特許異議申立
2023-700922
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物及び積層フィルム
- 審判番号
- 2023-700922
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-560932
- 登録番号
- 7234938
- 請求日
- 2023年09月06日
- 審決日
- 2024年12月20日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】DIC株式会社
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】阿部 茂輝
- 【権利者代理人】宮本 龍
- 【権利者代理人】成田 友紀
- 【異議申立人】目黒 茂
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 小出 直也
- 審判官 岡谷 祐哉
- 分類
- P1651.121-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7234938号発明「ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、硬化性樹脂組成物、硬化物及び積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7234938号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7234938号の請求項1、3~6に係る特許を維持する。
特許第7234938号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7234938号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成30年12月4日を国際出願日とする特許出願(優先権主張 平成29年12月19日)であって、令和5年2月28日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月6日に特許異議申立人 目黒 茂(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~6に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和5年11月22日付け: 取消理由通知
令和6年 1月26日 : 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 2月 7日付け: 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
同年 3月 7日 : 意見書の提出(申立人)
同年 5月 2日付け: 取消理由通知(決定の予告)
同年 7月 8日 : 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 8月27日 : 訂正請求書を補正する手続補正書(方式)
の提出(特許権者)
同年 9月11日 : 訂正請求があった旨の通知(申立人宛)
同年10月11日 : 意見書の提出(申立人)
なお、令和6年1月26日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年8月27日の手続補正によって補正された、令和6年7月8日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「イソシアネート化合物(A)と、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)とを必須の反応原料とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂であって、
前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価が、120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲であり、
前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)が、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)と、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(b2)とを含有するものであり、
前記ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)の含有量が、前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)中に10~50質量%の範囲であり、
前記イソシアネート化合物(A)が、脂肪族イソシアネート化合物であることを特徴とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂。」から
「イソシアネート化合物(A)と、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)とを必須の反応原料とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂であって、
JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価が、120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲であり、
前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)が、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)と、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(b2)とを含有するものであり、
前記ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)の含有量が、前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)中に10~50質量%の範囲であり、
前記イソシアネート化合物(A)が、脂肪族イソシアネート化合物であり、
前記イソシアネート化合物(A)が、ペンタメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートのうちのいずれかであり、
更に、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有することを特徴とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂。」
に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を、
「請求項1~3のいずれか1項記載のウレタン(メタ)アクリレート樹脂と、光重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。」から
「請求項1又は3記載のウレタン(メタ)アクリレート樹脂と、光重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。」
に訂正する。(請求項4の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)
なお、訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 水酸基価の限定について
