平均繊維長が70μm以上200μm以下の黒鉛化炭素繊維であり」との本件明細書等の段落0026~0030に記載された事項の範囲内であり、また、扁平材料についての「平均長軸長が40μm以上300μm以下」であるとの事項は、本件明細書等の段落0022、0033に記載された事項の範囲内であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(6) 訂正事項8~10(請求項15~17)について

訂正事項8~10に係る訂正は、いずれも、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)を目的としたものといえ、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(7) 訂正事項11(請求項18)について

ア 訂正の目的

訂正事項11に係る訂正は、訂正前の、請求項1~17を引用する請求項18を、請求項1のみを引用するものとしたうえで独立項とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)、及び、「請求項間の引用関係の解消」(特許法第120条の5第2項ただし書第4号)を目的とするものである。

イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正後の請求項18に係る発明は、訂正前の、請求項1のみを引用する請求項18に係る発明であり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、また、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(8) 訂正事項12~13(請求項19~20)について

訂正事項12~13に係る訂正は、いずれも、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)を目的としたものといえ、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(9) 訂正事項14~17(請求項21~24)について

訂正事項14~17に係る訂正は、訂正前の請求項14が引用していた請求項7、9、10、13それぞれを、訂正事項7によって独立項とされた請求項14及びその従属項の新たな従属項である請求項21~24として追加するものであるから、「請求項間の引用関係の解消」(特許法第120条の5第2項ただし書第4号)を目的とするものであり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(10) 訂正事項18~22(請求項25~29)について

訂正事項18~22に係る訂正は、訂正前の請求項14を引用していた請求項15~17、19、20それぞれを、訂正事項7によって独立項とされた請求項14及びその従属項の新たな従属項である請求項25~29として追加するものであるから、「請求項間の引用関係の解消」(特許法第120条の5第2項ただし書第4号)を目的とするものであり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないから、新規事項を追加するものではなく(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項)、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものとはいえない(特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項)。

(11) 一群の請求項について

訂正前の請求項1~20について、請求項2~20は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、上記訂正事項1~22によって記載が訂正される請求項1~20に連動して訂正されるものであり、訂正前の請求項1~20に対応する訂正後の請求項1~29は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(12) 独立特許要件について

特許異議の申立ての対象である訂正前の請求項1~7、9~10、13~20についての訂正事項1、3、4、7~22に係る訂正には、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。

それに対し、訂正前の請求項8、11、12は特許異議の申立ての対象ではなく、請求項8、11、12についての訂正事項2、5、6に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮を目的」とするものに該当するから、独立特許要件が課される。

しかしながら、下記第4の3(2)のとおり、特許異議の申立てにおいて提出された証拠等を検討しても、訂正後の請求項8、11、12について、特許出願の際に独立して特許を受けることができなかったとする理由を発見しないから独立特許要件を満たしている。

(13)小括

以上のとおり、特許異議の申立ての対象である請求項1~7、9~10、13~20についての訂正事項1、3、4、7~22に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」、「請求項間の引用関係の解消」を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5~6項の規定に適合する。

また、特許異議の申立ての対象ではない請求項8、11、12についての訂正事項2、5、6は、訂正の目的として「特許請求の範囲の減縮」を含み、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同条第9項において準用する同法第126条第5~6項の規定に適合し、加えて、独立特許要件を満たすから、特許法第120条の5条第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。

