特許異議申立
2023-700595
ヒートシール紙
- 審判番号
- 2023-700595
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-127383
- 登録番号
- 7185666
- 請求日
- 2023年06月07日
- 審決日
- 2024年03月07日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】砂川 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 ▲高▼橋 杏子
- 分類
- P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7185666号発明「ヒートシール紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7185666号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7185666号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7185666号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年7月28日の出願であって、令和4年11月29日にその特許権の設定登録がされ、令和4年12月7日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 6月 7日 :特許異議申立人砂川幸子(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 8月17日付け:取消理由通知書
令和5年10月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、当該訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和5年11月 1日 :特許権者による訂正請求書についての手続補正書の提出
令和5年11月16日 :特許権者による訂正請求書についての手続補正書の提出
令和6年 1月 9日 :申立人による意見書の提出
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
本件訂正前の請求項1に記載された「前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくとも顔料を含み、」を、「前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくとも顔料を含み、塗工量(乾燥重量)が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する)。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
3 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1の「塗工層」についての「塗工量」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
本件訂正は、本件特許の明細書の【0025】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、本件訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~5を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~5の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、
前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくとも顔料を含み、塗工量(乾燥重量)が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であり、
前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、80質量部以上200質量部未満であり、
前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であることを特徴とするヒートシール紙。
【請求項2】
アンチブロッキング剤として、ワックスと顔料との両方を含むことを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
前記塗工層におけるワックスの配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1.2質量部以上であることを特徴とする請求項2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
前記塗工層が、ガラス転移温度が100℃以下の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のヒートシール紙。
【請求項5】
前記塗工層が、カルナバワックスを含むことを特徴とする請求項2または3に記載のヒートシール紙。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して、当審が令和5年8月17日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特表2003-529624号公報
甲第2号証:特開2003-49397号公報
甲第3号証:特開2002-13095号公報
甲第5号証:接着便覧 第12版、株式会社高分子刊行会、1980年9月20日、124~131ページ
以下、甲第1号証を「甲1」という。他も同じ。
2 当審の判断
(1)引用文献に記載された発明等
ア 甲1
