特許異議申立
2023-701023
アルカリベースのプロモーターが導入された燃料極を含む固体酸化物燃料電池
- 審判番号
- 2023-701023
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-562327
- 登録番号
- 7275313
- 請求日
- 2023年09月25日
- 審決日
- 2024年09月30日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】コリア アドヴァンスド インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
- 【権利者代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 【異議申立人】鶴亀 國康
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 相澤 啓祐
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7275313号発明「アルカリベースのプロモーターが導入された燃料極を含む固体酸化物燃料電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7275313号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕、13、14、15、16について訂正することを認める。
特許第7275313号の請求項6ないし16に係る特許を維持する。
特許第7275313号の請求項1ないし5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7275313号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、2020年(令和 2年)12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2020年 6月24日 大韓民国(KR))を国際出願日とする出願(特願2021-562327号。以下、「本願」という。)であって、令和 5年 5月 9日にその特許権の設定登録がされ、同年 5月17日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その請求項1~12(全請求項)に係る特許に対し、同年 9月26日に特許異議申立人である鶴亀 國康(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、以後の経緯は以下のとおりである。
令和 6年 3月29日付け 取消理由通知書
同年 6月27日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
なお、以下の第2で述べるとおり、令和 6年 6月27日提出の訂正請求書による訂正は、一部の請求項の削除及びそれに伴う軽微なものであって、申立人に意見を聴くまでもないことが明らかであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情」があると認められるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
令和 6年 6月27日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか1項に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法において、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、固体酸化物燃料電池の製造方法。」と記載されているのを、請求項1を直接引用するものについて、独立形式に改め、「空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、固体酸化物燃料電池の製造方法。」に訂正する。
(請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7~12も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
新たに請求項13として、「空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属化合物は、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、またはそれらの組み合わせであり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、固体酸化物燃料電池の製造方法。」を追加する。
(8)訂正事項8
新たに請求項14として、「空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記プロモーターは、M2O、MOH、またはそれらの組み合わせであり、前記Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、固体酸化物燃料電池の製造方法。」を追加する。
(9)訂正事項9
新たに請求項15として、「空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)であり、前記燃料極は、金属-セラミック複合体燃料極である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む固体酸化物燃料電池の製造方法。」を追加する。
(10)訂正事項10
新たに請求項16として、「空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池、ここで、前記固体酸化物燃料電池の燃料極は、前記プロモーターを含まない固体酸化物燃料電池の燃料極に比べて電極抵抗が低い、の製造方法において、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、固体酸化物燃料電池の製造方法。」を追加する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1~5に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1~5に係る訂正は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1~5を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項1~5に係る訂正は、それぞれ請求項1~5を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項1~5に係る訂正は、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項6~10に係る訂正について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項6~10に係る訂正は、本件訂正前の請求項6が「請求項1~5のいずれか1項」の記載を引用する記載であるところ、本件訂正によって請求項1~5が削除されたことに伴い、請求項1~5を引用するものについてそれぞれ請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項6、13~16へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7~12の記載は、本件訂正前に請求項2~5のいずれか1項の記載も間接的に引用し得る記載であったのに対し、本件訂正によって本件訂正前の請求項1の記載のみを引用する記載となったため、訂正事項6~10に係る訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正でもあり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものでもある。
