特許異議申立
2025-700371
乗員拘束装置
- 審判番号
- 2025-700371
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-187673
- 登録番号
- 7559514
- 請求日
- 2025年04月01日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】Joyson Safety Systems Japan合同会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【権利者】本田技研工業株式会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【異議申立人】佐藤 義光
- 審判長/審判官
- 審判長 八木 誠
- 審判官 河端 賢
- 審判官 西山 智宏
- 分類
- P1651.113-YAA(B60R) / P1651.121-YAA(B60R) / P1651.537-YAA(B60R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7559514号発明「乗員拘束装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7559514号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9、11〕、10について訂正することを認める。
特許第7559514号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7559514号の請求項1~11に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和2年11月11日に出願され、令和6年9月24日にその特許権の設定登録がされ、令和6年10月2日に特許掲載公報が発行された。
請求項1~11に係る特許に対する、特許異議申立人佐藤義光(以下「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、以下のとおりである。
令和7年 4月 1日 :特許異議の申立て
令和7年 7月22日付け:取消理由通知書
令和7年 9月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年11月12日付け:訂正請求があった旨の通知書
令和7年12月11日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年9月12日にされた訂正請求の趣旨は、特許第7559514号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、を備え、前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する、乗員拘束装置」と記載されているのを「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、を備え、リトラクタから引き出された前記ウェビングは、前記乗員が着座するシートより車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、前記シートより車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が前記シートより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着され、前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する、乗員拘束装置」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6、9、11も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、を備え、前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいことを特徴とする、乗員拘束装置」と記載されているのを「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、を備え、前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束し、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいことを特徴とする、乗員拘束装置」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8、9も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項10に「前記ガス通過部の上部は、第1分岐ガス通過部及び第2分岐ガス通過部に分岐しており、前記第1分岐ガス通過部と前記第2分岐ガス通過部との間に、前記ウェビングが引き通されたスリットが設けられていることを特徴とする請求項9に記載の乗員拘束装置」と記載されているのを、引用する請求項9のうち請求項1を引用するものについて独立形式に改め、「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、を備え、前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部、及び前記ウェビングに沿って長尺で、前記横方向展開部の下部に連なり、該横方向展開部にガスを供給するガス通過部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束し、前記ガス通過部の上部は、第1分岐ガス通過部及び第2分岐ガス通過部に分岐しており、前記第1分岐ガス通過部と前記第2分岐ガス通過部との間に、前記ウェビングが引き通されたスリットが設けられている、乗員拘束装置」に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~11について、請求項2~6、9~11は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、請求項8~10は請求項7を引用しているものであって、訂正事項2によって訂正される請求項7に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、特許権者は、請求項10についての訂正が認められる場合には、訂正後の請求項10について別の訂正単位とする求めをしている。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、請求項1に「リトラクタから引き出された前記ウェビングは、前記乗員が着座するシートより車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、前記シートより車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が前記シートより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着され、」との事項を付加することにより請求項を限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。訂正後の請求項1の記載を引用する請求項2~6、9、11についても同様である。
イ 新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書の【0018】~【0020】、【0022】の記載事項及び図1の図示内容等に基づくものであると認められるから、新規事項を追加するものではない。訂正後の請求項1の記載を引用する請求項2~6、9、11についても同様である。
ウ 申立人の意見書における主張について
申立人は、令和7年12月11日の意見書において、訂正事項1の訂正要件について以下のように主張する。
「請求項1~6、9及び11について請求された訂正は、「リトラクタから引き出された前記ウェビングは、前記乗員が着座するシートより車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、前記シートより車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が前記シートより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着され、」との事項を追加するものである。訂正の根拠としては、願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という)の段落0018~0020、0022、図1Aが挙げられている。
この点について、段落0020には「乗員拘束装置の使用状態において、ウェビングWは、乗員Pの車幅方向外側の肩部から、車幅方向内側の腰部にかけて斜めに、かつ前方から乗員Pの状態に装着される」とあることから、図1Aでは車幅方向の「内側」と「外側」が以下のように定義される。
明細書には、シート1とバックル9との位置関係は明示されていない。また、図1Aでは、バックル9がシート1の車幅方向内側の輪郭を跨るように図示されており、「前記シートより車幅方向内側に設けられ」ていることは看取できない。従って、訂正により追加された事項は、新規事項に該当する。
[図:0001436171000001.jpg]
」
しかしながら、図1Aにおいて、「バックル9」の少なくとも下端部は「車両用シート1」より車幅方向内側に設けられていることが看取される。また、シートベルトのバックルを車体に固定する構造に関する技術常識を参酌すると、図1Aにおいて、「バックル9」の下端部は「車両用シート1」より車幅方向内側において車体側に固定されていると認められる。そして、「バックル9」の下端部が「車両用シート1」より車幅方向内側において車体側に設けられていることは、「バックル」が「前記シートより車幅方向内側に設けられ」ることに含まれると解釈されるから、「バックル」が「前記シートより車幅方向内側に設けられ」るとの事項が、新たな技術的事項を導入するものであるとは認められない。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、請求項7に「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束し、」との事項を付加することにより請求項を限定するものであるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。訂正後の請求項7の記載を引用する請求項8、9についても同様である。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、願書に添付した明細書の【0032】の記載事項及び図1の図示内容等に基づくものであると認められるから、新規事項を追加するものではない。訂正後の請求項7の記載を引用する請求項8、9についても同様である。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、訂正前の請求項10が請求項1、2又は7の記載を引用する請求項9の記載を引用する請求項であるところ、訂正後の請求項10が請求項1の記載のみを引用する請求項9の記載を引用するものとすることで引用する請求項数を削減し、更に、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めるための訂正である。そのため訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
イ 新規事項の有無
訂正事項3は、引用する請求項数を削減し、更に、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、新規事項を追加するものではない。
(4)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、上記2に記載のとおり、特許権者は、請求項10についての訂正が認められる場合には、訂正後の請求項10について別の訂正単位とする求めをしている。
したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9、11〕、10について訂正を認める。
第3 本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明11」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
リトラクタから引き出された前記ウェビングは、前記乗員が着座するシートより車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、前記シートより車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が前記シートより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着され、
前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、
膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する、乗員拘束装置。
【請求項2】
前記横方向展開部は、前記ウェビングよりも車幅方向内側の領域の容量と、前記ウェビングよりも車幅方向外側の領域の容量とが略同等であることを特徴とする請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項3】
膨張展開した前記エアバッグが、運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触することを特徴とする請求項1又は2に記載の乗員拘束装置。
【請求項4】
前記エアバッグは、前記横方向展開部の前記長手方向の両端部のうち少なくともいずれか一方から下方に延出する縦チャンバをさらに有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の乗員拘束装置。
【請求項5】
前記横方向展開部の前記長手方向の一端部から第1縦チャンバが下方に延出し、他端部から第2縦チャンバが下方に延出することを特徴とする請求項4に記載の乗員拘束装置。
【請求項6】
膨張展開した前記縦チャンバが、運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触することを特徴とする請求項4又は5に記載の乗員拘束装置。
【請求項7】
乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、
膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束し、
前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいことを特徴とする、乗員拘束装置。
【請求項8】
膨張完了状態の前記横方向展開部の車幅方向内側の領域が、運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触することを特徴とする請求項7に記載の乗員拘束装置。
【請求項9】
前記エアバッグは、前記ウェビングに沿って長尺で、前記横方向展開部の下部に連なり、該横方向展開部にガスを供給するガス通過部をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2又は7に記載の乗員拘束装置。
【請求項10】
乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部、及び前記ウェビングに沿って長尺で、前記横方向展開部の下部に連なり、該横方向展開部にガスを供給するガス通過部を有し、
膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束し、
前記ガス通過部の上部は、第1分岐ガス通過部及び第2分岐ガス通過部に分岐しており、
前記第1分岐ガス通過部と前記第2分岐ガス通過部との間に、前記ウェビングが引き通されたスリットが設けられている、乗員拘束装置。
【請求項11】
前記エアバッグは、前記ウェビングに沿って長尺で、前記第1縦チャンバの下端に連なり、該第1縦チャンバ、前記横方向展開部及び前記第2縦チャンバにガスを供給するガス通過部をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の乗員拘束装置。」
第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1~9、11に係る特許に対して、当審において令和7年7月22日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件特許の以下の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、以下の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
・請求項1、4、5、9、11
・引用文献1
・請求項7、9
・引用文献2
2 取消理由2(特許法第29条第2項)
本件特許の以下の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、以下の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・請求項1、4、5、9、11
・引用文献1
・請求項2、3、6
・引用文献1、3
・請求項7、9
・引用文献2
・請求項8
・引用文献2、4
3 引用文献一覧
引用文献1:米国特許第3948541号明細書(甲第2号証)
引用文献2:特開2013-244857号公報(甲第4号証)
引用文献3:特開2009-166569号公報
引用文献4:特開2017-137024号公報(甲第5号証)
第5 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)及び取消理由2(特許法第29条第2項)についての判断
1 引用文献について
(1)引用文献1に記載された事項等(注:翻訳文は、申立人が提出した甲第2号証の全文訳を参照して合議体が作成した。)
ア 記載事項
「BACKGROUND OF THE INVENTION
This invention relates to restraint systems for vehicle occupants and in particular to restraint systems which automatically inflate upon impact or collision.
