特許異議申立
2023-701080
生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法、および、海水冷却水系水の処理方法
- 審判番号
- 2023-701080
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-069442外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7256058
- 請求日
- 2023年10月10日
- 審決日
- 2024年01月09日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アクアス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人日峯国際特許事務所
- 【異議申立人】松山 徳子
- 分類
- P1651.113-Y (C02F) / P1651.121-Y (C02F) / P1651.536-Y (C02F) / P1651.537-Y (C02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7256058号発明「生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法、および、海水冷却水系水の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7256058号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7256058号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成31年3月29日の出願であって、令和5年4月3日にその特許権の設定登録がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月10日に、請求項1~4に係る特許について、特許異議申立人 松山 徳子(以下、「申立人」という。)により、甲第1~4号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~4に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えていることを特徴とする生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法。
【請求項2】
前記海水冷却水系水の全残留塩素濃度、および/または、前記チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、当該全残留塩素濃度に応じて前記チオ硫酸塩化合物の添加量を制御することを特徴とする請求項1に記載の生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法。
【請求項3】
モノクロラミンを全残留塩素が0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で含有し、かつ、最終的に海に排出される、海水冷却水系水に対して、前記海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加することを特徴とする海水冷却水系水の処理方法。
【請求項4】
前記海水冷却水系水の全残留塩素濃度、および/または、前記チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、当該全残留塩素濃度に応じて前記チオ硫酸塩化合物の添加量を制御することを特徴とする請求項3に記載の海水冷却水系水の処理方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 本件発明1~4は甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。
なお、特許異議申立書の3.(4)ウ(ウ)(ウー2)、(ウー4)(19ページ~20ページ)には、具体的な理由として、本件発明2及び4は甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証から容易想到であることしか記載されていないが、同(1)理由A(1ページ)の記載等に鑑み、本件発明2及び4の新規性欠如についても判断する。
(2) 本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) 本件発明1においては、「当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と」、と特定されており、本件特許明細書の段落【0042】~【0044】には、モノクロラミンとチオ硫酸ナトリウムの反応比の根拠として「<化1>」(段落【0043】)が記載されている(下記第4の2(2)ア(ウ))。
ところが、前記「<化1>」の式では、反応物としてチオ硫酸ナトリウム5水和物、すなわち、海水中のチオ硫酸ナトリウムではなく試薬としてのチオ硫酸ナトリウムが示されており、海水中での残留塩素の還元反応は示されていないから、前記「<化1>」の式に基づいて、水中の全残留塩素がモノクロラミンによるものとして、その全量を相殺しうると想定される量が決定されるか否かは不明である。
また、甲第3号証(段落【0007】)に記載されるとおり(下記第4の1(1)ウ)、水中の残留塩素と還元剤(チオ硫酸ナトリウム)が反応する場合、チオ硫酸ナトリウムはクロラミンと2:1のモル比で反応するから、モノクロラミンによる全残留塩素を相殺しうると想定される量はモノクロラミンのモル数の2倍となる。
これらのことからみれば、本件発明1の「前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量」がどのようなものであるのかが不明であるから、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるように、チオ硫酸ナトリウムの添加量を決定する方法が記載されているとはいえないので、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えている。
更に、本件特許請求の範囲の請求項2~4について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていないので、本件発明1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号所定の規定を満たさない出願に対してされたものである。
(2) 本件特許明細書の段落【0010】(下記第4の2(2)ア(ア) )の記載によれば、本件発明は、還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消するものであるが、本件特許明細書に記載された実施例(段落【0054】~【0067】。下記第4の2(2)ア(エ)。)を確認しても、全残留塩素の全量を相殺するために想定される量のチオ硫酸ナトリウムを添加した場合の溶存酸素濃度は測定されておらず、本件発明により現実に処理された水中の溶存酸素濃度の低下が抑制ないし解消されているかは不明である。
