特許異議申立
2023-700930
非水系毛髪用組成物および毛髪処理方法
- 審判番号
- 2023-700930
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-205773
- 登録番号
- 7235434
- 請求日
- 2023年09月07日
- 審決日
- 2024年07月01日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ミルボン
- 【権利者代理人】三輪 鐵雄
- 【権利者代理人】三輪 英樹
- 【異議申立人】藤本 幸弘
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 松元 麻紀子
- 審判官 野田 定文
- 分類
- P1652.121-YAA(A61K) / P1652.113-YAA(A61K) / P1652.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第5項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7235434号発明「非水系毛髪用組成物および毛髪処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7235434号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、5~10〕について訂正することを認める。
特許第7235434号の請求項1、5~7、9、10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7235434号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成29年10月25日に出願され、令和5年2月28日に特許権の設定登録がされ、同年3月8日にその特許掲載公報が発行され、その後、同年9月7日に本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 藤本幸弘(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後、令和5年12月18日付けで当審合議体から特許権者に対し取消理由が通知され、令和6年2月13日に特許権者から訂正請求書及び意見書が提出され、同年3月1日付けで当審合議体から申立人に対し特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知をしたが、申立人からは指定された期間内に何らの応答もなかった。
第2 訂正の請求について
1 訂正の請求の趣旨
令和6年2月13日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、
「特許第7235434号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、5~10について訂正することを求める。」
というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の記載、訂正請求書の記載、及び、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、以下の訂正事項1~3からなるものと認める。なお、下線は、訂正による記載の変更箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコールが配合されたものであり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
25℃で透明であることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料を除く)。」
と記載されているのを、
「(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコールが配合されたものであり、
(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたものであり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
25℃で透明であることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料、および
(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料
を除く)。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項6~10も同様に訂正する。
(合議体注:訂正請求書の訂正事項1には、「(請求項1を引用する請求項6、7、10も同様に訂正する)」と記載されているが、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の記載も参照し、上記のとおり認定した。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
(E)シリコーン油が配合されていないか、または(E)シリコーン油が5質量%以下の量で配合されていることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物」
と記載されているのを、
「(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたものであり、
(E)シリコーン油が配合されていないか、または(E)シリコーン油が5質量%以下の量で配合されていることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物」
に訂正する。
請求項5の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項7~10も同様に訂正する。
(合議体注:訂正請求書の訂正事項1には、「(請求項5を引用する請求項7、9、10も同様に訂正する)」と記載されているが、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の記載も参照し、上記のとおり認定した。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1~7のいずれか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項2~4、6および7のいずれか1項に記載の」
に訂正する。
請求項8の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項9及び10も同様に訂正する。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1、6~10について、請求項6~10は、それぞれ請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1、6~10に対応する訂正後の請求項1、6~10は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する「一群の請求項」である。
本件訂正前の請求項5、7~10について、請求項7~10は、それぞれ請求項5の記載を直接的に又は間接的に引用するものであり、訂正事項2によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるから、訂正前の請求項5、7~10に対応する訂正後の請求項5、7~10も、「一群の請求項」である。
そして、共通する訂正後の請求項7~10を有する、「一群の請求項」である訂正後の請求項1、6~10と、他の「一群の請求項」である訂正後の請求項5、7~10は、特許法施行規則第45条の4に規定されるとおり、一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係が、当該関係に含まれる請求項を介して他の一の請求項の記載を他の請求項が引用する関係と一体として特許請求の範囲の全部又は一部を形成するように連関している関係を有するものであるから、組み合わされて1つの「一群の請求項」を構成するものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、5~10に対応する訂正後の請求項1、5~10は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」であり、本件訂正は当該「一群の請求項」に対して請求されたものである。
4 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
(ア)訂正事項1の分節
訂正事項1は、分節すると次の2つの訂正事項からなるものと認められ、いずれの訂正事項も請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項6~10も同様に訂正するものである。
a 請求項1に記載された「非水系毛髪用組成物」を、
「(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたもの」
であるとする訂正事項(以下「訂正事項1a」という。)。
b 請求項1に記載された「非水系毛髪用組成物」から「除く」とする毛髪化粧料として、
「(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」
を追加する訂正事項(以下「訂正事項1b」という。)。
(イ)訂正事項1aについて
訂正事項1aによる訂正は、請求項1に記載された「非水系毛髪用組成物」について、訂正前はその有無も配合量も特定されていない「(D)炭素数が2~4の低級アルコール」が、「配合されていないか」又は「5質量%以下の量で配合されたもの」であるとすることにより、その成分組成を特定し限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(ウ)訂正事項1bについて
訂正事項1bによる訂正は、請求項1に記載された「非水系毛髪用組成物」から、同項に記載した事項の記載表現を残したままで、同項に係る発明に包含される一部の事項を「除く」とする毛髪化粧料として、
「(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」
を追加することにより、請求項1に記載された「非水系毛髪用組成物」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(エ)まとめ
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
(ア)訂正事項1aについて
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0026】には、
「本実施形態に係る非水系毛髪用組成物には、(D)低級アルコールを配合しないか、配合する場合には、その配合量を5質量%以下とすることが好ましい。」(下線は当審合議体が付した。以下同じ。)
と記載されており、同【0027】には、
「(D)成分の具体例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどの炭素数が2~4の1価アルコールが挙げられる。」
と記載されている。そして、「炭素数が2~4の1価アルコール」が「低級アルコール」に該当するものであることは、本件特許の出願時の技術常識に照らして明らかである。