イ 新規事項の追加の有無について
訂正事項6~10に係る訂正は、上記アの目的からみて、それぞれ願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
上記アのとおり、訂正事項6~10に係る訂正は、それぞれ他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、本件訂正前の請求項1~12に対応する、訂正事項1~10に係る訂正後の請求項1~16に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~12について、訂正前の請求項2~12はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~12は一群の請求項である。
(5)別の訂正単位とする求めについて
特許権者は、訂正後の請求項6及び13~16についての訂正が認められる場合には、これらの請求項については、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
ここで、この「別の訂正単位とする求め」について、訂正後の請求項6及び13~16以外に独立項が存在しないから、「一群の請求項の他の請求項」がどの請求項を意味しているのかが不明であるが、ここでは、請求項1~12を「一群の請求項の他の請求項」とし、請求項13~16のそれぞれについて一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めていると解釈した。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
そして、訂正後の請求項6及び13~16に係る訂正事項6及び7~10はいずれも認められるから、特許権者による別の訂正単位とする求めを踏まえ、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕、13、14、15、16について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~16に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、請求項1~16に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明16」といい、これらを総称して「本件発明」ともいう。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、
前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および
前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、
固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属の前駆体は、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ金属の硝酸塩である、
請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属の前駆体は、M2CO3、またはMNO3であり、
前記Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である、
請求項7に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記段階1は、前記燃料極の表面に前記アルカリ金属の前駆体を含む溶液を塗布するか、または前記アルカリ金属の前駆体を含む溶液に前記燃料極を浸漬する、
請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記段階1は、前記燃料極に燃料を注入するガスラインに前記アルカリ金属の前駆体を含む溶液を注入する、
請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記段階1は、前記燃料極の表面に前記アルカリ金属の前駆体を含む集電体を接着する、
請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項12】
前記段階2は、前記燃料極に燃料を注入するガスラインに燃料または水分を注入する、
請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項13】
空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属化合物は、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、またはそれらの組み合わせであり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、
前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および
前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、
固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項14】
空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記プロモーターは、M2O、MOH、またはそれらの組み合わせであり、前記Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、
前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および
前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、
固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項15】
空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)であり、前記燃料極は、金属-セラミック複合体燃料極である、固体酸化物燃料電池の製造方法において、
前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および
前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む
固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項16】
空気極、燃料極、および前記空気極と燃料極との間の電解質を含み、前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含み、前記プロモーターは、アルカリ金属化合物であり、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である、固体酸化物燃料電池、ここで、前記固体酸化物燃料電池の燃料極は、前記プロモーターを含まない固体酸化物燃料電池の燃料極に比べて電極抵抗が低い、の製造方法において、
