特許異議申立
2023-700766
離型フィルム、及び該離型フィルムの製造方法
- 審判番号
- 2023-700766
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-064682
- 登録番号
- 7235797
- 請求日
- 2023年07月24日
- 審決日
- 2024年02月02日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】トーレ・アドバンスド・マテリアルズ・コリア・インコーポレーテッド
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【異議申立人】岩崎 千鶴子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 久保 克彦
- 審判官 金丸 治之
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第113条、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7235797号発明「離型フィルム、及び該離型フィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7235797号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7235797号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和3年4月6日(パリ条約に基づく優先権主張2020年(令和2年)4月21日(KR)大韓民国)の出願であって、令和5年2月28日にその特許権の設定登録がされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年7月24日に特許異議申立人 岩崎千鶴子(以下「異議申立人」という。)により、全請求項に対して、本件特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7235797号の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~8を「本件発明」と総称することもある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、
前記基材の少なくとも一面に位置した離型層と、
を含む離型フィルムであって、
前記離型層がバインダ及び離型剤を含み、
前記バインダが、メラミン系樹脂であり、
前記離型剤が、下記化学式2:
【化1】
[図:0001407848000001.jpg]
(式中、R’1、R’2は、互いに独立して、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、水素原子またはヒドロキシ基であり、
R’3、R’4、R’5、R’6は、互いに独立して、アクリル基、ポリエステル基、ポリエーテル基、ポリウレタン基、アルキド基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基、カルボニル基、カルビノール基、ヒドロキシ基、アミン基、チオール基、フッ素基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基または水素原子であり、
nは、0ないし30の整数であり、mは、0ないし30の整数であり、n+mは、1ないし60の整数であり、
但し、R’1~R’6の少なくとも1つはアルキル基ではない。)
で表示され、
前記離型剤は、バインダ100重量部を基準として、0.05~20重量部の量であり、
前記基材表面の中心線平均粗度(Ra)が10~30nm未満であり、
前記離型層表面の中心線平均粗度(Ra)が15nm未満であり、最大突起高(Rt)が150nm以下であり、
前記離型フィルムが巻き取られたロールのコア表面からロール表面までの全体距離において、前記コア表面からロール表面方向に1/3以上の位置において、ロール表面硬度が500~800である、離型フィルム。
【請求項2】
基材と、
前記基材の少なくとも一面に位置した離型層と、
を含む離型フィルムであって、
前記離型層がバインダ及び離型剤を含み、
前記バインダが、メラミン系樹脂であり、
前記離型剤が、アクリル基、エステル基、ウレタン基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基、カルボニル基、ヒドロキシ基、エーテル基、アミン基、チオール基、アルキル基及びアルケニル基から選択された1種以上の作用基を有するシリコン系樹脂であり、
前記離型剤は、バインダ100重量部を基準として、0.05~20重量部の量であり、
前記基材表面の中心線平均粗度(Ra)が10~30nm未満であり、
前記離型層表面の中心線平均粗度(Ra)が15nm未満であり、最大突起高(Rt)が150nm以下であり、
前記離型フィルムが巻き取られたロールのコア表面からロール表面までの全体距離において、前記コア表面からロール表面方向に1/3以上の位置において、ロール表面硬度が500~800である、離型フィルム。
