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特許異議申立

2025-700938

コート層付金属箔及び金属張積層板

審判番号
2025-700938
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2024-565142
登録番号
7654911
請求日
2025年09月30日
審決日
2026年04月17日
公報発行日
2026年06月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】古河電気工業株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人クオリオ
  • 【権利者代理人】赤羽 修一
  • 【権利者代理人】星野 宏和
  • 【権利者代理人】篠田 育男
  • 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 石川 雄太郎
  • 審判官 酒井 英夫
分類
P1651.536-Y (C23C) / P1651.537-Y (C23C)
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特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
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事件の表示

特許第7654911号発明「コート層付金属箔及び金属張積層板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7654911号の請求項1~9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7654911号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願(特願2024-565142号。以下「本願」という。)は、2024年(令和 6年) 7月23日(優先権主張 令和 5年 8月 4日)を国際出願日とする出願であって、令和 7年 3月24日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月 1日に特許掲載公報が発行されたものである。 本件は、その後、令和 7年 9月30日に、その請求項1~9(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である山▲崎▼ 浩一郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明を「本件発明1」~「本件発明9」といい、総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。 「【請求項1】 コート層付金属箔であって、 前記コート層は、厚みが5~1000nmであり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%である、コート層付金属箔。 【請求項2】 前記コート層中、ケイ素、アルミニウム、チタン及び硫黄の各原子濃度の合計(at%)が炭素原子濃度(at%)に対して0.5倍以上である、請求項1に記載のコート層付金属箔。 【請求項3】 前記コート層中のケイ素原子濃度が8at%以上である、請求項2に記載のコート層付金属箔。 【請求項4】 前記コート層は、X線光電子分光法によるSi2pスペクトルにおいて、[O-Si―O結合強度]/[C-Si―O結合強度]≧1を満たす、請求項3に記載のコート層付金属箔。 【請求項5】 前記割合(RC-O)が10~45%である、請求項4に記載のコート層付金属箔。 【請求項6】 前記コート層が、前記厚みが30~990nmであり、前記割合(RC-O)が13~30%であり、26≧[O-Si―O結合強度]/[C-Si―O結合強度]≧10を満たす、請求項5に記載のコート層付金属箔。 【請求項7】 前記金属箔が銅箔である、請求項6に記載のコート層付金属箔。 【請求項8】 前記コート層がプラズマ重合体を含む、請求項6に記載のコート層付金属箔。 【請求項9】 絶縁性基材と、請求項1~8のいずれか1項に記載のコート層付金属箔とを、該コート層付金属箔のコート層を前記絶縁性基材側にして積層してなる金属張積層板。」 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として下記4の甲第1号証~甲第2号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~9に係る特許は取り消されるべきものであることを主張している。 1 申立理由1(実施可能要件) 本件明細書等の発明の詳細な説明には、コート層付金属箔として、コート層がプラズマ重合法で形成されたものしか記載されておらず、また、該プラズマ重合法において、どのような分解反応時間や重合反応時間で、どのような原料の組み合わせや配合比率であれば、本件発明のコート層付金属箔を得ることができるのかは、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載から読み解くことは困難であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものである。 