特許異議申立
2025-701167
バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーを使用した樹脂組成物
- 審判番号
- 2025-701167
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-574736
- 登録番号
- 7705618
- 請求日
- 2025年12月23日
- 審決日
- 2026年03月30日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡エムシー株式会社
- 【権利者代理人】風早 信昭
- 【権利者代理人】浅野 典子
- 【異議申立人】弁理士法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 辰己 雅夫
- 審判官 松本 直子
- 審判官 越本 秀幸
- 分類
- P1651.121-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7705618号発明「バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーを使用した樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7705618号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7705618号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、2024年(令和6年)10月7日(優先権主張:令和5年10月31日)を国際出願日とする出願(特願2024-574736号)であって、令和7年7月2日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月10日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、令和7年12月23日に弁理士法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)により、請求項1~9に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
構成成分の少なくとも1つがバイオマス資源由来であるバイオマス資源由来ポリエステルエラストマーと、熱安定剤とを含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、ポリエステルエラストマー樹脂組成物のバイオベース度が20~85%であり、バイオマス資源由来ポリエステルエラストマー中の数平均分子量1000未満のオリゴマー含有率が2.5重量%以下であり、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の溶融張力が1.0~50cNであり、以下の要件(i),(ii),(iii)のいずれか一つを満たすことを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(i)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。
(ii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、C36ダイマー酸を構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記C36ダイマー酸はバイオマス資源由来である。
(iii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と1,4-ブタンジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸は化石燃料資源由来であり、前記1,4-ブタンジオールと前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。
【請求項2】
構成成分の少なくとも1つがバイオマス資源由来であるバイオマス資源由来ポリエステルエラストマーと、熱安定剤とを含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、ポリエステルエラストマー樹脂組成物のバイオベース度が20~85%であり、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の溶融張力が1.0~50cNであり、ポリエステルエラストマー樹脂組成物を10℃/分で室温から450℃まで昇温した時の3%重量減少温度が300℃以上であり、以下の要件(i),(ii),(iii)のいずれか一つを満たすことを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂組成物。
(i)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。
(ii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、C36ダイマー酸を構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記C36ダイマー酸はバイオマス資源由来である。
(iii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と1,4-ブタンジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸は化石燃料資源由来であり、前記1,4-ブタンジオールと前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。
【請求項3】
