特許異議申立
2022-701051
燃料電池積層体
- 審判番号
- 2022-701051
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-222257
- 登録番号
- 7103188
- 請求日
- 2022年10月24日
- 審決日
- 2023年04月10日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】トヨタ自動車株式会社
- 【権利者代理人】家入 健
- 【権利者代理人】遠藤 文徳
- 【異議申立人】鶴亀 國康
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 山本 佳
- 分類
- P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7103188号発明「燃料電池積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7103188号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7103188号の請求項1~6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年11月28日の出願であって、令和4年7月11日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月20日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、同年10月24日差出で特許異議申立人鶴亀國康(以下、「申立人」という。)により請求項1~6(全請求項)に対してなされた特許異議申立事件である。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
第1及び第2のセパレータと、当該第1及び第2のセパレータの間に配置されたシール部材と、を備える燃料電池セルが複数積層されて構成された燃料電池積層体であって、
前記第1及び第2のセパレータの各々は、前記第1及び第2のセパレータを積層方向に貫通し、積層時に位置決めに用いられる位置決め孔を有し、
前記第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、
前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されている、
燃料電池積層体。
【請求項2】
第1のセパレータと、シール部材と、第2のセパレータと、を積層する工程と、
前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層した後、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとをそれぞれ金型を用いて狭持して加熱・加圧して、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとを前記シール部材を介して熱圧着する工程と、を備え、
前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの各々には、積層方向に貫通し、前記積層時に位置決めに用いられる位置決め孔が形成されており、
前記第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、
前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、
前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層する際に、前記位置決め孔に位置決めピンを通すことで、前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの面内方向の位置決めを行う、
燃料電池セルの製造方法。
【請求項3】
前記第1及び第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部を局所的に加熱して酸化皮膜を形成することで前記絶縁処理を施す、請求項2に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項4】
前記第1及び第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部に局所的に電流を流して酸化皮膜を形成することで前記絶縁処理を施す、請求項2に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項5】
前記第1及び第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部に局所的に絶縁材料を塗布することで、前記絶縁処理を施す、請求項2に記載の燃料電池セルの製造方法。
【請求項6】
請求項2~5のいずれか一項に記載の燃料電池セルの製造方法を用いて作製された燃料電池セルを複数積層して燃料電池積層体を製造する工程を備え、
前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの各々に形成された前記位置決め孔に位置決めピンを通すことで、前記各々の燃料電池セルの面内方向の位置決めを行う、
燃料電池積層体の製造方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証~甲第6号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲6」という。)を提出し、以下の1~4の特許異議申立理由を主張している。
(証拠方法)
甲1:特開2010-199020号公報
甲2:特開2012-226843号公報
甲3:特開2016-225284号公報
甲4:特開2009-238461号公報
甲5:特開2018-6171号公報
甲6:特開2009-158434号公報
1 本件特許は、次の(1)~(3)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(1)請求項1の「積層時に位置決めに用いられる位置決め孔」の「積層時」とは、燃料電池セルを構成する部材の積層時であるのか、複数の燃料電池セルの積層時であるのかが不明。
(2)請求項1の「絶縁処理」の定義が不明。
(3)請求項1~6の「位置決め孔」とは、ボルト孔を包含しているのか、ボルト孔以外の孔を意味しているのかが不明。
2 本件特許は、次の(1)、(2)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(1)本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、セパレータの位置決め孔の周辺部以外の部分に絶縁処理を施す形態について、記載されていないにもかかわらず、本件発明1~6は、かかる形態も包含している。
