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特許異議申立

2023-701093

経路決定装置、ロボット及び経路決定方法

審判番号
2023-701093
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-562334
登録番号
7258046
請求日
2023年10月12日
審決日
2024年09月18日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】本田技研工業株式会社
  • 【権利者代理人】デロイトトーマツ弁理士法人
  • 【異議申立人】松岡 直之
審判長/審判官
  • 審判長 鈴木 貴雄
  • 審判官 大山 健
  • 審判官 菊地 牧子
分類
P1651.121-ZAA(G05D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7258046号発明「経路決定装置、ロボット及び経路決定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7258046号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 特許第7258046号の請求項1~6に係る特許を取り消す。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7258046号の請求項1~6に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)8月7日(優先権主張 平成30年12月27日)を国際出願日とする出願であって、令和5年4月6日にその特許権の設定登録がされ、令和5年4月14日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和5年10月12日 : 特許異議申立人 松岡 直之(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て 令和5年12月12日付け: 取消理由通知書 令和6年 2月13日 : 特許権者 本田技研工業株式会社(以下「特許権者」という。)による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書により請求された訂正を「本件訂正」という。)の提出 令和6年 3月26日 : 申立人による意見書の提出 令和6年 6月26日付け: 取消理由通知書[決定の予告](以下「決定の予告」という。) 令和6年 8月30日 : 特許権者による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである。(なお、下線部は訂正事項について特許権者が付したものである。) (1)訂正事項 [一群の請求項〔1~4〕に係る訂正] ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する経路決定部と、」と記載されているのを、 「当該予測経路決定部によって前記予測経路が決定された後、前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する経路決定部と、」と訂正する(請求項1を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。 [一群の請求項〔5、6〕に係る訂正] イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5に「前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定することを特徴とする経路決定方法。」と記載されているのを、 「当該予測経路が決定された後、前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定することを特徴とする経路決定方法。」と訂正する(請求項5を引用する請求項6も同様に訂正する。)。 [明細書に係る訂正] ウ 訂正事項3 本件明細書等の段落【0006】に「ロボットが現在位置から予測経路で移動すると想定したときに、ロボットに最も近い交通参加者との距離及びロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、ロボットの経路を決定する経路決定部と、を備えることを特徴とする。」と記載されているのを、 「予測経路決定部によって予測経路が決定された後、ロボットが現在位置から予測経路で移動すると想定したときに、ロボットに最も近い交通参加者との距離及びロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、ロボットの経路を決定する経路決定部と、を備えることを特徴とする。」と訂正する。 エ 訂正事項4 本件明細書等の段落【0013】に「ロボットが現在位置から予測経路で移動すると想定したときに、ロボットに最も近い交通参加者との距離及びロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、ロボットの経路を決定することを特徴とする。」と記載されているのを、 「予測経路が決定された後、ロボットが現在位置から予測経路で移動すると想定したときに、ロボットに最も近い交通参加者との距離及びロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、ロボットの経路を決定することを特徴とする。」と訂正する。 (2)一群の請求項についての説明 本件訂正前の請求項1~4について、本件訂正前の請求項2~4は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正後の請求項〔1~4〕は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 また、本件訂正前の請求項5、6について、本件訂正前の請求項6は、請求項5を引用しているものであって、訂正事項2によって訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、本件訂正後の請求項〔5、6〕は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 [一群の請求項〔1~4〕及び〔5、6〕に係る訂正] (1)訂正事項1、2 ア 訂正の目的について 「予測経路が決定された後」に、ロボットに最も近い交通参加者との距離及びロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、ロボットの経路を決定するとの事項は、本件訂正前の請求項1、5における、ロボットの経路の決定が、「予測経路が決定された後」であることに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 したがって、訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること 本件明細書等の段落【0058】に「この暫定移動速度決定部52では、移動方向決定部51からのロボット2の移動方向と、ロボット2のx軸速度v_x及びy軸速度v_yとに基づき、暫定移動速度指令v_cnnを算出する。この暫定移動速度指令v_cnnは、ロボット2のx軸速度の暫定値v_x_cnn及びy軸速度の暫定値v_y_cnnを要素とするものである。次いで、以上のように決定されたロボット2の暫定移動速度指令v_cnnは、暫定移動速度決定部52から移動速度決定部53に出力される。」