【請求項3】
前記離型層のダイナミック超微細小硬度(DH)が0.2~3.0gf/μm2である、請求項1又は2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
前記離型層のセラミックスシートに対する剥離力が0.5gf/25mm~10gf/25mmである、請求項1又は2に記載の離型フィルム。
【請求項5】
前記離型層の残留接着率が85%以上である、請求項1又は2に記載の離型フィルム。
【請求項6】
前記離型層の厚みが0.01μm~0.5μmである、請求項1又は2に記載の離型フィルム。
【請求項7】
前記離型フィルムがセラミックスシート成形に使用される、請求項1又は2に記載の離型フィルム。
【請求項8】
基材を準備する段階と、
前記基材の少なくとも一面に、バインダ及び離型剤を含む離型層形成用組成物を塗布して熱処理し、離型層が形成されたフィルムを製造する段階と、
前記フィルムをロールに巻き取り、マスターロールを作製し、それをスリッティングして離型フィルムを製造する段階と、
を含み、
前記離型層形成用組成物中の前記離型剤の固形分含量が、バインダ100重量部を基準として、0.05~20重量部である、請求項1~7のいずれか一項に記載の離型フィルムの製造方法。」
第3 特許異議の申立理由の概要
異議申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して、下記5に示す甲第1号証~甲第3号証(以下「甲1」等という。)を提出し、本件発明1~8に係る特許は、以下の理由により、取り消されるべきである旨を主張する。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性)
本件発明2~7は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらに係る特許は、特許法113条2号に該当し取り消されるべきである。
2 申立理由2(甲1に基づく進歩性)
本件発明1及び8は、甲1に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらに係る特許は、同法113条2号に該当し取り消されるべきである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件発明1~8における「離型フィルムが巻き取られたロールのコア表面からロール表面までの全体距離において、前記コア表面からロール表面方向に1/3以上の位置において、ロール表面硬度が500~800である」について、本件特許の発明の詳細な説明には、「離型フィルムが巻き取られたロールのコア表面からロール表面までの全体距離において、前記コア表面からロール表面方向に1/3以上の位置において、ロール表面硬度が500~800である」を達成する手段が記載されておらず、かつ、周知のものでもないから、当該発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載されていない。したがって、本件発明1~8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号で規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し取り消されるべきである。
4 申立理由4(明確性要件)
本件発明1~8における「基材表面の中心線平均粗度(Ra)が10~30nm未満であり」との記載の「基材表面」が、離型層を塗布する面なのか、その反対側の面なのか不明確であるから、本件発明1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し取り消されるべきである。
5 証拠方法
甲1:特開2018-144500号公報
甲2:Product Data ポリエーテル変成シリコーンオイルTSF4446、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社、2008年2月 インターネット<URL:https://www.across224.com/silicone/pdsdownload.cgi?d=MPStsf4446.pdf>
甲3:特開2006-181993号公報
第4 当審の判断
1 申立理由1(本件発明2~7に対しての甲1に基づく新規性)について
(1) 甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。下線については当審において付与した。以下同じ。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムを基材とし、前記基材が少なくとも片面に粒子を実質的に含有していない表面層Aを有し、少なくとも片面の表面層Aの表面上に直接又は他の層を介して離型層が積層されている離型フィルムであって、張力をかけずに100℃で15分加熱したあとのカールが2mm以下であり、離型層にバインダー成分とシリコーン系離型剤を含有し、離型層表面の最大突起高さ(P)が50nm以下であることを特徴とするセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
