特許異議申立
2023-701013
歯科用修復材セット及び歯科用硬化体
- 審判番号
- 2023-701013
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-508110
- 登録番号
- 7245319
- 請求日
- 2023年09月22日
- 審決日
- 2024年05月23日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ジーシー
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【権利者代理人】山口 昭則
- 【権利者代理人】酒井 俊尚
- 【異議申立人】松村 朋子
- 審判長/審判官
- 審判長 前田 佳与子
- 審判官 石井 徹
- 審判官 渕野 留香
- 分類
- P1651.121-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7245319号発明「歯科用修復材セット及び歯科用硬化体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7245319号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、〔6~9〕について訂正することを認める。
特許第7245319号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7245319号(以下、「本件特許」という。)に係る発明についての出願(特願2021-508110号)は、2020年(令和2年)1月15日(優先権主張 2019年3月27日 (JP)日本国)を国際出願日とするものであり、令和5年3月14日にその特許権の設定登録(請求項の数 9)がなされ、令和5年3月23日に特許掲載公報が発行された。
これに対して、特許異議申立人 松村 朋子(以下「申立人」という。)から、令和5年9月22日提出の特許異議申立書によって、本件特許の全ての請求項1~9に係る発明の特許を取り消すべき旨の特許異議の申立てがされた。以降の主な手続の経緯は下記のとおりである。
令和5年12月 8日付け 取消理由通知書
令和6年 2月 9日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 3月27日提出 意見書(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
令和6年2月9日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求めるものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「リン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、」という記載を「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含むリン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、」という記載に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6の「リン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、」という記載を「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含むリン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、」という記載に訂正する。
(3) 一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、それぞれ、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるので、これらの請求項は、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項7~9は、それぞれ、請求項6を直接的に引用するものであるので、これらの請求項は、訂正事項2により訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。
そして、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5及び、訂正前の請求項6~9に対応する訂正後の請求項6~9は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、一群の請求項〔1~5〕及び〔6~9〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1、2について
訂正事項1、2は、訂正前の請求項1及び訂正前の請求項6における「リン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、」を「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含むリン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、」に限定するものであるから、当該訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1、2は、願書に添付した本件特許明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0127】には「P-2M:ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート」及び「MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート」との記載があり、【0142】の【表1】には、コンポジットレジンに「P-2M」又は「MDP」を含む歯科用修復材セット及びその硬化体の実施例の記載があるから、これらの記載から導き出されるものである。
したがって、訂正事項1、2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない、すなわち、特許請求の範囲の拡張・変更に該当しない訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2) 独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1~9について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、〔6~9〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~9に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1~9に係る発明を、請求項の番号順に、それぞれ「本件訂正発明1」等といい、これらをまとめて「本件訂正発明」ともいう。
「【請求項1】
グラスアイオノマーセメントと、
コンポジットレジンを有し、
前記コンポジットレジンは、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含むリン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、歯科用修復材セット。
【請求項2】
前記コンポジットレジンは、光重合開始剤と、フィラーをさらに含む、請求項1に記載の歯科用修復材セット。
【請求項3】
前記フィラーの含有量が30質量%以上である、請求項2に記載の歯科用修復材セット。
【請求項4】
前記グラスアイオノマーセメントは、フルオロアルミノシリケートガラス粉末と、ポリカルボン酸系重合体、水、(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含む液状組成物とを有する、請求項1に記載の歯科用修復材セット。
【請求項5】
エッチング材をさらに有する、請求項1に記載の歯科用修復材セット。
【請求項6】
歯の所定の領域に、グラスアイオノマーセメントが硬化したグラスアイオノマーセメントの硬化体が形成され、
