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特許異議申立

2021-701115

蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法

審判番号
2021-701115
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-148589
登録番号
6879109
請求日
2021年11月30日
審決日
2022年09月28日
公報発行日
2023年01月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】凸版印刷株式会社
  • 【権利者代理人】恩田 誠
  • 【権利者代理人】恩田 博宣
  • 【異議申立人】林 紀美江
  • 【異議申立人】佐藤 徹
審判長/審判官
  • 審判長 河本 充雄
  • 審判官 金 公彦
  • 審判官 関根 崇
分類
P1651.113-YAA(C23C) / P1651.121-YAA(C23C) / P1651.161-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.841-YAA(C23C) / P1651.851-YAA(C23C) / P1651.853-YAA(C23C) / P1651.854-YAA(C23C) / P1651.855-YAA(C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条の2、特許法第126条第7項、特許法第2条第3項第1号、特許法第29条第2項
データ出所
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特許第6879109号発明「蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6879109号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6、7、8について訂正することを認める。 特許第6879109号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6879109号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年7月31日に出願され、令和3年5月7日にその請求項1~8に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年6月2日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年11月30日に特許異議申立人林 紀美江(以下、「申立人林」という。)により甲第1~5号証を証拠方法として特許異議の申立がされ、同年12月1日に特許異議申立人佐藤 徹(以下、「申立人佐藤」という。)により甲第1~18号証を証拠方法として特許異議の申立がされ、令和4年3月23日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月24日に特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書」という。)の提出及び訂正の請求がされ、同年7月5日に申立人林より意見書(以下、「林意見書」という。)が提出され、同年同月21日に申立人佐藤より甲第19号証を添付して意見書(以下、「佐藤意見書」という。)が提出されたものである。 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 特許権者が求める訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度は、2.0個/mm2以下である」との記載を、 「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度は、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下である」に訂正する(請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2の 「複数の前記介在物のなかで、マグネシウムが主成分である前記介在物が第1介在物であり、前記最大寸法が1μm以上である前記第1介在物の密度は、前記介在物の密度に対して50%以上である」との記載を、 「前記金属板の表面および前記金属板の内部に含まれる複数の前記介在物のなかで、マグネシウムが主成分である前記介在物が第1介在物であり、前記最大寸法が1μm以上である前記第1介在物の密度は、前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度に対して50%以上である」に訂正する(請求項2を直接的または間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6の 「前記金属板の厚さが15μm以上40μm以下であり、前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法が10μm以下であり、かつ、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、2.0個/mm2以下となるように、前記母材を圧延する」との記載を、 「前記金属板の厚さが15μm以上40μm以下であり、前記表面と対向する平面視において、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さである前記介在物の最大寸法が10μm以下であり、かつ、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下となるように、前記母材を圧延する」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7の 「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法が、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、2.0個/mm2以下となる金属板を形成する」との記載を、 「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さである前記介在物の最大寸法が、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下となる金属板を形成する」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項8の 「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法が、10μm以下であり、前記平面視における前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、2.0個/mm2以下である金属板を形成する」との記載を、 「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さである前記介在物の最大寸法が、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下となる金属板を形成する」に訂正する。 (6)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2~5は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用するものであり、本件訂正前の請求項1~5は一群の請求項である。 また、本件訂正前の請求項6、7及び8はいずれも独立請求項であり、訂正事項1~5に係る特許請求の範囲の訂正は、前記一群の請求項1~5と、請求項6、7及び8に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び3~5について 訂正事項1に係る訂正のうち、「前記介在物の最大寸法は、」の後に「前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、」との記載を追記する訂正、及び、訂正事項3~5に係る訂正のうち、「前記介在物の最大寸法が」の前に「前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さである」との記載を追記する訂正は、いずれも、「介在物の最大寸法」の意味が明らかでなかったのを、願書に添付した明細書の段落【0034】の記載に基づいて、「介在物の最大寸法」が「介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さ」であることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項1及び3~5に係る訂正のうち、「2.0個/mm2以下」の前に「0.03個/mm2以上」との記載を追記する訂正は、いずれも、願書に添付した明細書の段落【0092】~【0105】の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び6~8における「介在物の密度」の下限を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1及び3~5に係る訂正は、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2に係る訂正のうち、「複数の前記介在物」の前に「前記金属板の表面および前記金属板の内部に含まれる」との記載を追記する訂正は、ここにおける「前記介在物」の意味が明らかでなかったのを、願書に添付した明細書の段落【0024】の記載に基づいて、「前記介在物」が「前記金属板の表面および前記金属板の内部に含まれる」「介在物」であることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項2に係る訂正のうち、「前記介在物の密度に対して50%以上である」の前に「前記最大寸法が1μm以上である」との記載を追記する訂正は、ここにおける「前記介在物」の意味が明らかでなかったのを、願書に添付した明細書の段落【0041】の記載に基づいて、「前記介在物」が「前記最大寸法が1μm以上である」「介在物」であることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 なお、本件においては、本件訂正前の全ての請求項1~8について特許異議の申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項所定の独立特許要件は課されない。 (3)佐藤意見書について ア 申立人佐藤の佐藤意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 (ア)訂正事項1における「0.03個/mm2」という数値の根拠は、願書に添付した明細書の段落【0105】の実施例3の介在物Bの密度にしかないが、前記段落【0105】及び【0094】によれば、実施例3における最大寸法が1μm以上である介在物の密度(以下、単に「介在物の密度」ということがある。)は1.4個/mm2であり、そのなかで、Alを主成分とする介在物Bの密度が0.03個/mm2なのであるから、訂正事項1において「0.03個/mm2以上」との記載を追記する訂正は、「介在物の密度」の下限値をより広く訂正しようとするものであり、新たな技術的事項を導入するものである(1ページ11行~2ページ22行)。 (イ)願書に添付した明細書の段落【0034】の記載からは、「楕円を当てはめる」ことの意味が認定できないし、願書に添付した明細書には、だ円が「外接円」であることも記載も示唆もされていないから、訂正事項1において「前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、」との記載を追記する訂正は新たな技術的事項を導入するものである(2ページ23行~3ページ27行)。 (ウ)したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正とはいえないので、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合しないし、だ円に関する特定事項が変更され、又は拡張されるものであるから、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定にも適合しない(3ページ28行~4ページ18行)。 イ そこで、以下、前記ア(ア)~(ウ)の主張について検討する。 (ア)願書に添付した明細書の段落【0092】~【0105】によれば、実施例1~4における「介在物の密度」はいずれも0.03個/mm2以上であるといえるから、訂正事項1において「0.03個/mm2以上」との記載を追記する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえる。 また、もともと、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては「介在物の密度」の下限値は特定されておらず、前記訂正は、もともと限定されていなかった「介在物の密度」の下限値を限定するものであるから、「介在物の密度」の下限値をより広く訂正しようとするものでもない。 すると、訂正事項1において「0.03個/mm2以上」との記載を追記する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえるので、前記ア(ア)の主張は採用できない。 (イ)願書に添付した明細書の段落【0034】の記載は、以下のとおりである(当審注:下線は当審が付与した。)。 「【0034】 各介在物12の最大寸法Lmaxは、各介在物12を楕円と見なしたときの長軸の長さである。各介在物12の画像を撮像し、画像から抽出した複数の点であって、介在物12の輪郭を構成する点に楕円を当てはめることによって、各介在物12の平面構造を楕円に近似することができる。これにより、介在物12の最大寸法Lmaxとして介在物12における長軸の長さと、長軸に直交する短軸の長さとを得ることができる。なお、長軸の長さと短軸の長さとの平均値が、各介在物12における平均寸法である。」 前記段落【0034】の記載によれば、介在物の最大寸法は、各介在物をだ円と見なしたときの長軸の長さであり、各介在物の画像を撮像し、画像から抽出した複数の点であって、介在物の輪郭を構成する点にだ円を当てはめることによって、各介在物の平面構造をだ円に近似することができ、これにより、介在物の最大寸法として介在物における長軸の長さを得るものである。 そして、前記だ円が、各介在物の平面構造を当該だ円に近似することにより、介在物の最大寸法を当該だ円の長軸の長さとして求めるものであることからみれば、前記だ円は、各介在物の平面構造に最も近似した大きさ及び形状のだ円であり、当業者は、そのようなだ円として、介在物の輪郭を構成する点を通り前記輪郭に外接するだ円であって、長軸が最も短いだ円を認識できるものである。 すると、願書に添付した明細書に、前記だ円が「外接円」であることが記載されていないとしても、当業者は、前記だ円が、介在物の輪郭を構成する点を通り前記輪郭に外接するだ円であって、長軸が最も短いだ円であることを認識することができるから、訂正事項1において「前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、」との記載を追記する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項から導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないので、前記ア(イ)の主張も採用できない。 (ウ)前記(ア)、(イ)によれば、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえるし、訂正事項1に係る訂正により、前記だ円に関する特定事項が変更され、又は拡張されるものでもないから、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するので、前記ア(ウ)の主張も採用できない。 ウ よって、申立人佐藤の前記ア(ア)~(ウ)の主張はいずれも採用できない。 