特許異議申立
2026-700251
食品の高温充填包装に好適なプロピレン-エチレンコポリマー組成物
- 審判番号
- 2026-700251
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-000518
- 登録番号
- 7745667
- 請求日
- 2026年03月25日
- 審決日
- 2026年06月23日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ダブリュー・アール・グレース・アンド・カンパニー-コーン
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】松田 豊治
- 【異議申立人】▲高▼畑 明久
- 審判長/審判官
- 審判長 辰己 雅夫
- 審判官 松本 直子
- 審判官 岩田 行剛
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7745667号発明「食品の高温充填包装に好適なプロピレン-エチレンコポリマー組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7745667号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7745667号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2024-518号)は、2019年(令和1年)6月7日((パリ条約による優先権主張 2018年6月11日 (US)米国)を国際出願日とする出願(特願2020-566691号)の一部を令和6年1月5日に新たな出願としたものであって、令和7年9月18日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、令和8年3月25日に特許異議申立人 高畑 明久(「高」は「はしごだか」である。以下「申立人」という。)により、請求項1~11に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~11に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物を含む射出成形物品であって、前記プロピレン-エチレンコポリマーが、95重量%を超える量で、前記ポリマー組成物中に存在しており、
前記プロピレン-エチレンコポリマーが、
一次モノマーとしてのプロピレンと、
2.0重量%~最大5重量%のエチレン含有量(ET)と、
20g/10分超、かつ最高45g/10分のメルトフローレートと、
2.0重量%~7.0重量%のキシレン可溶分画分(XS)と、
を含み、
XS/ET比が、1.30未満又は1.15~1.35であり、
前記キシレン可溶分画分(XS)及び前記エチレン含有量(ET)が、式XS=2.1e0.297(ET)によって画定される線を下回り、
5.5を超える分子量分布(Mw/Mn)を有する、
前記射出成形物品。
【請求項2】
前記エチレン含有量が、3.0重量%~4.2重量%である、請求項1に記載の射出成形物品。
【請求項3】
XS/ET比が、1.00未満である、請求項1に記載の射出成形物品。
【請求項4】
前記キシレン可溶分画分(XS)及び前記エチレン含有量(ET)が、式XS=1.4e0.297(ET)によって画定される線を上回る、請求項1~2のいずれかに記載の射出成形物品。
【請求項5】
清澄化剤を更に含む、請求項1に記載の射出成形物品。
【請求項6】
前記清澄化剤が、ジベンジルソルビトールを含む、請求項5に記載の射出成形物品。
【請求項7】
前記清澄化剤が、ノニトールを含む、請求項5に記載の射出成形物品。
【請求項8】
前記ポリマー組成物が、40milで15%未満のヘイズを示し、55℃で24時間の熱エージング後に、前記ヘイズの増加が、15%以下である、請求項5又は6に記載の射出成形物品。
【請求項9】
55℃で24時間の熱エージング後に、前記ヘイズの増加が、14%以下である、請求項8に記載の射出成形物品。
【請求項10】
55℃で24時間の熱エージング後に、前記ヘイズの増加が、13%以下である、請求項8に記載の射出成形物品。
【請求項11】
55℃で24時間の熱エージング後に、前記ヘイズの増加が、12%以下である、請求項8に記載の射出成形物品。」
第3 申立理由の概要及び証拠方法
1 申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由
特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。証拠方法として、下記2の甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出する。