、段落【0059】に「この移動速度決定部53では、暫定移動速度指令v_cnnに基づき、DWA(Dynamic Window Approach)を適用したアルゴリズムにより、移動速度指令vが決定される。この移動速度指令vは、目標x軸速度v_x_cmd及び目標y軸速度v_y_cmdを要素とするものであり、これらの2つの速度v_x_cmd,v_y_cmdは、後述する移動制御処理において、ロボット2のx軸速度及びy軸速度の目標値として用いられる。」、段落【0063】に「なお、本実施形態では、移動方向決定部51及び暫定移動速度決定部52が予測経路決定部に相当し、暫定移動速度指令v_cnn(すなわちx軸速度の暫定値v_x_cnn及びy軸速度の暫定値v_y_cnn)を決定することが予測経路を決定することに相当する。さらに、移動速度決定部53が経路決定部に相当し、x軸速度の暫定値v_x_cnn及びy軸速度の暫定値v_y_cnnがロボットの速度に相当する。」、及び段落【0073】に「さらに、このロボット2の移動方向と、ロボット2のx軸速度v_x及びy軸速度v_yとに基づき、暫定移動速度指令v_cnnが算出される。そして、DWAを適用したアルゴリズムを用いて、前述した式(1)の目的関数G(v)が最大値になるように、目標x軸速度v_x_cmd及び目標y軸速度v_y_cmdを要素とする移動速度指令vが決定される。それにより、CNNを用いて決定された移動方向にロボット2が移動すると想定した場合において、ロボット2に最も近い交通参加者との距離と、ロボット2の移動速度が、可能な限り大きくかつバランス良く確保されるように、目標x軸速度v_x_cmd及び目標y軸速度v_y_cmdを決定することができる。」と記載されているから、本件明細書等には、「予測経路が決定された後」に、ロボットに最も近い交通参加者との距離及びロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、ロボットの経路を決定することが記載されているといえる。 したがって、訂正事項1、2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1、2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。 [明細書に係る訂正] (2)訂正事項3、4について ア 訂正の目的について 訂正事項3、4は、訂正事項1、2により請求項1及び請求項5を訂正することに伴い、本件明細書等の段落【0006】及び【0013】の記載を整合させることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと 訂正事項3、4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。 したがって、訂正事項3、4は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。 ウ 明細書の訂正と関係する請求項についての説明 訂正事項3は、請求項1及び請求項1を引用する請求項2~4に係る発明と整合させるために行う明細書の訂正であり、一群の請求項〔1~4〕に関係する訂正である。 また、訂正事項4は、請求項5及び請求項5を引用する請求項6に係る発明と整合させるために行う明細書の訂正であり、一群の請求項〔5、6〕に関係する訂正である。 したがって、訂正事項3、4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。 3 独立特許要件 本件訂正前の全ての請求項(請求項1~6)について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~4〕、〔5、6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、請求項1~6に係る発明を、それぞれ「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 自律移動型のロボットが目的地まで移動するときの経路を、歩行者を含む交通参加者が当該目的地までの交通環境に存在する条件下で決定する経路決定装置であって、 所定の予測アルゴリズムを用いて、前記ロボットと前記交通参加者との干渉が回避されるように、前記ロボットの経路の予測値である予測経路を決定する予測経路決定部と、 当該予測経路決定部によって前記予測経路が決定された後、前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する経路決定部と、 を備えることを特徴とする経路決定装置。 【請求項2】 請求項1に記載の経路決定装置において、 前記所定の制御アルゴリズムは、Dynamic Window Approach を適用したアルゴリズムであり、 前記目的関数は、前記Dynamic Window Approach における Dynamic Window 内の前記ロボットの速度と、前記ロボットが前記現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときの前記ロボットの速度との偏差が小さいほど、より大きな値を示す関数値であることを特徴とする経路決定装置。 【請求項3】 請求項1に記載の経路決定装置と、 当該経路決定装置によって決定された経路で移動するように前記ロボットの移動機構を制御する制御部と、 を備えることを特徴とするロボット。 【請求項4】 請求項2に記載の経路決定装置と、 当該経路決定装置によって決定された経路で移動するように前記ロボットの移動機構を制御する制御部と、 を備えることを特徴とするロボット。 【請求項5】 自律移動型のロボットが目的地まで移動するときの経路を、歩行者を含む交通参加者が当該目的地までの交通環境に存在する条件下で決定する経路決定方法であって、 所定の予測アルゴリズムを用いて、前記ロボットと前記交通参加者との干渉が回避されるように、前記ロボットの経路の予測値である予測経路を決定し、 当該予測経路が決定された後、前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定することを特徴とする経路決定方法。 【請求項6】 請求項5に記載の経路決定方法において、 前記所定の制御アルゴリズムは、Dynamic Window Approach を適用したアルゴリズムであることを特徴とする経路決定方法。」 第4 決定の予告に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 本件訂正後の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和6年6月26日に特許権者に通知した決定の予告に記載した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (取消理由)本件訂正後の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記2の証拠方法のうち、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術的事項)に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 2 証拠方法 甲第1号証:特開2008-65755号公報 甲第2号証:Xuan-Tung Truong、外2名、「RGB-D and Laser Data Fusion-based Human Detection and Tracking for Socially Aware Robot Navigation Framework」、2015年12月6日-9日、Proceedings of the 2015 IEEE Conference on Robotics and Biomimetics、p.608-613 甲第3号証:国際公開第2018/220853号 甲第4号証:Dieter Fox、外2名、「The Dynamic Window Approach to Collision Avoidance」、1997年3月、IEEE Robotics & Automation Magazine、p.23-33 甲第5号証:特開2017-84110号公報 (以下「甲1」などという。) 