(ア)甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】 アクリル酸10から30重量%とエチレン70から90重量%とを含み、メルトフローインデックスが10から100(g/10分:190℃、2.16kgにおいて)、融点が75°から90℃の範囲、酸基の隣接率が2~15%の範囲、多分散度が2~7の範囲、分岐パラメータが少なくとも0.6であるが1未満である分岐エチレンアクリル酸インターポリマーを含んでなり、前記アクリル酸のカルボン酸基がアンモニアによって中和されていることを特徴とするコーティング組成物。」
「【請求項11】 請求項1から8のいずれかに記載のコーティング組成物でコーティングされていることを特徴とする基材ポリマーフィルム。」
「【0001】
(発明の分野)
本発明は、酸分が少なくメルトフローインデックス(MFI)が低いエチレン-アクリル酸(EAA)コポリマーを含有する、低温でヒートシール可能な改良されたコーティング組成物に関する。このコーティング組成物は、可撓性包装用基材等の基材ポリマーフィルムをコーティングするのに特に好適である。」
「【0024】
(発明の詳細)
上述したように、本発明によるコポリマーは、エチレン70から90%とアクリル酸10から30%とを含む。アクリル酸の量がこれより少ないとコポリマーを分散させることができなくなる。アクリル酸の量がこれより多いと、食品グレードのポリマーとしては不適当となる。好ましくは、コポリマーはエチレン80から85%とアクリル酸15から20%とを含む。」
「【0039】
本発明のさらなる態様は、本発明によるコーティング組成物を製造する方法を含む。この方法は、アクリル酸10から30重量%とエチレン70から90重量%とを含有し、メルトフローインデックスが100以下(g/10分:190℃、2.16kg)、融点が75°から90℃の範囲、酸基の隣接率が2~15%の範囲、多分散度が2~7の範囲、分岐パラメータが少なくとも0.6であるが1未満である分岐エチレンアクリル酸インターポリマーを、大気圧下、コポリマーの融点よりも高く100℃を超えない温度でアンモニア含有水性媒質に接触させることを含む。
【0040】
コーティング組成物は、コポリマーの水溶液、水分散液、または水乳化液であってもよいが、好ましくは水分散液である。
【0041】
さらなる態様によれば、本発明によるコーティング組成物を用いて基材ポリマーフィルムをコーティングする。このフィルムとして、例えば、ポリオレフィン(特にポリプロピレン、中でも二軸延伸ポリプロピレン)フィルム等の可撓性包装用フィルムが挙げられる。他の好適なポリマーフィルムは、ポリプロピレン以外のポリオレフィン、例えばポリエチレン、ならびにポリエステルおよびポリアミドフィルムから構成されるものである。これは、例えば、当業者に知られている、紙、板紙、金属箔を含むが、それだけに限らない、他の種類の可撓性包装基材にも用いることができる。
【0042】
さらに、本発明によるコーティング組成物を当業者が配合することによって、フィルム上で使用するのにより好適なものとすることができる。例えば、コーティング組成物の最終用途に応じて通常の添加剤を添加することもできる。好ましい添加剤は、抗ブロッキング剤として作用すると同時に最終的なフィルムの摩擦係数を向上させる、ミクロクリスタリンワックスまたはポリエチレンワックス等のワックスである。他の種類の添加剤としては、室温下でコーティングの粘着性を低下させるヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルク、架橋剤、および帯電防止剤がある。
【0043】
本発明のコーティング組成物を使用する基材ポリマーフィルムの厚さは、通常、従来技術により従来用いられているものと同様、10から100μmであろう。
【0044】
コーティング組成物は、グラビアコーティング、ロールコーティング、浸漬、噴霧等の従来技術より知られている任意の好適な方法によって基材ポリマーフィルム表面に付着することができる。典型的には、コーティング組成物は、0.5から3μmの厚さでこの基材に付着することができる。コーティングは、通常、所望のシール性、摩擦係数、およびホットスリップ性を基材ポリマーフィルムに付与するのに十分な厚さで付着する。」
「【0046】
実施例1
冷却器とU字型スターラーとを備えたガラス製反応容器内に、酸分が20重量%、MFIが60(g/10分:190℃、2.16kg)のエチレン-アクリル酸コポリマーのペレット90gと、脱塩水360gと、水酸化アンモニウム(29.5重量%、NH3水)11.5gとを同時に仕込んだ。この反応容器を、シリコーン油を含む加熱浴に浸け、浴の温度を115℃に設定した。速度制御式らせん型攪拌装置によりスターラーの攪拌速度を600rpmに設定した。攪拌は周囲圧力下で実施した。反応容器混合物の上面の温度を測定したところ、90℃であった。約4時間後、均一な分散液が形成された。この時点で反応容器から加熱浴を取り除き、反応容器を室温まで放冷した。分散液を0.5mmのふるいでろ過したところ、フィルタ上に残留物は残らなかった。このことは、ペレットが完全に分散したことを示す。得られた分散液は固形分20重量%の白色液体であり、コポリマー酸基の80%がアンモニウムによって中和されていた。この分散液は調製後6カ月経過しても安定である。
【0047】
コポリマーの分子分析の結果、隣接率は3.4%、Mn値は19455g/モル、Mw値は96930g/モルで多分散度は4.98、分岐パラメータ(g’)は0.72であった。融点は82℃であり、結晶化度は35.3J/gであった。
【0048】
実施例2
酸分が18重量%、MFIが60(g/10分:90℃、2.16kg)のエチレン-アクリル酸コポリマーのペレット112.5gと、脱塩水337.5gと、水酸化アンモニウム(29.5重量%、濃アンモニア水)32.9gとをガラス製反応容器内に同時に仕込んだ。分散プロセスは、実施例1に記載したものと同様にした。得られた分散液は非常に粘性が高かった。この分散液に水112.5gを加え、この混合物を室温下で1時間攪拌した。この分散液を0.5mmのふるいでろ過したところ、フィルタ上に残留した残留物は2重量%未満であった。このことは、分散液の収率が高いことを示す。得られた分散液は固形分20重量%のやや白色がかった半透明の液体で、コポリマー酸基の200%がアンモニウムで中和されていた。この分散液は調製後1カ月経過しても安定であった。