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1~4は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明並びに甲2に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件発明5~11は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明1~11に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(具体的な理由の概要)
本件明細書の実施例でポリマーの分子量分布が測定されておらず、いずれの実施例も5.5を超える分子量分布を有するか不明であり、また、明細書の他の記載を参照しても5.5を超える分子量分布を有するポリマーの具体例が実質的に開示されているといえないから、本件発明で規定される5.5を超える分子量分布を有する射出成形物品は、発明の詳細な説明に開示されたものといえない。
2 証拠方法
申立書に添付して提出された証拠方法
甲1:特表2017-514000号公報
甲2:特表2005-534761号公報
甲3:特表2015-533742号公報
また、当審合議体が職権で探知した証拠方法
引1:谷川正行,「プロピレン重合触媒の変遷と現状」,住友化学株式会社、2022年,<https://www.sumitomo-chem.co.jp/rd/report/files/docs/2022J_2.pdf>(技術常識を示す文献)
第4 当審における判断
以下に述べるとおり、申立理由1、2によっては本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1について
(1)甲1に記載された事項及び発明並びに甲2、引1~2に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び発明
(ア) 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
下記要件を特徴とするプロピレン-エチレン共重合体:
-0.1~10重量%のエチレン含量;
-3より大きい、Mw/Mnで表される、分子量分布(MWD);
-反応器等級として、共重合体に対してメルトフローレート(MFR 230℃ 2.16kg)が0.5~45g/10’範囲である;
-2,1プロピレン挿入の不在;
-これらの値などによって定義される地点が下記式によって与えられる線以下になるようにするキシレン可溶性画分の含量(XS)及びエチレン含量(C2):
XS=1.0296・e0.435C2
(式中、XS=25℃でのキシレン中の可溶性画分の重量%;
C2=NMRで測定される共重合体のエチレン単位の重量%)
・・・
【請求項3】
エチレン含量が、0.1~5重量%の範囲である請求項1に記載のプロピレン/エチレン共重合体。
【請求項4】
エチレン含量が、1~5重量%の範囲である請求項3に記載のプロピレン/エチレン共重合体。
・・・
【請求項7】
ゲル透過クロマトグラフィーで測定された、分子量分布(MWD)が、3.5超過である請求項1に記載のプロピレン-エチレン共重合体。」
「【技術分野】
【0001】
本開示は、低い含量のキシレン可溶分及び溶融温度の面で優れた特性を有するプロピレン/エチレン共重合体に関する。また、本開始は、プロピレンとエチレン、及び選択的に追加のα-オレフインの前記共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
0.1~10重量%のエチレン及び/または他のα-オレフインを含み、共単量体がポリプロピレン鎖中にランダムで分布するプロピレン共重合体は、一般に、ランダムプロピレン共重合体として知られている。プロピレン単独重合体と比較すると、前記共重合体は、共単量体の存在によって改質される分子構造を有し、その内部に実質的により低い結晶化度をもたらす。その結果、ランダム共重合体は、プロピレン単独重合体に比べてより低い溶融温度を有し、また、より低いシール温度及び弾性率を有する。
・・・
【0004】
前記言及された特徴などは、前記共重合体が、向上したヘイズ、耐衝撃性及び低いシール開始温度(S.I.T.)が要求される膜または物品の製造に特に有用である。
【0005】
