特許異議申立
2023-700747
耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物
- 審判番号
- 2023-700747
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-500342
- 登録番号
- 7220700
- 請求日
- 2023年07月18日
- 審決日
- 2023年10月19日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】リケンテクノス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】天野 文明
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 海老原 えい子
- 審判官 瀧澤 佳世
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7220700号発明「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7220700号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7220700号に係る出願は、2019年1月18日(優先権主張:平成30年2月16日)を国際出願日とする出願であって、令和5年2月2日に特許権の設定登録がされ、同年同月10日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和5年7月18日に、本件の請求項1~6に係る特許に対して、特許異議申立人 天野 文明(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開2000-169659号公報
甲第2号証 特開2001-40193号公報
甲第3号証 特開2011-168753号公報
甲第4号証 国際公開第2018/3294号
甲第5号証 特開2012-31297号公報
甲第6号証 特開2018-16719号公報
甲第7号証 特開2010-37519号公報
以下、甲第1号証~甲第7号証をそれぞれ「甲1」~「甲7」という。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物であって、
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~100質量%;および
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~0質量%
からなり、ここで上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部;ならびに
(C)コアシェルゴム1~100質量部
を含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物であって、
(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~99質量%;および
(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~1質量%
からなり、ここで上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部;ならびに
(C)コアシェルゴム1~100質量部
を含み、
更に上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、
(D)ポリエステル系可塑剤1~250質量部
を含む、樹脂組成物。
【請求項3】
上記成分(D)ポリエステル系可塑剤の質量平均分子量が3100以上である、請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されたフィルム。
【請求項6】
表層側から順に、
活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜、および
基材として請求項5に記載のフィルムの層を有する積層フィルム。
第3 申立理由の概要
特許異議申立書に記載された申立理由は、以下のとおりである。
1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)
本件発明1~6は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲2を主引例とする進歩性)
本件発明1~6は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許は、下記の理由により、特許法36条4項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
【理由】
本件特許の「発明の名称」には、「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」と記載されている一方、請求項1等では、「塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物」、「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」と、それぞれ記載されており、発明のカテゴリーやそれらの構成内容が不明瞭であることから、当業者が容易に実施することができない。
また、本件特許の明細書において、耐黄変性の評価基準が明記されておらず、所定効果を達成する手段が明確かつ十分に記載されておらず、当業者が、本件特許を容易に実施することができない。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許は、下記の理由により、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
【理由】
本件特許1~6は、PET及び/又はPVCの配合量を基準として、所定量(1~100質量部)のコアシェルを含む熱可塑性樹脂組成物等であって、当業者であっても、明細書の記載をもとに、コアシェルの配合量につき、拡張ないし一般化することができない。
