特許異議申立
2019-701052
噴射製品および噴射方法
- 審判番号
- 2019-701052
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-509670
- 登録番号
- 6539407
- 請求日
- 2019年12月23日
- 審決日
- 2025年12月09日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アース製薬株式会社
- 【権利者代理人】鮫島 正洋
- 【権利者代理人】▲高▼見 憲
- 【権利者代理人】篠田 淳郎
- 【異議申立人】石井 健治
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 冨永 保
- 審判官 新留 豊
- 分類
- P1651.121-Y (A01N) / P1651.537-Y (A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6539407号発明「噴射製品および噴射方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6539407号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6539407号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月31日(優先権主張 2016年3月31日、2016年11月25日)を国際出願日とする出願であって、令和元年6月14日に特許権の設定登録がされ、同年7月3日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年12月23日に、本件請求項1~4に係る特許に対し、特許異議申立人 石井 健治(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 2月26日付け 取消理由通知書
同年 5月29日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 6月12日付け 手続中止通知書
令和7年 4月25日付け 手続中止解除通知書
同年 6月13日付け 訂正拒絶理由通知書
同年 7月14日 訂正請求取下書、意見書及び上申書の提出(
特許権者)
同年 8月18日付け 申立人への通知書
同年 9月16日 申立人による意見書(以下「申立人意見書」
という。)の提出
第2 本件発明
本件特許に対する先行無効審判事件(無効2020-800014号)において、令和4年10月14日に請求項1~3について訂正請求がなされ、令和5年4月21日付けで、当該訂正を認める、審判請求は成り立たない旨の結論の審決がなされ、当該審決は確定した。また、本件特許異議申立事件において令和2年5月29日提出の訂正請求書による訂正請求は令和7年7月14日の訂正請求取下書により取下げられた。
その結果、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、本件特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、順に、「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということもある。なお、以下の特許請求の範囲の下線部は訂正による変更箇所を示す。)。
【請求項1】
害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)であり、
前記害虫忌避組成物は、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1の成分であり、
前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され、
前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された、噴射製品。
【請求項2】
害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)であり、
前記害虫忌避組成物は、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1の成分であり、
前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.85以上となるよう調整され、
前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された、噴射製品であって、
前記噴射製品は、前記害虫忌避組成物が充填されたポンプ容器と、前記ポンプ容器に取り付けられ、前記噴口が形成されたアクチュエータとを備えるポンプ製品である、噴射製品。
【請求項3】
害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)を用いて前記害虫忌避組成物を噴射する噴射方法であり、
前記害虫忌避組成物は、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステルであり、
前記噴口から15cm離れた位置における50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.85以上となり、かつ、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう前記害虫忌避組成物を噴射する、噴射方法。
【請求項4】
害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)であり、
前記害虫忌避組成物は、
20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
水を含まないか、または、水の含有量は、害虫忌避組成物中、10質量%以下であり、
前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、p-メンタン-3,8-ジオール、1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1の成分であり、
前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され、
前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された、噴射製品。
第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審合議体が令和2年2月26日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
