特許異議申立
2022-700569
蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法
- 審判番号
- 2022-700569
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-032500
- 登録番号
- 6988565
- 請求日
- 2022年07月01日
- 審決日
- 2023年09月20日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】村野 親
- 【異議申立人】山田 芳男
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 金 公彦
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.113-YAA(C23C) / P1651.121-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.851-YAA(C23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第3項、特許法第120条の5第9項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6988565号発明「蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6988565号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5、〔6~8〕について訂正することを認める。
特許第6988565号の請求項1~4、6~8に係る特許を維持する。
特許第6988565号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6988565号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年10月13日を出願日とする特願2017-199921号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成30年2月26日に新たな特許出願としたものであって、令和3年12月6日にその請求項1~8に係る発明について特許権の設定登録がされ、令和4年1月5日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年7月1日に特許異議申立人 村野 親(以下、「申立人村野」という。)により甲第1号証~甲第28号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年7月4日に特許異議申立人 山田 芳男(以下、「申立人山田」という。)により甲第1号証~甲第2号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年9月2日に申立人村野より上申書(以下、「村野上申書」という。)が提出され、同年9月27日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内の同年12月13日に特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書」という。)の提出及び訂正の請求がされ、令和5年1月27日に申立人山田より意見書(以下、「山田意見書」という。)が提出され、同年同月30日に申立人村野より甲第29号証の1~甲第30号証の2を添付して意見書(以下、「村野意見書」という。)が提出され、同年3月28日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内の同年6月5日に特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書2」という。)が提出され、同年同月14日付けで当審より申立人村野及び申立人山田に審尋が通知され、同年7月19日に申立人村野より意見書(以下、「村野意見書2」という。)が提出され、同年同月20日に申立人山田より回答書(以下、「山田回答書」という。)が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容及び一群の請求項
令和4年12月13日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を「特許第6988565号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1から8について訂正することを求める。」とするものであって、その訂正の内容は、次のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「複数の孔がエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」
と記載されていたのを、
「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に
「前記レジスト層をマスクとしたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成する」
と記載されていたのを、
「前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成する」
に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。)。
(4) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1の記載を請求項2~4が引用する関係にあるから、本件訂正前の請求項1~4は一群の請求項であり、本件訂正前の請求項5は独立請求項であり、本件訂正前の請求項6の記載を請求項7及び8が引用する関係にあるから、本件訂正前の請求項6~8は一群の請求項であるところ、訂正事項1~3に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、これら請求項1~4、5、6~8を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(1) 訂正事項1及び3について
訂正事項1及び3は、それぞれ、本件訂正前の請求項1及び6における「エッチング」を、本件特許明細書の段落【0006】、【0067】及び【0070】の記載に基づいて、「エッチング液を用いたエッチング」に限定するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては本件訂正前の全ての請求項についてされているので、訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4) 村野意見書について
申立人村野は、村野意見書において、訂正事項1及び3に係る訂正は、「蒸着マスク用基材」の構造、特性を更に特定するものではないから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない旨を主張している(7ページ15行~26行)。
ところが、前記訂正事項1及び3に係る訂正は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは、前記(1)に記載したとおりであるので、申立人村野の前記主張は採用できない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5、〔6~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明について
本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるので、本件訂正により訂正された請求項1~4、6~8に係る発明(以下、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材であって、
前記金属板を構成する材料は、ニッケルまたは鉄ニッケル合金であり、
前記金属板が有する厚みは、10μm以上50μm以下であり、
前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、
前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、
前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、
前記長さ方向における単位長さが、500mmであり、
前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値が、第1急峻度であり、
前記第1急峻度が、0.5%以下である
蒸着マスク用基材。
【請求項2】
前記金属板の長さ方向での各位置において、前記金属板の幅方向での単位急峻度の最大値が、第2急峻度であり、
前記単位長さの金属板における前記第2急峻度の平均値が、0.25%以下である
請求項1に記載の蒸着マスク用基材。
【請求項3】
前記金属板の長さ方向での各位置において、前記金属板の幅方向に含まれる波の数は、波数であり、
前記単位長さの金属板における前記波数の最大値が4個以下である
請求項1または2に記載の蒸着マスク用基材。
【請求項4】
前記金属板の長さ方向での各位置において、前記金属板の幅方向に含まれる波の数は、波数であり、
前記単位長さの金属板における前記波数の平均値が2個以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の蒸着マスク用基材。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
帯状を有した金属板にレジスト層を形成することと、
前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法であって、
前記金属板を構成する材料は、ニッケルまたは鉄ニッケル合金であり、
前記金属板が有する厚みは、10μm以上50μm以下であり、
前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、
前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、
前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、
前記長さ方向における単位長さが、500mmであり、
前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値が、第1急峻度であり、
前記第1急峻度が、0.5%以下である
蒸着マスクの製造方法。
【請求項7】
前記マスク部を形成することは、単一の前記金属板に複数の前記マスク部を形成することであり、
前記各マスク部が、前記複数の孔を有した1つの側面を別々に備え、
前記各マスク部の側面と、1体のフレーム部とを、前記複数の孔を前記マスク部ごとに前記1体のフレーム部が囲うように、相互に接合することをさらに含む
請求項6に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の蒸着マスクの製造方法による蒸着マスクを準備することと、
前記蒸着マスクを用いた蒸着によってパターンを形成することとを含む
表示装置の製造方法。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 申立人村野による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証~甲第30号証の2は、申立人村野により提出された、後記(4)に記載された甲第1号証~甲第30号証の2である。
(1) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)、同法同条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「第1急峻度」を「0.5%以下」とする際の圧延条件やアニール温度が記載されておらず、当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8を実施する際に過度な試行錯誤を強いられるし、仮に、圧延条件やアニール温度が特定されたとしても、「第1急峻度」が制御できること自体に疑義があるから、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない。
更に、「第2急峻度の平均値」、「単位長さあたりの波数の最大値」(以下、「波数の最大値」という。)及び「単位長さあたりの波数の平均値」(以下、「波数の平均値」という。)について検討しても事情は同じである(特許異議申立書111ページ3行~118ページ下から3行目)。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「蒸着マスク用基材」にドライフィルムレジスト等を貼り付ける条件について十分に記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8において、「蒸着マスク用基材」とドライフィルムレジストとの位置ズレの抑制や密着性の向上に関与する工程や条件が特定されていないから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書118ページ下から2行目~121ページ下から7行目)。
ウ 甲第10号証(130ページ)の伸び差率と急峻度の関係式によれば、甲第19号証の段落【0130】【表1】の比較例1及び3は、「第1急峻度」が「0.5%以下」を満たすが、孔の幅方向の開口径のばらつきの評価が×評価となっているし、甲第9号証の【図27】には、比較例1の長手方向の波の急峻度の最大値が0.5%以下となることが記載されており、このとき、幅方向の波の「第1急峻度」も「0.5%以下」である蓋然性が高いが、前記比較例1のパターン精度のばらつきも×評価となっているから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、本件特許に係る発明の課題を解決しないものを含むので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
更に、「第2急峻度の平均値」、「波数の最大値」及び「波数の平均値」について検討しても事情は同じである(特許異議申立書121ページ下から6行目~128ページ最終行)。
エ 当業者は、「蒸着マスク用基材」が、本件特許明細書の段落【0027】に記載された[条件1]を満たすとしても、それが「蒸着マスク用基材」の長さ方向における孔の均一性が向上することとどのように関係しているのかを理解できない。
また、エッチングにより形成される孔の精度は、エッチング液の組成や温度、スプレイ圧等に大きく影響されるのに、発明の詳細な説明には、「蒸着マスク用基材」のエッチング条件について十分に記載されておらず、当業者が「蒸着マスク用基材」を使用できる程度に記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさないし、本件訂正前の特許請求の範囲にも、「蒸着マスク用基材」のエッチング条件について記載されていないから、課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
更に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、エッチングとしてドライエッチングも含むが、ドライエッチングはエッチング液を用いないから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるので、サポート要件を満たさないし、当業者はドライエッチングで本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明を実施できないので、実施可能要件を満たさない。
また、現像やレジスト層の剥離、剥離液の洗浄は、前記条件1~4と無関係であるから、前記条件1~4は課題と無関係であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。(特許異議申立書129ページ1行~146ページ10行)。
オ 本件特許明細書の段落【0108】【表1】に記載された実施例には、開口径について具体的な数値が記載されていないので、実際に実験が行われたか否か疑わしいし、前記実施例において、「蒸着マスク用基材」が目標となる設計値のとおりに製造されているかがわからないから、前記実施例により課題を解決できるものとはいえない。
すると、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるので、サポート要件を満たさない。(特許異議申立書146ページ11行~147ページ18行)。
カ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においては、「第1急峻度」の計測範囲について特定されていないから、「第1急峻度」は「蒸着マスク用基材」の全体で満たされるものと解されるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には非計測範囲を設けるものしか記載されていないので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさないし、当業者は、「蒸着マスク用基材」の全体で所定の「第1急峻度」のものを製造することができないので、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
なお、スリットにより切断されるのは長さ方向の端縁であるため、幅方向の端縁を測定範囲から除くことの合理性を理解できないし、「第1急峻度」の測定において非計測範囲を設定するということは、「蒸着マスク用基材」の幅方向端縁付近に発生した波形状を考慮しないということであり、このとき、非計測範囲に発生した波形状によりドライレジストとの貼り合わせの際、搬送ズレ等が生じたり、現像液がよどんで、孔が不均一となったりし得るから、発明の課題を解決しない「蒸着マスク用基材」も権利範囲に含めるということであるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たさない(特許異議申立書147ページ19行~151ページ13行)。
(2) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
ア 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においては、幅方向の非計測範囲が特定されておらず、「第1急峻度」を「蒸着マスク用基材」の幅方向のどのような範囲で測定するのかが特定されていないから、「第1急峻度」が特定できないので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない。
更に、「第2急峻度の平均値」、「波数の最大値」及び「波数の平均値」について検討しても事情は同じである(特許異議申立書152ページ3行~153ページ18行)。
イ 「第1急峻度」は測定間隔により変化するのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においてはこれらの測定間隔が特定されていないから、「第1急峻度」が不明確であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない。
更に、「第2急峻度の平均値」、「波数の最大値」及び「波数の平均値」について検討しても事情は同じである(特許異議申立書153ページ19行~154ページ7行)。
ウ 本件特許明細書の段落【0025】には、「なお、幅方向DWの端に波のピークが位置する場合には・・・」と記載されているが、実施例では、幅方向の両端は計測範囲から外して計測しており、「幅方向DWの端」まで表面位置を計測していないから、「幅方向DWの端」に波のピークが位置しているか否かは知り得ない。
