特許異議申立
2024-700318
香味および保存安定性が向上した果実酒およびその製造方法
- 審判番号
- 2024-700318
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-133597
- 登録番号
- 7356791
- 請求日
- 2024年04月05日
- 審決日
- 2024年08月22日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】キリンホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】反町 洋
- 【権利者代理人】遠藤 広介
- 【権利者】メルシャン株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】反町 洋
- 【権利者代理人】遠藤 広介
- 【異議申立人】山本 美映子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1652.121-Y (C12G) / P1652.55 -Y (C12G) / P1652.537-Y (C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7356791号発明「香味および保存安定性が向上した果実酒およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7356791号の請求項1ないし4、8及び9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7356791号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、
平成30年 7月13日の出願であって、
令和 5年 9月27日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、
令和 5年10月 5日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
令和 6年 4月 5日に特許異議申立人 山本 美映子(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:1~4、8、9)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~4、8、9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~4、8、9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含み、
総亜硫酸の含有量が0~30ppmである、果実酒(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)。
【請求項2】
ワインである、請求項1に記載の果実酒。
【請求項3】
亜硫酸無添加ワインである、請求項1または2に記載の果実酒。
【請求項4】
果実酒(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)を製造する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
【請求項8】
果実酒(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)の香味を改善する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。
【請求項9】
果実酒(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)の香味の保存安定性を改善する方法であって、前記果実酒におけるオークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含んでなる、方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 6年 4月 5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(新規事項の追加)
本件特許の請求項1、4、8、9に係る特許は、下記の点で、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。
・令和5年7月18日付手続補正書の手続補正2においては、請求項1、4、8、9の「果実酒」に「マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く」との記載を加える補正がされた。しかしながら、この補正は新規事項を追加する。以下にその理由を説明する。
まず、「マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く」との記載は、本件特許の出願時の特許請求の範囲、明細書、または図面中に存在しない。
また、当該補正は、特許庁が発行している特許・実用新案審査基準に記載されているいわゆる「除くクレーム」の補正に該当するところ、本件は、当該審査基準で「除くクレーム」の補正が許される場合に該当しない。
具体的には、新規事項の追加に関する特許・実用新案審査基準第IV部第2章3.3.1(4)には「除くクレーム」として許容される類型が列挙されているところ、その列挙された類型は以下の二つだけである。
(i)請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正
(ii)請求項に係る発明が、「ヒト」を包含しているために、第29条第1項柱書の要件を満たさない、又は第32条に規定する不特許事由に該当する場合において、「ヒト」のみを除く補正
しかしながら、本件は、令和5年3月22日起案の拒絶理由通知書に示された進歩性の拒絶理由(特許法第29条)を回避するためになされたものであるため、上記のいずれの類型にも該当しない。したがって、当該補正は新規事項を追加する。
さらに述べると、上記の審査基準の範囲を超えて、例外である「除くクレーム」を認めることとなると、今後「除くクレーム」の補正が頻発することになり、その影響は極めて大きいものとなる。また、世界的に見ても「除くクレーム」のような例外的な補正を広く許容する国はなく、したがって国際協調の点でも大きな問題を生じる。したがって、今回の「除くクレーム」の補正は、新規事項を追加するものであると判断すべきである。
