特許異議申立
2025-700533
ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法
- 審判番号
- 2025-700533
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-108927
- 登録番号
- 7591101
- 請求日
- 2025年05月16日
- 審決日
- 2025年08月25日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
- 【異議申立人】廣瀬 久美
- 【異議申立人代理人】田久保 泰夫
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 宮久保 博幸
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7591101号発明「ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7591101号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7591101号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、令和5年6月30日の出願であって、令和6年11月19日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、令和7年5月16日に特許異議申立人 廣瀬 久美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、
グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、
アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、
グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上130mg/L以下である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
グリシンおよびアラニンの合計濃度が20mg/L以上35mg/L以下である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項4】
糖質濃度が1.0g/100mL以下である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項5】
糖質濃度が0.5g/100mL以下である、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項6】
糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、製造方法。
【請求項7】
糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、風味改善方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和7年5月16日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。なお、判断の便宜上、当審において、主たる証拠ごとに特許異議申立の理由を整理した。
1 申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件発明1ないし7は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件発明1ないし3、6及び7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件発明1ないし3、6及び7は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、6及び7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由4(甲第4号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)
本件発明1ないし7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件発明1ないし7は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)申立理由5(実施可能要件)及び申立理由6(サポート要件)
本件発明1ないし7についての特許は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
ア 申立理由5及び6(特許異議申立書の36~38頁)
(ア)本件明細書の表1には、評点1、2、3、4及び5の評価基準が記載される一方で、官能評価の実施にあたっては、「試験区1の各評価項目の評点を1.50と設定し」てその他の試験区の評価を行ったことが記載されている。評点1.50は、「全く感じられない」と「あまり感じられない」との中間に位置する評点であるが、それがどういった記述子によって表されるかが明確に記載されていない限り、当業者は本官能評価試験を再現することができない。
(イ)また、表2に示される官能評価結果は、いずれも小数点第2位までの数値が記載されており、表1に示される評価基準から小数点第2位までの数値で評価を行ったと理解されるが、このような評価が可能であるとは考えにくい。なお、仮に表2に示される官能評価結果が、パネラー4名の平均値であったとしても、例えば、「3.53」という評点は、各パネラーが小数点第2位まで評点を付けていないと出ない数字であると考えられる。
本件明細書の記載から、当業者が官能評価試験を追試できるとは言い難い。
(ウ)また、本件特許と同一出願人による同日出願(特願2023-108926:甲第6号証)の実施例の記載と、本件明細書の実施例の記載とは、官能評価の評価項目である「甘味の強度」が「味の強度」に代わっている以外は全く同じである。なお、官能評価の評価項目である「甘味の強度」が「味の強度」に代わってはいるが、官能評価結果の評点は両者同一である。
試験サンプルの調製方法の記載が同一であること、アルコール濃度、糖質濃度、プリン体濃度、グリシン濃度及びアラニン濃度の分析値が同一であることから、甲6の官能評価と本件明細書の官能評価は、同一の試験であると理解できるものである。
一方、「甘味の強度」(ビールらしい甘味の度合い)と「味の強度」(ビールらしい味の度合い)が全く同一の指標を意味するとは、当業者にとって到底理解不能であることから、両者は別の指標を意味すると理解されるものである。それにも関わらず、両指標の評価結果が全く同一になっている。試験サンプルの調製方法の記載からは、このような特殊なビールテイスト発酵アルコール飲料が得られているとは理解できない。上述した官能評価の方法が当業者の常識から外れていることも鑑みると、本件明細書に記載の官能評価方法及びそれによる結果の信頼性が著しく乏しいと言わざるを得ない(そもそも、実際に官能評価を実施したのかという疑義すら生じる)。
このような本件明細書の実施例の記載から、本件発明で特定される事項を備えるビールテイスト発酵アルコール飲料が本件発明の課題を解決できるとは理解し難い。また、そうである以上、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明の課題を解決できるビールテイスト発酵アルコール飲料に係る発明を実施することができるように記載されているとはいえない。
イ 申立理由6(特許異議申立書の38~39頁)
本件請求項1-7に係る発明は、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であることが特定されている。一方、本件明細書の実施例は、麦芽使用比率が50質量%未満の試験区がほとんどであり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下である場合の効果が立証されているとはいえないので、本件請求項1-7に係る発明の範囲まで、拡張乃至一般化できるとはいえず、サポート要件を満たしていない。
2 証拠方法
甲第1号証:伊勢角屋麦酒ホームページ,2019年4月25日,<URL:https://www.biyagura.jp/blog/brut-ipaを仕込みました!/>
甲第1号証の2:伊勢角屋麦酒ホームページ,2019年5月10日,<URL:https://www.biyagura.jp/blog/春のケヤキひろばビール祭り先行開栓ビールっ!/>
甲第2号証:特開2021-3127号公報
甲第3号証及び抄訳:Brewer's Friendホームページ,2022年4月1日,<URL:https://www.brewersfriend.com/homebrew/recipe/print/1264409>
甲第4号証:特開2022-141125号公報
甲第5号証及び抄訳:Watersホームページ,2021年,<URL:https://www.waters.com/content/dam/waters/en/app-notes/2007/720002158/720002158-ja.pdf>
甲第6号証:特開2025-7493号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てた特許異議申立理由によって、本件発明1ないし7についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1 申立理由1(甲1を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
「さて、これからの季節にぴったりの限定ビールを仕込みましたのでご報告します。
名前は「Magic Brut IPA」と言い、スタイルは「Brut IPA」です。
【Brut IPAとは?】
アメリカの西海岸のブルワリーで造られるようになった超ドライなIPAです。
糖度は0。つまり糖質ゼロのIPAです。
色合いは淡く、味わいはドライで苦味が少ない、その代わりにホップアロマが効いているビールです。ホップの効いたシャンパンのような味わいと表現されます。
もともと「BRUT」はスパークリングワインの用語で「辛口」を示します。
今回、Brut IPAを作るにあたりこだわった点がありますのでご紹介したいと思います。
(糖質をいかに減らすか)
Brut IPAの最大の特徴の一つは糖質ゼロである点です。
糖質をゼロにする為には、アルコール発酵を行う酵母に麦汁中のすべての糖を食べさせる必要があります。糖と言っても、酵母が食べることができるブドウ糖や麦芽糖だけでなく、多糖類の総称であるデキストリン等、さまざまな糖が麦汁には含まれています。
Brut IPAのポイントは、酵素の力でデキストリンをブドウ糖や麦芽糖まで完全に分解させることになります。その為、酵素の力を最大限に引き出す為に糖化温度や時間等を検討しました。検討の結果、ほとんどすべてのデキストリンをブドウ糖や麦芽糖まで分解させることができました。
