特許異議申立
2023-700392
バリア素材
- 審判番号
- 2023-700392
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-546749
- 登録番号
- 7157069
- 請求日
- 2023年04月18日
- 審決日
- 2024年08月20日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】長谷部 善太郎
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】砂川 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7157069号発明「バリア素材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7157069号の特許請求の範囲を令和6年4月25日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~21〕について訂正することを認める。
特許第7157069号の請求項1~9、11~14に係る特許を維持する。
特許第7157069号の請求項10、15~21に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7157069号(以下「本件特許」という。)の請求項1~21に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)10月3日(優先権主張平成29年10月4日)を国際出願日とする出願であって、令和4年10月11日に特許権の設定登録がされ、令和4年10月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 4月18日 :特許異議申立人砂川幸子(以下「申立人」という。)による請求項1~21に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 7月14日付け:取消理由通知書
令和5年 9月14日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年10月30日 :申立人による意見書の提出(以下「意見書1」という。)
令和6年 2月27日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 4月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 6月 5日 :申立人による意見書の提出(以下「意見書2」という。)
なお、令和5年9月14日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年4月25日提出の訂正請求書により特許権者が求める訂正(以下「本件訂正」という。)は、「特許第7157069号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~21について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「前記樹脂層が、生分解樹脂または生物由来樹脂を主成分とし、」とあるのを、
「前記樹脂層が、生分解樹脂または生物由来樹脂を主成分とし、
前記紙基材の坪量が、30g/m2以上150g/m2以下であり、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~9、11~14も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が10ml/m2・day・atm以下であり、」とあるのを、
「下記(2)かつ(3)の条件を満たし、
(2)温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下、
(3)温度23℃、相対湿度85%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~9、11~14も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「全体のバイオマス度が50%以上である」とあるのを、
「全体のバイオマス度が79%以上である」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~9、11~14も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~9、11~14に
「バリア素材。」とあるのを、
「軟包装材。」に訂正する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10、15~21を削除する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項11に
「請求項1~10のいずれかに記載の」とあるのを、
「請求項1~9のいずれかに記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項12に
「請求項1~11のいずれかに記載の」とあるのを、
「請求項1~9、11のいずれかに記載の」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の請求項13に
「前記バイオマス度が75%以上である」とあるのを、
「前記バイオマス度が85%以上である」に訂正する。
(請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
本件訂正前の請求項13に
「請求項1~12のいずれかに記載の」とあるのを、
「請求項1~9、11~12のいずれかに記載の」に訂正する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の請求項14に
「請求項1~13のいずれかに記載の」とあるのを、
「請求項1~9、11~13のいずれかに記載の」に訂正する。