翻訳文:
発明の背景
本発明は、車両乗員の拘束システムに関し、特に、衝撃又は衝突時に自動的に
膨張する拘束システムに関する。)」(第1欄12~15行)
「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS
FIG. 1 shows a restraint system, according to the invention, in the uninflated state;
FIG. 2 shows the restraint system of FIG. 1 positioned on an aircraft crewman in an inflated state; and
FIG. 3 shows the restraint system of FIGS. 1 and 2 in the uninflated and stowed state.
DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENT
Referring to FIG. 1, the restraint system 10 of the present invention is shown in the uninflated state. It includes two shoulder straps 12, 14 and a lap belt 16 as well as a negative G-strap 20.
The shoulder straps 12 and 14, the lap belt 16, and the negative G-strap 20 are formed from conventional webbing material such as polyester, nylon, dacron or such as that set forth in Military Specification MIL-W-25361 or similar webbing specifications. The distal ends of the shoulder straps 12 and 14 are adapted to terminate in conventional inertia reels (not shown) such as those described in Military Specification MIL-R-8236. The distal ends of the lap belt 16 and the shoulder straps 12, 14 terminate into fittings 18 which mate with seat pan fittings (not shown). Both the shoulder straps 12, 14 and the lap belt 16 are provided with double loop buckles 22 which are positioned near their respective distal ends. The buckles 22 permit adjustment of the restraint system to suit the individual wearer. The proximal ends of the shoulder straps 12, 14 and the negative G-strap 20 are fixedly secured to the lap belt 16 intermediate its ends in a conventional manner such as with heavy duty stitching 17 for example.
翻訳文:
図面の簡単な説明
図1は、本発明に係る、非膨張状態の拘束システムを示す。
図2は、図1の拘束システムが膨張した状態で航空機乗員に装着されている様子を示す。
図3は、非膨張かつ収納された状態の、図1及び図2の拘束システムを示す。
好ましい実施形態の詳細な説明
図1を参照すると、本発明の拘束システム10は、膨張していない状態で示されている。それは、ショルダーストラップ12、14及びラップベルト16の ほか、ネガティブGストラップ20を備えている。
ショルダーストラップ12及び14、ラップベルト16、及びネガティブGストラップ20は、ポリエステル、ナイロン、ダクロン、又は軍用規格MIL-W-25361若しくは同様のウェビング規格に記載されているようなもの等の従来のウェビング材料から形成されている。ショルダーストラップ12及び14の遠位端は、軍用規格MIL-R-8236に記載されているようなもの等の従来の慣性リール(図示なし)内で終端するように適合される。ラップベルト16及びショルダーストラップ12、14の遠位端は、シートパン取付け具(図示なし)と嵌合する取付け具18内で終端する。ショルダーストラップ12、14及びラップベルト16との両方には、それぞれの遠位端の付近に位置決めされたダブルループバックル22が設けられている。バックル22は、個々の装着者に合うように拘束システムを調節することを可能にする。ショルダーストラップ12、14及びネガティブGストラップ20の近位端は、ラップベルト16の中間端に、例えば頑丈なステッチ17などの従来の方法で固定されている。」(第2欄26~57行)
「The restraint system further includes an inflatable bladder member 24 to which adjoining lengths of the shoulder straps 12, 14, the lap belt 16 and the negative G-strap 20 are fixedly secured such as with adhesive. The bladder member 24 consists of two substantially identical patterns each of which take the general form shown in FIG. 1. After both patterns are cut, they are securely joined to each other along their entire perimeters so as to form the bladder member 24; the patterns may be joined by any suitable means such as heat sealing or preferably by employing one inch V-tape 25 cemented to the outer peripheral surfaces and/or the inner peripheral surfaces of the bladder member 24.
翻訳文:
拘束システムは、ショルダーストラップ12、14、ラップベルト16及びネガティブGストラップ20の隣接する長さが接着剤などで固定される膨張可能なブラダ部材24をさらに含む。ブラダ部材24は、実質的に同一の2つ のパターンからなり、各パターンは図1に示す一般的な形態をとる。両方のパターンは、切断された後、ブラダ部材24を形成するように、それらの全周に沿って互いにしっかりと接合される。パターンは、ヒートシールなどの任意の適切な手段によって接合されてもよく、好ましくは、ブラダ部材24の外周面及び/又は内周面に接着された1インチのVテープ25を使用することによって接合されてもよい。」(第2欄65行~第3欄11行)
「The bladder member 24 is formed with a central pocket portion 24a which is in fluid communication with two adjoining pelvic bags 24b and 24c and two adjoining shoulder bags 24e and 24d. The shoulder bags 24e, 24d are additionally interconnected by and are in fluid communication with a chin bag member 24f. (It should be understood that the various portions of the bladder member 24 have been separately designated for convenience only and that the bladder member 24 essentially forms one continuous cavity.) The central pocket portion 24a is constructed to house a gas generator 26.
翻訳文:
ブラダ部材24は、2つの隣接する骨盤バッグ24b、24c及び2つの隣接するショルダーバッグ24e、24dと流体連通する中央ポケット部分24aを備えて形成されている。ショルダーバッグ24e、24dは、さらに顎バッグ部材24fによって相互に接続され、顎バッグ部材24fと流体連通している。(ブラダ部材24の様々な部分が便宜上別々に指定されているだけであり、ブラダ部材24は本質的に1つの連続した空洞を形成していることを理解すべきである)。中央ポケット部24aは、ガス発生器26を収容するように構成されている。」(第3欄31~42行)
「FIG. 2 illustrates the restraint system 10 of the present invention in place on an aircraft crewman and in the inflated state. Optional restraining straps are shown which increase the strength of the restraint system 10. The optional additional restraining straps include a horizontal strap 40 interconnecting the shoulder straps 12, 14 and two side straps 42, 44 which respectively connect the left shoulder strap 12 with the left portion of the lap belt 16 and the right shoulder strap 14 with the right portion of the lap belt 16. It should be noted here that, in the inflated condition, the chin bag portion 24f balloons upward and fits between the crewman's chin and chest area to thereby minimize rotation of the head into the chest area.
Referring to FIG. 3 the restraint system of the present invention is shown in the uninflated and stowed condition. To present a neat and more pleasing appearance the bladder member 24 in an uninflated state may be folded over the shoulder straps 12, 14 and lap belt 16 as shown in FIG. 3 and held in place by light thread tacking or by velcro strips which respectively burst or disengage upon inflation of the bladder 24.
Operation of the restraint system 10 is as follows. When the aircraft suffers at least a threshold impact during a collision, the impact sensor switch 30 closes and provides energy from the aircraft power source 32 to the igniter assembly (not shown) of the gas generator 26 to thereby start production of gas flow through the gas generator vents 26a into the bladder member 24. Enough gas pressure and flow is generated to fully inflate the bladder member 24, as shown in FIG. 2, in less than 20 milliseconds, with a peak pressure of approximately three to six pounds per square inch. As the bladder member 24 is pressurized, the pelvic bags 24b, 24c and the chest bags 24d, 24e inflate as does the chin bag member 24f. As shown in FIG. 2, when the bladder is completely inflated it is pressed between the occupant and the restraining straps and forces the occupant back against the seat. The chin bag member 24f is wedged between the underside of the chin and the chest, to thereby prevent chin contact with the chest and minimize head rotation.