同様に、本件特許2~6は、PET及びPVCの配合量を基準として、所定量のコアシェル及び所定量(1~250質量部)のポリエステル系可塑剤を含む熱可塑性樹脂組成物等であって、当業者であっても、明細書の記載をもとに、ポリエステル系可塑剤の配合量につき、拡張ないし一般化することができない。
5 申立理由5(明確性)
本件特許は、下記の理由により、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消すべきものである。
【理由】
本件特許の「発明の名称」には、「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」と記載されている一方、請求項1等においては、「塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物」、「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」と、それぞれ記載されており、発明対象としてのカテゴリーの記載が統一されておらず、しかも、耐黄変性の評価基準が明記されておらず、所定効果を達成する上で、発明の構成との関係が不明瞭である。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された発明
甲1の請求項1、23、32及び36に着目すると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「(a)メタアクリル系重合体とアクリル系重合体を含有するブロック共重合体1~99重量%、および、(b)ガラス転位温度が25℃未満の重合体成分とガラス転位温度が25℃以上の重合体成分を含有するグラフト共重合体であって、グラフト共重合体(b)が、ガラス転位温度25℃未満の重合体成分からなる内層部(コア部)とガラス転位温度25℃以上の重合体成分からなる外層部(シェル部)を含有するコアシェル粒子型グラフト共重合体であるグラフト共重合体99~1重量%、からなるエラストマー組成物1~99重量%と、(c)熱可塑性樹脂であって、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、メチルメタクリレート-スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂の少なくとも1種である熱可塑性樹脂99~1重量%からなる熱可塑性樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 対比
甲1発明の「(b)ガラス転位温度が25℃未満の重合体成分とガラス転位温度が25℃以上の重合体成分を含有するグラフト共重合体であって、グラフト共重合体(b)が、ガラス転位温度25℃未満の重合体成分からなる内層部(コア部)とガラス転位温度25℃以上の重合体成分からなる外層部(シェル部)を含有するコアシェル粒子型グラフト共重合体であるグラフト共重合体ジエン系ゴム」は、本件発明1の「コアシェルゴム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは
「(C)コアシェルゴムを含む、熱可塑性樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
熱可塑性樹脂組成物に関して、本件発明1は「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用」であるのに対して、甲1発明はこの点について記載がない点
【相違点2】
熱可塑性樹脂組成物の組成に関して、本件発明1では「(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~100質量%;および(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~0質量%」からなり、「上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部」と、「(C)コアシェルゴム1~100質量部」を含むのに対して、甲1発明では、熱可塑性樹脂組成物が、「メタアクリル系重合体とアクリル系重合体を含有するブロック共重合体」の1~99重量%と「コアシェル粒子型グラフト共重合体であるグラフト共重合体ジエン系ゴム」の99~1重量%からなるエラストマー組成物1~99重量%と、「ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、メチルメタクリレート-スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂の少なくとも1種である熱可塑性樹脂」99~1重量%からなる点
ウ 判断
(ア)相違点1について
a 本件特許請求の範囲、本件明細書の【0002】、【0004】の記載によれば、本件発明1は、活性エネルギー線、特に電子線はエネルギーが高いため、塗膜を形成するフィルム基材が黄色に変色するという不都合があったこと、かかる不都合を解消する技術として従来提案されたものは十分に満足のできるものでなかったことを踏まえ、耐黄変性に優れた(活性エネルギー線、特に電子線により黄色に変色するという不都合が抑制された)熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とするものであり、その課題の解決手段として、熱可塑性樹脂組成物の組成を特定したものである。
これに対して甲1は、「耐衝撃性改質剤として有用なエラストマー組成物および耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する」という課題を特定のエラストマー組成物及び熱可塑性樹脂組成物によって解決しようとするものであり(【0005】、【0006】)、当該熱可塑性樹脂組成物を活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用として用いることについては、記載も示唆もされていない。
この点について、甲1には「本発明の熱可塑性樹脂組成物は、たとえば包装材料、建築、土木材料、自動車用材料、家電製品用材料、その他雑貨品用材料などの分野で有用なシート、フィルム、板、異形などの押出成形品、カレンダー成形品、ボトルなどのブロー成形品、自動車や家電製品に用いられる各種射出成形品などの製造に好適に使用することができ」と各種の用途が列記されている(【0069】)が、これらの記載をもって、「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材」について記載ないし示唆されていると解することはできない。
