特許異議申立
2024-700339
耐食性、耐かじり性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700339
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-544033
- 登録番号
- 7373671
- 請求日
- 2024年04月12日
- 審決日
- 2025年02月14日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【権利者代理人】大渕 一志
- 【権利者代理人】加藤 澄恵
- 【権利者】スティール アンド コンバージェンス テクノロジー リサーチ アソシエーション
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【権利者代理人】大渕 一志
- 【権利者代理人】加藤 澄恵
- 【権利者】ポスコ ステレオン カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】原 裕子
- 【権利者代理人】大渕 一志
- 【権利者代理人】加藤 澄恵
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.113-YAA(C23C) / P1651.121-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.55 -YAA(C23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7373671号発明「耐食性、耐かじり性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板、及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7373671号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5について訂正することを認める。
特許第7373671号の請求項1~4、6~10に係る特許を維持する。
特許第7373671号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7373671号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2020年(令和 2年) 9月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2019年 9月24日(KR)大韓民国 2020年 6月19日(KR)大韓民国)を国際出願日とする出願(特願2022-544033号。以下「本願」という。)であって、令和 5年10月25日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月 2日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 6年 4月12日に、請求項1~10(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である中川 賢治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 6年 4月12日 :特許異議の申立て
5月17日付け:手続補正指令(方式)
5月27日 :申立人による手続補正書の提出
8月 2日付け:取消理由通知
11月 5日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、下記第2で述べるとおり、令和 6年11月 5日提出の訂正請求書による訂正は、一部の請求項の削除のみであり、本件特許異議の申立てについての実質的な判断に影響を与えるものでなく、特許法第120条の5第5項ただし書に規定される、「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」といえるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 訂正請求について
1 請求の趣旨
令和 6年11月 5日になされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、特許第7373671号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項5を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1~10について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項5に対応する、本件訂正後の請求項5に係る発明については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正請求についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の請求項1~10に係る発明は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1~10に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」といい、総称して「本件発明」ともいう。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
素地鋼板;
前記素地鋼板の少なくとも一面上に備えられたZn-Mg-Al系めっき層;及び
前記素地鋼板と前記Zn-Mg-Al系めっき層との間に備えられたFe-Al系抑制層;を含み、
前記めっき層は、前記素地鋼板から拡散した鉄(Fe)を除いた成分を基準に、重量%で、Mg:4~10%、Al:5.1~25%、残部Zn及び不可避不純物を含み、
前記めっき層は、相分率で24~50%のMgZn2相を含み、
前記めっき層の少なくとも一部の表面にMgZn2相が露出しており、前記表面に露出したMgZn2相の平均円相当直径は5~50μmであり、
前記MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する、めっき鋼板。
【請求項2】
前記めっき層の全体面積に対するAl単相の相分率は1~15%である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項3】
前記めっき層の表面粗さ(Ra)は0.5~2.0μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項4】
前記めっき層の断面硬度は220~450Hvである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記抑制層は、Znを10%未満含むFe-Al系金属間化合物から構成され、前記Fe-Al系金属間化合物は、Fe2Al5、FeAl3、FeAl5のうち1種以上である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項7】
前記抑制層の厚さは0.02~2μmである、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項8】
素地鋼板の表面をショットブラスト処理して、表面粗さ(Ra):0.5~3.0μm、十点平均表面粗さ(Rz):1~20μm、ピークカウント数(Rpc):10~100(count/cm)の表面形状を有する素地鋼板を得る段階;
前記表面形状を有する素地鋼板を、重量%で、Mg:4~10%、Al:5.1~25%、残部Zn及び不可避不純物を含み、440~520℃に維持されるめっき浴に浸漬させて、溶融亜鉛めっきする段階;及び
前記めっき浴の湯面から冷却を開始してトップロール区間まで、3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階;を含む、めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記めっき浴への浸漬時間は1~6秒である、請求項8に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記ショットブラスト処理は、金属材ボールの直径が0.3~10μmのものを用いて、50~150mpmの運行速度で進行する鋼板の表面に、300~3,000kg/minの金属材ボールが衝突するように行われる、請求項9に記載のめっき鋼板の製造方法。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第7号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~10に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、2、4~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、また、本件訂正前の請求項8、9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