不利な側面として、ポリプロピレン鎖内への共単量体の導入は、25℃でキシレンに可溶性である重合体の画分の有意的な増加をもたらし、前記可溶性重合体は、全体重合体に基づいて計算された共単量体の平均含量よりも高い共単量体の比率を含むより低い分子量鎖で主に構成される。可溶性画分の量は、一般に、共重合体中の共単量体の平均含量が増加するに応じて増加し、定義された限界を超える場合、可溶性画分の除去の負担な段階に対する解決手段が講究されない限り、特定領域、例えば、食品ラッピング用膜の製造時に、共重合体の使用を妨害する。前記画分の関連する量の存在は、重合体顆粒の流動性を減少させ、これによって重合体を排出して移送させるなどの操作を難しくし、重合設備内の操作問題を起こす。また、相当量の前記可溶性画分の存在は、時間が経過するに応じて表面へこれら部分の移動から起因する光学的特性の劣化現象(ブルーミング)をもたらす。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以下では、驚くべきことに、低いシール開始温度及びより優れた透明度を許容する不均一系触媒で得られ、非常に向上した共単量体分布を有する向上したプロピレン/エチレン共重合体を見出した。」
「【0014】
具体的な実施形態において、Mw/Mnで表される、分子量分布(MWD)は、3.5より大きい。特に好ましい実施形態において、これは、3.5~5.5の範囲である。」
「【0018】
反応器等級(すなわち、化学または物理的ビスブレーキングを行わない共重合体)として、共重合体に対して言及されるメルトフローレート(MFR 230℃ 2.16kg)が、好ましくは0.5~45g/10’、より好ましくは0.2~25の範囲である。」
「【0022】
本明細書に開示されたプロピレン共重合体は、下記の反応生成物を含む触媒の存在下でプロピレンをエチレンと重合させる段階を含む方法で製造され得る:
(i)固体触媒成分の全体重量に対して0.1~50重量%のBiを含有することを特徴とするTi、Mg、Cl、及び電子供与体化合物を含む固体触媒成分;
(ii)アルキルアルミニウム化合物、及び
(iii)電子供与体化合物(外部供与体)。」
「【0039】
本発明の膜の製造に使用されるプロピレン共重合体は、ポリオレフイン分野でよく使用される添加剤、例えば、さらに、抗酸化剤、光安定剤、核剤、制酸剤、着色剤及び充填剤を含むことができる。」
「【0040】
説明されたように、本発明のプロピレン-エチレンランダム共重合体は、同一のエチレン含量を有するが、Biを含有しない触媒で生成されるプロピレン-エチレンランダム共重合体対比より低い量のキシレン可溶性画分を特徴とする。これらは、また容易な加工性を許容する低い溶融温度及び中間分子量分布を特徴とする。言及されたように、前記記述された要件などを有するランダムプロピレン共重合体は、特にパッケージ分野で使用するための低いシール温度及び高い透明性膜の製造に特に適する。」
「【0049】
メルトフローレート(MIL)
重合体のメルトフローレートMILは、ISO1133(230℃、2.16Kg)によって測定した。」
「【0062】
ディスク試片上でのヘイズ測定
ヘイズは、1mm厚さ、及び50mmの直径の射出成形された円状プラーク(disk)上で、ガードナーヘーズメーター、モデルヘイズガードプラスを利用して、ASTM D 1003-07により測定した。」
「【0069】
球形付加物の製造のための過程
マイクロ球形MgCl2・pC2H5OH付加物を、粉末形態の、表1に示された量のBiCl3をオイルの供給前に添加することを除いては、WO98/44009の比較例5に記述された方法に従って製造した。
【0070】
固体触媒成分の製造のための過程
機械的撹拌機、冷却器及び温度計付きの500mLの丸底フラスコに、300mLのTiCl4を質素大気下に室温で注入した。0℃に冷却した後、撹拌し、ジイソブチルフタレート及び9.0gの球形付加物(前記記載された通り製造された)を連続的に前記フラスコに添加した。充填された内部供与体の量は、8のMg/供与体モル比を満たす程度であった。温度を100℃に昇温し、2時間保持した。その後、撹拌を止め、固体生成物が定着するようにした後、上清を100℃で抜き取った。上清を除去した後、追加的な新しいTiCl4を初期液体体積に再び達するように添加した。その後、混合物を120℃に加熱し、同温度で1時間保持した。撹拌を再び止め、固体が定着するようにした後、上清を抜き取った。固体を60℃に達するまで温度勾配で、6回無水カプロン酸で洗浄し、室温で1回洗浄した。その後、得られた固体を真空下に乾燥して、分析した。
【0071】
実施例1-6及び比較例1のプロピレン/エチレン共重合
