特許異議申立
2023-701067
ビールテイスト飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2023-701067
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-157636
- 登録番号
- 7253887
- 請求日
- 2023年10月05日
- 審決日
- 2024年06月24日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】右田 俊介
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.536-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7253887号発明「ビールテイスト飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7253887号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕、3について訂正することを認める。
特許第7253887号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7253887号(以下、この通知において「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成30年8月24日の出願であって、令和5年3月30日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年4月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和5年10月5日に特許異議申立人 田中 眞喜子(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和6年1月22日付けで取消理由が通知され、同年3月11日に特許権者 サッポロビール株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月15日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月5日に特許異議申立人から上申書(「書面の副本に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係る承諾」に関する上申書)が提出されたものの、その後何ら応答がなかったものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7253887号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
令和6年3月11日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を
「原料として、大麦と、大麦麦芽および/または小麦麦芽と、を使用したビールテイスト飲料であって、
旨味系アミノ酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)を含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.35以上1.70以下であり、
前記旨味系アミノ酸合計含有量が100mg/L以上130mg/L以下であり、
前記GABA含有量が75mg/L以上90mg/L以下であることを特徴とする、ビールテイスト飲料(γ-アミノ酪酸(GABA)が添加または除去されたものならびに前記原料とともにプロテアーゼが使用されたものをいずれも除く)。」
に訂正する。
請求項1の記載を引用して特定する請求項2も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を
「原料として、大麦と、大麦麦芽および/または小麦麦芽と、を使用したビールテイスト飲料の製造方法であって、
発酵工程において、旨味系アミノ酸合計含有量を100mg/L以上130mg/L以下とし且つGABA含有量を75mg/L以上90mg/L以下とし、前記GABA含有量に対する前記旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.35以上1.70以下とする工程を含む、ビールテイスト飲料の製造方法(γ-アミノ酪酸(GABA)の添加または除去を行う工程を含む製造方法ならびに前記原料とともにプロテアーゼを使用する製造方法をいずれも除く)。」
(3) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし2について、請求項2は請求項1を引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1ないし2に対応する訂正後の請求項1ないし2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否についての検討
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、原料の麦芽を「大麦麦芽および/または小麦麦芽」と特定するとともに、「前記原料とともにプロテアーゼが使用されたもの」を除くことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の明細書の【0017】、【0026】の記載からみて、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1の記載を引用して特定する請求項2についても同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項3の訂正は、原料の麦芽を「大麦麦芽および/または小麦麦芽」と特定するとともに、「前記原料とともにプロテアーゼを使用する製造方法」を除くことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項3の訂正は、本件特許の明細書の【0017】、【0026】の記載からみて、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕、3について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕、3について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。また、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」を総称し「本件特許発明」ということがある。)は、令和6年3月11日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