・・・
【請求項3】
前記シリコーン系離型剤がポリエーテル部位を有しており、離型層に0.1~20質量%含有していることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のセラミックグリーンシート製造用離型フィルムを用いてセラミックグリーンシートを成型するセラミックグリーンシートの製造方法であって、成型されたセラミックグリーンシートが0.2μm~1.0μmの厚みを有することを特徴とするセラミックグリーンシートの製造方法。」
「【0021】
本発明におけるポリエステルフィルム基材において、離型層を塗布する面の反対面を形成する表面層Bは、フィルムの滑り性や空気の抜けやすさの観点から、粒子を含有することが好ましく、特にシリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子を用いることが好ましい。含有される粒子含有量は、表面層B中に粒子の合計で5000~15000ppm含有することが好ましい。このとき、表面層Bのフィルムの領域表面平均粗さ(Sa)は、1~40nmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、5~35nmの範囲である。シリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子の合計が5000ppm以上、Saが1nm以上の場合には、フィルムをロール状に巻き上げるときに、空気を均一に逃がすことができ、巻き姿が良好で平面性良好により、超薄層セラミックグリーンシートの製造に好適なものとなる。また、シリカ粒子及び/又は炭酸カルシウム粒子の合計が15000ppm以下、Saが40nm以下の場合には、滑剤の凝集が生じにくく、粗大突起ができないため、超薄層のセラミックグリーンシート製造時に品質が安定し好ましい。」
「【0039】
(架橋剤)
バインダー成分には、架橋剤を含有することも好ましい。架橋剤としては、特に限定されないが、メラミン系、イソシアネート系、カルボジイミド系、オキサゾリン系、エポキシ系などを使用することができ、1種類でも2種類以上を併用して用いても構わない。特に好ましくは、バインダー成分に導入された反応性官能基と反応する架橋剤が好ましい。
【0040】
本発明に使用する架橋剤としては、反応性の観点からメラミン系化合物が好ましい。メラミン系化合物を使用することで、離型層の膜厚が0.2μm以下のような薄膜でも素早く硬化させることができ架橋密度が高くなるため好ましい。」
「【0052】
本発明における離型層には、シリコーン系化合物が離型層全体の固形分に対して0.1質量%以上、20質量%以下含まれることが好ましい。より好ましくは、0.1質量%以上、10質量%以下、さらに好ましくは、0.1質量%以上、5質量%以下である。0.1質量%以上であると、離型性が向上し、セラミックグリーンシートの剥離性が向上するため好ましい。一方、20質量%以下であると、剥離時にセラミックグリーンシートへのシリコーン系化合物の移行が少なく好ましい。このとき、離型層全体の固形分とは、溶媒や触媒は乾燥過程で相当部分蒸発するか、もともと微量であるため、実質的にバインダー成分と離型剤の固形分の合計した値とみなして差し支えない。」
「【0055】
本発明において離型層の厚みは、0.2μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.01~0.2μmであり、さらに好ましくは0.02~0.15μmであり、0.02~0.09μmであればより好ましい。離型層の厚みが0.01μm以上であると剥離性能が得られ易く好ましい。0.2μm以下であると、離型層の硬化時間を短くできるため離型フィルムの平面性が保たれてセラミックグリーンシートの厚みムラを抑制できるため好ましい。また0.2μm以下であると得られたフィルムのカールも少なくなるためセラミックグリーンシート成型時に成型精度が向上するため好ましい。」
「【0057】
本発明の離型フィルムは、セラミックグリーンシートを剥離するときの剥離力が0.5mN/mm2以上、3mN/mm2以下であることが好ましい。より好ましくは、0.8mN/mm2以上、2.5mN/mm2以下である。さらに好ましくは、1.0mN/mm2以上、1.8mN/mm2以下である。剥離力が0.5mN/mm2以上であると、剥離力が軽すぎず搬送時にセラミックグリーンシートが浮き上がるおそれがなく好ましい。剥離力が3mN/mm2以下であると剥離時にセラミックグリーンシートがダメージを受けるおそれがなく好ましい。」
「【0059】