訂正事項1による訂正のうち、訂正前の請求項1の「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価」を、「JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される」ものに限定する訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0027】の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、訂正前の水酸基価の測定方法を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ イソシアネート化合物の限定について
訂正事項1による訂正のうち、イソシアネート化合物(A)を「ペンタメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートのうちのいずれか」に限定する訂正は、イソシアネート化合物を本件明細書の【0117】、【0118】に記載された、実施例で使用された化合物に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有する点について
訂正事項1による訂正のうち、「更に、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有する」ことを特定する訂正は、本件明細書の【0028】の「前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の製造方法は、例えば、ジペンタエリスリトールとアクリル酸とをエステル化反応させる方法が挙げられる。この方法で製造する場合、副生成物として、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物等の高分子量成分(b’)等が生成することがあるが、・・・前記高分子量成分(b’)を含むジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)粗生成物のまま前記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料としても良い。」の記載に基づいて、訂正前の「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)」を、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4において、請求項1~3のいずれかを引用していたものを、請求項2を引用する部分を削除し、請求項1又は3を引用するものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明6」のようにいい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
イソシアネート化合物(A)と、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)とを必須の反応原料とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂であって、
JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価が、120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲であり、
前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)が、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)と、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(b2)とを含有するものであり、
前記ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)の含有量が、前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)中に10~50質量%の範囲であり、
前記イソシアネート化合物(A)が、脂肪族イソシアネート化合物であり、
前記イソシアネート化合物(A)が、ペンタメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートのうちのいずれかであり、
更に、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有することを特徴とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)中の前記ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)と、前記ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(b2)の含有量の比[(b1)/(b2)]が20/80~80/20の範囲である請求項1記載のウレタン(メタ)アクリレート樹脂。
【請求項4】
請求項1又は3記載のウレタン(メタ)アクリレート樹脂と、光重合開始剤とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4記載の硬化性樹脂組成物の硬化反応物であることを特徴とする硬化物。
【請求項6】
基材表面に請求項5記載の硬化物からなる層を有することを特徴とする積層フィルム。」
第4 特許異議申立理由の概要、証拠方法、取消理由通知(決定の予告)の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人が、特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)に記載した申立理由の概要は、次のとおりである。
申立理由1(甲第1号証による進歩性欠如)
本件特許の訂正前の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の訂正前の請求項1~6に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由2(サポート要件違反)
本件特許の訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおりである。
(1)本件明細書の製造例1及び2において、生成したジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価が、それぞれ125mgKOH/g(実測値)、130mgKOH/g(実測値)とされているが、これらはジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートに加えて、高分子量成分を含む混合物の水酸基価であって、高分子量成分はジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートではないから、この値は「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価」ではない。
製造例1,2に含まれるジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートは、「ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(b1)」、「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(b2)」、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(b3)」のみであり、これらの含有割合から水酸基価を計算すると120mgKOH/gを下回るから、このような具体例に基づいて、120mgKOH/gを超え130mgKOH/g以下のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートを規定する本件発明1~6の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない(申立書69~75頁)。