(11)本件訂正は、一群の請求項〔1~21〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載の紙基材について「前記紙基材の坪量が、30g/m2以上150g/m2以下であ」ることに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書の【0010】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に記載の酸素透過度について、「温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が10ml/m2・day・atm以下」から「(2)温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」かつ「(3)温度23℃、相対湿度85%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書の【0016】及び【0068】【表1】の実施例4~8の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の全体のバイオマス度を「50%以上」から「79%以上」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書の【0013】、【0060】、【0063】、【0066】、【0068】【表1】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、基紙上に水蒸気バリア層、ガスバリア層をこの順に有する紙基材を有し、前記紙基材の少なくとも一方の面に樹脂層を有してなることを発明特定事項とする本件訂正前の請求項1~9、11~14のバリアの素材について、その用途を限定して「軟包装材」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書の【0010】及び【0048】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、本件訂正前の請求項10、15~21を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(6)訂正事項6~10
訂正事項6~10は、本件訂正前の請求項10が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、削除された請求項10を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~21〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~9、11~14に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9、11~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基紙上に水蒸気バリア層、ガスバリア層をこの順に有する紙基材を有し、前記紙基材の少なくとも一方の面に樹脂層を有し、
前記水蒸気バリア層とガスバリア層とが、塗工層であり、
前記樹脂層が、生分解樹脂または生物由来樹脂を主成分とし、
前記紙基材の坪量が、30g/m2以上150g/m2以下であり、
下記(2)かつ(3)の条件を満たし、
(2)温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下、
(3)温度23℃、相対湿度85%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下
全体のバイオマス度が79%以上であることを特徴とする軟包装材。
【請求項2】
前記樹脂層が、生物由来樹脂を主成分とし、
前記生物由来樹脂が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、エステル化澱粉、酢酸セルロース、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、発酵法で得られるプロパンジオールと化石資源由来のテレフタル酸のポリエステル、大豆ポリオール、ポリヒドロキシアルカノエート、バイオポリエチレン、バイオポリエチレンテレフタレート、または、バイオポリウレタンであることを特徴とする請求項1に記載の軟包装材。
【請求項3】
前記樹脂層が、生分解性樹脂を主成分とし、
前記生分解性樹脂が、ポリ乳酸、または、ポリブチレンサクシネートであることを特徴とする請求項1に記載の軟包装材。
【請求項4】
前記樹脂層が塗工層であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の軟包装材。
【請求項5】
前記塗工層が、ヒートシール性を有し、塗工量が2g/m2以上20g/m2以下であることを特徴とする請求項4に記載の軟包装材。
【請求項6】
バリア素材を1cm×1cm角の小片に切断し、試料濃度が2重量%となるように液温60℃の水酸化ナトリウムの2重量%水溶液に浸漬させ、Tappi標準離解機にて60分間離解処理したとき、パルプ繊維が分散するものであることを特徴とする請求項4または5に記載の軟包装材。
【請求項7】
前記水蒸気バリア層、ガスバリア層の少なくとも一方が、マイカを含有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の軟包装材。
【請求項8】
温度40±0.5℃、相対湿度差90±2%における水蒸気透過度が100g/m2・day以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の軟包装材。
【請求項9】
温度40±0.5℃、相対湿度差90±2%における水蒸気透過度が10g/m2・day以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の軟包装材。
【請求項11】
前記ガスバリア層が水溶性高分子および界面活性剤を含有し、
前記界面活性剤が、塗料のレベリング性を向上させる目的で配合されるものであることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の軟包装材。
【請求項12】
前記水蒸気バリア層が水蒸気バリア性樹脂および撥水剤を含有することを特徴とする請求項1~9、11のいずれかに記載の軟包装材。
【請求項13】
前記バイオマス度が85%以上であることを特徴とする請求項1~9、11~12のいずれかに記載の軟包装材。
【請求項14】
前記水蒸気バリア層の濡れ張力が10mN/m以上60mN/m以下であることを特徴とする請求項1~9、11~13のいずれかに記載の軟包装材。」
第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
当審において特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲2~9、11、14~16、引用文献1~6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。
第5 各甲号証、各引用文献
申立人が、特許異議申立書(以下「申立書」ともいう。)とともに提出した甲第1号証~甲第11号証、甲第14号証~甲第16号証(以下「甲1」等という。)、当審が職権で引用する引用文献1~6、及び、特許権者が令和6年4月25日に提出した意見書(7ページ)で引用する参考資料1は、次のとおりである。
甲1:特開2017-124851号公報
甲2:特開2014-9413号公報
甲3:特開平10-249978号公報
甲4:特開2008-105709号公報
