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特許異議申立

2024-700698

窒化ケイ素焼結体

審判番号
2024-700698
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-075955
登録番号
7432040
請求日
2024年07月23日
審決日
2024年10月18日
公報発行日
2024年11月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社MARUWA
  • 【権利者代理人】松原 等
  • 【異議申立人】松岡 孝代
審判長/審判官
  • 審判長 河本 充雄
  • 審判官 宮澤 尚之
  • 審判官 金 公彦
分類
P1651.113-Y (C04B) / P1651.121-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7432040号発明「窒化ケイ素焼結体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7432040号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7432040号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和3年4月21日に出願された特願2021-71651号の一部を令和5年5月2日に新たな特許出願としたものであって、令和6年2月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件請求項1~6に係る特許に対して、令和6年7月23日に特許異議申立人松岡孝代(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下である窒化ケイ素焼結体。 【請求項2】 窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.8以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の30%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下である窒化ケイ素焼結体。 【請求項3】 前記エリアにおいて、ボイドの平面投影面積率が1.0%以下である請求項1又は2に記載の窒化ケイ素焼結体。 【請求項4】 請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた回路基板。 【請求項5】 請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた放熱部材。 【請求項6】 請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体を用いた絶縁部材。」 第3 特許異議の申立てについて 1 申立ての理由の概要 申立人が主張する申立ての理由は、概略、以下のとおりである。 (1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) 本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、あるいは、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如) 本件発明1~4は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、あるいは、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本件発明5、6は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。 (3) 申立理由3(明確性要件違反) 本件発明1、2の「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面」との特定事項は、窒化ケイ素焼結体が当該「研磨面」を備えることを特定しているのか、本件発明1、2で特定された「凹凸度」を測定する際の測定条件を記載したものにすぎないのか、いずれの意味にも解されるため、不明確である。 したがって、本件発明1、2及び請求項1、2の記載を引用する本件発明3~6は明確でないから、本件請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4) 証拠方法 甲第1号証 特開2002-293642号公報 甲第2号証 特開2012-218983号公報 2 甲各号証の記載事項について (1) 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体およびその製造方法と回路基板」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様である。)。 ア 「【請求項1】 短軸径が1.0μm以下であり、かつアスペクト比が10以下である窒化ケイ素粒子の面積割合が、窒化ケイ素質焼結体中の全窒化ケイ素粒子の面積の50~100%であることを特徴とする窒化ケイ素質焼結体。 【請求項2】 窒化ケイ素粒子内の酸素量が0.1wt%以下、かつ焼結助剤成分量が0.05wt%以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素質焼結体。 【請求項3】 常温における熱伝導率が90W/(m・K)以上、常温における3点曲げ強度が600MPa以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高熱伝導窒化ケイ素質焼結体。」 イ 「【0024】本発明の高熱伝導窒化ケイ素質焼結体の製造方法は、窒化ケイ素粉末にマグネシウム(Mg)およびイットリウムおよび/またはランタノイド族元素の1種以上の酸化物を総計で1.0wt%以下添加した原料粉末を成形した後に、温度1800℃~2000℃、窒素圧0.9MPa~10MPa、焼成雰囲気用の詰粉として窒化ケイ素、窒化ホウ素および酸化マグネシウム(MgO)からなる混合粉末を用い、焼成容器に窒化ホウ素製ルツボを用いて焼成することを特徴とする。ここで、詰粉成分として窒化ケイ素、窒化ホウ素および酸化マグネシウム(MgO)が必須であるが、上記した焼結助剤成分に選定した酸化物粉末の1種、または2種以上を、詰粉成分として追加してもよい。 【0025】焼結助剤として添加するマグネシウム(Mg)およびイットリウムおよび/またはランタノイド族元素の酸化物が1.0wt%以下で焼成した場合に、従来の焼成方法では、相対密度が90wt%を超える緻密質の焼結体を得ることが困難であった。しかし、本発明の製造方法によれば焼成雰囲気を調整することにより緻密化が可能となる。具体的には、焼成雰囲気調整のために窒化ケイ素、窒化ホウ素および酸化マグネシウムからなる混合粉末を詰粉として用いた場合には、主成分であるSi3N4成分が、焼成時に (1) Si3N4(s)+3SiO2(L)→SiO(g)+2N2(g) 等の反応によるSi3N4成分自身の分解を抑制することができる。さらに、これに加えて詰粉中に存在するMgO成分は、蒸気圧が高いため焼成過程において容易に気化し、成形体に取り込まれ助剤成分として働き、焼結体の緻密化を促進させる。すなわち、主相の分解抑制と焼結助剤成分量の増加との複合効果により緻密な焼結体が得られる。