第5 当審の判断 1 甲1について (1)甲1の記載 甲1には、以下の事項が記載されている(なお、下線部は当審が付したものである。以下同様。)。 「【0001】 本発明は、移動装置に係り、特に静止もしくは移動している障害物の存在する環境で作業を行う移動装置に好適なものである。本発明は、人やその他の高速な移動装置や、静的もしくは動的な障害物が存在する環境下で、人と同等以上の速度で移動可能な移動装置に利用することができ、自動搬送装置、自動清掃装置、警備ロボット、この他に屋外の不整地を移動する救助装置および探査機や自動運転車両、工場、病院、オフィス、道路、不整地など様々な環境でのサービスロボットなどに利用することができる。 【背景技術】 【0002】 近年、計算技術、センシング技術、通信技術など様々な電子技術の発展に伴い、特定環境で人が行う作業の自動化技術が急速に進歩している。このなか、現在、人の操縦を伴わずに自動的に移動する装置である自律移動装置の実用化開発も盛んに行われている。実用化されている自律移動装置には、自動搬送装置、自動清掃装置、警備ロボットなどがある。これらは基本的に整地かつ整備された環境の中を走行するものであるが、屋外の不整地を移動する救助装置もしくは探査機、道路を走行する自律運転車両、駅やオフィスなど人の存在する複雑な環境で作業を行うロボットなどといった自律移動装置の実用化が期待されている。このような状況の下、作業環境内に障害物がある場合でも自律的にそれを避けて移動することを可能とする障害物回避技術の需要が高まっている。 ・・・ 【0005】 前述のように、様々な環境での自律移動装置の活躍が期待されているが、特に、人に代わって作業を遂行するという観点から、人や他の高速な移動装置が存在する環境下で、人と同等以上の速度で移動可能な自律移動装置の要求がある。そのためには高速に移動する障害物を避けながら自らも高速に移動する必要があり、これを実現するには、実時間での障害物検出と回避軌道計算を行い、かつ同時に高速に移動中においても移動装置が安定に走行可能な連続した滑らかな軌道を生成する必要がある。例えば人が通常に歩く程度の約1.3m/s程度の速度で移動する場合、同等の速度で移動する移動装置と人とのすれ違い状況では2m/s以上の速度で互いに接近するので、人と共生するためには、100~数100ms程度の短い時間で回避軌道を生成し、即座に走行軌道を修正することを可能とする必要がある。 ・・・ 【0007】 本発明の目的は、移動障害物が存在する環境下においても高速な移動が可能となる移動装置を提供することにある。 ・・・ 【0011】 まず、本実施形態の移動装置について、図1を用いて簡単に説明する。図1は人の存在する環境下で作業を行うことを目的とした移動装置1の構成を説明する図であり、図1(a)はその移動装置1の正面図、図1(b)その移動装置1の側面図である。 【0012】 移動装置1は、倒立振子型移動ロボットであり、大きく分けて移動機構2と上体3とに2分される。移動機構2は、左右の車輪4、5と、これらを回転駆動する走行モータ6、7とを備える。移動機構2の上部には、移動機構2のX,Y,Z軸方向の加速度を検出する3軸の加速度センサ9と、鉛直方向を基準とした姿勢及び鉛直方向周りの方位を検出する姿勢方位センサ8とが設けられている。上体3には、作業用のアーム13や、対人インターフェース機能を持つ頭部14などの作業装置が搭載されている。さらに、上体3には、ロボット全体を制御する制御装置11が内蔵されており、また、走行領域に存在する走行方向の障害物の位置及び形状を計測する外界センサ12が設けられている。 ・・・ 【0017】 障害物回避処理部23は、外界センサ12から移動装置周辺の環境データを逐次受信し、また同時に、動作統合管理部20から移動装置1の姿勢、位置、軌道などのデータを受け取る。そして、障害物回避処理部23は、これらのデータを基に移動装置周辺の物体の位置、存在領域、移動速度の計算を行い、この計算結果を基に前記物体との衝突計算を行う。この衝突計算で衝突の可能性がある場合、障害物回避処理部23は、回避経路および回避軌道の計算を行い、動作統合管理部20へ衝突可能性の検出データや回避軌道データなどを送信する。 ・・・ 【0019】 また、動作統合管理部20は、障害物回避処理部23から衝突可能性を示唆する信号を受け取った場合は、現在走行している軌道から、障害物回避処理部23から送信された回避軌道へ所定のタイミングで切り替え、その軌道データを走行制御部22に送信する。さらに、動作統合管理部20は、この他にも、視聴覚処理部や各種外界センサ処理部、さらに音声処理部、環境地図および自己位置管理部、走行データ生成部などの情報統合および管理を行っている。 ・・・ 【0022】 障害物回避処理部23は、図3に示すように、外界情報取得手段31で外界情報を取得し、この取得した外界情報を基に障害物検出手段32で障害物を検出し、この検出した障害物の特徴を障害物特徴推定手段33で推定し、推定した障害物特徴を基に衝突予測手段34で衝突の有無を予測し、衝突する場合に回避経路計画手段35で回避経路を計画し、この計画を基に回避軌道生成手段36で滑らかな回避軌道を生成する。以下、各手段31~36を具体的に説明する。 ・・・ 【0035】 そして、図3に示す障害物特徴推定手段33は、障害物候補リスト59に記載された障害物の存在領域推定処理61や移動パターン推定処理62などの障害物特徴の認識処理を図5に示すように行う。ここでは、障害物候補リスト59に記載された物体の過去のデータを参照して、形状と大きさおよび移動量(ベクトル)などの障害物の時系列情報を用いる。 ・・・ 【0038】 そして、図3に示す衝突予測手段34は、前記障害物の特徴情報と前記自己情報を用いて、障害物と移動装置自身(自己)との衝突危険性の予測を図6に示すように行う。ここでは、まず障害物との衝突を安全に避けるために自己が立ち入らない領域を決定し、その領域との干渉がないか検査する。図6は、衝突予測について説明する図であり、以下、図6を用いて説明する。図6(a)は自己70と障害物71の現在の位置を示している。説明を簡単にするために図では仮想存在領域72は円で示されている。 【0039】 まず、前記障害物仮想存在領域72に、自己の姿勢や付属物に応じた自己の存在領域の中心からの最大距離73や、すれ違う時に空けておくべき間隔74などを拡張した領域を衝突危険領域75とする。例えば、前記障害物特徴推定手段33で算出した前記移動ベクトルの誤差成分は、すれ違い間隔74として加算する。自己位置がこの領域に入ると衝突する可能性がかなり高いと考える。但し、自己の存在領域は衝突危険領域75に加味したので、以降、自己は大きさの無い点70と考える。 【0040】 次いで、回避開始タイミングの調整もしくは回避動作の安全性を高めるために、安全距離76を考慮する。この安全距離76を考慮した領域を衝突注意領域77とする。安全距離76としては、移動速度に応じた余裕領域や歩行者のパーソナルスペースと呼ばれる人が危険と感じない領域を考慮する。図6(a)では、この安全距離76を進行方向に関係なく一定距離としている。また、障害物のパーソナルスペースとして進行方向78を長軸とした楕円領域79を考えると、図6(b)に示す衝突注意領域80となる。