甲5:特開2005-2199号公報
甲6:特開2004-323640号公報
甲7:上田一恵、「ポリ乳酸の動向」、日本ゴム協会誌、一般社団法人日本ゴム協会、第86巻第6号(2013)、p.194-197
甲8:沖野義郎、「生分解性プラスチック利用技術 ポリブチレンサクシネート(PBS)系グリーンプラの特徴と最新情報」、環境技術、環境技術学会、vol.34 No.6(2005)、p.406-410、2005年
甲9:佐野浩、「三菱化学のバイオソリューション-「KAITEKI」の実現に向けて-」、工業材料、日刊工業新聞社、2016年11月号(Vol.64 No.11)、p.75-77
甲10:特開2009-51210号公報
甲11:製品カタログ「ランディ PLシリーズ ポリ乳酸樹脂エマルジ
ョン」、ミヨシ油脂株式会社、2007年12月
甲14:特開2005-162213号公報
甲15:特開2004-300273号公報
甲16:特開2003-313212号公報
引用文献1:特開2015-155527号公報
引用文献2:特開2015-231870号公報
引用文献3:特開2017-114495号公報
引用文献4:特開2013-176951号公報
引用文献5:特開2012-218411号公報
引用文献6:特開2017-145278号公報
参考資料1:「バイオプラスチックを取り巻く国内外の状況」、環境省、2020年5月22日開催のバイオプラスチック導入ロードマップ検討会(第1回)での配布資料、インターネット<URL:https://www.env.go.jp/recycle/mat052214.pdf>
1 甲1について
(1)甲1の記載
甲1には、次の事項が記載されている。以下、下線は理解の便宜のため当審が付した。また、「・・・」は省略を示す。以下同様。
「【請求項1】
紙基材上に、水蒸気バリア層、ガスバリア層、シーラント層をこの順に設けた紙製バリア包装材料が、胴部材、底板部材、蓋部材のいずれかの部材に用いられていることを特徴とする紙製容器。」
「【0020】
・・・紙基材の坪量は、一般の塗工紙に用いられるものと同様、坪量が25~400g/m2程度のものが好ましく、胴部材及び底部材には紙容器の成型性、自立性の観点から150~350g/m2が更に好ましく、蓋部材には開封性の観点から25~150g/m2が更に好ましい。・・・」
「【0029】
本発明において、ガスバリア層にポリビニルアルコール(水溶性高分子)を含有することは重要である。・・・」
「【0037】
本発明の紙製バリア包装材料を用いて成形された紙製容器は、固体(スナック菓子など)、液体(ジャム、ヨーグルト等)などの容器として使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、もちろんこれらの例に限定される物ではない。なお、特に断らない限り、例中の部および%は、それぞれ重量部、重量%を示す。なお、得られた紙容器について以下に示す様な評価法に基づいて試験を行った。
(評価方法)
(1)水蒸気透過度:容器内に無水塩化カルシウムを封入し、温度40±0.5℃、相対湿度90±2%の条件下で、24時間放置した後にカップの重量を測定し、更に同条件にて24時間放置した後にカップの重量を測定し、その増加量から水蒸気透過度を求めた。増加湿度測定器(Dr.Lyssy社製、L80-4000)を用いて測定した。
(2)酸素透過度:成型した容器内の気体を窒素置換した後、MOCON社製OX-TRAN2/21を使用し、23℃-0%RH条件および23℃-85%RH条件で測定した。
【0039】
[実施例1]
(紙製バリア包装材料の作製)
(1)原紙(紙基材)の作成
カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)を原料パルプとした。原料パルプスラリーに、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.1%、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を対絶乾パルプ重量あたり0.35%、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.08%添加した後、デュオフォーマーFM型抄紙機にて300m/minの速度で抄紙し、坪量250g/m2の紙を得た。・・・
【0040】
(2)水蒸気バリア層用塗工液の調製
大粒径エンジニアードカオリン(イメリス社製バリサーフHX 粒子径9.0μm アスペクト比80-100)に分散剤としてポリアクリル酸ソーダを添加し(対無機顔料0.2部)、セリエミキサーで分散して固形分濃度55%の大粒径カオリンスラリーを調製した。得られたカオリンスラリー中に重質炭酸カルシウムスラリー(ファイマテック社、FMT-75、平均粒子径:1.6μm、アスペクト比:1)を顔料配合比で75:25となるように混合、撹拌し、更に防湿ラテックス(日本ゼオン社製PNT7868)を対顔料100部(固形分)となるように配合して、固形分濃度50%の塗工液Aを得た。・・・」
「【0043】
(3)ガス(酸素)バリア層用塗工液の調製
ポリビニルアルコール(クラレ社製PVA117)を固形分濃度10%となるよう調製した。また大粒径エンジニアードカオリン(イメリス社製バリサーフHX)に分散剤としてポリアクリル酸ソーダを添加し(対無機顔料0.2部)、セリエミキサーで分散して固形分濃度55%の大粒径カオリンスラリーを調製した。得られた2つの液体を固形分で水溶性高分子:顔料=100:100として固形分濃度が15%となるよう混合し、塗工液Bを得た。
【0044】
(4)水蒸気バリア層、ガス(酸素)バリア層の塗工
得られた原紙上に塗工液Aを塗工量(乾燥)15g/m2となるよう塗工速度300m/minでブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥した後、その上に塗工液Bを塗工量(乾燥)2.0g/m2となるよう塗工速度300m/minでロールコーターを用いて片面塗工し、紙製バリア基材を得た。得られた紙製バリア基材(シーラント層なし)の水蒸気透過度、酸素透過度を表1に示す。
【0045】
(5)シーラント層の形成
紙製容器の胴部及び底部に用いる紙製バリア包装材料は、共押し出しラミネーターを用いて、紙製バリア基材のガスバリア層上にLLDPE(日本ポリエチレン製 NH745N)を20μm形成し、その後反対面に同様の樹脂層を形成し、紙製容器の蓋部に用いる紙製バリア包装材料は、紙製バリア基材のガスバリア層上に12μmのPETフィルム及び30μ(当審注:30μmの誤記と認める。)の低密度ポリエチレンフィルムをドライラミ加工により貼合させて作成し、紙製バリア包装材料をした。なお、蓋部に用いた紙製バリア基材は、原紙の坪量50g/m2に変更した以外は上記と同様にして作成した。
【0046】
(紙容器の作成)