撹拌機、圧力ゲージ、温度計、触媒供給システム、単量体供給ライン及びサーモスタットジャケット付きの4Lのスチール製オートクレーブを1時間、70℃で、窒素フローでパージした。その後、30℃で、プロピレンフロー(0.5Bar)下に、5分間、予め接触させた、75mLの無水カプロン酸、0.76gのAlEt3、3.3mmolのジシクロペンチルジメトキシシラン(D供与体)、及び0.004÷0.010gの固体触媒成分を含有する懸濁液を充填した。オートクレーブを閉じ、次いで、3.2NLの水素を表1に示された通りに、所望のMILを得るために添加した。その後、撹拌下に1.2kgの液体プロピレンを必要な量のエチレン(4g)と共に、30から70℃まで昇温する間に供給した。温度を約10-15分内に70℃まで昇温し、重合を前記温度で2時間行った。圧力を一定に保持するために、エチレンを重合途中供給した。重合終了時、反応しなかった単量体を除去し、重合体を回収した後、3時間、真空下で、70℃で乾燥した。その後、重合体を称量して、特徴化した。プロピレン/エチレン共重合関連実験データを表1に示した。生成された全ての共重合体の場合、レジオインバーションがなかった。」
「【0077】
【表1】
[図:0001437438000001.jpg]
」
(イ) 甲1に記載された発明
甲1の実施例1でヘイズの測定に用いられたディスク試片は、請求項1の記載に沿って整理すると、以下のとおり記すことができる。
「下記要件を特徴とするプロピレン-エチレン共重合体:
-3.2重量%のエチレン含量;
-5.1の、Mw/Mnで表される、分子量分布(MWD);
-反応器等級として、共重合体に対してメルトフローレート(MFR 230℃ 2.16kg)が1.9g/10’である;
-2,1プロピレン挿入の不在;
-これらの値などによって定義される地点が下記式によって与えられる線以下になるようにするキシレン可溶性画分の含量(XS)及びエチレン含量(C2):
XS=1.0296・e0.435C2
(式中、XS=25℃でのキシレン中の可溶性画分の重量%であり、3.7重量%;
C2=NMRで測定される共重合体のエチレン単位の重量%)
を用いた、1mm厚さ、及び50mmの直径の射出成形された円状プラーク。」(以下「甲1発明」という。)
(ウ)甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0003】
プロピレンポリマーの溶融強度が充分に高くないレベルであると、二次加工工程中に溶融塊の不規則な変形となり、作業性に関する問題が続いて起こることが知られている。
【0004】
欧州特許出願第573862号には、溶融強度がポリマーの分子量分布を広くすることにより著しく改良できることが開示されている。その特許によれば、分子量分布は少なくとも20である。その結果として、高結晶性プロピレンポリマーの作業性が改良される。しかしながら、前記のプロピレンポリマーから得られた延伸フィルムの厚さ分布と精度は、未だ完全に満足できるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明において、重合において適当な条件下でチーグラー-ナッタ固体触媒成分と高立体規則性電子供与化合物(外部供与体)との特定の組み合わせを用いることによって、高結晶性プロピレンポリマーに典型的な高い剛性およびその他の機械的特性によって依然として特徴付けられるだけでなく、中程度に広い分子量分布であるにもかかわらず改良された作業性によってもまた特徴付けられるプロピレンポリマーを得ることができることを見出した。特に、このプロピレンポリマーは広い温度範囲で加工でき、したがってより容易に加工できるという利点がある。
【0006】
本発明のさらなる実施態様は、前記プロピレンポリマーからなる2軸配向フィルムまたはシートに関する。
本発明の積層品、特にフィルムまたはシートの利点は、それらが良好な均一な厚さ、およびまたより高い破断点伸びおよびより高い破断点引張強さを有することである。
この積層品、特にフィルムまたはシートは、特に煙草包みのような小包の包装において、および食品包装において特に用いられる。
【0007】
したがって、本発明は、次の特徴:
1)97%より高い、好ましくは97.5%より高い、より好ましくは98%より高いNMRにより測定されたアイソタクチックペンタド(mmmm)の含量;
2)6と等しいか、または6より高い、好ましくは6~11の重量平均分子量と数平均分子量との比
【数1】
[図:0001437438000002.jpg]
で表される分子量分布;および
3)5.5と等しいか、または5.5より低い、好ましくは5と等しいか、または5より低い、より好ましくは4.8までのz平均分子量と重量平均分子量との比の値
【数2】
[図:0001437438000003.jpg]
を有するプロピレンポリマー、好ましくはプロピレンホモポリマーを提供する。」
「【0010】
本発明のプロピレンポリマーは