ここで、焼成容器に炭素(C)製ルツボを用いると、ルツボ内でのCOガスの発生により (2) Si3N4(s)+CO(g)→2SiC(s)+SiO(g)+1/2O2 (g)+2N2(g)の反応が焼結体表面で起こり、緻密化阻害および焼結体表面部でのSiC析出により、色調が黒化する不具合が生じる。したがって、これらの弊害因子を取り除くためには、焼成容器に窒化ホウ素製のものを使用するのが望ましい。なお、上記反応式(1)および(2)中の(s)、(L)および(g)は、それぞれ、固相、液相および気相であることを示す。」 ウ 「【0033】 【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下に説明する実施例により限定されるものではない。 【0034】(実施例1)酸素含有量が0.3~1.5wt%で、平均粒径0.5μmの窒化ケイ素(Si3N4)粉末に、焼結助剤として、平均粒径0.2μmの酸化マグネシウム(MgO)粉末、平均粒径0.2~2.0μmの希土類酸化物粉末の中から選ばれる1種ないし2種の焼結助剤用粉末の所定量を添加し、適量の分散剤を加えエタノール中で粉砕、混合した。ついで、真空乾燥後、目開き150μmの篩を通して造粒し、プレス機により直径20mm×厚さ10mmおよび直径100mm×厚さ15mmのディスク状の成形体を圧力3トンのCIP成形により得た。次いで、これら成形体を窒化ホウ素(BN)製の焼成容器に挿入し、1800~2000℃、9気圧の窒素ガス雰囲気中で5時間焼成した。焼成雰囲気用の詰粉には、上記、窒化ケイ素粉末:50重量部、窒化ホウ素(BN)粉末:25重量部およびMgO粉末:10重量部の混合粉末を用いた。 【0035】得られた窒化ケイ素質焼結体から、直径10mm×厚さ3mmの熱伝導率および密度測定用の試験片、縦3mm×横4mm×長さ40mmの3点曲げ試験片を採取した。密度はマイクロメ-タによる寸法測定と重量測定の結果から求めた。熱伝導率はレーザーフラッシュ法により常温での比熱および熱拡散率を測定し熱伝導率を算出した。3点曲げ強度は常温にてJIS R1606に準拠して測定を行った。 【0036】窒化ケイ素粒子の短軸径およびアスペクト比の評価は、焼結体を鏡面研磨し、CF4ガスを用いたプラズマエッチングを施したミクロ組織について走査型電子顕微鏡(日立製作所製FE-SEM S4500)により直接観察倍率×2000倍、観察視野200μm×500μm中の粒子を評価対象として画像解析装置により最小径と最大径を測定した。粒径は最小径を、アスペクト比は、最大径/最小径の計算から求めた。短軸径が1.0μm以下の粒子の面積%も画像解析により求めた。図1に本発明による窒化ケイ素焼結体のミクロ組織を示す。 【0037】窒化ケイ素粒子内の固溶成分評価については、窒化ケイ素焼結体を粉砕乳鉢にて解砕した後、目開き100μmの篩にて粉砕粉末を篩分けして、Jornal ofAmerican Ceramics Society論文誌1994年7月号1857~1862ページに記載されている公知の方法にて粒界相を溶解させ、窒化ケイ素粒子のみを抽出して乾燥させた。前記操作にて得た窒化ケイ素粒子に対して酸素分析は、窒素/酸素同時分析計(LECO社TC436)を用い測定した。焼結助剤成分は、HF+HNO3溶液およびH2SO4を用いて窒化ケイ素粒子を溶解させ、ICP分析法にて評価した。 【0038】本実施例に係わる焼結助剤量と焼成条件および測定結果を表1および表2に示す。なお、試料No.1~12は本発明例であり、試料No.21~31は比較例である。また、表1中の詰粉種の記載事項で、SN-BN-MgOは、窒化ケイ素粉末:50重量部、窒化ホウ素(BN)粉末:25%重量部およびMgO粉末:10重量部の混合粉末を、SN-BNは、窒化ケイ素粉末:50重量部、窒化ホウ素(BN)粉末:25重量部の混合粉末を表している。 【0039】 【表1】 [図:0001416523000001.jpg] 【0040】 【表2】 [図:0001416523000002.jpg] 【0041】表1および表2に示す本発明例による試料No.1~12の結果から、窒化ケイ素粒子の短軸径が1.0μm以下である窒化ケイ素粒子が、窒化ケイ素質焼結体中の全窒化ケイ素粒子の面積に対して50~100面積%であり、さらに短軸径が1.0μm以下である窒化ケイ素粒子のアスペクト比が10以下であり、かつ、この粒子内の酸素量が0.1wt%以下および焼結助剤成分量が0.05wt%以下である窒化ケイ素焼結体は、常温おける3点曲げ強度が600MPa以上、常温における熱伝導率が90W/(m・K)以上となり、高い強度と優れた放熱性を兼備した窒化ケイ素焼結体が得られた。なお、No.1は、焼結助剤成分としての酸化物粉末を予め添加していないが、詰粉成分にMgO粉末を加えることで、焼成時の雰囲気が制御でき、緻密な焼結体が得られた。また、No.2は、焼結助剤成分としての酸化物粉末はMgOのみであるが、詰粉成分に、さらにY2O3粉末を加えることで焼成時の雰囲気が制御でき、このため緻密な焼結体が得られ、高強度・高熱伝導材が得られた。したがって、従来技術の熱伝導率100W/(m・K)以上、曲げ強度400MPa以上のレベルに比べると、600MPa以上の高い曲げ強度を維持した上で、なおかつ熱伝導率も高めることができた。」 (2) 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「窒化珪素質セラミックス焼結体の製造方法および焼成容器」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 窒化珪素質セラミックス焼結体の製造方法であって、窒化珪素粉末と焼結助剤粉末とを混合した原料粉を成形した成形体を脱脂し脱脂体を形成する脱脂工程と、脱脂工程後に、外気が流通可能な窒化硼素または窒化珪素からなる収納容器の収納室に脱脂体を収納する第1の収納工程と、外気が流通可能な通気路を有する焼成容器の収納部に、収納容器を収納する第2の収納工程と、第2の収納工程の後に、焼成容器を加熱炉中に置き、窒素雰囲気中で脱脂体を焼成する焼成工程を有し、前記焼成容器は、その収納部に収納された収納容器と、その内壁面との間に形成された窒化硼素または窒化珪素からなる隔壁を有し、前記隔壁と前記焼成容器との間に、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末を混合した詰め粉を配置する詰め粉配置工程を含むことを特徴とする窒化珪素質セラミックス焼結体の製造方法。」 イ 「【0019】 本発明について、その実施形態に基づき図1~6を参照しつつ説明する。なお、以下、窒化珪素質セラミックス焼結体で構成された、半導体装置などの電子部品を搭載する電子・電気的用途に用いられる矩形薄板状の基板(以下窒化珪素基板という場合がある。)を例として、本発明を具体的に説明するが、本発明は、機械構造部品や建築構造部品その他各種の用途に用いられる窒化珪素質セラミックス焼結体に利用できることは言うまでもない。また、本発明は、特に焼結工程を常圧または低圧の窒素雰囲気下で行う窒化珪素質セラミックス焼結体の製造に好適に適用することができるが、焼結工程を高圧の窒素雰囲気下で行う場合にも適用することができる。 【0020】 [組成] 本態様に係わる焼結体で構成された窒化珪素基板は、焼結助剤として、Mg(マグネシウム)を酸化物換算で1.5~5.5重量%、少なくとも1種の希土類元素を酸化物換算で0.5~15重量%含有している。