特許異議申立
2022-700208
粘着フィルム
- 審判番号
- 2022-700208
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-165522
- 登録番号
- 6938280
- 請求日
- 2022年03月09日
- 審決日
- 2024年10月01日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】リケンテクノス株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【権利者代理人】瀬田 寧
- 【異議申立人】末吉 直子
- 【異議申立人代理人】加藤 圭
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P1652.121-YAA(C09J) / P1652.536-YAA(C09J) / P1652.537-YAA(C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第126条第6項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6938280号発明「粘着フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6938280号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第6938280号の請求項1-3、5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成29年8月30日の出願であって、令和3年9月3日に特許権の設定登録(請求項の数 5)がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。その後、令和4年3月9日に末吉 直子(以下「申立人」という。)により、請求項1~3、5に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の主な経緯は、次のとおりである。
令和4年 8月17日付け 取消理由通知
同年10月21日 意見書提出(特許権者)
令和5年 2月16日付け 申立人に審尋通知
同年 4月17日 回答書提出(申立人)
同年11月16日 取消理由通知(決定の予告)(下記第6参照)
令和6年 1月16日付け 応対記録(提出された訂正案の確認)
同年 1月22日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 3月26日 意見書提出(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年11月16日付け取消理由通知(決定の予告)(下記第6参照)に対応してなされた、訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載されていた式(1)「-26≦(L1-L2)≦4・・・(1)」に加え、式(2)「-19.05≦(al-a2)≦10.25・・・(2)」および式(3)「-33.11≦(bl-b2)≦11.34・・・(3)」を加え、「下記式(1)を満たす」とあるのを「下記式(1)~(3)を満たす」と訂正する。
また、請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載されていた「ここでL1は上記粘着フィルムの粘着剤層のL*a*b*座標における明度であり、」を、「ここでL1、a1およびb1はそれぞれ、上記粘着フィルムの粘着剤層のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値であり、」と訂正する。
また、請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に記載されていた「L2は上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標における明度である。」を、「L2、a2およびb2はそれぞれ、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値である。」と訂正する。
また、請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。
(4)一群の請求項等について
訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1~3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~5にそれぞれ対応する本件訂正後の請求項1~5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
