特許異議申立
2024-700291
自動作業システム
- 審判番号
- 2024-700291
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-205761
- 登録番号
- 7354217
- 請求日
- 2024年04月01日
- 審決日
- 2024年06月27日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
- 【権利者代理人】種村 一幸
- 【権利者代理人】華山 浩伸
- 【権利者代理人】仲石 晴樹
- 【異議申立人】土田 裕介
- 【異議申立人代理人】長谷川 芳樹
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 堀内 亮吾
- 審判官 鈴木 貴雄
- 分類
- P1651.121-Y (G05D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第44条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7354217号発明「自動作業システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7354217号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 優先権主張及び出願分割の経緯の概略
本件無効審判の請求に係る特許第7354217号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和3年12月20日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、平成27年2月6日(以下「本件最先出願日」という。)を国際出願日とした特願2015-561072(優先権主張 平成26年2月6日(以下「本件優先日」という。特願2014-21759)、平成26年10月21日(PCT/JP2014/077906))を最先の出願とする 、いわゆる第3世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は、以下の(1)~(4)のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
[優先基礎]特願2014- 21759(平成26年 2月 6日)
PCT/JP2014/077906(平成26年10月21日)
(1)[最先出願]特願2015-561072(平成27年 2月 6日)
(2)[第1世代]特願2017-228469(平成29年11月28日)
(3)[第2世代]特願2019- 20169(平成31年 2月 6日)
(4)[本件出願]特願2021-205761(令和 3年12月20日)
2 本件特許の出願から設定登録までの経緯
本件特許に係る出願は、本件最先出願日に出願したとみなされる特願2021-205761(上記1(4))であって、令和5年2月17日付けで拒絶理由が通知された(発送:同月28日)のに対して、同年4月19日に意見書、及び手続補正書が提出され、その後、同年8月8日付けで特許をすべき旨の査定がされ(謄本の送達:同月22日)、同年9月22日にその請求項1~5に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年10月2日に特許掲載公報が発行された。
3 特許異議の申立ての経緯
請求項1~5に係る本件特許に対し、令和6年4月1日に特許異議申立人 土田 裕介(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下請求項○に係る発明を「本件発明○」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
走行経路に沿って作業車両を自動走行させながら自動作業させることが可能な自動作業システムであって、
前記走行経路の自動走行開始位置において自動走行の開始条件が成立することによって自動走行を開始させることが可能であり、
前記走行経路を自動走行中に、自動走行の中断条件が成立することによって自動走行が中断され、
前記自動走行の中断後、自動作業を再開するときには、前記自動走行が中断された位置を作業再開始位置として表示部に表示する、
自動作業システム。
【請求項2】
自動走行の中断後、自動走行が中断されたことを示す警告を行う、
請求項1に記載の自動作業システム。
【請求項3】
前記中断条件は、航法衛星からの信号が異常となることを含む、
請求項1又は2に記載の自動作業システム。
【請求項4】
前記中断条件は、前記作業車両の現在位置が前記走行経路に対して所定範囲以上逸脱することを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の自動作業システム。
【請求項5】
