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特許異議申立

2022-700499

蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法

審判番号
2022-700499
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-032499
登録番号
6981302
請求日
2022年06月10日
審決日
2023年03月22日
公報発行日
2023年06月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】凸版印刷株式会社
  • 【権利者代理人】恩田 誠
  • 【権利者代理人】恩田 博宣
  • 【異議申立人】金山 愼一
  • 【異議申立人】古川 慎二
審判長/審判官
  • 審判長 河本 充雄
  • 審判官 金 公彦
  • 審判官 正 知晃
分類
P1651.113-YAA(C23C) / P1651.121-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C) / P1651.537-YAA(C23C) / P1651.851-YAA(C23C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第3項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6981302号発明「蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6981302号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5、〔6~8〕について訂正することを認める。 特許第6981302号の請求項1~4、6~8に係る特許を維持する。 特許第6981302号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許第6981302号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年10月13日を出願日とする特願2017-199920号(以下、「原出願」という。)の出願の一部を、平成30年2月26日に新たな特許出願としたものであって、令和3年11月22日にその請求項1~8に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年12月15日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和4年6月10日に特許異議申立人 金山 愼一(以下、「申立人金山」という。)により甲第1号証~甲第2号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年同月14日に特許異議申立人 古川 慎二(以下、「申立人古川」という。)により甲第1号証~甲第26号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年8月30日付けで当審より取消理由が通知され、同年9月2日に申立人古川より上申書(以下、「古川上申書」という。)が提出され、同年11月4日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年12月19日に申立人金山より意見書(以下、「金山意見書」という。)が提出され、同年同月21日に申立人古川より甲第27号証の1~甲第29号証を添付して意見書(以下、「古川意見書」という。)が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和4年11月4日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を「特許第6981302号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1から8について訂正することを求める。」とするものであって、その訂正の内容は、次のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「複数の孔がエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」 と記載されていたのを、 「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」 に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に 「前記レジスト層をマスクとしたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成する」 と記載されていたのを、 「前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成する」 に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。)。 (4)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1の記載を請求項2~4が引用する関係にあるから、本件訂正前の請求項1~4は一群の請求項であり、本件訂正前の請求項5は独立請求項であり、本件訂正前の請求項6の記載を請求項7及び8が引用する関係にあるから、本件訂正前の請求項6~8は一群の請求項であるところ、訂正事項1~3に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、これら請求項1~4、5、6~8を訂正の単位として請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について (1)訂正事項1及び3について 訂正事項1及び3は、それぞれ、本件訂正前の請求項1及び6における「エッチング」を、本件特許明細書の段落【0006】、【0067】及び【0070】の記載に基づいて、「エッチング液を用いたエッチング」に限定するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)独立特許要件について 本件特許異議の申立ては本件訂正前の全ての請求項についてされているので、訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 小括 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5、〔6~8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明について 本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるので、本件訂正により訂正された請求項1~4、6~8に係る発明(以下、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材であって、 前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であり、 前記金属板が有する厚みは、10μm以上50μm以下であり、 前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、 前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、 前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、 前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、 前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である 蒸着マスク用基材。 【請求項2】 前記長さ方向における単位長さが500mmであり、 前記幅方向での伸び差率の単位長さでの平均値が0.5×10-5以下である 請求項1に記載の蒸着マスク用基材。 【請求項3】 前記長さ方向における単位長さが500mmであり、 0.5×10-5以上の前記伸び差率を有したピークの個数が単位長さあたりに3個以下である 請求項1または2に記載の蒸着マスク用基材。 【請求項4】 前記長さ方向における単位長さが500mmであり、 0.5×10-5以上の前記伸び差率を有したピークの間隔が単位長さあたりにおいて100mm以上である 請求項1から3のいずれか一項に記載の蒸着マスク用基材。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 帯状を有した金属板にレジスト層を形成することと、 前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法であって、 前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であり、 前記金属板が有する厚みは、10μm以上50μm以下であり、 前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、 前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、 前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、 前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、 前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である 蒸着マスクの製造方法。 【請求項7】 前記マスク部を形成することは、単一の前記金属板に複数の前記マスク部を形成することであり、 前記各マスク部が、前記複数の孔を有した1つの側面を別々に備え、 前記各マスク部の側面と、1体のフレーム部とを、前記複数の孔を前記マスク部ごとに前記1体のフレーム部が囲うように、相互に接合することをさらに含む 請求項6に記載の蒸着マスクの製造方法。 【請求項8】 請求項6または7に記載の蒸着マスクの製造方法による蒸着マスクを準備することと、 前記蒸着マスクを用いた蒸着によってパターンを形成することとを含む 表示装置の製造方法。」 第4 特許異議申立理由の概要 1 申立人金山による特許異議申立理由の概要 ここでいう甲第1号証、甲第2号証は、申立人金山により提出された、後記(5)に記載された甲第1号証、甲第2号証である。 (1)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書42ページ下から6行目~49ページ7行) (2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について ア 「幅方向での伸び差率」は、その測定点数により変動し、その結果、「幅方向での伸び差率の最大値」も測定点数により変動するのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には「幅方向の伸び差率」をいかなる条件下で測定するのかが記載されていないから、「幅方向での伸び差率の最大値」である「2×10-5以下」の数値の意味が不明である。 更に、「幅方向での伸び差率の単位長さでの平均値」(以下、「伸び差率の平均値」という。)、「0.5×10-5以上の前記伸び差率を有したピークの個数」(以下、「伸び差率のピークの個数」という。)及び「0.5×10-5以上の前記伸び差率を有したピークの間隔」(以下、「伸び差率のピークの間隔」という。)についても同様であるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は明確でないので、前記請求項1~8の記載は明確性要件を満たさない(特許異議申立書49ページ8行~55ページ2行)。 イ 本件訂正前の請求項5には、「表面距離」がいかなる距離であるのかが特定されていないから、前記請求項5に係る発明は明確でないので、前記請求項5の記載は明確性要件を満たさない(特許異議申立書58ページ1行~60ページ6行)。 (3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について ア 本件特許明細書の実施例及び比較例においては、開口径のばらつきが抑えられる等の効果が得られるのは、長さ方向における「単位長さ」が500mmの条件の下で「幅方向の伸び差率の最大値が2×10-5以下」である場合とされ、それ以外の条件下においても前記効果が得られる旨の記載は一切ない。 また、「幅方向の伸び差率の最大値」は、「長さ方向」の「計測範囲」の長さによって変わり得ると考えるのが自然であり、本件特許明細書には、「幅方向の伸び差率の最大値」が「長さ方向」の「計測範囲」の長さに依存しない旨の記載もない。 ところが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においては、長さ方向における「単位長さ」が特定されていないから、本件特許明細書の記載を前記請求項1~8の範囲まで拡張ないし一般化することができないので、前記請求項1~8の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書55ページ3行~57ページ最終行)。 イ 本件特許明細書の段落【0034】の記載からみれば、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6~8に係る発明は、液体を用いた表面の加工での課題を解決しようとするものであり、本件特許明細書にも、「蒸着マスクの製造方法」としてウエットエッチングしか記載されていないのに、前記請求項6~8にはエッチングがウエットエッチングであることが特定されていないから、本件特許明細書の記載を前記請求項6~8の範囲まで拡張ないし一般化することができないので、前記請求項6~8の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書62ページ5行~63ページ12行)。 (4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「蒸着マスク用基材」の具体的な圧延条件が一切記載されておらず、当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る「蒸着マスク用基材」を製造する際に過度な試行錯誤を強いられるから、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない(特許異議申立書60ページ7行~62ページ4行)。 (5)証拠方法 甲第1号証:特開2014-148743号公報 甲第2号証:特開平10-204541号公報 2 申立人古川による特許異議申立理由の概要 ここでいう甲第1号証~甲第29号証は、申立人古川により提出された、後記(5)に記載された甲第1号証~甲第29号証である。 (1)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「幅方向での伸び差率」を制御する際の圧延条件が記載されておらず、当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明を実施する際に過度な試行錯誤を強いられるから、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない(特許異議申立書89ページ1行~93ページ下から3行)。 イ 「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」についても、前記アと同様であるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない(特許異議申立書93ページ下から2行~94ページ6行)。 ウ 「幅方向での伸び差率」、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」は測定間隔により変化するのに、本件特許明細書の発明の詳細な説明にはこれらの測定条件が記載されていないから、当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明を実施することができない。 このため、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない(特許異議申立書94ページ7行~95ページ8行)。 エ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0109】~【0113】の実施例4の測定結果は、「伸び差率のピークの個数」が4個のとき、互いに隣り合うピークの間隔の最小値が60mmであるのに対して、「伸び差率のピークの個数」が5個のとき、互いに隣り合うピークの間隔の最小値が75mmとなっており、「伸び差率のピークの個数」が増えたときに隣り合うピークの間隔の最小値が増えることは当業者の理解を超えるから、当業者は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3~4に係る発明を実施することができない。 このため、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項3~4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない(特許異議申立書95ページ9行~25行)。 オ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に記載された「幅方向での伸び差率」と、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」とは測定条件が異なるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においては、これらを異なる測定条件による測定することは特定されていないから、当業者はこれらをどのような測定条件に基づいて特定するべきかを理解できないので、前記請求項1~8に係る発明を実施することができない。 このため、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない(特許異議申立書95ページ26行~96ページ6行)。 カ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においては、「幅方向での伸び差率」の非計測範囲について特定されていないので、「幅方向での伸び差率」の最大値は「蒸着マスク用基材」の全体で満たされるものと解されるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、スリット工程による新たな波形状を除外するため、非計測範囲を設けるものしか記載されておらず、当業者は、その全体で所定の「幅方向の伸び差率の最大値」を満たす「蒸着マスク用基材」を製造することができないから、前記請求項1~8に係る発明を実施することができない。 なお、本件特許明細書の段落【0092】の実施例1には、金属板を長さ方向で切断したことについて記載されていないから、スリットにより切断されるのは幅方向の端縁であるため、同段落【0093】において、スリットを理由に、長さ方向の端縁から10mmを除くことの合理性を理解できないし、どのように幅方向の端縁をスリットにより切断するのか、その操作についても記載がないので、当業者は実施例1を追試できない。 このため、発明の詳細な説明は、当業者が前記請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、実施可能要件を満たさない(特許異議申立書96ページ7行~97ページ25行)。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について ア 甲第3号証の段落【0108】【表1】の実施例4は、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」を満たさないが、孔の幅方向の開口径のばらつきの評価が○評価となっているから、本件特許に係る発明の課題と課題解決手段の関係に疑義があるので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8の記載は、本件特許に係る発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たさない(特許異議申立書98ページ1行~99ページ下から8行)。 イ 甲第4号証の段落【0079】~【0080】、【0087】【表1】の実施例3は、「幅方向での伸び差率の最大値」が「2×10-5」を上回る蓋然性が高いが、パターン精度のばらつきの評価が○評価となっているから、本件特許に係る発明の課題を解決するためには「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」であるだけでは足りないことを示しているので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8の記載は、本件特許に係る発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たさない(特許異議申立書99ページ下から7行~100ページ17行)。 ウ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においては、「幅方向での伸び差率」の非計測範囲について特定されておらず、「幅方向での伸び差率の最大値」は、「蒸着マスク用基材」の全体で満たされるものと解されるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には非計測範囲を設けるものしか記載されていないから、前記請求項1~8の記載は、本件特許に係る発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たさない(特許異議申立書100ページ18行~101ページ下から6行)。 エ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8においては、「幅方向での伸び差率」の非計測範囲は任意であると解することもできる。 そして、甲第4号証の比較例3で「幅方向での伸び差率」の非計測範囲を任意としたとき、その「幅方向での伸び差率」の最大値は「2×10-5」よりも小さい蓋然性が高くなるが、前記比較例3の「蒸着マスク用基材」ではパターン精度のばらつきが×となっているから、前記請求項1~8に係る発明は、本件特許に係る発明の課題を解決し得ないものも包含し得る。 また、「蒸着マスク用基材」は、非計測範囲も含めて蒸着マスクの製造に用いられるものであって、「幅方向での伸び差率」の測定において非計測範囲を設定するということは、「蒸着マスク用基材」の幅方向端縁付近に発生した波形状を考慮しないということであり、このとき、非計測範囲に発生した波形状により孔が不均一となるから、本件特許に係る発明の課題を解決しない「蒸着マスク用基材」も権利範囲に含めるということであるので、前記請求項1~8の記載は、本件特許に係る発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たさない(特許異議申立書101ページ下から5行~104ページ5行)。 オ 甲第5号証~甲第7号証によれば、蒸着マスクの製造における現像方法として、浸漬法、スプレイ法、蒸気法が知られているが、これらの方法においては現像液がよどむということは観念し得ない。 また、現像液のよどみが生じたとしても、それによってレジスト層に形成される孔の精度が低下することはなく、更に、現像液に接するのは「蒸着マスク用基材」の金属表面ではないから、現像液のよどみが「蒸着マスク用基材」の孔の精度と関連することは観念し得ないので、当業者は、「幅方向での伸び差率」に係る発明特定事項を満たすことと、現像工程においてレジスト層に形成される孔の精度が低くなることとの関係を理解できないのであり、現像液を洗浄する洗浄液についても同様である。 したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、前記請求項1~8の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書104ページ6行~106ページ9行)。 カ 甲第5号証~甲第7号証によれば、蒸着マスクの製造におけるエッチング方法として、浸漬法及びスプレイ法が知られているが、甲第8号証によれば、浸漬法においては、よどむということは観念し得ない。 また、甲第9号証の1、甲第9号証の2によれば、スプレイ法で噴射される液体の量は多量であるから、当業者は、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」であればよどみが生じず、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5」超であればよどみが生じるという本件特許明細書の段落【0029】の説明を理解できず、スプレイ法においても液がよどむということは観念し得ないから、本件特許に係る発明の課題は生じないし、ドライエッチングの場合は、金属板とエッチング液の接触時間を異ならせるという問題自体がそもそも生じない。 