第3 本件発明

訂正後の請求項1~29に係る発明(以下それぞれ「本件発明1~29」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~29に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
続きを表示(全73行)
前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する、熱伝導性シート。
【請求項2】
前記異方性材料が、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含有する、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記異方性材料が繊維材料を含有し、該繊維材料の平均繊維長が5~600μmである請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記繊維材料が炭素繊維である、請求項2又は3に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記異方性材料が扁平材料を含有し、該扁平材料の平均長軸長が5~300μmである請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
前記扁平材料が鱗片状黒鉛である、請求項2又は5に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記熱軟化層が、前記熱伝導層の両表面に設けられている、請求項1~6のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
前記熱軟化層が、前記熱伝導層の端面にも設けられている、熱伝導性シート。
【請求項9】
前記熱軟化層を有しない熱伝導性シートと比較して、熱抵抗値の上昇率が10%以下である、請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項10】
前記熱軟化層が、非シリコーン系材料からなる、請求項1~7及び9のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する、請求項8に記載の熱伝導性シート。
【請求項12】
前記ワックス状物質が、パラフィン系ワックス、エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックスからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~7及び9~11のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項13】
前記熱軟化層が、非異方性材料を含有する、請求項1~12のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項14】
高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
前記異方性材料の平均繊維長または平均長軸長は、熱伝導層の厚さよりも短く、
前記異方性材料が、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含有し、
前記繊維材料は、平均繊維長が70μm以上200μm以下の黒鉛化炭素繊維であり、
前記扁平材料は、平均長軸長が40μm以上300μm以下の鱗片状黒鉛である熱伝導性シート。
【請求項15】
前記熱伝導層が、非異方性材料を含有する、請求項1~13のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項16】
前記熱軟化層の厚さは、5~45μmである、請求項1~13及び15のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項17】
前記熱軟化層の厚さは、前記熱伝導層の厚さの0.1倍以下である、請求項1~13、15及び16のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項18】
高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
40%圧縮時の荷重は、50N以下である、熱伝導性シート。
【請求項19】
前記異方性材料の一部が倒れるように配置されている、請求項1~13及び15~18のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項20】
請求項1~13及び15~19のいずれかに記載の熱伝導性シートと、発熱体と、放熱体とを備え、前記熱伝導性シートが前記発熱体と前記放熱体との間に配置される電子機器。
【請求項21】
前記熱軟化層が、前記熱伝導層の両表面に設けられている、請求項14に記載の熱伝導性シート。
【請求項22】
前記熱軟化層を有しない熱伝導性シートと比較して、熱抵抗値の上昇率が10%以下である、請求項14及び21のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項23】
前記熱軟化層が、非シリコーン系材料からなる、請求項14、21及び22のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項24】
前記熱軟化層が、非異方性材料を含有する、請求項14及び21~23のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項25】
前記熱伝導層が、非異方性材料を含有する、請求項14及び21~24のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項26】
前記熱軟化層の厚さは、5~45μmである、請求項14及び21~25のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項27】
前記熱軟化層の厚さは、前記熱伝導層の厚さの0.1倍以下である、請求項14及び21~26のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項28】
前記異方性材料の一部が倒れるように配置されている、請求項14及び21~27のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項29】
請求項14及び21~28のいずれかに記載の熱伝導性シートと、発熱体と、放熱体とを備え、前記熱伝導性シートが前記発熱体と前記放熱体との間に配置される電子機器。」

第4 申立理由、取消理由(決定の予告)、独立特許要件について

1 申立理由

特許異議申立書で申立人が申し立てた申立ての理由は、請求項1、2、4、6、7、10、16~20に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一の発明であり、請求項1~7、9~10、13~20に係る発明は、甲第1号証に記載された発明および甲第2号証~甲第5号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7、9~10、13~17、19~20に係る本件特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるというものである。

申立人が提出した証拠は次のとおりである。

甲第1号証: 特開2012-109313号公報
甲第2号証: 特開2014-150161号公報
甲第3号証: 特開2014-27144号公報
甲第4号証: 特開2013-177572号公報
甲第5号証: 特開2015-145478号公報
甲第6号証: 特開2012-109312号公報
甲第7号証: 特開2010-132866号公報
甲第8号証: 特開2017-135211号公報
甲第9号証: 特開2011-162642号公報
甲第10号証:国際公開第2016/190258号
甲第11号証:国際公開第2008/053843号

2 取消理由(決定の予告)

令和6年7月29日付けの取消理由(決定の予告)は、請求項1、4、6、7、10、16~17、19~20に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であり、また、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、4、6、7、10、16~17、19~20に係る本件特許は、特許法第29条第1、2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

また、請求項9、13、15に係る発明は、甲第6号証に記載された発明、及び甲第3号証、甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9、13、15に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであるというものである。

3 当審の判断

(1) 申立理由、取消理由(決定の予告)について、

ア 本件発明1及び従属発明について

訂正事項1に係る訂正によって、本件発明1は、特許異議の申立ての対象となっていない請求項11に記載された「前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する」との事項を含むものとなった。

そして、「前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する」との事項を含むものとなった本件発明1の構成については、甲第1号証~甲第6号証のいずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、本件発明1は、甲第1号証~甲第6号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

したがって、本件発明1、及び、本件発明1の構成をすべて含む、本件発明2~7、9、10、13、15~17、19、20についての、申立理由、及び取消理由(決定の予告)は、訂正事項1に係る訂正により解消した。