2 申立理由2-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1~4、8、9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由2-2(甲第11号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1~4、8、9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第11号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由3(甲第12号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1~4、8、9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第12号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)申立理由4-1
ア 解決されるべき課題(保存安定性の向上)
本件特許発明の課題は、「果実酒の香味および保存安定性を向上させること」ことである。したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定されたサポート要件を満たすためには、本件特許発明が、果実酒の香味を向上させるだけでなく、果実酒の保存安定性を向上させることも明細書の記載によって裏付けられていなければならない。
しかしながら、そのような裏付けは、本件特許明細書の実施例に存在しない。このことについて以下に説明する。
イ 実施例1における保存安定性の評価方法の妥当性
実施例1では、本件特許発明に相当するサンプルの保存安定性が適切に評価されていないため、本件特許発明が課題を解決できることを理解することができない。
「保存安定性」とは、その記載のとおり、果実酒を保存した際に、その果実酒がどの程度安定であったかを意味する。したがって、評価をするためには、保存前のサンプルと、そのサンプルの保存後の試験結果を比較して、保存前後の変化量を求める必要がある。そのうえで、コントロール(オークラクトン等の含有量が本件特許発明の範囲外にある果実酒)の保存前後の変化量と比較し、コントロールよりも変化量が小さいことを確認する必要がある。
この点、本件特許明細書の実施例1では、コントロールについては、そのようなデータが図1-1に示されている。すなわちコントロールとして、オークラクトンおよびエラグ酸のいずれも添加しないサンプル(添加なし)を調製し、その一部について、55℃で6日間保管している。また、その非添加サンプルの別の一部を、低温(5℃)で6日間保管している。これらのスコアを比較すると、果実の香りのスコアが、低温では3であったのに対し、55℃保管では1.81であったため、その差は1.19であった。低温保管のサンプルは、保管前のサンプルに近いものと考えられるため、上記の結果は、保存前から保存後の間に、スコアが1.19低下することを示している、ととらえることもできる。そして、これが保存前後の変化量である。
一方で、本件特許発明に相当する、エラグ酸とオークラクトンを添加したサンプルについては、55℃で保存した結果しか示されていない。すなわち、保存前の結果や、それに相当する結果が示されていない。その結果、果実の香りのスコアが2.44以上となっているが、保存前後の変化量が明らかとならない。したがって、保存安定性が、コントロール(1.19低下)と比較して向上したかどうかを判断することができない。
たとえば、保存前の果実の香りのスコアが5程度であった可能性があり、その場合には、保存によりスコアが2.5程度低下し、コントロールよりも保存安定性が低かったことになるが、現有の実験結果だけでは、そのような可能性を否定できないこととなる。
本来であれば、実施例2の(6)や(7)、および図4におけるように、コントロールと添加サンプルの両方について、5℃保存と55℃保存を実施し、それらの結果から変化量を求めて比較すべきである。
したがって、実施例1からは、本件特許発明が課題を解決できることを理解することができない。
ウ 実施例2~5における試験方法の妥当性
実施例2~5においては、試験方法が妥当でないため、本件特許発明が課題を解決できることを理解することができない。
実施例2やそれ以降の実施例では、ワインにオークチップを浸漬させて、その効果を検討している。しかしながら、これらの実施例からは、課題の解決に重要な有効成分であるエラグ酸やオークラクトンの効果は明らかとならない。なぜなら、オークチップに含まれる成分はエラグ酸やオークラクトンに限られないからである(この点については、甲2の表2など明らかである)。これでは、得られた効果が、それら二成分に起因するのか、それともそれら以外の成分によるものであるのかが明らかとならない。また、仮にそれら二成分が効果にある程度寄与していたとしても、他の成分の寄与の方が大きく、それと比較すれば取るに足らない程度のものである可能性もある。
そもそも、所望の効果を達成するのにエラグ酸とオークラクトンの含有量範囲を特定すれば足り、他の成分の含有量の特定は要しないことを当業者が理解できるようにするためには、上記二成分以外の条件、たとえば上記二成分以外の成分含有量を、比較例と実施例でそろえたうえで効果を検証する必要があったはずである。それにもかかわらずそのような検証が本件特許においては行われていない。このようなケースは、トマト含有飲料の出願に関するサポート要件の判断を示した平成28年(行ケ)第10147号に示された事案と類似しており、その事案と同様にサポート要件が否定されてしかるべきであるといえる。
(2)申立理由4-2
ア 本件特許発明の有効成分
本件特許発明には、有効成分の観点で、本件特許発明が課題を解決できるとは理解することができない範囲が存在する。このことを以下に説明する。
まず、本件特許明細書によると、課題を解決するための有効成分は、オークラクトンとエラグ酸である。
この点、本件特許明細書段落【0016】の記載から明らかとおり、オークラクトンにはトランス体とシス体が存在するところ、本件特許発明における「オークラクトンの含有量」は、明細書段落【0016】に記載されているとおり、「シス-オークラクトン」と「トランス-オークラクトン」の総量を意味する。
よって、本件特許発明には、(1)果実酒にシス-オークラクトンしか含まれていない場合、(2)果実酒にトランス-オークラクトンしか含まれていない場合、および(3)それらの両方が含まれている場合が包含される。これらの三つの場合について考察すると、本件特許発明には、トランス-オークラクトンがほとんど含まれていない場合が包含されることとなる。たとえば、(1)の場合におけるオークラクトン含有量「1~100ppb」は、シス-オークラクトンが1~100ppbであり、トランス-オークラクトンが0ppbであることを意味する。また、(3)の場合であっても、トランス-オークラクトンの含有量が1ppb未満である場合が考えられる。
