審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-701157

マイクロヒーター、ガスセンサー、およびマイクロヒーターの製造方法

審判番号
2024-701157
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-527430
登録番号
7492958
請求日
2024年11月29日
審決日
2025年12月08日
公報発行日
2026年03月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ローム株式会社
  • 【権利者代理人】三好 秀和
  • 【権利者代理人】寺山 啓進
  • 【異議申立人】上垣内 俊彦
審判長/審判官
  • 審判長 南 宏輔
  • 審判官 藏田 敦之
  • 審判官 三崎 仁
分類
P1651.537-YAA(G01N) / P1651.536-YAA(G01N) / P1651.121-YAA(G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7492958号発明「マイクロヒーター、ガスセンサー、およびマイクロヒーターの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7492958号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-13〕について訂正することを認める。 特許第7492958号の請求項1、4~7及び10~13に係る特許を維持する。 特許第7492958号の請求項2、3、8及び9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7492958号の請求項1~13に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)4月28日(優先権主張 令和元年6月27日)を国際出願日とする出願であって、令和6年5月22日にその特許権の設定登録がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行されたものである。 その特許についての本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。 令和6年11月29日 :特許異議申立人上垣内俊彦(以下「申立人」という。)による請求項1~13に係る特許に対する特許異議の申立て 令和7年 2月19日 :申立人による手続補正書(方式)の提出 同年 3月11日付け:取消理由通知書 同年 5月13日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 6月 3日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 8月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 9月18日 :申立人による意見書の提出 なお、令和7年5月13日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなすことから、同年8月4日に提出された訂正請求書を以下「本件訂正請求書」といい、それによる訂正を「本件訂正」又は単に「訂正」という。 また、令和7年2月19日に提出された手続補正書(方式)によって補正された特許異議申立書を以下「申立書」という。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-13〕について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含むマイクロヒーター」と記載されているのを、「前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み、前記金属は、チタンであり、前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4であるマイクロヒーター」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~6についても同様に訂正する。)。なお、下線は訂正箇所を示す(以下同様)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1に記載の」に、請求項5に「請求項1~4のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項1又は4に記載の」に、それぞれ訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7に「前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含むマイクロヒーター」と記載されているのを、「前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み、前記金属は、チタンであり、前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4であるマイクロヒーター」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10~13についても同様に訂正する。)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項8及び請求項9を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項10に「請求項7~9のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項7に記載の」に、請求項11に「請求項7~10のいずれか1項に記載の」と記載されているのを「請求項7又は10に記載の」に、それぞれ訂正する。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無 (1)訂正事項1及び4について 訂正事項1及び4は、「前記金属酸化物」の「金属」を「チタン」に、「酸素が欠乏している」「金属と酸素との化学量論比」を「1:0.9~1.4」に、それぞれ限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そのような限定をする訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0019】に「[3]前記金属は、チタンであり、前記金属酸化物」、【0092】に「上記の評価結果より、チタンと酸素との化学量論比が1:0.9~1.4である酸化チタン層の使用が好ましいことが分かった。」と記載されていることから、訂正事項1及び4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (2)訂正事項2及び5について 訂正事項2及び5は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (3)訂正事項3及び6について 訂正事項3は、訂正事項2で請求項2及び3が削除され、請求項2及び3が存在しないものとなったことにより、引用する請求項から請求項2及び3を削除する訂正であり、訂正事項6は、訂正事項5で請求項8及び9が削除され、請求項8及び9が存在しないものとなったことにより、引用する請求項から請求項8及び9を削除する訂正であるから、各々、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 3 一群の請求項について 訂正前の請求項2~6は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正前の請求項8~13は請求項7を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~6、請求項7~13は、それぞれ一群の請求項であり、上記訂正事項1~3は、前者の一群の請求項に請求されており、訂正事項4~6は、後者の一群の請求項に請求されているものである。 よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。 4 訂正の適否についてのまとめ 以上のとおり、訂正事項1~6に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-13〕について訂正することを認める。 第3 本件発明及び本件明細書等 1 本件発明について 本件訂正請求により訂正された請求項1、4~7及び10~13に係る発明(以下順に「本件発明○」といい、まとめて「本件発明」ともいう。