特許異議申立
2022-701130
金属板、蒸着用マスクおよびその製造方法
- 審判番号
- 2022-701130
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-542774
- 登録番号
- 7072512
- 請求日
- 2022年11月17日
- 審決日
- 2024年07月01日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー イノテック カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】小野 誠
- 【権利者代理人】金山 賢教
- 【権利者代理人】重森 一輝
- 【権利者代理人】安藤 健司
- 【権利者代理人】市川 英彦
- 【権利者代理人】櫻田 芳恵
- 【権利者代理人】川嵜 洋祐
- 【権利者代理人】五味渕 琢也
- 【権利者代理人】飯野 陽一
- 【権利者代理人】市川 祐輔
- 【権利者代理人】森山 正浩
- 【権利者代理人】岩瀬 吉和
- 【異議申立人】山田 芳男
- 【異議申立人】小海 善史
- 【異議申立人】佐藤 惠一
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 審判官 小野 久子
- 分類
- P1651.121-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.851-YAA(C23C) / P1651.853-YAA(C23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第2条第3項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7072512号発明「金属板、蒸着用マスクおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7072512号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7072512号の請求項1~2、4~10に係る特許を維持する。
特許第7072512号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7072512号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2017年(平成29年)1月31日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2016年2月16日 (KR)大韓民国 2016年4月1日 (KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、令和4年5月12日にその請求項1~10に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年11月17日に特許異議申立人 山田 芳男(以下、「申立人山田」という。)により甲第1号証~甲第6号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年同月18日に特許異議申立人 小海 善史(以下、「申立人小海」という。)により甲第1号証~甲第9号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年同月同日に特許異議申立人 佐藤 惠一(以下、「申立人佐藤」という。)により甲第1号証~甲第6号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、令和5年2月15日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月17日に、特許権者より参考文献1を添付して意見書(以下、「特許権者意見書1」という。)の提出及び訂正の請求がされ、同年6月20日に申立人佐藤より意見書が提出され、同年同月29日に申立人小海より意見書が提出され、同年7月3日に申立人山田より意見書が提出され、同年8月1日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年11月1日に、特許権者より参考文献2~3を添付して意見書(以下、「特許権者意見書2」という。)の提出及び訂正の請求がされ、同年同月24日に特許権者より手続補正書が提出され、同年12月25日に申立人佐藤より意見書(以下、「佐藤意見書」という。)が提出され、同年同月26日に申立人小海より参考文献4~5を添付して意見書(以下、「小海意見書」という。)が提出され、令和6年1月9日に申立人山田より参考資料1~2を添付して意見書(以下、「山田意見書」という。)が提出され、同年3月4日付で当審より訂正拒絶理由及び審尋が通知され、その指定期間内の同年4月30日に特許権者より手続補正書及び参考文献4、5を添付して意見書(以下、「特許権者意見書3」という。)が提出されたものである。
なお、令和5年11月1日に特許権者により訂正の請求がされたので、同年5月17日にされた訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容及び一群の請求項
令和5年11月1日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を「特許第7072512号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める。」とするものであって、その訂正の内容は、次のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
なお、令和5年11月24日に提出された手続補正書により訂正特許請求の範囲が補正されているが、当該補正は、補正前の「【請求項3(削除)】」という記載を「【請求項3】(削除)」と補正し、補正前の請求項10の「FeCl336重量%を含む」という記載を「FeCl336重量%を含む」と補正するものである。
また、令和6年3月4日付の訂正拒絶理由通知に応答して同年4月30日に提出された手続補正書により訂正特許請求の範囲が補正されているが、当該補正は、補正前の請求項1の「FeCl3を含む」という記載を「FeCl3を含む」と補正するものである。
そして、これらの補正はいずれも軽微な瑕疵の補正といえ、請求の要旨を変更するものではないから、特許法第120条の5第9項において引用する同法第131条の2第1項の規定により、認容されるものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「{220}結晶面の割合は50%ないし70%であり」
と記載されていたのを、
「{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%であり」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4~10も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「前記内部層のエッチング速度よりも遅い、金属板。」
と記載されていたのを、
「前記内部層のエッチング速度よりも遅く、
前記{220}結晶面の割合は、{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合であり、
前記金属板は、鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む、
金属板。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4~10も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4) 一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2~10が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~10は一群の請求項であり、訂正事項1~3に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1~10を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「{220}結晶面の割合」を、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」ということがある。)の段落【0243】(下記第6の1(2)ア(ウ))の記載に基づいて、「XRDで測定した時」のものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲における「{220}結晶面の割合」を、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」に限定すると共に、「金属板」を「鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、「{220}結晶面の割合」が、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
そして、本件特許明細書の段落【0221】(下記第6の1(2)ア(ウ))の記載によれば、本件特許に係る発明の「金属板」が、「鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む」ものであることを理解することができる。
また、本件特許明細書の段落【0244】~【0247】の記載(下記第6の1(2)ア(ウ))によれば、本件特許明細書の実施例3の「金属板」の表面から1μm厚さの「外部層」は、{220}結晶面58.1%、{200}結晶面40.8%、{111}結晶面1.0%が測定されたのであり、これらの結晶面の合計は58.1%+40.8%+1.0%=99.9%である。
同様に、実施例4の「外部層」の結晶面の合計は、68.9%+28.0%+3.1%=100%であり、比較例3の「外部層」の結晶面の合計は、27.2%+67.3%+5.5%=100%であり、これら実施例及び比較例の「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和」が概略100%となっていることからみれば、本件特許に係る発明における「外部層」の「{220}結晶面の割合」は、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和」を100%としたときの「{220}結晶面のX線回折強度の割合」、すなわち、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」であることを理解することができる。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4) 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては本件訂正前の全ての請求項についてされているので、訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるので、本件訂正により訂正された請求項1~2及び4~10に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明2」、「本件発明4」~「本件発明10」などといい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~2及び4~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
蒸着用マスクの製作に使用される金属板において、
前記金属板は、
前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層と、
前記外部層以外の内部層と、を含み、
前記外部層は、{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%であり、
FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅く、
前記{220}結晶面の割合は、{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合であり、
前記金属板は、鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む、
金属板。
【請求項2】
前記金属板の厚さは、10μmないし30μmである、請求項1に記載の金属板。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記金属板は、第1面および前記第1面と対向する第2面を有し、
前記第1面から1μm以下の厚さ範囲で定義される第1外部層および前記第2面から1μm以下の厚さ範囲で定義される第2外部層を含み、
前記第1面は第1面孔を含み、前記第2面は第2面孔を含む、請求項1に記載の金属板を用いた蒸着用マスク。
【請求項5】
前記金属板は、複数の貫通孔を含み、
いずれか一つの貫通孔である基準孔の水平方向の直径Cxと垂直方向の直径Cyは、前記基準孔に隣接する孔それぞれの水平方向の直径Cxの偏差と、垂直方向の直径Cyの偏差とが2%ないし10%である、請求項1に記載の金属板を用いた蒸着用マスク。
【請求項6】
前記基準孔と隣接孔間のサイズ偏差は、±3μm以内である、請求項5に記載の金属板を用いた蒸着用マスク。
【請求項7】
前記貫通孔は、縦軸で一列に配置され、横軸で一列に配置されるものを含む、請求項5に記載の金属板を用いた蒸着用マスク。
【請求項8】
前記貫通孔の幅は20μmないし40μmである、請求項5に記載の金属板を用いた蒸着用マスク。
【請求項9】
前記第1面孔V1の高さH1は、前記金属板の厚さとの比率が1:(3~30)である、請求項4に記載の金属板を用いた蒸着用マスク。
【請求項10】
FeCl336重量%を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅い、請求項1に記載の金属板。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 申立人山田による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証~甲第6号証は、後記(4)に記載された、申立人山田が提出した甲第1号証~甲第6号証である。
(1) 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明においては、内部層の結晶面の割合が特定されていないから、前記請求項1に係る発明は、外部層のエッチング速度が内部層のエッチング速度よりも遅くならず、発明の課題を解決しない「金属板」を含むので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(6ページ11行~7ページ8行)。
(2) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における、「前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層と、前記外部層以外の内部層と、を含み、前記外部層は、{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合は50%ないし70%」である、との発明特定事項を満たす「金属板」を製造するための圧延条件が記載されていない。
このため、仮に、通常、「金属板」を圧延した場合に外部層と内部層とで形成される集合組織が異なるとしても、前記発明の詳細な説明の記載は、前記発明特定事項を満たす「金属板」を製造するために、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから、実施可能要件を満たさない(7ページ9行~11ページ8行)。
(3) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(11ページ9行~15ページ8行)。
(4) 証拠方法
甲第1号証:本件特許の審査過程で特許権者が令和元年12月2日に提出した意見書
甲第2号証:特開平3-97831号公報
甲第3号証:特開平4-328853号公報
甲第4号証:特開2015-98650号公報
甲第5号証:特開平2-270941号公報
甲第6号証:特開2010-214447号公報
参考資料1:岩井 哲,「X線分析」,材料と環境,1992年,Vol.42,No.4,p.236-244
参考資料2:小林 信太郎,「表面X線回折」,J.Jpn.Soc.Colour.Mater.,2014年,Vol.87,No.1,p.31-35
なお、参考資料1及び2は山田意見書に添付して提出されたものである。
2 申立人小海による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証~甲第9号証は、後記(5)に記載された、申立人小海が提出した甲第1号証~甲第9号証である。
(1) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
ア 結晶配向に対するX線回折強度での分析を使用する分野においては、測定対象の同一結晶面に対して入射させるX線の入射方向に応じてX線回折強度が異なり、結晶面の割合が異なって測定されることが技術常識であるのに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「前記外部層は、{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合は50%ないし70%であ」ることを測定する際のX線の入射方向が記載されていないから、前記発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、前記発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない(20ページ3行~28ページ14行、31ページ17行~22行)。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における、「前記外部層は、{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合は50%ないし70%であ」る、との発明特定事項を満たす「金属板」を製造するための圧延条件、アニーリング条件、熱処理条件が記載されていないから、当業者は、前記請求項1に係る「金属板」の製造方法を理解することができないので、前記発明の詳細な説明の記載は、当業者が前記請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、前記発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない(28ページ15行~29ページ12行、31ページ17行~22行)。
(2) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
前記(1)アに記載したのと同様の理由により、当業者は、「{220}結晶面の割合」がどのようにして測定されたものであるのかを理解することができないから、「{220}結晶面の割合」の意味が不明確であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は明確でない。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(29ページ13行~30ページ21行、31ページ17行~22行)。
(3) 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
前記(1)アに記載したのと同様の理由により、当業者は、「{220}結晶面の割合」がどのようにして測定されたものであるのかを理解することができないから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明により発明の課題を解決できるとはいえない。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(30ページ22行~31ページ22行)。
(4) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、甲第7号証に記載された発明、甲第8号証及び甲第9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(31ページ23行~35ページ20行)。
(5) 証拠方法
甲第1号証:井上 博史ら,「集合組織の測定と解析」,軽金属,1997年,Vol.47,No.4,p.246-257
甲第2号証:束中川 恵美子ら,「インバー合金の新しい展開 インバー合金のシャドウマスクへの応用」,まてりあ,1997年,第36巻,第11号,p.1070-1074
甲第3号証:一般財団法人材料科学技術振興財団,「2次元検出器を用いたX線回折測定」,[online],インターネット<URL:https://www.mst.or.jp/Portals/0/case/pdf/b0212.pdf>
甲第4号証:一般財団法人材料科学技術振興財団,「2次元検出器を用いたX線回折測定(B0212)」,[online],インターネット<URL:https://www.mst.or.jp/casestudy/tabid/1318/pdid/201/Default.aspx>
甲第5号証:米村 光治,「二次元時間分解X線回折による溶接凝固現象のその場観測」,溶接学会誌,2012年,第81巻,第7号,p.12-16
甲第6号証:University of Alberta,「X-Ray Diffraction Laboratry」,[online],インターネット<URL:https://cms.eas.ualberta.ca/xrd/sample-preparation/>
甲第7号証:特開2004-362908号公報
甲第8号証:特開2014-101543号公報
甲第9号証:特許第5626491号公報
参考文献4:国際公開第2020/067537号
参考文献5:佐藤 四郎ら,「5083-0 厚板の引張試験片採取位置と引張特性について」,軽金属,1975年,Vol.25,No.6,p.223-228
なお、参考文献4及び5は小海意見書に添付して提出されたものである。
3 申立人佐藤による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証~甲第6号証は、後記(5)に記載された、申立人佐藤が提出した甲第1号証~甲第6号証である。
(1) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における、「前記外部層は、{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合は50%ないし70%であ」る、との発明特定事項を満たす「金属板」をどのようにして製造するのかが記載されていないから、前記発明の詳細な説明の記載は、前記発明特定事項を満たす「金属板」を製造するために、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるので、実施可能要件を満たさない(9ページ9行~20ページ8行)。
(2) 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
ア 本件特許明細書の段落【0173】、【0174】、【0244】、【0248】(下記第6の1(2)ア(ウ))の第2実施例の記載によれば、金属板の第1及び第2面におけるエッチング速度を遅くするために、金属板が表面から10nmないし30nmの厚さの範囲で定義される表面層を含み、表面層において当該表面層以外の金属層より酸素の含有量が高いという構成は、前記第2実施例において課題を解決するための必須の構成といえるのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、前記構成について特定されていないから、前記請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(20ページ10行~23ページ2行)。
