特許異議申立
2024-700555
ポリエステルフィルムロール
- 審判番号
- 2024-700555
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-540690
- 登録番号
- 7414069
- 請求日
- 2024年06月11日
- 審決日
- 2024年10月28日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【異議申立人】岩崎 千鶴子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.113-Y (C08J) / P1651.121-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7414069号発明「ポリエステルフィルムロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7414069号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7414069号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~15に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)7月27日(優先権主張 令和元年8月22日、令和2年3月31日)を国際出願日とする日本語特許出願であって、令和6年1月5日にその特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年6月11日に特許異議申立人岩崎千鶴子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~15)がされ、同年7月16日に手続補正書(証拠説明書)が提出されたものである。
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~15に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明15」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
ポリエステルフィルムを巻き取ってなり、
前記ポリエステルフィルムの厚みが19μm以上38μm以下であり、
前記ポリエステルフィルムが、以下の(1)及び(2)を満足し、かつ、以下の手順(a-1)~(c-1)で測定される微視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、以下の手順(a-2)~(c-2)で測定される巨視的な厚さ振れが0.14μm以下である、ポリエステルフィルムロール。
(1)100℃で5分間加熱処理したとき、フィルム端部において、フィルムの長手方向(MD方向)0°に対して、左斜め45°方向の熱収縮率と右斜め45°方向の熱収縮率との差の絶対値が0.15%以下
(2)少なくとも片面は、平均表面粗さ(Sa)が8nm以下
(a-1)長手方向(MD方向)に流れるフィルムに膜厚計を幅方向(TD方向)に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。
(b-1)作成したグラフに対して移動平均処理を施し平滑化する。
(c-1)平滑化されたグラフから変曲点間の厚さ振れを算出し、これを微視的な厚さ振れとする。
(a-2)MD方向に流れるフィルムに膜厚計をTD方向に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。
(b-2)当該作成したグラフから、フィルムのTD方向に200mm間隔で全幅にわたってR値(フィルム厚みの最大値Rmax-フィルム厚みの最小値Rmin)を算出する。
(c-2)200mm間隔で全幅にわたってサンプルリングした全R値の最大値を巨視的な厚さ振れとする。
[請求項2]
前記ポリエステルフィルムが、さらに、以下の(3)及び(4)を満足する請求項1に記載のポリエステルフィルムロール。
(3)100℃で5分間加熱処理したときの熱収縮率がMD方向で0.3%以下
(4)100℃で5分間加熱処理したときの熱収縮率がフィルムのTD方向で0.2%以下
[請求項3]
前記ポリエステルフィルムは、チタン化合物を含む、請求項1または2に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項4]
前記ポリエステルフィルムの表面層を構成するポリエステルの極限粘度(IV)が、0.65dl/g以上である、請求項1~3の何れか一項に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項5]
前記ポリエステルフィルムは、少なくとも一方の面に粒子を含有する表面層Aを有する請求項1~4の何れか一項に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項6]
前記ポリエステルフィルムが、3層以上の積層構造を有する請求項1~5の何れか一項に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項7]
前記表面層Aは、平均粒径0.1~0.5μmの有機及び/又は無機粒子を含有する請求項5に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項8]
前記ポリエステルフィルムは、前記表面層Aよりも平均表面粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)のいずれもが小さい表面層Cを有する、請求項5又は7に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項9]
前記表面層Cは、平均粒径0.05~0.2μmの粒子を900~6000ppm含有する、請求項8に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項10]
前記表面層Cは、チタン化合物を含む、請求項8又は9に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項11]
前記表面層Aは、アンチモン化合物及び/又はチタン化合物を含み、該アンチモン化合物の含有量が100ppm以下である、請求項5、7、8、9、10の何れか一項に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項12]
前記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に離型層を有する請求項1~11の何れか一項に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項13]