なお、請求項2、3、8及び9については上記第2の1(2)及び(5)のとおり削除されている。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、4~7及び10~13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 第1絶縁層と、 前記第1絶縁層上の第1密着層と、 前記第1密着層上の配線層と、 前記配線層を覆う第2密着層と、 前記第1絶縁層上及び前記第2密着層上の第2絶縁層と、を備え、 前記配線層は、白金を含み、 前記第1密着層及び前記第2密着層は、それぞれ金属酸化物を含み、 前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み、 前記金属は、チタンであり、 前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4であるマイクロヒーター。」 「【請求項4】 前記酸素欠乏領域は、前記配線層と前記第1密着層との界面側から前記第1絶縁層側に向かうに連れて徐々に酸素の量が大きくなる領域と、前記配線層と前記第2密着層との界面側から前記第2絶縁層側に向かうに連れて徐々に酸素の量が大きくなる領域と、を有する請求項1に記載のマイクロヒーター。 【請求項5】 前記第2絶縁層上に、さらに温度センサーを備え、 前記配線層は、白金を含み、 前記第2絶縁層は、酸化物絶縁層と、前記酸化物絶縁層上の窒化物層を備え、 前記配線層は、一対の電極のそれぞれと接続する第1蛇腹構造を有し、 前記温度センサーは、第2蛇腹構造を有し、 前記第1蛇腹構造の直線部分と前記第2蛇腹構造の直線部分との間でなす角度は、45°~135°であり、 前記温度センサーは、金属酸化物層と、前記金属酸化物層上の金属層と、を備える請求項1又は4に記載のマイクロヒーター。 【請求項6】 前記金属酸化物層中の金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み、 前記金属酸化物層中の金属酸化物は、前記第1密着層及び前記第2密着層の金属酸化物と同一材料を含む請求項5に記載のマイクロヒーターを備えるガスセンサー。 【請求項7】 第1絶縁層を形成し、 前記第1絶縁層上に第1密着層を形成し、 前記第1密着層上に配線層を形成し、 前記配線層上に前記配線層の側面を覆う第2密着層を形成し、 前記第1絶縁層及び前記第2密着層上に第2絶縁層を形成し、 前記第1密着層及び前記第2密着層は、それぞれ金属酸化物を含み、 前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み、 前記金属は、チタンであり、 前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4であるマイクロヒーターの製造方法。」 「【請求項10】 前記酸素欠乏領域は、前記配線層と前記第1密着層との界面側から前記第1絶縁層側に向かうに連れて徐々に酸素の量が大きくなる領域と、前記配線層と前記第2密着層との界面側から前記第2絶縁層側に向かうに連れて徐々に酸素の量が大きくなる領域と、を有する請求項7に記載のマイクロヒーターの製造方法。 【請求項11】 前記第2絶縁層上に、さらに温度センサーを形成し、 前記温度センサーは、 前記第2絶縁層上に金属酸化物層を形成する工程と、 前記金属酸化物層上に金属層を形成する工程と、を備え、 前記第2絶縁層は、 前記第1絶縁層及び前記第2密着層上に酸化物絶縁層を形成する工程と、 前記酸化物絶縁層上に窒化物層を形成する工程と、備え、 前記配線層は、白金を含み、 前記配線層は、第1蛇腹構造を有するように形成され、 前記温度センサーは、第2蛇腹構造を有するように形成され、 前記第1蛇腹構造の直線部分と前記第2蛇腹構造の直線部分との間でなす角度は、45°~135°である請求項7又は10に記載のマイクロヒーターの製造方法。 【請求項12】 前記金属酸化物層中の金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含む請求項11に記載のマイクロヒーターの製造方法。 【請求項13】 前記金属酸化物層中の金属酸化物は、前記第1密着層及び前記第2密着層の金属酸化物と同一材料を含む請求項11に記載のマイクロヒーターの製造方法。」 2 本件明細書等 明細書及び図面には訂正がなかったことから、本件特許明細書を「本件明細書」(図面を含めて「本件明細書等」ともいう。)といい、その本件明細書等には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。 (本ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、上記範囲の温度以上の高温領域(例えば、500℃程度)で使用する場合、加熱によって窒化物と白金が反応してしまい、空隙が配線部に生じる。当該空隙は、加熱し続けられることで徐々に広がり、やがて配線部を断線させ、マイクロヒーターの動作不良を招くおそれがある。 【0007】 上記断線を抑制するため、窒化物層のかわりに高温領域において白金と反応しない酸化物絶縁層を用いることも検討されてきたが、白金と酸化物との密着性が不十分であり、膜剥がれが生じやすく、酸化物絶縁層を密着層として機能させることは困難であった。 【0008】 本実施形態は、配線部に生じる空隙を抑制し、かつ配線部との密着性を確保した密着層を備えるマイクロヒーターを提供する。また、他の実施形態は、当該マイクロヒーターを備えるガスセンサーを提供する。さらに、他の実施形態は、当該マイクロヒーターの製造方法を提供する。」 (本イ)「【0079】 (実施例1) 本実施例では、前述のマイクロヒーターにおける断面TEM観察を行った。 【0080】 本実施例のマイクロヒーターは、第1実施形態で示したように、基板10であるシリコン基板と、絶縁層12と、窒化物層14と、絶縁層16と、ヒーター層18と、絶縁層20と、窒化物層22と、を備える。さらに、窒化物層22上に絶縁層25を備える。 【0081】 絶縁層12は酸化シリコン層であり、窒化物層14は窒化シリコン層であり、絶縁層16は酸化シリコン層であり、絶縁層20は酸化シリコン層であり、窒化物層22は窒化シリコン層であり、絶縁層25は酸化シリコン層である。これらの絶縁層はCVD法により形成した。 【0082】 また、ヒーター層18は、密着層18aと、配線層18bと、密着層18cとからなる構成であり、密着層18aはチタンと酸素との化学量論比が1:1.1である酸化チタン層であり、配線層18bは白金層であり、密着層18cはチタンと酸素との化学量論比が1:1.1である酸化チタン層である。密着層18a、配線層18b、及び密着層18cはスパッタリング法により形成した。」 「【0084】 図17(a)に示すように、配線層18bに空隙の発生は確認できず、また、配線層18bと密着層18a又は密着層18cとの界面において膜剥がれの発生は確認できなかった。 【0085】 (実施例2) 本実施例では、実施例1のマイクロヒーターにおける密着層の材料の違いによる空隙及び膜剥がれの発生の有無を断面TEM観察及び表面顕微鏡観察にて評価した。 【0086】 断面TEM観察の評価サンプルとして、密着層18a及び密着層18cがチタンと酸素との化学量論比が1:1.1である酸化チタン層(TiO1.1)、チタンと酸素との化学量論比が1:2である(化学量論的組成である)酸化チタン層(TiO2)、及びチタンと窒素との化学量論比が1:1である窒化チタン層(TiN)の3種を用意した。なお、酸化チタン層(TiO1.1)の酸素の割合は、酸化チタンの化学量論的組成であるときの酸素の55%である。(以降、TiO2に対するTiOxの酸素の割合を酸素割合ともいう)なお、窒化チタン層(TiN)は、酸素が含まれていないもののサンプルとして用いた。用意したサンプルに700℃の熱処理を行った。 【0087】 また、表面顕微鏡写真の評価サンプルとして、密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO0.5:酸素割合25%)、酸化チタン層(TiO0.9:酸素割合45%)、酸化チタン層(TiO1.1:酸素割合55%)、酸化チタン層(TiO1.4:酸素割合70%)、酸化チタン層(TiO2:酸素割合100%)、及び窒化チタン層(TiN:酸素割合0%)の6種を用意した。用意したサンプルに800℃の熱処理を行った。 【0088】 実施例1と同様にして得られた断面TEM画像を図17に示す。