原料として、大麦と、大麦麦芽および/または小麦麦芽と、を使用したビールテイスト飲料であって、
旨味系アミノ酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)を含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.35以上1.70以下であり、
前記旨味系アミノ酸合計含有量が100mg/L以上130mg/L以下であり、
前記GABA含有量が75mg/L以上90mg/L以下であることを特徴とする、ビールテイスト飲料(γ-アミノ酪酸(GABA)が添加または除去されたものならびに前記原料とともにプロテアーゼが使用されたものをいずれも除く)。
【請求項2】
麦芽使用比率が50重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
原料として、大麦と、大麦麦芽および/または小麦麦芽と、を使用したビールテイスト飲料の製造方法であって、
発酵工程において、旨味系アミノ酸合計含有量を100mg/L以上130mg/L以下とし且つGABA含有量を75mg/L以上90mg/L以下とし、前記GABA含有量に対する前記旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.35以上1.70以下とする工程を含む、ビールテイスト飲料の製造方法(γ-アミノ酪酸(GABA)の添加または除去を行う工程を含む製造方法ならびに前記原料とともにプロテアーゼを使用する製造方法をいずれも除く)。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1ないし3に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨(下記1ないし4)は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明では、「γ-アミノ酪酸(GABA)の添加または除去を行う工程を含むものを除く」と規定されている。即ち、γ-アミノ酪酸(GABA)の含有量については製造条件のみで調整されたビールテイスト飲料である。
一方、本件明細書で具体的に開示されているγ-アミノ酪酸(GABA)の含有量の調整方法は、実施例のサンプルII、サンプルIIIのように麦芽使用比率を55~65重量%程度とすることのみであるが、このような麦芽使用比率で製造してもγ-アミノ酪酸(GABA)の含有量を範囲内に調整できない場合があるとすれば、如何にして所望の含有量や比率を調整すればよいか分からず、当業者であっても本件特許発明を実施するための製造条件を見つけるために過度の試行錯誤が必要である。
従って、本件特許発明1~3は実施可能要件を欠くものであり、特許を受けることができない。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由4の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明の課題は、「好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい旨味を有するビールテイスト飲料およびその製造方法を提供すること」(本件特許明細書の段落0006)であるが、その解決手段の一つとして「旨味系アミノ酸合計含有量」を所定範囲内とすることとされている。
しかしながら、「旨味系アミノ酸」(アスパラギン酸(Asp)、スレオニン(Thr)、セリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、リジン(Lys)およびアルギニン(Arg))における味覚特徴(種類や強さ)や味覚閾値はそれぞれ異なることが知られており、味全体における旨味の割合もそれぞれ異なることが知られている。また、同じアミノ酸であってもL型とD型で味が異なることも知られている。即ち、これら「旨味系アミノ酸」の合計量が同じであっても、その組成比率が大きく異なる場合には、呈味が大きく変わる可能性があり、そのような場合まで所望の課題を解決できるとは理解できない。
従って、本件特許発明1~3はサポート要件を欠くものであり、特許を受けることができない。
5 証拠方法
・甲第1号証:米国特許出願公開第2016/0215244号明細書
・甲第2号証:Jiro Kirimura et al., 「The Contribution of Peptides and Amino Acids to the Taste of Foodstuffs」, J. AGR. FOOD CHEM., VOL.17, NO.4, JULY-AUG., 1969, pp.689-695
・甲第3号証:二宮恒彦、「アミノ酸の呈味に関する研究」、調理科学、Vol.1,N0.4(1968),pp.15-27
・甲第4号証:牟田口祐太、大森勇門、大島敏久、「乳酸発酵とDーアミノ酸生産」、化学と生物、Vol.53, No.1, 2015, pp.18-26
第5 令和6年1月22日付けで特許権者に通知した取消理由について
令和6年1月22日付けで特許権者に通知した取消理由は、次の1ないし2のとおりである。
なお、取消理由には、上記第4の特許異議申立理由のうち、申立理由1ないし申立理由2が包含される。
1 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
以下のとおり、当審は、取消理由及び申立理由は何れもその理由がないものと判断する。
1 令和6年1月22日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由についての判断
●取消理由1及び2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「METHOD FOR PRODUCTION OF BREWERS WORT」に関し、次の記載がある。なお、甲第1号証は外国語文献のため、以下、仮訳のみを摘記する。
「実施例4
ビール濾過に対するH. insolens由来のアラビノフラノシダーゼFam. GH43をマッシングに適応した場合の影響
材料および方法
[0106] 麦芽にしていない大麦(64g)およびピルスナー麦芽(96g)を、ディスクミルを使用して0.2mmのギャップ間隔で粉砕した。塩化カルシウムを脱塩水に添加して、60ppmのCa2+イオンの終濃度を達成した。水を51℃に加熱した後、グリスト(室温)を添加した。50℃のマッシュ温度に達した時点で、表4に従って酵素を添加し、マッシングプログラム(表3)を開始した。マッシング中の水:グリストの比は2.5:1であった。マッシング後、蒸発消失のためにホットマッシュの重量を600gに調整し、Macherey-Nagel 5141/4濾紙を通してすぐに濾過した。