(2)仮に製造例1、2にジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価として、125、130(mgKOH/g)が記載されていると解したとしても、具体例は2例しか存在せず、特に下限(120mgKOH/g)付近の水酸基価を有する(B)を用いた具体例は記載されておらず、化学の分野では発明の構成から発明の効果を予測することが困難であることを考慮すると、出願時の技術常識を考慮しても、本件発明1~6の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない(申立書75頁の項目(二))。
(3)製造例1、2において、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)中のジペンエリスリトールテトラアクリレート(b1)の含有量を計算すると、27.1質量%および29.2質量%となるが、請求項1では、その含有量の範囲が「10~50質量%の範囲」とされており、請求項1で特定される範囲の真ん中当たりの2つの具体例が示されているにすぎない。
化学の分野では発明の構成から発明の効果を予測することが困難であることを考慮すると、出願時の技術常識を考慮しても、本件発明1~6の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
(b1)の含有割合が製造例1、2に記載された値(23質量%及び26質量%)であると解したとしても同様である。(申立書76頁の項目(三))
(4)水酸基価が125又は130(mgKOH/g)である(B)を用いた実施例5、6の積層フィルムは、水酸基価が140である(B)を用いた実施例7の積層フィルムと比べて「耐擦傷性」がわずかに優れているものの、「柔軟性」、「耐カール性」及び「耐衝撃性」は劣っており、「耐擦傷性、柔軟性、耐カール性、及び耐衝撃性に優れた硬化塗膜を形成可能なウレタン(メタ)アクリレート樹脂・・・を提供すること」(本件明細書【0006】)という、4つの特性について総合的に優れたものであるということはできず、本件発明1~6は発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていない(申立書76~77頁の項目(四))。
申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の訂正前の請求項1~6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおりである。
(1)申立理由2の(1)と同様の理由により、製造例1、2で製造された(B)の実際の水酸基価は120mgKOH/gを下回るから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~6を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものではない(申立書77頁の項目(一))。
(2)実施例3及び7において、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B3)が用いられているが、【0110】によれば(B3)の水酸基価は140mgKOH/gであり、「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下」の範囲外である。従って、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~6を実施可能な程度に明確かつ十分に記載されたものではない(申立書77頁の項目(二))。
申立理由4(明確性要件違反)
本件特許の訂正前の請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的な理由の概要は以下のとおりである。
(1)請求項2には、「前記イソシアネート化合物(A)が、ペンタメチレンジアクリレート及びヘキサメチレンジアクリレートのうちのいずれか」と記載されているが、ペンタメチレンジアクリレート及びヘキサメチレンジアクリレートはイソシアネート化合物ではないから、本件発明2及びそれを引用する本件発明3~6は明確でない(申立書78頁の項目(一))。
(2)申立理由2の(1)、申立理由3の(1)で述べたように、発明の詳細な説明の【0108】及び【0109】に記載のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B1)及び(B2)の水酸基価(実測値)は、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価を示していないから、本件発明1に記載の(B)の水酸基価は、どのような物質の水酸基価を表しているのか不明確である。
2 取消理由通知(決定の予告)の概要
当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(甲第1号証による進歩性欠如)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
(1)申立人が申立書に添付した証拠方法
甲第1号証:特開昭59-89331号公報
甲第2号証:特開2008-248069号公報
甲第3号証:特開2016-104859号公報
甲第4号証:国際公開第2010/146801号
甲第5号証:大木道則ら編、化学大事典、株式会社東京化学同人発行、2005年7月1日、第1版第7刷、1984~1985頁
(以下、甲第1~第5号証を、「甲1」~「甲5」のようにいう。)
(2)当審が職権調査により発見した証拠方法
参考文献1:日本工業規格 JIS K0070-1992、1992年、インターネット <URL:https://kikakurui.com/k0/K0070-1992-01.html>
第5 当審の判断
当審は、以下で述べるように、取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由及び申立書に記載された申立理由によっては、本件発明1、3~6に係る特許を取り消すことはできないと判断する。また、本件発明2に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項2が訂正により削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
1 取消理由1(甲1による進歩性欠如)、申立理由1(甲1による進歩性欠如)について
取消理由1及び申立理由1は、いずれも甲1を主引用文献とする進歩性欠如に関するものであるから、併せて検討する。
(1)甲1に記載された発明
甲1には、
「(a)1分子中に2個以上のアクリロイルオキシル基またはメタクリロイルオキシル基を有するウレタン系ポリ(メタ)アクリレート化合物、
(b)該ウレタン系ポリ(メタ)アクリレート化合物(a)100重量部に対して0を越えて1000重量部の範囲にある、炭素原子数が2ないし12の範囲のアルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート、および
(c)該ウレタン系ポリ(メタ)アクリレート化合物(a)および該アルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート(b)の合計100重量部に対して0.01ないし20重量部の範囲の重合開始剤、
を含有することを特徴とする樹脂被覆用組成物。」
が記載されており(特許請求の範囲第1項)、その(a)ウレタン系ポリ(メタ)アクリレート化合物の製造例として、10頁左下欄の参考例2には、
「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート50g(0.095モル)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート30g(0.064モル)およびジペンタエリスリトールへキサアクリレート20gの混合物およびメチルイソブチルケトン120gを500ml4ツ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート17.6g(0.08モル)を添加し、室温下15hr攪拌し、ジペンタエリスリトールポリアクリレート成分単位と3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート成分単位からなるウレタン系ポリアクリレート(DPAIP)のメチルイソブチルケトン溶液を合成した。」