ア 申立理由3-1
本件明細書の表4には、実施例5~13及び比較例9、10のアウトバースト相の測定結果(L*)が開示されている。表4の比較例9及び10では、L*が18を超過しており、その特性が損なわれている。また、表4には、L*が8超の範囲内にありながら発明の課題を解決できた実施例は開示されていない。
してみれば、アウトバースト相に関して特段の規定が含まれておらず、アウトバースト相が多量に含まれることを許容している本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件明細書に記載の範囲を超えており、サポート要件違反に該当する。
よって、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由3-2
本件明細書の段落【0030】、【0044】の記載を考慮すると、「Al及びMgの含量をMgZn2とAlの2共晶ライン付近に位置するように決定する」ことは、本件訂正前の請求項1に係る発明に規定された特徴点「前記MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」を得るために必須の構成要素であると考えられる。
してみれば、「Al及びMgの含量は、Mg-Al-Zn三元系の状態図において、MgZn2とAlの2共晶ライン付近に位置するように決定する」との特定を有しない本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件明細書に記載の範囲を超えており、サポート要件違反に該当する。また、本件訂正前の請求項8~10に係る発明についても同様である。
よって、本件訂正前の請求項1~10に係る発明について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由3-3
本件明細書の表2及び表3に開示された実施例のMg含有量は4~6.9wt%である。また、表2及び表3に開示された実施例のAl含有量は10.5~21.5wt%である。しかしながら、めっき層の化学成分が当該範囲外にある場合に、発明の課題を解決可能であることを、当業者は理解することはできない。
してみれば、Al含有量及びMg含有量が、請求項1に記載の数値範囲の端値に近い場合について、本件明細書に開示のない本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件明細書に記載の範囲を超えており、サポート要件違反に該当する。また、本件訂正前の請求項8~10に係る発明についても同様である。
よって、本件訂正前の請求項1~10に係る発明について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(新規事項)
令和 5年 7月20日提出の手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は、本件訂正前の請求項8に係る発明のめっき鋼板の製造方法について、「素地鋼板の表面をショットブラスト処理して、表面粗さ(Ra):0.5~3.0μm、十点平均表面粗さ(Rz):1~20μm、ピークカウント数(Rpc):10~100(count/cm)の表面形状を有する素地鋼板を得る段階」との補正事項を含むものである。
しかしながら、少なくとも「十点平均表面粗さ(Rz)」との記載は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に含まれないものである。また、「Rz」が「十点平均表面粗さ」を意味することが、当初明細書等の記載から自明な事項とも認められない。
よって、本件訂正前の請求項8に係る発明について、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、同発明に係る特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(実施可能要件)
本件明細書の表1において、No.Jのめっき浴の組成は、Mg:5wt%、Al:15wt%、及びZn:85wt%であり、これらの合計は、105wt%となる。この記載事項によれば、本件明細書に開示されたデータは、その信頼性を損なっているため、本件明細書に記載の事項に従って、当業者が請求項に係る発明を実施することが可能であるとはいえない。
よって、本件訂正前の請求項1~10に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由6(明確性要件)
ア 申立理由6-1
本件訂正前の請求項4には、「めっき層の断面硬度は220~450Hvである」旨が規定されている。また、本件明細書の段落【0092】には、「めっき層の断面硬度をめっき層の厚さ内で測定可能な微小硬度測定装置を用いて測定した」と説明されている。 一方、当業者がめっき層の硬さを測定して、当該めっき層が本件訂正前の請求項4に係る発明の要件を充足しているか否かを判断するに際し、当業者はビッカース硬さを測定する際の試験力を本件訂正前の発明と同一にする必要がある。そうでないと、当業者は、本件訂正前の請求項4に係る発明のビッカース硬さの上下限値と、めっき層のビッカース硬さとを厳密に比較することができないからである。
しかしながら、本件明細書には、断面硬度を測定する際の試験力が開示されていないから、当業者は本件訂正前の請求項4に係る発明の発明範囲を特定することができない。
よって、本件訂正前の請求項4に係る発明について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(特許異議申立書の第33ページの「ク 理由6 明確性欠如(ア)請求項5の明確性について」における「請求項5」は、「請求項4」の誤記と認める。特許異議申立書の他の記載(第2ページの3(1)、第5ページの理由の要点、第7ページの3(3)、第35ページの3(5))についても同様。)
イ 申立理由6-2
本件訂正前の請求項5には、「めっき鋼板の、高速回転摩擦試験機を用いて30回以上繰り返し試験を行ったときに測定した、繰り返し摩擦係数は0.5~1.4である」旨が規定されている。また、本件明細書の段落【0092】には、「高速回転摩擦試験機を用いて30回繰り返し実験を行い、めっき層表面の繰り返し摩擦係数を測定した」と記載されている。
しかしながら、本件明細書には、高速回転摩擦試験機の構成、及び摩擦試験条件が開示されていない。例えば、一般に静摩擦係数と動摩擦係数とは異なる値となるが、本件明細書では、本件訂正前の請求項5に規定された摩擦係数が静摩擦係数及び動摩擦係数のいずれであるのか、説明されていない。また、摩擦係数の測定値には、試験片と接触させる相手材の材質及び表面状態、並びに試験片と相手材との相対速度及び試験力も影響を与え得るものである。
また、日本工業規格において、めっきの摩擦係数の測定方法や、めっきの摩擦係数の評価のために本件訂正前の発明において用いられる高速回転摩擦試験機は規格化されていないから、本件訂正前の請求項5に規定された「摩擦係数」は、本件訂正前の発明が属する技術分野における技術常識であるとはいえない。
よって、本件訂正前の請求項5に係る発明について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(特許異議申立書の第34ページの「ク 理由6 明確性欠如(イ)請求項6の明確性について」における「請求項6」は、「請求項5」の誤記と認める。特許異議申立書の他の記載(第2ページの3(1)、第5ページの理由の要点、第7ページの3(3)、第35ページの3(5))についても同様。)
(7)証拠方法
甲第1号証:特許第6365807号公報
甲第2号証:特開2006-283155号公報
甲第3号証:韓国公開特許第10-2015-0051840号公報及びその翻訳文
甲第4号証:韓国公開特許第10-2015-0073315号公報及びその翻訳文
甲第5号証:JIS B 0601:2013「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」、[online]、[令和6年4月8日検索・出力]、インターネット
<URL:https://kikakurui.com/b0/B0601-2013-01.html>
甲第6号証:JIS Z 2244:2009「ビッカース硬さ試験-試験方法」、[online]、[令和6年4月8日検索・出力]、インターネット
<URL:https://kikakurui.com/z2/Z2244-2009-01.html>