[0107] スイートワートの密度を分析し、60ppmのCa2+イオンを含むオートクレーブにかけた脱塩水を使用して14°Platoに希釈した。希釈麦汁を沸点まで加熱して、450gの麦汁あたり0.145gのホップ(Hallertauer Tradition, 2012, 17% α酸)を添加した。麦汁を40分煮沸して、煮沸後、オートクレーブ水を添加して蒸発消失を補填した。一晩増殖させた酵母株 W34/70を2*107細胞/麦汁mLの濃度で添加した。12℃で7日間発酵を行い、その後氷上で5日間貯酒した。次いでビールを脱気して、2℃、2000rpmで遠心分離し、上清をWhatman 5971/2濾紙に通して前濾過して残存酵母細胞を除去した。次いで50mLの前濾過ビールを、0℃に調整した0.45μm酢酸セルロースフィルターを備えるXK26カラム(GE-Healthcare)に充填した。温度平衡に達した後、50kPa圧力(N2)をカラムにかけた。経時的に濾過したビールの質量は、1秒ごとに自動的にモニタリングした。適用した濾過の種類は、表面濾過と記載でき、これは、濾過時間にわたり、濾過抵抗の増加のために流量が低下していくことを意味する。ビール濾過においてマッシングに添加した個々の酵素の性能を評価するための第1の工程は、モニタリングしたデータに基づく開始流量の計算であった。ビールの濾過性能を示すパラメータは、モニタリングされたデータからの流量が初期流量の半分になった時点の抽出した濾液総量と濾過時間を使用した。β-グルカン、アラビノキシランの含有量および粘度(0℃)について濾過の前後のビールを分析した。」
「すべての試験において、麦芽から供給される内因性酵素活性の低下を補うために、Termamyl SCおよびNeutrase 0.8 Lを、それぞれ36 KNU-S/kgグリストおよび0.16 AU-N/kgグリストの用量で使用した(→麦芽にしていない大麦を40%使用)。」(第7頁、表4)
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例4で作製されたビールについてまとめると、甲第1号証には次の発明が記載されているものと認める。
「原料として、麦芽にしていない大麦(64g)およびピルスナー麦芽(96g)およびNeutraseを使用したビール。」(以下、「甲1発明」という。)
「原料として、麦芽にしていない大麦(64g)およびピルスナー麦芽(96g)およびNeutraseを使用したビールの製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「麦芽にしていない大麦」、「ビール」は、それぞれ、本件特許発明1の「大麦」、「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1発明はその製法上、γ-アミノ酪酸(GABA)を添加したり除去したりするものでないから、本件特許発明1の「γ-アミノ酪酸(GABA)が添加または除去されたもの」にあたらないことも明らかである。
してみると、両者は、
「原料として、大麦を使用したビールテイスト飲料(γ-アミノ酪酸(GABA)が添加または除去されたものを除く)。」
で一致し、次の点で一応相違する。
(相違点1)
原料について、本件特許発明1は「大麦麦芽および/または小麦麦芽」を使用することが特定されるのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。
(相違点2)
ビールテイスト飲料において、本件特許発明1は「旨味系アミノ酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)を含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.35以上1.70以下であり、前記旨味系アミノ酸合計含有量が100mg/L以上130mg/L以下であり、前記GABA含有量が75mg/L以上90mg/L以下である」と特定されるのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。
(相違点3)
本件特許発明1は「前記原料とともにプロテアーゼが使用されたもの」を除くことが特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1発明は「Neutrase」を用いたものであるところ、「Neutrase」がプロテアーゼであることは当該技術分野においてよく知られているものである(要すれば、ノボザイム社のHPを参照されたい。)。
してみると、甲1発明は原料とともにプロテアーゼを用いたものであるから、相違点3に係る本件特許発明1の特定事項において除かれているものに該当する。
また、本件特許発明1と甲1発明において、原料として用いる大麦及び麦芽(大麦麦芽、小麦麦芽)の比率が同じであるとしても、プロテアーゼの有無で発酵後に含まれる成分組成は変わるものであると考えられることから、「物」として検討したとしても、本件特許発明1と甲1発明は同じであるということができない。
以上の点から、相違点3は実質的な相違点であるといえる。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではない。
また、甲第1号証および他のすべての証拠の記載を見ても、甲1発明において、Neutraseを用いないものとする動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項のすべてを有するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明2も、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲1製法発明とを対比すると、結局のところ、本件特許発明1と甲1発明との対比の場合と同様の一致点、相違点があるものであって、上記アと同様に判断される。
よって、本件特許発明3は、甲1製法発明ではなく、また、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3) 取消理由1及び2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1及び2の理由では、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すことができない。