前記領域に、前記グラスアイオノマーセメントの硬化体上でコンポジットレジンが硬化したコンポジットレジンの硬化体が形成されてなり、
前記コンポジットレジンは、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含むリン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、歯科用硬化体。
【請求項7】
前記グラスアイオノマーセメントは、フルオロアルミノシリケートガラス粉末と、ポリカルボン酸系重合体、水、(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含む液状組成物とを有し、
前記グラスアイオノマーセメントが硬化してなる、請求項6に記載の歯科用硬化体。
【請求項8】
前記コンポジットレジンは、光重合開始剤と、フィラーをさらに含み、
前記コンポジットレジンが硬化してなる、請求項6に記載の歯科用硬化体。
【請求項9】
エッチング材が適用された前記領域に、前記コンポジットレジンが適用されてなる、請求項6に記載の歯科用硬化体。」
第4 取消理由通知の概要
本件訂正前の請求項1~9に係る特許に対して、当審において令和5年12月8日付け取消理由通知で特許権者に通知した[取消理由1(進歩性)]の概要は、下記のとおりである。
なお、以下では、申立人が提出した甲第1号証、甲第2号証、・・・を、各甲号証の番号順に「甲1」、「甲2」・・・のように記載し、当審合議体が職権探知により追加した文献を「文献A」、「文献B」と記載する。また、[取消理由1(進歩性)]は、申立人による進歩性の申立理由(以下「申立理由1」という。)と同趣旨である。
[取消理由1(進歩性)]
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1~甲8、文献A、Bに記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<甲号証一覧>
甲1:「VertiseTM Flow」,[online],2016年4月24日,[令和5年9月19日検索],インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20160424043725/https:/www.kerrdental.com/kerr-restoratives/vertise-flow-self-adhering-flowable-composite#faqs>
甲2:International Journal of Dentistry,2017, Article ID5041529,doi: 10.1155/2017/5041529
甲3の1:Vertise Flow - Technical Bulletin,[online],2015年7月27日[令和5年9月19日検索],インターネット<URL: https://www.kerrdental.com/resource-center/vertise-flow-technical-bulletin>
(当審合議体注:甲3の1は、甲3の2の公知日が2015年7月27日であることを示すものである。)
甲3の2:Composites/Vertise Flow - Technical Bulletin,[online],2015年7月27日[令和5年9月19日検索],インターネット<URL: https://embed.widencdn.net/download/kavokerr/4knq7qig7c/vertiseflow_techbulletin_34929b.pdf?u=18sth1>
(当審合議体注:URLは甲3の2を直接ダウンロードできるアドレスを記載した。)
甲4:歯科材料・器械,1998,17巻,1号,41-45頁,DOI:10.18939/jjdm.17.1_41
甲5:接着歯学,1988年,6巻,4号,257-261頁,DOI: 10.11297/adhesdent1983.6.257
甲6:接着歯学,2012,30巻,4号,137-144頁,DOI: 10.11297/adhesdent.30.4_137
甲7:特開平1-308855号公報
甲8:新常用歯科辞典 第3版,1999年,医歯薬出版株式会社,119,340-341,1058,1063,1152頁
<当審合議体追加文献一覧>
文献A:特開2007-91689号公報
文献B:特開2004-51554号公報
第5 取消理由1(進歩性)についての当審の判断
1 甲1~8及び文献A、Bに記載された事項並びに甲1に記載された発明
(1) 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。原文は外国語で記載されているため、外国語での摘記箇所に加えて、当審合議体による日本語訳を記載する。また、下線は当審合議体が付した。
(摘記1-1)
「VertiseTM Flow Composites
Self-Adhering Flowable Composite
Vertise Flow, the first self-adhering dental composite powered by OptiBondTM. It greatly simplifies your direct restorative procedures by incorporating a bonding agent into a flowable. With this flowable dental composite there is no need to bond separately, reducing steps and saving time. Vertise Flow shares the same characteristic inherent in self-etch materials and reduces the chance of post-op sensitivity. Our leadership in resin restorative dentistry comes after decades of innovation in dental composites and expertise in adhesives - both of which come together in Vertise Flow.」
「VertiseTMFLOW コンポジット
自己接着流動性コンポジット
Vertise Flow は、OptiBondTMを搭載した初の自己接着性歯科用コンポジットである。Vertise Flow はボンディング材を流動材に組み込むことにより、直接の修復手順を大幅に簡素化する。この流動性歯科用コンポジットを使用すると、別途のボンディングが不要となり、手順が減り、時間が節約できる。Vertise Flow は、セルフエッチング材料に固有の特性と同等の特性を共有し、術後疼痛の可能性を軽減する。レジン修復歯科術における当社のリーダーシップは、数十年にわたる歯科用コンポジットの技術革新と接着剤の専門知識を経て生まれたものである。その両方が Vertise Flow に統合されている。」
(摘記1-2)
「Features You Can Depend on
・Self-adhering. No separate bonding step.
・Greatly reduces the chance of post-op sensitivity. Shares the same characteristic inherent in self-etch materials.
・High bond strengths to dentin and enamel. Incorporates clinically proven OptiBond adhesive technology for excellent bonds.」
「信頼できる特徴
・自己接着性。別途のボンディング工程不要。
・術後疼痛の可能性を大きく軽減。セルフエッチング材料に固有の特性を共有。
・象牙質とエナメル質への強い結合強度。優れた結合のために臨床的に証明されたOptiBond接合技術を組み込む。」
(摘記1-3)
「If I use Vertise Flow as a sealant, should I still etch prior to placing the material?