自己のパーソナルスペースとして、進行方向81を長軸とした楕円領域82を考えると、図6(c)に示す衝突注意領域83となる。以上の様に自己が立ち入らない領域を考慮すると、歩行者に不安を感じさせない回避が実現できる。前記衝突領域は、障害物について行う。また、この衝突注意領域は複数用意しておき、緊急性などの状況に応じて選択して使用しても良い。 【0041】 次いで、この領域と自己との干渉を調べることで衝突予測を行う。ここでは、自己点70を、自己と障害物との相対移動ベクトルで移動させた相対移動軌跡84が衝突注意領域77もしくは衝突危険領域75と干渉が無いか検査することで衝突予測を行う。干渉した場合は、衝突フラグを設定する。ここで、衝突フラグは緊急性もしくは危険性に伴い、多段階に判定する。例えば、衝突までの時間が2秒未満であれば衝突危険フラグ、2秒より大きく5秒未満であれば衝突注意フラグ、それ以上は衝突予報フラグとする。 ・・・ 【0045】 そして、図3に示す回避経路計画手段35は、前記衝突フラグが設定された場合、障害物を回避するために回避経路を計画する。ここでの回避経路とは、移動装置が実際に走行する正確な軌道ではなく、障害物の右もしくは左などの所定の経由点もしくは回避領域を通ることを規定する大まかなものである。 【0046】 ここでは、まず衝突フラグをチェックし、衝突の緊急性を調べ、対応した回避動作の経路計画を行う。例えば衝突フラグの種類が衝突危険フラグであった場合は、早急に回避動作を開始する必要がある。選択する回避動作としては、その緊急性に伴い、自己の移動方向を衝突注意領域の左もしくは右を通過するように変更、衝突危険領域の左もしくは右を通過するように変更、衝突危険領域に進入しないように減速、衝突危険領域に進入しないように移動して停止などがある。ここで、複数の衝突注意領域を用意している場合は、衝突フラグの種類に応じて選択する必要がある。例えば衝突予報フラグの場合は、その一番大きなものを使用する。このようにすることにより、余裕のある安全な回避が実現できる。 【0047】 以下に、回避経路の経由点を求める方法について図7を用いて簡単に説明する。 【0048】 まず、図7(a)は、障害物を回避するために自己移動ベクトルを変更する方法の例を示している。図7(a)では、障害物が1つの場合の、ある時刻の障害物位置固定相対空間である。自己100は単位時間移動ベクトル101で移動し、障害物102は単位時間移動ベクトル103で移動している。従って、単位時間相対移動ベクトル111は、自己100の単位時間移動ベクトル101を平行移動したベクトル108と、障害物102の単位時間移動ベクトル103を平行移動して方向を逆にしたベクトルS→107との合成ベクトルとなる。障害物102を回避するためには、単位時間相対移動ベクトル111の先端を、自己100と障害物102の衝突注意領域104との接線105、106の外側になるように変更すると良い。例えば自己100が移動速度を維持して方向変換のみで回避する場合、自己の移動ベクトル108は、ベクトルV→109に変更する。ここで、接線方向105に接する方向の単位ベクトルをC→110とすると、変更後の自己の単位時間移動ベクトルV→109は、次の式(2)で表される。 【0049】 【数2】 [図:0001419326000001.jpg] 図7(b)は2つの障害物の衝突までの時間が接近している場合を想定し、2つの障害物を同時に回避する例を示している。この場合も障害物が1つの場合と同様にして回避ベクトルを決定する。図7(b)には、移動速度を維持する回避ベクトル114、115、加速して回避する回避ベクトル116、減速して回避する回避ベクトル117を示しているが、元の自己の単位移動ベクトル113に対し、変更が容易なものを選択する。以上のように、自己の回避移動ベクトルは、障害物位置固定相対空間を用いて決定する。 ・・・ 【0055】 このようにして、障害物を回避する左右およびその周辺の点を経由点としてそのいずれかを通る複数の経路が生成される。次いで、これらの経路について、最短距離、角度変化最小、速度変化最小、到達時間最短、移動障害物の後方を通過すること、経路幅の広さなど幾つかの評価項目に従い、順位付けする。 【0056】 そして、図3に示す回避軌道生成手段36は、前記の選択された回避経路の各経由点の近傍を通り、移動装置が走行可能な滑らかな回避軌道を生成する。図8は本実施形態の回避軌道生成を説明する図である。ここでは経由点140もしくはその近傍を通る滑らかな曲線141、経由点142を通る曲線144、もしくは経由点142の近傍を通る滑らかな曲線143を生成する。前記回避経路は逐次更新されるので、回避軌道は、例えば直近の数秒程度の経路につき行う。本発明は曲線の関数生成方法を限定するものではないが、曲線の生成は、一般的に知られているスプライン関数、ペジェ関数、各点の拘束条件および曲率変化の拘束条件などを用いた高次関数、移動装置の制御モデルに従った曲線にて生成する。 【0057】 生成した曲線は、実空間の衝突注意領域もしくは衝突危険領域との干渉を検査する。衝突計算は、前述の相対空間で実施する。衝突注意領域は安全領域が十分大きく取られているので、多少の干渉は問題とならないが、衝突危険領域に干渉する場合は、経由点を移動して新たな経由点145を用いて再度曲線を生成する。このとき、同時にその曲線が実際に走行できるか確認するために、移動装置のモデルに基づき、曲率制限、曲率変化の制限、速度制限などの条件を満たしているか検査する。経由点の移動は、周囲8方向に僅かにずらした経由点を用いた回避軌道を評価し、曲率の変化が滑らかかつ極小となる経由点を選択しても良い。計算量を減らすため、制約条件の検査は主に経由点の近傍で行う。これらの処理を複数回繰りかえし、収束しない場合は、前記複数経路の他の経路を選択して、再度軌道生成を行う。生成された軌道は、動作統合管理部20を通して、走行制御部22に送られる。走行制御部22は、実際に移動装置がこの軌道に追従するための制御を行う。 ・・・ 【0060】 以上、本実施形態によれば、移動装置1において、実時間で高速移動する障害物との衝突予測、回避経路の計算、実現可能な回避軌道の生成が可能になる。また、滑らかな回避軌道が実現可能となる。従って、移動装置1において、高速な移動障害物の回避が可能となり、高速な移動障害物が存在する環境下においても高速な移動が可能となる。」 図2 「 [図:0001419326000002.jpg] 」 図3 「 [図:0001419326000003.jpg] 」 図6 「 [図:0001419326000004.jpg] 」 図7 「 [図:0001419326000005.jpg] 」 図8 「 [図:0001419326000006.jpg] 」 (2)甲1から理解できる事項 ア 段落【0002】、【0005】の記載等から、甲1の移動装置1は、自律移動型の移動装置であることが理解できる。また、段落【0015】、【0017】、【0022】の記載等から、甲1の移動装置1は、障害物回避処理部23を備えることがわかる。 イ 段落【0022】、【0038】~【0041】、【0045】~【0046】の記載及び図3等から、甲1の障害物回避処理部23においては、衝突予測手段34を用いて、移動装置と障害物衝突危険領域の干渉を調べることで衝突予測を行い、衝突フラグが設定された場合(移動装置と障害物衝突危険領域が干渉した場合)、回避経路計画手段35により障害物を回避するための回避経路を計画していることが理解できる。そして、甲1で、衝突予測を行うために衝突予測手段34を用いることは、予測アルゴリズムを用いているといえる。 