図17(a)は密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO1.1)である断面であり、図17(b)は密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO2)である断面であり、図17(c)は密着層18a及び密着層18cが窒化チタン層(TiN)である断面である。 【0089】 図17(a)に示すように、密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO1.1)である場合は配線層18bに空隙の発生は確認できず、また、配線層18bと密着層18a又は密着層18cとの界面において膜剥がれの発生は確認できなかった。一方、図17(b)に示すように、密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO2)である場合は、領域26に膜剥がれが発生していることが確認できた。また、図17(c)に示すように、密着層18a及び密着層18cが窒化チタン層(TiN)である場合は、領域27に空隙が発生していることが確認できた。 【0090】 また、得られた表面顕微鏡写真を図18及び図19に示す。図18(a)は密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO0.9)である表面であり、図18(b)は密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO1.1)である表面であり、図18(c)は密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO1.4)である表面である。図19(a)は密着層18a及び密着層18cが窒化チタン層(TiN)である表面であり、図19(b)は密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO0.5)である表面であり、図19(c)は密着層18a及び密着層18cが酸化チタン層(TiO2)である表面である。 【0091】 図18(a)~図18(c)に示すように、密着層18a及び密着層18cの材料が酸化チタン層(TiO0.9)、酸化チタン層(TiO1.1)、及び酸化チタン層(TiO1.4)であるものは、空隙の発生は確認できず、また、配線層18bと密着層18a又は密着層18cとの界面において膜剥がれの発生は確認できなかった。一方、図19(a)~図19(c)に示すように、密着層18a及び密着層18cの材料が窒化チタン層(TiN)、酸化チタン層(TiO0.5)、及び酸化チタン層(TiO2)であるものは、空隙又は膜剥がれ(図中の黒点や白点)が発生していることが確認できた。 【0092】 上記の評価結果より、チタンと酸素との化学量論比が1:0.9~1.4である酸化チタン層の使用が好ましいことが分かった。」 (なお、上記図面の摘記は略す。) 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 令和7年6月3日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由は、取り下げられたものとみなす訂正請求書により訂正された請求項に対するものであり、その概要は次のとおりである。 請求項1及び7に係る発明の発明特定事項である「金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含む」もののうち「チタンと酸素との化学量論比が1:0.9~1.4」については、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲であるものの、前記化学量論比以外の酸素欠乏領域及びチタン以外の金属については、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものではない。 請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~6に係る発明、並びに請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8、9及び11~13に係る発明についても、「チタンと酸素との化学量論比が1:0.9~1.4」に限定されているものではないから、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものではない。 したがって、請求項1~9及び11~13に係る発明は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、請求項1~9及び11~13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 2 取消理由に対する判断 上記第2の1に記載した訂正事項1及び4により、本件発明1及び7は、「金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含む」ものが「チタンと酸素との化学量論比が1:0.9~1.4」であるものに限定されたことから、本件発明1及び7、並びに、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明4~6及び本件発明7を直接的又は間接的に引用する本件発明10~13は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるものとなり、発明の詳細な説明に記載したものである。 したがって、本件発明1、4~7及び10~13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、取消理由によって取り消すことはできない。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 上記第4の1で記載した取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由として、申立人は、特許された請求項に対して、概略、以下の申立理由を主張している。 なお、申立人が提示した甲第○号証は、以下「甲○」という。 1 申立理由1(進歩性) 請求項1~13に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明又は甲4に記載された発明、並びに甲2、甲3及び甲5に記載された事項に基いて、本件特許出願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 <甲号証一覧> 甲1:特開昭61-188901号公報 甲2:特開2002-107322号公報 甲3:和田充弘、他、「大気中熱処理後のPt/Ti/Si02薄膜におけるPt薄膜密着機構の検討」、日本金属学会誌、第74巻、第9号、2010年、pp.578-583 甲4:特開2015-169552号公報 甲5:特開2011-137679号公報 2 申立理由2(明確性) 請求項1~13に係る発明は明確でないことから、請求項1~13に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 なお、申立人の具体的な主張については、以下の第7の2の申立理由2において、記載することとする。 3 申立理由3(実施可能要件) 発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1~13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないことから、請求項1~13に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 なお、申立人の具体的な主張については、以下の第7の3の申立理由3において、記載することとする。 4 サポート要件に関する申立理由 申立書で記載しているサポート要件違反の主張内容(46頁11行~47頁15行)は、上記第4の1で記載した取消理由の指摘内容より、広い範囲をサポート範囲(本件発明の課題が解決できることを認識できる範囲)とするものであるから、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由とはならない。 なお、取消理由は上記第4の2で記載したとおり訂正により解消されていることから、サポート要件に関する申立理由も解消している。 第6 甲号証の記載 1 甲1について (1)記載事項 甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである(以下同様)。 (甲1ア)「2.特許請求の範囲」 1.基板、該基板上に形成された第1の絶縁膜、該第1の絶縁膜上に形成された白金パターン、および該白金パターン上に形成された第2の絶縁膜を具備する流量センサ用膜式抵抗において、前記各第1、第2の絶縁膜と前記白金パターンとの間に二酸化チタン(TiO2)層を形成したことを特徴とする流量センサ用膜式抵抗。」 (甲1イ)「このような要求を満たす金属として白金が発熱材料として常用されている。その1つとして、従来の白金を用いた腹式抵抗においては、セラミック、シリコン等の基板上に白金を蒸着、スパッタリング等により成膜しているが、白金は安定な金属であるために、白金と下地の絶縁物質、および白金とその上に形成されるパッシベーション膜との接着強度が弱く、はがれ易いという問題がある。 〔問題点を解決するための手段〕 本発明の目的は、白金を用いた強固な流量センサ用膜式抵抗を提供することにあり、その手段は、白金と下地の絶縁物質との間、および白金とその上のパッシベーション膜との間に二酸化チタン(TiO2)層を挿入したことにある。 〔作 用〕 TiO2層は、耐水性、加工性に優れており、白金との接着強度が強く、しかも、その熱膨張率は白金の熱膨張率とほぼ一致しているので、膜式抵抗の強固さが向上する。 〔実施例〕 初めに、TiO2について説明する。 絶縁膜として耐水性、加工性(エッチング)に優れているものとしては、SiO2、Si3N4、TiO2、Al2O3等が上げられる。なお、Al2O3よりTiO2の方が加工性に優れている。また、Pt、Auに対する接着強度について、SiO2、Si3N4は0.1×107N/m2であり、TiO2は0.9×107N/m2、Al2O3は1.1×107N/m2であり、従って、TiO2、Al2O3の接着強度はSiO2、Si3N4の接着強度の約10倍である。なお、Auは後述のごとく膜式抵抗の配線部の材料として用いられる。 さらに、熱膨張率からみると、 Au:14.2×10-6/deg Pt:8.9×10-6/deg TiO2:8.2×10-6/deg Al2O3:6.2×10-6/degであり、内燃機関の吸入空気量センサの場合、吸入空気の温度は-40℃~120℃と広く、従ってPt、Auの熱膨張率に近いものとして、TiO2が優れている。 以上のことを考慮すると、腹式抵抗の材料Ptと第1、第2の絶縁膜との間に挿入すべき材料としてTiO2が優れていることが分かる。」(2頁左上欄8行~左下欄14行) (甲1ウ)「第1図を参照してさらに詳細に説明すると、シリコン単結晶基板1を熱酸化して第1の絶縁膜(下地の絶縁物質)としての二酸化シリコン(SiO2)層を形成し、その上に、本発明に係るTiO2層3を形成しである。また、TiO2パタ一ン層3上には、上述のPtパターン層4が形成され、さらに配線部の抵抗を低減するために、配線部のPtパターン層4は金(Au)パターン層5により2層化されている。さらに、Auパターン層5により2層化された部分を含むPtパターン層4には第2の絶縁膜(パッシベーション膜)としてのSiO2層7をCVDにより形成してある。なお、第2の絶縁膜はシリコンナイトライド(Si3N4)でもよい。 このように、第1の絶縁膜としてのSiO2層2とPtパターン層4との間には、Ptパターン層4との接着強度が大きいTiO2パターン層3が設けられ、また、Ptパターン層4と第2の絶縁膜としてのSiO2層7との間にも、Ptパターン層4との接着強度が大きいTiO2パターン層5が設けられている。」 (甲1エ)第1図として、以下の図面が記載されている。 「 [図:0001433068000001.jpg] 」 (2)甲1発明について 甲1発明を、(甲1ア)の記載に基づいて認定すると、以下のとおりである。 「基板、該基板上に形成された第1の絶縁膜、該第1の絶縁膜上に形成された白金パターン、および該白金パターン上に形成された第2の絶縁膜を具備する流量センサ用膜式抵抗において、前記各第1、第2の絶縁膜と前記白金パターンとの間に二酸化チタン(TiO2)層を形成した流量センサ用膜式抵抗。」(以下「甲1発明」という。) 2 甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 (甲2ア)「【0003】MIS構造のガスセンサにおいて使用される感応膜は、Pd、Pt、Ir等の金属膜であるが、通常、これらの金属膜は半導体の表面に形成される絶縁膜上に直接形成される。絶縁膜としては酸化膜及び有機膜等が用いられるが、これらの絶縁膜の表面にPd、Pt、Ir等からなる金属膜を形成した場合は、十分に密着せず、絶縁膜と金属膜とが部分的に剥離することがある。このように剥離を生じた場合は、初期特性がばらついたり、使用における経時とともにセンサ特性が徐々に低下する。 【0004】ガスセンサではなく、薄膜回路基板の分野では、Pd、Pt、Ir等の薄膜を酸化膜、有機膜等の絶縁膜の表面に形成する場合、それらを十分に密着させるため、絶縁膜とPd、Pt、Ir等の薄膜との間に、Ti、Ta、Cr、W、Nb又はMo等からなる金属層が形成される。これによって絶縁膜とPd、Pt、Ir等の薄膜とを十分に密着させることができる。しかし、MIS構造のガスセンサの場合は、感応膜を形成する金属が半導体上の絶縁性の皮膜に接していないとガス検知能が発現されない。そのため、感応膜と絶縁膜との間に、Ti、Ta、Cr、W、Nb、Mo等からなる金属層を形成した場合は、ガス検知素子として機能しない。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上記の従来の問題を解決するものであり、MIS構造のガスセンサに用いられるガス感応性積層体であって、絶縁膜と感応膜とが十分に密着し、剥離することがなく、使用時、優れたガス検知能が維持されるガス感応性積層体及びその製造方法、並びにこのガス感応性積層体をガス検出素子として用いたガスセンサを提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】第1発明のガス感応性積層体は、半導体と、該半導体の表面に形成された絶縁膜と、該絶縁膜の表面に形成された金属からなる感応膜と、を有するガス感応性積層体において、上記絶縁膜と上記感応膜との間に酸化物からなる中間層が積層されていることを特徴とする。 【0007】上記「半導体」としては、シリコン、TiO2等の酸化物半導体、CdS、InP、GaAs、SiC等の各種の半導体が挙げられる。上記「絶縁膜」は、各種金属の酸化物及びSiO2等より形成することができ、高分子重合体からなる有機絶縁膜とすることもできる。また、半導体としてシリコンを用いた場合は、この半導体を熱酸化させることにより、その全表面にSiO2からなる絶縁膜を形成することができる。これらの絶縁膜の厚さは、通常、2~200nmとすることができる。上記「感応膜」は、Pd、Pt、Ir等の白金族金属などにより形成することができる。 【0008】酸化物からなる上記「中間層」は、絶縁膜の表面に形成され、この中間層の表面に感応膜が形成される。絶縁膜と中間層及び中間層と感応膜の各々の界面は十分に密着し、中間層を設けない場合のように経時とともに絶縁膜と感応膜とが剥離することがなく、優れたセンサ特性が維持される。中間層を形成する酸化物は特に限定されないが、第2発明のように、酸化チタン、酸化タンタル、酸化クロム、酸化タングステン、酸化ニオブ及び酸化モリブデンのうちの少なくとも1種であることが好ましい。また、中間層は、酸化チタン、酸化タンタル、酸化クロム又は酸化タングステンにより形成することが特に好ましい。中間層の厚さは特定されないが、1~20nm程度とすることができる。」 (甲2イ)「【0018】その後、シリコンウェハの研磨面上に形成されたSiO2膜の表面のうち周縁部を除く部分に、フォトリソグラフィ法により、表1の中間層と感応膜と連続的に形成した。金属であるTi、Ta及びPdは、Ar雰囲気のスパッタリング法により形成した。また、金属酸化物であるTiOは、Ar/O2=3/1雰囲気のスパッタリング法により形成した(図2)。」 (甲2ウ)「【0021】上記のようにして試作したセンサ素子を使用し、Ar中、流量10リットル/分で水素感度を測定した。そして、この水素感度の経時変化等により絶縁膜と感応膜との密着性を評価した。その結果、Pdからなる感応膜のみで中間層がない実験例1では、当初の水素感度は十分であったが、剥離のため経時とともに感度が低下し、密着性に劣ることが分かった。更に、Ti層を形成し、これを熱処理せず、金属層のままとした実験例3では、Tiが金属のまま存在しているため、水素感度がなかった。また、TiOからなる中間層を有する実験例2、並びにTi層及びTa層が熱処理により酸化され、それぞれTiO層、TaO層となった実験例4、5では、水素感度は当初より十分であるとともに、経時による低下もなく、密着性に優れていた。」 (甲2エ)表1として、以下の表が記載されている。 「【表1】 [図:0001433068000002.jpg] 」 3 甲3について 甲3には、以下の事項が記載されている。 (甲3ア)「1.諸言 近年の電子材料に用いられている配線材料は,低電流損失や高周波数応答性に対応する電気的な特性が求められている.