(2)技術常識によれば、「燃料電池セル」は電気化学反応を生じさせる何らかの反応体を必須の構成要素とするにもかかわらず、本件発明1~6は、当該反応体が配置されていることが特定されていない。
3 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
4 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
・請求項1、2:甲2及び甲1
・請求項3、4:甲2、甲1及び甲3
・請求項5:甲2、甲1及び甲4
・請求項6:甲2、甲1及び甲5
第4 特許法第36条第6項第2号について(上記第3の1)
1 「積層時に位置決めに用いられる位置決め孔」について
(1)請求項1には、「積層時に位置決めに用いられる位置決め孔」と記載されている。
(2)そして、上記(1)の「積層時」とは、何の「積層時」であるかが請求項1に特定されていない。
(3)一方、本件明細書には次の記載がある。
「【0014】
図2に示すように、セパレータ20、30、及びシール部材40には、位置決め孔50が形成されている。セパレータ20、30、及びシール部材40を組み合わせる際には、位置決め孔50に位置決めピン55(図3参照)を通すことで、これらの部材の面内方向(積層方向と垂直な方向)の位置決めを行っている。」
「【0017】
また、本実施の形態にかかる燃料電池積層体1は、上述のようにして作製した燃料電池セル10を複数積層することで作製することができる。このとき、各々のセパレータ20、30に形成された位置決め孔50に位置決めピン55(図3参照)を通すことで、各々の燃料電池セル10の面内方向の位置決めを行ってもよい。」
(4)上記(3)の【0014】には、位置決め孔がセパレータやシール部材の積層時の位置決めに用いられること、及び、上記(3)の【0017】には、位置決め孔が複数の燃料電池セルの積層時に用いられることの2つのケースが記載されている。
(5)そうすると、上記(1)の「積層時」とは、何の積層時であるかが何ら特定されていないものの、上記(3)の記載を考慮すれば、上記(4)の2つのケースのどちらかを特定するものではなく、その両方を含むと解される。
(6)したがって、請求項1の上記(1)の記載は明確ではないとはいえないから、請求項1に係る発明は、明確ではないとはいえない。
2 「絶縁処理」について
(1)請求項1~5には、「絶縁処理」と記載されている。
(2)そして、上記(1)の「絶縁処理」について、本件明細書には次の記載がある。
「【0027】
セパレータ20、30に施す絶縁処理としては、例えば、加熱をして酸化皮膜を形成する処理、直流電流を流して酸化皮膜を形成する処理、また、セパレータ20、30に絶縁材料を塗布する処理等が挙げられる。
・・・(略)・・・
【0031】
なお、本実施の形態では、セパレータ20、30に施す絶縁処理は、上述の絶縁処理に限定されることはなく、セパレータ20、30の位置決め孔50の周辺部23、33に絶縁部25、35を形成することができる処理であればどのような処理を用いてもよい。」
(3)上記(2)の【0031】には、「セパレータ20、30に施す絶縁処理は、上述の絶縁処理に限定されることはなく、セパレータ20、30の位置決め孔50の周辺部23、33に絶縁部25、35を形成することができる処理であればどのような処理を用いてもよい」と記載されているから、上記(1)の「絶縁処理」とは「絶縁部25、35を形成することができる処理」であることが理解できる。
(4)そうすると、上記(1)の「絶縁処理」は明確でないとはいえない。
(5)また、請求項1には、「第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されている」と記載されている。
(6)そして、上記(5)の「絶縁処理されている」とは、一見、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に該当するようにもみえる。
(7)しかしながら、上記(5)の記載は、実質的には、上記(5)の「第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々」及び「第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々」に「絶縁処理され」た箇所が存在するという物の特性を表現するものである。
(8)そうすると、上記(5)の記載は、実質的には物の特性を表現するものであるから、明確でないとはいえない。
(9)よって、請求項1~5及びそれらを引用する請求項6に係る発明は、明確でないとはいえない。
3 「位置決め孔」について
(1)請求項1には、「第1及び第2のセパレータの各々は、前記第1及び第2のセパレータを積層方向に貫通し、積層時に位置決めに用いられる位置決め孔を有し」と、請求項2には、「第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの各々には、積層方向に貫通し、前記積層時に位置決めに用いられる位置決め孔が形成されており」と記載されている。
(2)そして、請求項1、2には、「前記第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されている」と記載されている。
(3)また、請求項2には、「前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層する際に、前記位置決め孔に位置決めピンを通すことで、前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの面内方向の位置決めを行う」と記載されている。
(4)そうすると、請求項1、2に記載された「位置決め孔」は、上記(1)の記載のとおり「積層時に位置決めに用いられる」ものであって、また、上記(2)の記載のとおり「位置決め孔の周辺部において、」所定の箇所が「絶縁処理されて」いるものである。さらに、請求項2に記載された「位置決め孔」は、上記(3の記載のとおり「位置決めピンを通すことで、前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの面内方向の位置決めを行う」ものである。
(5)したがって、請求項1、2に記載された「位置決め孔」に、何ら不明な点はない。
(6)よって、上記(1)~(3)の記載は明確でないとはいえないから、請求項1、2及びそれらを引用する請求項3~6に係る発明は、明確でないとはいえない。
