特許異議申立
2023-700377
歯科用組成物
- 審判番号
- 2023-700377
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-547940
- 登録番号
- 7153736
- 請求日
- 2023年04月14日
- 審決日
- 2024年10月09日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ジーシー
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【異議申立人】中丸 剛
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 岩下 直人
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7153736号発明「歯科用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7153736号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
特許第7153736号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第7153736号)は、平成31年4月22日を国際出願日とする出願(特願2020-547940号、優先権主張 平成30年9月26日(JP)日本国)であって、令和4年10月5日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年10月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和5年4月14日に、本件請求項1~2に係る特許に対し、特許異議申立人 中丸剛(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
以降の手続の経緯の概要は次のとおりである。
令和5年 6月29日付け 取消理由通知
同年 9月 4日付け 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年10月27日付け 意見書の提出(申立人)
令和6年 3月21日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月20日付け 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 6月10日付け 手続補正書(方式)(令和6年5月20日付けの訂正請求書の項目「6」及び「7」「(2)」についての手続補正)(特許権者)
令和6年6月14日付けで、申立人に対し期間を指定して訂正の請求があった旨の通知をしたが(特許法120条の5第5項)、期間内に申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨及び訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和6年5月20日付けの訂正請求書及び令和6年6月10日付け手続補正書(方式)(令和6年5月20日付け訂正請求書の項目「6」及び「7」「(2)」についての手続補正)によれば、特許権者が行った訂正請求は、「特許第7153736号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。
そして、上記訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「紫外線吸収剤及び蛍光剤を含有し、」と記載されているのを、「紫外線吸収剤、蛍光剤、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有し、」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「1種以上である、歯科用組成物」と記載されているのを、「1種以上であり、前記蛍光剤の含有量は、前記(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012質量%以下である、歯科用組成物」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「歯科用組成物。」と記載されているのを、「歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合、及び、歯科用組成物が、波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。」に訂正する。
エ 上記訂正事項1~3に関し、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。
なお、本件訂正は、訂正前の請求項1~2についてのものであるところ、訂正前の請求項2は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1~2は、一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び新規事項の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の歯科用組成物が、さらに「光重合開始剤及び光重合促進剤」を含有することを特定し、歯科用組成物の組成を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、本件特許の願書に添付した明細書(特許掲載公報)の【0038】に「歯科用組成物は、充填剤、光重合開始剤、光重合促進剤等をさらに含有してもよい。」と記載され、【実施例】(【0053】~【0064】、特に、【0055】)において、「光重合開始剤(0.2質量部)及び光重合促進剤(0.5質量部)を添加し、・・・ペースト状のコンポジットレジンを得た。」と記載されているから、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加にも該当しない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1では、歯科用組成物中の「蛍光剤」の含有量については特定されていなかったのを、蛍光剤の含有量を特定し、歯科用組成物を蛍光剤の含有量が特定のものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、本件特許の願書に添付した明細書の【0037】に「歯科用組成物中の蛍光剤の含有量は、(メタ)アクリレートに対して、0.0001~20質量%であることが好ましく、0.0005~1質量%であることがさらに好ましい。」と記載され、実施例8として、「(メタ)アクリレート」に相当するBis-GMA(60質量部)、3G(20質量部)及びNPG(20質量部)の合計100質量部(【0055】及び【0058】)に対する「蛍光剤」の添加量が「0.012質量部」(つまり、「(メタ)アクリレート」に対して「0.012質量%」)である歯科用のコンポジットレジンが記載されている(【0054】~【0063】、特に、【0063】の【表1】)から、訂正事項2よる訂正は、新規事項の追加にも該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1の「歯科用組成物」を、歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合、及び、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除くものとして、組成物を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、本件特許の願書に添付した明細書の【0016】には、「(メタ)アクリレートは、酸性基を有さないことが好ましい」と記載されているし、【0020】には、「紫外線吸収剤は、紫外線領域に極大吸収を有するが、波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さない」と記載されているから、訂正事項3による訂正は、新規事項の追加にも該当しない。
(4)訂正前の請求項1を引用する請求項2ついての訂正事項1~3についての判断も同様である。
(5)独立特許要件について
特許異議申立てのなされた請求項1~2については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~2についての本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、令和6年5月20日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~2に係る発明は、令和6年5月20日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
(メタ)アクリレート、紫外線吸収剤、蛍光剤、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有し、
前記紫外線吸収剤は、波長が320nmを超え、500nm 以下である領域に極大吸収を有さず、
前記蛍光剤は、一般式
【化1】
[図:0001418194000001.jpg]
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子、アミノ基又は水酸基であり、R6及びR7は、それぞれ独立に、アルキル基である。)
で表される化合物、及びo-フタルアルデヒドのうち1種以上であり、
前記蛍光剤の含有量は、前記(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012質量%以下である、
歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合、及び、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤は、一般式
【化2】
[図:0001418194000002.jpg]
(式中、R1は、炭素数1~30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は、炭素数1~30の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基である。)
で表される化合物、4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-エチルヘキシル、及び4-アミノ安息香酸のうち1種以上である、請求項1に記載の歯科用組成物。」
以下、請求項の項番に応じて「本件訂正発明1」等といい、本件訂正発明1~2をまとめて「本件訂正発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)の概要及び申立人が提出した証拠方法は以下のとおりである。なお、以下の申立理由は設定登録時の請求項に係る発明に対してのものである。
・申立理由1
条文:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)(サポート要件違反)
対象:請求項1~2
理由の概要:請求項1~2に係る発明については、紫外線吸収剤の種類(申立理由1ア)、紫外線吸収剤の含有量(申立理由1イ)、蛍光剤の含有量(申立理由1ウ)及び光重合性(申立理由1エ)の点においてサポート要件を満たしていない。
・申立理由2
条文:特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)(実施可能要件違反及び委任省令要件違反)
対象:請求項1~2
理由の概要:発明の詳細な説明の記載は、請求項1~2に係る発明について、紫外線吸収剤の種類(申立理由2(ア-1))、紫外線吸収剤の含有量(申立理由2(ア-2))、蛍光剤の含有量(申立理由2(ア-3))及び光重合性(申立理由2(ア-4))の点において実施可能要件を満たしていない。
また、本件明細書の実施例では、光安定性を色差△E*で評価しているが、評価基準の記載はないし、実施例1~9と比較例1~3における色差△E*の範囲は、区別できる程度に異なっておらず、本件明細書に、請求項1~2に係る発明により、光安定性に優れるとの課題が解決されたかについての記載がないから、本件明細書は、請求項1~2に係る発明について、経済産業省で定めるところにより記載されたものであるとはいえない(申立理由2イ)。
・申立理由3
条文:特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)(新規性欠如)
対象:請求項1
証拠:甲第1号証
理由の概要:請求項1に係る発明は、甲第1号証の比較例1~4(合議体注:異議申立書27頁1行では、「比較例1乃至5」と記載されているが、成分からみて、正しくは「比較例1~4」を意味すると解される。)に記載の発明である。
・申立理由4
条文:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)(進歩性欠如)
対象:請求項1~2
証拠:甲第1号証~甲第5号証(主引例は甲第1号証、甲第3号証又は甲第4号証)
理由の概要:
申立理由4-1:請求項2;主引例は甲第1号証、副引例は甲第5号証
申立理由4-2:請求項1;主引例は甲第3号証、副引例は甲第1号証
請求項2;主引例は甲第3号証、副引例は甲第1号証及び
甲第5号証
申立理由4-3:請求項1;主引例は甲第4号証、副引例は甲第1号証
請求項2;主引例は甲第4号証、副引例は甲第1号証及び
甲第5号証
・証拠方法
甲第1号証:特開2014-15408号公報
甲第2号証:特開2016-166138号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2016/0081885号明細書
甲第4号証:特開2009-161533号公報
甲第5号証:特表2003-524648号公報
以下、甲第1号証~甲第5号証を証拠番号に準じて「甲1」~「甲5」と記載する。
2 令和5年6月29日付けの取消理由の概要
