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特許異議申立

2023-701141

金スパッタリングターゲットとその製造方法

審判番号
2023-701141
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-234720外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7274816
請求日
2023年10月26日
審決日
2024年08月02日
公報発行日
2024年11月29日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.536-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.851-YAA(C23C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7274816号発明「金スパッタリングターゲットとその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7274816号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第7274816号の請求項1~3に係る特許を維持する。 特許第7274816号の請求項4、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7274816号の請求項1~5に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、平成29年12月6日に出願され、令和5年5月9日にその特許権の設定登録がされ、同月17日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許1~5に対して、令和5年10月26日に特許異議申立人山崎浩一郎(当審注:「崎」は「たつさき」である。)(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和6年1月24日付けで取消理由が通知され、同年3月25日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされ、同年4月30日に特許権者により訂正請求書に対する手続補正書の提出がされ、同年6月14日に申立人により意見書の提出がされた。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和6年4月30日付けの手続補正書により補正された、同年3月25日付けの訂正請求書における訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~5〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「金および不可避不純物からなると共に、金純度が99.999%以上であり、スパッタ面を有するプレート状又は円筒状の金スパッタリングターゲットであって、」 と記載されているのを、 「金および不可避不純物からなると共に、金純度が99.999%以上であり、スパッタ面を有するプレート状の金スパッタリングターゲットであって、」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に 「平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であり、」 と記載されているのを、 「平均結晶粒径が30μm以上100μm以下であり、」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に 「また、前記ビッカース硬さの平均値(HVtav)は、プレート状のスパッタリングターゲットにおいては、前記スパッタ面におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)と、前記スパッタ面に対して直交する第1の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)と、前記スパッタ面と前記第1の断面に対して直角な第2の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)との平均値である。 円筒状のスパッタリングターゲットにおける前記ビッカース硬さの平均値(HVtav)は、前記スパッタ面における円筒軸に平行な任意の第1の直線上におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)と、前記第1の直線から90°回転させた第2の直線上におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)と、前記円筒軸に対して直交する断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)との平均値である。」 と記載されているのを、 「また、前記ビッカース硬さの平均値(HVtav)は、プレート状のスパッタリングターゲットにおいては、前記スパッタ面におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)と、前記スパッタ面に対して直交する第1の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)と、前記スパッタ面と前記第1の断面に対して直角な第2の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)との平均値である。」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に 「更に、前記平均結晶粒径の平均値(ADtav)は、プレート状のスパッタリングターゲットにおいては、前記スパッタ面における平均結晶粒径の平均値(ADav1)と、前記スパッタ面に対して直交する第1の断面における平均結晶粒径の平均値(ADav2)と、前記スパッタ面と前記第1の断面に対して直角な第2の断面における平均結晶粒径の平均値(ADav3)との平均値である。 円筒状のスパッタリングターゲットにおける前記平均結晶粒径の平均値(ADtav)は、前記スパッタ面における円筒軸に平行な任意の第1の直線上における平均結晶粒径の平均値(ADav1)と、前記第1の直線から90°回転させた第2の直線上における平均結晶粒径の平均値(ADav2)と、前記円筒軸に対して直交する断面における平均結晶粒径の平均値(ADav3)との平均値である。」 と記載されているのを、 「更に、前記平均結晶粒径の平均値(ADtav)は、プレート状のスパッタリングターゲットにおいては、前記スパッタ面における平均結晶粒径の平均値(ADav1)と、前記スパッタ面に対して直交する第1の断面における平均結晶粒径の平均値(ADav2)と、前記スパッタ面と前記第1の断面に対して直角な第2の断面における平均結晶粒径の平均値(ADav3)との平均値である。」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1) 訂正事項1、3、4について 訂正事項1、3、4は、択一的に記載された発明特定事項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許の願書に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、それぞれを「本件特許明細書」などといい、まとめて「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は、本件特許明細書の【0021】の記載に基づき、請求項1における金スパッタリングターゲットの平均結晶粒径の上限値を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3) 訂正事項5、6について 訂正事項5、6は、訂正前の請求項4、5を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明) 前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 金および不可避不純物からなると共に、金純度が99.999%以上であり、スパッタ面を有するプレート状の金スパッタリングターゲットであって、 ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、 平均結晶粒径が30μm以上100μm以下であり、 スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向しており、 前記表面をX線回折し、金の各結晶面の回折強度比から下記の式(1)から各結晶面の配向指数Nを求めたとき、金の{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きい、金スパッタリングターゲット。 