また、波のピークであるか否かは、当該ピークを過ぎる範囲まで見えなければ判断できないから、「幅方向DWの端」に波があるとしても、その波がピークであるか否かは判断できないし、「幅方向DWの端」又は計測範囲の端の位置が、波のピーク、波のピーク付近、波の中程度の高さ、あるいは波の根元であった場合に、それぞれにおいて、波の数にカウントするのか否かが明らかでなく、谷やピーク付近の複数の表面位置のデータが高低に震動している場合や、連続して同じであった場合に、どの位置を谷やピークにするのかが不明であるから、具体的な状況において、谷やピークをどのように決定するのかが明らかでないので、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(特許異議申立書154ページ8行~155ページ下から5行目)。
(3) 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
ア 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第11号証に記載された発明である。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第11号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第11号証に記載された発明及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書156ページ3行~164ページ最終行)。
イ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6及び8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明である。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第12号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書165ページ1行~173ページ最終行)。
ウ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第20号証に記載された発明である。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第20号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第20号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書174ページ1行~181ページ最終行)。
エ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第21号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第21号証に記載された発明及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書182ページ1行~188ページ最終行)。
オ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第22号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第22号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書189ページ1行~195ページ最終行)。
(4) 証拠方法
甲第1号証:特許第6988565号公報
甲第2号証:教育分科会編,「フォトファブリケーション実務入門読本第7版」,日本フォトファブリケーション協会,平成16年6月,目次,p.30-49
甲第3号証:教育分科会編,「フォトファブリケーション実務入門読本第8版」,日本フォトファブリケーション協会,平成20年6月,目次,p.32-55
甲第4号証の1:日本フォトファブリケーション協会の基礎技術セミナーのホームページ,[online],2020年1月15日,http://www.jpfa.jp/school.html
甲第4号証の2:日本フォトファブリケーション協会の第16回実務入門セミナーのホームページ,[online],2020年1月15日,http://www.jpfa.jp/school_16.html
甲第4号証の3:日本フォトファブリケーション協会の第17回実務入門セミナーのホームページ,[online],2020年1月15日,http://www.jpfa.jp/school_17.html
甲第4号証の4:日本フォトファブリケーション協会の第18回実務入門セミナーのホームページ,[online],2020年1月15日,http://www.jpfa.jp/school_18.html
甲第4号証の5:日本フォトファブリケーション協会の第19回実務入門セミナーのホームページ,[online],2020年1月17日,http://www.jpfa.jp/school_19.html
甲第4号証の6:日本フォトファブリケーション協会の第20回実務入門セミナーのホームページ,[online],2020年1月17日,http://www.jpfa.jp/school_20.html
甲第4号証の7:日本フォトファブリケーション協会の第21回実務入門セミナーのホームページ,[online],2020年1月17日,http://www.jpfa.jp/school_21.html
甲第4号証の8:日本フォトファブリケーション協会の第22回実務入門セミナーのホームページ,[online],2020年1月17日,http://www.jpfa.jp/school_22.html
甲第4号証の9:日本フォトファブリケーション協会の第23回実務入門セミナー(基礎技術セミナー)のホームページ,[online],2020年1月17日,http://www.jpfa.jp/school_23.html
甲第4号証の10:日本フォトファブリケーション協会の第24回基礎技術セミナー(旧称:実務入門セミナー)のホームページ,[online],2020年1月17日,http://www.jpfa.jp/school_24.html
甲第4号証の11:日本フォトファブリケーション協会の第25回(平成27年度)基礎技術セミナーのホームページ,[online],2020年1月17日,http://www.jpfa.jp/school_25.html
甲第5号証:特開2009-74160号公報
甲第6号証:橋本貴夫著,「図解・フォトファブリケーション -精密・微細加工入門-」,第1版,総合電子出版社,昭和61年7月10日,もくじ,p.1,142-143,176-181,188-191
甲第7号証:特公昭60-7709号公報
甲第8号証の1:村野親,エッチングにおいてスプレイ方式により液体を供給する場合のイメージ動画,2020年10月12日
甲第8号証の2:村野親,甲第8号証の1の動画撮影報告書,2020年10月12日
甲第9号証:特許第6319505号公報
甲第10号証:雲英洋一ら,「冷間圧延における形状制御と空気軸受式形状計」,IHI技報,2008年6月,Vol.48,No.2,p.129-135
甲第11号証:特開2017-64763号公報
甲第12号証:特開2015-55007号公報
甲第13号証:特開2017-88936号公報
甲第14号証:特許第6120038号公報
甲第15号証:特開2016-840号公報
甲第16号証:特開2006-331973号公報
甲第17号証:特開2005-158319号公報
甲第18号証:国際公開第2017/154981号
甲第19号証:特許第6299921号公報
甲第20号証:特開平11-229040号公報
甲第21号証:特開平10-204541号公報
甲第22号証:特開平10-60525号公報
甲第23号証:特開2017-181894号公報
甲第24号証:特開2017-181893号公報
甲第25号証:特開2017-64764号公報
甲第26号証:特開2015-193871号公報
甲第27号証:特開2010-214447号公報
甲第28号証:特開2009-299170号公報
甲第29号証の1:エバーロイ商事株式会社,動画投稿サイトYouTubeに投稿された「ミストヘッダーWP型」と題する動画,2015年4月14日
甲第29号証の2:エバーロイ商事株式会社のホームページ,[online],令和4年12月16日,<https://www.everloy-spray-nozzles.com/solvieng_industry/electronics/>
甲第30号証の1:株式会社いけうち,動画投稿サイトYouTubeに投稿された「【霧のいけうち】細霧・中霧発生ノズルーVVEA」と題する動画,2011年9月29日
甲第30号証の2:株式会社いけうちのホームページ,[online],令和4年12月16日,<https://www.kirinoikeuchi.co.jp/1p/summary/>
なお、甲第29号証の1~甲第30号証の2は、村野意見書に添付して提出されたものである。
2 申立人山田による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証、甲第2号証は、申立人山田により提出された、後記(3)に記載された甲第1号証、甲第2号証である。
(1) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る「蒸着マスク用基材」の圧延を用いた製造方法において、「前記第1急峻度が、0.5%以下である蒸着マスク用基材」を製造するための具体的な条件が記載されていないから、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。そして、同請求項2~8について検討しても事情は同じであるので、発明の詳細な説明は実施可能要件を満たさない(特許異議申立書8ページ下から6行~11ページ10行)。
(2) 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書11ページ11行~24ページ最終行)。
(3) 証拠方法
甲第1号証:特開2015-55007号公報
甲第2号証:特開平10-204541号公報
第5 取消理由の概要
1 令和4年9月27日付け取消理由通知書の取消理由
(1) 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件特許に係る発明の課題は、蒸着マスクを製造する際に、「蒸着マスク用基材」をエッチング液でエッチングすることで生じる課題といえるから、本件特許に係る発明は、そもそも、「蒸着マスク用基材」をエッチング液でエッチングすることを前提としたものといえるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、蒸着マスクを製造する際に、「蒸着マスク用基材」をエッチング液でエッチングすることは特定されていない。
すると、前記請求項1に係る発明は、前記前提に基づかない、本件特許に係る発明の課題と無関係のものまで包含するので、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないのであり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~8に係る発明ついて検討しても事情は同じであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合しない。
(2) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「蒸着マスク用基材」は、長さ方向DLから見て、急な傾きを伴う突出、あるいは、窪みによる波が存在しないようにするものであるから、谷付近において、表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合が当然に想定されるのであるが、本件特許明細書には、その場合に、谷の位置をどのようにして決定するのかが記載されていないから、当業者は、波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向DWでの直線の長さ、すなわち波の長さL1,L2,L3を特定することができない。
そして、波の長さL1,L2,L3を特定できない場合、「蒸着マスク用基材」の「単位急峻度」、すなわち高さHW1/長さL1×100(%)、高さHW2/長さL2×100(%)、及び、高さHW3/長さL3×100(%)も特定できないから、結局のところ、前記請求項1に係る発明における「第1急峻度」も特定することができない。
また、同様の理由により、前記請求項1に係る発明の「蒸着マスク用基材」は、ピーク付近において、表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合も当然に想定されるのであるが、本件特許明細書には、その場合に、ピークの位置をどのようにして決定するのかが記載されていないから、当業者は、その場合のピークの位置を特定することができない。
更に、前記請求項1に係る発明においては、幅方向DWの端に波のピークが位置する場合には、幅方向DWにおいて、波の長さは、ピークから波の谷までの長さの二倍として推定するものであるが、ピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合のピークの位置を特定することができないことは前記のとおりであるし、本件特許明細書には、谷付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合に、谷の位置をどのようにして決定するのかが記載されていないことも前記のとおりであるから、当業者は、この場合も、ピークから波の谷までの長さを特定できず、これに基づいて波の長さを特定することもできないので、結局のところ、前記請求項1に係る発明における「第1急峻度」を特定することができない。
したがって、谷付近やピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合、当業者は、前記請求項1に係る発明における「第1急峻度」を特定することができないから、前記請求項1に係る発明が明確であるとはいえない。
更に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~8に係る発明について検討しても事情は同じであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合しない。
(3) 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明における圧延の条件は、前記請求項5に係る発明を実施するにあたって明らかにされなければならないものであるのに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、圧延の具体的な条件は全く記載されていないし、そのような圧延の条件が技術常識から明らかであるということもできないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が前記請求項5に係る発明を実施できる程度に記載したものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合しない。
2 令和5年3月28日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由
(1) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
本件発明に係る「蒸着マスク用基材」は、長さ方向DLから見て、急な傾きを伴う突出、あるいは、窪みによる波が存在しないようにするものであるから、谷付近において、表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合が当然に想定されるのであるが、本件特許明細書には、その場合に、谷の位置をどのようにして決定するのかが記載されていないから、当業者は、波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向DWでの直線の長さ、すなわち波の長さL1,L2,L3を特定することができない。
そして、波の長さL1,L2,L3を特定できない場合、「蒸着マスク用基材」の「単位急峻度」、すなわち高さHW1/長さL1×100(%)、高さHW2/長さL2×100(%)、及び、高さHW3/長さL3×100(%)も特定できないから、結局のところ、本件発明1における「第1急峻度」も特定することができない。
また、同様の理由により、本件発明に係る「蒸着マスク用基材」は、ピーク付近において、表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合も当然に想定されるのであるが、本件特許明細書には、その場合に、ピークの位置をどのようにして決定するのかが記載されていないから、当業者は、その場合のピークの位置を特定することができない。
更に、本件発明においては、幅方向DWの端に波のピークが位置する場合には、幅方向DWにおいて、波の長さは、ピークから波の谷までの長さの二倍として推定するものであるが、ピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合のピークの位置を特定することができないことは前記のとおりであるし、本件特許明細書には、谷付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合に、谷の位置をどのようにして決定するのかが記載されていないことも前記のとおりであるから、当業者は、この場合も、ピークから波の谷までの長さを特定できず、これに基づいて波の長さを特定することもできないので、結局のところ、本件発明1における「第1急峻度」を特定することができない。
したがって、谷付近やピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合、当業者は、本件発明1における「第1急峻度」を特定することができないから、本件発明1が明確であるとはいえない。
更に、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない。
第6 取消理由及び特許異議申立理由について
事案に鑑み、取消理由及び特許異議の申立て理由についてまとめて検討する。
1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)、同法同条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) サポート要件及び実施可能要件の判断手法
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 実施可能要件違反の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) サポート要件についての一般的な判断
ア 始めに、サポート要件について、前記(1)アのサポート要件の判断手法にのっとって検討すると、本件特許明細書には、以下の(ア)~(カ)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(ア) 「【0001】
本発明は、蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着マスクは、第1面と第2面とを備える。第1面は、基板などの対象物と対向し、第2面は、第1面とは反対側に位置する。第1面から第2面までを貫通する孔は、第1面に位置する第1開口と、第2面に位置する第2開口とを備える。第2開口から孔に入る蒸着物質は、第1開口の位置や第1開口の形状に追従したパターンを対象物に形成する(例えば、特許文献1を参照)。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蒸着マスクが備える孔は、第1開口から第2開口に向けて拡大する断面積を有し、それによって、第2開口から孔に入る蒸着物質の数量を高めて、第1開口に到達する蒸着物質の数量を確保する。一方、第2開口から孔に入る蒸着物質の一部は、第1開口に到達せずに、孔を区画する壁面に少なからず付着する。壁面に付着した蒸着物質は、他の蒸着物質による孔の通過を妨げて、パターンが有する寸法の精度を低下させる。