したがって、請求項1~9に係る発明について、本件明細書等の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件明細書等の発明の詳細な説明には、コート層付金属箔として、コート層がプラズマ重合法で形成されたものしか記載されておらず、また、コート層中にケイ素原子を所定以上含むものしか記載されていない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7、9の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、請求項1~7、9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(明確性) 甲1及び甲2に記載されるように、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおける286eV近辺においては、C-O結合由来のピークとC-N結合等由来のピークがほぼ同じ位置に検出されるため、これらの分離が困難であることは技術常識であるところ、本件明細書等には、C-N結合等の、C1sスペクトル上の検出領域がC-O結合と重複する結合由来のピークについてどのように分離を行うのかが記載されておらず、また、当該分離方法に関する技術常識も存在しないから、請求項1の「X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%」なる記載の意味内容を当業者が理解できるとはいえない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~9の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 4 証拠方法 甲1:Handbook of X-ray Photoelectron Spectroscopy,PHYSICAL ELECTRONICS,1995年10月,p.41 甲2:JXTG Technical Review, X線光電子分光法(XPS)の紹介, 2018年7月,第60巻,第2号,p.58-62 第4 当合議体における判断 当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の申立理由1~3によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1(実施可能要件) (1)本件明細書等の記載 本件明細書等には、以下の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。以下同様。)。 ア 「【0020】 上記コート層の形成方法は、本発明で規定するコート層が形成できれば特に制限されない。例えば、プラズマ重合法により形成することができる。すなわち、上記コート層の一実施形態は、上記コート層がプラズマ重合体を含むものである。プラズマ重合による金属箔表面へのコート層の形成は、高周波によりプラズマを生じさせ、このプラズマにより原料(モノマー)がフラグメント化されると同時に活性化し、活性化したフラグメント化原料が反応してポリマー化して、金属箔の表面にプラズマ重合体の膜を形成するものである。プラズマ重合体は原料がフラグメント化されて活性化し、次いでランダムに重合反応が生じるため、直鎖、分岐、環状、架橋などの様々な化学構造が形成される。プラズマ重合技術それ自体は公知である。 【0021】 プラズマ重合は、大気圧プラズマ重合とすることが好ましい。大気圧プラズマ重合を採用することにより、真空チャンバを用いる低圧プラズマ重合に比べて得られるプラズマ重合体中に酸素を取り込みやすくなる。結果、本発明で規定する割合(RC-O)を10%以上へと制御しやすくなる。 また、プラズマ重合の原料の選択、原料へのプラズマ照射時間(原料とプラズマの接触により原料をフラグメント化(活性化)する時間であり、分解反応時間ともいう)や、フラグメント化(活性化)した原料の金属箔表面への接触時間(基板表面ないしその近傍で重合反応を生じる時間(重合反応時間))を制御することにより、本発明で規定する割合(RC-O)を10~50%の範囲あるいはさらに限定された範囲へと制御することが可能となる。 【0022】 プラズマ重合における上記原料は、本発明で規定するコート層が得られれば特に制限されない。原料の好ましい例を挙げると、有機溶剤(エタノール、メタノール、2-プロパノール等の低級アルコール)、金属アルコキシド化合物等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。金属アルコキシド化合物としては、ケイ素アルコキシド化合物(シランカップリング剤)、チタンアルコキシド化合物(チタネートカップリング剤)、アルミニウムアルコキシド化合物(アルミネートカップリング剤)、ジルコニウムアルコキシド化合物(ジルコネートカップリング剤)等が挙げられ、ケイ素アルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物、及びアルミニウムアルコキシド化合物から選ばれる金属アルコキシド化合物が好ましく、ケイ素アルコキシド化合物がより好ましい。金属アルコキシド化合物は硫黄原子、リン原子などを含むことができる。原料の分子量は100~300が好ましい。 なかでも、原料として、有機溶剤とケイ素アルコキシド化合物とを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、有機溶剤として、例えば、アルコール(例えば炭素数1~3の低級アルコール)等を用いることが好ましい。 【0023】 プラズマ重合におけるキャリアガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウムなどの不活性ガスを適宜に用いることが好ましい。上記原料は、揮発させてキャリアガスと混合したり、バブリング等によりキャリアガス中に分散させたりして供給される。原料ないしキャリアガスの温度は成膜速度等に合わせて適宜に制御される。例えばシランカップリング剤を原料として用いる場合、40~90℃程度に制御することができる。」 イ 「【0031】 [実施例1] プラズマ重合の原料として、3-アミノプロピルトリエトキシシランとエタノールの混合物を用いた。また、キャリアガスとしてアルゴンガスを用いた。原料とキャリアガスの温度は40℃に制御した。図1に示したのと同様の構成の装置を用いて、平面電極間に周波数13.56MHz、出力100Wの交流電流を流した。分解反応時間を20ミリ秒、重合反応時間を40ミリ秒として、銅箔(長辺400mm×短辺300mm×厚さ35μm)の表面(片面)にプラズマ重合体を含むコート層を形成した。こうして実施例1のコート層付金属箔を得た。 【0032】 [実施例2~5] 実施例1において、プラズマ重合における分解反応時間と重合反応時間を変化させたこと以外は、実施例1と同様にして、下表に示す実施例2~5のコート層付金属箔を得た。 