特許異議申立
2022-701062
発泡性飲料及びその製造方法並びに発泡性飲料の泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧を高める方法
- 審判番号
- 2022-701062
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-247372
- 登録番号
- 7061458
- 請求日
- 2022年10月27日
- 審決日
- 2023年03月13日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人はるか国際特許事務所
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 三上 晶子
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7061458号発明「発泡性飲料及びその製造方法並びに発泡性飲料の泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧を高める方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7061458号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7061458号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成29年12月25日の出願であって、令和4年4月20日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年10月27日に特許異議申立人 田中 眞喜子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明13」という。また、総称として「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
原料液を使用して発泡性飲料を製造する方法であって、
多糖類及びタンパク質を含む原料を使用して前記原料液を調製することと、
前記原料液の調製において、前記多糖類及び前記タンパク質を含む混合液を、まず50℃以上、62℃以下の範囲内の第一の温度で維持して前記タンパク質にタンパク質分解酵素を作用させ、次いで、前記第一の温度より高い、55℃以上、80℃以下の範囲内の第二の温度で維持して前記多糖類にα-グルコシダーゼを作用させることと、
前記発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整することと、
を含む方法。
【請求項2】
前記発泡性飲料は、発泡性アルコール飲料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発泡性飲料のアルコール含有量は、4.1体積%以上である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記発泡性飲料のNIBEM値は、240秒以上である、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を増加させることにより、20℃における炭酸ガス圧が205kPa未満に調整されたこと以外は同一の条件で製造された場合と同一又はより増加したNIBEM値を有し、且つ20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上である前記発泡性飲料を得ることを含む、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記発泡性飲料は、ビールテイスト飲料である、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記発泡性飲料は、真性エキスが4.50w/v%以上であり、20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上である、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記発泡性飲料は、前記真性エキス(w/v%)に対する、イソマルトース含有量(g/L)の比が、0.30以上である、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記発泡性飲料は、前記真性エキス(w/v%)に対する、パノース含有量(g/L)の比が、1.00以上である、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記発泡性飲料は、前記真性エキス(w/v%)に対する、イソマルトース含有量(g/L)とパノース含有量(g/L)との合計の比が、1.30以上である、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記発泡性飲料は、イソマルトース含有量が2.5g/L以上である、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記発泡性飲料は、パノース含有量が7.0g/L以上である、請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
原料液を使用する発泡性飲料の製造において、前記発泡性飲料の泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧を高める方法であって、
多糖類及びタンパク質を含む原料を使用する前記原料液の調製において、前記多糖類及び前記タンパク質を含む混合液を、まず50℃以上、62℃以下の範囲内の第一の温度で維持して前記タンパク質にタンパク質分解酵素を作用させ、次いで、前記第一の温度より高い、55℃以上、80℃以下の範囲内の第二の温度で維持して前記多糖類にα-グルコシダーゼを作用させ、且つ前記発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整することにより、前記発泡性飲料のNIBEM値を、前記炭酸ガス圧が205kPa未満に調整されたこと以外は同一の条件で製造された場合と同一に維持し又はより増加させつつ、前記発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧を205kPa以上に高める方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要
