特許異議申立
2023-700887
接合体、及び、絶縁回路基板
- 審判番号
- 2023-700887
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-204040
- 登録番号
- 7230432
- 請求日
- 2023年08月30日
- 審決日
- 2023年12月12日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】細川 文広
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】松岡 孝代
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 金 公彦
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / P1651.536-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7230432号発明「接合体、及び、絶縁回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7230432号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7230432号の請求項1~6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年10月30日(優先権主張 平成29年11月2日)の出願であって、令和5年2月20日にその特許権の設定登録がされ、同年3月1日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月30日に、請求項1~6に係る特許について、特許異議申立人 松岡 孝代(以下、「申立人」という。)により、甲第1~3号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~6に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
Si系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、
前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層においては、前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされていることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記活性金属化合物層は、活性金属の窒化物、又は、活性金属の酸化物のいずれかを含有することを特徴とする請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合体を備えた絶縁回路基板であって、
前記セラミックス部材からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された前記銅部材からなる回路層と、を備えていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項4】
前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に、金属層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の絶縁回路基板。
【請求項5】
前記金属層は銅又は銅合金からなることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。
【請求項6】
前記金属層はアルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 本件発明1及び2は甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。
(2) 本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3~6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~6に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書15ページ24行~19ページ21行)。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件特許明細書には、「活性金属化合物層」を結晶質とするための具体的な条件は何ら記載されていない。
ここで、本件特許明細書の段落【0037】~【0040】(下記第4の2(2)ア(ア))には、本件発明に係る「接合体」の望ましい製造条件が記載されているが、同段落【0078】の【表1】及び段落【0079】の【表2】(下記第4の2(2)ア(イ))に記載された比較例の製造条件は、前記好ましい製造条件を満たしているのに、前記比較例における「活性金属化合物層」は非晶質であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、「活性金属化合物層」を「結晶質」とするための条件が不明であり、前記条件が本願出願時の技術常識であるともいえない。
このため、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、実施可能要件を満たさないので、本件発明1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号所定の規定を満たさない出願に対してされたものである(特許異議申立書19ページ22行~21ページ11行)。
3 証拠方法
甲第1号証:特開平11-92254号公報
甲第2号証:Chihiro Iwamoto et al., "Interface Nanostructure of Brazed Silicon Nitride", 1998年, Journal of the American Ceramic Society, Vol. 81, No. 2, p.363-368
甲第3号証:特開2009-177084号公報
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、以下の(ア)~(カ)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置された、活性金属を含むろう材層とを具備するろう付け用構造体において、
前記窒化ケイ素焼結体とろう材層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記ろう材層の外周部より先行して存在することを特徴とするろう付け用構造体。
・・・
【請求項4】 窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置され、活性金属を含むメタライズ層とを具備するメタライズ構造体において、