令和5年6月29日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下、「先の取消理由」ともいう。)の概要は、次のとおりである。なお、先の取消理由は設定登録時の請求項に係る発明に対してのものである。
・取消理由A(職権で合議体が通知)
条文:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)(明確性要件違反)
対象:請求項1~2
理由の概要:請求項1~2に係る発明の歯科用組成物が「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤」を含む態様を包含しているのか不明である。
・取消理由B(申立理由1アと同趣旨)
条文:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)(サポート要件違反)
対象:請求項1~2
理由の概要:請求項1~2に係る発明の歯科用組成物が「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤」を含む態様を包含している場合は、サポート要件を満たしていない。
・取消理由C(申立理由3と同趣旨)
条文:特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)(新規性欠如)
対象:請求項1
証拠:甲1
理由の概要:請求項1に係る発明は、甲1の比較例1~4に記載の発明である。
・取消理由D
条文:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)(進歩性欠如)
対象:請求項1~2
証拠:甲1~甲5(主引例は甲1又は甲4)
理由の概要:
取消理由D1(職権で合議体が通知):請求項1;主引例は甲1
取消理由D2(申立理由4-3と同趣旨):
請求項1;主引例は甲4、副引例は甲1
請求項2;主引例は4、副引例は甲1
3 取消理由(決定の予告)の概要
令和6年3月21日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由(以下単に「決定の予告」という。)の概要は、次のとおりである。なお、以下の取消理由は、令和5年9月4日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載の発明に対してのものであり、以下、令和5年9月4日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1等に記載の発明を「本件発明1」といい、本件発明1~2を併せて「本件発明」ともいう。
(1)取消理由1(明確性要件違反1;先の取消理由の取消理由Aと同趣旨)
本件特許は、組成物に含まれる紫外線吸収剤の種類に関し、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(明確性要件違反2;職権で通知する取消理由)
本件特許は、組成物に含まれる(メタ)アクリレートの種類に関し、特許請求の範囲の記載に不備があり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)取消理由3(サポート要件違反1;先の取消理由の取消理由B及び申立理由1アと同趣旨)
本件特許は、紫外線吸収剤が特定の種類である場合の本件発明に関し、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)取消理由4(サポート要件違反2;申立理由1エと同趣旨)
本件特許は、光重合開始剤及び光重合促進剤が含まれない場合の本件発明に関し、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)取消理由5(甲4を主引例、甲1を副引例とする進歩性欠如;先の取消理由の取消理由D2、申立理由4-3と同趣旨)
本件発明1~2は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲4に記載された発明、並びに甲1及び甲4に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、それらの発明に係る特許は取り消されるべきものである。
第5 合議体の判断
以下において下線は合議体が付した。以下この決定中において同様である。また、証拠の摘記においては、一部を除き原則全角で統一して記載した。
第5-1 決定の予告における取消理由1~5についての合議体の判断
1 取消理由1(明確性要件違反1;取消理由Aと同趣旨)について
取消理由1は、請求項1~2の記載からは、本件発明1~2の「歯科用組成物」が、「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有」する「紫外線吸収剤」を含有する態様も包含しているのか、否かが明らかではないから本件発明1~2は明確ではないというものである。
これに対し、本件訂正後の請求項1には、「歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合、及び、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。」と記載されており、本件訂正発明1の歯科組成物が「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤」を含有する態様を包含していないことは当業者に明らかであり、この点において、本件訂正発明1は明確といえる。また、請求項1を引用する本件訂正発明2についても同様である。
したがって、取消理由1には理由がない。
2 取消理由2(明確性要件違反2)について
取消理由2は、請求項1~2の記載からは、本件発明1~2の「歯科用組成物」が、「酸性基を有する(メタ)アクリレート」を含有する態様も包含しているのか、否かが明らかではないから本件発明1~2は明確ではないというものである。
これに対し、本件訂正後の請求項1には、「歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合、及び、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。」と記載されており、本件訂正発明1の歯科組成物が「酸性基を有する(メタ)アクリレート」を含有する態様を包含していないことは当業者に明らかであり、この点において、本件訂正発明1は明確といえる。また、請求項1を引用する本件訂正発明2についても同様である。
したがって、取消理由2にも理由がない。
3 取消理由3(サポート要件違反1;取消理由B及び申立理由1アと同趣旨)及び取消理由4(サポート要件違反2;申立理由1エと同趣旨)について
(1)取消理由3(サポート要件違反1)について
取消理由3は、本件発明1~2の「歯科用組成物」が「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有」する「紫外線吸収剤」を含む態様も包含することを前提としたものであるところ、上記1で取消理由1について記載したとおり、本件訂正後の本件訂正発明1~2の歯科組成物は「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤」を含有する態様を包含していないから、歯科組成物が「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤」を含有する態様を包含していることを前提とする取消理由3には理由がない。
(2)取消理由4(サポート要件違反2)について
取消理由4に関し、決定の予告では、概略、以下のとおり指摘した。
ア 取消理由4の概要
(ア) 本件発明の課題は、本件明細書の【0009】の記載からみて、「硬化体の光安定性に優れ、紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、硬化体の蛍光性を天然歯の蛍光性と同等にすることが可能な歯科用組成物を提供する」ことであると解されるところ、本件発明1の「歯科用組成物」は、「硬化体」として使用されるものであり、本件発明1の課題が解決できるといえるためには、その前提として、本件発明の歯科用組成物が硬化体を形成できる必要があるが、本件明細書には、硬化体を形成可能な本件発明の歯科用組成物に関し、もっぱら、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有した歯科用組成物が記載されるのみである(全文、特に、【0045】~【0050】、【0051】~【0064】)。
(イ) また、硬化体とされる歯科用組成物に光重合開始剤及び光重合促進剤(これに相当するDMABEのような成分)を含有させることは、本件特許の出願時の技術常識であったと解される(例えば、甲1の特許請求の範囲及び表1等、甲2の特許請求の範囲及び【0087】等、甲3の請求項1等)。
(ウ) さらに、本件特許の出願時、本件の請求項1に特定される成分を含む歯科用組成物でありさえすれば、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有していなくても、硬化体とすることができることが技術常識であったとは解されないし、かえって、上記技術常識によれば、硬化して使用される歯科用組成物には、通常、これらの成分が含まれている。
(エ) そうすると、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有する点の特定がなく、歯科用材料として好適な硬化体を形成できることが明らかではない本件発明1により、本件発明の課題を解決できるとは解されないから、本件発明1について、サポート要件を満たしているとはいえない。
(オ) 請求項1を引用し、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有する点の特定がない本件発明2についても同様である。
イ 取消理由4についての判断
本件訂正後の本件訂正発明1~2の歯科組成物は「光重合開始剤及び光重合促進剤を含有」するものである。
そして、決定の予告の第5の4(1)で指摘した本件明細書の記載及び上記本件特許の出願時の技術常識によれば、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有する本件訂正発明1の歯科用組成物は歯科用材料として好適な硬化体を形成できるものであるから、歯科用組成物が光重合開始剤及び光重合促進剤を含有しておらず、歯科用材料として好適な硬化体を形成できるとはいえないことを前提とする取消理由4に理由がないことは明らかである。請求項1を引用し、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有する歯科用組成物である本件訂正発明2についても同様である。
(3) 本件発明1~2についてのサポート要件について
ここで、本件訂正後の本件訂正発明1~2の全体について、サポート要件を満足するといえる点について以下に記載する。
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するといえるためには、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載や示唆により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである必要がある。
以下、この観点に立って検討する。
イ 本件訂正発明の課題は、上記のとおり、「硬化体の光安定性に優れ、紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、硬化体の蛍光性を天然歯の蛍光性と同等にすることが可能な歯科用組成物を提供する」ことである。
ウ 本件訂正発明1について
本件訂正発明1が、本件明細書の発明の詳細な説明(以下単に「発明の詳細な説明」という。)の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮して、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであるかについて検討する。
(ア) 本件訂正発明1は、上記第3の請求項1に記載したとおりの以下のものである。
なお、以下において、一般式(1)及び(2)の化学構造式及び置換基定義の記載は省略した。
「(メタ)アクリレート、紫外線吸収剤、蛍光剤、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有し、
前記紫外線吸収剤は、波長が320nmを超え、500nm 以下である領域に極大吸収を有さず、
前記蛍光剤は、一般式(2)で表される化合物、及びo-フタルアルデヒドのうち1種以上であり、
前記蛍光剤の含有量は、前記(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012質量%以下である、
歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合、及び、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。」
(イ) 本件訂正発明の課題の解決手段に関し、発明の詳細な説明には以下の事項が記載されている。
(i)課題を解決するための手段及び発明の効果について
「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、歯科用組成物において、(メタ)アクリレート、紫外線吸収剤及び蛍光剤を含有し、前記紫外線吸収剤は、波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さず、前記蛍光剤は、一般式
【化1】・・・(2)
・・・
で表される化合物、及びo-フタルアルデヒドのうち1種以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、硬化体の光安定性に優れ、紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、硬化体の蛍光性を天然歯の蛍光性と同等にすることが可能な歯科用組成物を提供することができる。」
(ii) (メタ)アクリレートについて