イ 本件特許明細書の段落【0083】~【0086】、【0108】~【0114】、【0141】、【0150】(下記第6の1(2)ア(イ))、【0245】~【0247】(同(ウ))の記載によれば、本件特許明細書には、「内部層」の{220}結晶面よりも「外部層」の{220}結晶面の割合を高くすることで、外部層のエッチング速度を内部層よりも遅くして、金属板の厚さ方向のエッチング特性を向上させ、エッチングファクターを増加させることが記載されているのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「内部層」の{220}結晶面の割合が特定されていないから、前記請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(23ページ3行~27ページ15行)。
ウ 金属板におけるエッチング速度やエッチングファクター等のエッチング特性は、{220}結晶面の割合だけでなく、ほかの結晶面の割合の影響も受けることが技術常識であるし、本件特許明細書の段落【0245】~【0247】(下記第6の1(2)ア(ウ))の記載によれば、本件特許明細書には、「外部層」及び「内部層」の両方において、{220}結晶面だけでなく、{200}結晶面及び{111}結晶面の割合も異なることが記載されているのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「外部相」及び「内部層」の{200}結晶面及び{111}結晶面の割合が特定されていないから、前記請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(27ページ16行~32ページ1行)。
エ 本件特許明細書の段落【0066】(下記第6の1(2)ア(イ))、【0251】、【0258】(同(ウ))、【図24】(同(エ))の記載によれば、金属板における貫通孔の最終的なエッチングファクターが2.0以上となることは、発明の課題を解決するために必要不可欠といえるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「外部層」のエッチング速度及び「内部層」のエッチング速度の具体的な数値が特定されていないから、前記請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(32ページ2行~33ページ13行)。
オ 本件特許明細書の段落【0057】、【0134】(下記第6の1(2)ア(イ))、【0258】(同(ウ))、【図24】(同(エ))の記載によれば、本件特許明細書には、エッチングファクターを2.0以上にする目的として、フォトレジスト層の脱膜を防ぐことが挙げられており、フォトレジスト層の脱膜の原因として、隣接した面孔が重なることが説明されているが、隣接した面孔が重なるかどうかは、エッチングファクターだけで決まることではなく、孔の間の間隔、孔の寸法、金属板の厚さ等の影響も受けることが明らかであり、前記段落【0134】の記載によれば、フォトレジスト層の脱膜を防ぐためには、ブリッジ領域との接触面積が十分に確保されることが必須である。
ところが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、ブリッジ領域が特定されていないから、前記請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えている。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(33ページ14行~35ページ16行)。
(3) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
ア 本件特許明細書の段落【0173】、【0174】、【0244】、【0248】(下記第6の1(2)ア(ウ))の記載によれば、「金属板」が表面から10nmないし30nmの厚さの範囲で定義される表面層を含み、表面層において当該表面層以外の金属層より酸素の含有量が高いという構成は、エッチングファクターを改善するための必須の構成といえるのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、前記構成について特定されておらず、そのような「金属板」において、「前記外部層は、{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合は50%ないし70%であ」る、との発明特定事項によりエッチングファクターが改善されて、課題を解決できるか否かは不明であるから、前記発明特定事項の技術的意義が不明確である。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(35ページ18行~38ページ16行)。
イ 本件特許明細書の段落【0083】~【0086】、【0108】~【0114】、【0141】、【0150】(下記第6の1(2)ア(イ))、【0245】~【0247】(同(ウ))の記載によれば、本件特許明細書には、内部層の{220}結晶面よりも外部層の{220}結晶面の割合を高くすることで、「外部層」のエッチング速度を「内部層」よりも遅くして、金属板の厚さ方向のエッチング特性を向上させ、エッチングファクターを増加させることが記載されているのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「内部層」の{220}結晶面の割合が特定されていないし、本件特許明細書には、前記請求項1に係る発明の発明特定事項により課題を解決できることは記載されていないから、前記発明特定事項の技術的意義が不明確である。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(38ページ17行~42ページ最終行)。
ウ 金属板におけるエッチング速度やエッチングファクター等のエッチング特性は、{220}結晶面の割合だけでなく、ほかの結晶面の割合の影響も受けることが技術常識であるし、本件特許明細書の段落【0245】~【0247】(下記第6の1(2)ア(ウ))の記載によれば、本件特許明細書には、「外部層」及び「内部層」の両方において、{220}結晶面だけでなく、{200}結晶面及び{111}結晶面の割合も異なることが記載されているのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「外部層」及び「内部層」の{200}結晶面及び{111}結晶面の割合が特定されていないし、本件特許明細書には、前記請求項1に係る発明の発明特定事項により課題を解決できることは記載されていないから、前記請求項1に係る発明の発明特定事項は、その技術的意義が不明確である。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(43ページ1行~47ページ11行)。
エ 本件特許明細書の段落【0066】(下記第6の1(2)ア(イ))、【0251】、【0258】(同(ウ))の記載によれば、金属板における貫通孔の最終的なエッチングファクターが2.0以上となることは、発明の課題を解決するために必要不可欠といえるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、「外部層」のエッチング速度及び「内部層」のエッチング速度の具体的な数値が特定されていないし、本件特許明細書には、前記請求項1に係る発明の発明特定事項により課題を解決できることは記載されていないから、前記請求項1に係る発明の発明特定事項は、その技術的意義が不明確である。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(47ページ12行~48ページ最終行)。
オ 本件特許明細書の段落【0057】、【0134】(下記第6の1(2)ア(イ))、【0258】(同(ウ))、【図24】(同(エ))の記載によれば、本件特許明細書には、エッチングファクターを2.0以上にする目的として、フォトレジスト層の脱膜を防ぐことが挙げられており、フォトレジスト層の脱膜の原因として、隣接した面孔が重なることが説明されているが、隣接した面孔が重なるかどうかは、エッチングファクターだけで決まることではなく、孔の間の間隔、孔の寸法、金属板の厚さ等の影響も受けることが明らかであり、前記【0134】の記載によれば、フォトレジスト層の脱膜を防ぐためには,ブリッジ領域との接触面積が十分に確保されることが必須である。
ところが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1においては、ブリッジ領域が特定されていないし、本件特許明細書には、前記請求項1に係る発明の発明特定事項により課題を解決できることは記載されていないから、前記請求項1に係る発明の発明特定事項は、その技術的意義が不明確である。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(49ページ1行~51ページ6行)。
(4) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(51ページ7行~79ページ3行)。
(5) 証拠方法
甲第1号証:特開2015-168847号公報
甲第2号証:特開2000-11910号公報
甲第3号証:特開昭60-234921号公報
甲第4号証:特開昭60-200985号公報
甲第5号証:特開平3-79743号公報
甲第6号証:特開平1-247558号公報
第5 取消理由の概要
1 令和5年2月15日付け取消理由通知における取消理由の概要
(1) 「金属板」の製造方法について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る「金属板」は、圧延、アニーリング、熱処理などのような製造工程を通じて、優先方位を有する集合組織を形成するものであって、これにより、「{220}結晶面の割合は50%ないし70%であ」る、との発明特定事項を満たす「金属板」を製造するものといえるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、圧延工程の後の「金属板」の厚さを10μmないし50μm以下とすることが記載されているに過ぎず、これ以外の圧延条件は記載されていない。
そして、単に、圧延工程の後の「金属板」の厚さを10μmないし50μmとすることで、前記発明特定事項を満たす「金属板」が製造できることが、技術常識からみて明らかであるとはいえないし、更に、前記発明の詳細な説明には、アニーリングや熱処理といったそのほかの製造条件も記載されていないから、当業者は、前記発明特定事項を満たす「金属板」の製造条件を理解することができない。
なお、仮に、本件特許の出願当時の技術常識からみて、「金属板」を圧延した場合、その表面近傍の領域とその中心近傍の領域とで形成される集合組織が異なるものとなるとしても、当該技術常識は、圧延後の「金属板」の表面近傍の領域と中心近傍の領域とで形成される集合組織が異なることを示すにとどまるのであり、そこから進んで、「{220}結晶面の割合」を「50%ないし70%」とするための製造条件を明らかにするものではないし、そのような製造条件が、本件特許の出願当時の技術常識であったことを示す証拠もない。
してみれば、前記発明の詳細な説明の記載は、前記発明特定事項を満たす「金属板」を製造するにあたって、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ないので、前記発明の詳細な説明は、前記請求項1に係る発明について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載したものとはいえないから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
そして、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるから、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない。
(2) 「{220}結晶面の割合」の測定方法について
ア X線回折強度の測定において、試料に対するX線の入射方向を変えると、測定されるX線回折強度が変化し、測定された結晶面の割合が異なるものとなることは技術常識であるから、X線回折強度の測定にあたっては、試料に対するX線の入射方向を明らかにする必要があるといえる。
ところが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、X線回折強度の測定の際の試料に対するX線の入射方向が記載されていないから、前記発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、前記「{220}結晶面の割合」の測定方法を理解することができないので、当業者は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件発明1の「{220}結晶面の割合は50%ないし70%であ」る、との発明特定事項を明確に理解することができない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は明確でないのであり、更に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるので、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない。
イ また、発明の詳細な説明は、前記請求項1に係る発明について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許の出願当時の技術常識に基づいて、その物を生産でき、かつ、使用できるように、具体的に記載したものとはいえないから、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
更に、前記請求項2~10に係る発明について検討しても事情は同じであるから、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない。
2 令和5年8月1日付け取消理由通知(決定の予告)における取消理由の概要
(1) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
令和5年5月17日の訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」といい、同請求項2~10に係る発明を「訂正発明2」~「訂正発明10」という。)の「金属板」は、ベース金属板の圧延ステップを含む製造方法によって製造されるものであって、圧延、アニーリング、熱処理などのような製造工程を通じて、優先方位を有する集合組織(Crystaltexture)を現すことができるものである。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、訂正発明1に係る「金属板」は、圧延、アニーリング、熱処理などのような製造工程を通じて、優先方位を有する集合組織を形成するものであって、これにより、「前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層」の「{220}結晶面の割合」が「50%ないし70%」である、との訂正発明1の発明特定事項を満たす「金属板」を製造するものといえるが、前記発明の詳細な説明には、圧延工程の後の「金属板」の厚さを10μmないし50μm以下とすることが記載されているに過ぎず、これ以外の圧延条件は記載されていない。
そして、単に、圧延工程の後の「金属板」の厚さを10μmないし50μmとすることで、訂正発明1の前記発明特定事項を満たす「金属板」が製造できることが、本件特許の出願日当時の技術常識からみて明らかであるとはいえないし、更に、前記発明の詳細な説明には、アニーリングや熱処理といったそのほかの条件も記載されていないから、当業者は、訂正発明1の前記発明特定事項を満たす「金属板」の製造方法を理解することができない。
すると、前記発明の詳細な説明の記載は、前記技術常識を踏まえてみても、訂正発明1の前記発明特定事項を満たす「金属板」の製造方法を開示も示唆もしているとはいえないから、訂正発明1の実施にあたって、当業者に過度の試行錯誤を強いるものといわざるを得ない。
したがって、前記発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1について、当業者が明細書及び図面の記載並びに本件特許の出願日当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、実施可能要件に適合しない。
更に、訂正発明1の発明特定事項を全て有する訂正発明2~10について検討しても事情は同じである。
(2) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
訂正発明1においては、「{220}結晶面の割合」が、「{220}結晶面」の何に対する割合を意味するのかが特定されていない。
また、本件特許明細書の記載をみても、「{220}結晶面の割合」が、「{220}結晶面」の何に対する割合を意味するのかが明らかでないし、このことを明らかにする技術常識も存在しないから、当業者は、「{220}結晶面の割合」がどのようにして算出されたものであるのかを理解することができない。
すると、「{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%」である、との発明特定事項を有する訂正発明1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえるから、明確性要件に適合しないのであり、更に、同様に前記発明特定事項を有する訂正発明2~10について検討しても事情は同じである。
(3) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)及び特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
ア 訂正発明1において特定される「{220}結晶面の割合」は、X線回折強度の測定を通じて測定されるものであるが、X線回折強度の測定において、試料に対するX線の入射方向を変えると、測定されるX線回折強度が変化し、測定された結晶面の割合が異なるものとなることは技術常識であるから、X線回折強度の測定にあたっては、試料に対するX線の入射方向を明らかにする必要があるといえる。
ところが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、X線回折強度の測定の際の試料に対するX線の入射方向が記載されていないから、前記発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、前記「{220}結晶面の割合」の測定方法を理解することができないので、当業者は、前記発明の詳細な説明の記載を参酌しても、訂正発明1の「{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%であ」る、との発明特定事項を明確に理解することができない。
したがって、前記発明特定事項を有する訂正発明1の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえ、明確性要件に適合しないのであり、同様に前記発明特定事項を有する訂正発明2~10について検討しても事情は同じである。
イ また、同様の理由により、前記発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1について、当業者が、前記発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願日当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとはいえないから、実施可能要件に適合しないのであり、更に、訂正発明2~10について検討しても事情は同じである。
第6 取消理由及び特許異議申立理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第4の特許異議申立理由及び前記第5の取消理由についてまとめて判断する。
1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) サポート要件の判断
ア 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の(ア)~(エ)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(ア) 「【0001】
実施例は金属板に関する。詳細には、実施例は、蒸着用マスクに用いられる金属板に関する。より詳細には、実施例による蒸着用マスクを用いてOLEDパネルを製作することができる。
・・・
【0004】
電界表示装置は、有機発光表示装置と無機発光表示装置がある。すなわち、発光層の物質によって有機発光表示装置と無機発光表示装置とに区別され得る。
【0005】
その中でも、有機発光表示装置は、広い視野角を有し、速い応答速度を有するという点、低消費電力が要求されるという点で注目されている。
【0006】
このような発光層を構成する有機物質は、ファインメタルマスク(finemetalmask)方式によって基板上に画素を形成するためのパターンが形成され得る。
【0007】
このとき、ファインメタルマスク、すなわち蒸着用マスクは、基板上に形成されるパターンと対応する貫通孔を有することができ、基板上にファインメタルマスクをアライメントした後、有機物質を蒸着することにより、画素を形成する赤色(Red)、緑色(Green)、青色(Blue)のパターンを形成することができる。
【0008】
蒸着用マスクとして用いられる金属板は、エッチング工程によって複数の貫通孔が形成され得る。
【0009】
このとき、複数の貫通孔が均一でない場合、蒸着の均一性が低下することがあり、これによって形成されるパターンの蒸着効率が低下することにより工程効率が低下するという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
実施例は、均一な貫通孔が形成できる金属板を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施例による蒸着用マスクの製作に使用される金属板において、前記金属板は、前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層;および前記外部層以外の内部層;を含み、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度より遅く、FeCl3を35ないし45重量%含んだエッチング液にて45℃で行われたエッチング条件で測定した、前記外部層のエッチング速度は0.03μm/sec以下であり、前記内部層のエッチング速度は0.03ないし0.05μm/secであることを含む。
【0012】
実施例による蒸着用マスクの製造方法は、ベース金属板の準備ステップ;前記ベース金属板の圧延ステップ;前記ベース金属板の第1面上に第1フォトレジスト層を配置し、第2面上に第2フォトレジスト層を配置するフォトレジスト層形成ステップ;および前記第1面の第1面孔と前記第2面の第2面孔が連通する貫通孔を形成するエッチングステップを含み、前記エッチングステップ以後に、前記第1面孔および前記第2面孔のうち少なくとも一つの面孔のエッチングファクターは2.0以上であることを含む。
【発明の効果】
【0013】
実施例による金属板は、前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層;および前記外部層以外の内部層を含むことができる。
【0014】
このとき、前記金属板は、方位が互いに異なる二つ以上の結晶面を含むことができる。
【0015】
前記外部層は、前記内部層と前記金属板の表面上の{220}結晶面の割合が互いに異なることができる。すなわち、前記外部層と前記内部層の前記{220}結晶面の割合を調節することによって、前記外部層におけるエッチング速度を前記内部層より遅らせることができる。これにより、前記金属板は、均一な貫通孔を形成することができる。
【0016】
すなわち、蒸着用マスクの製作に使用される前記金属板は、均一性が向上した貫通孔を含むことにより、これを通じて形成されるパターンの均一性が向上され、パターンの蒸着効率が増加することにより工程効率が向上され得る。」
(イ) 「【0057】