これらを実現するひとつの手段として,配線材料の結晶組織を制御することが有効で,その対処法としては熱処理を用いることが一般的である.なかでも,配線材料のみならず温度センサーとしても用いられているPtについては,成膜手法や熱処理による物性変化や特性変化について多くの報告がなされている. この様な研究が行われている中,半澤らはAr-O2混合ガスを用いてPt薄膜を成膜し,さらに大気中にて熱処理を実施することで,センサー感度の向上とTi密着層の維持,およびPt薄膜の低表面粗さを同時に実現した. ・・・ 本研究では,Ti密着層が酸化反応によりTiO2となった際の,Pt/TiO2/SiO2各界面について各種評価を行い,Pt薄膜の密着機構について考察した.」(578頁左欄1行~右欄7行) (甲3イ)「3.結果および考察 ・・・ 3.1 剥離面評価 成膜直後および各条件にて熱処理を行った薄膜試料のSAICAS法による薄膜密着強度測定結果をTable1に示す.成膜直後の薄膜では,120N/mの密着強度を有し,900℃,0hでは240N/mと密着強度が増加するものの,熱処理温度と時間が増加する1000℃,4hでは逆に49N/mと低下することがわかった. [図:0001433068000003.jpg] ・・・ このことから,成膜直後のPt/Ti薄膜には,大きな引張応力が作用していると推定される.これに対して,900℃,0hで熱処理を行った試料については,薄膜内の応力が緩和されたために,一時的に密着強度が上昇したと推定される.」(579頁左欄下から4行~最下行) (甲3ウ) 「これに対して,Pt薄膜とTiO2粒子界面近傍においてEELS線分析を実施した際の各EELSスペクトルをFig.6およびFig.7に示す.TiO2粒子内部では先程と同様にTiL2,3エッヂおよびOKエッヂがTiO2を示す特徴的な形状を示しているのに対して,Pt薄膜との界面近傍では,TiL2,3エッヂが金属的である.またこの界面においてOKエッヂの強度は極めて低いことから,成膜時に形成されたTi-Pt金属結合が熱処理後も存続し,Ptとの合金層を形成している可能性を示唆している.いずれにしても,界面近傍のTiは,TiO2よりも還元された状態にあることがわかった.このため,一般的には密着強度が低いPtとTiO2の接合界面においても,TiとPtが化学的な結合を有しているため,ある程度の密着強度が発現していることが明らかとなった.」 4 甲4について 甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4ア)「【0002】 湿度等の雰囲気状態を検出する検出装置として、熱伝導原理を利用したマイクロブリッジ構造を有する検出装置が広く用いられている。」 (甲4イ)「【0015】 図1(a)及び(b)に示すように、第1実施形態に係る検出装置100aは、空洞が形成された空洞部102aと空洞が形成されていない非空洞部102bとを有する基板101と、空洞部102a上に架橋支持又は片持支持された薄膜層としての下部絶縁層103と、下部絶縁層103上に第1接着層104を介して形成された発熱体パターン105と、非空洞部102b上に下部絶縁層103及び第1接着層104を介して形成された抵抗体パターン106a、106bとを有する。 【0016】 また、発熱体パターン105及び抵抗体パターン106a、106b上には、第2接着層107及び上部絶縁層108が形成されている。」 (甲4ウ)図1(b)として、以下の図面が記載されている。 「 [図:0001433068000004.jpg] 」 (甲4エ)「【0032】 次に、検出装置100aの作製方法の一例について説明する。 【0033】 図2に、第1実施形態に係る検出装置100aの作製方法の一例のフローチャートを示す。以下、図2を参照しながら、各々のステップについて説明する。 【0034】 (S1)例えばシリコン基板からなる基板101上に、例えば二酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(Si3N4)等の下部絶縁層103を、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタ法等により形成する。 【0035】 (S2)下部絶縁層103上に、例えば五酸化二タンタル(Ta2O5)等の絶縁物である第1接着層104を、CVD法、スパッタ法等により形成する。 【0036】 (S3)第1接着層104上に発熱体パターン105及び抵抗体パターン106a、106b、端子A、B、C、Dを形成するための抵抗体膜を、蒸着法、CVD法、スパッタ法等とエッチング法により形成する。抵抗体膜としては、例えば白金(Pt)、金(Au)、ニッケルクロム(NiCr)、タングステン(W)等が挙げられる。中でも、Ptは他の金属に比べて抵抗値の温度係数が大きく、広い温度範囲でその温度係数の直線性が高く、また、物性が安定しているため、発熱体パターン105と温度検出抵抗体(本実施形態では、抵抗体パターン106a、106b)の両方の機能を合わせ持つ最適な材料である。 【0037】 (S4)抵抗体膜上に、例えばTa2O5等の絶縁物である第2接着層107を、CVD法、スパッタ法等により形成する。 【0038】 (S5)第1接着層104、抵抗体膜及び第2接着層107を、例えばフォトリソグラフィにより所望の形状に加工する。すなわち、発熱体パターン105、抵抗体パターン106a、106b、端子A、B、C、Dを形成する。 【0039】 (S6)電極間の絶縁性を保つため、第2接着層107上にSiO2、Si3N4等の上部絶縁層108をCVD法、スパッタ法等により形成する。 【0040】 (S7)上部絶縁層108を、例えばフォトリソグラフィにより所望の形状に加工する。 【0041】 (S8)水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化カリウム(KOH)等のエッチング液を用いて基板101を異方性エッチングすることにより、空洞部102aを形成する。 【0042】 以上に説明した(S1)~(S8)の方法により、第1実施形態に係る検出装置100aが得られる。」 5 甲5について 甲5には、以下の事項が記載されている。 「【0051】 図7は、本発明の第二実施例を示す熱式ガスセンサ1bのセンサエレメントの平面図である。図1の第1の実施例と異なるのは発熱体3の近傍に温度センサ23を配置し、また、発熱体4の近傍に温度センサ24を配置している点である。温度センサ23,24は発熱体3,4に沿って空洞部5内に延設され、温度センサ23は主として発熱体3の温度を検出し、温度センサ24は主として発熱体4の温度を検出する。温度センサ23,24は外部回路との接続のために基板2上に形成された電極7e,7f,7g,7hと電気的に接続される。 【0052】 温度センサ23,24は発熱体3,4と同様に形成され、高温において安定な材料(高い融点を有する材料)である白金(Pt),タンタル(Ta),モリブデン(Mo),シリコン(Si)等が選定される。」 第7 申立理由に対する判断 1 申立理由1(進歩性)について (1)本件発明1について ア 甲1を主引用例とした場合 (ア)対比 a 甲1発明の「第1の絶縁膜」及び「第2の絶縁膜」は、本件発明1の「第1絶縁層」及び「第2絶縁層」に相当し、甲1発明の「白金パターン」は、(甲1ウ)によれば「配線部のPtパターン層」のことであるから、本件発明1の「白金を含」む「配線層」に相当する。 また、甲1発明の「前記各第1」「絶縁膜と前記白金パターンとの間に」「形成」した「二酸化チタン(TiO2)層」及び「第2の絶縁膜と前記白金パターンとの間に」「形成」した「二酸化チタン(TiO2)層」は、(甲1ウ)によれば「二酸化チタン(TiO2)層」は「Ptパターン層4との接着強度が大きい」(すなわちPtパターン層4に密着する)ものであるから、本件発明1の「金属は、チタンであ」る「それぞれ金属酸化物を含」む「第1密着層」及び「第2密着層」に相当する。 b 甲1発明の「第2の絶縁膜と前記白金パターンとの間に」「形成」した「二酸化チタン(TiO2)層」は、(甲1エ)の図1によれば白金パターン(4)の上側面を覆うように二酸化チタン(TiO2)層(6)が形成されているといえる。そうすると、甲1発明の「第1の絶縁膜、該第1の絶縁膜上に形成された白金パターン、および該白金パターン上に形成された第2の絶縁膜を具備」し、「前記各第1、第2の絶縁膜と前記白金パターンとの間に二酸化チタン(TiO2)層を形成した」との積層構造は、本件発明1の「第1絶縁層と、前記第1絶縁層上の第1密着層と、前記第1密着層上の配線層と、前記配線層を覆う第2密着層と、前記第1絶縁層上及び前記第2密着層上の第2絶縁層と、を備え」る積層構造を満たすものである。 