「【0014】
[(メタ)アクリレート]
本明細書及び特許請求の範囲において、(メタ)アクリレートとは、メタクリロイルオキシ基又はアクリロイルオキシ基(以下、(メタ)アクリロイルオキシ基という)を有する化合物(例えば、モノマー、オリゴマー、プレポリマー等)を意味する。
・・・
【0016】
(メタ)アクリレートは、酸性基を有さないことが好ましい。
【0017】
酸性基を有さない(メタ)アクリレートとしては、例えば、・・・等が挙げられる。
・・・
【0019】
本実施形態の歯科用組成物中の(メタ)アクリレートの含有量は、0.5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用組成物中の(メタ)アクリレートの含有量が0.5質量%以上であると、歯科用組成物の接着性が向上し、70質量%以下であると、他の成分の含有量を確保することができるため、歯科用組成物の性能が向上する。」
(iii) 紫外線吸収剤について
「【0003】
コンポジットレジンの硬化体には、天然歯に類似した審美性が求められる。審美性としては、各患者の天然歯の色調とのマッチングが高いことに加えて、紫外線に暴露された際の変色が少ないこと、即ち、光安定性が高いことも重要である。実際に、JIS T 6514では、コンポジットレジンの硬化体を太陽光に10時間暴露した際に、その変色が肉眼で容易に認識できないことが要求されている。
【0004】
このため、コンポジットレジンには、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール化合物が配合されている・・・。
【0005】
また、天然歯は、紫外線を吸収して、微弱な蛍光を発するため、コンポジットレジンには、フタル酸エステル系蛍光剤が配合されている・・・。
【0006】
一方、近年、LEDの発展により、様々な色の光を発するLEDライトが身近になっている。近紫外線は、紫外線よりも人体への影響が少ないことから、医療の現場や街中で、近紫外線LEDライトが多く用いられるようになっている。
・・・
【0008】
・・・フタル酸エステル系蛍光剤は、紫外線及び近紫外線を吸収して、蛍光を発する。一方、ベンゾトリアゾール化合物は、フタル酸エステル系蛍光剤が吸収する紫外線を吸収するが、フタル酸エステル系蛍光剤が吸収する近紫外線を吸収しない。その結果、ベンゾトリアゾール化合物は、フタル酸エステル系蛍光剤の紫外線の吸収を阻害するため、コンポジットレジンの配合を調整しても、コンポジットレジンの硬化体に紫外線及び近紫外線のいずれかを照射した場合のコンポジットレジンの硬化体の蛍光性を、天然歯と同等にすることができないという問題がある。
【0009】
本発明の一態様は、硬化体の光安定性に優れ、紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、硬化体の蛍光性を天然歯の蛍光性と同等にすることが可能な歯科用組成物を提供することを目的とする。」
「【0020】
[紫外線吸収剤]
紫外線吸収剤は、紫外線領域に極大吸収を有するが、波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さない。これにより、本実施形態の歯科用組成物の硬化体に紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、蛍光剤の吸収を阻害しにくくなり、歯科用組成物の硬化体の蛍光性が天然歯の蛍光性と同等になる。
【0021】
紫外線吸収剤は、波長が250nmを超え、320nm以下である領域に極大吸収を有することが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用組成物の硬化体の光安定性がさらに向上する。
・・・
【0023】
紫外線吸収剤は、一般式
【0024】
【化2】・・・(1)(合議体注:一般式(1)の化学構造式とその置換基定義の記載は省略する。)
で表される化合物であることが好ましい。
・・・
【0030】
本実施形態の歯科用組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、(メタ)アクリレートに対して、0.001~30質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用組成物中の紫外線吸収剤の含有量が、(メタ)アクリレートに対して、0.001質量%以上であると、歯科用組成物の硬化体の光安定性がさらに向上し、30質量%以下であると、歯科用組成物の光硬化性が向上する。」
(iv) 蛍光剤について
「【0031】
[蛍光剤]
蛍光剤は、一般式
【0032】
【化3】・・・(2)(合議体注:一般式(2)の化学構造式とその置換基定義の記載は省略する。)
で表される化合物であることが好ましい。
・・・
【0034】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジメチル、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル、2,5-ジアミノテレフタル酸ジメチル、2,5-ジアミノテレフタル酸ジエチル等が挙げられる。
【0035】
一般式(2)で表される化合物以外の蛍光剤としては、例えば、o-フタルアルデヒド等のフタル酸誘導体等が挙げられる。
・・・
【0037】
本実施形態の歯科用組成物中の蛍光剤の含有量は、(メタ)アクリレートに対して、0.0001~20質量%であることが好ましく、0.0005~1質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用組成物中の蛍光剤の含有量が、(メタ)アクリレートに対して、0.0001質量%以上20質量%以下であると、歯科用組成物の硬化体の蛍光性が天然歯の蛍光性にさらに近くなる。」
(v) 光重合開始剤について
「【0045】
[光重合開始剤]
光重合開始剤としては、・・・等が挙げられる。
・・・
【0047】
本実施形態の歯科用組成物中の光重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリレートに対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用組成物中の光重合開始剤の含有量が、(メタ)アクリレートに対して、0.01質量%以上であると、歯科用組成物の光硬化性が向上し、10質量%以下であると、歯科用組成物の硬化体の光安定性がさらに向上する。」
(vi) 光重合促進剤について
「【0048】
[光重合促進剤]
光重合促進剤としては、・・・等が挙げられ、る。(合議体注:原文のまま)
・・・
【0050】
本実施形態の歯科用組成物中の光重合促進剤の含有量は、(メタ)アクリレートに対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用組成物中の光重合促進剤の含有量が、(メタ)アクリレートに対して、0.01質量%以上であると、歯科用組成物の光硬化性が向上し、10質量%以下であると、歯科用組成物の硬化体の光安定性がさらに向上する。」
(vii) 実施例について
【0052】に、歯科用組成物の例として「歯科用コンポジットレジン」が記載され、【実施例】(【0054】~【0064】)には、実施例1~9として、以下のとおり、各種歯科用組成物を調製し、コンポジットレジン硬化体とし、硬化体に紫外線又は近紫外線照射した場合の蛍光性を天然歯の蛍光性と比較した結果及び硬化体の光安定性についての試験結果が記載されている。
「【0054】
[実施例1~9、比較例1~3]
Bis-GMA(60質量部)、3G(20質量部)及びNPG(20質量部)を混合して、モノマー組成物を得た。
【0055】
モノマー組成物(100質量部)に対して、紫外線吸収剤(所定量)、蛍光剤(所定量)、充填剤(325質量部)、光重合開始剤(0.2質量部)及び光重合促進剤(0.5質量部)を添加し、メノウ乳鉢で均一なペーストになるまで混練した後、真空下で脱泡し、ペースト状のコンポジットレジンを得た。
【0056】
なお、紫外線吸収剤及び蛍光剤の添加量を表1に示す。
【0057】
また、モノマー、紫外線吸収剤、蛍光剤、充填剤、光重合開始剤、光重合促進剤の詳細を以下に示す。
【0058】
モノマー
Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
紫外線吸収剤
CDFA:ユビナール3039(BASF製)(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸2-エチルヘキシル)
DMABA:4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-エチルヘキシル
BT:チヌビンP(BASF製)(2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール)
蛍光剤:ルミックスブルーLZ(ハネウェル製)(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル)
充填剤:個数基準のメジアン径0.4μmの3-グリシジルオキシトリメトキシシランにより表面処理されているフルオロアルミノシリケートガラスフィラー
光重合開始剤:(±)-カンファーキノン
光重合促進剤:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル(DMABE)
[コンポジットレジンの硬化体の蛍光性]
前歯1番の形状の型にコンポジットレジンを充填した後、光重合照射器G-ライトプリマ(ジーシー製)を用いて、20秒間光を照射し、歯牙形状のコンポジットレジンの硬化体を得た。
【0059】
コンポジットレジンの硬化体と天然歯を並置した後、蛍光灯及び近紫外線LEDライトを用いて、それぞれ波長365nmの紫外線及び波長405nmの近紫外線を照射し、コンポジットレジンの硬化体の蛍光の発光状態を、天然歯の蛍光の発光状態と対比して観察し、コンポジットレジンの硬化体の蛍光性を評価した。なお、コンポジットレジンの硬化体の蛍光性の判定基準を以下に示す。
【0060】
優:コンポジットレジンの硬化体の蛍光の発光状態が天然歯の蛍光の発光状態と同等である場合
良:コンポジットレジンの硬化体の蛍光の発光状態が天然歯の蛍光の発光状態よりも若干劣るものの、使用上問題が無い場合
不可:コンポジットレジンの硬化体の蛍光の発光状態が天然歯の蛍光の発光状態よりも劣り、使用上問題がある場合
[コンポジットレジンの硬化体の光安定性]
直径15mm、厚さ1mmのリング状の金型にコンポジットレジンを充填した後、ポリプロピレン製のフィルムで圧接した。次に、光重合照射器G-ライトプリマ(ジーシー製)を用いて、リング状の金型の表面及び裏面に、ガラス板を介して、10秒間ずつ、9ヶ所に光を照射し、コンポジットレジンの硬化体(試験片)を得た。次に、リング状の金型から試験片を取り出した後、37℃の乾燥した暗所で24時間保管した。
【0061】
試験片の半分をアルミ箔で覆った後、光チャンバに入れ、37℃の水中に浸漬させた状態で、照度150,000ルクスのキセノン標準白色光源を用いて、24時間紫外線を照射した。このとき、水位を試験片の上方10±3mmに維持した。次に、アルミ箔を取り除いた試験片を37℃の乾燥した暗所で5日間保管した後、測色計(ミノルタ製)を用いて、試験片の非露光部と露光部を測色し、式
ΔE*={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2
ΔL*=L1*-L2*
Δa*=a1*-a2*
Δb*=b1*-b2*
から、色差ΔE*を算出し、試験片の光安定性を評価した。
【0062】
なお、L1*は、試験片の非露光部の明度指数であり、a1*、b1*は、試験片の非露光部の彩度指数である。また、L2*は、試験片の露光部の明度指数であり、a2*、b2*は、試験片の露光部の彩度指数である。
【0063】
【表1】
[図:0001418194000003.jpg]
表1から、実施例1~9のコンポジットレジンは、紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、硬化体の蛍光性が、天然歯の蛍光性と同等である、又は、天然歯の蛍光性よりも若干劣ると共に、硬化体の光安定性に優れることがわかる。
【0064】
これに対して、比較例1~3のコンポジットレジンは、紫外線吸収剤として、波長340nmに極大吸収を有するBTを含有するため、紫外線及び近紫外線のいずれかを照射した場合の硬化体の蛍光性が天然歯の蛍光性よりも劣る。」
(ウ)
上記(イ)(iii)によれば、従来、歯科用組成物には、「蛍光剤」として「紫外線及び近紫外線を吸収して、蛍光を発する」「フタル酸エステル系蛍光剤」を用い、「紫外線吸収剤」として「フタル酸エステル系蛍光剤が吸収する紫外線を吸収するが、フタル酸エステル系蛍光剤が吸収する近紫外線を吸収しない」「ベンゾトリアゾール化合物」(合議体注:甲2の【0086】【表1】に成分「BT」として記載されるとおり、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は「波長が320nmを超え、500nm以下である領域ない(表1では、340nm)に極大吸収を有するものである。)が知られていたが、このような歯科用組成物を用いた場合には、「フタル酸エステル系蛍光剤の紫外線の吸収を阻害するため、・・・コンポジットレジンの硬化体に紫外線及び近紫外線のいずれかを照射した場合のコンポジットレジンの硬化体の蛍光性を、天然歯と同等にすることができないという問題」があった。