[取消理由](サポート要件)
訂正前の請求項1~4に係る特許は、揮発抑制成分を、害虫忌避組成物中、20質量%を超えて含むものが本件特許の発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものではない点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
本件特許の明細書の背景技術(【0002】~【0003】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0004】~【0005】)及び実施例の記載(【0045】~【0056】)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、使用者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺激が低減された噴射製品及び噴射方法を提供することであると認める。
本件明細書には、上記課題を解決する手段として、害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品であり、前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル等から選択される少なくとも1の成分であり、前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された、噴射製品及び噴射方法とすることが記載され(【0007】~【0008】)、実際に実施例では、上記構成を有する組成物が、上記課題を解決することができることが記載されている(【0047】~【0052】)。
それゆえ、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
本件発明1~4は、揮発抑制成分について、下限値である10質量%以上と特定されているのみで、上限値が何ら特定されていない。
しかしながら、本件特許の明細書には、
「【0006】
本発明者らは、上記害虫忌避成分が配合されている場合における粘膜への刺激の原因について鋭意研究し、・・・適用距離・・・を超えてさらに離れた位置(たとえば噴口から30cm離れた位置)に到達し・・・小さくなった粒子は、吸引されやすく粘膜を刺激しやすい。そこで、本発明者らは、適用距離における粒子径だけでなく、適用箇所を超えた位置における粒子径・・・の比が所定の値以上となるよう調整された噴射製品であれば、粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されている場合であっても、粘膜への刺激が低減され、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。」
と記載されている。
このことから、本件発明は、適用距離を超えた位置でも害虫忌避成分の粒子が小さくならないようにすることによって吸引されにくくし、粘膜への刺激を低減するものであると理解できる。
そして、そのためにまず、本件発明1は「噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となる」とされ、適用距離を超えた位置において、粒子径が一定の大きさ以上になることを特定している。
さらに、本件特許の明細書には
「【0014】
害虫忌避組成物は、上記害虫忌避成分のほかに、噴射後の揮発を抑制するため、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下となる揮発抑制成分を好適に含む。・・・揮発抑制成分としてこれらの成分が含有される場合、噴射された害虫忌避組成物は、揮発がより抑制されやすく、適用箇所を超えた範囲(たとえば噴口から30cm離れた位置)にまで噴射された場合であっても、粒子径が小さくなりにくい。」
と記載されていることから、揮発抑制成分は、噴射された害虫忌避組成物の揮発を抑制し、粒子が小さくなりにくいようにするものであることが理解できる。
この関係は、以下に示す本件特許明細書の表1の実施例11と12の比較から、揮発抑制成分である1,3-ブチレングリコールの含有量が10質量%から20質量%に増えることで、粒子径比(r30/r15)が0.74から0.88に増え、噴口から離れた位置で粒子径が小さくなりにくくなるとともに、粘膜刺激の平均スコアが低くなることからも裏付けられている。
[図:0001431086000001.jpg]
これらのことから、揮発抑制成分が多い方が噴射後の粒子の揮発が抑制され、粘膜に到達する粒子を減らすこと、すなわち、揮発抑制成分が多い方が、本件発明の課題がより解決されやすくなるという関係が理解できる。
したがって、本件発明1~4において揮発抑制成分の上限値が特定されていないとしても、本件特許明細書は当該発明の課題を解決できるように記載されていると認められる。
したがって、本件発明1~4は、その範囲全体にわたって前記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
3 申立人の意見について
申立人は申立人意見書において、「例えば揮発抑制成分として水を含有するものにおいて、その含有量を10質量%以上より遥かに多い量(例えば、99質量%)とすれば、組成物は殆どが水分で構成されることとなり、害虫忌避用の噴射製品として機能しない」旨、主張する。
しかしながら、上記2で説示したとおり、本件発明の課題は、使用者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺激が低減された噴射製品及び噴射方法を提供することであるので、使用者の鼻や喉等の粘膜を刺激しうる程度の害虫忌避成分が含まれていることや、噴射口から噴射した害虫忌避組成物が、特定の距離で特定の平均粒径となることが前提である。そして、上記2のとおり、本件特許明細書は本件発明の課題を解決できるように記載されていると認められる。
したがって、上記主張は採用できない。
4 小括
以上のとおり、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、本件請求項1~4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して下記[証拠方法]に示す甲第1号証~甲第4号証(以下「甲1」等と略記する。)を提出し、本件訂正前の請求項1~4に係る本件特許を取り消すべきであるとの特許異議の申立てをしており、その理由(以下「申立理由」という。)の概要は、申立書の記載全体からみて、下記(1)~(3)に示すとおりのものと認める。
(1)申立理由1(進歩性)