翻訳文:
図2は、本発明の拘束システム10を航空機乗務員に装着し、膨張させた状態を示している。拘束システム10の強度を高めるオプションの拘束ストラップが示されている。オプションの追加拘束ストラップには、ショルダーストラップ12、14を相互連結する水平ストラップ40と、左ショルダーストラップ 12をラップベルト16の左側部分と連結し、また、右ショルダーストラップ 14をラップベルト16の右側部分と連結する2つのサイドストラップ42、44と、が含まれる。ここで、膨らんだ状態では、顎バッグ部分24fが上方に膨らみ、乗員の顎と胸部との間に収まることで、胸部への頭部の回転を最小限に抑えることができることに留意されたい。
図3を参照すると、本発明の拘束システムは、膨張していない収納状態で示 されている。すっきりとしたより美しい外観を呈するために、膨張していない状態のブラダ部材24は、図3に示すように、ショルダーストラップ12、14及びラップベルト16の上に折り畳まれ、ブラダ24の膨張時にそれぞれ破裂又は係合解除する軽い糸鋲又はベルクロストリップによって所定の位置に保持されてもよい。
拘束システム10の動作は以下の通りである。航空機が衝突時に少なくとも閾値の衝撃を受けると、衝撃センサスイッチ30が閉じ、航空機電源32からガス発生器26の点火器アセンブリ(図示せず)にエネルギーを供給し、それ によってガス発生器通気孔26aを通ってブラダ部材24内へのガス流の生成を開始する。図2に示すように、20ミリ秒未満で約3~6ポンド/平方イ ンチのピーク圧力でブラダ部材24を完全に膨張させるのに十分なガス圧力 とガス流が発生する。ブラダ部材24が加圧されると、骨盤バッグ24b、24c及び胸バッグ24d、24eが膨張し、顎バッグ部材24fも膨張する。図2に示すように、ブラダが完全に膨張すると、乗員と拘束ストラップとの間で押され、乗員を座席に対して押し戻す。顎バッグ部材24fは、顎の下側と胸部との間に挟み込まれ、それにより、顎が胸部に接触するのを防ぎ、頭部の回転を最小限に抑える。」(第3欄66行~第4欄39行)
イ 認定事項
(ア)第2欄47~49行の「The distal ends of the lap belt 16 and the shoulder straps 12, 14 terminate into fittings 18 which mate with seat pan fittings (not shown).」(翻訳文:ラップベルト16及びショルダーストラップ12、14の遠位端は、シートパン取付け具 (図示なし)と嵌合する取付け具18内で終端する。)との記載及びFig.1、2の図示内容から、2本のショルダーストラップ12、14の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、ラップベルト16の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合すると認められる。
(イ)第3欄31~40行の「The bladder member 24 is formed with a central pocket portion 24a which is in fluid communication with two adjoining pelvic bags 24b and 24c and two adjoining shoulder bags 24e and 24d. The shoulder bags 24e, 24d are additionally interconnected by and are in fluid communication with a chin bag member 24f. (It should be understood that the various portions of the bladder member 24 have been separately designated for convenience only and that the bladder member 24 essentially forms one continuous cavity.)」(翻訳文:ブラダ部材24は、2つの隣接する骨盤バッグ24b、24c及び2つの隣接するショルダーバッグ24e、24dと流体連通する中央ポケット部分24aを備えて形成されている。ショルダーバッグ24e、24dは、さらに顎バッグ部材24fによって相互に接続され、顎バッグ部材24fと流体連通している(ブラダ部材24の様々な部分が便宜上別々に指定されているだけであり、ブラダ部材24は本質的に1つの連続した空洞を形成していることを理解すべきである。)。)との記載、第4欄30~39行の「As the bladder member 24 is pressurized, the pelvic bags 24b, 24c and the chest bags 24d, 24e inflate as does the chin bag member 24f. As shown in FIG. 2, when the bladder is completely inflated it is pressed between the occupant and the restraining straps and forces the occupant back against the seat. The chin bag member 24f is wedged between the underside of the chin and the chest, to thereby prevent chin contact with the chest and minimize head rotation.」(翻訳文:ブラダ部材24が加圧されると、骨盤バッグ24b、24c及び胸バッグ24d、24eが膨張し、顎バッグ部材24fも膨張する。図2に示すように、ブラダが完全に膨張すると、乗員と拘束ストラップとの間で押され、乗員を座席に対して押し戻す。顎バッグ部材24fは、顎の下側と胸部との間に挟み込まれ、それにより、顎が胸部に接触するのを防ぎ、頭部の回転を最小限に抑える。)との記載及びFig.1、2の図示内容から、ブラダ部材24は、顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位を有し、膨張した顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位は、乗員の両肩部及び胸部に対応する位置と2本のショルダーストラップ12、14との間で押され、顎バッグ部材24fは、顎の下側と胸部との間に挟み込まれ、それにより、顎が胸部に接触するのを防ぎ、胸部への頭部の回転を最小限に抑えると認められる。
ウ 引用発明1
上記ア、イを踏まえると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「ショルダーストラップ12、14及びラップベルト16と、
ショルダーストラップ12、14及びラップベルト16のうち、乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス発生器26からガスが発生することにより膨張するブラダ部材24と、
を備え、
2本のショルダーストラップ12、14の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、ラップベルト16の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、
ブラダ部材24は、顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位を有し、
膨張した顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位は、乗員の両肩部及び胸部に対応する位置と2本のショルダーストラップ12、14との間で押され、顎バッグ部材24fは、顎の下側と胸部との間に挟み込まれ、それにより、顎が胸部に接触するのを防ぎ、胸部への頭部の回転を最小限に抑える、拘束システム10。」
エ 引用文献1記載技術
上記ア、イを踏まえると、引用文献1には、以下の技術(以下「引用文献1記載技術」という。)が記載されているものと認められる。
「2本のショルダーストラップ12、14の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、ラップベルト16の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合するものにおいて、
膨張した顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位は、乗員の両肩部及び胸部に対応する位置と2本のショルダーストラップ12、14との間で押される技術。」
(2)引用文献2に記載された事項等
ア 認定事項
(ア)引用文献2の段落【0022】、【0032】の記載及び図1、5の図示内容から、ウェビングWが左右の支持膨張部42よりも車室側(乗員側の逆)にあり、図1、5の右側が車幅方向内側、左側が車幅方向外側に対応するという位置関係にあると看取される。そのことを踏まえると、段落【0037】及び図9(a-1)~9(a-3)に示される実施形態は、左右の支持膨張部42の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいものを含むと認められる。
(イ)段落【0023】の「図1に示したリトラクタ2は、装備される対象のシートに対応して、たとえばBピラー、Cピラー、リアシート後方のトレイなどの車体側や、あるいはシートバック1B内等のシートの一部に収容され、固定されるように設計される。」との記載及び技術常識を参酌すると、図1の左側が車幅方向外側であり、図1の右側が車幅方向内側であることが明らかである。
(ウ)上記(イ)を踏まえると、段落【0022】の「なお、以下の説明では「シートベルト」は乗員を拘束したり、その機能を奏する場合や、部位を示す(たとえばショルダーベルト等)用語として用い、リトラクタに巻き取られ、所定の引き出し力で引き出されるシートベルトを構成する織布製の帯体を「ウェビング」と呼ぶ。」との記載、段落【0024】の「シートバック1Bの右肩側上端には、ショルダアンカー7が設置されている。ショルダアンカー7は通常、Bピラー上部あるいはシートバック1B上端に設けられ、このショルダアンカー7でショルダーベルト3Sは方向変換されてリトラクタ2に導かれる。」との記載及び図1の図示内容から、リトラクタ2から引き出されたウェビングWは、シートバック1Bの車幅方向外側である右肩側上端に設置されているショルダアンカー7を通ると認められる。
(エ)上記(イ)、(ウ)を踏まえると、段落【0022】の「同図には、リトラクタ2から引き出されたシートベルト3がトング4で折り返され、その端部がアンカープレート6に定着された状態が示されている。」との記載、段落【0025】の「図1には、さらにトング4のガス供給パイプ4aとトングプレート4bとを保持するバックル9が示されている。このバックル9はブラケット9aを介してシート脇の車体の固定部(図示せず)にボルト等の固定部材を介して固定される。バックル9にはトングプレート支持穴9bとガス供給パイプ連結穴9aとが形成されており、トング4の装着時にトングプレート4bとガス供給パイプ4aとは同時にバックル9の各穴に挿入される。」との記載及び図1の図示内容から、ウェビングWは、シートバック1Bより車幅方向内側のシート脇の車体の固定部に固定されるバックル9に保持されるトング4で折り返されると認められる。
(オ)上記(イ)、(エ)を踏まえると、段落【0022】の「同図には、リトラクタ2から引き出されたシートベルト3がトング4で折り返され、その端部がアンカープレート6に定着された状態が示されている。このアンカープレート6は、固定ボルト5を介して図示しない車体の固定部に固定される。」との記載及び図1の図示内容から、ウェビングWは、端部がシートバック1Bより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレート6に定着されていると認められる。
(カ)段落【0029】、【0030】の記載、段落【0036】の「エアバッグ20の背面布20Bと隔壁布片20Dとは、設計上、図3(b)で示したように、直線状の1本のシーム28bで縫着することができる。しかし、実際にエアバッグが膨張する際、エアバッグの膨張がシーム位置で抑止される一方、シーム端部の周囲が急激に膨張するため、シーム端部に応力集中が起こる。そこで、図3(a)に示したように、シーム端部に半円形状シーム28cを連続して形成することで、その問題を回避できる。」との記載及び図3の図示内容から、エアバッグ20は、エアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部を有すると認められる。