ウ 段落【0022】、【0056】の記載等から、甲1の障害物回避処理部23においては、回避経路計画手段35によって回避経路が決定された後に、回避軌道生成手段36により、回避経路の各経由点の近傍を通り、移動装置1が走行可能な滑らかな回避軌道を生成するように、所定の曲線の関数生成方法を用いて、移動装置1の回避軌道が決定されていることが理解できる。そして、移動装置1が走行可能な滑らかな回避軌道を生成するために、所定の曲線の関数生成方法を用いることは、移動装置1を制御するための制御アルゴリズムを用いているといえる。 (3)甲1発明 上記(1)、(2)からみて、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> 「自律移動型の移動装置1が目標点まで移動するときの回避軌道を、人を含む静止又は移動している障害物の存在する環境下で決定する障害物回避処理部23であって、 衝突予測手段34を用いて、前記移動装置1が障害物衝突危険領域に進入しないように、回避経路を決定する回避経路計画手段35と、 当該回避経路計画手段35によって前記回避経路が決定された後、前記移動装置1が現在位置から前記回避経路で移動すると想定したときに、前記回避経路の各経由点の近傍を通り、移動装置1が走行可能な滑らかな回避軌道を生成するように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記移動装置1の前記回避軌道を決定する回避軌道生成手段36と、 を備える障害物回避処理部23。」 2 甲4について (1)甲4の記載 甲4には、以下の事項が記載されている。なお、訳文については、申立人の添付した訳文を参酌して当審で付した。 ア 「THE DYNAMIC WINDOW APPROACH In the dynamic window approach the search for commands controlling the robot is carried out directly in the space of velocities. The dynamics of the robot is incorporated into the method by reducing the search space to those velocities which are reachable under the dynamic constraints. In addition to this restriction only velocities are considered which are safe with respect to the obstacles. This pruning of the search space is done in the first step of the algorithm. In the second step the velocity maximizing the objective function is chosen from the remaining velocities. A brief outline of the different parts of one cycle of the algorithm is given in Figure 3. In the current implementation such a cycle is performed every 0.25 seconds. In the remainder of this section we will use the situation shown in Figure 2 to describe the different aspects of the dynamic window approach. 1. Search space: The search space of the possible velocities is reduced in three steps: (a)Circular trajectories: The dynamic window approach considers only circular trajectories (curvatures) uniquely determined by pairs (v,ω) of translational and rotational velocities. This results in a two-dimensional velocity search space. (b)Admissible velocities: The restriction to admissible velocities ensures that only safe trajectories are considered. A pair (v,ω)is considered admissible, if the robot is able to stop before it reaches the closest obstacle on the corresponding curvature. (c) Dynamic window: The dynamic window restricts the admissible velocities to those that can be reached within a short time interval given the limited accelerations of the robot. 2. Optimization: The objective function G (v,ω) = σ(α・heading(v,ω)+β・dist(v,ω)+γ・vel(v,ω)) (13) is maximized. With respect to the current position and orientation of the robot this function trades off the following aspects: (a)Target heading: heading is a measure of progress towards the goal location. It is maximal if the robot moves directly towards the target. (b)Clearance: dist is the distance to the closest obstacle on the trajectory. The smaller the distance to an obstacle the higher is the robot's desire to move around it. (c)Velocity: vel is the forward velocity of the robot and supports fast movements. The function σ smoothes the weighted sum of the three components and results in more side-clearance from obstacles. Figure 3. Different Parts of the Dynamic Window Approach.」(26ページ右欄7~末行) (当審訳) 「ダイナミック・ウィンドウ・アプローチ ダイナミック・ウィンドウ・アプローチでは、ロボットを制御するコマンドの探索は速度空間で直接行われる。ロボットの力学は、探索空間を力学的制約の下で到達可能な速度に縮小することで手法に組み込まれる。この制限に加えて、障害物に対して安全な速度のみが考慮される。この探索空間の刈り込みはアルゴリズムの第1ステップで行われる。第2ステップでは、残りの速度から目的関数を最大化する速度が選択される。アルゴリズムの1サイクルの異なる部分の概略を図3に示す。