ポリエステルエラストマー樹脂組成物が、増粘剤をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステルエラストマー樹脂組成物が、加水分解防止剤をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーのバイオマス資源由来の脂肪族ポリエーテルが、ポリテトラメチレンエーテルグリコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項6】
バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーの還元粘度が1.2dl/g以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物を押出成形してなるホース。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物を押出成形してなるフィルム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物を押出成形してなる電線被覆材。」
第3 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として甲第1及び第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)を提出し、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概略、以下の申立理由を主張する。
・申立理由1(進歩性)
本件発明1~9は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立書に添付して提出された証拠方法
甲1:特表2012-504672号公報
甲2:特開昭50-90697号公報
第4 当審における判断
以下に述べるとおり、申立理由1によっては本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。
1 甲1に記載された事項及び発明並びに甲2に記載された事項
(1)甲1に記載された事項及び発明
ア 甲1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
14Cを含む少なくとも一種のテトラヒドロフランモノマーから得られるブロックコポリマー。」
「【請求項3】
下記(1)と(2)から成る請求項1または2に記載のブロックコポリマー:
(1)少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフランから得られる少なくとも一つのポリエーテルのソフトブロック:1~99%、
(2)ポリアミドブロック、ポリウレタンブロック、ポリエステルブロックおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つのリジッドブロック:1~99%。」
「【請求項9】
バイオ炭素の含有量が5%以上、好ましくは10%以上、好ましくは25%以上、好ましくは50%以上、好ましくは75%以上、好ましくは90%以上、好ましくは95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上、有利にはほぼ100%である請求項1~8のいずれか一項に記載のコポリマー。」
「【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー(TPE)ポリマー、特に、種々の分野、例えばエレクトロニクス、自動車またはスポーツの分野で用いられる高付加価値のテクニカルポリマーに関するものである。
本発明は特に、再生可能な出発材料からの熱可塑性エラストマーポリマーに関するものである。
本発明はさらに、再生可能材料から上記熱可塑性エラストマーポリマーを製造する方法に関するものである。」
「【0018】
本発明のブロックコポリマーは下記(1)と(2)のブロックから成るのが有利である:
(1)少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフランから得られる少なくとも一つのポリエーテルソフトブロック:1~99%、
(2)ポリアミドブロック、ポリウレタンブロック、ポリエステルブロックおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つのリジッドブロック:1~99%。」
「【0035】
「バイオ炭素」とは以下に説明するような再生可能な材料起源または天然起源であり、バイオ材料から生じる炭素を意味する。バイオ炭素含有量およびバイオ材料含有量は表現は違うが同じ値を示す。
【0036】
再生可能な材料起源のバイオ材料ともよばれ、光合成によって大気から最近に(人間の時間)固定されたCO2から炭素が生じる有機材料である。このCO2は地上では植物によって捕捉または固定され、海中では光合成を行うバクテリアまたはプランクトンによって捕捉または固定される。バイオ材料(天然起源の炭素100%)は14C/12C同位体比が10-12以上、一般に約1.2×10-12であり、化石材料での比率がゼロである。すなわち、14C同位体は大気中で生成され、最大でも数十年の時間規模で光合成によって固定される。14Cの半減期は5730年であるので、光合成で得られた材料すなわち一般には植物では必然的に同位体14C含有量が最大になる。」
「【0042】
既に述べたように、本発明の化合物は少なくとも一部が再生可能な材料起源の原料から得られる熱可塑性エラストマー(TPE)である。
特に、本発明の対象は、少なくとも一種の14Cを含むテトラヒドロフランモノマー(THF)から得られる少なくとも一つのポリエーテルブロックを含む熱可塑性エラストマー(TPE)ブロックコポリマーにある。
【0043】
14Cを含むTHFから作られるポリエーテルの例としてはポリテトラメチレングリコール(PTMG)(ポリテトラヒドロフランともよばれる)、ポリ(3-アルキルテトラヒドロフラン)、特にポリ(3-メチルテトラヒドロフラン)(ポリ(3MeTHF))が挙げられる。すなわち、これらのポリエーテルは少なくとも一部が再生可能な材料起源の原料から得られる。
【0044】