(キ)上記(カ)を踏まえると、段落【0025】の「したがって、衝突時等に、このインフレータGへの動作信号が送られると、インフレータG内の点火剤の発火によりインフレータGのガス噴出口からガスが噴出し、ガス供給パイプ4aを介してエアバッグ20(図3)が、乗員の装着しているショルダーベルト3Sに沿って、隔壁41で仕切られるように所定断面形状(図4(b))の複数区画に分割された形状に膨張し、さらに乗員の前方への移動によるベルト張力の上昇に伴い、各膨張部が扁平な厚みの面状(図4(c))に変形する。これにより、エアベルト11の初期膨張段階に、ウェビングWの初期張力を十分確保して乗員の拘束効果を高めることができる。さらにその後エアバッグ20の全体変形により、乗員の側腹部、胸部、肩上部の範囲をソフトに拘束することができる(図4(c),図5(b),図1:膨張形状を仮想線表示)。」との記載及び図3~5の図示内容から、膨張したエアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部は、乗員の右肩上部の範囲を拘束すると認められる。
イ 引用発明2
上記アを踏まえると、引用文献2(特に、段落【0022】、【0028】-【0030】、【0032】、【0037】、図1、3、5、9(a-1)~9(a-3)を参照。)には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「乗員の片方の肩の上方から反対側の腰骨の付近に掛け渡されるウェビングWと、
ウェビングWのうち、乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガスが供給されると膨張するエアバッグ20と、
を備え、
リトラクタ2から引き出されたウェビングWは、シートバック1Bの車幅方向外側である右肩側上端に設置されているショルダアンカー7を通り、シートバック1Bより車幅方向内側のシート脇の車体の固定部に固定されるバックル9に保持されるトング4で折り返され、端部がシートバック1Bより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレート6に定着され、
エアバッグ20は、エアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部を有し、
膨張したエアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部は、乗員の右肩上部の範囲を拘束し、
ウェビングWを片方の肩の上方から反対側の腰骨の付近に掛け渡す際に、乗員の体躯の前面形状にフィットするようにエアバッグ20を膨張させるために、エアバッグ20の膨張時において、左右の支持膨張部42の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい、乗員保護装置10。」
ウ 引用文献2記載技術
上記アを踏まえると、引用文献2(特に、段落【0022】、【0028】-【0030】、【0032】、【0037】、図1、3、5、9(a-1)~9(a-3)を参照。)には、以下の技術(以下「引用文献2記載技術」という。)が記載されているものと認められる。
「リトラクタ2から引き出されたウェビングWは、シートバック1Bの車幅方向外側である右肩側上端に設置されているショルダアンカー7を通り、シートバック1Bより車幅方向内側のシート脇の車体の固定部に固定されるバックル9に保持されるトング4で折り返され、端部がシートバック1Bより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレート6に定着されるものにおいて、
エアバッグ20は、エアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部を有し、
膨張したエアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部は、乗員の右肩上部の範囲を拘束する技術。」
(3)引用文献3に記載された事項等
引用文献3(特に、段落【0031】、【0035】、【0051】、【0053】、【0057】、図1、4を参照。)には、以下の技術(以下「引用文献3記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「4点式シートベルト装置12を備える車両用乗員拘束装置10において、エアベルト部30を備え、膨張展開したエアベルト部30が、運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する技術。」
(4)引用文献4に記載された事項等
引用文献4(特に、段落【0022】、【0035】、図1、5、6を参照。)には、以下の技術(以下「引用文献4記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「3点式シートベルトを備える乗員保護装置20において、膨張完了状態の第2のエアバッグ3の車幅方向内側を含む領域が、第1のエアバッグ1と接触すること、及び、乗員保護装置20は、運転席、助手席にも適用可能である技術。」
(5)周知技術1について
引用文献2記載技術、引用文献4記載技術等に見られるように、乗員拘束装置において、ウェビングと、ウェビングのうち、乗員の肩から腰にかけての領域に設けられたエアバッグと、を備え、リトラクタから引き出されたウェビングは、車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着される技術は、周知の技術(以下「周知技術1」という。)である。
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明1の「ショルダーストラップ12、14及びラップベルト16」は本件発明1の「乗員の身体に沿って引き回されるウェビング」に相当し、以下同様に、
「乗員」は「乗員」に、
「ショルダーストラップ12、14及びラップベルト16のうち、乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることは「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることに、
「ガス発生器26からガスが発生することにより膨張する」ことは「ガス供給により膨張展開する」ことに、
「ブラダ部材24」は「エアバッグ」に、
「拘束システム10」は「乗員拘束装置」に、それぞれ相当する。
イ 引用発明1の「顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位」は、図2の図示内容から、膨張展開時の長手方向がショルダーストラップ12、14の延在方向と交差し、該ショルダーストラップ12、14と乗員との間で横方向に膨張展開することが看取される。そのため、引用発明1の「顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位」は、本件発明1の「膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部」に相当する。
ウ 引用発明1の「膨張した顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位は、乗員の両肩部及び胸部に対応する位置と2本のショルダーストラップ12、14との間で押され」ることは、本件発明1の「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」ことに相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点1)
「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、
膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する、乗員拘束装置。」
(相違点1)
本件発明1は、「リトラクタから引き出された前記ウェビングは、前記乗員が着座するシートより車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、前記シートより車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が前記シートより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着され」るものにおいて、前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束するのに対し、
引用発明1は、前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束するものの、「2本のショルダーストラップ12、14の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、ラップベルト16の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合」するものである点。
(2)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は引用発明1であるとはいえない。
(3)取消理由2(特許法第29条第2項)についての判断
相違点1について検討する。
上記1(7)において示したように、引用文献2記載技術、引用文献4記載技術等に見られるように、乗員拘束装置において、ウェビングと、ウェビングのうち、乗員の肩から腰にかけての領域に設けられたエアバッグと、を備え、リトラクタから引き出されたウェビングは、車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着される技術は、周知の技術(周知技術1)である。
ここで、引用発明1においては、「2本のショルダーストラップ12、14の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、ラップベルト16の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合」する構成を有していることにより、「膨張した顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位は、乗員の両肩部及び胸部に対応する位置と2本のショルダーストラップ12、14との間で押され、顎バッグ部材24fは、顎の下側と胸部との間に挟み込まれ、それにより、顎が胸部に接触するのを防ぎ、胸部への頭部の回転を最小限に抑える」という機能を有するものである。
そして、引用発明1に周知技術1を適用し、リトラクタから引き出されたウェビングは、車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着されるものとした場合、「膨張した顎バッグ部材24fからショルダーバッグ24d、24eの上方にかけての部位は、乗員の両肩部及び胸部に対応する位置と2本のショルダーストラップ12、14との間で押され、顎バッグ部材24fは、顎の下側と胸部との間に挟み込まれ、それにより、顎が胸部に接触するのを防ぎ、胸部への頭部の回転を最小限に抑える」という機能が失われることが明らかである。
してみると、引用発明1に周知技術1を適用すると、引用発明1が機能しなくなるため、阻害要因があると認められる。
したがって、引用発明1に周知技術1を適用することはできたとはいえない。
また、リトラクタから引き出されたウェビングは、車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着されたもの、すなわちいわゆる3点式シートベルト装置において、膨張展開した横方向展開部は、乗員の両肩部及び胸部を拘束することは、引用文献1だけでなく、引用文献2~4、甲1、3にも記載も示唆もされておらず、周知技術であると認めるに足る証拠もない。
してみると、引用発明1において、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の意見書における主張について
申立人は、令和7年12月11日の意見書において、本件発明1の進歩性について以下のように主張する。
「しかしながら、乗員拘束装置を構成するシートベルト装置として、3点式シートベルト装置は広く知られており(例えば引用文献4に開示されるなど、例を挙げればきりがない。)、仮にこのような常識的な事項を追加することのみで請求項1に係る発明の進歩性が認められるとすれば、社会の技術の進歩に役立たないばかりでなく却ってさまたげとなる。
また、実際、当業者が、引用文献1に記載の4点式シートベルト装置を3点式シートベルト装置として構成することに何ら困難性はないし、当業者が引用文献1に記載の発明に3点式シートベルト装置を採用すれば、自ずと、エアバッグ(ブラダ部材24)の膨張展開時の長手方向が、3点式シートベルト装置のウェビングの延在方向と交差し、ウェビングと乗員との間で横方向に膨張展開して乗員の両肩部及び胸部を拘束する横方向展開部(顎バッグ部分24f)を備える構成となることは明らかである。」
しかしながら、上記(3)において説示したように、引用発明1に周知技術1を適用することには阻害要因がある。申立人が主張するように、「乗員拘束装置を構成するシートベルト装置として、3点式シートベルト装置は広く知られて」いるとしても、引用発明1に周知技術1を適用することには阻害要因があるのと同様の理由により、「引用発明1に記載の4点式シートベルト装置を3点式シートベルト装置として構成すること」には阻害要因があると認められる。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
3 本件発明2~6、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11について