積層セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる請求項12に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項14]
自動車用セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる請求項12に記載のポリエステルフィルムロール。
[請求項15]
前記ポリエステルフィルムが、二軸延伸ポリエステルフィルムである請求項1~14の何れか一項に記載のポリエステルフィルムロール。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1~7、11、12及び15は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由2(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明8~10、13及び14は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~15についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア フィルムロールの長さ方向の厚み振れが規定されていないこと
請求項1の構成要件である「微視的な厚さ振れ」は、(a-1)~(c-1)で測定される。そして(a-1)において幅方向(TD方向)の厚さ分布グラフを作成し、(b-1)と(c-1)において幅方向の厚さ分布グラフを基に「微視的な厚さ振れ」を計算により算出する。即ち、「微視的な厚さ振れ」は幅方向(TD方向)の厚さ振れであり、フィルムロールの長さ方向の厚さの振れに関する情報は入っていない。一方、発明が解決しようとする課題である「誘電体層の不均一性を改善」は、誘電体層を作成する際のベースフィルムの幅方法の厚さ振れだけでなく、長さ方向の厚さ振れにも同様に影響を受けることは当然である。よって、幅方向の厚さ振れを規定しているが長さ方向の振れを規定していない本件発明1が、「誘電体層の不均一性を改善する」という発明の課題が解決できることを認識することはできない。また、「巨視的な厚さ振れ」に関しても「微視的な厚さ振れ」と同様である。 以上より、本件特許の請求項1はサポート要件を満たしていない。また、請求項1を直接又は間接的に引用し、フィルムロールの長さ方向の厚さ振れが規定されていない請求項2~15も、発明の課題が解決できると認識することができず、サポート要件を満たしていない。
イ 実施例において発明の効果が示されていないこと
本件特許の明細書の実施例1~7(全請求項)には、請求項1の構成要件を満たすフィルムロールが記載されている。しかしながら、これら実施例1~7のフィルムロールが、本件特許発明が解決しようとする課題である「グリーンシートの変形の防止」も「誘電体層の不均一性を改善」も解決していることが示されていない。即ち、実施例において示されているのは、請求項の要件を満たすフィルムロールが製造されたことに留まり、これら実施例に記載されたフィルムロールが発明の課題を解決することを示す評価が行われておらず、本件特許発明の全ては、発明の課題が解決できると認識することできない。よって、全請求項(請求項1~15)はサポート要件を満たしていない。
(4)理由4(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件発明1~15についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の明細書には、請求項1の構成要件である「微視的な厚さ振れ」と「巨視的な厚さ振れ」の測定法において、幅方向に単位長さ当たり何点測定するか(測定点密度)が記載されていない。そして、膜厚計の装置名も記載されていない。よって、「微視的な厚さ振れ」と「巨視的な厚さ振れ」を評価する為の幅方向の膜厚測定において測定点密度をどうするのかが不明である。そして、測定点密度が細かければより細かい厚さ斑を測定することとなり、測定点密度により「微視的な厚さ振れ」も「巨視的な厚さ振れ」も値が変化する。よって、測定点密度が不明である膜厚測定に基づき評価される「微視的な厚さ振れ」と「巨視的な厚さ振れ」は一義的に決まらず、「微視的な厚さ振れ」と「巨視的な厚さ振れ」を構成要件とする請求項1は明確性要件を満たしていない。また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~15も明確性要件を満たしていない。
2.証拠方法
甲1:特開2015-62999号公報
甲2:特開2016-187963号公報
甲3:特開2018-90803号公報
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~15についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1]
平均粒子径0.5~3.0μmのコア・シェル型粒子を表層に含有する積層ポリエステルフィルムの一方の面に、四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー、および架橋剤を含有する塗布液を塗布して得られたA層を有し、当該A層上に、少なくとも一種のオルガノシロキサン化合物を含有する塗布剤を塗布して形成された、厚みが10~100nmのB層を有するポリエステルフィルムであって、当該B層上に離型層を有することを特徴とする離型ポリエステルフィルム。」
(1-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0010]
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、加熱工程のある粘着剤のキャリアのような働きをするか、ITOフィルムの結晶化時に貼り合わされる離型フィルムであって、高度なオリゴマー封止能力、かつ、高度な異物検査性を有する離型ポリエステルフィルムを提供することにある。」
(1-3)「[0117]
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(a)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた後、4時間重縮合反応を行った。
すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.61に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、極限粘度0.61のポリエステル(a)を得た。
[0118]
<ポリエステル(b)の製造方法>