本発明でのポリエーテル(以降、PE)ブロックとはポリアルキレンエーテルポリオール、特にポリアルキレンエーテルジオールを意味する。本発明の上記コポリマーの少なくとも一つのPEブロックは少なくとも一部が再生可能な材料起源であるポリ(テトラメチレングリコール)(PTMG)を少なくとも含むのが好ましい。・・・」
「【0052】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー(TPE)はブロックまたはランダムコポリマーの形のポリアミドブロック、ポリウレタンブロック、ポリエステルブロックおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つのリジッドブロックを含む。
リジッドブロックは再生可能材料および/または化石起源材料から得ることができる。このリジッドブロックはさらに少なくとも一部が再生可能材料から得られるのが有利である。本発明の特に有利な実施例では、ポリエーテルブロックおよび/またはポリアミドブロックおよび/またはポリウレタンブロックおよび/またはポリエステルブロックの全部が再生可能材料から得られる。」
「【0090】
本発明でのポリエステルとは、ジカルボン酸とジオールとの縮合生成物、一般には、エステル化学官能基を含む反復単位を高分子主鎖に有する任意のポリマーを意味する。・・・」
「【0096】
ポリエステルブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーは例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリトリメチレングリコール(PO3G)またはポリテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルジオールに由来のポリエーテル単位、テレフタル酸のようなジカルボン酸単位、グリコール単位(エタンジオール)または1,4-ブタンジオールを有するコポリマーである。・・・」
「【0105】
本発明のコポリマーは添加剤として安定剤、可塑剤、潤滑剤、天然または有機充填剤、染料、顔料、真珠層、抗菌剤、防火剤、帯電防止剤、コポリマーの粘度調整剤および/または熱可塑性ポリマーの分野の当業者に周知の他の任意の添加剤を含むことができる。」
「【0106】
本発明の他の対象は、上記定義のコポリマーの製造方法にある。本発明方法は、少なくとも一部が14Cを含むTHFから得られるPEを供給し、それを合成によって本発明のブロックコポリマーに変換する段階を含む。
PEはバイオ炭素含有量が少なくとも1%のPTMGを含むのが好ましい。合成による変換によって少なくとも一部が再生可能な材料起源である少なくとも一つのPTMGブロックを含むブロックコポリマーが得られる。
【0107】
本発明方法の一つの実施例では、本発明方法のPE供給段階が、バイオ炭素含有量が少なくとも1%のテトラヒドロフラン(THF)からPE(好ましくはPTMG)を製造する予備段階をさらに含む。
PE(ここではPTMG)の製造にはフルオロスルホン酸を触媒とするTHFの開環重合段階と、ポリマーに結合したエステル硫酸基、残りの酸および水溶性の短いポリエーテル鎖を除去するための加水分解と水での抽出を含む段階とが含まれる。
【化2】
[図:0001435211000001.jpg]
【0108】
一般的な変形例では、THF環を酸触媒で開環し、次いで、無水酢酸と反応させてPTMGの二酢酸塩を生成し、これをアルコール分解によってポリエーテルグリコールに変換する。
【0109】
他の実施例では、本発明方法でTHFからPE、例えばPTMGを供給する段階に、テトラヒドロフランをフルフラール(2-フルラルデヒド)から製造する予備段階をさらに含む。フルフラールからのTHFを製造する段階には下記の反応に従ってフランへの触媒脱カルボニル化と、得られたフランのTHFへの水素化が含まれる:
【化3】
[図:0001435211000002.jpg]
【0110】
さらに他の実施例では、本発明方法でフルフラールからPE(ここではPTMG)を供給する段階が、フルフラールを植物バイオマスから製造する予備段階をさらに含む。フルフラールはペントサンを含む植物から得られる。
【0111】
用いるペントサン含有原料は種々の植物廃棄物、例えばトウモロコシの茎および穂軸、オートムギの殻、米、綿または農業起源の他の残留物、リジッド構造を有する植物質、例えば木の幹、製材所の廃棄物、例えば製材切れ端、小片、おがくず、木粉にすることができる。
【0112】
ペントサンの酸加水分解によってペントースが生成し、このペントースを脱水すると、下記の反応に従ってフルフラールが生成する:
【0113】
【化4】
[図:0001435211000003.jpg]
【0114】
このフルフラールの製造方法の運転条件および変形例は当業者に周知であり、例えば下記文献に記載されている。・・・
【0115】
触媒として用いられる酸は例えば種々の希釈率の硫酸、燐酸、アルカン-スルホン酸、塩酸にすることができる。
植物に含まれるペントサンを酸の存在下で加水分解してペントースの溶液を回収する。このペントースの溶液を脱水して、蒸気の作用によってフルフラールを得る。本発明では、得られたフルフラールに適切な精製プロセスを施して純粋なフルフラールを得る。
【0116】
本発明方法を用いることによって、(同じ化学式であるが)化石起源の対応するコポリマーの性能と同じ(またはそれ以上の)性能を有するブロックコポリマーを再生可能な材料起源のTHFから得ることができる。
また、本発明のブロックコポリマーの製造方法を用いることによって、石油起源の原料の消費量を減らし、さらには完全に無くし、植物の成長で得られる原料を用いることができる。さらに、本発明方法によって温室ガスの排出量を削減できる。」
イ 甲1に記載された発明
上記ア、特に請求項3、9、【0018】、【0044】、【0052】、【0090】、【0096】、【0105】の記載を踏まえると、甲1には以下の発明が記載されている。
「下記(1)と(2)から成るブロックコポリマー:
(1)少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフランから得られる少なくとも一つのポリエーテルのソフトブロック:1~99%、