【数1】 [図:0001416467000001.jpg] 式(1)において、I/I(hkl)はX線回折における(hkl)面の回折強度比、JCPDS・I/I(hkl)はJCPDSカードにおける(hkl)面の回折強度比、Σ(I/I(hkl))はX線回折における全結晶面の回折強度比の和、Σ(JCPDS・I/I(hkl))はJCPDSカードにおける全結晶面の回折強度比の和である。 また、前記ビッカース硬さの平均値(HVtav)は、プレート状のスパッタリングターゲットにおいては、前記スパッタ面におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)と、前記スパッタ面に対して直交する第1の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)と、前記スパッタ面と前記第1の断面に対して直角な第2の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)との平均値である。 更に、前記平均結晶粒径の平均値(ADtav)は、プレート状のスパッタリングターゲットにおいては、前記スパッタ面における平均結晶粒径の平均値(ADav1)と、前記スパッタ面に対して直交する第1の断面における平均結晶粒径の平均値(ADav2)と、前記スパッタ面と前記第1の断面に対して直角な第2の断面における平均結晶粒径の平均値(ADav3)との平均値である。 【請求項2】 前記スパッタリングターゲット全体としての前記ビッカース硬さのばらつきが±20%以内である、請求項1に記載の金スパッタリングターゲット。 【請求項3】 前記スパッタリングターゲット全体としての前記平均結晶粒径のばらつきが±20%以内である、請求項1または請求項2に記載の金スパッタリングターゲット。 【請求項4】(削除) 【請求項5】(削除)」 第4 特許異議の申立てについて 1 特許異議の申立ての理由の概要 特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、概略、次のとおりである。 (1) 申立理由1(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~5に係る発明の課題は、発明の詳細な説明の記載によれば、高純度のAu膜の膜厚分布の均一性を高めることを可能とした金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することである。 これに対して、発明の詳細な説明の実施例に記載された金スパッタリングターゲットは、上記課題を解決できると認識できるものの、発明の詳細な説明の記載や技術常識を考慮しても、設定登録時の請求項1に係る発明のうち、(i)「ビッカース硬さの平均値」が「20以上25.5未満」及び「32.2超40未満」の場合、(ii)「平均結晶粒径」が「36.7μm超200μm以下」の場合、及び、(iii)「金の{110}面の配向係数N」が「1.52超」の場合には、膜厚分布の均一性が高い高純度Au膜が得られることを当業者が認識できないから、設定登録時の請求項1に係る発明は、上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。 また、金の優先配向が{110}であることは技術常識であるところ、発明の詳細な説明における比較例2、4、6の金スパッタリングターゲットの配向指数Nが1未満となることが不自然であるから、配向指数Nの上限値を特定しない設定登録時の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。 したがって、設定登録時の請求項1に係る発明、及び、当該請求項1の記載を引用する請求項2~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2) 申立理由2(実施可能要件違反) 発明の詳細な説明には、鍛造工程の回数と、「ビッカース硬さの平均値」、「平均結晶粒子径」又は「金の{110}面の配向係数N」との関係についての明示的な記載がないし、また、「ビッカース硬さの平均値」が25.5未満、「平均結晶粒径」が36.7μm超、あるいは、「金の{110}面の配向係数N」が1.52超の金スパッタリングターゲットの具体例がないため、設定登録時の請求項1に係る発明のうち、(i)「ビッカース硬さの平均値」が「20以上25.5未満」の金スパッタリングターゲット、(ii)「平均結晶粒径」が「36.7μm超200μm以下」の金スパッタリングターゲット、及び、(iii)「金の{110}面の配向係数N」が「1.52超」の金スパッタリングターゲットを作るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要である。 また、「ビッカース硬さ」、「平均結晶粒径」、「金の{110}面の配向係数N」は連動して変動するものであるから、これらの全てを特定範囲とすることは、当業者であっても困難である。 したがって、発明の詳細な説明は、当業者が、設定登録時の請求項1~5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由の概要 当審が特許権者に通知した、令和6年1月24日付けの取消理由は、概略、次のとおりである。 (1) 取消理由(サポート要件) 設定登録時の請求項1~5に係る発明の課題は、「高純度のAu膜の膜厚分布の均一性を高めることを可能とした金スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供すること」(【0010】)であるところ、発明の詳細な説明には、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径が15μm以上200μm以下である場合に、スパッタ成膜されたAu膜の膜厚分布の均一性が高まることや、200μmを超えると、スパッタリング時における粒子の飛翔性が低下し、膜厚分布の均一性が損なわれるおそれがあることについての機序が説明されていないし、また、実施例及び比較例の結果をみても、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径ADtavと、得られたAu膜の膜厚分布の均一性や抵抗値の均一性に相関関係は見出せないから、設定登録時の請求項1に係る発明の「平均結晶粒径が30μm以上200μm以下であ」るとの特定事項のうち、実施例を超える範囲(36.7μm超~200μmの範囲)については、上記課題を解決できるとは、当業者が認識することができない。 したがって、設定登録時の請求項1に係る発明は、当業者において、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえない。 また、設定登録時の請求項2~5に係る発についても事情は同じである。 以上のとおり、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明といえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載 本件特許明細書には、次の記載がある(下線は当審が付した。)。 (1) 「【背景技術】 【0002】 金(Au)スパッタリングターゲットを用いて成膜されたAu膜は、Au自体の優れた化学的安定性と電気特性のために様々な分野で用いられている。例えば、水晶振動子デバイスにおいては、水晶チップの両面に形成する励振電極等としてAuスパッタ膜が用いられている。水晶振動子デバイスでは、Au膜の膜厚により振動周波数を調整すること等から、スパッタリング時に均一な膜厚分布でAu膜を成膜することが可能なAuスパッタリングターゲットが求められている。 ・・・ 【0004】 Au膜の成膜に用いられるAuスパッタリングターゲットにおいても、プレート状ターゲットに限らず、円筒状ターゲットの使用が検討されている。しかしながら、従来のAuスパッタリングターゲットでは、プレート状ターゲットおよび円筒状ターゲットのいずれにおいても、水晶振動子デバイス等の電極として用いられるAu膜に求められる膜厚分布の均一性を満足させることが難しい。特に、円筒状のAuスパッタリングターゲットは、円筒形状加工に由来してAu膜の膜厚分布の均一性を高めることが難しい。 ・・・ 【0006】 水晶振動子デバイスは、上述したように水晶チップ(ブランク)の両面にAu膜を電極として形成することにより構成される。水晶チップは、外形をエッチングにより整えて角を丸くする、またはプレスで抜いた場合に機械的に角を丸くし、重心が中央にくるようにして周波数を安定化させている。水晶チップの表面が粗いと周波数特性に悪影響を与えるので、平滑性が高いことが望まれる。水晶チップに形成される電極にも、平滑性が高いこと、すなわち膜厚バラツキが小さいことが望まれる。電極は厚さを有する立体構造であるため、水晶チップが小型化されると膜厚バラツキが立体形状に与える影響がより大きくなる。