特許異議申立
2023-700435
演算処理装置、無線操縦飛行機
- 審判番号
- 2023-700435
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-148992
- 登録番号
- 7185378
- 請求日
- 2023年04月26日
- 審決日
- 2024年12月05日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】双葉電子工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
- 【権利者代理人】岩田 雅信
- 【権利者代理人】中川 裕人
- 【異議申立人】神田 紀子
- 審判長/審判官
- 審判長 本庄 亮太郎
- 審判官 刈間 宏信
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.113-YAA(G05D) / P1651.121-YAA(G05D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7185378号発明「演算処理装置、無線操縦飛行機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7185378号の特許請求の範囲を、令和5年12月14日に提出され、令和6年1月22日及び同年11月19日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。
特許第7185378号の請求項1、3~5に係る特許を維持する。
特許第7185378号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許掲載公報の発行までの経緯
特許第7185378号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、出願日が令和2年9月4日であって、令和4年11月29日にその特許権の設定登録がされ、同年12月7日に特許掲載公報が発行された。
2 特許異議の申立て以降の経緯
本件特許についての特許異議の申立て以降の主な経緯は、次のとおりである。
(1)令和5年4月26日
特許異議申立人 神田紀子(以下「申立人」という。)による、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
(2)令和5年10月12日付け
取消理由の通知
(3)令和5年12月14日
特許権者 双葉電子工業株式会社(以下「特許権者」という。)による、訂正(以下「本件訂正」という。)の請求及び意見書の提出
(4)令和6年1月9日付け
訂正請求書に対する補正指令
(5)令和6年1月22日
訂正請求書を補正する旨の特許権者による手続補正書の提出
(6)令和6年6月4日付け
訂正請求があった旨の通知
(7)令和6年10月22日
審判官と特許権者代理人との電話応対
(8)令和6年10月23日付け
訂正拒絶理由の通知
(9)令和6年11月19日
訂正請求書を補正する旨の特許権者による手続補正書及び意見書の提出
なお、上記(6)のとおり、当審は、期間を指定して申立人に意見書を提出する機会を与えたが、当該期間内に申立人から応答はなかった。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の趣旨及び内容について
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める、というものであるところ、当該訂正請求書は、令和6年1月22日及び同年11月19日に提出された手続補正書により補正された(以下、補正された訂正請求書を「訂正請求書」という。)。
そして、本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所を示すために当審で付したものである。)
<請求項1~4について>
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を算出する演算部を備える」
と記載されているのを、
「無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの比例項、積分項及び微分項に基づくPID制御により算出する演算部を備え、
前記演算部は、前記無線操縦飛行機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、前記無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出し、該算出した変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する」
に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3~4も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「請求項1又は請求項2に記載の」と記載されているのを、
「請求項1に記載の」と訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1から請求項3の何れかに記載の」と記載されているのを、
「請求項1又は請求項3に記載の」と訂正する。
(なお、訂正請求書には、請求項3及び4を訂正する旨の明記はないが、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲は、上記訂正事項3及び4のとおりに記載されている上に、訂正請求書3ページの「訂正前後の請求項対応表」にも、上記訂正事項3及び4と同趣旨の記載があることから、訂正請求書において上記訂正事項3及び4が欠落していると善解する。)
<請求項5について>
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「無線通信により操縦される無線操縦飛行機であって、
自機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を算出する演算処理装置を備える」
と記載されているのを
「無線通信により操縦される無線操縦飛行機であって、
自機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの比例項、積分項及び微分項に基づくPID制御により算出する演算部を有し、
前記演算部が、自機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、自機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出し、該算出した変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する演算処理装置を備える」
に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~4について、請求項2~4がそれぞれ請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項1~4について、請求されたものである。