と記載されている。
そうすると、参考例2で製造されたウレタン系ポリ(メタ)アクリレートに着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート50g(0.095モル)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート30g(0.064モル)及びジペンタエリスリトールへキサアクリレート20gの混合物、及びメチルイソブチルケトン120gを500ml4ツ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート17.6g(0.08モル)を添加し、室温下15hr攪拌して得られた、ジペンタエリスリトールポリアクリレート成分単位と3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート成分単位からなるウレタン系ポリアクリレート」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート」は、「イソシアネート化合物」である限りにおいて、本件発明1の「イソシアネート化合物(A)」に相当する。
甲1発明の「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート・・・、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート・・・、ジペンタエリスリトールへキサアクリレート・・・の混合物」は本件発明1の「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)」に相当し、甲1発明の「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート」、「ジペンタエリスリトールテトラアクリレート」は、それぞれ本件発明1の「ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(b2)」、「ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)」に相当する。
甲1発明の「ジペンタエリスリトールテトラアクリレート」の「混合物」中の含有割合は、30質量%(=30/100×100)であり、このことは本件発明1の「前記ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)の含有量が、前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)中に10~50質量%の範囲であ」ることに相当する。
甲1発明の「ジペンタエリスリトールポリアクリレート成分単位と3-イソシアナートメチル-3,5.5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート成分単位からなるウレタン系ポリアクリレート」は、本件発明1の「イソシアネート化合物(A)と、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)とを必須の反応原料とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂」に相当する。
ここで、本件発明1の「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物」は、本件明細書の【0028】の記載からみて、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)を製造する際に生じる副生成物であり、また、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートに由来する水酸基を含有するものであって、成分(A)であるイソシアネート化合物と反応してウレタン(メタ)アクリレート樹脂を構成する成分であると認められるから、「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物」は、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の反応原料である「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリーレト(B)」中に含まれるものと認められる。
そうすると、両者は
「イソシアネート化合物(A)と、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)とを必須の反応原料とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂であって、
前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)が、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)と、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(b2)とを含有するものであり、
前記ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート(b1)の含有量が、前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)中に10~50質量%の範囲である、
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂。」
である点において一致し、以下の3点において相違する。
<相違点1>
「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)」の「JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される」「水酸基価」が、本件発明1では「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」であるのに対し、甲1発明ではその値が不明な点
<相違点2>
「イソシアネート化合物(A)」が、本件発明1では「ペンタメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートのうちのいずれか」であるのに対し、甲1発明では「3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアナート」である点
<相違点3>
「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)」が、本件発明1では「更に、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有する」ものであるのに対し、甲1発明ではそのことが明らかでない点
イ 相違点についての判断
相違点1、3は関連するものであるため、事案に鑑み、まとめて検討する。
「JIS K 0070(1992)」についての参考文献1の1頁目の「2.一般事項」の「2.1 用語の定義」の「(5)水酸基価」に「試料1gをアセチル化させたとき,水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数」と記載されていることから、甲1発明の水酸基価は、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート50g、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート30g及びジペンタエリスリトールへキサアクリレート20gの混合物)1gをアセチル化させたとき水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を意味する。
