特許異議申立
2023-700870
窒化ケイ素エッチング液組成物
- 審判番号
- 2023-700870
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-041726
- 登録番号
- 7233252
- 請求日
- 2023年08月24日
- 審決日
- 2024年03月29日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】関東化学株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人葛和国際特許事務所
- 【異議申立人】石井 健治
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 市川 武宜
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1652.113-YAA(H01L) / P1652.121-YAA(H01L) / P1652.537-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第126条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7233252号発明「窒化ケイ素エッチング液組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7233252号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7233252号の請求項1~4、7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7233252号の請求項1~7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成31年3月7日を出願日とする出願であって、令和5年2月24日にその特許権の設定登録がされ、同年3月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 5年 8月24日 : 特許異議申立人石井健治(以下、「申立人」という。)による請求項1~4、7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 5年11月29日付け: 取消理由通知書
令和 6年 1月25日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の提出
令和 6年 2月26日 : 申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
請求項1に係る「3D不揮発性メモリセルを製造するための窒化ケイ素エッチング液組成物であって、」を、「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための窒化ケイ素エッチング液組成物であって、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~7も同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正の目的
訂正事項1による訂正は、令和5年11月29日付け取消理由通知書の「第2 取消理由1(明確性)について」で通知した、「エッチングする工程に用いられるエッチング液組成物は、エッチング対象の材料とエッチング対象ではない他の材料とが混在する場合や、エッチング対象の材料のみが存在する場合など、そのエッチング条件に応じた最適な組成や濃度が存在し、たとえ、目的とするエッチング対象の材料が同じであっても、そのエッチング条件に適したエッチング液組成物の組成や濃度が異なることもまた、本件特許の出願前における技術常識である。そうすると、「請求項1の「3D不揮発性メモリセルを製造するための」は、エッチング条件に適したエッチング液組成物の組成や濃度を特定する記載ではないから、「窒化ケイ素エッチング液組成物」という物の如何なる特徴(構成)を特定する表現なのか不明であり、明確とはいえない。」との取消理由を解消するために、「窒化ケイ素エッチング液組成物」において、「3D不揮発性メモリセルを製造するための」を「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための」と訂正することにより、3D不揮発性メモリセルの製造のうち、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするのに適したエッチング液組成物であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の記載を明瞭にしようとするものである。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
(2)新規事項の有無
訂正事項1による訂正は、本件特許に係る願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0004】の「3DNANDフラッシュメモリの製造方法の一例としては、(1)二酸化ケイ素(SiO2)と窒化ケイ素(Si3N4)が交互に積層された基板において、(2)ドライエッチングによりホールを形成し、(3)該ホール中に絶縁膜(SiO2)で覆われたゲート電極(p-Si電極)を埋め込み、(4)ドライエッチングにより積層膜に溝(間隔)を形成し、(5)基板表面にイオン注入を行って不純物領域を形成し、(6)ウェットエッチングによりSi3N4をエッチングし、(7)露出した基板およびSiO2表面にバリアメタルとしてTiN、電極としてWを製膜し、(8)混酸によってTiNおよびWを一括でエッチングする工程を経る。」との記載と、本件特許に係る願書に添付した図面(以下、「本件図面」という。)の図3から、エッチング対象となる基板が、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層されて構成されていることが見て取れること、に基づくものである。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)のとおり、訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正後の請求項1~7に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための窒化ケイ素エッチング液組成物であって、