そうすると、甲1全体の記載をみても、当業者が、甲1発明の樹脂組成物を「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材」の用途に用いることは、何ら動機付けられない。
b 甲3~甲5にはそれぞれ、「活性エネルギー線硬化性塗料及び成形品」、「活性エネルギー線硬化性組成物及びそれを用いたフィルム」、「活性エネルギー線硬化型樹脂組成物用帯電防止剤、活性エネルギー線硬化型組成物、硬化皮膜および帯電防止処理光学フィルム」が開示されている。
確かに、これらの開示内容に照らせば、本件優先日時点において、基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料の塗膜を形成することが技術常識であったといえるものの、上記aのとおり甲1には活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材の用途については記載も示唆もされておらず、一方、甲3~甲5のいずれにも、基材として甲1発明のようなエラストマー組成物と熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物を用いることについての記載はないのだから、甲1発明において、甲3~甲5から把握される技術常識を適用する動機付けはない。
さらにその他の証拠をみても、甲1発明の樹脂組成物を、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用に用いることの動機付けは見いだせない。
よって、相違点1に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)小括
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、甲1の明細書には「包装材料、建築、土木材料、自動車用材料、家電製品用材料、その他雑貨品用材料などの分野で有用なシート、フィルム、板、異形などの押出成形品、カレンダー成形品、ボトルなどのブロー成形品、自動車や家電製品に用いられる各種射出成形品などの製造に好適に使用する」(【0069】)と記載されており、包装材料、建築材料等の表面に、装飾性等を向上させるために、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜を設けることは、技術常識である(甲3~甲5)し、甲1に記載された熱可塑性樹脂組成物を、甲3~甲5に記載された、活性エネルギー線硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂)を含む塗料から形成された塗膜用基材に用いることができない積極的理由もないから、甲1に記載されたシート等に対し、甲3~甲5に記載された、活性エネルギー線硬化性樹脂に由来した塗膜を形成する旨の技術常識を加味すれば、本件発明1の進歩性が否定されることは明白である旨主張する(申立書18頁22行~21頁23行)。
しかしながら、本件優先日時点において基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料の塗膜を形成することが技術常識であったとしても、甲1発明において、当該技術常識を適用する動機付けがないことは上記ウ(ア)のとおりであり、このことは、申立人の指摘するとおり、包装材料、建築材料等の表面に、装飾性等を向上させるために、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜を設けることが技術常識であったとしても、同様にあてはまる。
申立人は、甲1に記載された熱可塑性樹脂組成物を、甲3~甲5に記載された、活性エネルギー線硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂)を含む塗料から形成された塗膜用基材に用いることができない積極的理由がないことを指摘するが、仮にそうであっても、甲1に記載された熱可塑性樹脂組成物を、甲3~甲5に記載された用途に用いることが動機付けられるということにはならない。
よって、上記主張は採用できない。
オ 本件発明1についてのまとめ
したがって、本件発明1は甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2について
ア 対比
上記(1)イと同様に本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は、
「(C)コアシェルゴムを含む、熱可塑性樹脂組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】
熱可塑性樹脂組成物に関して、本件発明2は「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用」であるのに対して、甲1発明はこの点について記載がない点
【相違点4】
熱可塑性樹脂組成物の組成に関して、本件発明2では「(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~99質量%;および(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~1質量%」からなり、「上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部」に対して、「(C)コアシェルゴム1~100質量部」を含むのに対して、甲1発明では、熱可塑性樹脂組成物が、「メタアクリル系重合体とアクリル系重合体を含有するブロック共重合体」の1~99重量%と「コアシェル粒子型グラフト共重合体であるグラフト共重合体ジエン系ゴム」の99~1重量%からなるエラストマー組成物1~99重量%と、「ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、メチルメタクリレート-スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂の少なくとも1種である熱可塑性樹脂」99~1重量%からなる点
【相違点5】