【0049】
コポリマーの分子分析の結果、隣接率は3.2%、Mn値は22679g/モル、Mw値は117498g/モルで多分散度は5.2、分岐パラメータ(g’)は0.70であった。融点は82℃であり、結晶化度は43.7J/gであった。
【0050】
この分散液はAquaseal(登録商標)1211と称される。」
「【0061】
実施例8
実施例2に従って調製した固形分20重量%の微細分散液(Aquaseal(登録商標)1211)に、量を変化させた水酸化ナトリウム(NaOH)、パラメルト(Paramelt)よりAquaseal(登録商標)1205として販売されている高密度ポリエチレン(HDPE)ワックス、および抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)を加えることによりコーティング組成物を調製した。ゼネカレジンズ(Zeneca Resins)から市販の平均粒径が3μmのDiakon(登録商標)API1には試料11から14を使用した。
【0062】
さらに、実施例1の分散液およびマイケルマン(Michelman)よりPrimacor(登録商標)4983として販売されている、エチレン80重量%、アクリル酸20重量%のコポリマーのアンモニア塩を25重量%含有する水溶液または微細分散液に、量を変化させた水酸化ナトリウム(NaOH)、マイケルマンより41540Paraloid(登録商標)として販売されている、平均サイズが約0.12から0.2μmのミクロクリスタリンワックス、およびSyloid72として販売されている平均粒径が3から5μmのヒュームドシリカを加えることによりコーティング組成物を調製した。
【0063】
表1にさらに詳細を示す。
【0064】
【表1】
[図:0001411302000001.jpg]
【0065】
米国特許第5,419,960号の教示内容と比較するため、中和を実施した。特にこの文書は、エチレン/アクリル酸コポリマーのアンモニウム塩を中和することを教示している。
【0066】
次いで水を加え、固形分約13%(12から14%の間)の最終組成物とした。各組成物を、全体の厚さが約30μmの、共押出しされた3層の二軸延伸ポリプロピレンフィルム試料の片面に塗布した。このフィルムのコア層のポリマーはポリプロピレンホモポリマーであり、外側層のポリマーはポリプロピレンとエチレンとのランダムコポリマーであった。
【0067】
標準的なグラビアコーティング用の器具と技法、すなわちDixonコーター164Mk2型を用いてコーティングを塗布した。コーティング前に、フィルムの両面を放電処理し、処理された面に下塗りを施す処理を行った。フィルム乾燥後のコーティング全体の重量はフィルム1m2当たり約0.7から1.0gであった。
【0068】
実施例9
実施例8のフィルムに関し、ヒートシール、ホットタック、24時間後と水浸後のシールについて試験を行った。Qシーラーを用いて、5psi(0.35kg/cm2)および2秒間の停留時間で、温度を50℃から120℃まで変化させて作製したシールについて、Qプラー(Q puller)を用いてヒートシール強度を測定した。
【0069】
MST-200g/25mmシール強度に達する温度(℃)
ヒートシール閾値300g/25mm:300g/25mmシール強度に達する温度(℃)
ヒートシール閾値400g/25mm:400g/25mmシール強度に達する温度(℃)
DELTA-シール強度を200から400g/25mmに上昇させる温度
SS-100、110、および120℃で測定したシール強度の平均値
【0070】
ホットタック
ホットタックは以下の条件下で試験した。
ホットタック試験機であるThellerにて、0.5秒、15PSI(1.05kg/cm2)(ピーク)
0.5秒、5PSI(0.35kg/cm2)、120gスプリング、両チャック加熱
【0071】
以下のデータは、Thellerホットタックに関する記述である。
MHHT-ホットタック強度が200g/25mmに達する温度(℃)
HTS-110、120、および130℃で測定したホットタック強度の平均値
【0072】
以下のデータはスプリングホットタックに関する記述である。
RANGE-ホットタックの結果が、開口10%未満となる温度範囲
【0073】
試験を実施したすべての試料は、同等かつ許容範囲内のスリップ性、乾燥時のブロッキング性、湿時のブロッキング性、ヘイズ、および透明性を示した。得られたホットタックおよびヒートシールの測定値は表2に示す。これらの結果は、本発明によるコーティング組成物が良好なホットタック性を示しながら、非常に低いヒートシール温度を維持することを示し、一方、従来技術による組成物(実施例1から4)は、水酸化ナトリウムで中和すると最低ヒートシール温度が上昇することを示す。
【0074】
【表2】
[図:0001411302000002.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
上記(ア)の記載からみて、特に試料番号7のコーティング組成物を二軸延伸ポリプロピレンフィルム試料の片面に塗布したフィルムに着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「エチレン-アクリル酸コポリマーを分散させた分散液に、4phrのミクロクリスタリンワックス、および0.3%のヒュームドシリカを加えた、低温でヒートシール可能な改良されたコーティング組成物を、フィルム乾燥後のコーティング全体の重量がフィルム1m2当たり約0.7から1.0gであるように、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に塗布した、フィルム。」
イ 甲2
甲2の【請求項1】、【請求項2】、【0030】、【0031】、【0035】、【0047】~【0049】、【0059】~【0068】の記載からみて、甲2には以下の事項(以下「甲2記載事項」という。以下、他の甲号証についても同じ。)が記載されていると認められる。
「紙基材の一方面に防湿主剤と重質炭酸カルシウムからなる無機顔料とを含む塗被層が設けられており、前記塗被層には固形分換算で防湿主剤100重量部に対して無機顔料25乃至100重量部が配合され、