そして、甲1発明の「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート50g(0.095モル)、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート30g(0.064モル)及びジペンタエリスリトールへキサアクリレート20gの混合物」は、ジペンタエリスリトールアクリレートのみが含まれ、他の成分(高分子量成分等)を含まないから、JIS K 0070中和滴定法より測定した水酸基価である「試料1gをアセチル化させたとき,水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数」は、各成分の含有量を元に計算により求めた水酸基価と実質同じものとなる。
ここで、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートは1分子中に1個の水酸基を有し、ジペンタエリスリトールテトラアクリレートは1分子中に2個の水酸基を有し、ジペンタエリスリトールへキサアクリレートは分子中に水酸基を有さないから、上記混合物100g中に水酸基は0.223モル(=0.095+0.064×2)含まれることになり、混合物1g中には水酸基は0.00223モル含まれる。
その水酸基のモル数と、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのモル数は同じであるから、水酸化カリウム(分子量56.1)のmg数は、0.00223×56.1×1000=125.1mgKOH/gとなる。
そうすると、甲1発明のジペンタエリストール(メタ)アクリレートにおけるJIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される水酸基価は、計算値と同じ125.1mgKOH/gであるといえる。
しかし、甲1発明は、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートとして「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート50g、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート30gおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート20gの混合物」という、組成が明確な混合物を用いており、本件明細書の【0028】や製造例1、2(【0108】、【0109】)のように、ジペンタエリスリトールとアクリル酸とをエステル化反応させて合成しているわけではないから、甲1発明のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートが、「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物」を含有するものとは認められないし、甲1には、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートが「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物」を含有することについて記載も示唆もないから、それを更に配合する動機付けがあるともいえない。
また、甲1には、ジペンタエリストール(メタ)アクリレートにおけるJIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される水酸基価を「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」とする技術思想が記載されているわけではなく、単に甲1発明において水酸基価を計算したら上記範囲内になるというだけにすぎないものであるから、たとえ甲1発明において、さらにジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート同士の付加反応物を配合することが動機付けられたとしても、付加反応物も水酸基を有するものであるから、付加反応物を配合したものについて、JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される水酸基価を「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」とすることが当業者に動機付けられるとはいえない。
さらに、甲1発明のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートが、仮に、製造時の副生物である付加反応物を含んでいるとすると、上記で計算した水酸基価は、そのようなものを含まないことを前提として計算した値に過ぎないから、甲1発明のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートのJIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される水酸基価が、「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」になるとはいえないし、ましてや水酸基価をその範囲とすることが当業者に動機付けられるともいえない。
甲2~甲4の記載を検討しても、同様である。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明1の効果について
本件明細書の【0009】には、「本発明のウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、耐擦傷性、耐カール性、柔軟性、耐衝撃性に優れた硬化塗膜を形成できることから、各種基材表面の保護用コート剤として好適に用いることができる。また、前記硬化塗膜を有する積層フィルムは、耐擦傷性や耐カール性に優れると共に、柔軟性が高く折り曲げたり巻き取ったりした際に割れが生じ難く、さらに、フィルム上に落下物があった場合にも割れにくい耐衝撃性を有する。」と記載されている。
そして、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートのJIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される水酸基価(以下、単に「水酸基価」という。)が「125mgKOH/g」又は「130mgKOH/g」であるものを用いた実施例5、6、8のウレタン(メタ)アクリレート樹脂を用いた積層フィルムの評価結果が、塗膜硬度2H、耐擦傷性0.2dH、柔軟性2~4mmφ、耐カール性16~18mm、耐衝撃性150~200という結果である一方、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価が「43mgKOH/g」であるものを用いた比較例3では、柔軟性が12mmφ、耐カール性が25mm、耐衝撃性が100であり、柔軟性、耐カール性、耐衝撃性に劣ることが示され、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価が「160mgKOH/g」であるものを用いた比較例4では、塗膜硬度がH、耐擦傷性が0.8dHであり、塗膜硬度、耐擦傷性に劣ることが示され、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価が「140mgKOH/g」であるものを用いた実施例7(本件発明1の比較例)では、耐擦傷性が0.3dHと、実施例5、6、8よりも劣ることが示されている(【0103】~【0132】、特に【表2】)。
【0009】の記載及び実施例、比較例の上記結果から、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価を「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」とすることにより、塗膜硬度、耐擦傷性、柔軟性、耐カール性、耐衝撃性に優れたウレタン(メタ)アクリレート樹脂を得ることができるものと認められるところ、このような効果は甲1の記載から当業者が予測できることではない。