- Mg、Ti、ハロゲンおよび少なくとも2つの電子供与化合物からなる固体触媒成分(前記触媒成分が、電子供与体化合物の全量に対して15~50モル%の量で存在する少なくとも1つの電子供与化合物が以下に記載された条件下で20モル%以上抽出されないコハク酸のエステル(非抽出性スクシネート)から選択され、かつ少なくとも別の電子供与化合物が同様の条件下で30モル%以上抽出されるコハク酸のエステル(抽出性電子供与化合物)から選択される事実により特徴付けられる);
- 有機金属化合物;
- 高規則性電子供与化合物(外部供与体)
からなるチーグラー-ナッタ触媒を用いる重合で直接得ることができる。
前記触媒成分は、WO02/30998に記載されている。
【0011】
前記で説明したように、固体触媒成分は、前記電子供与化合物に加えて、Ti、Mgおよびハロゲンからなる。特に、触媒成分は、Mgハライド上に担持された少なくともTi-ハロゲン結合を有するチタン化合物および上記の電子供与化合物からなる。マグネシウムハライドは、チーグラー-ナッタ触媒用の支持体として特許文献で広く知られた活性形態のMgCl2が好ましい。米国特許第4,298,718号および第4,495,338号は、チーグラー-ナッタ触媒において前記化合物の使用を記載した最初である。前記特許から、オレフィンの重合用触媒の成分における支持体または共支持体(co-support)として用いられる活性形態のマクネシウムジハライドは、不活性ハライドのスペクトルに現れる最強回折線の強度が減少し、かつ不活性ハライドのスペクトルに現れる最強回折線が、その最大強度がより強い線の角度に対してより低い角度に向って移動したハロ(halo)によって置き換わっているX線スペクトルによって特徴付けられることが公知である。」
(エ)引1に記載された事項
引1には、以下の事項が記載されている。
「活性、立体規則性(ペンタッド分率(mmmm):ポリプロピレン系樹脂のメチル基のペンタッド単位でのアイソタクチック分率)以外にも水素反応性(水素による連鎖移動に対する感度)の向上や分子量分布(Mw/Mn)の制御などを目的とした触媒の開発が進められた。前述の1,3-ジエーテルは水素反応性に優れ、2,1-挿入がisospecificな活性種で進行するため、分子量分布が狭いPPを与えることが報告されている29)。また、コハク酸エステルを内部ドナーとして用いると高度にregiospecificな活性種の割合が増加するため、分子量分布が広いPPの製造が可能になる30)-32)。」(16頁左欄5~16行)
「29) J. R. Severn, (Eds.: A. R. Albunia et al.), “Multimodal Polymers with Supported Catalysts. Design and Production”, Springer Nature (2019), p.5.
30) Basell Polyolefine, WO 200063261 A1 (2000).
31) G. Cecchin et al., Macromolecular Symposia, 173,1951 (2001).
32) J. C. Chadwick et al., Macromolecules, 37, 9722(2004).」(24頁左欄8~15行)
イ 対比、判断
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(a)甲1発明の「プロピレン-エチレン共重合体」「を用いた、1mm厚さ、及び50mmの直径の射出成形された円状プラーク」と本件発明1の「プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物を含む射出成形物品」とは、「プロピレン-エチレンコポリマーを含む射出成形物品」である限りにおいて一致する。
(b)甲1の【0071】を参照すると、甲1発明の「プロピレン-エチレン共重合体」はモノマー成分としてエチレン成分とプロピレン成分のみからなるものであり、また、下記(c)に示すようにエチレン成分の含有量は少量であることから、甲1発明の「プロピレン-エチレン共重合体」も「一次モノマーとしてのプロピレン」を含むものである。
(c)甲1発明の「3.2重量%のエチレン含量」は、本件発明1の「2.0重量%~最大5.0重量%のエチレン含有量(ET)」に相当する。
(d)甲1発明の「XS=25℃でのキシレン中の可溶性画分の重量%」が「3.7重量%」であることは本件発明1の「2.0重量%~7.00重量%のキシレン可溶分画分(XS)」に相当する。
(e)甲1発明では、XS=3.7重量%、エチレン含量(ET)=3.2重量%であり、XS/ET比は、3.7÷3.2=1.156であるから、甲1発明は、本件発明1の「XS/ET比が1.30未満又は、1.15~1.35」との要件を満たす。