イ 本件発明14及び従属発明について

(ア) 取消理由(決定の予告)

取消理由(決定の予告)について検討する。

a 甲第6号証、及び引用発明A

(a) 甲第6号証の記載

申立人が甲第6号証として提出した特開2012-109312号公報には次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)

「【0029】
図1に、本発明の熱伝導シートの一例における断面構造を示す。
本発明の熱伝導シートは、熱伝導層10と、熱伝導層10の表面の両面又は片面に設けられた粘着層20と、を有する。熱伝導層10は、(A)109Ω・m以上の体積抵抗率及び20W/mK以上の熱伝導率を有する非球状粒子12と、(B)109Ω・m以上の体積抵抗率および50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物14と、を含む。そして、粘着層20は、熱伝導層10に含有される前述の有機高分子化合物14を主成分として構成される。
【0030】
続きを表示(全37行)
非球状粒子12は、その長軸が熱伝導層10の厚み方向に沿うように配向している。熱伝導層10中での非球状粒子12の配向は、シート断面をSEM(走査型電子顕微鏡)等により観察できる。具体的には、任意の粒子50個について観察し、それら粒子の長軸方向が熱伝導層の主たる面に対する角度(90度以上となる場合は補角を採用する)の平均値を測定する。この平均値が60度~90度の範囲となる場合を、熱伝導層10の厚み方向に沿うように非球状粒子12の長軸が配向していると判断する。
本発明の熱伝導層10で、非球状粒子12が上述のような配向を示さなければ、充分な熱伝導性を得ることができない。
【0031】
また、非球状粒子12は、熱伝導層10の表面から露出していることが好ましい。
熱伝導層10の表面での非球状粒子12の露出は、熱伝導層10の表面のSEM観察で評価できる。少なくとも3個以上の粒子を画面内で確認できる倍率でシート表面の写真を撮影し、総計30個以上の粒子が確認できる枚数の写真を用いて、観察される粒子の面積と表示画面の面積との比の平均値から、粒子の露出した面積率を求めることができる。
・・・(中略)・・・
【0033】
熱伝導層10の厚みは、非球状粒子12の長径の20倍以下であることが好ましく、1倍以上20倍以下であることがより好ましく、3倍以上15倍以下であることが更に好ましい。非球状粒子12の長径に対する。熱伝導層10の厚みが20倍以内にあると、熱伝導性に優れる。
【0034】
具体的には、熱伝導層10の厚みは、0.05mm以上5mm以下であることが好ましく、0.08mm以上3mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上2mm以下であることがより好ましい。基材シートの厚みが上記範囲内にあると、取扱い性及び伝熱特性に優れる。
・・・(中略)・・・
【0040】
熱伝導層10の高い熱伝導率を活かすために、粘着層20の厚みを調整することが好ましい。粘着層20が薄すぎる場合は熱伝導シートの粘着力が低下し、粘着層20が厚すぎる場合は熱伝導率が低下する傾向にある。
そこで、粘着層20の厚みは0.1μm~25μmとすることが好ましく、0.3μm~10μmがより好ましく、0.5μm~8μmがさらに好ましい。
・・・(中略)・・・
【0048】
非球状粒子12は、例えば、鱗片状、板状、楕球状または棒状といった非球状の配向に有利な形状を有する。ここで、本発明において「鱗片状」とは、魚の鱗のように、薄く平たい形状を示す。「楕球状」とは、ラグビーボールのように、楕円を回転した楕円体形状を示す。「棒状」とは、細長い(径に対する長さの割合が大きいもの、具体的には、径に対する長さの割合が100~500程度)円柱形状や角柱状形状を示す。いずれの形状も異方性を有する形状となる。
・・・(中略)・・・
【0052】
なお、本明細書における非球状粒子の含有量(体積%)は、次式により求めた値とする。
【0053】
非球状粒子の含有量(体積%)=(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+・・・)×100
【0054】
Aw:非球状粒子の質量組成(質量%)
Bw:有機高分子化合物の質量組成(質量%)
Cw:その他の任意成分の質量組成(質量%)
Ad:非球状粒子の比重(本発明においてAdは黒鉛の場合は2.1、窒化ほう素の場合は2.2、炭素繊維の場合は1.8で計算する。)Bd:有機高分子化合物の比重Cd:その他の任意成分の比重
・・・(中略)・・・
【0069】
(2)粘着層20
粘着層20は、熱伝導層10に含有される有機高分子化合物14と同種の有機高分子化合物14が主成分として含有される。よって、粘着層20に含有される有機高分子化合物14は、109Ω・m以上の体積抵抗率を有し、かつ50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する。ここで、「主成分として」とは、粘着層20中、50体積%以上含むことをいい、有機高分子化合物14を50体積%以上含むことが好ましく、60体積%以上含むことがより好ましく、70体積%以上含むことが更に好ましい。
【0070】
熱伝導層10に含有される有機高分子化合物14と同種の有機高分子化合物14であれば、粘着層20に用いる有機高分子化合物14は、特に限定なく使用することが可能である。その中でも、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得やすく、化学的安定性及び加工性に優れ、さらに粘着性をコントロールしやすく、比較的廉価であるために好ましい。なお、本発明において「同種」の有機高分子化合物とは、化学構造が同じものと意味し、分子量は異なるものであってもよい。但し、入手性などの製造上の簡便さを考慮すると、分子量も同じであることが好適である。」
「【図1】
[図:0001423445000001.jpg]
」