前記防湿主剤において、アクリル系合成樹脂と合成ゴム系ラテックスとの混合物の100重量部に対して、ワックス系エマルジョンが固形分換算で2乃至20重量部の範囲で配合されている、ブロッキングを防止する防湿シート。」
ウ 甲3
甲3の【請求項1】、【請求項5】、【0001】、【0016】、【0017】、【0040】~【0042】の記載からみて、甲3には以下の甲3記載事項が記載されていると認められる。
「基材の少なくとも片面に、顔料100重量部当たり、アクリル系ディスパージョン(A)とスチレン・ブタジエン系ディスパージョン(B)の混合物を50乃至200重量部配合してなる塗料を、5乃至25g/m2塗工した加工紙において、ヒートシール性を有する、製袋等に使用できる耐水耐油紙。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「エチレン-アクリル酸コポリマー」は、「ヒートシール可能」であるから熱可塑性であることは自明であって、本件発明1の「熱可塑性樹脂」である「エチレンアクリル酸共重合樹脂」に相当する。
甲1発明の「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、「基材」である限りにおいて、本件発明1の「紙基材」に一致する。したがって、甲1発明の「コーティング組成物を、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面に塗布した」ことは、「基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」する限りにおいて、本件発明1の「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有」することに一致する。
甲1の「抗ブロッキング剤として作用すると同時に最終的なフィルムの摩擦係数を向上させる、ミクロクリスタリンワックスまたはポリエチレンワックス等のワックス」(【0042】)との記載から、甲1発明の「ミクロクリスタリンワックス」は、本件発明1の「アンチブロッキング剤」としての「ワックス」に相当する。
甲1の「他の種類の添加剤としては、室温下でコーティングの粘着性を低下させるヒュームドシリカ、炭酸カルシウム、タルク、架橋剤、および帯電防止剤がある。」(【0042】)、「抗ブロッキング剤(シリカ、炭酸カルシウムまたはポリマー抗ブロッキング剤等)」(【0061】)の記載から、甲1発明の「ヒュームドシリカ」は、本件発明1の「アンチブロッキング剤」に相当する。
甲1発明の「フィルム」は「ヒートシール可能」であるから、本件発明1の「ヒートシール紙」と「ヒートシール材」である限りにおいて一致する。
そうすると、両者は以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、
前記塗工層が、アンチブロッキング剤を含み、
前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であるヒートシール材。」
<相違点1>
「基材」、「ヒートシール材」について、本件発明1は「紙基材」であり、「ヒートシール紙」であるのに対し、甲1発明では「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」であり、「ヒートシール紙」ではない点。
<相違点2>
本件発明1は、「塗工層」の「塗工量(乾燥重量)が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であ」るのに対して、甲1発明は、「フィルム乾燥後のコーティング全体の重量がフィルム1m2当たり約0.7から1.0gであるように」「塗布」された点。
<相違点3>
「アンチブロッキング剤」について、本件発明1は、「少なくとも顔料を含み」、「前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、80質量部以上200質量部未満であ」るのに対し、甲1発明は「ヒュームドシリカ」が顔料であるか不明であり、当該「ヒュームドシリカ」をどの程度配合したか不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2、3について検討する。
(ア)相違点2について
甲1発明における「フィルム乾燥後のコーティング全体の重量」に関して、甲1には、「典型的には、コーティング組成物は、0.5から3μmの厚さでこの基材に付着することができる。」(【0044】)と記載されている。ここで、エチレン-アクリル酸コポリマーの密度は1より小さいことが技術常識であって、厚さ3μmのときであってもコーティング組成物の塗工量は「3g/m2」未満となるから、甲1には、塗工量を片面あたり3g/m2以上20g/m2以下とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)相違点3について
ヒュームドシリカを顔料に用いることは技術常識であって、甲1発明の「ヒュームドシリカ」も顔料であるといえる。
また、甲1発明における「ヒュームドシリカ」の配合量は、約0.313質量部(=0.3×(100+4)÷(100-0.3))と計算できる。
ここで、甲1には、「コーティング組成物の最終用途に応じて通常の添加剤を添加することもできる」(【0042】)ことについては記載されているものの、甲1発明における「エチレン-アクリル酸コポリマー」100質量部に対する「ヒュームドシリカ」の配合量を80質量部以上200質量部未満とすることについて記載も示唆もされていない。
また、熱可塑性樹脂がエチレンアクリル酸共重合体であって顔料を含む塗工層において、顔料の配合量を、熱可塑性樹脂100質量部に対して、80質量部以上200質量部未満とすることは、申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 申立人の主張について
