特許異議申立
2023-700982
分析用試料の調製方法
- 審判番号
- 2023-700982
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-501606
- 登録番号
- 7252936
- 請求日
- 2023年09月15日
- 審決日
- 2023年12月20日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社住化分析センター
- 【権利者代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 加々美 一恵
- 審判官 松本 隆彦
- 審判官 櫃本 研太郎
- 分類
- P1651.121-Y (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7252936号発明「分析用試料の調製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7252936号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7252936号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)1月24日(優先権主張 平成30年2月21日)を国際出願日とするものであって、令和5年3月28日に特許権の設定登録がされ、同年4月5日に特許掲載公報が発行された。
その後、その全請求項に係る特許に対し、令和5年9月15日に特許異議申立人である弁理士法人朝比奈特許事務所(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
試料に含まれている元素を分析するための分析用試料の調製方法であり、
上記試料を捕捉剤の存在下に灰化することによって、上記試料中の元素が捕捉された灰化物を得る、灰化工程と、
上記灰化工程において得られた上記灰化物を酸に溶解することによって、灰化物水溶液を得る、酸溶解工程と、
上記酸溶解工程において得られた上記灰化物水溶液と陽イオン交換樹脂とを接触させることによって、上記捕捉剤由来の元素の陽イオンを陽イオン交換樹脂に捕捉して、上記陽イオンの元素以外の元素を含んでいる分析溶液を得る、陽イオン交換樹脂接触工程と、を含むことを特徴とする、分析用試料の調製方法。
【請求項2】
上記試料が、炭素含有試料であることを特徴とする、請求項1に記載の分析用試料の調製方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分析用試料の調製方法により得られた上記分析溶液に含まれている元素を、分析装置で測定する分析工程を含むことを特徴とする、分析方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 申立ての理由の概要
令和5年9月15日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
・申立ての理由1
本件特許発明1ないし3は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲第1号証ないし甲第7号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
申立人が提出した証拠は、次のとおりである。
甲第1号証:宮谷俊行、鈴木均、吉本修、 誘導結合プラズマ質量分析法による高純度黒鉛中の微量ホウ素の定量、分析化学、公益社団法人 日本分析化学会、1994年、Vol.43、第495頁~第498頁
甲第2号証:D. Conrad Gregoire、“Determination of boron isotope ratios in geological materials by inductively coupled plasma mass spectrometry”、ANALYTICAL CHEMISTRY、American Chemical Society, OCTOBER 15, 1987、VOL.59、NO.20、pp.2479-2484
甲第3号証:特開2008-203122号公報
甲第4号証:村木勇夫、日色和夫、微量ホウ素の定量法について、JAPAN ANALYST、公益財団法人 日本分析化学会、1957年、Vol.6、第319頁~第327頁
甲第5号証:特開平10-120581号公報