更に、甲第3号証の記載(段落【0007】。下記第4の1(1)ウ。)によれば、チオ硫酸ナトリウムを還元剤として使用した場合にも、反応過程において比較的多量の溶存酸素が消費されるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消する」、という課題を解決できると認識できる程度に記載されていない。
したがって、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていないから、本件発明1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号所定の規定を満たさない出願に対してされたものである。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
前記2(1)に記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、本件発明1における、「前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量」が具体的に何を意味しているのかが不明確であるから、本件発明1は不明確である。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たしていないので、本件発明1~4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号所定の規定を満たさない出願に対してされたものである。
4 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) 前記2(1)に記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、本件発明1における、「前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量」が具体的に何を意味しているのかが不明確であり、チオ硫酸ナトリウムの添加量を決定する方法が不明確であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1を実施することができる程度に記載されたものとはいえない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たしていないので、本件発明1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号所定の規定を満たさない出願に対してされたものである。
(2) 前記2(2)に記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消する」、という課題を解決できると認識できる程度に記載されていないから、実施可能要件を満たしていないので、本件発明1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号所定の規定を満たさない出願に対してされたものである。
5 証拠方法
甲第1号証:特開2017-119245号公報
甲第2号証:特開2009-39680号公報
甲第3号証:特開2008-178386号公報
甲第4号証:「水産用水基準 第7版 (2012年版)」,平成25年1月,社団法人 日本水産資源保護協会,目次,p.1-104
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証には、以下のa~bの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加することを特徴とする海生生物の付着抑制方法。」
b 「【0033】
なお、モノクロラミンを添加した海水冷却水系の海水を海に放流する際には、放流前の海水中の全残留塩素濃度を測定し、全残留塩素が残っている場合には、必要量の還元剤を添加して中和した後に放流することが好ましい。用いる還元剤は、モノクロラミンと反応してモノクロラミンを分解するものであれば特に制限はないが、亜硫酸ナトリウムが好適に利用される。」
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加する「海生生物の付着抑制方法」が記載されており、前記(ア)bの記載によれば、前記「海生生物の付着抑制方法」において、モノクロラミンを添加した海水冷却水系の海水を海に放流する際には、放流前の海水中の全残留塩素濃度を測定し、全残留塩素が残っている場合には、必要量の還元剤を添加して中和した後に放流することが好ましいものであり、用いる還元剤は、モノクロラミンと反応してモノクロラミンを分解するものであれば特に制限はないが、亜硫酸ナトリウムが好適に利用されるものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加する海生生物の付着抑制方法であって、
前記海生生物の付着抑制方法において、モノクロラミンを添加した海水冷却水系の海水を海に放流する際には、放流前の海水中の全残留塩素濃度を測定し、全残留塩素が残っている場合には、必要量の還元剤を添加して中和した後に放流することが好ましいものであり、用いる還元剤は、モノクロラミンと反応してモノクロラミンを分解するものであれば特に制限はないが、亜硫酸ナトリウムが好適に利用される、海生生物の付着抑制方法。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の(ア)~(ウ)の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給装置と、塩素殺菌剤が供給されたバラスト水を海に排水する際に、該バラスト水に塩素還元剤を供給する塩素還元剤供給装置とを備えたバラスト水処理装置であって、
塩素還元剤が供給されたバラスト水の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、塩素還元剤が供給されたバラスト水に空気を供給する空気供給手段と、前記溶存酸素濃度計により計測された溶存酸素濃度が所定値未満である場合に塩素還元剤が供給されたバラスト水に空気を供給するように前記空気供給手段を制御する空気供給制御手段と、を備えたことを特徴とするバラスト水処理装置。」
(イ) 「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、殺菌剤として塩素殺菌剤を用いた場合バラスト水を海に排出する際に残留する残留塩素を無害化処理するために殺菌剤分解剤として塩素還元剤をバラスト水に供給することが記載されている。
しかしながら、塩素還元剤を過剰に供給すると塩素還元剤がバラスト水中の溶存酸素とも反応して溶存酸素量が低下する事態が発生する懸念があり、このような溶存酸素量が低下した海水を海へ排水すると周辺環境に悪影響を及ぼす危険がある。