また、請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項8には、
「請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系毛髪用組成物」
について、
「(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されている」
と記載されている。
したがって、訂正事項1aによる訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
(イ)訂正事項1bについて
訂正請求書の記載によれば、訂正事項1bによる訂正は、請求項1に係る発明から、取消理由通知書で引用された甲5(特開2009-67781号公報)に開示されている毛髪化粧料との重複するおそれのある部分を除くことのみを目的としたものであるとされている。
訂正事項1bによる訂正は、請求項1に記載の「非水系毛髪用組成物」から「除く」とする対象に、特定態様の「毛髪化粧料」を追加しているだけであり、本件明細書等の記載全体からみて、請求項1に記載の「非水系毛髪用組成物」は、当該特定態様の「毛髪化粧料」を概念的に包含し得るといえる一方で、当該特定態様の「毛髪化粧料」の採用の必要性や何らかの技術的な意義が示されているわけではないから、当該特定態様の「毛髪化粧料」のみを、請求項1に記載の「非水系毛髪用組成物」から「除く」とする対象に追加することは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、訂正事項1による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、上記ア及びイのとおり、請求項1に記載された「非水系毛髪用組成物」の成分組成を特定し限定するともに、当該「非水系毛髪用組成物」から「除く」とする対象に特定態様の「毛髪化粧料」を追加しているだけであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項1についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2による訂正は、請求項5に記載された「非水系毛髪用組成物」について、訂正前はその有無も配合量も特定されていない「(D)炭素数が2~4の低級アルコール」が、「配合されていないか」又は「5質量%以下の量で配合されたもの」であるとすることにより、その成分組成を特定し限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件明細書の【0026】及び【0027】並びに請求項8には、上記(1)イ(ア)で摘記した事項が記載されているから、訂正事項2による訂正は、上記(1)イ(ア)で説示したのと同様の理由により、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、請求項5に記載された「非水系毛髪用組成物」の成分組成を特定し限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項2についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3による訂正は、請求項8において、記載を引用する請求項が「請求項1~7のいずれか1項」とされているのを、記載を引用する請求項から、請求項1及び5を削除し、「請求項2~4、6および7のいずれか1項」とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
なお、訂正事項1a及び2により、請求項8に記載された特定事項が、訂正後の請求項1及び5の特定事項とされることに伴い、請求項1又は5の記載を引用する請求項8においては、当該特定事項が重複することになるため、訂正事項3により、請求項8が記載を引用する請求項から請求項1及び5を削除するとしたものと認められる。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項3による訂正は、請求項8において記載を引用する請求項1~7から請求項1及び5を削除するものにすぎないから、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえないことは明らかである。
したがって、訂正事項3による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、請求項8において記載を引用する請求項1~7から請求項1及び5を削除するものにすぎず、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項3についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)独立特許要件について
ア 請求項1、5~7、9、10について
訂正事項1~3による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項である請求項1、5~7、9、10に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正事項1及び2による訂正後の請求項1、5~7に係る発明、及び、訂正事項1~3による訂正後の請求項9及び10に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
イ 請求項8について
(ア)本件特許異議申立事件においては、訂正事項1~3による訂正の対象である請求項8に対して特許異議の申立てがされておらず、請求項8についての訂正事項1~3による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、訂正後の請求項8に係る発明が「独立特許要件」を満たしているか検討する。
(イ)訂正前の請求項8に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、訂正事項1~3による訂正後の請求項8については、上記(1)ア、(2)ア及び(3)アで検討したとおり、記載を引用する請求項1又は5の訂正事項1及び2による訂正と連動して「非水系毛髪用組成物」の範囲が限定されるとともに、訂正事項3による訂正によって、記載を引用する請求項から請求項1及び5が削除されるものであるから、当該訂正後の請求項8に係る発明について、見直すべき新たな事情は存在せず、特に、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに提出された証拠を見ても、訂正後の請求項8に係る発明の新規性及び/又は進歩性を否定し得る根拠は見いだせないし、訂正後の請求項8に係る発明について、特許法第36条第4項第1号及び第6項各号(第4号を除く。)に規定する要件が満たされなくなるものともいえない。
ウ まとめ
したがって、訂正事項1~3による訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。
5 訂正の請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1、5~10〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1、5~10に係る発明(以下、請求項の番号順に「本件発明1」等といい、まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、5~10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(下線は本件訂正による記載の変更箇所を示す。なお、本件訂正後の請求項6~10は、本件訂正の対象外である請求項2~4の記載を直接的に又は間接的に引用しているため、請求項2~4の記載も摘記するが、本件特許異議申立事件における審理対象は、請求項1、5~7、9、10に係る特許であり、請求項2~4、8に係る特許は、審理対象外である。請求項2~4に係る発明についても、以下「本件発明2」等ということがある。)。
「【請求項1】
(A)25℃で液状の植物油、(B)25℃で液状の炭化水素、および(C)25℃で液状の高級アルコールが配合されており、
(A)25℃で液状の植物油として、少なくとも、アボガド油、オリーブ油、ゴマ油、コメヌカ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、マカデミアナッツ油、およびメドウフォーム油から選ばれる1種または2種以上が配合され、
(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコールが配合されたものであり、
(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたものであり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
25℃で透明であることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料、および
(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料
を除く)。
【請求項2】
(A)25℃で液状の植物油、(B)25℃で液状の炭化水素、および(C)25℃で液状の高級アルコールが配合されており、
(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22のアルコールが配合され、
(A)25℃で液状の植物油として、少なくとも、コメヌカ油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、およびメドウフォーム油から選ばれる1種または2種以上が配合されたものであり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
(E)シリコーン油が配合されていないことを特徴とする非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料を除く)。
【請求項3】
(A)25℃で液状の植物油、および(B)25℃で液状の炭化水素が配合されており、
(A)25℃で液状の植物油として、少なくとも、コメヌカ油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、およびメドウフォーム油から選ばれる1種または2種以上が配合されたものであり、
(A)25℃で液状の植物油の配合量が50質量%以上であり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
(F)ノニオン界面活性剤が配合されていないことを特徴とする非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料を除く)。
【請求項4】
(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22のアルコールが更に配合されている請求項3に記載の非水系毛髪用組成物。
【請求項5】
(A)25℃で液状の植物油、(B)25℃で液状の炭化水素、および(C)25℃で液状の高級アルコールが配合されており、
(A)25℃で液状の植物油として、少なくとも、アボガド油、オリーブ油、ゴマ油、コメヌカ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、マカデミアナッツ油、およびメドウフォーム油から選ばれる1種または2種以上が配合され、