3 小括 以上のとおりであるので、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、訂正後の請求項〔1~5〕、6、7及び8について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 鉄‐ニッケル系合金製の金属板のエッチングによって複数の貫通孔を有した蒸着マスクを製造するために用いられる前記金属板を備える蒸着マスク用基材であって、 前記金属板は、前記金属板の表面および前記金属板の内部に介在物を含み、 前記金属板の厚さは、15μm以上40μm以下であり、 前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下であり、 前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度は、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下である 蒸着マスク用基材。 【請求項2】 前記金属板の表面および前記金属板の内部に含まれる複数の前記介在物のなかで、マグネシウムが主成分である前記介在物が第1介在物であり、 前記最大寸法が1μm以上である前記第1介在物の密度は、前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度に対して50%以上である 請求項1に記載の蒸着マスク用基材。 【請求項3】 前記最大寸法が1μm以上である全ての前記介在物における原子の総質量において、マグネシウムの割合がアルミニウムの割合よりも大きい 請求項2に記載の蒸着マスク用基材。 【請求項4】 単位領域において、前記最大寸法が1μm以上である前記第1介在物における前記平面視での総面積が、前記最大寸法が1μm以上である全ての前記介在物における前記平面視での総面積の45%以上である 請求項2または3に記載の蒸着マスク用基材。 【請求項5】 複数の前記介在物のなかで、アルミニウムが主成分である前記介在物が第2介在物であり、 単位領域において、前記最大寸法が1μm以上である前記第2介在物における前記平面視での総面積が、前記最大寸法が1μm以上である全ての前記介在物における前記平面視での総面積の25%以下である 請求項2から4のいずれか一項に記載の蒸着マスク用基材。 【請求項6】 鉄‐ニッケル系合金製の金属板のエッチングによって複数の貫通孔を有した蒸着マスクを製造するために用いられる前記金属板を備えた蒸着マスク用基材の製造方法であって、 介在物を含む鉄‐ニッケル系合金製の母材を圧延して、前記金属板の表面および前記金属板の内部に前記介在物を含む前記金属板を形成する圧延工程と、 前記圧延工程によって形成された前記金属板を焼鈍する加熱工程とを含み、 前記圧延工程は、 前記金属板の厚さが15μm以上40μm以下であり、前記表面と対向する平面視において、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さである前記介在物の最大寸法が10μm以下であり、かつ、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下となるように、前記母材を圧延する 蒸着マスク用基材の製造方法。 【請求項7】 鉄‐ニッケル系合金製の金属板のエッチングによって複数の貫通孔を有した蒸着マスクを製造する蒸着マスクの製造方法であって、 介在物を含む鉄‐ニッケル系合金製の母材の圧延によって、前記金属板の表面および前記金属板の内部に前記介在物を含む前記金属板を形成する板形成工程と、 前記金属板の前記表面にレジストマスクを形成し、前記レジストマスクを用いたエッチングによって前記貫通孔を形成するエッチング工程と、を含み、 前記板形成工程は、 前記金属板の厚さが、15μm以上40μm以下であり、 前記表面と対向する平面視において、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さである前記介在物の最大寸法が、10μm以下であり、 前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下となる金属板を形成する 蒸着マスクの製造方法。 【請求項8】 鉄‐ニッケル系合金製の金属板のエッチングによって製造された蒸着マスクであって、複数の貫通孔を有した前記蒸着マスクを用いて形成される複数の層を備える表示装置の製造方法であって、 介在物を含む鉄‐ニッケル系合金製の母材の圧延によって、前記金属板の表面および前記金属板の内部に前記介在物を含む前記金属板を形成する板形成工程と、 前記金属板の前記表面にレジストマスクを形成し、前記レジストマスクを用いたエッチングによって前記貫通孔を形成することによって前記蒸着マスクを形成するマスク形成工程と、 前記蒸着マスクを用いた蒸着によって蒸着対象に複数の前記層を形成する蒸着工程と、を含み、 前記板形成工程は、 前記金属板の厚さが、15μm以上40μm以下であり、 前記表面と対向する平面視において、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さである前記介在物の最大寸法が、10μm以下であり、 前記平面視における前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下である金属板を形成する 表示装置の製造方法。」 第4 特許異議申立理由の概要 1 申立人林による特許異議申立理由 ここでいう甲第1号証~甲第5号証は、申立人林が提出した、後記(5)に記載された甲第1号証~甲第5号証である。 (1)特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について ア 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び6~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。 イ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、蒸着対象に形成される層における寸法の精度を高めるために、金属板内の介在物を圧延工程や鋳造工程によってどのように制御したか、具体的な条件が一切記載されておらず、特許請求の範囲で特定されるものをそれ以外のものと区別して生産するための具体的な製造条件が全く記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない。 (3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、どのような圧延条件により、金属板を、表面と対向する平面視において、介在物の最大寸法が10μm以下であり、前記平面視における前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が2.0個/mm2以下であるものとしたのかが記載されていないし、実施例と比較例とでどのように圧延条件を変更したのかも記載されていないので、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載だけでは、本件特許に係る発明の課題を解決することができないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 また、金属板内の介在物の制御を、圧延工程ではなく鋳造工程で制御するとしても、前記請求項1~8には鋳造工程について一切記載されていないから、発明の詳細な説明に記載された事項を前記請求項1~8の範囲まで拡張ないし一般化できないし、前記請求項1~8には、課題を解決するための手段が反映されているとはいえないので、前記請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 したがって、前記請求項1~8の記載はサポート要件を満たさない。 (4)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について 当業者は、圧延工程と鋳造工程のどちらが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6~8に係る発明における介在物を得る工程であるのかを理解できないから、前記請求項6~8に係る発明における発明特定事項が不足していることが明らかである。 仮に、前記介在物を圧延工程によって制御する場合を検討しても、どのようにして前記介在物の密度と最大寸法を調整するのかを理解できないから、前記請求項6~8に係る発明は不明確である。 したがって、前記請求項6~8の記載は明確性要件を満たさない。 (5)証拠方法 甲第1号証:特開2015-168884号公報 甲第2号証:特開平7-179998号公報 甲第3号証:特開平3-281756号公報 甲第4号証:特開平4-218644号公報 甲第5号証:特開2010-214447号公報 2 申立人佐藤による特許異議申立理由 ここでいう甲第1号証~甲第19号証は、申立人佐藤が提出した、後記(6)に記載された甲第1号証~甲第19号証である。 (1)特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について ア 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び6~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。 イ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第10号証に記載された発明及び甲第7~9号証及び甲第11~16号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)特許法第29条の2所定の規定違反(拡大先願)について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び6~8に係る発明は、その出願の日前の特許出願(特願2016-180384号。甲第17号証に係る特許出願。)であって、本件特許の出願後に出願公開がされた願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をしたものと同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 (3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について ア 本件特許に係る発明における介在物は、大部分が蒸着マスク用基材に埋もれているのであるから、介在物の立体的形状を考慮すると、平面視で確認できる介在物の最大寸法は実際の最大寸法ではないので、平面視で確認できる介在物の最大寸法を特定しても、それによって本件特許に係る発明の課題を解決できることを理解できない。 したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8の記載はサポート要件を満たさない。 イ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6~8においては、介在物の寸法精度と密度を調整するための圧延条件や板形成工程を特定していないから、前記請求項6~8の発明特定事項により介在物の寸法精度と密度が調整されているとは理解できないので、前記請求項6~8の記載はサポート要件を満たさない。 (4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について ア 本件特許明細書の段落【0089】の記載によれば、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された介在物の最大寸法と密度は、脱酸剤の量とその組成によって制御したものと推定されるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、用いた脱酸剤の具体的な使用量や組成については一切記載がなく、実施例を追試することすら不可能であるから、前記請求項1に係る発明の実施に際して、当業者に通常期待し得る程度を越える過度の試行錯誤を強いるものであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 イ 本件特許明細書に記載された実施例は、脱酸剤としてAl、Mg、Mnと、Al、Mg、Mn以外のそのほかの元素を含む4種以上の元素を含むものであるが、そのほかの元素がどのような元素であるのかが不明であるから、前記請求項1に係る発明の実施に際して、当業者に通常期待し得る程度を越える過度の試行錯誤を強いるものであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 ウ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、前記請求項1に記載された介在物に関するパラメータを満たす具体的な圧延条件を理解できないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 エ 前記請求項1における介在物の密度は下限値を有しないが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、介在物の密度が0個/mm2の蒸着マスク用基材をどのようにして製造できるのかが理解できないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 オ 本件特許明細書の段落【0097】【表2】と段落【0103】【表3】を対比すると、【表2】に記載の介在物の全体的な元素組成と、【表3】の第1介在物(介在物A)と第2介在物(介在物B)の量との間には、合理的に理解できる関係性が認められないので、仮に脱酸剤の量とその組成によって介在物の全体的な組成(【表2】)を制御できたとしても、それによって第1介在物(介在物A)と第2介在物(介在物B)の量を制御できるとは認められない。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、脱酸剤の量とその組成について具体的な記載が一切ないのであるから、当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~5に係る発明の発明特定事項を満たす蒸着マスク用基材を製造できないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 カ 本件特許明細書の段落【0089】の記載によれば、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6~8に記載された介在物の最大寸法と密度は、脱酸剤の量とその組成によって制御したものと推定されるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、用いた脱酸剤の具体的な使用量や組成については一切記載がないから、当業者は、前記請求項6~8に係る発明を実施できないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 キ 前記請求項6~8における介在物の最大寸法の下限値及び介在物の密度は下限値を有しないので、前記請求項6~8に係る発明は当業者が実施不可能な範囲を含むから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。 (5)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について ア 本件特許明細書には、アメーバ形状など複雑な形状の介在物のだ円への近似方法が一切記載されていないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8における介在物の最大寸法を明確に特定できないので、前記請求項1~8の記載は明確性要件を満たさない。 イ 前記請求項1~8における介在物の最大寸法及び介在物の密度は何らかの下限値があるべきであるのに、前記請求項1~8における介在物の最大寸法の下限値及び介在物の密度は下限値を有しないので、前記請求項1~8の記載は明確性要件を満たさない。 ウ EDXでマグネシウムとアルミニウムの両方の量が測定できるのは、表面から浅い範囲(1.2μm程度)の深さに存在する介在物であり、本件特許明細書の実施例において、EDXにより元素組成が測定できるのは、寸法が平均値にも達しない小さな介在物だけであり、それ以上の大きさの介在物については元素組成は正確に測れないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~5において対象とする介在物のサイズではEDXにより元素組成を測定できないので、当業者は前記請求項2~5において特定している第1介在物及び第2介在物を区別できない。 このため、前記請求項2~5の記載は明確性要件を満たさない。 