従って、水晶振動子デバイス等の小型化に伴って、電極に適用されるAu膜の膜厚バラツキをより小さくすることが求められている。 【0007】 また、時計用として使用される周波数が32kHzの水晶振動子では、Au膜の質量のバラツキが周波数特性に及ぼす影響が大きい。周波数が32kHzの水晶振動子には、フォーク型や音叉型と呼ばれる形状が適用されている。音叉型水晶振動子は小型化に適するものの、Au膜の質量バラツキが周波数特性に影響を及ぼすことから、Au膜の膜厚バラツキに基づく質量バラツキを低減することが強く求められている。音叉型水晶振動子は周波数の調整が難しいことから、種々の工夫がなされてきた。例えば、Au膜の形成に関しては、蒸着法からスパッタリング法に移行している。Au膜をスパッタリング法で形成した後、レーザビームでAu膜の一部を除去して質量を調整したり、Au膜をスパッタリング法で形成する際に、質量調整用の錘を形成すること等が行われている。 【0008】 このような状況下において、Au膜の膜厚バラツキに基づく質量バラツキを低減することが可能になれば、周波数の調整に要する手間を大幅に削減することができる。特に、水晶振動子が小型化するほど、膜厚バラツキの影響が大きくなるため、質量がばらつきやすくなる。このような点からも、Auスパッタ膜の膜厚バラツキを小さくすることが求められている。さらに、Au膜の使用用途によっては、より高純度のAu膜が求められることがある。例えば、Auの純度が99.999%以上というようなAu膜をスパッタリング法により形成する場合、Auの純度が99.999%以上のスパッタリングターゲットが用いられるが、そのような場合にAu膜の膜厚バラツキが生じやすくなる。このような点から、より高純度のAuスパッタリングターゲットを用いた場合において、Auスパッタ膜の膜厚バラツキを小さくすることが求められている。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、高純度のAu膜の膜厚分布の均一性を高めることを可能にした金スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。」 (2) 「【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明の金スパッタリングターゲットは、99.999%以上の金純度を有する金スパッタリングターゲットであって、ビッカース硬さの平均値が20以上40未満であり、平均結晶粒径が15μm以上200μm以下であり、スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向していることを特徴としている。」 (3) 「【発明を実施するための形態】 【0014】 以下、本発明を実施するための形態について説明する。実施形態のスパッタリングターゲットは、金(Au)および不可避不純物からなる。スパッタリングターゲットにおけるAuの純度は、99.999%以上に設定される。・・・ 【0015】 実施形態のAuスパッタリングターゲットの形状は、特に限定されるものではなく、プレートおよび円筒のいずれであってもよい。プレート状スパッタリングターゲットの代表的な形状としては、例えば円板や矩形板のような多角形板等が挙げられる。・・・ 【0016】 実施形態のAuスパッタリングターゲットは、20以上40未満のビッカース硬さを有することが好ましい。このようなビッカース硬さを有するAu純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ成膜を行うことによって、膜厚分布の均一性に優れる高純度のAu膜を成膜することができる。すなわち、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さが40HV以上であるということは、Au純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲット内に製造時に生じた歪が残存していることを意味する。このような場合、スパッタリング時にターゲットからの粒子の飛翔が不均一になり、膜厚分布の均一性が損なわれることになる。Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは35HV以下がより好ましく、30HV以下がさらに好ましい。一方、ビッカース硬さが20HV未満のAuスパッタリングターゲットは、それ自体の製造が困難であることに加えて、結晶の粒成長の発生に伴う結晶配向が崩れ始めると思われ、これにより膜厚分布の均一性が損なわれる。Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは23HV以上がより好ましく、26HV以上がさらに好ましい。 【0017】 Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは、以下のようにして測定するものとする。プレート状スパッタリングターゲットの場合、測定箇所はスパッタ面(スパッタされる面)の任意の直線上の10mmおきの3か所と、スパッタ面に対して直交する第1の断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)と、スパッタ面と第1の断面に対して直角な第2の断面の厚さ方向に3分割した領域から各1か所の計3か所(実施例では厚さ5mmの試料に対して厚さ方向の直線上に1.5mmおきに計3か所)の計9か所とする。これら各測定箇所のビッカース硬さを、200gfの試験力(押し付け荷重)で測定する。スパッタ面におけるビッカース硬さの平均値(HVav1)、第1の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav2)、および第2の断面におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)を、それぞれ算出する。これらスパッタ面、第1の断面、および第2の断面の各平均値(HVav1、HVav2、HVav3)を平均し、その値をプレート状のAuスパッタリングターゲットの全体としてのビッカース硬さの平均値(HVtav)とする。 ・・・ 【0021】 実施形態のAuスパッタリングターゲットにおいて、平均結晶粒径は15μm以上200μm以下であることが好ましい。このような平均結晶粒径を有するAuスパッタリングターゲットを用いて、スパッタ成膜を行うことによって、Au膜の膜厚分布の均一性をさらに高めることができる。すなわち、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径が15μm未満であると、スパッタリング時にターゲットからの粒子の飛翔が不均一になり、膜厚分布の均一性が損なわれるおそれがある。Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、33μm以上がさらに好ましい。一方、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径が200μmを超えると、スパッタリング時における粒子の飛翔性が低下し、膜厚分布の均一性が損なわれるおそれがある。Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。 ・・・ 【0023】 このようにして、スパッタ面における結晶粒径の平均値(ADav1)、第1の断面における結晶粒径の平均値(ADav2)、および第2の断面における結晶粒径の平均値(ADav3)を、それぞれ算出する。これらスパッタ面、第1の断面、および第2の断面の結晶粒径の各平均値(ADav1、ADav2、ADav3)をさらに平均し、その値をプレート状のAuスパッタリングターゲットの全体としての平均結晶粒径(ADtav)とする。 ・・・ 【0027】 実施形態のAuスパッタリングターゲットにおいて、スパッタ面にはAuの{110}面が優先配向していることが好ましい。Auは面心立方格子構造を有し、それを構成する結晶面のうち、{110}面は他の結晶面よりスパッタされやすい。そのような{110}面をスパッタ面に優先配向させることによって、スパッタリング時における粒子の飛翔方向が安定するため、膜厚分布の均一性をさらに向上させることができる。ここで、スパッタ面が{110}面に優先配向している状態とは、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、Auの各結晶面の回折強度比から下記のウィルソンの式(1)から各結晶面の配向指数Nを求め、{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きい場合を示すものとする。Auの{110}面の配向指数Nは1.3以上であることがより好ましい。 