すなわち、インバーのようなニッケル合金は、エッチング初期にエッチング速度が速いことによって、貫通孔が側面に大きくなることがあり、これにより、フォトレジスト層の脱膜が発生する可能性がある。また、インバーをエッチングする場合、貫通孔のサイズが大きくなるので、微細なサイズの貫通孔の形成が困難となり得る。また、貫通孔が不均一に形成されて、蒸着用マスクの製造収率が低下することがある。
・・・
【0064】
第1実施例は、前記圧延面、すなわち前記金属板の表面上に{220}結晶面を集合させることにより、前記金属板100の前記第1面101および前記第2面102におけるエッチング速度を遅らせることができる。すなわち、実施例は、エッチング初期のエッチング速度を遅らせることができ、フォトレジスト層の脱膜または分離が防止できることにより、貫通孔の均一性を向上させることができる。また、微細な貫通孔が形成でき、貫通孔の製造収率および工程効率を向上させることができる。
・・・
【0066】
第1実施例は、面孔のエッチングファクターが2.0以上であることによって、エッチング特性に優れ、均一で微細なサイズの貫通孔を形成することができる。
・・・
【0083】
前記内部層100aは、前記外部層100b、100cとは含まれる結晶面の割合が互いに異なることができる。例えば、前記内部層100aは、前記外部層100b、100cとは前記金属板の{220}結晶面の割合が互いに異なることができる。
【0084】
前記金属板の{220}結晶面の割合は、前記内部層100aより前記外部層100b、100cが大きいことがある。
【0085】
前記金属板100は、前記内部層100aより前記外部層100b、100cに{220}結晶面の割合が高いように調節することにより、前記外部層100b、100cにおけるエッチング速度が前記内部層100aより遅いことがある。これにより、第1実施例による金属板100は、金属板の厚さ方向、すなわち、貫通孔の深さ方向でのエッチング特性に優れ、エッチングファクターを増加することができる。すなわち、前記金属板100は、前記内部層100aより前記外部層100b、100cに{220}結晶面の割合が高いように調節することにより、前記内部層100aにおけるエッチング速度が前記外部層100b、100cより速いことがある。これにより、第1実施例による金属板100は、金属板の厚さ方向、すなわち、貫通孔の深さ方向でのエッチング特性に優れ、エッチングファクターを増加することができる。
【0086】
したがって、第1実施例は、インバーのようなニッケル合金を使用する場合にも優れたエッチング特性を有し、貫通孔のエッチング均一性が向上した蒸着用マスクを製造することができる。
・・・
【0108】
第1実施例において、前記第1外部層100bのエッチング速度は、前記内部層100aのエッチング速度より遅いことがある。前記第2外部層100cのエッチング速度は、前記内部層100aのエッチング速度より遅いことがある。
【0109】
外部層の{220}結晶面の割合が内部層の{220}結晶面の割合より小さい金属板100で製造された蒸着用マスクは、エッチング液と接触する金属板100の表面のエッチング速度が速いことによって、前記金属板100表面に形成される貫通孔の幅が大きくなることがある。これにより、微細なパターンを有する貫通孔の形成が困難であり、製造収率が低下し得る。また、複数の貫通孔における均一性が低下し得る。よって、これを通じて製造されるOLEDパネルはパターンの蒸着効率が低く、パターンの蒸着均一性が低下し得る。
【0110】
前記内部層100aより前記外部層100b、100cにおける{220}結晶面の割合が大きい場合には、前記第1面孔V1の幅W1と前記第3面孔V3の幅W4が対応し、前記第2面孔V2の幅W2と前記第4面孔V4の幅W5が対応し得る。
【0111】
前記内部層100aより前記外部層100b、100cにおける{220}結晶面の割合が大きい場合には、前記第1面孔V1の高さH1と前記第3面孔V3の高さH3が対応し、前記第2面孔V2の高さH2と前記第4面孔V4の高さH4が対応し得る。
【0112】
すなわち、前記内部層100aより前記外部層100b、100cにおける{220}結晶面の割合が大きいことによって、複数の貫通孔における幅と高さの均一性が向上され得る。
【0113】
第1実施例による金属板は、前記外部層100b、100cのエッチング速度が前記内部層のエッチング速度より遅いことがあり、貫通孔の幅が小さくかつ深い厚さを有するように形成することができる。これにより、金属表面で速いエッチングによって発生し得るフォトレジスト層の脱膜現象を防止することができる。よって、第1実施例による蒸着用マスクは、均一性を有する複数の貫通孔を形成でき、蒸着用マスクの製造における工程効率を向上し得る。
【0114】
また、第1実施例による蒸着用マスクの製作に使用される金属板は、表面におけるエッチング速度を制御でき、微細なパターンを有する貫通孔を製造することができる。また、蒸着用マスクの製作に使用される金属板の製造収率が向上され、複数の貫通孔における均一性が向上され得る。これにより、このような蒸着用マスクで製作したOLEDパネルは、パターンの蒸着効率に優れ、蒸着均一性が向上され得る。
・・・
【0134】
エッチングファクターが2.0以上であるとき、面孔の幅が小さく、深く方向でのエッチング特性に優れる。また、エッチングファクターが2.0以上であるとき、フォトレジスト層とブリッジ領域BRとの接触面積が広いことにより、フォトレジスト層の脱膜を安定して防止することができる。これにより、実施例による蒸着用マスクを通じて微細な蒸着パターンを形成することができる。
・・・
【0141】
図11を参照すると、実施例1の前記外部層は、{220}結晶面で強いピークを現すので、前記外部層の{220}結晶面の割合が前記内部層の{220}結晶面の割合より大きいことが分かる。
・・・
【0150】
一方、比較例1の前記外部層は、{220}結晶面で実施例1より弱いピークを現すので、前記外部層の{220}結晶面の割合が前記内部層より小さいことが分かる。」
(ウ) 「【0172】
次いで、図13ないし図18を参照して、第2実施例による金属板を説明する。
【0173】
第2実施例は、金属板100の表面におけるエッチング速度を遅らせることを第1目的とする。
【0174】
第2実施例は、金属板の表面から10nmないし30nm厚さ範囲で定義される表面層を含むことができる。前記表面層は、前記表面層以外の金属層より酸素の含有量が高いこともある。これにより、金属板の第1および第2面におけるエッチング速度が遅いことがある。すなわち、第2実施例は、エッチング初期のエッチング速度を遅らせることができ、フォトレジスト層の脱膜または分離を防止することができる。これにより、第2実施例は、貫通孔の均一性を向上させることができ、微細な貫通孔を形成することができて、貫通孔の製造収率および工程効率を向上させることができる。
【0175】
第2実施例は、エッチングステップにおいて、面孔のエッチングファクターが2.0以上であることを第2目的とする。
【0176】
第2実施例は、面孔のエッチングファクターが2.0以上であることによって、エッチング特性に優れ、微細なサイズの均一な貫通孔を形成することができる。
【0177】
図13を参照すると、蒸着用マスクの製作に使用される前記金属板100は、前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層;および前記外部層以外の内部層;を含むことができる。
【0178】
前記外部層は、前記金属板の表面から10nmないし30nm厚さ範囲で定義される表面層110、120を含むことができる。
・・・
【0207】
第2実施例は、ベース金属板100dの第1面101d上に第1表面層を配置し、前記ベース金属板100dの第2面102d上に第2表面層を配置することにより、金属板の表面におけるエッチング速度を遅らせることができる。
【0208】
前記第1表面層110および前記第2表面層120は、酸素元素を含むことができて、前記ベース金属板100dのエッチング速度より遅いことがある。また、実施例は、前記ベース金属板100d上に前記第1表面層110および前記第2表面層120がそれぞれ10nmないし30nmの厚さで配置することにより、微細な貫通孔を形成することができる。
・・・
【0210】
すなわち、実施例による金属板は、前記第1表面層110および前記第2表面層120が配置される領域でエッチング速度が遅いことがあり、貫通孔の幅が小さく、かつ深い厚さを有するように形成することができる。これにより、金属表面で速いエッチングによって発生し得るフォトレジスト層の脱膜現像を防止することができる。
【0211】
また、実施例による蒸着用マスクの製作に使用される金属板は、表面におけるエッチング速度を制御でき、微細なパターンを有する貫通孔の製造収率が向上され、複数の貫通孔における均一性を向上し得る。これにより、このような蒸着用マスクで製作したOLEDパネルは、パターンの蒸着効率に優れ、蒸着均一性を向上し得る。また、実施例による表面層は、金属酸化物および金属水化物のうち少なくとも一つを含むことにより、フォトレジスト層の密着力を向上させることができ、エッチング工程でフォトレジスト層の脱膜または分離を防止することができる。詳しくは、前記金属層と前記フォトレジスト層との密着力より前記セラミック系の表面層は、前記フォトレジスト層との密着力が大きいことができる。これにより、実施例による金属板は、複数の貫通孔における製造収率および工程効率を向上し得る。
・・・
【0218】
図14ないし図18を参照して、第2実施例による蒸着用マスクの製造工程について説明する。
【0219】
第2実施例による蒸着用マスクの製造方法は、ベース金属板の準備ステップ;前記ベース金属板の圧延ステップ;前記ベース金属板の第1面上に第1表面層を配置し、前記ベース金属板の第2面上に第2表面層を配置する表面層形成ステップ;前記ベース金属板の第1面上に第1フォトレジスト層を配置し、第2面上に第2フォトレジスト層を配置するフォトレジスト層形成ステップ;および前記第1面の第1面孔と前記第2面の第2面孔とが連通する貫通孔を形成するエッチングステップを含むことができる。
【0220】
次いで、第1および第2フォトレジスト層の除去ステップにより、複数の貫通孔を含む蒸着用マスクが形成され得る。
【0221】
先ず、ベース金属板の準備ステップについて説明する。ベース金属板は、ニッケル合金を準備することができる。例えば、前記ベース金属板は、ニッケルおよび鉄の合金であり得る。一例として、前記ベース金属板は、ニッケルが約35ないし37重量%、鉄が約63ないし65重量%、微量のC、Si、S、P、Cr、Mo、Mn、Ti、Co、Cu、Fe、Ag、Nb、V、In、Sbのうち少なくとも一つ以上が含まれたインバー(Invar)であり得る。
【0222】
次いで、図14を参照して、前記ベース金属板の圧延ステップについて説明する。圧延された前記ベース金属板100dは、50μm以下の厚さT1を有することができる。例えば、圧延された前記ベース金属板100dは、30μm以下の厚さT1を有することができる。
【0223】
次いで、図15を参照して、表面層形成ステップについて説明する。図15を参照すると、前記ベース金属板100d上に表面層を形成することができる。例えば、前記ベース金属板100dは、熱処理されることにより、前記ベース金属板100d上に表面層を形成することができる。詳しくは、前記ベース金属板100dは、酸素雰囲気の下で熱処理することにより、前記ベース金属板100dの第1面101d上に前記第1表面層110が形成され、前記ベース金属板100dの第2面102d上に前記第2表面層120が形成され得る。例えば、前記第1表面層110および前記第2表面層120は、前記熱処理工程によって、同時に形成され得るので、工程効率を向上させることができる。また、前記第1表面層110および前記第2表面層120は、互いに対応される厚さで前記ベース金属板100d上に配置され得るので、前記ベース金属板100dの第1面101および第2面102のエッチング速度を両方とも低下させることがある。・・・
・・・
【0230】
以下、実施例および比較例を通じて第2実施例をさらに詳細に説明する。このような実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために例示として提示したものに過ぎない。したがって、本発明がこのような実施例に限定されるものではない。
【0231】
<実験例3:貫通孔の均一性及び粗度評価>
実施例2
圧延されたインバー金属上に20nmの表面層を形成した後、エッチング工程を通じて面孔を形成した。
このとき、前記エッチング工程は、湿式エッチング工程にて45℃で行われ、エッチング液は、FeCl3を36重量%含んだ。
【0232】
比較例2
圧延されたインバー金属上に5nmの表面層を形成した後、エッチング工程を通じて面孔を形成した。
このとき、インバー金属の圧延条件、インバー金属の厚さおよびエッチング工程は、前記実施例2と同じ条件で行われた。
【0233】
図19および図20は、実施例2および比較例2により形成された貫通孔の写真である。
【0234】
図19を参照すると、実施例2により形成された貫通孔は、貫通孔の表面粗さが低いことが分かる。すなわち、貫通孔の内周面がなめらかな曲線であり得るので、これを通じて蒸着されるパターン形状の均一性を向上させることができる。
【0235】
一方、図20を参照すると、比較例2により形成された貫通孔は、貫通孔の表面粗さが大きいことが分かる。すなわち、貫通孔の内周面が凸凹な形状を含むことがあるので、これを通じて蒸着されるパターン形状の均一性が低下し得る。
【0236】
前記実施例2および前記比較例2により、前記表面層の厚さは、10nm以上であるとき、貫通孔の均一性が向上されることを確認した。
【0237】
<実験例4:酸素の濃度及び結晶面の割合測定>
実施例3
圧延されたインバー金属上に表面層を形成した。
前記表面層は、一定の時間の間に熱処理して形成した。
次に、エッチング工程を通じて面孔を形成した。
【0238】
実施例4
圧延されたインバー金属上に表面層を形成した。
実施例3の表面層は、実施例4の表面層と熱処理温度および/または、熱処理時間が異なるように形成した。
次に、エッチング工程を通じて面孔を形成した。
実施例4の表面層の厚さは、実施例3の表面層の厚さより小さいことがある。
このとき、インバー金属の圧延条件、インバー金属の厚さおよびエッチング工程は、前記実施例3と同じ条件で行われた。
【0239】
比較例3
圧延されたインバー金属上に表面層を形成せず、エッチング工程を通じて面孔を形成した。
このとき、インバー金属の圧延条件、インバー金属の厚さおよびエッチング工程は、前記実施例3と同じ条件で行われた。
【0240】
酸素の濃度を測定するために、実施例3、実施例4、比較例3の金属表面をXPS分析した。・・・
・・・
【0243】
一方、結晶面の割合を測定するためにXRD分析した。
【0244】
第2実施例による金属板の外部層は、{220}結晶面を50%ないし70%含むことができる。例えば、第2実施例による金属板の外部層は、{220}結晶面を55%ないし70%含むことができる。
【0245】
実施例3の金属板の表面から1μm厚さの外部層は、{220}結晶面58.1%、{200}結晶面40.8%、{111}結晶面1.0%が測定された。実施例3の金属板1μm厚さ領域から金属板10μm厚さ領域の内部層は、{220}結晶面24.6%、{200}結晶面30.3%、{111}結晶面45.1%が測定された。
【0246】
実施例4の金属板の表面から1μm厚さの外部層は、{220}結晶面68.9%、{200}結晶面28.0%、{111}結晶面3.1%が測定された。
【0247】
比較例3の金属板の表面から1μm厚さの外部層は、{220}結晶面27.2%、{200}結晶面67.3%、{111}結晶面5.5%が測定された。比較例3の金属板1μm厚さ領域から金属板10μm厚さ領域の内部層は、{220}結晶面13.2%、{200}結晶面64.8%、{111}結晶面22%が測定された。
【0248】
これを通じて、外部層に含まれた{220}結晶面が70%超過の場合には、エッチングファクターが低下することが分かる。また、外部層に含まれた{220}結晶面が50%未満の場合には、エッチングファクターが低下することが分かる。
【0249】
<実験例5:エッチングファクター及びエッチング速度評価>
表2には、表示しなかったが、第2実施例で表面層の形成条件を変化させることにより、多様な範囲のエッチングファクター、エッチング速度を測定した。
このとき、表面層は、熱処理温度と熱処理時間を変化させるにより、エッチング特性が向上する表面層の最適な厚さは、10nmないし30nmであることを確認した。
一般に蒸着用マスクを製作するための金属板は、5nm程度の表面層を含んでいる。しかし、実施例は、金属板のエッチング特性を向上させるために、表面層を10nmないし30nm厚さで形成した。
また、水平方向の直径20μm、X垂直方向の直径20μmの面孔、水平方向の直径25μm、X垂直方向の直径25μmの面孔をそれぞれ形成するときの多様な範囲のエッチングファクター、エッチング速度を測定した。
このとき、蒸着用マスクのエッチングファクターは、2.0ないし2.9であり得る。例えば、第2実施例で、蒸着用マスクのエッチングファクターは、2.0ないし2.5であり得る。蒸着用マスクのエッチングファクターは、2.0ないし2.9であるとき、金属板の厚さ方向でのエッチング特性に優れ、微細なサイズの均一な貫通孔が形成されることを確認した。
【0250】
下記の表2は、実施例3、実施例4および比較例3によるエッチングファクター、エッチング速度を示す。
【0251】
【表2】
[図:0001415250000001.jpg]
【0252】
上記表2において、外部層のエッチング速度は、金属板の表面から1μm以下の厚さで観測されるエッチング速度を示したものである。上記表2において、内部層のエッチング速度は、金属板の表面から1μmの厚さから10μmの厚さで観測されるエッチング速度を示したものである。
【0253】
上記表2および図21を参照すると、比較例3は、外部層のエッチング速度が内部層のエッチング速度より速いことが分かる。比較例3は、外部層のエッチング速度が内部層のエッチング速度より2倍速いことと測定された。すなわち、比較例3は、エッチング液の接触面積が広い表面におけるエッチング速度が内部のエッチング速度より速いことが分かる。詳しくは、比較例3の外部層のエッチング速度は、0.03μm/sec超過であり得る。さらに詳しくは、比較例3の外部層のエッチング速度は、0.1μm/secと測定された。
・・・
【0255】
一方、実施例3および実施例4は、内部層のエッチング速度が外部層のエッチング速度より速いことが分かる。すなわち、実施例3および実施例4は、金属層上に酸素元素を含む表面層が配置されることにより、金属板の表面におけるエッチング速度が金属板内部におけるエッチング速度より遅いことがある。これにより、実施例による金属板は、微細な貫通孔を形成することができる。詳しくは、実施例3および実施例4の外部層のエッチング速度は、0.03μm/sec以下であり得る。さらに詳しくは、実施例3の外部層のエッチング速度は、0.02μm/secと測定され、実施例4の外部層のエッチング速度は、0.03μm/secと測定された。また、実施例3の外部層のエッチング速度は、エッチング深さ約0.8μm前後において、約0.01μm/secと測定された。また、実施例3の内部層のエッチング速度は、エッチング深さ約7μm前後において、約0.05μm/secと測定された。また、実施例4の外部層のエッチング速度は、エッチング深さ約0.8μm前後において、約0.025μm/secと測定された。また、実施例4の内部層のエッチング速度は、エッチング深さ約7μm前後において、約0.06μm/secと測定された。また、比較例3の外部層のエッチング速度は、エッチング深さ約0.8μm前後において、約0.17μm/secと測定された。また、比較例3の内部層のエッチング速度は、エッチング深さ約7μm前後において、約0.06μm/secと測定された。
【0256】
図22は、実施例3による面孔の断面図であり、図23は、実施例4による面孔の断面図である。
【0257】
図22および図23を参照すると、実施例3および実施例4は、2.0以上の高いエッチングファクターを有することにより、貫通孔の幅が小さく、深さ方向にエッチング特性に優れることが分かる。これにより、フォトレジスト層の変形を防止することができる。また、実施例3および実施例4による金属板を通じて形成され得るパターンは、微細パターンの具現が可能になり得る。
【0258】
図24を参照すると、比較例3は、隣接した面孔が重なることにより、フォトレジスト層の脱膜現像が発生することが分かる。これにより、エッチングファクターが2.0未満の場合には、貫通孔の製造収率および工程効率が低下することが分かる。
・・・
【0262】
すなわち、第2実施例による蒸着用マスクは、貫通孔を形成するためのエッチング工程において、外部層から内部層に向かうほど徐々にエッチング速度が向上される構造的特徴を有することができるので、エッチング効率が向上され、貫通孔の均一性が向上され得る。
【0263】
また、実施例による蒸着用マスクで製作したOLEDパネルは、パターンの蒸着効率に優れ、蒸着均一性が向上され得る。」
(エ) 「【図24】
[図:0001415250000002.jpg]
」
イ 判断
(ア) 前記ア(ア)(段落【0008】~【0010】)の記載によれば、従来、蒸着用マスクとして用いられる金属板は、エッチング工程によって複数の貫通孔が形成されるが、このとき、複数の貫通孔が均一でない場合、蒸着の均一性が低下することがあり、これによって形成されるパターンの蒸着効率が低下することにより工程効率が低下するという問題点があった、という課題(以下、「本件課題」という。)を有するので、本件発明は、前記本件課題を解決するものであり、均一な貫通孔が形成できる金属板を提供することを目的とするものである。
そして、前記ア(ア)(段落【0011】~【0016】)の記載によれば、本件発明における蒸着用マスクの制作に使用される金属板は、前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層;および前記外部層以外の内部層を含み、FeCl3を35ないし45重量%含んだエッチング液にて45℃で行われた前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度より遅いものであり、これにより、前記金属板は、均一な貫通孔を形成することができるものである。
すなわち、前記ア(ウ)(段落【0221】、【0243】~【0248】、【0262】)の記載によれば、前記金属板は、ニッケルが約35ないし37重量%含まれたインバーであって、前記金属板の外部層は、XRDで測定した時、{220}結晶面を50%ないし70%含むものであり、そのような金属板から製造した蒸着用マスクは、貫通孔を形成するためのエッチング工程において、外部層から内部層に向かうほど徐々にエッチング速度が向上される構造的特徴を有するものであり、そうすることで、エッチング効率が向上され、貫通孔の均一性が向上されるものである。
ここで、前記第2の2(2)に記載したのと同様の理由により、{220}結晶面の割合は、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」をいうものと理解することができる。
(イ) 前記(ア)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明に係る蒸着用マスクの制作に使用される金属板を、前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層と、前記外部層以外の内部層と、を含み、前記金属板の外部層は、前記金属板の外部層は、XRDで測定したとき、{220}結晶面を50%ないし70%含むものであり、FeCl3を35ないし45重量%含んだエッチング液にて45℃で行われた前記外部層のエッチング速度が、前記内部層のエッチング速度より遅いものであり、{220}結晶面の割合は、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合であり、ニッケルが約35ないし37重量%含まれたインバーとすることで、貫通孔の深さ方向でのエッチング特性に優れたものとなり、均一な貫通孔を形成することができ、本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、そのような金属板は、本件発明1の発明特定事項を満たすものといえる。