c 甲1発明の「膜式抵抗」は、(甲1イ)によれば「発熱材料」で構成されるものであるから、本件発明1の「マイクロヒーター」とは、「発熱体」という点で共通する。 d 一致点・相違点 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 (一致点) 「第1絶縁層と、 前記第1絶縁層上の第1密着層と、 前記第1密着層上の配線層と、 前記配線層を覆う第2密着層と、 前記第1絶縁層上及び前記第2密着層上の第2絶縁層と、を備え、 前記配線層は、白金を含み、 前記第1密着層及び前記第2密着層は、それぞれ金属酸化物を含み、 前記金属は、チタンである、発熱体。」 (相違点1) 金属酸化物が、本件発明1では、「金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み」「金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4である」のに対し、甲1発明では、「TiO2」そのものである点。 (相違点2) 発熱体が、本件発明1では、「マイクロヒーター」であるのに対し、甲1発明では、「膜式抵抗」である点。 (イ)相違点1の判断 a まず、甲1発明における「前記各第1、第2の絶縁膜と前記白金パターンとの間に二酸化チタン(TiO2)層を形成」することの技術的意義について検討する。 (甲1ウ)には、「〔作 用〕TiO2層は、耐水性、加工性に優れており、白金との接着強度が強く、しかも、その熱膨張率は白金の熱膨張率とほぼ一致しているので、膜式抵抗の強固さが向上する。」と記載され、「Al2O3よりTiO2の方が加工性に優れて」おり、「TiO2は0.9×107N/m2」で「TiO2、Al2O3の接着強度はSiO2、Si3N4の接着強度の約10倍であ」り、「TiO2:8.2×10-6/deg」であることにより、「Pt、Auの熱膨張率に近いものとして、TiO2が優れている」と記載されているとおり、「TiO2」そのもの以外の材料について全く想定されておらず、「TiO2」以外の化学量論比とすることの動機付けについて示唆する記載は一切ない。 また、「TiO2」を「金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含」む「チタンと酸素との化学量論比を1:0.9~1.4」(すなわちTiO0.9~1.4)としてしまっては、もやは「TiO2」そのものではないのであるから、熱膨張率の値も変化し、上記〔作 用〕で記載した「熱膨張率は白金の熱膨張率とほぼ一致している」とはいえず、上記その余の特性についても「TiO2」そのものと同等に発揮するものともいえない。 そうすると、甲1発明において、「TiO2」を「金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み」「金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4である」ものにすることには阻害要因があるといえる。 b さらに、その他の甲号証についても検討するに、上記第5の2~5で記載したように、絶縁膜(絶縁層)と白金パターン(配線層)との間に「金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含」む金属酸化物を形成することにより、両者の密着性を向上させるという技術思想を開示したものはないから、甲1発明にいかに甲2~5に記載の技術を組み合わせても、上記相違点1に係る構成に当業者が容易に想到し得たこととすることはできない。 (ウ)申立人の主張について a 申立人は、令和7年9月18日提出の意見書において、上記(相違点)に係る技術事項は甲2及び甲3に記載されていることから、「本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証、又は甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明に基づき当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(6頁5~7行)とし、甲2及び3について、具体的に以下のように主張している。 (a)甲2 「甲第2号証の【0006】ないし【0008】には、絶縁膜と、Pt等の白金族金属により形成される感応膜との間に酸化物からなる中間層を形成することによって、絶縁膜と感応膜との密着性が向上することが記載されている。また、甲第2号証の【0021】及び表1には、中間層としてTiOを用いた実験例2及び4において、優れた密着性が得られたことが記載されている。そうすると、甲第1号証に記載の発明において、SiO2層2及びPt層4の密着性、並びにSiO2層7及びPt層4の密着性を向上させるために、TiO2層3及びTiO2層6に含まれる金属酸化物として、甲第2号証に記載のTiOを採用してみることは、当業者が容易になし得たことである。そして、TiOからなる金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含むものである。」(5頁1~11行) (b)甲3 「甲第3号証には、PtとTiO2とは密着性が悪いことが一般的に知られているにもかかわらず、実装プロセスでは実用可能な密着強度を有していることが記載されている(甲第3号証の第580頁右欄第21行~第581頁左欄第6行)。また、そのような密着強度が発現される理由として、Pt薄膜とTiO2粒子との界面近傍において、TiはTiO2よりも還元された状態にあることが指摘されている(甲第3号証の第581頁右欄第26行~第582頁左欄第6行)。また、甲第3号証では、金属Ti膜に対して、(1)熱処理なし、(2)大気中900℃、0hでの熱処理(900℃まで昇温した直後に加熱を停止)、及び(3)大気中1000℃、4hの熱処理、の3条件で処理した際の密着性の違いを検討しており、(2)大気中900℃、0hの熱処理が最も密着性が良いことが示されている(甲第3号証のTable1)。このことから、Ti膜を酸化させ過ぎない、程良い酸化状態がPt/Tiの密着性の向上に寄与することが直接的に記載されているといえる。」(5頁12~24行) b 申立人の主張に対する当審の判断 (a)甲2について (i)まず、上記(イ)bで述べたとおり、甲2には、絶縁層と配線層との間に「金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含」む金属酸化物を形成することにより、両者の密着性を向上させるという技術思想は一切記載されていない。 甲2で開示されている技術は、絶縁膜と感応膜との間に酸化物からなる中間層を積層させることであり、(甲2ア)の【0003】には「感応膜」がPt等の金属膜からなることが、また、同【0008】には「酸化物」の例示の一つとして「酸化チタン」が記載されている。 そして、(甲2ウ)には、その酸化チタンの表記として「TiOからなる中間層を有する実験例2、並びにTi層及びTa層が熱処理により酸化され、それぞれTiO層、TaO層となった実験例4、5」と記載され、(甲2エ)の表1には中間層として「TiO」と記載されている。 (ii)そこで「TiO」の表記について検討するに、(甲2ウ)に「Ti層及びTa層が熱処理により酸化され、それぞれTiO層、TaO層」と記載されているが、酸化タンタルは、(IV)(二酸化タンタル)TaO2と酸化タンタル(V)(五酸化二タンタル)Ta2O5があり、もっとも安定で普通に存在するものはTa2O5であり、上記「TaO」は一般には存在しないものであることを考慮すると、甲2における「TaO」とは、単に「酸化タンタル」(普通に存在するTa2O5)を意味しているにすぎず、TaとOの化学量論比を表したものとはいえない。 そうすると、「TiO」についても、同様にTiとOの化学量論比を表したものではなく、単に「酸化チタン」を意味しているにすぎないと解するのが相当である。この点、化学量論比がTi:O=1:1のものは特殊な条件のもとでしか製造されず、「Ti」を熱処理により酸化したものが「TiO2」ではなく「TiO」となるとはいえない。さらに、(甲2イ)を参照するに、甲2における「TiO」が通常のスパッタリングで製造されることも記載されており、スパッタリングで製造される酸化チタンはTiO2である(例えば、長田康彦他、「スパッタ法で作製した酸化チタン薄膜の微細構造における熱処理効果と水素検出特性」、Journal of the Vacuum Society of Japan、Vol.53、No.5、2010年、pp.353-356、等参照)ことを踏まえても、甲2における「TiO」は、TiとOの化学量論比を表したものではなく、単に「酸化チタン」(TiO2)を意味していると解さざるをえない。 