相違点3に関して、申立人は、令和6年1月9日提出の意見書において、甲2について、ブロッキングは、スチレン・ブタジエン系ラテックス特有の課題というわけではなく、造膜性が高い(ガラス転移点が低い)主剤を使用した場合には、その種類によらず生じうる課題であるといえ、また、甲3について、甲3の課題として、ヒートシール性を有する点や、ブロッキングが抑制されているものであるから、甲1発明において、甲2に記載された、防湿主剤100重量部に対して無機顔料25乃至100重量部や、甲3に記載された、顔料100重量部当たり、アクリル系ディスパージョン(A)とスチレン・ブタジエン系ディスパージョン(B)の混合物を50乃至200重量部程度に、顔料の含有量を増やすことについて、何らの阻害要因も存在しない旨を述べている。
しかしながら、甲2、甲3における「熱可塑性樹脂」は、それぞれ「アクリル系合成樹脂と合成ゴム系ラテックスとの混合物」、「アクリル系ディスパージョン(A)とスチレン・ブタジエン系ディスパージョン(B)の混合物」であって、「エチレンアクリル酸共重合体」ではない。
また、「アクリル系合成樹脂と合成ゴム系ラテックスとの混合物」や「アクリル系ディスパージョン(A)とスチレン・ブタジエン系ディスパージョン(B)の混合物」と、「エチレンアクリル酸共重合体」とで、顔料の配合量について同程度の耐ブロッキング性を有することを示すような証拠も提出されていない。
そうすると、甲1発明における顔料の配合量として、甲2や甲3の記載を参考にする動機付けはない。
したがって、申立人の上記主張は採用することができない。
エ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由(サポート要件)の概要
本件特許は、特許請求の範囲の記載が次の点で不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1における塗工層の塗工量及び顔料の配合量に関して、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)請求項2、3におけるワックスの配合量に関して、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(3)請求項4における熱可塑性樹脂のガラス転移温度に関して、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
2 当審の判断
(1)本件発明が解決しようとする課題
本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にブロッキング耐性が良好なヒートシール紙を提供すること」(【0005】)である。
(2)本件課題を解決するための手段
本件課題に関して発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、
前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくとも顔料を含み、
前記塗工層における顔料の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対し、200質量部未満であることを特徴とするヒートシール紙。
・・・
6.前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂であることを特徴とする1.~5.のいずれか一項に記載のヒートシール紙。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共に、良好なブロッキング耐性を有するヒートシール紙を提供することができる。アンチブロッキング剤として、顔料とワックスを併用することにより、状況に応じて必要なブロッキング耐性を付与することができる。」
「【0017】
(塗工層)
塗工層は、熱可塑性樹脂と、ワックス又は顔料から選ばれる1種以上のアンチブロッキング剤を含む。塗工層は、ヒートシール紙の両面に設けることもできるが、少なくとも片面に有する。
塗工層は、ヒートシール適性を有する。ヒートシール適正を有するとは、加熱、加圧することで接着対象に接着できることを意味する。ヒートシール適性を有することにより、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途において、包装形態への成形や形状の維持、密封性の確保などが容易となる。
【0018】
・熱可塑性樹脂
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、製紙分野においてヒートシール層の形成に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、・・・これらの中で、ヒートシール適性の高いエチレンアクリル酸共重合樹脂が好ましい。
【0019】
・アンチブロッキング剤
本発明のヒートシール紙は、アンチブロッキング剤として、顔料、またはワックスを含む。・・・」
(3)判断
発明の詳細な説明の上記(2)の記載を参照すると、本件課題の解決は、紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂としてのエチレンアクリル酸共重合樹脂を含む塗工層を有しつつ、塗工層が、アンチブロッキング剤として顔料を含むことによるものと理解できる。
そうすると、本件発明1は、「紙基材の少なくとも一方の面上に、熱可塑性樹脂を含む塗工層を有し、前記塗工層が、アンチブロッキング剤として少なくとも顔料を含み」、「前記塗工層に含まれる熱可塑性樹脂が、エチレンアクリル酸共重合樹脂である」との構成を有しており、当該構成により、ヒートシール適性を有すると共にブロッキング耐性が良好なものとなると認識できる。
したがって、本件発明1、及び本件発明1の特定事項を全て含む本件発明2~5は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決することができると認識できる範囲のものである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)小括
よって、本件発明1~5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700595