To use Vertise Flow as a sealant, the clinician must do one of the following:
・Air-abrade the tooth
・Clean the tooth with non-fluoridated pumice, then etch with phosphoric acid」
「Vertise Flow をシーラントとして使用する場合、材料を配置する前にエッチングする必要があるか?
Vertise Flow をシーラントとして使用するためには、臨床医は次のいずれかを行う必要がある。
・歯を空気研磨する
・非フッ素化軽石で歯を洗浄し、リン酸でエッチングする」
(摘記1-4)
「Can Vertise Flow be used over a GI or RMGI. What is the protocol?
Vertise Flow can be used over a GI or RMGI. The appropriate protocol is as follows: After placement of the RMGI, brush the first layer of Vertise Flow with moderate pressure for 15-20 seconds. Light cure for 20 seconds. For A3.5 and Universal Opaque, cure for 40 seconds. Then build the restoration incrementally with Vertise Flow or other restorative material, light cure, and finish.」
「Vertise Flow は GI 又は RMGI 上で使用できるか?その手順は何か?
Vertise Flow は、GI 又は RMGI 上で使用できる。適切な手順は次のとおりである。RMGI を配置した後、Vertise Flow の最初の層を適度な圧力で15~20秒間ブラッシングする。20秒間光硬化する。A3.5及び不透明色調については、40秒間硬化する。次に、Vertise Flow又はその他の修復材料を使用し、追加の修復物を構築して光硬化させ、仕上げる。」
(2) 甲1に記載された発明
上記(1)より、甲1には、以下の甲1A、1B発明が記載されていると認められる。
(甲1A発明)
「Kerr社が提供するVertise Flowと称される、自己接着性歯科用コンポジットであって、GI又はRMGI上で使用可能な自己接着性歯科用コンポジット。」
(甲1B発明)
「Kerr社が提供するVertise Flowと称される、自己接着性歯科用コンポジットを、GI又はRMGI上に配置し、光硬化させた歯科用硬化体。」
(当審合議体注:上記の「Vertise Flow」は登録商標であるが、この決定中ではその旨の表示を省略した。)
2 甲2~甲8及び文献A、Bに記載された事項
甲2~甲8及び文献A、Bには、以下の(1)~(9)に示す事項が記載されている。
甲2、甲3の2については、原文は外国語で記載されているため、外国語での摘記箇所に加えて、当審合議体による日本語訳及び/又は注釈(当審合議体注)を記載する。
また、下線は当審合議体が付した。
(1) 甲2に記載された事項
(摘記2)
「
[図:0001413336000001.jpg]
」
(当審合議体注:上記「(摘記2)」には、Kerr社が提供するVertise Flowは、マトリックスを構成する成分として、GPDM接着モノマー、UDMA、BisGMA、その他メタクリレートコモノマー、及び光重合開始剤を含み、70重量%を占めるフィラーとして、フッ化イットリウム、バリウムアルミノシリケートガラス、重合フィラー及びコロイダルシリカを含むことが記載されている(3頁Table 1の「Vertise Flow(Kerr,USA)」欄)。)
(2) 甲3の2に記載された事項
(摘記3の2)
「The Power Behind Vertise Flow:
OptiBond Adhesive Technology
One common element in all Kerr bonding agents is the GPDM adhesive monomer, a phosphate functional group that creates a chemical bond with the calcium ions of the tooth. GPDM monomers ensure a tenacious bond to both dentin and enamel, evidenced by the strength known to all generations of the OptiBond adhesive family. A GPDM adhesive monomer acts like a coupling agent. On one hand, it has an acidic phosphate group for etching the tooth structure and also for chemically bonding to the calcium ions within the tooth structure. On the other hand, it has two methacrylate functional groups for copolymerization with other methacrylate monomers to provide increased crosslinking density and enhanced mechanical strength for the polymerized adhesive.
[図:0001413336000002.jpg]
」
「Vertise Flow を支える力
OptiBond 接着技術
Kerrのすべてのボンディング材に共通する要素の1つは、歯のカルシウムイオンと化学結合を形成するリン酸官能基を有する、GPDM接着モノマーを含むことである。GPDMモノマーは、OpitiBond接着剤ファミリーのすべての世代について知られている強度によって証明されているように、象牙質及びエナメル質の両方への強力な接着を保証する。GPDM接着モノマーはカップリング剤のように機能する。一方では、歯の構造をエッチングし、また、歯の構造内のカルシウムイオンに化学的に結合するための酸性リン酸基を持っている。他方では、他のメタクリレートモノマーと共重合するための2つのメタクリレート官能基を備えており、重合した接着剤の架橋密度が増加し、機械的強度が向上する。」(2頁)
(当審合議体注:「GPDM Adhesive Monomer」の化学構造は省略した。)
(3) 甲4に記載された事項
(摘記4)
「 グラスアイオノマーセメント(GIセメント)は,シリケートセメントに代わる審美性を有する充填用セメント材料として期待されてきた.・・・.