ポリエステル(a)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェートを添加後、平均粒子径1.0μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子のエチレングリコールスラリーを粒子のポリエステルに対する含有量が0.6重量%となるように添加した以外は、ポリエステル(a)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(b)を得た。得られたポリエステル(b)は極限粘度0.63であった。
[0119]
<ポリエステル(c)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部を添加した後、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(c)の極限粘度は0.65、オリゴマー(環状三量体)の含有量は0.97重量%であった。
[0120]
<ポリエステル(d)の製造方法>
エポキシ基含有ポリマーを30重量%含有したポリエステルマスターバッチとして「UVA3000PET」(BASFジャパン株式会社製 ポリエステル(d))を使用した。極限粘度0.51であった。
[0121]
<ポリエステル(e)の製造方法>
ポリエステル(c)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェートを添加後、平均粒子径1.0μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子のエチレングリコールスラリーを粒子のポリエステルに対する含有量が0.6重量%となるように添加し、極限粘度0.65に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(c)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(e)を得た。得られたポリエステル(e)は、極限粘度0.65、オリゴマー(環状三量体)含有量0.82重量%であった。」
(1-4)「[0122]
〈ポリエステルの製造〉
ポリエステル(a)、(b)をそれぞれ80%、20%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(a)を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々290℃で溶融した後、口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度100℃にて縦方向に2.8倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、次に下記塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.03g/m2になるように塗布した後、テンターに導き、横方向に120℃で5.1倍延伸し、220℃で10秒間の熱処理を行い、その後180℃で幅方向に4%の弛緩を加え、幅4500mm、A層を有する厚さ38μm(表層各2μm、中間層34μm)、固有粘度0.61のポリエステルフィルム(I)を得た。なお、A層を構成するために使用した化合物は以下のとおりである。
[0123]
(化合物例)
・4級アンモニウム塩基含有ポリマー(A1):
2-ヒドロキシ3-メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩ポリマー
対イオン:メチルスルホネート 数平均分子量:30000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B1):
ポリエチレングリコール含有モノアクリレートポリマー 数平均分子量:20000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B2):
オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノアクリレート ポリマー 数平均分子量:32000
・架橋剤(C1):メラミン架橋剤 (DIC社製:ベッカミン「MAS」)
・架橋剤(C2):オキサゾリン架橋剤(日本触媒製:エポクロス「WS500」)
[0124]
・粒子(D1):アルミナ表面変性コロイダルシリカ(平均粒径:50nm)
・粒子(D2):コロイダルシリカ(平均粒径:70nm)
得られたポリエステルフィルムのA層上に、下記塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.05g/m2になるようにリバースグラビアコート方式により塗布した後、120℃、30秒間熱処理し、B層を付与した積層ポリエステルフィルムを得た。
[0125]
B層を構成するために使用した塗布剤組成は以下のとおりである。
《塗布剤組成》
オルガノシロキサン(エチルシリケート48:コルコート社):0.9重量%(溶媒100重量%に対して)
i-プロパノール/ブタノール=6/4混合溶媒で希釈し0.9重量%とした。
[0126]
得られた積層ポリエステルフィルムのB層上に、下記に示す離型剤組成からなる離型層組成―1の塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.1g/m2になるようにリバースグラビアコート方式により塗布し、ドライヤー温度120℃、ライン速度30m/minの条件でC層を設置し、ロール状の離型ポリエステルフィルムを得た。
[0127]
なお、C層を構成するために使用した離型剤組成は以下のとおりである。
《離型剤組成》
・離型層組成―1
硬化型シリコーン樹脂(KS-847H:信越化学製) 20部
触媒(PL-50T:信越化学製) 1.0部
MEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1)
・離型層組成―2
硬化型シリコーン樹脂(KS-847H:信越化学製) 17部
剥離コントロール剤(KS-3800:信越化学社製) 3部
付加型白金触媒(PL-50T:信越化学製) 1.0部
MEK/トルエン/n-ヘプタン混合溶媒(混合比率は1:1:1)
・離型層組成―3
硬化型シリコーン樹脂(LTC303E:東レ・ダウコーニング製) 20部
付加型白金触媒(SRX212:東レ・ダウコーニング製) 1.0部
MEK/トルエン/n-ヘプタン混合溶媒(混合比率は1:1:1)
離型剤組成-1の移行性分量:15重量%
[0128]
・離型層組成―4
硬化型シリコーン樹脂(X-62-5039:信越化学社製) 14部
剥離コントロール剤(KS-3800:信越化学社製) 6部
架橋剤(X-92-185:信越化学社製) 1.0部
触媒(PL-5000:信越化学社製) 2.0部
MEK/トルエン/n-ヘプタン混合溶媒(混合比率は1:1:1)
・離型層組成―5
硬化型シリコーン樹脂(X-62-5039:信越化学社製) 12部
剥離コントロール剤(KS-3800:信越化学社製) 8部