前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および
前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む、
固体酸化物燃料電池の製造方法。」
第4 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、以下の(5)の甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲5」という。)を提出し、以下の申立理由1~4により、本件訂正前の請求項1~12に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(1)申立理由1(サポート要件、取消理由として不採用)
ア 申立理由1-1
本件訂正前の請求項1に係る発明は、「プロモーター」を構成するアルカリ金属が「リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)」である態様も包含しているが、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)には、「プロモーター」を構成するアルカリ金属が「Cs」である実施例しか記載されていない。この点は、本件訂正前の請求項1を引用する本件訂正前の請求項2~12に係る発明でも同様である。
また、本件訂正前の請求項6に係る発明は「前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1)」、本件訂正前の請求項7に係る発明は「前記アルカリ金属の前駆体は、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ金属の硝酸塩である」、本件訂正前の請求項8に係る発明は「前記アルカリ金属の前駆体は、M2CO3、またはMNO3であり、前記Mは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、またはセシウム(Cs)である」とそれぞれ規定しているが、本件明細書には、「前駆体」が「CsNO3」である実施例しか記載されていない。この点は、本件訂正前の請求項6を引用する本件訂正前の請求項9~12に係る発明でも同様である。
よって、本件訂正前の請求項1~12に係る発明は、発明の課題が解決できることをその技術の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由1-2
本件訂正前の請求項1に係る発明は、燃料極の構成材料が不純物としてアルカリ金属を含んでいた結果、燃料極の少なくとも一部領域にプロモーターを含む構成が実現された態様を包含するが、本件明細書にはそのような態様でも課題を解決できることが記載されていない。
よって、本件訂正前の請求項1及び当該請求項1を引用する本件訂正前の請求項2~5の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由1-3
本件訂正前の請求項1に係る発明は、プロモーターの含有量について何ら規定しておらず、例えば気孔の全部の領域にプロモーターを含む態様も包含するが、本件明細書にはそのような態様でも課題を解決できることが記載されていないし、そのような態様では燃料極の気孔を介したガス拡散が阻害され、固体酸化物燃料電池の性能が低下することは明らかである。
よって、本件訂正前の請求項1及び当該請求項1を直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2~12の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(明確性要件、取消理由として一部採用)
本件訂正前の請求項1において、「プロモーター」とは、燃料極の気孔にアルカリ金属の前駆体を注入することによって、前駆体から形成されたものに限定されるのか、それだけではなく、燃料極の形成材料が不純物としてアルカリ金属を含んでいた結果、燃料極の気孔に存在することとなるアルカリ金属化合物までも「プロモーター」に該当するのか、明確でない。
よって、本件訂正前の請求項1及び当該請求項1を引用する本件訂正前の請求項2~12の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(新規性・進歩性、取消理由として一部採用)
ア 申立理由3-1
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由3-2
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(新規性・進歩性、取消理由として採用した上で一部職権により追加)
ア 申立理由4-1
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由4-2
本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)証拠方法
甲第1号証:特開2008-140652号公報
甲第2号証:特表2010-537390号公報
甲第3号証:特開2006-318769号公報
甲第4号証:特開平9-73906号公報
甲第5号証:特開2000-186093号公報
2 取消理由の概要
当審は、上記1の各申立理由のうち、申立理由2、3のそれぞれ一部を採用し、また、申立理由4を採用した上で一部職権により追加し、令和 6年 3月29日付けで以下の取消理由1~3を通知した。
(1)取消理由1(明確性:申立理由2に対応)
本件訂正前の請求項1において、「プロモーター」とは、燃料極の素材にアルカリ金属化合物が含まれたことにより、燃料極の気孔の少なくとも一部領域に、当該アルカリ金属化合物が現出したものも含むのか、そうしたものは含まれず、塗布、浸漬、注入、接着といった手段を用いて、「燃料極の気孔が形成されている状態で」、「前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属前駆体を注入する段階」を経て形成されたものを指すのか不明であるところ、本件訂正前の請求項1及び当該請求項1を引用する本件訂正前の請求項2~4(当審注:本来は「請求項2~5」と記載すべきであった。)の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(進歩性:申立理由3に対応)
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由3(新規性・進歩性:申立理由4に対応)
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるとおり、取消理由通知書に記載した取消理由1~3及び特許異議申立書に記載された申立理由1~4によっては、本件特許の請求項1~16に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1及び申立理由2(明確性要件)