訂正前の請求項1~3に係る本件発明は、甲1及び甲4、甲2及び甲4、又は甲3及び甲4に記載された発明及び周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項1~3に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲には、揮発抑制成分が害虫忌避組成物中に10質量%以上含まれることが記載されているが、実施例1~14には、これらの揮発抑制成分の含有量(合計量)は、10~20wt/t%の範囲でしか開示されていない上、上限値については記載ないし示唆されておらず、例えば揮発抑制成分として水を含有するものにおいて、その含有量を10質量よりも遙かに多い量(例えば、99質量%)とすれば、害虫忌避組成物はほとんどが水分で構成されることとなり、害虫忌避用の噴射製品として機能しない点で、その発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているため、訂正前の本件特許の請求項1~4に係る発明について、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(明確性)
訂正前の請求項4に係る本件特許は、揮発抑制成分が水である場合、発明の外縁をなす揮発性成分(水)の含有量を確定することができない点で、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[証拠方法]
甲1:中国特許出願公開第102266270号
甲2:特開2014-205648号公報
甲3:独国特許出願公開第10349666号
甲4:特表2012-507561号公報
このうち、申立理由2(サポート要件)については、令和2年2月26日付け取消理由通知において採用した。
以下に、取消理由通知において採用しなかった申立理由1(進歩性)及び申立理由3(明確性)について述べる。
2 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1の記載について
(なお、甲1は中国語で記載されているので訳文で示す。)
甲1a
「[0009] 本発明は構成成分が簡単で、各成分の作用が明確で、刺激がなく、環境に優しい蚊忌避剤を提供する。
[0010] 各成分の重量含有量が、イカリジン5~25%、有機物質10~80%、有機酸0.1~10%、エッセンス0.1~1%、残量が水である、蚊忌避剤。
[0011] 前記有機物質は、水と混和可能なC2~C4有機アルコール又は有機アルコールのポリマーのうちの少なくとも一種であってもよく、前記有機アルコール又は有機アルコールのポリマーが、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である。」
甲1b
「[0016] 本発明者らはC2~C4アルコールと水で構成された基本的な媒体で5~25%のイカリジンを溶解し、その後に有機酸補助媒体を少量加えてイカリジンと水素結合ネットワークを形成することにより、イカリジンを安定させるばかりでなく、イカリジンの媒体への溶解度を高められ、より重要なのは、このような水素結合ネットワークの形成により、容器からのイカリジンの吐出時と皮膚へ吹き付け後の揮発速度を減少させ、それによる蚊忌避効果を延長させることができる。このような製剤のエッセンスに対する需要量は少なく、一般的に0.1~1%である。以上の最適な調製剤形はスプレー剤であり、製造が簡単で、携帯や使用に便利である。
甲1c
「[0026] 以下、具体的な実施例により本発明の技術をさらに詳細に説明する。各実施例はいずれも表の形式で同じ剤形における各成分の異なる含有量の組成を示し、そのうちの百分率はいずれも総量における重量含有量を指す。
[0027] 実施例1 スプレー剤
[0028]
[図:0001431086000002.jpg]
」
(2)甲2の記載について
甲2a
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マダニ忌避成分のマダニ忌避効力を増強させ、衣類に処理された時に当該衣類から露出した衣類着用者の肌をマダニの被害から保護するために効果的なマダニ忌避効力増強剤、及びこれを配合したマダニ忌避組成物を衣類処理用として用いるマダニ忌避方法を提供しようとするものである。
・・・
【0009】
本発明で用いるマダニ忌避成分は、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸 1-メチルプロピルエステル(以降、本忌避成分と称する)に特定される。蚊、ブヨ、サシバエ等のような飛翔害虫に対して忌避作用あるいは吸血阻害作用を有する害虫忌避成分としては、本忌避成分のほか、例えば、ディート、3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチル、p-メンタン-3,8-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、ベンジルアセテート、シトロネラール、シトロネロール、シトラール、リナロール、テルピネオール、メントール、α―ピネン、カンファー、ゲラニオール、カランー3,4-ジオール等の合成あるいは天然の各種化合物、更には、桂皮、シトロネラ、レモングラス、クローバ、ベルガモット、月桂樹、ユーカリ等から採れる精油、抽出液があげられるが、本発明者らによる各種試験の結果、マダニに対しては2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸 1-メチルプロピルエステルが特に高い忌避効果を示すことが認められた。」
甲2b
「【0011】
本発明は、本忌避成分を含有するマダニ忌避組成物に配合され、かつ、本忌避成分のマダニ忌避効力を相乗的に増強させる成分として、炭素数が4~10のグリコール又はグリコールエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上を特定したことに特徴を有する。
炭素数が4~10のグリコール又はグリコールエーテル化合物としては、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングルコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール[以降、ソルフィット(株式会社クラレ商品名)と称する]、及びジプロピレングリコールジメチルエーテル等があげられるが、なかんずく1,3-ブチレングリコール及び/又はソルフィットがマダニ忌避効力の増強作用が強く好適である。」
甲2c
「【0018】
前記マダニ忌避組成物が充填される容器は、その用途、使用目的、対象害虫等に応じて、適宜バルブ、噴口、ノズル等の形状を選択すればよい。