前記中断条件は、前記作業車両を遠隔操作可能な遠隔操作装置と前記作業車両との通信が異常となることを含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の自動作業システム。」
第3 申立ての理由
1 申立人が特許異議申立書で主張する申立ての理由の概要
理由1(進歩性)[甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如]
(1)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2、3又は4号証のいずれかに記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)本件発明2~5は、甲第1号証に記載された発明、甲第2、3又は4号証のいずれかに記載された事項、及び、甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 証拠方法
(1)甲第1号証:特開2004-9027号公報
(2)甲第2号証:特開2013-27358号公報
(3)甲第3号証:特開2010-233461号公報
(4)甲第4号証:特開2007-310698号公報
(5)甲第5号証:特開2005-215742号公報
(以下「甲第1号証」等をそれぞれ「甲1」等という。)
なお、異議申立書の2、6及び21ページ並びに証拠説明書の1ページには、甲1を「特開2004-9207号公報」と記載しているが、異議申立書に添付して提出され、「甲第1号証」と表記された証拠方法は、特開2004-9027号公報なので、異議申立書及び証拠説明書の記載を誤記と認め、上記のとおり甲1を認定する。
第4 甲号証に記載された事項
1 甲1
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)と、方位センサや傾斜センサ、車速センサなどの内界センサと、株倣いセンサとを搭載し、自律的に作業を行う農業用作業車の走行作業管理の技術に関する。
詳細には、自律走行中に散布していた薬液が無くなり、作業を中断した位置をGPSにより計測・記憶しておき、薬液補充後、自律走行により作業を中断した位置に復帰して、作業を再開する技術に関する。」
「【0024】
そして、散布作業機101は、操縦者が車両に搭乗して操向ハンドル12や操作レバー等を操作して走行・作業する手動操縦モードと、操縦者が車両に搭乗せずにGPS(グローバル・ポジショニング・システム)を利用して車両の位置情報を得て自律走行プログラムにより圃場を走行しながら薬液散布作業を行う自動操縦モードを運転席14近傍または無線操作手段133に設けた切換手段で選択することが可能に構成されている。」
「【0035】
次に、本発明の散布作業機101における自律走行システムについて、図4を用いて説明する。該自律走行システムは、前述のGPSユニット102の他、自律走行プログラム121や、散布作業機101の種々の情報を検出する内界センサ122、株倣いセンサ123、自律走行・作業をするための自律操作手段124などからなる。」
「【0040】
内界センサ122は、速度、姿勢、エンジン回転数、ステアリングの操舵角など、散布作業機101を自律走行させる上で必要な情報を検知するためのセンサ類を指す。より具体的には、エンジン回転数センサ、車速センサ、操舵角センサ、方位センサ、ロール傾斜センサ、ピッチ傾斜センサなどである。これら内界センサ122からの検知信号は、処理部110に送信される。
なお、本実施例においては、内界センサ122のうち、方位センサ、ロール傾斜センサ、ピッチ傾斜センサなどは移動局ユニット103と同じ収納部106内に配設されているが、これらのセンサ類の配設位置については特に限定されない。」
「【0042】
内界センサ122、株倣いセンサ123からの検知信号、およびGPSユニット102による散布作業機101の位置情報に基づき、処理部110内に格納された自律走行プログラム121によって散布作業機101の速度、姿勢、エンジン回転数、ステアリングの操舵角などを自律操作するための信号が自律操作手段124に送信される。該自律操作手段124は、より具体的には、ステアリング駆動アクチュエータやステアリング駆動電磁弁(図示せず)、ブーム昇降用パワーシリンダ(ブーム昇降用シリンダ38に相当)、ブーム開閉用パワーシリンダ(ブーム開閉用シリンダ43に相当)、ブーム水平制御用パワーシリンダ(ブーム水平制御用シリンダ39に相当)、アクセルアクチュエータ、主クラッチ用アクチュエータなどである。
なお、本実施例においては、GPSユニット102から得られる散布作業機101の位置情報は高さ方向に対しても高い精度を持つ。そのため、自律作業中に圃場からブーム40までの高さが略一定となるようブーム昇降用シリンダ38を制御し、薬液の散布状態を略一定にすることが可能である。」
「【0047】