前記窒化ケイ素焼結体とメタライズ層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記メタライズ層の外周部より先行して存在することを特徴とするメタライズ構造体。」
(イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、窒化ケイ素焼結体を基材とし、この窒化ケイ素焼結体上に活性金属を含むろう材層もしくはメタライズ層を接合配置した、ろう付け用構造体およびメタライズ構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】窒化ケイ素焼結体などに代表されるセラミックス焼結体は、金属などの従来材料にない各種特性を有することから、各種部品材料として応用展開されている。例えば、窒化ケイ素焼結体の耐熱性、耐磨耗性、軽量・高強度などの特性を利用して、構造・機械部品などへの適用が進められている。ただし、窒化ケイ素焼結体を含むセラミックス材料は本質的に脆いという欠点を有しており、このような欠点を補うためには金属材料と接合一体化して使用することが一般的である。
【0003】上記したような窒化ケイ素焼結体と金属材料との接合には、例えばAg-Cu-Ti合金のような活性金属を含むろう材(活性金属ろう材)が用いられており、このような活性金属ろう材層を予め窒化ケイ素焼結体上に形成することが行われている。活性金属ろう材層は、各金属箔の積層体、合金箔、合金粉末などを窒化ケイ素焼結体上に配置した後、活性金属ろう材の融点以上の温度で熱処理することにより形成される。
【0004】一方、窒化ケイ素焼結体の高電気絶縁性、高熱伝導性、高強度などの特性を利用して、電子部品への適用も進められている。この場合、配線層や回路網の形成などを目的として、窒化ケイ素焼結体(基板)表面にAg-Cu-Ti合金のような活性金属を含む金属層(メタライズ層)を形成することが行われている。このようなメタライズ層の形成は、ろう材層の形成と同様にして実施されている。また、配線層などに銅板のような金属板を用いる場合には、活性金属を含む金属は構造用材料と同様にろう材層として使用される。」
(ウ) 「【0017】図1は、本発明のろう付け用構造体およびメタライズ構造体の一実施形態としての窒化ケイ素/金属層の接合構造体の概略構造を模式的に示す断面図である。同図に示す窒化ケイ素/金属層の接合構造体1は、窒化ケイ素(Si3N4)焼結体2の表面に金属層3を接合配置した構造を有している。
・・・
【0020】窒化ケイ素焼結体2上には、活性金属を含む金属層(以下、活性金属含有金属層と記す)3が活性金属ろう材層やメタライズ層として形成されている。活性金属含有金属層3には、例えばTi、Zr、Hf、Nb、Al、V、Taなどの活性金属を添加した金属層形成材料が用いられる。この金属層形成材料のベースとなる金属材料としては、Ag-Cu合金、Cuなどが挙げられる。
【0021】上記したような活性金属は、金属層形成材料中に1~10重量%程度の範囲で含有させることが好ましい。・・・
【0022】これらのうち、特に活性金属としてTiを含むAg-Cu-Ti合金が好ましく用いられる。・・・
【0023】上述したような活性金属含有金属層3は、まず金属層の主形成材料および活性金属を含む合金箔、合金粉末、あるいは各金属箔の積層体などを窒化ケイ素焼結体2上に所望形状に配置した後、用いた活性金属含有金属材料の融点以上の温度で熱処理することにより形成される。このような熱処理おいて、活性金属含有金属材料は溶融され、窒化ケイ素焼結体2の表面を拡散する(濡れ広がる)。
【0024】活性金属含有金属材料の濡れの進行に伴って、活性金属の拡散および窒化ケイ素焼結体2との反応が起こり、窒化ケイ素焼結体2と活性金属含有金属層3との界面には、窒化ケイ素焼結体2の構成元素と活性金属とを含む化合物層4が反応層として生成する。この際、活性金属含有金属層3が拡散する方向(濡れ広がる方向:図2中矢印で示す)に対して、反応層としての化合物層4が活性金属含有金属層3の外周部より先行するような条件下で熱処理を実施する。
・・・
【0030】次に、反応層としての化合物層4について詳細に述べる。例えば、活性金属としてTiを用いた場合、図2に示すように、窒化ケイ素焼結体2側には窒化チタン(TiN)を主成分とする第1の反応層5が生成し、活性金属含有金属層3側にはチタンシリサイド(例えばTi5Si3)を主成分とする第2の反応層6が生成する。このように、窒化ケイ素焼結体2と活性金属含有金属層3との界面には、窒化ケイ素焼結体2の構成元素であるSiおよびNと活性金属との反応に基づいて、2層構造の化合物層4が得られる。
・・・
【0040】この実施形態の窒化ケイ素/金属層の接合構造体1をろう付け用構造体として用いる場合には、活性金属ろう材層としての活性金属含有金属層3の窒化ケイ素焼結体2に対する接合強度を再現性よく向上させることができるため、活性金属ろう材層の信頼性のみならず、その後のろう接工程で作製する接合体の強度および信頼性を大幅に高めることが可能となる。また、窒化ケイ素/金属層の接合構造体1をメタライズ構造体として用いる場合には、配線層や回路網としてのメタライズ層の信頼性を大幅に高めることが可能となる。」
(エ) 「【0041】
【実施例】次に、本発明の具体的な実施例について述べる。
【0042】実施例1、2
まず、窒化ケイ素焼結体上に67.7重量%Ag-27.4重量%Cu-4.9重量%
Ti組成の合金を配置し、10-3Pa以下の真空下で加熱溶融した。加熱温度はこの合金の融点、すなわち1183K以上とした。観察のための試料は、それぞれ濡れはじめから60秒後(実施例1)と900秒後(実施例2)に冷却した。
・・・
【0045】図5に実施例1による試料の3重点近傍の断面観察結果(TEM写真)を模式的に示す。また、図6に実施例2による試料の3重点近傍の断面観察結果(TEM写真)を模式的に示す。図5および図6に示すように、各試料共に反応生成物層(化合物層)が3重点、すなわち活性金属含有金属層の外周部より先行して存在していることが分かる。このような状態を実現することよって、金属層の接合強度、さらにはろう接後の接合強度を高めることができる。
【0046】さらに、図5および図6において、いずれの試料もSi3N4焼結体と金属層との界面には2層構造の反応層が生成していることが分かる。元素分析および質量分析から上層はTi5Si3であり、下層はTiNであることが確認された。TiN層はTiNナノ微粒子からなるものであった。ただし、熱処理時間を短くした実施例1ではTiN層がTi5Si3層より先行しているのに対して、熱処理時間を長く設定した実施例2では逆にTi5Si3層がTiN層より先行していることが分かる。」
(オ) 「【図2】
[図:0001405845000001.jpg]
」
(カ) 「【図5】
[図:0001405845000002.jpg]
」
イ 前記ア(ア)の記載(請求項1)によれば、甲第1号証には、窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置された、活性金属を含むろう材層とを具備する「ろう付け用構造体」において、前記窒化ケイ素焼結体とろう材層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記ろう材層の外周部より先行して存在する、「ろう付け用構造体」が記載されている。
