特許異議申立
2023-700414
燃料電池およびその製造方法
- 審判番号
- 2023-700414
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-031811
- 登録番号
- 7170559
- 請求日
- 2023年04月21日
- 審決日
- 2024年09月18日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】太陽誘電株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人片山特許事務所
- 【異議申立人】鶴亀 國康
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7170559号発明「燃料電池およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7170559号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、8~11〕について訂正することを認める。
特許第7170559号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件の特許第7170559号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2019-31811号。以下「本願」という。)は、平成31年 2月25日の出願であって、令和 4年11月 4日にその特許権の設定登録がされ、同年11月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~7(全請求項)に係る特許について、令和 5年 4月24日受付で特許異議申立人である鶴亀 國康(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 8月 7日付け 取消理由通知
同年10月 4日 特許権者による訂正請求書の提出
同年10月20日付け 手続補正指令(方式)
同年11月22日 特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年12月28日付け 訂正拒絶理由通知
令和 6年 3月15日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月20日 特許権者による訂正請求書の提出
同年 6月 7日付け 手続補正指令(方式)
同年 7月10日付け 特許権者による手続補正書(方式)の提出
2 なお、令和 5年12月28日付け訂正拒絶理由通知に対して、指定した期間内に特許権者からの応答はなかった。
3 また、令和 6年 5月20日に提出され、同年 7月10日提出の手続補正書(方式)によって補正された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正請求を以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)については、下記(1)、(2)のとおり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定する「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」に該当するといえるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
(1)下記第2において述べるように、本件訂正は、訂正前の請求項1を引用する請求項5に択一的に記載されていた「前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムによって形成される」との特定事項と、同じく訂正前の請求項1を引用する請求項5に択一的に記載されていた「前記アノードの各空孔は、」「前記スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムだけで形成される」との特定事項とを、訂正前の請求項1に対応する訂正後の請求項1と、同じく訂正前の請求項1を直接引用する請求項5に対応する訂正後の請求項5とにおいて、それぞれ特定するように訂正するとともに、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4、6に記載されていた特定事項を、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4、6と、訂正後の請求項5を直接又は間接的に引用する請求項8~11とにおいてそれぞれ特定するように訂正するものである。
(2)そうすると、本件訂正は、実質的に、訂正前の請求項5に択一的に記載されていた三つの態様のうちの一つを削除して、それ以外の二つの態様について、それぞれ整理して記載したにすぎないものであり、訂正後のいずれの請求項にも訂正前の請求項に記載されていない新たな特定事項を追加するものではないから、これまで申立人に対して意見書を提出する機会は与えられていないものの、改めて当該機会を与える必要はないと認める特別な事情があるといえる。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨、及び訂正の内容
本件訂正請求(なお、本件訂正請求に関し、令和 6年 7月10日付けで手続補正書(方式)が提出され、令和 6年 5月20日提出の訂正請求書の全文が補正されているところ、当該補正は、誤記を訂正するとともに、訂正の目的について説明を補充するものであって、訂正請求書の要旨を変更しないものと認められる。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6、8~11について訂正することを求める、というものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正に関連する箇所には、当審が下線を付した。)。
なお、令和 5年10月 4日提出の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成されるか、前記Fe-Cr合金だけで形成されるか、前記スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムだけで形成される」とあるうち、「前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」を請求項1に付加し、請求項1の「D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下である」を「D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であり、前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4、6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に「前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成されるか、前記Fe-Cr合金だけで形成されるか、前記スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムだけで形成されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池。」と記載されているのを、「多孔質状のアノードと、前記アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む緻密な電解質層と、を備え、前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有し、前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であり、前記アノードの各空孔は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムだけで形成されることを特徴とする燃料電池。」に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池。」と記載されているのを、「請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池。」に訂正する。
(4)訂正事項4
上記訂正事項2に伴って、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5が引用していた請求項2の「前記アノードと前記電解質層との界面において、前記アノードの空孔率は、50%以上85%以下であること」を訂正後の請求項5に従属させて付加し、新たに請求項8とする。
(5)訂正事項5
上記訂正事項2、4に伴って、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5が引用していた請求項3の「前記アノード全体における空孔率は、40%以上80%以下であること」を訂正後の請求項5、8に従属させて付加し、新たに請求項9とする。
(6)訂正事項6
上記訂正事項2、4、5に伴って、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5が引用していた請求項4の「前記アノード触媒は、YがドープされたBaCe1-xZrxO3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe1-xZrxO3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO3(LSS)、およびGdドープセリアのうち1つあるいは複数の混合体と、Niとを含むこと」を訂正後の請求項5、8、9に従属させて付加し、新たに請求項10とする。
(7)訂正事項7
上記訂正事項2、4~6に伴って、本件訂正前の請求項5を引用していた請求項6の「前記アノードの厚みは、5μm以上50μm以下であること」を訂正後の請求項5、8~10に従属させて付加し、新たに請求項11とする。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に係る発明に対して、訂正前の請求項1を引用する請求項5に択一的に記載されていた「前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」との特定事項を直列的に付加して減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無について