【0028】 【数1】 [図:0001416467000002.jpg] 式(1)において、I/I(hkl)はX線回折における(hkl)面の回折強度比、JCPDS・I/I(hkl)はJCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standards)カードにおける(hkl)面の回折強度比、Σ(I/I(hkl))はX線回折における全結晶面の回折強度比の和、Σ(JCPDS・I/I(hkl))はJCPDSカードにおける全結晶面の回折強度比の和である。 【0029】 実施形態のAuスパッタリングターゲットは、上述した20以上40未満のビッカース硬さと15μm以上200μm以下の平均結晶粒径とAuの{110}面が優先配向したスパッタ面の組み合わせに基づいて、Au純度が99.999%以上の高純度のAuスパッタ膜の膜厚分布の均一性を格段に向上させることを可能にしたものである。すなわち、上述したビッカース硬さと平均結晶粒径とAuの優先配向面の個々の効果が相乗的に作用することによって、Au純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲットからスパッタリング時にAu粒子が飛翔する際の飛翔性およびその均一性、さらにAu粒子の飛翔方向の安定性が向上する。これらによって、例えば小型化が進められている水晶振動子デバイスのような電子デバイスの電極等に高純度のAuスパッタ膜を適用する際に、膜厚バラツキおよびそれに基づく質量バラツキが小さく、膜厚分布および質量分布の均一性に優れる高純度のAu膜を提供することが可能になる。」 (4) 「【0030】 上述した実施形態のAuスパッタリングターゲットの製造方法は、特に限定されるものではない。実施形態のAuスパッタリングターゲットの製造方法は、例えば、99.999%以上の金純度を有する金インゴットを用意する工程と、金インゴットを加工して所望の板状または円筒状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望のプレート状または円筒状のターゲット素材を形成する第2の加工工程と、ターゲット素材を熱処理する熱処理工程とを具備することが好ましい。 【0031】 実施形態のAuスパッタリングターゲットの製造方法について詳述する。例えば、プレート状のAuスパッタリングターゲットの場合には、Au原料の鋳造、切削、鍛造、および熱処理を組み合わせた製造方法により作製することができる。また、プレート状のAuスパッタリングターゲットの場合、Au原料の鍛造に代えて、圧延を適用してもよい。円筒状のAuスパッタリングターゲットの場合には、Au原料の鋳造、切削、パイプ加工、および熱処理を組み合わせた製造方法により作製することができる。パイプ加工としては、ラフロ法のような押出加工、引き抜き加工、鍛造加工等が挙げられる。これら各加工工程における加工率や熱処理温度を制御することによって、上述したビッカース硬さ、平均結晶粒径、優先結晶面等を得ることができる。 【0032】 Au原料の鋳造工程は、真空雰囲気または不活性雰囲気中にて黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼ内で溶解するか、あるいは大気溶解炉を用いて溶湯表面に不活性ガスを吹き付けながら、または炭素系固体シール材で溶湯表面を覆いながら黒鉛るつぼまたはセラミックスるつぼ内で溶解し、黒鉛または鋳鉄製の鋳型内に鋳造することにより実施することが好ましい。Au原料の鋳造工程は、AuインゴットのAu純度が99.999%以上(5N以上)となるように調整する。なお、AuインゴットのAu純度の上限値は、特に限定されるものではなく、Auスパッタ膜に求められる純度に応じて設定されるものであるが、Auインゴットの製造工程やAuスパッタリングターゲットの製造コスト等を考慮すると99.9999%以下とすることが一般的である。 【0033】 次いで、鋳造したAuインゴットを所望の板状または円筒状の金ビレットに加工する(第1の加工工程)。プレート状のAuスパッタリングターゲットを作製する場合には、例えば板状に成形したAuインゴットの外周面の表面欠陥を研削除去することによって、板状の金ビレットを作製する。円筒状のAuスパッタリングターゲットを作製する場合には、円柱状に成形したAuインゴットの外周面の表面欠陥を研削除去すると共に、内部をくり抜き加工することによって、円筒状の金ビレットを作製する。 【0034】 次に、金ビレットを所望のプレート状または円筒状のターゲット素材に加工する(第2の加工工程)。プレート状のAuスパッタリングターゲットを作製する場合には、板状のAuインゴットを所望のプレート形状に鍛造する。Auインゴットの鍛造工程は、200~800℃の範囲の熱間で実施することが好ましく、さらに加工率(断面減少率または厚さ減少率)が50%以上90%以下となるように実施することが好ましい。鍛造工程は複数回実施してもよく、その途中で熱処理を実施してもよい。鍛造工程を複数回実施する場合、加工率は全体としての加工率が50%以上90%以下となるように調整する。 【0035】 鍛造加工の加工率を50%以上とすることによって、鋳造組織を壊して均一な再結晶組織が得られやすくなると共に、その後の熱処理工程における硬さや結晶粒径の制御性や均一性を高めることができる。Au鍛造材に必要に応じて冷間で圧延処理を施してもよい。圧延処理の加工率は鍛造時の加工率にもよるが、50%以上90%以下であることが好ましい。さらに、Auビレットの加工工程には、鍛造工程に代えて圧延工程を適用してもよい。Auビレットの圧延工程は、鍛造工程と同様に、200~800℃の範囲の熱間で実施することが好ましく、また加工率(断面減少率または厚さ減少率)が50~90%の範囲となるように実施することが好ましい。 ・・・ 【0039】 次に、鍛造工程や圧延工程で作製したプレート状のターゲット素材、およびパイプ加工で作製したパイプ状のターゲット素材を、例えば大気中または不活性ガス雰囲気中にて200℃以上500℃以下の温度で熱処理することによって、ターゲット素材の金属組織を再結晶させる。このような熱処理によって、20以上40未満のビッカース硬さを有するAuスパッタリングターゲットを得ることができる。さらに、15μm以上200μm以下の平均結晶粒径を有するAuスパッタリングターゲットや、スパッタ面を{110}面に優先配向させたAuスパッタリングターゲットを得ることかできる。熱処理工程は、複数回実施してもよい。熱処理工程後には、必要に応じて切削加工等によりスパッタリングターゲットの形状を整える工程を実施してもよい。 【0040】 熱処理温度が200℃未満であると、加工時に生じた内部歪を十分に除去することができず、ビッカース硬さが40以上になるおそれがある。また、スパッタ面を{110}面に優先配向させることができないおそれがある。一方、熱処理温度が500℃を超えると、再結晶組織が成長しすぎて、平均結晶粒径が200μmを超えたり、スパッタ面が{110}面以外の結晶面に優先配向するおそれがある。熱処理温度による保持時間(熱処理時間)は、例えば10分以上120分以下とすることが好ましい。熱処理時間が短すぎると、歪の除去が不十分であったり、金属組織を十分に再結晶化させることができないおそれがある。一方、熱処理時間が長すぎると、ビッカース硬さが低下しすぎたり、平均結晶粒径が大きくなりすぎるおそれがある。 【0041】 上述したように、Auインゴットをプレート状や円筒状に加工する工程の加工率と再結晶化熱処理工程の温度を制御することによって、ビッカース硬さが20以上40未満で、かつビッカース硬さのばらつきが小さいAuスパッタリングターゲットを得ることができる。さらに、平均結晶粒径が15μm以上200μm以下で、平均結晶粒径のばらつきが小さいAuスパッタリングターゲット、またスパッタ面を{110}面に優先配向させたAuスパッタリングターゲットを得ることができる。このようなAuスパッタリングターゲットを用いてAu膜を成膜することによって、例えば水晶振動子デバイス等の電極に求められる膜厚分布の均一性を満足させた高純度のAu膜を得ることができる。実施形態のAuスパッタリングターゲットは、水晶振動子デバイスの電極膜(Au膜)に限らず、各種電子部品に適用されるAu膜の成膜に用いることができる。」 (5) 「【実施例】 【0042】 次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。 【0043】 (実施例1) まず、Au塊を黒鉛るつぼに挿入して溶解した。Au溶湯を黒鉛鋳型に鋳造してAu板状のインゴットを作製した。Auインゴットの表面を研削除去することによって、幅が190mm、長さが270mm、厚さが50mmのAuビレット(純度99.999%)を作製した。次いで、Auビレットを800℃の温度で熱間鍛造し、幅が70mm、長さが200mm、厚さが45mmのAuターゲット素材とした。鍛造時の加工率は三軸方向共に80%とした。鍛造後のAuターゲット素材を500℃の温度で30分間熱処理した。熱処理後のAuターゲット素材を研削加工して、直径が152.4mm、厚さが5mmの円板状のAuスパッタリングターゲットを作製した。Auスパッタリングターゲットは、各部の特性測定と膜厚特性の測定のために2個作製した。以下の実施例および比較例においても同様である。 