3 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、全ての請求項1~5を対象としているので、訂正事項1~5に関して、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「制御量を算出する演算部」について、「制御量を、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの比例項、積分項及び微分項に基づくPID制御により算出する演算部を備え、前記演算部は、無線操縦飛行機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、前記無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出し、該算出した変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する」と訂正することで、演算部による制御量の算出を、より具体的に限定するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1のうち、演算部が、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれについて、PID制御により制御量を演算することは、本件の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0027】に
「ここでPID制御とは、比例項P、積分項I及び微分項Dに基づいて制御量を決定する手法である。本例においては各軸ごとにPID制御が実行される。
PID制御の各項について、ロール軸を例に挙げて説明する。・・・
ピッチ軸及びヨー軸についても同様に比例項P、積分項I及び微分項Dを算出可能である。」と記載されている。
また、訂正事項1のうち、演算部が、自機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、自機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出することは、本件明細書の【0025】に
「角度検出部55は、角速度検出部52から出力されたロール軸角速度を一定時間ごとの変化量を積分演算することで無線操縦飛行機1の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの回転角度(ロール軸角度)を算出する。・・・」と記載されている。
また、訂正事項1のうち、演算部が、ロール軸回りの角度の変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出することは、本件明細書の【0034】に
「制御信号生成部59は、ロール飛行制御モードにおいて、ピッチ軸制御部57が算出した比例項Pp及び微分項Dpに加え、[式5]により算出した積分項Wpを用いてエレベータ・サーボモータ30の制御量を算出する。
また制御信号生成部59は、ヨー軸制御部58が算出した比例項Py及び微分項Dyに加え、[式6]により算出した積分項Wyを用いてラダー・サーボモータ40の制御量を算出する。
これにより、無線操縦飛行機1のロール軸角度の変化量に応じて、機体のピッチ軸回転の変化量とヨー軸回転の変化量とを補正するための制御量が算出される。
[式5]Wp=Ipr+Iyi=Ip×cosθ+Iy×sinθ
[式6]Wy=Iyr-Ipi=Iy×cosθ-Ip×sinθ」と記載されている。
以上から、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記アのとおり、本件訂正前の請求項1に記載された「制御量を算出する演算部」を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内において訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正でないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
(3)訂正事項3及び4について
ア 訂正の目的について
訂正事項3及び4は、訂正前の請求項3及び4が、請求項2を直接的又は間接的に引用していたところ、訂正事項2によって請求項2が削除されたことに伴って、請求項2を引用しないように限定する(引用する請求項の選択肢から請求項2を削除する)ものであるから、その訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3及び4は、訂正前に引用していた請求項の選択肢から請求項2を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内において訂正するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更する訂正でないことは明らかであるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
(4)訂正事項5について
訂正事項1は、請求項1に係る「演算処理装置」の発明を訂正するものであるところ、訂正事項5は、請求項5に係る「演算処理装置を備える無線操縦飛行機」の発明を、訂正事項1と同様に訂正するものであるから、訂正事項1について説示する理由と同様の理由により、訂正事項5は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、同条9項で準用する同法126条5~6項に適合する。
5 小括
上記4(1)~(4)のとおり、訂正事項1~5に係る本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5~6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認容されたから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの比例項、積分項及び微分項に基づくPID制御により算出する演算部を備え、
前記演算部は、前記無線操縦飛行機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、前記無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出し、該算出した変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する
演算処理装置。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記無線操縦飛行機の操縦者からの操作に基づく信号に応じて前記制御量の算出を開始する
請求項1に記載の演算処理装置。
【請求項4】
前記ロール軸回りの変化量と所定の閾値との比較に基づいて前記制御量の算出を開始する
請求項1又は3に記載の演算処理装置。
【請求項5】
無線通信により操縦される無線操縦飛行機であって、
自機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの比例項、積分項及び微分項に基づくPID制御により算出する演算部を有し、
前記演算部が、自機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、自機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出し、該算出した変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する演算処理装置を備える
無線操縦飛行機。」
第4 先の取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2、3及び5に係る特許に対して、当審が令和5年10月12日付けで特許権者に通知した取消理由(以下「先の取消理由」という。)の概要は、次のとおりである。
1 先の取消理由で提示した引用文献