エ 申立人の主張について
申立人は、令和6年10月11日提出の意見書において、相違点1、3に関して、主に以下の点を主張する。
本件明細書において、【0028】に記載されるように、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物は、副生成物であることが説明されているに過ぎない。
さらに、本件明細書の実施例においても、当該副生成物の有無による比較実験の記載もなく、当該副生成物が含まれることによって奏される作用・効果は何ら立証されていない。
してみれば、ウレタン系ポリアクリレートが、ジペンタエリスリトールポリアクリレート成分単位同士の付加反応物を更に含有することによって当業者の予測を超える効果が得られるものとも認められない。(意見書4頁5~24行)
上記主張について検討すると、上記イで検討したように、甲1発明においては、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートとして組成が明確な混合物を用いているから、「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物」を含有するものとは認められない。
また、甲1には、「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物」を含有することについて記載も示唆もなく、JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される水酸基価を「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」とする技術思想も記載されていないから、甲1発明において、甲1に何ら記載も示唆もなく、かつ、水酸基価に影響を与える成分である「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物」を配合した上で、さらにそれを含む「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)」全体の水酸基価を「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」の範囲とすることが当業者に動機付けられるとはいえない。
そして、上記ウで指摘したように、本件発明1は、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価を「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」とすることにより、甲1の記載からは予測できない効果を奏するものである。
よって、申立人の主張は採用することができない。
オ 本件発明1についてのまとめ
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明3~6も、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)取消理由1、申立理由1についてのまとめ
よって、取消理由1、申立理由1によっては、本件発明1、3~6に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
以下、この観点に沿って検討する。
(2)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0006】の記載からみて、「耐擦傷性、柔軟性、耐カール性、及び耐衝撃性に優れた硬化塗膜を形成可能なウレタン(メタ)アクリレート樹脂、これを含有する硬化性樹脂組成物、硬化物及び積層フィルムを提供すること」であると認められる。
(3)サポート要件の検討
本件明細書の【0007】には、「イソシアネート化合物と、特定の水酸基価を有するジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートとを必須の反応原料とするウレタン(メタ)アクリレート樹脂を用いることによって、上記課題(当審注:本件発明の課題)を解決できることを見出し、本発明を完成させた。」と記載されており、【0026】には、「前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価は、耐擦傷性、柔軟性、耐カール性、及び耐衝撃性に優れた硬化塗膜を形成可能なウレタン(メタ)アクリレート樹脂を得られることから、120mgKOH/g超え150mgKOH/g以下であり、122~145mgKOH/gの範囲が好ましく、122~140mgKOH/gの範囲がより好ましい。」と記載されている。
そして、本件発明の具体例として、本件発明の要件を満たし、かつ、成分(B)の水酸基価が「125mgKOH/g」又は「130mgKOH/g」であるものを用いた実施例5、6、8のウレタン(メタ)アクリレート樹脂を用いた積層フィルムの評価結果が、塗膜硬度2H、耐擦傷性0.2dH、柔軟性2~4mmφ、耐カール性16~18mm、耐衝撃性150~200という結果である一方、成分(B)の水酸基価が「43mgKOH/g」であるものを用いた比較例3では、柔軟性が12mmφ、耐カール性が25mm、耐衝撃性が100であり、柔軟性、耐カール性、耐衝撃性に劣ることが示され、成分(B)の水酸基価が「160mgKOH/g」であるものを用いた比較例4では、塗膜硬度がH、耐擦傷性が0.8dHであり、塗膜硬度、耐擦傷性に劣ることが示されている(【0103】~【0132】、【表2】)。
これらの記載からみて、成分(B)としてジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価が「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」であるものを用いる本件発明であれば、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。
したがって、本件発明1、3~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものということはできない。
(4)申立人の主張について
申立人は、概略、上記第4の1、申立理由2の(1)~(4)のように主張する。
申立理由2の主張(1)について検討すると、訂正後の本件発明1では、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価が「JISK 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される」ものに特定され、かつ、「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの付加反応物を含有する」ことも特定されているから、製造例1、2で得られたジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートは、本件発明1の条件を満たすことは明らかである。
申立理由2の主張(2)については、上記(3)で述べたとおりである。
水酸基価が125mgKOH/gであるものと、130mgKOH/gであるものを用いた具体例が本件発明の課題を解決できるのであれば、その近辺である「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」であれば、同様に本件発明の課題を解決できるものと認められる。また、申立人は、水酸基価が120mgKOH/g付近である(B)を用いた場合に、本件発明の課題を解決できないと考えられる具体的な根拠を示しておらず、その主張を採用することはできない。
申立理由2の主張(3)についても、上記(3)で述べたとおりである。
上記(3)で述べたように、成分(B)としてジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートの水酸基価が「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」であるものを用いる本件発明であれば、本件発明の課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。