また、圃場外に、図4に示す遠隔監視モニタ161を設置することもできる。該遠隔監視モニタ161は、自律走行コントローラである移動局ユニット103の処理部110と無線LANで接続可能に構成され、散布作業機101の諸情報を表示部161aに表示したり、制御パラメータを遠隔で変更することが可能である。」
「【0048】
さらに、前記遠隔監視モニタ161として、PDA(Personal Digital Assistance)162を使用することも可能である。該PDA162は、自律走行コントローラである移動局ユニット103の処理部110と無線LAN接続可能に構成され、前記無線操作手段133と同様の指示を散布作業機101に対して行うことができる。さらに散布作業機101の諸情報を該PDA162の表示部162aに表示したり、制御パラメータを遠隔で変更することが可能である。すなわち、PDA162はサイズが小さくオペレータが携帯可能であり、表示部162a、タッチパネルやボタンなどの入力手段、および通信機能を備えるので、前記無線操作手段133と遠隔監視モニタ161の機能を併せ持つものである。」
「【0049】
図8にPDA162の表示部162aの表示例を示す。該表示部162aには散布作業機101の情報(例えば、GPSユニット102により得られる位置情報、当該圃場の薬液必要量や薬液タンク24内の薬液残量、薬液散布速度(単位時間当たりの散布量)から予想される薬液補給までの時間)が表示される情報ウインドウ170、当該圃場の形状および圃場内の散布作業機位置171a、自律走行経路および薬液補充位置171bを示す平面図171、および前記無線操作手段133のボタンに相当するコマンドボタン172・172・・・などが表示される。
なお、表示部162aの表示方法などは限定されるものではなく、前記情報ウインドウ170、平面図171、コマンドボタン172の表示を順に切替えられる構成とするなどしてもよい。」
「【0050】
続いて、散布作業方法の第一実施例を図9および図10を用いて説明する。
例えば図9に示すような平面視長方形の圃場である水田126で散布作業を行う場合、水田126内に均一に、言い換えれば、一度も散布されていない場所(未散布領域)や複数回散布される場所(重複散布領域)が生じないように薬液を散布することが重要である。よって、散布作業を行う散布作業機101が左右の側方ブーム42L・42Rを車体側方に伸ばした時の横幅(以後「全幅」と呼ぶ。10メートル程度)と略同じ幅を持つ水田126の外縁部126a(図9における斜線部)を残し、該外縁部126aの内側に位置する作業開始地点128(または作業開始地点131)から散布作業を開始する。最後に外縁部126aを一周しながら散布作業して作業終了地点129(または作業終了地点132)から散布作業機101が水田126の外に退出する。すなわち、図9において実線および点線で示された経路に沿って散布作業機101が走行しつつ、散布作業を行うのである。
このとき、図9に示される散布作業機101の走行経路のうち、実線で示された部分は薬液散布作業を行いつつ走行する工程(以後「散布工程」と呼ぶ)を示し、点線で示された部分は薬液散布作業を行わずに走行する工程(以後、「移動工程」と呼ぶ)を示している。
【0051】
本発明の散布作業機101における散布作業の場合、水田126端部の任意の地点である作業車進入地点127までオペレータが散布作業機101を運転し、作業車進入地点127(圃場内)で停車させて散布作業機101から降りる。次に、オペレータは携帯している無線操作手段133により、散布作業機101の自律走行を開始させる(自律走行開始ボタンを押す)。散布作業機101は作業直前に水田126の外縁部126aを周回し、GPSユニット102から得られた水田126の形状を処理部110に記憶し、自律走行プログラム121により、水田126の形状に関する情報を基に作業経路を自動作成しておくか、予め圃場毎の作業経路データを作成しておき、処理部110に記憶しておく。」
「【0066】
第一の薬液量管理方法について図15および図16を用いて説明する。
自律走行中において薬液タンク24内の薬液が無くなった時点(より厳密には、薬液タンク24内の薬液が完全に無くなるまでポンプ部36の運転を続けると、噴霧ポンプ4が故障する恐れがあるため、液面レベル検知手段190により薬液タンク24下限付近に液面があることが検知された時点が好ましい)でポンプ部36の運転を停止すると共に、薬液散布バルブ176・177・178や噴霧側バルブ91を閉じる。そして、薬液タンク24内の薬液が無くなった時点の圃場内における散布作業機101の位置208(以後「散布作業中断地点」と呼ぶ)に関する情報をGPSユニット102から得ると共に、処理部110に記憶する。
【0067】
続いて、散布作業中断地点208から薬液補充地点209(オペレータが圃場内に足を踏み入れることなく薬液補充が可能な圃場端部)までの自律誘導経路を自律走行プログラム121により作成する。このとき、該自律誘導経路は極力未散布領域を通過するように構成することが好ましい。そして散布作業機101は該薬液補充地点209まで自律走行で戻り、停車する。オペレータが薬液タンク24に薬液を補充後、無線操作手段133やPDA162などで再開ボタン(無線操作手段133においては発進・停車用の第二ボタン164に相当し、PDA162においてはコマンドボタンの一つである「作業再開」ボタンに相当する)を押すと、散布作業機101は散布作業中断地点208まで自律走行し、該散布作業中断地点208に到達した時点で散布作業を再開する。