例えば、広角ノズル付きのトリガースプレータイプは、一度の操作で広い範囲を処理することが可能となり便利である。また、容器の材質としてPETを使用することによって、液量を視認できると共にデザイン性にも優れるというメリットを有する。」
甲2d
「【実施例1】
【0022】
本忌避成分[2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸 1-メチルプロピルエステル]を5.0g(5.0w/v%)、マダニ忌避効力増強剤として1,3-ブチレングリコールを2.0g(2.0w/v%)、柿抽出物由来の消臭成分を1.0g(1.0w/v%)、及び99%エタノールを55g(55w/v%)に精製水を加えて全量を100mLとし、ポンプスプレー容器に充填してスプレータイプの本発明に係るマダニ忌避組成物を調製した。」
(3)甲3の記載について
(なお、甲3はドイツ語で記載されているので訳文で示す。)
甲3a
[0014]従って、本発明の目的は、従来技術の欠点を除去するか、少なくとも軽減することであった。さらに、本発明の目的は、以下のような昆虫忌避剤を開発することであった。
・特に攻撃的な昆虫(例えば、Aedes aegypti、Anaphees albiananus)に対しても非常に有効である。
・特に長く持続する効果を有する。
・特に適用後に迅速にその効果を発現する。
・特に、皮膚に対して穏やかで/適合性がある。
・・・
[0019]本発明に好ましい忌避剤は、エチル3-(N-n-ブチル-N-アセチルアミノ)プロピオン酸エチルエステル及び1-ピペリジンカルボン酸2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステルであり、エチル3-(N-n-ブチル-N-アセチルアミノ)プロピオン酸エチルエステルが本発明に従って特に好ましい。」
甲3b
「[0103]以下の実施例は、本発明の組成物を例示するものであるが、本発明をこれらの実施例に限定することを意図するものではない。実施例中の数値は、それぞれの調製物の総重量に基づく重量%を表す。
実施例
・・・
[図:0001431086000003.jpg]
[図:0001431086000004.jpg]
」
(4)甲4の記載
甲4a
「【請求項1】
農薬の施用中のスプレードリフトを低減する方法であって、0.01%vol/volから5%vol/volの自己乳化性エステルまたはその混合物を、殺虫性スプレー剤に配合することを含む方法。
【請求項2】
農薬が除草剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
除草剤が2,4-D、グリホセート、トリクロピル、アミノピラリド、ジカンバ、またはそれらの混合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
農薬が殺虫剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
農薬が殺真菌剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記自己乳化性エステルが、(1)C54の親油性骨格、ならびに非イオン性および陰イオン性の界面活性剤官能性の両方を含有する分子のエステル部を有するオレイン酸およびリノール酸の重合によって生成される、三量体酸系の自己乳化性エステル、(2)脂肪酸およびジカルボン酸無水物によるエトキシ化トリメチロールプロパンのエステル化によって調製されるエステル、(3)高分子量の二塩基酸、ポリオキシアルキレングリコールおよび一官能性脂肪族アルコールから誘導されるエステル、(4)エトキシ化トリメチロールプロパンを、カルボン酸またはその反応性誘導体と反応させることにより調製される自己乳化するエステル化合物、(5)植物または陸生動物由来のマレイン酸化トリグリセリド油から誘導されるコハク酸トリグリセリド油、(6)エトキシ化脂肪酸エステル、(7)アルコールを、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドと反応させて、得られたアルコキシレートをアルカン酸または芳香族酸でキャッピングすることにより調製されるアルコキシレートエステル、および(8)アルコキシ化トリグリセリドである、請求項1に記載の方法。」
甲4b
「【0002】
本発明は、スプレーすべき液体に自己乳化性エステルを配合することによって、農薬の施用中のスプレードリフトを低減する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0003】
経済的で利用可能な技術による農業用スプレーでは、広範囲のスプレー液滴サイズを生成するものである水力式スプレーノズルが使用される。・・・より小さな液滴は、標的外移動する傾向が非常に高い・・・
【0004】
標的外移動のマイナスの結果は、非常に明らかである。ある種の除草剤は、極めて低い百万分率(ppm)レベル、または十億分率(ppb)レベルでも、特定の植物種に対して非常に敏感な植物毒性があることが実証され、感受性作物、果樹園、および居住地の植込みの周辺の施用が制限されている。例えば、カリフォルニア州農薬規制局は、サンホーキンバレー(San Joaquin valley)では、空中施用されるプロパニル含有除草剤について、1/2~2マイル(0.8~3.2キロメートル)の緩衝域(buffers)を課している。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自己乳化性エステルを農業用スプレー混合物に配合することによって、施用中のスプレードリフトを低減できることが、今や見出された。本発明は、農薬の施用中のスプレードリフトを低減する方法であって、0.01%から5%(vol/vol)の自己乳化性エステルまたはその混合物を、殺虫性スプレー剤に配合することを含む方法に関する。・・・」
甲4c
「【実施例】
【0019】
実施例1
表1のように、2,4-Dの各濃縮製剤AからGを作製するために、始めに68.8%の2,4-Dジメチルアンモニウム塩水溶液を含むDMA 6 SEQUESTERED 90gを、機械的撹拌器を備えたステンレススチール製ビーカーに投入した。次に、表1の組成に従って、総量10gのPriolube製品を、異なる組合せで加えた。各液体混合物を撹拌して、組成物をホモジナイズし、製剤を得た。
【0020】