甲第1号証:牧緑、外2名、「無人航空機の簡易型手動飛行操縦装置の開発」、計測自動制御学会産業論文集、公益社団法人計測自動制御学会、2009年、8巻、11号、90~98ページ
2 本件訂正前の請求項1及び5に係る発明の新規性
本件訂正前の請求項1及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、本件訂正前の請求項1及び5に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
3 本件訂正前の請求項2及び3に係る発明の進歩性
本件訂正前の請求項2及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項2及び3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
第5 当審の判断
1 申立人が提出した証拠
申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲第1号証:上記第4の1のとおり。
甲第2号証:今村亮一、外2名、「C-2の飛行制御設計」、日本航空宇宙学会誌、一般社団法人日本航空宇宙学会、2018年、66巻、8号、18~23ページ
甲第3号証:嶋田有三、外1名、「飛行力学」、森北出版株式会社、2017年1月20日発行、第1版、245ページ
甲第4号証:片柳亮二、「航空機の飛行制御の実際-機械式からフライ・バイ・ワイヤへ-」、森北出版株式会社、2011年4月15日発行、第1版、159ページ
(以下、各甲号証を「甲1」などという。)
2 本件発明1の新規性
(1)本件発明1の記載
本件発明1は、上記第3の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2)甲1の記載事項から理解できる事項及び甲1発明
ア 甲1の記載事項から理解できる事項
甲1の記載事項から、以下の事項を理解することができる(括弧内に甲1の記載箇所を付記する。)。
事項1:甲1には、特殊な訓練を必要とせずに、無人航空機の高度、進行方向などを直感的、かつ安全に操縦できるゲームコントローラのような安価な小型軽量な操縦装置のプロトタイプを開発することについて記載されている。(90ページ右欄下から8行~最終行)
事項2:甲1の操縦装置は、誘導制御系の構成として、ダイナミック・インバージョン方式を採用し、地上局に接続したゲームパッドを通じて、方位・高度コマンドをオーバーライドすること(当審注:上書き指示すること)ができる。(91ページ左欄1行~4行)
事項3:甲1の操縦装置の誘導制御部は、ダイナミック・インバージョン(すなわち、操舵→モーメント→角速度→姿勢角→力→速度→位置/方位、という運動の因果関係を逆に辿ること)により、操舵量を決定するものであり、Step1~Step4の手順で操舵量を決定する。(92ページ左欄下から24行~3行)
事項4:Step1は、高度コマンドHcmdと方位コマンドχcmdから、ロール角コマンドφcmdとピッチ角コマンドθcmdを決定するものであり、このうちのピッチ角コマンドθcmdは、次の(12)~(15)式で決定される。(92ページ左欄下から2行~右欄17行)
[図:0001420293000001.jpg]
[図:0001420293000002.jpg]
事項5:Step2は、ロール角コマンドφcmdとピッチ角コマンドθcmdから、ロール角速度コマンドPcmd、ピッチ角速度コマンドQcmd及びヨー角速度コマンドRcmdを、次の(17)式で決定するものである。(93ページ左欄1行~3行)
[図:0001420293000003.jpg]
事項6:上記(17)式のΩは、91ページ左欄に示された、次の式である。
[図:0001420293000004.jpg]
事項7:上記(17)式から、ヨー角速度コマンドRcmdは、次のとおりである。
Rcmd=-KθΔθsinφ+(×)cosφcosθ
(なお、(×)は、×を丸で囲った記号の代替表記である。以下同じ。)
イ 甲1発明
上記(1)の技術的事項を、本件発明1の記載に合わせて整理すると、甲1には、本件発明1に対応する、次の発明が記載されているということができる。
「無人航空機の高度、進行方向などを操縦できる操縦装置のプロトタイプであって、操縦装置の誘導制御部は、ダイナミック・インバージョンにより、操舵量を決定するものであり、操舵量を決定する過程において、ピッチ角コマンドθcmdは、次の(12)~(15)式で決定され、
[図:0001420293000005.jpg]
[図:0001420293000006.jpg]
ヨー角速度コマンドRcmdは、
Rcmd=-KθΔθsinφ+(×)cosφcosθ
で決定される、操縦装置のプロトタイプ。」
(以下「甲1発明」という。)
(3)本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明と本件発明1を対比すると、甲1発明の「無人航空機」は、操縦装置のプロトタイプにより遠隔で操縦されるから、本件発明1の「無線操縦飛行機」に相当する。
また、甲1発明の「操縦装置のプロトタイプ」は、(12)~(15)式のような演算を行うから、本件発明1の「演算部」及び「演算処理装置」に相当する。
また、甲1発明において、(15)式は、θbasicを決定するにあたり、cosφを含んでおり、θbasicは(13)及び(14)式を介して、(12)式に含まれるから、θcmdは、cosφ、すなわち、ロール姿勢角φの変化量に応じた量となるように決定されるといえる。
したがって、甲1発明において、「ピッチ角コマンドθcmdは、次の(12)~(15)式で決定」されることは、本件発明1において、「ロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量」「を補正するための制御量を」「算出する」ことに相当する。
また、甲1発明における「Rcmd=-KθΔθsinφ+(×)cosφcosθ」は、Rcmdを決定するにあたり、sinφやcosφを含んでいるから、Rcmdは、ロール姿勢角φの変化量に応じた量となるように決定されるといえる。
したがって、甲1発明において、「ヨー角速度コマンドRcmdは、Rcmd=-KθΔθsinφ+(×)cosφcosθで決定」されることは、本件発明1において、「ロール軸回りの変化量に応じて、」「ヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を」「算出する」ことに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、以下の相違点1で相違する。
[一致点]
両発明は、
「無線操縦飛行機のロール軸回りの変化量に応じて、ピッチ軸回りの変化量とヨー軸回りの変化量とを補正するための制御量を算出する演算部を備える、演算処理装置。」
である点。
[相違点1]
本件発明1の演算部は、「ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの比例項、積分項及び微分項に基づくPID制御により算出する」ものであり、また、「前記無線操縦飛行機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、前記無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出し、該算出した変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する」ものであるのに対して、甲1発明の演算部は、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの制御量をPID制御により算出するものではなく、そのため、ロール軸回りの角度の変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出するものではない点。