【0006】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、バラスト水中のプランクトンと細菌類を確実に殺滅し、かつバラスト水の排出に際して残留塩素の排出を防止でき、さらに溶存酸素量が低下した海水を排水して周辺環境への悪影響を及ぼすことを防止する技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るバラスト水処理装置は、船舶にバラスト水として取水される海水及び/またはバラストタンクから排水される海水に塩素殺菌剤を供給する塩素殺菌剤供給装置と、塩素殺菌剤が供給されたバラスト水を海に排水する際に、該バラスト水に塩素還元剤を供給する塩素還元剤供給装置とを備えたバラスト水処理装置であって、
塩素還元剤が供給されたバラスト水の溶存酸素濃度を計測する溶存酸素濃度計と、塩素還元剤が供給されたバラスト水に空気を供給する空気供給手段と、前記溶存酸素濃度計により計測された溶存酸素濃度が所定値未満である場合に塩素還元剤が供給されたバラスト水に空気を供給するように前記空気供給手段を制御する空気供給制御手段と、を備えたことを特徴とするものである。
・・・
【0010】
塩素殺菌剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、塩素、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、二酸化塩素、またはこれらの2種以上の混合物を使用することができる。また、塩素還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)及びチオ硫酸ナトリウムを使用することができる。」
(ウ) 「【0031】
5.塩素還元剤供給装置
塩素還元剤供給装置10は、塩素殺菌剤を添加されて塩素が残留する海水に塩素還元剤を供給して海水中に残存する塩素を還元することで、無害化するものである。
この実施形態では、塩素還元剤供給装置10は第1バラスト水供給ライン9に設けられ、バラスト水の排出時にバラストタンク8に貯留された塩素が残留しているバラスト水に、塩素還元剤を供給して残留塩素を還元処理して海中に排出するようにしている。
・・・
【0034】
次亜塩素酸ナトリウム、塩素等の塩素殺菌剤に対して供給される塩素還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)、チオ硫酸ナトリウムを用いることができる。
塩素還元剤供給装置10は、図示しない塩素還元剤供給量制御装置によって制御され、適正な量の塩素還元剤が所定の箇所に供給される。
【0035】
塩素還元剤供給量制御装置は、バラストタンク8から排出された海水中の残留塩素濃度を計測する残留塩素濃度計(図示しない)と、残留塩素濃度計により計測された残留塩素濃度の計測結果に基づいて機器を制御する制御手段(図示しない)とを備えている。制御手段は、残留塩素濃度の計測結果に基づいて、供給ポンプ21の出力および/または供給量調整用のバルブ23の開度の調整制御を行う。
・・・
【0047】
また、塩素還元剤を適正な供給量で排出するバラスト水に供給するようにしたので、バラスト水中に残留する塩素を完全になくすことができ、さらに塩素還元剤により低下した海水中の溶存酸素濃度を、空気を供給することにより回復させるようにしたので、周辺環境に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
また、バラスト水への空気供給混合をベンチュリ管装置6によって行うようにしたので、曝気装置を別に設ける必要が無くバラスト水処理装置全体をコンパクトにでき設置場所を小さくすることができる。」
ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の記載がある。
「【0007】
塩素を除去するのに数十年間も用いられているチオ硫酸塩還元剤は、クロラミンと2:1のモル比で反応して、四チオン酸塩S4O62-が形成される。ここで、大モル量のクロラミンの使用が必要とされる。形成された四チオン酸塩は、硫酸塩へと比較的多量の酸素を消費して、微生物学的に酸化される。この過程で、S4O62-1モルあたり4モルの硫酸塩が形成される。」
エ なお、甲第4号証は、水生生物の生息環境として維持することが望ましい基準が記載されているものであり、下記の(2)及び(3)の判断に影響を及ぼすものではないから、摘記は省略する。
(2) 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
ア 本件発明1及び2について
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「海水冷却水系の海水」は、「海に放流」され、かつ「モノクロラミン溶液」が添加されるものであるから、本件発明1における「最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水」に相当する。
また、甲1発明において、「海水冷却水系の海水に対して、モノクロラミン溶液を全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加する」ことは、本件発明1における、「海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程」に相当し、甲1発明における「海生生物の付着抑制方法」は、本件発明1における「生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法」に相当する。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程を備えている、生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程」を備え、前記「第一工程」と「第二工程」「をこの順で備えている」のに対して、甲1発明は、「モノクロラミンを添加した海水冷却水系の海水を海に放流する際には、放流前の海水中の全残留塩素濃度を測定し、全残留塩素が残っている場合には、必要量の還元剤を添加して中和した後に放流することが好ましいものであり、用いる還元剤は、亜硫酸ナトリウムが好適に利用される」ものである点。
(ウ) 以下、前記(イ)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲1発明における「還元剤」は、「海水中」の「全残留塩素」を「中和」するものであって、「亜硫酸ナトリウムが好適に利用される」ものである。
そして、そのような「還元剤」は、「全残留塩素」を「相殺」するものといえる点で、本件発明1における「チオ硫酸塩化合物」と共通するものの、前記「亜硫酸ナトリウム」は「チオ硫酸塩化合物」であるとはいえないし、甲第1号証には、前記「還元剤」を「チオ硫酸塩化合物」とすることは記載されていないうえ、更に、そこから進んで、「還元剤」を、「前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下」「添加する」ことも、記載も示唆もされていない。