上記で製造した紙製バリア包装材料を用いて、扇形のブランク板を打ち抜き加工し、上記のブランク板をバリア塗工層が内側となるように筒状に巻いてその両側端部を部分的に重ね合わせ、その重合部分に加熱処理し熱可塑性樹脂層を加熱溶融し、次いで熱板によって押圧して胴貼りを行って胴シール部を形成して、紙カップを構成する筒状のカップ胴部を製造した。また、上記で製造したバリア性紙基材を使用し、これを円形状に打ち抜き加工して、該円板の外周部をバリア塗工層が内側となるように筒状に起立成形して、起立成形部を有する底部を製造した。更に、上記で製造した筒状のカップ胴部に、同じく上記で製造した底部を挿入し、筒状のカップ胴部の先端部を内方に折り曲げて、上記の底部を構成する起立成形部にかぶせて、上記の筒状のカップ胴部の先端部と底部の起立成形部との重合部分を加熱処理し熱可塑性樹脂を加熱溶融した後に、内径側から押圧することにより、上記の筒状のカップ胴部と底部とを密接着させて接合部を形成して紙カップ底部を形成した。上記の筒状のカップ胴部の底部を密接着させて接合部を形成した側と反対側の先端端部をカールさせて、上端フランジ部を形成して、本発明にかかる容量150ccの紙カップ(胴部、底部、蓋部の合計面積は190cm2であった。)を製造した。更に、カップの開口部の上端フランジ部に蓋材(バリア性紙基材(坪量:70g/m2)/PETフィルム(12μm)/低密度ポリエチレン(30μm))を密接着させて開口部を密閉シールした。」
「【0054】
【表1】
[図:0001416440000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載事項を総合し、実施例1のうち特に紙製容器の蓋部に用いる場合について整理すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「紙基材上に、水蒸気バリア層、ガスバリア層、シーラント層をこの順に設けた紙製バリア包装材料であって、
紙製バリア包装材料が、紙製容器の蓋部に用いられており
水蒸気バリア層が、塗工量(乾燥)15g/m2となるように塗工された塗工層であり、ガスバリア層が、塗工量(乾燥)2.0g/m2となるように塗工された塗工層であり、
紙基材の坪量が50g/m2であり、
シーラント層が、ガスバリア層上に12μmのPETフィルム及び30μmの低密度ポリエチレンフィルムをドライラミ加工により貼合させたものである紙製バリア包装材料。」
2 引用文献1~3について
(1)引用文献1の記載
「【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスプラスチック度が25質量%以上である、食品包装用ポリオレフィン系ラップフィルムに関する。特に、環境への負荷が少なく、かつ密着性およびカット性に優れた食品包装用ポリオレフィン系ラップフィルムに関する。」
「【0042】
材料
(a)LDPE:
CE3506(住友化学(株)製、密度0.930g/cm3、MFR(190℃、2.16kg)5.1g/10分、バイオマスプラスチック度0質量%、オリゴマー抽出量0.7質量%)
SPB681(ブラスケム社製、密度0.922g/cm3、MFR(190℃、2.16kg)3.8g/10分、バイオマスプラスチック度95質量%、オリゴマー抽出量2.6質量%)」
(2)引用文献2の記載
「【0001】
本発明は、蓋材とそれを用いた包装容器に関するものである。さらに詳細には、カップ、トレーなどに用いる、熱可塑性樹脂層を主体とする多層構成を有する蓋材であって、植物由来のポリエチレン樹脂を使用することで環境への負荷が軽減されるとともに、易開封性を付与するだけでなく、開封時に発生する糸引きなどの問題を解消させることが可能な蓋材と、それを用いた包装容器に関するものである。」
「【0053】
シーラント層2は、シーラント層2全体で植物由来の低密度バイオマスポリエチレン樹脂(メルトフローレート30g/10min(190℃/2.16kg)、密度0.915g/cm3、ブラスケム社製)を60質量%、ポリブテン樹脂(メルトフローレート1.8g/10min(190℃/2.16kg)、密度0.915g/cm3、三井化学社製)を40質量%含んでいる。」
【0054】
別途、容器本体用に、坪量80g/cm2の紙基材に、植物由来の低密度バイオマスポリエチレン樹脂(メルトフローレート3.8g/10min(190℃/2.16kg)、密度0.922g/cm3、ブラスケム社製)をラミネートして原反とし、これを使用して図3のような紙カップを作成した。」
(3)引用文献3の記載
「【0001】
本開示は、包装材用積層フィルム、及び包装袋に関し、より詳細には、植物由来の低密度ポリエチレン樹脂を含む樹脂組成物からなるフィルムが積層された包装材用積層フィルム、及びそのフィルムが用いられた包装袋に関する。」
「【0076】
[実施例1]
(1)樹脂組成物
低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製LC525:密度d=0.923g/cm3、メルトフローレート(MFR)=3.5g/10分)50.0重量部と、バイオマス低密度ポリエチレン(ブラスケム株式会社製SEB853:密度d=0.923g/cm3、メルトフローレート(MFR)=2.7g/10分)50.0重量部とを充分に混練して樹脂組成物を調製した。」
(4)上記(1)~(3)から、以下の事項は周知(以下「周知事実」という。
)であるといえる。
「包装材にも用いられるバイオマス由来の低密度ポリエチレンは本件出願時において当業者に知られていたこと。」
3 引用文献4~6について
(1)引用文献4の記載
「【0001】
本発明は、少なくとも植物由来の基材フィルムと植物由来のシーラントフィルムとからなる積層フィルムに関し、更に詳しくは、優れた手切れ性及び耐衝撃性を示し、且つ、高いバイオマス度を示す積層フィルムに関する。」
「【0030】
PETフィルム
本発明において、植物由来原料からなるPETフィルムは、15~100%のバイオマス度を示すことが好ましい。
このようなPETフィルムは、原料となるモノエチレングリコール(MEG)及びテレフタル酸(PTA)の一部または全部を、植物由来のものと置換することにより製造することができる。
・・・」
「【0040】
<X>包装材
本発明の積層フィルムは、蓋材や包装袋等の包装材として、好適に使用することができる。・・・
・・・
本発明の積層フィルムは、高いバイオマス度を示しながらも、優れた手切れ性及び耐衝撃性を有する。したがって、詰め替え用のシャンプーやリンス、食品等を密封包装する詰め替えパウチのシーラントフィルムとしても好適に使用することができる。」
(2)引用文献5の記載
「【0001】
本発明は、脱酸素剤包装材料に関する。更に詳しくは、環境に配慮したバイオマス由来のプラスチックフィルムを積層してなる脱酸素剤用包装材料に関する。」
「【0013】
