特許異議申立
2025-700768
水系クレンジング化粧料
- 審判番号
- 2025-700768
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-120625
- 登録番号
- 7634857
- 請求日
- 2025年07月25日
- 審決日
- 2026年06月23日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】阪本薬品工業株式会社
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 審判長/審判官
- 審判長 齋藤 恵
- 審判官 野田 定文
- 審判官 江間 正起
- 分類
- P1651.537-YAA(A61K) / P1651.851-YAA(A61K) / P1651.841-YAA(A61K) / P1651.854-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7634857号発明「水系クレンジング化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7634857号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
特許第7634857号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7634857号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、令和2年7月14日の出願であって、令和7年2月14日に特許権の設定の登録がされ、同年同月25日にその特許掲載公報が発行された。その後、同年7月25日に、本件特許の請求項1に係る特許に対し、特許異議申立人 田中 眞喜子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和7年12月22日付け 取消理由通知
令和8年 2月20日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 3月31日 手続補正書(訂正請求書)の提出(特許権者)
同年 4月 7日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、上記令和8年4月7日付けの訂正請求があった旨の通知に指定した期間内に申立人から意見書の提出はなかった。
以下、令和8年3月31日提出の手続補正書により補正された令和8年2月20日提出の訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求の「請求の趣旨」は、「特許第7634857号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。」というものであり、その訂正の内容は、本件訂正請求書の記載及び本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載からみて、以下の訂正事項1からなるものである。
なお、下線は訂正による記載の変更箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(A)HLBが12.5~16のポリグリセリン脂肪酸エステル、
(B)HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル、
(C)炭素数が5以上のアルカンジオール、
(D)エーテル結合を有する2価アルコール、
(E)水
を含有する水系クレンジング化粧料。」
と記載されているのを、
「(A)HLBが12.5~16のポリグリセリン脂肪酸エステル 1質量%以上20質量%以下
(B)HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル 0.5質量%以上5質量%以下
(C)炭素数が5以上のアルカンジオール 3質量%以上10質量%以下
(D)エーテル結合を有する2価アルコール 1質量%以上10質量%以下
(E)水
を含有する水系クレンジング化粧料。」
と訂正する。
2 訂正事項についての訂正要件の判断
(1)訂正の目的の適否
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の水系クレンジング化粧料について、成分(A)を「1質量%以上20質量%以下」、成分(B)を「0.5質量%以上5質量%以下」、成分(C)を「3質量%以上10質量%以下」、成分(D)を「1質量%以上10質量%以下」という特定の量で含有するように限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
(2)新規事項の追加の有無
本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)の【0016】には、「成分(A)の含有量が1質量%以上20質量%以下であるとよりメイクと馴染み易くなる。」と記載されており、同【0018】には、「成分(B)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下であるとよりメイク落ちに優れる。」と記載されており、同【0021】には、「成分(C)の含有量が3質量%以上10質量%以下であるとよりメイクと馴染み易くなる。」と記載されており、同【0023】には、「成分(D)の含有量が1質量%以上10質量%以下であるとよりメイク落ちに優れる。」と記載されている。
また、本件明細書等の実施例には、成分(A)を1、5、10又は20質量%含有し、成分(B)を1又は2質量%含有し、成分(C)を3、5又は10質量%含有し、成分(D)を1、3、5又は10質量%含有する水系クレンジング化粧料を製造したことが記載されている(実施例1~10及び12~19)。