(2)ポリアミドブロック、ポリウレタンブロック、ポリエステルブロックおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つのリジッドブロック:1~99%。
であって、
バイオ炭素の含有量が5%以上、好ましくは10%以上、好ましくは25%以上、好ましくは50%以上、好ましくは75%以上、好ましくは90%以上、好ましくは95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上、有利にはほぼ100%であり、
前記リジッドブロックは再生可能材料及び/又は化石起源材料から得ることができ、
前記(2)におけるポリエステルブロックを選択した場合におけるポリエステルが、ジカルボン酸とジオールとの縮合生成物であり、
ポリエステルブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーは例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリトリメチレングリコール(PO3G)またはポリテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルジオールに由来のポリエーテル単位、テレフタル酸のようなジカルボン酸単位、グリコール単位(エタンジオール)または1,4-ブタンジオールを有するコポリマーであり、
コポリマーは添加剤として安定剤、可塑剤、潤滑剤、天然または有機充填剤、染料、顔料、真珠層、抗菌剤、防火剤、帯電防止剤、コポリマーの粘度調整剤および/または熱可塑性ポリマーの分野の当業者に周知の他の任意の添加剤を含むことができるものである、
ブロックコポリマー。」(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2に記載された事項
甲2には、以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
エステル結合により頭-尾結合した長鎖エステル単位と短鎖エステル単位の多数の反復単位より実質的に成り、高い破断時弾性を示しかつ射出成形に適する熱可塑性セグメントコポリエステルエラストマーを製造するにあたり、
1)完全にまたは主として1,4-ブタンジオールより成る分子量250以下のグリコール、
2)分子量約565を有する二量体酸、および
3)完全にまたは主としてテレフタル酸より成る分子量約300以下のジカルボン酸
を反応せしめ、そして式I
[図:0001435211000004.jpg]
を有する長鎖エステル単位と式II
[図:0001435211000005.jpg]
を有する短鎖エステル単位とから成り
(ただし上記両式中において、Dは該二量体酸から末端カルボキシ基を除去した後に残る2価の基であり、Rは該ジカルボン酸からカルボキシル基を除去した後に残る2価の基でありそしてGは該グリコールからヒドロキシル基を除去した後に残る2価の基である)かつ
(a)該短鎖エステル単位がコポリエステルに対して約45~75重量%であり、
(b)式IIにおけるR基の少なくとも約70%が1,4-フェニレン基であり、そして式IおよびIIにおけるG基の少なくとも約70%が1,4-ブチレン基であり、
(c)1,4-フェニレン基でないR基と、1,4-ブチレン基でないG基との合計が約30%を超えず、および
(d)該コポリエステルの溶融粘度が250℃において少なくとも2,500センチポイズである、
該コポリエステルを回収することを特徴とする上記の熱可塑性セグメントコポリエステルエラストマーの製造方法。」(1頁左上欄5行~2頁左上欄下から3行)
2 対比、判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ブロックコポリマー」は、その構成単位として、「(1)少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフランから得られる少なくとも一つのポリエーテルのソフトブロック」を有しているところ、甲1の【0036】には、「バイオ材料(天然起源の炭素100%)は14C/12C同位体比が10-12以上、一般に約1.2×10-12であり、化石材料での比率がゼロである」と記載されていることから、「14Cを含むテトラヒドロフラン」とは、バイオ材料を原料として得られたテトラヒドロフランと解されるので、本件発明1の「構成成分の少なくとも1つがバイオマス資源由来である」ことを満たす。
また、甲1の【0042】に、「本発明の対象は、少なくとも一種の14Cを含むテトラヒドロフランモノマー(THF)から得られる少なくとも一つのポリエーテルブロックを含む熱可塑性エラストマー(TPE)ブロックコポリマーにある。」と記載されているから、甲1発明の「ブロックコポリマー」であって、その構成単位「(2)」として「ポリエステルブロック」を選択したものは、本件発明1の「ポリエステルエラストマー」に相当する。
そうすると、甲1発明の「下記(1)と(2)から成るブロックコポリマー:
(1)少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフランから得られる少なくとも一つのポリエーテルのソフトブロック:1~99%、
(2)・・・ポリエステルブロック・・・から選択される少なくとも一つのリジッドブロック:1~99%。」は、本件発明1の「構成成分の少なくとも1つがバイオマス資源由来であるバイオマス資源由来ポリエステルエラストマー」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、
「構成成分の少なくとも1つがバイオマス資源由来であるバイオマス資源由来ポリエステルエラストマー」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーに加えて、「熱安定剤」を含有する「ポリエステルエラストマー樹脂組成物」であるのに対し、甲1発明は、「コポリマーは添加剤として安定剤、可塑剤、潤滑剤、天然または有機充填剤、染料、顔料、真珠層、抗菌剤、防火剤、帯電防止剤、コポリマーの粘度調整剤および/または熱可塑性ポリマーの分野の当業者に周知の他の任意の添加剤を含むことができる」ものの、ブロックコポリマーに熱安定剤を含有することが特定されていない点