2 本件訂正の適否
以下、下線は合議体による。
(1)訂正事項1~3について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、請求項1の「壁紙用粘着フィルム」における「粘着剤層」と「上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面」との色の関係を特定する事項である
「下記式(1)を満たす壁紙用粘着フィルム。
-26≦(Ll-L2)≦4・・・(1)」を、
「下記式(1)~(3)を満たす壁紙用粘着フィルム。
-26≦(Ll-L2)≦4・・・(1)
-19.05≦(al-a2)≦10.25・・・(2)
-33.11≦(bl-b2)≦11.34・・・(3)」に訂正するものである。
訂正事項2は、訂正事項1に伴い特許請求の範囲に追加された「al」及び「bl」について、「ここでL1、a1およびb1はそれぞれ、上記粘着フィルムの粘着剤層のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値であり」との定義を追加するものである。
また、訂正事項3は、訂正事項1に伴い特許請求の範囲に追加された「a2」及び「b2」について、「L2、a2およびb2はそれぞれ、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値である。」との定義を追加するものである。
したがって、訂正事項1~3は、全体として、請求項1の「壁紙用粘着フィルム」における「粘着剤層」の色と「上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面」の色の関係を特定する事項について、式(1)を満たすという条件のみが規定されているものから、式(1)に加えて式(2)及び式(3)も同時に満たすものに変更するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
本件特許明細書の【表1】~【表6】(段落【0108】~【0113】)には、「メスキの目立たなさ」が「○」(距離1.2mの位置でも測定サンプルのメスキを視認できない。)又は「△」(距離1.2mの位置では測定サンプルのメスキを視認できる。しかし、距離3.5mの位置では測定サンプルのメスキを視認できない。)のものとして、例4~12、24~30、42~49及び67~75が記載されている。
前記式(2)の「-19.05」及び「10.25」との数値は、「メスキの目立たなさ」が「○」である例6及び例47の記載に基づくものであり、前記式(3)の「-33.11」及び「11.34」との数値は、「メスキの目立たなさ」が「○」である例28及び例47の記載に基づくものであるところ、上記例4~12、24~30、42~49及び67~75は、式(1)に加え、式(2)及び式(3)を満たすものである。
以上によれば、訂正事項1~3は、全体として、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1~3は、請求項1の「壁紙用粘着フィルム」における「粘着剤層」の色と「上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面」の色の関係を特定する事項について、式(1)を満たすという条件のみが特定されているものから、式(1)に加えて式(2)及び式(3)も同時に満たすものに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(2)独立特許要件について
ア 独立特許要件の課されない請求項
上記第1で述べたように、本件特許異議の申立ては、本件請求項1~5に係る特許のうち請求項1~3、5に係る特許に対してなされているので、請求項1~3、5については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課されない。
イ 独立特許要件の課される請求項
上記第1で述べたように、本件特許異議の申立ては、本件請求項1~5に係る特許のうち請求項4に係る特許に対してはされていない。そして、本件訂正前の請求項1に対する訂正である訂正事項1~3は、上記(1)アで述べたように全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるところ、請求項4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされたといえる。
したがって、請求項4については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される。
ウ 独立特許要件についての判断