希土類元素の酸化物としては、Y、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等があげられるが、中でもYの酸化物Y2O3は窒化珪素基板の高密度化に有効であり、より好ましい。マグネシウム及び希土類元素は、窒化珪素の柱状粒子を成長させるための焼結助剤として機能するので、含有量が少ないと柱状粒子の成長が不十分で上記長軸方向の長さが短い柱状粒子が多くなる。このため、窒化珪素基板の曲げ強度、破壊靱性等が低下する。一方、マグネシウム及び希土類元素の含有量が多くなると柱状粒子の成長が促進され、上記長軸方向の長さが長い柱状粒子が多くなる。このため、窒化珪素基板の配向度faが大きくなって表面粗度が増大する。本態様の窒化珪素基板では、これらの特性を調整するために、マグネシウム及び希土類元素の各含有量を上記範囲としている。 【0021】 [製造方法] 次に、本態様の焼結体の製造フローを示す図1を参照して、その製造方法について説明する。図1において符号S1は、原料調整・混合工程であり、窒化珪素原料粉にマグネシウムを酸化物換算で1.5~5.5重量%、少なくとも1種の希土類元素を酸化物換算で0.5~15.0重量%の割合となるように混合し、有機バインダー、可塑剤等とともにボールミル等で混合し、原料スラリーを形成する。ここで、希土類元素酸化物としては、上述したY2O3を使用するのが好適である。 【0022】 次いで、成形工程S2である。成形工程S2では、上記混合した原料スラリーを脱泡・増粘した後、ドクターブレード法により所定厚さの板にシート成形する。このときのシート成形体の板厚は、用途に応じて適宜決定できるが、窒化珪素基板の場合には、通常0.1~1.0mm程度である。成形工程S2にて成形された成形体(グリーンシート)は通常大判であるため、切断工程S3により所望の大きさのカード状の成形体となるよう切断される。なお、このカード状の成形体は、最終製品である小片の窒化珪素基板を複数枚含む大きさであり、当該成形体を焼成してカード状の焼結体を作成した後、小片に分割して最終製品としての窒化珪素基板を得ることができる。 【0023】 切断工程S3の後、BN塗布工程S4において成形体の両面または片面に窒化硼素粉末を塗布する。この窒化硼素粉末は、この工程の後の積層工程S5で複数枚積層され、脱脂工程S6を経て焼成工程S8で焼成される際に、窒化珪素基板同士が固着することを防止して剥離性を向上するとともに、窒化珪素基板の変形を抑制する機能を有するものである。なお、窒化硼素粉末としては、その機能の観点から、酸素量0.01~0.5重量%、平均粒子径4~20μm、比表面積20m2/g以下、酸素量0.01~0.5重量%のものを利用することが好ましい。さらに、窒化硼素粉末に含まれる不純物、特に炭素は、窒素ガスに含まれる微量な酸素と結合し一酸化炭素となり、窒化珪素基板の中の窒化珪素成分を還元し、変形を生じせしめる可能性があるので、その含有量は1重量%以下であることが望ましい。さらに、窒化硼素粉末の好ましい塗布量は、0.05~1.4mg/cm2である。また、窒化硼素粉末の塗布方法は特に限定されず、窒化珪素粉末を溶媒と混合してなる溶液をスプレーや筆で成形体の表面に塗布してもよいが、成形体の表面に均一な塗布量で窒化硼素粉末を塗布するためにはスクリーン印刷法で塗布することが好ましい。 【0024】 次いで、積層工程S5である。脱脂工程S6における窒化珪素基板の状態を説明する図でもある図3に示すように、窒化硼素粉末bが表面に塗布された成形体w1は、積層工程S5において、窒化硼素粉末bが塗布された面が互いに接触するように板体1cの上に複数枚積層される。 【0025】 積層工程S5で積層された複数枚の成形体w1は、脱脂工程S6において、成形体w1に含まれるバインダー等の有機成分を除去するために脱脂され、脱脂体w2が形成される。脱脂は、例えば成形体w1を加熱炉または加熱テーブルに置き、900℃以下の大気中、もしくは常圧の窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。ここで、図3に示すように、脱脂工程において、積層された成形体w1を収納容器1に収納し、脱脂を行うことが望ましい。 【0026】 収納容器1は、その正面断面図である図3(a)、図3(a)のA-A断面図である図3(b)に示すように、積層された複数枚の成形体w1が載置される矩形平板状の底体1c(積層工程において成形体w1が積層される板体でもある。)と、底面が底板1cの上面に密着して配置された上下が開口した矩形枠状の壁体1bと、壁体1bの上方開口を塞ぐように配置された矩形平板状の蓋体1aとを有している。そして、壁体1bは、底板1cに載置された成形体w1を包囲するように配置されており、底体1c、壁体1bおよび蓋体1aとで画成される収納室1dに積層された成形体w1は収納されることとなる。ここで、蓋体1aおよび壁体1bまたは底体1cおよび壁体1bとは密着しておらず、微小な間隙が形成されているそれらの界面が通気路1fとなり、当該通気路1fを介し収納室1dと外部とは連通している。したがって、脱脂工程S6において、図中矢印Cで示すように、通気路1fを通じて外気は外部から収納室1dに流入し、成形体から発生するガスは収納室1dから外部に流出するが、収納室1dは、底体1c・壁体1b・蓋体1aで包囲されているので、収納室1dに収納される成形体w1は直接外気に触れることがない。このため、収納容器1の外部の環境において温度・湿度・風速などに変化が生じた場合であっても、収納室1dの中に収納された成形体w1には影響が及びにくく、さらに比較的密閉された収納室1dにおいて成形体w1は均一に加熱されるので、脱脂工程において脱脂体w2の変形(反り)を抑制することができる。 【0027】 なお、収納容器1を構成する底体1c・壁体1b・蓋体1aを形成する材料は、脱脂工程が比較的低温で行われることから、当該材料と成形体w1との反応を考慮する必要性が低く、アルミナやジルコニアその他適宜なセラミックスを利用することができる。また、成形体w1の脱脂のみを考えた場合には、図3(c)に示すように、蓋体1aと底体1cとの間に介在し両者を支える支柱5bを4辺に設け、外気の流通性をより高めた収納容器5を利用してもよい。しかしながら、成形体を収納する収納容器は、脱脂工程S6に引き続く焼成工程S8でも使用されるため、作業の効率性の観点から、脱脂工程S6と焼成工程S8で使用する収納容器は共通の構造としておくことが好ましく、焼成工程S8において焼結体との反応性の低い、窒化珪素または窒化硼素で底体1c・壁体1b・蓋体1aを形成することが望ましい。 【0028】 図1に示すように、本態様の製造方法では、脱脂工程S6の後に準備工程S7が実施される。脱脂工程S6と焼成工程S8との間に介在された準備工程S7は、焼成工程S8で焼成される脱脂体w2を焼成容器2に所定の状態で収納する工程であり、図2に示すように、第1の収納工程S71、第2の収納工程S72、詰め粉配置工程S73の三の工程を含んでいる。以下、準備工程S7の詳細を説明する前に、この工程で使用される焼成容器2および収納容器7の構成について、図4および5を参照しつつ説明する。 【0029】 準備工程S7で使用される収納容器7は、上記脱脂工程S6で使用された収納容器1と基本的に同一の構造である。すなわち、収納容器7は、図3(a)・(b)に示すように、矩形平板状の底体7cと、底面が底板7cの上面に密着して配置された矩形枠状の壁体7bと、壁体7bの上方開口を塞ぐように配置された矩形平板状の蓋体7aとを有し、脱脂された複数枚の脱脂体w2は、底体7c・壁体7b・蓋体7aとで画成される外気が流通可能な収納室7dに収納されている。