令和4年10月27日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2、5、6及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件明細書の段落0039、0040においては、泡持ちの観点からタンパク質の分解が過剰に進行することを回避するために、エンドペプチダーゼの至適温度(45~50℃)以上である「50℃以上、62℃以下の範囲内の第一の温度で作用させる」ことが記載されている。
しかしながら、本件実施例において具体的に開示されているのは、第一の温度が55℃の場合のみであり、55℃よりもエンドペプチダーゼの至適温度(45~50℃)により近い50~54℃を第一の温度とした場合にまで所望の課題を解決できるとは理解できない。即ち、50~54℃の場合には55℃に比べて泡持ちに寄与するタンパク質の分解が進行する筈であるので、55℃の場合と同様に泡持ちの課題を解決できるかは不明である。
特に、本件特許発明の「50℃以上、62℃以下」との規定は50℃を含むものであるが、50℃はエンドペプチダーゼの至適温度(45~50℃)の範囲内であるから、泡持ちに寄与するタンパク質の分解についても当然に進行するものと考えられる。
3 証拠方法
・甲第1号証:国際公開第2016/063332号
・甲第2号証:ゲリーメリウォル、喜多常夫、「ガス入りのお酒」、きた産業ウェブページ
(https://www.kitasangyo.com/pdf/e-academy/n2-o2-co2-gas/Osake_Technical_column.pdf、2022年10月25日アクセス)
・甲第3号証:「第3表 炭酸ガス吸収係数表」国税庁ウェブページ
(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/pdf/f103.pdf、2022年10月25日アクセス)
・甲第4号証:本件審査における令和3年10月22日付け拒絶理由通知
・甲第5号証:特開2015-223163号公報
・甲第6号証:Narziss、「Die Bierbrauerei」、pp.130-135、1985
・甲第7号証:宮地秀夫、「ビール醸造技術」、食品産業新聞社、pp.238-239、1999年12月28日
・甲第8号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第9号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第10号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第11号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第12号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第13号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第14号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第15号証:「分析試験成績書」、一般財団法人日本食品分析センター、2022年10月13日
・甲第16号証:国際公開第2011/052483号
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「新規α-グルコシダーゼの用途」に関し、次の記載がある。
なお、下線は当審で付したものである。
・「[0008] 本発明の課題は、多糖類を含む原料を加工して飲食品を製造するための、α型のオリゴ糖類およびα型の多糖類からなる群より選択される糖質に作用し、連続するα-1,6結合を有する糖質を生成するα-グルコシダーゼの使用を提供することである。また、前記α-グルコシダーゼを使用することを含む飲食品の改良方法、前記α-グルコシダーゼを含む飲食品の改良剤を提供することである。」
・「実施例2
[0127] 1)米飯での添加効果
試験は、「応用糖質科学 第4巻 p.93-102 2014年」を参照して行った。市販の米一粒(約20mg)に、原料生米1g当り25Uとなるよう酵素を添加した緩衝液(12mM MES緩衝液pH6.0)を70μL加え、常温で2時間浸漬した。その後、GeneAmp PCR System9700(Applied Biosystems社製)を使用して、表6に示す条件で炊飯した。酵素はNBRC4239株由来のα-グルコシダーゼ(以下、本酵素と記載する。:試験例1)及びトランスグルコシダーゼL「アマノ」(天野エンザイム社製、以下TGLともいう。比較例1)を用いた。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で炊飯した米飯(参考例1)を作製した。」
・「[0149] 5)ビール、ビール様飲料での添加効果
麦芽200gに対して、麦芽1g当り1U又は5Uの酵素を添加した酵素溶液800mLを加え、50℃で1時間、更に60℃で1時間、その後80℃で10分間の加熱処理を行った。本酵素を添加したものを試験例7及び8とし、TGLを添加した物を比較例7及び8とした。また、コントロールとして酵素を添加せずに同様の条件で加熱処理を行ったものを参考例6とした。
[0150] 本酵素は、[実施例1]の5)に記載の<NBRC4239株由来α-グルコシダーゼの精製>で得た、精製酵素を用いた。添加した酵素の活性は、[実施例1]の1)に記載の<α-グルコシダーゼ活性の分析方法>によって定義した。
[0151] 加熱処理後、遠心にて上清を回収し、液中の水溶性食物繊維含有量を酵素-HPLC法(AOAC 2001.03)により求めた。その結果を表10に示す。
[0152][表10]
[図:0001396301000001.jpg]
[0153] 水溶性食物繊維含有量は、酵素無添加区(参考例6)で0.8%であったが、本酵素1U添加区(試験例7)、5U添加区(試験例8)では顕著に増加した。また、本酵素(試験例7、8)とTGL(比較例7、8)を比較すると本酵素を添加した場合の方が水溶性食物繊維含有量は高かった。ビールの製造では、前述の処理である糖化工程の後にビール酵母による醗酵工程がある。食物繊維はビール酵母により資化されないため、本酵素添加により、水溶性食物繊維を増量したビールを得ることができる。
[0154] また、原料の麦芽に大麦を混ぜ同様の試験を行った。麦芽20g、大麦180gに対して、原料1g当り1U又は5Uの酵素を添加した酵素溶液800mLを加え、前述の加熱処理を行った。その結果を表11に示す。
[0155] [表11]
[図:0001396301000002.jpg]