しかしながら、そのようなトランス-オークラクトンがほとんど含まれていない場合にまで、本件特許発明が課題を解決できることまでは理解することができない。なぜなら、シス-オークラクトンと課題との関係が全く実施例において立証されていないからである。この点について以下に説明する。
イ シス-オークラクトンについて
本件特許明細書の実施例1においては、トランス-オークラクトンの添加実験がなされている。すなわちトランス-オークラクトンの添加量を変化させて、それにともなって果実酒の香りや味わいが変化することが図1-1等で確認されている。このような実験が存在するため、トランス-オークラクトンが、実施例で確認された1~100ppbという含有量範囲である程度の効果を発揮することを理解することができる。
しかしながら、シス-オークラクトンに関しては、そのようなデータが全く存在しない。これでは、シス-オークラクトンが当該含有量範囲で所望の効果を発揮できることはおろか、シス-オークラクトン自体が所望の効果を発揮できることさえ明らかとならない。
また、実施例2以降においては、シス-オークラクトンが含まれていたかが明らかとなっていないため、これらの実施例からもやはり、シス-オークラクトンの効果を理解することができない。
そして、一般に、化学分野は、その構造だけから効果を予測することが困難な技術分野である。
したがって、シス-オークラクトンが本件特許発明の課題を解決することができるかどうかが不明である。
そうすると、上記アに記載した、トランス-オークラクトンがほとんど含まれていない場合にまで、本件特許発明が課題を解決できるとは、到底理解することができない。
6 証拠方法
・甲第1号証:特開平9-51791号公報
・甲第2号証:J Sci. Food Agric. 2019、99、436-448
・甲第3号証:Eur. Food Res. Technol. (2013) 236、735-746
・甲第4号証:Food Chemistry 140 (2013)、168-177
・甲第5号証:USDA Foreign Agricultural Service、GAIN Report、GAIN Report Number: JA7095、<https://apps.fas.usda.gov/newgainapi/api/Report/DownloadReportByFileName?fileName=Approving%20Oak%20Chips%20for%20Wine%20Production%20Reduces%20Tax%20Rate_Tokyo_Japan_6-29-2017>
・甲第6号証:醸造物の成分、第313-317頁
・甲第7号証:特表2016-515812号公報
・甲第8号証:Food Research International 106 (2018) 568-579
・甲第9号証:ワイン学(初版第1刷)、114-117頁
・甲第10号証:日本醸造協会誌、2000年、第95巻第4号、235-243、<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/95/4/95_4_235/_article/-char/en>
・甲第11号証:特表2009-213393号公報
・甲第12号証:キリンホールディングス ニュースリリース「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」シリーズから「おいしい酸化防止剤無添加ワイン 厳選素材」新発売、<https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2016/0706_02.html>
・甲第13号証:【濃い果実味 収穫後24時間】メルシャン おいしい酸化防止剤無添加赤ワイン 厳選素材ペットボトル [赤ワイン フルボディ 日本 720ml]、<https://www.amazon.co.jp/メルシャン-おいしい酸化防止剤無添加赤ワイン-プレミアム-ペットボトル-720ml/dp/B01MDOXD7C?th=1>
なお、証拠の表記は、証拠説明書及び特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は以下に述べるように、申立理由1~4によっては本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(新規事項の追加)について
(1)新規事項の判断に係る基本的な考え方
知財高判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)10563号)「ソルダーレジスト」大合議判決において、「『明細書又は図面に記載した事項』とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は,『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる。」との判断基準が示された。
上記判断基準に基づき、以下、検討する。
(2)新規事項の有無について
令和 5年 7月18日付手続補正書の手続補正2においては、請求項1、4、8、9の「果実酒」に「マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く」との記載を加える補正がなされた。
上記判断基準に照らして、上記手続補正2における「マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く」という補正を検討する。
本件特許発明は、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.01~10ppmのエラグ酸を含んでなる、果実酒」とすることで、「果実酒において香味を向上させることができ、また、香味の保存安定性を向上させることも可能」(【0008】)という効果を奏するものと認められるものであって、当該効果とマロラクティック発酵の有無との連関については、本件明細書の記載からは認められず、また、異議申立人から具体的証拠や根拠が提示されたものでもない。
そうすると、「マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く」とされた手続補正2後の請求項1に係る発明についても、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.01~10ppmのエラグ酸を含んでなる、果実酒」とすることを特徴とし、上記効果を奏するものと認められるところ、「マロラクティック発酵を経て得られるワイン」を除外することが、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
請求項4、8、9についても同様である。