本発明のバイオマス由来の熱可塑性樹脂としては、耐加水分解性に優れていれば何ら限定されないが、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと表記する)、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等が例示される。」
「【0032】
(実施例1)
裏面に印刷を施したバイオマス由来PETフィルム(厚み:12μm)とバイオマス由来ポリエチレンフィルム(厚み:15μm)をラミネートしたラミネートフィルム1に冷針開孔を施し・・・、脱酸素剤用包装材料1(総厚み:120~130μm)を得た。・・・」
(3)引用文献6の記載
「【0004】
一方、近年、地球温暖化が問題とされており、石油由来の材料の使用を削減し、バイオマス由来材料をポリマーの原材料に使用する検討が進んでいる。例えば、包装材料に使用されるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記)では、バイオマス由来成分による製造方法がほぼ確立されるに至っており、また、ポリエチレンやPPにおいても、バイオマス由来成分を使用する検討が行われている。・・・」
(4)上記(1)~(3)から、以下の事項は周知技術(以下「周知技術1」という。)であるといえる。
「包装材の基材としてバイオマス由来のPETフィルムを用いること。」
第6 取消理由通知(決定の予告)についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1発明の「紙基材」は、本件発明1の「基紙」に相当する。
甲1発明の「12μmのPETフィルム及び30μmの低密度ポリエチレンフィルムをドライラミ加工により貼合させたものである」「シーラント層」は、本件発明1の「樹脂層」に相当する。
甲1発明の「塗工量(乾燥)15g/m2となるように塗工された塗工層であ」る「水蒸気バリア層」及び「塗工量(乾燥)2.0g/m2となるように塗工された塗工層であ」る「ガスバリア層」はそれぞれ、本件発明1の「塗工層であ」る「水蒸気バリア層とガスバリア層」に相当する。
甲1発明の「紙基材上に、水蒸気バリア層、ガスバリア層、シーラント層をこの順に設け」てなる層構成は、本件発明1の「基紙上に水蒸気バリア層、ガスバリア層をこの順に有する紙基材を有し、前記紙基材の少なくとも一方の面に樹脂層を有し」てなる層構成に相当する。
甲1発明の「紙製バリア包装材料」と本件発明1の「軟包装材」は、「包装材」の限りにおいて一致する。
甲1発明の「水蒸気バリア層が、塗工量(乾燥)15g/m2となるように塗工された塗工層であり、ガスバリア層が、塗工量(乾燥)2.0g/m2となるように塗工された塗工層であり、紙基材の坪量が50g/m2であ」ることは、紙基材と水蒸気バリア層とガスバリア層の合計の1m2当たりの重量は67g(=50+15+2.0)であるから、本件発明1の「基紙上に水蒸気バリア層、ガスバリア層をこの順に有する紙基材」「の坪量が、30g/m2以上150g/m2以下であ」ることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、相違する。
[一致点]
「基紙上に水蒸気バリア層、ガスバリア層をこの順に有する紙基材を有し、前記紙基材の少なくとも一方の面に樹脂層を有し、
前記水蒸気バリア層とガスバリア層とが、塗工層であり、
前記紙基材の坪量が、30g/m2以上150g/m2以下である、包装材。」
[相違点1-1]
樹脂層について、本件発明1では、樹脂層が「生分解樹脂または生物由来樹脂を主成分」としているのに対し、甲1発明では、シーラント層の由来が不明な点。
[相違点1-2]
包装材について、本件発明1では、「全体のバイオマス度が79%以上」であるのに対し、甲1発明では、全体のバイオマス度の特定がない点。
[相違点1-3]
包装材について、本件発明1では、「(2)温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」かつ「(3)温度23℃、相対湿度85%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」であるのに対し、甲1発明では、酸素透過度が不明な点。
[相違点1-4]
包装材について、本件発明1では、「軟包装材」であるのに対し、甲1発明では、「紙製容器の蓋部に用いられて」いる「紙製バリア包装材料」である点。
(2)相違点についての判断
ア 相違点1-1について
当業者がポリエチレン、PET等の熱可塑性樹脂を扱う際に、環境負荷の低減に配慮することは通常検討され得る技術課題であるから、甲1発明におけるPETフィルムと低密度ポリエチレンフィルムとして、バイオマス由来のものを用いる動機付けがあるといえ、甲1発明のシーラント層を構成するPETフィルム及び低密度ポリエチレンフィルムとして、周知事実及び周知技術1を参酌することで、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点1-2に係る甲1発明のバイオマス度について
甲1発明の紙基材について、甲1の【0039】には、広葉樹クラフトパルプを原料とする原料パルプスラリーに、添加剤(乾燥紙力増強剤0.1重量%、サイズ剤0.35重量%、歩留剤0.08重量%)を合計0.53重量%添加して坪量250g/m2の原紙を得た旨の記載があり、甲1の【0045】の蓋部に用いた坪量50g/m2の原紙においても同様の材料を用いていると考えられるので、甲1発明の紙基材の坪量50g/m2のうち、0.3g/m2(=50×(0.001+0.0035+0.0008))が添加剤であり、49.7g/m2が原料パルプであると算出できる。
そして、甲1発明において、水蒸気バリア層の塗工量は15g/m2、ガスバリア層の塗工量は2.0g/m2であり、PETの密度は1.30~1.38g/cm3であるから厚み12μmのPETフィルムは最小で15.6g/m2であり、同様に、LDPEの密度が0.910~0.940g/cm3であるから厚み30μmのシーラント層は最小で27.3g/m2である。そうすると、水蒸気バリア層、ガスバリア層、PETフィルム、LDPEフィルムの1m2当たりの重量はそれぞれ、15g、2.0g、15.6g、27.3gとなる。
ここで、上記アにおいて検討したようにPETフィルム及び低密度ポリエチレンフィルムをバイオマス由来のものとすることは当業者が容易に想到し得たことであり、その場合における、甲1発明の紙製バリア包装材料のバイオマス度は、本件優先日時点におけるPETのバイオマス度が最大で30%、LDPEのバイオマス度が最大で100%である(参考資料1の5ページ参照)ことを踏まえると、包装材全体のバイオマス度は、各層の1m2当たりの重量を用いて以下のとおり算出できる。
(49.7+15.6×0.3+27.3)/(50+15+2.0+15.6+27 .3)=0.74(74%)
ウ 相違点1-3に係る甲1発明の酸素透過度について