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
本件発明4、5、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記2(1)、(2)で説示したのと同様の理由により、引用発明1ではない。
(2)取消理由2(特許法第29条第2項)についての判断
本件発明2~6、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記2(1)、(3)で説示したのと同様の理由により、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 本件発明7について
(1)対比
本件発明7と引用発明2とを対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明2の「乗員」は、本件発明7の「乗員」に相当し、以下同様に、
「片方の肩の上方から反対側の腰骨の付近に掛け渡される」ことは「身体に沿って引き回される」ことに、
「ウェビングW」は「ウェビング」に、
「ウェビングWのうち、乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることは「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることに、
「ガスが供給されると膨張する」ことは「ガス供給により膨張展開する」ことに、
「エアバッグ20」は「エアバッグ」に、
「乗員保護装置10」は「乗員拘束装置」に、それぞれ相当する。
イ 引用発明2の「エアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部」は、図3、5の図示内容から、膨張展開時の長手方向がウェビングWの延在方向と交差し、該ウェビングWと乗員との間で横方向に膨張展開することが看取される。そのため、引用発明2の「エアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部」は、本件発明7の「膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部」に相当する。
ウ 引用発明2においては、エアバッグ20の膨張時において、左右の支持膨張部42の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きくなる。ここで、エアバッグ20は内部が連通していることから、左右の支持膨張部42が膨張することにつられて、エアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部においても車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きくなるものと認められる。そのため、引用発明2の「エアバッグ20の膨張時において、左右の支持膨張部42の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい」ことは、本件発明7の「前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい」ことに相当する。
エ 引用発明2の「膨張したエアバッグ20のうちシーム28a、28b、28cで縫着されていない上部は、乗員の右肩上部の範囲を拘束」することは、本件発明7の「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束」することと、「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の少なくとも右肩部を拘束」することという限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明7と引用発明2との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点2)
「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、
膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の少なくとも右肩部を拘束し、
前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい、乗員拘束装置。」
(相違点2)
本件発明7においては、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束するものにおいて、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいのに対し、
引用発明2においては、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいものの、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の「右肩上部の範囲」を拘束するものである点。
(2)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明7は引用発明2であるとはいえない。
(3)取消理由2(特許法第29条第2項)についての判断
相違点2について検討する。
引用発明2は、「リトラクタ2から引き出されたウェビングWは、シートバック1Bの車幅方向外側である右肩側上端に設置されているショルダアンカー7を通り、シートバック1Bより車幅方向内側のシート脇の車体の固定部に固定されるバックル9に保持されるトング4で折り返され、端部がシートバック1Bより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレート6に定着され」るものであること、すなわちいわゆる3点式シートベルト装置であることを前提とし、「ウェビングWを片方の肩の上方から反対側の腰骨の付近に掛け渡す際に、乗員の体躯の前面形状にフィットするようにエアバッグ20を膨張させるために、エアバッグ20の膨張時において、左右の支持膨張部42の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい」ものである。
一方、引用文献1記載技術は、「2本のショルダーストラップ12、14の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、ラップベルト16の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合する」ものであること、すなわちいわゆる4点式シートベルト装置であることを前提とするものである。
そして、引用発明2に引用文献1記載技術を適用した場合、「リトラクタ2から引き出されたウェビングWは、シートバック1Bの車幅方向外側である右肩側上端に設置されているショルダアンカー7を通り、シートバック1Bより車幅方向内側のシート脇の車体の固定部に固定されるバックル9に保持されるトング4で折り返され、端部がシートバック1Bより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレート6に定着され」る構成を、「2本のショルダーストラップ12、14の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合し、ラップベルト16の遠位端は取付け具18内で終端し、シートの幅方向両側のシートパン取付け具と嵌合する」構成に置き換えることになるところ、そのように置き換えたものは、「ウェビングWを片方の肩の上方から反対側の腰骨の付近に掛け渡す際に、乗員の体躯の前面形状にフィットするようにエアバッグ20を膨張させるために、エアバッグ20の膨張時において、左右の支持膨張部42の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい」ようにする必要がないことは明らかであり、引用発明2の目的に反するものになる。
してみると、引用発明2に引用文献1記載技術を適用すると、引用発明2の目的に反するものになるから、阻害要因があると認められる。
したがって、引用発明2に引用文献1記載技術を適用することはできたとはいえない。
また、膨張展開した横方向展開部は、乗員の両肩部及び胸部を拘束するものにおいて、エアバッグの膨張完了状態において、横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいものは、引用文献2だけでなく、引用文献1、引用文献3、引用文献4、甲1、甲3にも記載も示唆もされておらず、周知技術であると認めるに足る証拠もない。
してみると、引用発明2において、本件発明7の相違点2に係る発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、本件発明7は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の意見書における主張について
申立人は、令和7年12月11日の意見書において、本件発明7の進歩性について以下のように主張する。
「しかしながら、引用文献2の段落0037には、「しかし、乗員の体系は様々であり、ウェビングWを片方の肩の上方から反対側の腰骨の付近に掛け渡す際に、乗員の体形、特に体躯の前面形状にフィットするようにエアベルト装置のエアバッグを膨張させることが好ましい。」旨が記載されており、膨張展開時のエアバッグ20の(各シーム28で縫着されていない)上部が、乗員の両肩部及び胸部を拘束するようにし得ることが示唆されている。また、その具体例として、同段落に「例えば図9(a-1)に示したように、ウェビング挿通路29と隔壁布片20Dとを幅方向の中心位置からずらして、支持膨張部42の容積(断面積)に差を付けることで、シートベルトが乗員を拘束する位置と、ベルトが乗員をおさえる方向とを制御することができる。初期膨張時には、同図(a-2)に示したように、中央膨張部40を挟んで左右の支持膨張部42の断面積が異なった状態で膨張するので、ウェビングWが乗員を拘束するように作用する方向を乗員の体形に倣って傾かせることができる。」ことも記載されている。また、乗員の両肩部及び胸部を拘束する横方向展開部は周知技術である(参照:特許異議申立書に添付の甲第3号証:特開2009-269538号公報)。このことから、当業者が、引用文献2に記載の発明において、膨張したエアバッグ20が乗員の両肩部及び胸部を拘束するようにすることは、容易に想到できたことである。」
しかしながら、引用文献1記載技術は「乗員の両肩部及び胸部を拘束する横方向展開部」を有するものの、上記(3)において説示したように、引用発明2に引用文献1記載技術を適用することには阻害要因があると認められる。また、膨張展開した横方向展開部は、乗員の両肩部及び胸部を拘束するものにおいて、エアバッグの膨張完了状態において、横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいものが周知技術であることの証拠は示されていない。
してみると、申立人が主張するように「乗員の両肩部及び胸部を拘束する横方向展開部は周知技術である」としても、そのことをもって、本件発明7は、引用発明2に当該周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
5 本件発明8、請求項7を引用する本件発明9について
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
請求項7を引用する本件発明9は、本件発明7の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記3(1)、(2)で説示したのと同様の理由により、引用発明2ではない。
(2)取消理由2(特許法第29条第2項)についての判断
本件発明8、請求項7を引用する本件発明9は、本件発明7の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記3(1)、(3)で説示したのと同様の理由により、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 小括
以上によれば、本件発明1、4、5、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11は引用発明1ではない。また、本件発明7、請求項7を引用する本件発明9は引用発明2ではない。
更に、本件発明1~6、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件発明8、請求項7を引用する本件発明9は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 取消理由通知において引用しなかった証拠について
(1)甲第1号証(特開昭49-110029号公報)に記載された事項等
ア 認定事項
(ア)第2ページ左上欄10~18行の「第1図および第2図において、1は座席に着席した乗員である。2は乗員の上半身を保持するヨーク型シヨルダベルトであり、一端は自動車のルーフ5に固定され、他の一端はラップベルト3に結合されている。ラップベルト3は乗員の腰部を保持し、ラップベルト3とシヨルダーベルト2との結合部にはエアバッグユニット4が装着されている。また、6は自動車のドア、7は車体である。」との記載及び第1、2図の図示内容から、2本のシヨルダベルト2の一端は座席中央部の上方で自動車のルーフ5に固定され、他の一端はラップベルト3に結合され、ラップラップベルト3の両端は、座席より車幅方向内側及び外側で車体7に固定されていると認められる。