(f)甲1発明において、ET=3.2を「2.1e0.297(ET)」に代入すると、5.43になるから、XS=3.7である甲1発明は、「キシレン可溶分画分(XS)及びエチレン含有量(ET)が、式XS=2.1e0.297(ET)によって画定される線を下回」るとの要件を満たす。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「プロピレン-エチレンコポリマーを含む射出成形物品であって、
前記プロピレン-エチレンコポリマーが、
一次モノマーとしてのプロピレンと、
2.0重量%~最大5重量%のエチレン含有量(ET)と、
2.0重量%~7.0重量%のキシレン可溶分画分(XS)と、
を含み、
XS/ET比が、1.30未満又は1.15~1.35であり、
前記キシレン可溶分画分(XS)及び前記エチレン含有量(ET)が、式XS=2.1e0.297(ET)によって画定される線を下回る、
前記射出成形物品。」で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:射出成形物品の原料が、本件発明1では、「プロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物」「であって、前記プロピレン-エチレンコポリマーが、95重量%を超える量で、前記ポリマー組成物中に存在して」いることが特定されているのに対し、甲1発明では、プロピレン-エチレン共重合体」が用いられている点
相違点2:プロピレン-エチレンコポリマーのメルトフローレートが、本件発明1では、「20g/10分超、かつ最高45g/10分」であることが特定されているのに対し、甲1発明では、「1.9g/10’」である点
相違点3:プロピレン-エチレンコポリマーの分子量分布が、本件発明1では、「5.5を超える」ことが特定されているに対し、甲1発明では、「5.1」である点
b 判断
事案に鑑み、以下相違点3について検討する。
(a)相違点3について
甲1には、「分子量分布(MWD)は、3.5より大きい。特に好ましい実施形態において、これは、3.5~5.5の範囲である。」(【0014】)こと、「本発明のプロピレン-エチレンランダム共重合体は、同一のエチレン含量を有するが、Biを含有しない触媒で生成されるプロピレン-エチレンランダム共重合体対比より低い量のキシレン可溶性画分を特徴とする。これらは、また容易な加工性を許容する低い溶融温度及び中間分子量分布を特徴とする。」(【0040】)ことが記載されているから、甲1発明は、特定の触媒を用いることが特徴の一つであり、その結果として、「容易な加工性を許容する低い溶融温度及び中間分子量分布」を有すること、特に好ましい分子量分布が3.5~5.5であることが記載されている。
そうすると、甲1発明において、あえて分子量分布を5.5を超えるようにする動機付けはない。
この点に関連し、甲2には、「溶融強度がポリマーの分子量分布を広くすることにより著しく改良できること」(【0004】)、「中程度に広い分子量分布である・・・プロピレンポリマー」(【0005】)、「6と等しいか、または6より高い、好ましくは6~11の重量平均分子量と数平均分子量との比」(【0007】)が記載されており、分子量分布6~11程度も中程度に広い分子量分布との認識が示されているものの、甲1と甲2では、ポリプロピレン樹脂の重合に用いられている触媒が相違し、触媒の選択により樹脂の分子量分布等の物性値が異なることは技術常識であるから(引1参照。引1は、本件特許の優先日後に公開された文献であるが、その内容は、脚注29~32を参照すると、本件特許の優先日前に技術常識といえる。)、異なる触媒を対象とした発明に関して記載されていた事項を他の触媒を用いて重合することを前提とした別発明に直ちに適用することはできない。
また、甲3にも、甲1発明において、分子量分布を5.5より大きくする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1~3に記載の事項を参照しても、相違点3に係る事項を想到することは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
(b)本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、「改善した剛性及び耐熱性を有するだけでなく、優れた透明性も有する、高温充填包装を生成するためのポリマー組成物」(【0006】)の提供と認められ、特に透明性に関し、【0007】には、「本開示のポリマー組成物はまた、熱エージングの後であっても高いヘイズ特性を維持することができることを見いだしたことが利点である。」と記載されているように、優れた透明性とは「熱エージングの後であっても高いヘイズ特性を維持することができること」である。そして、【0120】の【表3】を参照すると、「オーブン前」(熱エージング前)においては比較例の方がヘイズ値は低いものの、「オーブン後」(熱エージングの後)では本実施例の方がヘイズ値が低く、変化率も低いことから、「高いヘイズ特性を維持することができる」ことが確認されている。この点、甲1発明でも、高い透明性が得られているものの、これは熱エージング前の状態であり、熱エージング後も高いヘイズ特性を維持できるかは不明であるから、本件発明1の効果が甲1発明と比して異質でなく、また顕著でもないということはできない。