本発明の離型フィルムの離型層面は、その上で塗布・成型するセラミックグリーンシートに欠陥を発生させないために、平坦であることが望ましく、領域表面平均粗さ(Sa)が1.5nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.2nm以下であり、1.0nm以下がなお好ましい。また、離型層表面の最大突起高さ(P)が50nm以下であることが好ましく、40nm以下がさらに好ましく、30nm以下がなお好ましい。領域表面平均粗さ(Sa)が1.5nm以下、最大突起高さ(P)が50nm以下であれば、セラミックグリーンシート形成時に、ピンホールなどの欠点の発生がなく、歩留まりが良好で好ましい。領域表面平均粗さ(Sa)は小さいほど好ましいと言えるが、0.1nm以上であっても構わず、0.3nm以上であっても構わない。最大突起高さ(P)も小さいほど好ましいと言えるが、1nm以上でも構わず、3nm以上であっても構わない。」
「【0098】
(積層フィルムX1の製造)
これらのPETチップを乾燥後、285℃で溶融し、別個の溶融押出し機押出機(当審注:原文のママである。)により290℃で溶融し、95%カット径が15μmのステンレススチール繊維を焼結したフィルターと、95%カット径が15μmのステンレススチール粒子を焼結したフィルターの2段の濾過を行って、フィードブロック内で合流して、PET(I)を表面層B(反離型面側層)、PET(II)を表面層A(離型面側層)となるように積層し、シート状に45m/分のスピードで押出(キャスティング)し、静電密着法により30℃のキャスティングドラム上に静電密着・冷却させ、固有粘度が0.59dl/gの未延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。層比率は各押出機の吐出量計算でPET(I)/PET(II)=60%/40%となるように調整した。次いで、この未延伸シートを赤外線ヒーターで加熱した後、ロール温度80℃でロール間のスピード差により縦方向に3.5倍延伸した。その後、テンターに導き、140℃で横方向に4.2倍の延伸を行なった。次いで、熱固定ゾーンにおいて、210℃で熱処理した。その後、横方向に170℃で2.3%の緩和処理をして、厚さ31μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムX1を得た。得られたフィルムX1の表面層AのSaは2nm、表面層BのSaは28nmであった。
・・・
【0101】
(積層フィルムX4)
積層フィルムX4としては、厚み25μmのE5101(東洋紡エステル(登録商標)フィルム、東洋紡社製)を使用した。E5101は、フィルムの表面層A及びB中に粒子を含有した構成になっている。積層フィルムX4の表面層AのSaは24nm、表面層BのSaは24nmであった。
・・・
【0104】
(実施例1)
積層フィルムX1の表面層A上に以下組成の塗液1を、0.5μm以上の異物を99%以上除去できるフィルターを通した後に、リバースグラビアを用いて塗布膜厚(wet膜厚)が5μmになるように塗工後、0.5秒で初期乾燥炉に入るように調整した。初期乾燥炉にて100℃で2秒乾燥後、連続して加熱硬化工程に入れ130℃で7秒加熱した。加熱硬化工程後、8秒後にロール状に巻き取り超薄層セラミックグリーンシート製造用離型フィルムを得た。得られた離型フィルムの膜厚、表面粗さ、表面自由エネルギー、カールを測定した結果を表3に記載した。また得られた離型フィルムにセラミックスラリーを塗工し塗工性、剥離性、ピンホールを評価したところ、良好な評価結果が得られた。
(塗液1) 固形分1.0質量%、表面張力:27mN/m、粘度5mPa・s
メチルエチルケトン 57.93質量部
トルエン 40.00質量部
樹脂溶液A 1.75質量部
(長鎖アルキル基含有アクリルポリオール、固形分40%)
架橋剤 0.25質量部
(ヘキサメトキシメチロールメラミン、固形分100%)
シリコーン系離型剤 0.05質量部
(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、TSF4446、固形分100%、モメンティブ製)
酸触媒(パラトルエンスルホン酸) 0.02質量部
・・・」
「【0118】
(実施例19~22、比較例4、5)
実施例1の製造条件について、塗布後~初期乾燥炉に入るまでの時間、または初期乾燥炉の温度、通過時間を表2に記載の条件に変更した以外は実施例1と同様にして超薄層セラミックグリーンシート製造用離型フィルムを作成した。」
「【0121】
[図:0001407848000002.jpg]
・・・
【0123】
[図:0001407848000003.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、実施例1の超薄膜セラミックグリーンシート製造用離型フィルムについての記載である、段落【0098】、【0104】、表1および表3に着目すると、以下のとおりの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面層A側(表面層Aの領域表面平均粗さSaは2nm、表面層BのSaは28nm)上に、厚み0.05μmの離型層を設けた離型フィルムであって、離型層は、バインダー成分として長鎖アルキル基を有するアクリル樹脂70質量%の樹脂成分と架橋剤としてのヘキサメトキシメチロールメラミン25質量%と、シリコーン系離型剤のポリエーテル変性PDMSであるTSF4446(モメンティブ製)5質量部からなり、離型フィルムの領域表面平均粗さSaは1nm、最大突起高さPは36nmである、超薄膜セラミックグリーンシート製造用離型フィルム。」