架橋剤(X-92-185:信越化学社製) 1.0部
触媒(PL-5000:信越化学社製) 2.0部
MEK/トルエン/n-ヘプタン混合溶媒(混合比率は1:1:1)」
(1-5)「[0130]
[表1]
[図:0001416502000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1の請求項1(摘記1-1)には、「平均粒子径0.5~3.0μmのコア・シェル型粒子を表層に含有する積層ポリエステルフィルムの一方の面に、四級アンモニウム塩基含有ポリマー、ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー、および架橋剤を含有する塗布液を塗布して得られたA層を有し、当該A層上に、少なくとも一種のオルガノシロキサン化合物を含有する塗布剤を塗布して形成された、厚みが10~100nmのB層を有するポリエステルフィルムであって、当該B層上に離型層を有することを特徴とする離型ポリエステルフィルム。」が記載されており、[0117]~[0121](摘記1-3)には、実施例又は比較例において原料として使用されたポリエステル(a)~ポリエステル(e)の製造方法が記載され、[0122]~[0128](摘記1-4)には、実施例1の製造方法が記載されている。具体的には、[0122]には、「ポリエステル(a)、(b)をそれぞれ80%、20%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(a)を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々290℃で溶融した後、口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度100℃にて縦方向に2.8倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、次に下記塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.03g/m2になるように塗布した後、テンターに導き、横方向に120℃で5.1倍延伸し、220℃で10秒間の熱処理を行い、その後180℃で幅方向に4%の弛緩を加え、幅4500mm、A層を有する厚さ38μm(表層各2μm、中間層34μm)、固有粘度0.61のポリエステルフィルム(I)を得た。」ことが記載され、[0123]~[0124]には、A層を構成するために使用した化合物が記載され、[0124]には、「得られたポリエステルフィルムのA層上に、下記塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.05g/m2になるようにリバースグラビアコート方式により塗布した後、120℃、30秒間熱処理し、B層を付与した積層ポリエステルフィルムを得た。」ことが記載され、[0125]には、B層を構成するために使用した塗布剤組成が記載され、[0126]には、「得られた積層ポリエステルフィルムのB層上に、下記に示す離型剤組成からなる離型層組成-1の塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.1g/m2になるようにリバースグラビアコート方式により塗布し、ドライヤー温度120℃、ライン速度30m/minの条件でC層を設置し、ロール状の離型ポリエステルフィルムを得た。」ことが記載され、[0127]~[0128]には、C層を構成するために使用した離型剤組成が記載され、[0130]の[表1]の実施例1の欄を参照すると、B層厚みは39nmであり、C層面側表面粗度は2.4nmであり、[0097]を参照すると、表面粗度は「測定範囲5μm×5μmで表面粗さSa(nm)を測定した。3回の平均値を用いた。」値であることが記載されている。
そうすると、甲1には、実施例1に基づいて以下の発明が記載されている。
「ポリエステル(a)、(b)をそれぞれ80%、20%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(a)を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々290℃で溶融した後、口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得て、次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度100℃にて縦方向に2.8倍延伸した後、この縦延伸フィルムの片面に、次にA層を構成するための塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.03g/m2になるように塗布した後、テンターに導き、横方向に120℃で5.1倍延伸し、220℃で10秒間の熱処理を行い、その後180℃で幅方向に4%の弛緩を加え、幅4500mm、A層を有する厚さ38μm(表層各2μm、中間層34μm)、固有粘度0.61のポリエステルフィルム(I)を得て、
得られたポリエステルフィルムのA層上に、B層を構成するための塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.05g/m2になるようにリバースグラビアコート方式により塗布した後、120℃、30秒間熱処理し、厚さ39nmのB層を付与した積層ポリエステルフィルムを得て、
得られた積層ポリエステルフィルムのB層上に、C層を構成するための離型層組成-1の塗布剤を塗布量(乾燥後)が0.1g/m2になるようにリバースグラビアコート方式により塗布し、ドライヤー温度120℃、ライン速度30m/minの条件で表面粗さSaが2.4nmのC層を設置することにより得た、ロール状の離型ポリエステルフィルム。」(以下、「甲1発明」という。)
なお、甲1発明におけるポリエステル(a)、(b)及びA層~C層を構成するために使用した塗布剤は以下のとおりである。
●ポリエステル(a):「テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とし、4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた後、4時間重縮合反応を行い、すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とし、一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとし、反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.61に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させて得た、極限粘度0.61のポリエステル(a)。」