(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコールが配合されたものであり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたものであり、
(E)シリコーン油が配合されていないか、または(E)シリコーン油が5質量%以下の量で配合されていることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料を除く)。
【請求項6】
(F)ノニオン界面活性剤が配合されていないか、または(F)ノニオン界面活性剤が5質量%以下の量で配合されている請求項1または2に記載の非水系毛髪用組成物。
【請求項7】
(B)25℃で液状の炭化水素として、少なくとも、流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、イソドデカン、および(C13-15)アルカンから選ばれる1種または2種以上が配合されたものである請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系毛髪用組成物。
【請求項8】
(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されている請求項2~4、6および7のいずれか1項に記載の非水系毛髪用組成物。
【請求項9】
25℃で透明である請求項2~8のいずれか1項に記載の非水系毛髪用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の非水系毛髪用組成物を用いることを特徴とする毛髪処理方法。」
第4 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、申立書に添付して下記(8)に示す甲第1号証~甲第8号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」~「甲8」ともいう。)を提出し、申立書の全体の記載からみて、本件訂正前の請求項1、5~7、9、10に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(7)に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張しているものと認められる。
(1)申立理由1-1(甲5に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(甲7に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-3(甲8に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由2-1(甲5を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明(及び甲6~8に記載された周知技術)に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由2-2(甲7を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由2-3(甲8を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1、5~7、9、10の記載は、以下の(ア)~(エ)の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(ア)本件明細書において、請求項1、5~7、9、10に属する実施例は、実施例7、8、9、10の四つしかなく、上記請求項のすべての範囲について、(B)25℃で液状の炭化水素及び(C)25℃で液状の高級アルコールの添加によって、(A)特定植物油の低温安定性が改善し、かつ、毛先の厚み感が改善することは、70~75質量%のコメヌカ油と25質量%のスクワランとの配合物である上記実施例から、当業者が予測することが容易であるとする根拠がない。
(イ)非水系毛髪組成物の主成分である(A)植物油の融点/凝固点と(B)炭化水素の融点/凝固点との関係からみても、請求項1、5~7、9、10に係る各発明の全体にわたって、本件発明の作用効果を奏するものであるとする根拠がない。
(ウ)請求項1、5~7、9、10には、非水系毛髪組成物における各成分の比率の規定がなく、全体にわたって、本件発明の作用効果を奏するものであるとする根拠がない。
(エ)審査時の意見書において提出された実施例A1~A8及びB1~B5の追加は認めるべきでないうえ、これらの追加実施例は、多数の(A)と(B)との組合せの作用効果についての合理的な疑いを払拭するものでもなく、本件明細書に記載の実施例を補足できるものではない。
(8)証拠方法
甲1:日本油化学協会編,「改訂二版油脂化学便覧」,丸善株式会社,1985年12月25日, p.2~3
甲2:富士フイルム和光純薬株式会社,「安全データシート(製品名 スクアラン)」,2023年2月17日改訂
甲3:富士フイルム和光純薬株式会社,「安全データシート(製品名 テトラデカン)」,2023年2月18日改訂
甲4:ジーエルサイエンス株式会社,「安全データシート(化学品の名称: n-Pentadecane)」,2020年10月27日改訂
甲5:特開2009-67781号公報
甲6:宇山みつ男ら編著,「化粧品成分ガイド第6版」,フレグランスジャーナル社,2015年10月15日(第2刷発行),p.60~61
(ただし、原文では、「みつ」は「人偏」に「光」)
甲7:特開2015-227300号公報
甲8:特開2015-124167号公報
2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、5~7、9、10に係る特許に対して、当審合議体が令和5年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(甲8に基づく新規性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8(下記引例Aを参照する。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(上記1(3)の申立理由1-3と同旨である。)
(2)取消理由2-1(甲5を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1、6~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5に記載された発明及び甲6に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1、6、7、9、10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(上記1(4)の申立理由2-1のうち、請求項1並びに請求項1の記載を引用する請求項6~7、9、10を対象とする部分と同旨である。)
(3)取消理由2-2(甲8を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8(下記引例Aを参照する。)に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(上記1(6)の申立理由2-3と同旨である。)
引例A:特開2017-154990号公報(平成29年9月7日公開)
(当審合議体が職権で追加引用する周知技術を示す文献である。)
第5 当審合議体の判断
当審合議体は、上記第4の2の当審合議体が通知した取消理由、及び、上記第4の1の特許異議申立人の申し立てた理由によっては、本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る特許は取り消すことはできないと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。
I 取消理由について
1 甲5~甲8の記載事項並びに甲5、甲7及び甲8に記載された発明
(1)甲5~甲8の記載事項
ア 甲5の記載事項
甲5には、次の事項が記載されている。
なお、摘記中の下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。以下、他の文献の摘記についても同様である。
・摘記甲5a
「【請求項1】
(A)常温で液状の植物油、(B)炭化水素、(C)シリコーン油、及び(D)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(A)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(A)+(C)]/(D)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料。」
・摘記甲5b
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、損傷毛の内部構造を補強し、枝毛・切れ毛が抑制され、低温安定性に優れる毛髪化粧料を提供することを目的とする。
・・・
【0008】
(A)成分は常温で液状の植物油であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体的には、スィートアーモンド油、ビターアーモンド油、オリーブ油、ゴマ油、ユチャ油(サザンカ油)、山茶花油、紅花油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パーシック油、グレープシード油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、ローズヒップ油、パーム核油、アマニ油、エゴマ油、シナギリ油、日本キリ油、ヒマワリ油、コメ油、コメヌカ油、コメ胚芽油、カポック油、クロモジ油、茶種油、ホホバ油、マカダミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、メドウホーム油、アプリコット油、アボカド油、エノ油、カヤ油、オレイン酸率を上げたハイオレサフラワー油、ハイオレヒマワリ油等のハイオレイン酸油分等が挙げられる。この中でも、紅花油、グレープシード油、コメヌカ油、ホホバ油、落花生油、オリーブ油、ユチャ油、ツバキ油、マカダミアナッツ油、スィートアーモンド油、ハイオレサフラワー油、ハイオレヒマワリ油が好ましい。
・・・
【0010】
(B)成分は炭化水素であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。炭化水素としては、流動パラフィン、流動イソパラフィン、スクワレン、スクワラン、プリスタン、ワセリン、パラフィンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックスが挙げられる。この中でも、低温安定性の点から、常温(15~25℃)で液状の、流動パラフィン、流動イソパラフィン、スクワレン、スクワランが好ましく、流動イソパラフィン、スクワランが特に好ましい。
【0011】
(B)成分の含有量は、毛髪化粧料中1~60質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましい。1質量%未満では低温安定化効果が不十分となる場合があり、60質量%を超えて配合すると、(A)成分及び(C)成分の含有量が減ることとなり、結果として枝毛・切れ毛抑制効果が不十分となる場合がある。」
・摘記甲5c
「【0031】