リン酸と1種または2種以上のシランカップリング剤と水とを含み、
アンモニウムイオンを含まず、
シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン、[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン、N-[2-(N-ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-[8-(トリメトキシシリル)オクチル]エタン-1,2-ジアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-ブタンアミン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-[(1,3-ジメチルブチリデン)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランおよびN,N-ビス[(ジフェニルホスフィノ)メチル]-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミンからなる群から選択される、前記エッチング液組成物。
【請求項2】
リン酸を60~95重量%、シランカップリング剤を0.01~10重量%含む、請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
1種または2種以上の水溶性極性有機溶媒をさらに含む、請求項1または2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
水溶性極性有機溶媒が、メタノール、エタノールおよびアセトンからなる群から選択される、請求項3に記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
無機ケイ酸塩をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
無機ケイ酸塩が、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムである、請求項5に記載のエッチング液組成物。
【請求項7】
3D不揮発性メモリセルを製造する方法であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載のエッチング液組成物を用いて、窒化ケイ素をエッチングすることを含む、前記方法。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~4、7に係る特許に対して、当審が令和5年11月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(明確性)について
本件訂正前の請求項1~4、7は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、本件訂正前の請求項1~4、7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由2(新規性)について
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
3 取消理由3(進歩性)について
本件訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~2に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2018-182312号公報
第5 当審の判断
1 取消理由1(明確性)について
(1)3D不揮発性メモリセルの製造においては、複数のエッチングを含む多種多様な製造工程を経ることが本件特許の出願前における技術常識であるところ、本件訂正後の請求項1に記載の「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための窒化ケイ素エッチング液組成物」は、「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための」エッチング条件に適した組成や濃度を有する「窒化ケイ素エッチング液組成物」であるといえ、3D不揮発性メモリセルの製造における、他のエッチングを含む製造工程に用いる「窒化ケイ素エッチング液組成物」とは異なるものであり、明確である。
また、本件訂正後の請求項1を引用する本件訂正後の請求項2~4、7についても同様である。
よって、本件訂正後の請求項1~4、7に係る発明は明確である。
(2)申立人の主張について
申立人は、令和6年2月26日に提出した意見書の第2ページ下から第5行~第3ページ第3行、同ページ第7~9行において、「訂正事項1は、被申立人も自認しているように、窒化ケイ素エッチング液組成物の用途としての特定が不十分であったものをさらに特定したもの過ぎない。そして、このような特定は、取消理由通知で指摘されている「エッチング条件に適したエッチング液組成物の組成や濃度を特定する記載」ではないから、「窒化ケイ素エッチング組成物」という物の特徴(構成)を特定したものとは到底言えない。言い換えれば、本件特許においては、用途を特定したことで物の特徴(構成)を特定したことにはならない。」、及び、「以上の理由から、訂正後の請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2~4、7に係る発明は依然として明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」旨主張している。
また、上記意見書の第3ページ第10行~第22行において、訂正事項1は、窒化ケイ素エッチング液組成物の用途としての特定をさらに特定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当し、訂正の目的が、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであったとしても、同時に特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する場合、独立特許要件が課されることを付言する旨主張している。