熱可塑性樹脂組成物に関して、本件発明2では「(B)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して(D)ポリエステル系可塑剤1~250質量部」含むのに対して、甲1発明ではポリエステル系可塑剤を含まない点
イ 判断
相違点3は相違点1と同一であり、上記(1)ウ(ア)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点4及び5について検討するまでもなく、本件発明2は甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明3~6について
本件発明3~6は本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1及び本件発明2がいずれも甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明3~6も、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由1についてのまとめ
よって、申立理由1は理由がない。
2 申立理由2(甲2を主引例とする進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲2に記載された発明
甲2の請求項1によれば、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「ブタジエン30~100重量%、芳香族ビニル単量体または芳香族(メタ)アクリレート単量体70~0重量%、これらと共重合可能なビニル単量体10~0重量%及び架橋性単量体5~0重量%からなり、平均粒子径が0.1μm以下であるブタジエン系共重合体を肥大して得られるゴム粒子40~85重量部をコア層とし、芳香族ビニル単量体30~100重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体70~0重量%及びそれらと共重合可能なビニル単量体0~20重量%からなる単量体混合物15~60重量部を重合して得られるシェル層を有する平均粒子径0.1~0.5μmのコアシェル型グラフト共重合体(A)1~30重量%と非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)99~70重量%からなる樹脂組成物。」(以下、「甲2発明」という。)
イ 対比
甲2発明の「非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)」は、本件発明1の「(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂」のうちの「非晶性」「ポリエステル系樹脂」に相当する。
甲2発明の「ブタジエン30~100重量%、芳香族ビニル単量体または芳香族(メタ)アクリレート単量体70~0重量%、これらと共重合可能なビニル単量体10~0重量%及び架橋性単量体5~0重量%からなり、平均粒子径が0.1μm以下であるブタジエン系共重合体を肥大して得られるゴム粒子40~85重量部をコア層とし、芳香族ビニル単量体30~100重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体70~0重量%及びそれらと共重合可能なビニル単量体0~20重量%からなる単量体混合物15~60重量部を重合して得られるシェル層を有する平均粒子径0.1~0.5μmのコアシェル型グラフト共重合体(A)」は、本件発明1の「(C)コアシェルゴム」に相当する。
甲2発明の樹脂組成物は、「コアシェル型グラフト共重合体(A)1~30重量%」と「非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)99~70重量%」からなるから、「コアシェル型グラフト共重合体(A)1~30重量%」と「非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)」が100質量%である樹脂「99~70重量%」とからなる「熱可塑性樹脂組成物」であるといえる。
ここで、当該熱可塑性樹脂組成物において、「非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)」が100質量%である樹脂100質量部に対する「コアシェル型グラフト共重合体(A)」の含有量は、1.0質量部(コアシェル型グラフト共重合体(A)が1重量%、非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)が99質量%の場合)~43質量部(コアシェル型グラフト共重合体(A)が30重量%、非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)が70質量%の場合)と算出され、本件発明1の、樹脂混合物100質量部に対して「(C)コアシェルゴム1~100質量部」の含有量と重複する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~100質量%;および(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~0質量%からなり、ここで上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部;ならびに(C)コアシェルゴム1~100質量部を含む、熱可塑性樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点6】
本件発明1は「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用」であるのに対して、甲2発明はこの点について記載がない点
ウ 判断
(ア)相違点6について
a 上記1(1)ウ(ア)aのとおり、本件発明1は、活性エネルギー線、特に電子線はエネルギーが高いため、塗膜を形成するフィルム基材が黄色に変色するという不都合があったこと、かかる不都合を解消する技術として従来提案されたものは十分に満足のできるものでなかったことを踏まえ、耐黄変性に優れた(活性エネルギー線、特に電子線により黄色に変色するという不都合が抑制された)熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とするものであり、その課題の解決手段として、熱可塑性樹脂組成物の組成を特定したものである。