本願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0010】の記載を参照すれば、訂正事項1に係る訂正が、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1~4のいずれかを引用する請求項5のうち、請求項1を直接引用する請求項5の記載を該請求項1の記載を引用しないものにするとともに、訂正前の請求項5に択一的に記載されていた三つの態様のうち「前記アノードの各空孔は」、「前記スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムだけで形成されること」との態様を選択して限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同法同条同項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項2に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無について
本件明細書の【0006】及び【0010】の記載を参照すれば、訂正事項2に係る訂正が、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項6が請求項1~5のいずれかを引用していたところ、引用請求項から請求項5を削除するものであり、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無について
訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、多数項を引用している請求項の引用請求項数を削減するものにすぎないから、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、訂正事項2に伴って、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5が引用していた請求項2の「前記アノードと前記電解質層との界面において、前記アノードの空孔率は、50%以上85%以下であること」を訂正後の請求項5に従属させて付加し、新たに請求項8とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同法同条同項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無について
本件明細書の【0006】、【0007】及び【0010】の記載を参照すれば、訂正事項4に係る訂正が、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。
オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正は、訂正事項2、4に伴って、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5が引用していた請求項3の「前記アノード全体における空孔率は、40%以上80%以下であること」を訂正後の請求項5、8に従属させて付加し、新たに請求項9とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同法同条同項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項5に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無について
本件明細書の【0006】~【0008】及び【0010】の記載を参照すれば、訂正事項5に係る訂正が、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。
カ 訂正事項6について
(ア)訂正の目的について
訂正事項6に係る訂正は、訂正事項2、4、5に伴って、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5が引用していた請求項4の「前記アノード触媒は、YがドープされたBaCe1-xZrxO3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe1-xZrxO3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO3(LSS)、およびGdドープセリアのうち1つあるいは複数の混合体と、Niとを含むこと」を訂正後の請求項5、8、9に従属させて付加し、新たに請求項10とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同法同条同項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項6に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無について
本件明細書の【0006】~【0010】の記載を参照すれば、訂正事項6に係る訂正が、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。
キ 訂正事項7について
(ア)訂正の目的について
訂正事項7に係る訂正は、訂正事項2、4~6に伴って、本件訂正前の請求項5を引用していた請求項6の「前記アノードの厚みは、5μm以上50μm以下であること」を訂正後の請求項5、8~10に従属させて付加し、新たに請求項11とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同法同条同項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
訂正事項7に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無について
本件明細書の【0006】~【0011】の記載を参照すれば、訂正事項7に係る訂正が、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。
(2)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~7について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~6について、訂正前の請求項2~6はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~6に対応する本件訂正後の請求項1~6、8~11は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。
また、本件訂正について別の訂正単位とする求めはないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~6、8~11〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(4)本件訂正請求についてのむすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、8~11〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2(4)のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明11」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
多孔質状のアノードと、
前記アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む緻密な電解質層と、を備え、
前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有し、
前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であり、
前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記アノードと前記電解質層との界面において、前記アノードの空孔率は、50%以上85%以下であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記アノード全体における空孔率は、40%以上80%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記アノード触媒は、YがドープされたBaCe1-xZrxO3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe1-xZrxO3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO3(LSS)、およびGdドープセリアのうち1つあるいは複数の混合体と、Niとを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項5】
多孔質状のアノードと、
前記アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む緻密な電解質層と、を備え、
前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有し、
前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であり、
前記アノードの各空孔は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムだけで形成されることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
前記アノードの厚みは、5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項7】