しかしながら、上記(1)、及び、上記第2の2(1)のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
2 取消理由2(新規性)、及び、取消理由3(進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には次の記載がある(下線部は当審による。)。
「【0001】
本発明は、シリコン窒化膜エッチング用組成物に関する。より詳細には、本発明は、ウェットエッチングによってシリコン窒化膜を選択的にエッチングすることができるエッチング用組成物に関する。」
「【0056】
表1に示す組成でエッチング用組成物を調製した後、この組成物の、シリコン窒化膜(SIN)及びシリコン酸化膜(TEOS)に対するエッチング速度(E/R)を測定した。表1において、シラン1はシリコンオルトホスフェート、シラン2は3-アミノプロピルトリエトキシシラン、シラン3はヘキサメチルジシラザンである。」
「【0058】
【表1】
[図:0001411336000001.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された事項
(ア)前記アの【0001】によれば、甲第1号証は、シリコン窒化膜エッチング用組成物に関するものである。
(イ)前記アの【0056】によれば、同【0058】の【表1】は、【表1】に示す組成でエッチング用組成物を調製後、各エッチング用組成物の、シリコン窒化膜(SIN)及びシリコン酸化膜(TEOS)に対するエッチング速度(E/R)を測定した結果を示すものであり、【表1】において、シラン2は3-アミノプロピルトリエトキシシランである。
(ウ)前記アの【0058】の【表1】によれば、「比較例3」の組成は、85重量%のリン酸、1重量%のシラン2、及び、残部の水からなる、エッチング用組成物である。
また、同【0056】によれば、シラン2は、3-アミノプロピルトリエトキシシランであるから、「比較例3」は、85重量%のリン酸、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランと、残部の水からなる、エッチング用組成物である。
そして、同【0058】の【表1】によれば、「実施例1」、「実施例2」、及び、「比較例3」について、シリコン窒化膜(SIN)及びシリコン酸化膜(TEOS)に対するエッチング速度(E/R)は、それぞれ、73.47(Å/min)、71.26(Å/min)、及び、71.20(Å/min)であり、「比較例3」のエッチング用組成物は、「実施例1」及び「実施例2」のシリコン窒化膜エッチング用組成物と同程度のエッチング速度を有し、シリコン窒化膜をエッチングすることができるエッチング用組成物であるといえるから、シリコン窒化膜エッチング用組成物である。
ウ 甲第1号証に記載された発明
前記イの記載事項から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリコン窒化膜エッチング用組成物であって、
85重量%のリン酸、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシラン、残部の水からなる、
シリコン窒化膜エッチング用組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「リン酸」は、本件発明1の「リン酸」に相当する。また、甲1発明の「水」は、本件発明1の「水」に相当する。
(イ)甲1発明の「3-アミノプロピルトリエトキシシラン」は、本件発明1の「1種または2種以上のシランカップリング剤」であり、「シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン、[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン、N-[2-(N-ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-[8-(トリメトキシシリル)オクチル]エタン-1,2-ジアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-ブタンアミン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-[(1,3-ジメチルブチリデン)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランおよびN,N-ビス[(ジフェニルホスフィノ)メチル]-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミンからなる群から選択される」うちの「3-アミノプロピルトリエトキシシラン」に相当する。
(ウ)甲1発明の「シリコン窒化膜エッチング用組成物」は、窒化ケイ素をエッチングする液体のエッチング用組成物であるといえるから、本件発明1の「窒化ケイ素エッチング液組成物」に相当する。
(エ)甲1発明の「シリコン窒化膜エッチング用組成物」は、「85重量%のリン酸と、1重量%の3-アミノプロピルトリエトキシシランと、残部の水からなる」ものであり、「アンモニウムイオン」等の他の成分を含むものではないといえるから、本件発明1の「窒化ケイ素エッチング液組成物であって、」「アンモニウムイオンを含ま」ないものに相当する。
(オ)以上によれば、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「窒化ケイ素エッチング液組成物であって、
リン酸と1種または2種以上のシランカップリング剤と水とを含み、
アンモニウムイオンを含まず、
シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ[3-(メチルアミノ)プロピル]シラン、[3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、トリメトキシ[3-(フェニルアミノ)プロピル]シラン、N-[2-(N-ビニルベンジルアミノ)エチル]-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-[8-(トリメトキシシリル)オクチル]エタン-1,2-ジアミン、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-1-ブタンアミン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-[(1,3-ジメチルブチリデン)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランおよびN,N-ビス[(ジフェニルホスフィノ)メチル]-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミンからなる群から選択される、前記エッチング液組成物。」