してみれば、前記相違点1は実質的な相違点であるので、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
更に、本件発明2について検討しても事情は同じである。
イ 本件発明3及び4について
(ア) 前記ア(ア)と同様にして本件発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明における、「モノクロラミン溶液」が「全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加」された「海水冷却水系の海水」は、本件発明3における「モノクロラミンを全残留塩素が0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で含有し、かつ、最終的に海に排出される、海水冷却水系水」に相当し、甲1発明における「海生生物の付着抑制方法」は、本件発明3における「海水冷却水系水の処理方法」に相当する。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明3と甲1発明とは、
「モノクロラミンを全残留塩素が0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で含有し、かつ、最終的に海に排出される、海水冷却水系水の処理方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明3は、「海水冷却水系水に対して、前記海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する」ものであるのに対して、甲1発明は、「モノクロラミンを添加した海水冷却水系の海水を海に放流する際には、放流前の海水中の全残留塩素濃度を測定し、全残留塩素が残っている場合には、必要量の還元剤を添加して中和した後に放流することが好ましいものであり、用いる還元剤は、亜硫酸ナトリウムが好適に利用される」ものである点。
(ウ) 以下、前記(イ)の相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、前記相違点2は、「還元剤」を構成する化合物及びその「添加量」の相違に関するものである点で、前記相違点1と共通するから、前記ア(ウ)に記載したのと同様の理由により、実質的な相違点であるので、本件発明3は甲1発明であるとはいえない。
更に、本件発明4について検討しても事情は同じである。
エ 小括
したがって、本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
(3) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
ア 本件発明1及び2について
更に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、甲第2号証~甲第3号証にも、「当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する」ことは記載も示唆もされていないし、ほかに、このことを開示した証拠もないから、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないので、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2について検討しても事情は同じである。
イ 本件発明3及び4について
前記相違点2の容易想到性について検討すると、甲第2号証~甲第3号証にも、「海水冷却水系水に対して、前記海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する」ことは記載も示唆もされていないし、ほかに、このことを開示した証拠もないから、甲1発明において、前記相違点2に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとするには至らないので、本件発明3は、甲1発明及び甲第2号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明4について検討しても事情は同じである。
ウ 小括
したがって、本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 申立人の主張について
ア 特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)についての申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
(ア) 甲1発明は、「モノクロラミンを添加した海水冷却水系の海水を海に放流する際には、放流前の海水中の全残留塩素濃度を測定し、全残留塩素が残っている場合には、必要量の還元剤を添加して中和した後に放流することが好ましい」ものであるから、実質的に、本件発明1の「海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上」の「還元剤」を「添加する」、との発明特定事項を有している。
また、甲1発明の「還元剤」は、「モノクロラミンと反応してモノクロラミンを分解するものであれば特に制限はない」ものである。そして、甲第2号証には、海水に添加される塩素殺菌剤の「還元剤」して、チオ硫酸ナトリウムを使用できることが開示されており、甲第3号証には、チオ硫酸塩還元剤は、クロラミンにより生じる塩素を除去するために数十年間も用いられていることが開示されているから、モノクロラミンの添加により生じる残留塩素の「還元剤」として「チオ硫酸塩化合物」を使用できることは、本件特許の出願日当時の周知技術であるので、本件発明1と甲1発明との間には実質的な相違点が存在しない。
また、甲1発明における「還元剤」が本件発明1の「チオ硫酸塩化合物」とは異なるとしても、甲1発明における「還元剤」を「チオ硫酸塩化合物」とすることは、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基づき当業者が容易になし得ることであるから、本件発明1は新規性、進歩性を有しない。
更に、本件発明3について検討しても事情は同じであるし、本件発明2及び4の発明特定事項はいずれも甲第2号証に記載されているから、本件発明2及び4は進歩性を有しない。
(イ) そこで、前記(ア)の主張について検討すると、甲1発明は、「モノクロラミンを添加した海水冷却水系の海水を海に放流する際には、放流前の海水中の全残留塩素濃度を測定し、全残留塩素が残っている場合には、必要量の還元剤を添加して中和した後に放流することが好ましい」ものにすぎず、そこから進んで、「還元剤」の添加量を「海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下」にすることを開示したものではない。