(7)なお、申立人は申立書(第13頁第9行~第14頁第9行)において、請求項1、2に記載された「位置決め孔」は、位置決めのためのボルトが挿入されるボルト孔を包含しているのか、それともボルト孔以外の孔を意味しているのかが不明であると主張している。
(8)しかしながら、「位置決め孔」が、位置決めのためのボルトが挿入されるボルト孔を包含しているのか、それともボルト孔以外の孔を意味しているのかにかかわらず、請求項1、2及びそれらを引用する請求項3~6に係る発明は、明確でないとはいえないことは、上記のとおりである。
なお、請求項1、2には、「位置決め孔」とボルト孔との関係について何ら記載されていないから、当該「位置決め孔」は、ボルト孔もボルト孔以外の孔も包含していると解される。
(9)よって、申立人の主張には理由がない。
第5 特許法第36条第6項第1号について(上記第3の2)
1 「絶縁処理」の範囲について
(1)本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、「位置決めピンを用いて位置決めした際にセパレータ同士が短絡することを抑制することが可能な燃料電池積層体を提供する」(【0007】)ことであると認められる。
(2)そして、本件明細書には次の記載がある。
「【0009】
上述のように、本発明の一態様にかかる燃料電池積層体では、セパレータの位置決め孔の周辺部に対して絶縁処理を施している。このように、絶縁処理を施した場合は、位置決め孔に位置決めピンを通した際に位置決め孔の周辺部と位置決めピンとが干渉してセパレータが変形したとしても、セパレータ同士が短絡することを抑制することができる。すなわち、絶縁処理を施しているので、セパレータ同士が接触しても電気的な絶縁を維持することができる。したがって、位置決めピンを用いて位置決めした際にセパレータ同士が短絡することを抑制することができる。」
「【0021】
このように本実施の形態では、セパレータ20、30の位置決め孔50の周辺部23、33に対して絶縁処理を施して絶縁部25、35を形成している。したがって、位置決め孔50に位置決めピン55を通した際に、セパレータ20、30の周辺部23、33と位置決めピン55とが干渉して、セパレータ20、30が変形した場合であっても、セパレータ同士が短絡することを抑制することができる。」
「【0026】
このような問題を解決するために本実施の形態にかかる発明では、図3に示したように、セパレータ20、30の位置決め孔50の周辺部23、33に絶縁処理を施して絶縁部25、35を形成している。このように、絶縁部25、35を形成した場合は、セパレータ20、30の周辺部23、33と位置決めピン55とが干渉してセパレータ20、30が変形したとしても(図5、図6参照)、セパレータ同士が短絡することを抑制することができる。すなわち、絶縁処理を施して絶縁部25、35を形成しているので、セパレータ同士が接触しても電気的な絶縁を維持することができる。したがって、位置決めピンを用いて位置決めした際にセパレータ同士が短絡することを抑制することができる。」
「【図3】
[図:0001397213000001.jpg]
」
「【図5】
[図:0001397213000002.jpg]
【図6】
[図:0001397213000003.jpg]
」
(3)上記(2)によれば、本件発明は、「セパレータの位置決め孔の周辺部に対して絶縁処理を施している」ことにより、「位置決め孔に位置決めピンを通した際に位置決め孔の周辺部と位置決めピンとが干渉してセパレータが変形したとしても、セパレータ同士が短絡することを抑制することができる」ものである。
(4)そして、本件発明1、2は、「第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されて」いるとの発明特定事項を含むものである。
(5)そうすると、本件発明1、2は、上記(3)、(4)より、上記(1)の課題を解決し得ることは明らかである。
(6)よって、請求項1、2及びそれらを引用する請求項3~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
(7)なお、申立人は申立書(第14頁第11行~第16頁第20行)において、本件明細書には、第1のセパレータまたは第2のセパレータにおける位置決め孔の周辺部以外の部分にも絶縁処理を施す形態について、一切記載されていないから、発明の詳細な説明に記載されていない形態を含むものであるから、本件発明はサポート要件違反であると主張している。
(8)しかしながら、上記(1)~(6)で検討したとおり、本件発明1~6は、発明の詳細な説明に記載されたものであるし、本件明細書において、本件発明1~6に含まれる態様の一部について記載されていないからといって、直ちにサポート要件違反であるとはいえない。
(9)よって、申立人の主張には理由がない。
2 「燃料電池セル」の構成について
(1)上記1の(1)~(6)で検討したとおり、本件発明1~6は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2)なお、申立人は申立書(第16頁第21行~第18頁第5行)において、技術常識によれば、「燃料電池セル」は電気化学反応を生じさせる何らかの反応体を必須の構成要素とするにもかかわらず、本件発明1~6は、当該反応体が配置されていることが特定されていないから、本件発明はサポート要件違反であると主張している。
(3)しかしながら、上記1の(8)でも述べたように、本件明細書において、本件発明1~6に含まれる態様の一部について記載されていないからといって、直ちにサポート要件違反であるとはいえない。
(4)また、申立人が主張するように、「燃料電池セル」は電気化学反応を生じさせる何らかの反応体を必須の構成要素とするものであるから、本件発明1、2の「燃料電池セル」との発明特定事項により、実質的に、当該反応体が発明特定事項に含まれているといえる。
(5)よって、申立人の主張には理由がない。
第6 特許法第29条第1項第3号について(上記第3の3)
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。なお、各甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池用のセパレータおよびその製造方法、並びに、燃料電池用のガスケット付セパレータおよびその製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、上記のような燃料電池では、外力を受けたり、劣化等によって積層ずれを起こしたりすることで、隣接するセパレータ同士が接触し、短絡するおそれがあった。・・・(略)・・・
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、特に、金属製の薄板を接合して形成されたセパレータ同士が接触して、短絡することを抑制する技術を提供することを目的とする。」