(イ)第2ページ右上欄4~9行の「次に衝突時においては、車体7に装着されているGセンサ9が衝突時の加速度を検出してエアバッグ4のガス発剤に点火し、エアバッグ4をシヨルダベルト2と乗員1との間に急速に展開する。破斜線8は上記の展開されたエアバッグを示している。」との記載、第2ページ右上欄10~16行の「上記のごとく、エアバッグがシヨルダベルト2と乗員1との間に展開するため、シヨルダベルト2が乗員の胸部、肩部または腹部に食込むことがなく、また衝突後に発生する乗員の頭部の前傾に対しても、展開したエアバッグ8の上端部で拘束することによって頭部が過度に前傾しないように保護している。」との記載及び第1、2図の図示内容から、展開したエアバッグ8は、乗員1の両肩部及び胸部を拘束し、展開したエアバッグ8の上端部で拘束することによって頭部が過度に前傾しないように保護すると認められる。
イ 甲1発明
上記アを踏まえると、甲第1号証(以下「甲1」という。特に、第1ページ右欄1行~第2ページ左下欄12行、第1、2図を参照。)には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「乗員の上半身を保持するシヨルダベルト2及び乗員の腰部を保持するラップベルト3と、
ラップベルト3とシヨルダベルト2との結合部に装着され、ガス発剤に点火することにより展開するエアバッグ4と、
を備え、
2本のシヨルダベルト2の一端は座席中央部の上方で自動車のルーフ5に固定され、他の一端はラップベルト3に結合され、ラップラップベルト3の両端は、座席より車幅方向内側及び外側で車体7に固定され、
展開したエアバッグ8は、乗員1の両肩部及び胸部を拘束し、展開したエアバッグ8の上端部で拘束することによって頭部が過度に前傾しないように保護する、エアバッグ付シートベルト。」
ウ 甲1記載技術
上記アを踏まえると、甲1(特に、第1ページ右欄1行~第2ページ左下欄12行、第1、2図を参照。)には、以下の技術(以下「甲1記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「2本のシヨルダベルト2の一端は座席中央部の上方で自動車のルーフ5に固定され、他の一端はラップベルト3に結合され、ラップラップベルト3の両端は、座席より車幅方向内側及び外側で車体7に固定されるものにおいて、
展開したエアバッグ8は、乗員1の両肩部及び胸部を拘束する技術。」
(2)甲第3号証(特開2009-269538号公報)に記載された事項等
ア 認定事項
(ア)段落【0012】の「また、シートベルト装置22は、ショルダーベルト部11とラップベルト部13とを備えている。前記ショルダーベルト部11は、前記ショルダーアンカー部7からバックル部9に亘って延設されて乗員15の肩部17から胸部19を斜めに拘束し、前記ラップベルト部13は、乗員15の腰部21を拘束する。」との記載、段落【0029】の「また、前記延設部123は、2枚のシート部材の少なくともいずれかを略台形状に切り残したものであり、先端部にショルダーベルト部11(ウエビング)を挿通させる矩形状の挿通口125が形成されている。」との記載及び図1、2の図示内容から、ウエビングは、乗員15の肩部17から胸部19を斜めに拘束すると認められる。
(イ)上記(ア)を踏まえると、段落【0014】の「車両が衝突を検知または予知すると、図2に示す上部エアバッグ27および下部エアバッグ29が車両前方へ向けて膨張する。即ち、前記上部エアバッグ27は、通常時(車両が衝突を検知または予知する場合以外)には、ショルダーベルト部11内に格納されており、車両が衝突を検知または予知すると、ショルダーベルト部11から車両前方に膨張する。」との記載、段落【0035】の「図9(a)に示すように、車両が衝突を検知または予知すると、ショルダーベルト部11から上部エアバッグ27が車両前方へ向けて膨張し、ラップベルト部13から下部エアバッグ29が車両前方へ向けて膨張する。ここで、下部エアバッグ29は上方にも膨張するため、上部エアバッグ27の下面に上下方向に接触する。また、下部エアバッグ29の前面には、排出孔45が形成されているため、該排出孔45から下部エアバッグ29の内部の流体(例えば、ガス)が車両前方へ向けて排出される。」との記載及び図2の図示内容から、上部エアバッグ27は、ウエビングのうち、ショルダーベルト部11に設けられ、ガスにより膨張すると認められる。
(ウ)上記(ア)を踏まえると、段落【0011】の「この車両には、シートバック1、シートクッション3およびヘッドレスト5を有する車両用シート6が床面上にレール8を介して設けられている。また、本実施形態におけるシートベルト装置22は、3点式シートベルトであり、乗員15の右側(車幅方向外側)の上方に配設されたショルダーアンカー部7と、乗員15の右側(車幅方向外側)の下方に配設された図外のラップアンカー部と、乗員15の左側(車幅方向内側)の下方に配設された図外のバックルアンカー部との3点で支持されている。これらのショルダーアンカー部7、ラップアンカー部、およびバックルアンカー部は、車体に取り付けても良く、車両用シート6に取り付けても良い。」との記載及び図1、2の図示内容から、ウエビングは、車両用シート6の車幅方向外側の上方に配設されたショルダーアンカー部7と、車両用シート6の車幅方向外側の下方に配設されたラップアンカー部と、車両用シート6の車幅方向内側の下方に配設されたバックルアンカー部との3点で支持されると認められる。
(エ)上記(ア)を踏まえると、段落【0014】の「車両が衝突を検知または予知すると、図2に示す上部エアバッグ27および下部エアバッグ29が車両前方へ向けて膨張する。即ち、前記上部エアバッグ27は、通常時(車両が衝突を検知または予知する場合以外)には、ショルダーベルト部11内に格納されており、車両が衝突を検知または予知すると、ショルダーベルト部11から車両前方に膨張する。」との記載及び図1、2の図示内容から、上部エアバッグ27は、ウエビングから車両前方及び横方向に膨張する部分を有すると認められる。
(オ)段落【0033】の「また、図8に示すように、上部エアバッグ27および下部エアバッグ29が膨張したときに、膨張によって乗員から離反しようとする上部エアバッグ27の上側がショルダーベルト部11(ウエビング)を挿通させている延設部123によって車両後方側(乗員15側)に向けて矢印方向に引き寄せられる(上部エアバッグ27の上側とショルダーベルト部11との距離を保つ)ため、上部エアバッグ27が乗員15の胸部19から離れることがない。」との記載、段落【0053】の「延いては、前屈する乗員15の頭部23を上部・下部エアバッグ27,29で受け止めて、その荷重を上部・下部エアバッグ27,29を介して乗員15の大腿部25またはシートクッション3の座面で支持させるようにして乗員15の頭部23をより迅速に拘束できる。」との記載及び図2、8、9の図示内容から、膨張した上部エアバッグ27は、乗員15の頭部23及び胸部19を拘束すると認められる。
イ 甲3発明
上記アを踏まえると、甲第3号証(以下「甲3」という。特に、段落【0010】~【0014】、【0025】~【0029】、【0032】~【0036】、【0053】、【0062】、図1、2、6~9を参照。)には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「乗員15の肩部17から胸部19を斜めに拘束するウエビングと、
ウエビングのうち、ショルダーベルト部11に設けられ、ガスにより膨張する上部エアバッグ27と、
を備え、
ウエビングは、車両用シート6の車幅方向外側の上方に配設されたショルダーアンカー部7と、車両用シート6の車幅方向外側の下方に配設されたラップアンカー部と、車両用シート6の車幅方向内側の下方に配設されたバックルアンカー部との3点で支持され、
上部エアバッグ27は、ウエビングから車両前方及び横方向に膨張する部分を有し、
膨張した上部エアバッグ27は、乗員15の頭部23及び胸部19を拘束する、乗員保護装置。」
ウ 甲3記載技術
上記アを踏まえると、甲3(特に、段落【0010】~【0014】、【0025】~【0029】、【0032】~【0036】、【0053】、【0062】、図1、2、6~9を参照。)には、以下の技術(以下「甲3記載技術」という。)が記載されていると認められる。
「ウエビングは、車両用シート6の車幅方向外側の上方に配設されたショルダーアンカー部7と、車両用シート6の車幅方向外側の下方に配設されたラップアンカー部と、車両用シート6の車幅方向内側の下方に配設されたバックルアンカー部との3点で支持されるものにおいて、
上部エアバッグ27は、ウエビングから車両前方及び横方向に膨張する部分を有し、
膨張した上部エアバッグ27は、乗員15の頭部23及び胸部19を拘束する技術。」
2 特許異議申立ての理由1(以下「申立理由1」という。)について
(1)申立理由1の内容
申立人は、本件特許の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである旨、及び、本件特許の請求項1~9に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)甲1発明の「乗員」は本件発明1の「乗員」に、以下同様に、
「上半身を保持する」こと及び「乗員の腰部を保持する」ことは「身体に沿って引き回される」ことに、
「シヨルダベルト2」及び「ラップベルト3」は「ウェビング」に、
「ガス発剤に点火することにより展開する」ことは「ガス供給により膨張展開する」ことに、
「エアバッグ4」は「エアバッグ」に、
「エアバッグ付シートベルト」は「乗員拘束装置」に、それぞれ相当する。
(イ)甲1発明の「ラップベルト3とシヨルダベルト2との結合部に装着され」ることは、本件発明1の「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることと、ウェビングに設けられることという限りにおいて一致する。
(ウ)甲1発明の「展開したエアバッグ8は、乗員1の両肩部及び胸部を拘束」することは、本件発明1の「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」ことと、「前記エアバッグは、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」ことという限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点3)
「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングに設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する、乗員拘束装置。」
(相違点3-1)
本件発明1は、「リトラクタから引き出された前記ウェビングは、前記乗員が着座するシートより車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、前記シートより車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が前記シートより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着され」、「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は」、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束するのに対し、
甲1発明は、「2本のシヨルダベルト2の一端は座席中央部の上方で自動車のルーフ5に固定され、他の一端はラップベルト3に結合され、ラップラップベルト3の両端は、座席より車幅方向内側及び外側で車体7に固定され」、「展開したエアバッグ8は」、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する点。
(相違点3-2)
エアバッグがウェビングに設けられることについて、本件発明1は、「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域」に設けられるのに対し、
甲1発明は、「ラップベルト3とシヨルダベルト2との結合部」に設けられる点。
イ 申立理由1(特許法第29条第1項第3号)についての判断
相違点3-1及び相違点3-2は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
ウ 申立理由1(特許法第29条第2項)についての判断
相違点3-1について検討する。
リトラクタから引き出されたウェビングは、車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着されたもの、すなわちいわゆる3点式シートベルト装置において、膨張展開した横方向展開部が、乗員の両肩部及び胸部を拘束することは、甲1だけでなく、引用文献1~4、甲3にも記載も示唆もされておらず、周知技術であると認めるに足る証拠もない。