できた麦汁は、すっきりとした甘味の強いものになりました。これは甘味が強くさっぱりとした特徴のブドウ糖や麦芽糖が多い証拠です。デキストリンは甘味が弱く、ボディー感を与えるのが特徴です。デキストリンは酵母が食べることができない為、発酵終了後にどれだけデキストリンが残っているかでビールのボディーが決まります。デキストリン量が多いと重たいビール、少ないと軽いビールになる傾向があります。
今回の仕込みでは、糖化方法を検討し、糖質(デキストリン等)の残らないボディーの軽い辛口のビールを作りました。
(味のバランスをどのようにとるか)
糖質(糖やデキストリン)は、甘味を呈するだけでなく、渋味や雑味を隠す効果があります。一般的にこれをマスキング効果と呼び、糖質のおかけで味のバランスをとることができます。料理に少量の砂糖を入れると味のバランスがとれるのはこのためです。
今回、糖質ゼロの超ドライなビールに挑戦しましたので味のバランスには苦労しました。
まず苦味が浮かない為に、ホップ添加のタイミングを遅らせる、アロマ付けに使用するホップの割合を増やす、苦味の質の良いホップであるSimcoeを使用する等、対策を行いました。苦味は呈良く感じられる程度に、かわりにホップのアロマが強く感じられるように工夫を行いました。
また、渋味を出さない為に、一番麦汁の取り方には細心の注意を払いました。モルトの皮には渋味を呈するポリフェノールが多く含まれるからです。
またBrut IPAの最大の難点は、酵母の使用方法にあります。
デキストリンを分解させ、糖濃度を高める仕込み方法をとることで、
高浸透圧条件における発酵によりオフフレーバーである酢酸の生成量が増大するリスクが高まるのです。
この課題を決する為、以下の方法を用いました。
・麦汁中の初発溶存酸素量を増やす
・活性の高い酵母を多量に使用する
これらの検討の結果、オフフレーバーのないクリーンでドライなIPAに仕上げることができました。ここでは書ききれない気を付けたポイントはおそらく100を超えると思います。
一見すると麦芽とホップと水しか使われていない単純そうなビールの醸造ですが、ブルワーは緻密な計算や綿密な下調べを行います。」
イ 甲1の2に記載された事項
甲1の2には、甲1に記載された限定ビールである「Magic Brut IPA」に関し、次の事項が記載されている。
「記事の中でも触れている、先行開栓ビールも熟成順調です。
今回のスペシャル醸造はその名も「Magic Brut IPA」\(^o^)/
伊勢角初挑戦のBrut IPAです。
[図:0001426862000001.jpg]
ちなみに、このスタイルはアメリカ西海岸で生まれたIPAです。
特殊な糖化工程により、ビール中の糖分は限りなく0。
極限までに切れたボディに華やかなホップアロマをのせたスタイルになります。
ウルトラドライかつ華やかなホップアロマ。」
ウ 甲1に記載された発明
上記イの写真から、「Magic Brut IPA」のアルコール濃度は6.5%であることが看取される。上記ア、イの記載事項を、「Magic Brut IPA」と名付けられた限定ビールに着目して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。
「糖度が0、アルコール度数が6.5%の、麦芽とホップと水しか使われていないビール。」(以下、「甲1発明」という。)
さらに、甲1には、製造工程において糖化温度や時間等を検討しすべてのデキストリンをブドウ糖や麦芽糖まで分解させたことが記載され、また、味のバランスをとるためにホップ添加のタイミングを遅らせる、アロマ付けに使用するホップの割合を増やす、苦味の質の良いホップであるSimcoeを使用する等の対策を行い、苦味は呈良く感じられる程度に、かわりにホップのアロマが強く感じられるように工夫を行ったことが記載されているから、甲1には以下の発明も記載されているといえる。
「糖度が0、アルコール度数が6.5%の、麦芽とホップと水しか使われていないビールの製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
「糖度が0、アルコール度数が6.5%の、麦芽とホップと水しか使われていないビールの味のバランスの調整方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)
(2)甲5に記載された事項
甲5には、UPLCによるビールのアミノ酸含有量の分析に関し、以下の事項が記載されている。
なお、原文の摘記は省略し、対応する日本語訳を記す。日本語訳は、申立人による。
「ビールは100以上の成分からなる複雑なマトリックスである。水、エタノール、炭水化物がビールやエールの主要な成分である。しかし、適切な味と品質に重要な役割を果たす多くの微量成分も含まれている。その中の一つの成分群であるアミノ酸は、発酵中に酵母によって代謝され、重要な風味成分が生成される。したがって、アミノ酸のモニタリングは、製品の一貫性を示し、顧客満足を確保するために不可欠である。」(2頁5-9行)
「サンプル準備
市販されている14種類のビールとエールを購入した。これには、国内のレギュラー、ライト、ノンアルコール、ダークビール、及び輸入されたベルギーエールが含まれる。各ビール約100mLを超音波処理して炭酸を除去した。サンプルが過度に濁っている場合は、0.45μmの親水性フィルターでろ過した。各ビールとエール200μLを160μLの水と40μLの1000pmol/μLノルバリン(Nva-内部標準)溶液とよく混合した。内部標準の調製方法は、細胞培養法に記載されている。これにより、ビールの1:2希釈(総量400μL)となり、内部標準が100pmol/μLになった。
この混合物の10μLを70μLのホウ酸緩衝液および20μLのAQC誘導体化試薬と混合し、標準調製セクションに記載されているように加熱した。この作業用サンプル混合物は、ビールの20倍希釈であり、内部標準が10pmol/μL(作業標準に類似)となり、注入された。」(3頁9-19行)
「
[図:0001426862000002.jpg]
表2.ビールサンプル中のアミノ酸含有量,単位はpmol/μL,ND=検出されなかった」(6頁-Table2)
(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
両者を対比すると、甲1発明は、麦芽とホップと水しか使われていないビールであるから、本件発明1の「麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下」である「ビールテイスト発酵アルコール飲料」との特定事項を満たす。また、甲1発明は「糖度が0」であり「アルコール度数が6.5%」であるから、本件発明1の「糖質濃度が1.5g/100ml以下であり」「アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下である」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」
(相違点)
・相違点1-1
ビールテイスト発酵アルコール飲料のグリシン濃度及びアラニン濃度について、本件発明1は、
「グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、
アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、
グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下である、」
と特定するのに対し、甲1発明はグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度を特定しない点。
(イ)相違点1-1についての判断
上記(2)によれば、甲5(第6ページの表2)には、市販されている14種類のビール中の各種アミノ酸含有量を測定した結果が記載されており、ノンアルコールビールであるサンプル7を除く各ビールのグリシン濃度及びアラニン濃度について換算すると、グリシン濃度は11.1~45.5mg/L程度、アラニン濃度は15.0~108.7mg/L程度であり、グリシン及びアラニンの合計濃度は26.1~149.1mg/L程度となっている。
甲5の記載事項によれば、相違点1-1に限ってみれば本件発明1の発明特定事項を満たすビールテイスト発酵アルコール飲料が多数存在するといえる。しかしながら、甲1発明は糖度が0であって、糖質を減らすために麦汁の糖化温度や時間等を調整して製造されたものであるのに対し、甲5において分析に用いられた各ビールは、その製造方法やアミノ酸以外の成分分析値は不明である。そうすると、甲1発明のビールの成分含有量と、甲5において分析に用いられた各ビールの成分含有量とが一致するとはいえず、甲5の記載事項を参酌しても、甲1発明のグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度が相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものということはできない。よって、相違点1-1は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲1発明ではない。
また、甲1及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、グリシン及びアラニンの含有量に着目し、それらの濃度を相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けはない。
そして、本件発明1は、その発明特定事項を満たすことにより、「糖質濃度を低減しつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0008】)との、格別の効果を奏するものである。
よって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書27~28頁において、以下のとおり主張する。
「甲5より、一般的なビール中のグリシン濃度は11.1~45.5mg/L程度、アラニン濃度は15.0~108.7mg/L程度であることが理解できる(ビールテイスト発酵アルコール飲料に該当しないサンプル7を除く。)。また、一般的なビール中のグリシン及びアラニンの合計濃度は26.1~149.1mg/L程度であることが理解できる。
そうすると、甲1ビールも同程度のグリシン濃度及びアラニン濃度であると解されるので、上述した相違点は実際には相違点ではない。」(以下、「主張1」という。)
「仮に多少の相違があったとしても、甲5にも記載されるとおり、アミノ酸はビールの重要な風味成分であること、アミノ酸のモニタリングが重要であることは当業者が認識しているところであり、グリシン濃度及びアラニン濃度を本件発明で特定している範囲内に調整する程度のことは当業者が極めて容易になし得たことに過ぎない。