1%v/vの希釈液を作製するために、各製剤1mLを脱イオン水99mLに添加することによって、スプレー水溶液を作製した。次に、スプレー溶液をTeeJet 8002フラットファンノズルによって、40psi(276キロパスカル(kPa))でスプレーし、Sympatec Helos粒径測定器を用いることによって、液滴サイズを測定した。ノズルの先端が、粒径測定器の測定ゾーンから6インチまたは12インチ(15.24センチメートルまたは30.48センチメートル(cm))のいずれかの位置で、測定を行った。結果を表2(6インチ、15.24cm)、および表3(12インチ、30.48cm)に報告する。これらの結果から分かるように、本発明のスプレー組成物によって、175μm未満の液滴サイズを有するドリフトの可能性があるな微細液は、かなり低減している。本発明は、大きな液滴を有意に増加させることなく、したがってスプレーの対象範囲および質に関して最小限の影響で、液滴(drop)サイズ分布プロファイルを狭小化することによって、ドリフトの可能性があるな微細液滴を効率的に低減させる。
【0021】
【表1】
[図:0001431086000005.jpg]
【0022】
【表2】
[図:0001431086000006.jpg]
【0023】
【表3】
[図:0001431086000007.jpg]
」
(5)甲1を主引用例とする進歩性の判断
ア 甲1に記載された発明
甲1には、容器から吐出され皮膚へ吹き付けられる(摘記(甲1b))、イカリジンを含む蚊忌避剤(摘記(甲1a))が記載されており、摘記(甲1c)[0028]の表に当該蚊忌避剤の具体的なスプレー剤の組成が記載されている。そして、同表の9番の組成物に基づき、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
以下の成分からなる蚊忌避剤を含み、当該蚊忌避剤をスプレー剤として吐出する容器。
イカリジン 25g
エタノール 25ml
イソプロパノール 24ml
クエン酸 28mg
エッセンス 0.5質量%
蒸留水 25.5ml
イ 本件発明1との対比
甲1発明と本件発明1を対比すると、「イカリジン」は「1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート」の別名であることは技術常識であり、「容器からのイカリジンの吐出時と皮膚へ吹き付け後の揮発速度を減少させ、それによる蚊忌避効果を延長させることができる」との記載(摘記(甲1b))から、イカリジンが蚊忌避効果を有する成分であると理解できるため、甲1発明の「イカリジン」は本件発明1の「1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート」及び「害虫忌避成分」に相当する。
また、甲1発明の「蚊忌避剤」は本件発明1の「害虫忌避組成物」に相当し、甲1発明の「蚊忌避剤を含み、当該蚊忌避剤をスプレー剤として吐出する容器」は吐出するための噴口を有することは明らかであるから、本件発明1の「害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品」に相当する。さらに、甲1発明のスプレー剤は噴射剤に相当する成分を含まない。
また、本件特許明細書の【0014】には、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下となる噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分として、水を挙げていること、さらに、本件発明が「揮発抑制成分」としている点についても、組成物が含有する物質として異なるものではないことから、甲1発明の「蒸留水」は本件発明1の「20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分」に相当する。さらに、同成分はグリセリンではない。
さらに、技術常識に基づけば、エタノール及びイソプロパノールの20℃での密度はそれぞれ約0.789g/cm3及び0.785g/cm3であるから、甲1発明のエタノール及びイソプロパノールの含有量はそれぞれ約19.7g(=0.789×25)及び約18.8g(=0.785×24)であるため、エッセンスを除く組成物99.5%分の質量は約89.3g(=25+19.7+18.8+0.28+25.5)となり、水の含有量は約28.7%(=25.5×100/89.3/0.995)である。そして、これは本件発明1の「害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、
「害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)であり、
前記害虫忌避組成物は、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1の成分である、
噴射製品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1が「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され、
前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された」と特定されているのに対し、甲1発明ではこのような特定がされていない点。
ウ 判断
上記相違点1について検討する。
甲4には、農薬の施用中のスプレードリフトを低減する方法であって、0.01%vol/volから5%vol/volの自己乳化性エステルまたはその混合物を、殺虫性スプレー剤に配合することを含む方法が記載されている(摘記(甲4a)(甲4b))。そして、実施例において、噴射ノズルの先端から15.24センチメートルまたは30.48センチメートルのいずれかの位置での液滴サイズを測定し、自己乳化性エステルを農業用スプレー混合物に配合することによって、スプレードリフトの可能性がある微細液滴を効率的に低減できることを確認したことが記載されている(摘記(甲4c))。
しかしながら、甲1発明の害虫忌避組成物は皮膚へ吹き付けるものであるから(摘記(甲1b))、農業用スプレーの施用におけるスプレードリフトを抑制するという課題があるとはいえない。また、甲1及び甲4には、本件発明1に規定する粒子径比(r30/r15)及び平均粒子径(r30)を満たす害虫忌避組成物が、使用者の鼻や喉等の粘膜への刺激が低減されることについては記載も示唆もされておらず、そのような技術常識もない。
したがって、甲1発明のスプレー組成物について、上記粒子径比及び平均粒子径の構成を採用する動機付けがあったとはいえない。
さらに、上記粒子径比及び平均粒子径の構成を採用したことにより、粘膜への刺激が低減された噴射製品及び噴射方法を提供できたという効果についても、当業者が認識し得たともいえない。
そうすると、本件発明1は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するといえる。
したがって、本件発明1は、甲1及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明2~4は、上記ウと同様の理由により、甲1及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 申立人の意見について