これに対して甲2は、「透明性と耐衝撃性を両立させた非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂組成物を提供する」(【0003】)という課題を特定の樹脂組成物によって解決しようとするものであり(【0004】)、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用として用いることやその場合の問題点については、記載も示唆もされていない。
この点について、甲2には、従来の技術として「ポリエチレンテレフタレート系樹脂は透明性、機械的特性、ガスバリヤー性に優れておりボトル、シート等包装材料を中心に幅広く用いられている。」と記載されている(【0002】)が、当該の記載をもって「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材」について記載ないし示唆されていると解することはできない。
そうすると、甲2全体の記載をみても、当業者が、甲2発明の樹脂組成物を「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材」の用途に用いることは、何ら動機付けられない。
b 上記1(1)ウ(ア)bのとおり、甲3~甲5の開示内容に照らせば、本件優先日時点において、基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料の塗膜を形成することが技術常識であったといえるものの、上記aのとおり甲2には活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材の用途については記載も示唆もされておらず、一方、甲3~甲5のいずれにも、基材として甲2発明のような樹脂組成物を用いることについての記載はないのだから、甲2発明において、甲3~甲5から把握される技術常識を適用する動機付けはない。
さらにその他の証拠をみても、甲2発明の樹脂組成物を、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用に用いることの動機付けは見いだせない。
そうすると、相違点6に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(イ)小括
よって、本件発明1は甲2発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、甲2にはポリエステル系樹脂組成物の用途に関し、「ポリエチレンテレフタレート系樹脂は透明性、機械的特性、ガスバリヤー性に優れておりボトル、シート等包装材料を中心に幅広く用いられている」【0002】と記載されており、包装材料等のシート材の表面に、装飾性等を向上させるために、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜を設けることは技術常識であり(甲3~甲5)、甲2に記載された樹脂組成物を、甲3~甲5に記載された、活性エネルギー線硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂)を含む塗料から形成された塗膜用基材に用いることができない阻害要因や積極的理由もないから、甲2に記載されたシート等に対し、甲3~甲5に記載された、活性エネルギー線硬化性樹脂に由来した塗膜を形成する旨の技術常識を加味すれば、本件発明1の進歩性が否定されることは明白であると主張する(申立書22頁15行~28頁6行)。
しかしながら、本件優先日時点において基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料の塗膜を形成することが技術常識であったとしても、甲2発明において、当該技術常識を適用する動機付けがないことは上記ウ(ア)のとおりであり、このことは、申立人の指摘するとおり、包装材料等のシート材の表面に、装飾性等を向上させるために、活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜を設けることが技術常識であったとしても、同様にあてはまる。
申立人は、甲2に記載された樹脂組成物を、甲3~甲5に記載された、活性エネルギー線硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂)を含む塗料から形成された塗膜用基材に用いることができない阻害要因や積極的理由がないことを指摘するが、仮にそうであっても、甲2に記載された樹脂組成物を、甲3~甲5に記載された用途に用いることが動機付けられるということにはならない。
よって、上記主張は採用できない。
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)」は、本件発明1の「(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂」のうちの「非晶性」「ポリエステル系樹脂」に相当し、甲2発明の「ブタジエン30~100重量%、芳香族ビニル単量体または芳香族(メタ)アクリレート単量体70~0重量%、これらと共重合可能なビニル単量体10~0重量%及び架橋性単量体5~0重量%からなり、平均粒子径が0.1μm以下であるブタジエン系共重合体を肥大して得られるゴム粒子40~85重量部をコア層とし、芳香族ビニル単量体30~100重量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体70~0重量%及びそれらと共重合可能なビニル単量体0~20重量%からなる単量体混合物15~60重量部を重合して得られるシェル層を有する平均粒子径0.1~0.5μmのコアシェル型グラフト共重合体(A)」は、本件発明2の「(C)コアシェルゴム」に相当する。
また、甲2発明の樹脂組成物は、「コアシェル型グラフト共重合体(A)」と「非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)」からなるから、「熱可塑性樹脂組成物」であるといえる。
そうすると、本件発明2と甲2発明とは、