【0005】
近年では、壁面に付着する蒸着物質の体積を低下させることを目的として、蒸着マスクの厚みを薄くし、壁面の面積そのものを縮小させることが検討されている。そして、蒸着マスクの厚みを薄くする技術として、蒸着マスクを製造するための基材である金属板の厚みそのものを薄くすることが検討されている。
【0006】
他方、金属板に孔を形成するエッチングの工程では、金属板の厚みが薄くなるほど、除去される金属の体積が小さくなる。そのため、金属板にエッチング液を供給する時間や、供給されるエッチングの温度などの加工条件で許容範囲が狭くなり、結果として、第1開口や第2開口の寸法に十分な精度を得られがたくなっている。特に、金属板を製造する技術では、ローラーによって母材を延ばす圧延や、電極に析出した金属板を電極から剥がす電解が用いられ、金属板そのものに波形状が形成されている。こうした形状を有する金属板は、金属板とエッチング液との接触する時間を、例えば、波形状の山部と波形状の谷部との間で大きく異ならせて、上記許容範囲の狭小化に伴う精度の低下をさらに深刻化させている。以上のように、蒸着マスクの厚みを薄くする技術は、壁面に付着する蒸着物質の量を低下させて、それによって、蒸着の繰り返しでのパターンの寸法の精度を高められるが、蒸着ごとでは、パターンの寸法に必要な精度を得られがたい課題を新たに招来させている。
【0007】
本発明の目的は、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上可能とした蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法を提供することである。」
(イ) 「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための蒸着マスク用基材は、複数の孔がエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材であって、前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、前記長さ方向における単位長さが、500mmであり、前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値が、第1急峻度であり、前記第1急峻度が、0.5%以下である。
・・・
【0011】
上記蒸着マスク用基材によれば、単位長さにおける金属板の幅方向での急峻度の最大値が0.5以下であるため、長さ方向に搬送される蒸着マスク用基材の表面に液体を供給するとしても、蒸着マスク用基材の表面で均一に液体を流しやすい。結果として、長さ方向に搬送される蒸着マスク用基材の表面に供給された液体が長さ方向の一部で淀むことが抑えられる。そして、エッチング液などの液体による処理を用いた長さ方向での加工の均一性、すなわち、蒸着マスク用基材が有する孔の長さ方向での均一性、ひいては、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上することが可能となる。」
(ウ) 「【0022】
[急峻度]
蒸着マスク用基材1が水平面に載置された状態において、水平面に対する蒸着マスク用基材1の表面の位置(高さ)が表面位置である。
図2が示すように、表面位置の計測では、まず、圧延された、もしくは電解で作製された金属板の幅方向DWでの寸法が幅Wとなるように、金属板が切断されて、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材1がロール状に巻き回される。次いで、蒸着マスク用基材1が幅方向DWの全体(全幅)において切断されるスリット工程が実施されて、蒸着マスク用基材1の長さ方向DLにおける一部分として、測定用基材2Mが切り出される。測定用基材2Mの幅方向DWでの幅Wは、蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの寸法と等しい。次いで、測定用基材2Mの表面2Sについて、長さ方向DLの所定の間隔ごとに、幅方向DWの各位置での表面位置が計測される。表面位置が計測される範囲は、計測範囲ZLである。
【0023】
計測範囲ZLは、測定用基材2Mの長さ方向DLでの両方の端部である非計測範囲ZEを除く範囲である。計測範囲ZLは、測定用基材2Mの幅方向DWでの両端部である図示されない非計測範囲を除く範囲でもある。蒸着マスク用基材1を切断するスリット工程は、蒸着マスク用基材1とは異なる新たな波形状を測定用基材に形成し得る。各非計測範囲ZEの長さ方向DLでの長さは、こうした新たな波形状が形成され得る範囲であり、表面位置の測定からは除外される範囲である。各非計測範囲ZEが有する長さ方向DLでの長さは、例えば、100mmである。幅方向においても、スリット工程による新たな波形状を除外するため、非計測範囲の幅方向DWでの長さは、幅方向DWの端から、例えば、10mmである。
【0024】
図3は、測定用基材2Mの幅方向DWの各位置での表面位置の一例を示すグラフであり、測定用基材2Mの幅方向DWを含む断面での断面構造と共に表面位置を示す図である。なお、図3では、長さ方向DLの各部位のうち、幅方向DWに3つの波を有する部位の例を示す。
【0025】
図3が示すように、表面位置が測定される幅方向DWの各位置は、蒸着マスク用基材1の波形状を引き写すことの可能な間隔で並ぶ。表面位置が測定される幅方向DWの各位置は、例えば、幅方向DWに1mm以上20mm以下の間隔で並ぶ。幅方向DWでの各位置の表面位置を結ぶ線LCは、蒸着マスク用基材1の表面に沿う線と見なされ、線LCの長さは、蒸着マスク用基材1の表面での沿面距離である。線LCに含まれる各波において、波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向DWでの直線の長さは、波の長さL1,L2,L3である。線LCに含まれる各波において、波における谷間を結ぶ直線に対する高さは、波の高さHW1,HW2,HW3である。蒸着マスク用基材1の単位急峻度は、波の長さに対する波の高さの百分率であり、図3に示す例では、高さHW1/長さL1×100(%)、高さHW2/長さL2×100(%)、および、高さHW3/長さL3×100(%)である。なお、幅方向DWの端に波のピークが位置する場合には、幅方向DWにおいて、波の長さは、ピークから波の谷までの長さの二倍として推定する。
【0026】
蒸着マスク用基材1の長さ方向DLでの単位長さは、500mmである。 蒸着マスク用基材1の第1急峻度は、単位長さ、および、幅Wのなかに含まれる全ての波の単位急峻度における最大値である。
蒸着マスク用基材1の第2急峻度は、長さ方向DLでの各位置に含まれる全ての波での単位急峻度の最大値である。すなわち、蒸着マスク用基材1の第1急峻度は、単位長さにおける第2急峻度の最大値でもある。
蒸着マスク用基材1の波数は、長さ方向DLの各位置での全ての波の数である。
【0027】
蒸着マスク用基材1の第1急峻度は、下記[条件1]を満たす。蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの急峻度では、第2急峻度が下記[条件2]を満たし、波数が[条件3]、および、[条件4]を満たすことが好ましい。
[条件1]第1急峻度が0.5%以下である。
[条件2]第2急峻度の平均値が0.25%以下である。
[条件3]単位長さあたりの波数の最大値が4個以下である。
[条件4]単位長さあたりの波数の平均値が2個以下である。
【0028】
[条件1]を満たす蒸着マスク用基材1では、幅方向DWでの急峻度である単位急峻度の最大値が0.5%以下であるため、長さ方向DLから見て、急な傾きを伴う突出、あるいは、窪みによる波が存在しない。急な傾きを伴う突出や窪みでは、そこに供給される液体が周囲と比べて淀みやすく、こうした波が存在するか否かは、単位急峻度の平均値などでは得られがたい情報である。そのため、長さ方向DLに搬送される蒸着マスク用基材1の表面に処理用の液体を供給するとしても、突出した波の周辺で液体が淀むことがなく、同じ処理を長さ方向DLに繰り返すとしても、蒸着マスク用基材1の表面で均一に液体を流しやすい。結果として、蒸着マスク用基材の表面に供給された液体が長さ方向DLの一部で淀むことが抑えられる。そして、エッチング液などの液体による処理を用いた長さ方向DLでの加工の均一性、すなわち、蒸着マスク用基材1が有する孔の長さ方向DLでの均一性、ひいては、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上することが可能となる。」
(エ) 「【0092】
[実施例]
図22を参照して各実施例を説明する。
まず、インバーを材料とする母材1aに圧延工程を施して金属板を形成し、次いで、幅方向DWに所望の大きさが得られるように、金属板を切断するスリット工程を行い、圧延資材1bを形成した。続いて、圧延資材1bにアニール工程を施して、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである実施例1の蒸着マスク用基材1を得た。
【0093】
また、圧延ローラー51,52の回転速度と押圧力とを実施例1から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである実施例2の蒸着マスク用基材1を得た。
【0094】
また、圧延ローラー51,52の間での押圧力を実施例1から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが50μmである実施例3の蒸着マスク用基材1を得た。
【0095】
また、圧延ローラー51,52の数量を実施例1から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである実施例4の蒸着マスク用基材1を得た。
【0096】
次いで、圧延ローラー51,52の数量および温度を実施例1、および、実施例4から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである比較例1の蒸着マスク用基材1を得た。
【0097】
また、圧延ローラー51,52の数量および押圧力を実施例1、および、実施例3から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである比較例2の蒸着マスク用基材1を得た。
【0098】
また、圧延ローラー51,52の数量および押圧力を実施例1から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである比較例3の蒸着マスク用基材1を得た。
【0099】
次いで、図22が示すように、長さ方向DLの長さが700mmである測定用基材2Mを、各実施例の蒸着マスク用基材1、および、各比較例の蒸着マスク用基材1から切り出した。続いて、切り出された各測定用基材2Mの幅方向DWでの急峻度を、計測範囲ZLの全体にわたり測定した。この際、幅方向DWでの急峻度の測定条件として、以下に示す条件を用いた。
測定装置:株式会社ニコン製 CNC画像測定システム VMR-6555
計測範囲ZLの長さ方向DLの長さ :500mm(単位長さ)
非計測範囲ZEの長さ方向DLの長さ :100mm
長さ方向DLの測定間隔 :20mm
幅方向DWの測定間隔 :20mm
【0100】
なお、幅方向の測定は、スリット工程による新たな波形状を除外するため、幅方向DWの両端から10mmを除き、幅方向DWにおいて480mmの範囲で実施した。すなわち、幅方向DWに沿って25点を計測し、この25点を1ラインとして、長さ方向DLに26ラインを計測した。各実施例、および、各比較例のいずれの測定間隔においても、長さ方向DLは、母材1aが圧延によって引き延ばされる方向である。
各実施例1~4、および、比較例1~3について、第1急峻度、第2急峻度の平均値、波数の最大値、および、波数の平均値の測定結果を表1に示す。
【0101】
表1が示すように、実施例1の第1急峻度は0.43%であり、[条件1]を満たすことが認められた。なお、実施例1における26ラインのなかの4ラインについて、単位急峻度の最小値は0%であり、幅方向DWでほとんど波を認められないことが認められた。実施例1における第2急峻度の平均値は0.20%であり、[条件2]を満たすことが認められた。この際、第2急峻度の標準偏差σは0.12%であることが認められた。実施例1における波数の最大値は4個であり、[条件3]を満たすことが認められた。また、実施例1における波数の平均値は1個であり、[条件4]を満たすことが認められた。
【0102】
実施例2の第1急峻度は0.29%であり、[条件1]を満たすことが認められた。なお、実施例2における26ラインのなかの5ラインについて、単位急峻度の最小値は0%であり、幅方向DWでほとんど波を認められないことが認められた。実施例2における第2急峻度の平均値は0.12%であり、[条件2]を満たすことが認められた。この際、第2急峻度の標準偏差σは0.09%であることが認められた。実施例2における波数の最大値は3個であり、[条件3]を満たすことが認められた。また、実施例2における波数の平均値は1個であり、[条件4]を満たすことが認められた。
【0103】
実施例3の第1急峻度は0.37%であり、[条件1]を満たすことが認められた。なお、実施例3における26ラインのなかの7ラインについて、単位急峻度の最小値は0%であり、幅方向DWでほとんど波を認められないことが認められた。実施例3における第2急峻度の平均値は0.11%であり、[条件2]を満たすことが認められた。この際、第2急峻度の標準偏差σは0.12%であることが認められた。実施例3における波数の最大値は3個であり、[条件3]を満たすことが認められた。また、実施例3における波数の平均値は1個であり、[条件4]を満たすことが認められた。
【0104】
実施例4の第1急峻度は0.44%であり、[条件1]を満たすことが認められた。なお、実施例4における26ラインのなかの1ラインについて、実施例4における単位急峻度の最小値は0%であり、幅方向DWでほとんど波を認められないことが認められた。実施例4における第2急峻度の平均値は0.22%であり、[条件2]を満たすことが認められた。この際、第2急峻度の標準偏差σは0.11%であることが認められた。実施例4における波数の最大値は5個であり、[条件3]を満たさないことが認められた。また、実施例4における波数の平均値は2個であり、[条件4]を満たすことが認められた。
【0105】
比較例1の第1急峻度は0.90%であり、[条件1]を満たさないことが認められた。なお、比較例1における単位急峻度の最小値は0.11%であることが認められた。比較例1における第2急峻度の平均値は0.33%であり、[条件2]を満たさないことが認められた。この際、第2急峻度の標準偏差σは0.18%であることが認められた。比較例1における波数の最大値は8個であり、[条件3]を満たさないことが認められた。また、比較例1における波数の平均値は5個であり、[条件4]を満たさないことが認められた。なお、比較例1における波数の最小値は3個であることが認められた。
【0106】
比較例2の第1急峻度は1.39%であり、[条件1]を満たさないことが認められた。なお、比較例2における単位急峻度の最小値は0.06%であることが認められた。比較例2における第2急峻度の平均値は0.28%であり、[条件2]を満たさないことが認められた。この際、第2急峻度の標準偏差σは0.29%であることが認められた。比較例2における波数の最大値は5個であり、[条件3]を満たさないことが認められた。また、比較例2における波数の平均値は2個であり、[条件4]を満たすことが認められた。なお、比較例2における波数の最小値は1個であることが認められた。
【0107】
比較例3の第1急峻度は0.58%であり、[条件1]を満たさないことが認められた。なお、比較例3における単位急峻度の最小値は0.06%であることが認められた。比較例3における第2急峻度の平均値は0.31%であり、[条件2]を満たさないことが認められた。この際、第2急峻度の標準偏差σは0.14%であることが認められた。比較例3における波数の最大値は6個であり、[条件3]を満たさないことが認められた。また、比較例3における波数の平均値は4個であり、[条件4]を満たさないことが認められた。なお、比較例3における波数の最小値は1個であることが認められた。
【0108】
【表1】
[図:0001404747000001.jpg]
【0109】
[パターンの精度]
各実施例1~4、および、各比較例1~3の蒸着マスク用基材1を用い、蒸着マスク用基材1の第1面1Saに、厚さが10μmの第1DFR2を貼り着けた。次いで、第1DFR2に露光マスクを接触させて露光する露光工程、次いで現像工程を施し、30μmの直径を有した複数の貫通孔2aを、第1DFR2に格子状に形成した。続いて、第1DFR2をマスクとするエッチングを第1面1Saに施して、格子状に位置する複数の孔32Hを蒸着マスク用基材1に形成した。そして、蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの開口径を各孔32Hについて計測した。各孔32Hの幅方向DWでの開口径のばらつきを表1に示す。なお、表1では、各孔32Hが有する開口径のなかで、開口径の最大値と開口径の最小値との差が2.0μm以下である水準に○印を記載し、開口径の最大値と開口径の最小値との差が2.0μmよりも大きい水準に×印を記載した。
【0110】
表1が示すように、実施例1~4では、開口径のばらつきがいずれも2.0μm以下であることが認められた。また、実施例1~4のなかでも、実施例1~3は、実施例4よりも、開口径のばらつきがさらに小さいことが認められた。他方、各比較例1~3では、開口径のばらつきがいずれも2.0μmよりも大きいことが認められた。結果として、実施例1~4と比較例1~3との比較から、第1急峻度が0.5%以下であること、すなわち、[条件1]が満たされることによって、開口径のばらつきが抑えられることが認められた。また、第2急峻度の平均値が0.25%以下であること、すなわち、[条件2]が満たされることによって、開口径のばらつきが抑えられることも認められた。」
(オ) 「【図2】
[図:0001404747000002.jpg]
」
(カ) 「【図3】
[図:0001404747000003.jpg]
」
イ 前記ア(ア)の記載によれば、本件発明は、蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法に関するものであって、近年では、壁面に付着する蒸着物質の体積を低下させることを目的として、蒸着マスクの厚みを薄くし、壁面の面積そのものを縮小させることが検討されており、蒸着マスクの厚みを薄くする技術として、蒸着マスクを製造するための基材である金属板の厚みそのものを薄くすることが検討されているのであるが、金属板に孔を形成するエッチングの工程では、金属板の厚みが薄くなるほど、除去される金属の体積が小さくなり、そのため、金属板にエッチング液を供給する時間や、供給されるエッチングの温度などの加工条件で許容範囲が狭くなり、結果として、第1開口や第2開口の寸法に十分な精度を得られがたくなっているものである。
特に、金属板を製造する技術では、ローラーによって母材を延ばす圧延や、電極に析出した金属板を電極から剥がす電解が用いられ、金属板そのものに波形状が形成されており、こうした形状を有する金属板は、金属板とエッチング液との接触する時間を、例えば、波形状の山部と波形状の谷部との間で大きく異ならせて、前記許容範囲の狭小化に伴う精度の低下をさらに深刻化させている、という課題(以下、「本件課題」という。)を有するものである。
ウ これに対して、前記ア(イ)、(ウ)(段落【0025】~【0028】)の記載によれば、本件発明は、複数の孔がエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である「蒸着マスク用基材」であって、前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、前記長さ方向における単位長さが500mmであり、前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値が第1急峻度であり、前記第1急峻度を0.5%以下とするもの、すなわち、[条件1]を満たすものである。