また、モノクロラミンの添加により生じる残留塩素の「還元剤」として「チオ硫酸塩化合物」を使用できることが本件特許の出願日当時の周知技術であるとしても、「海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する」ことが、本件特許の出願日当時の技術常識や周知技術であったことを裏付ける証拠はないから、甲1発明が、実質的に、本件発明1の「海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する」、との発明特定事項を有しているとはいえないので、前記相違点1は実質的な相違点である。
そして、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らないことは、前記(3)アに記載したとおりであるから、本件発明1は新規性及び進歩性を有するものである。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じであるので、前記(ア)の主張は採用できない。
(5) まとめ
したがって、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第1項、第2項所定の規定に違反してされたものとはいえないから、前記第3の1(1)及び(2)の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) サポート要件についての判断
ア 本件特許明細書には、以下の記載がある。
(ア) 「【0001】
本発明は、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着や繁殖の抑制、あるいは、除去を目的としてモノクロラミンを比較的低い濃度で添加した水系水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水や各種工程水、食品製造用水、あるいは、純水やボイラー水の原水等の各種水系では、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着、あるいは、繁殖の抑制や除去を目的としてモノクロラミンを添加することが行われている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、これらモノクロラミンを含む水系水をその利用後に、河川、湖、沼、あるいは、海などに排出した場合に、排出口付近の水域に存在する水産資源などの水棲生物に悪影響が及ぶことが懸念される。
【0004】
このために、河川、湖、沼、あるいは、海などに排出した場合であっても、水産資源などの水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を抑制、あるいは、解消することが求められている。
【0005】
ここで、特許文献2では純水製造時の原水にモノクロラミンの添加処理を行った後の脱クロラミン化のために、亜硫酸塩を添加する技術が提案されている。そして、本発明者らも同様に、亜硫酸ナトリウムが好適に使用できると考えていた(特許文献3)。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、検討の結果、低濃度のモノクロラミンを含有する水に対して、還元剤として亜硫酸塩(重亜硫酸塩を含む)を添加した場合、全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量では不足し、その6倍の量の添加が必要となることが判った。
その原因として、低濃度のモノクロラミンを含有する水に対して亜硫酸塩を添加した場合、これら亜硫酸塩の大部分はモノクロラミン含有量に比して多量に存在する水中の溶存酸素と反応し、その結果、全残留塩素の相殺にはほとんど寄与しないと考えられた。
【0009】
この場合、全残留塩素の相殺に要する還元剤のコストが高くなるのみならず、全残留塩素の全量を相殺したにも関わらず、多量の亜硫酸塩を添加したために溶存酸素濃度が著しく低下した水により水産資源を含む水棲生物に悪影響が生じる懸念がある。
【0010】
本発明はこのような亜硫酸塩を用いたときに生じる上記の問題、すなわち、河川、湖、沼、あるいは、海などへ排出した場合であっても、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能な水系水の処理方法を提供することを目的とする。」
(イ) 「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法は、最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えていることを特徴とする。
・・・
【発明の効果】
【0016】
本発明の生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法は、最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えている構成により、海へ排出した場合に、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を顕著に抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能となる。さらに、結合残留塩素や遊離残留塩素による悪影響を抑制ないし解消することができる。」
(ウ) 「【0038】
本発明の水系水の処理方法では、水系水中のモノクロラミンが不要となったときに、チオ硫酸塩化合物を添加して残留するモノクロラミンを相殺する。たとえば海水冷却水系などで、生物の水系への付着を目的にモノクロラミンを添加し、最終的に冷却水を海に排出する場合では、排出口の上流で冷却水中に残留するモノクロラミンをチオ硫酸塩化合物の添加で相殺する。
【0039】
チオ硫酸塩化合物としては、ナトリウム塩、カリウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が知られている。このうち水に可溶で還元性を有する化合物を、単独であるいは2種以上組み合わせて用いる。
なお、これらのうち、入手が容易なチオ硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。チオ硫酸塩化合物は通常、水道水や工業用水などの清水の水溶液として添加するが、一部または全部にモノクロラミンを添加する対象の水を用いてもよい。
【0040】
チオ硫酸塩化合物の添加量はモノクロラミンを含む水系水の全残留塩素の全量を相殺可能なものとすることが残留塩素による各種障害の発生の抑制ないし防止を可能とするので好ましい。
【0041】
チオ硫酸塩化合物の水溶液を用いる場合にはその濃度は0.1質量%以上30質量%以下とすると、添加の制御が容易で、かつ、薬液タンクを含む添加装置をコンパクトなものとすることができるので好ましい。
【0042】
本発明では上記のようにチオ硫酸塩化合物を添加することが必須であり、このとき、たとえばモノクロラミンとチオ硫酸ナトリウムとは下記式(I)に示すように4:1のモル比で反応する。
【0043】
<化1>
4NH2Cl + Na2S2O3・5H2O → 2NaHSO4 + 4NH4Cl
……(I)
【0044】