甲第6号証:「高周波プラズマ質量分析通則」JIS K 0133:2007、日本産業標準調査会、第1頁~第5頁
甲第7号証:「発行分光分析通則」JIS K 0116:2014、日本産業標準調査会、第1頁~第5頁
(「甲第1号証」~「甲第7号証」は、以下「甲1」~「甲7」という。)
なお、甲5~甲7は、技術常識を説明するための補助資料である。
第4 当審の判断
1 甲1~甲7に記載された事項・発明
(1) 甲1
ア 甲1の記載事項
「誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用い、高純度黒鉛中に微量存在するホウ素の定量分析について、定量下限値及び定量値の再現性などを検討した。」(第495頁要約欄第1行~第2行)
「2・1 装置及び器具
分析装置は、セイコー電子工業製ICP-MSSPQ-6500型を用いた。」(第495頁右欄第2行~第4行)
「2・3 分析操作
特別に精製した黒鉛試料ブロック(70mm角)を超硬ドリル・・・で万遍なく穴をあけ、その工程で生じる粉末を試料とした。・・・得られた試料を約10g白金皿(25ml)に量り取り、所定量の炭酸カルシウム懸濁液を加えてテフロン製スパーテルでよく混合後、105℃のホットプレート上で乾燥し、石英管状炉中880℃で灰化した。放冷後0.1M塩酸で内容物を溶解し分析試料とした。そのフローシートをTable1に示す。」(第495頁右欄下から第5行~第496頁左欄第7行)
[図:0001405855000001.jpg]
(第496頁左欄の表1)
「3・3 本法による定量値の正確さ
Table 1に示した手法とJISクルクミン法により得られた定量値を比較し、本法の正確さを検討した。この検討に使用した試料はホウ素含有量の異なる10種類(灰分量100ppm以上の黒鉛材を含む、ホウ素0.005~2.2ppm)の黒鉛材である。両法により得られた結果をTable2に示す。両法の分析値はよく一致しており、0.1ppm以上の5試料について相関係数は0.998であった。又、JISクルクミン法の定量下限0.1ppm以下の試料についても本法ではTable 2のF~Jに示したように定量可能であった。本法の定量下限値は、検出限界(3σ)の20倍とし、試料濃度に換算して得た。なお、本法の検出限界は、20±10ppt(n=50)、定量下限値は、0.004±0.002ppm(n=50)であった。」(第496頁右欄第22行~第497頁右欄第4行)
「3・4 繰り返し測定精度
Table 1の工程を個々に経た10回の繰り返し測定試験をホウ素含有量の異なる3種類(ホウ素0.05、0.02、0.008ppm)の黒鉛材を用いて行った。その結果をTable 3に示す。黒鉛中に含まれるホウ素量の多い順にRSDは2.6、5.7、9.5%となり微量元素の定量分析としては良好な再現性がえられることが判明した。」(第497頁右欄第1行~第7行)
イ 甲1発明
上記摘記アを総合すると、甲1には、
「高純度黒鉛中に微量存在するホウ素の定量分析を行うための方法であって(第495頁要約欄第1行~第2行)、
試料に炭酸カルシウム懸濁液を加えて混合し、その後、灰化し(第495頁右欄下から第5行~第496頁左欄第7行、表1)、
0.1M塩酸で内容物を溶解し分析試料とすること(第495頁右欄下から第5行~第496頁左欄第7行、表1)、
を含む方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(2) 甲2
甲2には以下の記載がある。
第2481頁右欄「Separation and Preconcentration of B from Matrix Components.」の項の翻訳:
「マトリックス成分からのホウ素の分離と予備濃縮。地質サンプルの消化/溶解手順から生じる溶液の固形分含有量が高い場合は、同位体比を決定する前にホウ素の分離手順を適用する必要がある。マトリックスの除去を達成するために利用できるアプローチがいくつかある。これらには、ホウ酸のトリメチルエステルの蒸留(27)、溶媒抽出手順(28~30)、およびイオン交換樹脂の使用(31~33)が含まれる。
蒸留手順は、比較的大量の試薬を必要とし、時間がかかるため、満足のいくものではない。酸性水性サンプル(1%NaClおよび200ppbのホウ素を含む)からの溶媒抽出は成功しなかった。ジエチルエーテル、イソプロピルエーテルおよびエチルアルコールを抽出剤として使用した場合、非常に低い抽出収率が得られた。抽出収率が利用できるほど高い場合、過剰に多量のNaClも同時に抽出される。