更に、本件特許に係る発明においては、「蒸着マスク用基材」の全面がエッチング液に接するわけではなく、当業者は、1mm間隔で測定して得られる程度の「幅方向での伸び差率」をもって、前記測定間隔よりもはるかに小さい直径30μmの孔において露出した「蒸着マスク用基材」とエッチング液との接触時間が均一になることとの技術的な関係を理解できないし、エッチング液によどみが発生するとしても、前記よどみが「蒸着マスク用基材」の孔の精度と関連することは観念し得ないから、「幅方向での伸び差率」に係る発明特定事項を満たすことと、エッチング工程において「蒸着マスク用基材」に形成される孔の精度が低くなることとの関係を理解できないのであり、エッチング液を洗浄する洗浄液についても同様である。 したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、前記請求項1~8の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書106ページ10行~109ページ下から10行)。 キ 甲第7号証によれば、蒸着マスクの製造における剥離方法として、浸漬法及びスプレイ法が知られているが、これらの方法においても剥離液がよどむということは観念し得ない。 また、剥離工程においては既に「蒸着マスク用基材」に孔が形成されており、剥離液は形成された孔に影響しないから、剥離液と「蒸着マスク用基材」の接触時間が部分的に異なっていても加工の均一性は損なわれないので、当業者は、「幅方向の伸び差率」に係る発明特定事項を満たすことと、本件特許に係る発明の課題の関係を理解できないのであり、剥離液を洗浄する洗浄液についても同様である。 したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、前記請求項1~8の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書109ページ下から9行~110ページ下から3行)。 ク 本件特許明細書の段落【0131】によれば、発明の詳細な説明に記載された実施例におけるパターン精度の評価では、「蒸着マスク用基材」に形成した孔の幅方向の開口径のばらつきを、開口径の最大値と最小値との差が2.0μm以下であるか否かで評価しており、目標となる設計値からの外れ度合いについては記載されていないから、前記評価によって本件特許に係る発明の課題を解決していることにはならないので、「幅方向での伸び差率」に係る発明特定事項を満たすことによって、本件特許に係る発明の課題が解決するということはできない。 したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないので、前記請求項1~8の記載はサポート要件を満たさない(特許異議申立書110ページ下から2行~111ページ19行)。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について ア 「幅方向での伸び差率」、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」は測定間隔により変化するのに、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8にはこれらの測定条件が特定されていないから、「幅方向での伸び差率」、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」が不明確であるので、前記請求項1~8の記載は明確性要件を満たさない(特許異議申立書112ページ5行~下から7行)。 イ 本件特許明細書の段落【0092】~【0097】の実施例1には、「金属板」を長さ方向で切断したことについて記載がないから、実施例1においてスリットを理由に長さ方向の端縁から10mmを「幅方向での伸び差率」の非計測範囲として除くことの合理性を理解できない。 また、甲第4号証に示されたように、幅方向の端縁ほど波形状が激しくなるとすれば、幅方向の端縁を含めて測定しなければ「幅方向の伸び差率の最大値」を正確に評価できない。 そうすると、本件特許明細書の段落【0109】~【0113】の実施例4のように、「幅方向での伸び差率の最大値」が大きい実施例は、幅方向の端縁を除外しないで測定した場合、「幅方向での伸び差率の最大値」が「2×10-5」よりも大きくなる可能性があり、「幅方向での伸び差率」の計測範囲は、「幅方向での伸び差率の最大値」を特定するための重要な要素である。 また、本件特許明細書には、「幅方向での伸び差率」の非計測範囲として10mmが記載されているにすぎない。 ところが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8には、「幅方向での伸び差率」の非計測範囲が特定されていないので、前記請求項1~8の記載は明確性要件を満たさない(特許異議申立書112ページ下から6行~114ページ11行)。 (4)特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について ア 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第10号証に記載された発明である。 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第10号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第10号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書115ページ1行~122ページ最終行)。 イ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6及び8に係る発明は、甲第11号証に記載された発明である。 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第11号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第11号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書123ページ1行~129ページ最終行)。 ウ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6及び8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明である。 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第12号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書130ページ1行~135ページ最終行)。 エ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第13号証に記載された発明である。 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第13号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第13号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書136ページ1行~143ページ最終行)。 オ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第25号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第25号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書144ページ1行~150ページ最終行)。 カ 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第26号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第26号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書150ページ1行~157ページ最終行)。 (5)証拠方法 甲第1号証:雲英洋一ら,「冷間圧延における形状制御と空気軸受式形状計」,IHI技報,2008年6月,Vol.48,No.2,p.129-135 甲第2号証:木原諄二ら,「技術資料 最近の板用圧延機」,日本金属学会報,1986年,第25巻,第10号,p.832-839 甲第3号証:特許第6299922号公報 甲第4号証:特許第6237972号公報 甲第5号証:教育分科会編,「フォトファブリケーション実務入門読本第7版」,日本フォトファブリケーション協会,平成16年6月,目次,p.30-49 甲第6号証:教育分科会編,「フォトファブリケーション実務入門読本第8版」,日本フォトファブリケーション協会,平成20年6月,目次,p.32-55 甲第7号証:橋本貴夫著,「図解・フォトファブリケーション -精密・微細加工入門-」,第1版,総合電子出版社,昭和61年7月10日,もくじ,p.1,142-143,176-181,188-191 甲第8号証:特公昭60-7709号公報 甲第9号証の1:古川慎二,エッチングにおいてスプレイ方式により液体を供給する場合のイメージ動画,2020年10月12日 甲第9号証の2:古川慎二,甲第9号証の1の動画撮影説明書,2020年10月12日 甲第10号証:特開2017-64763号公報 甲第11号証:特開2015-55007号公報 甲第12号証:特開2014-148743号公報 甲第13号証:特開平11-229040号公報 甲第14号証:特許第6120038号公報 甲第15号証:特開2016-840号公報 甲第16号証:特開2017-88936号公報 甲第17号証:特開2006-331973号公報 甲第18号証:特開2005-158319号公報 甲第19号証:特開2017-181894号公報 甲第20号証:特開2017-181893号公報 甲第21号証:特開2017-64764号公報 甲第22号証:特開2015-193871号公報 甲第23号証:特開2010-214447号公報 甲第24号証:特開2009-299170号公報 甲第25号証:特開平10-204541号公報 甲第26号証:特開平10-60525号公報 甲第27号証の1:エバーロイ商事株式会社,動画投稿サイトYouTubeに投稿された「ミストヘッダーWP型」と題する動画,2015年4月14日 甲第27号証の2:エバーロイ商事株式会社のホームページ ,[online],令和4年12月16日,<https://www.everloy-spray-nozzles.com/solvieng_industry/electronics/> 甲第28号証の1:株式会社いけうち,動画投稿サイトYouTubeに投稿された「【霧のいけうち】細霧・中霧発生ノズルーVVEA」と題する動画,2011年9月29日 甲第28号証の2:株式会社いけうちのホームページ,[online],令和4年12月16日,<https://www.kirinoikeuchi.co.jp/1p/summary/> 甲第29号証:国際公開第2017/154981号 なお、甲第27号証の1~甲第29号証は、古川意見書に添付して提出されたものである。 第5 取消理由の概要 1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について 本件特許に係る発明の課題は、蒸着マスクを製造する際に、「蒸着マスク用基材」をエッチング液でエッチングすることで生じる課題といえるから、本件特許に係る発明は、そもそも、「蒸着マスク用基材」をエッチング液でエッチングすることを前提としたものといえるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、蒸着マスクを製造する際に、「蒸着マスク用基材」をエッチング液でエッチングすることは特定されていない。 すると、前記請求項1に係る発明は、前記前提に基づかない、本件特許に係る発明の課題と無関係のものまで包含するので、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないのであり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~8に係る発明ついて検討しても事情は同じであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合しない。 2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について 当業者は、「前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下であるように、前記母材を圧延する」、との発明特定事項を有する本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明を実施するにあたって、圧延の条件を理解することができないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が前記請求項5に係る発明を実施できる程度に記載したものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合しない。 第6 取消理由及び特許異議申立理由について 事案に鑑み、取消理由及び特許異議申立理由についてまとめて検討する。 1 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)サポート要件について ア 始めに、前記(1)のサポート要件の判断手法にのっとって検討すると、本件特許明細書には、以下の(ア)~(エ)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (ア)「【0001】 本発明は、蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 蒸着マスクは、第1面と第2面とを備える。第1面は、基板などの対象物と対向し、第2面は、第1面とは反対側に位置する。第1面から第2面までを貫通する孔は、第1面に位置する第1開口と、第2面に位置する第2開口とを備える。第2開口から孔に入る蒸着物質は、第1開口の位置や第1開口の形状に追従したパターンを対象物に形成する(例えば、特許文献1を参照)。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 蒸着マスクが備える孔は、第1開口から第2開口に向けて拡大する断面積を有し、それによって、第2開口から孔に入る蒸着物質の数量を高めて、第1開口に到達する蒸着物質の数量を確保する。一方、第2開口から孔に入る蒸着物質の一部は、第1開口に到達せずに、孔を区画する壁面に少なからず付着する。壁面に付着した蒸着物質は、他の蒸着物質による孔の通過を妨げて、パターンが有する寸法の精度を低下させる。 【0005】 近年では、壁面に付着する蒸着物質の体積を低下させることを目的として、蒸着マスクの厚みを薄くし、壁面の面積そのものを縮小させることが検討されている。そして、蒸着マスクの厚みを薄くする技術として、蒸着マスクを製造するための基材である金属板の厚みそのものを薄くすることが検討されている。 【0006】 他方、金属板に孔を形成するエッチングの工程では、金属板の厚みが薄くなるほど、除去される金属の体積が小さくなる。そのため、金属板にエッチング液を供給する時間や、供給されるエッチングの温度などの加工条件で許容範囲が狭くなり、結果として、第1開口や第2開口の寸法に十分な精度を得られがたくなっている。特に、金属板を製造する技術では、ローラーによって母材を延ばす圧延や、電極に析出した金属板を電極から剥がす電解が用いられ、金属板そのものに波形状が形成されている。こうした形状を有する金属板は、金属板とエッチング液との接触する時間を、例えば、波形状の山部と波形状の谷部との間で大きく異ならせて、上記許容範囲の狭小化に伴う精度の低下をさらに深刻化させている。以上のように、蒸着マスクの厚みを薄くする技術は、壁面に付着する蒸着物質の量を低下させて、それによって、蒸着の繰り返しでのパターンの寸法の精度を高められるが、蒸着ごとでは、パターンの寸法に必要な精度を得られがたい課題を新たに招来させている。 【0007】 本発明の目的は、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上可能とした蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法を提供することである。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0008】 上記課題を解決するための蒸着マスク用基材は、複数の孔がエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材であって、前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である。 ・・・ 【0011】 上記蒸着マスク用基材によれば、幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下であるため、長さ方向に搬送される蒸着マスク用基材の表面に液体を供給するとしても、蒸着マスク用基材の表面で均一に液体を流しやすい。結果として、長さ方向に搬送される蒸着マスク用基材の表面に供給された液体が長さ方向の一部で淀むことが抑えられる。そして、エッチング液などの液体による処理を用いた長さ方向での加工の均一性、すなわち、蒸着マスク用基材が有する孔の長さ方向での均一性、ひいては、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上することが可能となる。」 (ウ)「【0022】 [伸び差率] 蒸着マスク用基材1が水平面に載置された状態において、水平面に対する蒸着マスク用基材1の表面の位置(高さ)が表面位置である。 図2が示すように、表面位置の計測では、まず、圧延された、もしくは電解で作製された金属板の幅方向DWでの寸法が幅Wとなるように、金属板が切断されて、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材1がロール状に巻き回される。次いで、蒸着マスク用基材1が幅方向DWの全体(全幅)において切断されるスリット工程が実施されて、蒸着マスク用基材1の長さ方向DLにおける一部分として、測定用基材2Mが切り出される。測定用基材2Mの幅方向DWでの幅Wは、蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの寸法と等しい。次いで、測定用基材2Mの表面2Sについて、長さ方向DLの所定の間隔ごとに、幅方向DWの各位置での表面位置が計測される。表面位置が計測される範囲は、計測範囲ZLである。 【0023】 計測範囲ZLは、測定用基材2Mの長さ方向DLでの両方の端部である非計測範囲ZEを除く範囲である。計測範囲ZLは、測定用基材2Mの幅方向DWでの両端部である図示されない非計測範囲を除く範囲でもある。蒸着マスク用基材1を切断するスリット工程は、蒸着マスク用基材1とは異なる新たな波形状を測定用基材に形成し得る。各非計測範囲ZEの長さ方向DLでの長さは、こうした新たな波形状が形成され得る範囲であり、表面位置の測定からは除外される範囲である。各非計測範囲ZEが有する長さ方向DLでの長さは、例えば、100mmである。幅方向においても、スリット工程による新たな波形状を除外するため、非計測範囲の幅方向DWの長さは、幅方向DWの端から、例えば、10mmである。 【0024】 図3は、測定用基材2Mの幅方向DWの各位置での表面位置の一例を示すグラフであり、測定用基材2Mの幅方向DWを含む断面での断面構造と共に表面位置を示す図である。なお、図3では、長さ方向DLの各部位のうち、幅方向DWに3つの波を有する部位の例を示す。 【0025】 図3が示すように、高さが測定される幅方向DWの各位置は、蒸着マスク用基材1が有する波形状の凹凸を引き写すことの可能な間隔で並ぶ。高さが測定される幅方向DWの各位置は、例えば、幅方向DWに1mm以上20mm以下の等間隔で並ぶ。幅方向DWでの各位置の高さを結ぶ折れ線LWの長さは、表面距離Laとして算出される。蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの伸び差率は、式1によって定められる。すなわち、蒸着マスク用基材1の長さ方向DLでの各位置の表面距離Laのなかの最小値を最小表面距離Lmとすると、最小表面距離Lmに対する、各表面距離Laと最小表面距離Lmとの差分の比率が、伸び差率である。 伸び差率=(La-Lm)/Lm ・・・ (式1) 【0026】 図4は、蒸着マスク用基材1の長さ方向DLでの各位置の幅方向DWでの伸び差率を示す。図4の上段に示す実線は、幅方向DWでの伸び差率が、単位長さにおいて2つのピークを示す一例であり、図4の下段に示す実線は、幅方向DWでの伸び差率が、単位長さにおいて4つのピークを示す一例である。長さ方向DLの単位長さは、500mmである。伸び差率のピークは、0.5×10-5以上の極大値を有する。 【0027】 図4が示すように、蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの伸び差率は、例えば、単位長さのなかに複数のピークを含む。幅方向DWでの伸び差率のピークは、例えば、長さ方向DLに所定の間隔を空けて並ぶ。なお、蒸着マスク用基材1は、こうしたピークを有しない構成であってもよい。 【0028】 蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの伸び差率は、以下の[条件1]を満たす。蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの伸び差率は、以下の[条件2]から[条件4]の少なくとも1つを満たすことが好ましい。 [条件1]幅方向DWでの伸び差率の最大値が2×10-5以下である。 [条件2]幅方向DWでの伸び差率の単位長さでの平均値が0.5×10-5以下である。 [条件3]単位長さあたりのピークの個数が3個以下である。 [条件4]単位長さあたりのピークの間隔が100mm以上である。 【0029】 図4の実線が示すように、[条件1]を満たす例では、幅方向DWでの伸び差率の最大値が2×10-5以下である。すなわち、蒸着マスク用基材1では、幅方向DWでの伸び差率の最大値が2×10-5以下であるため、幅方向DWでの凹凸の繰り返される数や、幅方向DWでの表面の段差が、長さ方向DLの各部位において、極端に大きくなっていない。そのため、長さ方向に搬送される蒸着マスク用基材1の表面に処理用の液体を供給するとしても、段差によって液体が淀むことがなく、同じ処理を長さ方向DLに繰り返すとしても、蒸着マスク用基材1の表面で均一に液体を流しやすい。結果として、蒸着マスク用基材の表面に供給された液体が長さ方向DLの一部で淀むことが抑えられる。そして、エッチング液などの液体による処理を用いた長さ方向DLでの加工の均一性、すなわち、蒸着マスク用基材1が有する孔の長さ方向DLでの均一性、ひいては、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上することが可能となる。」 (エ)「【0092】 [実施例] 図23から図39を参照して各実施例を説明する。 [実施例1] まず、インバーを材料とする母材1aに圧延工程を施して金属板を形成し、次いで、幅方向DWに所望の大きさが得られるように、金属板を切断するスリット工程を行い、圧延資材1bを形成した。続いて、圧延資材1bにアニール工程を施して、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである実施例1の蒸着マスク用基材1を得た。 【0093】 次いで、図23が示すように、長さ方向DLの長さが700mmである実施例1の測定用基材2Mを、実施例1の蒸着マスク用基材1から切り出した。続いて、切り出された測定用基材2Mの幅方向DWでの伸び差率を、計測範囲ZLの全体にわたり測定した。この際、幅方向DWでの伸び差率の測定条件として、以下に示す条件を用いた。 測定装置:株式会社ニコン製 CNC画像測定システム VMR-6555 計測範囲ZLの長さ方向DLの長さ :500mm(単位長さ) ・・・ 幅方向の測定は、スリット工程による新たな波形状を除外するため、幅方向DWの両端から10mmを除き、幅方向DWにおいて480mmの範囲で実施した。 【0094】 実施例1の幅方向DWでの伸び差率の測定結果を図24、図25、および、表1に示す。なお、図24は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。