本発明では添加対象の水系水中の全残留塩素がモノクロラミンによるものとして、その全量を相殺しうると想定される量、すなわちこのモノクロラミンのモル数の1/4のモル数のチオ硫酸塩化合物の質量を1としたときに1以上1.5以下の質量のチオ硫酸塩化合物を添加することが好ましい。
【0045】
チオ硫酸塩化合物の添加量が上記の範囲より少ないと、相殺処理後の水を河川、湖、沼や、海に排出したときに、残留するモノクロラミンによる水棲生物への悪影響の懸念が大きくなり、また、多すぎるとチオ硫酸塩化合物の使用量が多くなり、処理コストの上昇を来たすとともに、排出水中の溶存酸素濃度が低下するおそれがある。このため、排出口付近の水域の水棲生物への悪影響の懸念が大きくなる。
したがって、より好ましいチオ硫酸塩化合物の添加量は、添加対象の水系中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される量のチオ硫酸塩化合物を1としたときに1.05以上1.3以下である。
【0046】
チオ硫酸塩化合物の添加にあたり、残留塩素計などによりチオ硫酸塩化合物の添加対象の、および/あるいは、チオ硫酸塩化合物添加後の水系水中の全残留塩素濃度を測定して添加量を制御することで、添加量の最適化が可能となる。その制御により、また残留塩素による水棲生物への悪影響の発生をより確実に抑制ないし防止が可能となり、かつ、高コスト化と溶存酸素の低下を引き起こす過剰添加を防止することが可能となる。
【0047】
ここで、還元剤としてチオ硫酸塩化合物ではなく亜硫酸水素ナトリウム(重亜硫酸ナトリウム)を用いたときのモノクロラミンとの反応式を式(II)に示す。
【0048】
<化2>
NH2Cl + NaHSO3 + H2O → NaHSO4 + NH4Cl
……(II)
【0049】
このように、モノクロラミンと亜硫酸水素ナトリウムが反応する場合には亜硫酸水素ナトリウムによるモノクロラミンの相殺反応が100%進行した場合であっても、モノクロラミンに対して1:1のモル比の亜硫酸水素ナトリウムが必要となる。
そして、処理対象水の溶存酸素に起因すると推察されるが、実際にはその必要量はさらに多くなり、水系水中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の6倍の還元剤が必要となってしまう。」
(エ) 「【実施例】
【0054】
《実施例1》
調製後1週間経過し、酸素が飽和ないし飽和に近いレベルで溶存していると考えられる純水に、塩素剤としてモノクロラミンを添加して全残留塩素濃度が0.1mg/Lの試験水(15.0℃)を調製した。
【0055】
この試験水1Lを1Lビーカーに採取し、毎分300回転で攪拌しながら試験水中の全残留塩素の全量が前記反応式(I)にしたがってチオ硫酸ナトリウムと反応して相殺しうると想定される量の、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液を添加した。試験水の全残留塩素濃度の経緯を表1に示す。
【0056】
【表1】
[図:0001406748000001.jpg]
【0057】
表1からチオ硫酸ナトリウムを用いた場合、想定される必要量のチオ硫酸ナトリウム水溶液でモノクロラミンによる全残留塩素の全量の相殺が可能であることが判る。
【0058】
《比較例1》
実施例1と同様に、ただし、チオ硫酸ナトリウム水溶液の代わりに0.1mol/Lの亜硫酸水素ナトリウム水溶液を、試験水中のモノクロラミン全量が前記反応式(II)にしたがって硫酸水素ナトリウムと反応すると想定したときの必要量を添加し、試験水の全残留塩素濃度を測定した。
その結果、試験水の全残留塩素濃度が0.08mg/Lであり、亜硫酸水素ナトリウムによる相殺が不十分であったので、試験水の全残留塩素が不検出となるまで、同量の亜硫酸水素ナトリウム水溶液の添加および全残留塩素濃度の測定を繰り返した。このときの試験水の全残留塩素濃度の経緯を表2に示す。
【0059】
【表2】
[図:0001406748000002.jpg]
【0060】
表2から全残留塩素の全量を相殺するために、本来想定される量の6倍の亜硫酸水素ナトリウム水溶液が必要であることが判る。
【0061】
<実施例2、および、比較例2>
実施例1、および、比較例1と同様に、ただし、純水の代わりに東京湾岸にある工場の海水冷却水系の入口で採取した海水を用いて試験を行った。
【0062】
その結果、チオ硫酸ナトリウムを用いた場合には試験水中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量で、全残留塩素の全量を相殺できたが、亜硫酸ナトリウム水溶液を用いた場合には試験水中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される量の6倍量の亜硫酸ナトリウム水溶液が必要であった。
【0063】
<実施例3>
東京湾岸にある工場の海水冷却水系で試験を行った。
モノクロラミンは図1にモデル的に示すモノクロラミン生成装置Aを用いて生成した。
【0064】
モノクロラミン生成装置Aにおいて、ボールタップLS制御により一定水量の工業用水を貯留している水タンク10から、ポンプ11によって1時間当たり0.3Lの流量で工業用水を送液経路に送る。
その送液経路で、タンク12内の12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をポンプ13により1時間当たり2.5gの添加量で添加し、ラインミキサ14により攪拌し、次いで、さらにその下流でタンク15内の15質量%の塩化アンモニウム水溶液をポンプ16により1時間当たり1.8gの添加量で添加してモノクロラミンを生成した。
このとき、送液経路内で混合する遊離残留塩素濃度とアンモニウムイオン濃度とのモル比は1:1.2であり、生成したモノクロラミン水溶液の濃度は全残留塩素濃度として1000mg/Lであった。
【0065】
このようにして生成したモノクロラミン溶液を、海水冷却水系を流れる海水に全残留塩素濃度として0.1mg/Lとなるように添加した。
【0066】
この海水冷却水系の海への排出口付近の上流に、海水冷却水の流れ方向順に、第一の塩素濃度計、薬注ポンプ、攪拌のための邪魔板、第二の塩素濃度計を設置し、第一の塩素濃度計によって検出された全残留塩素濃度の全量が前記反応式(I)にしたがってチオ硫酸ナトリウムと反応して相殺しうると想定される必要量の1.2倍の30質量%のチオ硫酸ナトリウム水溶液を供給した。なお、第二の塩素濃度計では、全残留塩素は検出されなかった。
【0067】
また、こののち1年を通じて海水冷却水系へのフジツボ、ヒドロ虫、ホヤ、および、ムラサキイガイ等の貝類、さらに、微生物由来のスライム等の海棲生物の冷却水系への付着を防止することができた。」