多孔質状のアノード上に、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む緻密な電解質層が設けられ、前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードにおける各空孔の孔径分布においてD10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下である構造体を用意する工程と、
前記アノードにアノード触媒を含浸させる工程と、を含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記アノードと前記電解質層との界面において、前記アノードの空孔率は、50%以上85%以下であることを特徴とする請求項5記載の燃料電池。
【請求項9】
前記アノード全体における空孔率は、40%以上80%以下であることを特徴とする請求項5または8に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記アノード触媒は、YがドープされたBaCe1-xZrxO3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe1-xZrxO3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO3(LSS)、およびGdドープセリアのうち1つあるいは複数の混合体と、Niとを含むことを特徴とする請求項5、8、9のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記アノードの厚みは、5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項5、8~10のいずれか一項に記載の燃料電池。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に日本国内又は外国において公知となった、下記5の甲第1号証~甲第7号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の理由により、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
(1)申立理由1-1
本件訂正前の請求項1、4に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2
本件訂正前の請求項1、6、7に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-3
本件訂正前の請求項1、6に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
(1)申立理由2-1
本件訂正前の請求項1、4に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2
本件訂正前の請求項2、3に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由2-3
本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由2-4
本件訂正前の請求項1、3、6、7に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由2-5
本件訂正前の請求項2に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由2-6
本件訂正前の請求項1、3、6に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(明確性)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~4、6、7の記載は、「前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造」が具体的にどのような構造を意味するのか不明であるため、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)
(1)申立理由4-1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~7の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、アノードの空孔の全体がアノード触媒によって占有されている形態、すなわち、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できない形態を包含する点で、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由4-2
本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件訂正前の請求項2、3に係る発明に規定された構成を具備せず、本願の願書に添付した明細書又は図面に記載された実施例によって課題が解決できることを裏付けられていない形態を包含するものである。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~7の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲1:特開2007-103077号公報
甲2:特表2009-541955号公報
甲3:特開2005-5081号公報
甲4:特開2011-124079号公報
甲5:特開平7-88339号公報
甲6:特開2011-190465号公報
甲7:特許第5395295号公報
第5 取消理由の概要
当審が、上記第4の申立理由のうち、申立理由1-1の一部、申立理由2-1、及び申立理由2-3を採用して、令和 5年 8月 7日付け取消理由通知、及び令和 6年 3月15日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
1 取消理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1、4、6に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当審の判断
1 取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)、申立理由1-1(新規性)、申立理由2-1(進歩性)、申立理由2-2(進歩性)及び申立理由2-3(進歩性)について
(1)甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、「固体酸化物形燃料電池の燃料極、燃料極用原料粉体、及び固体酸化物形燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(ア)「【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の燃料極、当該燃料極の製造に用いる原料粉体、及び、当該燃料極を備えた固体酸化物形燃料電池に関する。」
(イ)「【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極構造の制御により、貴金属等を含まない安価な材料を用いて、低温条件においても高性能の固体酸化物形燃料電池を実現できる燃料極、及び、当該燃料極の製造に適した原料粉体、並びに、当該燃料極を用いた固体酸化物形燃料電池を提供することにある。」
(ウ)「【0009】
電極反応の効率を高めるには、反応界面を大きくする必要があり、このためには、燃料ガスと燃料極中の電子伝導体及びイオン伝導体とが接触する三相界面の面積を大きくすることが好ましいので、電極内の気孔径は可能な限り小さい方がよい。一方で、気孔は燃料ガス及び反応生成ガスの通路となるので、気孔径が小さすぎるとガスの拡散が困難となって、燃料ガスが反応界面に十分に行き渡らず、反応生成ガスが反応界面から十分に排出されず、結果的に電池性能は低下する。」
(エ)「【0023】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池の燃料極は、電子伝導体、酸素イオン伝導体及び気孔から構成される。具体的には、電子伝導体を構成する金属がニッケルであり、酸素イオン伝導体が[(Ce1-xMx)O2-δ](但し、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類の群から選ばれる金属元素で、0.1≦x≦0.3である)で表される。酸素イオン伝導体は、後述する実施例のように、例えば、サマリウム(Sm)を20mol%(x=0.2)ドープしたCeO2であるが、サマリウム以外に、ガドリニウム、イットリウム、ランタン等をドープしたセリア系酸化物であってもよい。また、電子伝導体を構成する金属は、ニッケル以外に、コバルト、鉄、銅等であってもよい。」
(オ)「【0031】
尚、上記気孔径分布、気孔率は水銀圧入式細孔分布測定装置(Quantachrome社製:PoreMaster 33P)により、水銀圧2kPa~230MPa(細孔径6.4nm~1000μm)の範囲で測定した。」
(カ)「【0034】
次に、本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、上記構成の燃料極を支持体とし、電解質に[(Ce1-xMx)O2-δ](但し、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類の群から選ばれる金属元素で、0.1≦x≦0.3である)を用いて作製される。具体的には、例えばサマリウム(Sm)ドープセリアを用いる。」
」
(キ)「【実施例】
【0036】
先ず、本発明の燃料極原料粉体、燃料極、及びセルの作製について説明する。
(行程1)〔原料の作製〕
NiO原料としてBET換算径が113nmのNiO粉末を準備した(尚、NiOの密度を6.7g/cm3とした)。
・・・
【0038】
Sm20mol%ドープCeO2原料(SDC原料)としてBET換算径が21nmのSDC粉末を作製した(尚、SDCの密度を7.14g/cm3とした)。
・・・
【0040】
(行程2)〔複合化〕
上記原料NiOと原料SDCを図2に示す装置を用い、ローター(回転軸2)回転速度3500rpm、攪拌部材3とケーシング1の内壁との間隙1.5mm、処理時間10minの条件で複合化処理し、BET換算径が50nmのNiO-SDC複合粉体を作製した(尚、NiO-SDC複合粉体の密度を6.87g/cm3とした)。