[0156] 水溶性食物繊維含有量は、酵素無添加区(参考例7)で1.2%であったが、本酵素1U添加区(試験例9)、5U添加区(試験例10)では顕著増加した。また、本酵素(試験例9、10)とTGL(比較例9、10)を比較すると本酵素を添加した場合の方が水溶性食物繊維含有量は高かった。これらの結果から、麦芽の配合率に関わらず本酵素の添加により水溶性食物繊維を増量することができる。」
(2)甲1に記載された発明
甲1には、試験例7について整理すると、以下の発明が記載されていると認める。
「麦芽200gに対して、麦芽1g当り1UのNBRC4239株由来のα-グルコシダーゼを添加した酵素溶液800mLを加え、50℃で1時間、更に60℃で1時間、その後80℃で10分間の加熱処理を行い、当該処理である糖化工程の後にビール酵母による醗酵工程を行う、ビールの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
2 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比・判断
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「ビール」は、本件特許発明1の「発泡性飲料」に相当する。
甲1発明は、「麦芽200gに対して、麦芽1g当り1UのNBRC4239株由来のα-グルコシダーゼを添加した酵素溶液800mLを加え」ていることから、本件特許発明1の「原料液を使用して」との特定事項を満足するとともに、麦芽が多糖類及びタンパク質を含むことは明らかであるから、本件特許発明1の「多糖類及びタンパク質を含む原料を使用して前記原料液を調製する」との特定事項を満足する。
甲1発明の「50℃で1時間」は、麦芽がタンパク質分解酵素を含むことは明らかであるから、本件特許発明1の「まず50℃以上、62℃以下の範囲内の第一の温度で維持して前記タンパク質にタンパク質分解酵素を作用させ」るとの特定事項を満足する。
甲1発明の「更に60℃で1時間」は、α-グルコシダーゼを添加した酵素溶液800mLを加えた状態で行っていることから、本件特許発明1の「第一の温度より高い、55℃以上、80℃以下の範囲内の第二の温度で維持して前記多糖類にα-グルコシダーゼを作用させること」との特定事項を満足する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「原料液を使用して発泡性飲料を製造する方法であって、
多糖類及びタンパク質を含む原料を使用して前記原料液を調製することと、
前記原料液の調製において、前記多糖類及び前記タンパク質を含む混合液を、まず50℃以上、62℃以下の範囲内の第一の温度で維持して前記タンパク質にタンパク質分解酵素を作用させ、次いで、前記第一の温度より高い、55℃以上、80℃以下の範囲内の第二の温度で維持して前記多糖類にα-グルコシダーゼを作用させることと、を含む方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整すること」を含むと特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
そこで、相違点1について検討する。
甲1には、炭酸ガス圧を調整することについての記載はなく、甲1発明のビールの製造方法が、「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整すること」を含むことを示す証拠もない。したがって、相違点1は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧が高められた発泡性飲料及びその製造方法・・・が提供される」(【0015】)という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「しかしながら、日本における主要ビール(アサヒスーパードライ、キリン一番搾り)の炭酸ガスボリュームは2.8や2.9程度であり(甲第2号証 お酒テクニカルコラム『ガス入りのお酒』(その5)5/16の表)、これを国税庁の炭酸ガス吸収係数表(甲第3号証)を用いて換算すると、20℃における炭酸ガス圧が220~230kPa程度である。即ち、日本における主要ビールの炭酸ガス圧は、・・・205kPa以上である。なお、このことは、現在の日本国内における主要市販ビールの炭酸ガス圧を分析した結果とも合致する(甲第8号証~甲第15号証)。
従って、同じく日本のビールの発明である甲1発明の20℃における炭酸ガス圧も同程度の水準(220~230kPa程度)と考えられ、・・・実質的な相違点ではない。また、仮に相違するとしても、上記のとおり20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上であることは極めてありふれた範囲であり、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。」(特許異議申立書29頁1~15行)と主張している。
しかしながら、アサヒスーパードライやキリン一番搾りなどのビールの炭酸ガス圧が205kPa以上であるとしても、甲2には、キリン、アサヒなどのラガービールの炭酸ガスボリュームが「2.5-2.8」であることが記載され(甲2 お酒テクニカルコラム『ガス入りのお酒』(その1)7/8の左欄の表)、炭酸ガス圧が205kPa未満の範囲も含み得ることにかんがみれば、甲1発明のビールの製造方法によって得られるビールが「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上」である蓋然性が高いとはいえないし、「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整する」工程を有している蓋然性が高いともいえず、さらに、甲1発明において、炭酸ガス圧を調整する動機付けもない。
よって、上記主張は採用できない。
イ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件特許発明2、5及び6について
本件特許発明2、5及び6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)アで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2、5及び6は甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件特許発明3、4及び7ないし12について
本件特許発明3、4及び7ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(1)アで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明3、4及び7ないし12は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明13について