してみると、甲1発明において、本件発明1の相違点3-1に係る発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立人の特許異議申立書における主張について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「(ウ)構成要件1Cに対応する構成
上記アのとおり、甲1には、エアバッグ4が、シヨルダベルト2と乗員との間で膨張展開することが開示されている(甲1の明細書右上欄1行~20行、第1図、第2図)。ここで、膨張展開したエアバッグ4(破斜線8)は、乗員の胸部から顎下までにわたる上部(参考図1の赤色の網掛け部分)において、長手方向が水平方向に一致する。参考図1に示すように、破斜線8の上部の長手方向は、シヨルダベルト2の延在方向と交差する。
[図:0001436171000002.jpg]
<参考図1> 甲1の第1図(申立人が構成要件1Cとの対応を追記)
したがって、破斜線8の上部は「横方向展開部」に相当するから、甲1発明は、構成1C「エアバッグ4は、膨張展開時の長手方向がショルダベルト2の延在方向と交差し、ショルダベルト2と乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部(破斜線8の上部)を有し、」を有する。」
しかしながら、甲1には、「乗員の胸部から顎下までにわたる上部(参考図1の赤色の網掛け部分)」と、エアバッグの他の部分との間に、両者を区別するような構成(例えば、縫合部)を有することは記載されていない。してみると、甲1発明において、エアバッグ1の一部分である「乗員の胸部から顎下までにわたる上部」のみを恣意的に取り出し、横方向展開部に相当すると認定することはできない。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
(3)本件発明2~6、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11について
ア 申立理由1(特許法第29条第2項)についての判断
本件発明2~6、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記(2)ア、ウ、エで説示したのと同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)引用発明1の「乗員」は本件発明1の「乗員」に、以下同様に、
「上半身を保持する」こと及び「乗員の腰部を保持する」ことは「身体に沿って引き回される」ことに、
「シヨルダベルト2」及び「ラップベルト3」は「ウェビング」に、
「ガス発剤に点火することにより展開する」ことは「ガス供給により膨張展開する」ことに、
「エアバッグ4」は「エアバッグ」に、
「アバッグ付シートベルト」は「乗員拘束装置」に、それぞれ相当する。
(イ)引用発明1の「ラップベルト3とシヨルダベルト2との結合部に装着され」ることは、本件発明1の「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることと、ウェビングに設けられることという限りにおいて一致する。
(ウ)引用発明1の「展開したエアバッグ8は、乗員1の両肩部及び胸部を拘束」することは、本件発明1の「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」ことと、「前記エアバッグは、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」ことという限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明7と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点4)
「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングに設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する、乗員拘束装置。」
(相違点4-1)
本件発明7は、「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい」のに対して、
甲1発明は、そのような構成を有しない点。
(相違点4-2)
エアバッグがウェビングに設けられることについて、本件発明7は、「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域」に設けられるのに対し、
甲1発明は、「ラップベルト3とシヨルダベルト2との結合部」に設けられる点。
イ 申立理由1(特許法第29条第2項)についての判断
相違点4-1について検討する。
膨張展開した横方向展開部は、乗員の両肩部及び胸部を拘束するものにおいて、エアバッグの膨張完了状態において、横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きくなるようにすることは、甲1だけでなく、引用文献1~4及び甲3にも記載も示唆もされておらず、周知技術であると認めるに足る証拠もない。
してみると、甲1発明において、本件発明7の相違点4-1に係る発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、相違点4-2について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明8、請求項7を引用する本件発明9について
ア 申立理由1(特許法第29条第2項)についての判断
本件発明8、請求項7を引用する本件発明9は、本件発明7の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記(3)ア、イで説示したのと同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)小括
以上によれば、本件発明1は甲1発明ではない。また、本件発明1~9は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 特許異議申立ての理由3(以下「申立理由3」という。)について
(1)申立理由3の内容
申立人は、本件特許の請求項1~9に係る発明は、甲3に記載された発明及び甲1、2、4、5に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)甲3発明の「乗員15」は本件発明1の「乗員」に、以下同様に、
「肩部17から胸部19を斜めに拘束する」ことは「身体に沿って引き回される」ことに、
「ウエビング」は「ウェビング」に、
「ウエビングのうち、ショルダーベルト部11に設けられ」ることは「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることに、
「ガスにより膨張する」ことは「ガス供給により膨張展開する」ことに、
「上部エアバッグ27」は「エアバッグ」に、
「乗員保護装置」は「乗員拘束装置」に、それぞれ相当する。
(イ)甲3発明の「上部エアバッグ27」は、横方向にも膨張するから、本件発明1の「エアバッグ」のように「横方向展開部」を有するといえる。してみると、甲3発明の「上部エアバッグ27は、ウエビングから車両前方及び横方向に膨張する部分を有」することは、本件発明1の「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有」することと、前記エアバッグは、横方向に膨張展開する横方向展開部を有することという限りにおいて一致する。
(ウ)甲3発明の「膨張した上部エアバッグ27は、乗員15の頭部23及び胸部19を拘束する」ことは、本件発明1の「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」ことと、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の胸部を拘束することという限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点5)
「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、
膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の胸部を拘束する、乗員拘束装置。」
(相違点5-1)
本件発明1は、「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」のに対し、
甲3発明は、前記エアバッグは、横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の胸部を拘束するものの、横方向展開部が「膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で」膨張するものではなく、膨張展開した前記横方向展開部は、「前記乗員の両肩部」を拘束するとの特定がない点。
(相違点5-2)
本件発明1は、「リトラクタから引き出された前記ウェビングは、前記乗員が着座するシートより車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、前記シートより車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が前記シートより車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着され」るのに対し、
甲3発明は、「ウエビングは、車両用シート6の車幅方向外側の上方に配設されたショルダーアンカー部7と、車両用シート6の車幅方向外側の下方に配設されたラップアンカー部と、車両用シート6の車幅方向内側の下方に配設されたバックルアンカー部との3点で支持され」る点。
イ 申立理由3(特許法第29条第2項)についての判断
相違点5-1について検討する。
リトラクタから引き出されたウェビングは、車幅方向外側に設けられたショルダアンカを通り、車幅方向内側に設けられたバックルに装着されるトングで折り返され、端部が車幅方向外側で車体の固定部に固定されたアンカープレートに定着されたもの、すなわちいわゆる3点式シートベルト装置において、膨張展開した横方向展開部は、乗員の両肩部及び胸部を拘束することは、甲3だけでなく、引用文献1~4、甲1にも記載も示唆もされておらず、周知技術であると認めるに足る証拠もない。
してみると、甲3発明において、本件発明1の相違点5-1に係る発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、相違点5-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の特許異議申立書における主張について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「(エ)構成要件1Dに対応する構成
上記アのとおり、甲3には、膨張展開した上部エアバッグ27が乗員15の胸部19から離れないこと(段落0062)が開示されている。また、甲3には、膨張展開した上部エアバッグ27が乗員15の両肩部を拘束している様子も開示されている(図8、図9)。
したがって、甲3発明は、構成1d「膨張展開した横方向展開部(本体部93の上側部分)は、乗員の両肩部及び胸部を拘束する、」を有する。」
しかしながら、図8、図9において、「膨張展開した上部エアバッグ27が乗員15の両肩部を拘束している様子」が図示されているとは認められない。また、そのほかの図面の図示内容、特に図2の図示内容や、明細書の記載を参酌しても、甲3に上部エアバッグ27が乗員15の「両肩部」を拘束することが記載されているとは認められない。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
(3)本件発明2~6、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11について
ア 申立理由3(特許法第29条第2項)についての判断
本件発明2~6、請求項1又は2を引用する本件発明9、本件発明11は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記(2)ア~ウで説示したのと同様の理由により、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲3発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)甲3発明の「乗員15」は本件発明1の「乗員」に、以下同様に、
「肩部17から胸部19を斜めに拘束する」ことは「身体に沿って引き回される」ことに、
「ウエビング」は「ウェビング」に、
「ウエビングのうち、ショルダーベルト部11に設けられ」ることは「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ」ることに、
「ガスにより膨張する」ことは「ガス供給により膨張展開する」ことに、
「上部エアバッグ27」は「エアバッグ」に、
「乗員保護装置」は「乗員拘束装置」に、それぞれ相当する。
(イ)甲3発明の「上部エアバッグ27」は、横方向にも膨張するから、本件発明7の「エアバッグ」のように「横方向展開部」を有するといえる。してみると、甲3発明の「上部エアバッグ27は、ウエビングから車両前方及び横方向に膨張する部分を有」することは、本件発明7の「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有」することと、前記エアバッグは、横方向に膨張展開する横方向展開部を有することという限りにおいて一致する。