したがって、甲2に「TiO」との表記があるものの、これはTiとOの化学量論比を表したものとはいえないことから、申立人の「TiOからなる金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含むものである」との主張は、甲2の記載の字面に基づいたものであり、甲2に記載された事項の技術常識に基づく正当な理解を踏まえたものとはいえない。 (b)甲3について (i)まず、甲3は、SiO2(絶縁)とPt(配線)との間に金属Ti密着層を設ける技術において、熱処理を施すと、TiがTiO2となり密着性が低下することについて考察したものであり、SiO2(絶縁)とPt(配線)との間に、「金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含」む金属酸化物を形成することにより、両者の密着性を向上させるという技術思想は一切記載されていない。 (ii)申立人は、「そのような密着強度が発現される理由として、Pt薄膜とTiO2粒子との界面近傍において、TiはTiO2よりも還元された状態にあることが指摘されている(甲第3号証の第581頁右欄第26行~第582頁左欄第6行)」と主張しているが、Ti(金属)はTiO2(酸化物)よりも還元された状態にあり、その指摘箇所のすぐ後に「このため,一般的には密着強度が低いPtとTiO2の接合界面においても,TiとPtが化学的な結合を有しているため,ある程度の密着強度が発現していることが明らかとなった.」と記載されており、化学量論比において酸素が欠乏している酸化チタンとPtとによって密着強度が発現しているとは記載されていない。 さらに、申立人は、上記(甲3イ)で記載の「Table1」において「900℃,0h」の時に最も密着性がよいことが示されていることをもってして、「Ti膜を酸化させ過ぎない、程良い酸化状態がPt/Tiの密着性の向上に寄与することが直接的に記載されているといえる」と主張しているが、同(甲3イ)に「これらの観察結果よりPt薄膜の密着強度は,900℃,0hについてTiの密着層が減少するものの,Pt/Ti薄膜内の引張応力が緩和するので密着強度は上昇する」と記載されているとおり、応力緩和による密着強度の上昇であるから、申立人の主張は甲3の記載に基づかず、恣意的な技術的解釈である。 (c)小括 したがって、甲2及び甲3ともに、上記bで述べたように、絶縁膜(絶縁層)と白金パターン(配線層)との間に「金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含」む金属酸化物を形成することにより、両者の密着性を向上させるという技術思想が開示されておらず、金属(チタン)酸化物が、上記相違点に係る「金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み」「金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4である」ことは何ら記載されていないことに変わりはない。 そうすると、申立人の「本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証、又は甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明に基づき当業者が容易に想到し得たものである」との主張は受け入れられるものではない。 (エ)まとめ 以上のことから、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、 甲1発明、並びに甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 甲4を主引例とした場合 甲4は、(甲4ア)に記載されているとおり、熱伝導原理を利用したマイクロブリッジ構造を有する湿度等の雰囲気状態を検出する検出装置に関する発明であり、上記(甲4ウ)で摘記したように、下部絶縁層103上に、例えば五酸化二タンタル(Ta2O5)等の絶縁物である第1接着層104を形成し、第1接着層104上に、例えば白金(Pt)等の抵抗体膜を形成し、その抵抗体膜上に、例えばTa2O5等の絶縁物である第2接着層107を形成し、第2接着層107上に上部絶縁層108を形成すること(以下「甲4発明」という。)が記載されているものの、その(Ta2O5)を「金属(Ta)と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含」む酸化物を形成することにより、接着性(密着性)を向上させることは一切記載されていない。 そして、甲1~甲3及び甲5にも、絶縁物(絶縁層)と抵抗体膜(配線層)との間に「金属と酸素との化学量論比において酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含」む金属酸化物を形成することにより、両者の密着性を向上させるという技術思想を開示したものはないから、甲4発明にいかに甲1~3及び甲5に記載の技術を組み合わせても、上記相違点1を当業者が容易になし得たこととすることはできない。 よって、本件発明1は、甲4発明、並びに甲1~甲3及び甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 よって、本件発明1は、甲1発明又は甲4発明、及び甲1~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明7について 本件発明7は、本件発明1の「マイクロヒーター」の発明を、そのカテゴリーを変えて「マイクロヒーターの製造方法」の発明としたものであるが、本件発明1と同様に「前記第1密着層及び前記第2密着層は、それぞれ金属酸化物を含み、前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含み、前記金属は、チタンであり、前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比が1:0.9~1.4である」ことを発明特定事項として有するものである。 そうすると、本件発明7は、主引例である甲1発明、甲4発明を製造方法の発明(以下「甲1発明’」、「甲4発明’」という。)と認定したとしても、本件発明1と同様に、甲1発明’又は甲4発明’、及び甲1~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)その他の発明について 本件発明4~6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であり、本件発明10~13は、本件発明7を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1及び7と同様に、甲1発明(甲1発明’)又は甲4発明(甲4発明’)、及び甲1~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)まとめ したがって、本件発明1、4~7及び10~13は、甲1に記載された発明又は甲4に記載された発明、及び甲1~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1によって、本件発明1、4~7及び10~13に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(明確性)について (1)申立人は、申立理由2として、おおむね以下の点を主張している。 ア 本件特許の請求項1及び7には、「前記金属酸化物は、金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含む」なる記載があるが、「酸素が欠乏している」及び「酸素欠乏領域」は、本分野において通常用いられる「酸素欠損」とは異なる表現であることから、「酸素欠損」という意味に加えて、「特定の組成と比較して、酸素が欠乏している」という状態をも含む、広い意味を有するものと考えられる。しかしながら、当該請求項及び本件特許明細書には、いかなる状態と比較して酸素が欠乏している場合に、酸素欠乏領域と判断するのかが記載されていない。例えば、金属酸化物がTiOである場合、それが四価のチタンの酸化物である二酸化チタン(IV)において酸素が欠乏している状態であると考えるのか、それとも二価のチタンの酸化物である酸化チタン(II)であり酸素は欠乏していないと考えるのか、明確ではない。 イ 「酸素欠損」は、結晶構造において本来酸素が位置すべき位置に酸素が存在しないことをいうところ、金属酸化物が結晶構造を有することは本件特許の請求項1及び7には規定されていないし、本件特許明細書にも何らの記載もない。 ウ 本件特許明細書には、金属酸化物が酸素欠損を有するか否かを判定するための分析方法に関する記載がないし、実施例で製造された酸化チタン層が酸素欠損を有するか否かに関する記載もない。 