したがって、令和 5年 7月18日付手続補正書の手続補正2により補正された請求項1、4、8、9の補正は、新規事項の追加とはいえない。
(3)申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1の理由では、本件特許発明請求項1、4、8、9に係る特許を取り消すことができない。
2 申立理由2-1(甲1に基づく進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「亜硫酸無添加ワイン」に関し、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様である。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】したがって本発明は、亜硫酸を全く使用することなく、プロアントシアニジンを高濃度に含有し且つ総亜硫酸を実質的に含まない、保存安定性に優れたワインを得ることを目的とする。」
「【0013】以下実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
(亜硫酸無添加果醪への酒母の添加時期とワインの品質の関係)赤ワイン用ぶどう(カベルネソ-ヴィニヨン種)50kgを除梗破砕して果醪を調製し、そこから果汁を7.5kg(15重量%)を抜取って固形物を高濃度で含有する果醪42.5kgを得、この果醪に亜硫酸を添加することなく、その5kgを速やかに容量10リットルのビン容器(小型発酵タンク)7本にそれぞれ仕込んだ。次いで、表1に示すように破砕後所定時間を経過した果醪に対し酒母をそれぞれ菌体濃度1×105/gとなるように加え、ときどき攪拌しながら醪品温25~30℃で10日間発酵させ、次いで圧搾して実質的に亜硫酸を含まない(総亜硫酸濃度約10ppm)7種の赤ワインを得た。次いでこのようにして得られた各種赤ワインの揮発酸含有量を調べ、また官能検査を実施した。なお、揮発酸および亜硫酸の測定は、それぞれ(財)日本醸造協会発行、「第三回改正・国税庁所定分析法注解」、昭和62年9月10日、第61~62ペ-ジおよび240~244ペ-ジに記載された方法により実施した。その結果を表1に示す。」
「【0015】表1の結果から亜硫酸無添加の果醪への酒母の添加時期は、仕込み(破砕)直後~破砕後10時間以内とすることが重要であることが判る。即ち破砕後10時間を過ぎて添加すると、それまでの間に果醪中において原料由来の乳酸菌や酢酸菌などの雑菌が旺盛に繁殖を始め、もはや酒母を添加しても雑菌の繁殖を抑制し影響を取り除くことが困難となるため、酢酸味や酸敗臭などの異味異臭を有し色調も悪い製品となる欠点を有するが、10時間以内の添加では健全に酵母発酵が行なわれ、原料由来の乳酸菌や酢酸菌の繁殖を抑制し、それらの影響を取り除くことが可能となり、且つ酵母発酵により果醪が比較的速やかに還元状態になることから、色素が酸化褐変することもなく、その結果、風味および色調がともに優れたワインが得られることが判る。」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載のうち、実施例1を中心にまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」、「甲1製法発明」、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「赤ワイン用ぶどう(カベルネソ-ヴィニヨン種)50kgを除梗破砕して果醪を調製し、そこから果汁を7.5kg(15重量%)を抜取って固形物を高濃度で含有する果醪42.5kgを得、この果醪に亜硫酸を添加することなく、その5kgを速やかに容量10リットルのビン容器(小型発酵タンク)7本にそれぞれ仕込んだ後、破砕後所定時間を経過した果醪に対し酒母をそれぞれ菌体濃度1×105/gとなるように加え、ときどき攪拌しながら醪品温25~30℃で10日間発酵させ、次いで圧搾して得られた、総亜硫酸濃度約10ppmの赤ワイン。」
<甲1製法発明>
「赤ワイン用ぶどう(カベルネソ-ヴィニヨン種)50kgを除梗破砕して果醪を調製し、そこから果汁を7.5kg(15重量%)を抜取って固形物を高濃度で含有する果醪42.5kgを得、この果醪に亜硫酸を添加することなく、その5kgを速やかに容量10リットルのビン容器(小型発酵タンク)7本にそれぞれ仕込んだ後、破砕後所定時間を経過した果醪に対し酒母をそれぞれ菌体濃度1×105/gとなるように加え、ときどき攪拌しながら醪品温25~30℃で10日間発酵させ、次いで圧搾する、総亜硫酸濃度約10ppmの赤ワインの製造方法。」
<甲1方法発明>
「赤ワイン用ぶどう(カベルネソ-ヴィニヨン種)50kgを除梗破砕して果醪を調製し、そこから果汁を7.5kg(15重量%)を抜取って固形物を高濃度で含有する果醪42.5kgを得、この果醪に亜硫酸を添加することなく、その5kgを速やかに容量10リットルのビン容器(小型発酵タンク)7本にそれぞれ仕込んだ後、破砕後所定時間を経過した果醪に対し酒母をそれぞれ菌体濃度1×105/gとなるように加え、ときどき攪拌しながら醪品温25~30℃で10日間発酵させ、次いで圧搾する、総亜硫酸濃度約10ppmの赤ワインの風味および色調がともに優れるようにする方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「総亜硫酸濃度約10ppmの赤ワイン」は、本件特許発明1における「総亜硫酸の含有量が0~30ppmである、果実酒」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「総亜硫酸の含有量が0~30ppmである、果実酒。」
また、両者は以下の各点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1は、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含」むとの特定を有するのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
相違点1-1について検討する。
甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明に対して、相違点1-1に係る、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含」ませる動機となる記載はない。
そして、本件特許発明1は、1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含ませた果実酒とすることで、果実酒において香味を向上させることができ、また、香味の保存安定性を向上させることも可能となるという顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書(第25頁第21行~第30頁15行)において、