【0068】
このように構成することにより、散布作業中断地点をオペレータの記憶に頼らず、位置精度の高いGPSユニットによる位置情報を基に、散布作業機は散布作業中断地点と薬液補充地点との間の誘導経路を自動作成し、自律走行で散布作業中断地点と薬液補充地点との間を往復し、薬液を補充して散布作業を再開するので、既に薬液散布を行った場所と、これから散布を行う場所の境界である散布作業中断地点に精度良く復帰し、圃場内に未散布領域や重複散布領域を生じることなく、均一かつ確実な散布作業を行うことが可能である。
また、オペレータは散布作業中断地点と薬液補充地点との間を手動運転する必要がなく、薬液補充地点(圃場端部)で待機しておき、薬液を補充するだけで良いので作業性に優れる。」
「【図面の簡単な説明】
・・・
【図8】PDA表示部の表示例を示す模式図。
【図9】本発明の農業用作業車による自律走行経路の第一実施例を示す模式図。
【図10】本発明における自律走行のフローチャート図。
・・・
【図15】薬液補充用の自律誘導経路の実施例を示す図。
【図16】薬液補充作業のフローチャート図。」
「図8
[図:0001412319000001.jpg]
」
「図9
[図:0001412319000002.jpg]
」
「図10
[図:0001412319000003.jpg]
」
「図15
[図:0001412319000004.jpg]
」
「図16
[図:0001412319000005.jpg]
」
(2)甲1の記載からわかること
甲1の上記(1)によれば、次のことがいえる。
ア 段落【0051】、図10、及び図15に記載されるように、散布作業機101は、自律誘導経路の作業車進入地点127(圃場内)までオペレータによって運転され、作業車進入地点127において、無線操作手段133の自律走行開始ボタンが押されることで、散布作業機101の自律走行が開始される。このとき、自律走行プログラム121により作業経路が作成され、処理部110に記憶される。
イ 段落【0040】及び【0042】に記載されるように、散布作業機101の自律走行には、内界センサ122によって検知される速度、姿勢、エンジン回転数、ステアリングの操舵角などの情報が必要であり、これらの自律操作するための信号は、処理部110内に格納された自律走行プログラム121によって自律操作手段124に送信される。
ウ 上記アとイによれば、自律誘導経路の作業車進入地点127(圃場内)において、作業経路の作成及び記憶が行われ、内界センサ122等からの自律走行に必要な情報の受信確認が行われるといえる。また図10によれば、自律走行開始ボタンが押された後に作業開始位置であるか否かの判断が行われ、作業開始位置であることを条件に自律走行作業が開始される。これらの作業経路の作成、センサからの情報受信確認、及び作業開始位置であることの確認は、自律走行の開始条件の成立に相当するといえる。
エ 段落【0066】に記載されるように、自律走行中に薬液タンク24内の薬液が無くなった時点で薬液の散布作業が中断され、その時点での散布作業機101の位置を散布作業中断地点208として処理部110に記憶するが、散布作業を中断する際に、作業経路に沿った自律走行を継続する必要が無いから、散布作業と共に自律走行も中断されることを推認できる。したがって、自律走行中において薬液タンク24内の薬液が無くなったことは、自律走行の中断条件の成立に相当するといえる。
オ 段落【0067】、【0068】及び図16に記載されるように、自律走行の中断後、薬液を補充した後散布作業中断地点208まで自律走行し、散布作業中断地点208において散布作業を再開しているといえる。
カ 段落【0047】~【0049】及び図8に記載されるように、PDA162で無線操作手段133と同様の指示を散布作業機101に対して行うことができ、PDA162の表示部162aには、散布作業機101のGPSユニット102により得られる位置情報、並びに、圃場内の散布作業機位置171a、自律走行経路及び薬液補充位置171bを示す平面図171などが表示されるといえる。
キ 上記カのPDA162の表示部162aの表示は、散布作業に必要な情報を表示することであるから、上記オの散布作業を再開するときを含めて、当然に表示が行われているといえる。
(3)甲1に記載された発明
以上を踏まえると、甲1には、以下の物の発明(以下、「甲1発明」という) が記載されているといえる。
「自律誘導経路に沿って散布作業機101を自律走行させながら散布作業をさせることが可能な自律作業システムであって、
自律誘導経路の作業車進入地点127において自律走行の開始条件が成立することによって自律走行を開始させることが可能であり、