イ 前記ア(ア)の記載によれば、本件発明は、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着や繁殖の抑制、あるいは、除去を目的としてモノクロラミンを比較的低い濃度で添加した水系水の処理方法に関するものであって(段落【0001】)、冷却水や各種工程水、食品製造用水、あるいは、純水やボイラー水の原水等の各種水系では、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着、あるいは、繁殖の抑制や除去を目的としてモノクロラミンを添加することが行われているが、これらモノクロラミンを含む水系水をその利用後に、河川、湖、沼、あるいは、海などに排出した場合に、排出口付近の水域に存在する水産資源などの水棲生物に悪影響が及ぶことが懸念されるので、河川、湖、沼、あるいは、海などに排出した場合であっても、水産資源などの水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を抑制、あるいは、解消することが求められているものである(段落【0002】~【0004】)。
そして、従来、純水製造時の原水にモノクロラミンの添加処理を行った後の脱クロラミン化のために、亜硫酸塩を添加する技術が提案されているのであるが(段落【0005】)、低濃度のモノクロラミンを含有する水に対して、還元剤として亜硫酸塩(重亜硫酸塩を含む)を添加した場合、全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量では不足し、その6倍の量の添加が必要となることが判ったものであり、その原因として、低濃度のモノクロラミンを含有する水に対して亜硫酸塩を添加した場合、これら亜硫酸塩の大部分はモノクロラミン含有量に比して多量に存在する水中の溶存酸素と反応し、その結果、全残留塩素の相殺にはほとんど寄与しないと考えられたものであり、この場合、全残留塩素の相殺に要する還元剤のコストが高くなるのみならず、全残留塩素の全量を相殺したにも関わらず、多量の亜硫酸塩を添加したために溶存酸素濃度が著しく低下した水により水産資源を含む水棲生物に悪影響が生じる懸念があるものである(段落【0006】~【0009】)。
そこで、本件発明は、亜硫酸塩を用いたときに生じる前記の問題、すなわち、河川、湖、沼、あるいは、海などへ排出した場合であっても、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能な水系水の処理方法を提供することを目的とするものである(段落【0010】)。
そして、前記ア(イ)の記載によれば、本件発明は、最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えるものであって(段落【0011】)、そうすることで、海へ排出した場合に、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を顕著に抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能となり、更に、結合残留塩素や遊離残留塩素による悪影響を抑制ないし解消することができるものである(段落【0016】)。
ウ 前記イによれば、本件発明は、低濃度のモノクロラミンを含有する水に対して、還元剤として亜硫酸塩(重亜硫酸塩を含む)を添加した場合、これら亜硫酸塩の大部分はモノクロラミン含有量に比して多量に存在する水中の溶存酸素と反応し、その結果、全残留塩素の相殺にはほとんど寄与しないから、全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の6倍の量の添加が必要となり、全残留塩素の相殺に要する還元剤のコストが高くなるのみならず、全残留塩素の全量を相殺したにも関わらず、多量の亜硫酸塩を添加したために溶存酸素濃度が著しく低下した水により水産資源を含む水棲生物に悪影響が生じる懸念がある、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであって、最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えるものであり、そうすることで、海へ排出した場合に、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を顕著に抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能となり、更に、結合残留塩素や遊離残留塩素による悪影響を抑制ないし解消することができて、本件課題を解決できるものである。
そして、最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えることは、本件発明1の発明特定事項にほかならない。
エ 前記ウによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することができるのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、サポート要件に適合するといえる。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2について検討しても事情は同じであるし、前記ウに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明3の発明特定事項により本件課題を解決できることも理解することができ、本件発明3の発明特定事項を全て有する本件発明4について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(3) 申立人の主張について
ア 始めに、前記第3の2(1)の主張について検討すると、本件特許明細書の段落【0039】、【0042】~【0045】の記載(前記(2)ア(ウ))によれば、「チオ硫酸塩化合物」としては、ナトリウム塩、カリウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が知られているが、本件発明においては、このうち水に可溶で還元性を有する化合物を、単独であるいは2種類以上組み合わせて用いるものであり、例えばモノクロラミンとチオ硫酸ナトリウムとは下記式(I)に示すように4:1のモル比で反応するから、
<化1>
4NH2Cl + Na2S2O3・5H2O → 2NaHSO4 + 4NH4Cl ……(I)
本件発明においては、添加対象の水系水中の全残留塩素がモノクロラミンによるものとして、その全量を相殺しうると想定される量、すなわちこのモノクロラミンのモル数の1/4のモル数のチオ硫酸塩化合物の質量を1としたときに1以上1.5以下の質量のチオ硫酸塩化合物を添加するものであり、チオ硫酸塩化合物の添加量が前記の範囲より少ないと、相殺処理後の水を河川、湖、沼や、海に排出したときに、残留するモノクロラミンによる水棲生物への悪影響の懸念が大きくなり、また、多すぎるとチオ硫酸塩化合物の使用量が多くなり、処理コストの上昇を来たすとともに、排出水中の溶存酸素濃度が低下するおそれがあるため、排出口付近の水域の水棲生物への悪影響の懸念が大きくなるものである。
そして、本件特許明細書の段落【0054】~【0067】(前記(2)ア(エ))に記載された具体的な実施例によれば、本件特許明細書に例示された前記「<化1>」の式に基づいて算出された、添加対象の水系水中の全残留塩素がモノクロラミンによるものとして、その全量を相殺しうると想定される量のチオ硫酸塩化合物、すなわち、モノクロラミンのモル数の1/4のモル数のチオ硫酸塩化合物の質量を1としたときに1以上1.5以下の質量のチオ硫酸塩化合物を添加することで、残留塩素の全量を相殺しうることが裏付けられるものである。