c 小括
したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(イ)本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を直接又は間接的に引用しており、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2~11と甲1発明とは、少なくとも上記(ア)aに示した相違点を有する。
そして、上記(ア)bにおいて説示したのと同様の理由により、本件発明2~11は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、申立書10頁下から5行~11頁1行で、「甲第1号証には、「プロピレン-エチレン共重合体100重量%を含有する射出成型品であって、プロピレン-エチレン共重合体が、プロピレンと、1~5重量%のエチレン含量(C2)と、0.5~45g/10’の範囲のメルトフローレート(MFR 230℃ 2.16kg)と、1.6重量%~7.1重量%のキシレン可溶性画分の含量(XS)とを含み、3.5~5.5の範囲のMw/Mnで表される分子量分布(MWD)を有する、射出成型品」の発明」が記載されていると述べ、そして12頁16~21行で、「本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、本件特許発明1では、プロピレン-エチレンコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は5.5を超えるのに対し、甲第1号証に記載された発明では、プロピレン-エチレン共重合体におけるMw/Mnで表される分子量分布(MWD)は、3.5~5.5の範囲である点においてのみ相違し(当審合議体注:以下「相違点A」という。)、その余の点において一致する。」と述べている。
すなわち、申立人は、甲1の特許請求の範囲、【0014】、【0062】、【0077】【表1】等の記載を組み合わせることで甲1に記載の発明を上記のとおり認定し、それに基づき、相違点Aすなわち相違点3のみで本件発明1と甲1に記載された発明とが相違するとした。そして、相違点3(分子量分布)に係る事項に関し、申立人は、甲1発明と甲2に記載の事項とは、「いずれもプロピレンを主体とする(共)重合体を使用する包装技術の分野に係るものであり(技術分野の共通性)、作業性(加工性)を向上させることを課題の一つとしたものであるから(課題の共通性)、・・・溶融強度を高めて作業性を向上させるために、・・・分子量分布(Mw/Mn)を5.5を超える値に設定することは、当業者が容易に想到しうること」と述べる(申立書14頁17~25行)。
しかしながら、上記(ア)b(a)に示したとおり、甲1発明において、甲2を参照して分子量分布を5.5を超えるようにすることの動機はなく、申立人の主張は採用できない。
また、申立人は、「本件発明1の作用効果は、・・・ヘイズ特性(透明性を意味する。実施例2参照)の向上・・・である。
まず、ヘイズ特性について検討すると、甲第1号証に記載された発明は、向上したヘイズ及び高い透明性を有する膜の製造に適するプロピレン-エチレン共重合体を得ることを課題としたものであるため(段落[0040])、本件特許発明1のヘイズが低いという効果は、甲第1号証に記載された発明と同種のものであり、格別顕著なものとはいえない。」(同15頁7~15行)と述べているが、上記(ア)b(d)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(エ)申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~11は、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1によっては本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0006】の記載からみて、「改善した剛性及び耐熱性を有するだけでなく、優れた透明性も有する、高温充填包装を生成するためのポリマー組成物」を含む射出成形物品の提供であると認められる。
(3)検討
本件の出願当初の特許請求の範囲には、請求項1として、