そして、本件発明は、「蒸着マスク用基材」が前記[条件1]を満たすことで、長さ方向に搬送される「蒸着マスク用基材」の表面に液体を供給するとしても、「蒸着マスク用基材」の表面で均一に液体を流しやすく、結果として、長さ方向に搬送される「蒸着マスク用基材」の表面に供給された液体が長さ方向の一部で淀むことが抑えられ、エッチング液などの液体による処理を用いた長さ方向での加工の均一性、すなわち、「蒸着マスク用基材」が有する孔の長さ方向での均一性、ひいては、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上することが可能となって、本件課題を解決できるものであり、更に、このことは、前記ア(エ)(段落【0110】)の実施例1~4の記載からも裏付けられるものである。
エ 前記ウによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「蒸着マスク用基材」が前記[条件1]を満たすことで、本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、「蒸着マスク用基材」が前記[条件1]を満たすことは、本件発明1の、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、前記長さ方向における単位長さが、500mmであり、前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値が、第1急峻度であり、前記第1急峻度が、0.5%以下である」との発明特定事項にほかならない。
オ 前記エによれば、当業者は、本件発明1が発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることを理解することができるのであって、このことを前記(1)アの判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するといえる。
更に、同請求項2~4及び6~8について検討しても事情は同じである。
(3) 実施可能要件違反についての一般的な判断
次に、実施可能要件について、前記(1)イの実施可能要件の判断手法にのっとって検討する。
ア 本件発明1~4について
(ア) 本件特許明細書には、更に以下の記載がある。
「【0057】
[蒸着マスク用基材の製造方法]
次に、蒸着マスク用基材の製造方法について説明する。なお、蒸着マスク用基材の製造方法では、圧延を用いる形態と、電解を用いる形態とを別々に例示する。まず、圧延を用いる形態を説明し、次いで、電解を用いる形態を説明する。図11および図12は、圧延を用いる例を示す。
・・・
【0060】
電解を用いる製造方法では、電解に用いられる電極表面に蒸着マスク用基材1を形成し、その後、電極表面から蒸着マスク用基材1を離型する。この際、例えば、鏡面を表面とする電解ドラム電極が電解浴に浸され、かつ、電解ドラム電極を下方で受けて電解ドラム電極の表面と対向する他の電極が用いられる。そして、電解ドラム電極と他の電極との間に電流が流されて、電解ドラム電極の表面である電極表面に、蒸着マスク用基材1が沈着する。電解ドラム電極が回転して蒸着マスク用基材1が所望の厚さになるタイミングで、電解ドラム電極の表面から蒸着マスク用基材1が剥がされて巻き取られる。
【0061】
蒸着マスク用基材1を構成する材料がインバーである場合、電解に用いられる電解浴は、鉄イオン供給剤、ニッケルイオン供給剤およびpH緩衝剤を含む。電解に用いられる電解浴は、応力緩和剤、Fe3+イオンマスク剤、リンゴ酸やクエン酸などの錯化剤などを含んでもよく、電解に適したpHに調整された弱酸性の溶液である。鉄イオン供給剤は、例えば、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、スルファミン酸鉄などである。ニッケルイオン供給剤は、例えば、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル、臭化ニッケルである。pH緩衝剤は、例えば、ホウ酸、マロン酸である。マロン酸は、Fe3+イオンマスク剤としても機能する。応力緩和剤は、例えばサッカリンナトリウムである。電解に用いられる電解浴は、例えば、上述した添加剤を含む水溶液であり、5%硫酸、あるいは、炭酸ニッケルなどのpH調整剤によって、例えば、pHが2以上3以下となるように調整される。なお、必要に応じて、アニール工程を入れてもよい。
【0062】
電解に用いられる電解条件では、蒸着マスク用基材1の厚さ、蒸着マスク用基材1の組成比などに応じて、電解浴の温度、電流密度および電解時間が適宜調整される。上述した電解浴に適用される陽極は、例えば、純鉄製とニッケル製である。上述した電解浴に適用される陰極は、例えば、SUS304などのステンレス板である。電解浴の温度は、例えば、40℃以上60℃以下である。電流密度は、例えば、1A/dm2以上4A/dm2以下である。この際、上記[条件1]が満たされるよう、電極表面での電流密度が設定される。好ましくは、上記[条件2]から[条件4]が[条件1]と共に満たされるように、電極表面での電流密度が設定される。」
(イ) 前記(ア)の記載からみれば、本件発明1に係る「蒸着マスク用基材」は、電解を用いる製造方法により製造されるものであり、当該電解を用いる製造方法では、電解に用いられる電極表面に「蒸着マスク用基材」を形成し、その後、電極表面から蒸着マスク用基材を離型するものであり、この際、例えば、鏡面を表面とする電解ドラム電極が電解浴に浸され、かつ、電解ドラム電極を下方で受けて電解ドラム電極の表面と対向する他の電極が用いられ、電解ドラム電極と他の電極との間に電流が流されて、電解ドラム電極の表面である電極表面に、蒸着マスク用基材が沈着し、電解ドラム電極が回転して「蒸着マスク用基材」が所望の厚さになるタイミングで、電解ドラム電極の表面から「蒸着マスク用基材」が剥がされて巻き取られるものである。
そして、「蒸着マスク用基材」を構成する材料がインバーである場合、電解に用いられる電解浴は、鉄イオン供給剤、ニッケルイオン供給剤およびpH緩衝剤を含み、電解に用いられる電解浴は、応力緩和剤、Fe3+イオンマスク剤、リンゴ酸やクエン酸などの錯化剤などを含んでもよく、電解に適したpHに調整された弱酸性の溶液であるものであり、鉄イオン供給剤は、例えば、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、スルファミン酸鉄などであり、ニッケルイオン供給剤は、例えば、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル、臭化ニッケルであり、pH緩衝剤は、例えば、ホウ酸、マロン酸であり、応力緩和剤は、例えばサッカリンナトリウムであって、電解に用いられる電解浴は、例えば、上述した添加剤を含む水溶液であり、5%硫酸、あるいは、炭酸ニッケルなどのpH調整剤によって、例えば、pHが2以上3以下となるように調整されるものである。
また、電解に用いられる電解条件では、「蒸着マスク用基材」の厚さ、「蒸着マスク用基材」の組成比などに応じて、電解浴の温度、電流密度および電解時間が適宜調整されるものであり、電解浴に適用される陽極は、例えば、純鉄製とニッケル製であり、電解浴に適用される陰極は、例えば、SUS304などのステンレス板であり、電解浴の温度は、例えば、40℃以上60℃以下であり、電流密度は、例えば、1A/dm2以上4A/dm2以下であり、この際、前記[条件1]が満たされるように、電極表面での電流密度を設定するものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、前記電解を用いる製造方法によって、過度の試行錯誤を要することなく本件発明1に係る「蒸着マスク用基材」を生産することができるものであり、このことを前記(1)イの判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、実施可能要件に適合するといえる。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
イ 本件発明6~8について
(ア) 本件特許明細書には、更に以下のa~dの記載がある。
a 「【0035】
[マスク装置の構成]
図4は、蒸着マスク用基材1を用いて製造される蒸着マスクを備えるマスク装置の概略的な平面構造を示す。図5は、蒸着マスクが備えるマスク部の断面構造の一例を示し、図6は、蒸着マスクが備えるマスク部の断面構造の他の例を示す。なお、マスク装置が備える蒸着マスクの数量や、蒸着マスク30が備えるマスク部の数量は一例である。
【0036】
図4が示すように、マスク装置10は、メインフレーム20と、3つの蒸着マスク30とを備える。メインフレーム20は、複数の蒸着マスク30を支持する矩形枠状を有し、蒸着を行うための蒸着装置に取り付けられる。メインフレーム20は、各蒸着マスク30が位置する範囲のほぼ全体にわたり、メインフレーム20を貫通するメインフレーム孔21を有する。
【0037】
各蒸着マスク30は、帯板状を有した複数のフレーム部31と、各フレーム部31に3体ずつのマスク部32とを備える。フレーム部31は、マスク部32を支持する短冊板状を有して、メインフレーム20に取り付けられる。フレーム部31は、マスク部32が位置する範囲のほぼ全体にわたり、フレーム部31を貫通するフレーム孔33を有する。フレーム部31は、マスク部32よりも高い剛性を有し、かつ、フレーム孔33を囲う枠状を有する。各マスク部32は、フレーム孔33を区画するフレーム部31のフレーム内縁部に1体ずつ、溶着や接着によって固定される。」
b 「【0073】
[蒸着マスクの製造方法]
蒸着マスクの製造方法の各例を説明する。なお、図19を参照して、ウェットエッチングによって孔を形成する方法での例(第1製造方法)を説明する。・・・
【0074】
[第1製造方法]
なお、図5で説明したマスク部32を備える蒸着マスクを製造する方法と、図6で説明したマスク部32を備える蒸着マスクを製造する方法とは、基材32Kに対して行われるエッチングの形態が異なるが、それ以外の工程はほぼ同様である。以下では、図5で説明したマスク部32を備える蒸着マスクの製造方法を主に説明し、図6で説明したマスク部32を備える蒸着マスクの製造方法に関しては、その重複した説明を省略する。
【0075】
図19(a)~(h)が示す例のように、蒸着マスクの製造方法の一例では、まず、基材32Kが準備される(図19(a)参照)。なお、基材32Kは、マスク板323として加工される上述した蒸着マスク用基材1であり、蒸着マスク用基材1の他に、その蒸着マスク用基材1を支持するための支持体SPをさらに備えることが好ましい。なお、基材32Kの第1面321(図19の下面)は、上記第1面1Saに相当し、基材32Kの第2面322(図19の上面)は、上記第2面1Sbに相当する。
【0076】
まず、基材32Kが有する第2面322にレジスト層PRを形成し(図19(b)参照)、レジスト層PRに対する露光および現像を行うことによって、第2面322にレジストマスクRMを形成する(図19(c)参照)。次に、レジストマスクRMを用いた第2面322からのウェットエッチングによって、基材32Kに孔32Hが形成される(図19(d)参照)。
【0077】
この際、ウェットエッチングが開始される第2面322には、第2開口H2が形成され、それよりも遅れてエッチングが行われる第1面321には、第2開口H2よりも小さい第1開口H1が形成される。次いで、レジストマスクRMが第2面322から除去されることによって、上記マスク部32が形成される(図19(e)参照)。最後に、第2面322における外縁部32Eが、フレーム部31の内縁部31Eに接合され、マスク部32から支持体SPが離型されることによって、蒸着マスク30が製造される(図19(f)から(h)参照)。
・・・
【0091】
上述した蒸着マスク30を用いて表示装置を製造する方法では、まず、蒸着マスク30を搭載したマスク装置10を蒸着装置の真空槽内に取り付ける。この際、ガラス基板などの蒸着対象と第1面321とが対向するように、かつ、蒸着源と第2面322とが対向するように、マスク装置10を取り付ける。そして、蒸着装置の真空槽に蒸着対象を搬入し、蒸着源で蒸着物質を昇華させる。これによって、第1開口H1に追従した形状を有するパターンが、第1開口H1と対向する蒸着対象に形成される。なお、蒸着物質は、例えば、表示装置の画素を構成する有機発光材料や、表示装置の画素回路を構成する画素電極などである。」
c 「【図4】
[図:0001404747000004.jpg]
」
d 「【図19】
[図:0001404747000005.jpg]
」
(イ) 前記(ア)b、dの記載からみれば、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」は、ウエットエッチングによって孔を形成するものであり、まず、基材が準備されるが、前記基材は、前記ア(イ)に記載された方法により製造された「蒸着マスク用基材」であり、蒸着マスク用基材の他に、その蒸着マスク用基材を支持するための支持体をさらに備えることが好ましいものである。
そして、前記基材が有する第2面にレジスト層を形成し、レジスト層に対する露光および現像を行うことによって、第2面にレジストマスクを形成し、次に、レジストマスクを用いた第2面からのウェットエッチングによって、前記基材に孔が形成されるものであり、この際、ウェットエッチングが開始される第2面には、第2開口が形成され、それよりも遅れてエッチングが行われる第1面には、第2開口よりも小さい第1開口が形成されるものであり、次いで、レジストマスクが第2面から除去されることによって、マスク部が形成され、最後に、第2面における外縁部が、フレーム部の内縁部に接合され、マスク部から支持体が離型されることによって、「蒸着マスク」が製造されるものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」の使用をすることができる。
また、前記(ア)a、cの記載からみれば、「蒸着マスク」は、メインフレームと、3つの「蒸着マスク」とを備えるマスク装置において、メインフレームに支持されて使用されるものであって、このことからみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」により生産した物である「蒸着マスク」の使用等をすることもできる。
(エ) 前記(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」の使用をすることができ、また、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」により生産した物の使用等をすることができるものであり、このことを前記(1)イの判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明6について、実施可能要件に適合するといえる。
更に、前記(ア)b、dの記載からみれば、本件発明7~8について検討しても事情は同じである。
(4) 取消理由について
ア 始めに、前記第5の1(1)の取消理由について検討すると、本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」、との発明特定事項を有するから、本件課題と無関係のものまで包含するものではないので、前記第5の1(1)の取消理由は理由がない。
イ 次に、前記第5の1(3)の取消理由について検討すると、本件訂正により本件特許請求の範囲の請求項5は削除されたから、前記第5の1(3)の取消理由はあてはまらない。
ウ したがって、前記第5の1(1)及び同(3)のサポート要件及び実施可能要件についての取消理由はいずれも理由がない。
(5) 申立人村野の特許異議申立理由及び村野意見書について
ア 始めに、申立人村野の前記第4の1(1)ア及びイの主張について検討すると、前記(3)ア(ウ)、同イ(エ)の記載によれば、本件特許明細書に圧延条件やアニール条件やドライフィルムレジスト等を貼り付ける条件が記載されていないとしても、また、圧延により「第1急峻度」が制御できること自体の疑義の有無に関わらず、当業者は、「第1急峻度が0.5%以下である蒸着マスク用基材」を生産することができ、「第1急峻度が0.5%以下である蒸着マスクの製造方法」の使用をすることができ、前記「蒸着マスクの製造方法」により生産した物の使用等をすることができることに変わりはないのであり、更に、「第2急峻度の平均値」、「波数の最大値」及び「波数の平均値」について検討しても事情は同じであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
また、当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができることは、前記(2)オに記載したとおりであって、本件発明1において、「蒸着マスク用基材」とドライフィルムレジストとの位置ズレの抑制や密着性の向上に関与する工程や条件が特定されていないとしても、本件発明1の発明特定事項を満たす「蒸着マスク用基材」に、当業者が通常採用する工程によりドライフィルムレジスト等を貼り付けることによって、本件課題を解決できることを理解することができるから、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることに変わりはない。
更に、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するので、前記第4の1(1)ア及びイの主張はいずれも採用できない。
イ 次に、申立人村野の前記第4の1(1)ウの主張について検討すると、前記主張は、甲第10号証に記載された伸び差率と急峻度の関係式から、甲第19号証に記載された比較例1及び3や甲第9号証に記載された比較例1の「第1急峻度」が算出されることを前提としたものといえる。
ここで、本件発明における「第1急峻度」は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、前記長さ方向における単位長さが、500mmであり、前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値」であって、「金属板の幅方向に繰り返す」「波の長さ」及び「前記波の高さ」に基づいて算出されるものである。
すなわち、前記(2)ア(ウ)(段落【0025】、【0026】)、(カ)の記載によれば、本件発明1における「第1急峻度」の測定において、表面位置が測定される幅方向の各位置は、「蒸着マスク用基材」の波形状を引き写すことの可能な間隔で並ぶものであり、例えば、幅方向に1mm以上20mm以下の間隔で並ぶものであり、幅方向での各位置の表面位置を結ぶ線は、「蒸着マスク用基材」の表面に沿う線と見なされ、線の長さは、「蒸着マスク用基材」の表面での沿面距離であり、線に含まれる各波において、波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向での直線の長さは、波の長さであり、線に含まれる各波において、波における谷間を結ぶ直線に対する高さは、波の高さであり、蒸着マスク用基材の「単位急峻度」は、波の長さに対する波の高さの百分率である。
そして、「蒸着マスク用基材」の長さ方向での「単位長さ」は500mmであり、「蒸着マスク用基材」の「第1急峻度」は、「単位長さ」、及び、幅のなかに含まれる全ての波の「単位急峻度」における最大値であるから、前記「第1急峻度」は、「蒸着マスク用基材」の幅方向の波形状を引き写すことの可能な間隔、例えば幅方向に1mm以上20mm以下の間隔で並ぶ各位置で測定される表面位置に基づいて算出されるものといえる。
これに対して、甲第10号証には、以下の(ア)、(イ)の記載がある。
(ア) 「2.空気軸受式形状計
2.1 圧延材の形状
・・・
形状は,通常,第2図(1)および(1)式に示すように急峻度あるいは伸び差率などで定義する.当社は,1×10-5の伸び差率を基本としたI-UNIT(5)を形状の単位に用いている.