(1)請求項6、13~16に記載の「プロモーター」については、本件明細書の【0010】において、「本発明で用いられる「プロモーター」とは、燃料極の性能を向上させるために使用されるものであり、燃料極の成分や形状などの阻害なく燃料極に導入して性能を改善し、この観点から、本発明では、燃料極に導入される成分を「プロモーター」と称する。」と定義されており、燃料極の性能を向上させる機序についても、同【0014】において、「前記プロモーターは、燃料極の気孔内に存在しかつ燃料極と接しているが、燃料極の表面を部分的に酸化させ、また、水分が燃料極の気孔に注入された時、水分を燃料極の表面に多量吸着する効果を示す。これによって、燃料極と燃料極に注入された水素の強い結合を緩和して、燃料極で水素の酸化反応を促進し、また、水素が反応する面積を広げて燃料極の性能を改善する役割を果たす。さらに、固体酸化物燃料電池が作動する時、燃料極に炭素が沈積されることも抑制可能である。」と説明されている。
(2)また、請求項6、13~16に「前記燃料極の気孔の少なくとも一部領域にアルカリ金属の前駆体を注入する段階(段階1);および前記アルカリ金属の前駆体から前記プロモーターを生成する段階(段階2)を含む」と記載されていることを踏まえると、請求項6、13~16における「プロモーター」は、燃料極の気孔の少なくとも一部領域に注入されたアルカリ金属の前駆体から生成されたものに限定されることは明らかである。
(3)そうすると、上記(1)、(2)の点からみて、本件発明における「プロモーター」が何を意味するのかは明確である。
(4)よって、本件特許の請求項6、13~16及び請求項6を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項7~12の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2によっては、本件特許の請求項6~16に係る特許を取り消すことはできない。
(5)なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項1~5が削除されたため、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する取消理由1及び申立理由2は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
2 申立理由1(サポート要件)
(1)申立理由1-1について
ア 本件明細書の【0004】~【0006】の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、燃料極にアルカリベースのプロモーターを導入して、作動温度が低くなる場合でも性能が改善された固体酸化物燃料電池を提供することであると認められる。
イ 上記アの課題を解決するに当たり、本件明細書の【0008】には、「固体酸化物燃料電池は高温で作動するため、作動温度を低下させるためには、特に空気極と燃料極の性能が改善されなければならず、本発明では、燃料極の性能を改善することに特徴がある。」と記載されており、燃料極の性能を改善するためには、上記1(1)に摘記したプロモーターの定義に照らして、燃料極の性能を向上させるために使用されるプロモーターを燃料極に導入すればよいと解される。
ウ そうすると、「燃料極の気孔の少なくとも一部領域にプロモーターを含」むことが特定されている本件発明6、13~16は、プロモーターを構成するアルカリ金属化合物及びプロモーターを生成するアルカリ金属の前駆体におけるアルカリ金属の種類によらず、上記アの課題を解決することができるものであるといえる。
エ よって、本件特許の請求項6、13~16及び請求項6を直接又は間接的に引用する本件特許の請求項7~12の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由1-1によっては、本件特許の請求項6~16に係る特許を取り消すことはできない。
オ なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項1~5が削除されたため、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する申立理由1-1は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(2)申立理由1-2について
上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項1~5が削除されたため、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する申立理由1-2は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(3)申立理由1-3について
ア 上記1(1)に摘記したとおり、「本発明で用いられる「プロモーター」とは、燃料極の性能を向上させるために使用されるものであ」るから、プロモーターは燃料極の性能を向上させるものでなければならない。
イ 上記アの点からすると、燃料極の気孔の全部の領域にプロモーターを含む態様では、申立人が述べるとおり、「燃料極の気孔を介したガス拡散が阻害され、固体酸化物燃料電池の性能が低下することは明らかである」(上記第4の1(1)ウ参照)ところ、固体酸化物燃料電池の性能を低下させてしまうのであれば、その定義に照らしてもはや「プロモーター」とは呼べなくなるから、本件発明がそのような不合理な態様を含むものでないことも明らかである。
ウ そして、本件発明については、プロモーターを燃料極に導入することによって燃料極の性能を改善し、ひいては固体酸化物燃料電池の性能も改善することに技術的意義がある発明であると解されるから、本件発明において、燃料極の気孔の少なくとも一部領域に含まれるプロモーターの量を特定する必要はないといえる。
エ よって、本件特許の請求項6~16の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由1-3によっては、本件特許の請求項6~16に係る特許を取り消すことはできない。
オ なお、上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項1~5が削除されたため、本件特許の請求項1~5に係る特許に対する申立理由1-3は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
(4)小括 以上のとおりであるから、申立理由1によっては、本件特許の請求項6~16に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由2(進歩性)及び申立理由3(新規性・進歩性)
上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項1~5が削除されたため、請求項1~5に係る特許に対する取消理由2及び申立理由3は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
4 取消理由3及び申立理由4(新規性・進歩性)
上記第2で述べたとおり、本件訂正によって請求項1~5が削除されたため、請求項1~5に係る特許に対する取消理由3及び申立理由4は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由1~3及び特許異議申立書に記載された申立理由1~4のいずれによっても、本件特許の請求項6~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項6~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1~5が本件訂正によって削除されたことにより、申立人による請求項1~5に係る特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701023