甲1の【0038】~【0039】、【0044】~【0046】、【0054】【表1】の記載を踏まえると、甲1発明に係る紙製バリア包装材料からなる蓋部(バリア性紙基材(紙基材(坪量50g/m2)上に水蒸気バリア層15g/m2及びガスバリア層2.0g/m2を塗工)/PETフィルム(12μm)/低密度ポリエチレン(30μm))と、胴部及び底部(LLDPE(20μm)/紙製バリア基材(紙基材(坪量250g/m2)上に水蒸気バリア層15g/m2及びガスバリア層2.0g/m2を塗工)/LLDPE(20μm))を用いて製造した紙コップの酸素透過度の測定結果は、23℃-0%RH条件で測定した酸素透過度が0.4ml/m2・day、23℃-85%RH条件での酸素透過度、20ml/m2・dayである(【0054】【表1】)。
エ 相違点1-2及び相違点1-3の容易想到性について
甲1の「本発明は、優れたガスバリア性と水蒸気バリア性を併せ持つ、紙製容器を提供すること目的とする。」(【0012】)との記載を踏まえると、甲1発明においてガスバリア性を更に向上させることには動機付けがあり、ガスバリア層の塗工量を増やすことで、酸素透過度を上記ウで検討した数値からさらに低減させようとすることが示唆されている。
しかしながら、そのようにした場合においては、包装材全体のバイオマス度は上記イで検討した数値である74%からさらに低下するから、酸素透過度とバイオマス度の両方において同時に本件発明1の数値範囲内とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、甲1発明において、相違点1-2及び相違点1-3に係る本件発明1の構成に至ることは、当業者が容易になし得たことではない。
オ 小括
上記ア~エのとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、周知事実及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~9、11~14について
本件発明2~9、11~14は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記1で検討したのと同じ理由により、本件発明2~9、11~14は、甲1発明、周知事実及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由1-2(甲2を主引例とした進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
甲2の請求項1、2、【0001】、【0027】、【0029】~【0031】、【0035】【表1】、特に紙基材の坪量及び包装材料の酸素透過度については実施例2に着目すると、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「紙基材上に水蒸気バリア層、水溶性高分子を含有するガスバリア層、シーラント層(LLDPE)をこの順に設けた紙製バリア包装材料であって、
紙基材の密度が0.85g/cm3で、坪量が280g/m2であり、
前記水蒸気バリア層およびガスバリア層が水系塗料の塗工によって設けられており、
水蒸気バリア層用塗工液の塗工量が15g/m2であり、酸素バリア層用塗工液の塗工量が2.0g/m2であり、
23℃-0%RH条件で測定した酸素透過度が、1.0ml/m2・dayであり、
23℃-85%RH条件で測定した酸素透過度が、5ml/m2・dayである、
容器やカップに用いられる紙製バリア包装材料。」
(2)対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、両者は以下の点で相違する。
[相違点2-1]
基紙上に水蒸気バリア層、ガスバリア層をこの順に有する紙基材の坪量が、本件発明1では、「30g/m2以上150g/m2以下であり、」であるのに対し、甲2発明では、297g/m2(=280+15+2.0)である点。
[相違点2-2]
樹脂層について、本件発明1では、樹脂層が「生分解樹脂または生物由来樹脂を主成分」としているのに対し、甲2発明では、シーラント層(LLDPE)の由来が不明な点。
[相違点2-3]
包装材について、本件発明1では、「全体のバイオマス度が79%以上」であるのに対し、甲2発明では、全体のバイオマス度の特定がない点。
[相違点2-4]
包装材の温度23℃、相対湿度85%における酸素透過度が、本件発明1では、「3ml/m2・day・atm以下」であるのに対し、甲2発明では、「5ml/m2・day」である点。
[相違点2-5]
包装材について、本件発明1では、「軟包装材」であるのに対し、甲2発明では、「容器やカップに用いられる紙製バリア包装材料」である点。
(3)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2-1及び相違点2-4について検討する。
甲2には、紙基材(本件発明1の「基紙」に相当。)の紙厚について、「紙基材の厚さを150μm以上とすることで、紙基材側から浸透する水分がガスバリア層に到達するまでの時間が長くなるともに、・・・高湿度条件下におけるガスバリア性が向上すると考えられる。」(【0018】)と記載されているから、紙基材の紙厚150μmまで小さくすることは示唆されている。そして、その場合、甲2発明の紙基材の密度が0.85g/cm3であるから、紙基材(基紙)の坪量は128g/m2となり、水蒸気バリア層の塗工量15g/m2、酸素バリア層の塗工量2.0g/m2を合計しても145g/m2であり、本件発明1における紙基材の坪量の上限値以下となる。
しかしながら、同時に相違点2-4に係る「温度23℃、相対湿度85%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」を達成するためには、酸素バリア層の塗工量を大きくするか、紙基材の紙厚を大きくすることが考えられるところ、いずれの手段を採用しても、紙基材と水蒸気バリア層と酸素バリア層の合計坪量が本件発明1の上限値である150g/m2を超えることは明らかである。
したがって、甲2発明において、相違点2-1及び相違点2-4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものではない。
(4)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1~9、11~14は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 申立理由1-3(甲3を主引例とした進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
甲3の請求項1、【0001】、【0035】~【0036】、【0046】、【0054】【表2】を参照し、特に実施例8に着目すると、甲3には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「紙支持体A、防湿層B、酸素バリア層Cから成る積層構造を有する積層体であって、