甲第7号証:JIS K 6378-2:2012「ライトコンベヤベルト-摩擦係数の求め方」、[online]、[令和6年4月8日検索・出力]、インターネット
<URL:https://kikakurui.com/k6/K6378-3-2013-01.html>
2 取消理由の概要
(1)令和 6年 8月 2日付けで通知した取消理由の概要
ア 取消理由1(明確性要件)
上記1(6)イの申立理由6-2と同旨
第5 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審において通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~4、6~10に係る特許を取り消すことはできない。また、請求項5が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項5に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載(請求項1、8、段落【0172】~【0217】)によれば、特に、表1-1、表1-4のNo.18Aのめっき鋼板に着目すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1鋼板発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1鋼板発明>
熱延炭素鋼板と、前記熱延炭素鋼板の表面に配され、Zn-Al-Mg合金層を含み、前記熱延炭素鋼板と前記Zn-Al-Mg合金層との間にAl-Fe合金層を有するめっき層と、を有するめっき熱延炭素鋼板であって、
前記Zn-Al-Mg合金層の断面において、MgZn2相の面積分率が66%、MgZn2相およびAl相の合計の面積分率が92%、かつZn-Al-MgZn2三元共晶組織の面積分率が0%であり、
前記めっき層が、質量%で、Zn:66%、Al:25%、Mg:8%、Ca:0.5%、Fe:0.5%、及び不純物からなる化学組成を有するめっき熱延炭素鋼板。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1鋼板発明とを対比する。
(ア)甲1鋼板発明における、「熱延炭素鋼板」はめっき層の素地となる鋼板であるから、本件発明1における「素地鋼板」に相当する。
(イ)本件発明1の「Zn-Mg-Al系めっき層」は、「Zn-Mg-Al系合金からなる」「めっき層」(本件明細書の段落【0023】)である。また、本件発明1の「Zn-Mg-Al系めっき層」における「Zn-Mg-Al系」や、甲1鋼板発明の「Zn-Al-Mg合金層」における「Zn-Al-Mg」が、少なくともZn、Mg及びAlを含有することを意味することは技術常識である。
そうすると、甲1鋼板発明における、「Zn-Al-Mg合金層」は、本件発明1における「Zn-Mg-Al系めっき層」に相当する。
(ウ)本件発明1の「Fe-Al系抑制層」は、「Fe-Al系金属間化合物を含む合金層」(本件明細書の段落【0039】)である。また、「Fe-Al系抑制層」における「Fe-Al系」や、甲1鋼板発明の「Al-Fe合金層」における「Al-Fe」が、少なくともFe及びAlを含有することを意味することは技術常識である。
そうすると、甲1鋼板発明の「Al-Fe合金層」と、本件発明1の「Fe-Al系抑制層」とは、「Fe-Al系合金層」である限りにおいて共通する。
(エ)甲1鋼板発明において、「熱延炭素鋼板の表面に」、「Zn-Al-Mg合金層を含み、前記熱延炭素鋼板と前記Zn-Al-Mg合金層との間にAl-Fe合金層を有するめっき層」が「配され」ることと、本件発明1において、「素地鋼板の少なくとも一面上に」、「Zn-Mg-Al系めっき層;及び前記素地鋼板と前記Zn-Mg-Al系めっき層との間に」「Fe-Al系抑制層」が「備えられ」ていることとは、「素地鋼板の少なくとも一面上に」、「Zn-Mg-Al系めっき層;及び前記素地鋼板と前記Zn-Mg-Al系めっき層との間に」「Fe-Al系合金層」が「備えられ」ている限りにおいて共通する。
(オ)甲1鋼板発明における、「めっき熱延炭素鋼板」は、本件発明1における「めっき鋼板」に相当する。
(カ)そうすると、本件発明1と甲1鋼板発明とは、
「素地鋼板;
前記素地鋼板の少なくとも一面上に備えられたZn-Mg-Al系めっき層;及び
前記素地鋼板と前記Zn-Mg-Al系めっき層との間に備えられたFe-Al系合金層;を含む、めっき鋼板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層との間に備えられた「Fe-Al系抑制層」が、「抑制層」として、「合金化を防止して耐食性を確保する役割を果たす」(本件明細書の段落【0063】)のに対し、甲1鋼板発明は、熱延炭素鋼板とZn-Al-Mg合金層との間に存在する「Al-Fe合金層」が、「合金化を防止して耐食性を確保する役割を果たす」のか不明である点。
<相違点2>
めっき層の化学組成について、本件発明1は、「Zn-Mg-Al系めっき層」が、「素地鋼板から拡散した鉄(Fe)を除いた成分を基準に、重量%で、Mg:4~10%、Al:5.1~25%、残部Zn及び不可避不純物を含」むのに対し、甲1鋼板発明は、「Zn-Al-Mg合金層を含み」、「Al-Fe合金層を有するめっき層」が、「質量%で、Zn:66%、Al:25%、Mg:8%、Ca:0.5%、Fe:0.5%、及び不純物からな」り、「Zn-Al-Mg合金層」の成分が不明である点。
<相違点3>
本件発明1は、「Zn-Mg-Al系めっき層」が、「相分率で24~50%のMgZn2相を含」むのに対し、甲1鋼板発明は、「Zn-Al-Mg合金層の断面において、MgZn2相の面積分率が66%」である点。
<相違点4>
本件発明1は、「前記めっき層の少なくとも一部の表面にMgZn2相が露出しており、前記表面に露出したMgZn2相の平均円相当直径は5~50μmであ」るのに対し、甲1鋼板発明は、「Zn-Al-Mg合金層」の表面において、「MgZn2相が露出しており、前記表面に露出したMgZn2相の平均円相当直径は5~50μm」であるのか不明である点。
<相違点5>
本件発明1は、「Zn-Mg-Al系めっき層」に含まれる「MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」のに対し、甲1鋼板発明は、「Zn-Al-Mg合金層の断面において、MgZn2相の面積分率が66%、MgZn2相およびAl相の合計の面積分率が92%、かつZn-Al-MgZn2三元共晶組織の面積分率が0%」ではあるものの、「MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」のか不明である点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、相違点5について検討する。
a 相違点5が実質的な相違点であるかについて
甲第1号証には、Zn-Al-Mg合金層の断面における、MgZn2相の面積分率、MgZn2相およびAl相の合計の面積分率を規定することは記載されているが、MgZn2相の内部に存在するAl単相の割合を規定することは記載されておらず、本願の優先権主張の日当時の技術常識を考慮しても、甲1鋼板発明が相違点5に係る発明特定事項を備えているか否かは不明と言わざるを得ないから、相違点5は実質的な相違点である。
b 相違点5の容易想到性について
上記aで述べたとおり、甲第1号証には、MgZn2相の内部に存在するAl単相の割合を規定することは記載されておらず、本願の優先権主張の日当時の技術常識を考慮しても、甲1鋼板発明において、上記相違点5に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲1鋼板発明において、上記相違点5に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
c 申立人の主張について
(a)申立人は特許異議申立書の第20ページにおいて、「甲第1号証の図2には、
・MgZn2相4の内部にAl相(α相)5及びAl相(β相)6が完全に含まれているか、又は
・MgZn2相4の内部にAl相(α相)5及びAl相(β相)6の一部が含まれている
様子が開示されている。」「ここで、本件特許の明細書段落0046には
「上記MgZn2相の内部に含まれたAl単相とは、MgZn2相の内部に完全に含まれたAl単相はもちろんのこと、MgZn2相の内部にAl単相の一部が含まれた相であってもよい。」と記載されている。当該記載によれば、甲第1号証の図2に開示されたAl相(α相)5及びAl相(β相)6は、MgZn2相の内部に存在するとみなされる。
また、甲第1号証には、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する実施例が開示されている(例えば表1-4の例A1参照)。」と主張する。