・「甲1発明に、甲2~4に記載の技術を組み合わせる強力な動機づけも存在する。すなわち、樽中でのワイン熟成の代わりに、オークチップのような木材片をワインに浸漬させる手法が、本件特許出願時に大いに注目されていたのである。・・・オーク樽中でのワイン熟成は、ワイン醸造学において通常に用いられる手法であり、その際に、オーク木材から成分が抽出され、抽出された成分がワインの芳香や味を変化させることが知られている。しかしながら、樽における熟成は時間や手間がかかる厄介な方法であるため、それをスピードアップさせる代替法が求められていた。そのような方法として、オークチップのような木材片を用いる方法が盛んに使用され始めた。・・・したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、甲2~6に記載された発明とから、容易に想到することができたものである。」
・「甲7の表5と11には、ワイン中に含めるウイスキーラクトンとエラグ酸の含有量範囲が、それぞれ、50~2000μg/l(50~2000ppb)、および200~30000μg/(0.2~30ppm)であることが記載されている。したがって、当業者であれば、これらの範囲でこれらの成分含有量を調整することに動機づけられ、そしてこの範囲から本件特許発明1の範囲に想到することは全くもって容易である。そして、そのような数値範囲がもたらす臨界的意義は、本件特許明細書には何ら示されていない。また、本件特許発明の効果も、当業者の予測を超えるものではない。」
・「このようなマロラクティックの有無や亜硫酸添加の大小といったワインの製造方法の違いは、本件特許発明の進歩性に何ら影響を与えない。・・・すなわち、オークラクトンとエラグ酸は、オークチップ浸漬によりもたらされるものであって、ワインの発酵や亜硫酸添加で生成するのではないのである。」
と主張している。(下線部は当審が付したものである。)
しかしながら、甲2~10を参酌しても、甲1発明の赤ワインにおいて、オークチップのような木材片をワインに浸漬させる動機づけとはならない。特に、異議申立人は、本件特許出願時において、樽中でのワイン熟成の代わりに、オークチップのような木材片をワインに浸漬させる手法が知られていたことを強力な動機づけとして主張しているものの、甲1発明は、ビン容器にて発酵させ圧搾して製造された赤ワインであり、さらに樽中熟成を行うことは記載も示唆もされたものではないから、従来から知られた当該手法を参酌したとしても、甲1発明の赤ワインに対して、オークチップのような木材片を浸漬させる動機づけとはならない。
また、甲1~10及び技術常識を参酌しても、オークラクトン及びエラグ酸をそれぞれ1~100ppb及び0.02~10ppm含ませた果実酒とすることで、果実酒において香味の保存安定性を向上させ、さらに、香味を向上させることができるという効果は、当業者の予測を超えるものである。
さらに、製造方法の違いについての主張も、上述したとおり、甲1発明において、オークチップ浸漬を行う動機づけがないから、採用できるものではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
以上のことから、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2~3について
本件特許発明2~3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~3は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲1製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点1-3>
本件特許発明4は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲1製法発明には、そのような特定がない点。
<相違点1-4>
本件特許発明4は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲1製法発明には、そのような特定がない点。
相違点1-3について検討する。
相違点1-3は、上記アにおける相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点1-5>
本件特許発明8は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲1方法発明には、そのような特定がない点。
<相違点1-6>
本件特許発明8は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲1方法発明には、そのような特定がない点。
相違点1-5について検討する。
相違点1-5は、上記アにおける相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲1方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点1-7>
本件特許発明9は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲1方法発明には、そのような特定がない点。
<相違点1-8>
本件特許発明9は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲1方法発明には、そのような特定がない点。
相違点1-7について検討する。
相違点1-7は、上記アにおける相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2-1のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~4、8、9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、申立理由2-1によって取り消すことはできない。
3 申立理由2-2(甲11に基づく進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項
ア 甲11に記載された事項
甲11には、「亜硫酸無添加ワインにおけるオフフレーバーの制御」に関し、おおむね次の事項が記載されている。
「【0013】