(4)新規性の判断
上記のとおり、本件発明1と甲1発明を対比すると相違点1が存在するから、本件発明1は甲1発明であるとはいえず、特許法29条1項3号に該当せず、請求項1に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものとはいえないから、先の取消理由で通知した新規性の理由により、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
3 本件発明5の新規性
(1)本件発明5の記載
本件発明5は、上記第3の請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2)本件発明5の新規性の判断
本件発明1は、「演算処理装置」の発明であるところ、本件発明5は、「演算処理装置を備える無線操縦飛行機」の発明である。
これに対して、甲1には、甲1発明の操縦装置のプロトタイプを備える無人航空機の発明(以下「甲1の無人航空機の発明」という。)についても実質的に記載されているといえる。
そして、甲1の無人航空機の発明と本件発明5は、上記2(3)と同様に対比することができ、上記相違点1と同様の点で相違するから、本件発明5は甲1の無人航空機の発明であるとはいえず、特許法29条1項3号に該当せず、請求項5に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものとはいえないから、先の取消理由で通知した新規性の理由により、請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
4 本件発明2の進歩性
請求項2は削除されたから、取消理由の対象が存在しない。
5 本件発明3の進歩性
(1)本件発明3の記載
本件発明3は、上記第3の請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2)本件発明3の進歩性の判断
本件発明3と甲1発明を対比すると、少なくとも相違点1が存在するから、相違点1を検討すると、無線操縦飛行機の演算部において、「ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの比例項、積分項及び微分項に基づくPID制御により算出する」ことや、「前記無線操縦飛行機のロール軸回りの角速度を用いた積分演算により、前記無線操縦飛行機の基準姿勢から現在の姿勢までのロール軸回りの角度を変化量として算出し、該算出した変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する」ことは、甲1~甲4のいずれにも開示されていない。
また、甲1の操縦装置のプロトタイプは、ロール軸回り、ピッチ軸回り及びヨー軸回りのそれぞれの制御量をPID制御により算出するものではないから、ロール軸回りの角度の変化量に応じてピッチ軸回りの積分項とヨー軸回りの積分項を補正するための制御量を算出する動機があるとはいえない。
したがって、相違点1は、甲1発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえず、先の取消理由で通知した進歩性の理由により、請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
6 先の取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
ア 甲1を主引用例とする新規性の特許異議申立理由
本件訂正前の請求項1~3、5に係る発明は、甲1に記載された発明から新規性がない。
イ 甲1を主引用例とする進歩性の特許異議申立理由
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術から容易に想到されるものである。
ウ 甲2を主引用例とする進歩性の特許異議申立理由
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術から容易に想到されるものである。
(2)甲1を主引用例とする新規性について
甲1を主引用例とする新規性の特許異議申立理由のうち、本件訂正前の請求項1及び5に対する理由は、上記2~3の先の取消理由の新規性の理由と同趣旨のものである。
また、本件発明1と甲1発明を対比すると、相違点1で相違するから、本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2~3が甲1発明であるとはいえず、請求項2~3に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものとはいえないから、甲1を主引用例とする新規性の特許異議申立理由により、請求項2~3に係る特許を取り消すことはできない。
(3)甲1を主引用例とする進歩性について
本件発明1と甲1発明とは相違点1で相違するところ、上記5に示すとおり、相違点1は、甲1発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件訂正前の請求項3に対する進歩性の特許異議申立理由は、上記5の先の取消理由の進歩性の理由と同趣旨のものである。
また、本件発明4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、甲1発明とは少なくとも相違点1で相違し、本件発明1と同様に、本件発明4は、甲1発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明5は、甲1の無人航空機の発明と対比すると、上記相違点1と同様の点で相違する(上記3(2))から、本件発明1と同様に、本件発明5は、甲1発明及び甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、甲1を主引用例とする進歩性の特許異議申立理由により、請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。
(4)甲2を主引用例とする進歩性について
上記5に示すとおり、本件発明1と甲1発明との相違点1は、甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明2と甲2に記載された発明を対比すると、少なくとも相違点1と同様の点で相違し、相違点1と同様の点は、甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
同様に、本件発明2~5についても、甲2に記載された発明と対比すると、少なくとも相違点1と同様の点で相違し、相違点1と同様の点は、甲1~甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
したがって、甲2を主引用例とする進歩性の特許異議申立理由により、請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、3~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項2に係る特許は、上記第2及び第3のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による請求項2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700435