【0033】 [実施例6~10] 実施例1において、原料として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの混合物を用いて、かつ、プラズマ重合における分解反応時間と重合反応時間を変化させたこと以外は、実施例1と同様にして、下表に示す実施例6~10のコート層付金属箔を得た。」 ウ 「【0041】 【表1】 [図:0001436205000001.jpg] 【0042】 上記表に示されるように、コート層を有しない比較例1の金属箔そのものや、コート層表面のXPSによる分析において、C1sスペクトルの280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10%よりも小さい比較例3~6のコート層付金属箔は、他の部材との密着強度に劣り、あるいは過酷な高温環境に晒されると密着状態を維持することができなかった。RC-Oが本発明で規定するよりも高い比較例2のコート層付金属箔も同様に、他の部材との密着強度に劣るとともに、過酷な高温環境において密着状態を維持することができなかった。 これに対し、本発明の規定を満たす実施例1~10のコート層付金属箔は、他の部材との密着強度に優れ、過酷な高温環境においても密着状態を十分に維持できることがわかった。 さらに、コート層の厚さを30nm以上に高めたり、コート層中、ケイ素、アルミニウム、チタン及び硫黄の各原子濃度の合計を炭素原子濃度に対して0.5倍以上に高めたり、RC-Oを13以上に高めたりすることにより、ピール強度を0.5kN/m以上に高めながら、過酷な高温処理によってもピール強度の維持率を60%以上維持できる傾向も示された。また、[O-Si-O結合強度]/[C-Si-O結合強度]はこれを10以上に高めることで、ピール強度維持率が70%以上にまで高まる傾向も示された。」 (2)実施可能要件についての判断 ア 上記第2のとおり、本件発明1は、「コート層は、厚みが5~1000nmであり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%である」「コート層付金属箔」であり、物の発明である。 イ ここで、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、その発明を実施できる程度に明確かつ十分なものであるというためには、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を作れ、かつ、その物を使用できるものでなければならないと解するのが相当である。 ウ そこで、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載について検討する。 (ア)上記(1)アをみるに、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1の「コート層付金属箔」なる物の製造に関し、「本発明で規定するコート層が形成できれば特に制限されない。例えば、プラズマ重合法により形成することができる。」(【0020】)、「プラズマ重合の原料の選択、原料へのプラズマ照射時間(原料とプラズマの接触により原料をフラグメント化(活性化)する時間であり、分解反応時間ともいう)や、フラグメント化(活性化)した原料の金属箔表面への接触時間(基板表面ないしその近傍で重合反応を生じる時間(重合反応時間))を制御することにより、本発明で規定する割合(RC-O)を10~50%の範囲あるいはさらに限定された範囲へと制御することが可能となる。」(【0021】)と記載されており、プラズマ重合における原料の好ましい例(【0022】)についても記載されている。 (イ)また、上記(1)イ、ウに示された実施例1をみるに、本件明細書等には、3-アミノプロピルトリエトキシシランとエタノールの混合物を用いて、分解反応時間を20ミリ秒、重合反応時間を40ミリ秒として、銅箔の表面にプラズマ重合体を形成することで、厚さが5nmであり、RC-Oが17%であるコート層を有するコート層付金属箔を形成できることが記載されている。 (ウ)さらに、上記(1)イの【0032】、【0033】、(1)ウの表1には、実施例1において、分解反応時間や重合反応時間を変更して所定のRC-Oを有するコート層を備えたコート層付金属箔を得たこと(実施例2~5)、原料、分解反応時間及び重合反応時間を変更して所定のRC-Oを有するコート層を備えたコート層付金属箔を得たこと(実施例6~10)が記載されている。 (エ)以上によれば、上記(イ)に示した実施例1における作成条件を基準として、上記(ア)、(ウ)に示した発明の詳細な説明の記載に基づいて、原料、分解反応時間及び重合反応時間を適宜に変更し、本件発明1において特定された範囲のRC-Oを有するコート層を備えたコート層付金属箔を作ることは、当業者において過度の試行錯誤を要するものとまではいえない。 (オ)したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の「コート層付金属箔」を作れるように記載されたものである。 (カ)また、上記のように作られたコート層付金属箔は、上記(1)ウに示されるとおり、他の部材との密着強度に優れ、過酷な高温環境においても密着状態を十分に維持できており、金属張積層板を形成して過酷な高温環境に晒した場合にも、金属箔と絶縁性基材との密着性が低下しづらく、プリント配線板の作製に適したコート層付金属箔として使用できるものであることも明らかである。 エ(ア)申立人は、本件発明1で特定されるコート層には、プラズマ重合体を含まないものも包含されるところ、本件明細書等の発明の詳細な説明には、プラズマ重合法のみが開示され、プラズマ重合法以外の形成方法は何ら開示されていないことを主張する(特許異議申立書第9頁ウ(ア))。 しかし、発明の詳細な説明は、物の発明について、当業者がその物を作れ、使用できるように記載されていれば足りるものである。そして、本件明細書等の発明の詳細な説明には、少なくともプラズマ重合法によれば、本件発明1の「コート層付金属箔」を作れることが記載されている。また、上記ウ(オ)のとおり、本件発明1の「コート層付金属箔」が使用できるように記載されてもいるから、プラズマ重合法以外の方法が記載されていないことをもって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないということにはならない。 (イ)また、申立人は、本件明細書等の発明の詳細な説明には、本件発明1で特定されるコート層をどのような分解反応時間や重合反応時間で、どのような原料の組み合わせや配合比率であれば得ることができるのかが記載されておらず、これらを本件明細書等の発明の詳細な説明の記載から読み解くことは困難であり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を要するものであることも主張する(特許異議申立書第9~第11頁ウ(イ)~(ウ))。 しかし、上記ウ(エ)に示したとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明において、実施例1における作成条件を基準として、上記ウ(ア)、(ウ)の記載に基づいて、原料、分解反応時間及び重合反応時間を適宜に変更し、本件発明1のコート層付金属箔を作ることは、当業者において過度の試行錯誤を要するものとまではいえないものである。 オ したがって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分なものであるといえる。同様に、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件発明2~9を実施できる程度に明確かつ十分なものである。 (3)小括 以上のとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明は、本件発明1~9について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。したがって、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(サポート要件) (1)上記第2のとおり、本件発明1は、「コート層付金属箔」の「コート層」に関し、「厚みが5~1000nmであり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%である」と特定するものである。 (2)一方、本件明細書等の記載をみるに、本件発明において解決すべき課題(以下、単に「課題」という。)は、「他の材料との密着性に優れ、この密着性を高温下においても十分に維持することができる金属箔を提供すること」(【0008】)と認められる。 (3)ア また、本件明細書等には、「コート層付金属箔」に関し、以下の記載がある(なお、以下において「・・・」は記載の省略を表す。)。 「【0014】 [コート層付金属箔] 本発明のコート層付金属箔は、コート層の厚みが5~1000nmである。すなわち、従来のシランカップリング剤による表面処理層(2~3nm程度)よりも厚いコート層を有するものである。 また、上記コート層は、X線光電子分光法(XPS)によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%である。 本発明のコート層付金属箔において、上記コート層は目的に応じて金属箔の片面に設けられてもよく、両面に設けられてもよい。 【0015】 <コート層> 上記コート層の厚みは、他の材料と積層した場合の密着性とその高温耐久性の観点から、7~1000nmが好ましく、10~1000nmがより好ましく、15~1000nmがさらに好ましく、18~1000nmがさらに好ましく、20~1000nmがさらに好ましく、30~990nmがさらに好ましく、35~960nmがさらに好ましく、40~940nmがさらに好ましく、45~920nmがさらに好ましい。 ・・・ 【0016】 上記コート層は、他の材料と積層した場合の密着性とその高温耐久性の観点から、上記割合(RC-O)が10~45%が好ましく、12~40%がより好ましく、12~35%がさらに好ましく、13~30%がさらに好ましく、13~28%がさらに好ましく、14~24%がさらに好ましい。」 イ さらに、上記1(1)イ、ウに示した実施例1~10、比較例1~6をみるに、本件明細書等には、コート層付金属箔におけるコート層の厚みが5~1000nmであり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%であることで、ピール強度が0.35kN/m以上となり、ピール強度維持率が50%以上となることが理解できる。 ウ 上記ア、イによれば、金属箔に厚みが5~1000nmであり、さらに、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%であるコート層を形成することで、上記(2)に示した課題が解決されると認められる。 (4)そして、本件発明1は、上記(1)のとおり、「コート層付金属箔」の「コート層」に関し「厚みが5~1000nmであり、X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%である」ことを特定するものであるから、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された上記(2)の課題を解決するための手段が反映されたものであり、上記課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるものとはいえない。 (5)ア 申立人は、本件発明1のコート層付金属箔におけるコート層には、プラズマ重合以外の方法で形成されたものも含まれるが、本件明細書等には、所定のケイ素アルコキシドを用いてプラズマ重合を行ってコート層を形成したコート層付金属箔については記載され、本件発明の課題を解決し得ると認められるものの、それ以外の金属アルコキシドを用いてプラズマ重合を行ってコート層を形成したコート層付金属箔については記載されていないし、ましてプラズマ重合以外の方法で形成されたコート層を備えたコート層付金属箔については何ら記載がないことを主張する(特許異議申立書第11頁エ(イ))。 イ しかし、一般に「プラズマ重合」が幅広い種類のモノマーを原料として、高密度の編目構造を有し、機械的に優れた性質のポリマーを形成できる手法であることはよく知られた事項であるから(要すれば、長田義仁、“プラズマ重合膜”、膜(MEMBRANE)、1985年、第10巻、第4号、p.215-223等を参照)、ケイ素アルコキシド以外の金属アルコキシドを用いてプラズマ重合を行っても、本件明細書等に記載されたケイ素アルコキシドを用いて形成されたものと同様にコート層を形成できることは明らかである。 