●ポリエステル(b):「ポリエステル(a)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェートを添加後、平均粒子径1.0μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子のエチレングリコールスラリーを粒子のポリエステルに対する含有量が0.6重量%となるように添加した以外は、ポリエステル(a)の製造方法と同様の方法を用いて得た、極限粘度0.63のポリエステル(b)。」
●A層を構成するために使用した塗布剤:「以下の成分例を含有する塗布剤。
・4級アンモニウム塩基含有ポリマー(A1):
2-ヒドロキシ3-メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウム塩ポリマー
対イオン:メチルスルホネート 数平均分子量:30000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B1):
ポリエチレングリコール含有モノアクリレートポリマー 数平均分子量:20000
・ポリエチレングリコール含有アクリレートポリマー(B2):
オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノアクリレート ポリマー 数平均分子量:32000
・架橋剤(C1):メラミン架橋剤 (DIC社製:ベッカミン「MAS」)
・架橋剤(C2):オキサゾリン架橋剤(日本触媒製:エポクロス「WS500」)
・粒子(D1):アルミナ表面変性コロイダルシリカ(平均粒径:50nm)
・粒子(D2):コロイダルシリカ(平均粒径:70nm)」
●B層を構成するために使用した塗布剤:「以下の成分からなる塗布剤。
・オルガノシロキサン(エチルシリケート48:コルコート社):0.9重量%(溶媒100重量%に対して)
溶媒はi-プロパノール/ブタノール=6/4混合溶媒である。」
●C層を構成するために使用した塗布剤:「以下の離型層組成-1からなる塗布剤。
・硬化型シリコーン樹脂(KS-847H:信越化学製) 20部
・触媒(PL-50T:信越化学製) 1.0部
・MEK/トルエン混合溶媒(混合比率は1:1)」
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ロール状の離型ポリエステルフィルム。」は、本件発明1における「ポリエステルフィルムを巻き取ってなり、」を満たす「ポリエステルフィルムロール。」に相当する。また、甲1発明における「表面粗さSaが2.4nmのC層を設置」は、本件発明1における「(2)少なくとも片面は、平均表面粗さ(Sa)が8nm以下」を満たしている。
そうすると、両者は、
「ポリエステルフィルムを巻き取ってなり、
前記ポリエステルフィルムが、以下の(2)を満足する、ポリエステルフィルムロール。
(2)少なくとも片面は、平均表面粗さ(Sa)が8nm以下」
の点で一致し、
相違点1:本件発明1は「前記ポリエステルフィルムの厚みが19μm以上38μm以下であり、」と特定するのに対し、甲1発明はフィルムの厚みが38μmを超える点
相違点2:本件発明1は「前記ポリエステルフィルムが、以下の(1)を満足」すること、すなわち、「(1)100℃で5分間加熱処理したとき、フィルム端部において、フィルムの長手方向(MD方向)0°に対して、左斜め45°方向の熱収縮率と右斜め45°方向の熱収縮率との差の絶対値が0.15%以下」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
相違点3:本件発明1は「以下の手順(a-1)~(c-1)で測定される微視的な厚さ振れが0.14μm以下・・・
(a-1)長手方向(MD方向)に流れるフィルムに膜厚計を幅方向(TD方向)に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。
(b-1)作成したグラフに対して移動平均処理を施し平滑化する。
(c-1)平滑化されたグラフから変曲点間の厚さ振れを算出し、これを微視的な厚さ振れとする。」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
相違点4:本件発明1は「以下の手順(a-2)~(c-2)で測定される巨視的な厚さ振れが0.14μm以下である、・・・
(a-2)MD方向に流れるフィルムに膜厚計をTD方向に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。
(b-2)当該作成したグラフから、フィルムのTD方向に200mm間隔で全幅にわたってR値(フィルム厚みの最大値Rmax-フィルム厚みの最小値Rmin)を算出する。
(c-2)200mm間隔で全幅にわたってサンプルリングした全R値の最大値を巨視的な厚さ振れとする。」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点2について検討する。
イ 相違点2について
甲1には、甲1発明についての左右斜め45°方向の熱収縮率の測定値、及びそれらの差の絶対値は記載されていない。また、甲1発明におけるポリエステルフィルムロールの原料、製膜方法、延伸条件、熱緩和の条件等は、いずれも本件明細書記載の具体例と一致していないから、本件明細書の記載を参酌しても、甲1発明が相違点2に係る左右斜め45°方向の熱収縮率の差の絶対値が0.15%以下という性質を備えたものであるとは判断できない。さらに、甲1の[0010](摘記1-2)には、甲1発明の課題が「加熱工程のある粘着剤のキャリアのような働きをするか、ITOフィルムの結晶化時に貼り合わされる離型フィルムであって、高度なオリゴマー封止能力、かつ、高度な異物検査性を有する離型ポリエステルフィルムを提供することにある」と記載されているが、当該課題はポリエステルフィルムロールにおける左右斜め45°方向の熱収縮率の差の絶対値を0.15%以下に調整する動機となるものではなく、当該課題を解決する手段としてポリエステルフィルムロールにおける左右斜め45°方向の熱収縮率の差の絶対値を0.15%以下に調整することが必然的に要請されることになるとも認められない。
よって、相違点2は実質的な相違点である。
なお、申立人は本件発明1を進歩性欠如の申立ての対象とはしていないが、甲1にはポリエステルフィルムロールにおける左右斜め45°方向の熱収縮率に着目する記載はなく、それらの差の絶対値を0.15%以下に調整する動機となる記載もなく、甲2及び甲3を参照してもポリエステルフィルムロールにおける左右斜め45°方向の熱収縮率に着目する記載はないから、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明及び甲1~甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書第24~25頁において、甲1の[0122](摘記1-4)を引用し、「本件特許発明のフィルムと製造方法がほぼ同じフィルムが記載されているので、左斜め45°方向の熱収縮率と右斜め45°方向の熱収縮率との差の絶対値が本件特許発明と同じく、0.15%以下と考えられ」ると主張しているが、上記イに記載したとおり、甲1発明におけるポリエステルフィルムロールの原料、製膜方法、延伸条件、熱緩和の条件等は、いずれも本件明細書の[0122]等の記載とは一致していないから、本件明細書の上記段落の記載は、甲1発明が上記相違点2に係る性質を備えていることの根拠にはならない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 相違点2についてのまとめ