本発明の毛髪化粧料の使用方法としては、洗髪後、乾燥した髪、水でぬらした髪等に適量を塗布した後、洗い流さないで使用する方法が好ましく、洗い流さない毛髪化粧料オイルとすることが好ましい。」
・摘記甲5d
「【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%、比率は質量比を示し、表中の各成分の量は純分換算した量である。
・・・
【0039】
[低温安定性]
毛髪化粧料50mLをガラス瓶に入れて、5℃の恒温槽で1ヶ月間保存した。保存後の外観安定性を下記評価基準に基づいて評価した。
<評価基準>
5:外観に変化がない。
4:ガラス瓶底面にごくわずかに澱がある。
3:ガラス瓶底面にわずかに澱がある。
2:ガラス瓶底面や壁面に析出物が塊となってある。
1:ガラス瓶底面や壁面に析出物が層になってある。」
・摘記甲5e
「【0043】
[実施例19]
オイルフォーム(外観:透明液状)
組成 %
オリーブ油(A) 40.0
ツバキ油(A) 30.0
流動パラフィン(B) 13.499
メチルフェニルポリシロキサン(フェニルトリメチコン)(C)6.0
没食子酸-3,5-ジグルコシド(E) 0.001
ラウリン酸ポリグリセリル(D) 1.5
トリオレイン酸ポリグリセリル(D) 1.5
香料 0.5
LPG 7.0
合計 100.0
耐圧PET容器に充填した。
[(A)+(C)]/(D)=(40+30+6)/(1.5+1.5)
=25.3
枝毛抑制率(%):65,○
スプリット幅(μm):290,◎
低温安定性:5
・・・
【0045】
[実施例21]
オイルリキッド(外観:透明液状)
組成 %
マカダミアナッツ油(A) 50.0
ハイオレヒマワリ油(A) 20.0
コメヌカ油(A) 10.0
流動イソパラフィン(2)(B) 9.999
メチルフェニルポリシロキサン(フェニルトリメチコン)(C)5.0
アミノ変性シリコーン(C) 3.0
タンニン酸(E) 0.001
セスキオレイン酸ソルビタン(D) 1.5
香料 0.5
合計 100.0
ディスペンサーポンプ容器に充填した。
[(A)+(C)]/(D)=(50+20+10+5+3)/(1.5)
=58.7
枝毛抑制率(%):72,◎
スプリット幅(μm):210,◎
低温安定性:5
【0046】
[実施例22]
オイルリキッド(外観:透明液状)
組成 %
マカダミアナッツ油(A) 30.0
ハイオレヒマワリ油(A) 20.0
コメヌカ油(A) 10.0
オリーブスクワラン(B) 29.999
メチルフェニルポリシロキサン(フェニルトリメチコン)(C)5.0
アミノ変性シリコーン(C) 3.0
タンニン酸(E) 0.001
テトラオレイン酸POE(6)ソルビット(D) 1.5
香料 0.5
合計 100.0
ディスペンサーポンプ容器に充填した。
[(A)+(C)]/(D)=(30+20+10+5+3)/(1.5)
=45.3
枝毛抑制率(%):62,○
スプリット幅(μm):210,◎
低温安定性:4」
イ 甲6の記載事項
甲6には、次の事項が記載されている。
摘記甲6a(表紙)
「
[図:0001415277000001.jpg]
」
摘記甲6b(60頁)
「
[図:0001415277000002.jpg]
」
ウ 甲8の記載事項
甲8には、次の事項が記載されている。
・摘記甲8a
「【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるラクトン誘導体を含有する毛髪のうねり改善剤。
【化1】
[図:0001415277000003.jpg]
(ただし式中、nは1又は2であり、Rは炭素数9~22の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和炭化水素基を表す)」
・摘記甲8b
「【0013】
本発明の毛髪のうねり又は絡まり改善剤は、一般的な毛髪化粧料に配合可能であり、必要に応じて一般的に毛髪化粧料に配合される添加成分、例えば油性基剤、保湿剤、感触向上剤、界面活性剤、高分子、増粘・ゲル化剤、溶剤、噴射剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、防腐剤、抗菌剤、キレート剤、pH調整剤、酸、アルカリ、粉体、無機塩、ビタミン類及びその誘導体類、育毛用薬剤、血行促進剤、刺激剤、植物・動物・微生物エキス、香料、色素、着色剤、染料、顔料、水等を配合することができる。
【0014】
油性基剤としては、セタノール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、ホホバアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコール、バチルアルコール、ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ダイマージオール等の高級アルコール類;・・・;流動パラフィン(ミネラルオイル)、重質流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、α-オレフィンオリゴマー、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、ポリブテン、スクワラン、オリーブ由来スクワラン、スクワレン、ワセリン、固型パラフィン等の炭化水素類;・・・;ヤシ油、パーム油、パーム核油、サフラワー油、オリーブ油、ヒマシ油、アボカド油、ゴマ油、茶油、月見草油、小麦胚芽油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、ククイナッツ油、ローズヒップ油、メドウフォーム油、パーシック油、ティートリー油、ハッカ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、小麦胚芽油、アマニ油、綿実油、大豆油、落花生油、コメヌカ油、カカオ脂、シア脂、水素添加ヤシ油、水素添加ヒマシ油、ホホバ油、水素添加ホホバ油等の植物油脂類;・・・
・・・
【0018】
溶剤・噴射剤類としては、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタノール、イソブチルアルコール等の低級アルコール類;・・・が好ましいものとして挙げられる。」
・摘記甲8c
「【0052】
実施例8 紫外線防御ヘアオイル
下記処方のヘアオイルを調製した。この毛髪用オイルは、日焼け防止効果に優れ、べたつき、キシミを感じないものであった。また、毛髪にハリコシ感を与え、湿潤時、乾燥時共にうねり、絡まりを抑制するものであった。
成 分 配合量(重量%)
----------------------------------
A部
合成例1の化合物 0.05
ジメチコン 4.95
B部
Neosolue-Aqulio(日本精化) 1.0
セバシン酸ジエチルヘキシル 合計で100となる量
セバシン酸ジイソプロピル 5.0
ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2 0.01
(Plandool-DP:日本精化)
ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチル
ドデシル) 0.01
(Plandool-LG2:日本精化)
ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル 0.1
(LUSPLAN DD-DA7:日本精化)
エタノール 10.0
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 5.0
パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル 0.5
ビスエチルへキシルオキシフェノールメトキシフェニル
トリアジン 0.1
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 1.0
エチルヘキシルトリアゾン 0.5
N-ラウロイルサルコシンイソプロピル 2.0
イソステアリルアルコール 1.0
2-オクチルドデカノール 1.0
ヒマワリ種子油 1.0
ブロッコリー種子油 0.5
アルガニアスピノサ核油 0.1
メドウフォーム油 1.0
オレンジラフィー油 1.0
水添ポリイソブテン 1.0
トウツバキ種子油 1.0
パルミチン酸エチルヘキシル 1.0
イソステアリン酸PG 1.0
イソノナン酸イソトリデシル 1.0
安息香酸(C12-15) 1.0
PPG-3カプリリルエーテル 0.3
----------------------------------
(調製方法)
A部をあらかじめ混合、溶解しておく。B部の各原料を量り取り、均一に溶解させた後、A部を攪拌しながら添加し、混合した。」
(2)甲5及び甲8に記載された発明
ア 甲5に記載された発明
甲5には、請求項1に、(A)常温で液状の植物油、(B)炭化水素、(C)シリコーン油、及び、(D)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料が記載されており(摘記甲5a)、その具体例として、実施例19、21及び22(摘記甲5e)に、次の発明(以下、それぞれ「甲5発明A」、「甲5発明B」及び「甲5発明C」という。)が記載されていると認められる。
<甲5発明A>
「オリーブ油(A)40.0%、ツバキ油(A)30.0%、流動パラフィン(B)13.499%、メチルフェニルポリシロキサン(フェニルトリメチコン)(C)6.0%、没食子酸-3,5-ジグルコシド(E)0.001%、ラウリン酸ポリグリセリル(D)1.5%、トリオレイン酸ポリグリセリル(D)1.5%、香料0.5%、及び、LPG7.0%からなる、外観が透明液状のオイルフォームである毛髪化粧料。」
<甲5発明B>
「マカダミアナッツ油(A)50.0%、ハイオレヒマワリ油(A)20.0%、コメヌカ油(A)10.0%、流動イソパラフィン(2)(B)9.999%、メチルフェニルポリシロキサン(フェニルトリメチコン)(C)5.0%、アミノ変性シリコーン(C)3.0%、タンニン酸(E)0.001%、セスキオレイン酸ソルビタン(D)1.5%、及び、香料0.5%からなる、外観が透明液状のオイルリキッドである毛髪化粧料。」
<甲5発明C>
「マカダミアナッツ油(A)30.0%、ハイオレヒマワリ油(A)20.0%、コメヌカ油(A)10.0%、オリーブスクワラン(B)29.999%、メチルフェニルポリシロキサン(フェニルトリメチコン)(C)5.0%、アミノ変性シリコーン(C)3.0%、タンニン酸(E)0.001%、テトラオレイン酸POE(6)ソルビット(D)1.5%、及び、香料0.5%からなる、外観が透明液状のオイルリキッドである毛髪化粧料。」
イ 甲8に記載された発明
甲8には、甲8に記載された毛髪のうねり改善剤(摘記甲8a)の具体例として、実施例8(摘記甲8c)に、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲8発明>
「下記処方の毛髪用オイル。
成 分 配合量(重量%)
----------------------------------
A部
合成例1の化合物 0.05
ジメチコン 4.95
B部
Neosolue-Aqulio(日本精化) 1.0
セバシン酸ジエチルヘキシル 合計で100となる量
セバシン酸ジイソプロピル 5.0
ビスジグリセリルポリアシルアジペート-2 0.01
(Plandool-DP:日本精化)
ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチル
ドデシル) 0.01
(Plandool-LG2:日本精化)
ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル 0.1
(LUSPLAN DD-DA7:日本精化)
エタノール 10.0
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 5.0
パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル 0.5
ビスエチルへキシルオキシフェノールメトキシフェニル
トリアジン 0.1
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 1.0
エチルヘキシルトリアゾン 0.5
N-ラウロイルサルコシンイソプロピル 2.0
イソステアリルアルコール 1.0
2-オクチルドデカノール 1.0
ヒマワリ種子油 1.0
ブロッコリー種子油 0.5
アルガニアスピノサ核油 0.1
メドウフォーム油 1.0
オレンジラフィー油 1.0
水添ポリイソブテン 1.0
トウツバキ種子油 1.0
パルミチン酸エチルヘキシル 1.0
イソステアリン酸PG 1.0
イソノナン酸イソトリデシル 1.0
安息香酸(C12-15) 1.0
PPG-3カプリリルエーテル 0.3」
2 取消理由2-1(甲5を主引例とする進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲5発明Aとの対比・判断
(ア)対比
甲5発明Aにおける「オリーブ油(A)」及び「ツバキ油(A)」は、甲5において毛髪化粧料中に含まれる「常温で液状の植物油」として記載されており(摘記甲5b【0008】)、甲5における「常温」とは「15~25℃」であるから(摘記甲5b【0010】)、本件発明1における「(A)25℃で液状の植物油」に相当する。
そして、甲5発明Aにおける「オリーブ油(A)」は、本件発明1における「オリーブ油」に相当する。
甲5発明Aにおける「流動パラフィン(B)」は、甲5において毛髪化粧料中に含まれる「(B)炭化水素」として記載されており(摘記甲5b【0010】)、甲5において流動パラフィンは常温(15~25℃)で液状であると記載されているから(摘記甲5b【0010】)、本件発明1における「(B)25℃で液状の炭化水素」に相当し、また、甲5の実施例において組成の「%」は質量%を示すことから(摘記甲5d【0034】)、「流動パラフィン(B)」の配合量は13.499質量%であり、本件発明1における「(B)25℃で液状の炭化水素の配合量」の「30質量%未満」の条件を満たしている。
甲5発明Aの「外観が透明液状のオイルフォームである毛髪化粧料」は、炭素数が2~4の低級アルコールに該当する成分が配合されていない組成であるから、本件発明1における「(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されている」という条件を満たす。
甲5発明Aの「外観が透明液状のオイルフォームである毛髪化粧料」は、水を含有しない組成であり、25℃では非透明となるような要因も認められないから、25℃でも透明液状の外観であると解されるため、本件発明1における「25℃で透明であることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物」に相当する。
甲5発明Aの「オイルフォームである毛髪化粧料」は、
「(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種 (b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料」
ではないため、本件発明1における
「(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料」
を「除く」という条件を満たす。
上記1(2)アで説示したように、甲5発明Aは、甲5の請求項1に記載された毛髪化粧料の具体例に該当するものであるところ、各成分の対応関係からみて、甲5の請求項1に記載された、
「(A)常温で液状の植物油、(B)炭化水素、(C)シリコーン油、及び(D)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(A)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(A)+(C)]/(D)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」(摘記甲5a)
という組成の条件を満たすものであり、当該毛髪化粧料は、本件発明1の非水系毛髪用組成物から「除く」とされている、
「(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」
に相当するものである。
そうすると、本件発明1と甲5発明Aとは、
「(A)25℃で液状の植物油、(B)25℃で液状の炭化水素が配合されており、
(A)25℃で液状の植物油として、少なくとも、アボガド油、オリーブ油、ゴマ油、コメヌカ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、マカデミアナッツ油、およびメドウフォーム油から選ばれる1種または2種以上が配合され、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたものであり、
25℃で透明であることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料を除く)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点甲5A-1>
本件発明1は、「(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコール」が配合されたものであることを特定しているのに対して、甲5発明Aは、当該成分が配合されたものではない点。
<相違点甲5A-2>
本件発明1は、
「(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」
を「除く」ことを特定しているのに対し、甲5発明Aは、上記組成の条件を満たす毛髪化粧料である点。
(イ)判断
事案に鑑み、まず相違点5A-2について検討する。
本件発明1において「除く」とされている、
「(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」
は、甲5の請求項1に記載された毛髪化粧料に相当するものであるから、本件発明1からは、甲5の請求項1に係る発明の実施例に該当する甲5発明Aも当然に除かれているといえる。
そして、甲5においては、「損傷毛の内部構造を補強し、枝毛・切れ毛が抑制され、低温安定性に優れる毛髪化粧料を提供すること」を課題としているところ(摘記甲5b【0004】)、甲5には、その請求項1で特定する事項によって当該課題を解決するものとされているから、甲5の請求項1に記載された毛髪化粧料の具体例である甲5発明Aにおいて、甲5に記載の課題を解決するために必須の構成である甲5の請求項1で特定する事項を備えないものに変更することは、甲6に記載された化粧品成分に関する周知技術を参照しても、動機付けがあるとはいえない。
そうすると、相違点5A-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明Aから当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明1と甲5発明B及び甲5発明Cとの対比・判断
本件発明1と、甲5発明B及び甲5発明Cとを対比すると、両者は、少なくとも上記ア(ア)で認定した相違点5A-2と同じ点で相違しており、当該相違点についての判断は、上記ア(イ)で説示したとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、上記ア(イ)と同様の理由により、本件発明1は、甲5発明B又は甲5発明Cから当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲5に記載された発明及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明6、7、9、10について
ア 本件発明6、7、9、10のうち、本件発明1の特定事項を全て備えた部分について
本件発明6は、本件発明1又は本件発明2において、
「(F)ノニオン界面活性剤が配合されていないか、または(F)ノニオン界面活性剤が5質量%以下の量で配合されている」
ことを、更に特定するものである。
本件発明7は、本件発明1~本件発明6のいずれかにおいて、
「(B)25℃で液状の炭化水素として、少なくとも、流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、イソドデカン、および(C13-15)アルカンから選ばれる1種または2種以上が配合されたものである」
ことを、更に特定するものである。
本件発明9は、本件発明2~8のいずれかにおいて、非水系毛髪用組成物が「25℃で透明である」ことを特定するものである。
本件発明10は、本件発明1~9のいずれかの非水系毛髪用組成物を用いる「毛髪処理方法」である。
そうすると、本件発明6、7、9、10のうち、本件発明1の特定事項を全て備え、さらに限定した部分については、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲5に記載された発明及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明6、7、9、10のうち、本件発明1の特定事項を全て備えた部分以外の部分について
本件発明6、7、9、10には、請求項6、7、9、10において、請求項2~5又は8のいずれかを1項の記載を直接的に又は間接的に引用する部分も含まれているが、請求項2~4、8に係る特許は、本件特許異議申立事件の審理対象外であるうえ、本件発明6、7、9、10のうち、これらの部分についても、甲5に記載された発明及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない(なお、本件発明5が、甲5に記載された発明及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことについては、下記IIの1を参照。)。
3 取消理由1(甲8に基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲8を主引例とする進歩性欠如)について
(1)本件発明1と甲8発明との対比・判断
ア 対比
甲8発明における「ヒマワリ種子油」、「ブロッコリー種子油」、「アルガニアスピノサ核油」、「メドウフォーム油」、「オレンジラフィー油」及び「トウツバキ種子油」は、いずれも植物の油であり、25℃で液状であると認められるから、本件発明1における「(A)25℃で液状の植物油」に相当する。
そして、甲8発明における「ヒマワリ種子油」及び「メドウフォーム油」は、それぞれ、本件発明1における「ヒマワリ油」及び「メドウフォーム油」に相当する。
甲8発明における「水添ポリイソブテン」について、引例Aには、以下の事項が記載されている。
「【0046】
25℃で液体状の油剤の具体例として、エステル油、シリコーン油、炭化水素油、炭素数12~22の高級脂肪酸、炭素数12~22の高級アルコールが挙げられる。
・・・
【0049】
・・・、炭化水素油としては、流動パラフィン、水添ポリイソブテン等の流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、流動オゾケライト、スクワラン、スクワレン、イソヘキサデカンが挙げられ、・・・。」