(b) 引用発明A

あ 段落0052~0054の記載によると、甲第6号証の非球状粒子12は、「黒鉛」又は「炭素繊維」である場合を含むといえる。

い 以上によれば、甲第6号証には、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているといえる。(括弧内は引用元の段落番号等を示す。)

「熱伝導層10と、熱伝導層10の表面の両面又は片面に設けられた粘着層20と、を有する熱伝導シートであって、
熱伝導層10は、非球状粒子12と、50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物14と、を含み、
粘着層20は、熱伝導層10に含有される前述の有機高分子化合物14を主成分として構成され(段落0029)、
非球状粒子12は、その長軸が熱伝導層10の厚み方向に沿うように配向し(段落0030)、
非球状粒子12は、熱伝導層10の表面から露出していることが好ましく(段落0031)、
熱伝導層10の厚みは、非球状粒子12の長径の20倍以下であることが好ましく、1倍以上20倍以下であることがより好ましく、3倍以上15倍以下であることが更に好ましく(段落0033)、
熱伝導層10の厚みは、0.05mm以上5mm以下であることが好ましく、0.08mm以上3mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上2mm以下であることがより好ましく(段落0034)、
非球状粒子12は、鱗片状、板状、楕球状または棒状といった非球状の配向に有利な形状を有し(段落0048)、非球状粒子12は、黒鉛又は炭素繊維である場合を含む(上記あ)、
熱伝導シート。」

b 本件発明14について

本件発明14と引用発明Aとを対比する。

(a) 「熱伝導シート」は「熱伝導性シート」といえるから、引用発明Aと本件発明14とは、いずれも「熱伝導性シート」に係る発明といえる点で共通する。

(b) 引用発明Aの「非球状粒子12」、及び、熱伝導層10が含む「有機高分子化合物14」は、それぞれ、本件発明14の「異方性材料」、及び、「高分子マトリクス」と対応する。

そして、引用発明Aにおいて「非球状粒子12は、その長軸が熱伝導層10の厚み方向に沿うように配向し」、「熱伝導層10の表面から露出している」から、引用発明Aの「非球状粒子12」と「有機高分子化合物14」とを含む「熱伝導層10」は、本件発明14の「高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層」に相当する。

(c) 引用発明Aの「50℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する有機高分子化合物14」を主成分として構成される「熱伝導層10の表面の両面又は片面に設けられた粘着層20」は、本件発明14の「前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層」に相当する。

(d) 引用発明Aにおいて、「熱伝導層10の表面の両面又は片面に設けられた粘着層20」は「熱伝導層10の表面から露出している」非球状粒子12を被覆しているといえるから、引用発明Aは、「前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆している」といえる点で本件発明14と一致する。

(e) 引用発明Aにおいて、「非球状粒子12は、鱗片状、板状、楕球状または棒状といった非球状の配向に有利な形状を有し、非球状粒子12は、黒鉛又は炭素繊維である場合を含む」から、引用発明Aは、「前記異方性材料が、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含有し、」といえる点で本件発明14と一致する。

(f) 引用発明Aにおいて、「熱伝導層10の厚みは、非球状粒子12の長径の20倍以下であることが好ましく、1倍以上20倍以下であることがより好ましく、3倍以上15倍以下であることが更に好まし」いから、引用発明Aは、「前記異方性材料の平均繊維長または平均長軸長は、熱伝導層の厚さよりも短く」といえる点で本件発明14と一致する。