そして、甲1には、「今回、糖質ゼロの超ドライなビールに挑戦しましたので味のバランスには苦労しました。」(甲1第5頁8-9行)と記載されていることから、甲1ビールは味のバランスがとれており、バランスが取れている以上甘味も感じられるものである。また、甲1には、「苦味は程良く感じられる程度に、かわりにホップのアロマが強く感じられるように工夫を行いました。」(甲1第5頁12-14行)と記載されていることから、甲1ビールは余韻が感じられる設計になっていることも明らかである。
そうすると、本件発明で効果と主張しているものは、甲1ビールが既に奏しているものに過ぎない。」(以下、「主張2」という。)
上記主張について検討する。
主張1に関して検討すると、甲5の記載事項から、グリシン及びアラニンの濃度に限ってみれば本件発明1の発明特定事項を満たすビールが存在するといえるものの、ビールであれば必ず上記濃度であるとまではいえない。そして、甲1発明は、麦汁の糖化等の製造工程を調整することにより糖度を0としたビールであって、このような特有の製造工程を経たビールにおいても酵母によって代謝されるアミノ酸の一種であるグリシン及びアラニンの濃度が甲5の各ビールと同様のものとなるとはいえない。よって、甲1発明のグリシン及びアラニンの濃度が相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものということはできない。
主張2に関して検討すると、甲5の記載事項から、アミノ酸はビールの重要な風味成分であること、アミノ酸のモニタリングが重要であることは理解できるものの、甲5には、アミノ酸の中でも特にグリシン及びアラニンに着目し、それらの濃度が相違点1に係る特定の値となるよう調整することを動機付ける記載はない。そして、甲5の表2には、単に市販されている各種ビールに含まれる27種のアミノ酸含有量の分析結果が示されているのみであり、特定のアミノ酸含有量としてどのような値が好ましいかについては何ら記載がない。よって、当業者が表5を参照しても、甲1発明においてグリシン及びアラニンの濃度を調整するという動機は生じない。
以上のとおり、申立人の主張はいずれも採用することができない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上まとめると、相違点1-1は実質的な相違点である。また、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1及び他の全ての証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。よって、本件発明1は甲1発明ではなく、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~5は、いずれも甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明6について
本件発明6と甲1製法発明とを対比すると、両者の間には、本件発明1と甲1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点1-2
本件発明6は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲1製法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
相違点1-2について検討すると、相違点1-2は相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明6は、甲1製法発明ではなく、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明7について
本件発明7と甲1方法発明とを対比すると、甲1方法発明はビールの味のバランスの調整方法であるから、「風味改善方法」であるといえる。その他、両者の間には、本件発明1と甲1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法。」
(相違点)
・相違点1-3
本件発明7は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲1方法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
相違点1-3について検討すると、相違点1-3は相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明7は、甲1方法発明ではなく、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立理由1のまとめ
上記のとおり、本件発明1~7は、いずれも甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、申立人が主張する申立理由1によって、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には次の事項が記載されている(「・・・」は摘記の省略を示す。以下同様。)。下線は予め付されたものと当審で付したものである。
「【請求項1】
糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、且つ、下記要件(I)及び(II)の少なくとも一方を満たす、ビールテイスト飲料。
・要件(I):前記ビールテイスト飲料の苦味価が18BUs以上である。
・要件(II):前記ビールテイスト飲料の色度が7EBC以上である。
・・・
【請求項3】
麦芽比率が50~100質量%である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
・・・
【請求項13】
アルコール度数が3.0(v/v)%以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料を製造する方法であって、下記工程(1)~(2)を有する、ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況において、飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスに優れる新規なビールテイスト飲料が求められている。」
「【0011】
本発明の一態様のビールテイスト飲料の糖質濃度は、飲んだ際のインパクトの強さを有しつつも、飲みやすいビールテイスト飲料とする観点から、1.5g/100mL以下であるが、好ましくは1.2g/100mL以下、より好ましくは1.0g/100mL以下、より好ましくは0.8g/100mL以下、更に好ましくは0.7g/100mL以下、更に好ましくは0.6g/100mL以下、より更に好ましくは0.5g/100mL以下、より更に好ましくは0.4g/100mL以下、特に好ましくは0.3g/100mL以下である。」
「【0029】
本発明の一態様のビールテイスト飲料の麦芽比率は、飲んだ際のインパクトの強さを維持する観点から、好ましくは50質量%以上であるが、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、又は70質量%以上であってもよく、また、100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、又は70質量%未満であってもよい。
本明細書において、「麦芽比率」とは、平成30年4月1日が施工日の酒税法および酒類行政関係法令等解釈通達に従って計算された値を意味する。
【0030】
上述のとおり、本発明の一態様のビールテイスト飲料は、アルコール含有ビールテイスト飲料であってもよく、ノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。
アルコール含有ビールテイスト飲料である場合における、本発明の一態様のビールテイスト飲料のアルコール度数としては、爽快な刺激を感じることができる飲料とする観点から、好ましくは3.0(v/v)%以上、より好ましくは4.0(v/v)%以上、より好ましくは4.6(v/v)%以上、更に好ましくは5.1(v/v)%以上、より更に好ましくは5.4(v/v)%以上、特に好ましくは5.7(v/v)%以上である。
また、飲みやすいビールテイスト飲料とする観点から、アルコール度数は、好ましくは20.0(v/v)%以下、より好ましくは15.0(v/v)%以下、更に好ましくは10.0(v/v)%以下である。
なお、本明細書において、アルコール度数は、体積/体積基準の百分率((v/v)%)で示されるものとする。また、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。」
「【0054】
2 ビールテイスト飲料の製造方法
本発明の一態様のビールテイスト飲料の製造方法は、特に限定されないが、発酵工程を経て製造する方法であってもよく、発酵工程を経ずに製造する方法であってもよいが、原料に、酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を有する方法が好ましい。
具体的な本発明の一態様のビールテイスト飲料の製造方法としては、例えば、下記工程(1)~(2)を有する方法が挙げられる。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程。」
「【0069】
実施例1~4、比較例1~2
<飲料の調製>
粉砕した大麦麦芽及び多糖分解酵素を、40~55℃で保持された温水40Lが入った仕込槽に投入した後、40~55℃の低温領域、55~70℃の中温領域、及び70~85℃の高温領域のそれぞれの温度領域で所定時間(1分間~60分間の範囲)保持しながら、段階的に昇温して、糖化液を調製した。その後、濾過して麦芽粕を除去し、麦汁を得た。なお、実施例3及び4では、得られた麦汁に対して、表1に示す麦芽比率となるようにショ糖を添加した。そして、それぞれの麦汁に、さらに各種ホップを添加して所定の条件で煮沸を行い、最終的に得られる飲料の苦味価及び色度が表1に示す値になるように煮沸処理を行った。煮沸処理後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して、発酵温度及び発酵時間、トランスグルコシダーゼ等の多糖分解酵素の添加量や添加のタイミングを調整して発酵液を調製し、当該発酵液を濾過して、ビールである試験用飲料をそれぞれ得た。
なお、それぞれの実施例及び比較例においては、酵素の種類、添加量及び添加のタイミング、糖化液を調製する際の各温度領域の設定温度及び保持時間等を適宜設定し、表1に示す糖質濃度、総ポリフェノール量及びアルコール度数となるようにそれぞれ調整した。
また、大麦麦芽の種類や粉砕の程度、糖液の調製の仕方、麦汁に添加するホップの種類や添加量及び添加のタイミング、並びに、煮沸処理の諸条件(煮沸温度や煮沸時間等)を適宜設定して、表1に示す苦味価及び色度となるようにそれぞれ調整した。
【0070】
<官能評価>
4℃程度まで冷却した実施例及び比較例で得た飲料について、日頃から訓練を受けた5人のパネラーが、各飲料の「飲んだ際のインパクトの強さ」及び「飲みやすさ」について、下記のスコア基準に基づき、5(最大値)~1(最小値)の範囲で、0.1刻みのスコアにて評価し、5人のパネラーのスコアの平均値を算出した。結果を表1に示す。