そうすると、甲8発明における「水添ポリイソブテン」は、「流動イソパラフィン」であるから、本件発明1における「(B)25℃で液状の炭化水素」に相当し、また、「重量%」による値と「質量%」による値は実質的に同じであるから、「水添ポリイソブテン」の配合量は「1.0質量%」であるといえ、本件発明1における「(B)25℃で液状の炭化水素の配合量」の「30質量%未満」の条件を満たしている。
甲8発明における「イソステアリルアルコール」及び「2-オクチルドデカノール」について、引例Aには、以下の事項が記載されている。
「【0046】
25℃で液体状の油剤の具体例として、エステル油、シリコーン油、炭化水素油、炭素数12~22の高級脂肪酸、炭素数12~22の高級アルコールが挙げられる。
・・・
【0051】
・・・、炭素数12~22の高級アルコールとしては、たとえば、オレイルアルコール、2-デシルテトラデシノール、ドデカノール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノールが挙げられる。」
そうすると、甲8発明における「イソステアリルアルコール」及び「2-オクチルドデカノール」は、25℃で液体状であり、炭素数がそれぞれ18及び20の高級アルコールであって、いずれも分岐構造を有することから、いずれも本件発明1における「(C)25℃で液状の高級アルコール」としての「炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコール」に相当する。
甲8発明の「毛髪用オイル」は、オイルであるから、25℃で液状であると認められ、また、水を含有しない組成であるから、本件発明1における「液状の非水系毛髪用組成物」に相当する。
甲8発明の「毛髪用オイル」は、
「(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料」
に該当するものでなく、かつ、
「(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」
に該当するものでもないため、本件発明1における
「ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料、および
(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料
を除く」
という条件を満たす。
そうすると、本件発明1と甲8発明とは、
「(A)25℃で液状の植物油、(B)25℃で液状の炭化水素、および(C)25℃で液状の高級アルコールが配合されており、
(A)25℃で液状の植物油として、少なくとも、アボガド油、オリーブ油、ゴマ油、コメヌカ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、マカデミアナッツ油、およびメドウフォーム油から選ばれる1種または2種以上が配合され、
(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコールが配合されたものであり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満である、
液状の非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料、および
(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料を除く)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点甲8-1>
本件発明1は、非水系毛髪用組成物が「25℃で透明である」ことを特定しているのに対して、甲8発明は、毛髪用オイルが25℃で透明であるか否か不明である点。
<相違点甲8-2>
本件発明1は、「(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたもの」であるのに対して、甲8発明は、「(D)炭素数が2~4の低級アルコール」であるエタノールの配合量が10重量%である点。
イ 判断
(ア)新規性について
相違点甲8-1及び相違点甲8-2は、毛髪用組成物における具体的な組成の違いに関する事項であるから、いずれも実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、甲8に記載された発明であるとはいえない。
(イ)進歩性について
事案に鑑み、まず相違点甲8-2について検討する。
甲8には、甲8に記載の毛髪のうねり改善剤や絡まり改善剤に配合し得る成分(溶剤・噴射剤類)として、エタノール等の「低級アルコール類」の例示はあるものの(摘記8b【0018】)、その配合量については、特に記載も示唆もされていない。
甲8発明は、具体的な処方に基づいて認定したものであるところ、甲8の記載全体を参照しても、甲8発明において、多くの成分の中から敢えて「エタノール」に着目し、これを配合しないものとしたり、その配合量を10重量%の半分以下である5質量%以下に変更することについて、積極的な動機付けがあるとはいえない。
さらに、本件明細書においては、(D)成分である「炭素数が2~4の低級アルコール」について、配合しないか、配合する場合に5質量%以下とすることにより、「毛髪を保湿感のある手触りとする機能を良好に維持する」ことが、具体的な試験結果を伴って記載されているところ(【0026】及び【0068】【表3】を参照)、そのようなエタノール等の低級アルコールの配合量に関する技術的意義については、甲8の記載全体をみても、当業者が認識し得るものとはいえないし、そのような技術常識が本件特許の出願前に存在したとも認められない。
したがって、相違点甲8-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明5と甲8発明との対比・判断
ア 対比
甲8発明における「ヒマワリ種子油」、「ブロッコリー種子油」、「アルガニアスピノサ核油」、「メドウフォーム油」、「オレンジラフィー油」及び「トウツバキ種子油」は、いずれも植物の油であり、25℃で液状であると認められるから、本件発明5における「(A)25℃で液状の植物油」に相当する。
そして、甲8発明における「ヒマワリ種子油」及び「メドウフォーム油」は、それぞれ、本件発明5における「ヒマワリ油」及び「メドウフォーム油」に相当する。
甲8発明における「水添ポリイソブテン」は、上記(1)アで説示したのと同様の理由により、本件発明5における「(B)25℃で液状の炭化水素」に相当し、また、「水添ポリイソブテン」の配合量は「1.0質量%」であるといえ、本件発明5における「(B)25℃で液状の炭化水素の配合量」の「30質量%未満」の条件を満たしている。
甲8発明における「イソステアリルアルコール」及び「2-オクチルドデカノール」は、上記(1)アで説示検討したのと同様の理由により、いずれも本件発明5における「(C)25℃で液状の高級アルコール」としての「炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコール」に相当する。
甲8発明の「毛髪用オイル」は、シリコーン油が配合されていないから、本件発明5における「(E)シリコーン油が配合されていないか、または(E)シリコーン油が5質量%以下の量で配合されている」という条件を満たす。
甲8発明の「毛髪用オイル」は、オイルであるから、25℃で液状であると認められ、また、水を含有しない組成であるから、本件発明5における「液状の非水系毛髪用組成物」に相当する。
甲8発明の「毛髪用オイル」は、
「(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料」
に該当するものでなく、かつ、
「(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料」
に該当するものでもないため、本件発明5における
「ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料、および
(i)常温で液状の植物油、(ii)炭化水素、(iii)シリコーン油、および(iv)ノニオン界面活性剤を含有する毛髪化粧料であって、(i)成分の含有量が毛髪化粧料中30~90質量%、[(i)+(iii)]/(iv)で表される質量比が20~200である毛髪化粧料
を除く」
という条件を満たす。
そうすると、本件発明5と甲8発明とは、
「(A)25℃で液状の植物油、(B)25℃で液状の炭化水素、および(C)25℃で液状の高級アルコールが配合されており、
(A)25℃で液状の植物油として、少なくとも、アボガド油、オリーブ油、ゴマ油、コメヌカ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、マカデミアナッツ油、およびメドウフォーム油から選ばれる1種または2種以上が配合され、
(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコールが配合されたものであり、
(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満であり、
(E)シリコーン油が配合されていないか、または(E)シリコーン油が5質量%以下の量で配合されていることを特徴とする液状の非水系毛髪用組成物(ただし、
(a)常温において液状で、20℃で3~100mPa・sの粘度を有するエステル油のうち少なくとも1種
(b)常温において液状の植物油のうち少なくとも1種
を含有し、成分(a):成分(b)の配合比率(質量比)が10:0.1~1:3で、シリコーン化合物を含まないことを特徴とする洗い流さないタイプの毛髪化粧料を除く)」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点甲8-3>
本件発明5は、「(D)炭素数が2~4の低級アルコールが配合されていないか、または(D)炭素数が2~4の低級アルコールが5質量%以下の量で配合されたもの」であるのに対して、甲8発明は、「(D)炭素数が2~4の低級アルコール」であるエタノールの含有量が10質量%である点。
イ 判断
上記相違点甲8-3は、上記(1)アで認定した相違点甲8-2と実質的に同じことであるから、上記(1)イで述べたのと同様の理由により、本件発明5は、甲8に記載された発明であるとはいえないし、甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明6、7、9、10について
ア 本件発明6、7、9、10のうち、本件発明1又は5の特定事項を全て備えた部分について
本件発明6、7、9、10と、本件発明1又は5との対応関係については、上記2(2)アで確認したとおりである。
そうすると、本件発明6、7、9、10のうち、本件発明1又は5の発明特定事項を全て備え、さらに限定した部分については、上記(1)及び(2)で検討したのと同様の理由により、甲8に記載された発明であるとはいえないし、甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 本件発明6、7、9、10のうち、本件発明1又は5の特定事項を全て備えた部分以外の部分について
本件発明6、7、9、10には、請求項6、7、9、10において、請求項2~4又は8のいずれかを1項の記載を直接的に又は間接的に引用する部分も含まれているが、請求項2~4、8に係る特許は、本件特許異議申立事件の審理対象外であるうえ、本件発明6、7、9、10のうち、これらの部分についても、甲8に記載された発明であるとはいえないし、甲8に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 取消理由についてのまとめ