ここで、脱脂工程の説明でも触れたように、脱脂時に使用する収納容器1は特に材質および構造に限定はないが、準備工程S7に引き続く焼成工程S8では、脱脂体w2が焼成されてなる焼結体w3に含まれる窒化珪素成分および焼結助剤成分と収納容器7を構成する材料の反応性を考慮する必要があり、両者と反応しない材料である窒化珪素または窒化硼素で、底体7c・壁体7b・蓋体7aを形成しなければならない。したがって、収納容器1と7の材料が異なる場合には、脱脂工程S6の後に脱脂体w2を収納容器1から取り出し、収納容器7に移載する必要がある。なお、収納容器1と7とは、上記したように脱脂工程S6と焼成工程S8とで共用することができ、両者ともに窒化珪素または窒化硼素で形成されていれば、脱脂工程S6で説明した収納容器5のような構造を有する収納容器を利用することもできる。 【0030】 準備工程S7で使用される本態様の焼成容器2は、その正面断面図である図4、図4のB-B断面図である図5(a)に示すように、壁部3aを有する加熱炉3の加熱室3bにおいて、その炉床3cに、底面が接する状態で配置される上下ともに開口した断面が矩形枠状の壁体2aと、壁体2aの上部開口を塞ぐように配置される蓋体2bを有し、炉床3c・壁体2a・蓋体2bとで収納部2dが画成される。ここで、蓋体2bと壁体2aは密着しておらず、微小な間隙が形成されているそれらの界面が通気路2fとなり、当該通気路2fを介して収納部2dと加熱室3b(外部)は連通しているので、図中矢印Dで示すように、通気路2fを通じて収納部2dの気体は外部へ流出する。さらに本態様の焼成容器2においては、好ましい態様として、脱脂体w2が通気路2fと対向しないように収納容器7を収納部2dに納めているので、通気路2fを通じ流入してきた外気に脱脂体w2が直接触れることがない。このため、焼成容器2の外部の環境において温度・湿度・風速などに変化が生じた場合であっても、脱脂体w2には影響が及びにくい。なお、脱脂体w2を収めた収納容器7は、図5(a)に示すように、焼成容器2の収納部2dのほぼ中央部の炉床3cの上に配置される。 【0031】 図4および図5(a)において符号2cは隔壁であり、上記の態様で焼成容器2の収納部2dに収納された収納容器7と焼成容器2の壁体2aの内壁面との間に配置されている。筒状である本態様の隔壁2cは、収納容器7を包囲する断面が矩形枠状をなしており、その外壁面と焼成容器2の壁体2aとの間隙2eの底部4辺には、所定量の詰め粉T1が充填された状態で配置される。なお、焼成容器内における隔壁の配置態様は上記に限定されず、図5(b)に平面断面図を示す焼成容器4のように、離別した4枚の隔壁4cを収納容器7の周囲の4辺に配置し、各々の隔壁4cと壁体2aの間隙2eに詰め粉T1を配置してもよい。また、このような隔壁2c・4cを配置することにより、壁体2aと併せ脱脂体2wは2重に外部から隔離されることとなり、外部環境の変化の影響がより及びがたくなる。 【0032】 ここで、脱脂体w2に含まれる窒化珪素および酸化マグネシウムは蒸気圧が高く、常圧または低圧の窒素雰囲気下の焼成では、下記の式1および2の左辺から右辺へ向かう反応により、下記式1の左辺のSi3N4である窒化珪素および下記式2の左辺のMgOである酸化マグネシウムの分解反応が進行し、下記式1および2の右辺のSiOガスおよびMgガスとなり焼成中の脱脂体w2から揮発し、その結果、焼結体の重量損失が生じる。なお、式1左辺のSiO2の供給源は、窒化珪素粒子の表面に形成された酸化シリコン層である。焼成容器2の収納部2dに配置される詰め粉T1は、式1および2の右辺のSiOおよびMgのガス分圧を高め、この窒化珪素および酸化マグネシウムの分解・揮発を抑制するという機能を有する。他の焼結助剤成分である希土類元素酸化物は蒸気圧が比較的低く、脱脂体w2の焼成時に揮発し難いので、必要に応じ詰め粉T1に添加すればよい。 【0033】 Si3N4(s)+3SiO2(l)→6SiO(g)+2N2(g):式1 Si3N4(s)+3MgO(s)→3SiO(g)+3Mg(g)+2N2(g):式2 ここで、s:固相、l:液相、g:気相 【0034】 上記機能を発現させるため、詰め粉T1は、窒化珪素粉末および焼結助剤としての酸化マグネシウム粉末とを含み、好ましくは高温加熱による窒化珪素粉末の凝着を防止するための分散材としての窒化硼素粉末を添加する。焼成容器2の間隙2eに配置された詰め粉T1は、焼成工程における高温下で上記式1および式2の左辺から右辺に向かう反応に従い分解し、SiOガスおよびMgガスが発生する。その結果、収納部2dのSiOおよびMgのガス分圧が高まり、脱脂体w2の焼成時における式1および2の左辺から右辺への進行が抑制され、その結果、焼結体の重量損失が抑制される。 【0035】 なお、詰め粉T1は、窒化珪素粉末と酸化マグネシウム粉末の配合比(酸化マグネシウム粉末/窒化珪素粉末)が、1.0~0.25となるよう構成することが好ましい。酸化マグネシウム粉末/窒化珪素粉末が0.25未満であると脱脂体w2を焼成してなる焼結体w3の重量損失を抑制する充分なSiOガスが生成できず、1.0を超えると雰囲気中のMgO蒸気圧が高くなり窒化珪素焼結体にまで拡散し、MgSiN2が生成し、焼成体w3の強度の低下を招来する。また、窒化硼素粉末を添加する場合には、10~50wt%添加することが好ましい。10wt%未満では窒化珪素粒子の凝着抑制の効果が生じ難く、50wt%を超えると重量損失抑制の効果が得られ難い。加えて、窒化珪素粉末は25~72wt%、酸化マグネシウム粉末を10~45wt%、となるよう構成することが好ましい。 【0036】 焼成容器2の本体部分を構成する壁体2aおよび蓋体2bは、脱脂体w2との反応性が低い材料である窒化硼素質、窒化珪素質または炭素質で構成することが望ましい。特に、下記の理由により、炭素質の材料で形成することが望ましい。すなわち、高温雰囲気にさらされ消耗の激しく交換頻度の高い壁体2aおよび蓋体2bが炭素質の材料で構成することにより低コスト化することが可能になるととともに、酸素との親和性が良いことから焼成容器内が還元雰囲気になり、焼成体中の酸素含有量を低減させて熱伝導特性が良好な焼結体を作製することが可能であるからである。なお、焼成すべき脱脂体w2の周囲に配置される収納容器7および隔壁2cを構成する材料は、脱脂体w2に含まれる窒化珪素と反応しない窒化珪素または窒化硼素とすることが必須である。 【0037】 上記収納容器7および焼成容器2を使用した準備工程71の詳細について、図2、図4および図5(a)を参照して説明する。まず、第1の収納工程S71である(図2参照)。第1の収納工程S71では、上記したように外気が流通可能な収納容器7の収納室7dに脱脂体w2を収納する。なお、脱脂体w2の表面には、BN塗布工程S4で成形体に塗布された窒化硼素粉末がそのままの状態で維持されている。また、収納容器7を、脱脂工程S6で使用した収納容器1と共用する場合には、脱脂体w2を形成する脱脂工程S6において成形体w1を収納容器1に収納する工程が第1の収納工程S71を兼ねることとなる。さらに、収納部7dに収納する脱脂体w2の姿は、図4に示すように複数の脱脂体w2を積層した状態ではなく、1枚であってもよい。 【0038】 次いで、第2の収納工程S72である。第2の収納工程S72では、上記したように外気が流通可能な通気路2fを有する焼成容器2の収納部2dに、脱脂体w2が収納された収納容器7を、好ましくは脱脂体w2が通気路2fと対向しないように、収納する。