(ウ)甲3発明の「膨張した上部エアバッグ27は、乗員15の頭部23及び胸部19を拘束する」ことは、本件発明7の「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」ことと、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の胸部を拘束することという限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明7と甲3発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点6)
「乗員の身体に沿って引き回されるウェビングと、
前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグと、
を備え、
前記エアバッグは、横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、
膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の胸部を拘束する、乗員拘束装置。」
(相違点6)
本件発明7は、「前記エアバッグは、膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束し、前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい」のに対し、
甲3発明は、前記エアバッグは、横方向に膨張展開する横方向展開部を有し、膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の胸部を拘束するものの、横方向展開部が「膨張展開時の長手方向が前記ウェビングの延在方向と交差し、該ウェビングと前記乗員との間で」膨張するものではなく、膨張展開した前記横方向展開部は、「前記乗員の両肩部」を拘束し、「前記エアバッグの膨張完了状態において、前記横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きい」ことの特定もない点。
イ 申立理由3(特許法第29条第2項)についての判断
相違点6について検討する。
膨張展開した横方向展開部は、乗員の両肩部及び胸部を拘束するものにおいて、エアバッグの膨張完了状態において、横方向展開部の車幅方向内側の領域の膨張厚みが、車幅方向外側の領域の膨張厚みよりも大きいものは、甲3だけでなく、引用文献1~4及び甲1にも記載も示唆もされておらず、周知技術であると認めるに足る証拠もない。
してみると、甲3発明において、本件発明7の相違点6に係る発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
よって、本件発明7は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明8、請求項7を引用する本件発明9について
ア 申立理由3(特許法第29条第2項)についての判断
本件発明8、請求項7を引用する本件発明9は、本件発明7の全ての発明特定事項を含み、更なる限定を付加したものであるから、上記(3)ア、イで説示したのと同様の理由により、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)小括
以上によれば、本件発明1~9は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 特許異議申立ての理由4について
(1)理由4の内容
申立人は、請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張する。
(2)申立人の特許異議申立書における主張について
ア 主張1について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「(1)本件発明1について
本件発明1は、以下の点で明確でない。
ア 構成要件1Bについて
「前記ウェビングのうち、乗員の肩から腰にかけての領域」なる記載は、当該「ウェビング」が引き回される乗員の身体の部位を基準としてエアバッグが設けられる位置を特定するものである。しかしながら、対象となり得る乗員の体格が様々であることを考慮すると、特定のウェビングに対し、「乗員の肩から腰にかけての領域」を一意に特定することができず、エアバッグが設けられる位置又は範囲を特定することができない。
(中略)
以上のことから、「乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、・・・エアバッグ」なる記載によっては、ある具体的なエアバッグが請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解することができず、不明確である。」
しかしながら、技術常識を参酌すると、請求項1の「前記ウェビングのうち、乗員の肩から腰にかけての領域」との記載は、一般的な体格の乗員を基準にしていることが明らかであるから、「ある具体的なエアバッグが請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解することができ」ないとは認められない。
よって、申立人の主張を採用することはできず、本件発明1は明確である。
イ 主張2について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「イ 構成要件1Cについて
「ウェビングの延在方向」なる記載は、「ウェビング」が延在する方向によってある方向を特定しようとしている。本件特許の明細書には「リトラクタ2から引き出されたウェビングWは、ショルダアンカ7を通って引き回され、トング4で折り返され、その端部がアンカープレート6に定着されている。アンカープレート6は、図示しない車体の固定部に固定される」(段落0019)と記載されているとおり、ウェビングが乗員の身体に引き回された状態のショルダベルトとラップベルトとは、それぞれ異なる方向に延在するため、 「ウェビングの延在方向」との記載が、ショルダベルトが延在する方向を指すのか、ラップベルトが延在する方向を指すのか、その両方を指すのかが不明確である。」
しかしながら、請求項1には「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域に設けられ、ガス供給により膨張展開するエアバッグ」と記載されているから、「ウェビングの延在方向」との記載は、「前記ウェビングのうち、前記乗員の肩から腰にかけての領域」の「延在方向」を示すことが明らかである。
よって、申立人の主張を採用することはできず、本件発明1は明確である。
ウ 主張3について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「ウ 構成要件1Dについて
「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」なる記載は、乗員の身体の部位を基準として横方向展開部の構成を特定しようとしている。しかしながら、上記アで述べたように、いかなる体格の乗員を基準として想定しているかが不明であるから、特定のエアバッグに対し、「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」か否かを一意に特定することができない。(中略)すなわち、構成要件1Dにおける上記記載は、横方向展開部が膨張展開したときの大きさ又は範囲が不明確であり、ある具体的なエアバッグ(横方向展開部)が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解することができず、不明確である。」
しかしながら、技術常識を参酌すると、請求項1の「膨張展開した前記横方向展開部は、前記乗員の両肩部及び胸部を拘束する」との記載は、一般的な体格の乗員を基準にしていることが明らかであるから、「ある具体的なエアバッグ(横方向展開部)が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解することができ」ないとは認められない。
よって、申立人の主張を採用することはできず、本件発明1は明確である。
エ 主張4について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「(2)本件発明2について
本件発明2は、以下の点で明確でない。
ア 「車幅方向」の点
本件特許の属する技術分野において、「車幅方向」は、通常、車の幅方向を指す用語であると理解されるものの、そもそも本件発明2においては乗員拘束装置と車との関係が特定されていない。このため、乗員拘束装置に対して、「車幅方向」がいかなる方向を指しているのかが不明である。」
しかしながら、技術常識を参酌すると、本件発明2において、「車幅方向」は、「車の幅方向を指」すことが明らかであり、「乗員拘束装置と車との関係」は、一般的な構造の車における両者の関係であることが理解されるから、「乗員拘束装置に対して、「車幅方向」がいかなる方向を指しているのかが不明である」とは認められない。
よって、申立人の主張を採用することはできず、本件発明2は明確である。
オ 主張5について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「イ 「容量」の点
本件特許の属する技術分野において、「容量」は、横方向展開部の各領域に収容可能なガスの量を指し、横方向展開部の状態によって変化すると考えられるところ、請求項2では、横方向展開部が膨張展開前及び膨張展開後のいずれの状態における容量を示すのかが特定されていない。この点、本件特許の明細書にも記載されていない。このため、「車幅方向内側の領域の容量」及び「車幅方向外側の領域の容量」という記載は、いかなる状態の容量であるのかが不明である。」
しかしながら、「容量」とは、「横方向展開部の各領域に収容可能なガスの量を指」すことが明らかであり、その場合、「容量」は「横方向展開部の状態によって変化する」ものではないから、「「車幅方向内側の領域の容量」及び「車幅方向外側の領域の容量」という記載は、いかなる状態の容量であるのかが不明である」とも認められない。
よって、申立人の主張を採用することはできず、本件発明2は明確である。
カ 主張6について
申立人は、特許異議申立書において、以下のように主張する。
「(3)本件発明3、6、及び8について
ア 本件発明3について
構成要件3Aの「膨張展開した前記エアバッグが、運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する」なる記載は、「運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグ」の存在を前提とするものの、そもそも本件発明3においては乗員拘束装置と「運転席」又は「助手席」との関係が特定されていない。このため、例えば本件発明3の乗員拘束装置が車両の後部座席に適用されることを仮定した場合、当業者は、「膨張展開した前記エアバッグ」が「運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する」ことの技術的意味を理解することができない。
また、請求項3では、「運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグ」がいかなる状態におけるものであるかが特定されていない。このため、請求項3の記載は、「膨張展開した前記エアバッグ」が膨張展開前の「運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する」構成を含んでおり、当業者は、そのような構成の技術的意味を理解することができない。
したがって、本件発明3は不明確である。」
しかしながら、請求項3の「膨張展開した前記エアバッグが、運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する」との記載及び技術常識から、本件発明3の「エアバッグ」は、「運転席」又は「助手席」の「乗員拘束装置」が備えるものであることが明らかである。そのため、「本件発明3の乗員拘束装置が車両の後部座席に適用される」ものではないことは明らかであり、「当業者は、「膨張展開した前記エアバッグ」が「運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する」ことの技術的意味を理解することができない」とは認められない。
また、技術常識を参酌すると、本件発明3の「「膨張展開した前記エアバッグ」が膨張展開前の「運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する」」ことがないことは明らかであるから、「「膨張展開した前記エアバッグ」が膨張展開前の「運転席用エアバッグ又は助手席用エアバッグと接触する」構成を含んでおり、当業者は、そのような構成の技術的意味を理解することができない」とは認められない。
よって、申立人の主張を採用することはできず、本件発明2は明確である。
(3)小括
以上によれば、本件発明1~11は明確である。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700371