<相違点>
本件発明1は、「窒化ケイ素エッチング液組成物」の用途について、「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための」であるのに対し、甲1発明は、そのような特定を有しない点。
イ 相違点についての判断
甲1発明の「窒化ケイ素エッチング液組成物」は、上記(1)イ(ウ)のとおり、「比較例3」のエッチング用組成物である。
そして、上記(1)イのとおり、上記【表1】には、上記【表1】に示す組成でエッチング用組成物を調製した後、この組成物の、シリコン窒化膜(SIN)及びシリコン酸化膜(TEOS)に対するエッチング速度(E/R)を測定した結果が記載されているが、上記【表1】に示す組成の「比較例3」のエッチング用組成物、すなわち、甲1発明の「窒化ケイ素エッチング液組成物」を、「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための」ものとして用いることは、甲第1号証には記載も示唆もされていない。
また、3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングすることが、本件特許の出願日前における周知技術であるとしても、甲1発明の「窒化ケイ素エッチング液組成物」は、「比較例3」のエッチング用組成物、すなわち、上記【表1】の「実施例1」及び「実施例2」の効果を実証するために用いた比較用のエッチング用組成物であるから、甲1発明において、上記周知技術を採用する動機付けは存在しない。
よって、上記相違点は、実質的なものであり、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、7について
本件発明2~4、7は、上記相違点に係る本件発明1の構成を有しているから、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
申立人は、令和6年2月26日に提出した意見書の第5ページ第2行~第7ページ第1行において、甲第1号証には、「シリコン窒化膜エッチング用組成物を、3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするために用いること」が示唆されており、シリコン窒化膜エッチング用組成物を3D不揮発性メモリセルの製造に用いることは、甲第1号証の記載の他、甲第3号証に記載されているとおり周知の事項であるから、本件発明1は甲1発明と同一であり、新規性を有さないこと、及び、本件発明1の課題は甲第3号証の記載から自明であり、本件発明1は、甲1発明及び甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を有さないものである旨主張している。
しかしながら、上記(2)イのとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人は、証拠として甲第1号証~甲第5号証を提出し、以下の理由により、請求項1~4、7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(進歩性)
本件訂正前の請求項1~4、7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~4、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件訂正前の請求項1~4、7は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件訂正前の請求項1~4、7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 申立理由1(進歩性)について
(1)甲第2号証~甲第5号証の記載事項
ア 甲第2号証(韓国公開特許第10-2017-0009240号公報)の記載事項
甲第2号証の【0035】には、以下が記載されている。(なお、日本語の記載として、特許異議申立書に添付された甲第2号証の翻訳文を援用した。)
「【0035】
[図:0001411336000002.jpg]
」
イ 甲第3号証(特表2020-503664号公報)の記載事項
甲第3号証には、以下が記載されている。
「【0023】
したがって、本発明は、酸化膜に対して窒化膜の選択的除去が要求される半導体製造工程、例えば、フラッシュメモリ素子の素子分離工程、3Dフラッシュメモリ素子のパイプチャネル(pipechannel)形成工程、相変化メモリのダイオード形成工程などといった様々な工程に広く適用され、プロセス効率を向上させることができる。」
「【0270】
[調製例:エッチング用組成物の調製]
<実施例1>
第1無機酸としてリン酸(85%水溶液)を99重量%、第1添加剤としてジメチルジメトキシシラン1重量%を混合して、エッチング用組成物を調製した。」
ウ 甲第4号証(特開2016-92392号公報)の記載事項
甲第4号証には、以下が記載されている。
「【請求項20】
前記窒化膜エッチング組成物は、シラン化合物、フッ酸およびフッ化アンモニウムを含まないことを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。」
エ 甲第5号証(特開2018-207108号公報)の記載事項
甲第5号証には、以下が記載されている。
「【請求項1】
マイクロ電子デバイスから、酸化ケイ素に対して窒化ケイ素を選択的に除去するのに適したエッチング溶液であって、
水と、
リン酸と、
ヒドロキシル基含有溶媒とを含むエッチング溶液。
【請求項2】
前記ヒドロキシル基含有溶媒が、アルカンジオール又はポリオール、グリコール、アルコキシアルコール、飽和脂肪族一価アルコール、不飽和非芳香族一価アルコール、及び環構造を含有するアルコールからなる群より選択される、請求項1に記載のエッチング溶液。」