なお、図4では、複数個の収納容器7を積み重ねて収納部7dに収納しているが、収納容器7は1個だけ収納してもよく、横方向に並列した状態で収納部7dに収納してもよい。また、図示のように収納容器7を重ねて配置する際には、上部の収納容器7の底体1cが下部の収納容器7の蓋体1a(図3参照)となるよう配置してもよい。 【0039】 次いで、詰め粉配置工程S73である。詰め粉配置工程S73では、焼成容器2の隔壁2cと焼成容器2aの間隙2eに、上記説明した詰め粉T1を配置する。詰め粉T1の組成は上記したとおりだが、その充填量は収納容器7に収納された脱脂体w2の質量、収納部2dの容量および焼成工程における焼成条件(焼成温度・焼成時間)などを考慮し、適宜な量、充填すればよい。なお、第1の収納工程S71、第2の収納工程S72および詰め粉配置工程S73は、この順序で実施しなくともよく、例えば、焼成容器2の間隙2eに詰め粉T1を配置した後(詰め粉配置工程)、脱脂体w2を収納容器7に収納し(第1の収納工程)、収納容器7を焼成容器2に収納してもよい(第2の収納工程)。 【0040】 上記準備工程S7に引き続き焼成工程S8を実施する。焼結工程S7では、上記のように焼成容器2に収納された脱脂体w2を、1700~2000℃の温度で、1~20時間、常圧または低圧の窒素雰囲気中で焼成する。この焼成時に、焼成容器2に配置された詰め粉T1は、以下のように作用する。 【0041】 上記したように、窒化珪素粉末および酸化マグネシウム粉末を含む詰め粉T1は、高温下において式1および式2の左辺から右辺に向かう分解反応によりガス化し、その結果、SiOガスおよびMgガスが生成される。このガスは、焼成容器2の収納部2dの内を満たし、SiOガスおよびMgガスの分圧を高め、収納容器7の内に収納された脱脂体w2に含まれる窒化珪素粒子および酸化マグネシウム粒子の式1および2の反応による分解反応が阻止され、焼結体w3の重量損失が防止される。 【0042】 ここで、上記のように収納部2dを満たすSiOガスおよびMgガスの圧力は、加熱炉3の加熱室3b(外部)の圧力よりも高いので、これらのガスは、焼成容器2の蓋体2bおよび壁体2aの間の通気路2fを経て加熱室3bへと流出される。このように通気路2fから流出されるガスにより当該隙間はシールされる。これにより、焼成工程S8の際に、収納部2dは気密化され、加熱室3bの中の窒素ガスに含まれる不純物としての炭素や酸素の収納部2dへの流入が抑制され、脱脂体w2が焼成されてなる焼結体の重量損失がより一層防止される。このように蓋体2bおよび壁体2aの隙間から収納部2dに外気が流入せず、さらに蓋体2bおよび壁体2aにより、ほぼ密閉された収納部2dは外気と直接触れないように構成されており、収納室2dの中の温度は均一に保たれるので、もって焼成体の変形が抑制される。また、加熱室3bには、通例、一定の流量で窒素ガスが吹き込まれるが、脱脂体w2は通気路2fと対向していないので、通気路2fを通じ流入した窒素ガス(外気)が直接脱脂体w2に直接当たることがなく、このガスの圧力による脱脂体w2の変形も抑制される。 【0043】 そして、詰め粉T1は、隔壁2cと壁体1aとの間隙2eに、脱脂体w2とは別離して配置されているので、焼成工程において脱脂体2wに焼き付き、焼結体に残存することが無い。その結果、脱脂体w2が焼成されてなる焼結体について、焼き付いた詰め粉T1を除去する工程が不要となるばかりか、焼き付いた詰め粉T1による窒化珪素基板の不良を回避することができる。また、脱脂体w2が詰め粉T1と直接接触しないことから、詰め粉T1の組成・配置のバラツキによる焼結体w3の変形が防止される。なお、詰め粉の効果を高めるため、間隙2eに配置する詰め粉T1とは別個に、例えば図4に示すように収納容器7の上部に詰め粉T2を別個に設けてもよい。 【0044】 上記焼成工程S8の後に、図1に示すように、必要に応じ熱処理工程S9が置かれる。熱処理工程S9は、焼成時に生じた焼結体の変形を修正し、窒化珪素基板として必要な平坦度を得る工程であり、焼成後の焼結体の変形量が所望の範囲内であれば必要ではない。焼結体を窒化珪素基板として用いる場合、工業生産上において許容される変形量は、概ね2.0μm/mm以下である。熱処理工程S9では、焼成後の焼結体の上に錘体を載せた状態で加熱炉に挿入し、当該錘体より0.2~8.0KPaの荷重(圧力)を焼結体へ鉛直方向に直接負荷し、窒素雰囲気中にて1550~1900℃で加熱する。このように、荷重を印加しながら熱処理することにより、窒化珪素基板の反りを修正することができる。なお、このときの熱処理温度が1550℃よりも低くなると、反りの抑制効果が不十分となり、焼結体の変形がより大きくなる。また、1900℃よりも高くなると、焼結体に含まれる柱状粒子の成長が促進され、柱状粒子の配向度が大きくなって表面粗度が増大する。従って、熱処理温度は上記範囲が好適である。さらに、熱処理の際に印加する荷重が0.2kPaより低い場合には反りの抑制効果が不十分であり、8.0KPaより高い場合には焼結体に含まれる粒界ガラス相の表面浸透が促進され、脱脂体を積層し焼成した場合に、焼結体同士がガラス相により接着される。従って、熱処理の際に印加する荷重は上記範囲が好適である。さらに、焼結体を複数枚重ね積層体とし、その積層体の上に錘体を載せ、熱処理することが好ましい。これにより、焼結助剤である酸化マグネシウムや酸化イットリウム等の揮発量が抑制され、焼結体に含まれる柱状粒子の成長が抑制され、柱状粒子の配向度が過度に高くなることを抑制できる。 【0045】 焼成工程S8または熱処理工程S9の後に、ブラスト加工工程S10を行う。ブラスト加工工程S10では、焼結体の表面にセラミックスからなる砥粒その他メディアを吹きつけ、焼結体の表面から突起した柱状粒子を除去し、表面粗度を低下させる。これにより、回路基板および放熱基板を形成する銅やアルミニウム板を窒化珪素基板の表面に接合し、窒化珪素回路基板を構成するにあたり、接合界面における空孔(ボイド)の発生を抑制せしめることができる。」 3 当審の判断 (1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、前記2(1)アによれば、短軸径が1.0μm以下であり、かつアスペクト比が10以下である窒化ケイ素粒子の面積割合が、窒化ケイ素質焼結体中の全窒化ケイ素粒子の面積の50~100%であり、窒化ケイ素粒子内の酸素量が0.1wt%以下、かつ焼結助剤成分量が0.05wt%以下であり、常温における熱伝導率が90W/(m・K)以上、常温における3点曲げ強度が600MPa以上である高熱伝導窒化ケイ素質焼結体が記載されている。そして、甲第1号証の実施例欄には、前記2(1)ウによれば、前記面積割合、前記酸素量、前記焼結助剤成分量、前記熱伝導率、前記3点曲げ強度、及び、密度が特定された高熱伝導窒化ケイ素質焼結体の具体例が記載されている。 これらの記載事項を、前記2(1)ウに摘記した試料No.3の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「短軸径が1.0μm以下であり、かつアスペクト比が10以下である窒化ケイ素粒子の面積割合が、窒化ケイ素質焼結体中の全窒化ケイ素粒子の面積の70%であり、窒化ケイ素粒子内の酸素量が0.08wt%、かつ焼結助剤成分量が0.015wt%であり、常温における熱伝導率が100W/(m・K)、常温における3点曲げ強度が800MPa、密度が99.2%である高熱伝導窒化ケイ素質焼結体。