Mathis6)らによるGI液成分にレジン成分を添加させたGIセメントが報告されて以来,液成分に対する改良,特に最近では,親水性レジン成分を添加して光重合性を付与させたレジン添加型のGIセメント(RMGIセメント)が開発され,大きな期待を集めている.・・・.」(42頁「緒言」)
(4) 甲5に記載された事項
(摘記5)
「 グラスアイオノマーセメント(以後GI)は、1971年にケイ酸セメントの研究で有名な英国のA.D.Wilsonが、B.E.Kentと共同で開発した。・・・。」(257頁「はじめに」)
(5) 甲6に記載された事項
(摘記6)
「Bis-MEPP: 2,2-Bis(4-methacryloyloxyethoxyphenyl)propane, HEMA: 2-Hydroxyethyl methacrylate,
GDMA: Glycerol 1,3Dimethacrylate, UDMA:Urethane dimethacrylate,
TEGDMA: Tri-ethylene-glycol dimethacrylate, Bis-GMA: Bisphenol A glycidyl methacrylate」(139頁の表1の欄外)
(当審合議体注:摘記6の日本語訳は省略した。)
(6) 甲7に記載された事項
(摘記7)
甲7の実施例には、メタアクリル官能性ポリカルボン酸であるポリアクリル酸等、水、ヒドロキシ官能性メタアクリルモノマーであるヒドロキシエチルメタクリレート、光開始剤であるベンジル、塩基性フルオロアルミノシリケートガラス粉末である「IG-90-2578」、を含む二重硬化性ガラスイオノマー歯科用セメントが記載されており、当該二重硬化性ガラスイオノマー歯科用セメントの硬化物も記載されている(実施例の例1~3、特許請求の範囲、2頁左下欄12、13行、4頁左下欄15~20行、4頁右下欄8~11行)。
(7) 甲8に記載された事項
(摘記8)
「エッチング・・・.また,コンポジットレジンの接着の前処理として,歯をリン酸水溶液などで20~60秒間腐食し,歯のエナメル質や象牙細管を露出し,凹凸をつけ接着力の強化を図る操作もエッチングとよんでいる.」(119頁の「エッチング」の項)
(8) 文献Aに記載された事項
(摘記A)
文献Aの実施例6~8等には、α-β不飽和カルボン酸重合体、水、グリシジルメタクリレート又は1,6ヘキサンジオールメタクリレート等の酸基を持たない重合性モノマー、光重合触媒としてのカンファーキノン及びN,N‐ジメチル‐p‐トルイジン、フルオロアルミノシリケートガラス粉末であるガラスB、を含む歯科用グラスアイオノマーセメント液が記載されており、当該歯科用グラスアイオノマーセメント液の硬化体も記載されている(実施例6~8、特に【表1】、【0025】~【0027】、【0037】~【0039】)。
(9) 文献Bに記載された事項
(摘記B)
文献Bの実施例1、2等には、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、光重合開始剤であるカンファーキノン、フルオロアルミノシリケートガラス、α,β不飽和カルボン酸重合体、イオン交換蒸留水を含む、歯科用グラスアイオノマー系セメントが記載されており、当該歯科用グラスアイオノマー系セメントの硬化物も記載されている(【0016】、【0031】~【0035】、【0046】、【0047】)。
第6 取消理由1(進歩性)に対する本件訂正発明1~5についての当審合議体の判断
1 本件訂正発明1について
(1) 本件訂正発明1と甲1A発明との対比
甲1A発明の「Kerr社が提供するVertise Flowと称される、自己接着性歯科用コンポジット」において、上記第5の2(1)より、当該「Vertise Flow」は、「マトリックスを構成する成分として、GPDM接着モノマー、UDMA、BisGMA、その他メタクリレートコモノマー、及び光重合開始剤を含み、70重量%を占めるフィラーとして、フッ化イットリウム、バリウムアルミノシリケートガラス、重合フィラー及びコロイダルシリカを含む」ものであるといえる(第5の2(1)の(摘記2))。
また、上記「GPDM接着モノマー」は、上記第5の2(2)より、
「
[図:0001413336000003.jpg]
」
という化学構造を有する化合物である(第5の2(2)の(摘記3の2))。
そして、上記「UDMA」、「Bis-GMA」は、上記第5の2(5)より、それぞれ「Urethane dimethacrylate」、「Bisphenol A glycidyl methacrylate」を意味するといえる(第5の2(5)の(摘記6))。
そうすると、甲1A発明は、
「Kerr社が提供するVertise Flowと称される、自己接着性歯科用コンポジットであって、マトリックスを構成する成分として、
「
[図:0001413336000004.jpg]
」
という化学構造を有するGPDM接着モノマー、Urethane dimethacrylate、Bisphenol A glycidyl methacrylate、その他メタクリレートコモノマー、及び光重合開始剤を含み、70重量%を占めるフィラーとして、フッ化イットリウム、バリウムアルミノシリケートガラス、重合フィラー及びコロイダルシリカを含み、GI又はRMGI上で使用可能な自己接着性歯科用コンポジット。」
であるといえる。
また、甲1A発明の「自己接着性歯科用コンポジット」は本件訂正発明1の「コンポジットレジン」を有する「歯科用修復材」に相当し、甲1A発明の「GPDM接着モノマー」は本件訂正発明1の「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」に相当する。
そして、甲1A発明の「Urethane dimethacrylate」及び「Bisphenol A glycidyl methacrylate」は、本件明細書の【0059】にウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレートやビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート等が例示されるとおり、本件訂正発明1の「酸基を有さない(メタ)アクリレート」に相当する。