下記第7で述べるように、本件訂正後の請求項1に係る発明には取消理由がなく、請求項1に係る発明につき、特許を受けることができないとすべき理由があるものではない。
そうすると、請求項1を直接又は間接的に引用する本件訂正後の請求項4に係る発明も、特許を受けることができないとすべき理由があるものではないから、本件訂正後の請求項4に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。
エ 独立特許要件についての小括
本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第7項に適合する。
(3)本件訂正の適否についての小括
上記(1)のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものであり、また、上記(2)のとおり、特許法第120条の5第9項により読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定にも適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1~3、5に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(請求項1~3、5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」、「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)。
「【請求項1】
フィルム基材の片面の上に粘着剤層を有する粘着フィルムであって、下記式(1)~(3)を満たす壁紙用粘着フィルム。
-26≦(Ll-L2)≦4・・・(1)
-19.05≦(al-a2)≦10.25・・・(2)
-33.11≦(bl-b2)≦11.34・・・(3)
ここでL1、a1およびb1はそれぞれ、上記粘着フィルムの粘着剤層のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値であり、
L2、a2およびb2はそれぞれ、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値である。
【請求項2】
下記式(1-2)を満たす請求項1に記載の壁紙用粘着フィルム。
-24≦(L1-L2)≦1・・・(1-2)
【請求項3】
上記粘着剤層を形成するための粘着剤が着色剤を含み、
ここで上記着色剤の400メッシュパス分率が90質量%以上である請求項1又は2に記載の壁紙用粘着フィルム。」
「【請求項5】
上記粘着剤層の表面の温度5℃におけるタッキネスが12~25Nであり、温度35℃におけるタッキネスが12~23Nである、請求項1~4の何れか1項に記載の壁紙用粘着フィルム。」
第4 特許異議申立ての理由及び証拠
1 申立人が申立てた理由は、下記のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1、2に記載されたL1及びL2の意味が不明確であり、さらに請求項1~3、5に記載された数値範囲それ自体も不明確であるので、これらの請求項に係る発明は明確ではないから、本件の請求項1~3、5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2
当業者は、実使用状態における粘着剤層及びフィルム基材が全く光を透過しない場合を除き、本件の発明の詳細な説明に記載された例1~例72の壁紙用粘着フィルム以外の本件発明に包含されるものは製造して使用することができないから、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件の請求項1~3、5に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
よって、本件の請求項1~3、5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3
当業者は、請求項1に係る「式(1)」あるいは請求項2に係る「式(1-2)」を満たしさえすれば、仮にメスキが生じたとしても、それが目立たないという課題が解決できるとは推論しないから、請求項1~3、5に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、当該発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、本件の請求項1~3、5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由4