よって、本発明は、亜硫酸無添加ワインにおいて、特定の香気成分の含有量により規定される、オフフレーバーのための管理指標を提供し、オフフレーバーが抑制された亜硫酸無添加ワインの製造を可能とする管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため、ワインにおいてオフフレーバーの原因となりうる種々の香気成分について、その閾値と香味に与える影響について鋭意検討した結果、驚くべき事にワインにおける香気成分の中でも、ダイアセチル及びアセトインの含有量が一定の値未満となると、亜硫酸無添加ワイン全体の品質が良好となることを見いだした。即ち、亜硫酸無添加ワイン中のダイアセチル及びアセトインの総含有量が6ppm(w/v)未満である場合には、該ワインにダイアセチル及びアセトインに由来するムレ臭・腐敗臭などのオフフレーバーが感じられないのみならず、他の香気成分に由来するオフフレーバーも殆ど認められない、フレッシュ感とフルーティな果実香が楽しめる優れた品質の亜硫酸無添加ワインが得られることを見出し、本発明を完成させた。」
「【0031】
実施例1 亜硫酸無添加の赤ワイン及び白ワインの製造
亜硫酸無添加の冷凍濃縮ぶどう果汁を解凍し、ワイン製造用の果汁とした。(以下この亜硫酸無添加濃縮ぶどう果汁を、単に「濃縮ぶどう果汁」と記載する。)
(酒母)
まず、酒母用果汁を2kL調製した。清潔な蓋付きステンレスタンクに、濃縮ぶどう果汁を採取し、糖度約5%になるよう汲水を添加して容量比で4倍に希釈した後、液温が34±1℃になるよう温度調節し、酒母用果汁とした。
【0032】
復元された乾燥酵母を含む乾燥酵母復元液を、ただちに酒母用果汁へ添加した。
この後、45NL/minの通気量で空気での通気を開始した。復元酵母添加の5時間後に通気を停止し、復元酵母添加の20時間後に同じ通気量で通気を再開し、復元酵母添加の21時間後に通気量を90NL/minに上昇させた。この時の酒母の培養温度は23~26℃、総培養時間は約24~30時間であった。最終目標酵母数が2.0~2.5×108cells/ml以上(死菌率10%未満)となってから酒母発酵を終了した。
【0033】
(本発酵)
次に、50kLスケールの本発酵を行なった。
目標糖度約22%になるよう濃縮ぶどう果汁を汲水にて希釈し、50kLの本発酵用果汁とする。これに、酒母を、上記で製造した酒母添加前の本発酵用果汁の容量に対して4~7%になるよう添加し、本発酵を開始した。醗酵温度が17~21℃となるよう温度管理を行い、糖分が0.40g/100ml以下の量まで減少した時点で発酵終了とした。発酵は順調に進み、亜硫酸無添加ワインを得ることができた。
【0034】
(遠心分離)
上記により製造されたワインを遠心分離してオリ・酵母を除去した。
(貯酒)
次に、得られた液を貯酒タンクに移動させて、0~5℃で貯酒を実施した。遠心分離により得られた液を貯酒タンクに移動させる前には、貯酒タンク及び輸送用の配管に窒素ガスを吹き込んで事前に酸素を追い出した。ワイン移動後には、ワイン中に窒素ガスを1~2分間吹き込んで、ワイン中に溶け込んでいる溶存酸素を追い出した。さらに、炭酸ガスを使用して液面空気を置換し、液面直上の酸素濃度を1%(v/v)以下とした。また、貯酒時には、ワインを炭酸ガスによる加圧状態で保管した。タンクヘッドスペースの酸素濃度は1%(v/v)以下に維持され、貯酒の溶存酸素濃度は500ppb(v/v)以下に維持された。
【0035】
以上により、本発明の亜硫酸無添加の赤ワイン及び白ワインが製造された。」
イ 甲11に記載された発明
上記アの記載のうち、実施例1を中心にまとめると、甲11には次の発明(以下、「甲11発明」、「甲11製法発明」、「甲11方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲11発明>
「亜硫酸無添加の冷凍濃縮ぶどう果汁を解凍して、ワイン製造用の果汁とし、復元酵母を添加して酒母発酵を行い、次に、50kLスケールの本発酵を行い、その後、製造されたワインを遠心分離してオリ・酵母を除去し、得られた液を貯酒タンクに移動して貯酒を実施して製造された、亜硫酸無添加のワイン。」
<甲11製法発明>
「亜硫酸無添加の冷凍濃縮ぶどう果汁を解凍して、ワイン製造用の果汁とし、復元酵母を添加して酒母発酵を行い、次に、50kLスケールの本発酵を行い、その後、製造されたワインを遠心分離してオリ・酵母を除去し、得られた液を貯酒タンクに移動して貯酒を実施する、ワインの製造方法。」
<甲11方法発明>
「亜硫酸無添加の冷凍濃縮ぶどう果汁を解凍して、ワイン製造用の果汁とし、復元酵母を添加して酒母発酵を行い、次に、50kLスケールの本発酵を行い、その後、製造されたワインを遠心分離してオリ・酵母を除去し、得られた液を貯酒タンクに移動して貯酒を実施する、ワインのオフフレーバーを抑制する方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲11発明とを対比すると、甲11発明の「ワイン」は、本件特許発明1の「果実酒」に相当するから、本件特許発明1と甲1発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「果実酒。」
また、両者は以下の各点で相違する。
<相違点11-1>
本件特許発明1は、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含」むとの特定を有するのに対し、甲11発明には、そのような特定がない点。
<相違点11-2>
本件特許発明1は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲11発明には、そのような特定がない点。
<相違点11-3>
本件特許発明1は、「総亜硫酸の含有量が0~30ppmである」との特定を有するのに対し、甲11発明には、そのような特定がない点。
相違点11-1について検討する。
甲11及び他の全ての証拠をみても、甲11発明において、相違点11-1に係る、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含」ませる動機となる記載はない。
そして、本件特許発明1は、1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含ませた果実酒とすることで、果実酒において香味を向上させることができ、また、香味の保存安定性を向上させることも可能となるという顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人の、特許異議申立書(第25頁第21行~第30頁15行)における主張については、上記2(2)アのとおり採用できない。
以上のことから、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲11発明並びに甲11及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2~3について
本件特許発明2~3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~3は、甲11発明並びに甲11及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲11製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点11-4>