エ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の「複数の前記介在物」の「前記介在物」の意味が不明確であり、「前記最大寸法が1μm以上である前記第1介在物の密度は、前記介在物の密度に対して」の記載の意味も不明確であるので、前記請求項2の記載は明確性要件を満たさない。 オ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4の「単位領域」の意味が不明確であり、「単位領域」と介在物の密度を求める領域の関係も不明確であるので、前記請求項4の記載は明確性要件を満たさない。 カ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「複数の前記介在物」の「前記介在物」の意味が不明確であるので、前記請求項5の記載は明確性要件を満たさない。 キ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「単位領域」の意味も不明確であり、「単位領域」と介在物の密度を求める領域の関係も不明確であるので、前記請求項5の記載は明確性要件を満たさない。 (6)証拠方法 甲第1号証:特開2017-106114号公報 甲第2号証:轟 秀和ら,「高清浄特殊鋼製造技術における最近の進展と今後」,ふぇらむ,2003年,Vol.8,No.8,p.29-34 甲第3号証:稲田 爽一ら,「ステンレス鋼、高合金鋼の介在物制御」,第182・第183回西山記念技術講座 介在物制御と高清浄度鋼製造技術,平成16年10月22日,社団法人日本鉄鋼協会,目次,p.229-257 甲第4号証:日本フォトファブリケーション協会教育分科会編,「フォトファブリケーション実務入門読本第8版」,日本フォトファブリケーション協会,平成20年6月,目次,p.102-118 甲第5号証:国際公開第2017/013903号 甲第6号証:特開2004-335487号公報 甲第7号証:特開2005-307244号公報 甲第8号証:高田 亮輔ら,「溶鋼のAl-Mg複合脱酸プロセスにおける介在物の挙動」,材料とプロセス,平成18年3月1日,Vol.19,No.1,p.128 甲第9号証:特開平10-259454号公報 甲第10号証:特開平9-125210号公報 甲第11号証:特開2009-299170号公報 甲第12号証:特開2010-214447号公報 甲第13号証:特開2015-193871号公報 甲第14号証:特開2017-64764号公報 甲第15号証:特開2017-64763号公報 甲第16号証:亀矢 伸,「大型化で優位に立つ有機ELD蒸着用エッチングマスク 大日本印刷がテーパ化可能なエッチングマスクで攻勢」,Semiconductor FPD World,2001年12月20日,第21巻,第1号,p.112-113 甲第17号証:再表2018/052135号公報 甲第18号証:日本電子株式会社データムソリューション事業部編,「JEOL ANALYTICAL NEWS」,2011年10月,No.089,p.2-11 甲第19号証:成田 貴一,「鋼中の非金属介在物および析出物の観察,同定および抽出分離定量法」,鉄と鋼,1974年,第60年,第13号,p.94-100 第5 取消理由の概要 1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び6~8に係る発明は、前記第4の1(5)の申立人林が提出した甲第1号証に記載された発明である。 2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「表面と対向する平面視」における「介在物の最大寸法」(以下、「介在物の最大寸法」ということがある。)及び「平面視」において「最大寸法が1μm以上」である「介在物の密度」(以下、「介在物の密度」ということがある。)を満たす「蒸着マスク用基材」を製造できる圧延条件及び脱酸剤の量と組成が記載されていないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明における「蒸着マスク用基材」について、発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載がされているとはいえないし、同請求項6に係る発明における「蒸着マスク用基材の製造方法」、同請求項7に係る発明における「蒸着マスクの製造方法」及び同請求項8に係る発明における「表示装置の製造方法」について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産する方法を使用することができ、かつ、その方法により生産した物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について (1)「介在物の最大寸法」及び「介在物の密度」の測定方法について 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「介在物の最大寸法の測定方法」を明確に理解できないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は明確でない。 (2)「前記介在物」について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2の「複数の前記介在物」における「前記介在物」及び「前記介在物の密度に対して50%以上である」における「前記介在物」が、それぞれ、同請求項1に係る発明の「前記金属板は、前記金属板の表面および前記金属板の内部に介在物を含み、」における「介在物」を意味するのか、「前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物」における「介在物」を意味するのかが明らかでなく、前記請求項2に係る発明おいて、「第1介在物」の密度がどの「介在物」の密度に対して50%以上であるのかが明らかでないので、前記請求項2に係る発明及び本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3~5に係る発明は明確でない。 第6 取消理由についての当審の判断 1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)について ここでいう甲第1号証は、特段の注釈がない限り、前記第4の1(5)の申立人林が提出した甲第1号証である。 (1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証には、以下の(1a)~(1f)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1a)「【特許請求の範囲】 ・・・ 【請求項5】 複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、 前記マスクの前記貫通孔は、前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、 前記金属板を、その一対の表面から5nm以内の距離に位置する一対の表面層と、前記一対の表面層の間に位置するバルク層と、に区画する場合、以下の条件(1),(2)が満たされている、 (1)前記一対の表面層のうち少なくとも一方の表面層に含まれる鉄、ニッケルおよびクロムの質量の合計を100質量%としたときに、前記少なくとも一方の表面層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%以上のクロムと、残部の鉄と、を含む鉄合金からなること;および、 (2)前記バルク層に含まれる各構成元素の質量の合計を100質量%としたときに、前記バルク層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金からなること; 金属板。」 (1b)「【0009】 本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、高い寸法精度および位置精度で形成された貫通孔を備え、かつ高い防錆性を有する蒸着マスクを製造するために用いられる金属板を提供することを目的とする。また本発明は、金属板の製造方法およびマスクの製造方法を提供することを目的とする。」 (1c)「【0053】 従って、高い画素密度の有機EL表示装置を作製する上では、錆び45や欠け41aが存在しない蒸着マスク20をいかに安定に製造することができるか、という点が重要になる。・・・ これらの点を考慮すると、金属板21を構成する材料として、表面においては錆び45を発生させず、かつ接続部41の近傍(すなわち金属板21の内部)においては群状介在物を発生させないような材料が好ましいことが分かる。そのような材料の組成の詳細については後述する。」 (1d)「【0096】 次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。 【0097】 (第1巻き体) はじめに、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金から構成された母材を準備した。次に、母材に対して上述の圧延工程、スリット工程、アニール工程および切断工程を実施することにより、長尺金属板が巻き取られた巻き体(第1巻き体)を製造した。 【0098】 具体的には、はじめに、第1熱間圧延工程および第1冷間圧延工程をこの順で行う第1圧延工程を実施し、次に、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ3mm以上かつ5mm以下の範囲にわたって切り落とす第1スリット工程を実施した。その後、長尺金属板を構成する元素の結晶配列を変化させる温度以上の温度で、所定時間にわたって長尺金属板を連続焼鈍する第1アニール工程を実施した。さらに、第1アニール工程を経た長尺金属板に対して、第2冷間圧延工程を含む第2圧延工程を実施し、次に、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ3mm以上かつ5mm以下の範囲にわたって切り落とす第2スリット工程を実施した。その後、長尺金属板を構成する元素の結晶配列を変化させる温度以上の温度で、所定時間にわたって長尺金属板を連続焼鈍する第2アニール工程を実施した。これによって、所望の厚みを有する、約600mm幅の長尺金属板64を得た。上述の第1アニール工程および第2アニール工程は、大気に対して少なくとも部分的に開放された空間において、窒素ガスを連続的に導入しながら実施した。その後、長尺金属板64の幅方向における両端をそれぞれ所定範囲にわたって切り落とし、これによって、長尺金属板64の幅を所望の幅、具体的には500mm幅に最終的に調整する切断工程を実施した。 【0099】 なお、冷間圧延工程は、圧延油を用いてクーリングしながら行った。冷間圧延工程の後には、長尺金属板を洗浄する洗浄工程を行った。洗浄工程の後には、上述のスリット工程を実施した。なお、長尺金属板の厚みは25μmとした。 ・・・ 【0111】 〔群状介在物に関する評価〕 上述の第1巻き体の長尺金属板を用いて、多数の貫通孔25が形成された蒸着マスク20(以下、第1マスクと称する)を製造した。第1マスクの貫通孔25の寸法(平面視の場合の寸法。具体的には、平面視において接続部41によって囲まれた領域の寸法)は、40μm×40μmとした。また、第1マスクの第2面20bから接続部41までの距離は4μm以下であった。 【0112】 次に、走査型電子顕微鏡を用いて、第1マスクを観察した。具体的には、走査型電子顕微鏡のFOV(Field of View)を10μmに設定して、若しくはポラロイド(登録商標)倍率を1万倍に設定して、100視野にわたって第1マスクの観察を実施した。上記のようにFOVまたはポラロイド(登録商標)倍率を設定することにより、寸法が200nm以上の塊になった群状介在物を検知可能である。 ・・・」 (1e)「【0113】 (第2~第6巻き体) 第1巻き体の場合と同様にして、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金から構成された母材を用いて、第2巻き体~第6巻き体を製造した。さらに、第1巻き体の場合と同様にして、第2巻き体~第6巻き体に関して、組成の分析、洗浄に対する耐性の評価、および、群状介在物に関する評価を実施した。 ・・・ 【0117】 (群状介在物に関する評価結果のまとめ) 第1巻き体~第9巻き体の長尺金属板を用いて作製した蒸着マスクに対して実施した、上述の群状介在物に関する評価結果を、図21の「群状介在物」の欄に示す。図21の「群状介在物」の欄において、記号「◎」は、群状介在物が全く観察されなかったことを意味している。また記号「○」は、1個の群状介在物が観察されたことを意味している。また記号「△」は、2~3個の群状介在物が観察されたことを意味している。また記号「×」は、4個以上の群状介在物が観察されたことを意味している。なお群状介在物としては、具体的には、クロム、鉄、炭素からなる直径50~100nm程度の球状の介在物が複数個凝集して形成された群状介在物が観察された。・・・」 (1f)「【図21】 [図:0001393075000001.jpg] 」 イ 前記ア(1a)によれば、甲第1号証には、「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板」が記載されている。 そして、前記ア(1d)~(1f)によれば、前記「金属板」は、はじめに、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金から構成された母材を準備し、次に、母材に対して圧延工程、スリット工程、アニール工程および切断工程を実施することにより、長尺金属板が巻き取られた巻き体を製造するものであって、具体的には、はじめに、第1熱間圧延工程および第1冷間圧延工程をこの順で行う第1圧延工程を実施し、次に、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ3mm以上かつ5mm以下の範囲にわたって切り落とす第1スリット工程を実施し、その後、長尺金属板を構成する元素の結晶配列を変化させる温度以上の温度で、所定時間にわたって長尺金属板を連続焼鈍する第1アニール工程を実施し、さらに、第1アニール工程を経た長尺金属板に対して、第2冷間圧延工程を含む第2圧延工程を実施し、次に、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ3mm以上かつ5mm以下の範囲にわたって切り落とす第2スリット工程を実施し、その後、長尺金属板を構成する元素の結晶配列を変化させる温度以上の温度で、所定時間にわたって長尺金属板を連続焼鈍する第2アニール工程を実施して、所望の厚みを有する、約600mm幅の長尺金属板を得るものである。 ここで、第1アニール工程および第2アニール工程は、大気に対して少なくとも部分的に開放された空間において、窒素ガスを連続的に導入しながら実施したものであり、その後、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ所定範囲にわたって切り落とし、これによって、長尺金属板の幅を500mm幅に最終的に調整する切断工程を実施したものであり、冷間圧延工程は、圧延油を用いてクーリングしながら行ったものであり、冷間圧延工程の後には、長尺金属板を洗浄する洗浄工程を行ったものであり、洗浄工程の後にスリット工程を実施したものであり、長尺金属板の厚みは25μmとしたものである。 そして、前記長尺金属板を用いて、多数の貫通孔が形成された蒸着マスクを製造したものであり、蒸着マスクの貫通孔の寸法(平面視の場合の寸法。具体的には、平面視において接続部によって囲まれた領域の寸法)は、40μm×40μmとしたものであり、蒸着マスクの第2面から接続部までの距離は4μm以下であったものであり、次に、走査型電子顕微鏡を用いて蒸着マスクを観察したものであり、具体的には、走査型電子顕微鏡のFOV(Field of View)を10μmに設定して、若しくはポラロイド(登録商標)倍率を1万倍に設定して、100視野にわたって蒸着マスクの観察を実施して、寸法が200nm以上の塊になった群状介在物を検知したものであり、前記長尺金属板が巻き取られた巻き体のうち、第4巻き体に注目すると、第4巻き体においては、1個の群状介在物が観察されたものであり、群状介在物としては、具体的には、クロム、鉄、炭素からなる直径50~100nm程度の球状の介在物が複数個凝集して形成された群状介在物が観察されたものである。 