自律誘導経路を自律走行中に、薬液タンク24内の薬液が無くなるという中断条件が成立することによって自律走行が中断され、
自律走行の中断後、薬液を補充した後散布作業中断地点208まで自律走行し、散布作業中断地点208において散布作業を再開するときには、散布作業機101の位置情報、並びに、圃場内の散布作業機位置171a、自律走行経路及び薬液補充位置171bを示す平面図171をPDA162の表示部162aに表示する、自律作業システム。 」
2 甲2
(1)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0006】
しかしながら、前述の肥料が切れた位置に戻る際、この肥料が切れた位置を目測によって探すようにしているため、散布された肥料と土壌が酷似していて見分けがつかなかったり、目印が見つけられなかったりした場合、肥料が切れた位置が不明になり、正確な位置から肥料散布が再開できなくなってしまうという問題がある。」
「【0009】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、圃場の広さにかかわらず、肥料が切れた位置から肥料散布の再開ができること、肥料が切れた位置から肥料散布の再開をすることで、圃場に対して平均的、且つ万遍なく肥料を散布することができること、等が本発明の目的である。」
「【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る肥料散布装置Aを図1~図4に基づいて説明する。本実施形態では、肥料散布装置Aをオペレータが任意に操縦して、圃場Bの肥料散布範囲B1(図2参照)に肥料散布を行うようにしており、肥料散布範囲B1を肥料散布装置Aと一体となって走行する肥料散布部1の肥料貯留量が所定量未満となった位置に肥料散布再開位置PLが設定されるようになっている。尚、図示では、肥料散布装置Aの走行予定経路としてジグザグな経路にしたものであるが、オペレータが決定する肥料散布装置Aの走行予定経路は、図示したジグザグに限らない。」
「【0030】
表示部5は、設定された肥料散布再開位置PL、走行体2の位置情報に基づくこの走行体2の現在位置や各種案内等を表示するように画像表示制御部C6によって制御され、表示することで、オペレータが肥料散布装置Aの現在の状況を視認できるようになっている。この表示部5は、入力部4の付近で、走行体2の運転席(図示せず)等のオペレータ(図示せず)が視認し易い場所に設けることが好ましい。」
「【0038】
画像表示制御部C6は、演算・記憶部C2に記憶された肥料散布再開位置情報、走行体2の現在位置情報、各種案内情報等を、入力部4からの選択操作或いは自動的に、肥料散布再開位置PL、走行体2の現在位置、各種案内(図示せず)等を表示部5に表示させる制御をするものである。」
「【0039】
このような肥料散布装置Aは、設定された肥料散布再開位置PL、位置情報に基づく肥料散布装置Aの現在位置、記憶された各種案内等が表示部5に表示され、表示された各種情報をオペレータが視認しながら、肥料散布装置Aを走行させて肥料散布を行うことができる。」
「【0040】
更に、肥料散布中に肥料貯留量が所定量未満となった時点の肥料散布部1の現在位置に肥料散布再開位置PLが自動的に設定され、この肥料散布再開位置PLが表示部5に表示されるようになっているため、走行体2を一旦圃場外へ出して肥料貯留部10に肥料を追加した後、走行体2を肥料散布が停止した正確な位置(肥料散布再開位置PL)に復帰させることができる。したがって、圃場の広さにかかわらず、肥料散布が停止した正確な位置から肥料散布の再開ができるため、圃場Bに対して平均的、且つ万遍なく肥料散布を行うことができる。」
「図2
[図:0001412319000006.jpg]
」
(2)甲2記載の技術的事項
甲2には、以下の技術的事項が記載されている。
「オペレータが操縦することで、肥料散布装置Aが走行経路を走行しながら肥料散布を行い、肥料散布部1における肥料貯留量が所定量未満となった位置を肥料散布再開位置PLとして記憶部C2に記憶させ、その肥料散布再開位置PLを走行体2の運転席に設けられた表示部5に表示し、オペレータが表示部5を視認しながら操縦して、走行体を肥料散布が停止した正確な位置(肥料散布再開位置PL)に復帰させ、肥料散布が停止した正確な位置から肥料散布を再開させること。」(以下「甲2記載の技術的事項」という。)
3 甲3
甲3記載の技術的事項
甲3には、肥料等の走行散布作業機において圃場端部の無散布部の発生を無くす技術が記載されている(段落【0001】、【0008】)。
甲3の段落【0073】には、「同様に散布作業中に異常が発生したときの位置情報(緯度、経度)を不揮発メモリに記憶し、この情報を基に作業再開時に圃場における位置の判定を行い、表示部に表示するとともにブザー出力で知らせる構成とすると、作業再開時にその位置から散布を行うこができ、無散布の区間をなくすことができる。」と記載されている。