そうしてみると、成分(A)を「1質量%以上20質量%以下」、成分(B)を「0.5質量%以上5質量%以下」、成分(C)を「3質量%以上10質量%以下」、成分(D)を「1質量%以上10質量%以下」含有する水系クレンジング化粧料に限定することは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項1に係る訂正は、上記(1)で示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項1に係る発明のカテゴリーを変更するものでもないから、当該訂正は実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、上記(1)で示したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を訂正の目的とするものであるが、本件特許異議申立事件においては、本件訂正前の全ての請求項である請求項1に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
3 本件訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件特許に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正を認めるので、本件訂正後の請求項1(以下「本件請求項1」ということがある。)の記載は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
そして、本件請求項1に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであると認める(以下「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
(A)HLBが12.5~16のポリグリセリン脂肪酸エステル 1質量%以上20質量%以下
(B)HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル 0.5質量%以上5質量%以下
(C)炭素数が5以上のアルカンジオール 3質量%以上10質量%以下
(D)エーテル結合を有する2価アルコール 1質量%以上10質量%以下
(E)水
を含有する水系クレンジング化粧料。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由について
1 申立人が申し立てた理由の概要
(1)申立人が申し立てた理由
申立人の特許異議申立書(以下「申立書」という。)の第14頁の下記の記載
「
[図:0001439212000001.jpg]
」
及び申立書の全体の記載から、申立人が、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る特許に対して申し立てた特許異議の申立理由(以下「申立理由」という。)は、概略、以下のア及びイのとおりであると認められる。
また、申立人は、申立書に添付して、証拠方法として、下記(2)の甲第1~3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出している。
ア 申立理由1(特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号))
訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的な理由の要点は、以下のとおりである(申立書第8頁~第11頁)。
(ア)「本件特許発明は、「メイクと馴染み易く、メイク除去効果に優れ、かつふき取り後に肌にきしみが無い水系クレンジング化粧料を提供する」ことを課題とするものであるところ(本件明細書の段落0006)、本件実施例において上記課題を解決できたことが具体的に開示されているのは、(B)成分(HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル)として「イソステアリン酸ポリグリセリル-6(HLB10.8)」を1質量%又は2質量%で用いた例のみである(本件明細書の表1)。」
(イ)「しかしながら、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの界面活性剤においては、HLBが同じであっても親水基、親油基の化学構造が異なることで、その性質や用途が相違することは技術常識であり(甲第1号証のp.23)、本件特許発明において解決課題とされるクレンジング機能(メイク馴染み、メイク除去)についても、分子構造の違いによって相違することが知られている(甲第2号証のp.18)。」
(ウ)「またそもそも、本件実施例6と、実施例6の成分(B)をイソステアリン酸ポリグリセリル-6(HLB10.8)からイソステアリン酸PEG-15グリセリル(HLB12.0)に変更した比較例9とを比較した場合、この効果の違いがポリオキシエチレン脂肪酸エステルに変えたことによるものか、HLBを12.0に変えたことによるものか、いずれか判別することもできない。」
(エ)「上記のとおり、HLBが同じであれば分子構造が異なってもクレンジング機能やきしみに関する機能が同じになるという技術常識はなく、また、HLB12.0では課題が解決できなかった例(比較例9)しか示されていないのであるから、本件明細書の記載に接した当業者は、成分(B)としてイソステアリン酸ポリグリセリル-6(HLB10.8)を用いた場合以外に所望の課題を解決できるとは理解することができず、このようなピンポイントの結果を根拠として「HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル」という広い範囲まで拡張ないし一般化することはできない。」
イ 申立理由2(特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号))
訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的な理由の要点は、以下のとおりである(申立書第12頁~第13頁)。