ウ 前記イによれば、甲第1号証には、 「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、 はじめに、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金から構成された母材を準備し、次に、母材に対して圧延工程、スリット工程、アニール工程および切断工程を実施することにより、長尺金属板が巻き取られた巻き体を製造するものであり、 具体的には、はじめに、第1熱間圧延工程および第1冷間圧延工程をこの順で行う第1圧延工程を実施し、次に、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ3mm以上かつ5mm以下の範囲にわたって切り落とす第1スリット工程を実施し、その後、長尺金属板を構成する元素の結晶配列を変化させる温度以上の温度で、所定時間にわたって長尺金属板を連続焼鈍する第1アニール工程を実施し、 さらに、第1アニール工程を経た長尺金属板に対して、第2冷間圧延工程を含む第2圧延工程を実施し、次に、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ3mm以上かつ5mm以下の範囲にわたって切り落とす第2スリット工程を実施し、その後、長尺金属板を構成する元素の結晶配列を変化させる温度以上の温度で、所定時間にわたって長尺金属板を連続焼鈍する第2アニール工程を実施して、所望の厚みを有する、約600mm幅の長尺金属板を得るものであり、 ここで、第1アニール工程および第2アニール工程は、大気に対して少なくとも部分的に開放された空間において、窒素ガスを連続的に導入しながら実施したものであり、その後、長尺金属板の幅方向における両端をそれぞれ所定範囲にわたって切り落とし、これによって、長尺金属板の幅を500mm幅に最終的に調整する切断工程を実施したものであり、冷間圧延工程は、圧延油を用いてクーリングしながら行ったものであり、冷間圧延工程の後には、長尺金属板を洗浄する洗浄工程を行ったものであり、洗浄工程の後にスリット工程を実施したものであり、長尺金属板の厚みは25μmとしたものであり、 そして、前記長尺金属板を用いて、多数の貫通孔が形成された蒸着マスクを製造したものであり、蒸着マスクの貫通孔の寸法(平面視の場合の寸法。具体的には、平面視において接続部によって囲まれた領域の寸法)は、40μm×40μmとしたものであり、蒸着マスクの第2面から接続部までの距離は4μm以下であったものであり、次に、走査型電子顕微鏡を用いて蒸着マスクを観察したものであり、具体的には、走査型電子顕微鏡のFOV(Field of View)を10μmに設定して、若しくはポラロイド(登録商標)倍率を1万倍に設定して、100視野にわたって蒸着マスクの観察を実施して、寸法が200nm以上の塊になった群状介在物を検知したものであり、 前記長尺金属板が巻き取られた巻き体において、1個の群状介在物が観察されたものであり、群状介在物としては、具体的には、クロム、鉄、炭素からなる直径50~100nm程度の球状の介在物が複数個凝集して形成された群状介在物が観察されたものである、金属板。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (2)対比・判断 ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板」は、「34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金から構成された母材」から得られるものであるから、本件発明1における「鉄‐ニッケル系合金製の金属板」であって「複数の貫通孔を有した蒸着マスクを製造するために用いられる前記金属板を備える蒸着マスク用基材」に相当し、甲1発明における「クロム、鉄、炭素からなる直径50~100nm程度の球状の介在物」は、本件発明1における「介在物」に相当し、甲1発明において、「長尺金属板の厚み」を「25μmと」したことは、本件発明1において、「前記金属板の厚さは、15μm以上40μm以下」であることを満たす。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「鉄‐ニッケル系合金製の金属板であって複数の貫通孔を有した蒸着マスクを製造するために用いられる前記金属板を備える蒸着マスク用基材であって、 前記金属板は、介在物を含み、 前記金属板の厚さは、15μm以上40μm以下である、 蒸着マスク用基材。」の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1:本件発明1は、「金属板」の「複数の貫通孔」が「エッチング」によって形成されるのに対して、甲1発明においては、「金属板」の「複数の貫通孔」が「エッチング」によって形成されることが特定されていない点。 ・相違点2:本件発明1は、「蒸着マスク用基材」が、「前記金属板の表面および前記金属板の内部に介在物を含む」ものであり、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度は、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下である」のに対して、甲1発明は、「介在物」が「クロム、鉄、炭素からなる直径50~100nm程度の球状の介在物」である点。 イ 事案に鑑み、まず、前記アの相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明1においては、「最大寸法が1μm以上」である「介在物の密度」が「0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下」なのであるから、金属板には、「最大寸法が1μm以上」の「介在物」が存在するものである。 これに対して、甲1発明における「介在物」は、「直径50~100nm程度の球状の介在物」なのであるから、甲1発明の「介在物」の最大直径は、高々100nm程度、すなわち0.1μm程度と認められるので、甲1発明においては、そもそも1μm以上の寸法を有する「介在物」は存在しない。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物」の存在の有無の点で相違するから、前記相違点2は実質的な相違点であるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。 更に、本件発明6~8について検討しても事情は同じである。 (3)佐藤意見書について ア 申立人佐藤の佐藤意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 前記第2の1(1)の訂正事項1に係る訂正は不適法なものであるから、前記訂正事項1に係る訂正後の本件発明1及び6~8に基づいて新規性を主張することは失当であり、特許権者意見書をみても、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び6~8に係る発明が新規性を有する理由は見いだせない(4ページ19行~最終行)。 イ そこで、前記アの主張について検討すると、前記訂正事項1に係る訂正を含む本件訂正が適法なものであることは、前記第2の3に記載のとおりであり、更に本件発明1及び6~8が甲1発明であるとはいえないことは、前記(2)イに記載のとおりであって、これらのことは、特許権者による特許権者意見書の主張に左右されるものでもないから、申立人佐藤の前記アの主張は採用できない。 なお、申立人佐藤は、仮に、介在物の密度の下限値をより大きく訂正したとしても、本件特許に係る発明は、前記第4の2(6)の申立人佐藤が提出した甲第1号証(特開2017ー106114号公報)により新規性及び進歩性を有しない旨も主張しているが、これについては後記第7の2(1)ア(コ)で検討する。 また、申立人林の林意見書における主張は進歩性に関するものであるので、後記第7の1(1)イで検討する。 (4)小括 したがって、本件発明1及び6~8は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないので、前記第5の1の取消理由は理由がない。 2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について (1)実施可能要件の判断手法 物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。 また、物を生産する方法の発明における発明の実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから、物を生産する方法の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産する方法を使用することができ、かつ、その方法により生産した物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要があるので、以下、前記の観点に基づいて検討する。 (2)実施可能要件についての当審の判断 ア 本件発明1は、「金属板の表面」及び「金属板の内部」の「介在物」について、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度は、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下である」との発明特定事項を有するものである。 イ ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下(ア)~(イ)の記載がある。 (ア)「【0032】 [介在物の構成] 介在物12は、上述した脱酸処理において、金属板11を形成するための母材に含まれる酸素などと脱酸剤との反応によって生成される反応生成物である。あるいは、介在物は、未反応の脱酸剤である。こうした反応生成物あるいは脱酸剤の大部分は、母材から金属板11を製造する過程において母材から取り除かれる。一方で、反応生成物あるいは脱酸剤の一部は、金属板11中に介在物12として残される。・・・ ・・・ 【0041】 介在物12のなかで、マグネシウムが主成分である介在物12が第1介在物12aである。各第1介在物12aにおいて、マグネシウムの含まれる割合が50質量%以上である。最大寸法Lmaxが1μm以上である第1介在物12aの密度は、最大寸法Lmaxが1μm以上である介在物12の密度に対して50%以上であることが好ましい。 【0042】 こうした構成では、介在物12の密度における50%以上がマグネシウムを主成分とする第1介在物12aであるため、金属板11のなかで孔が形成される領域に介在物12が位置したとしても、その介在物12が第1介在物12aである可能性が高められる。介在物12が第1介在物12aであれば、マグネシウムを主成分とするため、孔における寸法の精度を高めることができる。なお、第1介在物12aは、マグネシウムを75質量%以上含むことがより好ましい。 ・・・ 【0054】 金属板11の製造方法は、圧延工程と加熱工程とを含んでいる。圧延工程は、介在物を含む鉄‐ニッケル系合金製の母材を圧延して、金属板の表面および金属板の内部に介在物を含む金属板を形成する工程である。加熱工程は、圧延工程によって形成された金属板を焼鈍する工程である。圧延工程は、金属板11の厚さが15μm以上40μm以下であり、介在物12の最大寸法Lmaxが10μm以下であり、かつ、最大寸法Lmaxが1μm以上である介在物12の密度が、金属板11の表面11Fと対向する平面視において2.0個/mm2以下となるように、母材を圧延する。以下、図4から図7を参照して、金属板11の製造方法をより詳しく説明する。 【0055】 金属板11を形成するときには、まず、鋳造工程によって金属板11の母材を形成する。・・・鋳造工程では、溶解した合金を冷却する前に溶解した合金に脱酸剤を添加する。脱酸剤は、母材が形成されるまでの間に合金に含まれる酸素などと反応することによって、反応生成物を形成する。 【0056】 図4が示すように、母材31は所定の厚さを有する板形を有し、表面31Fと裏面31Rとを含んでいる。・・・ ・・・ 【0058】 図5が示すように、母材31を圧延する圧延工程を行う。圧延工程では、例えば、一対の圧延ロールRを含む圧延装置を用いて、母材を圧延方向DRに沿って圧延する。これにより、母材31の厚さが低減されるとともに、母材31が圧延方向DRに沿って引き伸ばされる。圧延工程は、熱間圧延および冷間圧延の少なくとも一方を含むことができる。 【0059】 圧延工程では、母材31に含まれる介在物12の少なくとも一部が、介在物12の周りに位置する鉄‐ニッケル系合金とともに圧延される。そのため、上述したように、複数の介在物12には、母材31の表面31Fと対向する平面視において、圧延方向DRと幅方向DWとに等方的に拡がる形状を有した介在物12だけでなく、圧延方向DRに沿って延びる形状を有した介在物12が含まれる。圧延方向DRに沿って延びる形状の一例が、楕円状である。 【0060】 こうした圧延工程によって、金属板31Aが形成される。金属板31Aは、コアCに巻き付けられた状態で保管される。圧延工程では、上述したように、母材31から形成された金属板11の厚さが15μm以上40μm以下となるように母材31が圧延される。また、圧延工程では、金属板11に含まれる介在物12の最大寸法Lmaxが10μm以下であり、かつ、最大寸法Lmaxが1μm以上である介在物12の密度が、2.0個/mm2となるように、母材31が圧延される。」 (イ)「【0087】 [実施例] [金属板の製造] 36質量%のニッケルを含む鉄‐ニッケル合金を準備し、鋳造工程によって鉄‐ニッケル合金製の母材を形成した。鋳造工程では、溶融した状態の鉄‐ニッケル合金に脱酸剤を加えた後、脱酸剤から生じた介在物の一部を取り除きながら、200μmの厚さを有する母材を得た。 【0088】 次いで、圧延工程において、熱間圧延および冷間圧延をこの順で行った。なお、冷間圧延では、圧延油を用いて母材を冷却しながら母材の圧延を行った。これにより、圧延後の金属板を得た。そして、加熱工程において金属板を加熱した。このとき、金属板を加熱する時間を60秒に設定し、金属板の温度を500℃に設定した。最後に、金属板における幅方向の両端を、同じ長さだけ切り落とした後、洗浄工程において、金属板の表面および裏面を洗浄することによって、厚さが30μmであり、幅が約600mmである蒸着マスク用基材としての金属板を得た。 【0089】 上述した鋳造工程において、溶融した鉄‐ニッケル合金に加える脱酸剤の量と組成との少なくとも一方を変えることによって、実施例1から実施例4の各々の金属板と、比較例1および比較例2の金属板とを得た。 【0090】 [介在物の解析] 実施例1から実施例4、比較例1および比較例2の各々の金属板において、金属板の表面に位置する介在物の測定を行った。各金属板の表面を走査型電子顕微鏡(JSMー7001F、日本電子(株)製)を用いて撮像し、1mm2の領域であって、互いに異なる領域である100個の領域に対応するSEM画像において、最大寸法が1μm以上である介在物の個数を目視にて計数した。また、各介在物を楕円近似することによって、介在物における長軸の長さ、短軸の長さ、および、平均寸法を算出した。なお、介在物における長軸の長さが、介在物の最大寸法である。さらに、SEM画像に基づいて、各介在物の面積を算出した。 【0091】 エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて各元素の組成を測定した。測定には、走査型電子顕微鏡(同上)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(INCA PentaPET×3、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いた。なお、以下では、介在物の分析の結果において、各元素の割合は、FeとNiとを除く元素における割合である。 【0092】 [測定結果] 表1から表3を参照して、介在物の測定結果を説明する。 実施例1から実施例4の各々の金属板、および、比較例1および比較例2の各々の金属板について、介在物の密度、平均寸法の平均値、および、最大寸法の最大値を算出した。各金属板における介在物の密度、平均寸法の平均値、および、最大寸法の最大値は、下記の表1に示す通りであった。 【0093】 【表1】 [図:0001393075000002.jpg] ・・・ 【0096】 各金属板において、各介在物を構成する元素の総和を算出したところ、全ての介在物を構成する元素の総量において、各元素が表2に記載の割合で含まれることが認められた。なお、表2には、介在物に含まれる主たる元素のみが示されている。 【0097】 【表2】 [図:0001393075000003.jpg] 【0098】 表2が示すように、実施例1の金属板において、Alが6質量%、Mgが32質量%、Mnが17質量%それぞれ含まれることが認められた。実施例2の金属板において、Alが11質量%、Mgが31質量%、Mnが11質量%それぞれ含まれることが認められた。実施例3の金属板において、Alが4質量%、Mgが42質量%、Mnが14質量%それぞれ含まれていることが認められた。