申立人は申立人意見書において、本件発明1について以下の(a)~(c)の点を主張している。
(a)甲1及び甲4は、いずれも噴射剤を使用しないスプレー製品に関するものであり、スプレーに用いる液は、いずれも水をベースとした水性組成物である。したがって、甲1に接した当業者が、さらに甲4に触れた場合、本件発明1を創作することに格別な困難性は認められず、本件発明1に規定する粒子径比(r30/r15)及び平均粒子径(r30)を甲1発明に適用すれば、使用者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺激が低減されるという効果も当然に予測されるものである点。
(b)仮に、甲4を考慮しなかったとしても、噴射製品を噴射したとき、害虫忌避組成物が細かい粒子となって空中に漂うことは自明であり、この細かい粒子を吸引すると鼻や喉等の粘膜に刺激を感じることも自明であるから、甲1において噴射した粒子の粒子径比(r30/r15)及び平均粒子径(r30)を、本件発明1が規定する数値範囲に調整することに格別な困難性は見出せない点。
(c)例えば本件特許明細書の表1の実施例1~3と実施例11~13とを比較した場合に、各成分の配合は夫々同一であるが、実施例1~3の方が実施例11~13と比べて、粒子径(r15)及び粒子径(r30)が大きい傾向があるにもかかわらず、粘膜刺激性の評価はほとんど変わらないことからも理解できるように、粘膜への刺激を低減するという本件発明1の効果は、噴射した粒子の粒子径比(r30/r15)及び平均粒子径(r30)より、むしろ害虫忌避組成物の配合(処方)に拠るところが大きいと考えられる点。
しかしながら、上記(a)及び(b)の主張について、上記ウで説明したとおり、甲1発明のスプレー組成物について、本件発明1に規定するような粒子径比及び平均粒子径の構成を採用する動機付けがあったとはいえず、当該構成を採用したことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとも認められるから、これらの主張は採用できない。
また、上記(c)の主張についても、本件特許明細書の表1の実施例1~3及び実施例11~13についての記載は、本件発明1に規定する粒子径比及び平均粒子径の構成と、粘膜刺激性の効果との関連性を否定するものではなく、ただ単に本件特許の明細書の記載に基づき、上記効果について別の説明ができる可能性を示唆するに過ぎないため、当該主張は採用できない。
(6)甲2を主引用例とする進歩性の判断
ア 甲2に記載された発明
甲2には、マダニ忌避成分(摘記(甲2a))及びその効力を相乗的に増強させる、炭素数が4~10のグリコール又はグリコールエーテル化合物を含む組成物(摘記(甲2b))をスプレー等の容器(摘記(甲2c))に入れて噴霧することが記載され、具体的にマダニ忌避成分である2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸 1-メチルプロピルエステルを5.0g(5.0w/v%)、マダニ忌避効力増強剤として1,3-ブチレングリコールを2.0g(2.0w/v%)、柿抽出物由来の消臭成分を1.0g(1.0w/v%)、及び99%エタノールを55g(55w/v%)に精製水を加えて全量を100mLとし、ポンプスプレー容器に充填してスプレータイプのマダニ忌避組成物を調製したこと(摘記(甲2d))が記載されている。
したがって、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲2発明]
以下の成分からなるマダニ忌避組成物をポンプスプレー容器に充填した製品。
2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸
1-メチルプロピルエステル 5.0g(5.0w/v%)
1,3-ブチレングリコール 2.0g(2.0w/v%)
柿抽出物由来の消臭成分 1.0g(1.0w/v%)
99%エタノール 55g(55w/v%)
精製水 全量を100mLとした残量
イ 本件発明1との対比
甲2発明と本件発明1を対比すると、「2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸 1-メチルプロピルエステル」は「1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート」と同じ物質であり、また甲2には2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸 1-メチルプロピルエステルがマダニ忌避成分であると記載されている(摘記(甲2a))から、甲2発明の「2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸 1-メチルプロピルエステル」は本件発明1の「1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート」及び「害虫忌避成分」に相当する。
また、甲2発明の「マダニ忌避組成物」は本件発明1の「害虫忌避組成物」に相当し、甲2発明の「組成物をポンプスプレー容器に充填した製品」はその形状を適宜選択できる噴口を有する(摘記(甲2c))から、本件発明1の「害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品」に相当する。さらに、甲2発明のスプレー組成物は噴射剤に相当する成分を含まない。
また、本件特許明細書の【0014】には、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下となる噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分の例として、1,3-ブチレングリコール及び水を挙げていること、さらに、本件発明が「揮発抑制成分」としている点についても、組成物が含有する物質として異なるものではないことから、甲2発明の「精製水」及び「1,3-ブチレングリコール」は本件発明1の「20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分」に相当する。さらに、同成分はグリセリンではない。
さらに、100mLあたりの精製水の量は37mL=37g(=100ー5.0-2.0-1.0-55)であり、1,3-ブチレングリコールの含有量は2.0gであるから、「揮発抑制成分」に相当する成分の合計量は約39重量%(=39g/100g)である。そして、これは本件発明1の「害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明は、