したがって甲3には、「肥料等の散布作業の再開時に、異常発生時(すなわち作業中断時)の位置を記憶しておき再開時に表示部に表示させる点。」が記載されている。(以下「甲3記載の技術的事項」という。)
4 甲4
甲4には、巡回警備等を行う無人車両における障害物回避技術が記載されている(段落【0001】、【0010】)。
甲4の段落【0043】には、「自律走行モードまたは遠隔操縦モードにおいて、遠隔操縦システム2から走行停止の指示が与えられた場合、もしくは、道路から外れて走行禁止領域への車両本体1の進入が車両状態推定装置15によって検出された場合、制御量演算装置16は走行モードを停止モードに切り替える。この停止モードが設定されると、制御量演算装置16は車両制御装置17に伝える車速命令値を強制的に0とする。また、障害物検出手段34により車両前方の障害物を検出したときも、車両本体1を減速しつつ予め規定した障害物回避開始位置まで走行した上で停止し、停止モードに移行する。停止モードからは、遠隔操縦モードおよび自律走行モードへの遷移が可能である。」と記載され、段落【0050】には、「即ち、回避開始位置411(xs,ys)を起点とし、車両本体1の回避開始方位412に接する第1円弧軌道441と、この第1円弧軌道441と回避終了方位422に接し回避終了位置421(xa,ya)を終点とする第2円弧軌道442とを規定することにより、第1円弧軌道441と第2円弧軌道442を連続して経由する経路として障害物回避経路が作成される。」と記載され、段落【0058】には、「次いで、音声出力装置23によって操縦者に障害物を検出したことを知らせた後(ステップ506)、路肩観測装置33、障害物観測装置34で検出した路肩および障害物の位置情報から、車両本体1が通過可能な全ての回避経路を画像表示装置22に表示する(ステップ507、508)。」と記載されている(図8も参照)。
したがって、甲4には、「自律走行停止後に、回避開始位置411を起点とする全ての障害物回避経路を表示部に表示させる点。」が記載されている。(以下「甲4記載の技術的事項」という。)
第5 当審の判断
1 理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)
(1)本件発明1
ア 本件発明1と甲1発明の対比
甲1発明の「自律誘導経路」、「散布作業機」、「自律走行」、「散布作業」及び「自律作業システム」は、それぞれ、本件発明1の「走行経路」、「作業車両」、「自動走行」、「自動作業」及び「自動作業システム」に相当する。
また、甲1発明の「作業車進入地点127」は、本件発明1の「自動走行開始位置」に相当し、同様に、「薬液タンク24内の薬液が無くなるという中断条件」は、「自動走行の中断条件」に相当する。 さらに、甲1発明の「自律走行の中断後、薬液を補充した後散布作業中断地点208まで自律走行し、散布作業中断地点208において散布作業を再開するとき」は、本件発明1の「前記自動走行の中断後、自動作業を再開するとき」に相当し、同様に、「PDA162の表示部162aに表示する」ことは、「表示部に表示する」ことに相当する。
そして、甲1発明の「散布作業機101の位置情報、並びに、圃場内の散布作業機位置171a、自律走行経路及び薬液補充位置171bを示す平面図171」を表示することと、本件発明1の「前記自動走行が中断された位置を作業再開始位置として」表示することは、「作業車両に関する位置」を表示することという限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は以下のイの点で一致し、ウの点で相違する。
イ 一致点
走行経路に沿って作業車両を自動走行させながら自動作業させることが可能な自動作業システムであって、
前記走行経路の自動走行開始位置において自動走行の開始条件が成立することによって自動走行を開始させることが可能であり、
前記走行経路を自動走行中に、自動走行の中断条件が成立することによって自動走行が中断され、
前記自動走行の中断後、自動作業を再開するときには、作業車両に関する位置を表示部に表示する
自動作業システム。
ウ 相違点
表示部に表示する作業車両に関する位置に関し、
本件発明1は「前記自動走行が中断された位置を作業再開始位置として」表示するのに対して、甲1発明は、「散布作業機101の位置情報、並びに、圃場内の散布作業機位置171a、自律走行経路及び薬液補充位置171bを示す平面図171」を表示するのであって、自動走行が中断された位置を作業再開始位置として表示させるかは不明である点。
エ 相違点の検討
(ア)甲1発明と甲2記載の技術的事項との組合せ
甲2には、上記第4の2(2)に甲2記載の技術的事項として示したように、オペレータが操縦する肥料散布装置に関し、走行経路を走行しながら肥料散布を行い、肥料貯留量が所定量未満となって肥料散布を停止した位置を肥料散布再開位置として走行体の運転席に設けられた表示部に表示させることで、オペレータが表示部を視認して、設定された肥料散布再開位置PLに復帰するものである。
甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機付けについて検討する。甲1の段落【0068】に「散布作業機は散布作業中断地点と薬液補充地点との間の誘導経路を自動作成し、自律走行で散布作業中断地点と薬液補充地点との間を往復し、薬液を補充して散布作業を再開する」と記載されているように、甲1発明は、自律走行で散布作業中断地点と薬液補充地点との間を往復し、薬液を補充して散布作業を再開する発明である。そのため、甲1発明の散布作業機は、オペレータが操縦して薬液補充地点から散布作業中断地点へ移動させる必要はないから、オペレータが肥料散布再開位置PLまで操縦できるように表示部に肥料散布再開位置PLを表示する必要もない。
したがって、甲1発明の散布作業機は、自律走行で散布作業中断地点に復帰するものであって、オペレータが中断位置まで操縦できるように表示部に中断位置を表示する必要がないから、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用して、肥料散布再開位置を表示部に表示するような構成にする動機付けが存在しない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)甲1発明と甲3記載の技術的事項との組合せ
甲3には、上記第4の3に甲3記載の技術的事項として示したように、肥料等の散布作業の再開時に、異常発生時(すなわち作業中断時)の位置を記憶しておき再開時に表示部に表示させる点が記載されている。
しかしながら、上記(ア)と同様の理由により、甲1発明に、甲3記載の技術的事項を適用する動機付けが存在しない。すなわち、甲3の段落【0058】の「そしてc地点においてオペレータの判断で旋回操作を行なう」との記載、段落【0060】の「戻し位置(e地点)に達するとブザーオンしてオペレータにその旨を報知し、戻し旋回操作を促す(S18~S20)。」との記載から、甲3の走行散布作業機2は、甲2の肥料散布装置Aと同様に、オペレータが操縦をするものと認められ、自動作業を行うものではないと認められる。
したがって、甲3記載の技術的事項には、肥料等の散布作業の再開時に、異常発生位置を表示部に表示することが示されているものの、この表示は、甲2記載の技術的事項と同様に、オペレータが異常発生位置まで操縦できるように表示するものと解するのが相当であるところ、甲1発明の散布作業機は、自律走行で散布作業中断地点に復帰するものであって、オペレータが中断位置まで操縦できるように表示部に中断位置を表示する必要がないから、甲1発明に甲3記載の技術的事項を適用して、肥料散布再開位置を表示部に表示するような構成にする動機付けが存在しない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲3記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)甲1発明と甲4記載の技術的事項との組合せ
甲4には、上記第4の4に甲4記載の技術的事項として示したように、自律走行停止後に、回避開始位置411を起点とする全ての障害物回避経路を表示部に表示させる点が記載されている。
しかしながら、甲4記載の技術的事項は、巡回警備等を行う無人車両(段落【0001】)における、障害物回避技術に関するものであって、自律走行の停止は、障害物を検出することによるものであり、甲1発明のように、農業用作業車において薬液の補充のために散布作業を中断するものとは、技術分野が関連するとはいえないし、課題・作用・機能が共通するともいえないため、甲1発明に、甲4記載の技術的事項を適用する動機付けが存在しない。
また、甲1の「散布作業を再開する」ことは、散布作業の中断前に走行していた自律誘導経路と同じ経路に沿った自律走行を再開することであるのに対して、甲4記載の技術的事項は、自律走行停止後に、自律走行を再開するものではあるが、再開する自律走行の経路は、停止前と同じ走行経路ではなく、障害物を回避するために新たに設定された経路であるから、甲1のPDA162の表示部162aに甲4記載の技術的事項の「回避開始位置411を起点とする全ての障害物回避経路」を表示する理由がない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲4記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2~5
本件発明2~5は、本件発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2~5は、甲1発明、及び甲2~5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許の請求項1~5に係る特許は、理由1によっては取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700291