「(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と(C)コアシェルゴムを含む、熱可塑性樹脂組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点7】
本件発明2は「活性エネルギー線硬化性樹脂を含む塗料から形成された塗膜の基材用」であるのに対して、甲2発明はこの点について記載がない点
【相違点8】
熱可塑性樹脂組成物の組成に関して、本件発明2では「(A)非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂1~99質量%;および(B)ポリ塩化ビニル系樹脂99~1質量%」からなり、「上記成分(A)非結晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と上記成分(B)ポリ塩化ビニル系樹脂との和は100質量%である樹脂混合物100質量部」に対して、「(C)コアシェルゴム1~100質量部」を含み、さらに、「(B)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、(D)ポリエステル系可塑剤1~250質量部」を含むのに対して、甲2発明では、熱可塑性樹脂組成物がコアシェル型グラフト共重合体(A)1~30重量%と非晶質ポリエチレンテレフタレート系樹脂(B)99~70重量%からなり、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系可塑剤を含むことについては記載がない点
イ 判断
相違点7は相違点6と同一であり、上記(1)ウ(ア)と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点8について検討するまでもなく、本件発明2は甲2発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明3~6について
本件発明3~6は本件発明1又は2を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1及び本件発明2がいずれも甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明3~6も、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由2についてのまとめ
よって、申立理由2は理由がない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件について
本件発明1~6は、「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」、「成形体」、「フィルム」及び「積層フィルム」という物の発明であるところ、発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当業者が発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要するものと解される。
これに対して、本件明細書には、本件発明1で特定される(A)~(C)成分又は本件発明2で特定される(A)~(D)成分の、各成分についての説明、各成分の配合量及び各成分を溶融混練することによって樹脂組成物を製造することについての説明、成形体、フィルム並びに積層フィルムを製造することについての説明があり(【0012】~【0055】)、実施例において、具体的に上記樹脂組成物及びフィルムを製造したことが記載されている(【0070】、【表1】、【表2】)。
これらの記載に接した当業者は、本件発明1~6の「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」、「成形体」、「フィルム」及び「積層フィルム」について、過度の試行錯誤を要することなく、これらを製造し、使用することができるといえる。
(2)申立人の主張について
申立人は、本件特許の「発明の名称」には、「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」と記載されている一方、請求項1等では、「塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物」、「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」と記載されており、発明のカテゴリーや、それらの構成内容が不明瞭であることから、当業者が容易に実施することができないとして、また、本件明細書において、耐黄変性の評価基準が明記されておらず、所定効果を達成する手段が明確かつ十分に記載されていないとして、当業者が、本件特許を容易に実施することができないと主張する(申立書28頁7行~31頁17行)。
しかしながら、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明1~6の「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」、「成形体」、「フィルム」及び「積層フィルム」について、過度の試行錯誤を要することなく、これらを製造し、使用することができるといえることは上記(1)のとおりであって、仮に「発明の名称」に「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」と記載され、請求項1等には「塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物」、「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」と記載されていたとしても、また、耐黄変性の評価基準が明記されていないとしても、上記判断は左右されない。
ここで、本件明細書には「耐黄変性」を色差(ΔE)で評価することが記載されているのだから、本件明細書には耐黄変性の評価基準は明記されている。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由3についてのまとめ
よって、取消理由3は理由がない。
4 申立理由4(サポート要件)について
(1)サポート要件について
ア 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ(ア)本件発明の課題は、耐黄変性に優れた(活性エネルギー線、特に電子線により黄色に変色するという不都合が抑制された)熱可塑性樹脂組成物を提供することである(【0004】)。