・・・
【0042】
(行程3)〔燃料極、セルの作製〕
上記NiO-SDC複合粉体を複合粉体100重量部に対し分散剤(日本油脂株式会社製:マリアリムAKM-0531)を2.3重量%加えエタノール中に分散させた。24時間混合した後、複合粉体100重量部に対し結合剤としてポリビニールブチラール(PVB)を15重量%加え再び24時間混合し、NiO-SDC複合粉体のスラリーを作製した。スラリーを脱泡後、ドクターブレードを用いて、あらかじめ作製しておいた20μm厚のSDC電解質シート上にNiO-SDCシートを作製した。そして、このNiO-SDC/SDC2重シートを60℃で10時間乾燥したのち、直径13mmの大きさに切り抜き、1400℃で2時間焼成した。
【0043】
一方、空気極材料の(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)O3-δ(LSCF)粉末をポリエチレングリコール(PG)と重量比でLSCF:PG=3:1となる条件で混合してペースト状にし、このペースト物を前記焼成したNiO-SDC/SDC2重シートのSDC面上にスクリーン印刷により塗布し1000℃で焼成して空気極を形成して、本発明の実施例のセルを作製した。
【0044】
表5及び図3に、本実施例により作製した燃料極の気孔率、気孔径分布のデータを示す。平均気孔径0.29μm、D10=0.15μm、D90=0.47μm(D90/D10=3.1)のシャープな気孔径分布となっていることがわかる。また、図4に本発明の燃料極のSEM画像を示す。このSEM画像及び上記気孔率が34.2%であることから小さな気孔径が多数存在し、反応界面が大きいことがわかる。」
(ク)「【0045】
次に、比較例の燃料極原料粉体、燃料極、及びセルの作製について説明する。
・・・
【0047】
〔比較例3〕
上記行程2において、原料NiOの代わりにBET換算径800nmのNiOと、BET換算径125nmのSDCを使用してNiO-SDC複合粉体を作製した後、実施例と同様に行程3を経て燃料極とセルの作製を行った。表5に示すように、平均気孔径が0.5μm(>0.35μm)と大きい燃料極の例である。」
(ケ)「【0048】
【表5】
[図:0001417606000001.jpg]
」
(コ)「【0049】
(行程4)〔電極、セル特性の評価〕
以上のように作製した実施例、比較例1~3のセルについて、燃料極に動作温度(600℃等)で3%加湿水素を供給してNiOをNiに還元した後、電流電圧(I-V)特性、電流遮断法により電荷移動抵抗に起因する電圧降下(IR-loss)および反応分極(η-loss)を測定した。」
イ 甲1に記載された発明
上記アに摘記した甲1の記載事項を総合勘案し、特に、比較例3の固体酸化物形燃料電池セルに着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「BET換算径800nmのNiOと、BET換算径125nmのSDCを使用してNiO-SDC複合粉体を作製し、
上記NiO-SDC複合粉体を複合粉体100重量部に対し分散剤(日本油脂株式会社製:マリアリムAKM-0531)を2.3重量%加えエタノール中に分散させ、24時間混合した後、複合粉体100重量部に対し結合剤としてポリビニールブチラール(PVB)を15重量%加え再び24時間混合し、NiO-SDC複合粉体のスラリーを作製し、
上記スラリーを脱泡後、ドクターブレードを用いて、あらかじめ作製しておいた20μm厚のSDC電解質シート上にNiO-SDCシートを作製し、このNiO-SDC/SDC2重シートを60℃で10時間乾燥したのち、直径13mmの大きさに切り抜き、1400℃で2時間焼成して燃料極を作製し、
(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)O3-δ(LSCF)粉末をポリエチレングリコール(PG)と重量比でLSCF:PG=3:1となる条件で混合してペースト状にし、このペースト物を前記焼成したNiO-SDC/SDC2重シートのSDC面上にスクリーン印刷により塗布し1000℃で焼成して空気極を形成して作製した、固体酸化物形燃料電池セルであって、
水銀圧入式細孔分布測定装置(Quantachrome社製:PoreMaster 33P)により測定した上記燃料極の気孔率が39.3%、平均気孔径(Dr)が0.5μm、D10が0.21μm、D90が1.22μmである、
固体酸化物形燃料電池セル。」(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2の記載事項、及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
甲2には、「高温型燃料電池用アノードのためのセラミック材料の組み合わせ」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
一般総合式Sr1-XLnXTiO3(Ln=Y、Gd~Lu、および0.03<x<0.2)を有する主として電子伝導性の第1の相と、イットリウム又はスカンジウムで安定化された二酸化ジルコニウム(YSZ又はScSZ)からなる主としてイオン伝導性の第2の相成分とを有する多孔質のセラミック構造体を含む、
アノード基板および/又はアノード機能層を有する高温型燃料電池のアノード。
・・・
【請求項3】
15~50体積%の多孔率を有する、請求項1又は2に記載のアノード。
【請求項4】
平均孔径が0.2~5μm、特に0.5~1μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のアノード。
・・・
【請求項7】
最大で全体量の15%の量の、特に全体量の2~10%の量の触媒を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のアノード。
【請求項8】
前記触媒が前記セラミック構造体の孔の表面上に配置されている、請求項7に記載のアノード。
・・・
【請求項17】
触媒を、まず前記セラミック構造体を焼結した後でそれに浸透させる、請求項14~16のいずれか一項に記載のアノードの製造方法。」
(イ)「【0001】
本発明は、電気化学的な固体電解質型燃料電池に使用されるアノード材料、特にアノード支持型高温燃料電池にアノード基板として使用されるアノード材料に関する。
・・・
【0003】
文献から、実験室スケールおよびパイロットプラントスケールにおける高温型燃料電池の構成のための様々な材料組成、方法、および構造が既知である。前述の電気化学セルでは、アノードは、燃料ガス(水素、メタン、又は、より長鎖の炭化水素)を、電気化学的に二酸化炭素、水、および電子に変換する役割をし、それは電気エネルギーとして使用することができる。そのとき、電解質材料によって輸送された酸素イオンは触媒表面で燃料ガスと反応し、ここで、ガス状生成物は材料の持つ多孔性によって、電子は電気伝導相によって輸送される。電子、イオンおよびガスそれぞれの輸送を十分保障するために、20~50%の多孔率を有する組織(Gefeuge)、および高い電気伝導性を有する材料とイオン伝導性を有する材料とが使用される。」
(ウ)「【0022】
本発明の課題は、一方では周囲雰囲気が変化する時の外部寸法の変化が非常に小さく、他方では、燃料電池に使用するときに、従来技術に相当する良好な電気化学作用を有する、固体電解質を有する構成要素に使用するのに有利な材料を提供することである。更に、この材料の組み合わせは、従来の電解質材料との化学的相互作用があってはならない。特に、望ましくない又は作動による酸化条件から還元条件への又はその逆のガス交換時に、構成されるアノードに損害を及ぼさないアノード基板を提供することも狙いである。本発明の別の課題は、このような材料又はアノードの製造方法を提供することである。
・・・
【0024】
本発明のセラミックアノードは、電子伝導相とイオン伝導相とを含む複合材料からなる。該複合材料は、電子の輸送もイオンの輸送も確実なものにする機械的な網状の多孔質セラミック基本構造体として存在する。・・・」
(エ)「【0032】
本発明のアノードは、有利には、燃料ガスとの反応のための触媒を含むことができる。本発明による材料中の触媒として、特に、Ni、Co、Cu、Pd、Pt、Au若しくはRu、又はこれらの金属の合金が適している。これらは、材料の該セラミック構造体を基準として、10体積%以下の割合で、特に5体積%以下の割合で存在し得る。
【0033】
このとき、有利には、触媒は、該多孔質セラミック構造体の表面上の孔内に配置されている。・・・」
(オ)「【0035】
【図1】Ni/YSZ-アノード基板を有する典型的な平板型SOFCの層構造を示す図である:1:カソード集電体層(KSSS)、LSM、約50~100μm、2:カソード機能層(KFS)LSM/YSZ、約10~30μm、3:電解質層、YSZ、5~10μm4:アノード機能層(AFS)Ni/YSZ、5~15μm、5:アノード集電体層(ASSS)/アノード基板/Ni/YSZ、300~1500μm。
・・・
【図7】5体積%のNi(還元状態)でa)含浸する前とb)含浸した後のSYT/YSZ-アノードの走査型電子顕微鏡写真である。YSZ相は薄灰色に、SYT相は中灰色に、孔は黒色に見える。b)では、孔の壁に更に小さく丸いNi粒子(白色)があることが分かる。」
(カ)「【0042】
図6に示すように、Ni不含SYT/YSZアノードの分極抵抗は、湿潤Ar/5%H2中、850℃で0.49Ωcm2である。5体積%のNiを浸透させた後、電極の分極抵抗は、同じ試験条件のとき0.17Ωcm2に低下し、それはNi/YSZアノードに匹敵する。この形態では、50~150nmのサイズの粒子であるNi粒子は組織中に十分に分散した。これらは、0.5~1μmの平均孔径よりずっと小さい(図7)。これによって多数の触媒活性中心が生じるだけでなく、それらの周囲の孔体積が大きいため、酸化時の組織の損傷が回避される。代替として、Co、Cu、Pd、Pt、Au若しくはRu、又はこれらの金属の合金からなる触媒も該セラミック構造体に導入することができる。
【0043】
SOFCの全製造工程の終了後に低いパーセンテージのNiが浸透され、そのNi粒子のサイズが孔径の約1/10に過ぎないSYT/YSZアノード基板を用い、このようにして酸化還元に対して安定なSOFCを製造することができた。