これに対し、本件訂正発明では、歯科用組成物に含有させる「紫外線吸収剤」として「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さない」ものを用いることにより、「歯科用組成物の硬化体に紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、蛍光剤の吸収を阻害しにくくなり、歯科用組成物の硬化体の蛍光性が天然歯の蛍光性と同等」になったことが説明されており(上記(イ)(i)(iii))これらの発明の詳細な説明の記載及び(イ)(ii)~(vi)の歯科用組成物の各成分についての説明の記載、並びに(イ)(vii)の実際例の記載(【0063】の【表1】の実施例1~9と比較例1~3の比較、特に、蛍光性及び光安定性の欄の記載及び表1についての【0063】及び【0064】の記載)から、当業者は、「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物を除く」ことが特定され、(メタ)アクリレート、紫外線吸収剤、一般式(2)及びo-フタルアルデヒドのうち1種以上である蛍光剤、光重合開始剤並びに光重合促進剤を含有する歯科材料として好適な硬化体を形成可能な歯科用組成物である本件訂正発明1により、本件訂正発明の課題を解決できることを理解することができる。
したがって、本件訂正発明1はサポート要件を満たすといえる。
エ 請求項1を引用し、本件訂正発明1と同様の発明特定事項を有することになる本件訂正発明2についても同様に、サポート要件を満たすといえる。
オ 以上のとおり、本件訂正発明1~2はサポート要件を満たすものであり、取消理由3及び4には理由がない。
4 取消理由5(甲4を主引例、甲1を副引例とする進歩性欠如;取消理由D2、申立理由4-3と同趣旨)について
(1)甲4に記載された事項及び甲4に記載された発明について
ア 甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
補綴物を歯牙構造に接着する方法であって
(I)接着する際に、最初に歯牙構造または補綴物の接着表面をプライマーまたは接着剤で処理することなく、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物を使用して補綴物の接着表面を直接歯牙構造に接着する工程と、
(II)セメント組成物を光硬化させることによってセメント組成物を硬化させる工程と
を含み、
前記光硬化性一液形自己接着性セメント組成物が、
(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、
(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、
(iii)少なくとも1種の光開始剤、および
(iv)少なくとも1種の充填剤
を含み、
成分(i)と成分(ii)の重量比が約0.5:99.5~約70:30の範囲である、方法。
・・・
【請求項6】
前記セメント組成物が、着色剤、安定剤、UV吸収剤、溶媒、フッ化物放出化合物、抗菌性添加剤、および界面活性剤、ならびにこれらの組合せからなる群から選択される1種以上の成分をさらに含む、請求項1に記載の方法。」
(甲4b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、一液形光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して歯科補綴物を歯にセメント接着する簡素化された方法、およびセメント接着キットに関する。
【背景技術】
【0002】
インレー、オンレー、ベニア、およびクラウンなどの補綴物は、う蝕したまたは変色した歯牙構造を置換して欠陥のある歯牙構造の正常な機能を回復させるために使用される。金合金、ステンレス鋼、および基礎金属の合金(例えば、ニッケル-クロム合金)などの金属材料で作られた補綴物は、十分に耐久性がありセメント接着するのが容易であるが、光学的に不透明であり審美的でない。過去20年間にわたって、セラミック材料、間接複合樹脂、および金属酸化物材料で作られた歯の色をした審美的な補綴物が、それらの比類のない審美性の故に歯科患者および歯科医の双方にとってますます選択したい修復材料となってきた。・・・
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のセメント接着手順を簡素化し、かつ、、歯科医の待ち時間を短縮することが大いに望ましい。これにより、より少ない工程および成分が関与することになるため、セメント接着手順に伴う誤りの危険性を顕著に縮小するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、補綴物を、一液形の光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して、歯牙構造に接着するための簡素化された方法を開示する。・・・」
(甲4c)「【0017】
光開始剤(iii)は、光源に露出されるとフリーラジカルを発生し、かつ、組成物の重合または硬化を引き起こす任意の化合物であってよい。光源は、可視または紫外領域の光を放出する任意の歯科用硬化光でよい。光開始剤の例には、これらだけには限定されないが、ベンゾイン、ベンゾインエーテルおよびエステル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ジケトン化合物、例えばカンファーキノンおよび1-フェニル-1,2-プロパンジオン、モノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、ジアリールヨードニウム塩、およびトリアリールスルホニウム塩、ならびにこれらの組合せが含まれる。加えて、共開始剤を光開始剤と一緒に使用して硬化の効率を高めることができる。共開始剤には、第三級アミンおよびスルフィネート化合物を含む。共開始剤の例には、これらだけには限定されないが、エチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾニトリル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノフェネチルアルコール、ナトリウムベンゼンスルフィネート、およびナトリウムトルエンスルフィネートが含まれる。一実施形態では、光開始剤系にはカンファーキノンと第三級アミンとの組合せが含まれる。第三級アミンの例には、これらだけには限定されないが、エチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾニトリル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノフェネチルアルコールが含まれる。別の実施形態では、光開始剤系には、カンファーキノンと、ビスアシルホスフィンオキシドまたはモノアシルホスフィンオキシドとの組合せが含まれる。一実施形態では、光開始剤は、組成物の約0.01重量%~約10重量%の濃度で存在し得る。別の実施形態では、光開始剤は、組成物の約0.05重量%~約5重量%の濃度で存在し得る。」
(甲4d)「【実施例】
【0037】
すべての実施例で以下の略号を使用する:
AHPMA:3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシ-プロピルメタクリレート
Bis-GMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルプロポキシ)-フェニル]-プロパン
CQ:カンファーキノン
EDMAB:エチル4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸
ETMPTA:3モルのエチレンオキシドを有するエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート
GDMA:グリセリルジメタクリレート
GDMA-P:グリセリルジメタクリレートリン酸またはグリセリルジメタクリレートリン酸二水素
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
MEHQ:4-メトキシフェノール
ODMAB:2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸
PMGDMA:ピロメリット酸無水物とグリセリルジメタクリレートの付加生成物
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
ST-OX-50:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたヒュームドシリカOX-50
ST-BAS:2ミクロンの平均粒径を有しγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたバリウムアルミノボロシリケート充填剤
TS-530:Cabot Corp.によって販売されている表面処理されたヒュームドシリカまたはコロイダルシリカ
UDMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、2,4,4-トリメチルヘキサンジイソシアネートとの反応生成物
UV-9:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン
【0038】
(実施例1)
最初に、以下の成分で均一な樹脂混合物(1A)を作製した:GDMA-P 19.73重量%、HEMA 24.66重量%、GDMA 16.77重量%、ETMPTA 4.93重量%、Bis-GMA 32.56重量%、ODMAB 0.99重量%、CQ 0.30重量%、およびMEHQ 0.06重量%。次いでセメントペースト組成物を以下の成分を一緒にブレンドすることによって作製した:上記の樹脂混合物(1A)32.00重量%、ST-OX-50 1.74重量%、TS-530 2.00重量%、およびST-BAS 64.26重量%。このセメント組成物は35mmのコンシステンシーを有していた。」
イ 甲4に記載された発明
甲4には、(甲4d)の実施例1に着目すると、
「GDMA-P(グリセリルジメタクリレートリン酸またはグリセリルジメタクリレートリン酸二水素) 19.73重量%、
HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート) 24.66重量%、
GDMA(グリセリルジメタクリレート) 16.77重量%、
ETMPTA(3モルのエチレンオキシドを有するエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート) 4.93重量%、
Bis-GMA(2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルプロポキシ)-フェニル]-プロパン) 32.56重量%、
ODMAB(2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸) 0.99重量%、
CQ(カンファーキノン)0.30重量%、及び
MEHQ(4-メトキシフェノール) 0.06重量%
の成分で均一な樹脂混合物(1A)を作製し、
樹脂混合物(1A) 32.00重量%、
ST-OX-50(γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたヒュームドシリカOX-50) 1.74重量%、
TS-530(Cabot Corp.によって販売されている表面処理されたヒュームドシリカまたはコロイダルシリカ) 2.00重量%、及び
ST-BAS(2ミクロンの平均粒径を有しγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたバリウムアルミノボロシリケート充填剤) 64.26重量%
を一緒にブレンドすることによって作製したセメントペースト組成物。」
の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
(2)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲4発明とを対比する。
(ア) 本件訂正発明1の「歯科用組成物」について、本件明細書の【0052】には「本実施形態の歯科用組成物としては、歯科用コンポジットレジン、歯科用接着充填材料、歯科用接着剤、歯科切削用レジン材料等が挙げられる」と記載され、「歯科用接着充填材料、歯科用接着剤」が対象となることが記載されている。
一方、甲4発明の「セメントペースト組成物」は、甲4(甲4b)の【0001】の「本発明は、一液形光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して歯科補綴物を歯にセメント接着する簡素化された方法、およびセメント接着キットに関する」との記載、【0006】の「本発明は、補綴物を、一液形の光硬化性自己接着性セメント組成物を使用して、歯牙構造に接着するための簡素化された方法を開示する」との記載からみて、「歯科用」の「接着剤」として用いることを意図するものと解される。
そうすると、甲4発明の「セメントペースト組成物」は、本件訂正発明1の「歯科用組成物」に相当するといえる。
(イ) 甲4発明の「GDMA-P(グリセリルジメタクリレートリン酸またはグリセリルジメタクリレートリン酸二水素)」、「HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)」、「GDMA(グリセリルジメタクリレート)」、「ETMPTA(3モルのエチレンオキシドを有するエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート)」、「Bis-GMA(2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルプロポキシ)-フェニル]-プロパン)」は、いずれもアクリレート基ないしはメタクリレート(メタクロイル)基を有するものであるから、本件訂正発明1の「(メタ)アクリレート」に相当する。
ここで、上記の「GDMA-P(グリセリルジメタクリレートリン酸またはグリセリルジメタクリレートリン酸二水素)」は、本件訂正発明1において除かれている「酸性基を有する(メタ)アクリレート」に相当する。
(ウ) 甲4発明の「ODMAB(2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸)」は、甲4の(甲4c)では、「共開始剤」とされているが、本件訂正発明1~2の記載や本件明細書の【0020】~【0022】、【0028】の記載からみて、「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さ」ない「紫外線吸収剤」としての性質を当然有すると解されるから、本件訂正発明1の「前記紫外線吸収剤は、波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さず」との本件訂正発明1の発明特定事項を満たすといえる。