また、前記ア(ウ)、(オ)の記載によれば、前記「ろう付け用構造体」は、窒化ケイ素(Si3N4)焼結体2の表面に金属層3を接合配置した構造を有しているものであり(段落【0017】)、前記金属層3は、活性金属を含む金属層、すなわち活性金属含有金属層3として形成されるものであり、前記活性金属含有金属層3には、例えばTi、Zr、Hf、Nb、Al、V、Taなどの活性金属を添加した金属層形成材料が用いられ、この金属層形成材料のベースとなる金属材料としては、Ag-Cu合金、Cuなどが挙げられるものであり(段落【0020】)、前記活性金属含有金属層3は、まず金属層の主形成材料及び活性金属を含む合金箔、合金粉末、あるいは各金属箔の積層体などを窒化ケイ素焼結体2上に所望形状に配置した後、用いた活性金属含有金属材料の融点以上の温度で熱処理することにより形成され、このような熱処理において、活性金属含有金属材料は溶融され、窒化ケイ素焼結体2の表面を拡散し、濡れ広がり、活性金属含有金属材料の濡れの進行に伴って、活性金属の拡散及び窒化ケイ素焼結体2との反応が起こり、窒化ケイ素焼結体2と活性金属含有金属層3との界面には、窒化ケイ素焼結体2の構成元素と活性金属とを含む化合物層4が反応層として生成するものであり(段落【0023】~【0024】)、前記反応層としての化合物層4には、活性金属としてTiを用いた場合、窒化ケイ素焼結体2側に窒化チタン(TiN)を主成分とする第1の反応層5が生成し、活性金属含有金属層3側にチタンシリサイド(例えばTi5Si3)を主成分とする第2の反応層6が生成して、2層構造の化合物層4が得られるものであり(段落【0030】)、活性金属ろう材層としての活性金属含有金属層3の窒化ケイ素焼結体2に対する接合強度を再現性よく向上させることができるため、活性金属ろう材層の信頼性のみならず、その後のろう接工程で作製する接合体の強度及び信頼性を大幅に高めることが可能となるものである(段落【0040】)。
更に、前記ア(エ)、(カ)の記載によれば、前記「ろう付け用構造体」は、まず、窒化ケイ素焼結体上に67.7重量%Ag-27.4重量%Cu-4.9重量%Ti組成の合金を配置し、10-3Pa以下の真空下で加熱溶融し、加熱温度はこの合金の融点、すなわち1183K以上とし、観察のための試料を、それぞれ濡れはじめから60秒後と900秒後に冷却して製造されたものであり(段落【0042】)、いずれの試料も、Si3N4焼結体と金属層との界面には2層構造の反応層が生成しており、元素分析及び質量分析から上層はTi5Si3であり、下層はTiNであることが確認され、TiN層はTiNナノ微粒子である(段落【0046】)。
ウ 前記イによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置された、活性金属を含むろう材層とを具備するろう付け用構造体において、前記窒化ケイ素焼結体とろう材層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記ろう材層の外周部より先行して存在する、ろう付け用構造体であって、
前記ろう付け用構造体は、窒化ケイ素(Si3N4)焼結体の表面に金属層を接合配置した構造を有しているものであり、前記金属層は、活性金属を含む金属層、すなわち活性金属含有金属層として形成されるものであり、前記活性金属含有金属層には、例えばTi、Zr、Hf、Nb、Al、V、Taなどの活性金属を添加した金属層形成材料が用いられ、この金属層形成材料のベースとなる金属材料としては、Ag-Cu合金、Cuなどが挙げられるものであり、
前記活性金属含有金属層は、まず金属層の主形成材料及び活性金属を含む合金箔、合金粉末、あるいは各金属箔の積層体などを窒化ケイ素焼結体上に所望形状に配置した後、用いた活性金属含有金属材料の融点以上の温度で熱処理することにより形成され、このような熱処理において、活性金属含有金属材料は溶融され、窒化ケイ素焼結体の表面を拡散し、濡れ広がり、活性金属含有金属材料の濡れの進行に伴って、活性金属の拡散及び窒化ケイ素焼結体との反応が起こり、窒化ケイ素焼結体と活性金属含有金属層との界面には、窒化ケイ素焼結体の構成元素と活性金属とを含む化合物層が反応層として生成するものであり、
前記反応層としての化合物層には、活性金属としてTiを用いた場合、窒化ケイ素焼結体側に窒化チタン(TiN)を主成分とする第1の反応層が生成し、活性金属含有金属層側にチタンシリサイド(例えばTi5Si3)を主成分とする第2の反応層が生成して、2層構造の化合物層が得られるものであり、
活性金属ろう材層としての活性金属含有金属層の窒化ケイ素焼結体に対する接合強度を再現性よく向上させることができるため、活性金属ろう材層の信頼性のみならず、その後のろう接工程で作製する接合体の強度及び信頼性を大幅に高めることが可能となるものであり、
前記ろう付け用構造体は、まず、窒化ケイ素焼結体上に67.7重量%Ag-27.4重量%Cu-4.9重量%Ti組成の合金を配置し、10-3Pa以下の真空下で加熱溶融し、加熱温度はこの合金の融点、すなわち1183K以上とし、観察のための試料を、それぞれ濡れはじめから60秒後と900秒後に冷却して製造されたものであり、いずれの試料も、Si3N4焼結体と金属層との界面には2層構造の反応層が生成しており、元素分析及び質量分析から上層はTi5Si3であり、下層はTiNであることが確認され、TiN層はTiNナノ微粒子である、ろう付け用構造体。」(以下、「甲1発明1」という。)
エ また、前記ア(ア)の記載(請求項4)によれば、甲第1号証には、窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置され、活性金属を含むメタライズ層とを具備する「メタライズ構造体」において、前記窒化ケイ素焼結体とメタライズ層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記メタライズ層の外周部より先行して存在する「メタライズ構造体」が記載されており、前記ア(ウ)の記載によれば、前記「メタライズ構造体」は、配線層や回路網としてのメタライズ層の信頼性を大幅に高めることが可能となるものであり(段落【0040】)、このことと、前記イによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置され、活性金属を含むメタライズ層とを具備するメタライズ構造体において、前記窒化ケイ素焼結体とメタライズ層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記メタライズ層の外周部より先行して存在する、メタライズ構造体であって、
前記メタライズ構造体は、窒化ケイ素(Si3N4)焼結体の表面に金属層を接合配置した構造を有しているものであり、前記金属層は、活性金属を含む金属層、すなわち活性金属含有金属層として形成されるものであり、前記活性金属含有金属層には、例えばTi、Zr、Hf、Nb、Al、V、Taなどの活性金属を添加した金属層形成材料が用いられ、この金属層形成材料のベースとなる金属材料としては、Ag-Cu合金、Cuなどが挙げられるものであり、