【0044】 得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さを、前述したプレート状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した(装置名:mitsutoyo HM123)。前述した各測定箇所のビッカース硬さを、200gfの試験力(押し付け荷重)で測定した結果、スパッタ面のビッカース硬さの平均値(HVav1)は25.6、第1の断面のビッカース硬さの平均値(HVav2)は33.2、第2の断面のビッカース硬さの平均値(HVav3)は33.1、これら各値の平均値(ターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav))は30.6であった。ターゲット全体としてのビッカース硬さ(HVtav)に対する各部のビッカース硬さ(HVav1、HVav2、HVav3)の比は、HVav1/HVtavが0.84、HVav2/HVtavが1.08、HVav3/HVtavが1.08であった。 【0045】 さらに、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径を、前述したプレート状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した。その結果、ターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)は32.2μmであった。また、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、前述した方法にしたがって優先配向している結晶面を評価した。その結果、スパッタ面にはAuの{110}面が優先配向していることが確認された。前述した方法にしたがって{110}面の配向指数Nを求めたところ、{110}面の配向指数Nは1.52であった。このようなAuスパッタリングターゲットを後述する成膜工程に供して特性を評価した。 【0046】 (実施例2~7、比較例1~2) 実施例1と同様にして作製したAuビレットに対して、実施例1と同様に表1に示す加工率を適用した鍛造加工を施してAuターゲット素材を作製した。次いで、鍛造後のAuターゲット素材に表1に示す条件で熱処理を施した。この後、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工することによって、実施例1と同一形状のAuスパッタリングターゲットを作製した。これらAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さ、平均結晶粒径、スパッタ面の優先配向面、および{110}面の配向指数Nを、実施例1と同様にして測定および評価した。それらの測定結果を表2に示す。このようなAuスパッタリングターゲットを後述する成膜工程に供して特性を評価した。なお、比較例1のAuスパッタリングターゲットでは、結晶粒界を明瞭に識別することができなかったため、平均結晶粒径を測定することはできなかった(表1中には「-」と表記)。 【0047】 【表1】 [図:0001416467000003.jpg] 【0048】 【表2】 [図:0001416467000004.jpg] 【0049】 上述した実施例1~7および比較例1~2による各Auスパッタリングターゲットを枚様式スパッタリング装置(装置名:ANELVA SPF530H)に取り付け、装置内を1×10-3Pa以下まで真空排気した後、Arガス圧:0.4Pa、投入電力:DC100W、ターゲット-基板間距離:40mm、スパッタ時間:5分の条件でスパッタを行い、6インチSi基板(ウエハ)上にAu膜を成膜した。得られたAu膜の膜厚分布を以下のようにして評価した。Au膜を成膜した基板を蛍光X線膜厚計に取り付け、測定時間:60秒、繰り返し測定回数:10回、測定開始点:基板端部、測定点間隔:5mmの条件で、Au膜の膜厚を測定した。膜厚の測定軸は4軸、すなわち基板の中心を通る縦および横の2軸と、それから45度回転させた状態での基板の中心を通る縦および横の2軸とした。測定後、各測定点の10点平均膜厚を算出し、4軸の同測定位置における測定値の標準偏差を算出し、全測定位置の標準偏差の平均値を算出した。この値を膜厚の標準偏差σとして表3に示す。次に、Au膜の抵抗値を四端子法により測定し、膜厚と同様に抵抗値の標準偏差σを求めた。その結果を表3にAu膜の抵抗値の標準偏差σとして示す。 【0050】 【表3】 [図:0001416467000005.jpg] 【0051】 表2および表3から明らかなように、実施例1~7の各Auスパッタリングターゲットにおいては、ビッカース硬さが20以上40未満の範囲であり、また各部のビッカース硬さのばらつきも小さいことが分かる。平均結晶粒径は15~200μmの範囲であり、さらにスパッタ面には{110}面が優先配向しており、{110}面の配向指数Nは1より大きいことが分かる。このようなビッカース硬さ、平均結晶粒径、およびスパッタ面の優先配向面が組み合わされたAuスパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜したAu膜は、膜厚分布の均一性に優れ、また抵抗値の均一性も優れていることが分かる。 【0052】 (実施例8~12) 実施例1と同様にして作製したAuビレットに対して、実施例1と同様に表4に示す加工率を適用した鍛造加工を施してAuターゲット素材を作製した。次いで、鍛造後のAuターゲット素材に表4に示す条件で熱処理を施した。この後、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工することによって、実施例1と同一形状のAuスパッタリングターゲットを作製した。 【0053】 【表4】 [図:0001416467000006.jpg] 【0054】 得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さを、実施例1と同様にして測定した。さらに、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径を、前述したプレート状スパッタリングターゲットの測定方法にしたがって測定した。測定結果として、スパッタ面、第1の断面、および第2の断面のそれぞれの平均結晶粒径(ADav1、ADav2、ADav3)、これら各値の平均値(ターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav))、およびターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)に対する各部の平均結晶粒径(ADav1、ADav2、ADav3)の比を、表5に示す。さらに、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、前述した方法にしたがって優先配向している結晶面を評価した。前述した方法にしたがって{110}面の配向指数Nを求めた。それら結果を表5に示す。このようなAuスパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして成膜工程を実施し、Au膜の膜厚の標準偏差σと抵抗値の標準偏差σを求めた。それらの結果を表6に示す。 【0055】 【表5】 [図:0001416467000007.jpg] 【0056】 【表6】 [図:0001416467000008.jpg] 【0057】 (実施例13~21、比較例3~4) まず、Au塊を黒鉛るつぼに挿入して溶解した。Au溶湯を黒鉛鋳型に鋳造してAuインゴットを作製した。Auインゴットの表面を研削除去することによって、幅が200mm、長さが300mm、厚さが45mmのAuビレット(純度99.999%)を作製した。次いで、Auビレットを800℃の温度で熱間圧延し、幅が70mm、長さが200mm、厚さが45mmのAuターゲット素材とした。圧延時の加工率は厚さの減少率として80%とした。圧延後のAuターゲット素材を表7に示す条件で熱処理した。熱処理後のAuターゲット素材を研削加工して、直径が152.4mm、厚さが5mmの円板状のAuスパッタリングターゲットを作製した。 【0058】 【表7】 [図:0001416467000009.jpg] 【0059】 得られたAuスパッタリングターゲットについて、ターゲット全体としてのビッカース硬さの平均値(HVtav)、およびターゲット全体としての平均結晶粒径(ADtav)を、実施例1と同様にして測定した。さらに、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面に優先配向している結晶面を実施例1と同様にして評価すると共に、{110}面の配向指数Nを実施例1と同様にして求めた。それら結果を表8に示す。このようなAuスパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様にして成膜工程を実施し、Au膜の膜厚の標準偏差σと抵抗値の標準偏差σを求めた。