【0044】
従来技術によるアノードの特性と比較して、例えば、SYT/YSZ/Niからなる、酸化還元に対して安定な本発明による新規なアノードは、次の特性を有する:
電気伝導率(800℃で):10~20S/cm
イオン伝導率(800℃で):約0.001~0.005S/cm
熱膨張係数:11~12×10-6K-1
Ni含有率:全固体材料を基準にして(従来の35~45体積%ではなく)2~10体積%。
【0048】
セルをできるだけ経済的に構成するために、電解質層又はアノード機能層を直接アノード基板上に、例えば、スクリーン印刷で設け、次いでこの積層体を1300~1500℃の温度で焼結する。・・・」
(キ)「【図1】
[図:0001417606000002.jpg]
」
(ク)「【図7】
[図:0001417606000003.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
上記アに摘記した甲2の記載事項を総合勘案し、特に、請求項1、3、4、7、8、【0035】及び図1に記載された典型的な平板型SOFCの層構造に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「平板型SOFCであって、
1:カソード集電体層(KSSS)、
2:カソード機能層(KFS)、
3:電解質層、
4:アノード機能層(AFS)、
5:アノード集電体層(ASSS)/アノード基板
の層構造を有しており、
上記アノード基板および/又はアノード機能層を有するアノードが、一般総合式Sr1-XLnXTiO3(Ln=Y、Gd~Lu、および0.03<x<0.2)を有する主として電子伝導性の第1の相と、イットリウム又はスカンジウムで安定化された二酸化ジルコニウム(YSZ又はScSZ)からなる主としてイオン伝導性の第2の相成分とを有する多孔質のセラミック構造体を含み、15~50体積%の多孔率を有し、平均孔径が0.2~5μm、特に0.5~1μmであり、最大で全体量の15%の量、特に全体量の2~10%の量であって、上記セラミック構造体の孔の表面上に配置されている触媒を更に含むものである、
平板型SOFC。」(以下「甲2発明」という。)
「甲2発明の製造方法。」(以下「甲2方法発明」という。)
(3)甲3の記載事項、及び甲3に記載された発明
ア 甲3の記載事項
甲3には、「固体酸化物形燃料電池用電極及びその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
(ア)「【請求項2】
単結晶の一次粒子から成るニッケル粒子に起因するニッケル部分を主要部位として含有し、ガス供給側表面に開口を形成した複数の気孔を有し、
比表面積が5~100m2/gであることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電極。
・・・
【請求項6】
気孔の平均孔径が0.5~3.0μmであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電極。
・・・
【請求項9】
酸素イオン伝導性を有する粒子を更に含有することを特徴とする請求項2~8のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電極。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つの項に記載の固体酸化物形燃料電池用電極を、固体電解質の表面及び/又は裏面に備えることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用単セル。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)用電極及びその製造方法に係り、更に詳細には、電極の反応界面を増やし、気孔率を上げたSOFC用電極、その製造方法及びSOFC用単セルに関する。」
(ウ)「【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より好適な比表面積、気孔率及び気孔の孔径を有し、電極の反応抵抗の大幅な減少及びこれに伴うSOFCのセルの出力向上を実現し得るSOFC用電極及びその製造方法を提供することにある。」
(エ)「【0010】
本発明のSOFC用電極では、電極が有する気孔は、ガス供給側端面に開口を有し、厚さ方向に貫通していることが望ましい。ただし、後述する酸化物と混合する場合には、ガスがニッケル粒子に直接接する態様になっていることが望ましい。また、電極内部で他の気孔と連通することで厚さ方向に貫通していてもよい。
このような電極の具体的な形状としては、厚さ方向とほぼ垂直な電極の断面形状がハニカム状であるものが挙げられる。
【0011】
また、本発明のSOFC用電極では、ニッケル部分の平均粒径は0.1~10μmであることが好ましい。0.1μm未満では長期運転により耐久性が低下する可能性があり、10μmを超えると電極の比表面積が小さくなり、セルの出力に悪影響を及ぼす可能性がある。
電極が有する気孔の孔径は0.5~3.0μmであることが好ましい。0.5μm未満では拡散抵抗が大きくなり、3.0μmを超えると電極の電子伝導率が小さくなり、セルの出力に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0012】
電極の気孔率は70~90vol%であることが好ましい。70vol%未満では拡散抵抗が大きくなり、90vol%を超えると電極の電子伝導率が小さくなり、セルの出力が低下する可能性がある。
電極の膜厚は5~100μmであることが好ましい。5μm未満では界面抵抗が小さく、100μmを超えると拡散抵抗が大きく、セルの出力が低下する可能性がある。
【0013】
一方、本発明のSOFC用電極は、酸素イオン導伝体材を混入させることもできる。例えば、酸素イオン伝導性を有する酸化物などの導伝体材を添加させ、酸化物とニッケル粒子の比率を好適化することにより、電極の反応界面が二相界面から三相界面となり、膜厚方向にも延長し、結果的に電極の反応場が増えることとなる。これにより、セルの出力を向上させることが可能となる。
酸素イオン伝導性を有する酸化物の代表的な例としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、サマリウムドープセリア(SDC)、イットリウムドープセリア(YDC)、ランタンストロンチウムガリウムマグネシウム酸化物(LSGM)及びサマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)などを挙げることができる。
【0014】
次に、本発明のSOFC用単セルについて説明する。
上述の如く、本発明のSOFC用単セルは、上述した本発明のSOFC用電極を、固体電解質の表面及び裏面の一方又は双方に被覆したものである。
一般に、固体電解質としては安定化ジルコニアやランタンガレートのような固体の金属酸化物が用いられており、その形状はシート状や円筒状である。
このような単セルをスタック化することなどにより、円筒状やシート状などのSOFCを製造することができる。
ここで、「スタック化」とは、単セルを厚み方向へ連結する場合に限られず、平面方向に連結する場合も含む。
また、上述した本発明のSOFC用電極は、燃料極として用いることにより、電極性能を効果的に発揮することができる。
なお、本発明のSOFC用電極を燃料極として用いる場合、ニッケルにおいては、発電時以外には酸化物状態であっても、発電時には燃料ガス、即ち還元性ガスに曝されるので、金属にまで容易に還元される。このことを考慮すれば、ニッケルが酸化物の状態で存在する場合であっても、当該電極が本発明の範囲に属することに疑義はないであろう。」
(オ)「【0018】
(実施例1)
単結晶のニッケル粒子(平均粒径は0.7μm)とエチルセルロースとテレビン油とを混合し、ペースト粘度が20Pa・Sとなるように調製して電極ペーストを得、この電極ペーストを用い、スクリーン印刷法(焼結温度1200℃)によって、ランタンストロンチウムガリウムマグネシウム酸化物(LSGM)電解質焼結体基板上に成膜して、本例のSOFC用電極を得た(ニッケル電極の比表面積は8m2/g、ニッケル部分の平均粒径は約1.0μm、電極の気孔の平均孔径は0.6μm、電極の気孔率は80vol%、電極膜厚は7μmである。)。なお、図1にH2中にて還元した後の本例の電極の微細構造を走査電子顕微鏡(SEM)で測定した写真を示す。
・・・
【0020】
[性能評価]
(評価方法)
上述した各例の電極を燃料極として用いて、図3に示すような発電評価用セル(電解質支持型セル)を作製し、下記条件にて発電評価を行った。ここで、同図における空気極20はサマリウムストロンチウムコバルト酸化物(Sm0.5Sr0.5CoO2)、固体電解質10はLSGM焼結体(直径:14mm、厚み:0.3mm)、燃料極1は上述したニッケル電極から成る。」
(カ)「【図1】
[図:0001417606000004.jpg]
」
(キ)「【図3】
[図:0001417606000005.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記アに摘記した甲3の記載事項を総合勘案し、特に、請求項2、6、9、10及び【0014】に記載された固体酸化物燃料電池(SOFC)用単セルに着目すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「単結晶の一次粒子から成るニッケル粒子に起因するニッケル部分を主要部位として含有し、ガス供給側表面に開口を形成した複数の気孔を有し、比表面積が5~100m2/gであり、気孔の平均孔径が0.5~3.0μmであり、酸素イオン伝導性を有する粒子を更に含有し、燃料極として用いられる固体酸化物形燃料電池用電極を、固体電解質の表面及び/又は裏面に備える、固体酸化物形燃料電池用単セル。」(以下「甲3発明」という。)
(4)甲4の記載事項
甲4には、「固体酸化物形燃料電池およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
燃料極と、空気極と、固体電解質とを備える固体酸化物形燃料電池であって、