前記活性金属含有金属層は、まず金属層の主形成材料及び活性金属を含む合金箔、合金粉末、あるいは各金属箔の積層体などを窒化ケイ素焼結体上に所望形状に配置した後、用いた活性金属含有金属材料の融点以上の温度で熱処理することにより形成され、このような熱処理において、活性金属含有金属材料は溶融され、窒化ケイ素焼結体の表面を拡散し、濡れ広がり、活性金属含有金属材料の濡れの進行に伴って、活性金属の拡散及び窒化ケイ素焼結体との反応が起こり、窒化ケイ素焼結体と活性金属含有金属層との界面には、窒化ケイ素焼結体の構成元素と活性金属とを含む化合物層が反応層として生成するものであり、
前記反応層としての化合物層には、窒化ケイ素焼結体側に窒化チタン(TiN)を主成分とする第1の反応層が生成し、活性金属含有金属層側にチタンシリサイド(例えばTi5Si3)を主成分とする第2の反応層が生成して、2層構造の化合物層が得られるものであり、
前記メタライズ構造体は、配線層や回路網としてのメタライズ層の信頼性を大幅に高めることが可能となるものであり、まず、窒化ケイ素焼結体上に67.7重量%Ag-27.4重量%Cu-4.9重量%Ti組成の合金を配置し、10-3Pa以下の真空下で加熱溶融し、加熱温度はこの合金の融点、すなわち1183K以上とし、観察のための試料を、それぞれ濡れはじめから60秒後と900秒後に冷却して製造されたものであり、いずれの試料も、Si3N4焼結体と金属層との界面には2層構造の反応層が生成しており、元素分析及び質量分析から上層はTi5Si3であり、下層はTiNであることが確認され、TiN層はTiNナノ微粒子である、メタライズ構造体。」(以下、「甲1発明2」という。)
なお、甲第2号証及び甲第3号証の摘記は省略する。
(2) 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
ア 甲1発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「窒化ケイ素焼結体」は、本件発明1における「Si系セラミックスからなるセラミックス部材」に相当する。
(イ) ここで、甲1発明1における「活性金属を含むろう材層」及び「反応層」が、それぞれ、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」及び「接合層」に相当するといえるか否かについて検討する。
本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」について、本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0002】
LEDやパワーモジュール等の半導体装置においては、導電材料からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子においては、発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えばSi 3N4(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。なお、絶縁回路基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して金属層を形成したものも提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銅板を接合することにより回路層及び金属層を形成した回路基板が提案されている。この回路基板においては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになる。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の絶縁回路基板の回路層においては、端子材が超音波接合されることがある。ここで、セラミックス部材側に形成される活性金属酸化物層が非晶質であった場合には、超音波を負荷させた際に、非晶質の活性金属酸化物層を起点としてクラックが発生し、回路層が剥離してしまうおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離を抑制することが可能な接合体、及び、絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の接合体は、Si系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層においては、前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされていることを特徴とする。
この構成の接合体によれば、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされているので、接合界面に適度な厚さの活性金属化合物層が存在し、冷熱サイクルを負荷した際に割れが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れている。」
前記記載によれば、大電力制御用のパワー半導体素子においては、発熱量が多いことから、これを搭載する基板として、例えばSi3N4(窒化ケイ素)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられており(段落【0002】)、従来技術として、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、銅板を接合することにより回路層及び金属層を形成した回路基板が提案されており、この回路基板においては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されており(いわゆる活性金属ろう付け法)、この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになるものである(段落【0003】)。
ところが、前記絶縁回路基板の回路層においては、端子材が超音波接合されることがあり、「セラミックス部材」側に形成される活性金属酸化物層が非晶質であった場合には、超音波を負荷させた際に、非晶質の活性金属酸化物層を起点としてクラックが発生し、回路層が剥離してしまうおそれがあったことから(段落【0007】)、本件発明は、超音波接合を行った場合であっても、「セラミックス部材」と「銅部材」との剥離を抑制することが可能な「接合体」、及び、「絶縁回路基板」を提供することを目的として(段落【0008】)、「接合体」を、「Si系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層において」、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされ」た「接合体」としたものである(段落【0011】)。