イオン交換樹脂を使用すると、2つの方法でイオン性マトリックス成分からホウ素を分離することができる。陽イオン交換樹脂を使用することで、ホウ素を溶出させながら干渉するマトリックス成分を溶液から除去したり、逆に、マトリックス成分を溶出させながらホウ素を溶液から選択的に除去したりすることができる。後者の技術は、ホウ素が少ない材料の予備濃縮ステップとしても機能する。ホウ素特異的樹脂(AmberliteXE-243)の化学的特性は、KuninとPreussよる論文で議論されている(34)。樹脂にはN-メチルグルカミン基が含まれており、ホウ素と錯体を形成してホウ酸イオンとなる。その後、水酸化アンモニウムを使用してマトリックス成分を樹脂から溶出させることができる。少量の10%HFを使用してホウ酸塩をテトラフルオロボレートに変換する。テトラフルオロボレートは樹脂上にある第三級アミン基に定量的に保持され、弱塩基性アニオン交換特性を与える。錯体化したホウ素は、1MのNaOHを使用してカラムから溶出される。Naイオンを除去するために、溶出液は部分的にCaイオンがロードされた強力な陽イオン交換樹脂(Dowex50W-X8)を含むカラムに通される。溶液中の過剰なフッ化物はカラム内で不溶性フッ化カルシウムとして沈殿する。カラムは、溶液流量を1mL/分に制限するために小口径のtygonチューブを取り付けた使い捨ての10mLエッペンドルフピペットチップから調製した。樹脂ベッドは、オープンポアポリウレタンフォームから作られたプラグを使用してカラム内に保持された。ホウ素の分離とカラムの再生に使用される実験手順の詳細は、他の研究者によって公開されている(33-35)。」
(3) 甲3
甲3には以下の記載がある。
「【請求項1】
以下の工程を含む黒鉛中の硼素の定量方法。
第一工程:黒鉛をカルシウム化合物の存在下に灰化して前記黒鉛中の硼素を灰化物に捕捉する工程
第二工程:第一工程で得られた灰化物を酸で溶解して灰化物水溶液を得る工程
第三工程:第二工程で得られた灰化物水溶液に含まれる硼素を陰イオン交換樹脂に捕捉する工程
第四工程:第三工程で陰イオン交換樹脂に捕捉された硼素を酸性水溶液に溶離して溶離液を得る工程
第五工程:第四工程で得た溶離液中の硼素を誘導結合プラズマ-質量分析法により定量する工程」
上記摘記した請求項1の記載、及び段落【0008】~【0027】の記載を総合すると、甲3には、
「黒鉛中の硼素を誘導結合プラズマ質量分析法により定量するための方法であって、
黒鉛をカルシウム化合物の存在下に灰化して黒鉛中の硼素を灰化物に捕捉する工程、
得られた灰化物を酸で溶解して灰化物水溶液を得る工程、
得られた灰化物水溶液に含まれる硼素を陰イオン交換樹脂に捕捉する工程、
陰イオン交換樹脂に捕捉された硼素を酸性水溶液に溶離して溶離液を得る工程、
を含む方法」(以下、「甲3発明」という。)
が記載されていると認められる。
(4) 甲4
甲4には、比色に際し、多くの妨害物質があるため、ホウ素を他の妨害物質から分離するために、黒鉛試料を灰化分解したのち、塩酸に溶かして溶液にし、それに対して中性スルホン酸樹脂を用いてホウ素を分離後、クルクミン法で比色する、黒鉛中のホウ素を定量する方法が開示されている(第321頁の2・2分離法、第322頁の2・2・3イオン交換樹脂による分離法)。
(5) 甲5
甲5には、ゲルマニウム含有薬用植物またはその処理生成物のゲルマニウム含有量を高周波誘導結合プラズマ原子発光分光分析(ICP-AES)により測定することにより、ゲルマニウム含有薬用植物またはその処理生成物の全ゲルマニウム含有量を測定し得ることが開示されている(請求項14、【0001】、【0009】、【0010】、【0014】、【0015】)。
(6) 甲6
甲6には、試料に含まれる測定対象元素を高周波プラズマによってイオン化し,生成したイオンを質量分析計に導入し,測定対象元素の質量/電荷数(m/z)におけるイオンの個数を測定することによって元素又は同位体を分析する、高周波プラズマ質量分析法の概要が開示されている(第3頁、第5頁)。
(7) 甲7
甲7には、試料に含まれる測定対象元素をICP,MIP,スパーク放電などによって気化励起し,得られる原子スペクトル線の発光強度を測定することによって定量分析を行う誘導結合プラズマ発光分光分析法の概要が開示されている(第3頁、第5頁)。
2 対比・判断
(1)甲1発明を主とした場合