2 令和6年1月22日付け取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 申立理由3(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし2は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすと言うことができる。
また、本件特許発明3は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか。その方法により生産した物の使用等ををする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には「ビールテイスト飲料およびその製造方法に関する」(【0001】)との記載、「好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい旨味を有するビールテイスト飲料およびその製造方法を提供することを目的とする」(【0006】)との記載、「旨味系アミノ酸およびGABAを含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.00以上2.00以下であるビールテイスト飲料とすることで、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を提供できることを見出し、本発明を完成させた」(【0007】)との記載、「本発明において「旨味系アミノ酸」とは、アスパラギン酸(Asp)、スレオニン(Thr)、セリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、リジン(Lys)およびアルギニン(Arg)を意味し、つまり、本発明のビールテイスト飲料は、Asp、Thr、Ser、Asn、Glu、Gln、LysおよびArgからなる群から選ばれる少なくとも1以上を含有する」(【0012】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料においては、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.00以上2.00以下、好ましくは1.20以上1.90以下、より好ましくは1.35以上1.70以下となるように調整する。これにより、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい良好な旨味を感じる優れたビールテイスト飲料を得ることができる。なお、本発明における旨味の「キレ」とは、旨味の後味のスッキリさ、および爽快さを意味する」(【0014】)との記載、「本発明の一態様として、より旨味の後残りがなく、よりキレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を得るため、本発明のビールテイスト飲料中における旨味系アミノ酸合計含有量を、前記旨味系アミノ酸/GABAを満たす範囲内であり、且つ50mg/L以上140mg/L以下、より好適には100mg/L以上130mg/L以下となるように調整するのが好ましい」(【0015】)との記載、「本発明の一態様として、より旨味の後残りがなく、よりキレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を得るため、本発明のビールテイスト飲料中におけるGABA含有量を、前記旨味系アミノ酸/GABAを満たす範囲内であり、且つ75mg/L以上、より好適には75mg/L以上90mg/L以下となるように調整するのが好ましい」(【0016】)との記載、「旨味系アミノ酸含有量およびGABA含有量は、調味料や旨味系アミノ酸および/またはGABA含有原料などの添加により調整することも可能であるが、原料として使用する麦芽(大麦麦芽、小麦麦芽)・大麦の種類や使用量、麦芽製造条件、発酵条件などを制御することにより調整するのが好ましく、特に旨味系アミノ酸含有量は、発酵条件の制御により発酵工程終了時において所定の範囲となるように調整する方法がビール様の風香味を高度に維持するという点でより好ましい。また、GABA含有量は、通常の酵母は発酵においてGABAを利用したり生産したりすることがほとんどないため、麦芽・大麦の種類や使用量、あるいは麦芽製造条件を制御することにより調整するのが好ましい」(【0017】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料に使用する原料としては、前述の麦芽および大麦に加えて、米、とうもろこし、豆類、ホップ、果実、香辛料、着色料、酸化防止剤、甘味料、苦味料などが挙げられる。また、発酵を促進するために、発酵原料として糖類(グルコース、フルクトース、ショ糖、マルトース、オリゴ糖など)を併用してもよい」(【0018】)との記載、「本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、旨味系アミノ酸/GABA、旨味系アミノ酸合計含有量、GABA含有量を調整する工程など前述した工程については、その方法にしたがって行うのが好ましいが、その他の工程については常法にしたがえばよく、特段限定はされない。製造方法の一例としては、まず、麦芽、大麦等を含む原料を使用して常法により麦汁を調製し、必要であればホップなどをこの麦汁に添加して煮沸し、沈殿物を除去してから所定の条件で酵母による発酵を行う。発酵後は貯酒(熟成)および濾過を行って製品とする。必要であれば、任意の工程において、スピリッツ等の添加やアルコールの除去などによるアルコール度数の調整や、カーボネーションを行ってもよい。さらに、この製品を金属製容器、ガラス製容器などに充填して提供してもよい」(【0023】)との記載があり、具体的な実施例の記載もある。
これらの記載を総合すれば、本件特許発明1ないし3に関して、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に記載されているものといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第4 3のとおり、「本件明細書で具体的に開示されているγ-アミノ酪酸(GABA)の含有量の調整方法は、実施例のサンプルII、サンプルIIIのように麦芽使用比率を55~65重量%程度とすることのみであるが、このような麦芽使用比率で製造してもγ-アミノ酪酸(GABA)の含有量を範囲内に調整できない場合があるとすれば、如何にして所望の含有量や比率を調整すればよいか分からず、当業者であっても本件特許発明を実施するための製造条件を見つけるために過度の試行錯誤が必要である」旨主張するが、当該主張はあくまで仮定に基づく主張であって、具体的に実施できないとする証拠を提示するものではない。そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、上記イのとおりγ-アミノ酪酸(GABA)の調整指針及び具体例が記載されていることからすると、特許異議申立人の上記主張は、上記イの判断に影響するものではない。