(ウ) 前記(イ)によれば、当業者は、本件発明1の発明特定事項により、本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するといえ、同請求項2及び4~10について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3) 特許異議申立理由について
ア 申立人山田の特許異議申立理由について
本件発明1は、「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度より遅い」、との発明特定事項を有するものであるから、本件発明1が、外部層のエッチング速度が内部層のエッチング速度よりも遅くならず、発明の課題を解決しない「金属板」を含むものとはいえないので、申立人山田による前記第4の1(1)の特許異議の申立て理由は理由がない。
イ 申立人小海の特許異議申立理由について
「{220}結晶面の割合」の意味及びその測定方法が当業者にとって明らかであることは、下記3(2)に記載したとおりであり、当業者は、本件発明1の発明特定事項により、本件課題を解決できることを理解することができるから、申立人小海による前記第4の2(3)の特許異議の申立て理由は理由がない。
ウ 申立人佐藤の特許異議申立理由について
前記第4の3(2)の申立人佐藤の特許異議の申立て理由は、総じて、本件課題を解決するためには、本件発明1の発明特定事項に加えて、更に、表面層の厚さ、酸素の含有量、内部層の{220}結晶面の割合、外部相及び内部層の{200}結晶面及び{111}結晶面の割合、外部層のエッチング速度及び内部層のエッチング速度の具体的な数値及びブリッジ領域といった、ほかの発明特定事項が必要であることを前提とするものといえる。
ところが、当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができることは前記(2)イ(ウ)に記載したとおりであるから、本件課題を解決するためにそのほかの発明特定事項が必要であるとはいえない。
すると、前記特許異議の申立て理由は前提において誤っているので、理由がない。
(4) サポート要件違反についてのまとめ
したがって、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)についての申立人山田、申立人小海及び申立人佐藤の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断されるべきである。
また、物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について前記実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要するから、以下、この観点に立って検討する。
(2) 実施可能要件の判断
ア はじめに、「金属板」の製造方法について検討すると、特許権者が特許権者意見書1に添付して提出した、本件特許の出願日当時に公知である参考文献1である特許第5721691号公報には、以下の(ア)~(エ)の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる厚み0.02~0.10mmのFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:68.7%≦{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦87.6%」
(イ) 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0007】
・・・
本発明は、エッチング性に優れ、有機ELディスプレイ等の製造に用いるメタルマスクとして適したメタルマスク材料及びメタルマスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、材料の結晶方位を制御することで、ハーフエッチング後の材料厚みが均一となり、開孔部を精密にエッチング加工できることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる厚み0.02~0.10mmのFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:68.7%≦{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦87.6%
(2)(1)に記載の材料を用いたメタルマスクである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エッチング性に優れ、有機ELディスプレイ等の製造に用いるメタルマスクとして適したメタルマスク材料及びメタルマスクを提供することができる。」
(ウ) 「【0012】
(結晶の配向)
メタルマスク材料の圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折積分強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の式1~式3の関係を満たすと、エッチング性(エッチングの均一性)に優れ、高精細なエッチング加工が可能となる。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%
【0013】
一般に、結晶方位によりエッチング速度に差異があることが知られており、材料が特定方位に強く配向していない場合に均一にエッチングされる。材料が特定方位に強く配向した場合は、特定方位が優先的にエッチングされ易くなる、又はエッチングされ難くなることで、エッチングが不均一になることで、エッチング精度が低下する。・・・すなわち、均一かつ精度良くエッチングするためには、式1~式3を満たすような、特定方位にのみ強く配向しない材料を使用すればよい。式1~式3につき、いずれか1つ以上が上限を超えた場合、エッチング速度が部分的に不均一となり、エッチング精度が劣化する。
なお、式1~式3は、後述する最終再結晶焼鈍前の圧延加工度及び結晶粒度を制御することで、調整することができる。
・・・
【0015】
(メタルマスク材料の製造方法)
本発明のメタルマスク材料は、例えば、次のように製造することができる
が、以下に示す方法に限定されることを意図しない。
まず溶解炉で原料を溶解し、上記Fe-Ni系合金組成の溶湯を得る。この時、溶湯の酸素濃度が高いと、酸化物などの晶出物の生成量が増えてエッチング不良の原因となる場合があるため、一般的な脱酸方法、例えば炭素を加えて真空誘導溶解などにより溶湯の清浄度を高めてからインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延、酸化層の研削除去の後、冷間圧延と焼鈍を繰返して所定の厚みに仕上げる。ここで、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度を35~85%とし、最終再結晶焼鈍にてJIS G 0551に規定する結晶粒度番号が7.0以上となるように焼鈍し、さらに最終冷間圧延の加工度を35~85%とする。最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号を7.0以上とするためには、最終再結晶焼鈍時の温度と時間を制御すれば良い。
【0016】
メタルマスク材料の(200)、(220)、(311)の配向度は、上述のように最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度、最終再結晶焼鈍の結晶粒度番号、及び最終冷間圧延の加工度によって決まる。例えば、最終冷間圧延の加工度が低い場合は、最終再結晶焼鈍で得られる結晶配向がそのまま残りやすいため、最終製品の結晶配向は最終再結晶焼鈍の影響を強く受ける。また、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度に応じて、最終再結晶焼鈍の結晶配向が影響を受ける。
具体的には、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度が85%を超えると、(200)の配向度はあまり変化せずに(220)の配向が強くなり、これら2つの和である式3が上限を超えるため、ハーフエッチング性及びエッチング精度が劣る。また、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度が35%未満の場合、材料の加工歪の分布が不均一になり、その後の最終再結晶焼鈍で結晶粒が混粒になるため、ハーフエッチング性及びエッチング精度が劣る。
最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号が7.0未満であると、(200)の配向が強くなり、式1の値が上限値を超え、ハーフエッチング性及びエッチング精度が劣る。なお、最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号が大きくても、未再結晶部分がなければ、エッチング性への影響は小さいため、結晶粒度番号に特に上限は無い。
最終冷間圧延の加工度が85%を超えると、(200)の配向度はあまり変化せずに(220)の配向度が相対的に強くなるため、式3の値が上限値を超え、ハーフエッチング性及びエッチング精度が劣る。また、最終冷間圧延加工度が35%未満の場合は、(311)の配向が強くなり、式2の上限を超えるため、エッチング精度が劣る。」
(エ) 「【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
(実験例A)
(1)メタルマスク材料の製造
Feに36質量%のNiを加えた原料を真空誘導溶解にて溶製し、厚み50mmのインゴットを鋳造した。これを8mmまで熱間圧延し、表面の酸化膜を研削除去した後、圧延と焼鈍を繰返して、表1の板厚のメタルマスク材料に仕上げた。最終再結晶焼鈍前の圧延加工度及び結晶粒度を表1に示す。結晶粒度は、最終再結晶焼鈍時の炉温度1000~1150℃、炉内滞留時間8~60秒の間で調整することで制御した。
【0018】
(2)結晶方位
X線回折装置(株式会社リガク社製の型番:RINT-TTR)を用いて、メタルマスク材料の圧延面の(111)、(200)、(220)、(311)の各X線回折強度(回折ピークの積分強度)を測定し、式1~式3の値を算出した。
【0019】
(3)ハーフエッチングの評価
メタルマスク材料の各サンプルを200mm角の試験片に切り出し、その片面に耐酸テープを貼り付けた。・・・ハーフエッチングの評価基準として、{(MAX-MIN)/AV}×100の値が2.5%未満の場合を「○」、2.5~5%の場合を「△」、5%を超える場合を「×」とした。 評価が○、△であれば実用上問題はない。なお、ハーフエッチングの評価は、エッチングの均一性の指標である。
【0020】
(4)開孔部のエッチング精度の評価
メタルマスク材料の各サンプルを200mm角の試験片に切り出し、試験片の表面に半径50μmの円を300μm間隔で配置したレジストパターンを形成し、スプレー方式のエッチング装置により、液温度25℃、比重45ボーメ度の塩化第二鉄溶液をレジストパターン側から10秒間スプレーし、開孔部をエッチングで形成した。・・・開孔部のエッチング精度の評価基準として、(DMAX-DAV)と(DAV-DMIN)の値がいずれも1μm未満の場合を「○」、(DMAX-DAV)と(DAV-DMIN)のうち、少なくとも1方が1μm以上の場合を「×」とした。
【0021】
【表1】
[図:0001415250000003.jpg]
【0022】
表1から明らかなように、式1~式3の値が規定範囲内である各実施例の場合、ハーフエッチング性とエッチング精度が共に向上した。
・・・」
イ 前記ア(ア)の記載によれば、参考文献1には、NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる厚み0.02~0.10mmのFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすメタルマスク材料が記載されており、
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:68.7%≦{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦87.6%
同(イ)の記載によれば、前記メタルマスク材料は、エッチング性に優れ、有機ELディスプレイ等の製造に用いるメタルマスクとして適したメタルマスク材料を提供することを課題としたものであって、材料の結晶方位を制御することで、ハーフエッチング後の材料厚みが均一となり、開孔部を精密にエッチング加工できるものである(段落【0007】~【0008】)。
そして、同(ウ)の記載によれば、前記メタルマスク材料の圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折積分強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、これらが前記式1~式3の関係を満たすと、特定方位にのみ強く配向しない材料となり、エッチング性(エッチングの均一性)に優れ、高精細なエッチング加工が可能となるものであり(段落【0012】~【0013】)、前記メタルマスク材料の製造方法は、まず溶解炉で原料を溶解し、Fe-Ni系合金組成の溶湯を得て、その後、熱間圧延、酸化層の研削除去の後、冷間圧延と焼鈍を繰返して所定の厚みに仕上げるものであり、ここで、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度を35~85%とし、最終再結晶焼鈍にてJIS G 0551に規定する結晶粒度番号が7.0以上となるように焼鈍し、さらに最終冷間圧延の加工度を35~85%とするものであり、最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号を7.0以上とするためには、最終再結晶焼鈍時の温度と時間を制御すれば良いものである(段落【0015】)。
また、メタルマスク材料の(200)、(220)、(311)の配向度は、上述のように最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度、最終再結晶焼鈍の結晶粒度番号、及び最終冷間圧延の加工度によって決まるものであり、具体的には、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延加工度が85%を超えると、(200)の配向度はあまり変化せずに(220)の配向が強くなり、最終再結晶焼鈍後の結晶粒度番号が7.0未満であると、(200)の配向が強くなり、最終冷間圧延の加工度が85%を超えると、(200)の配向度はあまり変化せずに(220)の配向度が相対的に強くなり、最終冷間圧延加工度が35%未満の場合は、(311)の配向が強くなるものである(段落【0016】)。
更に、同(エ)の記載によれば、X線回折装置(株式会社リガク社製の型番:RINT-TTR)を用いて、メタルマスク材料の圧延面の(111)、(200)、(220)、(311)の各X線回折強度(回折ピークの積分強度)を測定し、この測定結果に基づいて式1~式3の値を算出したとき、前記式1~式3の値が規定範囲内である各実施例の場合、ハーフエッチング性とエッチング精度が共に向上したものである(段落【0018】、【0022】)。
ここで、前記ア(エ)に記載された実施例1(段落【0021】【表1】)に注目すると、前記実施例1は、箔厚が0.10mm、最終再結晶焼鈍前の冷間圧延の加工度が85%、最終再結晶焼鈍の結晶粒径(GS No.)が9.0、最終冷間圧延加工度が50%であり、式1の値が30.3%、式2の値が19.6%、式3の値が79.0%である。
そして、式2がI(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}であることからみれば、I(111)+I(200)+I(220)+I(311)を100%として、I(111)+I(200)+I(220)の値はI(111)+I(200)+I(220)+I(311)-I(311)=100%-19.6%=80.4%と計算でき、式1がI(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}であり、式3が{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}であることからみれば、I(220)の値は式3の値-式1の値=79.0%-30.3%=48.7%と計算でき、I(220)とI(111)+I(200)+I(220)の比は、I(220)/{I(111)+I(200)+I(220)}=48.7%÷80.4%×100=60.6%と計算できる。
ここで、前記式1~式3の値は、株式会社リガク社製の型番:RINT―TTRであるX線回折装置によりメタルマスク材料の圧延面の(111)、(200)、(220)、(311)の各X線回折強度を測定して計算したものであり、圧延面は表面近傍の面といえるから、前記X線回折装置により測定した領域は、本件発明1における「外部層」に相当する領域といえるし、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)が、前記圧延面のX線回折積分強度であることからみれば、I(220)とI(111)+I(200)+I(220)の比であるI(220)/{I(111)+I(200)+I(220)}は、本件発明1における「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」である「{220}結晶面の割合」に相当するといえる。
してみれば、I(220)/{I(111)+I(200)+I(220)}が60.6%である前記実施例1は、圧延面の結晶方位が、本件発明1における「外部層」の「{220}結晶面の割合」が「XRDで測定した時50%ないし70%」である、との発明特定事項を満たすものといえるから、当業者は、参考文献1の記載に基づいて、「外部層」の「{220}結晶面の割合」が「XRDで測定した時50%ないし70%」である「金属板」を、過度の試行錯誤を要することなく製造することができる。
更に、前記1(2)ア(ウ)(段落【0174】、【0178】、【0207】、【0208】、【0223】、【0237】~【0246】)の記載によれば、本件発明においては、「外部層」は、「金属板」の表面から10nmないし30nmの厚さ範囲で定義される表面層を含み、当該表面層の酸素の含有量を、前記表面層以外の金属層より高くすることにより、前記表面層におけるエッチング速度を遅くできるものであり、前記表面層は、ベース金属板を酸素雰囲気の下で熱処理することにより形成されるものである。
そうすると、「外部層」の「{220}結晶面の割合」が「XRDで測定した時50%ないし70%」である「金属板」を、更に酸素雰囲気の下で熱処理することで、「金属板」の表面から10nmないし30nmの厚さ範囲で定義される表面層の酸素の含有量を前記表面層以外の金属層より高くすることにより、前記表面層におけるエッチング速度を遅くできることを理解できるから、「前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層と、前記外部層以外の内部層と、を含み、前記外部層は、{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%であり、FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅」い「金属板」、すなわち本件発明1の発明特定事項を満たす「金属板」を製造できることを理解することができる。
ウ 前記イによれば、当業者は、本件特許明細書の記載及び前記参考文献1に開示された本件特許の出願日当時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係る「金属板」を生産し、かつ、使用することができるといえる。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1に係る「金属板」の製造方法について、実施可能要件に適合する。
エ 次に、「{220}結晶面の割合」の測定方法について検討すると、特許権者が特許権者意見書3に添付して提出した、本件特許の出願日当時に公知である参考文献4である米国特許第6229255号明細書には、以下の記載がある。
「Reference will now be made in detail to the preferred embodiments of the present invention, examples of which are illustrated in the accompanying drawings.
Most metals are composed of small polycrystalline grains which seldom exhibit random orientation, but exhibit a preferred orientation(or texture) through a plastic deformation by a hot or cold processing or a manufacturing process, such as heat treatment, which causes a crystalline structural change, which affects the mechanical, magnetic and chemical properties of the metal. Particularly, in the case of a re-crystallized cubic lattice, such as a face centered cubic lattice of an invar alloy of a shadow mask material, good etching is dependent on the orientation of the crystal. Since etching is more readily performed in the {100} crystal plane, a three dimensional analysis of the crystal orientation in the material is required for a correct understanding of its etchability.
First of all, for a better understanding of the texture of the steel, i.e., the distribution and orientations of crystal grains, it is necessary to set up a relation between the crystal orientation in each test piece and a test piece coordinate system as shown in FIG. 2. If it is assumed that the direction of rotation required for transformation of a test piece coordinate system KA to a crystal coordinate system KB is "g", the texture may be expressed as an orientation distribution function f(g), representing a volumetric fraction of crystals in a particular direction "g " in the test piece and a multiple of random orientation without texture. The direction "g" may be represented with Euler angles {Φ1,Ψ,Φ2}, or with Miller indices (hkl)[uvw]. A plate may be represented with Miller indices by having (hkl) represent a plane ・・・ parallel to the rolling direction and [uvw] represent the rolling direction as in Equation (1).