(イ)本件明細書には、成分(A)の非晶性又は低結晶性ポリエステル系樹脂と成分(B)のポリ塩化ビニル系樹脂との配合割合に関し、成分(A)と成分(B)との和を100質量%として、耐黄変性の観点から、成分(A)が通常1質量%以上であり、最も好ましくは80~100質量%であることが記載され、(【0024】)、成分(C)のコアシェルゴムの配合量に関し、成分(A)と成分(B)との和を100質量部として、耐候性、及びカレンダーロール圧延製膜性の観点から通常1質量部以上であり、透明性の観点から通常100質量部以下であることが記載され(【0027】)、成分(D)のポリエステル系可塑剤の配合量について、成分(B)100質量部に対して、耐ブロッキング性および可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点から通常250質量部以下であり、耐黄変性、耐候性、及びカレンダーロール圧延製膜性の観点から通常1質量部以上であると記載されている(【0032】)。
そして、実際に例1~12には、成分(A)~(C)、成分(A)及び(B)、並びに成分(A)~(D)を本件発明1又は2に特定される範囲内の配合量で含む熱可塑性樹脂組成物について、耐黄変性を示す色差(ΔE)が0.14~0.40であったことが記載される。
これらの記載に接した当業者であれば、耐黄変性は、成分(A)と(D)に関係すること、もっとも、成分(D)は含まれなくとも、耐黄変性は発揮されることを理解する。
ウ そうであれば、本件明細書の記載に接した当業者は、本件発明の熱可塑性樹脂組成物は耐黄変性に優れた(活性エネルギー線、特に電子線により黄色に変色するという不都合が抑制された)熱可塑性樹脂組成物を提供するという課題を解決することを理解するといえる。
(2)申立人の主張について
申立人は、申立書において、当業者であっても、本件明細書の記載をもとに、コアシェルゴムの配合量につき、本件発明1~6の、樹脂混合物100質量部に対して1~100質量部の範囲にまで拡張ないし一般化することができないと、また、ポリエステル系可塑剤の配合量につき、本件発明2~6の、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1~250質量部の範囲にまで拡張ないし一般化することができないと主張する(申立書31頁18行~37頁5行)。
しかしながら、本件明細書の記載に接した当業者であれば、本件発明の熱可塑性樹脂組成物は本件発明の課題を解決することを理解することは上記(1)のとおりである。
申立人は、コアシェルゴムの配合量及びポリエステル系可塑剤の配合量を問題とするが、上記(1)のとおり、本件明細書の記載に接した当業者であれば耐黄変性は成分(A)と(D)に関係することを理解するのであって、コアシェルゴムの配合量が耐黄変性を左右することはうかがえないから、コアシェルゴムの配合量が本件明細書の実施例における配合量以外の配合量や最適であるとされた範囲外の配合量である場合には、本件発明の課題が解決できないと解すべき根拠はない。
また、本件明細書の記載に接した当業者が、ポリエステル系可塑剤は含まれなくとも、耐黄変性は発揮されることを理解することも上記(1)のとおりであって、ポリエステル系可塑剤の配合量が本件明細書の実施例における配合量以外の配合量や最適であるとされた範囲外の配合量である場合には、本件発明の課題が解決できないと解すべき根拠はない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由4についてのまとめ
よって、申立理由4は理由がない。
5 申立理由5(明確性)について
(1)明確性について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるところ、本件発明1~6は明確であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとすべき記載は見当たらない。
(2)申立人の主張について
申立人は申立書において、「発明の名称」には、「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」と記載されている一方、請求項1等においては、「塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物」、「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」と記載されており、発明対象としてのカテゴリーの記載が統一されておらず、しかも、耐黄変性の評価基準が全く定義されていないから、「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」をどのように得るのか判断がつかず、「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」、「塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物」、「熱可塑性樹脂組成物」の差異や、それぞれの構成と効果との関係を示す技術的意義が不明確であって、発明内容が理解できないから、本件発明1~6は明確でないと主張する(申立書37頁6~24行)。
しかしながら、本件発明1~6の記載は明確であることは上記(1)のとおりである。
申立人は、発明の名称が「耐黄変性に優れた熱可塑性樹脂組成物」であり、請求項1等において「塗膜の基材用熱可塑性樹脂組成物」、「熱可塑性樹脂組成物」、「樹脂組成物」と記載されていることを問題視するが、仮に、発明の名称や請求項に申立人の指摘する複数の語が使用されているとしても、本件発明1~6がこのことにより不明確になるというものではない。
また、「耐黄変性」なる規定は本件発明1~6のいずれにも含まれないから、仮に耐黄変性の評価基準が定義されていないとしてもそのこと自体をもって直ちに本件発明1~6が不明確であるとはいえないし、上記3(2)のとおり、耐黄変性の評価基準は本件明細書に記載されている。
したがって、上記主張は採用できない。
(3)申立理由5についてのまとめ
よって、申立理由5は理由がない。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700747