「【0023】
燃料電池スタック10は、複数のMEAガスケット一体型セパレータ12を図1紙面上下方向に積み重ねたものである。・・・(略)・・・
【0024】
図2は、実施の形態1のMEAガスケット一体型セパレータ12の断面図である。図2に示すように、1つのMEAガスケット一体型セパレータ12は、セパレータ本体14と、MEGA16と、ガスケット18により構成されている。ここで、MEGA16は、膜電極接合体の各面に、さらにカーボンシート等のガス拡散層が一体化されたものである。セパレータ本体14とMEGA16とは、ガスケット18を介して一体化(接着固定)されている。」
「【0027】
・・・(略)・・・
[実施の形態1の製造方法]
以下、図3および4を用いて、実施の形態1の製造方法について説明する。以下述べるように、実施の形態1では、大きさの異なる3枚の金属製薄板を接合してセパレータ本体14を形成した後、セパレータ本体14とMEGA16とを重ねて、MEGA16の端面にシール材料を供給してガスケット18を形成することにより、セパレータ本体14とMEGA16とをガスケット18を介して一体化させる。
【0028】
まず、図3に示すように、燃料電池スタック10となった際に積層方向に貫通する流路(いわゆるマニホールド)となる貫通孔22および、MEGA16の表面に所定の反応ガスを流通させることができるように形成された溝ないし孔を形成した、大きさの異なる3枚の金属製薄板20a、20b、20cを準備する。ここで、薄板の大きさは20aが最も大きく、20cが最も小さい。そして、当該薄板にロウ材を塗布した上で積層し、ロウ付けにより接合することで、一組の金属板(セパレータ本体14)を作成する。積層する際の位置決めは前記貫通孔22を用いて行う。その際、セパレータ本体14の周囲全てに薄肉部が形成されるように積層し、接合する。」
「【0030】
図5の状態となることで、金型30、40によりセパレータ本体14の縁の部分が挟持される。また、MEGA16の端面と金型30の凹部32側面との間に、空間50が形成される。ここでは図示を省略するが、空間50はMEGA16の端面に沿ってその外周を囲うように延びている。実施の形態1では、樹脂注入経路34から空間50に絶縁性のシール材料を注入して、ガスケット18を形成する。このように、実施の形態1の製造方法によれば、シール材料の注入工程によって、セパレータ本体14とMEGA16の一体化と、ガスケット18の形成とを、一括して行うことができる。」
「【0033】
・・・(略)・・・
[実施の形態1の比較例]
図10は、実施の形態1の効果説明のために示す比較例セパレータ212の断面図である。図10(a)の比較例セパレータ62では、セパレータ本体64の縁がガスケット68の端面よりも外側に突出しており、その形状は矩形である。当該突出部分はガスケットを一体化する際に、金型によって挟持される部分であり、ガスケットを一体に形成する場合には当該突出部分が存在することとなる。この場合、図10(b)に模式的に示すように一部の比較例セパレータ62にズレや反り、または、時間経過によるガスケット64の劣化が生じると、隣り合うセパレータ同士のセパレータ本体64が接触してしまう恐れがある。」
「【0040】
・・・(略)・・・
(第3変形例)
実施の形態1では、セパレータ本体14の周縁部分に薄肉部が形成されることによって、セパレータ本体14の断面は矩形ではなくなっている。図6に示すように、変形例3では当該矩形部分に絶縁性の材料、具体的にはゴムを貼付している(絶縁材料充填部52)。これにより、セパレータの周辺部分における短絡をさらに抑制できる。当該ゴムの充填は、図7に示すように、金型40側にも樹脂注入経路54を設けて、ガスケットの形成と同時に行うこととしても良い。」
「【0043】
図9(b)(c)に示すように、ガスケットの一部をも含むように切断すれば、ガスケットがセパレータの端部にまで存在することになり、一層短絡を抑制することができる。」
2 甲1に記載された発明
上記1の【0028】の記載は、セパレータ本体14の形成方法であるといえるから、上記1によれば、甲1(特に、【0023】、【0024】、【0027】、【0028】)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「複数のMEAガスケット一体型セパレータ12を積み重ねた燃料電池スタック10であって、
1つのMEAガスケット一体型セパレータ12は、セパレータ本体14と、MEGA16と、ガスケット18により構成されており、
セパレータ本体14を形成した後、セパレータ本体14とMEGA16とを重ねて、MEGA16の端面にシール材料を供給してガスケット18を形成することにより、セパレータ本体14とMEGA16とをガスケット18を介して一体化させ、
セパレータ本体14の形成方法は、
積層方向に貫通する流路となる貫通孔22を形成した、大きさの異なる3枚の金属製薄板20a、20b、20cを準備し、
当該薄板にロウ材を塗布した上で積層し、ロウ付けにより接合することで、一組の金属板(セパレータ本体14)を作成し、
積層する際の位置決めは貫通孔22を用いて行う、
燃料電池スタック10。」
3 当審の判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「セパレータ本体14」、「ガスケット18」、「貫通孔22」、「燃料電池スタック10」は、それぞれ本件発明1の「第1のセパレータ」または「第2のセパレータ」、「シール部材」、「位置決め孔」、「燃料電池積層体」に相当する。
イ 甲1発明の「複数のMEAガスケット一体型セパレータ12を積み重ねた燃料電池スタック10であって、1つのMEAガスケット一体型セパレータ12は、セパレータ本体14と、MEGA16と、ガスケット18により構成されており、セパレータ本体14を形成した後、セパレータ本体14とMEGA16とを重ねて、MEGA16の端面にシール材料を供給してガスケット18を形成することにより、セパレータ本体14とMEGA16とをガスケット18を介して一体化させ」る事項と、本件発明1の「第1及び第2のセパレータと、当該第1及び第2のセパレータの間に配置されたシール部材と、を備える燃料電池セルが複数積層されて構成された燃料電池積層体であ」る事項とは、「セパレータと、シール部材と、を備える燃料電池セルが複数積層されて構成された燃料電池積層体であ」る事項で共通する。
ウ 甲1発明の「積層方向に貫通する流路となる貫通孔22を形成した、大きさの異なる3枚の金属製薄板20a、20b、20cを準備し、当該薄板にロウ材を塗布した上で積層し、ロウ付けにより接合することで、一組の金属板(セパレータ本体14)を作成し、積層する際の位置決めは貫通孔22を用いて行う」事項と、本件発明1の「第1及び第2のセパレータの各々は、前記第1及び第2のセパレータを積層方向に貫通し、積層時に位置決めに用いられる位置決め孔を有」する事項とは、「セパレータは、前記セパレータを積層方向に貫通し、積層時に位置決めに用いられる位置決め孔を有」する事項で共通する。
エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲1発明とは、
「セパレータと、シール部材と、を備える燃料電池セルが複数積層されて構成された燃料電池積層体であって、
前記セパレータは、前記セパレータを積層方向に貫通し、積層時に位置決めに用いられる位置決め孔を有する、
燃料電池積層体。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、「第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されている」のに対し、甲1発明は、セパレータ本体14の貫通孔22の周辺部が絶縁処理されているか否かが不明である点。
(相違点2)
「燃料電池セル」について、本件発明1は、「第1及び第2のセパレータと、当該第1及び第2のセパレータの間に配置されたシール部材と、を備え」、「第1及び第2のセパレータの各々」が「位置決め孔を有」するのに対し、甲1発明は、「セパレータ本体14」及び「ガスケット18」を有するものの、「セパレータ本体14」を複数有するか否か、「ガスケット18」が複数の「セパレータ本体14」の間に配置されているか否かが不明である点。
オ 事案に鑑み、まず、上記相違点1について検討する。
カ 甲1には、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項が記載されていない。
キ したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。
ク よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明1であるとはいえない。
ケ なお、申立人は申立書(第20頁最後から2行~第23頁第12行)において次の主張をしている。
「下記の参考図2,3は、それぞれ、甲第1号証の図6,7に、本件異議申立人が貫通孔22を加筆したものである。
[図:0001397213000004.jpg]
(参考図2)
[図:0001397213000005.jpg]
(参考図3)
すなわち、上述した甲第1号証の段落0028の記載や、図3の記載を参照すると、セパレータ本体14を構成する3枚の金属製薄板20a、20b、20cのすべてに、位置決めのための貫通孔22が形成されている。また、上述したように、貫通孔22は、燃料電池スタック10となった際に積層方向に貫通する流路となる孔であるから、ガスケット18にも貫通孔22が形成されていることは明らかである。
そのため、貫通孔22が形成された位置における甲第1号証の図6,7の断面に相当する断面は、それぞれ、上記参考図2,3のようになる。
また、甲第1号証には、ガスケット18の形成方法に関し、以下の記載がある。
「【0030】
図5の状態となることで、金型30、40によりセパレータ本体14の縁の部分が挟持される。また、MEGA16の端面と金型30の凹部32側面との間に、空間50が形成される。ここでは図示を省略するが、空間50はMEGA16の端面に沿ってその外周を囲うように延びている。実施の形態1では、樹脂注入経路34から空間50に絶縁性のシール材料を注入して、ガスケット18を形成する。このように、実施の形態1の製造方法によれば、シール材料の注入工程によって、セパレータ本体14とMEGA16の一体化と、ガスケット18の形成とを、一括して行うことができる。」
「【0040】
・・・図6に示すように、変形例3では当該矩形部分に絶縁性の材料、具体的にはゴムを貼付している(絶縁材料充填部52)。これにより、セパレータの周辺部分における短絡をさらに抑制できる。当該ゴムの充填は、図7に示すように、金型40側にも樹脂注入経路54を設けて、ガスケットの形成と同時に行うこととしても良い。」
これらの記載によれば、甲第1号証には、図7(上記参考図3)において、樹脂注入経路34から空間50に絶縁性のシール材料を注入してガスケット18を形成すると共に、金型40側にも樹脂注入経路54を設けてゴムの充填を行うことにより絶縁材料充填部52を形成することが記載されていると言える。
このような工程により、上記参考図2に示すように、セパレータ本体14の貫通孔22の周辺部において、積層方向上側の面および積層方向下側の面に絶縁体(ガスケット18または絶縁材料充填部52)が形成される。
さらに、上記参考図3から明らかなように、ガスケット18を形成するために空間50に樹脂を注入すると、該樹脂が貫通孔22内に進入し、貫通孔22の内周面にも絶縁体が形成される。
ただし、上述したように、貫通孔22は、燃料電池スタック10となった際に積層方向に貫通する流路となる孔であるから、貫通孔22が樹脂によって完全に塞がれることはなく、ガスケット18の形成後にも貫通孔22は残存する。
また、ガスケット18にも、セパレータ本体14の貫通孔22に連通する貫通孔22が形成される。
以上のことから、甲第1号証には、以下の事項が記載されていると言える。
・セパレータ本体14の貫通孔22の周辺部において、セパレータ本体14の積層方向上側の面、積層方向下側の面、及び貫通孔22の内周面の各々に絶縁体が形成されていること。
・ガスケット18に貫通孔22が形成されていること。」
コ 申立人は、上記ケのとおり、「セパレータ本体14を構成する3枚の金属製薄板20a、20b、20cのすべてに、位置決めのための貫通孔22が形成されて」おり、「貫通孔22は、燃料電池スタック10となった際に積層方向に貫通する流路となる孔であるから、ガスケット18にも貫通孔22が形成されていることは明らか」として、「貫通孔22が形成された位置における甲第1号証の図6,7の断面に相当する断面は、それぞれ、上記参考図2,3のようになる」と主張する。
サ しかしながら、甲1には、ガスケット18と貫通孔22との位置関係については、何ら記載されていないから、実際に「参考図2,3のように」なっているどうかは、明らかではない。
シ 仮に、申立人が主張するように、「参考図2,3のように」なっているとしても、以下のとおり、申立人の主張には理由がない。
ス すなわち、申立人が主張するように、確かに、「ガスケット18を形成するために空間50に樹脂を注入すると、該樹脂が貫通孔22内に進入し、貫通孔22の内周面にも絶縁体が形成される」ことがあるかもしれない。
セ しかしながら、甲1発明は、どの程度の量の樹脂を注入するかが不明であり、注入樹脂の量が十分多ければ、貫通孔22及び空間50の全てが樹脂で埋まると考えられるし、注入樹脂の量が少なければ、セパレータ14本体の上面を樹脂が覆う程度であると考えられる。