このことからみれば、本件発明は、「セラミックス部材」の一方の面及び他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材、すなわち活性金属を含むろう材を介在させて「銅部材」を配置し、加熱処理を行うことにより「銅部材」が接合された(いわゆる活性金属ろう付け法)「接合体」において、超音波接合を行った場合であっても、「セラミックス部材」と「銅部材」との剥離を抑制することを目的としたものといえるから、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」は、「Si系セラミックスからなるセラミックス部材」に、活性金属を含むろう材により(いわゆる活性金属ろう付け法により)接合される「銅部材」をいうものと解するのが妥当である。
一方、甲1発明1における「活性金属を含むろう材層」は、ろう材なのであるから、活性金属を含有むろう材により(いわゆる活性金属ろう付け法により)接合される「銅部材」、すなわち本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」に相当するものとはいえない。
また、甲1発明1においては、「窒化ケイ素焼結体の構成元素と活性金属とを含む化合物層が反応層として生成するものであり、前記反応層としての化合物層には、窒化ケイ素焼結体側に窒化チタン(TiN)を主成分とする第1の反応層が生成し、活性金属含有金属層側にチタンシリサイド(例えばTi5Si3)を主成分とする第2の反応層が生成して、2層構造の化合物層が得られる」ものであるが、前記「反応層」は、「活性金属を含むろう材層」と「Si系セラミックスからなるセラミックス部材」との間に形成されるものであって、前記「活性金属を含むろう材層」が本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」に相当するものとはいえないことは前記のとおりであるから、前記「反応層」は、そもそも「前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成」される「接合層」とはいえないので、前記「反応層」は、本件発明1における「接合層」に相当するものとはいえない。
したがって、甲1発明1における「活性金属を含むろう材層」及び「反応層」は、それぞれ、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」及び「接合層」に相当するとはいえない。
(ウ) また、甲1発明1における「ろう付け用構造体」は、「窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置された、活性金属を含むろう材層とを具備する」ものであるから、「接合体」といえる点で、本件発明1と共通する。
(エ) 前記(ア)~(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明1とは、
「Si系セラミックスからなるセラミックス部材の接合体。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「接合体」が、「Si系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体」であって、「接合層」が、「前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成され」るのに対して、甲1発明1は、「窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置された、活性金属を含むろう材層とを具備するろう付け用構造体において、前記窒化ケイ素焼結体とろう材層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記ろう材層の外周部より先行して存在する」ものである点。
・相違点2:本件発明1は、前記「接合層において」、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされている」のに対して、甲1発明1は、そのような「接合層」を有しない点。
(オ) そして、前記(エ)の相違点1及び2はいずれも実質的な相違点といえるから、本件発明1が甲1発明1であるとはいえない。
更に、本件発明2について検討しても事情は同じである。
イ 甲1発明2について
(ア) 本件発明1と甲1発明2とを対比すると、前記ア(ア)及び(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明2における「窒化ケイ素焼結体」は、本件発明1における「Si系セラミックスからなるセラミックス部材」に相当し、甲1発明2における「メタライズ構造体」は、「接合体」といえる点で、本件発明1と共通する。
一方、甲1発明2における「活性金属を含むメタライズ層」は、活性金属を含有むろう材により(いわゆる活性金属ろう付け法により)接合されるものとはいえないから、前記ア(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」に相当するものとはいえないし、このため、甲1発明2における「反応層」も、本件発明1における「接合層」に相当するものとはいえない。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明2とは、「Si系セラミックスからなるセラミックス部材の接合体。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明1は、「接合体」が「Si系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体」であって、「接合層」が、「前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成され」るものであるのに対して、甲1発明2は、「窒化ケイ素焼結体と、前記窒化ケイ素焼結体の表面に接合配置され、活性金属を含むメタライズ層とを具備するメタライズ構造体において、前記窒化ケイ素焼結体とメタライズ層との界面に、前記窒化ケイ素焼結体の構成元素と前記活性金属とを含む化合物層が生成していると共に、前記化合物層が前記メタライズ層の外周部より先行して存在する」ものである点。
・相違点2’:本件発明1は、前記「接合層において」、「前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされている」のに対して、甲1発明2は、そのような「接合層」を有しない点。
(ウ) そして、前記(イ)の相違点1’及び2’はいずれも実質的な相違点といえるから、本件発明1が甲1発明2であるとはいえない。
更に、本件発明2について検討しても事情は同じである。
ウ 小括
したがって、本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
(3) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