実施例で用いられている成分(B)は、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(b1)の含有量が「10~50質量%」の範囲のうちの中間付近のものであるが、「ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(b1)」は水酸基を2個有するものであり、「ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(b2)」は水酸基を1個有するものであり、それに加えて実施例の成分(B)に含まれる「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は水酸基を有さないものであるから、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(b1)の含有量が10質量%や50質量%であっても、その他の成分の含有量を調節することにより、(B)全体の水酸基価が「120mgKOH/g超え130mgKOH/g以下の範囲」とすることは十分に可能であると認められる。
また、申立人は、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(b1)の含有量が「10質量%」や「50質量%」付近である場合に、(B)の水酸基価が本件発明1の範囲内であっても課題を解決できないと考えられる具体的な根拠を示していない。
申立理由2(4)についても、上記(3)で検討したとおりである。
実施例5、6の積層フィルムは、実施例7(本件発明の範囲外)のものと比較して、「柔軟性」、「耐カール性」及び「耐衝撃性」は若干劣っているが、「耐擦傷性」は優れているし、「柔軟性」、「耐カール性」及び「耐衝撃性」の3項目についても、比較例3に比べて顕著に向上しているから、総合的にみて「耐擦傷性」、「柔軟性」、「耐カール性」、「耐衝撃性」のバランスが良好なものであり、本件発明の課題を解決するものといえる。
したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(5)申立理由2についてのまとめ
よって、申立理由2によっては、本件発明1、3~6に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件発明1、3~6は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の検討
本件明細書【0020】~【0028】には、本件発明1、3~6を構成する成分である「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)」について、その具体的な組成や、各成分の含有量の測定方法、製造方法が記載され、成分(B)を製造する際に「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物等の高分子量成分(b’)」が生成することがあり、それを含むジペンタエリスリトール(B)粗生成物のままウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料としても良いことも記載されている(【0028】)。
そして、実施例において、本件発明1の水酸基価を満たし、かつジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有する成分(B)の具体的な製造例が、製造例1及び製造例2として記載され、それらを(A)成分である「ペンタメチレンジイソシアネート」又は「ヘキサメチレンジイソシアネート」と混合してウレタン(メタ)アクリレート樹脂を調製する工程についても具体的な記載がある(実施例1、2、4)。
これらの記載からみて、本件明細書には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1、3~6の物を生産し、使用することができる程度の記載があると認められる。
(3)申立人の主張について
申立人は、概略、上記第4の1、申立理由3の(1)、(2)のように主張する。
そこで検討すると、申立理由3の主張(1)については、上記2(4)において、申立理由2の主張(1)について述べたのと同様のことがいえ、製造例1、2のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)は、本件発明1の成分(B)の条件を満たすものである。
申立理由3の主張(2)について検討すると、実施例3及び7のジペンタエリスリトール(メタ)アクリレートが本件発明1、3~6の要件を満たすものでないことは、本件発明1、3~6の記載から明らかであるし、特許出願において、当初は「実施例」であったものがその後の補正等で実施例ではなくなることもあるから、単に実施例3及び7が(「実施例」とされているにもかかわらず)本件発明1、3~6の要件を満たしていないというだけでは、実施可能要件を満たしていないということはできない。
したがって、申立人の主張はいずれも採用できない。
(4)申立理由3についてのまとめ
よって、申立理由3によっては、本件発明1、3~6に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(明確性要件)について
(1)明確性要件についての判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
以下、検討する。
(2)明確性要件についての判断
本件発明1、3~6の明確性要件について、申立人が上記第4の1、申立理由4の(1)、(2)で主張する点について検討する。
申立理由4の主張(1)は、本件発明2についてのものであり、本件発明2は訂正により削除された。
申立理由4の主張(2)について検討すると、本件発明1において、訂正により、「更に、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物を含有する」ことが特定され、かつ、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価が「JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される」ものであることが特定された。
そして、本件明細書の【0028】には、成分(B)を製造する際に「ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)同士の付加反応物等の高分子量成分(b’)」が生成することがあり、それを含むジペンタエリスリトール(B)粗生成物のままウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料としても良いことも記載され、実施例において、製造例1、2として成分(B)の具体的な製造例が記載され、それが「高分子量成分(b’)」を含み、「JIS K 0070(1992)中和滴定法に準じて測定される」水酸基価が125mgKOH/g又は130mgKOH/gであることも記載されている。
これらのことからみて、本件発明1で特定される「前記ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート(B)の水酸基価」が、どのような物質の水酸基価を表しているのかを、当業者は明確に理解することができる。
(3)申立理由4についてのまとめ
したがって、本件発明1、3~6は明確であり、申立理由4によっては本件発明1、3~6に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1、3~6に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、請求項2が訂正により削除されたことにより申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700922