・・・
【0071】
【表1】
[図:0001426862000003.jpg]
【0072】
表1より、実施例1~4で調製したビールは、飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさが共に優れており、両者のバランスよく良好であった。一方で、比較例1で調製した飲料は、飲んだ際のインパクトが弱く、比較例2で調製した飲料は、飲んだ際のインパクトは非常に強いが、飲みにくい飲料であるとの結果であった。」
イ 甲2に記載された発明
上記アの記載事項を、特に実施例2~4において調製されたビールについて整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認められる。
「糖質濃度が0.3g/100mL、麦芽比率が51~100質量%、アルコール度数が3.3~6.3v/v%の、ビール。」(以下、「甲2発明」という。)
さらに、甲2には実施例2~4のビールを製造したこと、及び、実施例2~4において苦味価及び色度を調整して飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさのバランスに優れた飲料としたことが記載されているから、甲2には以下の発明も記載されているといえる。
「糖質濃度が0.3g/100mL、麦芽比率が51~100質量%、アルコール度数が3.3~6.3v/v%の、ビールの製造方法。」(以下、「甲2製法発明」という。)
「糖質濃度を0.3g/100mL、麦芽比率を51~100質量%、アルコール度数を3.3~6.3v/v%とする、ビールの、飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスの調整方法。」(以下、「甲2方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明との対比
両者を対比すると、甲2発明の「ビール」は、本件発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。また、甲2発明は、糖質濃度が0.3g/100mL、麦芽比率が51~100質量%、アルコール度数が3.3~6.3v/v%であるから、本件発明1の「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下である」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」
(相違点)
・相違点2-1
ビールテイスト発酵アルコール飲料のグリシン濃度及びアラニン濃度について、本件発明1は、
「グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、
アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、
グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下である、」
と特定するのに対し、甲2発明はグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度を特定しない点。
(イ)相違点2-1についての判断
上記1(2)の甲5の記載事項によれば、相違点2-1に限ってみれば本件発明1の発明特定事項を満たすビールテイスト発酵アルコール飲料が多数存在するといえる。しかしながら、甲2発明は、酵素の種類、添加量及び添加のタイミング等を適宜設定することにより糖質濃度を調整したものである(【0069】)のに対し、甲5において分析に用いられた各ビールは、その製造方法やアミノ酸以外の成分分析値は不明である。そうすると、甲2発明のビールの成分含有量と、甲5において分析に用いられた各ビールの成分含有量とが一致するとはいえず、甲5の記載事項を参酌しても、甲2発明のグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度が相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものということはできない。よって、相違点2-1は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲2発明ではない。
また、甲2及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明において、グリシン及びアラニンの含有量に着目し、それらの濃度を相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けはない。
そして、本件発明1は、その発明特定事項を満たすことにより、「糖質濃度を低減しつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することができる」との、格別の効果を奏するものである。
よって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書31頁において、以下のとおり主張する。
「(4-2)で説明したとおり、甲5より、一般的なビール中のグリシン濃度は11.1~45.5mg/L程度、アラニン濃度は15.0~108.7mg/L程度であることが理解できる(ビールテイスト発酵アルコール飲料に該当しないサンプル7を除く。)。また、一般的なビール中のグリシン及びアラニンの合計濃度は26.1~149.1mg/L程度であることが理解できる。
そうすると、甲2に記載されたビールも同程度のグリシン濃度及びアラニン濃度であると解されるので、上述した相違点は実際には相違点ではない。
仮に多少の相違があったとしても、甲5にも記載されるとおり、アミノ酸はビールの重要な風味成分であること、アミノ酸のモニタリングが重要であることは当業者が認識しているところであり、グリシン濃度及びアラニン濃度を本件発明で特定している範囲内に調整する程度のことは当業者が極めて容易になし得たことに過ぎない。
そして、(4-2)で説明したとおり、本件発明で効果と主張しているものは、甲1からも予測可能なものであり、格別なものではない。」(以下、「主張3」という。)
上記主張3について検討すると、主張3は、上記主張1及び2と同旨であり、主張1及び2と同様に判断される。そうすると、申立人の主張3は採用することができない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上まとめると、相違点2-1は実質的な相違点である。また、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲2及び他の全ての証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。よって、本件発明1は甲2発明ではなく、本件発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~5は、いずれも甲2発明ではなく、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明6について
本件発明6と甲2製法発明とを対比すると、両者の間には、本件発明1と甲2発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点2-2
本件発明6は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲2製法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
相違点2-2について検討すると、相違点2-2は相違点2-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明6は、甲2製法発明ではなく、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明7について
本件発明7と甲2方法発明とを対比すると、甲2方法発明は「飲んだ際のインパクトの強さと飲みやすさとのバランスの調整方法」であるから、「風味改善方法」であるといえる。その他、両者の間には、本件発明1と甲2発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法。」
(相違点)
・相違点2-3
本件発明7は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲2方法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
相違点2-3について検討すると、相違点2-3は相違点2-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明7は、甲2方法発明ではなく、甲2方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立理由2のまとめ
上記のとおり、本件発明1~7は、いずれも甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、申立人が主張する申立理由2によって、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「Temp Day」と名付けられたビールのレシピに関し、次の事項が記載されている。
「
[図:0001426862000004.jpg]
」
「
[図:0001426862000005.jpg]
」
「
[図:0001426862000006.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記アの記載事項における、ABVはアルコール度数、Carbsは炭水化物を意味する。そうすると、甲3のレシピにより製造されたビールについて整理すると、甲3には次の発明が記載されていると認められる。
「Admiral Pils10.10ポンド、Briess Brewers Yellow Corn Flakes5.30ポンド、Rice Hulls2ポンドと、ホップと、Other Ingredientsの表に記載の各材料を用いて製造された、炭水化物3.3g/12オンス、アルコール度数6.9%の、ビール。」(以下、「甲3発明」という。)
さらに、甲3にはビールを製造する際の麦汁の仕込みや発酵の条件等が記載されているから、甲3には以下の発明も記載されているといえる。
「Admiral Pils10.10ポンド、Briess Brewers Yellow Corn Flakes5.30ポンド、Rice Hulls2ポンドと、ホップと、Other Ingredientsの表に記載の各材料を用いた、炭水化物3.3g/12オンス、アルコール度数6.9%のビールの製造方法。」(以下、「甲3製法発明」という。)