<相違点2>
バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、本件発明1においては、「以下の要件(i),(ii),(iii)のいずれか一つを満たす」、
「(i)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。
(ii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、C36ダイマー酸を構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記C36ダイマー酸はバイオマス資源由来である。
(iii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と1,4-ブタンジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸は化石燃料資源由来であり、前記1,4-ブタンジオールと前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。」ものであるのに対し、甲1発明においては、「下記(1)と(2)から成るブロックコポリマー:
(1)少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフランから得られる少なくとも一つのポリエーテルのソフトブロック:1~99%、
(2)ポリアミドブロック、ポリウレタンブロック、ポリエステルブロックおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つのリジッドブロック:1~99%。
であって」、
「前記リジッドブロックは再生可能材料及び/又は化石起源材料から得ることができ、
前記(2)におけるポリエステルブロックを選択した場合におけるポリエステルが、ジカルボン酸とジオールとの縮合生成物であり、
ポリエステルブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーは例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリトリメチレングリコール(PO3G)またはポリテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルジオールに由来のポリエーテル単位、テレフタル酸のようなジカルボン酸単位、グリコール単位(エタンジオール)または1,4-ブタンジオールを有するコポリマー」であるものの、要件(i),(ii),(iii)のいずれか一つを満たすものに特定されていない点
<相違点3>
ポリエステルエラストマー樹脂組成物について、本件発明1においては、「バイオベース度が20~85%」であると特定されているのに対し、甲1発明においては、ブロックコポリマーにおける「バイオ炭素の含有量が5%以上、好ましくは10%以上、好ましくは25%以上、好ましくは50%以上、好ましくは75%以上、好ましくは90%以上、好ましくは95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上、有利にはほぼ100%」であるものの、ポリエステルエラストマー樹脂組成物のバイオベース度について特定されていない点
<相違点4>
バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーについて、本件発明1においては、「バイオマス資源由来ポリエステルエラストマー中の数平均分子量1000未満のオリゴマー含有率が2.5重量%以下」であると特定されているのに対し、甲1発明においてはそのような特定がされていない点
<相違点5>
ポリエステルエラストマー樹脂組成物について、本件発明1においては、「溶融張力が1.0~50cN」であると特定されているのに対し、甲1発明においてはそのような特定がされていない点
イ 相違点について
相違点5の物性に係る特定は、相違点1及び4の特定と関連するから、事案に鑑み、相違点1、4及び5をまとめて判断する。
甲1の【0106】には、「本発明方法は、少なくとも一部が14Cを含むTHFから得られるPEを供給し、それを合成によって本発明のブロックコポリマーに変換する段階を含む。」と記載されているが、【0107】~【0115】には、「実施例」として、植物を原料とする、「バイオ炭素含有量が少なくとも1%のテトラヒドロフラン(THF)からPE(好ましくはPTMG)を製造する予備段階」が記載されているに過ぎず、また、【0116】には、「本発明方法を用いることによって、(同じ化学式であるが)化石起源の対応するコポリマーの性能と同じ(またはそれ以上の)性能を有するブロックコポリマーを再生可能な材料起源のTHFから得ることができる。
また、本発明のブロックコポリマーの製造方法を用いることによって、石油起源の原料の消費量を減らし、さらには完全に無くし、植物の成長で得られる原料を用いることができる。さらに、本発明方法によって温室ガスの排出量を削減できる。」と記載されているだけで、実際にブロックコポリマーを製造したことは示されていない。
そうすると、甲1には、「少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフラン」を用いて、請求項3に記載の「ブロックコポリマー」を製造し得ること、選択し得るブロックコポリマーの例として、「例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリトリメチレングリコール(PO3G)またはポリテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルジオールに由来のポリエーテル単位、テレフタル酸のようなジカルボン酸単位、グリコール単位(エタンジオール)または1,4-ブタンジオールを有するコポリマー」が開示されているに過ぎず、甲1には、甲1発明のコポリマーを含むブロックコポリマーについて、何ら具体的な製造例も使用例も示されていないから、その「バイオマス資源由来ポリエステルエラストマー中の数平均分子量1000未満のオリゴマー含有率」(以下「オリゴマー含有率」という。)は不明である。また、甲1には、コポリマーのオリゴマー含有率を調整することについて記載も示唆もされていない。