「害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)であり、
前記害虫忌避組成物は、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1の成分である、
噴射製品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1が「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され、
前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された」と特定されているのに対し、甲2発明ではこのような特定がされていない点。
ウ 判断
上記相違点2について検討する。
上記(5)ウで説示したとおり、甲4には、農薬の施用中のスプレードリフトを低減する方法であって、0.01%vol/volから5%vol/volの自己乳化性エステルまたはその混合物を、殺虫性スプレー剤に配合することを含む方法が記載されている(摘記(甲4a)(甲4b))。
しかしながら、甲2発明は衣類に適用するためのものであり(摘記(甲2a))、甲4の農業用スプレーとは異なるため、農業用スプレーの施用におけるスプレードリフトを抑制するという課題があるとはいえない。また、甲2及び甲4には、本件発明1に規定する粒子径比(r30/r15)及び平均粒子径(r30)を満たす害虫忌避組成物が、使用者の鼻や喉等の粘膜への刺激が低減されることについては記載も示唆もされておらず、そのような技術常識もない。
したがって、甲2発明の組成物について、上記粒子径比及び平均粒子径の構成を採用する動機付けがあったとはいえない。
さらに、上記粒子径比及び平均粒子径の構成を採用したことにより、粘膜への刺激が低減された噴射製品及び噴射方法を提供できたという効果についても、当業者が認識し得たともいえない。
そうすると、本件発明1は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するといえる。
したがって、本件発明1は、甲2及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明2~4は、上記ウと同様の理由により、甲2及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 申立人の意見
申立人は申立人意見書において、本件発明1について、以下の(a)~(c)の点を主張している。
(a)甲2及び甲4は技術分野が共通し、スプレーに用いる液も共に水がベースの水性組成物であるから、甲2に接した当業者が、さらに甲4に触れた場合、本件発明1を創作することに格別な困難性は認められない点。
(b)仮に、甲4を考慮しなかったとしても、甲2において噴射した粒子の粒子径比及び平均粒子径を、本件発明1が規定する数値範囲に調整することに格別な困難性は見出せない点。
(c)粘膜への刺激を低減するという本件訂正後発明1の効果は、噴射した粒子の粒子径比及び平均粒子径より、むしろ害虫忌避組成物の配合(処方)に拠るところが大きいと考えられる点。
しかしながら、上記(a)及び(b)の主張について、上記ウで説明したとおり、甲2発明の組成物について、本件発明1に規定するような粒子径比及び平均粒子径の構成を採用する動機付けがあったとはいえず、当該構成を採用したことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとも認められるから、これらの主張は採用できない。
また、上記(c)の主張についても、上記(5)オで述べた理由により、採用できない。
(7)甲3を主引用例とする進歩性の判断
ア 甲3に記載された発明
甲3には、皮膚に対して穏やかで/適合性がある昆虫忌避剤(摘記(甲3a))であり、実施例の表(甲3b)には、実施例13のような、防虫剤を含む組成物をポンプスプレー剤として用いることが記載されている。そして、水以外の成分の合計量は32.25重量%であるため、水の含有量は67.75重量%(=100-32.25)である。
したがって、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲3発明]
以下の成分からなる防虫剤を含む組成物を用いたポンプスプレー剤
エチルブチルアセチルアミノプロピオネート 15 重量%
N,N-ジエチルベンズアミド、1-ピペリ
ジンカルボキシレート-2-(2-ヒドロキ
シエチル)-1-メチルプロピルエステル 2.0 重量%
1-(3-シクロヘキセン-1-イル-カル
ボニル)-2-メチルピペリジン 2 重量%
アロエベラ抽出物 1 重量%
トコフェロール 0.75重量%
海抽出物 0.75重量%
パンテノール 0.75重量%
香料 適量
プロピレングリコール 10 重量%
水 67.75重量%
イ 本件発明1との対比
甲3発明と本件発明1を対比すると、「1-ピペリジンカルボキシレート-2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル」は「1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート」と同じ物質であり、また甲3には1-ピペリジンカルボン酸2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステルが昆虫忌避剤であると記載されている(摘記(甲3a))から、甲3発明の「1-ピペリジンカルボキシレート-2-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルプロピルエステル」は本件発明1の「1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート」及び「害虫忌避成分」に相当する。
また、甲3発明の「エチルブチルアセチルアミノプロピオネート」は、甲3の[0019](摘記(甲3b))の「エチル3-(N-n-ブチル-N-アセチルアミノ)プロピオン酸エチルエステル」を省略したものであると認められ、これは「3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル」と同じ物質であり、また甲3にはエチル3-(N-n-ブチル-N-アセチルアミノ)プロピオン酸エチルエステルが昆虫忌避剤であると記載されている(摘記(甲3a))から、甲3発明の「エチルブチルアセチルアミノプロピオネート」は本件発明1の「3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル」及び「害虫忌避成分」に相当する。