λ=hi/li×100%
ε=Δli/li≒(π/2×hi/li)2 ・・・・・・(1) λ :急峻度
ε :伸び差率
hi :伸び差で発生する波の高さ
li :基準長さ
Δli:伸び差
第3図は,形状と伸び差率の関係を示した模式図である.圧延材料を長手方向に裁断すると,波状のところは基準長さliに対しΔliだけ伸びる.この比が(1)式で示された伸び差率である.この材料の圧延中における板幅方向の張力分布は,中央部分が高く両端部に向かうと伸び波が大きくなるので低くなる.このように,形状不良の波の程度と伸び差率および張力分布には相関関係があり,張力分布を知ることによって形状を把握することができる.」(129ページ左欄下から8行~130ページ左欄26行)
(イ) 「
[図:0001404747000006.jpg]
」(130ページ右欄)
前記(ア)、(イ)の記載からみれば、甲第10号証には、圧延材料を長手方向に裁断して測定される伸び差率と急峻度の関係式が記載されているにすぎず、これらは、金属板の幅方向の波形状を引き写すことの可能な間隔で並ぶ各位置で測定される表面位置に基づいて算出されるものではないから、甲第10号証に記載された関係式により本件発明における「第1急峻度」を算出することができるものではない。
そうすると、前記関係式から算出した、甲第19号証に記載された比較例1及び3や甲第9号証に記載された比較例1の「第1急峻度」は、本件発明における「第1急峻度」に相当するものではないから、前記第4の1(1)ウの主張は前提において誤っているので、採用できない。
ウ 次に、申立人村野の前記第4の1(1)エの主張について検討すると、当業者は、「蒸着マスク用基材」が前記[条件1]を満たすことで本件課題を解決できることを理解することができることは、前記(2)エに記載したとおりであるから、「蒸着マスク用基材」が[条件1]を満たすことと、本件課題が解決できることとの関係を理解することができる。
また、当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができることは、前記(2)オに記載したとおりであって、本件発明1において、「蒸着マスク用基材」のエッチング条件について特定されていないとしても、本件発明1の発明特定事項を満たす「蒸着マスク用基材」を、当業者が通常採用する工程によりエッチングすることによって、本件課題を解決できることを理解することができるから、本件発明1の発明特定事項は、課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるものではないので、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するし、発明の詳細な説明に「蒸着マスク用基材」のエッチング条件について記載されていないとしても、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たす「蒸着マスク用基材」を使用することができるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
更に、本件発明1は、ドライエッチングによりエッチングを行うものではないから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するし、本件特許明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件に適合する。
また、現像やレジスト層の剥離、剥離液の洗浄が、前記[条件1]と無関係であるとしても、当業者は、「蒸着マスク用基材」が前記[条件1]を満たすことで、本件課題を解決できることを理解することができることに変わりはないから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するので、前記第4の1(1)エの主張も採用できない。
エ 次に、申立人村野の前記第4の1(1)オの主張について検討すると、前記(2)ア(エ)(段落【0109】、【0110】)の記載によれば、発明の詳細な説明の実施例においては、蒸着マスク用基材の第1面に貼り着けた第1DFRに露光マスクを接触させて露光する露光工程、次いで現像工程を施し、30μmの直径を有した複数の貫通孔を、第1DFRに格子状に形成し、続いて、第1DFRをマスクとするエッチングを第1面に施して、格子状に位置する複数の孔を蒸着マスク用基材に形成した上で、各孔が有する開口径のなかで、開口径の最大値と開口径の最小値との差が2.0μm以下である水準に○印を記載し、開口径の最大値と開口径の最小値との差が2.0μmよりも大きい水準に×印を記載したのであるから、目標となる設計値が30μmの孔を形成することを前提として、開口径の最大値と最小値の差が2.0μm以下であるか否かにより孔の開口径のばらつきを評価していると解するのが妥当であるので、前記実施例に開口径について具体的な数値が記載されていないとも、実際に実験が行われたか否か疑わしいともいえないし、目標となる設計値からの外れ度合いについて記載されていないともいえない。
そして、当業者が、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解できることは、前記(2)オに記載したとおりであり、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するので、前記第4の1(1)オの主張も採用できない。
オ 最後に、申立人村野の前記第4の1(1)カの主張について検討すると、 前記(2)ア(ウ)(段落【0022】、【0023】)の記載によれば、本件発明においては、圧延された、もしくは電解で作製された金属板の幅方向での寸法が所定幅となるように、金属板が切断されて、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材がロール状に巻き回され、次いで、蒸着マスク用基材が幅方向の全体(全幅)において切断されるスリット工程が実施されて、蒸着マスク用基材の長さ方向における一部分として、測定用基材が切り出されるものであり、蒸着マスク用基材を切断するスリット工程は、蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状を測定用基材に形成し得るので、表面位置の測定からは除外される範囲となるのであり、各非計測範囲が有する長さ方向での長さは、例えば、100mmであり、非計測範囲の幅方向の長さは、幅方向の端から、例えば、10mmであるものである。
すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、長さ方向及び幅方向の両方について切断すなわちスリット工程が行われることを前提として、「第1急峻度」を、前記スリット工程により蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状が形成され得る範囲である非計測範囲を除外して計測するものであることを理解できるので、本件発明1において非計測範囲が特定されていないとしても、「第1急峻度」が「蒸着マスク用基材」の全体で満たされるものと解されるものではないし、当業者は、前記非計測範囲の合理性を理解することができる。
そして、このことからみれば、本件発明1が、蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状が形成される非計測範囲に貫通孔を形成するものを含むと解するのは不合理であるから、本件課題を解決しないものを権利範囲に含めるものとはいえない。
更に、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するし、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するので、前記第4の1(1)カの主張も採用できない。
カ 村野意見書における申立人村野の主張は、概略、以下のとおりである。(ア) エッチング液を用いたエッチングのうち浸漬式エッチングは、エッチング液に流れがないから、本件課題とは無関係のものである。
エッチング液を用いたエッチングのうちスプレイ式エッチングの垂直型は、エッチング液がよどむことがないから、本件課題とは無関係のものである。
エッチング液を用いたエッチングのうちスプレイ式エッチングの水平型は、片面型の場合、エッチング液がよどむことがないから、本件課題とは無関係のものである。
エッチング液を用いたエッチングのうちパドル式エッチングは、エッチング液がよどむことがないから、本件課題とは無関係のものである。
すると、これらのエッチング方法によるエッチングを含む本件発明1は、本件課題と無関係のものまで包含している(3ページ下から5行~6ページ9行)。
(イ) 本件発明1の「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」、との発明特定事項は、「蒸着マスク用基材」の用途を特定するものであり、その構造、特性を特定するものではないから、本件発明1~4は、依然として、本件課題が発生し得る前提に基づかないものであるので、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(6ページ10行~7ページ14行)。
(ウ) 甲第8号証の1、甲第8号証の2、甲第29条の1~甲第30号証の2によれば、スプレイ式エッチング装置では、エッチング液は勢いよく噴射するものであり、エッチング液がよどむ原因が、山のピーク高さによるとは考え難いから、エッチング工程において、液体のよどみが生じるとはいえないので、当業者は、本件課題と課題解決手段の関係を理解できない(7ページ27行~13ページ16行)。
(エ) 甲第19号証及び甲第9号証には、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載される実施例と矛盾した評価結果が記載されていることは、特許異議申立書の4.(3)ウ(ウ)~(エ)に記載したとおりであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない(13ページ17行~14ページ19行)。
(オ) 取消理由通知書において、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明に実施可能要件違反を指摘しつつ、前記請求項5に係る発明と全く同じ発明特定事項を有する同請求項1及び6に係る発明ついて実施可能要件違反を指摘しないのは、実施可能要件の判断を誤った違法性がある(19ページ下から4行~22ページ12行)。
(カ) 特許異議申立書に記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない(22ページ13行~23ページ7行)。
キ 以下、前記カの主張について検討する。
(ア) 始めに、前記カ(ア)~(ウ)の主張について検討すると、甲第7号証には、以下の記載がある。
「また浸漬法によるエツチングに於てはスプレー法に比較し、スプレー圧、スプレーパターンの重なり、液溜りなどのエツチング状態におよぼす要因は考える必要はないが、金属板表面のエツチング液交換は攪拌によるでけであるのでシヤドウマスクのような大きなものになると攪拌子、超音波、バブリングなどを利用しても金属板表面のエツチング液は不均一となり、この為穿孔形状などのばらつきが生じやすいし、またスプレー法に比較しエツチング効果が悪く、時間がかかりやすいので量産には向かない。
これに対しスプレー法によるエツチングにおいては浸債法と比較し、エツチング液の当りが強いため新らしいエツチング液との液交換効率が良く、短かいエツチング時間で所望のシヤドウマスクが得られるので量産に適している。しかしエツチング液の金属板表面に対するスプレーパターンが均一でなく、金属板表面上のエツチング液の流れや溜りが不均一となり易く、このため穿孔の大きさや形状のばらつきが発生しやすい。・・・しかし液溜りや液流れに関してはエツチング方式により、どうしても避けられないものであり、液溜りの多い部分は液溜の少ない部分に比較し、新しいエツチング液との交換速度が遅くなり、この部分の金属板のエツチング速度を低下させる。」(2ページ左欄43行~右欄28行)
前記記載からみれば、甲第7号証には、浸漬法によるエッチングにおいては、金属板表面のエッチング液交換は攪拌によるだけであるので、攪拌子、超音波、バブリングなどを利用しても金属板表面のエッチング液は不均一となること、及び、スプレー法によるエッチングにおいては、エッチング液の金属板表面に対するスプレーパターンが均一でなく、金属板表面上のエッチング液の流れや溜りが不均一となりやすいことや、液溜りの多い部分は液溜りの少ない部分に比較し、新しいエッチング液との交換速度が遅くなり、この部分の金属板のエッチング速度を低下させることが記載されている。
すると、エッチング液を用いたエッチングにおいては、エッチング方法に関わらず、金属板表面にエッチング液の流れや液溜りが生じるのであるから、金属板の厚みが薄くなり、エッチングなどの加工条件の許容範囲が狭くなったときに、設計値が30μm程度の孔を形成するような微細な加工(前記(2)ア(エ)段落【0109】)の加工精度に影響するような液体のよどみが生じないと直ちにいえるものではないし、甲第8号証の1、甲第8号証の2、甲第29条の1~甲第30号証の2から、このことが裏付けられるものでもない。
また、本件発明1における「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」、との発明特定事項は「蒸着マスク用基材」の「複数の孔」が「エッチング液を用いたエッチングによって形成」されるものとすることで、その構造、特性を更に特定するものといえ、「エッチング液を用いたエッチング」においてエッチング液の流れや液溜りが生じることは前記のとおりであるから、本件発明1が、本件課題と無関係のものまで包含しているとはいえないし、本件課題が発生し得る前提に基づかないものともいえない。
そして、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることを理解できることは、前記(2)オに記載したとおりであるから、当業者は、本件課題と課題解決手段の関係を理解することができるので、前記カ(ア)~(ウ)の主張はいずれも採用できない。
(イ) 次に、前記カ(エ)の主張について検討すると、前記イに記載したのと同様の理由により、甲第19号証及び甲第9号証に、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載される実施例と矛盾した評価結果が記載されているとはいえないから、前記カ(エ)の主張も採用できない。
(ウ) 次に、前記カ(オ)の主張について検討すると、前記主張は、本件訂正前の請求項1及び6に係る発明が、同請求項5に係る発明と全く同じ発明特定事項を有することを前提としたものといえるが、前記請求項5に係る発明は、「母材を圧延して前記金属板を得ることを含み」、との発明特定事項を有するのに対して、前記請求項1及び6に係る発明は前記発明特定事項を有しないから、前記請求項5に係る発明と全く同じ発明特定事項を有するものではない。
そうすると、前記カ(オ)の主張は前提において誤っており、取消理由通知書において実施可能要件の判断を誤った違法性はないから、採用できない。
(エ) 最後に、前記カ(カ)の主張について検討すると、申立人村野の特許異議申立書における主張、すなわち前記第4の1(1)の主張は採用できないことは、前記ア~オに記載したとおりであるから、前記カ(カ)の主張も採用できない。
ク したがって、前記第4の1(1)のサポート要件及び実施可能要件についての申立人村野の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
(6) 申立人山田の特許異議申立理由及び山田意見書について
ア 始めに、前記第4の2(1)の主張について検討すると、本件特許明細書に圧延条件が記載されていないとしても、前記(3)ア(ウ)に記載したのと同様の理由により、当業者は、「第1急峻度が0.5%以下である蒸着マスク用基材」を過度な試行錯誤を要することなく製造できることに変わりはないから、前記前記第4の2(1)の主張は採用できない。
イ また、山田意見書における申立人山田の主張は、概略、以下のとおりである。
「蒸着マスク用基材」の製造方法のうち電解を用いる形態について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「第1急峻度が0.5%以下」となるように電極表面での電流密度を設定する具体的な条件が全く記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない(3ページ下から10行~4ページ13行)。
ウ ところが、前記(3)ア(イ)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「蒸着マスク用基材」の製造方法のうち電解を用いる形態について、電解に用いられる電解浴の組成が具体的に記載され、更に、電解液のpH、電解浴に適用される陽極及び陰極の材料、電解浴の温度、電流密度が記載されているといえる。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、「第1急峻度」が「0.5%以下」となるように電極表面での電流密度を設定する具体的な条件が全く記載されていないとはいえないのであって、本件特許明細書の記載に接した当業者は、前記電解を用いる製造方法によって、過度の試行錯誤を要することなく本件発明1に係る「蒸着マスク用基材」を生産することができることは、前記(3)ア(ウ)に記載したとおりであるから、前記イの主張も採用できない。
エ したがって、前記第4の2(1)の実施可能要件についての申立人山田の特許異議の申立て理由は理由がない。
(7) 小括
よって、本件特許請求の範囲の記載は、同法同条第6項第1号所定の規定に適合し、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するから、これらについての取消理由及び特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件違反の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2) 取消理由について
前記第5の1(2)及び同2(1)の取消理由は同じものであるから、まとめて検討する。
ア 本件発明1の発明特定事項及び前記1(2)ア(ウ)の本件特許明細書の記載(段落【0022】~【0026】)によれば、本件発明1における「第1急峻度」は、「金属板の幅方向に繰り返す」「波の長さ」及び「波の高さ」に基づいて算出されるものである。
すなわち、「蒸着マスク用基材」が水平面に載置された状態において、水平面に対する「蒸着マスク用基材」の表面の位置(高さ)が表面位置であり(段落【0022】)、表面位置が測定される幅方向の各位置は、「蒸着マスク用基材」の波形状を引き写すことの可能な間隔、例えば、幅方向に1mm以上20mm以下の間隔で並ぶものであり、幅方向での各位置の表面位置を結ぶ線は、「蒸着マスク用基材」の表面に沿う線と見なされ、線の長さは、「蒸着マスク用基材」の表面での沿面距離であり、線に含まれる各波において、波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向での直線の長さが「波の長さ」であり、線に含まれる各波において、波における谷間を結ぶ直線に対する高さが「波の高さ」である(段落【0025】)。
そして、「蒸着マスク用基材」の「単位急峻度」は、前記「波の長さ」に対する「波の高」さの百分率であり、幅方向の端に波のピークが位置する場合には、幅方向において、「波の長さ」は、ピークから波の谷までの長さの二倍として推定するものであり(段落【0025】)、「蒸着マスク用基材」の「第1急峻度」は、単位長さ、および、幅Wのなかに含まれる全ての波の単位急峻度における最大値である(段落【0026】)。
イ ここで、谷付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合、波の立ち上がりの位置は、前記各位置の中で波のピークに最も近い位置であるといえるから、当該位置を谷の位置とするのが合理的であり、そうすることで、「波の長さ」は一義的に決まり、「第1急峻度」も一義的に決まるものである。
また、ピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合、いずれの位置をピークとしても「波の高さ」は変わらないから、「波の高さ」は一義的に決まり、「第1急峻度」も一義的に決まるものである。
ウ さらに、幅方向の端に波のピークが位置する場合には、「波の長さ」は、ピークから波の谷までの長さの二倍として推定するものであることは、前記アに記載したとおりであり、そうすることで、「波の長さ」は一義的に決まり、「第1急峻度」も一義的に決まるものである。