ア 甲1発明1について
(ア) 始めに、前記(2)ア(エ)の相違点1の容易想到性について検討すると、甲第1号証の前記(1)ア(イ)の記載によれば、甲1発明1に係る「接合体」は、窒化ケイ素焼結体を基材とし、この窒化ケイ素焼結体上に活性金属を含むろう材層を接合配置したものであり(段落【0001】)、従来、窒化ケイ素焼結体を含むセラミックス材料は金属材料と接合一体化して使用することが一般的であるが(段落【0002】)、そのような窒化ケイ素焼結体と金属材料との接合には、例えばAg-Cu-Ti合金のような活性金属を含むろう材(活性金属ろう材)が用いられており、このような活性金属ろう材層を予め窒化ケイ素焼結体上に形成することが行われているものであり(段落【0003】)、また、窒化ケイ素焼結体を電子部品へ適用する場合には、配線層や回路網の形成などを目的として、窒化ケイ素焼結体(基板)表面にAg-Cu-Ti合金のような活性金属を含む金属層(メタライズ層)を形成することが行われており、配線層などに銅板のような金属板を用いる場合には、活性金属を含む金属は構造用材料と同様にろう材層として使用されるものである(段落【0004】)。
(イ) 前記(ア)によれば、甲1発明1に係る「接合体」は、電子部品へ適用する場合に、活性金属を含む金属をろう材層として使用して、配線層などに用いる銅板を接合一体化して使用することを前提としたものといえ、このことは、甲1発明1が、「その後のろう接工程で作製する接合体の強度及び信頼性を大幅に高めることが可能となるものであ」ることからも裏付けられるものである(前記(1)ア(ウ)段落【0040】)。
そして、前記(2)ア(イ)の検討を参酌すると、前記配線層などに用いる銅板は、本件発明1における「銅又は銅合金からなる銅部材」に相当するといえるから、甲1発明1は、「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板を「その後のろう接工程で作製する接合体」とすることを前提としたものといえる。
更に、その場合、前記「活性金属を含むろう材層」により「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板との間に「接合層」が「形成され」ることが推認されるから、甲1発明1を、「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板を「その後のろう接工程で作製する接合体」とし、「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板との間に「接合層」を「形成」すること、すなわち、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることといえる。
(ウ) そこで、そこから進んで、前記(2)ア(エ)の相違点2の容易想到性について検討すると、技術常識からみれば、甲1発明1を「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板を「その後のろう接工程で作製する接合体」とする際には、「窒化ケイ素焼結体」、前記配線層などに用いる銅板及び「活性金属を含むろう材層」を、当該「活性金属を含むろう材層」が溶融する温度まで加熱することで、これらの間で更なる反応が生じて、「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板の間に「接合層」が「形成」されて接合されるものといえる。
ところが、前記更なる反応後に、「接合層」の「窒化ケイ素焼結体」側に、「活性金属を含む化合物からなる」「活性金属化合物層が形成され」るか否かは明らかでないし、仮に、前記更なる反応後に前記「活性金属化合物層」が形成されるとしても、形成された前記「活性金属化合物層」が、「結晶質の活性金属化合物層」であって、「厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内と」なるということはできない。
また、摘記を省略した甲第2号証及び甲第3号証にも、このことは記載も示唆もされていないし、ほかに、このことを裏付ける証拠もないから、甲1発明1を「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板を「その後のろう接工程で作製する接合体」としても、「窒化ケイ素焼結体」と前記配線層などに用いる銅板との間に「形成」された「接合層において」、「窒化ケイ素焼結体」側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の「活性金属化合物層」を「形成」し、「前記活性金属化合物層の厚さ」を「1.5nm以上150nm以下の範囲内と」する構成には至らない。
(エ) 前記(ウ)によれば、甲1発明1を、前記「接合層において」、「窒化ケイ素焼結体」側に、「活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされている」ものとすること、すなわち、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではないから、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲1発明1及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明2~6について検討しても事情は同じである。
イ 甲1発明2について
(ア) 始めに、前記(2)イ(イ)の相違点1’の容易想到性について検討すると、甲1発明2における「活性金属を含むメタライズ層」は、それ自体、「配線層や回路網」とされるものであるから、甲1発明2は、そもそも配線層などに用いる銅板を一体接合して使用することを前提としたものとはいえないので、甲1発明2を、「窒化ケイ素焼結体」と、「銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体」とする動機付けは存在しない。
そうすると、甲1発明2を、「窒化ケイ素焼結体」と、「銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体」であって、「接合層」が、前記「窒化ケイ素焼結体」と「前記銅部材との間に形成され」るものとして、前記相違点1’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではない。
(イ) また、仮に、そうすることを当業者が容易に想到し得るとしても、前記ア(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明2を、前記「接合層において」、「窒化ケイ素焼結体」側に、「活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされている」ものとして、前記(2)イ(イ)の相違点2’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではないから、本件発明1は、甲1発明2及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲1発明2及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