イ 前記アによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、モノクロラミンと種々のチオ硫酸塩化合物との間で通常想定される反応式に基づいて、水中の全残留塩素がモノクロラミンによるものとして、その全量を相殺しうると想定される量が決定されて、前記質量を1としたときに1以上1.5以下の質量のチオ硫酸塩化合物を添加することにより、本件課題を解決できることを理解することができる。
そうすると、前記「<化1>」の式では、海水中での残留塩素の還元反応は示されていないとしても、また、甲第3号証に、水中の残留塩素と還元剤(チオ硫酸ナトリウム)が反応する場合、チオ硫酸ナトリウムはクロラミンと2:1のモル比で反応することが記載されているとしても、本件発明1における「前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量」は明確であり、チオ硫酸塩化合物の添加量を決定する方法が、本件課題を解決できると当業者が認識できる程度に記載されているといえる。
してみれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、当業者が本件課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えているとはいえないから、前記第3の2(1)の主張は採用できない。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
ウ 次に、前記第3の2(2)の主張について検討すると、本件特許明細書の前記具体的な実施例によれば、モノクロラミンのモル数の1/4のモル数のチオ硫酸塩化合物の質量を1としたときに1以上1.5以下の質量のチオ硫酸塩化合物を添加することで、残留塩素の全量を相殺しうることが裏付けられることは、前記アに記載したとおりである。
これに対して、前記実施例におけるチオ硫酸ナトリウム水溶液の代わりに亜硫酸水素ナトリウム水溶液を添加した比較例においては、全残留塩素を不検出とするために、「<化2>」の式に基づいて想定された、添加対象の水系水中の全残留塩素がモノクロラミンによるものとして、その全量を相殺しうると想定される量の6倍の亜硫酸水素ナトリウムが必要となったものであり(段落【0058】~【0062】。前記(2)ア(エ)。)、これらのことからみれば、還元剤としてチオ硫酸塩化合物を添加する前記実施例においては、還元剤として亜硫酸塩を添加する前記比較例よりも、少量の還元剤の添加により全残留塩素を不検出とできることがうかがえるものである。
エ 前記ウによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、還元剤としてチオ硫酸塩化合物を添加したときには、亜硫酸塩を添加するよりも少ない添加量で全残留塩素を相殺しうることを理解することができる。
そして、前記還元剤の添加量が少なければ、その分、溶存酸素の消費が抑制されて、処理された水中の溶存酸素濃度の低下が抑制ないし解消されることが推認されるから、たとえ前記具体的な実施例において溶存酸素濃度が測定されておらず、また、甲第3号証の記載によれば、チオ硫酸ナトリウムを還元剤として使用した場合にも、反応過程において比較的多量の溶存酸素が消費されるとしても、前記還元剤としてチオ硫酸塩化合物を添加することで、亜硫酸塩を添加するよりも少ない添加量で全残留塩素を相殺しうる本件発明により、「還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消」して、本件課題を解決できると認識できるものである。
してみれば、本件特許明細書は、本件発明により本件課題を解決できると認識できる程度に記載されているといえるから、前記第3の2(2)の主張も採用できない。
(4) 小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するので、前記第3の2(1)及び(2)の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件違反の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2) 明確性要件違反についての判断
本件発明1の「前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量」は明確であることは、前記2(3)イに記載したとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項1の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件発明1は明確であるといえる。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するので、前記第3の3の特許異議の申立て理由は理由がない。
4 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件違反の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要するので、以下、この観点に立って検討する。
(2) 実施可能要件についての判断
前記2(3)アによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1に係る方法を使用することができるものである。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすといえる。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じである。
(3) 申立人の主張について
ア 始めに、前記第3の4(1)の主張について検討すると、本件発明1における「前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量」は明確であることは、前記2(3)イに記載したとおりであり、チオ硫酸塩化合物の添加量を決定する方法は明確であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1を実施することができる程度に記載されたものといえる。
更に、本件発明2~4について検討しても事情は同じであるから、前記第3の4(1)の主張は採用できない。
イ 次に、前記第3の4(2)の主張について検討すると、前記2(3)エに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消する」、という課題を解決できると認識できる程度に記載されているといえるから、本件発明を実施することができる程度に記載されたものといえるので、前記第3の4(2)の主張も採用できない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701080