さらに、甲1には、安定剤等の任意の添加剤を含むことができる(【0105】)ことは記載されているものの、上記のとおり、ブロックコポリマーについてさえ、具体的な製造例がないのであるから、当該ブロックコポリマーに、さらに熱安定剤を含有した組成物及びその物性も何ら具体的に記載されておらず、その「溶融張力」も不明である。また、甲1には、ブロックコポリマー及び熱安定剤を含有した組成物の溶融張力を調整することについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1には、バイオベース度の高いバイオマス資源由来ポリエステルエラストマーを使用しつつ、優れた押出成形性や耐水老化性等を有するものとするために、甲1発明のコポリマーのオリゴマー含有率を調整すると共に、熱安定剤を含有し、組成物の溶融張力を調整する動機付けがあるとはいえない。
また、甲2には、分子量約565を有する二量体酸を有する熱可塑性セグメントコポリエステルエラストマーについて記載されているに過ぎず、甲1発明のコポリマーのオリゴマー含有率を調整すると共に、熱安定剤を含有し、組成物の溶融張力を調整することについて動機付けとなる記載がない。
したがって、甲1発明において、甲1及び甲2の記載を考慮しても、相違点1、4及び5に係る構成を備えることを当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 本件発明1の効果について
本件明細書(【0012】)の記載によれば、本件発明1のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、バイオマス資源由来原料の使用割合を高めても、化石燃料資源由来ポリエステルエラストマーが有する優れた機械特性、滞溜安定性、耐湿熱処理後の伸び保持率、押出成形性、及び耐水老化性を保持することができるという効果を奏すると認められる。
そして、本件明細書の実施例1~5には、本件発明1に該当するポリエステルエラストマーA1~A3又はA7並びに熱安定剤を含有し、所定のバイオベース度、オリゴマー含有率及び溶融張力を有するポリエステルエラストマー樹脂組成物について、本件発明1に該当するものではない比較例1~8の組成物に比べて、ゲル化物の評価、ΔMFR、切断時引張伸び保持率、押出成形性及び耐水老化性において、優れた効果を示すことが具体的に確認されている。
一方、甲1及び甲2の記載を参照しても、オリゴマー含有率を調整すると共に、熱安定剤を含有し、組成物の溶融張力を調整したことによる上記効果は、当業者が予測することができるものではない。
エ 小括
したがって、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
本件発明2は、「オリゴマー含有率」の特定はなく、「ポリエステルエラストマー樹脂組成物を10℃/分で室温から450℃まで昇温した時の3%重量減少温度が300℃以上」という特定を有する以外は、本件発明1と同一の特定事項を有するから、上記(1)アと同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、
「構成成分の少なくとも1つがバイオマス資源由来であるバイオマス資源由来ポリエステルエラストマー」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点6>
本件発明2は、バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーに加えて、「熱安定剤」を含有する「ポリエステルエラストマー樹脂組成物」であるのに対し、甲1発明は、「コポリマーは添加剤として安定剤、可塑剤、潤滑剤、天然または有機充填剤、染料、顔料、真珠層、抗菌剤、防火剤、帯電防止剤、コポリマーの粘度調整剤および/または熱可塑性ポリマーの分野の当業者に周知の他の任意の添加剤を含むことができる」ものの、ブロックコポリマーに熱安定剤を含有することが特定されていない点
<相違点7>
バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、本件発明2においては、「以下の要件(i),(ii),(iii)のいずれか一つを満たす」、
「(i)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。
(ii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、C36ダイマー酸を構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸と前記脂肪族及び/又は脂環族ジオールは化石燃料資源由来であり、前記C36ダイマー酸はバイオマス資源由来である。
(iii)バイオマス資源由来ポリエステルエラストマーが、芳香族ジカルボン酸と1,4-ブタンジオールを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルを構成成分とするソフトセグメントが結合したポリエステルエラストマーであって、前記芳香族ジカルボン酸は化石燃料資源由来であり、前記1,4-ブタンジオールと前記脂肪族ポリエーテルはバイオマス資源由来である。」ものであるのに対し、甲1発明においては、「下記(1)と(2)から成るブロックコポリマー:
(1)少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフランから得られる少なくとも一つのポリエーテルのソフトブロック:1~99%、
(2)ポリアミドブロック、ポリウレタンブロック、ポリエステルブロックおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つのリジッドブロック:1~99%。
であって」、