紙支持体Aの坪量が70g/m2であり、
防湿性塗料の塗工量が固形分で30g/m2であり、
酸素バリア性塗料の塗工量が固形分で4g/m2であり、
JIS Z0208 B法による透湿度が28g/m2・24h・atmであり、
JIS K7126 B法による酸素透過度が12cc/m2・24h・atmであり、且つ離解可能である、
各種フレキシブル包装用途又は紙器用途等に用いられるバリア性積層体。」
(2)対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、両者は以下の点で相違する。
[相違点3-1]
本件発明1は、「紙基材の少なくとも一方の面に」「生分解樹脂または生物由来樹脂を主成分とし」た「樹脂層を有」するのに対し、甲3発明は、かかる構成を有していない点。
[相違点3-2]
包装材について、本件発明1では、「全体のバイオマス度が79%以上」であるのに対し、甲3発明では、全体のバイオマス度の特定がない点。
[相違点3-3]
包装材の酸素透過度について、本件発明1では、「(2)温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」かつ「(3)温度23℃、相対湿度85%における酸素透過度が3ml/m2・day・atm以下」であるのに対し、甲3発明では、「12cc/m2・24h・atm」であるとともに温度及び相対湿度条件が不明な点。
[相違点3-4]
包装材について、本件発明1では、「軟包装材」であるのに対し、甲3発明では、「各種フレキシブル包装用途又は紙器用途等に用いられるバリア性積層体」である点。
(3)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3-3について検討する。
甲3には、酸素透過度の測定について、「JISK7126 B法(等圧法)で塗工面を酸素検出器側にして測定を行った。」(【0039】)との記載がある。ここで、プラスチックフィルム及びシートのガス透過度試験方法に関する「JIS K7126-2」を確認すると、測定に際しての温度と相対湿度の組み合わせが複数規定されているものの、甲3においてどのような温度及び相対湿度条件で測定したかの手がかりにはならない。
そうすると、甲3発明において、酸素透過度の測定を、相違点3-3に係る2種類の温度及び相対湿度条件下で行うとともに、各測定条件下での酸素透過度をいずれも「3ml/m2・day・atm以下」を達成することは、当業者であっても容易になし得たことではない。
(4)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1~9、11~14は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由2(実施可能要件)について(申立書101~104ページ及び意見書2)
本件明細書には、発明を実施するための形態が【0012】~【0049】に、実施例が【0050】~【0068】に記載されているから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
以下、申立人の各主張について検討する。
(1)理由2-1
申立人は、本件訂正前の請求項1について、樹脂層の機能や付与量について特定されておらず、実施例では特定の樹脂が特定の層厚みで使用されているのみであるから、請求項1に係る発明に含まれるその他の部分について実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかしながら、本件明細書には、樹脂層について【0041】~【0047】に具体的に説明されており、当該記載及び技術常識を参酌することで、実施例1~8に記載された以外の樹脂層についても、当業者であれば実施できる。
(2)理由2-2
申立人は、本件訂正前の請求項2に例示されている広範な生物由来樹脂からどのようにしてバリア素材を作れるかについて実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかしながら、本件明細書には、樹脂層に用いられる生物由来樹脂について【0042】に具体的に記載されており、当該記載及び技術常識を参酌することで、実施例1~8に記載された以外の樹脂層についても、当業者であれば実施できる。
(3)理由2-3
申立人は、本件訂正前の請求項6について、どのようにすればバリア素材を離解処理したときにパルプ繊維が分散させられるようにするか、また、どのように「分散している」と判断するのかについて、明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかしながら、本件明細書の「塗工層として樹脂層を形成すると、樹脂ラミネート層として樹脂層を形成するよりも、得られるバリア素材は離解性が良好である(【0045】)との記載を踏まえると、樹脂層を塗工層とすることで当業者であれば実施できる。また、樹脂層を塗工層とすることで得られる程度の離解性を意味することは当業者であれば理解できる。
(4)理由2-4
申立人は、本件訂正前の請求項8、10について、発明の詳細な説明の実施例には水蒸気透過度が10.0~100.0g/m2・dayのものが記載されているに過ぎず、どのようにすれば、10.0m2・day未満さらには3.5m2・day以下であるバリア素材を製造できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかしながら、技術常識を参酌して水蒸気バリア層の塗工量を多くするなどすることで、当業者であれば実施できる。
(5)理由2-5
申立人は、本件訂正前の請求項14について、濡れ張力の測定方法及び調整方法についての記載がないから、水蒸気バリア層表面が10mN/m以上60mN/m以下であるバリア素材を製造できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかしながら、濡れ張力の測定方法及び調整方法は技術常識に属する事項であるから、当該技術常識を参酌することで、当業者であれば実施できる。
(6)申立人が意見書2で追加で主張する理由
本件発明1の酸素透過度を満たす実施例4~8のガスバリア層用塗工液2はシリコーン系界面活性剤を含有しており、本件発明1の酸素透過度を満たさない実施例1~3のガスバリア相溶塗工液1はシリコーン系界面活性剤を含有していないから、ガスバリア層用塗工液がシリコーン系界面活性剤を含有しない場合に本件発明1の酸素透過度をどうやって実現するかについて明確かつ十分に記載されていない(意見書2の2~5ページ)旨主張する。
上記主張について検討するに、本件発明1においてガスバリア層塗工液がシリコーン系界面活性剤を含有しないと特定されているわけでもないから、申立人の上記主張は採用できない。
4 申立理由3(サポート要件)について(申立書104~107ページ及び意見書2)