L1及びL2を測定算出するときの粘着剤層及び基材フィルムの下地がどのようなものであってもよいならば、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、5に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(主たる証拠は、甲第1号証)。
2 証拠の一覧
申立人の提示した証拠は次の(1)のとおり。以下、甲第1号証を甲1などという。なお、甲1~15は、特許異議申立書に添付されたものであり、甲16~19は、回答書に添付されたものであり、甲20は、令和6年3月26日提出の意見書に添付して提示されたものである。
また、特許権者は、令和4年10月21日提出の意見書に添付して下記(2)の証拠を提示した。なお、以下、乙第1号証を乙1などという。
(1)申立人が提示した証拠
甲1:特開昭64-31632号公報
甲2:信岡聡一郎(当審注;「聡」は旧字体)、「顔料物性講座(第2講)」、色材、Vol.55、No.10、758~765頁(1982年)
甲3:石川典夫、「測色の基礎と実際」、日本画像学会誌、Vol.44、No.6、489~498頁(2005年)
甲4:インテリア大事典、第1版第5刷、228~233頁(1994年)
なお、申立人が提示した甲4には、頁の表示がない「参考資料 日本色彩研究所「基本色表シリーズ」のマンセル色相環等」が含まれているが、甲4とは別文献であり、事実認定の基礎としない。
甲5:インテリア大事典、第1版第5刷、694頁(1994年)
甲6:住友スリーエム社、DI-NOC Filmのカタログ(2007年)
甲7:リンテック社、パロアPAROI(R)のカタログ(2014-2016年)
甲8:株式会社中川ケミカルのニュース、「カッテイングシート(R)新色販売のお知らせ」と題する出力物(2015年)
甲9:株式会社中川ケミカルのニュース、「空間を色で着せ替えよう!展」第三弾[KIDS SPACE]開催のお知らせ(2016年)
甲10:特開2009-234261号公報
甲11:特開2004-67708号公報
甲12:美津和産業株式会社「金網(ステンレスメッシュ)について」の出力物(2016年)
甲13:ゴムタイムズ社のニュース、「粘着力測定装置タッキネスチェッカを新発売」の出力物(2012年)
甲14:株式会社東洋精機製作所、型式HTC-1タッキネスチェッカ取扱説明書、第4版、頁1-1、5-5~5-7(2020年1月)
甲15:特開2012-172113号公報
甲16:インテリア大事典、第1版第5刷、552頁(1994年)
甲17:インテリア大事典、第1版第5刷、573~586頁(1994年)
甲18:CMTELのウェブサイト、「アーカイブズ」の項目の中の2010年5月の頁(1行目に「14 5月」、2行目に「Posted by CMTEL | 2010/05/14 12:28」と記載されている頁)の出力物、印刷日不明
http://www2.tamabi.ac.jp/cgi-bin/cmtel/?m=201005
甲19:株式会社中川ケミカルのウェブサイト、「NEWS」の項目の中の「PICK UP 2016.09.30」(「PICK UP」は枠で囲われて記載されている。)と記載されている頁(1行目に「第19回CSデザイン賞受賞作品決定」、2行目に「PICK UP 2016.09.30」(「PICK UP」は枠で囲われて記載されている。)と記載されている頁)の出力物、印刷日不明 http://nakagawa.co.jp/news/2016/09/30/283/
甲20:表面色の視感比較方法 JIS Z 8723:2000 平成12年5月20日改正 日本工業標準調査会 審議 財団法人日本規格協会発行、平成12年7月31日
(2)特許権者が提示した証拠
乙1:分光測色計「CM-700d/600d」(商品名、コニカミノルタジャパン株式会社製)の取扱説明書
乙2:JIS Z 8722:2009「色の測定方法-反射及び透過物体色」
乙3:コニカミノルタジャパン株式会社のウェブサイトにおいて、楽しく学べる知恵袋>色色雑学>「2 測色計で色を数値化」の項目の中の「色の数値化には、表色系を使用します。1」とたどって表示される頁の出力物、印刷日不明
http://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/selection2/02.html
第5 証拠方法の記載事項
1 甲1には次の記載がある。
(1)特許請求の範囲、1頁左下欄5~11行
「(1)全光線透過率が10~70%である着色透明フィルムの一面に、5~40重量%の白色顔料及び3重量%以下の金属箔片を含み、全光線透過率が35%以下で且つCIE1976(L*a*b*)色空間に於けるL*の値が80以上の白色度を有する白色接着剤層を被着してなる高彩度接着シート。」
(2)1頁右下欄11行~2頁右上欄8行
「〔従来の技術及びその問題点〕