実施例4の金属板において、Alが10質量%、Mgが19質量%、Mnが14質量%それぞれ含まれていることが認められた。 ・・・ 【0100】 このように、実施例1から実施例4の金属板の各々では、全ての介在物を構成する元素の総量において、Mgの割合がAlの割合よりも大きいことが認められた。また、Mgの割合とAlの割合との比が、実施例1ではおよそ5:1であり、実施例2ではおよそ3:1であり、実施例3ではおよそ10:1であり、実施例4ではおよそ2:1であることが認められた。これに対して、比較例1および比較例2の金属板の各々では、全ての介在物を構成する元素の総量において、Alの割合がMgの割合よりも大きいことが認められた。また、Mgの割合とAlの割合との比が、比較例1ではおよそ2:3であり、比較例2では1:2であることが認められた。 【0101】 各介在物を構成する元素の組成に基づいて各金属板に含まれる介在物を分類し、分類Aおよび分類Bに属する介在物において、介在物の密度、平均寸法の平均値(μm)、最大寸法の最大値(μm)、および、面積比(%)を算出した。なお、面積比を算出する際には、1μm以上の最大寸法を有した各介在物の面積の総和である第1の値と、各分類に属する各介在物の面積の総和である第2の値とを算出した。そして、第1の値に対する第2の値の比を面積比(%)として算出した。 【0102】 各金属板における解析の結果は、表3に記載の通りであった。 【0103】 【表3】 [図:0001393075000004.jpg] 【0104】 表3における介在物Aおよび介在物Bの組成は、それぞれ以下の通りであった。介在物Aは、Mgを主成分とする介在物、すなわちMgを50質量%以上含む介在物であった。介在物Aは、AlおよびMnの少なくとも一方を含み、Alは10質量%以下であった。介在物Bは、Alを主成分とする介在物、すなわちAlを50質量%以上含む介在物であった。介在物Bは、さらにMgを20質量%以上40質量%以下の範囲で含み、介在物Bの一部はMnを含んでいた。すなわち、介在物Aが第1介在物の一例であり、介在物Bが第2介在物の一例である。」 ウ 前記イ(ア)(段落【0054】~【0060】)によれば、本件発明に係る「蒸着マスク用基材」の金属板の製造方法は、圧延工程と加熱工程とを含み、金属板を形成するときには、まず、鋳造工程によって金属板の母材を形成するものであり、鋳造工程では、溶解した合金を冷却する前に溶解した合金に脱酸剤を添加するものであり、次に、母材を圧延する圧延工程を行うものであり、圧延工程は、熱間圧延および冷間圧延の少なくとも一方を含むことができるものであり、母材から形成された金属板の厚さが15μm以上40μm以下となるように母材が圧延され、また、金属板に含まれる介在物の最大寸法が10μm以下であり、かつ、最大寸法が1μm以上である介在物の密度が、2.0個/mm2となるように、母材が圧延されるものである。 そして、前記イ(イ)(段落【0087】~【0089】)によれば、前記製造方法は、36質量%のニッケルを含む鉄‐ニッケル合金を準備し、鋳造工程によって鉄‐ニッケル合金製の母材を形成し、鋳造工程では、溶融した状態の鉄‐ニッケル合金に脱酸剤を加えた後、脱酸剤から生じた介在物の一部を取り除きながら、200μmの厚さを有する母材を得たものであり、次いで、圧延工程において、熱間圧延および冷間圧延をこの順で行って、圧延後の金属板を得たものであり、更に、加熱工程において金属板を加熱したのであるが、このとき、金属板を加熱する時間を60秒に設定し、金属板の温度を500℃に設定したものであり、最後に、金属板における幅方向の両端を、同じ長さだけ切り落とした後、洗浄工程において、金属板の表面および裏面を洗浄することによって、厚さが30μmであり、幅が約600mmである蒸着マスク用基材としての金属板を得たものであり、このとき、鋳造工程において、溶融した鉄‐ニッケル合金に加える脱酸剤の量と組成との少なくとも一方を変えることによって、実施例1から実施例4の各々の金属板と、比較例1および比較例2の金属板とを作り分けたものである。 エ 前記ウによれば、本件発明に係る「蒸着マスク用基材」の金属板の製造方法においては、実施例1から実施例4の各々の金属板と比較例1および比較例2の金属板の圧延条件に変わりはなく、更に、特段、その具体的な圧延条件が記載されていないことからみれば、前記圧延条件は、金属板の厚さが15μm以上40μm以下となるように母材を圧延する際に当業者が採用する通常の圧延条件であると解するのが妥当である。 そして、前記実施例1から実施例4の各々の金属板と比較例1および比較例2の金属板とは、鋳造工程において、溶融した鉄‐ニッケル合金に加える脱酸剤の量と組成との少なくとも一方を変えることによって作り分けられているから、本件発明における「介在物」は、前記脱酸剤の量と組成により制御されるものと解される。 オ そこで、前記脱酸剤の量と組成について、本件特許明細書の記載を検討すると、前記イ(ア)(段落【0032】)によれば、「介在物」は、脱酸処理において、金属板を形成するための母材に含まれる酸素などと脱酸剤との反応によって生成される反応生成物であるか、未反応の脱酸剤であるから、「介在物」を構成する元素は前記脱酸剤に由来するものであるといえる。 そして、前記イ(イ)(段落【0097】【表2】)によれば、前記実施例1から実施例4では、全ての介在物を構成する元素の総量において、「介在物」中のMgの割合が多く、Alの割合が少なくなっているのに対して、前記比較例1および比較例2では、Alの割合が多く、Mgの割合が少なくなっていることが記載されているから、当業者は、全ての「介在物」を構成する元素の総量において、「介在物」中のMgの割合が多く、Alの割合が少なくなるように脱酸剤の量と組成を調整することで、「介在物の最大寸法」を「10μm以下」とし、「介在物の密度」を「0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下」とできることを理解することができる。 カ 前記エ、オによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、全ての「介在物」を構成する元素の総量において、「介在物」中のMgの割合が多く、Alの割合が少なくなるように脱酸剤の量と組成を調整した上で、金属板の厚さが15μm以上40μm以下となるように母材を圧延する際に当業者が採用する通常の圧延条件で母材を圧延することによって、前記金属板の「介在物の最大寸法」を「10μm以下」とし、「介在物の密度」を「0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下」とできることを理解することができる。 ここで、前記イ(ア)(段落【0032】)によれば、鋳造工程において添加した脱酸剤の反応生成物あるいは脱酸剤の大部分は、母材から金属板を製造する過程において母材から取り除かれるのであるから、前記脱酸剤に含まれるMgやAlの割合が、そのまま全ての「介在物」を構成する元素の総量におけるMgやAlの割合に反映するものとはいえないのであるが、そうであるとしても、単に、全ての「介在物」を構成する元素の総量において、Mgの割合が多く、Alの割合が少なくなるように脱酸剤の量と組成を調整することが、当業者に通常期待される以上の過度の試行錯誤を強いるものとはいえないので、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、前記アの発明特定事項を有する本件発明1に係る「蒸着マスク用基材」の金属板を生産し,使用することができるものであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について実施可能要件に適合するといえるものであって、本件発明2~8について検討しても事情は同じである。 (3)林意見書及び佐藤意見書について ア 申立人林の林意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 特許権者は、特許権者意見書において、介在物は圧延により分断・破砕されて微細化されるが、そもそも圧延する条件は金属板の厚さが15μm以上40μm以下に収まるように定められるものであって、介在物の大きさや数を低くするために定められるものではない旨等を主張するが、本件特許明細書の記載によれば、圧延によって介在物の最大寸法及び密度を調整できると解するのが当然であるから、本件特許明細書の記載と特許権者意見書の記載は矛盾するので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、依然として実施可能要件に適合しない(3ページ最終行~4ページ下から9行)。 イ 以下、前記アの主張について検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~8について実施可能要件に適合するといえることは、前記(2)カに記載のとおりであって、このことは、特許権者意見書における特許権者の主張に左右されるものでもないから、本件特許明細書の記載と特許権者意見書の主張が矛盾しているとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合することに変わりはないので、申立人林の前記アの主張は採用できない。 ウ 申立人佐藤の佐藤意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 (ア)特許権者意見書における、圧延の条件は介在物の数値の制御に大きな影響はない、とする主張は、圧延により介在物の数や密度は変化し、圧延の条件は介在物の数値の制御に大きく影響するから、失当であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、圧延条件について、実施可能要件を満たすように記載されていないので、前記第5の2の取消理由は解消していない(5ページ下から7行~7ページ23行)。 (イ)鋳造工程で添加した脱酸剤の組成と金属板に残留した介在物の組成とは一致しないし、介在物の組成も介在物ごとにバラツキがあるから、金属板に含まれる介在物の成分組成に言及したところで、脱酸剤の量と組成は不明であることに変わりはないし、脱酸剤におけるマグネシウム、アルミニウム、マンガン以外の元素も不明であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、脱酸剤について、実施可能要件を満たすように記載されていないので、前記第5の2の取消理由は解消していない(7ページ24行~12ページ下から11行)。 エ 以下、前記ウの主張について検討すると、本件発明に係る「蒸着マスク用基材」の金属板の製造方法における圧延条件は、金属板の厚さが15μm以上40μm以下となるように母材を圧延する際に当業者が採用する通常の圧延条件であると解するのが妥当であることは、前記(2)エに記載のとおりであるから、圧延条件が介在物の数値の制御に大きく影響するとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、圧延条件について実施可能要件を満たすように記載されているといえるので、前記ウ(ア)の主張は採用できない。 また、鋳造工程で添加した脱酸剤の組成と金属板に残留した「介在物」の組成とは一致せず、「介在物」の組成も介在物ごとにバラツキがあるとしても、単に、全ての「介在物」を構成する元素の総量において、Mgの割合が多く、Alの割合が少なくなるように脱酸剤の量と組成を調整することが、当業者に通常期待される以上の過度の試行錯誤を強いるものとはいえないことは、前記(2)カに記載のとおりであるし、脱酸剤におけるマグネシウム、アルミニウム、マンガン以外の元素は、本件特許明細書に特段の記載がないことから、脱酸剤に通常含まれる元素であると解されるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、脱酸剤の量と組成について、実施可能要件を満たすように記載されているといえるので、前記ウ(イ)の主張も採用できない。 (4)小括 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するので、前記第5の2の取消理由は理由がない。 3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について (1)明確性要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下、この観点に立って検討する。 (2)「介在物の最大寸法」及び「介在物の密度」の測定方法について 前記第2の2(3)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、当業者は、「介在物の最大寸法」が、「前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さ」、すなわち、介在物の輪郭を構成する点を通り前記輪郭に外接するだ円であって、長軸が最も短いだ円の長軸の長さであることを理解することができるから、特許請求の範囲の請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1は明確であり、本件発明2~8について検討しても事情は同じであるので、前記第5の3(1)の取消理由は理由がない。 (3)「前記介在物」について 本件発明2の発明特定事項によれば、当業者は、「複数の前記介在物」における「前記介在物」は、「前記金属板の表面及び前記金属板の内部に含まれる」「介在物」を意味し、「前記介在物の密度に対して50%以上である」における「前記介在物」は、「前記最大寸法が1μm以上である」介在物を意味することを理解できるから、特許請求の範囲の請求項2の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明2は明確であり、本件発明3~5について検討しても事情は同じであるので、前記第5の3(2)の取消理由は理由がない。 (4)林意見書及び佐藤意見書について ア 申立人林の林意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 特許権者は、取消理由通知における「例えば介在物がアメーバ形状のような複雑な形状の場合、具体的にどのようにして介在物の平面構造をだ円に近似するのかが明らかでないし、また、介在物がアメーバ形状のような複雑な形状の場合の平面構造をだ円に近似する方法に関する技術常識は存在しない。」との判断について何ら具体的な主張をしていないし、本件特許明細書には、「輪郭における複数の点」の設定方法について一切開示されておらず、「輪郭における複数の点」のどこを通るかによってだ円形状は大きく変動するから、最大寸法の測定方法は何ら明確になっていない(4ページ下から8行~5ページ12行)。 イ 以下、前記アの主張について検討すると、本件発明1~8は明確であることは前記(2)に記載のとおりであって、このことは、取消理由通知に対する特許権者の主張の有無に左右されるものでもない。 また、介在物の輪郭を構成する点を通り前記輪郭に外接するだ円であって、長軸が最も短いだ円の形状が大きく変動するものとはいえないから、前記アの主張は採用できない。 ウ 申立人佐藤の佐藤意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 本件発明1、6~8及び本件特許明細書には、だ円が通る複数の点を何点、どのように取るかは何ら記載されておらず、特許権者意見書で主張するような「長軸の長さが最も短くなるような楕円」に近似することも記載されていない。 そして、だ円が通る複数の点を何点、どのように取るかによって、さまざまなだ円が描け、長軸の長さは1つに定まらないから、本件発明1及び6~8は明確でない(12ページ下から6行~13ページ19行)。 エ 以下、前記ウの主張について検討すると、前記(2)に記載したのと同様の理由により、前記だ円の長軸の長さは、長軸が最も短いだ円により定まるものと解するのが合理的であり、さまざまなだ円が描けるものとはいえない。 すると、本件発明1、6~8及び本件特許明細書に、だ円が通る複数の点を何点、どのように取るかが何ら記載されておらず、特許権者意見書で主張するような「長軸の長さが最も短くなるような楕円」に近似することも記載されていないとしても、当業者は、「介在物の最大寸法」の測定方法を理解することができるから、前記ウの主張は採用できない。 (5)小括 したがって、本件特許請求の範囲の請求項1~8の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するので、前記第5の3の取消理由はいずれも理由がない。 4 まとめ よって、前記第5の1~3の取消理由はいずれも理由がない。 第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断 1 申立人林による特許異議申立理由について 申立人林による前記第4の1(1)ア及び(2)の特許異議申立理由はすでに検討したので、以下、そのほかの特許異議申立理由について検討する。 