・・・
In the shadow mask of an invar alloy having a face centered cubic lattice, diffraction intensities of crystal grains are measured by X-ray diffraction using a goniometer while rotating four pole figures of {111}, {200}, {220}, {311} in all possible directions.」(3欄63行~4欄39行)
(当審訳:次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、その実施例は添付図面に示されている。
ほとんどの金属は小さな多結晶粒で構成されており、ランダムな配向を示すことはほとんどないが、熱処理や冷間加工、あるいは熱処理などの製造工程による塑性変形によって、好ましい配向(またはテクスチャー)を示し、それが結晶構造の変化を引き起こすことで、金属の機械的、磁気的、化学的特性に影響を与える。特に、シャドーマスク材料のインバー合金の面心立方格子のような再結晶立方格子の場合、良好なエッチングは結晶方位に依存する。エッチングは{100}結晶面でより容易に行われるため、エッチング性を正しく理解するためには、材料中の結晶方位の三次元分析が必要である。
まず、鋼の組織、すなわち結晶粒の分布と方位をよりよく理解するためには、図2に示すように、各テストピースにおける結晶方位とテストピース座標系との関係を設定する必要がある。テストピース座標系KAから結晶座標系KBへの変換に必要な回転方向が "g"であると仮定すると、テクスチャは、テストピース内の特定の方向 "g "にある結晶の体積分率と、テクスチャのないランダムな方向の倍数とを表す配向分布関数f(g)として表すことができる。方向 "g "は、オイラー角{Φ1,Ψ,Φ2}で表すこともできるし、ミラー指数(hkl)[uvw]で表すこともできる。圧延方向に平行な平面を(hkl)、圧延方向を[uvw]とすると、式(1)のようにミラー指数で表すことができる。
・・・
面心立方格子を持つインバー合金のシャドウマスクにおいて、ゴニオメータを用いて、{111}、{200}、{220}、{311}の4極をあらゆる方向に回転させながら、X線回折により結晶粒の回折強度を測定した。)
オ 前記エの記載によれば、シャドーマスク材料のインバー合金の面心立方格子のような再結晶立方格子の場合、良好なエッチングは結晶方位に依存し、エッチングは{100}結晶面でより容易に行われるため、エッチング性を正しく理解するためには、材料中の結晶方位の三次元分析が必要であるが、テストピース座標系KAから結晶座標系KBへの変換に必要な回転方向が "g"であると仮定すると、テクスチャは、テストピース内の特定の方向 "g "にある結晶の体積分率と、テクスチャのないランダムな方向の倍数とを表す配向分布関数f(g)として表すことができ、方向 "g "は、ミラー指数(hkl)[uvw]で表すこともでき、圧延方向に平行な平面を(hkl)、圧延方向を[uvw]とすると、式(1)のようにミラー指数で表すことができるものである。
そして、材料中の結晶方位の三次元分析の際のミラー指数として圧延方向に平行な平面や(hkl)、圧延方向[uvw]が用いられることからみれば、X線回折強度を測定する際の試料に対するX線の入射方向は圧延方向であるといえ、このことは、本件特許の出願時における技術常識といえるから、本件特許明細書にX線回折強度を測定する際の試料に対するX線の入射方向が記載されていないとしても、当業者は、前記参考文献4に開示された本件特許の出願日当時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係る「金属板」を生産し、使用することができるといえる。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめてみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1に係る「金属板」の「{220}結晶面の割合」の測定方法について、実施可能要件に適合する。
カ 前記ウ及びオによれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
(3) 取消理由について
前記(2)ウ及びオに記載したのと同様の理由により、前記第5の1(1)、(2)イ、同2(1)及び(3)イの取消理由はいずれも理由がない。
(4) 特許異議申立理由について
ア 申立人山田の特許異議申立理由について
前記(2)ウに記載したのと同様の理由により、前記第4の1(2)の申立人山田の特許異議の申立て理由も理由がない。
イ 申立人小海の特許異議申立理由について
前記(2)オに記載したのと同様の理由により、前記第4の2(1)アの申立人小海の特許異議の申立て理由も理由がない。
また、前記(2)ウに記載したのと同様の理由により、前記第4の2(1)イの申立人小海の特許異議の申立て理由も理由がない。
ウ 申立人佐藤の特許異議申立理由について
前記(2)ウに記載したのと同様の理由により、前記第4の3(1)の申立人佐藤の特許異議の申立て理由も理由がない。
(5) 山田意見書、小海意見書、佐藤意見書について
ア 山田意見書について
(ア) 実施可能要件違反についての山田意見書における申立人山田の主張の概要は、以下のとおりである。
a 特許権者は、特許権者意見書2に添付して提出した参考文献2である米国特許5532088号明細書のTABLE3のExample4に注目して、前記参考文献2に記載された発明の{220}結晶面が本件発明と同一の傾向を示し、同参考文献3である特開平6-264190号公報には鉄とニッケルを含む合金からなるシャドウマスク材料の製造方法が記載されているから、前記参考文献2~3を参照することで、本件発明に係る「金属板」の製造方法を理解できる旨を主張しているが、前記参考文献2に記載された発明の{220}結晶面が本件発明と同一の傾向を示すとはいえないし、前記参考文献2及び3には「外部層」と「内部層」の記載はないから、前記参考文献2及び3を参照しても、本件発明に係る「金属板」を製造するには、過度な試行錯誤を強いられることは明らかである。
また、特許権者は、本件発明に係る「金属板」を製造する方法を理解するにあたって特許権者意見書1に添付して提出した前記参考文献1を参照することは問題ない旨を主張しているが、前記参考文献1にも「外部層」と「内部層」の記載はないから、前記参考文献1を参照しても、本件発明に係る「金属板」を製造する方法を理解することはできない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない(2ページ4行~3ページ21行)。
b 本件発明においては、「外部層」と「内部層」が定義されており、「外部層」と「内部層」で材質が同一であるから、「{220}結晶面の割合」の測定結果が「外部層」のものであるか「内部層」のものであるかを特定するために、X線の入射角度が示される必要があるのに、本件特許明細書及び前記参考文献1~3にはX線の入射角度は記載されていないので、本件特許明細書には「{220}結晶面の割合」を測定する方法が記載されているとはいえない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない(3ページ22行~5ページ25行)。
(イ) 始めに、前記(ア)aの主張について検討すると、前記参考文献1~3に「外部層」と「内部層」の記載がないとしても、前記(2)ウの事情に変わりはないから、前記(ア)aの主張は採用できない。
次に、前記(ア)bの主張について検討すると、本件発明1における「{220}結晶面の割合」は「外部層」のものであって、当該「外部層」の「{220}結晶面の割合」を測定する際のX線の入射角度は、技術常識に基づいて当業者が理解できるから、本件特許明細書及び参考文献1~3にX線の入射角度が記載されていないとしても、本件特許明細書に「{220}結晶面の割合」を測定する方法が記載されていないとはいえないので、前記(ア)bの主張も採用できない。
イ 小海意見書について
(ア) 実施可能要件についての小海意見書における申立人小海の主張の概要は、以下のとおりである。
a 小海意見書に添付して提出された参考文献4である国際公開第2020/067537号(前記第4の2(5))の記載等からみれば、X線の入射方向が変動しても、測定される結晶面の割合が変化しないということはなく、X線の入射方向が変動すれば、測定される結晶面の割合は変化するものである。
そして、本件特許明細書にはX線の入射方向が記載されていないのであるから、「{220}結晶面の割合」を測定する方法を理解できないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない(1ページ下から11行~6ページ15行)。
b 特許権者は、特許権者意見書2に添付して提出された前記参考文献3に記載された事項に基づいて本件発明1に係る「金属板」の製造方法を理解できる旨を主張しているが、前記参考文献3には、「{220}結晶面の割合」を「50%ないし70%」とするための製造条件は記載されていない。
また、特許権者は、同参考文献2のTABLE2のExample4が本件発明1と同一の傾向を示す旨を主張しているが、前記Example4は「{220}結晶面の割合」が「50%ないし70%」となっていないから、「{220}結晶面の割合」を「50%ないし70%」とするための製造条件を理解できない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1に係る「金属板」を生産でき、かつ使用できるように記載したものではないから、実施可能要件に適合しない(6ページ16行~8ページ18行)。
(イ) 始めに、前記(ア)aの主張について検討すると、前記(2)オに記載したのと同様の理由により、小海意見書に添付して提出された前記参考文献4に記載された事項に関わらず、当業者は、「{220}結晶面の割合」を測定する方法を理解できるので、前記(ア)aの主張は採用できない。
次に、前記(ア)bの主張について検討すると、特許権者意見書2に添付して提出された前記参考文献2及び3に記載された事項に関わらず、前記(2)ウに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1に係る「金属板」を生産でき、かつ使用できるように記載したものといえるから、前記(ア)bの主張も採用できない。
ウ 佐藤意見書について
(ア) 実施可能要件についての佐藤意見書における申立人佐藤の主張の概要は、以下のとおりである。
特許権者は、前記ア(ア)aに記載されたのと同様の主張をしているが、特許権者意見書2に添付して提出された前記参考文献2は、本件発明1の「外部層」と「内部層」を含む「金属板」の製造方法を開示していないし、「外部層」の「{220}結晶面の割合」が「50%ないし70%」である「金属板」の製造方法も開示していないから、前記参考文献2をみても、本件発明1に係る「金属板」の製造方法を理解できない。
同参考文献3は、前記参考文献2のExample4のシャドウマスク用板材の製造方法を開示するものではないし、シャドウマスク用板材の各結晶面の割合も記載されていないから、前記参考文献3をみても、本件発明1に係る「金属板」の製造方法を理解できない。
特許権者意見書1に添付して提出された前記参考文献1においては、メタルマスク材料の各結晶面のX線回折強度の比を「外部層」と「内部層」とで異ならせることは想定されないし、「外部層」の「{220}結晶面の割合」が「50%ないし70%」であるメタルマスク材料の製造方法を開示するものでもないから、前記参考文献1をみても、本件発明1に係る「金属板」の製造方法を理解できないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない(1ページ下から4行~9ページ11行)。
(イ) そこで、前記(ア)の主張について検討すると、前記参考文献2及び3に記載された事項に関わらず、また、前記参考文献1において、メタルマスク材料の各結晶面のX線回折強度の比を「外部層」と「内部層」とで異ならせることは想定されないとしても、前記(2)ウに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1に係る「金属板」を生産でき、かつ使用できるように記載したものといえるから、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、山田意見書、小海意見書及び佐藤意見書における主張はいずれも採用できない。
(6) 実施可能要件違反についてのまとめ
よって、特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)についての取消理由、申立人山田、申立人小海及び申立人佐藤の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件の判断手法
請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) 明確性要件の判断
本件発明1は、「前記{220}結晶面の割合は、{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合であり」、との発明特定事項を有するから、「{220}結晶面の割合」が「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」であることを理解できるので、その意味は明確である。
また、前記2(2)オに記載したのと同様の理由により、本件発明1における「{220}結晶面の割合」の測定方法も明確である。
更に、本件発明1におけるそのほかの発明特定事項の意味も明確であるから、本件発明1の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1の記載は明確性要件に適合するといえ、本件発明2及び4~10について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合する。
(3) 取消理由について
前記(2)に記載したのと同様の理由により、前記第5の1(2)ア、同2(2)及び同2(3)アの取消理由は理由がない。
(4) 特許異議申立理由について
ア 申立人小海の特許異議申立理由について
前記(2)に記載したのと同様の理由により、前記第4の2(2)の申立人小海の特許異議の申立て理由も理由がない。
イ 申立人佐藤の特許異議申立理由について
前記第4の3(3)の申立人佐藤の特許異議の申立て理由は、総じて、本件課題を解決するためには、本件発明1において、本件発明1の発明特定事項に加えて、「金属板」の表面層における酸素の含有量、「内部層」の{220}結晶面の割合、「外部層」及び「内部層」の{200}結晶面及び{111}結晶面の割合、「外部層」のエッチング速度及び「内部層」のエッチング速度、及び、ブリッジ領域といった、ほかの発明特定事項が必要であることを前提として、これらの発明特定事項を有しない本件発明1の技術的意義が不明確であることをいうものといえる。
ところが、当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができることは、前記1(2)イ(ウ)に記載したとおりであるから、前記特許異議の申立て理由は前提において誤っているので、いずれも理由がない。
(5) 山田意見書、小海意見書について
ア 明確性要件についての山田意見書における申立人山田の主張の概要は、以下のとおりである。なお、申立人山田は特許異議の申立て理由として明確性要件違反を主張していないが、以下、検討しておく。
前記2(5)ア(ア)bに記載したのと同様の理由により、本件発明1における「{220}結晶面の割合」の意味及びその測定方法が明確でないから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない(3ページ22行~5ページ25行)。
また、明確性要件についての小海意見書における申立人小海の主張の概要は、以下のとおりである。
前記2(5)イ(ア)aに記載したのと同様の理由により、本件発明における「{220}結晶面の割合」を測定する方法を理解できないから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない(1ページ下から11行~6ページ15行)。
イ そこで、前記アの申立人山田及び申立人小海の主張について検討すると、これらの主張は、本件発明1における「{220}結晶面の割合」の意味及びその測定方法が明確でないことをいう点で、同じものといえる。
ところが、本件発明1における「{220}結晶面の割合」の意味及びその測定方法は明確であるといえることは前記(2)に記載したとおりであるから、前記アの申立人山田及び申立人小海の主張はいずれも採用できない。
(6) 明確性要件についてのまとめ
したがって、特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)についての取消理由、申立人山田、申立人小海及び申立人佐藤の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
4 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 申立人山田の特許異議申立理由について
ここでいう甲第3号証~甲第4号証は、申立人山田が提出した、前記第4の1(4)に記載された甲第3号証~甲第4号証である。
ア 甲各号証の記載事項等
(ア) 甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明
a 甲第3号証には、以下の(a)~(b)の記載がある。
(a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面にフォトレジストを形成しエッチング加工するリードフレーム材料において、内層を形成する第1の金属板と、前記第1の金属板の片面もしくは両面に積層する前記第1の金属板よりエッチング反応速度の小さい第2の金属板とを具備して成ることを特徴とするリードフレーム材料。」
(b) 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記のような従来のリードフレーム材料を用いたリードフレームは、エッチング加工の際に生じるアンダーカット9により、フォトレジスト8で形成したパターン幅よりもエッチング後に得られるパターン幅はかなり狭くなってしまうという問題点があった。このアンダーカット9は、リードフレームのエッチング加工においては必ず生じるものでエッチング加工の条件により極微量の制御は出来るが著しい改善は難しく、現状ではフォトレジスト8のパターン幅を広く設計することにより対応されていた。
【0008】しかし、リードフレームの微細化および多ピン化要求によりアンダーカットの問題が大きくなってきている。すなわち、従来のリードフレーム材料を用いてエッチング加工して現状でつくられているものよりもっと多ピンのリードフレームを製造する場合、フォトレジストのパターン幅は設計上狭くする必要がありアンダカット量9の値を考慮したパターン幅が確保出来ず、これをエッチング加工するとリードフレーム材料5のエッチング後に得られるパターン幅は細くなりすぎてしまうという問題点があった。
【0009】そのためもっとも微細となるインナーリード先端部では、ワイヤーボンディングに必要なインナーリード幅が確保出来ず、リードフレームの多ピン化の限界に来ているという問題点があった。
【0010】この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、表面にエッチングにおける反応速度の小さい金属板を積層することにより、エッチング加工におけるアンダーカット量の増大を抑えて微細パターンの形成を可能とし、また表面金属板と内層金属板の組合せによって双方の特徴を生かすことを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】このため、この発明の請求項1においては、表面にフォトレジストを形成しエッチング加工するリードフレーム材料において、内層を形成する第1の金属板と、前記第1の金属板の片面もしくは両面に積層する前記第1の金属板よりエッチング反応速度の小さい第2の金属板とを具備して成るリードフレーム材料により、前記目的を達成しようとするものである。
・・・
【0013】
【作用】この発明の請求項1のリードフレーム材料は、内層の第1の金属板より表面の第2の金属板がエッチング加工における反応速度が小さいので、この材料のエッチングを行うと、板厚方向はエッチング反応速度の大きい第1の金属板のエッチング性の依存して進行するのに対し、平面方向はエッチングの反応速度の小さい第2の金属板のエッチング性に依存して進行する。従って板厚方向のエッチングが完了する時点において平面方向のエッチングは表面金属があることにより遅くなり、前記従来例に比べアンダーカットの小さいエッチングパターン形状を形成する。
・・・
【0015】
【実施例】以下、この発明の一実施例を図面に基づいて説明する。・・・
【0016】図1において、1はエッチングの反応速度の大きい第1の金属板である内層金属、2は内層金属に積層したエッチングの反応速度の小さい第2の金属板である表面金属である。内層金属と表面金属との組合せはエッチング反応速度の差により選定されるものであるが、例えば、内層金属に銅あるいは銅合金を用いる場合は、Fe・Ni合金あるいはNiなどが好適な材料となる。
【0017】例えば、銅合金としてCu・2%,Sn・0.2%Ni合金を用いた場合、あるエッチング条件でのエッチング反応速度は38ないし40μm/min.であり、Fe・Ni合金である42合金のエッチング反応速度は17ないし18μm/min.の組合せなどが挙げられる。この実施例では、前記のCu・2%Sn・0.2%Ni合金と42合金の組合せを用いた。」
b そして、前記a(a)及び(b)(段落【0015】)の記載によれば、甲第3号証には、
「表面にフォトレジストを形成しエッチング加工するリードフレーム材料において、内層を形成する第1の金属板と、前記第1の金属板の片面もしくは両面に積層する前記第1の金属板よりエッチング反応速度の小さい第2の金属板とを具備して成るリードフレーム材料であって、
第1の金属板に銅あるいは銅合金を用いる場合は、第2の金属板にFe・Ni合金あるいはNiなどが好適な材料となる、リードフレーム材料。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
(イ) 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%」
b 「【0001】
本発明は、有機ELディスプレイの製造等で使用されるメタルマスク材料及びメタルマスクに関する。
・・・
【0007】
そこで、上記した問題の解決策として、強度が保てる程度の厚みを有する材料を用いつつも、開孔部周辺をハーフエッチングで薄くしてから開孔部を成形する方法が知られている。これにより、1枚の金属箔を用いつつも、シャドウイング効果を抑え、さらに材料の強度を確保して有機材料の付着による歪の発生を抑えることができる。また、開孔部をエッチング法で作製することで、所定の開孔部を持つマスク(箔、板)をめっき法で直接作製する場合と比較して製造コストを低減することができる。
しかしながら、ハーフエッチングやその後の本エッチングにより開孔部を精度良く形成するためには、エッチング性(エッチングの均一性)に優れた材料を使用する必要がある。エッチングが均一でないと、ハーフエッチング後の材料厚みが一定にならなかったり、エッチング成形された開孔部の形状が不均一になるなどの不具合が生じる。