なお、この場合に、谷付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合には、前記イのとおり谷の位置を決めることで、「波の長さ」は一義的に決まり、「第1急峻度」も一義的に決まるものである。
エ 前記イ及びウによれば、前記アの方法にのっとって「第1急峻度」を算出するに際して、谷付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合であっても、また、幅方向の端のピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合であっても、「第1急峻度」を特定することができるといえる。
してみれば、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するので、前記第5の1(2)及び同2(1)の取消理由はいずれも理由がない。
(3) 申立人村野の特許異議申立理由、村野上申書、村野意見書及び村野意見書2について
ア 始めに、申立人村野の前記第4の1(2)アの主張について検討すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、長さ方向及び幅方向の両方についてスリット工程が行われることを前提として、「第1急峻度」を、前記スリット工程により蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状が形成され得る範囲である非計測範囲を除外して計測するものであることを理解できることは、前記1(5)オに記載したとおりである。
してみれば、本件発明1において幅方向の非計測範囲が特定されていないとしても、「第1急峻度」の測定範囲を理解できるから、本件発明1の発明特定事項が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、「第2急峻度の平均値」、「波数の最大値」及び「波数の平均値」について検討しても事情は同じである。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するから、前記前記第4の1(2)アの主張は採用できない。
イ 次に、申立人村野の前記第4の1(2)イの主張について検討すると、前記(2)アによれば、前記「第1急峻度」は、「蒸着マスク用基材」の波形状を引き写すことの可能な間隔、例えば幅方向に1mm以上20mm以下の間隔で並ぶ各位置で測定される表面位置に基づいて算出されるのであって、前記各位置の間隔が異なれば、測定される表面位置も異なるとしても、前記各位置の間隔を、例えば幅方向に1mm以上20mm以下の範囲で適宜選択することで、前記「第1急峻度」を特定することができるものである。
してみれば、本件発明1における「第1急峻度」が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、「第2急峻度の平均値」、「波数の最大値」及び「波数の平均値」について検討しても事情は同じである。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するから、前記第4の1(2)イの主張も採用できない。
ウ 最後に、申立人村野の前記第4の1(2)ウの主張について検討すると、前記1(5)オに記載したとおり、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、長さ方向及び幅方向の両方についてスリット工程が行われることを前提として、「第1急峻度」を、前記スリット工程により蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状が形成され得る範囲である非計測範囲を除外して計測するものであることを理解できるのであるから、本件特許明細書の段落【0025】(前記1(2)ア(ウ))の「幅方向DWの端」、との記載は、計測範囲の端を意味していると解するのが合理的である。
そうすると、「幅方向DWの端」に波のピークが位置していることを判断することができる。
また、本件特許明細書の段落【0026】(前記1(2)ア(ウ))には、「蒸着マスク用基材」の「波数」は、長さ方向の各位置での全ての波の数であることが記載されているから、「波数」の意味を理解することができるし、前記(2)に記載したとおり、具体的な状況においても、谷やピークの位置を決定できるものである。
してみれば、本件特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するから、前記第4の1(2)ウの主張も採用できない。
エ 村野上申書、村野意見書及び村野意見書2における申立人村野の主張は、概略、以下のとおりである。
(ア) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7には、「前記マスク部を形成することは、単一の前記金属板に複数の前記マスク部を形成することであり」、と特定されているものの、単一の金属板に形成した複数のマスク部をマスク部ごとに切り出す工程は記載されていない。
このため、切り出されていない「前記各マスク部の側面と、1体のフレーム部とを、前記複数の孔を前記マスク部ごとに前記1体のフレーム部が囲うように、相互に接合する」ことの技術的な意義が理解できないから、前記請求項7に係る発明を明確に理解することができない(村野上申書5ページ3行~14行)。
(イ) 特許権者意見書における特許権者の主張は、文章全体の意味が不明であり、技術的な誤りがあり、本件特許明細書の記載からは、「波における谷間を結ぶ直線に対する高さ」の求め方が不明であるから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(村野意見書17ページ15行~18ページ26行)。
(ウ) 特許権者は、特許権者意見書において、表面位置が同じ値となる範囲がピーク付近に存在した場合に、いずれの値をピークとしてどのように定めるのか説明していないし、本件特許明細書にも記載されていない。
また、「蒸着マスク用基材」の谷付近は、裏表を逆にすればピーク付近になるから、表裏が逆であると「単位急峻度」の値が変わることは明らかであるのに、本件特許明細書には、「蒸着マスク用基材」の表面のうちどちらを表面とし、どちらを裏面とするのかも記載されていないから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさない(村野意見書18ページ27行~19ページ9行)。
(エ) 幅方向の表面位置の測定間隔を狭くしたデータで、波を立体的にとらえれば、波が様々に歪んでいる場合もあり得るから、本件課題の解決のためには、必ずしも、特許権者が特許権者意見書において主張する「表面位置が同じ値となる範囲が谷付近に存在するならば、同範囲の中で波のピークに最も近い表面位置を用いて直線の長さを求める」方法がよいとは限らないし、前記方法が本件特許明細書に記載されるものでもないから、特許権者による前記主張は、前記方法の理解を、審判部ないし当業者に強要しようとするものである(村野意見書19ページ10行~26行)。
(オ) 特許権者意見書2における特許権者の主張は意味が不明であり、前記主張をみても、明確性要件についての取消理由は解消しないし、特許権者意見書2における特許権者の主張は本件特許図面の記載と矛盾する(村野意見書2 2ページ23行~7ページ最終行)。
(カ) 特許権者は、幅方向の端に波のピークが位置する場合についての取消理由に対して無回答であり、また、本件特許明細書においては、波における谷間を結ぶ直線に対する高さの求め方及び「蒸着マスク用基材」の表面と裏面の決め方も記載されていないから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない(村野意見書2 8ページ1行~11ページ12行)。
オ 以下、前記エの主張について検討する。
(ア) 始めに、前記エ(ア)の主張について検討すると、本件特許明細書の前記1(3)イ(ア)b(段落【0074】~【0077】)、dの記載によれば、本件発明7に係る「蒸着マスクの製造方法」は、そもそも、単一の金属板に複数のマスク部を形成するものと解されるのであって、形成した複数のマスク部をマスク部ごとに切り出すものとはいえないから、前記(ア)の主張は前提において誤っており、採用できない。
(イ) 次に、前記エ(イ)の主張について検討すると、前記(2)アによれば、本件発明においては、幅方向での各位置の表面位置を結ぶ線が「蒸着マスク用基材」の表面に沿う線と見なされ、線に含まれる各波において、波における谷間を結ぶ直線に対する高さが「波の高さ」であるのであるから、「波における谷間を結ぶ直線に対する高さ」の求め方を理解できるので、前記エ(イ)の主張も採用できない。
(ウ) 最後に、前記エ(ウ)~(カ)の主張について検討すると、前記エ(ウ)~エ(カ)の主張は、総じて、特許権者意見書及び特許権者意見書2における特許権者の主張によっても、前記第5の1(2)及び同2(1)の取消理由は解消せず、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない旨をいうものといえる。
ところが、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合することは、前記(2)エに記載したとおりであるから、前記エ(ウ)~(カ)の主張もいずれも採用できない。
カ したがって、前記第4の1(2)の明確性要件についての申立人村野の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
(4) 山田意見書及び山田回答書について
ア 申立人山田は明確性要件について特許異議の申立てをしていないから、本来、山田意見書及び山田回答書における明確性要件についての主張を検討する必要はないが、以下、検討しておくと、申立人山田の主張は、概略、以下のとおりである。
(ア) 特許権者は、特許権者意見書において波の長さを定める具体的な方法を示しておらず、特許権者意見書における特許権者の反論は妥当でない(山田意見書4ページ目15行~27行)。
(イ) 特許権者意見書における「単位急峻度の大きさが変わらないように単位急峻度を特定する」という文章は、説明変数と目的変数が同一であり、意味が不明である(山田意見書4ページ目28行~5ページ目2行)。
(ウ) 特許権者の特許権者意見書における反論によっても、「ピークの位置」を特定することができないことに変わりはないのであるから、特許権者意見書における特許権者の反論は妥当でないし、本件特許明細書の記載を参酌しても、「単位急峻度」の特定方法は理解できない(山田意見書5ページ目3行~6ページ目3行)。
(エ) 特許権者意見書2における特許権者の「直線の長さ」の測定方法を採用したとしても、測定間隔によって「直線の長さ」は変化し得るから、「第1急峻度」も変化し得るので、本件発明は不明確である(山田回答書2ページ目4行~3ページ目下から4行)。
(オ) 特許権者意見書2における特許権者の主張は意味が不明であり、妥当でない(山田回答書3ページ目下から3行~4ページ目下から6行)。
(カ) 特許権者は、特許権者意見書2において、一方の凹部である谷から他方の凹部である谷までを結ぶ幅方向の「直線の長さ」が、幅方向に繰り返される凹凸である波において定められる、と主張するが、一般に、「波の長さ」とは波長のことであり、波の周期的な長さであるが、特許権者意見書2において特許権者が主張する「直線の長さ」には谷の長さが含まれないから、波長とはいえないので、前記特許権者の主張は妥当でない。
イ 始めに、前記ア(ア)~(ウ)、(オ)及び(カ)の主張について検討すると、前記ア(ア)~(ウ)、(オ)及び(カ)の主張もまた、総じて、特許権者意見書及び特許権者意見書2における特許権者の主張によっても、前記第5の1(2)及び同2(1)の取消理由は解消せず、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない旨をいうものといえるから、前記(3)オ(ウ)に記載したのと同様の理由により、いずれも採用できない。
また、前記ア(エ)の主張について検討すると、前記各位置の間隔を、例えば幅方向に1mm以上20mm以下の範囲で適宜選択することで、前記「第1急峻度」を特定することができることは、前記(3)イに記載したとおりであるから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するので、前記ア(エ)の主張も採用できない。
(5) 小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するから、これについての取消理由及び特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
3 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性,進歩性欠如)について
(1) 申立人村野による特許異議申立理由について
ここでいう甲第1号証~甲第30号証の2は、申立人村野により提出された、前記第4の1(4)に記載された甲第1号証~甲第30号証の2である。なお、事案に鑑み、甲各号証の摘記は主引用例である甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証のみとした。
ア 甲各号証に記載された事項等
(ア) 甲第11号証に記載された事項及び甲第11号証に記載された発明
甲第11号証には、以下のa~bの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でNi+Co:35.0~43.0%(但し、Coは0~6.0%)、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、残部はFe及び不純物からなる冷間圧延用素材を準備する工程と、前記冷間圧延用素材に冷間圧延と連続焼鈍とを1回以上繰り返す冷間圧延工程とを含み、前記冷間圧延工程における最終の冷間仕上圧延を、単位幅当たりの圧延荷重150kg/mm以下、圧延速度1.7m/s以上、前方張力250~400MPaの条件で行い、厚さを0.25mm以下とし、前記最終の冷間仕上圧延後には熱処理を行わないことを特徴とするFe-Ni系合金薄板の製造方法。」
b 「【0014】
次に、上述した本発明のFe-Ni系合金薄板の製造方法で得られるFe-Ni系合金薄板について説明する。
<急峻度>
本発明では、Fe-Ni系合金薄板を最終の冷間仕上圧延した後、製品幅とした際の急峻度を、薄板を水平定盤に置いた状態の浮上り高さで評価し、最大0.75%以下(好ましくは0.50%以下)とすることができる。・・・
この急峻度の測定は、薄板を一定長さに切断し、水平定盤上に置き、レーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定する。この際、板幅および板長さ方向で、一定長さごとで浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから、急峻度を算出すれば良い。
【実施例】
【0015】
真空溶解、均熱化熱処理、熱間プレス及び熱間圧延を行って厚さ3.0mmの熱間圧延材を準備した。熱間圧延材の硬さを測定したところ、170~190HVであった。熱間圧延材の化学組成を表1に示す。
その後、化学研摩、機械研磨にて熱間圧延材表面の酸化層を除去し、粗圧延を施し、トリム加工で素材幅方向の両端部にある熱間圧延時の亀裂を除去し、冷間圧延用素材を準備した。
次に、前述の冷間圧用素材に対し、冷間圧延と連続焼鈍とを繰り返した後、最終の冷間仕上圧延として、本発明例(No.1~6)、比較例(No.21、22)、従来例(No.31~33)に分けて、製造した結果を表2に示す。また、最終の冷間仕上圧延に用いたワークロールは高速度工具鋼を用い、直径120mmを使用し、最終の冷間仕上圧延のパス回数は本発明と比較例は1回とし、従来例は複数回行って、最終の厚さを0.1mmとした。なお、最終の冷間仕上圧延前の硬さは135HVであり、幅は800mmの広幅材である。
また、表2に示す急峻度の測定は3次元形状測定器を用いて、700mm長さに切断した水平定盤上のFe-Ni系合金薄板試験片に測定領域幅800mm×長さ700mmの範囲をレーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定した。急峻度は一定長さ(幅方向:14mm、長さ方向:8mm)ごとに浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから算出した。
・・・
【0017】
【表2】
[図:0001404747000007.jpg]
」
そして、前記a~bの記載のうち、No.6の実施例に注目すると、甲第11号証には以下の発明が記載されているといえる。
「質量%でNi+Co:35.0~43.0%(但し、Coは0~6.0%)、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、残部はFe及び不純物からなる冷間圧延用素材を準備する工程と、前記冷間圧延用素材に冷間圧延と連続焼鈍とを1回以上繰り返す冷間圧延工程とを含み、前記冷間圧延工程における最終の冷間仕上圧延を、単位幅当たりの圧延荷重150kg/mm以下、圧延速度1.7m/s以上、前方張力250~400MPaの条件で行い、厚さを0.25mm以下とし、前記最終の冷間仕上圧延後には熱処理を行わない、Fe-Ni系合金薄板の製造方法であって、
得られたFe-Ni系合金薄板の最終の厚さが0.1mmであり、最大急峻度が0.33%であり、
急峻度の測定は3次元形状測定器を用いて、700mm長さに切断した水平定盤上のFe-Ni系合金薄板試験片に測定領域幅800mm×長さ700mmの範囲をレーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定し、急峻度は一定長さ(幅方向:14mm、長さ方向:8mm)ごとに浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから算出したものである、Fe-Ni系合金薄板の製造方法。」(以下、「甲11発明1」という。)
「甲11発明1に係るFe-Ni系合金薄板の製造方法により製造されたFe-Ni系合金薄板。」(以下、「甲11発明2」という。)
(イ) 甲第12号証に記載された事項及び甲第12号証に記載された発明 甲第12号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を形成してマスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、
前記マスクの前記貫通孔は、搬送されている長尺状の前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、
前記金属板の製造方法は、
母材を圧延して前記金属板を得る圧延工程と、
前記金属板の幅方向における一端および他端を所定範囲にわたって切り落とす切断工程と、を備え、
前記切断工程後の前記金属板は、その長手方向における長さがその幅方向の位置に応じて異なることに起因する波打ち形状を少なくとも部分的に有しており、
前記切断工程後の前記金属板の前記波打ち形状の前記長手方向における周期に対する、前記波打ち形状の高さの百分率を急峻度と称する場合、以下の条件(1)~(3)が満たされており、
(1)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部分における急峻度の最大値が、0.4%以下であること;
(2)前記中央部分における急峻度の最大値が、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の一端側部分における急峻度の最大値以下であり、かつ、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の他端側部分における急峻度の最大値以下であること;および、
(3)前記一端側部分における急峻度の最大値と、前記他端側部分における急峻度の最大値と、の差が0.4%以下であること;
前記一端側部分、前記中央部分および前記他端側部分はそれぞれ、前記切断工程後の前記金属板の幅の30%、40%および30%を占める部分である、金属板の製造方法。」
b 「【0110】
(第2~第20巻き体および第2~第20サンプル)
第1巻き体の場合と同様にして、インバー材から構成された母材から、第2巻き体~第20巻き体を製造した。さらに、第1巻き体の場合と同様にして、第2巻き体~第20巻き体に関して、各巻き体から取り出されたサンプルの急峻度の測定、並びに、各巻き体の長尺金属板から作製された蒸着マスクに関する上述の「1次効果その1」および「1次効果その2」を実施した。」
c 「【図24】
[図:0001404747000008.jpg]
」
そして、前記a~cの記載のうち、第4サンプルに注目すると、甲第12号証には以下の発明が記載されているといえる。