(2)本件発明2と甲1発明との対比・判断
甲1発明の「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件発明2の「基材」に相当する。
甲1発明は、「バインダー成分として長鎖アルキル基を有するアクリル樹脂70質量%の樹脂成分と架橋剤としてのヘキサメトキシメチロールメラミン25質量%」であるから、本件発明2の「前記バインダが、メラミン系樹脂であり」を満たしている。
甲1発明の「シリコーン系離型剤のポリエーテル変性PDMSであるTSF4446(モメンティブ製)」は、甲2の記載からみて、エーテル基を有するシリコン系樹脂であるといえるから、本件発明2の「アクリル基、エステル基、ウレタン基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基、カルボニル基、ヒドロキシ基、エーテル基、アミン基、チオール基、アルキル基及びアルケニル基から選択された1種以上の作用基を有するシリコン系樹脂」に相当し、その配合量は、本件発明2の「バインダ100重量部を基準として、0.05~20重量部の量」を満たしている。
また、甲1発明の離型フィルムは「領域表面平均粗さSaは1nm、最大突起高さPは36nmである」であって、領域表面平均粗さRaと中心線平均粗度(Ra)とは二次元と三次元での表面粗さ(https://www.kptc.jp/mtc/wp-content/uploads/2019_09_16.pdf参照)の関係であり、最大突起高さPと最大突起高(Rt)も同様であるから、本件発明2の「離型層表面の中心線平均粗度(Ra)が15nm未満であり、最大突起高(Rt)が150nm以下であり」を満たしているといえる。
そうすると、本件発明2と甲1発明とを対比すると、
「基材と、
前記基材の少なくとも一面に位置した離型層と、
を含む離型フィルムであって、
前記離型層がバインダ及び離型剤を含み、
前記バインダが、メラミン系樹脂であり、
前記離型剤が、アクリル基、エステル基、ウレタン基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基、カルボニル基、ヒドロキシ基、エーテル基、アミン基、チオール基、アルキル基及びアルケニル基から選択された1種以上の作用基を有するシリコン系樹脂であり、
前記離型剤は、バインダ100重量部を基準として、0.05~20重量部の量であり、
前記離型層表面の中心線平均粗度(Ra)が15nm未満である、
離型フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
基材の表面粗さに関し、本件発明2は、「前記基材表面の中心線平均粗度(Ra)が10~30nm未満であり」と特定するが、甲1発明は、「表面層Aの領域表面平均粗さSaは2nm、表面層BのSaは28nm」である点
<相違点2>
本件発明2は、「前記離型フィルムが巻き取られたロールのコア表面からロール表面までの全体距離において、前記コア表面からロール表面方向に1/3以上の位置において、ロール表面硬度が500~800である」と特定するのに対し、甲2発明においては、この点を特定しない点
まず、相違点2について検討する。
甲1発明の離型フィルムが相違点2に係る本件発明2の構成を備えたものであるとの証拠は示されていないから、相違点2は実質的な相違点である。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明ではない。
なお、異議申立人は、相違点2に関して、甲1発明の基材のフィルム表面形状、離型層の表面形状、離型層の組成等が、本件発明1と一致しているから、甲1発明も相違点2を満たしている旨主張しているが(申立書第23~24頁)、これらの数値が一致しているからといって、ただちに甲1発明が、相違点1に係る構成であるロール表面硬度が500~800になるとはいえないし、ロール表面硬度の値がそのほかの要因によっても変化することが技術常識である(例えば、本件特許明細書の比較例6も参照のこと)ことから、当該主張は採用できない。
(3)本件発明3~7と甲1発明との対比・判断
本件発明3~7は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、上記(2)で検討したとおり、甲1発明ではない。
(4) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の申立理由1はその理由がない。
2 申立理由2(請求項1及び8に対しての甲1に基づく進歩性)について
(1) 甲1の記載及び甲1に記載された発明
甲1には、上記1(1)アに示したとおりの記載があり、上記1(1)イに記載の甲1発明が記載されている。
(2) 本件発明1と甲1発明との対比・判断
甲1発明の「TSF4446」は、甲2の2ページに記載された「構造式」をみると、末端基は「(CH3)3Si」、すなわち「トリメチルシリル基」である。
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1が本件発明2の構成を全て含み、さらに限定するものであるから、上記1(2)と同様のことがいえ、両者は、上記1(2)における相違点1及び2に加えて、以下の相違点3でも相違する。