ア 対比・判断
本件特許発明13と甲1発明を対比すると、上記(1)アと同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「原料液を使用する発泡性飲料の製造において、
多糖類及びタンパク質を含む原料を使用する前記原料液の調製において、前記多糖類及び前記タンパク質を含む混合液を、まず50℃以上、62℃以下の範囲内の第一の温度で維持して前記タンパク質にタンパク質分解酵素を作用させ、次いで、前記第一の温度より高い、55℃以上、80℃以下の範囲内の第二の温度で維持して前記多糖類にα-グルコシダーゼを作用させ、る方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2>
本件特許発明13は、「発泡性飲料の泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧を高める方法」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
<相違点3>
本件特許発明13は、「前記発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整することにより、前記発泡性飲料のNIBEM値を、前記炭酸ガス圧が205kPa未満に調整されたこと以外は同一の条件で製造された場合と同一に維持し又はより増加させつつ、前記発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧を205kPa以上に高める方法」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がない点。
そこで、事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1には、炭酸ガス圧を調整することについての記載はなく、甲1発明のビールの製造方法が、「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整すること」を含むことを示す証拠もない。したがって、相違点3は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の提出された証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明13の奏する「発泡性飲料の泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧を高める方法が提供される」という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件特許発明13の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「上記(i-1)で説明したとおり、甲第1号証に記載された発明と区別がつくものではなく、本件特許発明13は新規性及び進歩性に欠くものである。」(特許異議申立書40頁7~8行)と主張しているが、上記(1)アと同様の理由により、当該主張は採用できない。
イ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明13は、甲1発明ではないし、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)申立理由1についてのむすび
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし13の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧が高められた発泡性飲料の製造方法並びに発泡性飲料の泡持ちを損なうことなく炭酸ガス圧を高める方法を提供すること」である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0038】ないし【0044】、【0062】ないし【0065】、【0068】、【0070】、【0078】、【0079】、【0084】ないし【0088】には、本件特許発明1ないし13に対応する記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0018】ないし【0020】、【0030】及び【0031】には、「多糖類にα-グルコシダーゼを作用させること」の技術的意味が具体的に記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0095】ないし【0124】及び【図1】には、本件特許発明に係る方法では、多糖類にα-グルコシダーゼを作用させることにより、炭酸ガス圧が205kPa以上であっても、NIBEM値が維持された、すなわち泡持ちを損なうことがないことを確認する記載もある。
そうすると、当業者は、「多糖類にα-グルコシダーゼを作用させること」及び「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整すること」により、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし13は、「多糖類にα-グルコシダーゼを作用させること」及び「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整すること」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし13は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし13に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
上記第3 1(2)における特許異議申立人の主張について検討すると、上記(2)で述べたとおり、当業者は、「多糖類にα-グルコシダーゼを作用させること」及び「発泡性飲料の20℃における炭酸ガス圧が205kPa以上となるように、炭酸ガス圧を調整すること」により、発明の課題を解決できると認識でき、また、エンドペプチダーゼの至適温度(45~50℃)により近い50~54℃を第一の温度とした場合に、α-グルコシターゼを作用させることによる効果を阻害することを示す具体的な技術的根拠も示されていないことから、当該主張が上記(2)の判断に影響を与えるものではない。
したがって、上記主張はその理由がない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701062