「複数の貫通孔を形成してマスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、
前記マスクの前記貫通孔は、搬送されている長尺状の前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、
前記金属板の製造方法は、
母材を圧延して前記金属板を得る圧延工程と、
前記金属板の幅方向における一端および他端を所定範囲にわたって切り落とす切断工程と、を備え、
前記切断工程後の前記金属板は、その長手方向における長さがその幅方向の位置に応じて異なることに起因する波打ち形状を少なくとも部分的に有しており、
前記切断工程後の前記金属板の前記波打ち形状の前記長手方向における周期に対する、前記波打ち形状の高さの百分率を急峻度と称する場合、以下の条件(1)~(3)が満たされており、
(1)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部分における急峻度の最大値が、0.4%以下であること;
(2)前記中央部分における急峻度の最大値が、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の一端側部分における急峻度の最大値以下であり、かつ、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の他端側部分における急峻度の最大値以下であること;および、
(3)前記一端側部分における急峻度の最大値と、前記他端側部分における急峻度の最大値と、の差が0.4%以下であること;
前記一端側部分、前記中央部分および前記他端側部分はそれぞれ、前記切断工程後の前記金属板の幅の30%、40%および30%を占める部分である、金属板の製造方法であって、
前記金属板は、インバー材から構成され、
得られた金属板の一端側部分における急峻度の最大値が0.2%、中央部分における急峻度の最大値が0.2%、他端側部分における急峻度の最大値が0.3%である、金属板の製造方法。」(以下、「甲12発明1」という。)
「甲12発明1に係る金属板の製造方法により製造された金属板。」(以下、「甲12発明2」という。)
(ウ) 甲第20号証に記載された事項及び甲第20号証に記載された発明 甲第20号証には、以下のa~eの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱帯及び冷却帯を備えた竪型焼鈍炉を用いてFe-Ni合金鋼ストリップを焼鈍する方法において、下記工程(1)から(5)の条件を満たす工程で前記Fe-Ni合金鋼ストリップを加熱し冷却することを特徴とする、Fe-Ni合金鋼ストリップの形状矯正を伴なう焼鈍方法。
(1)前記Fe-Ni合金鋼ストリップをその再結晶温度以下の温度で加熱し、次いで冷却する。
(2)前記冷却帯内の入側に前記ストリップ長手方向に直角に、互いに近接した3本以上のロールを設け、前記ロールで前記ストリップの表面を交互に反対方向に押し込み、前記ストリップに板幅方向の拘束力を負荷する。
(3)上記工程(2)において押し込まれた前記ストリップの曲率半径が、前記ロール間の少なくとも1箇所において2500~5000mmの範囲内になるように前記ロールの間隔及び押込量の内、少なくとも一つを調整して前記拘束力を調節する。
(4)上記工程(2)の前記拘束力を負荷する位置における前記ストリップの温度を200~500℃の範囲内に調節する。
(5)前記焼鈍炉内における前記ストリップの搬送張力を0.1~20kg/mm2の範囲内に調節する。」
b 「【0038】
【表1】
[図:0001404747000009.jpg]
・・・
【0040】(1)ストリップの波板形状は、焼鈍前及び後のいずれにおいても、図4及び5に板の横断面形状を示したように、板幅方向の湾曲が1箇所の場合と2箇所の場合とがあった。図4及び5のそれぞれに示したように、ストリップ1と水平定盤10との隙間である湾曲量の極大値h1、並びに、h1及びh2を測定した。図5のように湾曲が2箇所ある場合は湾曲量の大きい方の値を当該ストリップの湾曲量と定めた。板波の評価特性として上記湾曲量を用い、それが4mm以下のものを合格とした。
【0041】(2)ストリップの中伸び急峻度を、焼鈍前後に測定した。図6は中伸び急峻度の説明図であり、中伸び部分の板長手方向断面における波高aとピッチpとから急峻度λを、λ=(a/p)×100%で定義する。中伸び急峻度は、λ≦0.5%のものを合格とした。」(当審注:段落【0040】、【0041】の「(1)」、「(2)」は「○」に「1」、「○」に「2」と表記されている。)
c 「【図4】
[図:0001404747000010.jpg]
」
d 「【図5】
[図:0001404747000011.jpg]
」
e 「【図6】
[図:0001404747000012.jpg]
」
そして、前記a~eの記載のうち、実施例1に注目すると、甲第20号証には以下の発明が記載されているといえる。
「加熱帯及び冷却帯を備えた竪型焼鈍炉を用いてFe-Ni合金鋼ストリップを焼鈍する方法において、下記工程(1)から(5)の条件を満たす工程で前記Fe-Ni合金鋼ストリップを加熱し冷却する、Fe-Ni合金鋼ストリップの形状矯正を伴なう焼鈍方法であって、
(1)前記Fe-Ni合金鋼ストリップをその再結晶温度以下の温度で加熱し、次いで冷却する。
(2)前記冷却帯内の入側に前記ストリップ長手方向に直角に、互いに近接した3本以上のロールを設け、前記ロールで前記ストリップの表面を交互に反対方向に押し込み、前記ストリップに板幅方向の拘束力を負荷する。
(3)上記工程(2)において押し込まれた前記ストリップの曲率半径が、前記ロール間の少なくとも1箇所において2500~5000mmの範囲内になるように前記ロールの間隔及び押込量の内、少なくとも一つを調整して前記拘束力を調節する。
(4)上記工程(2)の前記拘束力を負荷する位置における前記ストリップの温度を200~500℃の範囲内に調節する。
(5)前記焼鈍炉内における前記ストリップの搬送張力を0.1~20kg/mm2の範囲内に調節する。
得られるFe-Ni合金鋼ストリップの板厚が0.12mmであり、波板湾曲量が1mmであり、焼鈍後の中伸び急峻度が0.5%であり、
ここで、波板湾曲量は、ストリップと水平定盤との隙間である湾曲量の極大値h1、並びに、h1及びh2を測定し、湾曲が2箇所ある場合は湾曲量の大きい方の値を当該ストリップの湾曲量と定めたものであり、
中伸び急峻度は、中伸び部分の板長手方向断面における波高aとピッチpとから急峻度λを、λ=(a/p)×100%で定義したものである、焼鈍方法。」(以下、「甲20発明1」という。)
「甲20発明1に係る焼鈍方法により製造された、Fe-Ni合金鋼ストリップ。」(以下、「甲20発明2」という。)
(エ) 甲第21号証に記載された事項及び甲第21号証に記載された発明 甲第21号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 Niを32~38wt%含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、伸長率0.4~3%の歪みを付与して形状矯正を行い、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力2kgf/mm2以下の条件で歪み取り焼鈍を行うことを特徴とする板形状および耐熱収縮性に優れたFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」
b 「【0026】以下に本発明を詳細に説明する。本発明者らは、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板をシャドウマスク用途に使用するために必要な板形状や耐熱収縮性の品質水準について調査した結果、板形状を急峻度で0.5%以下、熱収縮率を0.05%以下にすればよいことを知見した。そこで、形状矯正条件および歪み取り焼鈍条件と急峻度、熱収縮率の関係について検討した。
・・・
【0028】ここで、急峻度は、板形状すなわち鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式より求めた。急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100」
c 「【0052】
【実施例】本発明例および比較例の合金鋼の化学組成を表1に示す。成分組成は、シャドウマスク用素材として必要な低熱膨張特性、黒化処理性およびプレス成形性が得られるものとし、鋼A~Cの3種類を溶製した。
・・・
【0054】次に、表1に示す成分組成に溶製した鋼塊を1150~1250℃×1~50時間の熱処理後に分塊圧延し、スラブを製造した。このスラブを1100℃×1~5時間の熱処理後に熱間圧延して3.0mmの熱延鋼板を得た。さらに、脱スケール、冷間圧延と750℃以上の焼鈍を施した後、冷間圧延して板厚0.10~0.22mmの薄板を得た。前記で得た薄板をテンションレベラーで所定の伸長率で形状矯正後所定の歪み取り焼鈍を行って、No.1~25の薄板を製造した。また、比較のために、テンションレベラーによる形状矯正だけを行ったNo.26の薄板を製造した。ここで、No.15~17、22は760mm幅、他のNo.1~14、18~21、23~26は990mm幅である。
【0055】テンションレベリング条件と歪み取り焼鈍条件を表2に示す。また、前記で得た薄板の板形状および熱収縮率を調査した。板形状は耳波、中伸びの高さとピッチを測定し、急峻度により評価した。
【0056】熱収縮率は、前記で得た薄板の板幅中央部と板幅端部から100mmの部分から、それぞれ薄板の長手方向に300mm(長さ)×100mm(幅)×全厚の試験片を採取し、850~900℃×30分間の熱処理を行い、それぞれの熱処理前後の試験片の長さの差をノギスで測定して求めた最大収縮量の比率により評価した。急峻度、熱収縮率の調査結果を表2に併せて記載した。
【0057】
【表2】
[図:0001404747000013.jpg]
」
そして、前記a~cの記載のうち、本発明例No.17に注目すると、甲第21号証には以下の発明が記載されているといえる。
「Niを32~38wt%含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、伸長率0.4~3%の歪みを付与して形状矯正を行い、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力2kgf/mm2以下の条件で歪み取り焼鈍を行う、板形状および耐熱収縮性に優れたFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法であって、
得られるFe-Ni系低熱膨張合金薄板の板厚が0.10mmであり、急峻度が0%であり、最大熱収縮率が0.020%であり、
急峻度は、板形状すなわち鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式より求めたものであり、
急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100
最大熱収縮率は、薄板の板幅中央部と板幅端部から100mmの部分から、それぞれ薄板の長手方向に300mm(長さ)×100mm(幅)×全厚の試験片を採取し、850~900℃×30分間の熱処理を行い、それぞれの熱処理前後の試験片の長さの差をノギスで測定して求めた最大収縮量の比率により評価したものである、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」(以下、「甲21発明1」という。)
「甲21発明1に係るFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法により製造された、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板。」(以下、「甲21発明2」という。)
(オ) 甲第22号証に記載された事項及び甲第22号証に記載された発明 甲第22号証には、以下のa~cの記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 Niを32~38wt% 含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、鋼板温度550~690℃、張力5~20kgf/mm2の条件で、1回以上の歪み取り焼鈍を実施し、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力0. 1~8kgf/mm2の条件で歪み取り焼鈍を実施することを特徴とする板形状および耐熱収縮性に優れたFe- Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」
b 「【0024】ここで、急峻度は鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式により求めた。
【0025】急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100
・・・
【0026】続いて、張力と熱収縮の関係を調べた。図3はテンションアニールでの均熱時間が5~60秒間および冷却速度が20℃/秒以上の条件で、張力と熱収縮の関係を示した図である。図3において、熱収縮率は鋼板の板幅中央部と鋼板端部から100mmの部分から、鋼板の長手方向に300mml ×100mmw ×全厚の試験片を採取し、シャドウマスクの成型前の焼鈍工程をシミュレートした850~900℃×30分間の熱処理を行い、熱処理前後の試験片の長さの差をノギスにて測定することで求めた。・・・」
c 「【0044】次に表1に示す成分組成で溶製した鋼塊を1150~1250℃×1~50時間の熱処理後に分塊圧延し、1100℃×1~5時間の熱処理後に熱間圧延して厚さ2.0mmの熱延鋼板を得た。さらに冷間圧延と750℃以上の焼鈍と所定の歪み取り焼鈍を行い、板厚0.12~0.22mmの薄板No.1~27を製造した。No.1~20が本発明例であり、No.21~27が比較例である。
【0045】表2に、No.1~27の薄板についてテンションアニールによる歪み取り焼鈍条件を示し、板形状および熱収縮率を評価した結果を示す。・・・
【0046】
【表2】
[図:0001404747000014.jpg]
」
そして、前記a~cの記載のうち、本発明例No.15に注目すると、甲第22号証には以下の発明が記載されているといえる。
「Niを32~38wt% 含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、鋼板温度550~690℃、張力5~20kgf/mm2の条件で、1回以上の歪み取り焼鈍を実施し、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力0. 1~8kgf/mm2の条件で歪み取り焼鈍を実施する、板形状および耐熱収縮性に優れたFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法であって、
得られるFe-Ni系低熱膨張合金薄板の板厚が0.12mmであり、急峻度が0.01%であり、850~900℃×30分の熱収縮が0.031%であり、
急峻度は、鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式により求めたものであり、
急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100
熱収縮率は、鋼板の板幅中央部と鋼板端部から100mmの部分から、鋼板の長手方向に300mml ×100mmw ×全厚の試験片を採取し、シャドウマスクの成型前の焼鈍工程をシミュレートした850~900℃×30分間の熱処理を行い、熱処理前後の試験片の長さの差をノギスにて測定することで求めたものである、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」(以下、「甲22発明1」という。)
「甲22発明1に係るFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法により製造された、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板。」(以下、「甲22発明2」という。)
イ 対比・判断
(ア) 甲第11号証を主引用例とした場合について
a 本件発明1~4について
(a) 本件発明1と甲11発明2とを対比すると、甲11発明2における「Fe-Ni系合金薄板」は、本件発明1における「帯状を有した金属板」「であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であ」ることに相当する。
すると、本件発明1と甲11発明2とは、
「帯状を有した金属板であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」「蒸着マスク用基材であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
・相違点2:本件発明1は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲11発明2は「最終の厚さ」が「0.1mm」である点。
・相違点3:本件発明1は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、前記長さ方向における単位長さが、500mmであり、前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値が、第1急峻度であり、前記第1急峻度が、0.5%以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明2は、「Fe-Ni系合金薄板」の「最大急峻度が0.33%」である点。
(b) 事案に鑑み、前記(a)の相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明1における「第1急峻度」は、「蒸着マスク用基材」の幅方向の波形状を引き写すことの可能な間隔、例えば幅方向に1mm以上20mm以下の間隔で並ぶ各位置で測定される表面位置に基づいて算出されるものといえることは、前記1(5)イに記載したとおりである。
これに対して、甲11発明2における「最大急峻度」は、「3次元形状測定器を用いて、700mm長さに切断した水平定盤上のFe-Ni系合金薄板試験片に測定領域幅800mm×長さ700mmの範囲をレーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定し、急峻度は一定長さ(幅方向:14mm、長さ方向:8mm)ごとに浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから算出したもの」であるから、「蒸着マスク用基材」の幅方向の波形状を引き写すことの可能な間隔で並ぶ各位置で測定される表面位置に基づいて算出されるものとはいえないので、甲11発明2における「最大急峻度が0.33%」である場合に、前記相違点3に係る本件発明特定事項を満たすとはいえないし、このことを裏付ける証拠もない。
したがって、甲11発明2における「Fe-Ni系合金薄板の最大急峻度が0.33%」であるとしても、本件発明1の前記相違点3に係る発明特定事項を満たすとはいえないから、前記相違点3は実質的な相違点であるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲11発明2であるとはいえない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(c) 次に、前記相違点3の容易想到性について検討すると、「蒸着マスク用基材」において「第1急峻度」を「0.5%以下」とすることが、甲第11号証に記載されるものではないし、このことが本件特許の原出願の出願日当時の周知技術であったことを裏付ける証拠はないから、甲11発明2において、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲11発明2に基づいて、又は、甲11発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである
b 本件発明6~8について
(a) 前記a(a)と同様にして本件発明6と甲11発明1とを対比すると、本件発明6と甲11発明1とは、
「帯状を有した金属板の製造方法であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明6は、「レジスト層を形成することと、前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法」、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明1は「Fe-Ni系合金薄板の製造方法」である点。