(g) 一致点・相違点

以上を踏まえれば、本件発明14と引用発明Aとは、以下の点で一致し、相違する。

あ 一致点

「高分子マトリクスと異方性材料とを含み、前記異方性材料が厚さ方向に配向し、かつ前記異方性材料が表面に露出している熱伝導層と、
前記熱伝導層の少なくとも一方の表面に設けられる熱軟化層とを備え、
前記熱軟化層が、熱伝導層の表面に露出している異方性材料を被覆し、
前記異方性材料の平均繊維長または平均長軸長は、熱伝導層の厚さよりも短く、
前記異方性材料が、繊維材料及び扁平材料の少なくとも一方を含有する、
熱伝導性シート。」

い 相違点

本件発明14が、「前記繊維材料は、平均繊維長が70μm以上200μm以下の黒鉛化炭素繊維であり、前記扁平材料は、平均長軸長が40μm以上300μm以下の鱗片状黒鉛である」ことを特定しているのに対し、引用発明Aは、その非球状粒子12が、「鱗片状、板状、楕球状または棒状といった非球状の配向に有利な形状を有し」、「黒鉛又は炭素繊維である場合を含」み、非球状粒子12の長径が、0.05mm以上5mm以下であることが好ましい熱伝導層10の厚みの1/20以上が好ましいと特定されている点。

(h) 相違点の判断

本件発明14は、相違点に係る構成を採用することによって、「より熱伝導性を向上させることができ、しかも黒鉛材料が脱落するなどして作業者の手に触れたり周辺の部材に接触してショート等の問題が発生したりすることで電子機器の性能に悪影響を及ぼしてしまうことを防止できる」(特許権者が令和6年10月3日に提出した意見書5ページ下から2行~6ページ1行)という効果を奏する。

そうすると、相違点は実質的な相違であるから、本件発明14は引用発明Aではない。

また、引用発明Aにおいて、その非球状粒子12を「平均繊維長が70μm以上200μm以下の黒鉛化炭素繊維」又は「平均長軸長が40μm以上300μm以下の鱗片状黒鉛」とすることは、いずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、引用発明Aにおいて、相違点に係る本件発明14の構成を採用するは、当業者が容易に想到し得たことではない。

そうすると、本件発明14は、引用発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

c 本件発明21~29について

本件発明21~29は、いずれも、本件発明14の構成をすべて含むから、本件発明14と同様に、引用発明Aではまく、また、引用発明Aに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

d 小括

上記のとおり、本件発明14、21~29についての取消理由(決定の予告)は解消した。

(イ) 申立理由について

本件発明14の構成については、甲第1号証~甲第5号証のいずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、本件発明14は、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

したがって、本件発明14、及び、本件発明14の構成をすべて含む、本件発明21~29についての、申立理由は、理由がない。

ウ 本件発明18及び従属発明について

申立人は、特許異議申立書21ページ16~最下行で、本件発明18について、下記の主張をした。

「また、本件特許の明細書段落【0052】には、熱伝導性シートの40%圧縮時の荷重は、熱伝導層の組成などの影響を主として受けることが記載されているところ、甲第1号証の実施例1~4の熱伝導シートは、熱伝導層に含まれている有機高分子化合物の割合が本件特許の明細書に記載の実施例と略等しい。
従って、甲第1号証の実施例1~4の熱伝導シートは、40%圧縮時の荷重が50N以下である蓋然性が高い。
また、仮に甲第1号証の実施例1~4の熱伝導シートの40%圧縮時の荷重が50N超であったとしても、当業者であれば、熱伝導シートの被着体への密着性や追従性を高めるために40%圧縮時の荷重を適宜に調整し、50N以下とすることに容易に想到し得る。また、本件特許の明細書を見ても、40%圧縮時の荷重を50N以下とすることで顕著または異質な効果が得られるとは言えない。
よって、本件特許発明18は、甲第1号証に記載の発明と同一の発明であるか、当業者が甲第1号証に記載の発明から容易に想到し得たものである。」