エ 申立理由3についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由3の理由では、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
(2) 申立理由4(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
ウ サポート要件についての判断
本件特許発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい旨味を有するビールテイスト飲料およびその製造方法を提供すること」(【0006】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「旨味系アミノ酸およびGABAを含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.00以上2.00以下であるビールテイスト飲料とすることで、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を提供できることを見出し、本発明を完成させた」(【0007】)との記載、「本発明において「旨味系アミノ酸」とは、アスパラギン酸(Asp)、スレオニン(Thr)、セリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、リジン(Lys)およびアルギニン(Arg)を意味し、つまり、本発明のビールテイスト飲料は、Asp、Thr、Ser、Asn、Glu、Gln、LysおよびArgからなる群から選ばれる少なくとも1以上を含有する」(【0012】)との記載、「本発明のビールテイスト飲料においては、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.00以上2.00以下、好ましくは1.20以上1.90以下、より好ましくは1.35以上1.70以下となるように調整する。これにより、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい良好な旨味を感じる優れたビールテイスト飲料を得ることができる。なお、本発明における旨味の「キレ」とは、旨味の後味のスッキリさ、および爽快さを意味する」(【0014】)との記載、「本発明の一態様として、より旨味の後残りがなく、よりキレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を得るため、本発明のビールテイスト飲料中における旨味系アミノ酸合計含有量を、前記旨味系アミノ酸/GABAを満たす範囲内であり、且つ50mg/L以上140mg/L以下、より好適には100mg/L以上130mg/L以下となるように調整するのが好ましい」(【0015】)との記載、「本発明の一態様として、より旨味の後残りがなく、よりキレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を得るため、本発明のビールテイスト飲料中におけるGABA含有量を、前記旨味系アミノ酸/GABAを満たす範囲内であり、且つ75mg/L以上、より好適には75mg/L以上90mg/L以下となるように調整するのが好ましい」(【0016】)との記載、「旨味系アミノ酸含有量およびGABA含有量は、調味料や旨味系アミノ酸および/またはGABA含有原料などの添加により調整することも可能であるが、原料として使用する麦芽(大麦麦芽、小麦麦芽)・大麦の種類や使用量、麦芽製造条件、発酵条件などを制御することにより調整するのが好ましく、特に旨味系アミノ酸含有量は、発酵条件の制御により発酵工程終了時において所定の範囲となるように調整する方法がビール様の風香味を高度に維持するという点でより好ましい。また、GABA含有量は、通常の酵母は発酵においてGABAを利用したり生産したりすることがほとんどないため、麦芽・大麦の種類や使用量、あるいは麦芽製造条件を制御することにより調整するのが好ましい」(【0017】)との記載があり、効果を検証した具体的な実施例の記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、麦芽および大麦を原料とするビールテイスト飲料において、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.35以上1.70以下であって、旨味系アミノ酸合計含有量を100mg/L以上130mg/L以下、GABA含有量を75mg/L以上90mg/L以下、との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし3はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項のすべてを有しさらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1ないし3はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
エ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第4 4のとおり、「「旨味系アミノ酸」(アスパラギン酸(Asp)、スレオニン(Thr)、セリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、リジン(Lys)およびアルギニン(Arg))における味覚特徴(種類や強さ)や味覚閾値はそれぞれ異なることが知られており、味全体における旨味の割合もそれぞれ異なることが知られている。また、同じアミノ酸であってもL型とD型で味が異なることも知られている。即ち、これら「旨味系アミノ酸」の合計量が同じであっても、その組成比率が大きく異なる場合には、呈味が大きく変わる可能性があり、そのような場合まで所望の課題を解決できるとは理解できない」旨主張する。
しかしながら、当該主張は、具体的に発明の課題を解決し得ないことを主張するものではなく、また、具体的に発明の課題を解決できないとする証拠を提出するものでもない。
よって、特許異議申立人の当該主張は、上記ウの判断に何ら影響するものではない。
オ 申立理由4についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由4の理由では、本件特許発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701067