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」は、本件発明1の「窒化ケイ素焼結体」に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、「窒化ケイ素焼結体」の点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点1) 本件発明1は、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下である」のに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。 (イ) 相違点の検討 a まず、相違点1が実質的なものであるかを検討する。 甲第1号証には、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度」や当該凹凸度が0.9以上である「ボイドの個数」について何ら記載されていない。 また、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」は、前記2(1)ウによれば、酸素含有量が0.3~1.5wt%で、平均粒径0.5μmの窒化ケイ素粉末に、焼結助剤として、平均粒径0.2μmの酸化マグネシウム粉末を0.4wt%、平均粒径0.2~2.0μmのY2O3を0.4wt%添加し、適量の分散剤を加えて、エタノール中で粉砕混合し、真空乾燥後、目開き150μmの篩を通して造粒し、圧力3トンのCIP成形によりディスク状の成形体を得て、この成形体を窒化ホウ素製の焼成容器に挿入し、窒化ケイ素粉末が50重量部、窒化ホウ素粉末が25重量部及び酸化マグネシウム粉末が10重量部の混合粉末の詰粉を用いて、1900℃、0.9MPaの窒素ガス雰囲気中で5時間焼成して得られたものである。 しかしながら、このような方法で得られた高熱伝導窒化ケイ素質焼結体について、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下」となっていることを示す証拠はない。 したがって、相違点1は実質的な相違点である。 b 次に、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることの容易想到性について検討すると、甲第1号証には、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度」や当該凹凸度が0.9以上である「ボイドの個数」を調整することは記載も示唆もされていない。 したがって、甲第1号証の記載を参酌しても、甲1発明において、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ) 申立人の主張について a 申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書の第15~21頁において、以下の点を主張している。 (a) 本件明細書の【0018】、【0032】、【0037】、【0038】、【0049】及び【0050】の記載によれば、以下の条件(i)~(iii)が満たされることで、ボイド形状の凹凸が小さくなり、その結果、本件発明1で特定された性状を備える窒化ケイ素焼結体が得られるものと解される。 (i)焼結工程において、1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)× 50≦2200とすること (ii)焼結工程において、製造する窒化ケイ素焼結体のSiO2の揮発を抑 制すること (iii)焼結助剤は少なくともMgO又はMgSiN2を含有し、SrOを 含有しないこと これに対して、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」は、本件明細書に記載された本件発明1を製造するための条件(i)~(iii)を全て満たしている。 (b) また、本件明細書によれば、本件発明に係る窒化ケイ素焼結体の密度は98%以上、熱伝導率は70W/m・K以上、3点曲げ強度は600MPa以上とされているところ、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」の密度、熱伝導率、3点曲げ強度は、本件発明1に係る窒化ケイ素焼結体と同等かそれ以上である。 (c) このため、甲1発明は、本件発明1の性状を備える蓋然性が高い。 b 申立人の主張の検討 (a) 前記a(a)について検討すると、本件明細書には次の記載がある。 「【0018】 1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200とすることにより、焼結が実現されるとともに、焼結中のSiO2の揮発が抑制されて、粒界相の結晶化が抑制される。焼結助剤で形成される粒界相をアモルファス構造とすることにより、焼結後の冷却時に、体積収縮が小さくなるとともに、焼結助剤がより低温まで液相として存在して窒化ケイ素結晶粒間の狭い部分まで行き渡るため、窒化ケイ素焼結体中のボイドが少なくなり、窒化ケイ素焼結体の内部応力が減少して反りが小さくなる。また、ボイド形状の凹凸が小さくなる。 また、焼結工程において、焼成用の閉鎖状態の筐体内に、製造する窒化ケイ素焼結体とは別体の予め焼結した板状の窒化ケイ素焼結体(以下「ダミー窒化ケイ素焼結体」という。)を配置すると、焼成時にダミー窒化ケイ素焼結体のSiO2が揮発することにより、製造する窒化ケイ素焼結体のSiO2の揮発が抑制されるので、これによっても結晶化が抑制され、また、焼結密度の低下が防止される。ダミー窒化ケイ素焼結体は、製造する窒化ケイ素焼結体と、同一組成である必要はないが、同一助剤系であることが好ましい。 ・・・」 「【0037】 (iii)グリーンシートの焼結工程 実施例1~21については、BN製の底板にグリーンシート積層体を配置し、その上にBN製のセッターを置き、セッターの上に載荷体としてタングステン製ブロックを置き、載荷体の上に上述した板状のダミー窒化ケイ素焼結体を配置した。 次いで、前記底板にBN製の側板及び天板を設置して、閉鎖状態の筐体を組み立てた。こうしてグリーンシート等を内包した筐体を焼成炉に入れ、焼成炉内を0.9MPaの窒素雰囲気とした。筐体は、完全な密閉ではなく、窒素が流入しうる程度の閉鎖状態なので、筐体内も0.9MPaの窒素雰囲気となる。 【0038】 この状態で、各例について、表1~2に示す焼成温度で焼成時間加熱することで、グリーンシート積層体を焼結させ、焼結後の積層体を1枚ずつの窒化ケイ素焼結体に分離した。分離した窒化ケイ素焼結体について、ホーニングによってBN離型材の除去を行った。ホーニング後の窒化ケイ素焼結体の外周4辺をダイヤモンドスクライバーでブレーク処理を行い、最終的に得られた窒化ケイ素焼結体の形状寸法は、長方形板状の139.6mm×190.5mm×0.32mmであった。 実施例1~21では、焼成温度を1830~1920℃の範囲とし、次の式1を満たすように比較的短時間、焼結した。 1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200・・・(式1)」 「【0050】 実施例1~21は、凹凸度が0.9以上のボイドが10%以上を占め、凹凸度が0.8以上のボイドが30%以上を占めていた。 ・・・」 これらの記載によれば、本件発明1の「窒化ケイ素焼結体」は、焼成工程において、焼成温度及び焼成時間を「1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200」とすると共に、閉鎖状態の筐体内に「ダミー窒化ケイ素焼結体」を配置することで、製造する窒化ケイ素焼結体のSiO2の揮発を抑制して、ボイドの凹凸形状を小さくしているものといえる。 