従来より、色鮮やかな高彩度を有する接着シートを作成するために種々の方法が試みられている。その例として、印刷若しくはコーティングする等の手段により白色接着シートの上に着色透明層を形成して接着シートを作成する方法、或いはラミネート、コーティング等の手段により、予め着色透明層と白色層とからなる二層構造のフィルムを形成し、該フィルムに接着剤を被着して接着シートとを作成する方法等が知られている。
これら従来の方法に於いては、フィルムを実質的に二層構造とすることが必要であるため、製造上工程が複雑となり、製造に長時間を要し、それ故にコスト高になる等の欠点があった。
更に、着色透明層と白色層の密着性が十分でないために、屋外等で使用した場合に該両層間に剥がれや膨れ等が発生することもあった。
従って、本発明の目的は、製造が容易な簡単な構造でありながら、被着体の種類の如何にかかわらず貼着して極めて色鮮やかな高彩度接着シートを提供することにある。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明は、全光線透過率が10~70%である着色透明フィルムの一面に、5~40重量%の白色顔料及び3重量%以下の金属箔片を含み、全光線透過率が35%以下で且つCIE1976(L*a*b*)色空間に於けるL*の値が80以上の白色度を有する白色接着剤層を被着してなる高彩度接着シートを提供することにより上記目的を達成するものである。
本発明の高彩度接着シートは、被着体の種類にかかわらず、即ち被着体表面の明度、彩度の如何にかかわらずそれ自体が色鮮やかな高彩度を有するものである。従って、上記高彩度接着シートは全体として所定の隠蔽性、即ち被着体表面の影響を受けない性質を有し、且つ上記着色透明フィルムは所定の透過率を有し、しかも上記接着剤層は所定の光反射性能を有してしるものである。」
(3)2頁左下欄15行~右下欄13行
「本発明に於いて、白色接着剤層(以下、単に接着剤層ともいう)は白色顔料量5~40重量%、好ましくは10~35重量%の含有率で含有し、全光線透過率が35%以下、好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下であり、且つCIE1976(L*a*b*)色空間に於けるL*の値が80以上、好ましくは83以上、更に好ましくは85以上の白色度を有する白色層として調製される。
白色顔料の含有率を上記範囲に制限する理由は、次の通りである。即ち、5重量%未満の場合は、全光線透過率が大きすぎて隠蔽性が小さいために被着体の影響が表れ接着シート全体としての隠蔽性を出し難(好ましくない、逆に、白色顔料の含有率が40重量%超の場合は、接着剤層として有すべき接着力が充分でないために、該接着剤層と着色透明フィルムとの密着を充分になし得ず、更には接着シートとして有すべき接着力を充分に出し得ない等の問題が生じ好ましくない。」
(4)4頁左上欄6~18行
「○1(当審注:原文では○の中に1、以下同様)全光線透過率測定法
着色透明フィルムの全光線透過率を測定する場合は、そのフィルム自体について行い、接着剤層のみの場合は、全光線透過率88.2%のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムで該接着剤層の両側を積層固定した試料を作成し、また、接着シートの場合は、接着剤層側を同じくPETフィルムで積層固定した試料を作成し、これら試料について全光線透過率を測定し、常法に基づいて算出した。
測定は、測定器として直読式へイズメーター((株)東洋精機製作新製)を用い、JIS K-6714の平行光線透過率測定法に準拠して行った。」
(5)4頁右上欄10行~右下欄5行
「○3測色値測定法
着色透明フィルムの場合は、該フィルムをアルキッドメラミン塗装白板(日本テストパネル(株)製:以下、単に白板ともいう)の上に載せて測定し、接着シートの場合は、下記2種のパネルに貼り付けて測色した。
測色値Aは、上記白板に貼り付けて測定した値であり、測色値Bは、アルキッドメラミン塗装黒板(日本テストパネル(株)製:以下、単に黒板ともいう)に貼り付けて測定した値である。
測色値の測定は、測定器としてMacbeth Spectrophotometer Co1or-Eye MS-2020(Kollomorgen Corporation製)を用いて行い、測色値は、標準の光C(標準光源C)について、CIE1976(L*a*b*)色空間により表色した。
○4接着剤層の白色度測定法
上記PETフィルムの片面に接着剤層を被着して試料を作成し、該試料を、上記と同様のアルキッドメラミン塗装黒板に貼り付け、上記○3の場合と同じ測定器を用いて潤色し、CIE1976(L*a*b*)色空間に於けるL*の値をもって白色度とした。
○5彩度算出法
上記○3で測色した測色値を、下記計算式(1)に適用することにより、接着シートの彩度を求めた。測色値Aから求めた彩度をCAとし、測色値Bから求めた彩度をCBとして表1に示した。