(b)以下、上記(a)の主張について検討する。
本件明細書の段落【0054】には、「一方、本発明で述べるAl単相とは、Alが主体である単独相を意味し、その相内にZn及びその他の成分が固溶して含まれていてもよい。本発明の一側面によると、上記Al単相は、重量%で、Al:40~70%、Zn:30~55%、及びその他の不可避不純物を含むことができる。あるいは、上記Al単相は、重量%で、Al:40~70%、Zn:30~55%、及びその他の不可避不純物を含み、AlとZnの合計含量は95~100%であってもよい。ここで、残部はMgであってもよいが、これはAl相周辺のめっき層に含まれるMg成分が検出される誤差範囲を含んでもよいことを意味する。」との記載があり、この記載によれば、本件発明1において、Al単相とは、Alが主体である単独相であって、Al単相に含まれるAlは、少なくとも40重量%であると解される。
(c)一方、甲第1号証の段落【0101】には、「次に、Al相について説明する。
Al相は、0~3%前後のZnを固溶するα相(通常のα相)と、70%超え~85%のZn相(η相)を含有し、通常のα相とZn相(η相)とが微細に分離したβ相(通常のβ相)が該当する(図2、図5~図6参照)。」との記載があり、この記載によれば、甲第1号証におけるAl相には、「70%超え~85%のZn相(η相)を含有し、通常のα相とZn相(η相)とが微細に分離したβ相」も含まれ得るものである。
また、段落【0104】には、「具体的には、α相のZn過飽和固溶体は、通常のα相とは異なり、Zn濃度3%超え~70%でZnを過飽和に固溶するAl相である。Zn過飽和固溶体のα相は、脆く、加工性を悪化させる相である。β相のZn過飽和固溶体は、70%超え~85%のZn相(η相)を含有し、Zn濃度3%超え~70%でZnを過飽和に固溶するα相(α相のZn過飽和固溶体)とZn相(η相)とが微細に分離したAl相である。β相のZn過飽和固溶体のβ相も、α相のZn過飽和固溶体を含むため、脆く、加工性を悪化させる相である。このように、Zn過飽和固溶体のAl相は、通常のα相とβ相の成分濃度と異なるAl相で、加工性を悪化させる相である。よって、本開示のAl相には該当しない。」との記載があり、「Zn濃度3%超え~70%でZnを過飽和に固溶するAl相」は、甲第1号証におけるAl相には該当しない。
(d)そして、甲第1号証には、Al相におけるα相とβ相の面積分率が記載されておらず、Al相が2相組織である態様も含まれるから、甲1鋼板発明におけるAl相が、本件発明1のAl単相(Alが主体である単独相)であるとは必ずしもいえない。また、仮に、甲第1号証におけるα相とβ相をそれぞれ単独相と解したとしても、β相は70%超え~85%のZn相を含有するものであり、β相はAlが主体である単独相であるとはいえないから、甲1鋼板発明において、Alが主体である単独相(α層)の面積分率は不明である。さらに、本件発明1におけるAl単相(Alが主体である単独相)が、AlにZn:30~55重量%固溶した相であるとすると、甲第1号証において、過飽和固溶体はAl相ではないから、本件発明1におけるAl単相は、甲1鋼板発明におけるAl相ではない。
(e)そうすると、「甲第1号証の図2に開示されたAl相(α相)5及びAl相(β相)6は、MgZn2相の内部に存在するとみなされる」からといって、甲1鋼板発明において、「MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」かどうかは不明である。また、このことは、甲第1号証の表1-4におけるNo.1A(MgZn2相の面積分率が59%、Al相の面積分率が9%の実施例)にも同様に当てはまる。
よって、申立人の上記(a)の主張は採用できない。
(イ)以上のとおりであるから、相違点1~4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1鋼板発明であるとはいえず、また、本件発明1は、甲1鋼板発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~4、6、7について
本件発明2~4、6、7は、本件特許の請求項1の記載を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウで述べたとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2~4、6、7についても同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。この点、甲第2号証に、めっき層のRaが1μm以下であることが記載されていても変わるものではない。
(4)まとめ
したがって、申立理由1(新規性)によっては、本件特許の請求項1、2、4、6、7に係る特許を取り消すことはできない。また、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(進歩性)
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載(請求項1、8、段落【0172】~【0217】)によれば、特に、表1-1、表1-4のNo.18Aのめっき鋼板の製造方法に着目すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1方法発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1方法発明>
Zn:66%、Al:25%、Mg:8%、Ca:0.5%、Fe:0.5%、及び不純物からなる化学組成のめっき層が得られるように、めっき浴を建浴し、
めっき原板として、熱延炭素鋼板を使用し、めっき工程直前に、脱脂、酸洗を実施し、
めっき浴温はめっき浴の融点(470℃)+20℃とし、めっき原板をめっき浴から引き上げ後、めっき浴の融点直上でワイピングを完了し、
ここで、めっき浴への浸漬時間は0.2秒とし、N2ガスワイピング圧力を調整し、めっき厚みが20μm(±1μm)となるようにめっき鋼板を作製し、めっき浴浸漬から、ワイピング完了までは、バッチ式めっき装置を高速運転し、1秒以内に完了し、ただちにN2ガスを吹き付け、めっき融点まで温度を降下させ、
めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度4(±1)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度15(±5)℃/秒とする冷却プロセスでめっき層を得る、めっき熱延炭素鋼板の製造方法。
(2)請求項8について
ア 対比
本件発明8と甲1方法発明とを対比する。
(ア)甲1方法発明における、「熱延炭素鋼板」はめっき層の素地となる鋼板であるから、本件発明8における「素地鋼板」に相当する。
(イ)甲1方法発明において、「めっき浴温」が「めっき浴の融点(470℃)+20℃」であるめっき浴から、「めっき原板を」「引き上げ」る前に、めっき原板がめっき浴に浸漬されており、また、めっき浴から、「めっき原板を」「引き上げ」た後に、めっき原板が溶融亜鉛めっきされていることは明らかであるから、甲1方法発明における、「めっき浴温はめっき浴の融点(470℃)+20℃とし、めっき原板をめっき浴から引き上げ」ることは、本件発明8における、「440~520℃に維持されるめっき浴に浸漬させて、溶融亜鉛めっきする段階」に相当する。
(ウ)甲1方法発明の「めっき原板をめっき浴から引き上げ後」、「めっき浴の融点直上でワイピングを完了し、
ここで、めっき浴への浸漬時間は0.2秒とし、N2ガスワイピング圧力を調整し、めっき厚みが20μm(±1μm)となるようにめっき鋼板を作製し、めっき浴浸漬から、ワイピング完了までは、バッチ式めっき装置を高速運転し、1秒以内に完了し、ただちにN2ガスを吹き付け、めっき融点まで温度を降下させ、
めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度4(±1)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度15(±5)℃/秒とする冷却プロセスでめっき層を得る」ことは、「めっき原板をめっき浴から引き上げ後」冷却することであるから、本件発明8の「めっき浴の湯面から冷却を開始してトップロール区間まで、3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階」とは、「溶融亜鉛めっきする段階」の後に、「冷却する段階;を含む」限りにおいて共通する。
(エ)甲1方法発明における、「めっき熱延炭素鋼板の製造方法」は、本件発明8における「めっき鋼板の製造方法」に相当する。
(オ)そうすると、本件発明1と甲1方法発明とは、
「素地鋼板を、440~520℃に維持されるめっき浴に浸漬させて、溶融亜鉛めっきする段階;及び