「Admiral Pils10.10ポンド、Briess Brewers Yellow Corn Flakes5.30ポンド、Rice Hulls2ポンドと、ホップと、Other Ingredientsの表に記載の各材料を用いた、炭水化物3.3g/12オンス、アルコール度数6.9%のビールの製造における、麦汁の仕込み及び発酵条件の設定方法。」(以下、「甲3方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明との対比
両者を対比すると、甲3発明はアルコール度数6.9%のビールであるから、本件発明1の「アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料」との特定事項を満たす。また、甲3発明の発酵性材料のうち、麦芽であるAdmiral Pilsの使用比率は58質量%であり、その他の材料は微量であるから、甲3発明は「麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、」との特定事項を満たす。そして、甲3発明は炭水化物が3.3g/12オンス(約0.97g/100ml)であり、糖質濃度はこれよりも低いから、本件発明1の「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」
(相違点)
・相違点3-1
ビールテイスト発酵アルコール飲料のグリシン濃度及びアラニン濃度について、本件発明1は、
「グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、
アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、
グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下である、」
と特定するのに対し、甲3発明はグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度を特定しない点。
(イ)相違点3-1についての判断
上記1(2)の甲5の記載事項によれば、相違点3-1に限ってみれば本件発明1の発明特定事項を満たすビールテイスト発酵アルコール飲料が多数存在するといえる。しかしながら、甲3発明は、材料の組成や、麦汁の仕込みや発酵の条件を設定し糖質濃度を調整したものであるのに対し、甲5において分析に用いられた各ビールは、その製造方法やアミノ酸以外の成分分析値は不明である。そうすると、甲3発明のビールの成分含有量と、甲5において分析に用いられた各ビールの成分含有量とが一致するとはいえず、甲5の記載事項を参酌しても、甲3発明のグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度が相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものということはできない。よって、相違点3-1は実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲3発明ではない。
また、甲3及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲3発明において、グリシン及びアラニンの含有量に着目し、それらの濃度を相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けはない。
そして、本件発明1は、その発明特定事項を満たすことにより、「糖質濃度を低減しつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することができる」との、格別の効果を奏するものである。
よって、甲3発明において、相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書33頁において、以下のとおり主張する。
「(4-2)で説明したとおり、甲5より、一般的なビール中のグリシン濃度は11.1~45.5mg/L程度、アラニン濃度は15.0~108.7mg/L程度であることが理解できる(ビールテイスト発酵アルコール飲料に該当しないサンプル7を除く。)。また、一般的なビール中のグリシン及びアラニンの合計濃度は26.1~149.1mg/L程度であることが理解できる。
そうすると、甲3ビールも同程度のグリシン濃度及びアラニン濃度であると解されるので、上述した相違点は実際には相違点ではない。
仮に多少の相違があったとしても、甲5にも記載されるとおり、アミノ酸はビールの重要な風味成分であること、アミノ酸のモニタリングが重要であることは当業者が認識しているところであり、グリシン濃度及びアラニン濃度を本件発明で特定している範囲内に調整する程度のことは当業者が極めて容易になし得たことに過ぎない。
そして、(4-2)で説明したとおり、本件発明で効果と主張しているものは、甲1からも予測可能なものであり、格別なものではない。」(以下、「主張4」という。)
上記主張4について検討すると、主張4は、上記主張1及び2と同旨であり、主張1及び2と同様に判断される。そうすると、申立人の主張4は採用することができない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上まとめると、相違点3-1は実質的な相違点である。また、相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲3及び他の全ての証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。よって、本件発明1は甲3発明ではなく、本件発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2、3について
本件発明2、3は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2、3は、いずれも甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明6について
本件発明6と甲3製法発明とを対比すると、両者の間には、本件発明1と甲3発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点3-2
本件発明6は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲3製法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
相違点3-2について検討すると、相違点3-2は相違点3-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明6は、甲3製法発明ではなく、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明7について
本件発明7と甲3方法発明とを対比すると、甲3方法発明は「麦汁の仕込み及び発酵条件の設定方法」であり、これらの条件はビールの風味が良好なものとなるよう調整されるものであるから、「風味改善方法」であるといえる。その他、両者の間には、本件発明1と甲3発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、かつ、アルコール濃度が3v/v%超7v/v%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法。」
(相違点)
・相違点3-3
本件発明7は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲3方法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
相違点3-3について検討すると、相違点3-3は相違点3-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明7は、甲3方法発明ではなく、甲3方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立理由3のまとめ
上記のとおり、本件発明1~3、6、7は、いずれも甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、申立人が主張する申立理由3によって、請求項1~3、6、7に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲4を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には次の事項が記載されている。
「【請求項1】
麦芽比率が10質量%以上、プリン体の含有量が2.0mg/100ml未満、及び原麦汁エキス濃度が5.0質量%以上であり、
アセトアルデヒド及び酢酸エチルを含有し、
アセトアルデヒドの含有量(X)が25.0質量ppm以下であり、
アセトアルデヒドの含有量(X)(単位:質量ppm)に対する酢酸エチルの含有量(Y)(単位:質量ppm)の比〔(Y)/(X)〕が1.5~40.0である、麦芽発酵飲料。
・・・
【請求項8】
糖質含有量が、1.5g/100ml以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の麦芽発酵飲料。
【請求項9】
麦芽使用比率が20%以上、プリン体含量が1.0mg/100ml未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載の麦芽発酵飲料。」
「【0004】
このような状況において、プリン体の含有量を低減させた麦芽発酵飲料は様々検討されているが、プリン体の含有量を低減しつつも、更なる改良がなされた麦芽発酵飲料(例えば、ビールテイスト飲料らしい味わいを有し、不適な香りが抑制された麦芽発酵飲料)が求められている。」
「【0011】
本発明の麦芽発酵飲料において、麦芽比率は、ビールテイスト飲料らしい味わいに優れた麦芽発酵飲料とする観点から、10質量%以上であるが、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは22質量%以上、更に好ましくは24質量%以上、より更に好ましくは28質量%以上であり、さらに、30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上としてもよく、また、100質量%以下であるが、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下としてもよい。
本明細書において、「麦芽比率」とは、平成30年4月1日が施行日の酒税法および酒類行政関係法令等解釈通達に従って計算された値を意味する。」
「【0029】
本発明の一態様の麦芽発酵飲料において、近年の健康志向に適合した麦芽発酵飲料とする観点から、糖質含有量は、1.5g/100ml以下、1.2g/100ml以下、1.0g/100ml以下、0.8g/100ml以下、0.7g/100ml以下、0.6g/100ml以下、0.5g/100ml以下、又は0.5g/100ml未満であってもよく、また、0.01g/100ml以上、0.05g/100ml以上、0.1g/100ml以上、又は0.2g/100ml以上としてもよい。」