しかしながら、甲第1号証には、40%圧縮時の荷重についての記載がない。

加えて、甲第1号証の実施例1~4は、段落0098に記載されているように、有機高分子化合物として「アクリル酸エステル共重合樹脂(HTR-280DR、ナガセケムテックス社製、アクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、Mw90万、Tg-30.9℃、体積抵抗率>1013Ω・m、15質量%トルエン溶液)」を用いるものであるのに対し、本件明細書の実施例1~15は、段落0071に記載されているとおり、高分子マトリクス(高分子組成物)として、「アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとハイドロジェンオルガノポリシロキサン」を用いるものであって、熱伝導層の高分子マトリクスの材料自体が異なるから、たとえ「熱伝導層に含まれている有機高分子化合物の割合が本件特許の明細書に記載の実施例と略等しい」としても、40%圧縮時の荷重が一致する蓋然性が高いとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明において、40%圧縮時の荷重を50N以下とする動機付けもない。

したがって、本件発明18、及び本件発明18の構成をすべて含む本件発明19、20についての申立理由に理由はない。

(2) 本件発明8、11、12の独立特許要件について

ア 本件発明8、11について

「前記熱軟化層が、前記熱伝導層の端面にも設けられている」との事項を含む本件発明8の構成については、甲第1号証~甲第11号証のいずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、本件発明8は、甲第1号証~甲第11号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証~甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

したがって、本件発明8、及び本件発明8の構成をすべて含む本件発明11は、独立して特許を受けることができる。

イ 本件発明12について

訂正事項1に係る訂正によって「前記熱軟化層が、融点35~120℃のワックス状物質を含有する」との事項を含むものとなった本件発明1の構成をすべて含む本件発明12の構成については、甲第1号証~甲第11号証のいずれの証拠にも、記載も示唆もされていないから、本件発明12は、甲第1号証~甲第11号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証~甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

したがって、本件発明12は、独立して特許を受けることができる。

4 申立人の主張について

申立人が、令和6年11月22日に提出した意見書(以下「意見書」という。)において主張した、本件発明14、21~29について、甲第9号証、甲第11号証、甲第7号証をそれぞれ主引用例とする進歩性欠如について検討する。

(1) 甲第9号証を主引用例とする進歩性欠如について

申立人は、意見書3ページ下から15~下から13行で、甲第9号証に記載された「スライスシートの片面に転写、塗布されたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(C)(東亞合成(株)製、ARUFON UP-1170(液状、重量平均分子量:8000、Tg:-57℃))」(以下「UP-1170」という。)が、本件発明14の「熱軟化層」に相当すると主張する。

しかしながら、UP-1170は、本件明細書の段落0042に「常温(25℃)では固体であり、例えば、35~120℃程度の熱を加えると軟化する性質を有する層である。」と記載された本件発明14の「熱軟化層」には相当せず、また、UP-1170をこのような「熱軟化層」と置換することは、いずれの証拠にも、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明14、及び本件発明14の構成をすべて含む本件発明21~29は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(2) 甲第11号証を主引用例とする進歩性欠如について

申立人は、意見書9ページ10~12行で、甲第11号証に記載された「帝人デュポンフィルム(株)製PETフィルムA31(膜厚38μm)」及び「同社製A53(膜厚50μm)」(以下これらを併せて「PETフィルム」という。)が、本件発明14の「熱軟化層」に相当すると主張する。

しかしながら、甲第11号証の段落0118の記載によると、PETフィルムは、保護フィルムとして貼り付けられるものであるから、本件発明14の「熱軟化層」には相当せず、また、PETフィルムを「熱軟化層」と置換することは、いずれの証拠にも、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明14、及び本件発明14の構成をすべて含む本件発明21~29は、甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3) 甲第7号証を主引用例とする進歩性欠如について

申立人は、意見書13ページ下から18~下から16行で、甲第7号証に記載された「スライスシートの片面に転写、塗布されたポリプテン(C)(ニッサンポリブテン30N(日油株式会社製、商品名、数平均分子量:1350、40℃のおける動粘度:240000cSt))」(以下「30N」という。)が、本件発明14の「熱軟化層」に相当すると主張する。

しかしながら、30Nは、本件明細書の段落0042に記載された本件発明14の「熱軟化層」には相当せず、また、30Nをこのような「熱軟化層」と置換することは、いずれの証拠にも、記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明14、及び本件発明14の構成をすべて含む本件発明21~29は、甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4) 小括

以上のとおり、申立人の主張は、いずれも採用できない。

第5 むすび

上記第4のとおりであるから、取消理由(決定の予告)、及び、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~7、9、10、13~29に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件発明1~7、9、10、13~29に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2023-701238

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