現在の実装では、このようなサイクルは0.25秒ごとに実行される。 このセクションの残りの部分では、図2に示した状況を用いて、ダイナミック・ウィンドウ・アプローチのさまざまな側面について説明する。 1.探索空間:可能な速度の探索空間は、次の3段階で縮小される。 (a)円軌道:ダイナミック・ウィンドウ・アプローチでは並進速度と回転速度の組(v,ω)によって一意に決まる円形の軌跡(曲率)のみを考慮する。このため、2次元の速度探索空間となる。 (b)許容速度:許容速度に限定することで、安全な軌道のみが考慮される。ロボットが、対応する曲線上の最も近い障害物に到達する前に停止できる場合、ペア(v,ω)は許容されると考える。 (c)ダイナミック・ウィンドウ:ダイナミック・ウィンドウは、ロボットの限られた加速度を考慮し、許容速度を短い時間内に到達できる速度に制限する。 2.最適化:目的関数、 G(v,ω)= σ(α・heading(v,ω)+β・dist(v,ω)+γ・vel(v,ω)) (13) が最大化される。この関数は、ロボットの現在位置と姿勢に関して、次のようなトレードオフを行う。 (a)方位:headingは目標位置への前進の尺度である。ロボットが直接目標に向かうと最大になる。 (b)クリアランス:distは軌道上の最も近い障害物までの距離である。障害物までの距離が小さければ小さいほど、ロボットはその障害物を避けて移動したいという欲求が高くなる。 (c)速度:velはロボットの前進速度で、速い動きをサポートする。 関数σは、3つの成分の加重和を平滑化し、障害物からのサイドクリアランスを大きくする。 図3.ダイナミック・ウィンドウ・アプローチのさまざまな部分」 イ 「Smoothing All three components of the objective function are normalized to [0,1]. The weighted sum of these components is shown in Figure 10. It is obtained by a value of 2.0 for α and a value of 0.2 for β and γ. As expected the fastest trajectory leading through the door area gets the highest evaluation (compare with Figure 4). Smoothing increases side-clearance of the robot. ・・・ It should be noticed that all three components of G, the target heading, the clearance and the velocity are necessary. By maximizing solely the clearance and the velocity, the robot would always travel into free space but there would be no incentive to move towards a goal location. By solely maximizing the target heading the robot quickly would get stopped by the first obstacle that blocks its way, unable to move around it. By combining all three components, the robot circumvents collisions as fast as it can under the constraints listed above, while still making progress towards reaching its goal.」(29ページ左欄8~下から2行) (当審訳) 「平滑化 目的関数の3つの要素はすべて[0,1]に正規化される。これらの要素の加重合計を図10に示す。これは、αの値が2.0、βとγの値が0.2で得られる。予想どおり、ドア領域を通過する最速の軌道が最も高い評価を得る(図4と比較)。平滑化により、ロボットの側面クリアランスが増加する。・・・ Gにおいて、方位、クリアランス、速度の3つの要素すべてが必要であることに注意が必要である。クリアランスと速度のみを最大化すると、ロボットは常に自由空間に移動するが、目標位置に向かって移動するインセンティブがない。また、方位のみを最大化すると、ロボットは最初の障害物によってすぐに停止し、それを回避できない。3つの要素をすべて組み合わせることで、ロボットは上記の制約の下で衝突をできるだけ速く回避しながら、目標地点に到達する。」 ウ 「On the other extreme, a high heading weight forces the robot to approach objects very closely before turning away, which prohibits smooth circumvention of obstacles. By choosing different values for α global knowledge about the environment can be transfered to the local obstacle avoidance. While higher values produce good results in narrow environments, smaller values are more appropriate in wide and populated hallways.」(31ページ右欄22行~32ページ左欄3行) (当審訳) 「一方、方位の割合が高いと、ロボットは背を向ける前に物体に非常に接近することを余儀なくされ、障害物をスムーズに回避できなくなる。 また、異なる値のαを選択することで、環境に関する全体的な知識をローカルな障害物回避に転送できる。狭い環境では値が大きいほど良い結果が得られるが、広くて人口の多い廊下では値が小さい方が適切である。」 (2)甲4に記載の技術的事項 上記(1)から、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4に記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。 <甲4に記載の技術的事項> 「ロボットに最も近い障害物との距離の関数dist(v,ω)及びロボットの速度の関数vel(v,ω)を独立変数として含む目的関数G(v,ω)が最大化されるように、ダイナミック・ウィンドウ・アプローチを用いて、ロボットの軌道を決定する。」 3 対比、判断 (1)本件発明1 ア 対比 甲1発明を、本件発明1と対比する。 甲1発明の「自律移動型の移動装置1」は、その機能に照らせば、本件発明1の「ロボット」に相当し、以下同様に、「目標点」は「目的地」に、「回避軌道」は「経路」に、「人を含む静止又は移動している障害物の存在する環境下」は「歩行者を含む交通参加者が当該目的地までの交通環境に存在する条件下」に、「障害物回避処理部23」は「経路決定装置」に、「移動装置1が障害物衝突危険領域に進入しないように」は「ロボットと前記交通参加者との干渉が回避されるように」に、それぞれ相当する。 また、甲1発明の「衝突予測手段34を用い」ることは、上記1(2)イのとおり、移動装置と障害物衝突危険領域の干渉を調べることで衝突予測を行い、衝突フラグが設定された場合(移動装置と障害物衝突危険領域が干渉した場合)、回避経路計画手段35により障害物を回避するための回避経路を計画することであると理解でき、予測アルゴリズムを用いているといえるから、本件発明1の「所定の予測アルゴリズムを用い」ることに相当する。 