本発明は、エッチング性に優れ、有機ELディスプレイ等の製造に用いるメタルマスクとして適したメタルマスク材料及びメタルマスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、材料の結晶方位を制御することで、ハーフエッチング後の材料厚みが均一となり、開孔部を精密にエッチング加工できることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、
均一エッチング性に優れた有機ELディスプレイ用メタルマスク材料である。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%
(2)(1)に記載の材料を用いたメタルマスクである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エッチング性に優れ、有機ELディスプレイ等の製造に用いるメタルマスクとして適したメタルマスク材料及びメタルマスクを提供することができる。」
c 「【0013】
一般に、結晶方位によりエッチング速度に差異があることが知られており、材料が特定方位に強く配向していない場合に均一にエッチングされる。材料が特定方位に強く配向した場合は、特定方位が優先的にエッチングされ易くなる、又はエッチングされ難くなることで、エッチングが不均一になることで、エッチング精度が低下する。メタルマスク用素材として使用されるFe-Ni系の合金では、主要な結晶方位は(111)、(200)、(220)、(311)であり、本発明者が各方位の配向度とエッチング性の関係を鋭意調査した結果、(200)、(311)につき、それぞれが一定範囲以下かつ、(200)、(220)の合計の配向度が一定値以下の場合に、良好なエッチング性を示すことを見出した。すなわち、均一かつ精度良くエッチングするためには、式1~式3を満たすような、特定方位にのみ強く配向しない材料を使用すればよい。式1~式3につき、いずれか1つ以上が上限を超えた場合、エッチング速度が部分的に不均一となり、エッチング精度が劣化する。
なお、式1~式3は、後述する最終再結晶焼鈍前の圧延加工度及び結晶粒度を制御することで、調整することができる。」
イ 対比・判断
(ア) 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「リードフレーム材料」、「第2の金属板」及び「第1の金属板」は、それぞれ、本件発明1における「金属板」、「外部層」、「前記外部層以外の内部層」に相当し、甲3発明において、「第2の金属板」の「エッチング反応速度」が「第1の金属板より」「小さい」ことは、本件発明1において、「前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅い」ことに相当する。
すると、本件発明1と甲3発明とは、
「金属板において、前記金属板は、外部層と、前記外部層以外の内部層と、を含み、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅い、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「金属板」が「蒸着用マスクの製作に使用される金属板」であるのに対して、甲3発明は「リードフレーム材料」である点。
・相違点2:本件発明1は、「外部層」が「前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される」のに対して、甲3発明は「第2の金属板」の厚さが明らかでない点。
・相違点3:本件発明1は、「外部層」が、「{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%であ」り、「前記{220}結晶面の割合は、{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲3発明は前記発明特定事項を有しない点。
・相違点4:本件発明1は、「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅い」、との発明特定事項を有するのに対して、甲3発明は、エッチング液の組成及び温度が明らかでない点。
・相違点5:本件発明1は、「金属板」が「鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む」のに対して、甲3発明は、「第1の金属板に銅あるいは銅合金を用いる場合は、第2の金属板にFe・Ni合金あるいはNiなどが好適な材料となる」点。
(イ) 事案に鑑み、始めに、前記(ア)の相違点3から検討すると、前記ア(ア)a(b)によれば、甲3発明は、従来のリードフレーム材料を用いてエッチング加工して現状でつくられているものよりもっと多ピンのリードフレームを製造する場合、フォトレジストのパターン幅は設計上狭くする必要があり、アンダカット量の値を考慮したパターン幅が確保出来ず、これをエッチング加工するとリードフレーム材料のエッチング後に得られるパターン幅は細くなりすぎてしまうという課題や(段落【0008】)、そのためもっとも微細となるインナーリード先端部では、ワイヤーボンディングに必要なインナーリード幅が確保出来ず、リードフレームの多ピン化の限界に来ている、という課題(段落【0009】)を解決するものである。
そして、甲3発明は、表面にエッチングにおける反応速度の小さい「第2の金属板」を積層することにより、エッチング加工におけるアンダーカット量の増大を抑えて微細パターンの形成を可能とし、また「第2の金属板」と「第1の金属板」の組合せによって双方の特徴を生かすものであって(段落【0010】)、内層の「第1の金属板」より表面の「第2の金属板」がエッチング加工における反応速度が小さいので、この材料のエッチングを行うと、板厚方向はエッチング反応速度の大きい「第2の金属板」のエッチング性に依存して進行するのに対し、平面方向はエッチングの反応速度の小さい「第1の金属板」のエッチング性に依存して進行し、板厚方向のエッチングが完了する時点において平面方向のエッチングは「第2の金属板」があることにより遅くなり、前記従来例に比べアンダーカットの小さいエッチングパターン形状を形成することで、前記課題を解決するものである(段落【0013】)。
(ウ) これに対して、前記ア(イ)aによれば、甲第4号証には、NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%
が記載されている。
そして、前記ア(イ)bによれば、従来、メタルマスクの製造において、強度が保てる程度の厚みを有する材料を用いつつも、開孔部周辺をハーフエッチングで薄くしてから開孔部を成形する方法が知られているが、ハーフエッチングやその後の本エッチングにより開孔部を精度良く形成するためには、エッチング性(エッチングの均一性)に優れた材料を使用する必要があり、エッチングが均一でないと、ハーフエッチング後の材料厚みが一定にならなかったり、エッチング成形された開孔部の形状が不均一になるなどの不具合が生じる、という課題があったのを(段落【0007】)、材料の結晶方位を制御することにより、ハーフエッチング後の材料厚みが均一となり、開孔部を精密にエッチング加工できるようにして、解決したものである(段落【0008】)。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)によれば、甲3発明に係る「リードフレーム材料」と甲第4号証に記載されたメタルマスク材料とは、もともと解決しようとする課題及びその解決手段が異なるのであり、板厚方向はエッチング反応速度の大きい「第2の金属板」のエッチング性に依存して進行するのに対し、平面方向はエッチングの反応速度の小さい「第1の金属板」のエッチング性に依存して進行する甲3発明に係る「リードフレーム材料」において、エッチングの均一性に優れた材料を用いて、ハーフエッチング後の材料厚みを均一としたり、開孔部を精密にエッチング加工できるようにすることは考えないから、甲3発明に甲第4号証に記載された事項を組み合わせる動機付けは存在しない。
(オ) また、甲第4号証は、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」に注目したものではなく、そのような「{220}結晶面の割合」を、「XRDで測定した時50%ないし70%」とすることが記載も示唆もされるものではないから、当業者は、甲第4号証に記載された事項に基づいて、甲3発明を前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
(カ) 前記(エ)及び(オ)によれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2及び4~10について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人山田の主張について
(ア) 進歩性欠如についての申立人山田の主張の概要は、以下のとおりである。
甲第4号証に記載されたメタルマスク材料の主要な結晶方位は(111)、(200)、(220)、(311)であり、甲第4号証の式1及び式3より、前記メタルマスク材料における(220)結晶方位の割合は50%~90%以下であることがわかる。
そして、前記ア(イ)cの甲第4号証の記載からみれば、結晶方位とエッチング密度には密接な関係性があり、結晶方位を制御することによってエッチング速度やエッチング性を制御できることは、本件特許の優先日当時の周知技術であり、更に、甲第3号証及び甲第4号証はエッチングによって微細な孔を作成する点で技術分野が密接に関連するものである。
更に、甲第3号証及び甲第4号証を組み合わせる上での阻害要因も存在しないから、甲第3号証に記載された発明に甲第4号証に記載された事項を組み合わせることは、当業者が容易に想到し得るので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ) そこで、前記(ア)の主張について検討すると、甲第4号証に記載されたメタルマスク材料における(220)結晶方位の割合は50%~90%以下であり、結晶方位とエッチング密度には密接な関係性があり、結晶方位を制御することによってエッチング速度やエッチング性を制御できることが、本件特許の優先日当時の周知技術であり、更に、甲第3号証及び甲第4号証はエッチングによって微細な孔を作成する点で技術分野が密接に関連し、甲第3号証及び甲第4号証を組み合わせる上での阻害要因も存在しないとしても、前記イ(エ)の事情に変わりはないし、甲第4号証には、「{220}結晶面の割合」、すなわち、「{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合」に注目すること自体が記載されていないのであるから、前記イ(オ)の事情にも変わりはないので、本件発明1~2及び4~10は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
よって、本件発明1~2及び4~10は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第4の1(3)の申立人山田の特許異議申立理由は理由がない。
(2) 申立人小海の特許異議申立理由について
ここでいう甲第7号証~甲第9号証は、申立人小海が提出した、前記第4の2(5)に記載された甲第7号証~甲第9号証である。
ア 甲各号証の記載事項等
(ア) 甲第7号証の記載事項及び甲第7号証に記載された発明
a 甲第7号証には、以下の(a)~(c)の記載がある。
(a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
開孔寸法を定める開孔形成層と、支持層と、前記開孔形成層と前記支持層とに挟み込まれ、前記開孔形成層及び支持層とはエッチング特性の異なる接合層とを具備し、前記開孔形成層から支持層まで貫通する貫通孔を有するメタルマスクであって、該メタルマスクに形成された貫通孔の最小開孔部が開孔形成層内にあることを特徴とするメタルマスク。」
(b) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば半導体装置、有機ELディスプレイの蒸着用等に用いられるメタルマスクとして、高精細なパターン成膜が可能なメタルマスクとその製造方法に関するものである。
・・・
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記非特許文献1に記載の方法では、開孔形成層に形成した開孔部断面は、前述の理想形状とは逆のテーパー形状となる。
具体的には、開孔形成層に開孔部を形成する場合、開孔形成層表面からエッチングにより開孔部を接合層まで形成する。また、支持層に開孔部を形成する場合、支持層表面からエッチングにより開孔部を接合層まで形成し、露出する接合層をエッチングで除去するため、除去された接合層と接していた開孔形成層の最深部が最小開孔部となり、最小開孔部から、支持層及び開孔形成層表面の開孔部に向かって開孔幅が広がる形状になる。
なお、本発明で言う最小開孔部とは、貫通孔内において孔の幅が最も小さい場所を言う。
【0009】
従って、前述の本願出願人の提案によるメタルマスクにおいても、開孔形成層側の孔の断面が孔の入口側ほど狭く、出口側に向かって広がる形状であるために、孔の深さはわずかであるが、多少なりとも蒸着材粒子の廻り込みが発生し、成膜パターンの輪郭がぼける要因となる。
本発明の目的は、上記の本願出願人の提案による開孔形成層と、支持層と、接合層とを具備する積層構造を有するメタルマスクにおいて、開孔形成層側の孔の断面形状により生ずる蒸着材粒子の廻り込みという問題点に鑑みてなされたものであって、例えば有機ELディスプレイ等の蒸着用メタルマスクとして高精度なパターン成膜が可能なメタルマスクとその製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものである。即ち本発明は、開孔寸法を定める開孔形成層と、支持層と、前記開孔形成層と前記支持層とに挟み込まれ、前記開孔形成層及び支持層とはエッチング特性の異なる接合層とを具備し、前記開孔形成層から支持層まで貫通する貫通孔を有するメタルマスクであって、該メタルマスクに形成された貫通孔の最小開孔部が開孔形成層内にあることを特徴とするメタルマスクである。
好ましくは、前記最小開孔部は、開孔形成層表面側から5μm以内にあるメタルマスクである。
・・・
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者は、本願出願人の提案による、開孔形成層と、支持層と、接合層とを具備する積層構造を有するメタルマスクにおいて、その利点を最大限に活かしながら、更に蒸着材粒子の廻り込みを最小限に抑えられるように、開孔形成層側の孔の断面形状を、孔の出口側に向かって一様に狭くなるようなテーパー形状に近づける検討を行った。
その結果、従来は接合層に接する開孔形成層の最深部に存在した最小開孔部を、開孔形成層内に位置することで、蒸着の影になる部分を除去または低減することが可能となり、理想的な開孔断面形状により一層近づけることが可能であることを知見した。
【0013】
そして、最小開孔部を、開孔形成層内に位置するメタルマスクを用いれば、蒸着材粒子の廻り込みを最小限に抑えることができ、より確実に輪郭が明瞭な成膜パターンを形成できることを見いだしたものである。
本発明によれば、例えば有機ELディスプレイ等の高精細化、大型化に必要とされる、高精細なパターン開孔を有するメタルマスクを提供することができる。以下に本発明を詳しく説明する。
・・・
【0015】
本発明の開孔形成層(1)は、開孔寸法を定めるものである。上述のように、本発明によるメタルマスクは、開孔形成層に最小開孔幅を有する孔を形成し、この最小開孔幅がメタルマスクの開孔寸法となる。
開孔形成層(1)の厚さは、開孔部をエッチングにより形成する際の平面方向への侵食を極力小さくするためになるべく薄い方がよく、少なくとも15μm以下、好ましくは10μm以下に設定することにより、最小開孔部(4-c)の開孔寸法精度を±数μmに抑えることが可能である。
接合層(2)は、開孔形成層(1)と支持層(3)とを接合するバインダの役割を果たすと同時に、貫通開孔部(4)をエッチングにより形成する際に、該開孔形成層(1)側の開孔部(4-a)と支持層側開孔部(4-b)とを別々にエッチングするためのバリアの役目も担っている。
【0016】
支持層(3)は、薄い開孔形成層を支持する役割を担っている。また、支持層側開孔部(4-b)は蒸着材粒子が貫通孔に入射する際の入口となる。本発明では開孔形成層と支持層を別々にエッチングすることが可能であるから、開孔形成層側の開孔幅に対して、支持層側の開孔幅を比較的大きくとることができる。
従って蒸着材粒子が貫通開孔部に入射する際の入口の幅を大きくすることが可能で、入口エッジ部分が蒸着の影になるのを防止することができる。
なお、支持層(3)の厚さは強度上厚い方が好ましいが、あまり厚くすると蒸着の際に貫通孔部(4)に影をつくり、蒸着膜厚の不均一さを生じる。従って最小開孔部(4-c)と同程度かそれ以下の100~30μm程度に設定するのが適当である。
・・・
【0020】
上述した開孔形成層及び支持層を構成する金属の材料としては熱膨張による蒸着パターンずれ防止のため、熱膨張係数の小さい金属材料を用いることが望ましい。中でも、入手のし易さや、エッチング特性を考慮すると、例えばインバー合金、42質量%Ni-Fe合金等のFe-Ni系合金を用いるのが特に望ましい。また、CrやCoを添加したスーパーインバー合金や、Fe-Ni-Cr系合金、ステンレスなどの適用も可能である。なお、開孔形成層(1)と支持層(3)とを同じ材質とすると、開孔形成層と支持層とを同じエッチング液で処理することもできる。」
(c) 「【0022】
次に、本発明のメタルマスクの製造方法について説明する。
本発明のメタルマスクの開孔断面形状は、次の様な成形方法により得ることができる。図2を用いて説明する。
先ず、三層構造の積層材を用意する。この積層材は、開孔寸法を定める開孔形成層と、支持層と、前記開孔形成層と前記支持層とに挟み込まれ、前記開孔形成層及び支持層とはエッチング特性の異なる接合層とを具備するものである。
先ず始めに、開孔形成層(1)、接合層(2)、支持層(3)からなる積層材の、開孔形成層表面側と支持層表面側に、エッチングで開孔できるように開孔形成層側レジスト(10)と、支持層側レジスト(11)を形成する。(図2(a))
【0023】
次に、開孔形成層表面側からエッチングにより接合層まで到達する開孔部を形成する。(図2(b))
この時、使用するエッチング液に対して、開孔形成層と接合層とではエッチング特性が異なり、接合層はほとんど浸食されることがない。したがって、接合層はエッチングストッパとして機能し、厚さ方向にはそれ以上エッチングが進まない。
そして、前記の工程の後、前記開孔形成層に形成された開孔部の側面及びエッチングにより露出した接合層表面に、少なくとも接合層と開孔形成層のエッチング液の浸食を抑制する保護膜(12)を塗布する。(図2(c))
この時に、保護膜(12)が開孔形成層に形成された開孔部内に充填する如く形成されていても構わない。
【0024】
そして、前記開孔形成層に形成された開孔部に露出した接合層を挟んで対峙する位置の支持層表面側から、前記開孔形成層に形成された開孔部より大きい寸法の開孔部を、エッチングにより接合層まで到達するように形成する。(図2(d))
ここで言う、前記開孔形成層に形成された開孔部に露出した接合層を挟んで対峙する位置の支持層表面とは、支持層表面から深さ方向にエッチングを行った場合、前記の開孔形成層に形成された開孔部に露出した接合層を包含可能な位置を言う。そして、開孔形成層に開孔した開孔部より大きい寸法の開孔部をエッチングによって形成する。このエッチングを接合層まで行うことで、支持層側の開孔部の断面形状をテーパー形状にする。
なお、本発明で言うテーパー形状とは、表面側開孔部の幅よりも接合層側開孔部の方が狭くなっていればテーパー形状と言う。
また、この支持層側の開孔では、前記の開孔形成層に形成された開孔部に露出した接合層を包含可能な位置となるように、支持層側のレジスト形成時に位置決めを正確に行うことが重要である。
【0025】
次に、前記の工程の後、前記支持層側にエッチングにより露出した接合層を除去し、開孔形成層から支持層まで貫通する貫通孔を形成する。(図2(e))
この時には、接合層を除去するエッチング液は、支持層及び開孔形成層とはエッチング特性が異なるため、接合層を選択的にエッチングすることが可能である。
【0026】
そして、前記の工程により、前記接合層を除去した個所には、開孔形成層と前記保護膜(12)の裏面が露出する。露出した開孔形成層を、支持層側から該支持層側の開孔部も含めてハーフエッチングする。(図2(f))
ここでハーフエッチングとは、意図的にエッチングを中断することを言う。
本発明のメタルマスクでは、該工程において、開孔形成層を支持層側からエッチングしたことに重要な効果がある。すなわち、ここまでの工程において、接合層を除去した後の開孔形成層の露出面は、最小開孔部にあたる。この部位を支持層側からハーフエッチングすると、露出した開孔形成層が孔の出口側に向かってエッチングされ、該エッチングの進行とともに、最小開孔部の位置は孔の出口側に移動する。このハーフエッチングの条件を調整することで、貫通孔内の最小開孔部の位置を、接合層と接する位置より開孔形成層最表面までの間の任意の位置に調整することができる。
【0027】
またこのとき、開孔形成層側の開孔部側面に形成した保護膜は、開孔形成層を支持層側からハーフエッチングする際に、開孔部側面を保護する役割を果たす。図2(c)の工程を省略して保護膜を形成せず、該工程により開孔形成層を支持層側からエッチングしても、同様に最小開孔部を孔の出口側に移動させることができるが、開孔形成層側の開孔部側面が一様にエッチングされるので、その効果は小さくなり、さらに開孔形成層の開孔幅がエッチングにより大きく変化するため開孔寸法精度のばらつきを生じやすい。
【0028】
なお、支持層と開孔形成層が同質の金属材料の場合、ハーフエッチングによって、支持層側の開孔幅が広がる場合がある。そのため、例えば、同質材料を支持層と開孔形成層とに用いた場合、例えば、何れか一方の層に用いる金属材料を、圧延によって結晶の配向性を変化させたものを用いたり、例えばエッチングスピードに影響を及ぼすC(炭素)等の含有量を変化させた金属材料を用いても良い。」
b 前記a(a)~(c)の記載(【請求項1】、段落【0001】、【0015】、【0016】、【0020】、【0022】~【0028】)によれば、甲第7号証には、
「開孔寸法を定める開孔形成層と、支持層と、前記開孔形成層と前記支持層とに挟み込まれ、前記開孔形成層及び支持層とはエッチング特性の異なる接合層とを具備し、前記開孔形成層から支持層まで貫通する貫通孔を有するメタルマスクであって、該メタルマスクに形成された貫通孔の最小開孔部が開孔形成層内にあるメタルマスクであり、
半導体装置、有機ELディスプレイの蒸着用等に用いられるメタルマスクとして、高精細なパターン成膜が可能なメタルマスクであり、
開孔形成層の厚さは、開孔部をエッチングにより形成する際の平面方向への侵食を極力小さくするためになるべく薄い方がよく、少なくとも15μm以下、好ましくは10μm以下に設定するものであり、
支持層の厚さは、100~30μm程度に設定するのが適当であり、
開孔形成層及び支持層を構成する金属の材料としては、インバー合金、42質量%Ni-Fe合金等のFe-Ni系合金を用いるのが特に望ましいものであり、