図25は、長さ方向DLの測定間隔が1mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。表1は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が1mmであるときの伸び差率の長さ方向での最大値を示す。なお、いずれの測定間隔においても、長さ方向DLは、母材1aが圧延によって引き延ばされる方向である。 【0095】 表1が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が1mmである場合、実施例1の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、1.0×10-5であった。 【0096】 図24が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例1の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.7×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.2×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.19×10-5であり、単位長さあたりに2個のピークが認められた。互いに隣り合うピークの間隔は、220mmであった。 【0097】 図25が示すように、長さ方向DLの測定間隔が1mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例1の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.9×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.2×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.21×10-5であり、単位長さあたりに3個のピークが認められた。互いに隣り合うピークの間隔の最小値は、166mmであった。すなわち、実施例1は、いずれの測定間隔においても、条件1~4を満たすことが認められた。 【0098】 [実施例2] 圧延ローラー51,52の回転速度と押圧力とを実施例1から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである実施例2の蒸着マスク用基材1を得た。次いで、実施例1と同様に、実施例2の蒸着マスク用基材1から測定用基材2Mを切り出し、切り出された測定用基材2Mの幅方向DWでの伸び差率を、計測範囲ZLの全体にわたり測定した。 【0099】 実施例2の幅方向DWでの伸び差率の測定結果を図26、図27、図28、および、表1に示す。なお、図26は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。図27は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が1mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。図28は、長さ方向DLの測定間隔が1mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。表1は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が1mmであるときの伸び差率の長さ方向での最大値を示す。なお、いずれの測定間隔においても、長さ方向DLは、母材1aが圧延によって引き延ばされる方向である。 【0100】 表1が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が1mmである場合、実施例2の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.7×10-5であった。 【0101】 図26が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例2の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.6×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.1×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.12×10-5であり、単位長さあたりに1個のピークが認められた。 【0102】 図27が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が1mmである場合、実施例2の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.7×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.1×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.14×10-5であり、単位長さあたりに1個のピークが認められた。 【0103】 図28が示すように、長さ方向DLの測定間隔が1mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例2の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.6×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.1×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.12×10-5であり、単位長さあたりに1個のピークが認められた。すなわち、実施例2は、いずれの測定間隔においても、条件1~4を満たすことが認められた。 【0104】 [実施例3] 圧延ローラー51,52の間での押圧力を実施例1から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが50μmである実施例3の蒸着マスク用基材1を得た。次いで、実施例1と同様に、実施例3の蒸着マスク用基材1から測定用基材2Mを切り出し、切り出された測定用基材2Mの幅方向DWでの伸び差率を、計測範囲ZLの全体にわたり測定した。 【0105】 実施例3の幅方向DWでの伸び差率の測定結果を図29、図30、および、表1に示す。なお、図29は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。図30は、長さ方向DLの測定間隔が1mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。表1は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が1mmであるときの伸び差率の長さ方向での最大値を示す。なお、いずれの測定間隔においても、長さ方向DLは、母材1aが圧延によって引き延ばされる方向である。 【0106】 表1が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が1mmである場合、実施例3の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.9×10-5であった。 【0107】 図29が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例3の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.8×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.2×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.20×10-5であり、単位長さあたりに2個のピークが認められた。互いに隣り合うピークの間隔の最小値は、240mmであった。 【0108】 図30が示すように、長さ方向DLの測定間隔が1mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例3の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、0.8×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.2×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.19×10-5であり、単位長さあたりに2個のピークが認められた。互いに隣り合うピークの間隔の最小値は、240mmであった。すなわち、実施例3は、いずれの測定間隔においても、条件1~4を満たすことが認められた。 【0109】 [実施例4] 圧延ローラー51,52の数量を実施例1から変更し、その他の条件を実施例1の条件と同様に設定することによって、幅方向DWの長さが500mmであり、かつ、厚さが20μmである実施例4の蒸着マスク用基材1を得た。次いで、実施例1と同様に、実施例4の蒸着マスク用基材1から測定用基材2Mを切り出し、切り出された測定用基材2Mの幅方向DWでの伸び差率を、計測範囲ZLの全体にわたり測定した。 【0110】 実施例4の幅方向DWでの伸び差率の測定結果を図31、図32、および、表1に示す。なお、図31は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。図32は、長さ方向DLの測定間隔が1mm、幅方向DWの測定間隔が20mmであるときの伸び差率の長さ方向での分布を示す。表1は、長さ方向DLの測定間隔が20mm、幅方向DWの測定間隔が1mmであるときの伸び差率の長さ方向での最大値を示す。なお、いずれの測定間隔においても、長さ方向DLは、母材1aが圧延によって引き延ばされる方向である。 【0111】 表1が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が1mmである場合、実施例4の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、1.4×10-5であった。 【0112】 図31が示すように、長さ方向DLの測定間隔が20mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例4の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、1.1×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.4×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.31×10-5であり、単位長さあたりに4個のピークが認められた。互いに隣り合うピークの間隔の最小値は、60mmであった。 【0113】 図32が示すように、長さ方向DLの測定間隔が1mmであって、幅方向DWの測定間隔が20mmである場合、実施例4の幅方向DWでの伸び差率の最大値は、1.2×10-5であった。なお、単位長さあたりの伸び差率の平均値は、0.4×10-5であり、単位長さにおける伸び差率の標準偏差σは、0.30×10-5であり、単位長さあたりに5個のピークが認められた。互いに隣り合うピークの間隔の最小値は、75mmであった。すなわち、実施例4は、いずれの測定間隔においても、条件1,2を満たすことが認められた。 ・・・ 【0130】 【表1】 [図:0001398260000001.jpg] 【0131】 [パターンの精度] 各実施例1~4、および、各比較例1~3の蒸着マスク用基材1を用い、蒸着マスク用基材1の第1面1Saに、厚さが10μmの第1DFR2を貼り着けた。次いで、第1DFR2に露光マスクを接触させて露光する露光工程、次いで現像工程を施し、30μmの直径を有した複数の貫通孔2aを、第1DFR2に格子状に形成した。続いて、第1DFR2をマスクとするエッチングを第1面1Saに施して、格子状に位置する複数の孔32Hを蒸着マスク用基材1に形成した。そして、蒸着マスク用基材1の幅方向DWでの開口径を各孔32Hについて計測した。各孔32Hの幅方向DWでの開口径のばらつきを表1に示す。なお、表1では、各孔32Hが有する開口径のなかで、開口径の最大値と開口径の最小値との差が2.0μm以下である水準に○印を記載し、開口径の最大値と開口径の最小値との差が2.0μmよりも大きい水準に×印を記載した。 【0132】 表1が示すように、各実施例1~4では、開口径のばらつきがいずれも2.0μm以下であることが認められた。また、実施例1~4のなかでも、実施例1~3は、実施例4よりも、開口径のばらつきがさらに小さいことが認められた。他方、各比較例1~3では、開口径のばらつきがいずれも2.0μmよりも大きいことが認められた。結果として、実施例1~4と比較例1~3との比較から、幅方向DWでの伸び差率の最大値が2.0×10-5よりも小さいこと、すなわち、[条件1]が満たされることによって、開口径のばらつきが抑えられることが認められた。また、実施例1,2,3と実施例4との比較から、幅方向DWでの伸び差率の単位長さでの平均値が小さいほど、開口径のばらつきがさらに抑えられることが認められた。また、単位長さあたりのピークの個数が条件3を満たす小さい値であること、単位長さあたりのピークの間隔が条件4を満たす小さい値であること、これらが満たされることによっても、開口径のばらつきがさらに抑えられることが認められた。」 イ 前記ア(ア)の記載によれば、本件発明は、蒸着マスク用基材、蒸着マスク用基材の製造方法、蒸着マスクの製造方法、および、表示装置の製造方法に関するものであって、近年では、壁面に付着する蒸着物質の体積を低下させることを目的として、蒸着マスクの厚みを薄くし、壁面の面積そのものを縮小させることが検討されており、蒸着マスクの厚みを薄くする技術として、蒸着マスクを製造するための基材である金属板の厚みそのものを薄くすることが検討されているのであるが、金属板に孔を形成するエッチングの工程では、金属板の厚みが薄くなるほど、除去される金属の体積が小さくなり、そのため、金属板にエッチング液を供給する時間や、供給されるエッチングの温度などの加工条件で許容範囲が狭くなり、結果として、第1開口や第2開口の寸法に十分な精度を得られがたくなっているものである。 特に、金属板を製造する技術では、ローラーによって母材を延ばす圧延や、電極に析出した金属板を電極から剥がす電解が用いられ、金属板そのものに波形状が形成されており、こうした形状を有する金属板は、金属板とエッチング液との接触する時間を、例えば、波形状の山部と波形状の谷部との間で大きく異ならせて、上記許容範囲の狭小化に伴う精度の低下をさらに深刻化させている、という課題(以下、「本件課題」という。)を有するものである。 ウ そして、前記ア(イ)、(ウ)(段落【0025】~【0029】)の記載によれば、本件発明は、複数の孔がエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材であって、前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値を2×10-5以下とするもの、すなわち、[条件1]を満たすものとするものであって、そうすることで、長さ方向に搬送される蒸着マスク用基材の表面に液体を供給するとしても、蒸着マスク用基材の表面で均一に液体を流しやすく、結果として、長さ方向に搬送される蒸着マスク用基材の表面に供給された液体が長さ方向の一部で淀むことが抑えられ、エッチング液などの液体による処理を用いた長さ方向での加工の均一性、すなわち、蒸着マスク用基材が有する孔の長さ方向での均一性、ひいては、蒸着によって形成されるパターンの精度を向上することが可能となって、本件課題を解決できるものであり、更に、このことは、前記ア(エ)(段落【0132】)の実施例1~4の記載からも裏付けられるものである。 エ 前記ウによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、蒸着マスク用基材が前記[条件1]を満たすことで、本件課題を解決できることを理解することができる。 そして、蒸着マスク用基材が前記[条件1]を満たすことは、本件発明1の、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」との発明特定事項を満たすことにほかならない。 オ 前記エによれば、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることを理解できるのであって、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するといえ、同請求項2~4及び6~8について検討しても事情は同じである。 (3)取消理由について 本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」、との発明特定事項を有するから、本件課題と無関係のものまで包含するものではないので、前記第5の1の取消理由は理由がない。 (4)申立人金山の特許異議申立理由について ア 始めに、申立人金山の前記第4の1(3)アの主張について検討すると、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることを理解できることは、前記(2)オに記載したとおりであって、本件発明1に、長さ方向における「単位長さ」が特定されておらず、また、「幅方向の伸び差率の最大値」が「長さ方向」の「計測範囲」の長さによって変わり得るとしても、当業者が通常採用し得る「単位長さ」において本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることに変わりはなく、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、前記主張は採用できない。 イ 次に、申立人金山の前記第4の1(3)イの主張について検討すると、前記(3)に記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の記載を本件特許請求の範囲の請求項6~8の範囲まで拡張ないし一般化できるから、前記主張も採用できない。 ウ よって、前記第4の1(3)の申立人金山の特許異議申立理由は、いずれも理由がない。 (5)申立人古川の特許異議申立理由及び古川意見書について ここでいう甲各号証は、申立人古川が提出した、前記第4の2(5)に記載された甲各号証である。 ア 始めに、申立人古川の前記第4の2(2)ア及びイの主張について検討すると、仮に、甲第3号証の実施例4や甲第4号証の実施例3が、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」を満たさずに、孔の幅方向の開口径のばらつきの評価が○評価となっているとしても、そもそも、前記実施例4や実施例3は、本件発明1の発明特定事項を満たさないのであるから、その孔の幅方向の開口径のばらつきの評価に関わらず、本件発明1に、本件課題を解決しないものが含まれることにはならない。 したがって、本件課題と課題解決手段の関係に疑義が生じるものではないし、本件課題を解決するためには「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」であるだけでは足りないものでもない。 そして、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることを理解できることは、前記(2)オに記載したとおりであって、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものではないので、前記主張はいずれも採用できない。 イ 次に、申立人古川の前記第4の2(2)ウ及びエの主張について検討すると、前記(2)ア(ウ)(段落【0022】、【0023】)の記載によれば、本件発明においては、圧延された、もしくは電解で作製された金属板の幅方向での寸法が所定幅となるように、金属板が切断されて、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材がロール状に巻き回され、次いで、蒸着マスク用基材が幅方向の全体(全幅)において切断されるスリット工程が実施されて、蒸着マスク用基材の長さ方向における一部分として、測定用基材が切り出されるものであり、蒸着マスク用基材を切断するスリット工程は、蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状を測定用基材に形成し得るので、表面位置の測定からは除外される範囲となるのであり、各非計測範囲が有する長さ方向での長さは、例えば、100mmであり、非計測範囲の幅方向の長さは、幅方向の端から、例えば、10mmであるものである。 すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、長さ方向及び幅方向の両方についてスリット工程が行われることを前提として、「幅方向での伸び差率」を、前記スリット工程により蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状が形成され得る範囲である非計測範囲を除外して計測するものであることを理解できるので、本件発明1において非計測範囲が特定されていないとしても、「幅方向での伸び差率」の最大値が「蒸着マスク用基材」の全体で満たされるものと解されるものではないし、非計測範囲が任意であると解されるものでもない。 更に、このことからみれば、本件発明1が、貫通孔を、蒸着マスク用基材とは異なる新たな波形状が形成される非計測範囲に形成するものを含むと解するのは不合理であるから、本件課題を解決しないものを権利範囲に含めるものとはいえないのであり、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、前記主張もいずれも採用できない。 ウ 次に、申立人古川の前記第4の2(2)オ~キの主張について検討すると、前記オ~キの主張は、総じて、蒸着マスクの製造においては液がよどむということは観念し得ないから、「幅方向での伸び差率」と本件課題の関係を理解できない旨をいうものである。 ところが、甲第8号証には、以下の記載がある。 「また浸漬法によるエツチングに於てはスプレー法に比較し、スプレー圧、スプレーパターンの重なり、液溜りなどのエツチング状態におよぼす要因は考える必要はないが、金属板表面のエツチング液交換は攪拌によるでけであるのでシヤドウマスクのような大きなものになると攪拌子、超音波、バブリングなどを利用しても金属板表面のエツチング液は不均一となり、この為穿孔形状などのばらつきが生じやすいし、またスプレー法に比較しエツチング効果が悪く、時間がかかりやすいので量産には向かない。 これに対しスプレー法によるエツチングにおいては浸債法と比較し、エツチング液の当りが強いため新らしいエツチング液との液交換効率が良く、短かいエツチング時間で所望のシヤドウマスクが得られるので量産に適している。しかしエツチング液の金属板表面に対するスプレーパターンが均一でなく、金属板表面上のエツチング液の流れや溜りが不均一となり易く、このため穿孔の大きさや形状のばらつきが発生しやすい。・・・しかし液溜りや液流れに関してはエツチング方式により、どうしても避けられないものであり、液溜りの多い部分は液溜の少ない部分に比較し、新しいエツチング液との交換速度が遅くなり、この部分の金属板のエツチング速度を低下させる。」(2ページ左欄43行~右欄28行) 前記記載からみれば、甲第8号証には、浸漬法によるエッチングにおいては、金属板表面のエッチング液交換は攪拌によるだけであるので、攪拌子、超音波、バブリングなどを利用しても金属板表面のエッチング液は不均一となること、及び、スプレー法によるエッチングにおいては、エッチング液の金属板表面に対するスプレーパターンが均一でなく、金属板表面上のエッチング液の流れや溜りが不均一となりやすいことや、液溜りの多い部分は液溜りの少ない部分に比較し、新しいエッチング液との交換速度が遅くなり、この部分の金属板のエッチング速度を低下させることが記載されている。 すると、エッチング液を用いたエッチングにおいては、エッチング方法に関わらず、金属板表面にエッチング液の流れが生じるのであるから、エッチングが浸漬法によるものであっても、又、スプレイ法で噴射される液体の量が多量であっても、金属板の厚みが薄くなり、エッチングなどの加工条件の許容範囲が狭くなったときに、加工精度に影響するような液体のよどみが生じないと直ちにいえるものではないし、このことを裏付ける証拠もない。 そして、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることを理解できることは、前記(2)オに記載したとおりであって、「幅方向での伸び差率」と本件課題の関係を理解できるのであり、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、前記主張もいずれも採用できない。 