(エ) 甲4発明の「CQ(カンファーキノン)」は、甲4の【0017】に「光開始剤系」と記載され、また、本件明細書の【0045】の光重合開始剤の例として記載されていることから、本件訂正発明1の「光重合開始剤」に相当するといえるし、また、甲4発明の「ODMAB(2-(エチルヘキシル)-4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸)」は、甲4の【0017】に「共開始剤」の例として記載されているものであり、「共開始剤を光開始剤と一緒に使用して硬化の効率を高める」とされているから、本件訂正発明1の「光重合促進剤」にも相当するといえる。
(オ) 甲4発明は、本件訂正発明1の「ただし、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く」との特定により除かれる「波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物」に該当するものではなく、この点では相違しない。
そうすると、本件訂正発明1と甲4発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
(メタ)アクリレート、紫外線吸収剤、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有し、
前記紫外線吸収剤は、波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さない、
歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。
<相違点1>
本件訂正発明1では、歯科用組成物が、「蛍光剤」であって「一般式(2)(合議体注:式は省略する。)、及びo-フタルアルデヒドのうち1種以上である」ものを「前記(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012質量%以下」含有するのに対し、甲4発明では、そのような「蛍光剤」を含有していない点。
<相違点2>
本件訂正発明1では、「歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合を除く」ことが特定されているのに対して、甲4発明では、酸性基を有する(メタ)アクリレートであるGDMA-P(グリセリルジメタクリレートリン酸又はグリセリルジメタクリレートリン酸二水素)が含まれる点。
イ 判断
(ア) 相違点1について
上記相違点1について検討する。
甲4の(甲4b)の【0002】には「・・・などの金属材料で作られた補綴物は、十分に耐久性がありセメント接着するのが容易であるが、光学的に不透明であり審美的でない。過去20年間にわたって、セラミック材料、間接複合樹脂、および金属酸化物材料で作られた歯の色をした審美的な補綴物が、それらの比類のない審美性の故に歯科患者および歯科医の双方にとってますます選択したい修復材料となってきた」ことが記載されており、当該記載からは、「歯科用組成物」の技術分野においては、「審美性」の向上は一般的な課題であると解される。
また、甲4と同じく硬化して使用される歯科用組成物に関するものである甲1には、従来技術として、「齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれるペースト状の光硬化型の充填修復材料が、操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。」【0002】)、「歯科用コンポジットレジンを用いた修復は、天然歯と見分けがつかないほどに周囲と調和し、審美性の高い修復が可能であるが、紫外光または短波長の可視光などを発する環境下においては、修復部位が黒く見え、精神的な負担を強いていた。この欠点を改良すべく、上記紫外線吸収剤に加え、蛍光剤をさらに配合することが提案されている。そして、この際に用いる蛍光剤の中でも、フタル酸エステル系のものは入手し易く、天然歯に似た蛍光を発し、格別に審美性に優れる特長を有しているため、有利に使用されている。」(【0005】)と記載されており、「歯科用組成物」の分野においては、従来から、天然歯と見分けがつかず、審美性が高く、また、紫外光または短波長の可視光などを発する環境下においても審美性に優れたものとするために、歯科用組成物に「フタル酸エステル系」の「蛍光剤」が配合されていたし、「フタル酸エステル系」の「蛍光剤」として、本件訂正発明1の一般式(2)と同じ化学式を有するものは、本件特許の優先日前から既知であった(甲1の【0034】~【0037】)。
そうすると、甲4発明の「セメントペースト組成物」において、審美性の向上のために、本件訂正発明1の一般式(2)と同じ化学式を有する「フタル酸エステル系」の「蛍光剤」を適量配合し、本件訂正発明1の相違点1に係る構成を備えたものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。
(イ) 相違点2について
甲4の【0001】~【0005】に記載のとおり、甲4は、従来のセラミック補綴物を歯牙構造にセメント接着するための典型的なセメント接着手順は、面倒で多くの工程を含み、技能の影響を受けやすいことから、一液形光硬化性自己接着性セメント組成物を使用することで、セメント接着手順を簡素化でき、より少ない工程及び成分が関与することで、セメント接着手順に伴う誤りの危険性を顕著に縮小できるようにするための技術に関するものである。
そして、甲4には、請求項1に以下の記載があるところ、甲4発明のセメントペースト組成物は、甲4の請求項1に記載の「セメントペースト組成物」の具体的な態様に相当するものである。
「【請求項1】
補綴物を歯牙構造に接着する方法であって
(I)接着する際に、最初に歯牙構造または補綴物の接着表面をプライマーまたは接着剤で処理することなく、セメントペースト組成物を使用して補綴物の接着表面を直接歯牙構造に接着する工程と、
(II)セメント組成物を光硬化させることによってセメント組成物を硬化させる工程と
を含み、
前記光硬化性一液形自己接着性セメント組成物が、
(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー、
(ii)少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも1種の非酸性の重合性モノマー、
(iii)少なくとも1種の光開始剤、および
(iv)少なくとも1種の充填剤
を含み、
成分(i)と成分(ii)の重量比が約0.5:99.5~約70:30の範囲である、方法。」
すなわち、甲4発明のセメントペースト組成物は、甲4の請求項1に記載の光硬化性一液形自己接着性セメント組成物と同様、補綴物を歯牙構造に接着する際に、最初に歯牙構造または補綴物の接着表面をプライマーまたは接着剤で処理することなく、補綴物の接着表面を直接歯牙構造に接着することができるようにするために使用されるものであるところ、本件訂正発明1の「酸性基を有する(メタ)アクリレート」に相当する甲4発明の「GDMA-P(グリセリルジメタクリレートリン酸またはグリセリルジメタクリレートリン酸二水素)」は、甲4の請求項1に「(i)少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー」として記載されるものであり(甲4の【0013】参照。)、光硬化性一液形自己接着性セメント組成物の必須の成分である。
そうすると、甲4発明の組成物から必須の成分である「GDMA-P(グリセリルジメタクリレートリン酸またはグリセリルジメタクリレートリン酸二水素)」のような「少なくとも1つの酸性部分と、少なくとも1つのエチレン性不飽和基とを有する少なくとも1種の酸性の重合性モノマー」を除くことには阻害要因があるといえるから、当業者は、甲4発明を、「酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合を除く」「歯科用組成物」として、相違点2に係る本件訂正発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられない。
(ウ) 以上のとおりであるから、本件訂正発明1の効果について検討するまでもなく、「歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合を除く」ことが特定された本件訂正発明1について、甲4及び甲1から当業者が容易に発明をすることができたということはできないし、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても同様である。
(3)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1において、紫外線吸収剤が一般式(1)で表される化合物、4-(ジメチルアミノ)安息香酸2-エチルヘキシル、及び4-アミノ安息香酸のうち1種以上であることを特定した発明であり、本件訂正発明1と同様、「歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合を除く」ことが特定された発明である。
そうすると、上記(2)と同様の理由で、本件訂正発明2も、甲4及び甲1から当業者が容易に発明をすることができたということはできないし、請求項2に記載の一般式(1)に相当する2-エチルヘキシル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレートが紫外線吸収剤として公知であることを開示する甲5を含め、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても同様である。
(4)したがって、本件訂正発明1~2についての取消理由5には理由がない。
第5-2 決定の予告で採用しなかった申立理由及び取消理由についての合議体の判断
1 申立理由1イ及び1ウ(サポート要件違反)について
(1)申立理由1イについて
ア 申立理由1イは、概略、請求項1~2には「紫外線吸収剤」の含量が特定されておらず、紫外線吸収剤の含有量が微量や大量の場合に課題は解決しないから、請求項1~2に係る発明についてサポート要件を満足するとはいえないというものである(申立書p16~17の(6)イ)。
イ 発明の詳細な説明には歯科用組成物含有される「紫外線吸収剤」に関し、上記第5-1の3(3)ウ(イ)(i)~(vii)に記載したとおりの記載があるし、【0003】によれば、「紫外線吸収剤」は、紫外線に暴露された際のコンポジットレジン硬化体(歯科用組成物の硬化体)の変色を少なくするため、すなわち、光安定性とするために歯科用組成物に従来から含有されるものであり、具体的には、JIS T 6514で要求される、コンポジットレジンの硬化体を太陽光に10時間暴露した際に、その変色が肉眼で容易に認識できないものとすることが可能な程度の含有量が用いられていたことが理解できる。
そうすると、当業者は、請求項1に紫外線吸収剤の含有量の特定の記載がなくとも、本件訂正発明1の歯科用組成物には、紫外線吸収剤が、硬化体の変色を少なくし、光安定性とすることが可能な量が含有されていると理解できるし、そのような量の好適な範囲として、【0030】には、歯科用組成物中の紫外線吸収剤の含有量について、「(メタ)アクリレートに対して、0.001~30質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましい」こと、「0.001質量%以上であると、歯科用組成物の硬化体の光安定性がさらに向上し、30質量%以下であると、歯科用組成物の光硬化性が向上する」ことが記載されている。また、(vii)の実施例1~9には、紫外線吸収剤をモノマー組成物100質量部に対して、0.1~1.0質量部、すなわち、0.1~1質量%含む歯科用組成物により、本件訂正発明1の課題が解決できたことが示されている。
したがって、当業者は、本件特許の出願時の技術常識及び発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明1~2の歯科用組成物には、紫外線吸収剤が、紫外線を吸収し、歯科用組成物の硬化体を光安定性にできる量が含有されており、本件訂正発明1~2の歯科用組成物により本件訂正発明の課題を解決できると理解できるのであるから、本件訂正発明1~2について、サポート要件を満たしているといえる。
よって、申立理由a2には理由がない。
(2)申立理由1ウについて
ア 申立理由1ウは、概略、請求項1~2には「蛍光剤」の含有量が特定されておらず、含有量が微量や大量の場合に課題は解決しないし、実施例ではモノマー組成物100質量部に対して0.003~0.12質量部の範囲について発明の効果を確認しているだけであるから、請求項1~2に係る発明についてサポート要件を満足するとはいえないというものである(申立書p17~18の(6)ウ)。
また、申立人は、令和5年10月27日付けの意見書の4~5頁の(2-3)において、蛍光剤の含有量に関して本件訂正と同様の訂正がなされた令和5年9月4日の訂正請求による訂正後の本件発明1~2に関し、「訂正後の本件発明1における蛍光剤の含有量の下限値である0.0005質量%と、本件発明の効果が確認された蛍光剤の含有量の下限値0.003質量%とを比較しますと、両者の差は小さいとはいえません。そのため、いかに当業者といえども、蛍光剤を0.0005質量%含有する場合においても、蛍光剤を0.003質量%含有する場合と同様に、硬化体の蛍光性を天然歯の蛍光性と同等とすることができ本件特許発明の効果を奏することができると認識できるものではありません。」と主張していた。
イ そこで検討すると、本件訂正後の本件訂正発明1~2は、「蛍光剤」が「(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012質量%以下」含有されるものであり、蛍光剤の下限値は、申立人が主張するとおり、実施例9(【0063】【表1】)では、モノマー組成物100質量部に対して、蛍光剤が0.003質量部、すなわち、0.003質量%であり、実施例においては、本件訂正発明1~2の下限値の0.0005質量%より10倍程度多い含有量となっている。