冷却する段階;を含む、めっき鋼板の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点6>
本件発明8は、「溶融亜鉛めっきする段階」の前に、「素地鋼板の表面をショットブラスト処理して、表面粗さ(Ra):0.5~3.0μm、十点平均表面粗さ(Rz):1~20μm、ピークカウント数(Rpc):10~100(count/cm)の表面形状を有する素地鋼板を得る段階」を有しているのに対し、甲1方法発明は、熱延炭素鋼板の表面をショットブラスト処理して、特定の表面形状を有する熱延炭素鋼板を得る段階を有していない点。
<相違点7>
めっき浴の化学組成について、本件発明8は、「重量%で、Mg:4~10%、Al:5.1~25%、残部Zn及び不可避不純物を含」むのに対し、甲1方法発明は、「Zn:66%、Al:25%、Mg:8%、Ca:0.5%、Fe:0.5%、及び不純物からなる化学組成のめっき層が得られるように」建浴する点。
<相違点8>
冷却する段階について、本件発明8は、「溶融亜鉛めっきする段階」の後に、「めっき浴の湯面から冷却を開始してトップロール区間まで、3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する」のに対し、甲1方法発明は、「めっき浴の融点直上でワイピングを完了し、
ここで、めっき浴への浸漬時間は0.2秒とし、N2ガスワイピング圧力を調整し、めっき厚みが20μm(±1μm)となるようにめっき鋼板を作製し、めっき浴浸漬から、ワイピング完了までは、バッチ式めっき装置を高速運転し、1秒以内に完了し、ただちにN2ガスを吹き付け、めっき融点まで温度を降下させ、
めっき浴の融点から420℃までの平均冷却速度4(±1)℃/秒(420℃以上での保持時間は5秒超)とし、420℃から250℃までの平均冷却速度15(±5)℃/秒とする冷却」する点。
イ 判断
(ア)相違点6について検討する。
a 相違点6が実質的な相違点であるかについて
甲第1号証には、熱延炭素鋼板の表面をショットブラスト処理して、特定の表面形状を有する熱延炭素鋼板を得ることは記載されておらず、本願の優先権主張の日当時の技術常識を考慮しても、甲1方法発明が相違点6に係る発明特定事項を備えているか否かは不明と言わざるを得ないから、相違点6は実質的な相違点である。
b 相違点6の容易想到性について
(a)甲第3号証の翻訳文には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
熱延鋼板を準備する段階;前記熱延鋼板の熱延スケールに亀裂(crack)を発生させる段階;前記熱延鋼板をショットブラスト処理して熱延スケールを除去して表面粗度を付与する段階;及び前記熱延スケールが除去されて表面粗度が付与された熱延鋼板を亜鉛-アルミニウム-マグネシウム系合金めっき浴に浸漬して亜鉛-アルミニウム-マグネシウムめっきする段階を含む加工性及びめっき密着性が優れた亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の製造方法。」
「【請求項6】
第1項において、前記ショットブラスト処理後前記熱延鋼板の表面粗度(Ra)が1.5~5.0μmである亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】本発明の1側面は、耐食性が優れた亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板及びこれを製造する方法を提供しようとすることである。」
「【0015】従来、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板を製造する工程は図1に示したところのようである。先に、熱間圧延された熱延鋼板をスケールブレーカー及び3~4個の酸洗組が連続的に配列されている設備を通過させて熱延スケールを除去した後水洗組を通過させて水洗した後還元加熱炉を経て溶融メッキ槽に浸漬して亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっきを行う。以後、場合によって前記溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき液が完全に凝固されない状態でめっき浴槽の上部に設置されている合金化熱処理炉(Galva annealing furnace)で加熱して合金化を行った後、冷却台で冷却する。
【0016】上述した工程を通じて亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板を製造することにおいて、熱延スケール除去のための酸洗設備が長くて、熱延スケール除去後熱延鋼板表面の形状を制御することができる方法がなくてその素材である熱延鋼板の表面粗度に依存するしかないという問題点があった。
【0017】さらに、上述したように、亜鉛(Zn)-アルミニウム(Al)-マグネシウム(Mg)合金めっき鋼板の表面が非常に美麗であるならば、加工の時スリップ(slip)現象によって条款やプレッシング作業の時問題が惹起されることができるし、溶融亜鉛(Zn)-アルミニウム(Al)-マグネシウム(Mg)合金めっき液は通常の溶融亜鉛めっき液に比べて所持鋼板との相互作用特性が薬害めっき密着性が劣位した問題があった。
【0018】これに、本発明者は酸洗工程を縮めるだけでなく、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板自らの物性には影響を及ぼさないのに加工性及びめっき密着性を確保することができる方案に対して深く研究した結果、本発明に至るようになった。」
「【0024】上記したことによって熱延鋼板表面に形成されている熱延スケールに亀裂を発生させた後、熱延鋼板の表面にショットボールを幅方向で均一に噴射することで熱延スケールを除去して、めっき層表面に表面粗度を付与する。これを‘ショットブラスト’という。」
「【0034】本発明の一具現例によると、前記ショットブラスト処理後前記熱延鋼板の平均表面粗度(Ra)は1.5~5.0μmで管理するのがスケール除去効果及び表面粗度管理側面で望ましい。平均表面粗度(Ra)が1.5μm未満の場合には表面に印加した圧縮残留応力の不足でめっき層内鉄の溶出量が低下されてめっき密着性が落ちて、一方平均表面粗度(Ra)が5μmを超過する場合にはめっき層内鉄の溶出量が過多でキャピトルガンマ上など加工性に悪逆香を与えるFe-Zn合金上が形成される問題点がある。」
(b)甲第4号証の翻訳文には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
熱延鋼板をショットブラスト処理して熱延スケールを除去するが、熱延鋼板に-100ないし-400MPaの圧縮残留応力を付与するショットブラスト処理段階;及び前記熱延鋼板を亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき浴に浸漬して亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっきするめっき段階を含む耐食性が優れた亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】本発明の1側面は、耐食性が優れた亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板及びこれを製造する方法を提供しようとすることである。
【0010】また、熱延鋼材表面の酸化スケール除去のための酸洗工程を縮めて、さらに、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の耐食性を向上させることができるめっき組織を確保することができる方案を提供しようとする。」
「【0027】従来、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板を製造する工程は図1に示したところのようである。先に、熱間圧延された熱延鋼板をスケールブレーカー(4)及び3~4個の酸洗組(6)が連続的に配列されている設備を通過させて熱延スケールを除去した後水洗組(7)を通過させて水洗して、還元加熱炉(9)を経て溶融メッキ槽(10)に浸漬することで亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっきを行った。
【0028】以後、場合によって前記溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき液が完全に凝固されない状態で溶融メッキ槽(10)の上部に設置されている合金化熱処理で(12)(Galva annealing furnace)で加熱して合金化を行った後、冷却台(13)から冷却した。