「【請求項6】
前記ヒドロキシル基含有溶媒が飽和脂肪族一価アルコールであり、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-ペンタノール、t-ペンチルアルコール、及び1-ヘキサノールからなる群より選択される、請求項2に記載のエッチング溶液。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明は、上記第5の2(2)ア(オ)で述べた、一致点及び相違点を有する。
イ 相違点についての判断
上記第5の2(2)イのとおり、甲1発明の「窒化ケイ素エッチング液組成物」を、「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための」として用いることは、甲第1号証には記載も示唆もされておらず、さらに、甲1発明の「窒化ケイ素エッチング液組成物」は、上記【表1】の「実施例1」及び「実施例2」の効果を実証するために用いた比較用のエッチング用組成物であるから、甲第2号証~甲第5号証の記載事項を踏まえても、甲1発明の「窒化ケイ素エッチング液組成物」を、「3D不揮発性メモリセルの製造において、二酸化ケイ素と窒化ケイ素とが交互に複数積層された基板の窒化ケイ素をエッチングするための」として用いる動機付けは存在しない。
したがって、本件発明1は、甲1発明、及び、甲第2号証~甲第5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第14ページ第1行~第16ページ第13行において、本件発明1は、「アンモニウムイオンを含まず、」との構成要件1Cを備えるものであるのに対し、甲第1号証では、文言上そのような特定がなされていない点で、本件発明1と相違するが、甲第1号証の比較例3のように、アンモニウムイオンを含まないエッチング組成物は既に知られたものであり、さらに、エッチング液組成物を調整するにあたり、アンモニウムイオンを含まないように処方することは、文言上特定されていなくとも、甲第1号証に記載されているに等しく、甲第2号証~甲第4号証の記載からも明らかであるから、本件発明1は、甲第1号証~甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が適宜なし得たことである旨主張している。
しかし、本件発明1と甲1発明との相違点、及び、その相違点の判断については、上記(2)ア、及び、上記(2)イのとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)申立人は、令和6年2月26日に提出した意見書の第7ページ第2行~第8ページ第7行、及び、特許異議申立書の第18ページ下から第6行~第19ページ第17行において、本件明細書の【0041】の表1に示されている実施例1~14のエッチング液組成物と、比較例1~2のエッチング組成物は、何れもアンモニウムイオンを含まないものであり、アンモニウムイオンの有無について検討したものではないから、「アンモニウムイオンを含まない」という構成を以って、Si3N4/SiO2エッチング選択比が大きくなり、SiO2のリグロース(酸化膜成長)を抑制することができ、SiO2膜のパターン倒壊を抑制できるか分からず、本件特許は、当業者が本件特許の課題を解決できると認識できる範囲のものでるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定されたサポート要件を満たしていない旨主張している。
(2)本件明細書の【0008】には、発明が解決しようとする課題として、「そこで、本発明者らは、3D不揮発性メモリセルの製造において、SiO2に対する実用的なエッチング選択比をもってSi3N4を選択的にエッチングした上で、SiO2のリグロースを抑制することができ、なおかつSiO2膜のパターン倒壊を抑制し得る窒化ケイ素エッチング液組成物を提供することを課題として検討を進めた。」と記載されており、さらに、本件明細書の【0009】には、「上記課題を解決すべく鋭意研究する中で、本発明者らは、リン酸と1種または2種以上のシランカップリング剤と水とを含み、アンモニウムイオンを含まない、窒化ケイ素エッチング液組成物が、3D不揮発性メモリセルの製造において、SiO2に対する実用的なエッチング選択比をもってSi3N4を選択的にエッチングした上で、SiO2のリグロースを抑制することができ、なおかつSiO2膜のパターン倒壊を抑制し得ることを見出し、また、該エッチング液組成物が無機ケイ酸塩をさらに含む場合、SiO2に対するSi3N4のエッチング選択比をより向上させることができることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。」(下線部は当審による。)と記載されており、本件特許は、アンモニウムイオンを含まない窒化ケイ素エッチング液組成物を用いて、本願の課題である、SiO2に対する実用的なエッチング選択比をもってSi3N4を選択的にエッチングした上で、SiO2のリグロースを抑制することができ、なおかつSiO2膜のパターン倒壊を抑制し得ることを解決するものである。
ここで、本件明細書の【0005】によれば、エッチング液組成物中のアンモニウムイオンは、Si(OH)xと結合して、水溶性の化合物を形成することで、SiO2のリグロースを抑制するものであり、本件特許は、SiO2のリグロースを抑制するために必要なアンモニウムイオンを含まないエッチング液組成物であっても、本願の課題を解決することができる発明であり、「アンモニウムイオン」を含まない窒化ケイ素エッチング液組成物を前提とするものであるから、本件特許の課題を解決できると認識するために、アンモニウムイオンを含む窒化ケイ素エッチング液組成物を比較検討することは要しないものである。
よって、申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~4、7を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4、7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。
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2023-700870