更に、本件発明2~6について検討しても事情は同じである。
ウ 小括
したがって、本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 申立人の主張について
ア 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)についての申立人の主張の概要は、以下のとおりである。
甲第1号証に記載された発明において、「TiN層」がTiNナノ微粒子からなるということは、「TiN層」が多結晶質であることを示しているから、甲第1号証には、「活性金属化合物層」が「結晶質」であることが実質的に記載されている。
また、甲第2号証には、Si3N4とAg-Cu-Ti材の接合界面において、TiNナノ粒子を含むTiN相が形成されること、接合界面で格子整合が存在することが記載されており、Si3N4とAg-Cu-Ti材の接合界面に薄い「結晶質」のTiN相が形成されることは技術常識であるから、甲第1号証には、「活性金属化合物層」が「結晶質」であることが実質的に記載されている。
更に、甲第1号証に記載された発明が「銅部材」を備えていない点で本件発明1と相違するとしても、そうすることは当業者が容易になし得ることであるから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明から容易想到である(特許異議申立書16ページ18行~18ページ9行)。
イ ところが、甲第1号証に記載された発明の「TiN層」がTiNナノ微粒子からなるということは、前記「TiN層」が多結晶質であることを示しており、甲第2号証に、Si3N4とAg-Cu-Ti材の接合界面において、TiNナノ粒子を含むTiN相が形成されること、及び接合界面で格子整合が存在することが記載されており、更に、甲第1号証に記載された発明において「銅部材」を備えることは当業者が容易になし得ることであるとしても、本件発明1及び2が甲第1号証に記載された発明とはいえないこと、及び、本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに変わりはないから、申立人の前記主張は採用できない。
(5) まとめ
よって、本件発明1及び2に係る特許が、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものとはいえないし、本件発明1~6に係る特許が、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものともいえないから、前記第3の1(1)及び(2)の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件違反の判断手法
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) 実施可能要件についての判断
ア 本件特許明細書には、更に以下の(ア)~(イ)の記載がある。
(ア) 「【0033】
まず、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図4において上面)に、Cu-P系ろう材24、チタン材25、及び回路層12となる銅板22を順に積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(図4において下面)に、Cu-P系ろう材24、チタン材25、及び金属層13となる銅板23を順に積層する(積層工程S01)。
【0034】
本実施形態では、Cu-P系ろう材24として、Pを3mass%以上10mass%以下の範囲で含み、かつ、低融点元素であるSnを7mass%以上50mass%以下の範囲で含み、さらに、Niを2mass%以上15mass%以下の範囲で含むCu-P-Sn-Niろう材を用いている。
ここで、Cu-P系ろう材24の厚さは、10μm以上50μm以下の範囲とされている。
【0035】
また、本実施形態では、活性金属元素であるTiを含むチタン材25の厚さは、0.05μm以上2μm以下の範囲内とされている。なお、チタン材25は、厚さが0.1μm以上1.0μm以下の場合には蒸着やスパッタによって成膜することが好ましく、厚さが1.0μm以上の場合には箔材を用いることが好ましい。
【0036】
次に、セラミックス基板11、Cu-P系ろう材24、チタン材25、銅板22及び銅板23を、積層方向に加圧(圧力1~35kgf/cm2(0.1MPa~3.5MPa))した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱して接合する(接合工程S02)。
本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内としている。
また、加熱温度は770℃以上980℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を5分以上150分以下の範囲内に設定している。さらに、600℃から730℃までの昇温速度を5℃/min以上20℃/min以下の範囲内に設定している。
【0037】
ここで、活性金属元素であるTiを含むチタン材25の厚さが0.05μm未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、チタン材25の厚さが2μmを超える場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。・・・
【0038】
Cu-P系ろう材24の厚さが10μm未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、Cu-P系ろう材24の厚さが50μmを超える場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。・・・
【0039】
接合工程S02における加熱温度が770℃未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、接合工程S02における加熱温度が980℃を超える場合には、セラミックス基板11の熱劣化によってマイクロクラックが発生し、超音波接合時にセラミックス基板11に割れが生じるおそれがある。・・・
【0040】
接合工程S02における加熱温度での保持時間が5分未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、接合工程S02における加熱温度での保持時間が150分を超える場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。・・・
【0041】