【0029】このような従来の溶融合金めっき工程を通じて亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板を製造することにおいて、熱延スケール除去のための酸洗設備が長い。また、熱延スケール除去後熱延鋼板表面の形状を制御することができる方法がなくて、その素材である熱延鋼板の表面粗度に依存しなければならないし、これにより素材厚さ差及び盤谷による溶融めっき付着量偏差が大きくなる問題点があった。
【0030】これに、本発明者は酸洗工程を縮めるだけでなく、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の耐食性を向上させることができるめっき組織を確保することができる方案を提供しようとする。以下、図2を参照して本発明の1側面である亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の製造方法に対して詳細に説明する。」
「【0037】上記したことによって熱延鋼板表面に形成されている熱延スケールに亀裂を発生させた後、熱延鋼板の表面をショットブラスト処理する段階を含む。前記ショットブラスト処理はショットボールを幅方向に均一に噴射して熱延鋼板の表面に存在するクラックが加えられた熱延スケールを除去することができる。このようなショットブラスチングされた熱延鋼板は表層部熱延スケールが約30~70%除去される効果を得ることができる。」
(c)すなわち、上記(a)に摘記した甲第3号証の翻訳文には、従来、熱延スケール除去のための酸洗設備が長くて、熱延スケール除去後熱延鋼板表面の形状を制御することができる方法がなくてその素材である熱延鋼板の表面粗度に依存するしかないという問題点があったため(段落【0016】)、酸洗工程を縮めるだけでなく、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板自らの物性には影響を及ぼさないのに加工性及びめっき密着性を確保することができる方案に対して深く研究した結果(段落【0018】)、熱延鋼板表面に形成されている熱延スケールに亀裂を発生させた後、熱延鋼板の表面にショットボールを幅方向で均一に噴射することで熱延スケールを除去して、めっき層表面に表面粗度を付与する‘ショットブラスト’により(段落【0024】)、熱延鋼板の平均表面粗度(Ra)を1.5~5.0μmで管理するのがスケール除去効果及び表面粗度管理側面で望ましい(段落【0034】)ことが分かったことが記載されている。
また、上記(b)に摘記した甲第4号証の翻訳文には、従来、熱延スケール除去のための酸洗設備が長く、また、熱延スケール除去後熱延鋼板表面の形状を制御することができる方法がなくて、その素材である熱延鋼板の表面粗度に依存しなければならないし、これにより素材厚さ差及び盤谷による溶融めっき付着量偏差が大きくなる問題点(段落【0029】)に対し、酸洗工程を縮めるだけでなく、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板の耐食性を向上させることができるめっき組織を確保することができる方案(段落【0030】)として、熱延鋼板表面に形成されている熱延スケールに亀裂を発生させた後、熱延鋼板の表面をショットブラスト処理する段階を含む方案(段落【0037】)を提供することが記載されている。
(d)一方、甲第1号証には、めっき工程直前に、脱脂、酸洗を実施することが記載されているものの(段落【0175】)、酸洗工程を短縮する動機付け、表面粗さ(Ra)、十点平均表面粗さ(Rz)及びピークカウント数(Rpc)を適正化する動機付けがないから、甲1方法発明において、熱延炭素鋼板の表面をショットブラスト処理して、表面粗さ(Ra)を1.5~5.0μmとすることが、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。仮に、熱延炭素鋼板の表面をショットブラスト処理して、表面粗さ(Ra)が1.5~5.0μmになったとしても、その際に、十点平均表面粗さ(Rz)が1~20μm、ピークカウント数(Rpc)が10~100(count/cm)の表面形状となるかは不明である。
したがって、甲1方法発明において、上記相違点6に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(イ)以上のとおりであるから、相違点7、8について検討するまでもなく、本件発明8は、甲1方法発明及び甲第3、4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明9について
本件発明9は、本件特許の請求項8の記載を引用するものであり、本件発明8の発明特定事項をすべて備えるものであるが、上記(2)ウで述べたとおり、本件発明8が、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明9についても同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第3、4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
したがって、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項8、9に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)申立理由3-1
ア 本件明細書の段落【0010】、【0060】及び【0097】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、耐食性、耐かじり性、加工性及び表面品質の一つ以上について、より優れた特性を確保することができるめっき鋼板、及びその製造方法を提供すること」であると認められる。
イ 一方、本件明細書には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0040】
一方、上記めっき層は、相分率で24~50%のMgZn2相を含むことができる。このとき、上記MgZn2相の相分率は、X線回折分析法(XRD、X-ray Diffraction)から測定される各相(Phase)の回折ピークの積分強度を計算して得られた相対重量比を換算して測定することができる。本発明の試片測定に使用した器具は、Rigaku D/Max 2200である。また、精密な相分率の測定方法であるリートベルト(Rietveld)測定法及び状態図計算プログラムを用いて相対重量比を検証することもできる。
【0041】
上記めっき層が相分率24~50%のMgZn2相を含むことは、めっき浴中のAl及びMg含量に起因するものであり、例えば、Mg含量が4.0%より低い場合、24%未満のMgZn2相が生成され得る。MgZn2相は、他の合金相からなる組織に比べて硬度が相対的に高いため、MgZn2相の相分率を制御することによって、めっき層の硬度を調節することができる。MgZn2相の相分率が24%未満であると、めっき層の硬度が220Hv未満となり、30回以上の繰り返し摩擦係数が大幅に増加するという問題が発生する可能性がある。一方、上記めっき層内のMgZn2相分率は、より好ましくは24~49.0%の範囲であってもよい。
【0042】
一方、MgZn2相の相分率が50%を超えると、めっき層内の硬度が大きいMgZn2相が不均一かつ粗大に凝集する。よって、均一な加工性を確保するZn単相及びZn-Al-MgZn2三元共晶組織が均一に分布されず、加工時にクラックが発生する可能性があり、このようなクラックによって腐食が伝播しやすく、耐食性が急激に低下する恐れがある。
【0043】
このように、めっき層内のMgZn2相の相分率を24~50%の範囲に制御することにより、素材の物性面で耐かじり性に影響を及ぼす因子の一つであるめっき層の硬度を適正範囲に制御することができる。」
(イ)「【0051】
したがって、めっき層のMgZn2相に対するAl単相の相分率を1%以上確保することにより、めっき層組織における骨格役割を果たし、これによりMgのイオン化速度を適切に調節して機械的な構造を維持することができ、優れた耐食性を確保することができる。すなわち、Al単相は、MgZn2相や、二元相、三元相に比べて腐食環境に溶出されず、元の形態を維持し、他の腐食生成物に比べて緻密な構造を有している。したがって、腐食が多く進み、めっき層の全てが腐食生成物化する場合に、腐食生成物を緻密にして骨格を維持する役割を果たす。よって、Al単相が1%以上に維持される場合にのみ、骨格維持の役割が期待できる。
【0052】