なお、令和6年2月9日提出の意見書において、特許権者は、甲1及び甲2に記載の「Vertise Flow」は同一である旨の記載はないこと、甲1及び甲2は実施品そのものではなく、それぞれ異なった時期に公知となったものであること、を理由に、甲1に記載の「Vertise Flow」の組成を、甲2を根拠に認定することは適切ではない旨を主張しているが(3頁の「なお、・・・」の段落参照)、甲1が公開された2016年4月と甲2が受領された2016年11月との間には、半年程度の期間が存在するのみであること、製造販売に承認が必要な歯科材料の分野において、同一の商品名で販売されている製品の成分は一致することが通常であると考えられること、甲1及び甲2の「Vertise Flow」に関する記載について矛盾する点がないこと、から、当該主張は採用できない。
よって、本件訂正発明1と甲1A発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「コンポジットレジンを有し、
前記コンポジットレジンは、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、リン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、歯科用修復材。」
<相違点1>
本件訂正発明1は、「コンポジットレジン」が、「グラスアイオノマーセメント」とセットになった、「歯科用修復材セット」であるのに対し、甲1A発明は、そのようなものではない点。
<相違点2>
本件訂正発明1は、「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」が「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含む」ものであるのに対して、甲1A発明は、「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」が「GPDM接着モノマー」であって、本件訂正発明1で特定されるようなものではない点。
(2) 相違点1についての判断
甲1A発明は、「GI又はRMGI上で使用可能な自己接着性歯科用コンポジット」であり、上記第5の2(3)、(4)より、歯科材料の技術分野において「GI」及び「RMGI」は、それぞれ、「グラスアイオノマーセメント」及び「レジン添加型のグラスアイオノマーセメント」を意味することは本件特許の優先日当時の技術常識(以下「技術常識」という。)である(第5の2(3)の(摘記4)、2(4)の(摘記5))。
そうすると、甲1A発明の「自己接着性歯科用コンポジット」は、「歯科用修復材」として使用する際に、「グラスアイオノマーセメント」や「レジン添加型のグラスアイオノマーセメント」上で使用可能なものであるから、「グラスアイオノマーセメント」や「レジン添加型のグラスアイオノマーセメント」と共に「歯科用修復材セット」として、甲1A発明を相違点1に係る本件訂正発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる。
(3) 相違点2についての判断
ア 甲1A発明である「Vertise Flow」はKerr社が提供する製品であって、上記(1)で説示したように、「マトリックスを構成する成分として、GPDM接着モノマー、UDMA、BisGMA、その他メタクリレートコモノマー、及び光重合開始剤を含み、70重量%を占めるフィラーとして、フッ化イットリウム、バリウムアルミノシリケートガラス、重合フィラー及びコロイダルシリカを含む」ものであるといえる(第5の2(1)の(摘記2))。
イ また、甲3の2には、「Vertise Flow を支える力」という欄において、「Kerrのすべてのボンディング材に共通する要素の1つは、歯のカルシウムイオンと化学結合を形成するリン酸官能基を有する、GPDM接着モノマーを含むことである。GPDMモノマーは、OpitiBond接着剤ファミリーのすべての世代について知られている強度によって証明されているように、象牙質及びエナメル質の両方への強力な接着を保証する。」と記載されているように、「GPDM接着モノマー」は、「Vertise Flow」において接着力を保証する成分であったといえる(第5の2(2)の(摘記3の2))。
そして、甲3の2には、
「
[図:0001413336000005.jpg]
」
が記載されており(第5の2(2)の(摘記3の2))、当該図には、「Phospate functional group for etching and adhesive property(当審合議体による日本語訳:エッチング性と接着性を発揮するリン酸基)」及び「Two methacrylate funcional groups for copolymerization/crosslinking with other methacrylate co-monomers(当審合議体による日本語訳:他のメタクリレートコモノマーとの重合/架橋のための2つのメタクリレート官能基)」との記載があるから、「GPDM接着モノマー」が接着力を保証するための化学構造的な特徴について、リン酸モノエステル構造であるリン酸基を有すること、及び、2つのメタクリレート基を有することが、明示されている。
ウ ここで、申立人が令和6年3月27日提出の意見書に添付して提出した文献C~H(下記5(1)を参照。)の記載から、歯科材料の分野において、「MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート)」の使用は、それによる優れた接着強度等とともに本件特許の優先日当時の周知技術(以下「周知技術」という。)であったといえる。なお、申立人は、歯科材料の分野において、「P-2M:ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート」の使用が本件特許の優先日当時の周知技術であったことを示す証拠は提示していない。