「前記リジッドブロックは再生可能材料及び/又は化石起源材料から得ることができ、
前記(2)におけるポリエステルブロックを選択した場合におけるポリエステルが、ジカルボン酸とジオールとの縮合生成物であり、
ポリエステルブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーは例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリトリメチレングリコール(PO3G)またはポリテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルジオールに由来のポリエーテル単位、テレフタル酸のようなジカルボン酸単位、グリコール単位(エタンジオール)または1,4-ブタンジオールを有するコポリマー」であるものの、要件(i),(ii),(iii)のいずれか一つを満たすものに特定されていない点
<相違点8>
ポリエステルエラストマー樹脂組成物について、本件発明2においては、「バイオベース度が20~85%」であると特定されているのに対し、甲1発明においては、ブロックコポリマーにおける「バイオ炭素の含有量が5%以上、好ましくは10%以上、好ましくは25%以上、好ましくは50%以上、好ましくは75%以上、好ましくは90%以上、好ましくは95%以上、好ましくは98%以上、好ましくは99%以上、有利にはほぼ100%」であるものの、ポリエステルエラストマー樹脂組成物のバイオベース度について特定されていない点
<相違点9>
ポリエステルエラストマー樹脂組成物について、本件発明2においては、「溶融張力が1.0~50cN」であると特定されているのに対し、甲1発明においてはそのような特定がされていない点
<相違点10>
ポリエステルエラストマー樹脂組成物について、本件発明2においては、「ポリエステルエラストマー樹脂組成物を10℃/分で室温から450℃まで昇温した時の3%重量減少温度が300℃以上」であると特定されているのに対し、甲1発明においてはそのような特定がされていない点
イ 相違点について
相違点9及び10の物性に係る特定は、相違点6の特定と関連するから、事案に鑑み、相違点6、9及び10をまとめて判断する。
上記(1)イに示したとおり、甲1には、「少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフラン」を用いて、請求項3に記載の「ブロックコポリマー」を製造し得ること、選択し得るブロックコポリマーの例として、甲1発明の「例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリトリメチレングリコール(PO3G)またはポリテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルジオールに由来のポリエーテル単位、テレフタル酸のようなジカルボン酸単位、グリコール単位(エタンジオール)または1,4-ブタンジオールを有するコポリマー」が開示されているに過ぎず、甲1には、甲1発明のコポリマーを含むブロックコポリマーについて、何ら具体的な製造例が開示されていない。
さらに、甲1には、安定剤等の任意の添加剤を含むことができる(【0105】)ことは記載されているものの、上記のとおり、ブロックコポリマーについてさえ、具体的な製造例が開示されていないのであるから、当該ブロックコポリマーに、さらに熱安定剤を含有した組成物及びその物性も何ら具体的に記載されておらず、当該組成物の「溶融張力」及び「ポリエステルエラストマー樹脂組成物を10℃/分で室温から450℃まで昇温した時の3%重量減少温度」(以下「3%重量減少温度」という。)は不明である。また、甲1には、ブロックコポリマー及び熱安定剤を含有した組成物の溶融張力及び3%重量減少温度を調整することについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1には、バイオベース度の高いバイオマス資源由来ポリエステルエラストマーを使用しつつ、優れた押出成形性や耐水老化性等を有するものとするために、甲1発明のコポリマーに熱安定剤を含有すると共に、組成物の溶融張力及び3%重量減少温度を調整する動機付けがあるとはいえない。
また、甲2には、分子量約565を有する二量体酸を有する熱可塑性セグメントコポリエステルエラストマーについて記載されているに過ぎず、甲1発明のコポリマーに熱安定剤を含有すると共に、組成物の溶融張力及び3%重量減少温度を調整することについて動機付けとなる記載がない。
したがって、甲1発明において、甲1及び甲2の記載を考慮しても、相違点6、9及び10に係る構成を備えることを当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
ウ 本件発明2の効果について
本件明細書(【0012】)の記載によれば、本件発明2のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、バイオマス資源由来原料の使用割合を高めても、化石燃料資源由来ポリエステルエラストマーが有する優れた機械特性、滞溜安定性、耐湿熱処理後の伸び保持率、押出成形性、及び耐水老化性を保持することができるという効果を奏すると認められる。
そして、本件明細書の実施例1~5には、本件発明2に該当するポリエステルエラストマーA1~A3又はA7並びに熱安定剤を含有し、所定のバイオベース度、溶融張力及び3%重量減少温度を有するポリエステルエラストマー樹脂組成物について、本件発明2に該当するものではない比較例1~8の組成物に比べて、ゲル化物の評価、ΔMFR、切断時引張伸び保持率、押出成形性及び耐水老化性において、優れた効果を示すことが具体的に確認されている。
一方、甲1及び甲2の記載を参照しても、熱安定剤を含有し、組成物の溶融張力及び3%重量減少温度を調整したことによる上記効果は、当業者が予測することができるものではない。
エ 小括
したがって、相違点7及び8について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)本件発明3~9について