その製造方法は、先ず、三層構造の積層材を用意し、この積層材は、開孔寸法を定める開孔形成層と、支持層と、前記開孔形成層と前記支持層とに挟み込まれ、前記開孔形成層及び支持層とはエッチング特性の異なる接合層とを具備するものであり、
開孔形成層、接合層、支持層からなる積層材の、開孔形成層表面側と支持層表面側に、エッチングで開孔できるように開孔形成層側レジストと、支持層側レジストを形成し、
次に、開孔形成層表面側からエッチングにより接合層まで到達する開孔部を形成し、
前記の工程の後、前記開孔形成層に形成された開孔部の側面及びエッチングにより露出した接合層表面に、少なくとも接合層と開孔形成層のエッチング液の浸食を抑制する保護膜を塗布し、
前記開孔形成層に形成された開孔部に露出した接合層を挟んで対峙する位置の支持層表面側から、前記開孔形成層に形成された開孔部より大きい寸法の開孔部を、エッチングにより接合層まで到達するように形成し、
前記の工程の後、前記支持層側にエッチングにより露出した接合層を除去し、開孔形成層から支持層まで貫通する貫通孔を形成し、
前記の工程により、前記接合層を除去した個所には、開孔形成層と前記保護膜の裏面が露出するので、露出した開孔形成層を、支持層側から該支持層側の開孔部も含めてハーフエッチングし、ここでハーフエッチングとは、意図的にエッチングを中断することを言うものであり、
このとき、支持層と開孔形成層が同質の金属材料の場合、ハーフエッチングによって、支持層側の開孔幅が広がる場合があるので、何れか一方の層に用いる金属材料を、圧延によって結晶の配向性を変化させたものを用いたり、エッチングスピードに影響を及ぼすC(炭素)等の含有量を変化させた金属材料を用いても良い、メタルマスク。」の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているといえる。
(イ) 甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、メタルマスク材料。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%」
b 「【0001】
本発明は、有機ELディスプレイの製造等で使用されるメタルマスク材料及びメタルマスクに関する。
・・・
【0007】
そこで、上記した問題の解決策として、強度が保てる程度の厚みを有する材料を用いつつも、開孔部周辺をハーフエッチングで薄くしてから開孔部を成形する方法が知られている。これにより、1枚の金属箔を用いつつも、シャドウイング効果を抑え、さらに材料の強度を確保して有機材料の付着による歪の発生を抑えることができる。また、開孔部をエッチング法で作製することで、所定の開孔部を持つマスク(箔、板)をめっき法で直接作製する場合と比較して製造コストを低減することができる。
しかしながら、ハーフエッチングやその後の本エッチングにより開孔部を精度良く形成するためには、エッチング性(エッチングの均一性)に優れた材料を使用する必要がある。エッチングが均一でないと、ハーフエッチング後の材料厚みが一定にならなかったり、エッチング成形された開孔部の形状が不均一になるなどの不具合が生じる。
本発明は、エッチング性に優れ、有機ELディスプレイ等の製造に用いるメタルマスクとして適したメタルマスク材料及びメタルマスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、材料の結晶方位を制御することで、ハーフエッチング後の材料厚みが均一となり、開孔部を精密にエッチング加工できることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)NiとCoとを合計で30~45質量%、Coを0~6質量%含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Ni系合金であり、圧延面の結晶方位(111)、(200)、(220)、(311)のX線回折強度を、それぞれ、I(111)、I(200)、I(220)、I(311)としたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする、
均一エッチング性に優れた有機ELディスプレイ用メタルマスク材料である。
式1:I(200)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦40%
式2:I(311)/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦25%
式3:{I(220)+I(200)}/{I(111)+I(200)+I(220)+I(311)}≦90%
(2)(1)に記載の材料を用いたメタルマスクである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エッチング性に優れ、有機ELディスプレイ等の製造に用いるメタルマスクとして適したメタルマスク材料及びメタルマスクを提供することができる。」
c 「【0013】
一般に、結晶方位によりエッチング速度に差異があることが知られており、材料が特定方位に強く配向していない場合に均一にエッチングされる。材料が特定方位に強く配向した場合は、特定方位が優先的にエッチングされ易くなる、又はエッチングされ難くなることで、エッチングが不均一になることで、エッチング精度が低下する。メタルマスク用素材として使用されるFe-Ni系の合金では、主要な結晶方位は(111)、(200)、(220)、(311)であり、本発明者が各方位の配向度とエッチング性の関係を鋭意調査した結果、(200)、(311)につき、それぞれが一定範囲以下かつ、(200)、(220)の合計の配向度が一定値以下の場合に、良好なエッチング性を示すことを見出した。すなわち、均一かつ精度良くエッチングするためには、式1~式3を満たすような、特定方位にのみ強く配向しない材料を使用すればよい。式1~式3につき、いずれか1つ以上が上限を超えた場合、エッチング速度が部分的に不均一となり、エッチング精度が劣化する。
なお、式1~式3は、後述する最終再結晶焼鈍前の圧延加工度及び結晶粒度を制御することで、調整することができる。」
(ウ)甲第9号証の記載事項
甲第9号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項5】
複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、
前記マスクの前記貫通孔は、前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、
前記金属板を、その一対の表面から5nm以内の距離に位置する一対の表面層と、前記一対の表面層の間に位置するバルク層と、に区画する場合、以下の条件(1),(2)が満たされており、
(1)前記一対の表面層のうち少なくとも一方の表面層に含まれる鉄、ニッケルおよびクロムの質量の合計を100質量%としたときに、前記少なくとも一方の表面層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%以上のクロムと、残部の鉄と、を含む鉄合金からなること;および、
(2)前記バルク層に含まれる各構成元素の質量の合計を100質量%としたときに、前記バルク層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金からなること;
前記金属板の一方の表面からの距離が5nmを超える部分に含まれる鉄、ニッケルおよびクロムの質量の合計を100質量%としたときに、X線光電子分光法を用いて前記金属板の前記一方の表面層およびその近傍における金属板の組成分析を実施した結果として得られる、前記金属板の一方の表面からの距離が5nmを超える部分におけるクロム濃度が、0.1質量%未満である、
金属板。」
b 「【0007】
一方、金属板の厚みを小さくした場合、有機EL表示装置用の基板に対する蒸着マスクの貫通孔の位置の精度を決定する要因として、蒸着マスクと基板との間における密着の程度が無視できない要因になる。例えば、蒸着マスクの貫通孔の深さが25μmであり、そして、基板に対向する蒸着マスクの表面に厚み1μmの錆びが形成された場合について考える。この場合、錆びの厚みである1μmは、貫通孔の深さである25μmの4%に相当するので、貫通孔の深さに対して無視できない程度の値であると言える。・・・
【0008】
表面の錆びを抑制する方法としては、例えばステンレス鋼で採用されているように、空気中の酸素と結合して表面に不動態被膜を形成することができるクロムなどの元素を合金に添加することが考えられる。しかしながら、本件発明者らが鋭意研究を行ったところ、クロムの添加によって防錆性が改善される反面、クロムの添加に起因して蒸着マスクの寸法精度や位置精度が低下し得ることを見出した。このような課題は、上述の特許文献1においては認識されていないものである。
【0009】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、高い寸法精度および位置精度で形成された貫通孔を備え、かつ高い防錆性を有する蒸着マスクを製造するために用いられる金属板を提供することを目的とする。また本発明は、金属板の製造方法およびマスクの製造方法を提供することを目的とする。」
c 「【0021】
本発明によれば、貫通孔の寸法および位置のばらつきが抑制され、かつ高い防錆性を備えた蒸着マスクを得ることができる。このため、基板上に付着される蒸着材料の位置精度を十分に維持しながら、錆びによって基板が傷ついてしまうことを抑制することができる。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲7発明とを対比すると、甲7発明における「半導体装置、有機ELディスプレイの蒸着用等に用いられるメタルマスク」は、本件発明1における「蒸着用マスクの製作に使用される金属板」に相当する。
また、甲7発明において、「厚さ」が「少なくとも15μm以下、好ましくは10μm以下に設定」される「開孔形成層」及び「厚さ」を「100~30μm程度に設定するのが適当」である「支持層」は、それぞれ、本件発明1における「外部層」、「前記外部層以外の内部層」に相当する。
更に、甲7発明において、「開孔形成層及び支持層を構成する金属の材料として」「インバー合金、42質量%Ni-Fe合金等のFe-Ni系合金を用いる」ことは、「何れか一方の層に用いる金属材料を、圧延によって結晶の配向性を変化させたものを用いたり」できることからみれば、本件発明1において、「金属板」が「鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む」ことに相当する。
すると、本件発明1と甲7発明とは、
「蒸着用マスクの製作に使用される金属板において、前記金属板は、外部層と、前記外部層以外の内部層と、を含み、前記金属板は、鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明1は、「外部層」が「前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される」のに対して、甲7発明は、「開孔形成層」の厚さを、「少なくとも15μm以下、好ましくは10μm以下に設定する」ものである点。
・相違点2’:本件発明1は、「外部層」が、「{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%であ」り、「前記{220}結晶面の割合は、{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲7発明は、「支持層と開孔形成層が同質の金属材料の場合、ハーフエッチングによって、支持層側の開孔幅が広がる場合があるので、何れか一方の層に用いる金属材料を、圧延によって結晶の配向性を変化させたものを用い」「ても良い」ものである点。
・相違点3’:本件発明1は、「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅」い、との発明特定事項を有するのに対して、甲7発明は、「支持層と開孔形成層が同質の金属材料の場合、ハーフエッチングによって、支持層側の開孔幅が広がる場合があるので、何れか一方の層に用いる金属材料を」、「エッチングスピードに影響を及ぼすC(炭素)等の含有量を変化させた金属材料を用いても良い」ものである点。
(イ) 事案に鑑み、始めに、前記(ア)の相違点3’から検討すると、甲7発明は、「支持層と開孔形成層が同質の金属材料の場合、ハーフエッチングによって、支持層側の開孔幅が広がる場合があるので、何れか一方の層に用いる金属材料を」、「エッチングスピードに影響を及ぼすC(炭素)等の含有量を変化させた金属材料を用いても良い」ものである。
このことからみれば、甲7発明は、「支持層と開孔形成層が同質の金属材料の場合、ハーフエッチングによって、支持層側の開孔幅が広がる」ことを防ぐために、「エッチングスピードに影響を及ぼすC(炭素)等の含有量を変化させた金属材料を用い」るものといえるのであり、「ハーフエッチングによって、支持層側の開孔幅が広がる」ことを防ぐことは、「支持層」のエッチング速度を遅くすることにほかならない。
そして、そのような甲7発明において、「開孔形成層」すなわち「外部層」の「エッチング速度」を「支持層」すなわち「内部層」の「エッチング速度よりも遅」くすることは、そもそも想定されない。
そうすると、甲第8号証及び甲第9号証に記載された事項に関わらず、甲7発明において、「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度」を「前記内部層のエッチング速度よりも遅」くすることは、当業者が容易になし得ることではない。
更に、甲第8号証及び甲第9号証には、「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅」くすることは記載も示唆もされていない。
(ウ) 前記(イ)によれば、当業者は、甲7発明を、前記相違点3’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明、甲第8号証及び甲第9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2及び4~10について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人小海の主張について
(ア) 申立人小海の主張の概要は、以下のとおりである。
甲7発明において、「開孔形成層」と「支持層」とでエッチングスピードの異なる金属材料を用いることができること(前記ア(ア)a(c)段落【0028】)は、本件発明1において「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅」いことに相当する。
また、甲第8号証には、「外部層」が{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含むことが記載されており、甲第8号証の式1及び式3より、圧延面の結晶方位(220)の割合が50%ないし90%であることが記載されている。
そして、甲第7号証及び甲第8号証は、有機ELディスプレイ等の製造に用いられるメタルマスクという技術分野が共通していることに加え、エッチングにより形成される開口部の精度を向上させること、という技術課題も共通しており、甲7発明の開孔形成層は圧延面を備えるから、甲7発明の開孔形成層に甲第8号証に記載された事項を組み合わせる動機付けがあるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、甲第7号証に記載された発明に甲第8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ) ところが、甲第7号証には、「外部層のエッチング速度」を「内部層のエッチング速度よりも遅」くすることは記載されていないし、甲7発明において、「開孔形成層」すなわち「外部層」の「エッチング速度」を「支持層」すなわち「内部層」の「エッチング速度よりも遅」くすることはそもそも想定されないことは、前記イ(イ)に記載したとおりである。
そして、甲第8号証に、「外部層」が{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含むことや、圧延面の結晶方位(220)の割合が50%ないし90%であることが記載されており、また、甲第7号証及び甲第8号証は、有機ELディスプレイ等の製造に用いられるメタルマスクという技術分野が共通していることに加え、エッチングにより形成される開口部の精度を向上させること、という技術課題も共通しており、更に、甲7発明の開孔形成層が圧延面を備えるとしても、前記イ(イ)の事情に変わりはないから、本件発明1~2及び4~10は、甲第7号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~2及び4~10は、甲第7号証に記載された発明、甲第8号証及び甲第9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第4の2(4)の申立人小海の特許異議申立理由は理由がない。
(3) 申立人佐藤の特許異議申立理由について
ここでいう甲第1号証~甲第6号証は、申立人佐藤が提出した、前記第4の3(5)に記載された甲第1号証~甲第6号証である。
ア 甲各号証の記載事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
a 甲第1号証には、以下の(a)~(c)の記載がある。
(a) 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項5】
複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、
前記マスクの前記貫通孔は、前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、
前記金属板を、その一対の表面から5nm以内の距離に位置する一対の表面層と、前記一対の表面層の間に位置するバルク層と、に区画する場合、以下の条件(1),(2)が満たされている、
(1)前記一対の表面層のうち少なくとも一方の表面層に含まれる鉄、ニッケルおよびクロムの質量の合計を100質量%としたときに、前記少なくとも一方の表面層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%以上のクロムと、残部の鉄と、を含む鉄合金からなること;および、
(2)前記バルク層に含まれる各構成元素の質量の合計を100質量%としたときに、前記バルク層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金からなること;
金属板。」
(b) 「【0007】
一方、金属板の厚みを小さくした場合、有機EL表示装置用の基板に対する蒸着マスクの貫通孔の位置の精度を決定する要因として、蒸着マスクと基板との間における密着の程度が無視できない要因になる。例えば、蒸着マスクの貫通孔の深さが25μmであり、そして、基板に対向する蒸着マスクの表面に厚み1μmの錆びが形成された場合について考える。この場合、錆びの厚みである1μmは、貫通孔の深さである25μmの4%に相当するので、貫通孔の深さに対して無視できない程度の値であると言える。このような錆びが生じた蒸着マスクを基板に密着させる場合、錆びの厚みの分だけ貫通孔が基板から遠ざかってしまい、この結果、基板に対する蒸着マスクの貫通孔の位置が有意にずれてしまうことになる。このため、基板上に付着する蒸着材料の寸法精度や位置精度が低下してしまうことが考えられる。また、蒸着マスクに生じた錆びによって基板に傷がついてしまうことも考えられる。従って、蒸着マスクの表面に錆びが生じることは、可能な限り抑制されることが好ましい。
【0008】
表面の錆びを抑制する方法としては、例えばステンレス鋼で採用されているように、空気中の酸素と結合して表面に不動態被膜を形成することができるクロムなどの元素を合金に添加することが考えられる。しかしながら、本件発明者らが鋭意研究を行ったところ、クロムの添加によって防錆性が改善される反面、クロムの添加に起因して蒸着マスクの寸法精度や位置精度が低下し得ることを見出した。このような課題は、上述の特許文献1においては認識されていないものである。
【0009】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、高い寸法精度および位置精度で形成された貫通孔を備え、かつ高い防錆性を有する蒸着マスクを製造するために用いられる金属板を提供することを目的とする。また本発明は、金属板の製造方法およびマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、貫通孔の寸法および位置のばらつきが抑制され、かつ高い防錆性を備えた蒸着マスクを得ることができる。このため、基板上に付着される蒸着材料の位置精度を十分に維持しながら、錆びによって基板が傷ついてしまうことを抑制することができる。」
(c) 「【0055】
(金属板の製造方法)
はじめに図8(a)(b)および図9を参照して、金属板の製造方法について説明する。図8(a)は、母材を圧延して、所望の厚さを有する金属板を得る工程を示す図であり、図8(b)は、圧延によって得られた金属板をアニールする工程を示す図である。
【0056】
〔圧延工程〕
はじめに図8(a)に示すように、34~38質量%のニッケルを含む鉄合金から構成された母材55を準備し、この母材55を、一対の圧延ロール56a,56bを含む圧延装置56に向けて、矢印D1で示す搬送方向に沿って搬送する。一対の圧延ロール56a,56bの間に到達した母材55は、一対の圧延ロール56a,56bによって圧延され、この結果、母材55は、その厚みが低減されるとともに、搬送方向に沿って伸ばされる。これによって、厚みt0の長尺金属板64を得ることができる。図8(a)に示すように、長尺金属板64をコア61に巻き取ることによって巻き体62を形成してもよい。厚みt0の具体的な値は、好ましくは上述のように15~85μmの範囲内となっている。
【0057】
なお図8(a)は、圧延工程の概略を示すものに過ぎず、圧延工程を実施するための具体的な構成や手順が特に限られることはない。例えば圧延工程は、母材55を構成するインバー材の結晶配列を変化させる温度以上の温度で母材を加工する熱間圧延工程や、インバー材の結晶配列を変化させる温度以下の温度で母材を加工する冷間圧延工程を含んでいてもよい。また、一対の圧延ロール56a,56bの間に母材55や長尺金属板64を通過させる際の向きが一方向に限られることはない。例えば、図8(a)(b)において、紙面左側から右側への向き、および紙面右側から左側への向きで繰り返し母材55や長尺金属板64を一対の圧延ロール56a,56bの間に通過させることにより、母材55や長尺金属板64を徐々に圧延してもよい。」
b 前記a(a)の記載によれば、甲第1号証には、
「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板であって、
前記マスクの前記貫通孔は、前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、
前記金属板を、その一対の表面から5nm以内の距離に位置する一対の表面層と、前記一対の表面層の間に位置するバルク層と、に区画する場合、以下の条件(1),(2)が満たされている、
(1)前記一対の表面層のうち少なくとも一方の表面層に含まれる鉄、ニッケルおよびクロムの質量の合計を100質量%としたときに、前記少なくとも一方の表面層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%以上のクロムと、残部の鉄と、を含む鉄合金からなること;および、