(ア)「上記のとおり、本件特許発明は、「メイクと馴染み易く、メイク除去効果に優れ、かつふき取り後に肌にきしみが無い水系クレンジング化粧料を提供する」ことを課題とするものであるところ、本件実施例におけるメイク落ち評価「△」では「ややメイクが残る」とされている(本件明細書の段落0030)。かかる記載に接した当業者は、メイク落ち評価「△」の場合には、「メイク除去効果に優れる」という課題を解決するものではないと理解するのが自然である。」
(イ)「しかしながら、本件実施例11では、メイク落ち評価が「△」となっており、比較例なみの効果しか得られていないのであるから、本件特許発明1には、「メイク除去効果に優れる」という課題を解決し得ないものまで包含されている。」
(2)申立人が提出した証拠方法
甲第1号証(甲1):加藤好夫、「界面活性剤の進歩」、岐阜薬科大學紀要、1954年11月30日、No.4、p.4-30
甲第2号証(甲2):松尾真樹 ほか2名、「高洗浄性と低刺激性を両立した拭き取り型クレンジングローションの開発」、J. Soc. Cosmet. Chem. Jpn.、2020年3月、Vol.54、No.1、p.15-25
甲第3号証(甲3):「意見書(特許出願2020-120625)」、[オンライン]、2024年9月27日提出、[取得日 2025年7月23日]、取得先 <https://www.j-platpat.inpit.go.jp/h0101>
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
本件訂正請求による訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審合議体が令和7年12月22日付けで、特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
[取消理由1(サポート要件)]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的な理由の要点は、以下のとおりである。
(1)本件発明は、各成分の含有量の範囲を特定していないものである。本件発明の水系クレンジング化粧料は、成分(A)~(D)を組み合わせることにより、その課題を解決しようとするものであるから、各成分が水系クレンジング化粧料のメイクとの馴染み易さ、メイク除去効果、ふき取り後の肌のきしみの有無に関する性能の優劣に影響を与えるものであることは明らかである。また、一般に、組成物の各成分がその効果を発揮するためには、ある程度の含有量が必要であるとともに、組成物に配合される各成分の比率が異なれば、組成物の性質が異なることが、本件明細書の出願時の技術常識である。そうすると、本件発明において、各成分の含有量がいかなる範囲であっても、各成分の含有量が上記特定の範囲内の組成物と同様に、その課題を解決可能であることを理解することができるとはいえない。
(2)例えば、本件明細書等に記載された実施例11は、本件発明の成分(A)~(E)の全てを含む水系クレンジング化粧料であるから、本件発明の実施の態様に該当するが、成分(C)の含有量が1質量%しかなく、評価項目のうち「メイク落ち」の評価結果が「△」すなわち「ややメイクが残る」であるものである。そして、「ややメイクが残る」と評価される水系クレンジング化粧料が、メイク除去効果に優れるものであるということはできないから、上記実施例11の水系クレンジング化粧料は、メイク除去効果に優れるという本件発明の課題を解決するものとはいえない。
ここで、上記取消理由1は、申立人による申立理由2と同旨である。申立理由1は、取消理由通知書において取消理由として採用しなかった。
第5 当審合議体の判断
当審合議体は、本件特許の請求項1に係る特許は、取消理由通知書に記載した理由及び申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 本件明細書等及び主な証拠の記載
(1)本件明細書等の記載
本件明細書等には、次の記載がある。
ア 摘記本1
「【背景技術】
【0002】
化粧品分野において、化粧落としのためのクレンジング化粧料は、オイル、ローション、クリームなどの剤型があり、それぞれ使用性に応じて利用されている。
【0003】
連続相が油であるクレンジングクリームやクレンジングオイルは、メイクとの馴染みが良くクレンジング性に優れているが、クレンジングクリームでは油性感が生じるため洗顔が必要であったり、クレンジングオイルでは過度に油が除去されることで肌への刺激が生じる場合があった。
【0004】
一方、オイルを含まないか微量に配合したローションタイプのものは、油性感が少なく使用感に優れており、肌への刺激も少ないことから一定の需要がある。ローションタイプのクレンジングには、安全性を考慮し非イオン系界面活性剤を主剤として配合するが、高いメイク除去効果を発揮するためにはポリオキシエチレン系の界面活性剤を多量に配合する必要があった(例えば、特許文献1参照)。また、界面活性剤の配合量を少なくする場合においては、ポリオキシエチレン系の化合物を多く配合する必要があった(例えば、特許文献2参照)。しかし、ポリオキシエチレン系の界面活性剤やポリオキシエチレン系の化合物を多量に配合したクレンジング化粧料は、ふき取り後に肌のきしみが生じてしまう問題があった。」
イ 摘記本2
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、メイクと馴染み易く、メイク除去効果に優れ、かつふき取り後に肌にきしみが無い水系クレンジング化粧料を提供するものである。」
ウ 摘記本3
「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、HLBが12.5~16のポリグリセリン脂肪酸エステル、HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が5以上のアルカンジオール、エーテル結合を有する2価アルコールからなる水系クレンジング化粧料がクレンジング性能に優れ、上記課題を解決し得る事を見出し、本発明を完成するに至った。」