彩度={(a*)2+(b*)2)}0.5・・・(1)
○6隠蔽力算出法
上記○3で測色した測色値A及びBを、下記計算式(2)に適用することにより、接着シートの隠蔽力を求めた。式(2)において、(L1*、a1*、b1*)は測色値Aの各値を、(L2*、a2*、b2*)は測色値Bの各値を意味する。
隠蔽力={(L1*-L2*)2+(a1*-a2*)2
+(b1*-b2*)2}0.5 ・・・(2)」
(6)4頁右下欄15行~5頁左下欄2行
「実施例1
アクリル系粘着剤(日本カーバイド工業(株)製;商品名PE-124)100重量部にイソシアネート系架橋剤(ダイセル・ヒュルス株式会社製:商品名IPDI-T1890(L))0.3重量部を加えた粘着剤溶液に白色顔料として酸化チタン(石屋産業(株)製;商品名タイベークCR-90)7.2重量部を加え、次いで卓上サンドミルを用いて撹拌することにより該酸化チタンを上記溶液に十分に分散させ、白色粘着剤溶液を調製した。
上記白色粘着剤溶液を剥離紙(玉子加工(株)製:商品名0KC-105PSG-Q)に塗布し、乾燥して、厚さ約26μの白色粘着剤層を作成した。
更に、上記白色粘着剤層の上に、別途作製した、厚さが48μで全光線透過率40.5%の赤色透明フィルム(着色透明フィルム)を貼り合わせて高彩度接着シートを作成した。作成した上記高彩度接着シートについて、前述の方法に基づいて各種試験及び計算を行い、その結果を表1に示した。
本実施例の高彩度接着シートは、表1に示す如く、隠蔽力、接着力等に優れており、被着体としての前記白板又は黒板何れの上に於いてもその影響を受けることなく非常に色鮮やかで本発明の目的を十分に達成するものであった。
実施例2
実施例1で調製した白色粘着剤溶液にアルミニウム箔片0.22重量部を添加し、十分に撹拌・混合して本実施例2の粘着剤溶液を調製した。このアルミニウム箔片としては、65重量%のアルミニウムを含有するアルペースト713ON(商品名:東洋アルミニウム(株)製)を用いた。
上記粘着剤溶液を用いて白色粘着剤層を形成し、それ以外は全て実施例1の場合と同様にして、接着シート等の各試料を作成し、該試料についても前記実施例1の場合と同様の測定試験及び各物性値の算出を行いその結果を表1に示した。
本実施例2の高彩度接着シートは、表1に示す如く、非常に高い色鮮やかさを有していた。
実施例3、4
前記実施例2に於けるアルミニウム箔片の添加量に替えて、アルミニウム箔片を0.51重量部添加した場合を実施例3とし、1.03重量部添加した場合を実施例4とした。上記添加量以外は全て実施例2と同様にして接着シート等の試料を作成し、各物性値を測定・算出してその結果を表1に示した。
実施例3及び4の高彩度接着シートは表1に示す如く、非常に高い色鮮やかさを有していた。」
(7)5頁左下欄12行~右下欄10行
「実施例7、8、9
実施例3に於ける赤色透明フィルムに替えて、全光線透過率23.6%の赤色透明フィルムを用いる場合を実施例7とし、全光線透過率59.0%の赤色透明フィルムを用いる場合を実施例8とし、更に全光線透過率68.9%の黄色透明フィルムを用いる場合を実施例9として、実施例3の場合と同様に接着シート等の試料を作成し、各物性値の測定・算出を行い、その結果を表1に示した。実施例7~9の接着シートは表1に示す如く、極めて高い色鮮やかさを有していた。
実施例10
実施例4に於ける赤色透明フィルムに替えて、全光線透過率68.9%の黄色透明フィルムを用い、それ以外は全て実施例4と同様にして接着シート等の試料を作成し、各物性値の測定・算出を行い、その結果を表1に示した。
実施例10の接着シートは表1に示す如く、非常に高い色鮮やかさを有していた。」
(8)6頁下欄表1
「
[図:0001418181000001.jpg]
」
2 甲2には次の記載がある。
(1)タイトル
「顔料の粒子形態と光学的性質」
(2)760頁右欄下7行~761頁左欄2行
「5.粒度と隠ぺい力
隠ぺい力は,顔料を塗料として塗布したとき,下地を覆い隠す力である。それは,(1)顔料粒子の表面で直ちに反射される光,(2)顔料に吸収されてしまう光,などによって決まるものである。白色顔料の隠ぺい力は主として(1)の部分により,黒色顔料のそれは(2)の部分により,着力顔料のそれは(1)(2)の両方によって支配されている。隠ぺい力の大きい顔料は,(1)(2)とも大きいものである。」
3 甲3には次の記載がある。
(1)490頁左欄17行~右欄17行
「
[図:0001418181000002.jpg]
[図:0001418181000003.jpg]
」
(2)491頁左欄1行~492頁左欄1行
「
[図:0001418181000004.jpg]
・・・
[図:0001418181000005.jpg]
[図:0001418181000006.jpg]
」