ソ また、甲1の図2のように、ガスケット18がMEGA16と同程度の高さとなるような樹脂の量の場合、貫通孔が樹脂で埋まってしまいガスケット18に貫通孔が形成されるとは考えづらい。すなわち、注入樹脂の量によって、ガスケット18に貫通孔22が形成されない場合もあれば、セパレータ本体14の貫通孔22の周辺部において、上面、側面に樹脂が形成されない場合もあり得る。
タ しかも、セパレータ本体14の貫通孔22の周辺部において、下面に樹脂が形成されないことは明らかである。
チ したがって、甲1には、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項が記載されているとはいえない。
第7 特許法第29条第2項について(上記第3の4)
1 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、詳しくは、燃料電池のシール構造に関するものである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した位置決め方法を採用して上述した構成を有する燃料電池を製造する場合、アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間に粘性シール材を塗布して圧着するときに、粘性シール材が、アノード側セパレータとカソード側セパレータとの間で広がる。そして、粘性シール材の塗布量が過剰である場合には、広がった粘性シール材が、位置決め用冶具にまで達して、位置決め用冶具に付着する場合がある。この場合、粘性シール材が位置決め用冶具に付着した状態で硬化すると、燃料電池が位置決め用冶具に接着されてしまうという不具合が生じる。そこで、このような不具合が生じないようにするためには、燃料電池を製造する際の粘性シール材の塗布量についての管理幅を比較的狭く設定する必要があった。そして、このことは、燃料電池の製造管理の煩雑化を招く。このため、粘性シール材の塗布量についての管理幅を比較的広く設定しても、上記不具合が生じないようにすることができる技術が求められていた。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、位置決め用冶具が挿入される基準穴が形成されたセパレータ間に粘性シール材を塗布して圧着・硬化することによってシール構造が形成される燃料電池において、燃料電池の製造時の粘性シール材の塗布量の管理幅を比較的広くすることが可能な技術を提供することを目的とする。」
「【0016】
本発明は、上述の燃料電池としての構成の他、上述の燃料電池に用いられるセパレータの発明や、上述の燃料電池を複数積層させた燃料電池スタックの発明として構成することもできる。」
「【0018】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.燃料電池:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池100の概略構成を示す説明図である。図1に、燃料電池100の要部断面図を示した。図示するように、燃料電池100は、膜電極ガス拡散層接合体10と、膜電極ガス拡散層接合体10のアノード側に配置されたアノード側セパレータ30aと、膜電極ガス拡散層接合体10のカソード側に配置されたカソード側セパレータ30cと、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの間であって、膜電極ガス拡散層接合体10の周囲に設けられ、燃料電池100内を流れる流体をシールするシール材40と、を備える。なお、シール材40は、後述するように、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの間に熱硬化性樹脂を含む接着剤を塗布して圧着・硬化(熱圧着)することによって形成されている。この接着剤は、課題を解決するための手段における粘性シール材に相当する。」
「【0024】
また、アノード側セパレータ30a、および、カソード側セパレータ30cの一角には、それぞれ、正基準穴32a,32cが形成されている。また、アノード側セパレータ30a、および、カソード側セパレータ30cにおける正基準穴32a,32cの対角位置には、それぞれ、副基準穴34a,34cが形成されている。正基準穴32a,33c(当審注:図1より「32c」の誤記であることは明らか。)、および、副基準穴34a,34cは、それぞれ、後述する位置決め用ピンが挿入され、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの相対的な位置決めに用いられる。」
「【0027】
C.製造工程:
図3は、燃料電池100の製造工程を示す説明図である。また、図4は、接着剤を熱圧着してシール材40を形成する様子を示す説明図である。
【0028】
まず、ジグプレート200(図4参照)にカソード側セパレータ30cをセットする(ステップS100)。このとき、ジグプレート200に設けられた位置決め用ピン210等に、カソード側セパレータ30cに形成された正基準穴32c、および、副基準穴34cを挿入する(図4参照)。
【0029】
次に、カソード側セパレータ30cの表面の所定領域(図1に示した領域A2)に接着剤を塗布する(ステップS110)。このときの接着剤の塗布量は、後から圧着したときに広がった接着剤が位置決め用ピン210に達しないように管理される。
【0030】
次に、接着剤が塗布されたカソード側セパレータ30cの表面に、膜電極ガス拡散層接合体10を積層する(ステップS120)。次に、これらの上に、アノード側セパレータ30aをセット(積層)する(ステップS130)。このとき、位置決め用ピン210等に、アノード側セパレータ30aに形成された正基準穴32a、および、副基準穴34aを挿入する(図4参照)。
【0031】
そして、図4に示したように、カソード側セパレータ30cと、膜電極ガス拡散層接合体10と、アノード側セパレータ30aと、が積層されたジグプレート200を、熱圧着装置の下側加熱板300L上にセットし(ステップS140)、これらの上に、熱圧着装置の上側加熱板300Uを積層し、接着剤を熱圧着する(ステップS150)。以上の工程を経て、燃料電池100は完成する。」
「【図1】
[図:0001397213000006.jpg]
」
2 甲2に記載された発明
(1)上記1によれば、甲2(特に、【0016】、【0018】、【0024】参照。)には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「燃料電池100を複数積層させた燃料電池スタックであって、