なお、ここでいう甲第1~4号証は、特段の注釈がない限り、前記第4の1(5)の申立人林が提出した甲第1~4号証である。 (1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について ア 進歩性欠如についての当審の判断 (ア)事案に鑑み、前記第6の1(2)アの相違点2の容易想到性について検討すると、甲1発明においてはそもそも1μm以上の寸法を有する「介在物」は存在しないことは、同イに記載のとおりであって、前記第6の1(1)ア(1b)、(1c)によれば、甲1発明は、最大直径が0.1μm程度の「介在物」ですら発生させないようにすることで、高い寸法精度および位置精度で形成された貫通孔を備え、かつ高い防錆性を有する蒸着マスクを製造するために用いられる金属板を提供するものである。 一方、前記相違点2に係る発明特定事項を有する本件発明1における金属板には「最大寸法が1μm以上」の「介在物」が存在することは、前記第6の1(2)イに記載のとおりである。 そして、最大直径が0.1μm程度の「介在物」ですら発生させないようにするものである甲1発明において、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとして、「最大寸法が1μm以上」である「介在物」を存在させるものとすることは、高い寸法精度および位置精度で形成された貫通孔を備え、かつ高い防錆性を有する蒸着マスクを製造するために用いられる金属板を提供する、という甲1発明の特長を損なうこととなるから、甲第2~4号証に記載された事項にかかわらず、当業者が容易になし得ることではない。 (イ)前記(ア)によれば、甲1発明において、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第2~4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2~8について検討しても事情は同じである。 イ 林意見書について (ア)申立人林の林意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 本件特許明細書には、「介在物の密度」の下限を「0.03個/mm2以上」とすることの技術的意義や作用、効果等について記載がなく、「介在物の密度」の数値範囲に臨界的意義や技術的意義はないので、「介在物の密度」の下限を「0.03個/mm2以上」とすることは、単なる設計事項に過ぎず、本件発明1は甲1発明から容易に想到し得たものである(2ページ下から5行~3ページ下から2行)。 (イ)以下、前記(ア)の主張について検討すると、甲1発明において、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲1発明の特長を損なうこととなることは、前記ア(ア)に記載のとおりである。 すると、「介在物の密度」の数値範囲の臨界的意義や技術的意義の有無にかかわらず、当業者は、甲1発明において、「介在物の密度」の下限を「0.03個/mm2以上」とするには至らないから、本件発明1は甲1発明から容易に想到し得たものではないので、前記(ア)の意見は採用できない。 ウ 小括 したがって、本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明、同甲第2号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第4の1(1)イの特許異議申立理由は理由がない。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について ア サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。 イ サポート要件違反についての当審の判断 (ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、更に、以下a~bの記載がある。 a 「【0001】 本発明は、蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法に関する。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 蒸着マスクを製造するための蒸着マスク用基材は、例えば、鉄‐ニッケル系合金製の金属板である。金属板の母材に含まれる酸素は、金属板の熱膨張係数、すなわち、蒸着マスクの熱膨張係数を高める一因である。そこで、金属板の製造においては、母材に含まれる酸素の量を低減するために、脱酸剤による脱酸処理が行われる。脱酸処理では、金属を含む脱散剤を母材に混合した後、酸素などを含む脱酸剤を母材から取り除く。脱酸剤の多くは母材から取り除かれるが、一部の脱酸剤は、母材から取り除かれずに介在物として母材から製造された金属板のなかに残る。こうした介在物は、金属板に形成された孔における寸法の精度、ひいては、蒸着マスクを用いて形成された有機層における寸法の精度を低下させる一因となることがある。 【0005】 本発明は、蒸着対象に形成される層における寸法の精度を高めることを可能とした蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法を提供することを目的とする。」 b 「【課題を解決するための手段】 【0006】 上記課題を解決するための蒸着マスク用基材は、鉄‐ニッケル系合金製の金属板のエッチングによって複数の貫通孔を有した蒸着マスクを製造するために用いられる前記金属板を備える蒸着マスク用基材である。前記金属板は、前記金属板の表面および前記金属板の内部に介在物を含む。前記金属板の厚さは、15μm以上40μm以下であり、前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度は、2.0個/mm2以下である。 ・・・ 【0010】 上記構成によれば、介在物の密度がより高い構成や、最大寸法がより大きい構成と比べて、金属板がエッチングされたときに、金属板のなかで孔が形成される領域に介在物が位置する確率を低くすることができる。それゆえに、蒸着マスクが備える孔における寸法の精度を高めることができ、結果として、蒸着マスクを用いて蒸着対象に形成された層における寸法の精度を高めることができる。」 (イ)前記(ア)a、bによれば、本件発明は、「蒸着マスク用基材」の金属板の中に残る介在物は、金属板に形成された孔における寸法の精度、ひいては、蒸着マスクを用いて形成された有機層における寸法の精度を低下させる一因となることがあるので、蒸着対象に形成される層における寸法の精度を高めることを可能とした蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法を提供することを課題(以下、「本件課題」という。)とするものである。 すなわち、前記本件課題を解決するための「蒸着マスク用基材」の金属板は、前記金属板の表面および前記金属板の内部に介在物を含み、前記金属板の厚さが15μm以上40μm以下であり、前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法が10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が2.0個/mm2以下であるものであって、そのような構成によれば、介在物の密度がより高い構成や、最大寸法がより大きい構成と比べて、金属板がエッチングされたときに、金属板のなかで孔が形成される領域に介在物が位置する確率を低くすることができ、蒸着マスクが備える孔における寸法の精度を高めることができ、結果として、蒸着マスクを用いて蒸着対象に形成された層における寸法の精度を高めることができるものである。 そして、金属板の表面および前記金属板の内部に介在物を含み、前記金属板の厚さが15μm以上40μm以下であり、前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法が10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度が2.0個/mm2以下であることは、本件発明1の「前記金属板は、前記金属板の表面および前記金属板の内部に介在物を含み、前記金属板の厚さは、15μm以上40μm以下であり、前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下であり、前記平面視において前記最大寸法が1μm以上である前記介在物の密度は、0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下である」との発明特定事項を満たすものである。 (ウ)前記(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の前記発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるものである。 そして、このことを前記アの判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するものであり、本件特許請求の範囲の請求項2~8について検討しても事情は同じである。 申立人林は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件発明に係る「蒸着マスク用基材」を製造する際の圧延条件や鋳造工程が記載されていないことを理由に、本件特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たさない旨を主張するが(前記第4の1(3))、本件特許明細書の発明の詳細な説明に前記圧延条件や鋳造工程が記載されていないとしても、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることに変わりはないから、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しなくなるものではないので、申立人林の前記主張は採用できない。 ウ 小括 したがって、前記第4の1(3)の特許異議申立理由は理由がない。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について 本件特許明細書の記載に接した当業者は、全ての「介在物」を構成する元素の総量において、「介在物」中のMgの割合が多く、Alの割合が少なくなるように脱酸剤の量と組成を調整した上で、金属板の厚さが15μm以上40μm以下となるように母材を圧延する際に当業者が採用する通常の圧延条件で母材を圧延することによって、前記金属板の「介在物の最大寸法」を「10μm以下」とし、「介在物の密度」を「0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下」とできることを理解することができることは、前記第6の2(2)カに記載のとおりである。 すると、当業者は、これら圧延工程と鋳造工程により本件発明6~8において特定される「介在物」が得られることを理解することができるから、本件発明6~8における発明特定事項が不足しているわけではないので、特許請求の範囲の請求項6~8の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記第6の3(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明6~8は明確であるといえるので、前記第4の1(4)の取消理由は理由がない。 (4)申立人林による特許異議申立理由についてのまとめ よって、前記第4の1の申立人林による特許異議申立理由はいずれも理由がない。 2 申立人佐藤による特許異議申立理由について 申立人佐藤による前記第4の2(4)ア~ウ、カ、(5)ア及びエの特許異議申立理由はすでに検討したので、以下、そのほかの特許異議申立理由について検討する。 なお、ここでいう甲第1~19号証は、特段の注釈がない限り、前記第4の1(5)の申立人佐藤が提出した甲第1~19号証である。 (1)特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について ア 甲第1号証を主引用例とした場合について (ア)甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明 a 甲第1号証には、以下の(1A)~(1C)の記載がある。 (1A)「【0096】 [試験例5] 30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例5のインバー圧延シートとした。 ・・・ 【0101】 [粒子痕の計数] 試験例5のインバー圧延シートにおける表面の一部を表面として含む3つの試験片であって、一辺の長さが2mmである正方形状を有する試験片を作成した。また、試験例6から試験例9の各々のインバーシートにおけるレジスト用処理面の一部を表面として含む3つの試験片であって、一辺の長さが2mmである正方形状を有する試験片を作成した。 【0102】 走査電子顕微鏡(同上)を用いて各試験片の表面を観察し、各試験片が有する粒子痕を計数した。なお、粒子痕はインバー圧延シートあるいはインバーシートから金属酸化物の粒子が脱離した痕跡であり、各試験片では、第1粒子痕および第2粒子痕の少なくとも一方が認められた。粒子痕を計数した結果は、以下の表2に示す通りであった。 【0103】 図19が示すように、第1粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略円状の領域を区画し、半球状を有した窪みである。第1粒子痕の径は、3μm以上5μm以下であることが認められた。 【0104】 これに対して、図20が示すように、第2粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略楕円状の領域を区画し、楕円錘状を有した窪みである。第2粒子痕の長径は、3μm以上5μm以下であることが認められた。 ・・・ 【0107】 表2が示すように、試験例5では、試験片1が1個の第1粒子痕を有することが認められ、試験片2および試験片3はいずれも粒子痕を有しないことが認められた。すなわち、試験例5において、第1粒子痕の合計が1個であり、第2粒子痕の合計が0個であることが認められた。」 b 前記a(1A)、(1B)によれば、甲第1号証には、 「30μmの厚さを有したインバー圧延シートを準備し、試験例5のインバー圧延シートとし、 試験例5のインバー圧延シートにおける表面の一部を表面として含む3つの試験片であって、一辺の長さが2mmである正方形状を有する試験片を作成し、 走査電子顕微鏡を用いて各試験片の表面を観察し、各試験片が有する粒子痕を計数したものであり、ここで、粒子痕はインバー圧延シートあるいはインバーシートから金属酸化物の粒子が脱離した痕跡であり、各試験片では、第1粒子痕および第2粒子痕の少なくとも一方が認められたものであり、 第1粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略円状の領域を区画し、半球状を有した窪みであり、第1粒子痕の径は、3μm以上5μm以下であることが認められたものであり、 第2粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略楕円状の領域を区画し、楕円錘状を有した窪みであり、第2粒子痕の長径は、3μm以上5μm以下であることが認められたものであり、 試験例5において、第1粒子痕の合計が1個であり、第2粒子痕の合計が0個であることが認められた、インバー圧延シート。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (イ)甲第2号証に記載された事項 甲第2号証には、以下の(2A)の記載がある。 (2A)「近年、ステンレス鋼をはじめ、Fe-Ni系合金、スーパーステンレス鋼といった特殊鋼の分野において、高清浄化の要求が高まっている。・・・シャドウマスクやリードフレーム用途のFe-Ni系合金では、エッチングあるいはパンチングによる精密加工を施すため、より厳格になり、10μmほどの介在物が悪影響を及ぼす場合もある。」(29ページ左欄2行~右欄1行) (ウ)甲第3号証に記載された事項 甲第3号証には、以下の(3A)の記載がある。 (3A)「近年、ステンレス鋼をはじめ、Fe-Ni系合金、スーパーステンレス鋼といった特殊鋼の分野において、高清浄化の要求が高まっている。・・・シャドウマスクやリードフレーム用途のFe-Ni系合金では、エッチングあるいはパンチングによる精密加工を施すため、よりシビアになり、10μmほどの介在物が悪影響を及ぼす場合もある。」