「プロピレン-エチレンコポリマーであって、
一次モノマーとしてのプロピレンと、
2.0%~最大5重量%のエチレン含有量(ET)と、
1g/10分超のメルトフローレートと、
2.0%~7.0重量%のキシレン可溶分画分(XS)と、
1.51以下のXS/ET比と、を含む、プロピレン-エチレンコポリマー。」
が記載されており、【0116】【表1】、【0117】【表2】、【0123】【表4】には、サンプル1~36として、上記の物性を同時に満たすプロピレン-エチレンランダムコポリマーが開示されている。そして、【0120】【表3】によれば、サンプル35のプロピレン-エチレンランダムコポリマーが優れた透明性(熱エージングの後のヘイズ特性の維持)を有すること、【0123】【表4】によれば、サンプル36のプロピレン-エチレンランダムコポリマーが優れた剛性を有することが確認されている。さらに、【0004】の「高温充填包装は、人間が消費するために作られた製品と接触するので、高温充填包装の特性が劣化し得るという懸念が存在する。例えば、ポリマー組成物を高温充填包装プロセス中に加熱することは、ポリマー又は組成物中の他の成分の不要な崩壊を生じさせ得る。」を参照すれば、「熱処理の後であっても、いかなる視覚的なブルーミング又はスミアリングも存在しないという事実」(【0121】)が確認されているサンプル35のプロピレン-エチレンランダムコポリマーは優れた耐熱性も有するものといえる。
したがって、本件の上記出願当初の特許請求の範囲に記載の技術事項を備えたプロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物を含む射出成形品であれば、上記技術課題を解決し得ると認められる。そして、本件発明は、上記出願当初の特許請求の範囲に記載の技術事項を全て備えたプロピレン-エチレンコポリマーを含有するポリマー組成物を含む射出成形品であるから、本件発明は、上記技術課題を解決し得るものである。
(4)申立人の主張について
申立人の主張は、上記「第3 1(2)」に記載したが、概略以下のとおりである。
「本件明細書の実施例でポリマーの分子量分布が測定されておらず、いずれの実施例も5.5を超える分子量分布を有するか不明であり、また、明細書の他の記載を参照しても5.5を超える分子量分布を有するポリマーの具体例が実質的に開示されているといえないから、本件発明で規定される5.5を超える分子量分布を有する射出成形物品は、発明の詳細な説明に開示されたものといえない。」
そこで、上記技術課題と分子量分布の関係について見ていく。本件明細書には、分子量分布に関して、【0039】に「本開示のコポリマーは、概して、比較的広範囲の分子量分布を有する。例えば、分子量分布(Mw/Mn)は、概して、約3.5超、例えば約3.8超、例えば約4超、例えば約4.3超、例えば約4.5超、例えば約4.8超、例えば約5超、例えば約5.2超、例えば約5.5超、例えば約5.7超、例えば約6超であり、及び概して、約10未満、例えば約8未満、例えば約7.5未満である。」と記載され、また、【0116】に「プロピレン-エチレンランダムコポリマーは、立体特異的第6世代チーグラー・ナッタマグネシウム担持/チタン系触媒によって生成した。触媒は、メタロセン触媒を使用して作製されるポリマーよりも広い範囲の分子量分布を有するポリマーを生成する非フタレート内部供与体を含有した。」ことが記載されている程度であり、本件発明における分子量分布は、上記特定のプロピレン-エチレンランダムコポリマーを重合するために選択した触媒を用いることで得られる付随的な物性と解され、したがって、上記技術課題との関係において、必須の技術事項とは認められない。加えて、申立人は、5.5以下の分子量分布を有する射出成形物品が、上記技術課題を解決できないことを具体的に示してもいない。
そうであるならば、本件発明の実施例とされているプロピレン-エチレンランダムコポリマーの分子量分布が不明であり、実施例と本件発明とが対応するかが定かでないからといって、本件発明が、上記技術課題を解決し得るものとして本件明細書に記載されたものでないとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(5)申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものではないから、申立理由2によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~11に係る特許は、申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
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