以上のとおり、当審合議体が通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る特許は取り消すことはできない。
II 取消理由として採用しなかった申立理由について
上記第4に示したとおり、申立理由のうち、申立理由1-3(甲8に基づく新規性欠如)は、取消理由1と同旨であり、申立理由2-1(甲5を主引例とする進歩性欠如)のうち、請求項1並びに請求項1の記載を引用する請求項6~7、9、10を対象とする部分は、取消理由2-1と同旨であり、申立理由2-3(甲8を主引例とするに進歩性欠如)は、取消理由2-2と同旨である。
以下、これらの理由以外の申立理由について検討する。
1 申立理由1-1(甲5に基づく新規性欠如)及び申立理由2-1(甲5を主引例とする進歩性欠如)について
上記Iの2で詳述したように、本件発明1、6、7、9、10は、甲5に記載された発明及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1、6、7、9、10は、甲5に記載された発明であるとはいえないし、甲6~甲8に記載された周知技術を考慮したとしても、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
申立人は、申立書32~36頁において、本件訂正前の請求項1、5~7、9、10に係る発明が、甲5に記載された発明であり、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨を、縷々主張しているが、申立人は、甲5から如何なる発明を認定したのか具体的に示しておらず、甲5における請求項の記載や一般的な説明及び組成が異なる複数の実施例等の記載から、本件訂正前の請求項1、5~7、9、10に係る発明との対比に必要な部分のみを摘出して、本件発明の構成ごとに対比・検討を行っており、そのような認定・判断の手法は、採用することができない。
また、本件発明5については、上記Iの1(2)アで認定した甲5発明A、甲5発明B又は甲5発明Cと対比すると、上記Iの2(1)ア(ア)で認定した相違点甲5A-1(「(C)25℃で液状の高級アルコールとして、炭素数が12~22の、分岐構造または不飽和結合を有するアルコール」が配合されたものでない点)と同じ相違点に加えて、本件発明5の特定事項である「(E)シリコーン油が配合されていないか、または(E)シリコーン油が5質量%以下の量で配合されている」という条件を満たさない点でも相違しているから、甲5に記載された発明であるとはいえない。
また、甲5発明A~甲5発明Cは、具体的な処方に基づいて認定したものであるところ、甲6~甲8に記載された周知技術を考慮し、甲5の記載全体を参照しても、甲5発明A~甲5発明Cにおいて、多くの成分の中から敢えて「シリコーン油」に相当する成分に着目し、これを配合しないものとしたり、その配合量を5質量%以下に変更することについて、積極的な動機付けがあるとはいえず、本件明細書においては、(E)成分である「シリコーン油」について、配合しないか、配合する場合に5質量%以下とすることにより、「毛髪を保湿感のある手触りとする機能を良好に維持する」ことが、具体的な試験結果を伴って記載されているから(【0028】及び【0068】【表3】を参照)、本件発明5は、甲5に記載された発明並びに甲6~甲8に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 申立理由1-2(甲7に基づく新規性欠如)及び申立理由2-2(甲7を主引例とする進歩性欠如)について
申立人は、申立書36~37頁において、甲7に記載された処方例1又は2を主な根拠として、本件訂正前の請求項1、5~7、9、10に係る発明が、甲7に記載された発明であり、甲7に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができた旨を、縷々主張している。
しかし、甲7に記載された処方例1の液状オイル組成物は、「流動パラフィン」が「40.0質量%」配合されており、同処方例2の液状オイル組成物は、「イソドデカン」が「20質量%」配合され、「スクワラン」が「15.5質量%」配合されているから、いずれの処方例も、本件発明1、5~7、9、10において共通する特定事項である「(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満」であるという条件を満たしておらず、本件発明1、5~7、9、10は、甲7に記載された発明であるとはいえない。
そして、甲7に記載された処方例1及び2の液状オイル組成物は、具体的な処方であるところ、甲5及び甲6に記載された事項を考慮し、甲7の記載全体を参照しても、甲7に記載された処方例1及び2の液状オイル組成物において、多くの成分の中から敢えて「25℃で液状の炭化水素」に相当する成分に着目し、その配合量を30質量%以下に変更することについて、積極的な動機付けがあるとはいえないし、本件明細書においては、(B)成分である「25℃で液状の炭化水素」の配合量を30質量%以下とすることにより、「(A)成分の配合量を多くして、その効果をより良好に確保する」ことが、具体的な試験結果を伴って記載されているから(【0020】、【0050】【表1】、【0058】【表2】、【0068】【表3】及び【0078】【表4】を参照)、本件発明1、5~7、9、10は、甲7に記載された発明並びに甲5及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 申立理由3(サポート要件違反)について
ア 本件発明が解決しようとする課題について
本件明細書の記載、特に【0004】~【0005】の記載からみて、本件発明が解決しようとする課題は、
「常温で透明性が高く、かつ低温環境下における常温からの外観の変化が小さい非水系毛髪用組成物と、かかる非水系毛髪用組成物を用いた毛髪処理方法とを提供すること」
であると認められる。
イ サポート要件の判断
(ア)従来の植物油を配合する毛髪用組成物の問題点及び課題の解決手段について
本件明細書の【0002】~【0008】及び【0010】には、従来、植物油を配合する毛髪用組成物においては、その配合量を高めて、毛髪につやを付与したり毛髪のまとまりを良好にしたりする作用をより効果的に発揮させることが望まれるが、植物油の配合量が高い毛髪用組成物では、常温での透明性が損なわれたり、常温で透明性が高いものであっても、例えば0℃以下の低温環境下で白濁して外観が損なわれたりするなどの問題が生じやすい、という課題があったところ、(A)25℃で液状の植物油、及び、(B)25℃で液状の炭化水素を配合し、(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満とすることにより、常温で透明性が高く、かつ低温環境下における常温からの外観の変化が小さい非水系毛髪用組成物、及び、かかる非水系毛髪用組成物を用いた毛髪処理方法を提供することができることが記載されており、(B)成分の作用によって、常温(25℃)での透明性を高め、かつ例えば0℃以下の低温環境下における常温からの外観の変化を小さくしつつ、(A)成分を高配合量とすることを可能にして、(A)成分による作用をより有効に引き出し得ることが記載されている。
(イ)各成分の具体例及び配合量とその技術的な意義について
そして、本件明細書の【0012】~【0030】には、(A)成分の25℃で液状の植物油、及び、(B)成分の25℃で液状の炭化水素について、それぞれ具体例が示され、両成分の好適な配合量の範囲とその技術的な意義((A)成分による毛髪につやを付与し毛髪のまとまりを良好にする効果をより高めること)が説明されており、更に配合されることが好ましい成分である、(C)成分の25℃で液状の高級アルコールについても、具体例が示され、好適な配合量の範囲とその技術的な意義(毛先の厚み感をより高めること)が説明されており、加えて、配合しないか、配合する場合には特定の配合量以下とすべき成分として、(D)成分の低級アルコール、(E)成分のシリコーン油、及び、(F)成分のノニオン界面活性剤についても、それぞれ具体例が示され、それらの配合量の上限値の技術的な意義(毛髪を保湿感のある手触りとする機能を良好に維持すること、及び、毛髪のベタツキを抑え、非水系毛髪用組成物の常温での透明性をより高めること)が説明されている。
(ウ)実施例による課題の解決の裏付けについて
さらに、本件明細書の【0043】~【0080】には、実施例として、非水系毛髪用組成物の複数の組成及びそれらの調製方法が具体的に記載されており、得られた非水系毛髪用組成物について、低温貯蔵試験及び毛先の厚み感の評価の結果が記載されているところ、(B)成分が配合されていない((A)成分(コメヌカ油)のみの)比較例1の非水系毛髪用組成物と比べて、(C)成分は配合されていないが、(A)成分(コメヌカ油)75質量%と(B)成分(スクワラン)25%を配合した実施例2の非水系毛髪用組成物は、低温安定性が極めて優れていることが示されており、本件発明1、5~7、9、10の特定事項を全て備えた実施例7~10の四つの実施例の非水系毛髪用組成物は、(A)成分(コメヌカ油)74質量%又は70質量%、(B)成分(スクワラン)25質量%、(C)成分(イソステアリルアルコール1質量%若しくは5質量%、オクチルドデカノール1質量%、又は、オレイルアルコール1質量%)が配合されており、(C)成分が配合されていない実施例2の非水系毛髪用組成物と比べて、低温安定性は同等であるが、毛先の厚み感はより優れていたことが示されている。
(エ)課題の解決の認識と本件訂正後の請求項の記載との関係について
これらの実施例を含めた本件明細書の発明の詳細な説明の記載全体を考慮すれば、本件訂正後の請求項1、5~7、9、10に記載された特定事項を全て備えた非水系毛髪用組成物又は毛髪処理方法とすることにより、上記アで認定した本件発明の課題を解決できることを、当業者は理解できるといえる。
(オ)審査段階の意見書で提示された追加実施例による効果の補足的確認について
なお、本件明細書に記載された実施例においては、(A)成分はコメヌカ油のみが、(B)成分はスクワランのみが配合されているが、これら以外の(A)成分の25℃で液状の植物油や(B)成分の25℃で液状の炭化水素を配合した場合には、同様の効果が得られないと推定されるような特段の事情は見当たらない。
実際に、本件特許の審査段階で、令和4年4月25日提出の意見書において、(B)成分(スクワラン)25質量%に、(A)成分として、アボガド油75質量%、オリーブ油75質量%、ゴマ油75質量%、ヒマワリ油75質量%、ブドウ種子油75質量%、綿実油75質量%、マカデミアナッツ油75質量%、又は、メドウフォーム油75質量%を配合した、実施例A1~A8の非水系毛髪用組成物は、(B)成分を含まない場合(比較例A1~A8)と比べて、低温安定性が優れているか非常に優れていることが示され、(A)成分(コメヌカ油)75質量%に、(B)成分として、流動パラフィン25質量%、流動イソパラフィン25質量%、軽質流動イソパラフィン25質量%、イソドデカン25質量%、又は、(C13-15)アルカン25質量%を配合した、実施例B1~B5の非水系毛髪用組成物は、(B)成分を含まない場合(比較例1)と比べて、低温安定性が非常に優れているか極めて優れていることが示されており、コメヌカ油以外の(A)成分を配合し、又は、スクワラン以外の(B)成分を配合した場合にも、本件明細書に記載された実施例と同様の効果が奏されることが、補足的に確認されている。