「【0033】
上述のとおり、本発明の一態様の麦芽発酵飲料は、アルコール含有麦芽発酵飲料であってもよく、ノンアルコール麦芽発酵飲料であってもよい。
アルコール含有麦芽発酵飲料である場合における、本発明の一態様の麦芽発酵飲料のアルコール度数としては、爽快な刺激を感じることができる飲料とする観点から、1.0(v/v)%以上、1.5(v/v)%以上、2.0(v/v)%以上、2.5(v/v)%以上、3.0(v/v)%以上、3.5(v/v)%以上、4.0(v/v)%以上、4.5(v/v)%以上、5.0(v/v)%以上、5.4(v/v)%以上、又は5.7(v/v)%以上としてもよく、また、飲みやすい麦芽発酵飲料とする観点から、20.0(v/v)%以下、17.0(v/v)%以下、15.0(v/v)%以下、12.0(v/v)%以下、10.0(v/v)%以下、9.0(v/v)%以下、8.0(v/v)%以下、又は7.0(v/v)%以下としてもよい。
なお、本明細書において、アルコール度数は、体積/体積基準の百分率((v/v)%)で示されるものとする。また、飲料のアルコール含有量は、公知のいずれの方法によっても測定することができるが、例えば、振動式密度計によって測定することができる。」
「【0080】
実施例1~11、比較例1~12
粉砕した大麦麦芽等を含む穀物原料を温水120Lが入った仕込槽に投入した後、段階的に温度を上げて保持し、ろ過して麦芽粕を除去し、麦汁を得た。その後、当該麦汁を煮沸釜に投入し、麦芽比率が表1~3に記載の値になるように糖液を添加し、さらにホップを投入して、温水で100Lに調整して煮沸処理を行った。煮沸処理後に固液分離処理を行い、得られた清澄な麦汁を冷却し、酸素による通気を実施することで酵母添加前の発酵前液を得た。
【0081】
このようにして得られた発酵前液にビール酵母(下面発酵酵母)を添加して約1週間発酵させた後、さらに約1週間の熟成期間を経て、酵母をろ過で除去して、さらに、必要に応じてプリン体の吸着処理を行いつつ、エキス調整水、アセトアルデヒド、及び酢酸エチルを必要に応じて添加をして、表1~3に示す、プリン体の含有量、原麦汁エキス濃度、糖質含有量、アセトアルデヒドの含有量(X)、及び酢酸エチルの含有量(Y)を有する麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)をそれぞれ調製した。
【0082】
得られた麦芽発酵飲料の評価は、日頃から訓練を受けた6人のパネラーが、各飲料の試飲をし、以下のように行ったところ、表1~3に示す結果となった。
・・・
【0086】
【表1】
[図:0001426862000007.jpg]
・・・
【0089】
表1~3より、実施例1~11で調製した麦芽発酵飲料は、プリン体の含有量を低減しつつも、ビールテイスト飲料らしい味わいを有し、不適な香りが抑制された飲料となり得る。一方で、比較例1~12で調製した麦芽発酵飲料は、プリン体の含有量を低減した際に、ビールテイスト飲料らしい味わい及び不適な香りの抑制効果の少なくとも一方が劣る結果となった。」
イ 甲4に記載された発明
上記アの記載事項を、特に実施例6、7で調整されたビールテイスト飲料について整理すると、甲4には次の発明が記載されていると認められる。
「麦芽比率60質量%、糖質含有量0.4g/100mlの麦芽発酵飲料である、ビールテイスト飲料。」(以下、「甲4発明」という。)
さらに、甲4には以下の発明も記載されているといえる。
「麦芽比率60質量%、糖質含有量0.4g/100mlの麦芽発酵飲料である、ビールテイスト飲料の製造方法。」(以下、「甲4製法発明」という。)
「麦芽比率を60質量%、糖質含有量を0.4g/100mlとする、麦芽発酵飲料であるビールテイスト飲料を、ビールテイスト飲料らしい味わいを有し、不適な香りが抑制された飲料とする方法。」(以下、「甲4方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4発明との対比
両者を対比すると、甲4発明は、「麦芽発酵飲料」であり、「ビールテイスト飲料」でもあるから、本件発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」との特定事項を満たす。また、甲4発明は、麦芽比率60質量%、糖質含有量0.4g/100mlであるから、本件発明1の「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であり、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」
(相違点)
・相違点4-1
アルコール濃度について、本件発明1が「3v/v%超7v/v%以下である」と特定するのに対し、甲4発明はアルコール濃度を特定しない点。
・相違点4-2
ビールテイスト発酵アルコール飲料のグリシン濃度及びアラニン濃度について、本件発明1は、
「グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、
アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、
グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下である、」
と特定するのに対し、甲4発明はグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度を特定しない点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4-2について検討する。
上記1(2)の甲5の記載事項によれば、相違点4-2に限ってみれば本件発明1の発明特定事項を満たすビールテイスト発酵アルコール飲料が多数存在するといえる。しかしながら、甲4発明は、所定の条件で発酵を行うとともにプリン体の吸着処理等を行い、プリン体の含有量、糖質含有量を調整したものであるのに対し、甲5において分析に用いられた各ビールは、その製造方法やアミノ酸以外の成分分析値は不明である。そうすると、甲4発明の成分含有量と、甲5において分析に用いられた各ビールの成分含有量とが一致するとはいえず、甲5の記載事項を参酌しても、甲4発明のグリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度が相違点4-2に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものということはできない。よって、相違点4-2は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明ではない。
また、甲4及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲4発明において、グリシン及びアラニンの含有量に着目し、それらの濃度を相違点4-2に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けはない。
そして、本件発明1は、その発明特定事項を満たすことにより、「糖質濃度を低減しつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することができる」との、格別の効果を奏するものである。
よって、甲4発明において、相違点4-2に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書36頁において、以下のとおり主張する。
「(4-2)で説明したとおり、甲5より、一般的なビール中のグリシン濃度は11.1~45.5mg/L程度、アラニン濃度は15.0~108.7mg/L程度であることが理解できる(ビールテイスト発酵アルコール飲料に該当しないサンプル7を除く。)。また、一般的なビール中のグリシン及びアラニンの合計濃度は26.1~149.1mg/L程度であることが理解できる。
そうすると、甲4に記載された麦芽発酵飲料も同程度のグリシン濃度及びアラニン濃度であると解されるので、上述した相違点は実際には相違点ではない。
仮に多少の相違があったとしても、甲5にも記載されるとおり、アミノ酸はビールの重要な風味成分であること、アミノ酸のモニタリングが重要であることは当業者が認識しているところであり、グリシン濃度及びアラニン濃度を本件発明で特定している範囲内に調整する程度のことは当業者が極めて容易になし得たことに過ぎない。
そして、(4-2)で説明したとおり、本件発明で効果と主張しているものは、甲1からも予測可能なものであり、格別なものではない。」(以下、「主張5」という。)
上記主張5について検討すると、主張5は、上記主張1及び2と同旨であり、主張1及び2と同様に判断される。そうすると、申立人の主張5は採用することができない。
(エ)本件発明1についてのまとめ
以上まとめると、相違点4-2は実質的な相違点である。また、相違点4-2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲4及び他の全ての証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。よって、相違点4-1について検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明ではなく、本件発明1は甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~5は、いずれも甲4発明ではなく、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明6について
本件発明6と甲4製法発明とを対比すると、両者の間には、本件発明1と甲4発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
(相違点)
・相違点4-3
ビールテイスト発酵アルコール飲料のアルコール濃度について、本件発明6は、「3v/v%超7v/v%以下である」と特定するのに対し、甲4製法発明はそのように特定しない点。
・相違点4-4
本件発明6は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲4製法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
事案に鑑み、相違点4-4について検討すると、相違点4-4は相違点4-2と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明6は、相違点4-3について検討するまでもなく、甲4製法発明ではなく、甲4製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 本件発明7について