前記固体電解質は、2軸方向に結晶配向した多結晶体から構成されている、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記固体電解質は、ジルコニア系酸化物またはセリア系酸化物から構成されている、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。」
イ 「【0003】
SOFCは、その基本構造(単セル)として、酸素イオン伝導体(典型的には酸素イオン伝導性のセラミック体、好ましくは酸素イオン伝導体であることに加え、電子伝導性を兼ね備えた酸素イオン-電子混合伝導体)から成る緻密な固体電解質(例えば緻密膜層)の一方の面に多孔質構造の空気極(カソード)が形成され、他方の面に多孔質構造の燃料極(アノード)が形成(例えば積層)されることにより構成されている。」
(5)甲5の記載事項
甲5には、「中空糸型多孔質膜およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0015】本発明の膜における連通孔は、エネルギー線の照射により重合可能なモノマーおよび/またはオリゴマー(A)が、エネルギー線の照射により重合すると実質上同時に形成されるものであって、従来の湿式法その他の製膜法に見られるように、先ずポリマーを重合し、その後ポリマーを成形して多孔質構造を賦形するものではない。連通孔は、互いに接着している粒子状に析出したポリマーの間隙として与えられる場合もあるし、3次元の網状に析出したポリマーの間隙として与えられる場合もあるし、繊維方向に長い長円またはスリット状の形状をもっている場合などがあり得るが、湿式法で製造された膜に見られるような、直径が10μm以上あり膜の厚み方向に長い、所謂マクロボイドは存在しない。これらの孔の形状は膜断面や膜表面の電子顕微鏡観察で判定できる。また膜に存在する連通孔の孔径と空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)や水銀圧入法で測定することができる。」
(6)甲6の記載事項
甲6には、「複合多孔質材料並びにそれらを作製する方法及びそれらを使用する方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0030】
本発明の複合多孔質材料の平均孔径及び/又は多孔率は、SEMのような既知の技法により定量可能である。水銀ポロシメリのような侵襲的技術もまた使用することができる。・・・」
(7)甲7の記載事項
甲7には、「燃料電池セル」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
ア 「【0019】
また、燃料極集電層111は、複数の気孔を含んでいる。燃料極集電層111における気孔率は、周知の還元処理(例えば、800℃の水素雰囲気においてNiOをNiに還元する処理)後の状態において、25%以上55%以下であることが好ましい。なお、気孔率とは、例えば、燃料極集電層111の断面積に対する全気孔の面積占有率、又は、燃料極集電層111の体積に対する全気孔の体積占有率である。」
イ 「【0023】
1-2.燃料極活性層112
燃料極活性層112は、燃料極集電層111および固体電解質層12の間に配置される。燃料極活性層112は、多孔質の板状焼成体である。燃料極活性層112の厚みは5.0μm~30μmとすることができる。・・・
【0025】
また、燃料極活性層112は、複数の気孔を含んでいる。燃料極活性層112における気孔率は、周知の還元処理(例えば、800℃の水素雰囲気においてNiOをNiに還元する処理)後の状態において、25%以上55%以下であることが好ましい。気孔率とは、例えば、燃料極活性層112の断面積に対する全気孔の面積占有率、又は、燃料極活性層112の体積に対する全気孔の体積占有率である。」
(8)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
以下、本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「固体酸化物形燃料電池セル」は、本件発明1の「燃料電池」に相当する。
(イ)甲1発明の「気孔率が39.3%」の「SDC電解質シート上」の「NiO-SDCシート」から作製された「燃料極」は、本件発明1の「多孔質状のアノード」に相当する。
(ウ)甲1発明の「20μm厚のSDC電解質シート」における「SDC」は、サマリウムをドープしたセリア系酸化物を意味し、これは、酸素イオン伝導体であるから(上記(1)ア(エ)参照)、当該「20μm厚のSDC電解質シート」は、本件発明1の「前記アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む」「電解質層」に相当する。
(エ)甲1発明の「NiO-SDC複合粉体を複合粉体100重量部に対し分散剤(日本油脂株式会社製:マリアリムAKM-0531)を2.3重量%加えエタノール中に分散させ、24時間混合した後、複合粉体100重量部に対し結合剤としてポリビニールブチラール(PVB)を15重量%加え再び24時間混合し、NiO-SDC複合粉体のスラリーを作製し、上記スラリーを脱泡後、ドクターブレードを用いて、あらかじめ作製しておいた20μm厚のSDC電解質シート上にNiO-SDCシートを作製し、このNiO-SDC/SDC2重シートを60℃で10時間乾燥したのち、直径13mmの大きさに切り抜き、1400℃で2時間焼成して」「作製」された「NiO-SDCシート」に由来する「燃料極」は、上記(イ)のとおり、「多孔質状」であって、その空孔の内面には、上記スラリーに含まれる「NiO-SDC複合粉体」に由来する「NiO」、「SDC」が配置されていると認められる。
ここで、甲1の【0049】(上記(1)ア(コ)参照)には、「燃料極に動作温度(600℃等)で3%加湿水素を供給してNiOをNiに還元」することが記載され、一方、本件明細書等の【0022】には、「アノード20は、空孔にアノード触媒を含有している。アノード触媒は、例えば、YがドープされたBaCe1-xZrxO3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe1-xZrxO3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO3(LSS)、およびGDCの1つあるいは複数の混合体と、Niとを含む。・・・なお、アノード触媒として機能する金属は、未発電時には化合物の形態をとっていてもよい。例えば、Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード20に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、アノード触媒として機能する金属の形態をとるようになる。」と記載されていることからすると、上記「燃料極」の空孔の内面に配置された「NiO」は、本件発明1の「アノード触媒」に相当する。
そうすると、本件発明1の「アノード」と、甲1発明の「燃料極」とは、「前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有」する点で共通する。
(オ)甲1発明の「燃料極」の「水銀圧入式細孔分布測定装置(Quantachrome社製:PoreMaster 33P)により測定した」「平均気孔径(Dr)が0.5μm、D10が0.21μm、D90が1.22μmである」ことは、本件発明1の「前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であ」ることに相当する。
(カ)上記(ア)~(オ)の検討結果を総合すると、本件発明1と甲1発明とは、
「多孔質状のアノードと、前記アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層と、を備え、前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有し、前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下である燃料電池。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層について、本件発明1は、「緻密な」ものであるのに対して、甲1発明は、緻密なものか否か不明である点。
<相違点1-2>
アノードの各空孔について、本件発明1では、「Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」のに対して、甲1発明では、空孔の内面に「NiO」及び「SDC」が配置されている点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。
(ア)まず、上記相違点1-2が実質的な相違点であることは、明らかである。
(イ)次に、上記相違点1-2の容易想到性について検討する。
a 上記(1)ア(エ)に摘記したとおり、甲1の【0023】には、燃料極を構成する材料について、「本発明に係る固体酸化物形燃料電池の燃料極は、電子伝導体、酸素イオン伝導体及び気孔から構成される。具体的には、電子伝導体を構成する金属がニッケルであり、酸素イオン伝導体が[(Ce1-xMx)O2-δ](但し、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類の群から選ばれる金属元素で、0.1≦x≦0.3である)で表される。酸素イオン伝導体は、後述する実施例のように、例えば、サマリウム(Sm)を20mol%(x=0.2)ドープしたCeO2であるが、サマリウム以外に、ガドリニウム、イットリウム、ランタン等をドープしたセリア系酸化物であってもよい。また、電子伝導体を構成する金属は、ニッケル以外に、コバルト、鉄、銅等であってもよい。」との記載はあるが、この記載を参照しても、甲1に記載された「比較例3」に基づいて認定した甲1発明において、その内面に「NiO」及び「SDC」が配置されている空孔を含む燃料極に替えて、本件発明1のように「各空孔」が「Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成された」「アノード」を採用する動機付けがあるとはいえない。
b そして、上記aの点については、上記(1)に摘記した甲1の他の記載事項や、上記(2)~(7)に摘記した甲2~甲7の記載事項を参照しても、同様である。