また、甲3発明の「組成物」は昆虫忌避剤である防虫剤を含有するから、本件発明1の「害虫忌避組成物」に相当し、甲3発明の「組成物を用いたポンプスプレー剤」はポンプスプレー容器に組成物を充填したものと解すことができ、通常、ポンプスプレーには噴口が形成されているので、甲3発明の「組成物を用いたポンプスプレー剤」は本件発明1の「害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品」に相当する。さらに、甲3発明のスプレー組成物は噴射剤に相当する成分を含まない。
また、本件特許明細書の【0014】には、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下となる噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分の例として、プロピレングリコール及び水を挙げていること、さらに、本件発明が「揮発抑制成分」としている点についても、組成物が含有する物質として異なるものではないことから、甲3発明の「水」及び「プロピレングリコール」は本件発明1の「20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分」に相当する。さらに、同成分はグリセリンではない。
さらに、水とプロピレングリコールの合計量は77.75重量%(=10+67.75)であるから、「揮発抑制成分」に相当する成分の合計量は本件発明1の「害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明は、
「害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)であり、
前記害虫忌避組成物は、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1の成分である、
噴射製品。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1が「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され、
前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された」と特定されているのに対し、甲2発明ではこのような特定がされていない点。
ウ 判断
上記相違点3について検討する。
上記(5)ウで説示したとおり、甲4には、農薬の施用中のスプレードリフトを低減する方法であって、0.01%vol/volから5%vol/volの自己乳化性エステルまたはその混合物を、殺虫性スプレー剤に配合することを含む方法が記載されている(摘記(甲4a)(甲4b))。
しかしながら、甲3発明は皮膚に適用するためのものであり(摘記(甲3a))、甲4の農業用スプレーとは異なるため、農業用スプレーの施用におけるスプレードリフトを抑制するという課題があるとはいえない。また、甲3及び甲4には、本件発明1に規定する粒子径比(r30/r15)及び平均粒子径(r30)を満たす害虫忌避組成物が、使用者の鼻や喉等の粘膜への刺激が低減されることについては記載も示唆もされておらず、そのような技術常識もない。
したがって、甲3発明の組成物について、上記粒子径比及び平均粒子径の構成を採用する動機付けがあったとはいえない。
さらに、上記粒子径比及び平均粒子径の構成を採用したことにより、粘膜への刺激が低減された噴射製品及び噴射方法を提供できたという効果についても、当業者が認識し得たともいえない。
そうすると、本件発明1は、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するといえる。
したがって、本件発明1は、甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件発明2~4について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明2~4は、上記ウと同様の理由により、甲3及び甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 申立人の意見について
申立人は申立人意見書において、本件発明1について、以下の(a)~(c)の点を主張している。
(a)甲3及び甲4は技術分野が共通し、スプレーに用いる液も共に水がベースの水性組成物であるから、甲3に接した当業者が、さらに甲4に触れた場合、本件訂正後発明1を創作することに格別な困難性は認められない点。
(b)仮に、甲4を考慮しなかったとしても、甲3において噴射した粒子の粒子径比及び平均粒子径を、本件発明1が規定する数値範囲に調整することに格別な困難性は見出せない点。
(c)粘膜への刺激を低減するという本件発明1の効果は、噴射した粒子の粒子径比及び平均粒子径より、むしろ害虫忌避組成物の配合(処方)に拠るところが大きいと考えられる点。
しかしながら、上記(a)及び(b)の主張について、上記ウで説明したとおり、甲3発明の組成物について、本件発明1に規定するような粒子径比及び平均粒子径の構成を採用する動機付けがあったとはいえず、当該構成を採用したことにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとも認められるから、これらの主張は採用できない。
また、上記(c)の主張についても、上記(5)オで述べた理由により、採用できない。
(8)小括
上記(5)~(7)より、申立理由1(進歩性)には理由がない。
3 申立理由3(明確性)について
申立人は、本件発明4の「前記害虫忌避組成物は、20℃での蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み」との規定について、揮発抑制成分が水である場合に、同発明の「水を含まないか、または、水の含有量は、害虫忌避組成物中、10質量%以下であり」との規定と矛盾するため、揮発抑制成分である水の含有量を確定することができず、不明確である旨を主張する。
しかしながら、本件特許明細書【0014】の記載から、「揮発抑制成分」には水以外の成分も選択肢として含まれることが理解できる。
とすれば、上記「水を含まないか、または、水の含有量は、害虫忌避組成物中、10質量%以下であり」との記載は、単に「揮発抑制成分」として用いられる水の量を害虫忌避組成物の0~10質量%の範囲に限定しているに過ぎず、本件発明4の上記2つの規定は、「揮発抑制成分」として、水を10質量%を超えて含有することはないものの、水以外の「揮発抑制成分」と合わせて10質量%以上とすることを意味するものと当然に解することができるから、本件発明は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
したがって、申立理由3(明確性)には理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-701052