以上まとめると、相違点2は実質的な相違点である。
また、念のため進歩性について検討しても、相違点2は甲1発明及びいずれの証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到することができたものではない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点1、相違点3及び相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではない。
また、念のため進歩性について検討しても、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~15について
本件発明2~15は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~7、11、12及び15は、いずれも甲1発明ではない。
また、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明8~10、13及び14は、いずれも甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。なお、本件発明2~7、11、12及び15についても同様である。
(5)理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~7、11、12及び15は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明8~10、13及び14は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~15についての特許を取り消すことはできない。
2.理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0011]及び[0012]等の記載からみて、本件発明1~15が解決しようとする課題は「高い平滑性を有するとともに、熱収縮特性が改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供すること」及び「高い平滑性を有するとともに、厚さ振れが高度に改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書及び図面の記載事項
本件明細書の[0013]には、第1の課題(上記「高い平滑性を有するとともに、熱収縮特性が改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供すること」)を解決するための手段として、「以下の(1)及び(2)を満足する、第1のポリエステルフィルムロール・・・(1)100℃で5分間加熱処理したとき、フィルム端部において、フィルムの長手方向(MD方向)0°に対して、左斜め45°方向の熱収縮率と右斜め45°方向の熱収縮率との差の絶対値が0.15%以下 (2)少なくとも片面は、平均表面粗さ(Sa)が8nm以下」が記載され、[0014]には、第2の課題(上記「高い平滑性を有するとともに、厚さ振れが高度に改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供すること」)を解決するための手段として、「以下の手順(a-1)~(c-1)で測定される微視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、以下の手順(a-2)~(c-2)で測定される巨視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、少なくとも片面の平均表面粗さ(Sa)が8nm以下である、第2のポリエステルフィルムロール・・・(a-1)長手方向(MD方向)に流れるフィルムに膜厚計を幅方向(TD方向)に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。(b-1)作成したグラフに対して移動平均処理を施し平滑化する。(c-1)平滑化されたグラフから変曲点間の厚さ振れを算出し、これを微視的な厚さ振れとする。(a-2)MD方向に流れるフィルムに膜厚計をTD方向に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。(b-2)当該作成したグラフから、フィルムのTD方向に200mm間隔で全幅にわたってR値(フィルム厚みの最大値Rmax-フィルム厚みの最小値Rmin)を算出する。(c-2)200mm間隔で全幅にわたってサンプルリングした全R値の最大値を巨視的な厚さ振れとする。」が記載されている。
また、[0019]~[0049]には、ポリエステルフィルムロール及びポリエステルフィルムについて記載されており、このうち、[0021]~[0023]には、図2を引用した上で、フィルム端部において、フィルムの長手方向(MD方向)0°に対して、左斜め45°方向の熱収縮率と右斜め45°方向の熱収縮率との差の絶対値を0.15%以下に調整することで、フィルム全体が斜めに収縮することを抑制でき、ナノレベルの層の変形が性能発揮に支障をもたらす積層セラミックコンデンサー製造のためのセラミックグリーンシートの支持体として使用する場合でも、セラミック層及び電極層の位置合わせの懸念を解消することができ、差の絶対値は低ければ低いほどよく、0%以上であれば良いこと、及び、フィルムの平均表面粗さ(Sa)を小さくすることにより、フィルムを上記支持体として使用する場合でも、電極層にフィルム表面の微細な凹凸によってピンホールなどの欠陥が生じる懸念を解消することができ、平均表面粗さ(Sa)が8nmより大きくなると欠陥が生じやすくなることが記載され、[0031]にはセラミック層の薄肉化対応やピンホール抑制の観点から、少なくとも片面の平均表面粗さ(Sa)が8nm以下であり、下限に関して特に限定されないことが記載され、[0026]~[0029]には、斜め収縮率を調整するためのフィルム製膜の好ましい方法及びフィルムを構成するポリエステルのガラス転移点の好ましい範囲が記載されている。また、[0038]~[0043]には、手順(a-1)~(c-1)で測定される微視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、手順(a-2)~(c-2)で測定される巨視的な厚さ振れが0.14μm以下であるようにフィルムの厚み精度を管理及び制御することにより、極めて優れた平面性をフィルムに具備させることができ、サブミクロンレベルのセラミック層及び電極層が交互に積層された構成を有するセラミックコンデンサーを製造するためのセラミックグリーンシートの支持体として使用する場合であっても、フィルムにセラミックスラリーを均一に塗工することが可能となり、フィルムの厚さ精度が及ぼす誘電体層形成の不均一性及び積層セラミックコンデンサーの性能発揮に支障をきたす虞が低下することが記載され、[0045]~[0047]には、フィルムの微視的な厚さ振れ及び巨視的な厚さ振れを調整するためのフィルム製膜の好ましい方法が記載されている。