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明は、「高純度黒鉛中に微量存在するホウ素の定量分析を行うための方法」であるから、甲1発明の「試料」は、「高純度黒鉛」であり、本件特許発明1の「試料」に相当する。また、甲1発明は、「ホウ素の定量分析を行うための方法」であるから、甲1発明における「高純度黒鉛中に微量存在するホウ素」が、本件特許発明1の「試料に含まれている元素」に相当する。
イ 本件特許の明細書段落【0032】~【0033】において、「捕捉剤」として「炭酸カルシウム」が例示されているから、甲1発明の「炭酸カルシウム懸濁液」は、本件特許発明1の「捕捉剤」に相当するものである。そして、甲1発明は、「捕捉剤」に相当する「炭酸カルシウム懸濁液」が「試料に」「混合」された状態で「灰化する」ものであるから、本件特許発明1と同様の作用、つまり、試料中の元素である「ホウ素」が捕捉されるものと認められる。
してみると、甲1発明の「試料に炭酸カルシウム懸濁液を加えて混合し、その後、灰化すること」は、本件特許発明1の「上記試料を捕捉剤の存在下に灰化することによって、上記試料中の元素が捕捉された灰化物を得る、灰化工程」に相当する。また、甲1発明は、「灰化」により、「高純度黒鉛中に微量存在するホウ素の定量分析を行うための」試料調整を行うものであるから、甲1発明の「高純度黒鉛中に微量存在するホウ素の定量分析を行うための方法」は、本件特許発明の「試料に含まれている元素を分析するための分析用試料の調製方法」に相当するといえる。
ウ 甲1発明の「灰化し」た内容物は、本件特許発明1の「上記灰化工程において得られた上記灰化物」に相当し、「塩酸」は酸であるから、甲1発明の「0.1M塩酸で内容物を溶解」することは、本件特許発明1の「上記灰化工程において得られた上記灰化物を酸に溶解する」「酸溶解工程」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、かつ、相違する。
<一致点>
「試料に含まれている元素を分析するための分析用試料の調製方法であり、
上記試料を捕捉剤の存在下に灰化することによって、上記試料中の元素が捕捉された灰化物を得る、灰化工程と、
上記灰化工程において得られた上記灰化物を酸に溶解する酸溶解工程を含む方法。」
<相違点>
本件特許発明1は、「上記酸溶解工程において得られた上記灰化物水溶液と陽イオン交換樹脂とを接触させることによって、上記捕捉剤由来の元素の陽イオンを陽イオン交換樹脂に捕捉して、上記陽イオンの元素以外の元素を含んでいる分析溶液を得る、陽イオン交換樹脂接触工程と、を含む」のに対して、甲1発明は、それらの工程を含まず、「0.1M塩酸で内容物を溶解し」たものを「分析試料とする」点。
上記相違点について検討する。
甲2には、上記1(2)のとおり、「陽イオン交換樹脂を使用することで、ホウ素を溶出させながら干渉するマトリックス成分を溶液から除去」することが記載されている。この技術を甲1発明に適用することについて検討すると、上記1(1)で摘記したように、甲1は、「3・3 本方法の測定値の正確さ」、「3・4 繰り返し測定精度」の項で、「陽イオン交換樹脂接触工程」を具備しない甲1発明がホウ素含有量の測定において、十分な定量精度が得られることが記載されている。そのため、ホウ素含有量の検出のために、あえて甲2に記載されている上記技術手段を適用する動機付けは存在しない。
また、甲3には、灰化物水溶液を陽イオン交換樹脂に接触させることは記載されていない。甲4には、上記1(4)のとおり、黒鉛試料を灰化分解したのち、塩酸に溶かして溶液にし、それに対して(陽イオン交換樹脂である)中性スルホン酸樹脂を用いてホウ素を分離することは記載されているものの、前段落の甲1発明と甲2に記載の技術手段の適用についての検討結果と同様に、甲1発明に、甲4発明を組み合わせる動機付けは存在しない。
よって、本件特許発明は、甲1発明及び甲2ないし甲4のいずれかに記載の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をできたものとはいえない。
(2)甲3発明を主とした場合
なお、申立人は、甲3を主たる証拠としても進歩性がない旨を、本件の特許異議申立書の第16頁下から第1行~第19頁23行で主張しているので、この点についても検討する。
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明は、被測定対象物が「黒鉛」であるから、甲3発明の「黒鉛」は、本件特許発明1の「試料」に相当する。また、甲3発明において、「硼素」が測定対象物とされるものであるから、甲3発明の「硼素」が、本件特許発明1の「元素」に相当する。