エ 最後に、申立人古川の前記第4の2(2)クの主張について検討すると、前記(2)ア(エ)(段落【0131】、【0132】)の記載によれば、発明の詳細な説明の実施例においては、蒸着マスク用基材の第1面に貼り付けた第1DFRに露光マスクを接触させて露光する露光工程、次いで現像工程を施し、30μmの直径を有した複数の貫通孔を、第1DFR2に格子状に形成し、続いて、第1DFRをマスクとするエッチングを第1面に施して、格子状に位置する複数の孔を蒸着マスク用基材に形成したのであるから、目標となる設計値が30μmの孔を形成することを前提として、孔の開口径のばらつきを評価していると解するのが妥当であるので、前記実施例において、目標となる設計値からの外れ度合いについて記載されていないとはいえない。 そして、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たすことにより本件課題を解決できることを理解できることは、前記(2)オに記載したとおりであり、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、本件発明1~4、6~8は、発明の詳細な説明に記載された発明であるので、前記主張も採用できない。 オ 古川意見書における申立人古川の主張は、概略、以下のとおりである。 (ア)「エッチング液を用いたエッチング」の態様の中にも、金属板とエッチング液が接触する時間が、波形状の山部と波形状の谷部との間で大きく異ならない態様と大きく異なる態様とが存在するから、本件発明1に、本件課題と無関係のものまで包含しないようにするためには、「エッチング液を用いたエッチング」の具体的な特定が必要であるのに、本件発明1はそのような特定を欠いているから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない(2ページ6行~5ページ下から10行)。 (イ)本件発明1における「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」、との発明特定事項は、「蒸着マスク用基材」の使用用途を特定するものであるが、係る特定は、「蒸着マスク用基材」の構造、特性を更に特定するものではないから、本件発明1は、本件課題と無関係のものまで包含するものであるので、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない(5ページ下から9行~6ページ下から5行)。 (ウ)技術常識として、エッチング液は勢いよく噴射するものであり、エッチング液がよどむ原因が、高さが高々0.005mm程度の蒸着マスクの波形状における山のピーク高さによるとは考え難いから、エッチング工程において、液体がとどまるようなよどみが生じるとは認められないので、当業者は、本件課題と課題解決手段の対応関係を理解できない(6ページ下から4行~13ページ5行)。 (エ)甲第3号証、甲第4号証には、本件発明の実施例と矛盾する評価結果が示されているから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない(13ページ6行~14ページ12行)。 カ 以下、前記オの主張について検討する。 (ア)始めに、前記オ(ア)の主張について検討すると、前記(2)イによれば、本件課題は、「エッチング液を用いたエッチング」の態様に関わらず、波形状が形成された金属板の厚みを薄くして、加工条件の許容範囲が狭くなったときに生じる課題ということができる。 そして、本件発明1には、エッチングが「エッチング液を用いたエッチング」であることが特定され、更に、金属板の厚み及び形状について、「前記金属板が有する厚みは、10μm以上50μm以下であり、前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり」、と特定されているのであるから、本件課題の前提となる事項が特定されているので、本件発明1において、「エッチング液を用いたエッチング」の態様について具体的な特定がされていないとしても、本件発明1が本件課題と無関係のものまで包含するものとはいえない。 更に、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、前記主張は採用できない。 (イ)次に、前記オ(イ)の主張について検討すると、本件発明1における「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」、との発明特定事項が「蒸着マスク用基材」の構造、特性を更に特定するものではないとしても、前記(ア)に記載したのと同様の理由により、本件発明1が本件課題と無関係のものまで包含するものとはいえないのであり、本件発明2~4、6~8について検討しても事情は同じであるから、前記主張も採用できない。 (ウ)次に、前記オ(ウ)の主張について検討すると、前記ウに記載したのと同様の理由により、エッチング工程において、液体がとどまるようなよどみが生じるとは認められないとはいえないから、前記主張も採用できない。 (エ)最後に、前記オ(エ)の主張について検討すると、前記アに記載したのと同様の理由により、甲第3号証、甲第4号証に、本件発明の実施例と矛盾する評価結果が示されているとはいえないから、前記主張も採用できない。 キ よって、前記第4の2(2)の申立人古川の特許異議申立理由も、いずれも理由がない。 (6)まとめ したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するといえるから、これについての取消理由及び特許異議申立理由はいずれも理由がない。 2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について (1)実施可能要件の判断手法 明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。 そして、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。 また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。 (2)実施可能要件について 始めに、前記(1)の実施可能要件の判断手法にのっとって検討する。 ア 本件発明1~4について (ア)本件特許明細書には、更に以下の記載がある。 「【0057】 [蒸着マスク用基材の製造方法] 次に、蒸着マスク用基材の製造方法について説明する。なお、蒸着マスク用基材の製造方法では、圧延を用いる形態と、電解を用いる形態とを別々に例示する。まず、圧延を用いる形態を説明し、次いで、電解を用いる形態を説明する。図12および図13は、圧延を用いる例を示す。 ・・・ 【0060】 電解を用いる製造方法では、電解に用いられる電極表面に蒸着マスク用基材1を形成し、その後、電極表面から蒸着マスク用基材1を離型する。この際、例えば、鏡面を表面とする電解ドラム電極が電解浴に浸され、かつ、電解ドラム電極を下方で受けて電解ドラム電極の表面と対向する他の電極が用いられる。そして、電解ドラム電極と他の電極との間に電流が流されて、電解ドラム電極の表面である電極表面に、蒸着マスク用基材1が沈着する。電解ドラム電極が回転して蒸着マスク用基材1が所望の厚さになるタイミングで、電解ドラム電極の表面から蒸着マスク用基材1が剥がされて巻き取られる。 【0061】 蒸着マスク用基材1を構成する材料がインバーである場合、電解に用いられる電解浴は、鉄イオン供給剤、ニッケルイオン供給剤およびpH緩衝剤を含む。電解に用いられる電解浴は、応力緩和剤、Fe3+イオンマスク剤、リンゴ酸やクエン酸などの錯化剤などを含んでもよく、電解に適したpHに調整された弱酸性の溶液である。鉄イオン供給剤は、例えば、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、スルファミン酸鉄などである。ニッケルイオン供給剤は、例えば、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル、臭化ニッケルである。pH緩衝剤は、例えば、ホウ酸、マロン酸である。マロン酸は、Fe3+イオンマスク剤としても機能する。応力緩和剤は、例えばサッカリンナトリウムである。電解に用いられる電解浴は、例えば、上述した添加剤を含む水溶液であり、5%硫酸、あるいは、炭酸ニッケルなどのpH調整剤によって、例えば、pHが2以上3以下となるように調整される。なお、必要に応じて、アニール工程を入れてもよい。 【0062】 電解に用いられる電解条件では、蒸着マスク用基材1の厚さ、蒸着マスク用基材1の組成比などに応じて、電解浴の温度、電流密度および電解時間が適宜調整される。上述した電解浴に適用される陽極は、例えば、純鉄製とニッケル製である。上述した電解浴に適用される陰極は、例えば、SUS304などのステンレス板である。電解浴の温度は、例えば、40℃以上60℃以下である。電流密度は、例えば、1A/dm2以上4A/dm2以下である。この際、上記[条件1]が満たされるよう、電極表面での電流密度が設定される。好ましくは、上記[条件2]から[条件4]の少なくとも1つが[条件1]と共に満たされるように、電極表面での電流密度が設定される。」 (イ)前記(ア)の記載からみれば、本件発明1に係る「蒸着マスク用基材」は、電解を用いる製造方法により製造されるものであり、当該電解を用いる製造方法では、電解に用いられる電極表面に「蒸着マスク用基材」を形成し、その後、電極表面から蒸着マスク用基材を離型するものであり、この際、例えば、鏡面を表面とする電解ドラム電極が電解浴に浸され、かつ、電解ドラム電極を下方で受けて電解ドラム電極の表面と対向する他の電極が用いられ、電解ドラム電極と他の電極との間に電流が流されて、電解ドラム電極の表面である電極表面に、蒸着マスク用基材が沈着し、電解ドラム電極が回転して「蒸着マスク用基材」が所望の厚さになるタイミングで、電解ドラム電極の表面から「蒸着マスク用基材」が剥がされて巻き取られるものである。 そして、「蒸着マスク用基材」を構成する材料がインバーである場合、電解に用いられる電解浴は、鉄イオン供給剤、ニッケルイオン供給剤およびpH緩衝剤を含み、電解に用いられる電解浴は、応力緩和剤、Fe3+イオンマスク剤、リンゴ酸やクエン酸などの錯化剤などを含んでもよく、電解に適したpHに調整された弱酸性の溶液であるものであり、鉄イオン供給剤は、例えば、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、スルファミン酸鉄などであり、ニッケルイオン供給剤は、例えば、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル、臭化ニッケルであり、pH緩衝剤は、例えば、ホウ酸、マロン酸であり、応力緩和剤は、例えばサッカリンナトリウムであって、電解に用いられる電解浴は、例えば、上述した添加剤を含む水溶液であり、5%硫酸、あるいは、炭酸ニッケルなどのpH調整剤によって、例えば、pHが2以上3以下となるように調整されるものである。 また、電解に用いられる電解条件では、「蒸着マスク用基材」の厚さ、「蒸着マスク用基材」の組成比などに応じて、電解浴の温度、電流密度および電解時間が適宜調整されるものであり、電解浴に適用される陽極は、例えば、純鉄製とニッケル製であり、電解浴に適用される陰極は、例えば、SUS304などのステンレス板であり、電解浴の温度は、例えば、40℃以上60℃以下であり、電流密度は、例えば、1A/dm2以上4A/dm2以下であり、この際、前記[条件1]が満たされるように、電極表面での電流密度を設定するものである。 (ウ)前記(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、前記電解を用いる製造方法によって、過度の試行錯誤をすることなく本件発明1に係る「蒸着マスク用基材」を生産することができるものであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、実施可能要件を満たすといえ、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 イ 本件発明6~8について (ア)本件特許明細書には、更に以下のa~dの記載がある。 a「【0035】 [マスク装置の構成] 図5は、蒸着マスク用基材1を用いて製造される蒸着マスクを備えるマスク装置の概略的な平面構造を示す。図6は、蒸着マスクが備えるマスク部の断面構造の一例を示し、図7は、蒸着マスクが備えるマスク部の断面構造の他の例を示す。なお、マスク装置が備える蒸着マスクの数量や、蒸着マスク30が備えるマスク部の数量は一例である。 【0036】 図5が示すように、マスク装置10は、メインフレーム20と、3つの蒸着マスク30とを備える。メインフレーム20は、複数の蒸着マスク30を支持する矩形枠状を有し、蒸着を行うための蒸着装置に取り付けられる。メインフレーム20は、各蒸着マスク30が位置する範囲のほぼ全体にわたり、メインフレーム20を貫通するメインフレーム孔21を有する。 【0037】 各蒸着マスク30は、帯板状を有した複数のフレーム部31と、各フレーム部31に3体ずつのマスク部32とを備える。フレーム部31は、マスク部32を支持する短冊板状を有して、メインフレーム20に取り付けられる。フレーム部31は、マスク部32が位置する範囲のほぼ全体にわたり、フレーム部31を貫通するフレーム孔33を有する。フレーム部31は、マスク部32よりも高い剛性を有し、かつ、フレーム孔33を囲う枠状を有する。各マスク部32は、フレーム孔33を区画するフレーム部31のフレーム内縁部に1体ずつ、溶着や接着によって固定される。」 b「【0073】 [蒸着マスクの製造方法] 蒸着マスクの製造方法の各例を説明する。なお、図20を参照して、ウェットエッチングによって孔を形成する方法での例(第1製造方法)を説明する。・・・ 【0074】 [第1製造方法] なお、図6で説明したマスク部32を備える蒸着マスクを製造する方法と、図7で説明したマスク部32を備える蒸着マスクを製造する方法とは、基材32Kに対して行われるエッチングの形態が異なるが、それ以外の工程はほぼ同様である。以下では、図6で説明したマスク部32を備える蒸着マスクの製造方法を主に説明し、図7で説明したマスク部32を備える蒸着マスクの製造方法に関しては、その重複した説明を省略する。 【0075】 図20(a)~(h)が示す例のように、蒸着マスクの製造方法の一例では、まず、基材32Kが準備される(図20(a)参照)。なお、基材32Kは、マスク板323として加工される上述した蒸着マスク用基材1であり、蒸着マスク用基材1の他に、その蒸着マスク用基材1を支持するための支持体SPをさらに備えることが好ましい。なお、基材32Kの第1面321(図20の下面)は、上記第1面1Saに相当し、基材32Kの第2面322(図20の上面)は、上記第2面1Sbに相当する。 【0076】 まず、基材32Kが有する第2面322にレジスト層PRを形成し(図20(b)参照)、レジスト層PRに対する露光および現像を行うことによって、第2面322にレジストマスクRMを形成する(図20(c)参照)。次に、レジストマスクRMを用いた第2面322からのウェットエッチングによって、基材32Kに孔32Hが形成される(図20(d)参照)。 【0077】 この際、ウェットエッチングが開始される第2面322には、第2開口H2が形成され、それよりも遅れてエッチングが行われる第1面321には、第2開口H2よりも小さい第1開口H1が形成される。次いで、レジストマスクRMが第2面322から除去されることによって、上記マスク部32が形成される(図20(e)参照)。最後に、第2面322における外縁部32Eが、フレーム部31の内縁部31Eに接合され、マスク部32から支持体SPが離型されることによって、蒸着マスク30が製造される(図20(f)から(h)参照)。 ・・・ 【0091】 上述した蒸着マスク30を用いて表示装置を製造する方法では、まず、蒸着マスク30を搭載したマスク装置10を蒸着装置の真空槽内に取り付ける。この際、ガラス基板などの蒸着対象と第1面321とが対向するように、かつ、蒸着源と第2面322とが対向するように、マスク装置10を取り付ける。そして、蒸着装置の真空槽に蒸着対象を搬入し、蒸着源で蒸着物質を昇華させる。これによって、第1開口H1に追従した形状を有するパターンが、第1開口H1と対向する蒸着対象に形成される。なお、蒸着物質は、例えば、表示装置の画素を構成する有機発光材料や、表示装置の画素回路を構成する画素電極などである。」 c「【図5】 [図:0001398260000002.jpg] 」 d「【図20】 [図:0001398260000003.jpg] 」 (イ)前記(ア)b、dの記載からみれば、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」は、ウエットエッチングによって孔を形成するものであり、まず、基材が準備されるが、前記基材は、前記ア(イ)に記載された方法により製造された「蒸着マスク用基材」である。 そして、前記基材が有する第2面にレジスト層を形成し、レジスト層に対する露光および現像を行うことによって、第2面にレジストマスクを形成し、次に、レジストマスクを用いた第2面からのウェットエッチングによって、前記基材に孔が形成されるものであり、この際、ウェットエッチングが開始される第2面には、第2開口が形成され、それよりも遅れてエッチングが行われる第1面には、第2開口よりも小さい第1開口が形成されるものであり、次いで、レジストマスクが第2面から除去されることによって、マスク部が形成され、最後に、第2面における外縁部が、フレーム部の内縁部に接合され、マスク部から支持体が離型されることによって、「蒸着マスク」が製造されるものである。 (ウ)前記(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」の使用をすることができるものである。 また、前記(ア)a、cの記載からみれば、「蒸着マスク」は、メインフレームと、3つの「蒸着マスク」とを備えるマスク装置において、メインフレームに支持されて使用されるものであって、このことからみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」により生産した物である「蒸着マスク」の使用等をすることができるものである。 (エ)前記(ウ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」の使用をすることができ、また、本件発明6に係る「蒸着マスクの製造方法」により生産した物の使用等をすることができるものであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明6について、実施可能要件を満たす。 更に、前記(ア)b、dの記載からみれば、本件発明7~8について検討しても事情は同じである。 (3)取消理由、申立人金山の特許異議申立理由及び金山意見書について 本件訂正により本件特許請求の範囲の請求項5は削除されたから、前記第5の2の取消理由及び前記第4の1(4)の申立人金山の特許異議申立理由はあてはまらない。 また、申立人金山は、金山意見書において、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」であるような母材を圧延するための圧延条件が記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~4について実施可能要件を満たさない旨を主張しているが(1ページ下から2行~3ページ10行)、前記(2)ア(ウ)に記載したのと同様の理由により、前記主張は採用できない。 (4)申立人古川の特許異議申立理由及び古川意見書について ア 始めに、申立人古川の前記第4の2(1)ア及びイの主張について検討すると、前記(2)ア(ウ)に記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に「幅方向での伸び差率」、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」を制御する際の圧延条件が記載されていないとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合することに変わりはないから、前記主張はいずれも採用できない。 イ 次に、申立人古川の前記第4の2(1)ウ及びオの主張について検討すると、前記1(2)ア(ウ)(段落【0025】)の記載によれば、「蒸着マスク用基材」の表面の位置(高さ)が測定される幅方向の各位置は、「蒸着マスク用基材」が有する波形状の凹凸を引き写すことの可能な間隔で並ぶものであって、例えば、幅方向に1mm以上20mm以下の等間隔で並ぶものである。 すると、本件特許請求の範囲に、「幅方向での伸び差率」、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」の測定条件が特定されていないとしても、また、「幅方向での伸び差率」と、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」の測定条件が異なることが特定されていないとしても、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「幅方向での伸び差率」、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」は、「蒸着マスク用基材」が有する波形状の凹凸を引き写すことの可能な間隔、例えば、幅方向に1mm以上20mm以下の等間隔で測定するものであることを理解することができるから、本件発明1~4及び6~8を実施することができるものである。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するから、前記主張もいずれも採用できない。 ウ 次に、申立人古川の前記第4の2(1)エの主張について検討すると、圧延した金属板における「伸び差率のピークの個数」が増えたとき、隣り合うピークの間隔の最小値が増えることはないことを裏付ける機序や証拠は示されていないから、「伸び差率のピークの個数」が増えたときに隣り合うピークの間隔の最小値が増えることが当業者の理解を超えるものとはいえないので、前記主張も採用できない。 エ 最後に、申立人古川の前記第4の2(1)カの主張について検討すると、前記1(5)イに記載したのと同様の理由により、本件発明は、「幅方向での伸び差率」の最大値が「蒸着マスク用基材」の全体で満たされるものと解されるものではないし、当業者は、発明の詳細な説明の実施例1において、長さ方向の端縁から10mmを計測範囲から除くことの合理性を理解することができ、更に、前記実施例1を追試することもできるから、前記主張も採用できない。 オ 古川意見書における申立人古川の主張は、概略、以下のとおりである。 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明と全く同じ発明特定事項を有する本件発明1~4、6~8についても、前記請求項5に係る発明と同様に、実施可能要件違反の違法性があるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たさない(14ページ13行~17ページ25行)。 カ そこで、前記オの主張について検討すると、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明は、「母材を圧延して前記金属板を得ることを含み」、との発明特定事項を有するのに対して、本件発明1~4、6~8は係る発明特定事項を有しないから、本件発明1~4、6~8は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に係る発明と全く同じ発明特定事項を有するものではないので、前記(ア)の主張は前提において誤っている。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~4、6~8について実施可能要件を満たすことは、前記(2)ア(ウ)及び(2)イ(エ)に記載したとおりであるから、前記主張は採用できない。 (5)まとめ したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するから、これについての取消理由及び特許異議申立理由はいずれも理由がない。 3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について (1)明確性要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。 (2)申立人金山による特許異議申立理由について ア 始めに、申立人金山の前記第4の1(2)アの主張について検討すると、前記2(4)イに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「幅方向の伸び差率」をいかなる条件下で測定するのかを理解することができるから、「幅方向での伸び差率の最大値」である「2×10-5以下」の数値の意味が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、更に、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」について検討しても事情は同じである。 そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するので、前記主張は採用できない。 イ また、申立人金山の前記第4の1(2)イの主張は、本件訂正により本件特許請求の範囲の請求項5は削除されたから、あてはまらない。 (3)申立人古川の特許異議申立理由、古川上申書及び古川意見書について ア 始めに、申立人古川の前記第4の2(3)アの主張について検討すると、前記主張は、「幅方向での伸び差率」、「伸び差率の平均値」、「伸び差率のピークの個数」及び「伸び差率のピークの間隔」は測定間隔により変化するのに、特許請求の範囲にはこれらの測定条件が特定されていないことをいう点で、前記第4の1(2)アの申立人金山の主張と実質的に同じものであるから、前記(2)アに記載したのと同様の理由により採用できない。 イ 次に、申立人古川の前記第4の2(3)イの主張について検討すると、前記2(4)エに記載したのと同様の理由により、当業者は、発明の詳細な説明の実施例1において、長さ方向の端縁から10mmを計測範囲から除くことの合理性を理解することができるし、本件発明1~4、6~8において非計測範囲が特定されていないとしても、特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するので、前記主張も採用できない。 ウ 古川上申書及び古川意見書における申立人古川の主張は、概略、以下のとおりである。 (ア)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7には、「前記マスク部を形成することは、単一の前記金属板に複数の前記マスク部を形成することであり」、と特定されているものの、単一の金属板に形成した複数のマスク部をマスク部ごとに切り出す工程は記載されていない。 このため、当業者は、切り出されていない「前記各マスク部の側面と、1体のフレーム部とを、前記複数の孔を前記マスク部ごとに前記1体のフレーム部が囲うように、相互に接合する」ことの技術的な意義が理解できないから、前記請求項7に係る発明を明確に理解することができない(古川上申書5ページ3行~15行)。 (イ)本件発明に係る「蒸着マスク用基材」は、凹凸の谷付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合が当然想定され、ピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合も当然想定されるが、本件特許明細書には、その場合に、谷の位置及びピークの位置をどのようにして決定するのかが記載されていないし、「蒸着マスク用基材」の二面のうちどちらをおもて面とするかの決め方も記載されていない。 このため、当業者は、本件発明3において、ピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが僅かな値しか異ならない場合に、複数のピークがあると認定するのか、1つのピークが続いていると認定するのか、どの程度の起伏があれば1つのピークがあると認定するのかを決められないし、本件発明4において、ピーク付近において表面位置が測定される各位置のデータが同じ値となる場合に、ピークの位置を特定できず、「ピークの間隔」を特定できないので、本件発明3及び4は明確でない(古川意見書17ページ下から11行~23ページ最終行)。 エ 以下、前記ウの主張について検討する。 (ア)始めに、前記ウ(ア)の主張について検討すると、前記2(2)イb(段落【0074】~【0077】)、dの記載によれば、本件発明7に係る「蒸着マスクの製造方法」は、そもそも、単一の金属板に複数のマスク部を形成するものと解され、形成した複数のマスク部をマスク部ごとに切り出すものとは解されないから、前記主張は前提において誤っており、採用できない。 (イ)次に、前記ウ(イ)の主張について検討すると、前記1(2)ア(ウ)(段落【0024】~【0026】)によれば、本件発明3及び4における「ピーク」は、「蒸着マスク用基材」の長さ方向での各位置の「伸び差率」のピークと解されるのであって、凹凸の谷付近において表面位置が測定される各位置のデータから得られるピークとは解されないから、前記(イ)の主張はピークに関する誤認に基づくものであるので、採用できない。 (4)まとめ したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するから、これについての特許異議申立理由はいずれも理由がない。 4 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性,進歩性欠如)について (1)申立人金山による特許異議申立理由について ここでいう甲第1号証、甲第2号証は、申立人金山により提出された、前記第4の1(5)に記載された甲第1号証、甲第2号証である。 ア 甲各号証に記載された事項等 (ア)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、以下のa~bの記載がある。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、 前記蒸着マスクの前記貫通孔は、前記金属板をエッチングすることにより形成されるものであり、 前記金属板の製造方法は、 母材を圧延して前記金属板を得る圧延工程と、 前記金属板の幅方向における両端を所定範囲にわたって切り落とす切断工程と、を備え、 前記切断工程後の前記金属板は、その長手方向における長さがその幅方向の位置に応じて異なることに起因する波打ち形状を少なくとも部分的に有しており、 前記切断工程後の前記金属板の前記長さの最小値を基準長さと称し、前記基準長さに対する、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の各位置における前記金属板の前記長さの差の比率を伸び差率と称する場合、以下の条件(1)~(3)が満たされており、 (1)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部分における前記伸び差率が、10×10-5以下であること; (2)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の端部における前記伸び差率が、20×10-5以下であること;および、 (3)前記端部における前記伸び差率が、前記中央部分における前記伸び差率の最大値よりも大きいこと; 前記中央部分は、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部を含む、前記金属板の幅の40%を占める部分である、金属板の製造方法。」 b「【0085】 (第1サンプル) はじめに、インバー材から構成された母材に対して上述の圧延工程およびアニール工程を実施することにより、長尺の金属板が巻き取られた巻き体(第1巻き体)を製造した。・・・ ・・・ 【0106】 (第7サンプル) 上述の第1巻き体~第6巻き体とは異なる第7巻き体の先端部を切り取ることによって、幅500mm、投影長さ700mmの金属板からなる第7サンプルを得た。次に、上述の第1サンプルの場合と同様にして、幅方向の各位置において、第7サンプルの長さを測定し、また伸び差率を算出した。結果、一方の端部における伸び差率は16.5×10-5であり、他方の端部における伸び差率は3.2×10-5であり、中央部分の各位置における伸び差率の最大値は0.8×10-5であった。」 そして、前記a~bの記載の、第7サンプルに注目すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、 前記蒸着マスクの前記貫通孔は、前記金属板をエッチングすることにより形成されるものであり、 前記金属板の製造方法は、 母材を圧延して前記金属板を得る圧延工程と、 前記金属板の幅方向における両端を所定範囲にわたって切り落とす切断工程と、を備え、 前記切断工程後の前記金属板は、その長手方向における長さがその幅方向の位置に応じて異なることに起因する波打ち形状を少なくとも部分的に有しており、 前記切断工程後の前記金属板の前記長さの最小値を基準長さと称し、前記基準長さに対する、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の各位置における前記金属板の前記長さの差の比率を伸び差率と称する場合、以下の条件(1)~(3)が満たされており、 (1)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部分における前記伸び差率が、10×10-5以下であること; (2)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の端部における前記伸び差率が、20×10-5以下であること;および、 (3)前記端部における前記伸び差率が、前記中央部分における前記伸び差率の最大値よりも大きいこと; 前記中央部分は、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部を含む、前記金属板の幅の40%を占める部分であり、 得られた金属板は、インバー材から構成された母材に対して圧延工程およびアニール工程を実施したものであり、 一方の端部における伸び差率が16.5×10-5であり、他方の端部における伸び差率が3.2×10-5であり、中央部分の各位置における伸び差率の最大値が0.8×10-5である、金属板の製造方法。」(以下、「甲1発明1」という。) 「甲1発明1に係る金属板の製造方法により製造された金属板。」(以下、「甲1発明2」という。) (イ)甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、以下のa~cの記載がある。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 Niを32~38wt%含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、伸長率0.4~3%の歪みを付与して形状矯正を行い、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力2kgf/mm2以下の条件で歪み取り焼鈍を行うことを特徴とする板形状および耐熱収縮性に優れたFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」 b「【0026】以下に本発明を詳細に説明する。本発明者らは、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板をシャドウマスク用途に使用するために必要な板形状や耐熱収縮性の品質水準について調査した結果、板形状を急峻度で0.5%以下、熱収縮率を0.05%以下にすればよいことを知見した。そこで、形状矯正条件および歪み取り焼鈍条件と急峻度、熱収縮率の関係について検討した。 ・・・ 【0028】ここで、急峻度は、板形状すなわち鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式より求めた。 急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100」 c「【0052】 【実施例】本発明例および比較例の合金鋼の化学組成を表1に示す。成分組成は、シャドウマスク用素材として必要な低熱膨張特性、黒化処理性およびプレス成形性が得られるものとし、鋼A~Cの3種類を溶製した。 ・・・ 【0054】次に、表1に示す成分組成に溶製した鋼塊を1150~1250℃×1~50時間の熱処理後に分塊圧延し、スラブを製造した。このスラブを1100℃×1~5時間の熱処理後に熱間圧延して3.0mmの熱延鋼板を得た。さらに、脱スケール、冷間圧延と750℃以上の焼鈍を施した後、冷間圧延して板厚0.10~0.22mmの薄板を得た。前記で得た薄板をテンションレベラーで所定の伸長率で形状矯正後所定の歪み取り焼鈍を行って、No.1~25の薄板を製造した。また、比較のために、テンションレベラーによる形状矯正だけを行ったNo.26の薄板を製造した。ここで、No.15~17、22は760mm幅、他のNo.1~14、18~21、23~26は990mm幅である。 【0055】テンションレベリング条件と歪み取り焼鈍条件を表2に示す。また、前記で得た薄板の板形状および熱収縮率を調査した。板形状は耳波、中伸びの高さとピッチを測定し、急峻度により評価した。 【0056】熱収縮率は、前記で得た薄板の板幅中央部と板幅端部から100mmの部分から、それぞれ薄板の長手方向に300mm(長さ)×100mm(幅)×全厚の試験片を採取し、850~900℃×30分間の熱処理を行い、それぞれの熱処理前後の試験片の長さの差をノギスで測定して求めた最大収縮量の比率により評価した。急峻度、熱収縮率の調査結果を表2に併せて記載した。 【0057】 【表2】 [図:0001398260000004.jpg] 」 イ 対比・判断 (ア)本件発明1~4について a 本件発明1と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる金属板」は、本件発明1における「複数の孔が」「形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材」に相当し、甲1発明2において、「得られた金属板は、インバー材から構成された母材に対して圧延工程およびアニール工程を実施したもので」あることは、本件発明1において、「前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であ」ることに相当する。 すると、本件発明1と甲1発明2とは、 「複数の孔が形成されて蒸着マスクの製造に用いられる、帯状を有した金属板である蒸着マスク用基材であって、 前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、 蒸着マスク用基材。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1:本件発明1は、「複数の孔」が「エッチング液を用いたエッチング」によって形成される、との発明特定事項を有するものであるのに対して、甲1発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点2:本件発明1は、「前記金属板が有する厚みは、10μm以上50μ以下であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点3:本件発明1は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明2は、「一方の端部における伸び差率が16.5×10-5であり、他方の端部における伸び差率が3.2×10-5であり、中央部分の各位置における伸び差率の最大値が0.8×10-5」である点。 b 事案に鑑み、前記aの相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明1における「幅方向での伸び差率」は、「金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率」であって、「金属板の表面での幅方向の長さ」である「表面距離」に基づいて算出されるものである。 これに対して、甲1発明2における「伸び差率」は、「前記切断工程後の前記金属板は、その長手方向における長さがその幅方向の位置に応じて異なることに起因する波打ち形状を少なくとも部分的に有して」いることに基づいて、「前記切断工程後の前記金属板の前記長さの最小値を基準長さと称し、前記基準長さに対する、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の各位置における前記金属板の前記長さの差の比率を伸び差率と称する」ものであるから、「金属板の表面での幅方向の長さ」である「表面距離」に基づいて算出されるものとはいえないので、甲1発明2において、「一方の端部における伸び差率が16.5×10-5であり、他方の端部における伸び差率が3.2×10-5であり、中央部分の各位置における伸び差率の最大値が0.8×10-5」である場合に、前記相違点3に係る本件発明特定事項を満たすとはいえないし、このことを裏付ける証拠もない。 したがって、甲1発明2が、本件発明1の前記相違点3に係る発明特定事項を満たすとはいえないので、前記相違点3は実質的な相違点である。 c 次に、前記相違点3の容易想到性について検討すると、前記ア(イ)a~cの甲第2号証の記載によれば、甲第2号証には、板形状すなわち鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し、急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100の式より求めた急峻度が0%であるFe-Ni系低熱膨張合金薄板が記載されている。 ところが、前記bに記載したのと同様の理由により、前記急峻度が0%であるからといって、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」となるとはいえないから、甲第2号証に、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」とすることが記載も示唆もされているとはいえないので、甲1発明2に甲第2号証に記載された事項を適用しても、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。 したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明2及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 (イ)本件発明6~8について a 前記(ア)aと同様にして本件発明6と甲1発明1とを対比すると、本件発明6と甲1発明1とは、 「金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成すること、を含む蒸着マスクの製造方法であって、 前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、蒸着マスクの製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1’:本件発明6は、「レジスト層を形成することと、前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明1は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点2’:本件発明6は、「前記金属板が有する厚みは、10μm以上50μm以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明1は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点3’:本件発明6は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明1は、甲1発明2は、「一方の端部における伸び差率が16.5×10-5であり、他方の端部における伸び差率が3.2×10-5であり、中央部分の各位置における伸び差率の最大値が0.8×10-5」である点。 b そして、前記aの相違点3’は前記(ア)aの相違点3と同じものであるから、前記(ア)b~cに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明1及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであり、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。 ウ 申立人金山の主張について 申立人金山は、特許異議申立書において、甲第2号証の段落【0057】【表2】(前記ア(イ)c)には、板形状の急峻度が0%である本発明例8、9、11~20が記載されており、段落【0028】(前記ア(イ)b)によれば、急峻度が0%であるということは、金属板に凹凸がないこと、すなわち、金属板の長さ方向及び幅方向のいずれの方向においても凹凸が認められないことを意味しており、その結果、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」ことを意味するものにほかならないから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証時記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している(43ページ16行~44ページ下から4行)。 ところが、甲第2号証に、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」とすることが記載も示唆もされているとはいえないことは、前記イ(ア)cに記載したとおりであるので、申立人金山の前記主張は採用できない。 エ 小括 よって、本件発明1~4、6~8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第4の1(1)の特許異議申立理由は理由がない。 (2)申立人古川による特許異議申立理由について ここでいう甲各号証は、申立人古川により提出された、前記第4の2(5)に記載された甲各号証である。 ア 甲各号証の記載事項等 (ア)甲第10号証に記載された事項及び甲第10号証に記載された発明 甲第10号証には、以下のa~bの記載がある。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%でNi+Co:35.0~43.0%(但し、Coは0~6.0%)、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、残部はFe及び不純物からなる冷間圧延用素材を準備する工程と、前記冷間圧延用素材に冷間圧延と連続焼鈍とを1回以上繰り返す冷間圧延工程とを含み、前記冷間圧延工程における最終の冷間仕上圧延を、単位幅当たりの圧延荷重150kg/mm以下、圧延速度1.7m/s以上、前方張力250~400MPaの条件で行い、厚さを0.25mm以下とし、前記最終の冷間仕上圧延後には熱処理を行わないことを特徴とするFe-Ni系合金薄板の製造方法。」 b「【0014】 次に、上述した本発明のFe-Ni系合金薄板の製造方法で得られるFe-Ni系合金薄板について説明する。 <急峻度> 本発明では、Fe-Ni系合金薄板を最終の冷間仕上圧延した後、製品幅とした際の急峻度を、薄板を水平定盤に置いた状態の浮上り高さで評価し、最大0.75%以下(好ましくは0.50%以下)とすることができる。 ・・・ この急峻度の測定は、薄板を一定長さに切断し、水平定盤上に置き、レーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定する。この際、板幅および板長さ方向で、一定長さごとで浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから、急峻度を算出すれば良い。 【実施例】 【0015】 真空溶解、均熱化熱処理、熱間プレス及び熱間圧延を行って厚さ3.0mmの熱間圧延材を準備した。熱間圧延材の硬さを測定したところ、170~190HVであった。熱間圧延材の化学組成を表1に示す。 その後、化学研摩、機械研磨にて熱間圧延材表面の酸化層を除去し、粗圧延を施し、トリム加工で素材幅方向の両端部にある熱間圧延時の亀裂を除去し、冷間圧延用素材を準備した。 次に、前述の冷間圧用素材に対し、冷間圧延と連続焼鈍とを繰り返した後、最終の冷間仕上圧延として、本発明例(No.1~6)、比較例(No.21、22)、従来例(No.31~33)に分けて、製造した結果を表2に示す。また、最終の冷間仕上圧延に用いたワークロールは高速度工具鋼を用い、直径120mmを使用し、最終の冷間仕上圧延のパス回数は本発明と比較例は1回とし、従来例は複数回行って、最終の厚さを0.1mmとした。なお、最終の冷間仕上圧延前の硬さは135HVであり、幅は800mmの広幅材である。 また、表2に示す急峻度の測定は3次元形状測定器を用いて、700mm長さに切断した水平定盤上のFe-Ni系合金薄板試験片に測定領域幅800mm×長さ700mmの範囲をレーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定した。急峻度は一定長さ(幅方向:14mm、長さ方向:8mm)ごとに浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから算出した。 ・・・ 【0017】 【表2】 [図:0001398260000005.jpg] 」 そして、前記a~bの記載の、No.6の実施例に注目すると、甲第10号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「質量%でNi+Co:35.0~43.0%(但し、Coは0~6.0%)、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、残部はFe及び不純物からなる冷間圧延用素材を準備する工程と、前記冷間圧延用素材に冷間圧延と連続焼鈍とを1回以上繰り返す冷間圧延工程とを含み、前記冷間圧延工程における最終の冷間仕上圧延を、単位幅当たりの圧延荷重150kg/mm以下、圧延速度1.7m/s以上、前方張力250~400MPaの条件で行い、厚さを0.25mm以下とし、前記最終の冷間仕上圧延後には熱処理を行わない、Fe-Ni系合金薄板の製造方法であって、 得られたFe-Ni系合金薄板の最終の厚さが0.1mmであり、最大急峻度が0.33%であり、 急峻度の測定は3次元形状測定器を用いて、700mm長さに切断した水平定盤上のFe-Ni系合金薄板試験片に測定領域幅800mm×長さ700mmの範囲をレーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定し、急峻度は一定長さ(幅方向:14mm、長さ方向:8mm)ごとに浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから算出したものである、Fe-Ni系合金薄板の製造方法。」(以下、「甲10発明1」という。) 「甲10発明1に係るFe-Ni系合金薄板の製造方法により製造されたFe-Ni系合金薄板。」(以下、「甲10発明2」という。) (イ)甲第11号証に記載された事項及び甲第11号証に記載された発明 甲第11号証には、以下のa~cの記載がある。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数の貫通孔を形成してマスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、 前記マスクの前記貫通孔は、搬送されている長尺状の前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、 前記金属板の製造方法は、 母材を圧延して前記金属板を得る圧延工程と、 前記金属板の幅方向における一端および他端を所定範囲にわたって切り落とす切断工程と、を備え、 前記切断工程後の前記金属板は、その長手方向における長さがその幅方向の位置に応じて異なることに起因する波打ち形状を少なくとも部分的に有しており、 前記切断工程後の前記金属板の前記波打ち形状の前記長手方向における周期に対する、前記波打ち形状の高さの百分率を急峻度と称する場合、以下の条件(1)~(3)が満たされており、 (1)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部分における急峻度の最大値が、0.4%以下であること; (2)前記中央部分における急峻度の最大値が、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の一端側部分における急峻度の最大値以下であり、かつ、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の他端側部分における急峻度の最大値以下であること;および、 (3)前記一端側部分における急峻度の最大値と、前記他端側部分における急峻度の最大値と、の差が0.4%以下であること; 前記一端側部分、前記中央部分および前記他端側部分はそれぞれ、前記切断工程後の前記金属板の幅の30%、40%および30%を占める部分である、金属板の製造方法。」 b「【0110】 (第2~第20巻き体および第2~第20サンプル) 第1巻き体の場合と同様にして、インバー材から構成された母材から、第2巻き体~第20巻き体を製造した。さらに、第1巻き体の場合と同様にして、第2巻き体~第20巻き体に関して、各巻き体から取り出されたサンプルの急峻度の測定、並びに、各巻き体の長尺金属板から作製された蒸着マスクに関する上述の「1次効果 その1」および「1次効果 その2」を実施した。」 c「【図24】 [図:0001398260000006.jpg] 」 そして、前記a~cの記載の、第4サンプルに注目すると、甲第11号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「複数の貫通孔を形成してマスクを製造するために用いられる金属板の製造方法であって、 前記マスクの前記貫通孔は、搬送されている長尺状の前記金属板をエッチングすることによって形成されるものであり、 前記金属板の製造方法は、 母材を圧延して前記金属板を得る圧延工程と、 前記金属板の幅方向における一端および他端を所定範囲にわたって切り落とす切断工程と、を備え、 前記切断工程後の前記金属板は、その長手方向における長さがその幅方向の位置に応じて異なることに起因する波打ち形状を少なくとも部分的に有しており、 前記切断工程後の前記金属板の前記波打ち形状の前記長手方向における周期に対する、前記波打ち形状の高さの百分率を急峻度と称する場合、以下の条件(1)~(3)が満たされており、 (1)前記切断工程後の前記金属板の幅方向の中央部分における急峻度の最大値が、0.4%以下であること; (2)前記中央部分における急峻度の最大値が、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の一端側部分における急峻度の最大値以下であり、かつ、前記切断工程後の前記金属板の幅方向の他端側部分における急峻度の最大値以下であること;および、 (3)前記一端側部分における急峻度の最大値と、前記他端側部分における急峻度の最大値と、の差が0.4%以下であること; 前記一端側部分、前記中央部分および前記他端側部分はそれぞれ、前記切断工程後の前記金属板の幅の30%、40%および30%を占める部分である、金属板の製造方法であり、 前記金属板は、インバー材から構成され、 得られた金属板の一端側部分における急峻度の最大値が0.2%、中央部分における急峻度の最大値が0.2%、他端側部分における急峻度の最大値が0.3%である、金属板の製造方法。」(以下、「甲11発明1」という。) 「甲11発明1に係る金属板の製造方法により製造された金属板。」(以下、「甲11発明2」という。) (ウ)甲第12号証に記載された事項及び甲第12号証に記載された発明 甲第12号証は、申立人金山が提出した甲第1号証と同じものであるから、前記(1)ア(ア)の甲1発明1及び甲1発明2が記載されているといえる。 (エ)甲第13号証に記載された事項及び甲第13号証に記載された発明 甲第13号証には、以下のa~eの記載がある。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 加熱帯及び冷却帯を備えた竪型焼鈍炉を用いてFe-Ni合金鋼ストリップを焼鈍する方法において、下記工程(1)から(5)の条件を満たす工程で前記Fe-Ni合金鋼ストリップを加熱し冷却することを特徴とする、Fe-Ni合金鋼ストリップの形状矯正を伴なう焼鈍方法。 (1)前記Fe-Ni合金鋼ストリップをその再結晶温度以下の温度で加熱し、次いで冷却する。 (2)前記冷却帯内の入側に前記ストリップ長手方向に直角に、互いに近接した3本以上のロールを設け、前記ロールで前記ストリップの表面を交互に反対方向に押し込み、前記ストリップに板幅方向の拘束力を負荷する。 (3)上記工程(2)において押し込まれた前記ストリップの曲率半径が、前記ロール間の少なくとも1箇所において2500~5000mmの範囲内になるように前記ロールの間隔及び押込量の内、少なくとも一つを調整して前記拘束力を調節する。 (4)上記工程(2)の前記拘束力を負荷する位置における前記ストリップの温度を200~500℃の範囲内に調節する。 (5)前記焼鈍炉内における前記ストリップの搬送張力を0.1~20kg/mm2の範囲内に調節する。」 b「【0038】 【表1】 [図:0001398260000007.jpg] ・・・ 【0040】(1)ストリップの波板形状は、焼鈍前及び後のいずれにおいても、図4及び5に板の横断面形状を示したように、板幅方向の湾曲が1箇所の場合と2箇所の場合とがあった。図4及び5のそれぞれに示したように、ストリップ1と水平定盤10との隙間である湾曲量の極大値h1 、並びに、h1及びh2を測定した。図5のように湾曲が2箇所ある場合は湾曲量の大きい方の値を当該ストリップの湾曲量と定めた。板波の評価特性として上記湾曲量を用い、それが4mm以下のものを合格とした。 【0041】(2)ストリップの中伸び急峻度を、焼鈍前後に測定した。図6は中伸び急峻度の説明図であり、中伸び部分の板長手方向断面における波高aとピッチpとから急峻度λを、λ=(a/p)×100%で定義する。中伸び急峻度は、λ≦0.5%のものを合格とした。」(当審注:段落【0040】、【0041】の「(1)」、「(2)」は「○」に「1」、「○」に「2」と表記されている。) c「【図4】 [図:0001398260000008.jpg] 」 d「【図5】 [図:0001398260000009.jpg] 」 e「【図6】 [図:0001398260000010.jpg] 」 そして、前記a~eの記載の、実施例1に注目すると、甲第13号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「加熱帯及び冷却帯を備えた竪型焼鈍炉を用いてFe-Ni合金鋼ストリップを焼鈍する方法において、下記工程(1)から(5)の条件を満たす工程で前記Fe-Ni合金鋼ストリップを加熱し冷却する、Fe-Ni合金鋼ストリップの形状矯正を伴なう焼鈍方法であって、 (1)前記Fe-Ni合金鋼ストリップをその再結晶温度以下の温度で加熱し、次いで冷却する。 (2)前記冷却帯内の入側に前記ストリップ長手方向に直角に、互いに近接した3本以上のロールを設け、前記ロールで前記ストリップの表面を交互に反対方向に押し込み、前記ストリップに板幅方向の拘束力を負荷する。 (3)上記工程(2)において押し込まれた前記ストリップの曲率半径が、前記ロール間の少なくとも1箇所において2500~5000mmの範囲内になるように前記ロールの間隔及び押込量の内、少なくとも一つを調整して前記拘束力を調節する。 (4)上記工程(2)の前記拘束力を負荷する位置における前記ストリップの温度を200~500℃の範囲内に調節する。 (5)前記焼鈍炉内における前記ストリップの搬送張力を0.1~20kg/mm2の範囲内に調節する。 得られるFe-Ni合金鋼ストリップの板厚が0.12mmであり、波板湾曲量が1mmであり、焼鈍後の中伸び急峻度が0.5%であり、 ここで、波板湾曲量は、ストリップと水平定盤との隙間である湾曲量の極大値h1 、並びに、h1及びh2を測定し、湾曲が2箇所ある場合は湾曲量の大きい方の値を当該ストリップの湾曲量と定めたものであり、 中伸び急峻度は、中伸び部分の板長手方向断面における波高aとピッチpとから急峻度λを、λ=(a/p)×100%で定義したものである、焼鈍方法。」(以下、「甲13発明1」という。) 「甲13発明1に係る焼鈍方法により製造された、Fe-Ni合金鋼ストリップ。」(以下、「甲13発明2」という。) (オ)甲第25号証に記載された発明 甲第25号証は、申立人金山が提出した甲第2号証と同じものであって、その記載事項は、前記(1)ア(イ)a~cに記載したとおりである。 そして、前記(1)ア(イ)a~cの記載の、本発明例No.17に注目すると、甲第25号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「Niを32~38wt%含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、伸長率0.4~3%の歪みを付与して形状矯正を行い、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力2kgf/mm2以下の条件で歪み取り焼鈍を行う、板形状および耐熱収縮性に優れたFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法であって、 得られるFe-Ni系低熱膨張合金薄板の板厚が0.10mmであり、急峻度が0%であり、最大熱収縮率が0.020%であり、 急峻度は、板形状すなわち鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式より求めたものであり、 急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100 最大熱収縮率は、薄板の板幅中央部と板幅端部から100mmの部分から、それぞれ薄板の長手方向に300mm(長さ)×100mm(幅)×全厚の試験片を採取し、850~900℃×30分間の熱処理を行い、それぞれの熱処理前後の試験片の長さの差をノギスで測定して求めた最大収縮量の比率により評価したものである、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」(以下、「甲25発明1」という。) 「甲25発明1に係るFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法により製造された、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板。」(以下、「甲25発明2」という。) (カ)甲第26号証に記載された事項及び甲第26号証に記載された発明 甲第26号証には、以下のa~cの記載がある。 a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 Niを32~38wt% 含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、鋼板温度550~690℃、張力5~20kgf/mm2の条件で、1回以上の歪み取り焼鈍を実施し、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力0. 1~8kgf/mm2の条件で歪み取り焼鈍を実施することを特徴とする板形状および耐熱収縮性に優れたFe- Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」 b「【0024】ここで、急峻度は鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式により求めた。 【0025】急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100 ・・・ 【0026】続いて、張力と熱収縮の関係を調べた。図3はテンションアニールでの均熱時間が5~60秒間および冷却速度が20℃/秒以上の条件で、張力と熱収縮の関係を示した図である。図3において、熱収縮率は鋼板の板幅中央部と鋼板端部から100mmの部分から、鋼板の長手方向に300mml ×100mmw ×全厚の試験片を採取し、シャドウマスクの成型前の焼鈍工程をシミュレートした850~900℃×30分間の熱処理を行い、熱処理前後の試験片の長さの差をノギスにて測定することで求めた。・・・」 c「【0044】次に表1に示す成分組成で溶製した鋼塊を1150~1250℃×1~50時間の熱処理後に分塊圧延し、1100℃×1~5時間の熱処理後に熱間圧延して厚さ2.0mmの熱延鋼板を得た。さらに冷間圧延と750℃以上の焼鈍と所定の歪み取り焼鈍を行い、板厚0.12~0.22mmの薄板No.1~27を製造した。No.1~20が本発明例であり、No.21~27が比較例である。 【0045】表2に、No.1~27の薄板についてテンションアニールによる歪み取り焼鈍条件を示し、板形状および熱収縮率を評価した結果を示す。・・・ 【0046】 【表2】 [図:0001398260000011.jpg] 」 そして、前記a~cの記載の、本発明例No.15に注目すると、甲第26号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「Niを32~38wt% 含むFe-Ni系合金を、冷間圧延後、鋼板温度550~690℃、張力5~20kgf/mm2の条件で、1回以上の歪み取り焼鈍を実施し、引き続いて鋼板温度550~690℃、張力0. 1~8kgf/mm2の条件で歪み取り焼鈍を実施する、板形状および耐熱収縮性に優れたFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法であって、 得られるFe-Ni系低熱膨張合金薄板の板厚が0.12mmであり、急峻度が0.01%であり、850~900℃×30分の熱収縮が0.031%であり、 急峻度は、鋼板の平坦度を表すパラメータで、耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式により求めたものであり、 急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100 熱収縮率は、鋼板の板幅中央部と鋼板端部から100mmの部分から、鋼板の長手方向に300mml ×100mmw ×全厚の試験片を採取し、シャドウマスクの成型前の焼鈍工程をシミュレートした850~900℃×30分間の熱処理を行い、熱処理前後の試験片の長さの差をノギスにて測定することで求めたものである、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法。」(以下、「甲26発明1」という。) 「甲26発明1に係るFe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法により製造された、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板。」(以下、「甲26発明2」という。) (キ)甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、以下の以下のa、bの記載がある。 a「2.空気軸受式形状計 2.1 圧延材の形状 ・・・ 形状は,通常,第2図(1)および(1)式に示すように急峻度あるいは伸び差率などで定義する.当社は,1×10-5の伸び差率を基本としたI-UNIT(5)を形状の単位に用いている. λ=hi/li×100% ε=Δli/li≒(π/2×hi/li)2 ・・・・・・(1) λ :急峻度 ε :伸び差率 hi :伸び差で発生する波の高さ li :基準長さ Δli:伸び差 第3図は,形状と伸び差率の関係を示した模式図である.圧延材料を長手方向に裁断すると,波状のところは基準長さliに対しΔliだけ伸びる.この比が(1)式で示された伸び差率である.この材料の圧延中における板幅方向の張力分布は,中央部分が高く両端部に向かうと伸び波が大きくなるので低くなる.このように,形状不良の波の程度と伸び差率および張力分布には相関関係があり,張力分布を知ることによって形状を把握することができる.」(129ページ左欄下から8行~130ページ左欄26行) b「 [図:0001398260000012.jpg] 」(130ページ右欄) (ク)甲第2号証には、以下のa、bの記載がある。 a「今,幅広がりを無視したとすると,圧延前の厚さh1が圧延後h2になれば,伸び率eは e=h1/h2-1 (1) となる.板を板要素に裁断したときの伸び率をe’とすれば,平面を保っている板に関しての伸び率が(1)で表されているならば,上述のモデルによって評価されるσyは σy=E(e-e’) (2) で与えられる.・・・ もし,圧延機において与えられる塑性変形だけでは比率クラウン保存の条件が満されず,課題のσyが発生するような事態になると、σyが負の領域で座屈が生じ波が発生する.・・・図2に概念図を示すが,端伸びは波長が小さいのに対して,他の伸びは波長が大きい. いったん,このような波が発生するとσyは開放されて小さな値となる.したがって,波を発生している板の長さを測ると,板幅方向の伸び差率を求めることができる.図3に示すように、波を発生した板を定盤に置き,波の波長と高さとを測定してこれらをそれぞれιとδとすると,δをιで除した値を通常急峻度λと称する.すなわち λ=δ/ι (3) 定盤上で測定した波長ιを基準として、波の部分の長さがι+Διとして伸び差率Δεを Δε=Δι/ι (4) と定義する.波の形を正弦曲線とみなすと,Δeと急峻度λの間に Δε=(π/2)2λ2 (5) の関係がある.もし,板に発生する波が端伸びの波か腹(または中)伸びの波であれば,比率クラウン変化と波の急峻度λとの関係を導出できる.」(833ページ左欄12行~右欄下から8行) b「 [図:0001398260000013.jpg] [図:0001398260000014.jpg] 」(833ページ右欄) (ケ)甲第14号証には、以下の記載がある。 「【0041】 [蒸着用メタルマスクの製造方法] 図4で説明した蒸着用メタルマスク30を製造する方法と、図5で説明した蒸着用メタルマスク30を製造する方法とは、ニッケル含有金属シート11にウェットエッチングを行う工程が異なる一方で、それ以外の工程はほぼ同様である。以下では、図4で説明した蒸着用メタルマスク30の製造方法を主に説明し、図5で説明した蒸着用メタルマスク30の製造方法に関しては、その重複した説明を省略する。 【0042】 図6が示すように、蒸着用メタルマスクの製造方法は、まず、上述した(A)電解や(B)圧延および研磨などによってニッケル含有金属シート11を準備する(ステップS1-1)。次いで、ニッケル含有金属シート11が有する対象面の1つにレジスト層を形成し(ステップS1-2)、レジスト層に対する露光、および、現像を行うことによって、対象面にレジストマスクを形成する(ステップS1-3)。 【0043】 次に、レジストマスクを用いた対象面のウェットエッチングによって、ニッケル含有金属シート11にマスク孔321Hを形成する(ステップS1-4)。次いで、レジストマスクを対象面から除去することによって、上述したマスク部32が製造される(ステップS1-5)。そして、複数のマスク部32におけるマスク表面321aをサブフレーム31に固定することによって、上述した蒸着用メタルマスクを製造する(ステップS1-6)。 【0044】 ニッケル含有金属シート11をエッチングするエッチング液は、酸性のエッチング液であって、インバーをエッチングすることが可能なエッチング液であればよい。酸性のエッチング液は、例えば、過塩素酸第二鉄液、および、過塩素酸第二鉄液と塩化第二鉄液との混合液に対して、過塩素酸、塩酸、硫酸、蟻酸、および、酢酸のいずれかを混合した溶液である。対象面のエッチングは、ニッケル含有金属シート11を酸性のエッチング液に浸漬するディップ式であってもよいし、ニッケル含有金属シート11の対象面に対して酸性のエッチング液を吹き付けるスプレー式であってもよい。また、対象面のエッチングは、スピナーによって回転するニッケル含有金属シート11に酸性のエッチング液を滴下するスピン式であってもよい。 【0045】 ここで、対象面に位置するレジスト層に光が照射されることに際して、光の一部が対象面で散乱し、散乱した光がレジスト層のなかの露光対象領域以外の部分を照射してしまうことが抑えられる。そのため、露光、および、現像によって形成されるレジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間に差異が生じることを抑えることが可能となる。ひいては、ニッケル含有金属シート321が有するマスク孔321Hの構造上の精度を高めることが可能となる。なお、対象面に形成されるレジスト層は、シート状に形成された後に対象面に貼り付けられてもよいし、レジスト層を形成するための塗液が対象面に塗布されることによって形成されてもよい。 【0046】 なお、図5で説明した蒸着用メタルマスク30の製造方法では、上述したステップS1-1からステップS1-5までの工程が、マスク表面321aに対応する基材表面11aに施され、それによって、マスク大孔32LHが形成される。次いで、マスク大孔32LHを保護するためのレジストなどがマスク大孔32LHに充填される。続いて、上述したステップS1-2からステップS1-5までの工程が、マスク裏面321bに対応する基材裏面11bに施され、それによって、マスク小孔32SHが形成され、マスク部32が得られる。そして、複数のマスク部32におけるマスク表面321aがサブフレーム31に固定されることによって、上述した蒸着用メタルマスクが製造される(ステップS1-6)。」 (コ)甲第15号証には、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、有機ELパネルなどを真空蒸着によって製造する際に使用する蒸着マスクの部材であるメタルマスクを製造中に、欠陥を生じさせない様に搬送するための搬送治具に関する。 【背景技術】 【0002】 中小型の有機ELパネルの製造方式は、低分子有機EL材料を発色光別に蒸着マスクを使用して塗り分ける方式が主流であり、その蒸着マスクには高精細エッチングを施したメタルマスクが使用される(図1)。 【0003】 そのメタルマスクは、インバー材(Fe、Niの合金)を母材とし、厚みが20μm~30μm程度で、ストライプ幅は20μm~50μmのスリット部を有している。そのスリット部は、インバー材をロールトゥロール搬送により、整面、ドライフィルムラミネート、露光、現像、エッチング、剥膜工程を経ることで形成され、メタルマスクとなる。この時、メタルマスクは多面付けで形成されるので、図1に示すようなピース状に断裁した後、外枠と呼ばれるフレームに固定されて蒸着マスクとなる。」 (サ)甲第16号証には、以下の記載がある。 