c したがって、上記相違点1-2に係る特定事項は、甲1発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点1-1及び本件発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(9)本件発明2~4、6について
本件発明2~4、6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(8)ウのとおり、本件発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(10)取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)、申立理由1-1(新規性)、申立理由2-1(進歩性)、申立理由2-2(進歩性)及び申立理由2-3(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1、取消理由2、申立理由1-1、申立理由2-1、申立理由2-2及び申立理由2-3によっては、本件発明1~4、6に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2(新規性)、申立理由2-4(進歩性)及び申立理由2-5(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
以下、本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「平板型SOFC」は、本件発明1の「燃料電池」に相当する。
(イ)甲2発明の「アノード基板および/又はアノード機能層を有するアノード」は、「一般総合式Sr1-XLnXTiO3(Ln=Y、Gd~Lu、および0.03<x<0.2)を有する主として電子伝導性の第1の相と、イットリウム又はスカンジウムで安定化された二酸化ジルコニウム(YSZ又はScSZ)からなる主としてイオン伝導性の第2の相成分とを有する多孔質のセラミック構造体を含」むものであるから、本件発明1の「多孔質状のアノード」に相当する。
(ウ)甲2発明の「3:電解質層」は、アノードが有するアノード機能層の上に形成されるものであるから、本件発明1の「電解質層」とは「アノード上に設けられ」る点で共通する。
(エ)甲2発明の「アノード」が「多孔質のセラミック構造体を含み、」「最大で全体量の15%の量、特に全体量の2~10%の量であって、上記セラミック構造体の孔の表面上に配置されている触媒を更に含む」ことは、本件発明1の「前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有」することに相当する。
(オ)甲2発明の「アノード」が含む「多孔質のセラミック構造体」が、「15~50体積%の多孔率を有し、平均孔径が0.2~5μm、特に0.5~1μmであ」ることは、「アノード」及び「電解質層」を含む「層構造」の積層方向の断面においても同様と解されるから、本件発明1の「多孔質状のアノード」とは、「前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であ」る点で共通する。
(カ)甲2発明の「アノード」が含む「多孔質のセラミック構造体」が「イットリウム又はスカンジウムで安定化された二酸化ジルコニウム(YSZ又はScSZ)からなる主としてイオン伝導性の第2の相成分」を有するものであることは、本件発明1の「前記アノードの各空孔は、」「スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウム」を含む素材によって形成される点と共通する。
(キ)上記(ア)~(カ)の検討結果を総合すると、本件発明1と甲2発明とは、
「多孔質状のアノードと、前記アノード上に設けられた電解質層と、を備え、前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有し、前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードの各空孔は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムを含む素材によって形成される燃料電池。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
アノード上に設けられた電解質層について、本件発明1は、「酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む緻密な」ものであるのに対して、甲2発明は、そのようなものか否か不明である点。
<相違点2-2>
アノードの各空孔について、本件発明1では、「Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」のに対して、甲2発明では、「一般総合式Sr1-XLnXTiO3(Ln=Y、Gd~Lu、および0.03<x<0.2)を有する主として電子伝導性の第1の相と、イットリウム又はスカンジウムで安定化された二酸化ジルコニウム(YSZ又はScSZ)からなる主としてイオン伝導性の第2の相成分とを有する」素材によって形成される点。
<相違点2-3>
本件発明1は、「前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面にお」ける「前記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下である」のに対して、甲2発明では、「アノード」及び「電解質層」を含む「層構造」の積層方向の断面における「アノード」が含む「多孔質のセラミック構造体」の孔の孔径分布において、D10%径及びD90%径がいずれも不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点2-2について検討する。
(ア)まず、上記相違点2-2が実質的な相違点であることは、明らかである。
(イ)次に、上記相違点2-2の容易想到性について検討する。
a 上記1(2)に摘記した甲2の記載事項を参照しても、甲2発明において、「多孔質のセラミック構造体」によって形成されるアノードの各空孔を、本件発明1のように「Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成され」たものとする動機付けがあるとはいえない。
b そして、上記aの点については、上記1(1)、(3)~(7)に摘記した甲1、甲3~甲7の記載事項を参照しても、同様である。
c したがって、上記相違点2-2に係る特定事項は、甲2発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点2-1、相違点2-3及び本件発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2、3、6について
本件発明2、3、6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(1)ウのとおり、本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明7について
ア 本件発明7と甲2方法発明とを上記(1)アと同様に対比すると、両者は、上記<相違点2-3>と同様の少なくとも以下の点で相違する。
<相違点2-4>
本件発明7は、「前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面にお」ける「前記アノードにおける各空孔の孔径分布においてD10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下である」のに対して、甲2方法発明では、「アノード」及び「電解質層」を含む「層構造」の積層方向の断面における「アノード」が含む「多孔質のセラミック構造体」の孔の孔径分布においてD10%径及びD90%径がいずれも不明である点。
イ 上記相違点2-4について検討する。
(ア)上記1(2)に摘記した甲2の記載事項、及び本願出願時の技術常識を考慮しても、甲2方法発明において、「アノード」及び「電解質層」を含む「層構造」の積層方向の断面における「アノード」が含む「多孔質のセラミック構造体」の孔の孔径分布のD10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であると認めることはできないから、この点は実質的な相違点である。
(イ)次に、上記相違点2-4の容易想到性について検討するに、上記1(2)に摘記した甲2の記載事項を参照しても、「アノード」及び「電解質層」を含む「層構造」の積層方向の断面における「アノード」が含む「多孔質のセラミック構造体」の孔の孔径分布のD10%径及びD90%径に注目した記載は見当たらないから、甲2方法発明において、上記孔の孔径分布のD10%径を0.1μm以上2μm以下、D90%径を1μm以上7μm以下とする動機付けがあるとはいえない。
そして、この点については、上記1(1)、(3)~(7)に摘記した甲1、甲3~甲7の記載事項を参照しても、同様である。
(ウ)したがって、上記相違点2-4に係る特定事項は、甲2方法発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 小括
よって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1-2、申立理由2-4及び申立理由2-5についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1-2、申立理由2-4及び申立理由2-5によっては、本件発明1~3、6、7に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1-3(新規性)及び申立理由2-6(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明との対比
以下、本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「固体酸化物形燃料電池用単セル」は、本件発明1の「燃料電池」に相当する。
(イ)甲3発明の「複数の気孔を有」する「燃料極として用いられる固体酸化物形燃料電池用電極」は、本件発明1の「多孔質状のアノード」に相当する。