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題として、「高バイオマス度でCO2排出量が少なく、さらには、生分解性を有し、優れたガスバリア性と水蒸気バリア性を併せ持つバリア素材・・・を提供すること」【0009】が記載されており、当該課題を解決するための手段として、「本発明のバリア素材は、バイオマス度が70%以上であることが好まし」いこと(【0013】)、「本発明のバリア素材は、基材の少なくとも一方の面に、生分解性樹脂を主成分とする樹脂層を有することが好ましい」こと(【0014】)、「基紙上に、水蒸気バリア層、ガスバリア層を・・・この順に有する」こと(【0015】)が記載されている。
そして、これらの課題解決手段は本件発明1で特定されているから、本件発明1により本件発明の課題が解決できることを当業者であれば認識できる。
以下、申立人の各主張について検討する。
(1)理由3-1
申立人は、本件訂正前の請求項1の樹脂層について、発明の詳細な説明には、実施例では特定の樹脂が特定の層厚みで使用されているのみであり、また、本件訂正前の請求項1ではバリア素材が「水蒸気バリア層」「ガスバリア層」をこの順に備えるとともに、「温度23℃、相対湿度0%における酸素透過度が10ml/m2・day・atm以下」であることが特定されているところ、発明の詳細な説明の実施例には、3種類の水蒸気バリア層用塗工用液及びガスバリア層用塗工液で形成された各バリア層が記載されているのみであるから、請求項1~21に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない旨主張する。
しかしながら、本件明細書には、樹脂層について【0041】~【0047】に具体的に説明されているから、申立人の上記主張は採用できない。
(2)理由3-2
申立人は、本件訂正前の請求項2には広範な樹脂層としての生物由来樹脂が例示されており、同請求項3には樹脂層としての生分解性樹脂としてポリ乳酸またはポリブチレンサクシネートであることが特定されているところ、発明の詳細な説明には、生物由来樹脂について上記例示の一部の実施例しか記載されておらず、生分解性樹脂についてポリブチレンサクシートを用いた実施例は記載されていないから、請求項2~21に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない旨主張する。
しかしながら、本件明細書には、生物由来樹脂について【0042】に、生分解性樹脂について【0045】に記載されているから、申立人の上記主張は採用できない。
(3)理由3-3
申立人は、本件訂正前の請求項5の「塗工層が、ヒートシール層を有」することについて、発明の詳細な説明には、ヒートシールの評価手法が記載されていない旨主張する。
しかしながら、包装材に通常求められるヒートシール性であれば足りることを当業者であれば理解できるから、申立人の上記主張は採用できない。
(4)理由3-4
申立人は、本件訂正前の請求項9、10について、発明の細な説明の実施例には水蒸気透過度が10.0~100.0g/m2・dayのものが記載されているに過ぎず、10.0g/m2・day未満さらには3.5g/m2・day以下であるバリア素材について記載されていないから、請求項9~21に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない旨主張する。
しかしながら、本件明細書の実施例には、水蒸気透過度が10.0g/m2・dayのものが記載されており、水蒸気バリア層の塗工量を多くするなどすることで水蒸気透過度を更に小さくすることができることを当業者であれば理解できるから、申立人の上記主張は採用できない。
(5)理由3-5
申立人は、本件訂正前の請求項14について、濡れ張力の測定方法及び調整方法についての記載がないから、請求項14~21に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない旨主張する。
しかしながら、濡れ張力の測定方法及び調整方法は技術常識に属する事項であるから、申立人の上記主張は採用できない。
(6)申立人が意見書2で追加で主張する理由
本件発明1は、「一方の面に樹脂層を有し」とあるところ、訂正発明1に含まれる「樹脂層/基紙/水蒸気バリア層/ガスバリア層」の層構成を有する態様の実施例は記載されていない(意見書2の5ページ)旨主張する。
上記主張について検討するに、発明の詳細な説明には、「本発明のバリア素材は、基材の少なくとも一面に樹脂層を有することができる。」(【0041】)と記載されており、申立人が記載されていないと指摘する事項が発明の詳細な説明に記載されていることは明らかである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
5 申立理由4(明確性)について(申立書107~109ページ)
(1)理由4-1
申立人は、本件訂正前の請求項5について、「塗工層がヒートシール性を有」することについて、発明の詳細な説明には、ヒートシール性の意味内容が記載されていないから、本件発明5~21は明確ではない旨主張する。
しかしながら、包装材に通常求められるヒートシール性であれば足りることを当業者であれば理解できる。
(2)理由4-2
申立人は、本件訂正前の請求項6について、「分散」について、発明の詳細な説明には、その定義が記載されていないから、本件発明6~21は明確ではない旨主張する。
しかしながら、「分散」は「ばらばらに散らばること。」(広辞苑)との語義を踏まると、その意味は明確である。
(3)理由4-4
申立人は、本件訂正前の請求項11の「界面活性剤が、塗料のレベリング性を向上させる目的で配合される」との記載について、どのような場合が「塗料のレベリング性を向上させる目的」であるといえるのか明確ではないから、本件発明11~21は明確ではない旨主張する。
しかしながら、界面活性剤がレベリング性を向上させるという技術常識を踏まえれば、界面活性剤が通常奏し得るレベリング性を発揮する場合を意味することは明確である。
(4)理由4-5
申立人は、本件訂正前の請求項14について、濡れ張力の測定方法及び調整方法についての記載がないから、本件発明14~21は明確ではない旨主張する。
しかしながら、濡れ張力の測定方法及び調整方法は技術常識に属する事項である。
(5)小括
よって、本件発明5~21は明確である。
第8 むすび
以上のとおり、請求項1~9、11~14に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~9、11~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項10、15~21に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、申立人による請求項10、15~21に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700392