本件発明3~9は、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用しており、本件発明1又は本件発明2の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明3~9と甲1発明とは、少なくとも上記(1)ア又は(2)アに示した相違点を有する。
そして、上記(1)イ及び(2)イにおいて説示したのと同様の理由により、本件発明3~9は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、申立書において、相違点として検討した上記事項に関し、概略以下の主張をしている。
(ア)本件発明1及び2の熱安定剤について
甲1の開示によれば、甲1発明のブロックコポリマーは、当業者に周知の添加剤として、安定剤を含み得る([0105])ところ、本件明細書には、熱安定剤として、公知のヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、燐系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が例示されており([0035])、これらは本件明細書でも述べられているとおり、公知のものであって、甲1発明は、本件発明1及び2の「熱安定剤」を含み得るから、甲1発明は構成要件1B及び2B(当審注:「熱安定剤とを含有する」)を備える(36頁3~12行、44頁20行~45頁3行)。
(イ)本件発明1のオリゴマー含有率について
甲1には、ポリエステルエラストマー中のオリゴマー含有率は明記されていないが、数平均分子量が1000未満であるような低分子量のオリゴマーが含まれると、得られるポリマーの機械強度、耐久性、耐摩耗性が低下したり、加工時に揮発やブリードアウト等を生じて表面物性が低下したりするなど、悪影響が生じ得ることが自明であるから、当業者は、上記周知の課題を解決するために、オリゴマー含有率を低く設計することは容易である(40頁12行~最終行)。
(ウ)本件発明1及び2の溶融張力について
甲1には、ポリエステルエラストマーの溶融張力は明記されていないが、溶融張力が低すぎる場合(たとえば1.0cN未満である場合)、ポリエステルエラストマーは、たとえばインフレ成形では成形時に樹脂が垂れやすくなりドローダウン性が悪くなる、発泡では破泡しやすくなるなど、加工性が悪くなることが技術常識であり、一方、溶融張力が高すぎる場合(たとえば50cNを超える場合)、ポリエステルエラストマーは、高速成形の際に破断しやすくなることが技術常識であるから、当業者は、上記周知の課題を解決するために、溶融張力を所定の範囲(たとえば1.0~50cN程度)に設計することは容易である(41頁1~16行、49頁3~18行)。
(エ)本件発明2の3%重量減少温度について
甲1には、ポリエステルエラストマーの3%重量減少温度は明記されていないが、ポリエステルエラストマーは、加水分解性基や低分子端基を含み得るため、加工時の熱負荷によって分解され得ること、また、ポリエステルエラストマーは、通常200℃~250℃前後で成形するため、成形性や物性の低下に対する懸念から、3%重量減少温度をなるべく高くしようと発想するのが一般的であるから、当業者は、上記周知の課題を解決するために、3%重量減少温度が高くなるよう設計することは容易である(49頁19行~50頁7行)。
イ 以下検討する。
(ア)上記ア(ア)について
甲1には、甲1発明において認定したとおり、「コポリマーは添加剤として安定剤、可塑剤、潤滑剤、天然または有機充填剤、染料、顔料、真珠層、抗菌剤、防火剤、帯電防止剤、コポリマーの粘度調整剤および/または熱可塑性ポリマーの分野の当業者に周知の他の任意の添加剤を含むことができる」ものであり、添加剤の一つとして「安定剤」も挙げられているが、任意の添加剤の一つとして挙げられているに過ぎず、上記(1)イにおいて述べたとおり、ブロックコポリマーについてさえ、具体的な製造例がないのであるから、当該ブロックコポリマーに、さらに熱安定剤を含有した組成物も具体的に何ら記載されておらず、「熱安定剤」を含有する点は実質的な相違点である。
そして、甲1において「安定剤」は配合し得る任意の添加剤の一つに過ぎず、甲1には、組成物の具体例が何ら開示されていない。たとえ、甲1の任意の添加剤の記載に基づいて、当業者が安定剤を配合し得るとしても、熱安定剤を含有した組成物の溶融張力等の物性は不明であり、溶融張力等の物性を調整する動機付けもないことは、上記(1)イ及び(2)イにおいて述べたとおりである。
(イ)上記ア(イ)~(エ)について
申立人は、ポリエステルエラストマーにおいて、オリゴマー含有率を低くすること、溶融張力を所定の範囲とすること及び3%重量減少温度を高くすることが技術常識であり、甲1発明において、各物性を特定することは周知の課題から設計容易であることを主張するが、具体的根拠を欠く主張であり、採用できない。
また、たとえ、オリゴマー含有率、溶融張力及び3%重量減少温度の各物性について、申立人の主張する技術常識があるとしても、甲1には、「少なくとも一部が14Cを含むテトラヒドロフラン」を用いて、請求項3に記載の「ブロックコポリマー」を製造し得ることが記載されているに過ぎず、甲1発明のコポリマーを含むブロックコポリマーについてさえ、何ら具体的な製造例が開示されていないところ、当該ブロックコポリマーに、さらに熱安定剤を含有した組成物について、コポリマーのオリゴマー含有率及び組成物の溶融張力、又は、組成物の溶融張力及び3%重量減少温度を調整する動機付けがあるとはいえないことは、上記(1)イ及び(2)イにおいて述べたとおりである。
したがって、申立人の上記アの主張はいずれも採用できず、上記(1)~(3)の判断を左右するものではない。
3 申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~9は、甲1に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1によっては本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-701167