これに対して、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」は、前記(イ)aに示したとおり、窒化ケイ素粉末が50重量部、窒化ホウ素粉末が25重量部及びMgO粉末が10重量部の混合粉末の詰粉を用いて、1900℃、9気圧の窒素ガス雰囲気中で5時間焼成して得られたものであり、焼成温度及び焼成時間は、「焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50」を算出すると2150となるため、「1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200」を満たすものの、「ダミー窒化ケイ素焼結体」は使用していない。 また、甲第1号証の【0025】に「焼成雰囲気調整のために窒化ケイ素、窒化ホウ素および酸化マグネシウムからなる混合粉末を詰粉として用いた場合には、主成分であるSi3N4成分が、焼成時に」「(1) Si3N4(s)+3SiO2(L)→SiO(g)+2N2(g) 等の反応によるSi3N4成分自身の分解を抑制することができる。」(前記2(1)イ参照)と記載されていることから、上記詰粉は、窒化ケイ素焼結体からのSiO2揮発を抑制するものといえるが、SiO2揮発の抑制の程度が「ダミー窒化ケイ素焼結体」と同じであることを示す証拠はない。 したがって、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」は、本件明細書に記載された本件発明1を製造するための条件を全て満たしているといえない。 (b) 次に、前記a(b)について検討すると、窒化ケイ素焼結体の表面のボイド形状は、密度、熱伝導率、及び3点曲げ強度によって一義的に定まるものであるとはいえないから、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」の密度、熱伝導率、及び3点曲げ強度が、本件発明1と同等かそれ以上であるとしても、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」が、本件発明1の性状を備えているといえない。 (c) 以上のとおりであるから、甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」が、本件発明1で特定された性状、すなわち、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えているとはいえない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 (エ) 小括 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 本件発明2について (ア) 本件発明2と甲1発明との対比 甲1発明の「高熱伝導窒化ケイ素質焼結体」は、本件発明2の「窒化ケイ素焼結体」に相当する。 したがって、本件発明2と甲1発明とは、「窒化ケイ素焼結体」の点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点2) 本件発明2は、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.8以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の30%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下である」のに対して、甲1発明は、その点が明らかでない点。 (イ) 相違点の検討 相違点2について検討すると、前記イ(イ)での相違点1に対する検討と同様の理由により、相違点2は実質的な相違点といえるし、また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ) 小括 したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ 本件発明3~6について 本件発明3~6は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含むものであるから、前記イ又はウで検討したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 オ 申立理由1についての結論 以上の検討のとおり、申立理由1に理由はない。 (2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について ア 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には、前記2(2)アによれば、窒化珪素質セラミックス焼結体の製造方法が記載されており、前記2(2)イによれば、その実施態様として、窒化珪素質セラミックス焼結体で構成された矩形薄板状の窒化珪素基板の製造方法が記載されている。 これらの記載事項を、「窒化珪素基板」に注目して整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「窒化珪素原料粉にマグネシウムを酸化物換算で1.5~5.5重量%、Y2O3を0.5~15.0重量%の割合となるように混合し、有機バインダー、可塑剤等とともに混合して、原料スラリーを形成する原料調整・混合工程S1と、 前記原料スラリーを脱泡・増粘した後、ドクターブレード法により所定厚さのグリーンシートを成形する成形工程S2と、 前記グリーンシートを所望の大きさのカード状の成形体となるよう切断する切断工程S3と、 前記成形体の両面又は片面に窒化硼素粉末を塗布する切断工程S4と、 前記窒化硼素粉末が表面に塗布された成形体を複数枚積層する積層工程S5と、 前記積層された複数枚の成形体を加熱炉又は加熱テーブルに置き、900℃以下の大気中、常圧の窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中でバインダー等の有機成分を除去して脱脂体を形成する脱脂工程S6と、 外気が流通可能な収納容器の収納室に前記脱脂体を収納する第1の収納工程S71と、 外気が流通可能な通気路を有する焼成容器の収納部に、前記脱脂体が収納された前記収納容器を収納する第2の収納工程S72と、 前記焼成容器は、前記収納容器と内壁面との間に形成された隔壁を有し、前記隔壁と前記焼成容器との間に、窒化珪素粉末及び酸化マグネシウム粉末を混合した詰め粉を配置する詰め粉配置工程S73と、 前記焼成容器に収納された前記脱脂体を、1700~2000℃の温度で、1~20時間、常圧又は低圧の窒素雰囲気中で焼成して焼成体とする焼結工程S8と、 前記焼結体の表面にセラミックスからなる砥粒を吹きつけ、前記焼結体の表面から突起した柱状粒子を除去し、表面粗度を低下させるブラスト加工工程S10とからなる製造方法により得られた、窒化珪素質セラミックス焼結体で構成された窒化珪素基板。」 イ 本件発明1について (ア) 本件発明1と甲2発明との対比 甲2発明の「窒化珪素質セラミックス焼結体で構成された窒化珪素基板」は、本件発明1の「窒化ケイ素焼結体」に相当する。 したがって、本件発明1と甲2発明とは、「窒化ケイ素焼結体」の点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点3) 本件発明1は、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下である」のに対して、甲2発明は、その点が明らかでない点。 (イ) 相違点の検討 a まず、相違点3が実質的なものであるかを検討する。 甲第2号証には、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度」や当該凹凸度が0.9以上である「ボイドの個数」について何ら記載されていない。 また、甲2発明の「窒化珪素基板」が「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下」となっていることを示す証拠はない。 したがって、相違点3は実質的な相違点である。 b 次に、甲2発明において、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることの容易想到性について検討すると、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度」や当該凹凸度が0.9以上である「ボイドの個数」を調整することは記載も示唆もされていない。 したがって、甲第1号証及び甲第2号証の記載を参酌しても、甲2発明において、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下」とすること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ) 申立人の主張について a 申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書の第23~25頁において、甲2発明の窒化珪素基板の製造条件は、前記(1)イ(ウ)a(a)に示した条件(i)~(iii)と重複することから、甲2発明は、本件発明1の性状を備える蓋然性が高い旨を主張している。 b 申立人の主張の検討 前記(1)イ(ウ)b(a)で検討したとおり、本件発明1の「窒化ケイ素焼結体」は、焼成工程において、焼成温度及び焼成時間を「1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200」とすると共に、閉鎖状態の筐体内に「ダミー窒化ケイ素焼結体」を配置することで、製造する窒化ケイ素焼結体のSiO2の揮発を抑制して、ボイドの凹凸形状を小さくしているものといえる。 これに対して、甲2発明は、「前記焼成容器は、前記収納容器と内壁面との間に形成された隔壁を有し、前記隔壁と前記焼成容器との間に、窒化珪素粉末及び酸化マグネシウム粉末を混合した詰め粉を配置する詰め粉配置工程S73」と、「前記焼成容器に収納された前記脱脂体を、1700~2000℃の温度で、1~20時間、常圧又は低圧の窒素雰囲気中で焼成して焼成体とする焼結工程S8」とを含む製造方法により得られたものであるところ、「焼成工程S8」における焼成温度及び時間は、全ての範囲で「1930≦焼成温度(℃)+焼成時間(hr)×50≦2200」を満たしていない。 また、甲2発明は、焼成する際に「窒化珪素粉末及び酸化マグネシウム粉末を混合した詰め粉」を使用しているものの、「ダミー窒化ケイ素焼結体」は使用していないし、さらに、当該詰め粉によるSiO2揮発の抑制の程度が「ダミー窒化ケイ素焼結体」と同じであることを示す証拠はない。 したがって、甲2発明の「窒化珪素基板」は、本件明細書に記載された本件発明1を製造するための条件を全て満たしているといえないから、本件発明1で特定された性状、すなわち、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を備えているとはいえない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 (エ) 小括 したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ 本件発明2について (ア) 本件発明2と甲2発明との対比 甲2発明の「窒化珪素質セラミックス焼結体で構成された窒化珪素基板」は、本件発明2の「窒化ケイ素焼結体」に相当する。 したがって、本件発明2と甲2発明とは、「窒化ケイ素焼結体」の点で一致し、以下の点で相違している。 (相違点4) 本件発明2は、「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.8以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の30%以上を占め、かつ、当該凹凸度の平均値が0.73以上0.86以下である」のに対して、甲2発明は、その点が明らかでない点。 (イ) 相違点の検討 相違点4について検討すると、前記イ(イ)での相違点3に対する検討と同様の理由により、相違点4は実質的な相違点といえるし、また、甲2発明において、相違点4に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものでない。 (ウ) 小括 したがって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ 本件発明3~6について 本件発明3~6は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含むものであるから、前記イ又はウで検討したのと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 オ 申立理由2についての結論 以上の検討のとおり、申立理由2に理由はない。 (3) 申立理由3(明確性要件違反) ア 明確性要件充足性の判断 本件請求項1の「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.9以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の10%以上を占め」との記載における「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面」は、その記載からして、凹凸度を測定する際の測定面を特定していることは明らかであるから、当該記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえない。 また、本件請求項2の「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面の任意の少なくとも一つの64μm×48μmのエリアにおいて、ボイドの輪郭線内の面積をボイドの包絡線内の面積で除して算出される凹凸度が0.8以上であるボイドの個数が、ボイドの全個数の30%以上を占め」との記載における「窒化ケイ素焼結体の表面を50μm以上研磨した研磨面」についても同様である。 そして、本件請求項1~6のその余の記載をみても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確な記載は見当たらない。 したがって、本件請求項1~6の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件に適合する。 イ 申立理由3についての結論 以上の検討のとおり、申立理由3に理由はない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700698

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