本件発明7と甲4方法発明とを対比すると、甲4方法発明は「ビールテイスト飲料らしい味わいを有し、不適な香りが抑制された飲料とする方法」であるから、「風味改善方法」であるといえる。その他、両者の間には、本件発明1と甲4発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「糖質濃度が1.5g/100mL以下であり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法。」
(相違点)
・相違点4-5
アルコール濃度について、本件発明7は「3v/v%超7v/v%以下である」と特定するのに対し、甲4方法発明はそのように特定しない点。
・相違点4-6
本件発明7は、
「製造された飲料のグリシン濃度が5.5mg/L以上であり、製造された飲料のアラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、製造された飲料のグリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下となるようにグリシンおよびアラニンを含有させる工程を含む、」
と特定するのに対し、甲4方法発明はそのような工程を有することを特定しない点。
事案に鑑み、相違点4-6について検討すると、相違点4-6は相違点4-2と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件発明7は、相違点4-5について検討するまでもなく、甲4方法発明ではなく、甲4方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立理由4のまとめ
上記のとおり、本件発明1~7は、いずれも甲4に記載された発明ではなく、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、申立人が主張する申立理由4によって、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由5(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載事項
本件明細書の【0005】には、発明が解決しようとする課題が「糖質濃度が低減されつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好な新規なビールテイスト発酵アルコール飲料の提供」にあることが記載されている。
そして、その解決手段に関し、本件明細書には、本件発明に係るビールテイスト発酵アルコール飲料の各成分含有量について、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものとすることができ、・・・麦芽を原料の少なくとも一部として使用する場合、麦芽使用比率にかかわらず味の厚みを実現することができる」(【0011】)との記載、「アルコール濃度を任意に設定することができる」(【0012】)との記載、「糖質濃度が低減された低糖質の飲料であり、具体的には、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質濃度の上限値(以下または下回る)は、・・・1.5g/100mL」(【0014】)との記載、「グリシン濃度が所定値にあることを特徴とする。具体的には、グリシン濃度の下限値(以上または上回る)は、5.5mg/Lであり、・・・」(【0018】)との記載、「アラニン濃度が所定値にあることを特徴とする。具体的には、アラニン濃度の下限値(以上または上回る)は、4.4mg/Lであり、・・・」(【0019】)との記載、及び、「グリシンおよびアラニンの合計濃度が所定値にあることを特徴とする。具体的には、グリシンおよびアラニンの合計濃度の下限値(以上または上回る)は、10mg/Lであり、・・・合計濃度の上限値(以下または下回る)は、180mg/Lであり、・・・」(【0020】)との記載がある。
そして、上記解決手段による本件発明の効果について、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が低減されているにもかかわらず、甘味、味の余韻およびバランスが良好であることを特徴とする。低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料(特に、低糖質のビールおよび発泡酒)は、低糖質に調整する方法の特殊性等に起因して、甘味が低く感じられることや、味の余韻が十分でなくバランスが悪くなるという課題があった。本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、甘味、味の余韻およびバランスが良好な状態に改善されており、低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料の上記課題を解決することができる。」(【0023】)との記載がある。
また、本件明細書には、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法及び成分含有量の調整方法について、「グリシン濃度およびアラニン濃度は、高速液体クロマトグラフィー法による測定や、陽イオン交換樹脂でアミノ酸を分離した後、ニンヒドリン反応液を加えて135℃で反応させ、UV-VIS検出器で定量することができる。」(【0022】)との記載、「本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が所定の範囲内に低減され、かつ、グリシン濃度、アラニン濃度およびそれらの合計濃度が所定値となるように含有させる限り、その製造手順に制限はなく、例えば、下記のように製造することができる。すなわち、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、得られた発酵液を低温にて貯蔵した後、濾過工程により酵母を除去することによりビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。飲料における糖質含量の低減は後記の公知の方法に従って行うことができる。このようにして得られた糖質濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料に、グリシンおよびアラニンが所定の含有量となるように、かつ、それらの総含有量が所定値となるように添加し、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料とすることができる。ビールテイスト発酵アルコール飲料へのグリシンおよびアラニンの配合は発酵後の発酵液への添加により行うことができ、このようにして糖質濃度が低減され、かつ、グリシンおよびアラニンが含まれるビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。」との記載、及び、「麦芽使用比率の調整、グリシンおよび/またはアラニン含有量の多い果実等の原料を使用すること等により、飲料中のグリシンおよびアラニン濃度を調整することができる。」(【0029】)との記載がある。
そして、本件明細書の【0041】~【0051】には、実施例として、麦汁を下面発酵酵母により発酵させて麦芽使用比率53%のビールテイスト発酵アルコール飲料を得、当該ビールテイスト発酵アルコール飲料を希釈するとともに、醸造用エタノール(95%)、グリシンおよびアラニンを添加することによりベース飲料(試験区1)を調製し、さらにベース飲料に醸造用エタノール(95%)、グリシンおよびアラニンを添加することにより試験区2~18の各試験サンプルを調製したこと、及び、官能評価の結果として、グリシン及びアラニンのそれぞれの濃度及び両者の合計濃度が所定値にある場合に、甘味、味の余韻及びバランスのいずれも良好な結果が得られたことが記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
当業者は、上記(2)に示した本件明細書の記載事項に基づいて、糖質濃度が低減され、かつ、グリシン及びアラニンのそれぞれの濃度及び両者の合計濃度が調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができ、また、その製造にあたり麦芽使用比率及びアルコール濃度を任意に設定することができる。さらに、グリシン及びアラニンのそれぞれの濃度及び両者の合計濃度が所定値にある場合に、製造されたビールテイスト発酵アルコール飲料は、糖質濃度が低減されつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好なものとなることが理解できる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし5に関し、その物を生産し、かつ、その物を使用することができる程度に具体的に記載されており、本件発明6に関し、その物を生産する方法を使用することができること、及び、その方法により生産した物の使用等をすることができる程度に具体的に記載されており、また、本件発明7に関し、その方法を使用することができる程度に具体的に記載されているものといえる。
よって、本件発明1ないし7に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たす。
(4)申立人の主張について
申立人は、上記第3 1(5)のように主張しているので、その各点について以下、検討する。
ア 評点1.50の記述子が明確でないとの点について
申立人は、本件明細書の実施例における官能評価の評点1.50は、「全く感じられない」と「あまり感じられない」との中間に位置する評点であるが、それがどういった記述子によって表されるかが明確に記載されていない限り、当業者は本官能評価試験を再現することができない、との点を主張している。
上記主張について検討すると、訓練されたパネラーであれば、所定の記述子で表現された評点に対し、0.1刻み等で各記述子の中間値の評価を行うことは可能であり、各記述子の中間の評点も、記述子によって記述される評価基準に基づいて適切に評価されたものといえる。すなわち、評点1.50を直接的に表す記述子がなくても、評点1.50は「全く感じられない」と「あまり感じられない」とのちょうど中間であるとパネラーが明確に認識したことを意味するものであるから、本官能評価試験は、訓練されたパネラーにより再現することができるものである。
また、上記(2)及び(3)のとおり、本件明細書には、本件発明1ないし7を実施することが可能な程度に具体的な記載があるから、本件明細書に記載された官能評価において、請求人が主張するように一部の記述子の記載がないとしても、本件発明1ないし7を実施することができないとまではいえない。
イ パネラーが小数点第2位まで評価を行ったとの点について
申立人は、表2に示される官能評価結果から、パネラーが小数点第2位までの数値で評価を行ったと理解されるが、このような評価が可能であるとは考えにくい、との点を主張している。