(229ページ2行~8行) (エ)甲第4号証に記載された事項 甲第4号証には、以下の(4A)の記載がある。 (4A)「エッチング材料としては高清浄化*10が重要で,そのためには材料中に微量に含まれるC,N,O,SおよびPを除去するとともに,同時に非金属介在物の除去,または,無害化する必要がある。」(109ページ下から4行~下から2行) (オ)甲第5号証に記載された事項 甲第5号証には、以下の(5A)の記載がある。 (5A)「[0025]上記メタルマスク基材11によれば、三次元表面粗さSaが0.11μm以下であり、かつ、三次元表面粗さSzが3.17μm以下である。そのため、第1面11aと第1面11aに貼り付けられる第1ドライフィルムレジスト12との間に隙間が形成されにくくなり、第1ドライフィルムレジスト12とメタルマスク基材11の第1面11aとの界面における密着性が高まる。・・・」 (カ)甲第6号証に記載された事項 甲第6号証には、以下の(6A)の記載がある。 (6A)「【0018】 以上の工程で、第1及び第2の基板10,20を取り付けることができる。図7に示すように、複数の第2の基板20の厚みにバラツキがあるなどの理由で、その高さが均一でない場合、砥石40などで、第2の基板20の表面を研磨してもよい。これによれば、複数の第2の基板20の表面が平坦化するので、蒸着などを行う対象物との密着性を高めることができる。」 (キ)甲第7号証に記載された事項 甲第7号証には、以下の(7A)の記載がある。 (7A)「【0012】 シャドウマスク用Fe-Ni系合金中のアルミナ系介在物は、ロールマーク発生の主要因とはなる。しかし、それであっても、合金製造における精錬・脱酸工程にてAl脱酸剤を使用することは、その優れた強脱酸能の点で採用の好ましいものである。そこで、本発明においては、精錬工程では十分量のAl脱酸剤が使用できながらも、冷間圧延の前、すなわち鋳塊の状態では、組織中に粗大かつ多量のアルミナ系介在物は低減されたFe-Ni系合金材料を検討した。 【0013】 その結果、精錬工程におけるAl脱酸剤の使用に加えて、同じく強脱酸能を有するMgも併用することで、上記の目的が達成できることを見いだした。すなわち、Al脱酸剤の使用のもとでMgを導入することにより、アルミナ系介在物に加えて、やはりロールマークの発生要因とされるMgO・Al2O3系スピネル介在物も還元が促進され、それら粗大なものの低減および微細化が達成できる。そして、その結果、組織中の介在物形態を構成するMgO系介在物は、凝集し難く微細である。」 (ク)甲第8号証に記載された事項 甲第8号証には、以下の(8A)の記載がある。 (8A)「1.緒言 溶鋼の脱酸剤としては広くAlが使われているが、Al脱酸によって生成したアルミナは一部がクラスター化して溶鋼中に残存する。これらのアルミナは鋼中非金属介在物となり、製品特性に有害であるので、その粒径や分布、組成を制御することが必要とされている。今回は、Al脱酸に加え、MgO-Al間の反応によりその場製造したMg蒸気を利用したMg溶鋼脱酸1)を行い、その複合脱酸プロセスにおける介在物の挙動を調査した。」(128ページ左欄1行~10行) (ケ)甲第9号証に記載された事項 甲第9号証には、以下の(9A)~(9B)の記載がある。 (9A)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 酸化物系介在物の含有量が酸素換算で0.003wt%以下であり、酸化物系介在物中のMgO/Al2O3重量比率が0.25以上であることを特徴とするエッチング穿孔性に優れたFe-Ni系合金板。」 (9B)「【0019】すなわち、酸化物系介在物の総量が酸素換算で30ppm以下(0.003wt%以下)の領域において、MgO/Al2O3重量比率が0.25以上になると不良率は1%以下に抑えられており、さらに0.40以上では全く不良が発生していない。」 (コ)対比・判断 a 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「インバー圧延シート」及び「金属酸化物の粒子」は、それぞれ、本件発明1における「金属板」及び「介在物」に相当するものである。 ここで、甲1発明においては、「介在物」の寸法について、「介在物」の粒子が脱離した後の痕跡である第1粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略円状の領域を区画し、半球状を有した窪みであり、第1粒子痕の径は、3μm以上5μm以下であること、及び、第2粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略楕円状の領域を区画し、楕円錘状を有した窪みであり、第2粒子痕の長径は、3μm以上5μm以下であることが特定されているが、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」であることは特定されていない。 すると、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。 ・相違点1:本件発明1は、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、第1粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略円状の領域を区画し、半球状を有した窪みであり、第1粒子痕の径は、3μm以上5μm以下であり、第2粒子痕は試験片の表面と対向する平面視において略楕円状の領域を区画し、楕円錘状を有した窪みであり、第2粒子痕の長径は、3μm以上5μm以下である点。 b 以下、前記aの相違点1について検討すると、甲1発明において、「介在物」の粒子が脱離した後の痕跡である第1粒子痕が試験片の表面と対向する平面視において略円状の領域を区画し、半球状を有した窪みであり、第1粒子痕の径は、3μm以上5μm以下であり、第2粒子痕が試験片の表面と対向する平面視において略楕円状の領域を区画し、楕円錘状を有した窪みであり、第2粒子痕の長径は、3μm以上5μm以下であるとしても、このことから直ちに、甲1発明における「介在物」が、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」となっているということはできないから、前記相違点1は実質的な相違点である。 すると、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえないのであり、本件発明6~8について検討しても事情は同じである。 c 更に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、甲第2~9号証には、「蒸着マスク用基材」の「金属板」の「介在物」を、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」とすることが記載も示唆もされるものではないから、甲1発明に甲第2~9号証に記載された事項を適用しても、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものには至らない。 すると、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2~9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2~8について検討しても事情は同じである。 d したがって、本件発明1及び6~8が甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものもないので、前記第4の2(1)ア、イの特許異議申立理由はいずれも理由がない。 イ 甲第10号証を主引用例とした場合について (ア)甲第10号証に記載された事項及び甲第10号証に記載された発明 a 甲第10号証には、以下の(10A)~(10B)の記載がある。 (10A)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 Ni:30~50重量%,Mn:0.1~0.5重量%,Si:0.02~0.2重量%,P:0.01重量%以下,Cr:0.05~1.0重量%,Co:0.1~1.0重量%及びAl:0.010重量%以下を含む組成をもち、非金属介在物中のMgO及びAl2 O3がそれぞれ5重量%以下及び40重量%以下に規制されていることを特徴とする表面性状に優れたFeーNi合金冷延板。」 (10B)「【0012】 【実施例】 実施例1:Ni含有量が約30重量%のフェロニッケルを溶解原料として使用し、Ni含有量を36重量%に成分調整したFeーNi合金溶湯の約80トンを電気炉で溶解した。電気炉出湯時のCr,P,Coの分析値は、それぞれ[Cr]=1.9~2.6重量%,[P]=0.018~0.022重量%,[Co]=0.1~0.9重量%であった。得られた溶湯を上底吹きが可能な転炉に装入し、CaOを添加した後、上吹き酸素量を変化させると共に炉底からArガスを所定量のArガスを供給して溶湯を酸化精錬した。その結果、[Cr]を0.05~1.0重量%,[P]を0.01重量%以下にするためには、(%CaO)/(%SiO2)の重量比に適性範囲のあることが判明した。・・・ 【0013】以上の結果から、[Cr]を0.05~1.0重量%,[P]を0.01重量%以下に低下させるためには、(%CaO)/(%SiO2)を2.5~3.9の範囲に調整することが有効であることが判った。酸化精錬によって生成したスラグを除去した後、本発明で規定した0.05~1.0重量%の[Cr]及び0.01重量%以下の[P]になった溶湯を取鍋に移し、真空脱ガス精錬炉に装入した。精錬炉においてAl添加により脱酸した後、鋳造工程を経て得られたスラブを1150℃の抽出温度で熱間圧延し、冷延ー焼鈍工程を経て板厚0.2mmの冷延コイルを製造した。得られた冷延コイルについて、表面疵発生の有無及び介在物の組成調査を行った。・・・ 【0014】ヒートNo.A~Eに示すように、本発明で規定した範囲にSi含有量,Al含有量を調整したFeーNi合金を溶製した場合には、素材中に観察される非金属介在物のMgO含有量が5重量%以下,Al2O3含有量が40重量%以下になっていた。この組成の介在物は、熱間圧延により粘性変形し、更に冷間圧延によって1~4μm程度に微細分散した。その結果、介在物に起因した表面疵は皆無であった。シャドウマスク用材料としての特性を調査するため、この表面疵のない冷延コイルをエッチングしたところ、エッチング不良は全く観察されなかった。・・・ ・・・ 【0016】 [図:0001393075000005.jpg] 」 b 前記a(10A)~(10B)によれば、甲第10号証には、 「Ni:30~50重量%,Mn:0.1~0.5重量%,Si:0.02~0.2重量%,P:0.01重量%以下,Cr:0.05~1.0重量%,Co:0.1~1.0重量%及びAl:0.010重量%以下を含む組成をもち、非金属介在物中のMgO及びAl2 O3がそれぞれ5重量%以下及び40重量%以下に規制されていることを特徴とする表面性状に優れたFeーNi合金冷延板であって、 Ni含有量が約30重量%のフェロニッケルを溶解原料として使用し、Ni含有量を36重量%に成分調整したFeーNi合金溶湯の約80トンを電気炉で溶解し、電気炉出湯時のCr,P,Coの分析値は、それぞれ[Cr]=1.9~2.6重量%,[P]=0.018~0.022重量%,[Co]=0.1~0.9重量%であり、得られた溶湯を上底吹きが可能な転炉に装入し、CaOを添加した後、上吹き酸素量を変化させると共に炉底からArガスを所定量のArガスを供給して溶湯を酸化精錬し、 酸化精錬によって生成したスラグを除去した後、0.05~1.0重量%の[Cr]及び0.01重量%以下の[P]になった溶湯を取鍋に移し、真空脱ガス精錬炉に装入し、精錬炉においてAl添加により脱酸した後、鋳造工程を経て得られたスラブを1150℃の抽出温度で熱間圧延し、冷延ー焼鈍工程を経て板厚0.2mmの冷延コイルを製造し、得られた冷延コイルについて、表面疵発生の有無及び介在物の組成調査を行ったところ、 素材中に観察される非金属介在物のMgO含有量が5重量%以下,Al2O3含有量が40重量%以下になっており、この組成の介在物は、熱間圧延により粘性変形し、更に冷間圧延によって1~4μm程度に微細分散した結果、介在物に起因した表面疵は皆無であった、Fe-Ni合金冷延板。」の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されているといえる。 (イ)甲第11号証に記載された事項 甲第11号証には、以下の(11A)の記載がある。 (11A)「【0002】 例えば、リードフレーム、シャドウマスクなどの電子部品は、フォトエッチング法を用いて製造されることが多い。これら電子部品の材料としては、鉄、鉄-ニッケル合金、鉄-コバルト-ニッケル合金など鉄系の金属薄板が広く用いられている。・・・」 (ウ)甲第12号証に記載された事項 甲第12号証には、以下の(12A)の記載がある。 (12A)「【0002】 Fe-Ni合金の薄板に高精細なエッチング加工を行う用途として、従来からリードフレーム材やシャドウマスク材等の各種マスク材が知られている。 ・・・ また、本願出願人も特開2004-39628号公報(特許文献3)として、2枚の金属板を中間層で接着した積層箔を用いた蒸着マスクを提案している。」 (エ)甲第13号証に記載された事項 甲第13号証には、以下の(13A)の記載がある。 (13A)「【0002】 例えば、リードフレームやメタルマスク等に使用されるFe-Ni系合金薄板には、例えば、エッチングやプレス等の工程に供するために各種の特性が要求されている。・・・」 (オ)甲第14号証に記載された事項 甲第14号証には、以下の(14A)の記載がある。 (14A)「【背景技術】 【0002】 リードフレームやメタルマスク等に使用されるFe-Ni系合金薄板には、例えば、エッチングやプレス等の加工を行い、他部材と組合わせて使用される。・・・」 (カ)甲第15号証に記載された事項 甲第15号証には、以下の(15A)の記載がある。 (15A)「【0002】 リードフレームやメタルマスク等に使用されるFe-Ni系合金薄板には、例えば、エッチングやプレス等の加工を行い、他部材と組合わせて使用される。・・・」 (キ)甲第16号証に記載された事項 甲第16号証には、以下の(16A)の記載がある。 (16A)「シャドーマスク製造技術を用いてこれをクリアしたのが大日本印刷。図1にプロセスフローを示す。まず,Fe-Ni合金などのメタルプレートの両面にフォトレジストをディップコーターでコーティングする。次に,エマルジョンガラスマスクを介してUV光をレジスト面に照射し真空密着露光する。・・・ 続いて,両面から水溶性現像液をスプレーしレジストを現像した後,まずレジストパターンが狭い面へエッチャントをスプレーしウエットエッチングし,開口部の寸法を決定する。・・・最後にレジストをスプレー方式で剥離する仕組み。」(113ページ左欄8行~25行) (ク)対比・判断 a 本件発明1と甲10発明とを対比すると、甲10発明における「Fe-Ni合金冷延板」及び「非金属介在物」は、それぞれ、本件発明1における「金属板」及び「介在物」に相当するものであるが、甲10発明には、「介在物」の寸法について、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」であることは記載されていない。 すると、本件発明1と甲10発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。 ・相違点1’:本件発明1は、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲10発明は前記発明特定事項を有しない点。 b 以下、前記aの相違点1’の容易想到性について検討すると、甲第7~9号証及び甲第11~16号証には、「蒸着マスク用基材」の「金属板」の「介在物」を、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」とすることが記載も示唆もされるものではないから、甲10発明に甲第7~9号証及び甲第11~16号証に記載された事項を適用しても、前記相違点1’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものには至らない。 すると、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明及び甲第7~9号証及び甲第11~16号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2~8について検討しても事情は同じである。 c したがって、本件発明1~8は、甲第10号証に記載された発明及び甲第7~9号証及び甲第11~16号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものはないので、前記第4の2(1)ウの特許異議申立理由は理由がない。 