エ 本件特許の請求項2及び8には、「金属酸化物の化学量論的組成」なる記載がある。しかしながら、「金属酸化物の化学量諭的組成」がいかなる組成を表しているのかが当該請求項及び本件特許明細書には記載されていないため、当業者は、本件特許の請求項2及び8に係る発明を明確に理解することができない。 (2)申立人の主張に対する当審の判断 アについて 本件明細書の【0086】に「チタンと酸素との化学量論比が1:2である(化学量論的組成である)酸化チタン層(TiO2)」と記載されているとおり、本件明細書等において、もっとも安定で普通に存在する「化学量論的組成」であるTiO2と比較して、化学量論比において酸素が欠乏している場合(すなわち、上記(本イ)の実施例で記載されているとおり、TiOxの「x」が2より小さい場合)が、本件発明1及び7の「金属と酸素との化学量論比において前記酸素が欠乏している酸素欠乏領域を含む」状態であると一義的に解されるものである。 また、本件明細書等において一義的に解される「酸素欠乏」との用語が、本件明細書等において用いられていない「酸素欠損」と異なる表現であることをもってして、本件明細書等における「酸素欠乏」との用語が不明確であるとはいえない。 イについて まず、上記アで述べたとおり、本件明細書等において「酸素欠損」という用語は用いられていないことから、当該用語について検討する必要はない。また、金属酸化物が結晶構造を有することは自明であるし、金属酸化物が結晶構造を有することが本件発明1及び7において規定されていないことが本件発明1及び7を不明確とするものでもない。 ウについて 上記イで述べたとおり、本件明細書等において「酸素欠損」という用語は用いられていないことから、当該用語について検討する必要はなく、「酸素欠乏」している状態の分析方法自体が本件明細書等に記載されていないことをもってして本件発明が不明確であるとはいえない。なお、「酸素欠乏」している状態は、例えば、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy(EELS)入射電子が試料物質との相互作用によりエネルギーを失った非弾性散乱電子を分光することで、試料の元素組成や化学結合状態を解析する手法)によって分析できることは、当業者において明らかである。 エについて 上記アで述べたとおり、本件明細書の【0086】に「チタンと酸素との化学量論比が1:2である(化学量論的組成である)酸化チタン層(TiO2)」と記載されていることから、「いかなる組成を表しているのか」「本件特許明細書には記載されていない」との主張は失当である。なお、本件特許の請求項2及び8については、本件訂正により削除されており、存在しない。 オ まとめ したがって、本件明細書等を考慮し、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないことから、申立理由2によって、本件発明1、4~7及び10~13に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(実施可能要件) (1)申立人は、申立理由3として、おおむね以下の点を主張している。 ア 本件特許の請求項4及び10には、「前記酸素欠乏領域は、前記配線層と前記第1密着層との界面側から前記第1絶縁層側に向かうに連れて徐々に酸素の量が大きくなる領域と、前記配線層と前記第2密着層との界面側から前記第2絶縁層側に向かうに連れて徐々に酸素の量が大きくなる領域と、を有する」なる記載がある。しかしながら、本件特許明細書には、かかる酸素欠乏領域を有する第1密着層及び第2密着層を形成するための具体的な方法に関する記載がない。 イ 上記申立理由2の(1)で記載した点において、本件特許の請求項1~13に係る発明は不明確であることから、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許の請求項1~13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 (2)申立人の主張に対する当審の判断 アについて 本件明細書の【0051】に「本実施形態において、密着層18a及び密着層18c1の材料としてスパッタリング法により形成される酸素欠乏領域を有する酸化チタン、具体的には、チタンと酸素との化学量論比が1:1.1程度である酸化チタンを用い、配線層18bの材料としてスパッタリング法により形成される白金を用いる。」と記載されており、例えば、スパッタリングにおいて、RF出力とスパッタレートの関係をもとに出力比を変化させて傾斜組成薄膜の組成比を制御できることはスパッタリングを扱う当業者において周知技術であるから、本件明細書等において具体的な方法に関する記載がないからといって、実施をするにあたって過度の試行錯誤を要するとまではいえない。 イについて 上記申立理由2の(2)で述べたとおり、本件発明1、4~7及び10~13は不明確とはいえないことから、申立人の上記(1)イの主張は受け入れられない。 ウ まとめ したがって、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明1、4~7及び10~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえないことから、申立理由3によって、本件発明1、4~7及び10~13に係る特許を取り消すことはできない。 第8 むすび 以上のとおり、本件発明1、4~7及び10~13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明件発明1、4~7及び10~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項2、3、8及び9に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2、3、8及び9に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-701157

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決84件(ローム株式会社、上垣内 俊彦)
  • 2024-700956異議申立 / 2025-12-24 / 訂正認容フライ食品、フライ食品の製造方法、およびフライ食品のパンク抑制方法
    同じ当事者: 上垣内 俊彦
  • 2025-700409異議申立 / 2025-12-16 / 請求成立(取消)焼結体、焼結体の製造方法、半導体製造装置及び半導体製造装置の製造方法
    同じ当事者: 上垣内 俊彦
  • 2024-700987異議申立 / 2025-10-14 / 訂正認容酸化マグネシウム粉末、フィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品
    同じ当事者: 上垣内 俊彦
  • 2025-700507異議申立 / 2025-08-08 / 維持中程度の粘度を有する未調理デンプンを含む石膏組成物、およびそれに関連する方法およ…
    同じ当事者: 上垣内 俊彦
  • 2024-700889異議申立 / 2025-06-09 / 請求成立(取消)海苔網処理船
    同じ当事者: 上垣内 俊彦
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,056件(121・G01N、536・G01N、537・G01N)
  • 2025-701038異議申立 / 2026-03-25 / 維持分析装置
    共通の審決分類: 121・G01N、536・G01N、537・G01N
  • 2023-701378異議申立 / 2025-10-15 / 訂正認容測定誤差の低減方法
    共通の審決分類: 121・G01N、536・G01N、537・G01N
  • 2024-700819異議申立 / 2025-03-25 / 訂正認容予備処理方法、予備処理装置、尿素濃度測定方法、尿素濃度測定装置、超純水製造方法及…
    共通の審決分類: 121・G01N、536・G01N、537・G01N
  • 2024-700465異議申立 / 2024-12-03 / 請求成立(取消)糖化ヘモグロビン(%)の測定方法
    共通の審決分類: 121・G01N、536・G01N、537・G01N
  • 2023-701195異議申立 / 2024-11-20 / 訂正認容アドレノメデュリン濃度変動による予後予測の情報提供方法及びその試薬
    共通の審決分類: 121・G01N、536・G01N、537・G01N

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存