さらに、[0049]~[0061]には、フィルムを構成するポリエステルについて、使用できるモノマー、触媒、好ましい極限粘度範囲が具体的に記載され、[0062]~[0102]にはフィルムを積層構造とする場合の各層の構成成分、表面粗さ及びその調整に用いることができる粒子、好ましい実施形態、フィルムの製造における押出温度、延伸温度、延伸倍率、熱固定処理、冷却温度等の好ましい製造条件、及び離型層を有する形態で使用する場合の具体的な材料及び離型層の製造方法が具体的に記載されており、[0103]~[0105]には、本件発明のフィルムをセラミックグリーンシートの支持体を含む各種の離型用途に用いることができることが記載されている。
加えて、[0107]~[0143]には、本件発明の実施例及び比較例が記載されており、このうち「原料となるポリエステルの製造方法、実施例及び比較例のポリエステルフィルムの製造方法、フィルムの特性を測定する方法、及び実施例1~7及び比較例1のフィルム構成、テンター温度条件、3次元表面粗度、厚さ振れ、100℃5分加熱収縮率の実験データが記載されている。
(4)サポート要件についての判断
本件明細書の一般記載には、フィルムロールの左右斜め45°方向の熱収縮率の差の絶対値、平均表面粗さ(Sa)、微視的な厚さ振れ及び巨視的な厚さ振れを特定の数値範囲に制限することの技術上の意義が具体的に記載されており、実施例及び比較例の記載と合わせることにより、当業者は、本件明細書の[0013]に記載された「以下の(1)及び(2)を満足する、第1のポリエステルフィルムロール・・・(1)100℃で5分間加熱処理したとき、フィルム端部において、フィルムの長手方向(MD方向)0°に対して、左斜め45°方向の熱収縮率と右斜め45°方向の熱収縮率との差の絶対値が0.15%以下 (2)少なくとも片面は、平均表面粗さ(Sa)が8nm以下」により、「高い平滑性を有するとともに、熱収縮特性が改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供する」という課題が解決され、[0014]に記載された「以下の手順(a-1)~(c-1)で測定される微視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、以下の手順(a-2)~(c-2)で測定される巨視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、少なくとも片面の平均表面粗さ(Sa)が8nm以下である、第2のポリエステルフィルムロール(当審注:以下省略)」により、「高い平滑性を有するとともに、厚さ振れが高度に改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供する」という課題が解決され、これらの特性を合わせ持つ厚みが19μm以上38μm以下であるポリエステルフィルムロールは、上記発明の課題を解決し得るものと認識することができる。また、実施例の記載及び本件特許の出願時における技術常識を参酌することにより、一般記載に例示された材料を用いて上記の特性を好ましい範囲に調整したポリエステルフィルムロールを製造し、それにより発明の課題を解決し得ると認識することができる。そうすると、当業者は、
「ポリエステルフィルムを巻き取ってなり、
前記ポリエステルフィルムの厚みが19μm以上38μm以下であり、
前記ポリエステルフィルムが、以下の(1)及び(2)を満足し、かつ、以下の手順(a-1)~(c-1)で測定される微視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、以下の手順(a-2)~(c-2)で測定される巨視的な厚さ振れが0.14μm以下である、ポリエステルフィルムロール。
(1)100℃で5分間加熱処理したとき、フィルム端部において、フィルムの長手方向(MD方向)0°に対して、左斜め45°方向の熱収縮率と右斜め45°方向の熱収縮率との差の絶対値が0.15%以下
(2)少なくとも片面は、平均表面粗さ(Sa)が8nm以下
(a-1)長手方向(MD方向)に流れるフィルムに膜厚計を幅方向(TD方向)に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。
(b-1)作成したグラフに対して移動平均処理を施し平滑化する。
(c-1)平滑化されたグラフから変曲点間の厚さ振れを算出し、これを微視的な厚さ振れとする。
(a-2)MD方向に流れるフィルムに膜厚計をTD方向に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフを作成する。
(b-2)当該作成したグラフから、フィルムのTD方向に200mm間隔で全幅にわたってR値(フィルム厚みの最大値Rmax-フィルム厚みの最小値Rmin)を算出する。
(c-2)200mm間隔で全幅にわたってサンプルリングした全R値の最大値を巨視的な厚さ振れとする。」
の範囲で本件発明の課題が解決されると認識することができる。
本件発明1は上記範囲に包含されものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~15も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、上記第3 1.(3)ア及びイのように主張しているが、いずれの主張も次のとおり採用することはできない。
ア フィルムロールの長さ方向の厚み振れが規定されていないことについて