燃料電池100は、膜電極ガス拡散層接合体10と、膜電極ガス拡散層接合体10のアノード側に配置されたアノード側セパレータ30aと、膜電極ガス拡散層接合体10のカソード側に配置されたカソード側セパレータ30cと、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの間であって、膜電極ガス拡散層接合体10の周囲に設けられ、燃料電池100内を流れる流体をシールするシール材40と、を備え、
アノード側セパレータ30a、および、カソード側セパレータ30cの一角には、それぞれ、正基準穴32a,32cが形成され、また、アノード側セパレータ30a、および、カソード側セパレータ30cにおける正基準穴32a,32cの対角位置には、それぞれ、副基準穴34a,34cが形成されており、正基準穴32a,32c、および、副基準穴34a,34cは、それぞれ、位置決め用ピンが挿入され、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの相対的な位置決めに用いられる、
燃料電池スタック。」
(2)また、上記1によれば、甲2(特に、【0018】、【0027】~【0031】参照。)には、次の発明(以下、「甲2方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「燃料電池100の製造方法であって、
ジグプレート200にカソード側セパレータ30cをセットし、このとき、ジグプレート200に設けられた位置決め用ピン210等に、カソード側セパレータ30cに形成された正基準穴32c、および、副基準穴34cを挿入し、
次に、カソード側セパレータ30cの表面の所定領域に接着剤を塗布し、
次に、接着剤が塗布されたカソード側セパレータ30cの表面に、膜電極ガス拡散層接合体10を積層し、次に、これらの上に、アノード側セパレータ30aをセット(積層)し、このとき、位置決め用ピン210等に、アノード側セパレータ30aに形成された正基準穴32a、および、副基準穴34aを挿入し、
そして、カソード側セパレータ30cと、膜電極ガス拡散層接合体10と、アノード側セパレータ30aと、が積層されたジグプレート200を、熱圧着装置の下側加熱板300L上にセットし、これらの上に、熱圧着装置の上側加熱板300Uを積層し、接着剤を熱圧着することにより、燃料電池100は完成し、
燃料電池100は、膜電極ガス拡散層接合体10と、膜電極ガス拡散層接合体10のアノード側に配置されたアノード側セパレータ30aと、膜電極ガス拡散層接合体10のカソード側に配置されたカソード側セパレータ30cと、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの間であって、膜電極ガス拡散層接合体10の周囲に設けられ、燃料電池100内を流れる流体をシールするシール材40と、を備える、
燃料電池100の製造方法。」
3 当審の判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「アノード側セパレータ30a」または「カソード側セパレータ30c」、「シール材40」、「正基準穴32a,32c」及び「副基準穴34a,34c」、「燃料電池100」、「燃料電池スタック」は、それぞれ本件発明1の「第1のセパレータ」または「第2のセパレータ」、「シール部材」、「位置決め孔」、「燃料電池セル」、「燃料電池積層体」に相当する。
イ 甲2発明の「燃料電池100は、膜電極ガス拡散層接合体10と、膜電極ガス拡散層接合体10のアノード側に配置されたアノード側セパレータ30aと、膜電極ガス拡散層接合体10のカソード側に配置されたカソード側セパレータ30cと、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの間であって、膜電極ガス拡散層接合体10の周囲に設けられ、燃料電池100内を流れる流体をシールするシール材40と、を備え」る事項は、本件発明1の「第1及び第2のセパレータと、当該第1及び第2のセパレータの間に配置されたシール部材と、を備える」事項に相当する。
ウ 甲2発明の「燃料電池100を複数積層させた燃料電池スタックであ」る点は、本件発明1の「燃料電池セルが複数積層されて構成された燃料電池積層体であ」る事項に相当する。
エ 甲2発明の「アノード側セパレータ30a、および、カソード側セパレータ30cの一角には、それぞれ、正基準穴32a,32cが形成され、また、アノード側セパレータ30a、および、カソード側セパレータ30cにおける正基準穴32a,32cの対角位置には、それぞれ、副基準穴34a,34cが形成されており、正基準穴32a,32c、および、副基準穴34a,34cは、それぞれ、位置決め用ピンが挿入され、アノード側セパレータ30aとカソード側セパレータ30cとの相対的な位置決めに用いられる」事項は、本件発明1の「第1及び第2のセパレータの各々は、前記第1及び第2のセパレータを積層方向に貫通し、積層時に位置決めに用いられる位置決め孔を有」する事項に相当する。
オ 上記ア~エより、本件発明1と甲2発明とは、
「第1及び第2のセパレータと、当該第1及び第2のセパレータの間に配置されたシール部材と、を備える燃料電池セルが複数積層されて構成された燃料電池積層体であって、
前記第1及び第2のセパレータの各々は、前記第1及び第2のセパレータを積層方向に貫通し、積層時に位置決めに用いられる位置決め孔を有する、
燃料電池積層体。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点3)
本件発明1は、「第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されている」のに対し、甲2発明は、「アノード側セパレータ30a」の「正基準穴32a」及び「副基準穴34a」、並びに、「カソード側セパレータ30c」の「正基準穴32c」及び「副基準穴34c」の周辺部が絶縁処理されているか否かが不明である点。
カ 以下、上記相違点3について検討する。
キ 上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、甲2に記載されていないし、また、上記第6の3の(ケ)~(ソ)で検討したとおり、甲1にも記載されていない。
ク そうすると、甲2発明において、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
ケ よって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2について
本件発明2と甲2方法発明とを対比する。
ア 甲2方法発明の「アノード側セパレータ30a」または「カソード側セパレータ30c」、「シール材40」、「正基準穴32a,32c」及び「副基準穴34a,34c」、「燃料電池100」は、本件発明2の「第1のセパレータ」または「第2のセパレータ」、「シール部材」、「位置決め孔」、「燃料電池セル」に相当する。