<相違点3>
離型剤が「化学式2」の化学構造における末端基に関し、本件発明1は、「R’3」は「アクリル基、ポリエステル基、ポリエーテル基、ポリウレタン基、アルキド基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基、カルボニル基、カルビノール基、ヒドロキシ基、アミン基、チオール基、フッ素基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基または水素原子であり」と特定するのに対し、甲1発明は、トリメチルシリル基である点。
以下、相違点について検討する。
相違点1について
異議申立人の提示する証拠には、相違点2に係るロール表面硬度について記載されているものはない。また、甲1発明において、甲1発明を相違点2に係る構成を備えたものとする動機もない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る発明特定事項を満たすようにすることは、当業者においても容易に想到し得たものとはいえない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明から容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明8と甲1発明との対比・判断
本件発明8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む離型フィルムの製造方法であるから、上記(2)で検討したとおり、当業者が甲1発明から容易に発明をすることができたものではない。
(4) まとめ
以上のとおりであるから、申立人の申立理由2はその理由がない。
3 申立理由3(請求項1~8に対しての実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件発明1ないし7は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。
また、本件発明8は、物を生産する方法であるところ、物を生産する方法の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2) 判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1~8について、基材及び離型層について具体的に記載され(【0036】~【0066】)、「離型フィルムのロール表面硬度」についての技術的意義が記載され(【0067】~【0071】)その測定方法も記載され(【0122】)、離型フィルムの製造方法も記載されている(【0077】~【0087】)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例である実施例1~18としての離型フィルムが記載されている(【0089】~【0106】及び【0116】~【0126】)。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、「前記離型フィルムのロール表面硬度及び巻き取り品質は、巻き取り条件によってのみ達成されるものではなく、前記離型層硬度及び離型層表面粗度の品質に影響されてなされる物性を示す。」(段落【0071】)との記載があるので、実施例等で製造した離型フィルムのロール表面硬度が本件発明の数値を満たしていないようであれば、巻取り条件を適宜変更すればよいことは理解できるので、前記のロール表面硬度である離型フィルムを得るに過度の試行錯誤を要するものとはいえない。
よって、本件発明1~7について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえるし、本件発明8についても、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面の記載並びに本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があるといえる。
よって、本件発明1~8に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
(3) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の申立理由3はその理由がない。
4 申立理由4(明確性要件)について
(1) 判断
請求項1及び2の「基材表面の中心線平均粗度(Ra)が10~30nm未満」の「素材表面」について、素材が表と裏の2面あることは明らかであり、請求項1及び2には、そのいずれかに限定する特定はないから、表と裏、すなわち離型層を塗布する面とその反対面を指すものといえ、明確である。
(2) まとめ
以上のとおりであるから、異議申立人の申立理由4はその理由がない。
第5 むすび
以上のとおり、異議申立人の特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700766