本件発明1における微視的な厚さ振れについての発明特定事項は、(a-1)に「長手方向(MD方向)に流れるフィルムに膜厚計を幅方向(TD方向)に移動させながら測定」するとの発明特定事項を含んでおり、巨視的な厚さ振れについての発明特定事項も、(a-2)に「MD方向に流れるフィルムに膜厚計をTD方向に移動させながら測定」するとの発明特定事項を含んでいるから、膜厚計による測定はフィルムロールの長手方向に渡って連続的に行われていると理解することができ、得られた測定データ並びに測定データに基づいて算出される微視的な厚さ振れ及び巨視的な厚さ振れは、いずれもフィルムロールの長さ方向の厚さ振れに関する情報も含むものといえる。そして、上記(4)に記載したとおり、当業者は、微視的な厚さ振れが0.14μm以下であり、巨視的な厚さ振れが0.14μm以下であるポリエステルフィルムロールは、「高い平滑性を有するとともに、厚さ振れが高度に改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供する」という課題を解決し得るものと理解することができ、さらに請求項1に特定された他の発明特定事項を備えることにより、「高い平滑性を有するとともに、熱収縮特性が改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供する」という課題も解決することができると認識することができる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
イ 実施例において発明の効果が示されていないことについて
本件発明の課題は、上記(2)に記載したとおり、本件明細書の[0011]及び[0012]等の記載からみて、「高い平滑性を有するとともに、熱収縮特性が改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供すること」及び「高い平滑性を有するとともに、厚さ振れが高度に改善された新たなポリエステルフィルムロールを提供すること」にあるものと認められ、また、上記(4)に記載したとおり、当業者は本件発明により上記課題を解決し得ると認識することができる。申立人の主張する「グリーンシートの変形の防止」及び「誘電体層の不均一性を改善」は、サポート要件の判断において検討する発明の課題とは異なるから、申立人の主張は上記(4)に記載したサポート要件の判断に影響を及ぼすものではない。
また、本件発明13及び14は「セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる」との発明特定事項を含むが、上記(3)に記載したとおり、本件明細書の[0021]~[0048]等には、ポリエステルフィルムロールをセラミックグリーンシートの支持体として用いる場合に、積層セラミックコンデンサーの性能発揮に支障をきたさないために必要とされるフィルム特性について、作用機序も含めて具体的に記載されている。そうすると、本件明細書に実施例1~7のフィルムロールをセラミックコンデンサーの製造工程におけるセラミックグリーンシートの支持体として使用した具体例が開示されておらず、「グリーンシートの変形の防止」及び「誘電体層の不均一性改善」の評価結果が記載されていなくとも、当業者は、本件発明の特性を備えたポリエステルフィルムシートを当該用途に使用した場合には、「グリーンシートの変形の防止」及び「誘電体層の不均一性改善」の効果が得られると認識することができる。
よって、本件明細書に「グリーンシートの変形の防止」及び「誘電体層の不均一性改善」の評価結果が記載されていないという申立人の主張は、サポート要件の判断に影響を及ぼすものではない。
(6)理由3(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~15は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由3(サポート要件違反)により本件発明1~15についての特許を取り消すことはできない。
3.理由4(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の請求項1~15の記載は上記第2のとおりであり、請求項1~15の記載それ自体は明確であり、また、本件明細書の記載及び図面とも整合する。
よって、本件発明1~15については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記第3 1.(4)のように主張しているが、本件明細書の[0039]の記載及び実施例の[0138]の「(a-1)MD方向に流れるフィルムに非接触式インライン膜厚計をTD方向に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフ(X軸:幅方向の位置X、Y軸:厚み変位量Y)を作成する。
(b-1)作成したグラフに対して5点移動平均処理(連続する5点の相加平均を算出する操作を移動距離10mm刻みでずらして行う処理のことである)を施し平滑化する。」という記載を参酌すると、当業者は、「微視的な厚さ振れ」の測定においては、連続的な厚さの測定データから10mm刻みにデータを抜き取り、相加平均を算出していることを理解することができ、実質的に測定密度は移動距離10mm毎であると理解する。
また、[0040]の「なお、上記(b-2)において、200mm間隔で全幅にわたって区切る際、10mm幅分はオーバーラップさせる。また、200mmに満たない部分についてもR値の算出対象とする。」という記載及び実施例の[0139]の「(a-2)MD方向に流れるフィルムに非接触式インライン膜厚計をTD方向に移動させながら測定したデータを平均化し、フィルムのTD方向の厚さ分布グラフ(X軸:幅方向の位置X、Y軸:厚み変位量Y)を作成する。
(b-2)作成したグラフから、フィルムのTD方向に200mm間隔で全幅にわたってR値(フィルム厚みの最大値Rmax-フィルム厚みの最小値Rmin)を算出する。」という記載を参酌すると、当業者は、「巨視的な厚さ振れ」の測定においては、連続的に測定した厚さデータから全幅の厚さの平均を求め、幅方向に平均からの厚み変位量Yのグラフを作成し、作成したグラフを10mmオーバーラップさせながら200mm間隔でR値を算出していることを理解することができ、実質的に測定密度は190mm毎であると理解する。
そうすると、請求項1の記載は第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確ではなく、請求項1を直接又は間接的に引用して特定され、本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明2~15についても同様である。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(4)理由4(明確性要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~15は、いずれも特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由4(明確性要件違反)により本件発明1~15についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~15についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700555