しかしながら、発明の詳細な説明には「蛍光剤」の含有量に関し、上記第5-1の3(3)ウ(イ)(iv)に記載したとおりの記載があり、【0037】には、歯科用組成物中の蛍光剤の含有量が、(メタ)アクリレートに対して、0.0001質量%以上で硬化体の蛍光性が天然歯の蛍光性にさらに近くなることも記載されているから、実施例の【表1】の記載も合わせ見れば、当業者は、蛍光剤が「(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012 質量%以下」含有される本件訂正発明1~2の歯科用組成物は、その硬化体の蛍光性を天然歯の蛍光性と同等にすることが可能であり、本件訂正発明の課題を解決できるものと理解することができるといえる。また、申立人は、蛍光剤の含有量が「(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%では、硬化体の蛍光性が改善できないことを示す試験結果を示しているのでもなく、申立人の主張には根拠がない。
したがって、本件訂正発明1~2について、サポート要件を満たしているといえる。
よって、申立理由1ウには理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件違反及び委任省令要件違反)について
(1)申立理由2(アー1)~(アー4)(実施可能要件違反)について
ア 申立人は、申立理由1ア~1エ(サポート要件違反)で指摘したと同様の理由で、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1~2に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している(申立書p19~22の(7)ア)
イ 本件訂正発明1~2について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる(つまり、本件訂正発明1~2についていわゆる「実施可能要件」を満足するといえる)ためには、発明の詳細な説明の記載から、出願時の技術常識を参酌して、当業者が、本件訂正発明1~2の「歯科用組成物」が製造でき、使用できることを理解できる必要がある。
そこで検討すると、発明の詳細な説明には、上記第5-1の3(3)ウ(ア)の(i)~(vi)に記載したとおりの記載があり、特に(vii)の実施例には、本件訂正発明1~2の具体例に相当する歯科用組成物を実際に製造した例が実施例1~9として記載され、実施例1~9からの歯科用組成物の硬化体が、光安定性に優れ、紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、硬化体の蛍光性を天然歯の蛍光性と同等であったことも示されている。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明1~2の歯科用組成物が製造でき、使用できることを理解できるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明1~2を実施することができる程度に記載したものであり、実施可能要件を満たしている。
よって、申立理由2(アー1)~(アー4)には理由がない。
(2)申立理由2イ(委任省令要件違反)について
ア 申立理由2イは、発明の詳細な説明の記載に関し、発明に係る歯科用組成物の硬化体の光安定性について、アルミ箔で覆われた硬化体の非露光部と、露光部との測色結果から色差△E*を算出し、評価したことが実施例に記載されているが、算出した色差△E*がいかなる場合に優れていると評価したかについての記載はないし、また、実施例1~9と比較例1~3における色差△E*の範囲は、光安定性に優れているか否かを区別できる程度に異なっていないから、発明の詳細な説明に、請求項求項1~2に係る発明により、光安定性に優れるとの課題が解決されたかについて記載がされているとはいえず、発明の詳細な説明は、請求項1~2に係る発明について、経済産業省で定めるところにより記載されたものであるとはいえない(いわゆる「委任省令要件」に違反している。)というものである(申立書p22~23(7)のイ)。
イ 発明の詳細な説明には、光安定性を具体的に確認した結果に関し、【表1】に「光安定性△E」の値が記載されているが、その数値の評価基準についての記載はない。しかしながら、【0063】には、【表1】の記載に続けて、「表1から、実施例1~9のコンポジットレジンは、紫外線及び近紫外線のいずれを照射しても、硬化体の蛍光性が、天然歯の蛍光性と同等である、又は、天然歯の蛍光性よりも若干劣ると共に、硬化体の光安定性に優れることがわかる。」と記載されており、当業者は、【表1】の記載と上記表1の結果についての【0063】の説明の記載から、本件訂正発明1~2の歯科用組成物(実施例1~9)が、硬化体の光安定性に優れるものであることを理解するといえるし、また、硬化体の光安定性の数値が比較例1~3で示されるような、紫外線吸収剤がBT(ベンゾトリアゾール系)である場合の歯科用組成物の硬化体と異なっているとはいいえないとしても、それは、本件訂正発明1~2の歯科用組成物が、従来の歯科用組成物と同等に光安定性に優れた硬化体を与えるということであると理解するといえる。
なお、甲2の【0090】~【0092】及び【0095】の【表2】の記載からも同様のことが理解できる。
以上のとおり、発明の詳細な説明から、当業者は、本件訂正発明1~2により光安定性に優れるとの課題が解決されたことが理解できるといえるから、発明の詳細な説明が委任省令要件に違反するとはいえない。
よって、申立理由2イには理由がない。
3 申立理由3(甲1に基づく新規性欠如;取消理由Cと同趣旨)について
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明について
ア 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1a)「【請求項1】
(A)ラジカル重合性単量体、
(B)可視光重合開始剤、
(C)フタル酸エステル系蛍光剤、および
(D)ベンゾトリアゾール化合物
を含有してなる歯科用光重合性組成物。
【請求項2】
(C)フタル酸エステル系蛍光剤が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1記載の歯科用光重合性組成物。
【化1】
[図:0001418194000004.jpg]
(式中、R1及びR2は各々独立に、アルキル基であり、R3は水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、R4はアミノ基、又は水酸基である。)
・・・
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用光重合性組成物からなる歯科用修復材料。」
(甲1b)「【0001】
本発明は、歯科用光重合性組成物、特に歯科用修復材料として有用な歯科用光重合性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、種々の歯科用修復材料が使用されている。例えば、齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれるペースト状の光硬化型の充填修復材料が、操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。このようなコンポジットレジンは、通常、重合性単量体、充填材、及び光重合開始剤の各成分が配合されてなる。
・・・
【0005】
また、歯科用コンポジットレジンを用いた修復は、天然歯と見分けがつかないほどに周囲と調和し、審美性の高い修復が可能であるが、紫外光または短波長の可視光などを発する環境下においては、修復部位が黒く見え、精神的な負担を強いていた。この欠点を改良すべく、上記紫外線吸収剤に加え、蛍光剤をさらに配合することが提案されている。そして、この際に用いる蛍光剤の中でも、フタル酸エステル系のものは入手し易く、天然歯に似た蛍光を発し、格別に審美性に優れる特長を有しているため、有利に使用されている。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤とフタル酸エステル系蛍光剤を組み合わせて使用することはその代表例である(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかしながら、本発明者等が検討すると、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤とフタル酸エステル系蛍光剤が組み合わさった歯科用光重合性組成物は、太陽光に対する安定性と蛍光性を両立することが困難であることがわかった。具体的には、太陽光に対する安定性を高めるためにその配合量を多くした場合、十分な蛍光性が得られず、逆に十分な蛍光性を得るためにフタル酸エステル系蛍光剤の配合量を多くした場合、十分な太陽光に対する安定性が得られないことが分かった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の状況にあって本発明は、硬化体を太陽光に長時間さらしても、審美性に影響を与えるほどの変色のない(太陽光安定性に優れる)硬化体を与え、さらに十分な蛍光性を示す歯科用光重合性組成物を得ることを目的とする。
・・・
【0013】
以下、本発明の歯科用光重合性組成物の各成分について説明する。
〔(A)ラジカル重合性単量体〕
ラジカル重合性単量体としては、公知のものが特に制限なく使用できる。一般 に好適に使用されるものを例示すれば、下記(I)~(III)に示されるものが挙げられる。
・・・
【0015】
これら多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0016】
さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いても良い。
・・・
【0034】
・・・
〔(C)フタル酸エステル系蛍光剤〕
本発明の歯科用光重合性組成物に配合させるフタル酸エステル系蛍光剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できる。特に好ましいフタル酸エステル系蛍光剤を一般式で示すと下記一般式(1)で表される。
【0035】
【化2】
[図:0001418194000005.jpg]
【0036】
(式中、R1及びR2は各々独立に、アルキル基であり、R3は水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、R4はアミノ基、又は水酸基である。)
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基等の炭素数1~3のものが好ましく、特に、炭素数1~2のものがより好ましい。
【0037】
具体的なフタル酸エステル系蛍光剤を例示すると、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジメチル、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル、ジメチルアミノテレフタレート、ジエチルアミノテレフタレートなどが挙げられ、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルなどの水酸基で置換されたフタル酸エステル系蛍光剤がより好ましい。これらフタル酸エステル系蛍光剤は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0038】
また、可視光重合開始剤としてα-ジケトンを用いた場合は、表面未重合を低減させる観点から、フタル酸エステル系蛍光剤として2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルを用いることが好ましい。この理由は、おそらくα-ジケトンの吸収波長と2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルの蛍光波長との重なり部分が多く、α-ジケトンが活性化され易いためと考えられる。
【0039】
フタル酸エステル系蛍光剤の(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対する配合量は、特に制限されるものではないが、蛍光性の確保のため一定量必要であり、逆に配合量が多すぎると、一定の太陽光安定性が確保しにくくなる傾向がある。太陽光安定性と蛍光性の良好なバランスのためには、0.005~0.5質量部であることが好適であり、0.01~0.1質量部であることがより好適である。」
(甲1c)「【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略称(かっこ内)を以下に示す。
(1)略称・略号
(A)ラジカル重合性単量体
・2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン(bis-GMA)
・トリエチレングリコールジメタクリレート(3G)
(B)可視光重合開始剤
・カンファーキノン(CQ)・・極大吸収波長460~480nm
(C)蛍光剤
〔フタル酸エステル系蛍光剤〕
・2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル(DHTP)
・・極大蛍光波長433~453nm
(光源:最大吸収波長が360~380nm)
・ジメチルアミノテレフタレート(DATP)
・・極大蛍光波長430~450nm
(光源:最大吸収波長が360~380nm)
〔その他の蛍光剤〕
・2,5ビス(5’-tert-ブチルベンゾオキサゾリル)チオフェン(BOTh)
・・極大蛍光波長405~425、428~448nm
(光源:最大吸収波長が360~380nm)
【0064】
(D)紫外線吸収剤
〔ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤〕
・2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BT1)
・2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BT2)
・2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BT3)
〔その他の紫外線吸収剤〕
・2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(BP)
(E)その他の成分
・N,N-ジメチルp-安息香酸エチル(DMBE)
・ハイドロキノンモノメチルエーテル(HQME)
(F)無機充填材
・球状シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.5μm(E-1)
・球状シリカ-チタニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.08μm(E-2)
・・・
【0070】
実施例1~13、比較例1~5、参考例1
bis-GMA(60質量部)、3G(40質量部)からなる重合性単量体100質量部に対して、無機充填材E-1を147質量部、E-2を63質量部、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び可視光重合開始剤としてCQを0.3質量部、DMBEを1.0質量部、さらに紫外線吸収剤、蛍光剤を表1に示す通り所定量を配合して歯科用修復材料のペーストを調製した。
【0071】
得られた歯科用修復材料の各種物性を測定した結果を表1に併せて示す。
【0072】
【表1】
[図:0001418194000006.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1(甲1c)には、比較例1(甲1c)に着目すると、以下の「甲1発明A」が記載されているといえる。
・甲1発明A
「bis-GMA(2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン) 60質量部、
3G(トリエチレングリコールジメタクリレート) 40質量部
からなる重合性単量体100質量部に対して、
無機充填材E-1(球状シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.5μm) 147質量部、
無機充填材E-2(球状シリカ-チタニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.08μm) 63質量部、
重合禁止剤HQME(ハイドロキノンモノメチルエーテル) 0.15質量部、
及び
可視光重合開始剤CQ(カンファーキノン) 0.3質量部、
DMBE(N,N-ジメチルp-安息香酸エチル) 1.0質量部、さらに
紫外線吸収剤(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン) 0.8質量部、
蛍光剤(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル) 0.08質量部
を配合した、歯科用修復材料のペースト。」
また、同様に、比較例2~4に着目すると、以下の甲1発明B~Dが記載されているといえる。
・甲1発明B
「bis-GMA(2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン) 60質量部、
3G(トリエチレングリコールジメタクリレート) 40質量部
からなる重合性単量体100質量部に対して、
無機充填材E-1(球状シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.5μm) 147質量部、
無機充填材E-2(球状シリカ-チタニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.08μm) 63質量部、
重合禁止剤HQME(ハイドロキノンモノメチルエーテル) 0.15質量部、
及び
可視光重合開始剤CQ(カンファーキノン) 0.3質量部、
DMBE(N,N-ジメチルp-安息香酸エチル) 1.0質量部、さらに
紫外線吸収剤(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン) 1.5質量部、
蛍光剤(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル) 0.08質量部
を配合した、歯科用修復材料のペースト。」
・甲1発明C
「bis-GMA(2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン) 60質量部、
3G(トリエチレングリコールジメタクリレート) 40質量部
からなる重合性単量体100質量部に対して、
無機充填材E-1(球状シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.5μm) 147質量部、
無機充填材E-2(球状シリカ-チタニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.08μm) 63質量部、
重合禁止剤HQME(ハイドロキノンモノメチルエーテル) 0.15質量部、
及び
可視光重合開始剤CQ(カンファーキノン) 0.3質量部、
DMBE(N,N-ジメチルp-安息香酸エチル) 1.0質量部、さらに
紫外線吸収剤(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン) 2.0質量部、
蛍光剤(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル) 0.08質量部
を配合した、歯科用修復材料のペースト。」
・甲1発明D
「bis-GMA(2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン) 60質量部、
3G(トリエチレングリコールジメタクリレート) 40質量部
からなる重合性単量体100質量部に対して、
無機充填材E-1(球状シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.5μm) 147質量部、
無機充填材E-2(球状シリカ-チタニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物;平均粒径;0.08μm) 63質量部、
重合禁止剤HQME(ハイドロキノンモノメチルエーテル) 0.15質量部、
及び
可視光重合開始剤CQ(カンファーキノン) 0.3質量部、
DMBE(N,N-ジメチルp-安息香酸エチル) 1.0質量部、さらに
紫外線吸収剤(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン) 3.0質量部、
蛍光剤(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル) 0.08質量部
を配合した、歯科用修復材料のペースト。」
(2)本件訂正発明1についての新規性の判断
ア 本件訂正発明1と甲1発明Aとの対比
本件訂正発明1と甲1発明Aとを対比する。
(ア) 甲1発明Aの「bis-GMA(2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン)」及び「3G(トリエチレングリコールジメタクリレート)」は、本件明細書の段落【0014】~【0017】の記載からみて、本件訂正発明1の「(メタ)アクリレート」に相当する。
(イ) 甲1発明Aの「蛍光剤(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル)」は、本件訂正発明1の「蛍光剤」であって、一般式(2)の「R4」及び「R5」が「水酸基」、「R6」及び「R7」が「アルキル基」である「エチル基」であるものに相当する。
(ウ) 甲1発明Aの「紫外線吸収剤(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)」について、甲2の【0084】に
「<(D)極大吸収波長を250nm以上320nm未満の波長帯に有する第2の紫外線吸収剤>
-ベンゾフェノン系紫外線吸収剤-
BP2:2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン
・・・」と記載されていることから、「2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン」は、「極大吸収波長を250nm以上320nm未満の波長帯に有する」「紫外線吸収剤」といえるから、本件訂正発明1の、「紫外線吸収剤」であって「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さ」ないものに相当する。
(エ) 甲1発明Aの「可視光重合開始剤CQ(カンファーキノン)」は、本件訂正発明1の「光重合開始剤」に相当するといえるし、また、甲1発明Aの「DMBE(N,N-ジメチルp-安息香酸エチル)」は、本件明細書の【0048】に光重合促進剤の例として記載される「4-N,N-ジメチル-安息香酸エチル」と同じ化合物であり、本件訂正発明1の「光重合促進剤」に相当するといえる。
(オ) 甲1発明Aの歯科用修復材料のペーストは、本件訂正発明1の歯科用組成物に相当するところ、これには、酸性基を有する(メタ)アクリレートは含まれていないし、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤も含まれていない。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明Aとは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
(メタ)アクリレート、紫外線吸収剤、蛍光剤、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有し、
前記紫外線吸収剤は、波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さず、
前記蛍光剤は、一般式
【化1】(合議体注:化学式の記載は省略する。)
で表される化合物、及びo-フタルアルデヒドのうち1種以上である、
歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。
<相違点3>
本件訂正発明1では、「蛍光剤」の含有量が「前記(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012質量%以下」であるのに対し、甲1発明Aでは、「bis-GMA(2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン)60質量部及び3G(トリエチレングリコールジメタクリレート)40質量部の合計100質量部に対し、「蛍光剤」は0.08質量部、つまり、(メタ)アクリレートに対して0.08質量%である点。
イ 甲1発明Aに対する新規性の判断
本件訂正発明1と甲1発明Aとは、相違点3で相違しており、相違点3は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1について、甲1発明Aであるということはできない。
ウ 本件訂正発明1と甲1発明B~Dとの対比・新規性についての判断
本件訂正発明1と甲1発明B~Dとを上記アにおける本件訂正発明1と甲1発明Aとの対比を踏まえて対比すると、本件訂正発明1と甲1発明B~Dとの間の一致点は上記アで記載した一致点と同じであり、また、相違点も同じである。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明B~Dとは、いずれも、上記相違点3で相違しており、相違点3は実質的な相違点であるから、上記イで記載したものと同様に、本件訂正発明1について、甲1発明B~Dであるということはできない。
エ よって、申立理由3には理由がない。
4 取消理由D1及び申立理由4-1(甲1を主引例とするに進歩性欠如)について
(1) 本件訂正発明1についての進歩性の判断
甲1発明A~D(以下、これらの発明をまとめて「甲1発明」という。)は、上記3の(1)イで記載したとおりであり、本件訂正発明1と甲1発明は、上記3(2)アで記載した相違点3で相違する。
「蛍光剤」の含有量に関し、甲1の【0039】には、「フタル酸エステル系蛍光剤の(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対する配合量は、特に制限されるものではないが、蛍光性の確保のため一定量必要であり、逆に配合量が多すぎると、一定の太陽光安定性が確保しにくくなる傾向がある。太陽光安定性と蛍光性の良好なバランスのためには、0.005~0.5質量部であることが好適であり、0.01~0.1質量部であることがより好適である。」と記載され、甲1に記載される「蛍光剤」の含有量と本件訂正発明1の「蛍光剤」の含有量は一部重複している。
しかしながら、甲1は、「硬化体を太陽光に長時間さらしても、 審美性に影響を与えるほどの変色のない(太陽光安定性に優れる)硬化体を与え、さらに十分な蛍光性を示す歯科用光重合性組成物を得ること」(【0008】)を発明の課題とし、その課題を、「紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール化合物を用い、蛍光剤としてフタル酸エステル系蛍光剤を用いること」(【0009】)により解決した発明について開示する文献であるところ、甲1において課題解決に必須とされるベンゾトリアゾール化合物は、本件訂正発明1において望ましくないものとして除かれている「波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤」に相当するものである。
また、甲1発明は、比較例であり、甲1の特許請求の範囲に記載の発明において必須とされているベンゾトリアゾール化合物を含んでおらず、甲1の発明の課題を解決できないものである。