接合工程S02における600℃から730℃までの昇温速度が5℃/min未満の場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。一方、接合工程S02における600℃から730℃までの昇温速度が20℃/minを超える場合には、熱衝撃によってセラミックス基板11にマイクロクラックが発生し、超音波接合時にセラミックス基板11に割れが生じるおそれがある。・・・」
(イ) 「【0073】
<実施例1>
表1記載の材質からなるセラミックス基板(26mm×26mm×0.32mm厚)の一方の面に、表1記載のろう材及び活性金属材を用いて、無酸素銅からなる銅板(6mm×6mm×0.3mm厚)を順に積層し、積層体を形成する。
そして、積層体を表2に示す荷重で加圧した状態で真空加熱炉に投入し、加熱することによってセラミックス基板の一方の面に銅板を接合した。加熱温度及び時間は表2記載の通りとした。
【0074】
以上のようにして、本発明例、比較例の接合体を得た。得られた接合体について、「活性金属化合物層の材質及び結晶性」、「超音波接合性」について評価した。
・・・
【0078】
【表1】
[図:0001405845000003.jpg]
【0079】
【表2】
[図:0001405845000004.jpg]
【0080】
活性金属化合物層が非晶質である比較例においては、超音波接合後に銅板とセラミックス基板の接合界面での剥離は認められなかったが、超音波探傷装置で検査した結果、剥離が確認された。
【0081】
これに対して、活性金属化合物層が結晶質とされた本発明例1-9においては、超音波接合後に銅板とセラミックス基板の接合界面での剥離は認められず、超音波探傷装置で検査した結果、剥離も確認されなかった。
また、図9を参照すると、本発明例1においては、セラミックス基板の界面部分に結晶質の活性金属化合物層(ルチル型のTi-O層)が形成されていることが確認される。さらに、図10を参照すると、本発明例1においては、比較例1に比べて、セラミックス基板の界面部分における活性金属濃度(Ti濃度)が高くなっていることが確認される。
【0082】
以上のことから、本発明例によれば、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離を抑制することが可能な接合体、及び、絶縁回路基板を提供できることが確認された。
【0083】
<実施例2>
表3記載の材質からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mm厚)の両面に、表3記載のろう材及び活性金属材を用いて、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×0.8mm厚)を順に積層し、積層体を形成する。
そして、積層体を表4に示す荷重で加圧した状態で真空加熱炉に投入し、加熱することによってセラミックス基板の両面にそれぞれ銅板を接合した。加熱温度及び時間は表4記載の通りとした。
【0084】
以上のようにして、本発明例の接合体を得た。得られた接合体について、「活性金属化合物層の材質及び結晶性」、活性金属化合物層の厚さ」、「冷熱サイクル信頼性」について評価した。なお、「活性金属化合物層の材質及び結晶性」については、実施例1と同様に評価した。
【0085】
(活性金属化合物層の厚さ)
透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM、加速電圧200kV)を用いて倍率80000倍で測定し、エネルギー分散型X線分析法(サーモサイエンティフィック社製NSS7)により、N、O及び活性金属元素の元素マッピングを取得した。活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する場合に活性金属化合物層が有ると判断した。
5視野で観察を行い、活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する範囲の面積を測定した幅で割ったものの平均値を「活性金属化合物層の厚さ」とした。
・・・
【0087】
【表3】
[図:0001405845000005.jpg]
【0088】
【表4】
[図:0001405845000006.jpg]
【0089】
活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされた本発明例11-22においては、セラミックス割れが発生した冷熱サイクルが800回以上であり、冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認された。・・・」
イ そして、前記ア(ア)の記載からみれば、当業者は、本件発明1の発明特定事項を満たす「接合体」を製造する際の、ろう材の材質、厚さ、チタン材の厚さ、加圧圧力、真空加熱炉内の圧力、加熱温度といった製造条件を理解できる。
また、前記ア(イ)の実施例2(段落【0083】~【0089】)における本発明例11~22は、本件発明1の発明特定事項を全て満たすし、その製造方法も具体的に記載されているのであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1に係る「接合体」を生産することができる具体的な記載があるといえるのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすといえる。
更に、本件発明2~6について検討しても事情は同じである。
(3) 申立人の主張について
以下、前記第3の2の申立人の主張について検討すると、前記(2)イに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「活性金属化合物層」を「結晶質」とするための具体的な条件が記載されているといえる。
また、本件特許明細書の段落【0036】(前記(2)ア(ア))の記載によれば、本件発明に係る「接合体」の製造方法においては、600℃から730℃までの昇温速度を5℃/min以上20℃/min以下の範囲内に設定しているのであり、前記段落【0079】【表2】(前記(2)ア(イ))に記載された本発明例1~9の昇温速度が、5℃/min(本発明例2、5)~20℃/min(本発明例6)の範囲にあることからみれば、前記【表2】の昇温速度は、前記段落【0036】でいう600℃から730℃までの昇温速度と解するのが妥当である。
そして、前記【表2】の比較例における昇温速度は3℃/minであるから、前記段落【0036】に記載された範囲(5℃/min以上20℃/min以下)を満たさない。
してみれば、前記比較例2は、本件特許明細書に記載された製造条件を満たしているとはいえないのであり、前記昇温速度について検討していない前記第3の2の主張は、前提において誤っている。
そして、前記(2)イに記載したのと同様の理由により、「活性金属化合物層」を「結晶質」とするための具体的な記載があるといえるから、前記第3の2の申立人の主張も採用できない。
(4) 小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の2の特許異議の申立て理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700887