エ 摘記本4
「【0016】
また、水系クレンジング化粧料中の成分(A)の含有量は1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。成分(A)の含有量が1質量%以上20質量%以下であるとよりメイクと馴染み易くなる。」
オ 摘記本5
「【0018】
また、水系クレンジング化粧料中の成分(B)の含有量は0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましく、1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。成分(B)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下であるとよりメイク落ちに優れる。」
カ 摘記本6
「【0021】
水系クレンジング化粧料中成分(C)の含有量は3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。成分(C)の含有量が3質量%以上10質量%以下であるとよりメイクと馴染み易くなる。」
キ 摘記本7
「【0023】
水系クレンジング化粧料中成分(D)の含有量は1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。成分(D)の含有量が1質量%以上10質量%以下であるとよりメイク落ちに優れる。」
ク 摘記本8
「【実施例】
【0028】
〈実施例1~19、比較例1~9〉
表1、2に示す成分を表に示す組成で70℃において加熱溶解した後、室温まで冷却して、水系クレンジング化粧料を製造した。得られた水系クレンジング化粧料を用い、使用性における官能試験を実施した。評価項目としては、「メイク馴染み」、「メイク落ち」、「ふき取り後のきしみの無さ」の3点であり、4段階で評価した。
【0029】
[メイク馴染み]
20名の健常女性パネラーにより官能評価した。口紅を前腕に塗布し、10分間放置した後、塗布した部分に水系クレンジング化粧料を塗布した。クレンジング化粧料と口紅の馴染みの良さについて5点満点として平均点を算出し、以下の基準により評価した。これらの結果を表1、表2に示す。
(基準)
◎:4.0点以上(メイク馴染みが良い)
○:3.0点以上、4.0点未満(メイクに馴染む)
△:2.0点以上、3.0点未満(ややメイク馴染みが悪い)
×:2.0点以下(メイク馴染みが悪い)
【0030】
[メイク落ち]
20名の健常女性パネラーにより官能評価した。口紅を前腕に塗布し、10分間放置した後、塗布した部分に水系クレンジング化粧料を塗布し、なじませたのちコットンで吸い取った。コットンで吸い取った箇所のメイク残留物の無さについて5点満点として平均点を算出し、以下の基準により評価した。これらの結果を表1、表2に示す。
(基準)
◎:4.0点以上(メイク落ちが非常に良好)
○:3.0点以上、4.0点未満(メイク落ちが良好)
△:2.0点以上、3.0点未満(ややメイクが残る)
×:2.0点以下(メイクが残る)
【0031】
[ふき取り後のきしみの無さ]
20名の健常女性パネラーにより官能評価した。口紅を前腕に塗布し、10分間放置した後、塗布した部分に水系クレンジング化粧料を塗布し、なじませたのちコットンで吸い取った。クレンジング化粧料を除去後の皮膚のきしみの無さについて5点満点として平均点を算出し、以下の基準により評価した。これらの結果を表1、表2に示す。
(基準)
◎:4.0点以上(きしみがなく、使用感は非常に良好)
○:3.0点以上、4.0点未満(きしみが少なく、使用感は良好)
△:2.0点以上、3.0点未満(ややきしみがあり、使用感はやや悪い)
×:2.0点以下(きしみがあり、使用感は悪い)
【0032】
【表1】
[図:0001439212000002.jpg]
【0033】
【表2】
[図:0001439212000003.jpg]
【0034】
※1:Sフェイス 10G-L(阪本薬品工業製)
※2:Sフェイス IS-1001P(阪本薬品工業製)
※3:SYグリスター MO-7S(阪本薬品工業製)
※4:Sフェイス IS-601P(阪本薬品工業製)」
(2)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
ア 摘記甲1a
「
[図:0001439212000004.jpg]
[図:0001439212000005.jpg]
」
(3)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
ア 摘記甲2a
「
[図:0001439212000006.jpg]
[図:0001439212000007.jpg]
」
2 当審合議体が通知した取消理由について
(1)取消理由1について
ア サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 課題
本件発明の課題は、本件明細書等の発明の詳細な説明(特に摘記本2)の記載からみて、「メイクと馴染み易く、メイク除去効果に優れ、かつふき取り後に肌にきしみが無い水系クレンジング化粧料を提供する」ことであると認められる。
ウ 本件発明の課題を解決するための手段
本件明細書等の発明の詳細な説明には、従前ローションタイプのクレンジング化粧料には、高いメイク除去効果を発揮するためにポリオキシエチレン系の界面活性剤や化合物を多量に配合する必要があったが、そのようなクレンジング化粧料は、ふき取り後に肌のきしみが生じてしまう問題があったところ(摘記本1)、本件発明の発明者らは、HLBが12.5~16のポリグリセリン脂肪酸エステル、HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が5以上のアルカンジオール、エーテル結合を有する2価アルコールからなる水系クレンジング化粧料がクレンジング性能に優れ、メイクと馴染み易く、メイク除去効果に優れ、かつふき取り後に肌にきしみが無い水系クレンジング化粧料であることを見出したこと(摘記本2、本3)が記載されている。