これに対し、めっき層のMgZn2相に対するAl単相の相分率が30%を超えると、Al単相によって腐食生成物を緻密にして外部腐食環境から遮断する効果及び骨格を維持する効果については良いが、MgZn2の分解速度を低下させ、かつAl単相は犠牲防食性がないことから、めっき層の犠牲防食性が低下する可能性がある。また、Al単相は、めっき層内の他の相に比べて硬度も低いため、めっき層の摩擦係数を上昇させる可能性がある。さらに、この場合、多くの観察例において共通的に、Al単相を含むMgZn2の結晶サイズが相対的に粗大に成長する可能性がある。この場合、粗大となったMgZn2-Al共晶組織が表面不均一をもたらし、外観上の品質を阻害し、加工時に上記共晶組織に応力が集中して破損が発生するという問題を招く可能性がある。したがって、好ましくは、上記Al単相の相分率は、1~15%の範囲であることが表面品質と加工割れの面で好ましい。より好ましくは、上記Al単相の相分率の下限は2%であってもよく、上記Al単相の相分率の上限は9%であってもよい。
【0053】
本発明の一側面によると、上記MgZn2相の内部に含まれた上記Al単相は、以下のいずれか一方の場合に該当することができる。
・MgZn2相の内部に含まれ、MgZn2相により完全に囲まれた、Al単相
・一部はMgZn2相の内部に含まれ、一部はMgZn2相の外部に突出した、Al単相」
(ウ)「【0069】
また、本発明の一側面によると、めっき浴の温度は440~520℃に維持して溶解を行う。めっき浴の温度が高いほど、めっき浴内の流動性確保及び均一な組成形成が可能であり、浮遊ドロスの発生量を減少させることができる。めっき浴の温度が440℃未満であると、インゴットの溶解が非常に遅く、めっき浴の粘性が大きくなり、優れためっき層の表面品質を確保しにくい可能性がある。これに対し、めっき浴の温度が520℃を超えると、Zn蒸発によるAsh性欠陥がめっき表面に誘発されるという問題が発生し得るだけでなく、Feの拡散が過度に進行してアウトバースト相が過剰に形成される可能性がある。すなわち、上述した素地鋼板と接する層の界面線をめっき層の表面側に5μm離隔させたとき、上記離隔した線と交差するアウトバースト相が占める長さが上記離隔した線の長さに対して10%を超え、耐食性低下の要因となる可能性がある。このとき、上記めっき浴の温度は、めっき浴の融点よりも20~80℃高い温度に維持することができる。
【0070】
本発明の一側面によると、めっき浴に素地鋼板を浸漬させた後の入浴時間は1~6秒の範囲であってもよい。また、本発明の一側面によると、めっき浴の湯面から冷却を開始してトップロール区間まで、3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階を含むことができる。このとき、めっき浴の湯面からトップロール区間までの冷却速度が3℃/s未満であると、MgZn2組織が過度に粗大に発達して、めっき層表面の屈曲が激しくなる可能性がある。また、Zn-MgZn2二元系あるいはAl-Zn-MgZn2三元系共晶組織が広く形成され、均一な耐食性及び加工性の確保において不利になる可能性がある。これに対し、めっき浴の湯面からトップロール区間までの冷却速度が30℃/sを超えると、溶融めっきの過程中、液相から固相に固化し始め、液相が全て固相に変化する間の温度区間で急激な凝固が起こるようになり、このため、MgZn2組織のサイズが過度に小さく形成され、局部的に均一でない耐食性の結果を示す可能性がある。また、Fe-Zn-Al相の均一な成長が不十分であり、めっき層と素地鋼板の界面に集中して加工性が低下する可能性があり、過度な冷却速度のために窒素使用量が増加し、製造コストが増加する可能性がある。」
(エ)「【0073】
本発明の一側面によると、ショートブラスト処理によって、素地鋼板がRa:0.5~3.0μm、Rz:1~20μm、Rpc:10~100(count/cm)の表面形状を有するように制御することによって、素地鋼板の表面における反応性を活性化させて、めっき層の凝固時に凝固核の生成をより均一に形成されることができる。したがって、表面品質に優れためっき鋼板が得られるだけでなく、表面に均一な組織の形成を通じて加工時に局部的にクラックの起点が形成されることを防止して、優れた加工性を確保することもできる。」
ウ 上記イ(ア)の記載によれば、めっき層が相分率で24~50%のMgZn2相を含むことで、耐食性、耐かじり性及び加工性に優れためっき鋼板が提供でき、また、上記イ(イ)の記載によれば、めっき層のMgZn2相に対するAl単相の相分率を1~30%とすることで、耐食性、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板が提供できることが理解できる。
エ そして、本件発明1~4、6、7は、「めっき層は、相分率で24~50%のMgZn2相を含」むこと、及び「前記MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」ことを発明特定事項とするものであるから、本件発明1~4、6、7は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。
オ 申立人は特許異議申立書の第29ページにおいて、本件明細書の表4には、実施例5~13及び比較例9、10のアウトバースト相の測定結果(L*)が開示されている。表4の比較例9及び10では、L*が18を超過しており、その特性が損なわれている。また、表4には、L*が8超の範囲内にありながら発明の課題を解決できた実施例は開示されていない。
してみれば、アウトバースト相に関して特段の規定が含まれておらず、アウトバースト相が多量に含まれることを許容している本件発明1~7は、本件明細書に記載の範囲を超えており、サポート要件違反に該当する。
よって、本件発明1~7について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張する。
カ しかしながら、比較例9、10は、L*に加えて、本件発明1の発明特定事項であるMa*(めっき層におけるMgZn2相の相分率[%])及びMb*(めっき層のMgZn2相全体の断面積に対してMgZn2相の内部に存在するAl単相の面積分率[%])を満たさない比較例であるから、L*が10%超であることのみによって、比較例となったものではない。また、段落【0033】の「抑制層は連続的に形成されていることが好ましい。すなわち、上記抑制層が連続的に形成されているとは、アウトバースト相が形成されていない場合を意味する。」との記載によれば、アウトバースト相が形成されないことは、好ましい態様に過ぎない。
そして、上記エで述べたとおり、L*が10以下であるか否かに関わらず、本件発明1~4、6、7は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。
キ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)申立理由3-2
ア 申立人は特許異議申立書の第29~31ページにおいて、本件明細書の段落【0030】、【0044】の記載を考慮すると、「Al及びMgの含量をMgZn2とAlの2共晶ライン付近に位置するように決定する」ことは、本件発明1に規定された特徴点「前記MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」を得るために必須の構成要素であると考えられる。
してみれば、「Al及びMgの含量は、Mg-Al-Zn三元系の状態図において、MgZn2とAlの2共晶ライン付近に位置するように決定する」との特定を有しない本件発明1~7は、本件明細書に記載の範囲を超えており、サポート要件違反に該当する。また、本件発明8~10についても同様である。
よって、本件発明1~10について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張する。
イ しかしながら、本件発明1は、「前記MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」ことを発明特定事項とするものであり、また、本件発明1~4、6、7が、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(1)アの課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、上記(1)エで述べたとおりである。
ウ 本件発明8~10については、上記(1)イ(ウ)の記載によれば、めっき浴の温度は440~520℃に維持して溶解を行うことで、耐食性及び表面品質に優れためっき鋼板の製造方法が提供でき、めっき浴の湯面から冷却を開始してトップロール区間まで、3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却することで、耐食性及び加工性に優れためっき鋼板の製造方法が提供でき、上記(1)イ(エ)の記載によれば、ショートブラスト処理によって、素地鋼板がRa:0.5~3.0μm、Rz:1~20μm、Rpc:10~100(count/cm)の表面形状を有するように制御することで、加工性及び表面品質に優れためっき鋼板の製造方法が提供できることが理解できる。