(ウ)甲3発明の「表面及び/又は裏面に」「燃料極として用いられる固体酸化物形燃料電池用電極」が備えられる「固体電解質」は、固体酸化物形燃料電池である以上、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含むものであることは明らかであるから、本件発明1の「アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む緻密な電解質層」とは、「アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む」「電解質層」である点で共通する。
(エ)上記(ア)~(ウ)の検討結果を総合すると、本件発明1と甲3発明とは、
「多孔質状のアノードと、前記アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層と、を備えた燃料電池。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3-1>
アノード上に設けられ、酸素イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層について、本件発明1は、「緻密な」ものであるのに対して、甲3発明は、緻密なものか否か不明である点。
<相違点3-2>
本件発明1では、「前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造を有」するのに対して、甲3発明では、燃料極として用いられる電極に含まれる複数の気孔にそのような触媒が配置されているか否か不明である点。
<相違点3-3>
本件発明1は、「前記アノードおよび前記電解質層の積層方向の断面において、前記アノードにおける各空孔の平均孔径は0.1μm以上2μm以下であり、前記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であ」るのに対して、甲3発明は、燃料極として用いられる電極に含まれる複数の気孔の平均孔径が0.5~3.0μmであり、同気孔の孔径分布のD10%径及びD90%径がいずれも不明である点。
<相違点3-4>
本件発明1は、「前記アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」のに対して、甲3発明は、燃料極として用いられる電極がニッケル粒子と酸素イオン伝導性を有する粒子とを含むものであり、当該燃料極に含まれる複数の空孔がニッケル粒子と酸素イオン伝導性を有する粒子とを含むものから形成されているとはいえるものの、それが「Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」ものではない点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点3-4について検討する。
(ア)まず、上記相違点3-4が実質的な相違点であることは、明らかである。
(イ)次に、上記相違点3-4の容易想到性について検討する。
a 上記1(3)に摘記した甲3の記載事項を参照しても、甲3発明において、燃料極に含まれる複数の空孔を、本件発明1のように「Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成され」たものとする動機付けがあるとはいえない。
b そして、上記aの点については、上記1(1)、(2)、(4)~(7)に摘記した甲1、甲2、甲4~甲7の記載事項を参照しても、同様である。
c したがって、上記相違点3-4に係る特定事項は、甲3発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 小括
よって、上記相違点3-1、相違点3-2、相違点3-3及び本件発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明3、6について
本件発明3、6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、上記(1)ウのとおり、本件発明1が甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、同様に、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、甲3に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1-3及び申立理由2-6についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1-3及び申立理由2-6によっては、本件発明1、3、6に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(明確性)について
(1)上記第3に摘記したとおり、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1には、「多孔質状のアノード」が、「空孔にアノード触媒が配置された構造を有」するとともに、「アノードの各空孔は、Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」との記載がある。
(2)上記(1)の記載によれば、本件発明1に係る燃料電池が「Fe-Cr合金とスカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウムとによって形成される」「空孔」を備えた「多孔質状のアノード」を有し、当該「空孔にアノード触媒が配置された構造を有」することを当業者であれば明確に把握することができるといえる。
(3)この点について、申立人は、特許異議申立書の第11頁下から6行~第13頁第14行において、本件訂正前の請求項1に係る発明が「アノードにおける空孔がNiによって形成され、かつ、アノード触媒としてNiが用いられた形態」を包含していることを根拠として、本件訂正前の請求項1に係る発明にいう「前記アノードは、空孔にアノード触媒が配置された構造」が具体的にどのような構造を意味するのか不明である旨主張している。
しかしながら、仮に本件訂正前の請求項1に係る発明に上述の形態が包含されると解されるとしても、そのことによって特許を受けようとする発明が不明確になるといえないし、また、本件訂正により本件発明1に上述の形態は包含されないものとなったから、いずれにしても、上記主張は採用しない。
(4)請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4、6、請求項1の上記(1)の記載と同様の記載を含む請求項5、当該請求項5を直接又は間接的に引用する請求項8~11、及び「前記アノードにアノード触媒を含浸させる工程」を含む請求項7の記載についても、上記(2)、(3)と同様である。
(5)したがって、本件特許の請求項1~11の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由3によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0004】、【0005】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、アノードと電解質層との界面の接合強度が低下し、膜剥がれなど生じるおそれがなく、しかも発電性能を高めることができる燃料電池及びその製造方法を提供することにあると認められる。
(2)そして、本件明細書の【0027】~【0033】の記載によれば、上記(1)の課題は、燃料電池が、多孔質状のアノードの空孔にアノード触媒が配置された構造を有するとともに、上記アノードおよび電解質層の積層方向の断面において、上記アノードにおける各空孔の平均孔径が0.1μm以上2μm以下であり、上記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であるとの構成を備えることにより解決できることを当業者であれば認識できるといえる。
(3)一方、上記第3に摘記したとおり、本件発明1に係る燃料電池は、多孔質状のアノードの空孔にアノード触媒が配置された構造を有するとともに、上記アノードおよび電解質層の積層方向の断面において、上記アノードにおける各空孔の平均孔径が0.1μm以上2μm以下であり、上記アノードにおける各空孔の孔径分布において、D10%径が0.1μm以上2μm以下であり、D90%径が1μm以上7μm以下であるとの構成をいずれも備えるものであるから、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものとはいえない。
(4)この点について、申立人は、特許異議申立書の第13頁下から11行~第15頁第10行において、本件訂正前の請求項1に係る発明がアノードにおける空孔の全体がアノード触媒によって占有されている形態を包含していることや、本件訂正前の請求項2、3に規定された構成を具備しない形態を包含していることを根拠にして、本件訂正前の請求項1に係る発明は、課題を解決できない形態を明らかに包含するため、サポート要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、技術常識に照らして、現実には「アノードにおける空孔の全体がアノード触媒によって占有されている形態」を想定することは困難であり、このような形態が本件発明1に包含されるとはいえず、また、本件発明1に包含される形態のうち、請求項2、3に規定された構成を具備しない形態について、上記(1)の課題を解決できないのではないかとの疑義が生じる程度の根拠は何ら示されていないから、上記(3)において検討したとおりであり、上記主張は採用しない。
(5)請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4、6、請求項5及び当該請求項5を直接又は間接的に引用する請求項8~11、並びに請求項7についても、上記(2)~(4)と同様である。
(6)したがって、本件特許の請求項1~11の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由4によっては、同請求項に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、令和 5年 8月 7日付け取消理由通知書に記載した取消理由、令和 6年 3月15日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700414