(カ)小括
したがって、本件発明1、5~7、9、10は、本件明細書の発明の詳細な説明において、その課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものであるから、本件特許の請求項1、5~7、9、10の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立書13~20頁の記載からみて、申立人は申立理由3(サポート要件違反)について、概略、次の主張をしているものと認められる。
a 実施例がほとんどないことについて
本件明細書において、請求項1、5~7、9、10に属する実施例は、実施例7、8、9、10の四つしかなく、(A)25℃で液状の植物油として、コメヌカ油を70又は74質量%、(B)25℃で液状の炭化水素として、スクワランを25質量%、(C)25℃で液状の高級アルコールとして、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコールを1又は5質量%含有した組成物しか存在しないところ、(A)成分が「アボガド油、オリーブ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、マカデミアナッツ油、メドウフォーム油」である場合について一切実施例がなく、(B)25℃で液状の炭化水素については、無数の炭化水素が知られており、請求項7に「流動パラフィン、流動イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、スクワラン、イソドデカン、(C13-15)アルカン」が挙げられているが、これらは融点25℃以下の炭化水素のごく一部にすぎないから、請求項1、5~7、9、10の全ての範囲について、(B)25℃で液状の炭化水素及び(C)25℃で液状の高級アルコールの添加によって、(A)25℃で液状の特定の植物油の低温安定性が改善し、かつ、毛先の厚み感が改善することは、70~75質量%のコメヌカ油と25質量%のスクワランとの配合物の上記の実施例から、当業者が予測することが容易であるとする根拠がない。
b 非水系毛髪組成物の主成分である(A)植物油の融点/凝固点と(B)炭化水素の融点/凝固点との関係について
請求項1、5に記載されているような植物油は常温で透明であるが、これを含む非水系組成物が-2℃で放置したときに白濁を生ずるのは、植物油の一部成分が凝固ないし変質するからであり、植物油の全体としての融点/凝固点の影響が大きく、スクワランを25質量%添加すると、-2℃でのコメヌカ油の白濁が改善するのは、スクワランの融点/凝固点が-38℃と非常に低いため、-2℃でも一種の油性溶媒として機能するからである。
一方、請求項1、5に包含される(A)25℃で液状の植物油の融点/凝固点は、サフラワー油が-5℃であり、ブドウ種油が-10~-24℃であり、ゴマ油が-3~-6℃であり、綿実油が4~-6℃であり、オリーブ油が0~6℃である。
これに対し、(B)成分がテトラデカンである場合、融点/凝固点は6℃であり、植物油の融点/凝固点よりもはるかに高い。また、(B)成分がペンタデカンである場合、融点/凝固点は10℃であり、更に高温であり、これらは、物質単体としては、-2℃で凝固するものである。
こうした融点/凝固点が植物油の融点/疑固点よりもはるかに高く、かつ低温安定性の測定温度である-2℃よりもはるかに高い(B)25℃で液状の炭化水素を添加することで、-2℃に保持したときの前記植物油の白濁を防止し、低温安定性が改善するわけがない。
加えて、「(B)25℃で液状の炭化水素」は、融点/凝固点が例えば24℃以下の炭化水素をすべて包含するが、融点/凝固点が24℃である炭化水素を添加することで、-2℃に保持したときの前記植物油の白濁を改善し、低温安定性が改善するわけがない。例えば、ヘキサデカンの融点は18℃であり、ヘプタデカンの融点は22℃であるが、これらの高融点の炭化水素を添加することで、-2℃に保持したときの前記植物油の白濁を改善し、低温安定性が改善しないことは明らかである。
したがって、請求項1、5~7、9、10の全体にわたって、本件発明の作用効果を奏するものであるとする根拠がない。
c 非水系毛髪組成物の各成分の配合量の規定がないことについて
請求項1、5には、(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%末満であると記載され、(A)25℃で液状の特定の植物油の配合量の記載はなく、(C)25℃で液状の高級アルコールの配合最の規定もないのに対し、本件明細書に記載されている実施例は、(A)植物油としてコメヌカ油を70又は74質量%、(B)25℃で液状の炭化水素としてスクワランを25質量%、(C)25℃で液状の高級アルコールとしてイソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコールを1又は5質量%含有した実施例しかない。
このような僅かな実施例に基づいて、(B)25℃で液状の炭化水素の配合量が30質量%未満である場合の全体にわたって、かつ(A)25℃で液状の特定の植物油の配合量及び(C)25℃で液状の高級アルコールの配合量が無限定な場合のすべてにわたって、植物油の低温安定性が改善され、毛並み厚さが改善するという作用効果を奏するとする根拠がない。
さらに、本件発明の課題については、(A)25℃で液状の特定の植物油の配合量が高い毛髪用組成物では、常温での透明性が損なわれたり、常温で透明性が高いものであっても、例えば0℃以下の低温環境下で白濁して外観が損なわれたりするなどの問題が生じるところ、この問題を解決するとされているが、(A)成分の配合量の下限は特定されておらず、(A)成分の配合量が少ない場合にこうした作用が生ずることは、本件明細書の記載に反している。
また、(B)25℃で液状の炭化水素の量が少ない場合も、低温安定性改善の作用効果がないことは明らかである。
加えて、(C)25℃で液状の高級アルコールの配合量が僅かである場合にも、毛先の厚みが改善されるわけがない。
d 審査時の意見書における実施例の提出について
令和4年4月25日提出の意見書において多数の実施例が提出されているが、植物油の性質は千差万別であり、追加された8種類の植物油の組成や性状はコメヌカ油の性状や組成とは全く異なり、各植物油の0℃での白濁挙動も本件明細書のコメヌカ油の実施例からは分からない状況で、各炭化水素を添加したときの影響も本件明細書の実施例からは分からない。
本件では、一種類の特定の組合せしかない明細書の実施例に対して、植物油を8種類に変更した各組成物、及び、炭化水素を5種類に変更した各組成物についての実施例を意見書で追加し、サポート要件の欠如を克服するように参酌を求めているが、合計13種類もの新規の成分についての各結果が、出願当初の明細書の記載から予測できるとする根拠はない。
意見書で提示された実施例B1~B5では、(A)成分としてコメヌカ油を用いているが、他の植物油の実験結果はなく、実施例A1~A8では、(A)成分として8種類の別個の植物油を用いているが、(B)成分はスクワランのみであるから、多数の(A)成分と(B)成分との組合せの作用効果についての合理的な疑いを払拭するものではない。
さらに、実施例A1~A8及び実施例B1~B5の組成物は、いずれも(C)25℃で液状の高級アルコールを含有しておらず、その添加による毛先厚みの改善という作用効果も示されていないところ、これらの実施例は、本件特許の請求項1、5~7、9、10の実施例ではなく、これらの請求項の範囲外の比較例に過ぎないから、この点でも、意見書で提出された実施例は、本件明細書に記載の実施例を補足できるものではない。
(イ)申立人の主張の検討
上記(ア)a~dの申立人の主張は、要するに、本件明細書には、(A)成分がコメヌカ油で、(B)成分がスクワランという、特定の一つの組合せの実施例しか記載されておらず、例えば、(A)成分の融点/凝固点よりも、(B)成分の融点/凝固点のほうが高い場合には、(A)成分の植物油の白濁を改善し、低温安定性を改善するとはいえないから、請求項1、5~7、9及び10の全体にわたって、当該実施例と同様の効果が得られるとはいえないし、請求項1、5~7、9、10では、(A)成分~(C)成分の配合量が規定されていないところ、各成分の配合量が少ない場合や僅かである場合には、低温安定性の改善や毛先の厚みの改善の効果は得られず、意見書において提出された追加の実施例は、本件明細書に記載の実施例を補足できるものではない、というものである。
しかし、上記イで述べたとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例の記載に加えて、本件発明の課題と関連した説明が記載されており、各成分の具体例及び配合量とその技術的な意義が記載されているから、それらの記載全体を考慮すれば、本件訂正後の請求項1、5~7、9、10に記載された特定事項を全て備えた非水系毛髪用組成物又は毛髪処理方法とすることにより、上記アで認定した本件発明の課題を解決できることを、当業者は理解できるといえる。
申立人が主張する、(A)成分の融点/凝固点と(B)成分の融点/凝固点との関係は、申立人の独自の見解に基づくものにすぎず、コメヌカ油以外の(A)成分の25℃で液状の植物油や、スクワラン以外の(B)成分の25℃で液状の炭化水素を配合した場合には、本件明細書に記載の実施例と同様の効果が得られないと推定されるような特段の事情は見当たらないし、実際に、意見書で提出された実施例A1~A8及びB1~B5では、融点/凝固点が異なる(A)成分及び(B)成分を用いた場合にも、本件明細書に記載の実施例と同様の低温安定性の改善の効果が、補足的に確認されている。また、これらの追加の実施例では、(C)成分が配合されていないが、本件明細書に記載の実施例7~10と実施例2を比較すると、(C)成分の有無によって低温安定性の効果は変わらないから、請求項1、5~7、9及び10の範囲外であっても、これらの追加の実施例の結果を評価できないことにはならない。そして、請求項1、5~7、9、10において、(A)成分~(C)成分の配合量が規定されていなくても、上記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、各成分の配合量とその技術的な意義も記載されているから、当業者は、それらの記載及び実施例の記載を参考にして、各成分の適切な配合量を把握できるといえる。
したがって、申立人の上記(ア)の主張は、いずれも採用できない。
エ 申立理由3(サポート要件違反)についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、申立理由3(サポート要件違反)には、理由がない。
4 取消理由として採用しなかった申立理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由として採用しなかった申立理由によっては、本件特許の請求項1、5~7、9、10に係る特許は取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、5~10〕について訂正することを認める。
そして、取消理由通知に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人の特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、5~7、9、10に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1、5~7、9、10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700930