そして、そのようなコート層を備えたコート層付金属箔において、上記(2)に示した「他の材料との密着性に優れ、この密着性を高温下においても十分に維持する」という課題を解決するためには、他の材料との界面をなすコート層の表面の特性を適切に制御すれば足りると解されるところ、本件発明1においては、「X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%」というコート層表面の特性が特定されている。 したがって、ケイ素アルコキシド以外の金属アルコキシドを用いてプラズマ重合を行ってコート層を形成したコート層付金属箔であっても、同様に、上記(2)に示した課題を解決できるものである。 ウ また、本件明細書等の【0020】には、「上記コート層の形成方法は、本発明で規定するコート層が形成できれば特に制限されない。例えば、プラズマ重合法により形成することができる。・・・プラズマ重合体は原料がフラグメント化されて活性化し、次いでランダムに重合反応が生じるため、直鎖、分岐、環状、架橋などの様々な化学構造が形成される。・・・」と記載されている。つまり、プラズマ重合法は、上記様々な化学構造をコート層に形成するための方法の一つとして示されたにすぎず、プラズマ重合法以外の方法で形成されたコート層を形成したコート層付金属箔であっても、上記のような様々な化学構造が形成されたものであれば、同様に、上記(2)に示した課題を解決できると認められる。 (6)ア 申立人は、本件明細書等において課題を解決することができることが示されているコート層は、いずれもケイ素原子を8at%以上含有しており(実施例1~10)、ケイ素原子含有量が8at%未満の比較例2、4についてはいずれも課題を解決することができていないことを挙げ、ケイ素原子が必須成分とはなっていないコート層を含む本件発明1のコート層付金属箔が、課題を解決できるかが定かではないことも主張する(特許異議申立書第11頁エ(ウ))。 イ しかし、上記(5)イに示したのと同様、ケイ素アルコキシド以外のケイ素を含まない金属アルコキシドを用いてプラズマ重合を行い、ケイ素を含まないコート層を形成したコート層付金属箔であっても、同様に、上記(2)に示した課題を解決できるものである。 (7)したがって、本件発明1は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載された課題を解決するための手段が反映されたものであり、上記課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるものとはいえない。この点は、本件特許の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2~7、9についても同様である。 (8)小括 以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7、9の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由2によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(明確性) (1)上記第2のとおり、請求項1には、「コート層は、」「X線光電子分光法によるC1sスペクトルにおいて、280~292eVに検出される各結合由来の各ピークの総面積に占めるC-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)が10~50%である」と記載されており、請求項1の記載に不明確なところはなく、その意味は明確であるから、本件発明1について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。 (2)ア 申立人は、X線光電子分光法によるC1sスペクトルに関し、甲1には、C-O結合由来のピークが現れる286eV近辺に、CとNによる結合、CとSによる結合、CとClによる結合等も検出されることが記載され、甲2には、C-O結合とC-N結合がほぼ同じ位置に検出されることが記載されていることを挙げ、C-O結合とC-N結合を切り分けることは困難であることが本願出願時の技術常識であるから、請求項1の「C-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)」なる記載は、その意味内容を当業者が理解できるとはいえず、明確ではないと主張する(特許異議申立書の第12~13頁「オ 明確性要件違反の理由」)。 イ しかし、上記甲1及び2の記載は、C-O結合のピークとC-N結合等のピークとが近い位置に現れることを示してはいるが、このことが直ちに、これらのピークを分離することが不可能であることを示すものではない。 技術常識を鑑みるに、N1s等のX線光電子分光法による他のスペクトルや、他の分析手段を併用することで、C-OのピークをC-N等のC-O以外のピークを分離することは可能と解される。また、より高エネルギー分解能のX線光電子分光法により、C-NのピークとC-Oのピークとを分離した例も本願出願前から知られている(例えば、株式会社島津製作所,XPSによる有機物の化学結合状態解析,Application News,No.K67,2018年7月、https://www.an.shimadzu.co.jp/sites/an.shimadzu.co.jp/files/pim/pim_document_file/an_jp/applications/application_note/19225/an_k067.pdfの図4等を参照)。 (3)そうすると、請求項1の「C-O結合由来のピーク面積の割合(RC-O)」なる記載は、その意味内容を当業者が理解でき、明確なものである。該請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~9の記載も、同様に明確である。 (4)小括 以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由3によって、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700938

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