上記主張について検討すると、本件明細書の実施例において、表2に示される評点がどのように求められた値であるのか明確には記載されていないが、複数のパネラーの評価結果に基づいて1つの評価値を求める場合には、評価結果の平均値を用いることが技術常識である。そして、各パネラーが小数点第1位まで評価を行った場合、評点の平均値の小数点第3位を四捨五入すれば「3.53」といった値となることもあるから、申立人が指摘するようにパネラーが小数点第2位までの数値で評価を行ったとはいいきれない。そして仮に、申立人が指摘するように各パネラーが小数点第2位までの数値で評価を行ったものと解釈した場合でも、評価の基準となる記述子及び評点は明確に示されているから、パネラーに小数点第2位までの評価を指示し、官能評価を実施すること自体は可能であり、したがって本件明細書に記載された官能評価を再現することは可能といえる。
また、上記アと同様に、本件明細書に記載された官能評価において一部の記述子の記載がないとしても、本件発明1ないし7を実施することができないとまではいえない。
ウ 同一出願人による同日出願の実施例において「甘味の強度」が「味の強度」に代わっているとの点について
申立人は、本件特許と同一出願人による同日出願(甲6)の実施例の記載と、本件明細書の実施例の記載とは、官能評価の評価項目である「甘味の強度」が「味の強度」に代わっている以外は全く同じであるとの点を指摘し、「甘味の強度」(ビールらしい甘味の度合い)と「味の強度」(ビールらしい味の度合い)とは別の指標を意味すると理解されるにも関わらず、両指標の評価結果が全く同一になっていることから、本件明細書に記載の官能評価方法及びそれによる結果の信頼性が著しく乏しいと主張している。
上記主張について検討する。申立人が指摘する同日出願(甲6)は、本件特許についての出願とは別の出願である。特許法第36条第4項第1号は、他の出願との内容の整合性を要件とする規定ではないから、甲6の記載内容は本件特許の実施可能要件に影響を及ぼすものではない。また、甲6における「味の強度」と本件発明における「甘味の強度」とが別の指標である必然性もないから、申立人の主張は単なる憶測に基づくものである。そして、上記(2)及び(3)のとおり、本件明細書には、本件発明1ないし7を実施することが可能な程度に具体的な記載があり、申立人が指摘する点をもって本件発明1ないし7を実施することができないとはいえない。
エ 申立人の主張についてのまとめ
上記アないしウのとおり、上記第3 1(5)における申立人の主張は採用することができない。
(5)申立理由5についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~7を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立人が主張する申立理由5によって、本件発明1~7についての特許を取り消すことはできない。
6 申立理由6(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の【0005】等の記載からみて、本件発明1ないし7の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「糖質濃度が低減されつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好な新規なビールテイスト発酵アルコール飲料の提供」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載について
本件明細書には、上記5(2)のとおりの記載がある。
(4)サポート要件についての判断
上記5(2)に示した本件明細書の一般記載から、糖質濃度を1.5g/100mL以下とし、さらにグリシン濃度を5.5mg/L以上、アラニン濃度を4.4mg/L以上、グリシンおよびアラニンの合計濃度を10mg/L以上180mg/L以下とすることにより、糖質濃度が低減されているにもかかわらず、甘味、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料とすることができ、また、当該ビールテイスト発酵アルコール飲料において麦芽使用比率及びアルコール濃度を任意に設定しうることを認識できる。
さらに、当該一般記載を裏付ける実施例として、糖質濃度0.13g/100mLの各試験区のサンプルについて、「グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下である」条件を満たす試験区2、4~10、12~17では「甘味」「味の余韻」「バランス」のいずれの評価値も高かったのに対し、グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/Lを下回る試験区1、3、11では「甘味」「味の余韻」「バランス」のいずれの評価値も低く、グリシンおよびアラニンの合計濃度が180mg/Lを上回る試験区18では「味の余韻」「バランス」の評価値が低かったことが記載されている。
上記一般記載における各成分の含有量及び技術的意義についての記載と、実施例における官能評価結果の記載を参酌すると、糖質濃度を1.5g/100mL以下のビールテイスト発酵アルコール飲料において、グリシン濃度が5.5mg/L以上であり、アラニン濃度が4.4mg/L以上であり、かつ、グリシンおよびアラニンの合計濃度が10mg/L以上180mg/L以下であるとの特定事項を満たすことで、糖質濃度が低減されつつも、甘味、味の余韻およびバランスが良好なビールテイスト発酵アルコール飲料を提供でき、発明の課題を解決できるものと認識することができる。
そして、本件発明1ないし7は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、本件発明1ないし7は、いずれも発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許のサポート要件に関して第3 1(5)のように主張しているので、その各点について以下、検討する。
ア 評点1.50の記述子が明確でないとの点について
申立人は、評点1.50は、「全く感じられない」と「あまり感じられない」との中間に位置する評点であるが、それがどういった記述子によって表されるかが明確に記載されていない限り、当業者は本官能評価試験を再現することができない、との点を主張している。
上記主張について検討すると、上記5(4)アに記載したように、訓練されたパネラーであれば、評点1.50を直接的に表す記述子がなくても、評点1点と2点のちょうど中間の評価であると認識することが可能であるから、本官能評価試験は、訓練されたパネラーにより再現することができるものである。
イ パネラーが小数点第2位まで評価を行ったとの点について
申立人は、表2に示される官能評価結果から、パネラーが小数点第2位までの数値で評価を行ったと理解されるが、このような評価が可能であるとは考えにくい、との点を主張している。
上記主張について検討すると、上記5(4)イに記載したように、パネラーが小数点第2位までの数値で評価を行ったとはいいきれないし、仮に、各パネラーが小数点第2位までの数値で評価を行ったものと解釈した場合でも、評価の基準となる記述子及び評点は明確に定まっているから、本件明細書に記載された官能評価を再現できないとはいえない。
ウ 同一出願人による同日出願の実施例において「甘味の強度」が「味の強度」に代わっているとの点について
申立人は、本件特許と同一出願人による同日出願(甲6)の実施例の記載と、本件明細書の実施例の記載とは、官能評価の評価項目である「甘味の強度」が「味の強度」に代わっている以外は全く同じであるとの点を指摘し、「甘味の強度」(ビールらしい甘味の度合い)と「味の強度」(ビールらしい味の度合い)とは別の指標を意味すると理解されるにも関わらず、両指標の評価結果が全く同一になっていることから、本件明細書に記載の官能評価方法及びそれによる結果の信頼性が著しく乏しいとの点を主張している。
上記主張について検討すると、上記5(4)ウに記載したように、申立人が指摘する同日出願(甲6)は、本件特許についての出願とは別の出願である。そして、特許法第36条第6項第1号は、他の出願との内容の整合性を要件とする規定ではないから、甲6の記載内容は本件特許のサポート要件に影響を及ぼすものではない。また、甲6における「味の強度」と本件発明における「甘味の強度」とが別の指標である必然性もないから、申立人の主張は単なる憶測に基づくものである。そして、上記(2)ないし(4)のとおり、本件明細書には、本件発明1ないし7が発明の課題を解決できることを認識できる程度の具体的な記載があり、申立人が指摘する点をもって本件発明1ないし7がサポート要件に適合しないとはいえない。
エ 実施例において、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下である場合の効果が立証されていないとの点について
申立人は、本件発明1ないし7には、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下であることが特定されているのに対し、本件明細書の実施例は、麦芽使用比率が50質量%未満の試験区がほとんどであり、麦芽使用比率が50質量%以上100質量%以下である場合の効果が立証されているとはいえないとの点を指摘し、本件明細書の実施例を本件発明1ないし7の範囲まで拡張乃至一般化できるとはいえず、サポート要件を満たしていない旨を主張している。
上記主張について検討すると、当業者は、グリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度の点のみが異なるように調整された実施例、比較例の評価結果を参照することにより、【0006】に記載されているとおり、糖質濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料において、グリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度が所定値となるようにすることで、発明の課題が解決されると認識することができる。また、麦芽使用比率が実施例より高くとも、グリシン濃度、アラニン濃度及びそれらの合計濃度を実施例と同様に調整できることは技術的に明らかであり、それらの濃度調整に基づく作用効果は麦芽使用比率によらず同じように発揮されると当業者は理解することができる。
また、申立人は、本件明細書の実施例は麦芽使用比率が50質量%未満の試験区がほとんどである旨を指摘するにとどまり、グリシン及びアラニンの濃度が所定の範囲にある「ビールテイスト発酵アルコール飲料」であっても、「麦芽使用比率」が50質量%以上の場合に、発明の課題を解決できないことを示す具体的な証拠を提示していない。
オ 申立人の主張についてのまとめ
上記アないしエのとおり、上記第3 1(5)における申立人の主張は採用することができない。
(6)申立理由6についてのまとめ
以上のことから、本件発明1ないし7は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立人が主張する申立理由6によって、本件発明1~7についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由によって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700533