エ しかし、上記イで説示したとおり、「GPDM接着モノマー」は、甲1A発明である「Vertise Flow」の接着力を保証する成分であり、その接着力を保証するための化学構造的な特徴は、リン酸モノエステル構造であるリン酸基を有し、かつ2つのメタクリレート基を有することであるのに対し、文献C~Hに記載されている「MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート)」はメタクリレート基を1つだけ有しており、「P-2M(ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート)」は、リン酸モノエステル構造ではなくリン酸ジエステル構造であるリン酸基を有している点で、いずれも「GPDM接着モノマー」と主要な化学構造が異なるモノマーである(「MDP」及び「P-2M」の化学構造は、下記(当審合議体注)を参照。)。
そして、甲1及び他の証拠の記載、並びに周知技術及び技術常識を参酌しても、甲1A発明における必須成分であることが明らかな「GPDM接着モノマー」を、その主要な化学構造が「GPDM接着モノマー」とは異なる「MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート)」又は「P-2M(ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート)」に変更する動機付けがあるとはいえない。
(当審合議体注:「MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート)」及び「P-2M(ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート)」の化学構造は以下である。
・MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート)
[図:0001413336000006.jpg]
・P-2M(ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート)
[図:0001413336000007.jpg]
)
オ そうすると、甲1A発明である「Vertise Flow」において接着力を保証する成分であり、必須成分である「GPDM接着モノマー」を、主要な化学構造が「GPDM接着モノマー」とは異なる「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート」又は「10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート」に変更することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
カ また、申立人が提出した甲7、8及び当審合議体が職権で追加した文献A、Bには、上記第5の2(6)~(9)で示した記載があるのみであり、これらの文献を参酌しても、上記オで示した判断に影響はない。
(4) 以上のとおりであるから、甲1A発明、並びに甲1~6及び文献C~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識、さらには、文献A、B、甲7、8を参酌しても、甲1A発明を相違点1、2に係る本件訂正発明1の構成をすべて備えたものとすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(5) 本件訂正発明1の効果について
ア 本件明細書には、本件訂正発明1で「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」として「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含む」ことが特定されていることについて、【0142】~【0144】に実施例及び比較例の以下の記載がある。
「【0142】
【表1】
[図:0001413336000008.jpg]
表1から、実施例1~6の歯科用修復材セットを用いると、グラスアイオノマーセメントの硬化体に対するコンポジットレジンの硬化体の接着性が高く、辺縁漏洩が発生していないことがわかる。ここで、実施例1、2、4~6の歯科用修復材セットは、ボンディング材を有さないが、グラスアイオノマーセメントの硬化体に対するコンポジットレジンの硬化体の接着性が高く、辺縁漏洩が発生していない。
【0143】
これに対して、比較例1の歯科用修復材セットは、ボンディング材と、酸基を有する(メタ)アクリレートを含まないコンポジットレジンを有するため、歯を修復する手順が煩雑になる。
【0144】
また、比較例2、3の歯科用修復材セットは、ボンディング材を有さず、酸基を有する(メタ)アクリレートを含まないコンポジットレジンを有するため、グラスアイオノマーセメントの硬化体に対するコンポジットレジンの硬化体の接着性が低く、辺縁漏洩が発生する。」
(当審合議体注:本件明細書中【0127】に示されるとおり、上記【表1】中で、「P-2M」は「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート」を、「MDP」は「10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート」をそれぞれ意味する。)
イ 上記アより、本件明細書には、本件訂正発明1で「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」として「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含む」ことが特定されたことにより、ボンディング材を使用せずとも、グラスアイオノマーセメントの硬化体に対するコンポジットレジンの硬化体の接着性が高く、辺縁漏洩が発生しない、という優れた効果が奏されたことが記載されているといえる。そして、本件訂正発明1の効果は、甲1~8及び文献A~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識からみても、当業者が予測することができたとはいえない。