「【0081】 [試験例] [試験例1] マスク基材としてインバー材を準備し、レジストを用いたウェットエッチングによって、複数の貫通孔をマスク基材に形成した。複数の貫通孔として、第1孔と第2孔とから構成される貫通孔を形成した。 【0082】 そして、補修装置を用いて、複数の貫通孔のうち、補修の対象となる第2貫通孔の位置を検出した。複数の貫通孔において、貫通孔のうち、第2孔が補修の対象である第2貫通孔の位置が検出された。なお、設計構造において、第2孔の開口幅における設計値を30μmとし、開口幅において許容される誤差の範囲を±3μm以内とした。また、第2貫通孔において、第2面において第2孔の占める面積が、第2基準孔が占める面積よりも大きく、開口幅に対する誤差が+3μmよりも大きいことが認められた。 【0083】 第2貫通孔に対し、塗布針を用いて第2孔の全体に充填される量の樹脂を塗布した。樹脂には、SP-042(東レ(株)製、熱膨張係数:17ppm/℃)を用いた。 【0084】 そして、IRスポットヒータを用いて、5Vの電圧で3分間にわたってマスク基材の全体に赤外線を照射した。これにより、第2貫通孔に塗布された樹脂を予備乾燥させた。その後、IRスポットヒータを用いて、マスク基材の全体を30分間にわたって140℃に加熱し、次いで30分間にわたって200℃に加熱し、さらに60分間にわたって300℃に加熱した。これにより、第2貫通孔に塗布した樹脂を本乾燥させた、言い換えれば、樹脂を硬化させた。 【0085】 次いで、YAGレーザーであって、266nmの波長を有した第4高調波のレーザー光を出力するレーザーを用いて、第2貫通孔に塗布された樹脂をトリミングした。このとき、レーザー光において、エネルギーを50mJ/cm2に設定し、ショット回数を500回に設定し、ラップレートを60Hzに設定した。 【0086】 さらに、レーザーを用いて、第2貫通孔に塗布された樹脂をトリミングした。このとき、レーザー光において、エネルギーを100mJ/cm2に設定し、ショット回数を10回に設定し、ラップレートを20Hzに設定した。 【0087】 その後、マスク基材の全体を30分間にわたって300℃に加熱し、試験例1のメタルマスクを得た。メタルマスクでは、硬化した樹脂がマスク基材から剥がれていないこと、および、補修部が位置する貫通孔において、開口幅の設計値に対する誤差が+1μm以内であり、第2孔における開口幅の大きさが設計寸法を満たすことが認められた。 【0088】 また、試験例1のメタルマスクに対して、300℃に加熱し、10℃/分の速度で室温に冷却する処理である加速試験を3回繰り返しても、マスク基材から補修部が剥がれないことが認められた。さらには、試験例1のメタルマスクに対して2kgf/mm2の張力を掛ける処理である張力試験を行っても、マスク基材から補修部が剥がれないことが認められた。」 (シ)甲第17号証には、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称す)素子の表示媒体を蒸着、スパッター等で形成するときに使用する多面付けメタルマスクの製造方法に関する。 ・・・ 【0009】 単位メタルマスク120は、ニッケルやステンレス材をフォトエッチング法でパターニング処理して作製され、多面取り枠111に設けられた開口部112の縁部にメタル枠122部がスポット溶接、テープによる貼り付けなどによって接合される(図7(a)及び(b)参照)。開口部112の縁部には、単位メタルマスク120と位置合わせするための位置合わせマークが、レーザマーキングなどにより付与されている。 ・・・ 【0015】 以下、本発明の多面付けメタルマスクの製造方法について説明する。最近有機EL表示パネルを製造する場合、有機EL表示パネルが小型表示パネルでは、パネルのコストダウン及び製造効率を高めるために、小型有機ELパネルを多面付けした大型の処理基板を用いてパネルの製造を行い、最後に小切れ分割して、所望の有機EL表示パネルを作製するという多面付け製造プロセスが採用されている。多面付け製造プロセスに用いられるEL素子作製用の蒸着マスクも大型の多面付けメタルマスクが使用されている。」 (ス)甲第18号証には、以下の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 基板上に蒸着によりパターン状に膜を形成する際に用いる蒸着マスクの製造方法において、 1)紗貼り枠の上面に、テンションをかけて紗を貼り付ける工程、 2)予め、フォトエッチング法にて、蒸着によりパターン状の膜を形成する部分を孔あけしたメタルマスク原反を、メタルマスク原反の余白部にて紗に貼り付ける工程、 3)メタルマスク原反の中央のメタルマスクに接する紗の部分を除去し、メタルマスク原反にテンションをかける工程、 4)位置合わせマークを描画したガラス描画板に、上記紗貼り枠に紗を介して貼り付けたメタルマスク原反を重ね、ガラス描画板の位置合わせマークと、メタルマスクの位置合わせマークとが合致するように、紗貼り枠に水平方向の荷重を加える工程、 5)メタルマスクの位置合わせマークが合致した状態で、上記メタルマスク原反のメタルマスクの周縁部を蒸着マスクの本枠の上面に貼り付ける工程、 6)メタルマスク原反の周囲の紗を切断し、メタルマスク原反の余白部を除去し、メタルマスクを蒸着マスクの本枠に転写する工程、を少なくとも具備することを特徴とする蒸着マスクの製造方法。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、有機EL層などの形成に用いられる蒸着マスクの製造方法に関するものであり、特に、紗貼り枠に貼り付けた紗の上にメタルマスクを貼り付け、このメタルマスクを本枠上に転写して蒸着マスクを製造しても、パターンの位置精度に優れた蒸着マスクを製造することのできる蒸着マスクの製造方法に関する。 ・・・ 【0009】 メタルマスク(12)には、蒸着によって基板にパターン状の膜を形成する部分が開口部となった、例えば、画面の対角2~3インチ程度のパターン部(13)が多数個面付けされている。この開口部は、予め、フォトエッチング法によって形成されたものである。」 (セ)甲第19号証には、以下の記載がある。 「【発明の効果】 【0012】 本発明によれば、金属板加工時に耐エッチング性・タック性を維持したままアルカリ溶解性を有する経時安定性に優れた金属加工用感光性組成物および金属加工板を提供することができる。金属加工板としては、リードフレームや蒸着用マスク、シャドウマスク等をエレクトロニクス部材に用いることができる。」 (ソ)甲第20号証には、以下の記載がある。 「【発明の効果】 【0013】 本発明によれば、金属板加工時に耐エッチング性を維持したままアルカリ溶解性を有する経時安定性に優れた金属加工用感光性組成物および金属加工板を提供することができる。金属加工板としては、リードフレームや蒸着用マスク、シャドウマスク等をエレクトロニクス部材に用いることができる。」 (タ)甲第21号証には、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば、リードフレームやメタルマスク等に使用されるFe-Ni系合金薄板及びその製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 リードフレームやメタルマスク等に使用されるFe-Ni系合金薄板には、例えば、エッチングやプレス等の加工を行い、他部材と組合わせて使用される。このFe-Ni系合金薄板は、通常、仕上圧延前後に歪取り焼鈍や軟化焼鈍が行われて、結晶方位の調整がなされ、所望の要求特性を満足するように仕上げられている。 一方で、本願出願人は、例えば、特開平6-172928号公報(特許文献1)として、質量%でNi:30~60%を含有するFe-Ni系合金でなるリードフレーム材料であり、板幅方向に垂直な断面内での検鏡で繊維状の圧延組織を有し、かつ圧延面の{100}方位集積度が50%以上であるエッチング性に優れるリードフレーム材料の発明を提案している。また、特開平6-279946号公報(特許文献2)として、質量%で、Ni:30~40%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるFe-Ni系アンバー合金でなるシャドウマスク材料において、圧延面の{100}方位集積度が85%以上であり、かつ、板幅方向に垂直な断面内での検鏡で繊維状の圧延組織を有するエッチング性に優れるシャドウマスク材料の発明を提案している。 ・・・ 【0013】 次に、冷間圧延工程について、詳しく説明する。 <圧下率:90%以上> 本発明では、冷間圧延工程中の圧下率を90%以上とする。圧下率が90%未満であると、冷間圧延後のFe-Ni系合金薄板の硬さや引張強さが低くなる。そのため、0.25mm以下のFe-Ni系合金薄板のハンドリング性が劣化して、例えば、搬送時にしわや折れ等が発生しやすくなる。好ましい圧下率は92%以上であり、更に好ましくは94%以上である。なお、圧下率の上限は特に定めないが、圧下率が99%を超えると、圧延中のFe-Ni系合金の形状調整が困難となる場合があるので、上限は99%とするのが現実的である。 なお、冷間圧延後の厚さは0.25mm以下とする。これは、本発明のFe-Ni系合金薄板を例えば、リードフレームに用いた場合では多ピン化に対応しやすく、また、メタルマスク(シャドーマスクと称される場合もある)に用いた場合は、エッチング加工による高精細化に対応が可能であるためである。 【0014】 <圧延張力> 本発明では、最終圧延パスの圧延張力を400~600MPaとする。前述のように本発明では90%以上の圧下率で冷間圧延を行う。そのために、複数回の圧延パスで所定の板厚としていくが、このうち、最終パスの圧延張力が最も急峻度に影響を及ぼす。そのため、最終圧延パスの圧延張力を適正なものとして冷間圧延材に優れた急峻度を付与する。この最終圧延パスの圧延張力の適正化により、冷間圧延を行って得られる冷間圧延材の急峻度を0.75%以下とすることができ、更に0.50%以下とすることも可能となる。優れた急峻度を得るために、圧延張力を430~520MPaとすることがより好ましい。 最終圧延パスの圧延張力が400MPa未満であると、所望の板厚に圧延するために必要な圧延荷重を高くしなければならなくなる。そうすると、圧延機が過負荷になると共に、形状調整が困難となる。一方、最終圧延パスの圧延張力は高いほど形状調整が容易になるが、圧延張力が600MPaを超えると圧延中のFe-Ni系合金薄板が破断するおそれがある。そのため、最終圧延パスの圧延張力は400~600MPaとする。 なお、優れた急峻度のFe-Ni系合金薄板は、板幅が500~1500mmの広幅のFe-Ni系合金薄板への適用が特に好ましい。かかるFe-Ni系合金薄板は広幅と優れた急峻度を要求されるような、例えば、メタルマスク用途等への素材として好適となる。」 (チ)甲第22号証には、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば、リードフレームやメタルマスク等に使用されるFe-Ni系合金薄板及びその製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 例えば、リードフレームやメタルマスク等に使用されるFe-Ni系合金薄板には、例えば、エッチングやプレス等の工程に供するために各種の特性が要求されている。このFe-Ni系合金薄板は、通常、仕上圧延前後に歪取り焼鈍や軟化焼鈍が行われて、結晶方位の調整がなされ、所望の要求特性を満足するように仕上げられている。 一方で、本願出願人は、例えば、特開平6-172928号公報(特許文献1)として、質量%でNi:30~60%を含有するFe-Ni系合金でなるリードフレーム材料であり、板幅方向に垂直な断面内での検鏡で繊維状の圧延組織を有し、かつ圧延面の{100}方位集積度が50%以上であるエッチング性に優れるリードフレーム材料や、特開平6-279946号公報(特許文献2)として、質量%で、Ni:30~40%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるFe-Ni系アンバー合金でなるシャドウマスク材料において、圧延面の{100}方位集積度が85%以上であり、かつ、板幅方向に垂直な断面内での検鏡で繊維状の圧延組織を有するエッチング性に優れるシャドウマスク材料の発明を提案している。 ・・・ 【0013】 次に、冷間圧延工程について、詳しく説明する。 <圧下率:90%以上> 本発明では、冷間圧延工程中の圧下率を90%以上とする。圧下率が90%未満であると、冷間圧延後のFe-Ni系合金薄板の硬さや引張強度が低くなる。そのため、0.25mm以下のFe-Ni系合金薄板のハンドリング性が劣化して、例えば、搬送時にしわや折れ等が発生しやすくなる。好ましい圧下率は92%以上であり、更に好ましくは94%以上である。なお、圧下率の上限は特に定めないが、圧下率が99%を超えると、圧延中のFe-Ni系合金の形状調整が困難となる場合があるので、上限は99%とするのが現実的である。 なお、冷間圧延後の厚さは0.25mm以下とする。これは、本発明のFe-Ni系合金薄板を例えば、リードフレームに用いた場合では多ピン化に対応しやすく、また、メタルマスク(シャドーマスクと称される場合もある)に用いた場合は、エッチング加工による高精細化に対応が可能であるためである。 【0014】 <圧延張力> 本発明では、最終圧延パスの圧延張力を4~6MPaとする。前述のように本発明では90%以上の圧下率で冷間圧延を行う。そのために、複数回の圧延パスで所定の板厚としていくが、このうち、最終パスの圧延張力が最も急峻度に影響を及ぼす。そのため、最終圧延パスの圧延張力を適正なものとして冷間圧延材に優れた急峻度を付与する。この最終圧延パスの圧延張力の適正化により、冷間圧延を行って得られる冷間圧延材の急峻度を0.75%以下とすることができ、更に0.50%以下とすることも可能となる。 最終圧延パスの圧延張力が4MPa未満であると、所望の板厚に圧延するために必要な圧延荷重を高くしなければならなくなる。そうすると、圧延機が過負荷になると共に、形状調整が困難となる。一方、最終圧延パスの圧延張力は高いほど形状調整が容易になるが、圧延張力が6MPaを超えると圧延中のFe-Ni系合金薄板が破断するおそれがある。そのため、最終圧延パスの圧延張力は4~6MPaとする。 なお、優れた急峻度のFe-Ni系合金薄板は、板幅が900mm以上の広幅のFe-Ni系合金薄板への適用が特に好ましい。広幅と優れた急峻度を要求されるような、例えば、メタルマスク用途等への素材として好適となる。」 (ツ)甲第23号証には、以下の記載がある。 「【背景技術】 【0002】 Fe-Ni合金の薄板に高精細なエッチング加工を行う用途として、従来からリードフレーム材やシャドウマスク材等の各種マスク材が知られている。 ところで、Fe-Ni合金の薄板を製造する場合、最終工程で冷間圧延が施される。この冷間圧延中に生じる問題としては、表面形態に関する問題や残留応力に関する問題があり、何れも高精細なエッチング特性に影響を及ぼす。そのため、高精細なエッチングを行なう薄板には、所望のエッチング特性を得るために、表面粗さを調整したり、残留応力を調整する種々の提案がなされている。 例えば、特開平8-269742号公報(特許文献2)には、表面からの残留応力の平均値を50N/mm2以下とすることで微細なエッチングパターンが形成可能なFe-Ni合金を素材とした提案がなされている。この技術はサイドエッチを防止し、高精細なエッチング加工が可能とするものである。 また、例えば、特開平6-122013号公報(特許文献1)には、最終冷間圧延工程において、圧下率5%以上で圧延するとともに圧延油濃度を管理することによりオイルピットの発生を制御し所望の板面粗度を得るシャドウマスクやアパーチャーグリル用鋼板の製造方法が提案されている。この技術は、残留応力を抑制する技術である。 また、本願出願人も特開2004-39628号公報(特許文献3)として、2枚の金属板を中間層で接着した積層箔を用いた蒸着マスクを提案している。 ・・・ 【0023】 表3に示すとおり、本発明方法を適用した、エッチング加工用素材は、オイルピットの発生を極めて抑制できていることが分かる。 また、図1及び図2に示した通り、条件E(図2)のエッチング加工用素材の表面は、数μm~20μm程度のオイルピットが分散して形成されていることが確認できる。一方、本発明の条件A(図1)のメタルマスク用素材の表面は、数μm程度のオイルピットが僅かに形成されていることが分かる。」 (テ)甲第24号証には、以下の記載がある。 「【0002】 例えば、リードフレーム、シャドウマスクなどの電子部品は、フォトエッチング法を用いて製造されることが多い。これら電子部品の材料としては、鉄、鉄-ニッケル合金、鉄-コバルト-ニッケル合金など鉄系の金属薄板が広く用いられている。フォトエッチング法では、先ず、フォトリソグラフィ法によって金属薄板上に所定形状のレジストパターンを形成し、次に、レジストパターンより露出した金属薄板部位をウエットエッチングによって除去し、金属薄板に貫通パターン或いは半貫通パターンを形成する。 ・・・ 【0009】 図4は、有機ELを製造する際に用いられるメタルマスクの一例の平面図である。図4に示すメタルマスクは、貫通パターン(31A)の形状・配置からしてスロット型と称されるメタルマスクである。このメタルマスクに形成される貫通パターン(31A)は、例えば、図4中、Y軸方向の長さ(a)は130μm程度、幅(b)は50μm程度、Y軸方向の貫通パターン(31A)間のブリッヂ(32)の幅(c)は15~20μm程度、X軸方向の貫通パターン(31A)間の幅(d)は100μm程度のものである。 ・・・ 【0011】 また、図5は、メタルマスクの他の例の平面図である。図5に示すメタルマスクは、貫通パターン(31B)の形状・配置からしてスリット型と称されるメタルマスクである。このメタルマスクに形成される貫通パターン(31B)は、例えば、図5中、Y軸方向の長さ(a’)は60mm程度、幅(b’)は50μm程度、X軸方向の貫通パターン(31B)間の幅(d’)は100μm程度のものである。」 イ 対比・判断 (ア)甲第10号証を主引用例とした場合について a 本件発明1~4について (a)本件発明1と甲10発明2とを対比すると、甲10発明2における「Fe-Ni系合金薄板」は、本件発明1における「帯状を有した金属板」「であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であ」ることに相当する。 すると、本件発明1と甲10発明2とは、 「帯状を有した金属板であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点4:本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」「蒸着マスク用基材であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲10発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点5:本件発明1は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲10発明2は「最終の厚さ」が「0.1mm」である点。 ・相違点6:本件発明1は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲10発明2は、「Fe-Ni系合金薄板」の「最大急峻度が0.33%」である点。 (b)事案に鑑み、前記(a)の相違点6が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明1における「幅方向での伸び差率」は、前記(1)イ(ア)bに記載したとおり、「金属板の表面での幅方向の長さ」である「表面距離」に基づいて算出されるものである。 これに対して、甲10発明2における「最大急峻度」は、「3次元形状測定器を用いて、700mm長さに切断した水平定盤上のFe-Ni系合金薄板試験片に測定領域幅800mm×長さ700mmの範囲をレーザー変位計等を用いて、薄板の浮上り高さを測定し、急峻度は一定長さ(幅方向:14mm、長さ方向:8mm)ごとに浮上り高さをマトリックス状に記録したデータから算出したもの」であるから、前記「表面距離」に基づいて算出されるものとはいえないので、甲10発明2における「最大急峻度が0.33%」である場合に、前記相違点6に係る本件発明特定事項を満たすとはいえないし、このことを裏付ける証拠もない。 したがって、甲10発明2における「Fe-Ni系合金薄板の最大急峻度が0.33%」であるとしても、本件発明1の前記相違点6に係る発明特定事項を満たすとはいえないから、前記相違点6は実質的な相違点であるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲10発明2であるとはいえないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 (c)次に、前記相違点6の容易想到性について検討すると、「蒸着マスク用基材」において、「幅方向での伸び差率の最大値」を「2×10-5以下」とすることが、本件特許の原出願の出願日当時の周知技術であったことを裏付ける証拠はないから、甲10発明2において、前記相違点6に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。 してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明2に基づいて、又は、甲10発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 b 本件発明6~8について (a)前記a(a)と同様にして本件発明6と甲10発明1とを対比すると、本件発明6と甲10発明1とは、 「帯状を有した金属板の製造方法であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点4’:本件発明6は、「レジスト層を形成することと、前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法」、との発明特定事項を有するのに対して、甲10発明1は「Fe-Ni系合金薄板の製造方法」である点。 ・相違点5’:本件発明6は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲10発明1は「厚さ」が「0.1mm以下」である点。 ・相違点6’:本件発明6は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲10発明1は、「Fe-Ni系合金薄板」の「最大急峻度が0.33%」である点。 (b)そして、前記(a)の相違点6’は前記a(a)の相違点6と同じものであるから、前記a(b)、(c)に記載したのと同様の理由により、本件発明6は、甲10発明2に基づいて、又は、甲10発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。 c 小括 よって、本件発明1~4は、甲第10号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~4、6~8は、甲第10号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第10号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ)甲第11号証を主引用例とした場合について a 本件発明1~4について (a)本件発明1と甲11発明2とを対比すると、甲11発明2における「インバー材から構成」された「金属板」は、本件発明1における「帯状を有した金属板」「であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であ」ることに相当する。 すると、本件発明1と甲11発明2とは、 「帯状を有した金属板であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点7:本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」「蒸着マスク用基材であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点8:本件発明1は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲11発明2は「金属板が有する厚み」が明らかでない点。 ・相違点9:本件発明1は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明2は、「得られた金属板の一端側部分における急峻度の最大値が0.2%、中央部分における急峻度の最大値が0.2%、他端側部分における急峻度の最大値が0.3%である」点。 (b)事案に鑑み、前記(a)の相違点9から検討すると、甲11発明2における「急峻度」は、「切断工程後の前記金属板の前記波打ち形状の前記長手方向における周期に対する、前記波打ち形状の高さの百分率」であるから、本件発明1における「表面距離」に基づいて算出されるものとはいえないので、前記(ア)a(b)、(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲11発明2であるとはいえないし、甲11発明2に基づいて、又は、甲11発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 b 本件発明6~8について 前記a(a)と同様にして本件発明6と甲11発明1とを対比すると、本件発明6と甲11発明1とは、 「帯状を有した金属板の製造方法であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点7’:本件発明6は、「レジスト層を形成することと、前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法」、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明1は「金属板の製造方法」である点。 ・相違点8’:本件発明6は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲11発明1は「金属板が有する厚み」が明らかでない点。 ・相違点9’:本件発明6は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲11発明1は、「得られた金属板の一端側部分における急峻度の最大値が0.2%、中央部分における急峻度の最大値が0.2%、他端側部分における急峻度の最大値が0.3%である」点。 (b)そして、前記(a)の相違点9’は前記a(a)の相違点9と同じものであるから、前記a(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6が甲11発明1であるとはいえないし、甲11発明1に基づいて、又は、甲11発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。 c 小括 よって、本件発明1~4、6及び8は、甲第11号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~4、6~8は、甲第11号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第11号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (ウ)甲第12号証を主引用例とした場合について 甲第12号証に、前記(1)ア(ア)の甲1発明1及び甲1発明2が記載されているといえることは、前記ア(ウ)に記載したとおりであるから、本件発明1と甲1発明2とを対比した場合の相違点は、前記(1)イ(ア)の相違点1~相違点3であり、本件発明6と甲1発明1とを対比した場合の相違点は、前記(1)イ(イ)の相違点1’~相違点3’である。 すると、前記(1)イ(ア)b同(イ)bに記載したのと同様の理由により、本件発明1~4、6及び8は、甲第12号証に記載された発明であるとはいえない。 また、前記相違点3及び相違点3’について検討すれば、前記(ア)a(c)、同b(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1~4、6~8は、甲第12号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第12号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (エ)甲第13号証を主引用例とした場合について a 本件発明1~4について (a)本件発明1と甲13発明2とを対比すると、甲13発明2における「Fe-Ni合金鋼ストリップ」は、本件発明1における「帯状を有した金属板」「であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であ」ることに相当する。 すると、本件発明1と甲13発明2とは、 「帯状を有した金属板であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点10:本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」「蒸着マスク用基材であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲13発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点11:本件発明1は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲13発明2は「板厚」が「0.12mm」である点。 ・相違点12:本件発明1は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲13発明2は、「Fe-Ni合金鋼ストリップ」の「波板湾曲量が1mmであり、焼鈍後の中伸び急峻度が0.5%である」点。 (b)事案に鑑み、前記(a)の相違点12から検討すると、甲13発明2における「波板湾曲量」は、「ストリップと水平定盤との隙間である湾曲量の極大値h1 、並びに、h1及びh2を測定し、湾曲が2箇所ある場合は湾曲量の大きい方の値を当該ストリップの湾曲量と定めたもの」であり、「中伸び急峻度」は、「中伸び部分の板長手方向断面における波高aとピッチpとから急峻度λを、λ=(a/p)×100%で定義したもの」であるから、本件発明1における「表面距離」に基づいて算出されるものとはいえないので、前記(ア)a(b)、(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲13発明2であるとはいえないし、甲13発明2に基づいて、又は、甲13発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 b 本件発明6~8について 前記a(a)と同様にして本件発明6と甲13発明1とを対比すると、本件発明6と甲13発明1とは、 「帯状を有した金属板の製造方法であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点10’:本件発明6は、「レジスト層を形成することと、前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法」、との発明特定事項を有するのに対して、甲13発明1は「焼鈍方法」である点。 ・相違点11’:本件発明6は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲13発明1は「板厚」が「0.12mm」である点。 ・相違点12’:本件発明6は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲13発明1は、「Fe-Ni合金鋼ストリップ」の「波板湾曲量が1mmであり、焼鈍後の中伸び急峻度が0.5%である」点。 (b)そして、前記(a)の相違点12’は前記a(a)の相違点12と同じものであるから、前記a(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲13発明1に基づいて、又は、甲13発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。 c 小括 よって、本件発明1~4は、甲第13号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明1~4、6~8は、甲第13号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第13号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (オ)甲第25号証を主引用例とした場合について a 本件発明1~4について (a)本件発明1と甲25発明2とを対比すると、甲25発明2における「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板」は、本件発明1における「帯状を有した金属板」「であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であ」ることに相当する。 すると、本件発明1と甲25発明2とは、 「帯状を有した金属板であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点13:本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」「蒸着マスク用基材であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲25発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点14:本件発明1は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲25発明2は「板厚」が「0.10mm」である点。 ・相違点15:本件発明1は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲25発明2は、「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板」の「急峻度が0%」である点。 (b)事案に鑑み、前記(a)の相違点15から検討すると、前記(1)イ(ア)cに記載したのと同様の理由により、甲25発明2において、「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板」の「急峻度が0%」であるとしても、本件発明1の前記相違点15に係る発明特定事項を満たすとはいえない。 すると、前記(ア)a(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲25発明2に基づいて、又は、甲25発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 b 本件発明6~8について 前記a(a)と同様にして本件発明6と甲25発明1とを対比すると、本件発明6と甲25発明1とは、 「帯状を有した金属板の製造方法であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点13’:本件発明6は、「レジスト層を形成することと、前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法」、との発明特定事項を有するのに対して、甲25発明1は「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法」である点。 ・相違点14’:本件発明6は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲25発明1は「板厚」が「0.10mm」である点。 ・相違点15’:本件発明6は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲25発明1は、「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板」の「急峻度が0%」である点。 (b)そして、前記(a)の相違点15’は前記a(a)の相違点15と同じものであるから、前記a(b)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲25発明1に基づいて、又は、甲25発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。 c 小括 よって、本件発明1~4、6~8は、甲第25号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第25号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (カ)甲第26号証を主引用例とした場合について a 本件発明1~4について (a)本件発明1と甲26発明2とを対比すると、甲26発明2における「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板」は、本件発明1における「帯状を有した金属板」「であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であ」ることに相当する。 すると、本件発明1と甲26発明2とは、 「帯状を有した金属板であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、金属板。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点16:本件発明1は、「複数の孔がエッチング液を用いたエッチングによって形成されて蒸着マスクの製造に用いられる」「蒸着マスク用基材であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲26発明2は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。 ・相違点17:本件発明1は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲26発明2は「板厚」が「0.12mm」である点。 ・相違点18:本件発明1は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲26発明2は、「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板」の「急峻度が0.01%」である点。 (b)事案に鑑み、前記(a)の相違点18から検討すると、甲26発明2における「急峻度」は、「耳波および中伸びの高さとピッチを測定し次式により求めたもの」「急峻度(%)=高さ(mm)/ピッチ(mm)×100」であるから、本件発明1における「表面距離」に基づいて算出されるものとはいえないので、前記(ア)a(b)、(c)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲26発明2に基づいて、又は、甲26発明2及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないのであり、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。 b 本件発明6~8について 前記a(a)と同様にして本件発明6と甲26発明1とを対比すると、本件発明6と甲25発明1とは、 「帯状を有した金属板の製造方法であって、前記金属板を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金である、製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点16’:本件発明6は、「レジスト層を形成することと、前記レジスト層をマスクとしたエッチング液を用いたエッチングによって前記金属板に複数の孔を形成してマスク部を形成することと、を含む蒸着マスクの製造方法」、との発明特定事項を有するのに対して、甲26発明1は「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の製造方法」である点。 ・相違点17’:本件発明6は、「前記金属板が有する厚み」が、「10μm以上50μm以下」であるのに対して、甲26発明1は「板厚」が「0.12mm」である点。 ・相違点18’:本件発明6は、「前記金属板の長さ方向での各位置における前記金属板の幅方向に沿った形状は、相互に異なっており、各形状は、前記金属板の幅方向に繰り返す凹凸を有した波形状であり、前記金属板の表面での幅方向の長さが表面距離であり、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離のなかの最小値が最小表面距離であり、前記最小表面距離に対する、前記金属板の長さ方向の各位置での表面距離と前記最小表面距離との差分の比率が幅方向での伸び差率であり、前記幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲26発明1は、「Fe-Ni系低熱膨張合金薄板」の「急峻度が0.01%」である点。 (b)そして、前記(a)の相違点18’は前記a(a)の相違点18と同じものであるから、前記a(b)に記載したのと同様の理由により、本件発明6は、甲26発明1に基づいて、又は、甲26発明1及び本件特許の原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明7、8について検討しても事情は同じである。 c 小括 よって、本件発明1~4、6~8は、甲第26号証に記載された発明に基づいて,又は、甲第26号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 申立人古川の主張、古川上申書及び古川意見書について (ア)申立人古川の特許異議申立書、古川上申書及び古川意見書における主張は、概略、以下のとおりである。 a 甲第1号証、甲第2号証の記載によれば、急峻度と伸び差率の間には、伸び差率=(π/2×急峻度/100)2の関係式が成立するから、甲第10号証の実施例のNo.6のFe-Ni系合金薄板は、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」である蓋然性が高いので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第10号証に記載された発明であり、同請求項1~8に係る発明は、甲第10号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書115ページ2行~122ページ最終行)。 b 甲第11号証の第4サンプルの金属板の急峻度を伸び差率に変換し、かつ伸び差率を測定精度により2割減らして考慮すると、前記第4サンプルの金属板は、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」である蓋然性が高いので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6、8に係る発明は、甲第11号証に記載された発明であり、同請求項1~8に係る発明は、甲第11号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書123ページ1行~129ページ最終行)。 c 甲第12号証の第7サンプルの金属板の伸び差率からみれば、前記第7サンプルの金属板は、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」である蓋然性が高いので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~6、8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明であり、同請求項1~8に係る発明は、甲第12号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書130ページ1行~135ページ最終行)。 d 甲第13号証の実施例1のFe-Ni合金鋼ストリップの波板湾曲量からみれば、前記実施例1のFe-Ni合金鋼ストリップは、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」である蓋然性が高いので、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、甲第13号証に記載された発明であり、同請求項1~8に係る発明は、甲第13号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書136ページ1行~143ページ最終行)。 e 甲第25号証の実施例のNo.17のFe-Ni系低熱膨張合金薄板は、甲第1号証、甲第2号証に記載された急峻度と伸び差率の間の関係式からみれば、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」であり、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の厚さを10μm以上50μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第25号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書144ページ1行~150ページ最終行)。 f 甲第26号証の実施例のNo.15のFe-Ni系低熱膨張合金薄板は、甲第1号証、甲第2号証に記載された急峻度と伸び差率の間の関係式からみれば、「幅方向での伸び差率の最大値が2×10-5以下」であり、Fe-Ni系低熱膨張合金薄板の厚さを10μm以上50μm以下とすることは、当業者が容易になし得ることであるから、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明は、甲第26号証に記載された発明及び原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書144ページ1行~150ページ最終行)。 g 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7の発明特定事項は、甲第14号証に記載されているから、本件訂正前の請求項7に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものである(古川上申書1ページ11行~5ページ2行)。 h 本件訂正により、「エッチング」が「エッチング液を用いたエッチング」に訂正されたが、「エッチング液を用いたエッチング」は原出願の出願日当時の周知技術にすぎない。 そして、特許異議申立書における「(6)申立理由4(新規性欠如及び進歩性欠如)」の主張は、本件訂正後にも当てはまるものである(古川意見書24ページ1行~25ページ6行)。 (イ)そこで、前記(ア)の主張について検討すると、前記(ア)a~fの主張は、総じて、甲第1号証や甲第2号証に記載された、伸び差率=(π/2×急峻度/100)2の関係式等に基づけば、甲第10号証~甲第13号証、甲第25号証及び甲第26号証に記載された「急峻度」、「伸び差率」、「波板湾曲量」といった物性値から、本件発明における「幅方向での伸び差率の最大値」を算出又は推認できることを前提としたものといえる。 ところが、前記関係式は、前記物性値と、本件発明における「幅方向での伸び差率の最大値」との関係を示すものではないし、そのほかに、前記物性値と、本件発明における「幅方向での伸び差率の最大値」との関係を明らかにする証拠はないから、前記物性値から、本件発明における「幅方向での伸び差率の最大値」を算出又は推認できるものではない。 してみれば、前記主張は前提において誤っており、係る誤った前提に基づいた前記(ア)a~fの主張はいずれも採用できない。 また、仮に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7の発明特定事項が、甲第14号証に記載されており、「エッチング液を用いたエッチング」が原出願の出願日当時の周知技術にすぎないとしても、前記イに記載した事項に変わりはないので、前記(ア)g~hの主張も、いずれも採用できない。 エ まとめ よって、本件発明1~4、6及び8は、甲第10号証~甲第13号証に記載された発明ではなく、本件発明1~4、6~8は、甲第10号証~甲第13号証、甲第25号証、甲第26号証に記載された発明と、原出願の出願日当時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第4の2(4)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。 (3)特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反についてのまとめ したがって、特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反についての特許異議申立理由はいずれも理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるので、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立て理由によっては、本件請求項1~4及び6~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~4及び6~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正により本件請求項5は削除されたから、本件請求項5に係る特許異議の申立てについては対象となる特許が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700499

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