本件特許発明4は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲11製法発明には、そのような特定がない点。
<相違点11-5>
本件特許発明4は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲11製法発明には、そのような特定がない点。
相違点11-4について検討する。
相違点11-4は、上記アにおける相違点11-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲11製法発明並びに甲11及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲11方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点11-6>
本件特許発明8は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲11方法発明には、そのような特定がない点。
<相違点11-7>
本件特許発明8は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲11方法発明には、そのような特定がない点。
相違点11-6について検討する。
相違点11-6は、上記アにおける相違点11-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲11方法発明並びに甲11及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲11方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点11-8>
本件特許発明9は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲11方法発明には、そのような特定がない点。
<相違点11-9>
本件特許発明9は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲11方法発明には、そのような特定がない点。
相違点11-8について検討する。
相違点11-8は、上記アにおける相違点11-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲11方法発明並びに甲11及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2-2のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~4、8、9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、申立理由2-2によって取り消すことはできない。
4 申立理由3(甲12に基づく進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項
ア 甲12に記載された事項
甲12には、「おいしい酸化防止剤無添加ワイン 厳選素材」について、おおむね次の事項が記載されている。
「
[図:0001414210000001.jpg]
」
イ 甲12に記載された発明
上記アの記載をまとめると、甲12には次の発明(以下、「甲12発明」、「甲12製法発明」、「甲12方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲12発明>
「酸化防止剤無添加ワイン。」
<甲12製法発明>
「甲12発明の製造方法。」
<甲12方法発明>
「甲12発明となるように調整する方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲12発明とを対比すると、甲12発明の「ワイン」は、本件特許発明1の「果実酒」に相当するから、本件特許発明1と甲12発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「果実酒。」
また、両者は以下の各点で相違する。
<相違点12-1>
本件特許発明1は、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含」むとの特定を有するのに対し、甲12発明には、そのような特定がない点。
<相違点12-2>
本件特許発明1は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲12発明には、そのような特定がない点。
<相違点12-3>
本件特許発明1は、「総亜硫酸の含有量が0~30ppmである」との特定を有するのに対し、甲12発明には、そのような特定がない点。
相違点12-1について検討する。
甲12及び他の全ての証拠をみても、甲12発明において、相違点12-1に係る、「1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含」ませる動機となる記載はない。
そして、本件特許発明1は、1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含ませた果実酒とすることで、果実酒において香味を向上させることができ、また、香味の保存安定性を向上させることも可能となるという顕著な効果を奏するものである。
したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲12発明並びに甲12及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2~3について
本件特許発明2~3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~3は、甲12発明並びに甲12及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明4について
本件特許発明4と甲12製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点12-4>
本件特許発明4は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲12製法発明には、そのような特定がない点。
<相違点12-5>
本件特許発明4は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲12製法発明には、そのような特定がない点。
相違点12-4について検討する。