そして、甲1に「蛍光剤」の含有量に関する記載があるとしても、それは、甲1における発明の課題を解決することを前提とするものであって、かつ、甲1においては、発明の課題解決に紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール化合物を含有させることが必須なのであるから、当業者が、甲1発明において、ベンゾトリアゾール化合物を含んでいない状態で、「蛍光剤」に着目してその量を調整することを動機付けられるとはいえない。しかも、本件訂正発明1で特定されている蛍光剤の含有量(0.0005質量%以上0.012質量%以下)は、甲1の具体例(実施例及び比較例(【0070】~【0072】、特に【表1】))で調製されている歯科用の修復材料のペーストにおける蛍光剤の含有量の範囲(重合性単量体100質量部に対し0.04~0.15質量部、つまり、0.04~0.15質量%)とは外れている。
そうすると、当業者が、甲1発明を相違点3に係る本件訂正発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえないのであるから、本件訂正発明1について甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
請求項2に記載の一般式(1)に相当する2-エチルヘキシル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレートが紫外線吸収剤として公知であることを開示する甲5を含め、申立人が提出した他のいずれの証拠を参酌しても、同様である。
(2)本件訂正発明2についての進歩性の判断
請求項1を引用する本件訂正発明2についても、(1)で記載したものと同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲5を含め、申立人が提出した証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)したがって、取消理由D1及び申立理由4-1には理由がない。
5 申立理由4-2(甲3を主引例とするに進歩性欠如)について
(1)甲3に記載された事項及びに記載された発明について
ア 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。なお、甲3は外国語で記載された文献であるので、以下は、合議体による訳文を示す。
(甲3a)「請求項1.以下を含む歯科用材料。
a)少なくとも1種のラジカル重合性基及び少なくとも1種の酸基を含む、少なくとも1種のモノマー、オリゴマー又はプレポリマー、
b)いかなる酸基を含まず、少なくとも一つのラジカル重合性基を含む、少なくとも1種のモノマー、オリゴマー又はプレポリマー、
c)少なくとも一つの溶剤、
d)有機ペルオキシド、有機ヒドロペルオキシド、及び過硫酸塩からなる群から選択されたペルオキソグループを含む少なくとも3つの酸化剤、
e)少なくとも1種の、スルフィン酸及び/又はスルフィン酸塩、
f)少なくとも一つの光重合開始剤、
g)少なくとも二つの第三級アミンであって、それらの少なくとも一つは、安息香酸メチル基又はエチルベンゾエート基を示し、少なくとも一つは安息香酸メチル基又はエチルベンゾエート基を示さない。」
(甲3b)「実施例
[0050]次に、本発明による歯科用材料を、それぞれ本発明に従わない変更、例えば本発明による歯科材料の成分の排除又は交換を行った15の比較例と比較する。
[図:0001418194000007.jpg]
[0051]成分AとBを調製するために、以下の表に示す成分を磁気スターラーで十分な時間撹拌し、均一な混合物が形成されるまで撹拌した。
[0052]以下の成分が使用された。
BisGMA ビスフェノールAジグリシジルエーテルジメチルアクリレート(CAS001565-94-2)
MDP メタクリロイルオキシデシルホスフェート
HEMA 2-ヒドロキシエチルメタクリレート
BHT 2,6-ジ(tert-ブチル)-4-メチルフェノール
AHP tert-アミルヒドロペルオキシド
BPO 過酸化ジベンソイル
Na2S2O8 過硫酸ナトリウム
EtOH エタノール
CQ カンファーキノン
EHA p-ジメチルアミノ安息香酸-2-エチルヘキシル
EDMAB ジメチルアミノ安息香酸エチル
DHEPT N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
DMPTB N,N-ジメチル-p-(tert-ブチル)アニリン
Na sulfinate ベンゼンスルフィン酸ナトリウム」
[0053]試験は、特に明記しない限り、ISO/TS11405:2003(歯科材料-歯の構造への接着試験)に従って実施された。
[0054] まず、牛の象牙質表面を準備した。次に、成分AとBを1:1(体積)の比率で混合パレットに加え、5秒間混合して接着剤を調製した。このようにして調製した接着剤を、その後、毎回、エッチングされていない牛の象牙質表面に塗布し、20秒間浸透させた。次に、圧縮空気を10秒間吹き付けた。この操作を再度繰り返した。その後すぐに、2部構成のテフロンモールド(ISO/TS 11405:2003に準拠)を装着し、自己硬化性歯科用コンポジット(Luxacore(登録商標)Dual、DMG)を導入した。歯科用コンポジットを、実験室条件(23°C、黄色室)で12分間硬化させた。テフロンモールドを取り外し、接着した歯を37°Cの水中に24時間保管した。次に、せん断接着強度(SBS)を測定した。接着剤ごとに10回の個別測定を実施した。(合議体注:上記の「(登録商標)」は、原文では○の中にRが記入されたと記載されている。)
[0055]接着剤の組成とせん断接着測定の結果を含む以下の表から、少なくとも3種の異なる酸化剤と少なくとも1種のスルフィン酸塩、少なくとも1種類の光開始剤、及び少なくとも2種の異なる第三級アミン(少なくとも1種の第三級アミンは短鎖安息香酸エステル基を示す)の特定の組み合わせにより、せん断接着強度が大幅に向上することが推測できる。」
イ 甲3に記載された発明
甲3には、(甲3b)の表中の比較実施例である「C5」の欄の記載に着目すると、以下の甲3発明が記載されている。
・甲3発明
「成分Aと成分Bとの均質な混合物からなる歯科用材料。
・成分A
MDP(メタクリロイルオキシデシルホスフェート) 15.7重量%
Bis-GMA(ビスフェノールAジグリシジルジメタクリレート 35.7重量%
HEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート) 42.5重量%
BPO(過酸化ジベンソイル) 2.5重量%
Na2S2O8(過硫酸ナトリウム) 1重量%
AHP (tert-アミルヒドロペルオキシド) 2.5重量%
・成分B
EtOH/H2O(2:1) 95重量%
CQ(カンファーキノン) 1.6重量%
EHA(p-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル) 2.8重量%
DHEPT(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン) 0.6重量%」
(2)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。
(ア) 甲3発明の「歯科用材料」は、本件訂正発明1の「歯科用組成物」に相当する。
(イ) 甲3発明の「MDP(メタクリロイルオキシデシルホスフェート)、Bis-GMA(ビスフェノールAジグリシジルジメタクリレート及びHEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)は、本件訂正発明1の「(メタ)アクリレート」に相当する。
ここで、上記の「MDP(メタクリロイルオキシデシルホスフェート)」は、本件訂正発明1において除かれている「酸性基を有する(メタ)アクリレート」に相当する。
(ウ) 甲3発明の「EHA(p-ジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル)」は、本件訂正発明1~2の記載や本件明細書の【0020】~【0022】、【0028】の記載からみて、「波長が320nmを超え、500nm以下である領域に極大吸収を有さ」ない「紫外線吸収剤」に相当するといえる。
(エ) 甲3発明の「CQ(カンファーキノン)」は、本件訂正発明1の「光重合開始剤」に相当するし、また、上記EHAは、は、甲4の【0017】に「共開始剤」の例として記載されているものであり、「共開始剤を光開始剤と一緒に使用して硬化の効率を高める」とされているから、本件訂正発明1の「光重合促進剤」にも相当するといえる。
(オ) 甲3発明は、本件訂正発明1の「ただし、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く」との特定により除かれる「波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物」に該当するものではなく、この点では相違しない。
そうすると、本件訂正発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
(メタ)アクリレート、紫外線吸収剤、光重合開始剤及び光重合促進剤を含有し、
前記紫外線吸収剤は、波長が320nmを超え、500nm 以下である領域に極大吸収を有さない、
歯科用組成物(ただし、歯科用組成物が、波長が320nm を超え、500nm以下である領域に極大吸収を有する紫外線吸収剤を含有する歯科用組成物である場合を除く)。
<相違点4>
本件訂正発明1では、「歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合を除く」ことが特定されているのに対して、甲3発明では、酸性基を有する(メタ)アクリレートに相当するMDP(メタクリロイルオキシデシルホスフェート)が含まれる点。
<相違点5>
本件訂正発明1では、歯科用組成物が、「蛍光剤」であって「一般式(2)(合議体注:式は省略する。)、及びo-フタルアルデヒドのうち1種以上である」ものを「前記(メタ)アクリレートに対して0.0005質量%以上0.012質量%以下」含有するのに対し、甲3発明では、そのような「蛍光剤」を含有していない点。
イ 判断
(ア) 相違点4について
甲3の請求項1に上記(甲3a)の記載があるとおり、甲3は、歯科用組成物が「a)少なくとも1種のラジカル重合性基及び少なくとも1種の酸基を含む、少なくとも1種のモノマー、オリゴマー又はプレポリマー」及び「b)いかなる酸基を含まず、少なくとも一つのラジカル重合性基を含む、少なくとも1種のモノマー、オリゴマー又はプレポリマー」を少なくとも必須の成分として含有する歯科用組成物に関する発明を開示するものであるところ、甲3の実施例及び比較例においては、[0050]の表及び[0055]に記載されるとおり、請求項1に記載のa)成分の具体例としてMDP(メタクリロイルオキシデシルホスフェート)、b)成分の具体例としてBis-GMA(ビスフェノールAジグリシジルジメタクリレート及びHEMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)が使用されており、甲3発明である比較例5(C5)は、e)成分(少なくとも1種の、スルフィン酸及び/又はスルフィン酸塩)の具体例であるベンゼンスルフィン酸ナトリウムを含有していない具体例に相当する。
そうすると、甲3発明の組成物から、甲3において必須成分とされているa)成分に相当する「少なくとも1種のラジカル重合性基及び少なくとも1種の酸基を含む」モノマーである「MDP(メタクリロイルオキシデシルホスフェート)を除くことには阻害要因があるといえるから、当業者は、甲3発明を、「酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合を除く」「歯科用組成物」として、相違点4に係る本件訂正発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられない。
(イ) 以上のとおりであるから、相違点5について検討するまでもなく、「歯科用組成物が、酸性基を有する(メタ)アクリレートを含有する歯科用組成物である場合を除く」ことが特定された本件訂正発明1について、甲3から当業者が容易に発明をすることができたということはできない。また、歯科用組成物に本件訂正発明1の一般式(2)の蛍光剤を含ませることで天然歯に似た蛍光性を付与することができることを開示する甲1、本件特許の請求項2に記載の一般式(1)に相当する2-エチルヘキシル2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレートが紫外線吸収剤として公知であることを開示する甲5を含め、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても同様である。
(ウ) したがって、本件訂正発明1について甲3に記載された発明、及び甲1に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、申立人が提出した他のいずれの証拠を参酌しても、同様である。
(3)本件訂正発明2について
請求項1を引用する本件訂正発明2についても、(1)で記載したものと同様の理由によって、甲3に記載された発明及び申立人が提出した証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)小括
したがって、本件訂正発明1~2についての申立理由4-2には理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、令和5年6月29日付けで通知した取消理由、令和6年3月21日付けで通知した決定の予告に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由には、理由がなく、これらの理由によって本件訂正後の請求項1~2についての特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1~2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700377