(2)前記バルク層に含まれる各構成元素の質量の合計を100質量%としたときに、前記バルク層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金からなること;
金属板。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(イ) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 インバ合金からなり、結晶面が{111}面、{200}面および{220}面を持ち、かつそれらの結晶面のX線回折強度をそれぞれI{111}、I{200}およびI{220}とした時、
(I{111}/I{200})≧1.5で、かつ
(I{111}+I{200})/I{220}≧2
の関係を満たすことを特徴とする成形黒化済シャドウマスク。」
b 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子ビーム通過孔を開孔する前のマスク原板である基板の結晶集合組織とは異なる結晶集合組織を有するプレス成形、黒化処理後の成形黒化済シャドウマスクおよびその製造方法に関する。
・・・
【0004】一方、近年、テレビ画面の「きめの細かさ」に対する一般的な要求が高まり、通信方式でも高品位テレビ方式の開発が進められている。したがって、受像管においても解像度の向上は必須の課題になりつつある。受像管の解像度を向上させるには、シャドウマスクの電子ビーム通過孔の微細化、高密度化が必要である。
【0005】しかしながら、シャドウマスクにさらに微細な電子ビーム通過孔を形成すると、従来ではあまり問題にならなかったエッチング加工の問題がクローズアップされた。すなわち、電子ビーム通過孔が微細になると、従来のエッチングによっては孔位置、孔形状が共に均一で精度の高い電子ビーム通過孔を形成することが困難になる。」
c 「【0020】前記基板は、この後のフォトエッチングにおいて微細で位置および形状が均一かつ高精度の電子ビーム通過孔を形成することが可能になる。前記基板は、インバ合金を鍛造、熱間圧延、圧延率70%以上の冷間圧延を施して圧延面に{220}面を集合させた後、750℃以上、好ましくは750~800℃の温度で熱処理して結晶面を{200}面に揃えることにより作製される。」
(ウ) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「(1) 面心立方格子構造または体心立方格子構造の合金からなるシャドウマスク材を冷間にて強加工圧延する工程と、この強加工圧延されたシャドウマスク材を前記合金の再結晶温度以上の温度で熱処理を施こし圧延面に{100}結晶面を集合させる工程とを具備したことを特徴とするシャドウマスク原板の製造方法。」(特許請求の範囲)
b 「〔発明の技術分野〕
本発明はカラーテレビ用受像管に使用されるシャドウマスク原板の製造方法に関する。
・・・
〔発明の目的〕
本発明は、かかる問題点に対処すべくなされたものであり、その目的とするところは、微細な電子ビーム通過孔を高精度で且つ高密度に形成することができるシャドウマスク原板の製造方法を提供することにある。
・・・
即ち、第4図(a)に示す如く、シャドウマスク原板のマスク面4およびこれに対向する面5で結晶粒の方向が不揃いであると、この原板にエッチングを施した際、エッチングされ易い結晶粒とエッチングされにくい結晶粒との間でエッチング速度に差が生じる。この結果エッチング進行方向6が傾く等のバラツキが生じて同図(b)に示す如く、電子ビーム通過孔3a,3b,・・・の孔位置、形状とも不均一なものとなる。
・・・
本発明はこのような事実に基づきなされたものであり、インバ型合金等の面心立方格子構造又は体心立方格子構造の合金からなるシャドウマスク材を冷間にて強加工圧延して圧延面に{110}結晶面を集合させたのち、この強加工圧延されたシャドウマスク材を前記合金の再結晶温度以上で熱処理し、圧延面に{100}結晶面を集合させるようにしたことを特徴としている。」(2ページ左上欄9行~3ページ右上欄10行)
c 「このシャドウマスク材を900℃の主なる肉厚減少工程である熱間圧延により、大まかな圧延を施こし、厚さ1mm、巾100mmの断面を有する板を得る。尚、上記900℃は上記インバ合金の再結晶温度以上の温度であるため、これによってその圧延面に{100}結晶面を集合させることができるが、これは本発明において特に大きな意味を持つものではない。
次にこの熱間圧延によって得た板を、圧延率80%以上、例えば90%の強加工によって、厚さ0.1mm、巾1000mmの板となるべく1回乃至複数回冷間圧延を行う。この強加工によって結晶面は回転し、圧延面には{110}結晶面が集合する。」(4ページ左上欄4行~17行)
(エ) 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「1) 鉄及びニツケルを主成分とする薄板状金属板に感光膜を形成し、露光、現像、バーニングを施した後エツチングを行い多数の開孔を穿設するシヤドウマスクの製造方法において、前記エツチングは塩化第2鉄溶液にて行ない、エツチング液粘度が1乃至5cps、エツチング液塩化第2鉄濃度が35乃至50w/w%であることを特徴とするシヤドウマスクの製造方法。」(特許請求の範囲)
b 「〔発明の技術分野〕
本発明はカラー受像管用シヤドウマスクの製造方法に係り、特にその素材が鉄-ニツケル合金の場合のエツチング方法に関するものである。
・・・
・・・しかし乍らアンバーの如き鉄-ニツケル合金は従来の鉄を主成分とする低炭素鋼板に比較し加工性,成形性が悪く、鉄材を圧延する場合よりも圧延ローラの加圧力を高くしなけれはならないため結晶組織中に圧延組織が残り易い。この結果圧延方向のエツチング速度が速くて板厚方向のエツチング速度が遅くなり、エツチングの進行方向にばらつきを生じるため第1図(a)及び第1図(b)に示すように開孔周縁が凸凹状の、いわゆるガサ孔を形成し易く孔形状が乱れる。また圧延組織を残さないように熱処理によつて或る大きさの結晶粒より成るようにした場合でも、エツチング性は純鉄の場合と異なり結晶粒界からの溶解より結晶面の溶解が支配的であり、素材としてはエツチングされ易い結晶面とエツチングされにくい結晶面とが混在している。このため結果としてシヤドウマスクの開孔はガサ孔となり孔形状が乱れる。」(1ページ左下欄18行~2ページ右上欄11行)
c 「アンバー合金は種々の結晶面を有しており、{100}面が一番活性でエツチングされ易く、次いで{110}面である。」(3ページ左上欄15行~17行)
(オ) 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下のa~bの記載がある。
a 「(1)Fe-Ni系合金の冷間圧延板の板面のX線回折強度において{220}回折強度が{200}回折強度以上の大きさをもつことを特徴とするエッチング加工用Fe-Ni系合金板。」(特許請求の範囲)
b 「<産業上の利用分野>
本発明はFe-Ni系合金板のエッチング加工性の改良に関する。特に、シャドウマスク、半導体集積回路用リードフレームなどの電子部品材料に用いられるエッチング加工用Fe-Ni系合金板に関する。
<従来の技術>
Fe-Ni系合金板を素材とするエッチング製品として42%Ni-Fe合金板を用いた半導体集積回路用リードフレーム、36%Ni-Fe合金板を用いたテレビ受像管のシャドウマスクなど各種の電子部品が従来から広く製造されている。これらは、冷間圧延によって製造される板圧0.03~0.5mmのFe-Ni系合金板をエッチングにより貫通加工して所望の形状に成形される。Fe-Ni系合金板は物理的特性や耐食性などを満足しうる材料としてこれらの用途に採用されてきた。
これらのエッチング製品に要求される寸法精度は年々高まってきている。しかしながら、Fe-Ni系合金板はCu系合金やFe系材料に比較してエッチング加工性が悪く微細な形状の成形加工が難しいという問題があった。
エッチングは等方性の化学反応による金属溶解であるため、金属表面上に設けたマスクパターンの下へのエッチングの入り込み(サイドエッチ)が生じる。このサイドエッチ量が大きいとエッチングの加工精度の低下をまねく。板厚方向のエッチング深度をサイドエッチで除した値を一般にエッチファクターと称し、エッチング加工性の良否を表す最も重要なパラメーターとして用いられる。エッチファクターの値が大きいほど精密なエッチング加工が可能である。エッチファクターの値はCu系合金>Fe系材料>Fe-Ni系合金の順である。
近年の高品位テレビにみられる高精細シャドウマスクや、ICのフラットパッケージにみられる多ピンリードフレームでは、従来のFe-Ni系合金板のエッチファクターは1.5~2.0と低いため、これらの要求に対応した微細なエッチング加工ができないという問題があった。
<発明が解決しようとする課題>
本発明が解決しようとする課題は、上記した従来の問題点を解消することにあり、Fe-Ni系合金板のエツチング加工性を改良し、高いエッチファクター値を示すエッチング加工用Fe-Ni系合金板を提供することにある。
<課題を解決するための手段>
本発明者らは上記した課題を解決するために、冷間圧延によって生産されるFe-Ni系合金板の集合組織に着目し検討を重ねた。上記の課題は、Fe-Ni系合金の冷間圧延板の板面のX線回折強度において{220}回折強度が{200}回折強度以上の大きさを持つことを特徴とするエツチング加工用Fe-Ni系合金板によって解決される。
<作用>
Fe-Ni系合金板は面心立方格子構造から成り、比較的高い圧延加工率によって生じる圧延集合組織は板面に{110}の優先方位をもち、圧延後の焼鈍による再結晶では板面に{100}の優先方位をもつ再結晶集合組織が出現する。本発明者らの研究によればFe-Ni系合金板のエッチング加工性が劣るのは強い再結晶集合組織を有するためであることがわかった。Fe-Ni系合金の圧延板の面に{100}結晶面ができるだけ集合していない方がエッチファクターが高いことを見出し、本発明を完成した。
Fe-Ni系合金板の板面のX線回折を行うと主として{111}、{200}、{220}、{311}、{400}の5つのピークが観察される。鮮鋭な再結晶集合組織をもつときは{200}回折強度が極端に大きくなる。このような場合、Fe-Ni系合金板は、1.5~2.0という低いエッチファクターを示す。これとは逆に、{200}回折強度が小さく、{220}回折強度が{200}回折強度より大きいFe-Ni系合金板は、2.5~3.0という高いエッチファクターを示す。このFe-Ni系合金板を素材として用いることにより、設計基準を満足しうる微細なエッチング加工を行うことができる。本発明のFe-Ni系合金板は生産の段階でできるだけ集合組織が発生しないように中間圧延加工率、最終圧延加工率、焼鈍条件を設定することにより容易に得ることができる。
<実施例>
36%Ni-Fe合金を、70%の加工率で冷間圧延した後、800℃で焼鈍を行った。次に加工率20%で最終圧延を行い板厚を0.15mmに調製した。この36%Ni-Fe合金板の{220}回折強度は{200}回折強度の1.1倍であった。
得られた合金板の表面にレジストパターンを設け、レジスト開口幅60μmにおけるエッチファクターを測定したところ2.8であった。このときのエッチング条件はエッチング液が47ボーメ濃度の塩化第二鉄水溶液、液温が60℃、スプレー圧2.0kg/cm2のスプレーエッチングであった。
また、この合金板の両面に多ピンリードフレーム(208ピン)のレジストパターンを設け、上記のエッチング条件で両面エッチングしたところ設計基準を満足する良好な仕上り状態を得ることができた。」(1ページ左下欄17行~2ページ右下欄11行)
(カ) 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下のa~eの記載がある。
a 「X線回折による結晶面の相対X線強度において、(220)面の強度が30~55%の範囲にあり、かつ(111)面の強度が15%以下であることを特徴とするエッチング加工性ならびに耐応力腐食割れ性にすぐれたFe-Ni合金。」(特許請求の範囲)
b 「〔産業上の利用分野〕
本発明は、エッチング加工性ならびに耐応力腐食割れ性にすぐれた電子部品用Fe-Ni合金に関するものである。
〔従来の技術〕
電子部品用Fe-Ni合金としては、38~55%Ni、残部FeからなるものがICリードフレームとして使用されており、最近では32~38%Ni、残部Feからなるものがブラウン管用シャドウマスク材として検討されている。
また、38~44%Ni、4~8%Crおよび残部Feからなるいわゆる426合金が蛍光表示管等の封着材料として使用されている。
シャドウマスク材は従来よりフォトエッチングにより加工されてきたが、アンバー系のFe-Ni合金が使用されるシャドウマスクは、高精細、超高精細用のファインピッチ化が検討されており、従来に比べ数段、エッチング加工性にすぐれていることが必須条件である。
・・・
〔発明が解決しようとする課題〕
従来のFe-Ni合金では、前述のエッチング加工性、ならびに耐応力腐食割れ性において、十分満足できるものではなく、シャドウマスクにおいてはエッチング断面の粗さが大きく、ファインピッチ化に必要なエッチング精度を得るのが難しかった。
また、ICリードフレームにおいては、リード曲げ部での応力腐食割れの発生等大きな問題を有していた。
本発明は以上の点に鑑み、電子部品用Fe-Ni合金のエッチング加工性ならびに耐応力腐食割れ性にすぐれたFe-Ni合金を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、X線回折による結晶面の相対X線強度において、(220)面の強度が30~55%の範囲にあり、かつ(111)面の強度が15%以下であることを特徴とするエッチング加工性ならびに耐応力腐食割れ性にすぐれたFe-Ni合金である。
前述のシャドウマスク、ICリードフレーム、封着用Fe-Ni合金は、X線回折により(311)、(220)、(200)、(111)面の相対X線強度が得られ、結晶方位の集合度合がわかる。この結晶方位は加工条件により変化するものである。
第1図に焼鈍時間を5分間とし、焼鈍温度を変化させた場合の各回折面の相対X線強度を示すが、焼鈍温度の上昇とともに(111)面の相対X線強度が顕著に上昇する。
第2図に圧延加工度を変化させた場合の各回折面の相対X線強度を示すが、この場合には加工度の増大とともに(220)面の強度が上昇することがわかった。」(1ページ左下欄12行~2ページ右上欄15行)
c 「第1表に示すように、42%Ni-Fe合金、36%Ni-Fe合金および42%Ni-6%Cr-Fe合金のいずれも(111)面の相対X線強度が15%以下で(220)面の相対X線強度が30~50%の範囲においては、エッチング加工性、耐応力腐食割れ性のいずれも良好な結果となった。」(2ページ右下欄15行~20行)
d 「
[図:0001415250000004.jpg]
」
e 「
[図:0001415250000005.jpg]
」
イ 対比・判断
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板」、「その一対の表面から5nm以内の距離に位置する一対の表面層」及び「前記一対の表面層の間に位置するバルク層」は、それぞれ、本件発明1における「蒸着用マスクの製作に使用される金属板」、「前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層」、「前記外部層以外の内部層」に相当する。
また、甲1発明において、「金属板」が「(1)前記一対の表面層のうち少なくとも一方の表面層に含まれる鉄、ニッケルおよびクロムの質量の合計を100質量%としたときに、前記少なくとも一方の表面層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%以上のクロムと、残部の鉄と、を含む鉄合金からなること;および、(2)前記バルク層に含まれる各構成元素の質量の合計を100質量%としたときに、前記バルク層は、34~38質量%のニッケルと、0.1質量%未満のクロムと、残部の鉄および不可避の不純物と、を含む鉄合金からなること」を満たすことは、本件発明1において、「前記金属板は、鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む」ことを満たす。
すると、本件発明1と甲1発明とは、
「蒸着用マスクの製作に使用される金属板において、前記金属板は、前記金属板の表面から1μm以下の厚さ範囲で定義される外部層と、前記外部層以外の内部層と、を含み、前記金属板は、鉄及びニッケルを含む圧延されたインバーを含み、前記インバーは35ないし37重量%のニッケルを含む、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1”:本件発明1は、「外部層」が、「{220}結晶面、{200}結晶面および{111}結晶面を含み、且つ、{220}結晶面の割合はXRDで測定した時50%ないし70%であ」り、「前記{220}結晶面の割合は、{220}結晶面、{200}結晶面及び{111}結晶面のX線回折強度の和に対する{220}結晶面のX線回折強度の割合であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。
・相違点2”:本件発明1は、「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度は、前記内部層のエッチング速度よりも遅」い、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有しない点。
(イ) 事案に鑑み、始めに、前記(ア)の相違点2”から検討すると、前記ア(ア)a(b)によれば、従来、有機EL表示装置用の基板に対する蒸着マスクの表面に錆びが生じることは、可能な限り抑制されることが好ましいものであり(段落【0007】)、表面の錆びを抑制する方法としては、例えばステンレス鋼で採用されているように、空気中の酸素と結合して表面に不動態被膜を形成することができるクロムなどの元素を合金に添加することが考えられていたのであるが、クロムの添加に起因して蒸着マスクの寸法精度や位置精度が低下し得る、という課題があったものである(段落【0008】)。
そして、甲1発明は、その「表面層」及び「バルク層」を、それぞれ、前記(1)及び(2)の条件を満たすものとすることで、前記課題を解決するものである(段落【0021】)。
すると、甲1発明は、前記(1)及び(2)の条件を満たす「表面層」及び「バルク層」により、有機EL表示装置用の基板に対する蒸着マスクの表面に錆びが生じることを可能な限り抑制する、クロムの添加に起因して蒸着マスクの寸法精度や位置精度が低下し得る、といった課題を解決するものであって、そのような甲1発明において、「前記外部層のエッチング速度」を、「前記内部層のエッチング速度よりも遅」くする動機付けはそもそも存在しない。
更に、甲第2号証~甲第6号証には、「FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったとき、前記外部層のエッチング速度」を「前記内部層のエッチング速度よりも遅」くすることは記載も示唆もされていないから、当業者は、甲第2号証~甲第6号証に記載された事項に基づいて、甲1発明を前記相違点2”に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
(ウ) 前記(イ)によれば、前記(ア)の相違点1”について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証~甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2及び4~10について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人佐藤の主張について
(ア) 前記相違点2”についての申立人佐藤の主張の概要は、以下のとおりである。
本件特許明細書の段落【0015】、【0064】、【0085】(前記1(2)ア(ア)、(イ))の記載から、「金属板」の表面上に{220}結晶面が集合することによって、FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったときに「外部層のエッチング速度」が「内部層のエッチング速度よりも遅」くなることが理解できる。
してみると、甲第1号証に記載された発明に甲第4号証~甲第6号証に記載された事項を採用して{220}結晶面の割合を50~70%とした場合には、当然に、FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったときに「外部層のエッチング速度」が「内部層のエッチング速度よりも遅」くなることが明らかであるから、その場合には前記相違点2”は実質的な相違点ではなくなるので、本件発明1は甲1発明及び甲第2号証~甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ) そこで、前記(ア)の主張について検討すると、本件発明においては、「外部層」と「内部層」とで、{220}結晶面の割合を互いに異ならせることによって、具体的には、「外部層」の{220}結晶面の割合を「内部層」の{220}結晶面より多くすることで、「外部層におけるエッチング速度」を「内部層」より遅らせることができるものであり(本件特許明細書の段落【0015】、【0083】~【0085】。前記1(2)ア(ア)、(イ))、単に、「金属板」の表面上に{220}結晶面が集合することで、「外部層のエッチング速度」が「内部層のエッチング速度よりも遅」くなるものとはいえない。
そして、甲第2号証~甲第6号証には、「外部層」の{220}結晶面の割合を「内部層」の{220}結晶面より多くすることは記載も示唆もされていないのであるから、仮に、甲第1号証に記載された発明に甲第4号証~甲第6号証に記載された事項を採用して{220}結晶面の割合を50~70%としたとしても、FeCl3を含むエッチング液を用いて45℃でエッチングを行ったときに「外部層のエッチング速度」が「内部層のエッチング速度よりも遅」くなることが明らかであるとはいえないので、前記相違点2”は実質的な相違点である。
そうすると、前記イ(ウ)の事情に変わりはないから、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1~2、4~10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第4の3(4)の申立人佐藤の特許異議申立理由は理由がない。
(4) 進歩性欠如についてのまとめ
更に、申立人山田、申立人小海及び申立人佐藤が提出した甲各号証を横断的に俯瞰してみても、本件発明1~2、4~10が、これら甲各号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての申立人山田、申立人小海及び申立人佐藤の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~2及び4~10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び申立人山田、申立人小海、申立人佐藤の特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~2及び4~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人山田、申立人小海、申立人佐藤による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-701130