(6) 小括
上記(1)~(5)のとおり、本件訂正発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえず、本件訂正発明1により優れた効果が奏されるのであるから、本件訂正発明1は、甲1A発明、並びに甲1~8及び文献A~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本件訂正発明2~5について
本件訂正発明2~5は、いずれも本件訂正発明1の構成を備えたものであるから、上記1で説示した理由と同様に、甲1A発明、並びに、甲1~8及び文献A~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 本件訂正発明6について
(1) 本件訂正発明6と甲1B発明との対比
甲1B発明の「Kerr社が提供するVertise Flowと称される、自己接着性歯科用コンポジット」は、上記1(1)で説示したとおり、「マトリックスを構成する成分として、
「
[図:0001413336000009.jpg]
」
という化学構造を有するGPDM接着モノマー、Urethane dimethacrylate、Bisphenol A glycidyl methacrylate、その他メタクリレートコモノマー、及び光重合開始剤を含み、70重量%を占めるフィラーとして、フッ化イットリウム、バリウムアルミノシリケートガラス、重合フィラー及びコロイダルシリカを含」むものであるといえ、さらに、甲1B発明の「GI」及び「RMGI」は、上記1(2)で説示したとおり、それぞれ、「グラスアイオノマーセメント」及び「レジン添加型のグラスアイオノマーセメント」を意味するといえる。
そうすると、甲1B発明は、
「Kerr社が提供するVertise Flowと称される、自己接着性歯科用コンポジットであって、マトリックスを構成する成分として、
「
[図:0001413336000010.jpg]
」
という化学構造を有するGPDM接着モノマー、Urethane dimethacrylate、Bisphenol A glycidyl methacrylate、その他メタクリレートコモノマー、及び光重合開始剤を含み、70重量%を占めるフィラーとして、フッ化イットリウム、バリウムアルミノシリケートガラス、重合フィラー及びコロイダルシリカを含むもの、をグラスアイオノマーセメント又はレジン添加型のグラスアイオノマーセメント上に配置し、光硬化させた歯科用硬化体。」
であるといえる。
そして、甲1B発明の「自己接着性歯科用コンポジット」を「グラスアイオノマーセメント又はレジン添加型のグラスアイオノマーセメント上に配置し、光硬化させた歯科用硬化体」は、本件訂正発明6の「歯の所定の領域に」、「グラスアイオノマー」が形成され、「前記領域」の、「グラスアイオノマーセメント上」に「コンポジットレジンが硬化したコンポジットレジンの硬化体が形成されてな」る「歯科用硬化体」に相当し、甲1B発明の「GPDM接着モノマー」及び「Urethane dimethacrylate、Bisphenol A glycidyl methacrylate」は、それぞれ本件訂正発明6の「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」及び「酸基を有さない(メタ)アクリレート」に相当する。
よって、本件訂正発明6と甲1B発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「歯の所定の領域に、グラスアイオノマーセメントが形成され、
前記領域に、前記グラスアイオノマーセメント上でコンポジットレジンが硬化したコンポジットレジンの硬化体が形成されてなり、
前記コンポジットレジンは、酸基を有さない(メタ)アクリレートと、リン酸基を有する(メタ)アクリレートを含む、歯科用硬化体。」
<相違点3>
本件訂正発明6は、「歯科用硬化体」が、「歯の所定領域」に形成した「グラスアイオノマーセメントが硬化したグラスアイオノマーセメントの硬化体」上で、「コンポジットレジンが硬化したコンポジットレジンの硬化体」が形成されてなるもの、であるが、甲1B発明は、「歯科用硬化体」が、「自己接着性歯科用コンポジット」を「グラスアイオノマーセメント又はレジン添加型のグラスアイオノマーセメント上に配置し、光硬化させた」もの、であって、「グラスアイオノマーセメント又はレジン添加型のグラスアイオノマーセメント」が「硬化体」であるのか不明な点。
<相違点4>
本件訂正発明6は、「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」が「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイド「ロジェンホスフェートを含む」ものであるのに対して、甲1B発明は、「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」が「GPDM接着モノマー」であって、本件訂正発明6で特定されるようなものではない点。
(2) 相違点3についての判断
歯科用修復材において、上記第5の2(6)、(8)及び(9)で示したように、「グラスアイオノマーセメント」は硬化して使用するものであることは周知技術であり(上記第5の2(6)の(摘記7)、(8)の(摘記A)及び(9)の(摘記B))、甲7、文献A及びBに記載された本件優先日当時の周知技術から、甲1B発明の「歯科用硬化体」を、歯の所定領域に形成した「グラスアイオノマーセメント又はレジン添加型のグラスアイオノマーセメント」の硬化体の上で「自己接着性歯科用コンポジット」を「光硬化させ」た硬化体として、相違点3に係る本件訂正発明6の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たといえる。