エ そして、本件発明8~10は、「素地鋼板の表面をショットブラスト処理して、表面粗さ(Ra):0.5~3.0μm、十点平均表面粗さ(Rz):1~20μm、ピークカウント数(Rpc):10~100(count/cm)の表面形状を有する素地鋼板を得る」こと、めっき浴の温度を440~520℃に維持すること、「めっき浴の湯面から冷却を開始してトップロール区間まで、3~30℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する」ことを発明特定事項とするものであるから、本件発明8~10は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(1)アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。
オ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由3-3
ア 申立人は特許異議申立書の第31ページにおいて、本件明細書の表2及び表3に開示された実施例のMg含有量は4~6.9wt%である。また、表2及び表3に開示された実施例のAl含有量は10.5~21.5wt%である。しかしながら、めっき層の化学成分が当該範囲外にある場合に、発明の課題を解決可能であることを、当業者は理解することはできない。
特に、Al含有量及びMg含有量が、請求項1に記載の数値範囲の端値に近い場合、Al含有量及びMg含有量は、MgZn2とAlの2共晶ラインから大きく乖離する。この場合、請求項1に記載の特徴点「前記MgZn2相の内部に、Al単相が、MgZn2相全体の断面積に対して1~30%の割合で存在する」が得られない蓋然性が高い。
したがって、本件発明1~7は、本件明細書に記載の範囲を超えており、サポート要件違反に該当する。また、本件発明8~10についても同様である。
よって、本件発明1~10について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張する。
イ しかしながら、本件発明1~4、6~10が、上記(1)アの課題を解決できると認識できる範囲のものであることは、上記(1)、(2)で述べたとおりである。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、申立理由3(サポート要件)によっては、本件特許の請求項1~4、6~10に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(新規事項)
(1)ア 申立人は特許異議申立書の第32~33ページにおいて、令和 5年 7月20日提出の手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は、本件発明8のめっき鋼板の製造方法について、「素地鋼板の表面をショットブラスト処理して、表面粗さ(Ra):0.5~3.0μm、十点平均表面粗さ(Rz):1~20μm、ピークカウント数(Rpc):10~100(count/cm)の表面形状を有する素地鋼板を得る段階」との補正事項を含むものである。
しかしながら、少なくとも「十点平均表面粗さ(Rz)」との記載は、当初明細書等に含まれないものである。また、「Rz」が「十点平均表面粗さ」を意味することが、当初明細書等の記載から自明な事項とも認められない。
よって、本件発明8について、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない旨主張する。
イ しかしながら、当初明細書等の請求項9に「Rz」が記載されている以上、技術常識を踏まえると、「Rz」が「最大高さ粗さ」又は「十点平均粗さ」であることは、当初明細書等に記載されているに等しい事項であるといえる。
そして、「十点平均表面粗さ(Rz)」との記載は、表面粗さにおける、「最大高さ粗さ」又は「十点平均粗さ」の一方を選択したに過ぎないから、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)まとめ
したがって、申立理由4(新規事項)によっては、本件特許の請求項8に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由5(実施可能要件)
(1)ア 申立人は特許異議申立書の第33ページにおいて、本件明細書の表1において、No.Jのめっき浴の組成は、Mg:5wt%、Al:15wt%、及びZn:85wt%であり、これらの合計は、105wt%となる。この記載事項によれば、本件明細書に開示されたデータは、その信頼性を損なっているため、本件明細書に記載の事項に従って、当業者が請求項に係る発明を実施することが可能であるとはいえない。
よって、本件発明1~10について、発発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない旨主張する。
イ しかしながら、めっき浴の組成の合計が105wt%であることはありえないし、表1と表2とを合わせみれば、No.Jについて、表1のめっき浴の組成に何らかの誤記があることは明らかである。
そうすると、本件明細書に開示されたデータは、その信頼性を損なっているとはいえず、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~4、6~10について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)まとめ
したがって、申立理由5(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~4、6~10に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由6(明確性要件)
(1)申立理由6-1
ア 申立人は特許異議申立書の第33~34ページにおいて、本件発明4には、「めっき層の断面硬度は220~450Hvである」旨が規定されている。また、本件明細書の段落【0092】には、「めっき層の断面硬度をめっき層の厚さ内で測定可能な微小硬度測定装置を用いて測定した」と説明されている。 一方、当業者がめっき層の硬さを測定して、当該めっき層が本件発明4の要件を充足しているか否かを判断するに際し、当業者はビッカース硬さを測定する際の試験力を本件発明と同一にする必要がある。そうでないと、当業者は、本件発明4のビッカース硬さの上下限値と、めっき層のビッカース硬さとを厳密に比較することができないからである。 しかしながら、本件明細書には、断面硬度を測定する際の試験力が開示されていないから、当業者は本件発明4の発明範囲を特定することができない旨主張する。
(特許異議申立書の第33ページの「ク 理由6 明確性欠如(ア)請求項5の明確性について」における「請求項5」は、「請求項4」の誤記と認める。特許異議申立書の他の記載(第2ページの3(1)、第5ページの理由の要点、第7ページの3(3)、第35ページの3(5))についても同様。)
イ 上記アのとおり、本件明細書の段落【0092】には、断面硬度の測定方法について、「めっき層の断面硬度をめっき層の厚さ内で測定可能な微小硬度測定装置を用いて測定した」と説明されている。
そして、断面硬度の測定に際し、当業者であれば、技術常識に基づいて適正な試験力を選択すると解されるから、本件明細書に断面硬度を測定する際の試験力が開示されていないとしても、ビッカース硬さの比較は可能であるから、本件特許の請求項4の記載は明確である。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)申立理由6-2及び取消理由1
上記第2及び第3で述べたとおり、本件訂正により請求項5が削除されたため、請求項5に係る特許に対する申立理由6-2及び取消理由1は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(特許異議申立書の第34ページの「ク 理由6 明確性欠如(イ)請求項6の明確性について」における「請求項6」は、「請求項5」の誤記と認める。特許異議申立書の他の記載(第2ページの3(1)、第5ページの理由の要点、第7ページの3(3)、第35ページの3(5))についても同様。)
(3)まとめ
したがって、申立理由6(明確性要件)によっては、本件特許の請求項4に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審において通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~4、6~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4、6~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項5が本件訂正により削除されたことにより、申立人による請求項5に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700339