また、本件明細書等には、本件発明の水系クレンジング化粧料の成分(A)である「HLBが12.5~16のポリグリセリン脂肪酸エステル」の含有量は、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、成分(A)の含有量が1質量%以上20質量%以下であるとよりメイクと馴染み易くなること(摘記本4)、本件発明の水系クレンジング化粧料の成分(B)である「HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル」の含有量は、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましく、成分(B)の含有量が0.5質量%以上5質量%以下であるとよりメイク落ちに優れること(摘記本5)、本件発明の水系クレンジング化粧料の成分(C)である「炭素数が5以上のアルカンジオール」の含有量は、3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、成分(C)の含有量が3質量%以上10質量%以下であるとよりメイクと馴染み易くなること(摘記本6)、本件発明の水系クレンジング化粧料の成分(D)である「エーテル結合を有する2価アルコール」の含有量は、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、成分(D)の含有量が1質量%以上10質量%以下であるとよりメイク落ちに優れること(摘記本7)も記載されている。
さらに、本件明細書等に記載の表1には、実施例1~10及び12~19の水系クレンジング化粧料が「メイク馴染み」、「メイク落ち」、「ふき取り後のきしみの無さ」のいずれの評価項目に関しても、「◎」又は「○」という良好な性能を発揮することが記載されている(摘記本8)。
エ 判断
上記イ及びウにおいて述べたとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明には、上記イの課題を解決するための手段が記載され、実際に、実施例で、本件発明の水系クレンジング化粧料が「メイク馴染み」、「メイク落ち」、「ふき取り後のきしみの無さ」のいずれについても良好な性能を発揮するものであることを確認して記載されているから、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件発明は、その範囲全体にわたって本件発明の課題を解決できることを認識できるといえ、本件発明は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されているといえる。
また、取消理由1は、上記第4の2において述べたとおりであるところ、本件訂正によって、本件発明は、成分(A)~(E)のそれぞれを、上記課題を解決することができることを理解できる含有量の範囲で含むものに限定された結果、メイク落ちの評価が「△」であった本件実施例11は、本件発明の実施の態様には含まれないこととなった。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものでない。
(2)まとめ
以上のとおり、本件発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものでないから、取消理由1には、理由がない。
3 取消理由通知において採用しなかった申立理由について
上記第4の2で述べたように、申立理由のうち、申立理由2は取消理由1と同旨であるので、取消理由として採用しなかった申立理由1について、以下検討する。
(1)申立理由1について
ア サポート要件の判断の前提、本件発明の課題及び当該課題を解決するための手段
サポート要件の判断の前提、本件発明の課題及び当該課題を解決するための手段に関しては、上記2(1)ア~ウにおいて述べたとおりである。
イ 申立理由1における指摘
申立人は、上記第4の1(1)アのように述べ、本件発明はサポート要件を満たさないと主張する。
ウ 判断
申立人の主張について、以下検討する。
(ア)成分(B)について
申立人は、本件明細書等の実施例には、成分(B)の具体例として、イソステアリン酸ポリグリセリル-6(HLB10.8)を用いた実施例しか記載されていないことを指摘し、甲1には「同じHLB価を有する活性剤が必ずしも同じ用途に使われるとは限らず、活性剤の親水基、親油基の化学構造が異なれば、同じHLB価でも、性質も用途も相違してくるから、このHLB価だけで用途を断ずるのは無謀の感がある。」(摘記甲1a)と記載されていること、甲2のFig.-1には、HLBが同じ11.1であっても、分子構造の異なるPEG-40水添ヒマシ油とカプリル酸ポリグリセリル-10ではクレンジング機能(評価指標である界面活性剤水溶液の表面張力低下能)が異なる結果となったことが記載されており、同種のポリオキシエチレン脂肪酸エステル間(HLB13.0のPEG-6(カプリル/カプリン酸)グリセリルと、HLB13.0のイソステアリン酸PEG-20グリセリルとの間)でも分子構造の違いによるクレンジング機能の相違が示されていること(摘記甲2a)から、成分(B)として、如何なる構造のポリグリセリン脂肪酸エステルでも所望の課題を解決できるとは理解できないと主張している。
しかし、上述のとおり、本件明細書等には、本件発明の具体例である実施例1~10及び12~19の水系クレンジング化粧料が「メイク馴染み」、「メイク落ち」、「ふき取り後のきしみの無さ」のいずれの評価項目に関しても、「◎」又は「○」という良好な性能を発揮することが記載されていることから、本件発明がその課題を解決することができることは明らかである。
また、本件発明の成分(B)は、「HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル」であり、上記実施例1~10及び12~19で用いられているHLBが10.8のイソステアリン酸ポリグリセリル-6と同様に、ポリグリセリン脂肪酸エステルの化学構造を有する界面活性剤に限定されており、これらが界面活性剤として類似の性能を有することは、化粧料の分野における技術常識であるから、本件発明は、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものである。