イ 甲2には、「接着剤を熱圧着してシール材40を形成する」(【0027】)と記載されているから、当該「接着剤」は「シール材40」になるものである。
また、甲2方法発明は、「位置決め用ピン210等に、カソード側セパレータ30cに形成された正基準穴32c、および、副基準穴34cを挿入」した状態で、「カソード側セパレータ30cの表面の所定領域に接着剤を塗布」するものであって位置決め用ピン210の位置にはシール材40(接着剤)が存在し得ないから、「シール材40」にも正基準穴及び副基準穴が形成されると考えられる。
そうすると、甲2方法発明の「ジグプレート200にカソード側セパレータ30cをセットし、このとき、ジグプレート200に設けられた位置決め用ピン210等に、カソード側セパレータ30cに形成された正基準穴32c、および、副基準穴34cを挿入し、次に、カソード側セパレータ30cの表面の所定領域に接着剤を塗布し、次に、接着剤が塗布されたカソード側セパレータ30cの表面に、膜電極ガス拡散層接合体10を積層し、次に、これらの上に、アノード側セパレータ30aをセット(積層)し、このとき、位置決め用ピン210等に、アノード側セパレータ30aに形成された正基準穴32a、および、副基準穴34aを挿入」する事項は、本件発明2の「第1のセパレータと、シール部材と、第2のセパレータと、を積層する工程」「を備え、前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの各々には、積層方向に貫通し、前記積層時に位置決めに用いられる位置決め孔が形成されており、」「前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層する際に、前記位置決め孔に位置決めピンを通すことで、前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの面内方向の位置決めを行う」事項に相当する。
ウ 甲2方法発明の「カソード側セパレータ30cと、膜電極ガス拡散層接合体10と、アノード側セパレータ30aと、が積層されたジグプレート200を、熱圧着装置の下側加熱板300L上にセットし、これらの上に、熱圧着装置の上側加熱板300Uを積層し、接着剤を熱圧着する」事項と、本件発明2の「第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層した後、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとをそれぞれ金型を用いて狭持して加熱・加圧して、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとを前記シール部材を介して熱圧着する工程」「を備え」る事項とは、「第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層した後、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとをそれぞれ狭持して加熱・加圧して、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとを前記シール部材を介して熱圧着する工程」「を備え」る事項で共通する。
エ 上記ア~ウより、本件発明2と甲2方法発明とは、
「第1のセパレータと、シール部材と、第2のセパレータと、を積層する工程と、
前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層した後、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとをそれぞれ狭持して加熱・加圧して、前記第1のセパレータと前記第2のセパレータとを前記シール部材を介して熱圧着する工程と、を備え、
前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの各々には、積層方向に貫通し、前記積層時に位置決めに用いられる位置決め孔が形成されており、
前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータを積層する際に、前記位置決め孔に位置決めピンを通すことで、前記第1のセパレータ、前記シール部材、及び前記第2のセパレータの面内方向の位置決めを行う、
燃料電池セルの製造方法。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点4)
本件発明2は、「第1のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第1のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されており、前記第2のセパレータの前記位置決め孔の周辺部において、前記第2のセパレータの前記積層方向上側の面、前記積層方向下側の面、及び前記位置決め孔の内周面の各々が絶縁処理されている」のに対し、甲2方法発明は、「アノード側セパレータ30a」の「正基準穴32a」及び「副基準穴34a」、並びに、「カソード側セパレータ30c」の「正基準穴32c」及び「副基準穴34c」の周辺部が絶縁処理されているか否かが不明である点。
(相違点5)
「第1のセパレータと前記第2のセパレータとをそれぞれ狭持して加熱・加圧」する際に、本件発明2は、「金型を用い」るのに対し、甲2方法発明は、「熱圧着装置の下側加熱板300L」及び「熱圧着装置の上側加熱板300」が金型であるか否かが不明である点。
オ 事案に鑑み、まず、上記相違点4について検討する。
カ 上記相違点4は上記相違点3と同様の相違点であるから、上記(1)のカ、キで検討した理由と同様の理由により、甲2方法発明において、上記相違点4に係る本件発明2の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
キ よって、上記相違点5について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3~6について
ア 本件発明3~6は、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、甲2方法発明と少なくとも上記相違点4で相違する。
イ そうすると、甲1に記載された事項のほか、甲3~5に記載された事項を考慮したとしても、上記(2)のオ~キで検討した理由と同様の理由により、本件発明3~6は、甲2に記載された発明及び甲1、3~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第8 むすび
以上のとおり、本件の請求項1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701051