相違点12-4は、上記アにおける相違点12-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲12製法発明並びに甲12及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲12方法発明とを対比すと、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点12-5>
本件特許発明8は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲12方法発明には、そのような特定がない点。
<相違点12-6>
本件特許発明8は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲12方法発明には、そのような特定がない点。
相違点12-5について検討する。
相違点12-5は、上記アにおける相違点12-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲12方法発明並びに甲12及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲12方法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点12-7>
本件特許発明9は、「オークラクトンの含有量を1~100ppb、エラグ酸の含有量を0.02~10ppmに調整する工程を含」むとの特定を有するのに対し、甲12方法発明には、そのような特定がない点。
<相違点12-8>
本件特許発明9は、「(マロラクティック発酵を経て得られるワインを除く)」との特定を有するのに対し、甲12方法発明には、そのような特定がない点。
相違点12-7について検討する。
相違点12-7は、上記アにおける相違点12-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲12方法発明並びに甲12及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由3のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~4、8、9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。
5 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】に記載されているとおり、本件特許発明の課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、香味および保存安定性が向上した果実酒とその製造方法、並びに、果実酒の香味及び保存安定性を向上する方法を提供することである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0011】~【0014】には果実酒の種類について、【0015】~【0017】にはオークラクトンの含有量を1~100ppbとすることやオークラクトンの種類について、【0018】~【0019】にはエラグ酸の含有量を0.01~10ppmとすることについて、【0020】~【0022】には亜硫酸の含有量や種類について、【0023】~【0025】にはオークラクトンおよびエラグ酸の含有量を所定の範囲内に調整するための方法について、【0026】には果汁について、【0027】には果汁組成物について、【0028】~【0029】にはオークチップ及びオークチップの使用方法について記載されている。
また、【0033】~【0095】の実施例1~5には、果実酒にオークラクトンおよびエラグ酸を添加していない対照サンプルに対して、果実酒に所定量のオークラクトンおよびエラグ酸を含有するように調整することによって、香味が有意に向上し、高温環境下で保管した場合でも香味の劣化が有意に抑制されることが記載されている。
そうすると、当業者は、1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含んでなるように調整された果実酒とすることで、本件発明の課題を解決することができると認識でき、また、果実酒が1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を含んでなるように調整する工程を有する果実酒の製造方法とすることにより、本件発明の課題を解決することができると認識でき、さらに、1~100ppbのオークラクトンおよび0.02~10ppmのエラグ酸を果実酒が含むように調整する方法とすることで、本件発明の課題を解決することができると認識できる。
そして、本件特許発明1~4,8、9は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、これをさらに限定するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件特許発明1~4,8、9はいずれも、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の第3 5における主張について検討する。
特許異議申立人の、実施例に対する評価方法及び試験方法の妥当性に関する主張については、エラグ酸とオークラクトンを添加したサンプルの保存前の結果や、他の成分について何らかの特定がないと発明の課題を解決することができないとする具体的証拠や根拠を提示するものではない。
また、本件特許の発明の詳細な説明における実施例及び対照サンプルの結果を参照すれば、エラグ酸とオークラクトンを添加したものが、エラグ酸とオークラクトンを添加していないものに比べ、少なくとも香味及び香味の保存安定性を向上させることができ、本件発明の課題を解決することができると当業者は理解することができる。
さらに、特許異議申立人のシス-オークラクトンに関する主張については、シス-オークラクトンでは本件発明の課題を解決することができないとする具体的証拠や根拠を提示するものではなく、また、そのような技術常識が存在するものでもない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(5)申立理由4についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由4の理由では、本件特許発明1~4、8、9に係る特許を取り消すことができない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~4、8、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の1~4、8、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700318