・相違点2’:本件発明6は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲11発明1は「厚さ」が「0.1mm以下」である点。
・相違点3’:本件発明6は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す波を有し、前記波における一方の谷から他方の谷までを結ぶ幅方向の直線の長さが波の長さであり、前記波の長さに対する前記波の高さの百分率が単位急峻度であり、前記長さ方向における単位長さが、500mmであり、前記単位長さの金属板における単位急峻度の最大値が、第1急峻度であり、前記第1急峻度が、0.5%以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明1は、「Fe-Ni系合金薄板の最大急峻度が0.33%」である点。
(b) そして、前記(a)の相違点3’は前記a(a)の相違点3と同じものであるから、前記a(b)、(c)に記載したのと同様の理由により、本件発明6は、甲11発明1に基づいて、又は、甲11発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。
c 小括
したがって、本件発明1~4は、甲第11号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~4、6~8は、甲第11号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第11号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ) 甲第12号証、甲第20号証、甲第21号証、甲第22号証を主引用例とした場合について
a 本件発明1~4について
(a) 本件発明1と甲12発明2とを対比すると、本件発明1と甲12発明2とは、甲12発明2が、少なくとも前記(ア)a(a)の相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有さない点で相違する。
そして、甲12発明2における「急峻度」は、「切断工程後の前記金属板の前記波打ち形状の前記長手方向における周期に対する、前記波打ち形状の高さの百分率」であるから、前記(ア)a(b)、同(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲12発明2であるとはいえないし、甲12発明2に基づいて、又は、甲12発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(b) 本件発明1と甲20発明2とを対比すると、本件発明1と甲20発明2とは、甲20発明2が、少なくとも前記(ア)a(a)の相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有さない点で相違する。
そして、甲20発明2における「波板湾曲量」は、「ストリップと水平定盤との隙間である湾曲量の極大値h1、並びに、h1及びh2を測定し、湾曲が2箇所ある場合は湾曲量の大きい方の値を当該ストリップの湾曲量と定めたもの」であり、「中伸び急峻度」は、「中伸び部分の板長手方向断面における波高aとピッチpとから急峻度λを、λ=(a/p)×100%で定義したもの」であるから、前記(ア)a(b)、同(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲20発明2であるとはいえないし、甲20発明2に基づいて、又は、甲20発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(c) 本件発明1と甲21発明2とを対比すると、本件発明1と甲21発明2とは、甲21発明2が、少なくとも前記(ア)a(a)の相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有さない点で相違する。
そして、甲21発明2における「急峻度」は、「板形状すなわち鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式より求めたもの」「急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100」であるから、前記(ア)a(b)及び同(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲21発明2に基づいて、又は、甲21発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(d) 本件発明1と甲22発明2とを対比すると、本件発明1と甲22発明2とは、甲22発明2が、少なくとも前記(ア)a(a)の相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有さない点で相違する。
そして、甲22発明2における「急峻度」は、「鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式により求めたもの」「急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100」であるから、前記(ア)a(b)及び同(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲22発明2に基づいて、又は、甲22発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
b 本件発明6~8について
(a) 本件発明6と甲12発明1とを対比すると、本件発明6と甲12発明1とは、甲12発明1が、少なくとも前記(ア)b(a)の相違点3’に係る本件発明6の発明特定事項を有さない点で相違する。
そうすると、前記(ア)b(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲12発明1であるとはいえないし、甲12発明1に基づいて、又は、甲12発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。
(b) 本件発明6と甲20発明1とを対比すると、本件発明6と甲20発明1とは、甲20発明1が、少なくとも前記(ア)b(a)の相違点3’に係る本件発明6の発明特定事項を有さない点で相違する。
そうすると、前記(ア)b(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲20発明1に基づいて、又は、甲20発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。
(c) 本件発明6と甲21発明1とを対比すると、本件発明6と甲21発明1とは、甲21発明1が、少なくとも前記(ア)b(a)の相違点3’に係る本件発明6の発明特定事項を有さない点で相違する。
そうすると、前記(ア)b(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲21発明1に基づいて、又は、甲21発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。
(d) 本件発明6と甲22発明1とを対比すると、本件発明6と甲22発明1とは、甲22発明1が、少なくとも前記(ア)b(a)の相違点3’に係る本件発明6の発明特定事項を有さない点で相違する。
そうすると、前記(ア)b(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲22発明1に基づいて、又は、甲22発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。
c 小括
したがって、本件発明1~4、6及び8は、甲第12号証、甲第20号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~4、6~8は、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人村野の特許異議申立理由、村野上申書及び村野意見書について
(ア) 特許異議申立理由、村野上申書及び村野意見書における申立人村野の主張は、概略、以下のとおりである。
a 甲第11号証の記載によれば、甲第11号証に記載された発明における最大急峻度が0.33%であるということは、少なくとも幅方向の最大急峻度が0.33%以下であることを意味する。なお、甲第11号証には、急峻度を定義する数式等が記載されていないが、甲第12号証、甲第10号証の記載によれば、急峻度とは、波のピッチに対する高さの百分率であることは技術常識であるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第11号証に記載された発明であり、同請求項1~8に係る発明は、甲第11号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書156ページ3行~164ページ最終行)。
b 本件訂正前の特許請求の範囲に記載された発明と、甲第12号証に記載された発明とは、急峻度の測定方法が長さ方向であるか幅方向であるかという点において相違するが、耳伸び形状や中伸び形状においては、長手方向の波の急峻度は幅方向の波の急峻度よりも大きく算出されるから、甲第12号証に記載された発明において、一端側部分と他端側部分の長さ方向の急峻度が大きくても0.3%であり、中央部分の長さ方向の急峻度の最大値が0.2%であることからすれば、幅方向の急峻度の最大値は0.3%や0.2%よりも小さい蓋然性が高いので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6、8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明であり、同請求項1~8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書165ページ1行~173ページ最終行)。
c 甲第20号証に記載された発明における湾曲量のピッチを板幅に基づいて想定すると、甲第20号証には、「第1急峻度」が0.227%以下のFe-Ni合金鋼ストリップが記載されているといえるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第20号証に記載された発明であり、同請求項1~8に係る発明は、甲第20号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書174ページ1行~181ページ最終行)。
d 甲第21号証の実施例のNo.17の急峻度は0%であって、このとき、急峻度の測定方法が長さ方向であるか幅方向であるかが明らかでないが、少なくとも波形状があれば測定方向が長さ方向か幅方向かに関わらず急峻度が0%になることはないから、急峻度が0であることは波形状がないことを意味するので、甲第21号証には、「第1急峻度」が0%のFe-Ni系低熱膨張合金薄板が記載されているといえる。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第21号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書182ページ1行~188ページ最終行)。
e 甲第22号証の実施例のNo.15の急峻度は0.01%であって、このとき、急峻度の測定方法が長さ方向であるか幅方向であるかが明らかでないが、ある方向の急峻度が0.01%であるときに、これと直交する方向の急峻度が0.5%を超えることは考え難いので、甲第22号証には、「第1急峻度」が0.5%以下のFe-Ni系低熱膨張合金薄板が記載されているといえる。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第22号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書189ページ1行~195ページ最終行)。
f 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明の発明特定事項は、甲第14号証に記載されているから、本件訂正前の請求項7に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものである(村野上申書1ページ11行~5ページ2行)。
g 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明について、甲第11号証及び甲第12号証に記載された事項からみて、「単位急峻度」のばらつきが正規分布に従うことに疑義は生じないから、前記請求項2に係る発明の発明特定事項は、甲第11号証に記載されている(村野上申書5ページ15行~6ページ下から3行)。
(イ) 始めに、前記(ア)a~eの主張について検討すると、前記(ア)a~eの主張は、総じて、甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証に記載された「最大急峻度」、「急峻度の最大値」、「第1急峻度」といった物性値から、あるいは前記物性値及び甲第10号証や甲第12号証に記載された急峻度の定義に基づいて、本件発明における「第1急峻度」を算出又は推認できることを前提としたものといえる。
ところが、甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証には、本件発明1において特定される「第1急峻度」は記載されていないし、甲第10号証に記載された関係式から本件発明における「第1急峻度」を算出することができるものではないことは、前記1(5)イに記載したとおりであって、更に甲第12号証の記載について検討しても事情は同じであるから、甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証に記載された「最大急峻度」、「急峻度の最大値」、「第1急峻度」といった物性値から、あるいは前記物性値及び甲第10号証や甲第12号証に記載された急峻度の定義に基づいて、本件発明における「第1急峻度」を算出又は推認できるものではない。
してみれば、前記(ア)a~eの主張は前提において誤っているから、いずれも採用できない。
次に、前記(ア)f~gの主張について検討すると、仮に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7の発明特定事項が、甲第14号証に記載されており、「単位急峻度」のばらつきが正規分布に従うとしても、前記イ(ア)c、同(イ)cに記載した事項に変わりはないので、前記(ア)f~gの主張も、いずれも採用できない。
エ まとめ
よって、本件発明1~4、6及び8は、甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~4、6~8は、甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証に記載された発明に基づいて、または、甲第11号証、甲第12号証、甲第20号証~甲第22号証に記載された発明と、原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、前記第4の1(3)の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
(2) 申立人山田による特許異議申立について
ここでいう甲第1号証、甲第2号証は、申立人山田により提出された、前記第4の2(3)に記載された甲第1号証、甲第2号証である。
ア 甲各号証に記載された事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、申立人村野が提出した甲第12号証(第4の2(4))と同じものであるから、前記(1)ア(イ)の甲12発明1及び甲12発明2が記載されているといえる。
(イ) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証は、申立人村野が提出した甲第21号証(第4の2(4))と同じものであるから、前記(1)ア(エ)に記載された事項が記載されているといえる。
イ 対比・判断
甲第1号証に、前記(1)ア(イ)の甲12発明1及び甲12発明2が記載されているといえることは、前記ア(ア)に記載したとおりである。
そうすると、前記(1)イ(イ)a(a)及び同b(a)に記載したのと同様の理由により、本件発明1~4、6~8は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 申立人山田の特許異議申立理由及び山田意見書について
(ア) 申立人山田の特許異議申立理由及び山田意見書における主張は、概略、以下のとおりである。
a 甲第1号証に記載された発明において、「急峻度」が「0.3%」以下であることは、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明において、「第1急峻度が、0.5%以下」であることに相当するから、前記請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明との間には相違点が存在しない。
また、前記請求項1に係る発明は、一般的な圧延工程で製造されるものと解されるから、前記請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とは出発材料及び製造条件が同一であるので、甲第1号証に記載された発明も、「第1急峻度が、0.5%以下」である蓋然性が高い。
したがって、前記請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明との間には実質的な相違点が存在しない。
更に、甲第1号証には、甲第1号証に記載された発明において急峻度に基づいて長尺金属板を選別すれば、貫通孔ピッチのばらつきを低減できることが記載され、甲第2号証には、急峻度が0%のFe-Ni系合金の金属板が記載されているから、前記請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書16ページ2行~19ページ15行)。
b 甲第1号証には、「エッチング液を用いたエッチング」により金属板に複数の孔を形成することが記載されているから、本件発明1~4、6~8は、依然として新規性、進歩性を有しない(山田意見書1ページ下から16行~3ページ2行)。
(イ)以下、前記(ア)a~bの主張について検討すると、前記(1)イ(イ)a(a)に記載したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明において、「急峻度」が「0.3%」以下であるとしても、「第1急峻度が、0.5%以下」であるとはいえないし、本件発明1と甲第1号証に記載された発明の出発材料及び製造条件が同一であることを裏付ける証拠もないから、本件発明1~4、6~8は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、甲第1号証に、「エッチング液を用いたエッチング」により金属板に複数の孔を形成することが記載されているとしても、前記(1)イ(イ)a(a)に記載したのと同様の理由により、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないことに変わりはないのであり、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、申立人山田の前記(ア)a~bの主張はいずれも採用できない。
エ まとめ
よって、本件発明1~4、6~8は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、前記第4の2(2)の特許異議の申立て理由は理由がない。
(3) 特許法第29項第1項、第2項所定の規定違反についてのまとめ
よって、特許法第29項第1項、第2項所定の規定違反についての特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるので、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立て理由によっては、本件請求項1~4、6~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4、6~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により本件請求項5は削除されたから、本件請求項5に係る特許異議の申立てについては対象となる特許が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700569