それらの結果を表9に示す。 【0060】 【表8】 [図:0001416467000010.jpg] 【0061】 【表9】 [図:0001416467000011.jpg] 」 4 当審の判断 事案に鑑み、申立理由1及び取消理由についてはまとめて検討する。 (1) 申立理由1及び取消理由(サポート要件違反)について ア サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載された要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 以下、この観点に立って検討する。 イ 本件発明の課題について 前記3(1)に摘記した【0002】~【0010】の記載を「金スパッタリングターゲット」に対する課題に注目して改めて整理すると、本件発明の課題は、高純度のAu膜の膜厚分布の均一性を高めることを可能にした金スパッタリングターゲットを提供することといえる。 ウ 発明の詳細な説明の記載について (ア) 実施例に係る具体例に目を向けると、発明の詳細な説明の【実施例】(前記3(5)参照)には、実施例1~21のAuスパッタリングターゲットとして、Au純度が99.999%であり、ビッカース硬さの平均値HVtavが25.5~32.2の範囲であり、平均結晶粒径ADtavが31.2~36.7μmの範囲であり、優先結晶面が{110}であり、{110}面の配向指数Nが1.03~1.52の範囲である円板状のAuスパッタリングターゲットが記載されている。 そして、実施例1~21のAuスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜した際のAu膜の膜厚分布及び抵抗値の均一性は、比較例1~4のAuスパッタリングターゲットを用いた場合に比べて優れていることが確認されているから、実施例1~21のAuスパッタリングターゲットは、当業者において、本件発明の課題を解決できると認識できる。 (イ) 次に、発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】の記載(前記3(3)参照)を見てみると、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは、20以上40未満が好ましいこと(【0016】)、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は、30μm以上100μm以下が好ましいこと(【0021】)、及び、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面は、{110}面が優先配向していることが好ましいこと(【0027】)が記載されているから、これらの記載された好ましい範囲内においても、前記(ア)で検討した具体例と同様に、Au膜の膜厚分布の均一性を向上できると認識できるかについて検討する。 (ウ) まず、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面が、{110}面が優先配向している点について検討すると、発明の詳細な説明の【0027】(前記3(3)参照)には、Auは面心立方格子構造を有し、それを構成する結晶面のうち、{110}面は他の結晶面よりスパッタされやすいため、{110}面をスパッタ面に優先配向させることによって、スパッタリング時における粒子の飛翔方向が安定し、膜厚分布の均一性が向上することが記載されている。 また、本件特許の審査段階において、令和2年8月19日に刊行物等提出書に添付して提出された「韓剛、村田英夫、“半導体LSI用スパッタリングターゲット”、まてりあ、2000年、第39巻、第8号、第623~627頁」には、「単結晶のターゲットでスパッタする場合,fcc結晶構造を有するターゲットでは[110]に,bcc結晶構造を有するターゲットでは[111]方向に優先放出することが,古くからWehnerらにより報告され(20)(21),また最近の実験(22)-(24)や計算機シミュレージョン(25)でも明らかとなっている.」(第627頁左欄第1~7行)と記載されていることから、fcc結晶構造を有するターゲットが[110]方向に優先放出されることは、本件特許出願時の技術常識といえる。 以上を踏まえると、Auスパッタリングターゲットにおいて、スパッタ面を{110}面に優先配向させることで、スパッタリング時における[110]方向に優先放出される粒子の飛翔方向を安定化させることが理解できるから、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面が、{110}面が優先配向していることで、前記(ア)で検討した実施例と同様に、Au膜の膜厚分布の均一性を向上できることを理解できる。 そして、発明の詳細な説明の【0027】、【0028】(前記3(3)参照)には、スパッタ面が{110}面に優先配向している状態が、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、Auの各結晶面の回折強度比から下記のウィルソンの式(1)から各結晶面の配向指数Nを求め、{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きい場合を示し、式(1)が、 [図:0001416467000012.jpg] であり、式(1)において、I/I(hkl)はX線回折における(hkl)面の回折強度比、JCPDS・I/I(hkl)はJCPDSカードにおける(hkl)面の回折強度比、Σ(I/I(hkl))はX線回折における全結晶面の回折強度比の和、Σ(JCPDS・I/I(hkl))はJCPDSカードにおける全結晶面の回折強度比の和であることも記載されているから、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面において、Auスパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折し、Auの各結晶面の回折強度比から上述のウィルソンの式(1)から各結晶面の配向指数Nを求め、{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きくすることで、スパッタ面を{110}面に優先配向させることと同様に、Au膜の膜厚分布の均一性を向上できることを理解できる。 (エ) 次に、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さが20以上40未満である点について検討すると、発明の詳細な説明の【0016】(前記3(3)参照)には、ビッカース硬さが40以上であると、Au純度が99.999%以上のAuスパッタリングターゲット内に製造時に生じた歪が残存するため、スパッタリング時にターゲットからの粒子の飛翔が不均一になり、膜厚分布の均一性が損なわれることが記載され、さらに、【0017】(前記3(3)参照)には、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは、スパッタ面(スパッタされる面)の任意の直線上のビッカース硬さの平均値(HVav1)、スパッタ面に対して直交する第1の断面の厚さ方向のビッカース硬さの各平均値(HVav2)、及び、スパッタ面と第1の断面に対して直角な第2の断面の厚さ方向におけるビッカース硬さの平均値(HVav3)をさらに平均した平均値(HVtav)として求めることが記載されている。 そして、これらの記載によれば、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さは、上記平均値HVtavを示すものであり、この平均値HVtavが小さくなると、ターゲット内に残存する歪みが小さくなり、当該歪みに起因するターゲットからの粒子飛翔の不均一性が改善できることも理解できる。 加えて、前記(ア)に示した実施例及び比較例のAuスパッタリングターゲットのうち、前記(ウ)での検討を踏まえて、{110}面が優先配向しているターゲット(実施例1~21及び比較例1)に注目して、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さの平均値HVtavと、得られたAu膜の膜厚分布の均一性(標準偏差σ)との関係を見てみると、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さの平均値HVtavを小さくすることで、得られたAu膜の膜厚分布の均一性(標準偏差σ)が向上するとの相関関係が見て取れる。 以上の事項を併せ考えれば、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さの平均値HVtavが20以上40未満の範囲内であれば、前記(ア)で検討した具体例と同程度に、Au膜の膜厚分布の均一性を向上できることを理解できる。 (オ) 最後に、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径が30μm以上100μm以下である点について検討すると、発明の詳細な説明の【0023】(前記3(3)参照)には、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は、スパッタ面における結晶粒径の平均値(ADav1)、第1の断面における結晶粒径の平均値(ADav2)、及び、第2の断面における結晶粒径の平均値(ADav3)をさらに平均した平均結晶粒径(ADtav)として求めることが記載されているから、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径は、平均結晶粒径ADtavを示すものである。 また、金属材料において、一般的に、ビッカース硬さと平均結晶粒径との間には相関関係があり、平均結晶粒径が小さいほどビッカース硬さが高くなり、平均結晶粒径が大きいほどビッカース硬さが低くなる傾向があることは、本件特許出願時の技術常識であるといえ、Auスパッタリングターゲットについても、同様な傾向があるといえる。 そうしてみると、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径ADtavが30μm付近まで小さくなると、それに対応して、ビッカース硬さは高くなり、一方、平均結晶粒径ADtavが100μm付近まで大きくなると、それに対応して、ビッカース硬さは小さくなるといえる。そして、前記(ア)に記載したとおり、実施例においては、平均結晶粒径ADtavが31.2~36.7μmの範囲で、ビッカース硬さの平均値HVtavが25.5~32.2の範囲となっていることから、平均結晶粒径ADtavが36.7μmを超えて100μmに至る範囲では、ビッカース硬さの平均値HVtavは25.5よりも低い値であるといえ、ビッカース硬さの平均値HVtavが低いということは、前記(エ)で述べたとおり、ターゲット内に残存する歪みが小さくなり、ターゲットからの粒子飛翔性がより均一になることになるから、平均結晶粒径ADtavが36.7μmを超えて100μmに至る範囲においても、Au膜の膜厚分布の均一性が向上するといえる。 なお、このことは、特許権者により令和6年3月25日に意見書に添付して提出された乙第1号証(加藤哲也作成、実験成績証明書、2024年3月15日)を参照するに、Auスパッタリングターゲットの平均結晶粒径が36.7μmを超える48.9μm、88.3μm、103.3μmにおいて、ビッカース硬さHVtavが25.5よりも低い22.5、22.1、21.1(いずれも20以上)であり、膜厚標準偏差σも小さく(膜厚分布の均一性が良好)となっており、上記判断と合致している。 (カ) そうすると、前記(ア)の具体例に加えて、前記(イ)~(オ)での検討を併せ考えれば、金純度が99.999%以上であるプレート状の金スパッタリングターゲットにおいて、ビッカース硬さの平均値HVtavが20以上40未満であり、平均結晶粒径ADtavが30μm以上100μm以下であり、スパッタされる表面に金の{110}面が優先配向しており、前記表面をX線回折し、金の各結晶面の回折強度比から上述の式(1)から各結晶面の配向指数Nを求めたとき、金の{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きいことにより、当業者において、本件発明の課題を解決できると認識できる。 エ 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比、検討 本件特許請求の範囲の請求項1~3の記載は、前記第3に示したとおりであるところ、本件発明1の「金スパッタリングターゲット」は、前記ウ(カ)で検討した金スパッタリングターゲットであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、当業者において、前記イに示した本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。 また、本件発明1に係る請求項1の記載を引用する本件発明2、3についても事情は同じである。 したがって、前記アの判断手法を本件に当てはめると、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足する。 オ 申立人の主張について (ア) 申立理由1における指摘事項について 申立理由1における申立人の指摘事項は、前記1(1)のとおりであるところ、当該指摘事項では、(i)設定登録時の請求項1に係る発明の「ビッカース硬さの平均値」、「平均結晶粒径」、「金の{110}面の配向係数N」の各数値範囲が、実施例を超える範囲では、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できない旨、及び、(ii)比較例2、4、6の金スパッタリングターゲットの配向指数Nが1未満となることが不自然であるために、設定登録時の請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものでない旨を主張している。 しかしながら、前記ウ及びエで検討したとおり、本件発明1の「ビッカース硬さの平均値」、「平均結晶粒径」、「金の{110}面の配向係数N」の各数値範囲は、当業者において、本件発明の課題を解決できることを認識できる範囲といえるし、また、比較例における記載不備は、サポート要件の判断に影響を与えるものでないから、申立人の上記主張はいずれも採用できない。 (イ) 意見書における主張について 申立人は、令和6年6月14日提出の意見書において、(i)特許権者の主張する作用機序は、特許権者が推測するメカニズムによるものであって、実施例や比較例から理解できないこと、(ii)実験成績証明書におけるAuスパッタリングターゲットは、本件特許明細書に具体的に記載されたものでなく、開示範囲を超えるものであること、及び、(iii)実験成績証明書から、膜厚の標準偏差がAuスパッタリングターゲットの結晶粒径に依存していることは理解できるが、ビッカース硬さや配向指数が膜厚均一性に相乗的に作用していることまでは読み取れないことを主張している。 まず、上記(i)の主張について検討すると、前記ウで検討したとおり、特許権者の主張する作用機序は、技術常識等を考慮すれば、実施例や比較例から理解できるものである。 また、上記(ii)及び(iii)の主張について検討すると、実験成績証明書の結果に関わらず、本件発明1~3がサポート要件を満足することは、前記ウ及びエで検討したとおりである。 したがって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。 カ 申立理由1及び取消理由についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由1及び取消理由に理由はない。 (2) 申立理由2(実施可能要件違反)について ア 実施可能要件の判断手法 物の発明について、特許法第36条第4項第1号に記載された要件(実施可能要件)を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。 以下、この観点に立って検討する。 イ 発明の詳細な説明の記載 (ア) 発明の詳細な説明の【発明を実施するための形態】には、「Auスパッタリングターゲット」を製造することに関して、次の事項が記載されている(前記3(4)参照)。 a Auスパッタリングターゲットの製造方法は、99.999%以上の金純度を有する金インゴットを用意する工程と、金インゴットを加工して所望の板状の金ビレットを形成する第1の加工工程と、金ビレットを加圧下で板厚を減少させつつ加工して所望の第2の加工工程と、ターゲット素材を熱処理する熱処理工程とを具備すること(【0030】)。 b 金インゴットを用意する工程では、AuインゴットのAu純度が99.999%以上(5N以上)となるように調整すること(【0032】)。 c 板状の金ビレットを形成する第1の加工工程では、板状に成形したAuインゴットの外周面の表面欠陥を研削除去することによって、板状の金ビレットを作製すること(【0033】)。 d 板状の金ビレットを形成する第2の加工工程では、板状の金ビレットを所望のプレート形状に鍛造すること、200~800℃の範囲の熱間で実施すること、加工率(断面減少率または厚さ減少率)が50%以上90%以下となるように実施すること、鍛造工程は複数回実施してもよいこと、加工率を50%以上とすることによって、鋳造組織を壊して均一な再結晶組織が得られやすくなると共に、その後の熱処理工程における硬さや結晶粒径の制御性や均一性を高めることができること、及び、鍛造工程に代えて圧延工程を適用してもよいこと(【0034】、【0035】)。 