そして、本件発明は、成分(A)~成分(E)が所定の含有量で含まれる水系クレンジング化粧料であり、成分(B)のみが、単独でその課題の解決において重要な役割を果たすわけではないところ、実施例1~9及び11~19の記載によると、成分(A)~成分(E)が所定の含有量で含まれる水系クレンジング化粧料は、本件発明の課題を解決することができることを理解することができるから、本件発明は、その全範囲にわたって課題を解決することができるものである。
甲1及び甲2の記載について以下検討する。
まず、本件発明では、成分(B)について、HLBが10~12であること、ポリグリセリン脂肪酸エステルという特定の化学構造を有すること、その含有量の範囲が0.5質量%以上5質量%以下であることの3点が特定されている。
甲1には、界面活性剤の化学構造を特定することなく、HLBのみによって、界面活性剤の性質や用途を特定することは困難であることが記載されているにすぎないところ、本件発明の成分(B)は、HLBの値以外にポリグリセリン脂肪酸エステルという具体的な化学構造が特定されているものであるから、甲1の記載は、本件発明の成分(B)であるHLBが10~12であるポリグリセリン脂肪酸エステルに包含される界面活性剤が共通の性質を有することを否定するものではない。
次に、甲2のFig.-1について、同じHLB(13.0)を有し、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルという同じ化学構造を有する、PEG-6(カプリル/カプリン酸)グリセリルとイソステアリン酸PEG-20のデータを比較すると、含有量が0.1質量%より少ない場合には、PEG-6(カプリル/カプリン酸)グリセリルよりもイソステアリン酸PEG-20の方が表面張力低下能が高いものの、含有量が0.1質量%より多い場合には、いずれも同じ程度の表面張力低下能を示していることが理解できる。そして、本件発明の成分(B)は、その含有量が「0.5質量%以上5質量%以下」である。そうすると、甲2のFig.-1のデータを勘案しても、本件発明の成分(B)程度の含有量の範囲では、同じHLB及び類似の化学構造を有する界面活性剤は、類似の性質を有すると理解できるから、本件発明の成分(B)に含まれる界面活性剤が共通の性質を有しないものであるとはいえない(なお、甲2のFig.-1に記載されたHLBが11.1のPEG-40水添ヒマシ油とカプリル酸デカグリセリルは、互いに化学構造が大きく異なるものであるから、それらの表面張力低下能に関するデータを比較しても、本件発明の成分(B)に含まれる界面活性剤の性質の共通性について知見を得ることはできない。)。
(イ)本件明細書等の記載について
申立人は、「上記の甲第2号証p.18には、クレンジング機能向上のために高い表面張力低下能を有する界面活性剤を選択すること、HLB13.0の界面活性剤とHLB11.1の界面活性剤を比較した場合、HLB11.1の界面活性剤の方が表面張力低下能に優れていたこと(即ち、HLB11.1の界面活性剤の方がクレンジング機能に優れていたこと)も記載されている(Fig.-1に表面張力とHLBの関係が示されている)。してみると、本件比較例9においてメイク馴染み等の評価が落ちたことについて、HLBを10.8から12.0に変えたことの影響を無視して、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルを用いたことのみに起因したものと考えることはできない。本件実施例にはHLB12.0のポリグリセリン脂肪酸エステルで所望の課題を解決できたことの具体的な開示がなく、HLB12.0では課題が解決できなかった例(比較例9)しか示されていないのであるから、当業者は、成分(B)にHLB12.0のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで所望の課題を解決できるとは理解できない。」と主張している。
しかし、本件発明が上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであることは、上述のとおりであるし、本件明細書等の実施例において、成分(B)の具体例が「イソステアリン酸ポリグリセリル-6(HLB10.8)」の1例しか示されていないとしても、この他の「HLBが10~12のポリグリセリン脂肪酸エステル」がこれと同等の性能を有しないと認めるに足りる根拠はみあたらない。さらに、申立人が主張の根拠として指摘する比較例9は、本件発明の成分(B)の代わりに「イソステアリン酸PEG-15グリセリル(HLB12.0)」を含有する水系クレンジング化粧料が「メイク馴染み」等の性能に劣るものであることを示すための比較例であるから、この比較例9の記載によって、本件発明が課題を解決することができるとはいえなくなるものでもない。
そして、甲2のFig.-1に示された4種類の界面活性剤は、上述のようにHLBが13.0のものとHLBが11.1のものの間で化学構造が互いに異なるから、それらの表面張力低下能に関するデータを比較することで、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルという同じ化学構造を有する成分(B)に含まれる界面活性剤が共通の性質を有しないものであるということもできない。
エ まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、本件発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものでない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人の特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700768