本件特許の明細書段落【0032】において、「捕捉剤」として「カルシウム化合物」が挙げられていることから、甲3発明の「カルシウム化合物」は、本件特許発明1の「捕捉材」に相当し、甲3発明の「黒鉛をカルシウム化合物の存在下に灰化して黒鉛中の硼素を灰化物に捕捉する工程」は、本件特許発明1の「上記試料を捕捉剤の存在下に灰化することによって、上記試料中の元素が捕捉された灰化物を得る、灰化工程」に相当する。
甲3発明の「得られた灰化物を酸で溶解して灰化物水溶液を得る工程」は、本件特許発明1の「上記灰化工程において得られた上記灰化物を酸に溶解することによって、灰化物水溶液を得る、酸溶解工程」に相当する。
甲3発明の「得られた灰化物水溶液に含まれる硼素を陰イオン交換樹脂に捕捉する工程」及び「陰イオン交換樹脂に捕捉された硼素を酸性水溶液に溶離して溶離液を得る工程」は、本件特許発明1の「上記酸溶解工程において得られた上記灰化物水溶液と陽イオン交換樹脂とを接触させることによって、上記捕捉剤由来の元素の陽イオンを陽イオン交換樹脂に捕捉して、上記陽イオンの元素以外の元素を含んでいる分析溶液を得る、陽イオン交換樹脂接触工程」と、「酸溶解工程において得られた灰化物水溶液とイオン交換樹脂とを接触させる」ことにおいて共通する。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明は、以下の点で一致し、かつ、相違する。
<一致点>
「試料に含まれている元素を分析するための分析用試料の調製方法であり、
上記試料を捕捉剤の存在下に灰化することによって、上記試料中の元素が捕捉された灰化物を得る、灰化工程と、
上記灰化工程において得られた上記灰化物を酸に溶解することによって、灰化物水溶液を得る、酸溶解工程と、
上記酸溶解工程において得られた上記灰化物水溶液とイオン交換樹脂とを接触させる工程と、を含む分析用試料の調製方法。」
<相違点>
本件特許発明1は、酸溶解工程において得られた灰化物水溶液と接触させるイオン交換樹脂が、「陽イオン交換樹脂」であり、接触させることにより、「上記捕捉剤由来の元素の陽イオンを陽イオン交換樹脂に捕捉して、上記陽イオンの元素以外の元素を含んでいる分析溶液を得る」のに対して、甲3発明は、酸溶解工程において得られた灰化物水溶液と接触させるイオン交換樹脂が、「陰イオン交換樹脂」であり、接触させた後、陰イオン交換樹脂に捕捉された硼素を酸性水溶液に溶離して溶離液を得る工程を備えている点。
上記相違点について検討する。
上記1(4)のとおり、甲4には、ホウ素をクルクミン法で比色するに際して、妨害物質の存在が問題となるために、妨害物質からホウ素を分離するため、灰化物を塩酸に溶かした溶液を(陽イオン交換樹脂である)中性スルホン酸樹脂に接触させることが記載されているが、クルクミン法での比色の問題点を解決する手段として記載されており、甲3発明において測定方法される「誘導結合プラズマ質量分析法」ではないので、甲3発明に、甲4の上記技術手段を適用する動機付けは存在しない。
さらにいえば、以下のように効果の面から検討しても動機付けが存在しない。
甲3発明の「得られた灰化物水溶液に含まれる硼素を陰イオン交換樹脂に捕捉する工程、陰イオン交換樹脂に捕捉された硼素を酸性水溶液に溶離して溶離液を得る工程」で得られる溶離液には、陰イオン交換樹脂で捕捉されたもの、つまり、陰イオンが含まれるものである。それに比べて、甲4の上記技術手段では、陽イオン交換樹脂に捕捉されなかったもの、つまり、陰イオンや非電荷の物質が含まれるため、ホウ素以外の物質は甲4の技術手段のほうが多く含まれる。そのため、あえて、測定対象物以外の物質が多く含まれる甲4の技術手段に変更する動機付けはない。
(3)小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明を主とした場合であっても、甲3発明を主とした場合であっても、甲1~7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
また、本件特許発明2、3は、本件特許発明1をさらに限定するものであるから、同様に、甲1~7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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