e ターゲット素材を熱処理する熱処理工程では、大気中又は不活性ガス雰囲気中にて200℃以上500℃以下の温度、10分以上120分以下の保持時間(熱処理時間)で熱処理することによって、ターゲット素材の金属組織を再結晶させ、ビッカース硬さを20以上40未満、平均結晶粒径を15μm以上200μm以下、及び、スパッタ面を{110}面に優先配向させること、熱処理温度が200℃未満であると、加工時に生じた内部歪を十分に除去することができず、ビッカース硬さが40以上になるおそれがあり、スパッタ面を{110}面に優先配向させることができないおそれがあること、熱処理温度が500℃を超えると、再結晶組織が成長しすぎて、平均結晶粒径が200μmを超えたり、スパッタ面が{110}面以外の結晶面に優先配向するおそれがあること、熱処理時間が短すぎると、歪の除去が不十分であったり、金属組織を十分に再結晶化させることができないおそれがあること、及び、熱処理時間が長すぎると、ビッカース硬さが低下しすぎたり、平均結晶粒径が大きくなりすぎるおそれがあること(【0039】、【0040】)。 (イ) さらに、発明の詳細な説明の【実施例】には、前記(ア)の記載事項に則した、次の具体的な製造方法により、前記(1)ウ(ア)に示した「Auスパッタリングターゲット」を得たことが記載されている。 a Au溶湯を黒鉛鋳型に鋳造してAu板状のインゴットを作製し、Auインゴットの表面を研削除去することでAuビレット(純度99.999%)を作製し、次いで、Auビレットを800℃の温度、加工率80%で熱間鍛造してAuターゲット素材とし、鍛造後のAuターゲット素材を300~500℃の温度で20~120分間熱処理して、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工して円板状のAuスパッタリングターゲットを作製したこと(実施例1~12) b Au溶湯を黒鉛鋳型に鋳造してAuインゴットを作製し、Auインゴットの表面を研削除去することでAuビレット(純度99.999%)を作製し、次いで、Auビレットを800℃の温度、加工率80%で熱間圧延してAuターゲット素材とし、圧延後のAuターゲット素材を300~500℃の温度で20~120分間熱処理して、熱処理後のAuターゲット素材を研削加工して円板状のAuスパッタリングターゲットを作製したこと(実施例13~21)。 ウ 実施可能要件の充足性の判断 (ア) 前記イ(イ)によれば、Au純度が99.999%であり、ビッカース硬さの平均値HVtavが25.5~32.2の範囲であり、平均結晶粒径ADtavが31.2~36.7μmの範囲であり、スパッタ表面の優先結晶面が{110}であり、{110}面の配向指数Nが1.03~1.52の範囲である、実施例1~21の円板状のAuスパッタリングターゲットの具体的な製造方法が記載されている。 (イ) 次に、本件発明1のAuスパッタリングターゲットにおいて、ビッカース硬さの平均値HVtav、平均結晶粒径ADtav、{110}面の配向指数Nが、前記(ア)の具体例から外れる範囲のAuスパッタリングターゲットが製造できることについて検討する。 (ウ) まず、前記イ(ア)eによれば、発明の詳細な説明には、ターゲット素材を熱処理する熱処理工程では、大気中又は不活性ガス雰囲気中にて200℃以上500℃以下の温度、10分以上120分以下の保持時間(熱処理時間)で熱処理することが記載され、さらに、熱処理温度が低すぎたり、熱処理時間が短すぎたりすると、加工時に生じた内部歪を十分に除去することができず、ビッカース硬さが高くなりすぎたり、スパッタ面を{110}面に優先配向させることができないおそれがあること、また、熱処理温度が高すぎると、再結晶組織が成長しすぎて、平均結晶粒径が大きくなりすぎることが記載されている。 また、前記イ(イ)に示した実施例1~21において、熱処理工程の熱処理温度と得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さの平均値との関係を見てみると、熱処理温度を高くすることでAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さの平均値HVtavが小さくなるとの相関関係が見て取れる。 さらに、Auスパッタリングターゲットにおいて、平均結晶粒径が小さいほどビッカース硬さが高くなり、平均結晶粒径が大きいほどビッカース硬さが低くなることは、本件特許出願時の技術常識である。 そして、前記(1)ウ(ウ)で検討したとおり、Auの各結晶面の回折強度比から上述のウィルソンの式(1)から各結晶面の配向指数Nを求め、{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きくすることは、単に、スパッタ面が{110}面に優先配向している状態を示しているにすぎない。 以上を踏まえると、ターゲット素材を熱処理する熱処理工程における熱処理温度及び熱処理時間を調整して、ビッカース硬さ、平均結晶粒径、及び、スパッタ面が{110}面に優先配向すること、すなわち、{110}面の配向指数Nを調整することは、当業者が通常行い得る事項にすぎない。 (エ) 次に、前記イ(ア)dによれば、発明の詳細な説明には、板状の金ビレットを形成する第2の加工工程では、板状の金ビレットを200~800℃の範囲の熱間で、加工率が50%以上90%以下で、所望のプレート状に鍛造又は圧延加工することが記載され、加工工程は複数回で実施してもよいこと、加工率を50%以上とすることによって、鋳造組織を壊して均一な再結晶組織が得られやすくなると共に、その後の熱処理工程における硬さや結晶粒径の制御性や均一性を高めることができることが記載されている。 ここで、発明の詳細な説明には、加工工程の熱間温度、加工率、あるいは、加工回数と、得られたAuスパッタリングターゲットのビッカース硬さ、平均結晶粒径、及び、スパッタ面の優先配向との関係は明示されていないが、当該加工工程後の熱処理工程により、加工時に生じた内部歪を除去して、ビッカース硬さを低く、結晶粒径を大きくすると共に、スパッタ面を{110}面に優先配向とすることを踏まえると、加工工程による過度の歪導入は回避すべきであるから、このような点を考慮して、加工工程時の熱間温度、加工率、加工回数を選択することも、当業者であれば当然に理解できるものである。 (オ) そうしてみると、前記(ア)の具体的に記載された製造方法における製造条件を参酌しつつ、前記(ウ)、(エ)での検討を踏まえれば、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、Auスパッタリングターゲットのビッカース硬さの平均値を20以上40以下、平均結晶粒径を30μm以上100μm以下であり、スパッタ面が金の{110}面に優先配向しており、金の各結晶面の回折強度比から求めた各結晶面の配向指数Nにおいて、金の{110}面の配向指数Nが1より大きく、かつ全ての結晶面の配向指数Nのうち最も大きくなるように調整できることを理解できる。 (カ) したがって、前記アの判断手法を本件に当てはめると、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満足する。 エ 申立人の主張について 申立理由2における申立人の指摘事項は、前記1(2)のとおりであるところ、当該指摘事項では、(i)発明の詳細な説明には、鍛造工程の回数とビッカース硬さ等の特性との関係についての明示的な記載なく、ビッカース硬さの平均値が25.5未満、平均結晶粒径が36.7μm超、あるいは、金の{110}面の配向係数Nが1.52超の金スパッタリングターゲットの具体例がないことを論拠に、設定登録時の請求項1に係る発明のうち、実施例を超える範囲は、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要である旨、及び、(ii)ビッカース硬さ、平均結晶粒径、及び、金の{110}面の配向係数Nの数値は連動して変動するものであるから、これらの全てを特定範囲とすることは、当業者であっても困難である旨を主張している。 しかしながら、前記ウで検討したとおり、発明の詳細な説明の記載や技術常識を参酌すれば、当業者において、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1のAuスパッタリングターゲットを製造することができるから、申立人の上記主張はいずれも採用できない。 オ 取消理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由2に理由はない。 第5 むすび 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、本件特許1~3を取り消すことはできない。また、他に本件特許1~3を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項4、5は、前記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、これらの請求項に係る本件特許4、5に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701141

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