(3) 相違点4についての判断
上記1(3)で説示した事項と同様の理由により、甲1B発明である「Vertise Flow」において接着力を保証する成分であり、必須成分である「GPDM接着モノマー」を、主要な化学構造が「GPDM接着モノマー」とは異なる「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート」又は「10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート」に変更することは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、申立人が提出した甲8には、上記第5の2(7)で示した記載があるのみであり、甲8を参酌しても、上記で示した判断に影響はない。
(4) 以上のとおりであるから、甲1B発明、並びに甲1~7、文献A~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識、さらには、甲8を参酌しても、甲1B発明を相違点3、4に係る本件訂正発明6の構成をすべて備えたものとすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(5) 本件訂正発明6の効果について
上記1(5)で説示した事項と同様であり、本件明細書には、本件訂正発明6で「リン酸基を有する(メタ)アクリレート」として「ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート又は10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含む」ことが特定されたことにより、ボンディング材を使用せずとも、グラスアイオノマーセメントの硬化体に対するコンポジットレジンの硬化体の接着性が高く、辺縁漏洩が発生しない、という優れた効果が奏されたことが記載されているといえる。そして、本件訂正発明6の効果は、甲1~8及び文献A~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識からみても、当業者が予測することができたとはいえない。
(6) 小括
上記(1)~(5)のとおり、本件訂正発明6の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえず、本件訂正発明6により優れた効果が奏されるのであるから、本件訂正発明6は、甲1B発明、並びに甲1~8及び文献A~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 本件訂正発明7~9について
本件訂正発明7~9は、いずれも本件訂正発明6の構成を備えたものであるから、上記3に説示した理由と同様に、甲1B発明、並びに、甲1~8、文献A~Hに記載された事項(周知技術)及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 令和6年3月27日提出の意見書における申立人の主張について
(1) 申立人は、下記に示す文献C~Hを示し、コンポジットレジン等の歯科用修復材の技術分野において、本件特許の優先日当時、MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート)の使用は、それによる優れた接着強度等と共に周知であった旨を説明し、特に、文献Gにおいては、歯科用修復材において、GPDMに代えてMDPを使用することにより接着強度が向上するデータが示されていること(【表2】の実施例11及び実施例13)を説明して、甲1A発明及び甲1B発明において、GPDM接着モノマーを、MDPに置き換える程度のことは当業者であれば、何ら困難なく想到できた範囲にある旨を主張する(4頁「(3)訂正請求による相違点の検討」)。
<申立人追加文献一覧>
文献C:特開2012-171885号公報(特に、【表1】、【表2】、【0017】、【0023】、【0083】、【0089】~【0092】、【0095】参照)
文献D:特開2009-40772号公報(特に、【表1】、【表2】、【表4】、【表5】、【0063】、【0064】、【0068】参照)
文献E:国際公開第2016/042770号(特に、[表1]、[表4]、[0098]、[00099]、[0202]参照)
文献F:特開2003-12430号公報(特に、【表1】、【表3】、【0010】、【0011】参照)
文献G:特開2011-126830号公報(特に、【請求項1】、【0074】、【表1】、【表2】の実施例11、13参照)
文献H:国際公開第2018/187375号(特に、claim1~3参照)
(2) しかしながら、当該主張は、上記1(1)で説示した相違点2及び、上記3(1)で説示した相違点4に関連する主張であり、その判断については、それぞれ上記1(3)及び上記3(3)で説示したとおりである。
(3) なお、申立人が文献Gにて示す、歯科用修復材において、GPDMに代えてMDPを使用することにより接着強度が向上すると説明する点は、文献Gの実施例11及び13を根拠とするものであるが、これらにおける接着性は牛の前歯に対する接着強度であって(文献Gの【0074】参照)、本件訂正発明のように、グラスアイオノマーに対する接着強度を示すものではないし、「マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤である酸性基を有するアミノ化合物(A)」を必須成分として含む歯科用接着材についての結果にすぎない(文献Gの【請求項1】参照)。
(4)以上のとおりであるから、申立人による上記(1)の主張を採用することはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、令和5年12月8日付け取消理由通知に記載した取消理由1(進歩性)及び特許異議申立書に記載した申立理由1によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701013