ウ 小括 よって、前記第4の2(1)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。 (2)特許法第29条の2所定の規定違反(拡大先願)について ア 甲第17号証の記載事項及び甲第17号証に記載された発明 (ア)特願2016-180384号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面である甲第17号証には、以下の(17A)~(17B)の記載がある。 (17A)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30~50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するメタルマスク用素材であって、 前記メタルマスク用素材1g当たりにおいて、 直径が10.0μmを超える酸化物系非金属介在物が2.0個以下であり、 直径が6.0~10.0μmである酸化物系非金属介在物の個数が20.0個以下であり、 前記素材は板厚0.25mm以下の薄板形状であることを特徴とする、メタルマスク用素材。」 (17B)「【0018】 以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。 Fe-Ni合金原料をVIMにより溶解し、第一消耗電極を5本製造した。うち3本の第一消耗電極にはVARで第一再溶解を施して第二消耗電極とした後、さらにVARで第二再溶解を行って本発明例(No.1~No.3)の鋼塊を作製した。このときの第二消耗電極径D1の鋳型内径D2との比D1/D2は、約0.91であった。残りの2本の第一消耗電極には、No.1、2と同様の条件で第一再溶解のみを行い、比較例(No.11、No.12)の鋼塊を作製した。本発明例および比較例の鋼塊の化学組成を表1に示す。このときの第一再溶解および第二再溶解時の炉内真空度は、4Pa以下であった。得られた本発明例および比較例の鋼塊は、熱間鍛造-熱間圧延で厚さ2~3mmに仕上げる工程の後、950~1050℃の温度で2回の焼鈍を含む冷間圧延を行い、厚さ0.1mm(およそ圧下率95%以上)のFe-Ni合金冷間圧延材を作製した。 【0019】 【表1】 [図:0001393075000006.jpg] 【0020】 続いて得られた試料における、酸化物系非金属介在物の組成、サイズと個数を測定した。No.1、2、3、11、12の冷間圧延材から1gの試料を採取し、混酸溶液等で溶解後、フィルターでろ過し、フィルター上の残る酸化物系非金属介在物をSEMで観察し、酸化物系非金属介在物の組成、サイズ、個数を測定した。なおこれらの酸化物系非金属介在物のサイズは、観察された酸化物系非金属介在物の面積と等しい円面積を持つ円の直径(面積円相当径)で測定した。この結果を表2に示す。・・・ 【0021】 【表2】 [図:0001393075000007.jpg] 【0022】 測定により、本発明例であるNo.1~No.3の試料、および比較例であるNo.11、No.12の試料における酸化物系非金属介在物は、Al-Mg-O系(MgO・Al2O3系)のスピネル系が全体の50%以上であった。また表2の結果より、本発明例の試料はNo.1、No.2においては10.0μmを越える大きな酸化物系非金属介在物が存在せず、No.3においても10.0μmをわずかに超えた介在物が1個観察されるのみであった。また本発明例における酸化物系非金属介在物のサイズは、比較例より微細化されていることが確認できた。6.0μm以上の酸化物系非金属介在物の個数についても、本発明例の試料は、比較例の試料の約7%以下の値まで酸化物系非金属介在物個数が減少していることが確認できた。」 (イ)前記(ア)(17A)~(17B)の試料No.2に注目すれば、甲第17号証には、 「メタルマスク用素材であって、 Fe-Ni合金原料をVIMにより溶解し、第一消耗電極を5本製造し、第一消耗電極にはVARで第一再溶解を施して第二消耗電極とした後、さらにVARで第二再溶解を行って鋼塊を作製し、このときの第二消耗電極径D1の鋳型内径D2との比D1/D2は、約0.91であり、 このときの第一再溶解および第二再溶解時の炉内真空度は、4Pa以下であり、 得られた鋼塊は、熱間鍛造-熱間圧延で厚さ2~3mmに仕上げる工程の後、950~1050℃の温度で2回の焼鈍を含む冷間圧延を行い、厚さ0.1mm(およそ圧下率95%以上)のFe-Ni合金冷間圧延材を作製したものであり、 作製した冷間圧延材から1gの試料を採取し、混酸溶液等で溶解後、フィルターでろ過し、フィルター上の残る酸化物系非金属介在物をSEMで観察し、酸化物系非金属介在物の組成、サイズ、個数を測定したものであり、これらの酸化物系非金属介在物のサイズは、観察された酸化物系非金属介在物の面積と等しい円面積を持つ円の直径(面積円相当径)で測定したところ、10.0μm超の酸化物系非金属介在物の個数が0、酸化物系非金属介在物のサイズ(最大値)が8.8μm、酸化物系非金属介在物の個数(6.0~10.0μm)が2個である、メタルマスク用素材。」の発明(以下、「先願甲17発明」という。)が記載されているといえる。 イ 対比・判断 (ア)本件発明1と先願甲17発明とを対比すると、先願甲17発明における「Fe-Ni合金冷間圧延材」及び「酸化物系非金属介在物」は、それぞれ、本件発明1における「金属板」及び「介在物」に相当するものであるが、先願甲17発明には、「介在物」の寸法について、観察された「介在物」の面積と等しい円面積を持つ円の直径(面積円相当径)で測定したサイズと個数を測定したところ、10.0μm超の「介在物」の個数が0、「介在物」のサイズ(最大値)が8.8μm、「介在物」の個数(6.0~10.0μm)が2個であることが記載されているが、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」であることは記載されていない。 すると、本件発明1と先願甲17発明とは、少なくとも、以下の点で相違する。 ・相違点1”:本件発明1は、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、先願甲17発明は、観察された「介在物」の面積と等しい円面積を持つ円の直径(面積円相当径)で測定したサイズと個数を測定したところ、10.0μm超の「介在物」の個数が0、「介在物」のサイズ(最大値)が8.8μm、「介在物」の個数(6.0~10.0μm)が2個である点。 (イ)以下、前記(ア)の相違点1”について検討すると、先願甲17発明において、観察された「介在物」の面積と等しい円面積を持つ円の直径(面積円相当径)で測定したサイズと個数を測定したところ、10.0μm超の「介在物」の個数が0、「介在物」のサイズ(最大値)が8.8μm、「介在物」の個数(6.0~10.0μm)が2個であるとしても、このことから直ちに、先願甲17発明における「介在物」が、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」となっているということはできない。 また、「蒸着マスク用基材」の「金属板」の「介在物」を、「前記表面と対向する平面視において、前記介在物の最大寸法は、前記介在物の輪郭における複数の点を通り前記輪郭に外接する楕円の長軸の長さであって、10μm以下」とすることが、本件特許の出願日当時の周知技術や技術常識であったことを示す証拠もないから、先願甲17発明において前記相違点1”に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることが、単なる設計変更や周知技術の付加であるということもできない。 (ウ)前記(イ)によれば、前記相違点1”は実質的な相違点であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が先願甲17発明と同一であるとはいえないのであり、本件発明6~8について検討しても事情は同じである。 (エ)したがって、本件発明1及び6~8は、甲第17号証に記載された発明と同一であるとはいえないので、前記第4の2(2)の特許異議申立理由は理由がない。 (3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について ア 申立人佐藤が前記第4の2(3)ア、イにおいて主張しているように、本件特許に係る発明における介在物の大部分が蒸着マスク用基材に埋もれており、平面視で確認できる介在物の最大寸法は実際の最大寸法ではないとしても、また、本件発明6~8において介在物の寸法精度と密度を調整するための圧延条件や板形成工程を特定していないとしても、前記1(2)イ(イ)に記載したとおり、当業者は、本件発明1~8の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるものであり、本件特許請求の範囲の請求項1~8の記載はサポート要件に適合するので、前記第4の2(3)ア、イの特許異議申立理由はいずれも理由がない。 イ 申立人佐藤の佐藤意見書における、新たなサポート要件違反についての主張は、概略、以下のとおりである。 本件発明2においては、最大寸法が1μm未満の介在物の主成分がアルミニウムである介在物を数多く含有するものも含まれるが、そのような蒸着マスク用基材である場合、「介在物12中のアルミニウムの含有量が抑えられることによって、不動態の形成により加工の精度が低下することが抑えられる」(本件特許明細書の段落【0040】)ことにはならないから、新たに、本件特許請求の範囲の請求項2及び3~5の記載はサポート要件を満たさないものとなる(13ページ23行~最終行)。 ウ 以下、前記イの主張について検討すると、前記1(2)イ(ウ)に記載したとおり、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるものである。 すると、当業者は、本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明2~5の発明特定事項によっても本件課題を解決できることを理解することができるから、本件特許請求の範囲の請求項2~5の記載はサポート要件に適合するので、前記イの主張は採用できない。 (4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について ア 本件発明1及び6~8においては、「介在物の密度」が「0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下」と特定されているから、本件発明1及び6~8は「介在物の密度」が「0個/mm2」のものを含むものではない。 そして、前記第6の2(2)に記載したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するので、前記第4の2(4)エ及びキの特許異議申立理由はいずれも理由がない。 イ 前記第6の2(2)イ(イ)(段落【0041】、【0096】、【0101】)によれば、本件特許明細書の段落【0097】【表2】には、各介在物を構成する元素の総量におけるAl、Mg及びMnの割合が記載されているのに対して、段落【0103】【表3】の面積比(%)は、1μm以上の最大寸法を有した各介在物の面積の総和である第1の値に対する、各分類に属する各介在物の面積の総和である第2の値の比なのであって、こちらは、各介在物を構成する元素の総量について算出したものではないから、本件特許明細書の段落【0097】【表2】の数値と段落【0103】【表3】の数値を対比すること自体、不適当であるから、前記第4の2(4)オの特許異議申立理由は前提において誤っているといわざるを得ない。 そして、前記第6の2(2)カに記載したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するので、前記第4の2(4)オの特許異議申立理由は理由がない。 ウ したがって、前記第4の2(4)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。 (5)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について ア 本件発明1~8においては、「介在物の密度」が「0.03個/mm2以上2.0個/mm2以下」であって、「介在物の密度」が下限値を有するから、特許請求の範囲の請求項1~8の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記第6の3(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1~8は明確であるといえるので、前記第4の2(5)イの特許異議申立理由は理由がない。 イ 前記第6の2(2)イ(イ)(段落【0091】)によれば、本件特許明細書の実施例においては、介在物の各元素の組成を、エネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定したものであり、この場合、当業者は、前記各元素の組成を、当該EDXにより正確に測定できる範囲において測定したものと理解できる。 そして、前記第6の2(2)イ(イ)(段落【0104】)によれば、当業者は、前記エネルギー分散型X線分光法(EDX)で測定した結果、Mgを50質量%以上含む介在物が「第1介在物」であり、Alを50質量%以上含む介在物が「第2介在物」であることを理解できるのであって、仮に、EDXによっては、大きい介在物の元素組成の全てが測定できないとしても、当業者は、本件特許明細書の記載に基づいて「第1介在物」及び「第2介在物」を区別することができるから、特許請求の範囲の請求項2~5の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記第6の3(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明2~5は明確であるといえるので、前記第4の2(5)ウの特許異議申立理由は理由がない。 ウ 本件特許明細書の段落【0024】の「金属板11の表面11Fと対向する平面視にて所定の面積を有する領域が単位領域11F1である。」との記載によれば、本件発明4及び5の「単位領域」が、「蒸着マスク用基材」において決められた一定の範囲の領域であって、「前記最大寸法が1μm以上である前記第1介在物における前記平面視での総面積」と「前記最大寸法が1μm以上である全ての前記介在物における前記平面視での総面積」の比や、「前記最大寸法が1μm以上である前記第2介在物における前記平面視での総面積」と「前記最大寸法が1μm以上である全ての前記介在物における前記平面視での総面積」の比を測定する所定の面積を有する領域を意味することは当業者にとって明らかであるから、特許請求の範囲の請求項4及び5の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記第6の3(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明4及び5は明確であるといえるので、前記第4の2(5)オ及びキの特許異議申立理由はいずれも理由がない。 エ 本件発明5は、特許請求の範囲の請求項2を引用するものであるから、前記第6の3(3)に記載したのと同様の理由により、当業者は、本件発明5の「複数の前記介在物」の「前記介在物」も、「前記金属板の表面および前記金属板の内部に含まれる」「介在物」を意味することを理解できるので、特許請求の範囲の請求項5の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記第6の3(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明5は明確であるといえるので、前記第4の2(5)カの特許異議申立理由は理由がない。 オ したがって、前記第4の2(5)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。 (6)申立人佐藤による特許異議申立理由についてのまとめ よって、前記第4の2の申立人佐藤による特許異議申立理由はいずれも理由がない。 3 まとめ 以上のとおり、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由はいずれも理由がない。 第8 むすび 以上のとおりであるので、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立て理由によっては、本件請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701115

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