また、甲1発明の「回避経路」は、例えば甲1の段落【0022】等の記載から、回避軌道(経路)を生成することに先立って、移動装置1が障害物衝突危険領域に進入しないように計画される経路であるから、本件発明1の「ロボットの経路の予測値である予測経路」に相当し、同様に「回避経路計画手段35」は「予測経路決定部」に相当する。 また、甲1発明の「前記回避経路の各経由点の近傍を通り、移動装置1が走行可能な滑らかな回避軌道を生成するように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記移動装置1の前記回避軌道を決定する回避軌道生成手段36」と、本件発明1の「前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する経路決定部」とは、「所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する経路決定部」である点では共通する。 してみると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 自律移動型のロボットが目的地まで移動するときの経路を、歩行者を含む交通参加者が当該目的地までの交通環境に存在する条件下で決定する経路決定装置であって、 所定の予測アルゴリズムを用いて、前記ロボットと前記交通参加者との干渉が回避されるように、前記ロボットの経路の予測値である予測経路を決定する予測経路決定部と、 当該予測経路決定部によって前記予測経路が決定された後、前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する経路決定部と、 を備える経路決定装置。 <相違点1> 経路(回避軌道)の決定が、本件発明1では、「前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて」いるのに対し、甲1発明では、回避経路の各経由点の近傍を通り、移動装置1が走行可能な滑らかな回避軌道を生成するように、所定の制御アルゴリズムを用いている点。 イ 判断 上記相違点1について検討する。 上記2(2)のとおり、甲4には、 「ロボット(ロボット)に最も近い障害物(近い交通参加者)との距離の関数dist(v,ω)(距離)及びロボットの速度の関数vel(v,ω)(速度)を独立変数として含む目的関数G(v,ω)(目的関数)が最大化されるように(最大値になるように)、ダイナミック・ウィンドウ・アプローチ(所定の制御アルゴリズム)を用いて、ロボットの軌道(経路)を決定する。」(便宜のため、括弧内には、甲4の用語や表現に対応する、本件発明1の用語や表現を記載した。) との技術的事項が記載されている。 そして、甲1発明と、甲4に記載の技術的事項とは、障害物を回避する経路を生成する点で技術分野が関連するとともに作用・機能が共通し、また甲1発明は、高速に移動する障害物を避けながら(すなわち障害物との必要最小限の距離を保ちながら)、自らも高速に移動する(すなわち移動装置1の速度を最大化する)(段落【0005】、【0007】)ことを課題とするものであるから、甲1発明に、甲4に記載の技術的事項を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。 ウ 小括 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)本件発明2~4 ア 本件発明2 上記2(2)で示したとおり、甲4には、ロボットに最も近い障害物との距離の関数dist(v,ω)及びロボットの速度の関数vel(v,ω)を独立変数として含む目的関数G(v,ω)が最大化されるように、ダイナミック・ウィンドウ・アプローチを用いて、ロボットの軌道を決定するとの技術的事項が記載されており、すなわち、所定の制御アルゴリズムとしてダイナミック・ウィンドウ・アプローチを用いることが記載されているところ、当該ロボットの速度の関数vel(v,ω)をどのような関数とするか(どのような速度の場合に、大きな値を取るように設計するか)は、生成しようとする回避軌道についての条件(例えば、目的地に早く到着させる、予測経路になるべく沿わせる、障害物との距離をなるべく大きくするなど。)等を考慮して設計する、当業者にとっての設計事項の範ちゅうにすぎない。そして、ロボットを制御する際に現在の又は予め設定された速度からの速度変化を小さくすることは、一般的に知られている技術的事項(例えば、甲1の段落【0055】において「速度変化最小」を評価項目として複数の経路に順位付けを行っていることを参照。)であることなどを考慮すれば、本件発明2は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。 イ 本件発明3~4 決定された回避軌道で移動するように移動装置1の移動機構を制御することは甲1(段落【0019】、【0057】等を参照。)に記載されている。 したがって、本件発明3~4は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。 ウ 小括 以上から、本件発明2~4は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)本件発明5、6 ア 本件発明5 (ア)甲1の方法発明 上記1から、甲1には、次の方法発明(以下「甲1の方法発明」という。)も記載されているといえる。(便宜のため、括弧内には、甲1の方法発明の用語や表現に対応する、本件発明5の用語や表現を記載した。) <甲1の方法発明> 「自律移動型の移動装置1(ロボット)が目標点(目的地)まで移動するときの回避軌道(経路)を、人を含む静止又は移動している障害物の存在する環境下(歩行者を含む交通参加者が当該目的地までの交通環境に存在する条件下)で決定する回避軌道生成方法(経路決定方法)であって、 衝突予測手段34を用いて(所定の予測アルゴリズムを用いて)、前記移動装置1が障害物衝突危険領域に進入しないように(前記ロボットと前記交通参加者との干渉が回避されるように)、回避経路を決定し(前記ロボットの経路の予測値である予測経路を決定し)、 当該回避経路が決定された後(当該予測経路が決定された後)、前記移動装置1が現在位置から前記回避経路で移動すると想定したときに(前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに)、前記回避経路の各経由点の近傍を通り、移動装置1が走行可能な滑らかな回避軌道を生成するように、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記移動装置1の前記回避軌道を決定する(所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する)回避軌道生成方法(経路決定方法)。」 (イ)対比 本件発明5と甲1の方法発明とは、上記(ア)に示した相当関係に照らせば、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 自律移動型のロボットが目的地まで移動するときの経路を、歩行者を含む交通参加者が当該目的地までの交通環境に存在する条件下で決定する経路決定方法であって、 所定の予測アルゴリズムを用いて、前記ロボットと前記交通参加者との干渉が回避されるように、前記ロボットの経路の予測値である予測経路を決定し、 当該予測経路が決定された後、前記ロボットが現在位置から前記予測経路で移動すると想定したときに、所定の制御アルゴリズムを用いて、前記ロボットの前記経路を決定する経路決定方法。 <相違点2> 経路(回避軌道)の決定が、本件発明5では、「前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む目的関数が最大値になるように、所定の制御アルゴリズムを用いて」いるのに対し、甲1の方法発明では、回避経路の各経由点の近傍を通り、移動装置1が走行可能な滑らかな回避軌道を生成するように、所定の制御アルゴリズムを用いている点。 (ウ)判断 上記相違点2は、実質的に上記相違点1(上記(1)ア)と同じである。 そして、相違点1についての判断(上記(1)イ)と同様の理由により、本件発明5は、甲1の方法発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、相違点2に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。 イ 本件発明6 所定の制御アルゴリズムとしてダイナミック・ウィンドウ・アプローチを用いることは、甲4に記載されている(上記2(2)を参照。)。 したがって、本件発明6は、甲1の方法発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。 ウ 小括 以上から、本件発明5、6は、甲1の方法発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項5、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 第6 特許権者の主張についての検討 特許権者は、令和6年8月30日提出の意見書において、以下の旨を主張している。 1 特許権者の主張の概要 (1)甲4では、目的関数G(v,ω)が、「G(v,ω)=σ(α・heading(v,ω)+β・dist(v,ω)+γ・vel(v,ω))」であることが不可分であり、目的関数G(v,ω)を構成する3つのheading項、dist項及びvel項は一体不可分である(甲4の29ページ左下に「It should be noticed that all three components of G-the target heading, the clearance the velocity-are necessary.」との記載があり、さらに、「クリアランスと速度のみを最大化する場合は、ロボットは常に自由空間を移動するが目標位置に向かって移動する動機はない」こと、「目標方向のみを最大化することでロボットは道を塞ぐ最初の障害物によってすぐに停止し、回避できなくなる」といったことが記載されている。)。 そして、甲4は、3つのheading項、dist項及びvel項を組み合わせることで、ロボットは可能な限り早く衝突を回避しながら目標へ到達することを解決するものであり、その一部である「α・heading(v,ω)」を捨象し、「β・dist(v,ω)+γ・vel(v,ω)」のみを抜き出して甲4に記載の技術的事項を認定することはできない。 (2)障害物回避の思想は、「予測的回避」及び「反射的回避」に大別されるところ、甲1発明は予測的回避に、甲4に記載の技術的事項は反射的回避に分類されるものであるから、互いに回避思想が異なるものであり、組みあわせることは困難である。 2 上記主張に対する検討 (1)上記1(1)について検討する。 上記第5の2(1)に摘記した甲4に記載された事項から、同(2)に示した「甲4に記載の技術的事項」を認定したことに誤りはない。すなわち、当該甲4に記載の技術的事項は、「ロボットに最も近い障害物との距離の関数dist(v,ω)及びロボットの速度の関数vel(v,ω)を独立変数として含む目的関数G(v,ω)が最大化されるように、ダイナミック・ウィンドウ・アプローチを用いて、ロボットの軌道を決定する。」と認定したように、その「目的関数G(v,ω)」は、少なくとも「ロボットに最も近い障害物との距離の関数dist(v,ω)及びロボットの速度の関数vel(v,ω)を独立変数として含む」ものである。特許権者は、甲4の記載から、「目的関数G(v,ω)」から「α・heading(v,ω)」項を捨象することができない旨を主張するものの、当該甲4に記載の技術的事項では、「目的関数」が「ロボットに最も近い障害物との距離の関数dist(v,ω)」及び「ロボットの速度の関数vel(v,ω)」を独立変数として含むと認定したのであって、「α・heading(v,ω)」項を独立変数として完全に排除したものではない。 そして、本件発明1、5においても、「目的関数」は「前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離及び当該ロボットの速度を独立変数として含む」と特定されていることからみて、当該本件発明1、5の「目的関数」も、「前記ロボットに最も近い前記交通参加者との距離」及び「当該ロボットの速度」以外の独立変数を含み得るものであるから、本件発明1、5の目的関数が、甲4に記載の技術的事項の目的関数とは異なる、とも認めることもできない。 さらに、甲4に記載された、目的関数「G(v,ω)=σ(α・heading(v,ω)+β・dist(v,ω)+γ・vel(v,ω))」において、「α・heading(v,ω)」の独立変数が一体不可分であったとしても、それぞれの独立変数の係数(α、β、γ)は、それぞれロボットを制御する目的等に応じて、適宜設計し得るものであるところ、当該目的関数における「β・dist(v,ω)+γ・vel(v,ω)」が最大化されるように設計すること(例えば、ロボットの角度変化を最小としながら(甲1の段落【0055】の「角度変化最小」等を参照。)、安全性や目標地点への到達時間を考慮して、ロボットに最も近い障害物との距離又はロボットの速度を最大化しようと設計すること。)にも困難性は認められない。 (2)上記1(2)について検討する。 甲1には、ロボットが障害物と衝突しないような予測経路を予め決定した後に、最終的なロボットの経路を決定することが記載されているところ、最終的なロボットの経路を決定する処理として、同一の技術分野における公知の処理である、甲4に記載されたダイナミック・ウィンドウ・アプローチを用いることが困難であるとはいえない。甲1及び甲4が、それぞれ単独で成立するものであったとしても、複数の手法を組み合わせて効果等の向上を図ることは当業者が通常試みることであって、両者を組み合わせることに阻害事由も見当たらない。 また、甲1発明が予測的回避、甲4に記載の技術的事項が反射的回避に大別されるとの主張の根拠が明らかではないが、甲1の段落【0056】には「前記回避経路は逐次更新されるので、回避軌道は、例えば直近の数秒程度の経路につき行う。」と記載されることから、甲1発明も反射的回避が可能であるものとも解される上に、仮に当該記載が反射的回避にあたらないとしても、ロボットを制御する際に、障害物を回避しながら目標地点へ到達するようにロボットの移動経路を生成することも、ロボットが障害物等を監視しながら障害物を回避するように制御することも慣用の技術であって、それら両者を組み合わせることが当業者にとって困難であるとはいえない。 (3)以上から、特許権者の主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本件発明1~6は、甲1発明又は甲1の方法発明と、甲4に記載の技術的事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1~6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701093

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