(3)492頁右欄15行~493頁右欄下から3行
「
[図:0001418181000007.jpg]
[図:0001418181000008.jpg]
[図:0001418181000009.jpg]
」
(4)493頁右欄下から2行~494頁左欄12行
「
[図:0001418181000010.jpg]
[図:0001418181000011.jpg]
」
(5)494頁左欄「
[図:0001418181000012.jpg]
」
(6)494頁上欄
「
[図:0001418181000013.jpg]
」
(7)497頁左欄1~6行
「5.2 試料特性に起因する各種の測色誤差要因
・・・ここでは測色器を使う立場から知っておくべき,試料特性に起因する誤差要因の幾つかを紹介する.」
(8)497頁左欄29~43行
「5.2.3 半透明性試料
プラスチック、石鹸、皮膚等の半透明性の試料では,照明光が試料内部の深い部分まで侵入して散乱された光が反射光として再放出される.薄い試料の場合は試料を透過した光が試料台面で反射して再透過後反射光として出てくるので,台板の色の影響を受けてしまうことがある。
・・・
半透明性の試料では,真っ黒な裏当てを施すなどの配慮・・・が必要である。」
4 甲4には次の記載がある。
(1)229頁左欄下8行~右欄11行
「5-2-2 色の3属性
色を分類するには、一般に色相・明度・彩度の三つの尺度によって行われるが、これらは色の性質を示す要素でもあり、色の3属性といっている(図3-5-2)。
1) 色相(hue)
有彩色には、赤・黄・緑・青・紫などのように色合いの違いがあるが、この色合いは、あるいは色味のことを色相という。
2) 明度(value)
色の明るさの度合で、有彩色・無彩色の両方にある性質。最も高い明度の色が白、最も低い明度の色が黒である。
3) 彩度(chroma)
色の鮮やかさの度合で、鮮やかで彩度の高い色は清色。灰色を含んで濁りがあり彩度の低い色を濁色と呼ぶ。また各色相のなかで最も彩度の高い色は純色といっている。彩度は有彩色がもつ性質で、無彩色に彩度はない。」
(2)229頁左欄、図3-5-2
「
[図:0001418181000014.jpg]
」
(3)233頁左欄、25~32行
「5-4-5 色の視認性
色によっては遠くまではっきり見える色と、そうではない色がある。これは注視する色と背景にある色との関係から生じるもので、注視する図形の色と、地の色の間の色相・明度・彩度における差が大きくなるほど視認度は高くなる。特に明度差による影響が大きい。実際上は光の状態や、図形の大小等によっても左右される(表3-5-3)。」
(4)233頁右欄、表3-5-3
「
[図:0001418181000015.jpg]
」
5 甲5には次の記載がある。
694頁左欄20~22行
「壁紙を定義的にいえば、シート状で可撓性があり、壁・天井面などの装飾に表面化粧材として用いられる材料の総称である。」
6 甲6には次の記載がある。
(1)2頁
ア 最左欄A、Bの項
「
[図:0001418181000016.jpg]
」
イ 中央欄Mの項
「
[図:0001418181000017.jpg]
」
(2)4頁中央欄下方
「
[図:0001418181000018.jpg]
」
7 甲7には次の記載がある。
(1)表紙を含め3枚目のタイトル
「特徴/各種認定/法規情報」
(2)表紙を含め3枚目の左上欄
「
[図:0001418181000019.jpg]
」
(3)同左中欄
「
[図:0001418181000020.jpg]
」
8 甲11には次の記載がある。
「【0012】
・・・球形結晶構造で不活性無機酸化物含有被覆層として塩素法で処理したアルミナおよびシリカの被覆層を有する平均粒径0.25μmの酸化チタン(石原産業製のタイペークCR90)・・・」
9 甲12には次の記載がある。
3~5枚目
「メッシュと線経
メッシュ 線経(mm)/開き目(mm) 濾過粒度
平織・綾織 線経(mm)/開き目(mm) 濾過粒度
・・・
400 0.030/0.034 34μm
400 0.023/0.039 38μm」
10 甲15には次の記載がある。
「【0009】
上記掲示板側粘着剤層は、(A)押付時間1秒の時のプローブタックが1.0~2.5kgf/cm2である。
本明細書においてプローブタックとは、プローブタックテスター(例えば、テスター産業社製、TE-6001等)を用い、外径5mmの円柱状の鋼棒を一定時間粘着剤層に押し付けた後、引き剥がそうとするときの抵抗値を測定した値を意味する。
【0010】
上記掲示板側粘着剤層の押付時間1秒の時のプローブタックが1.0kgf/cm2未満であると、実質的に粘着力がなく、仮接着すら困難であり、2.5kgf/cm2を超えると、剥離時に壁や掲示物を傷めたり、糊残りが生じたりすることがある。上記掲示板側粘着剤層の押付時間1秒の時のプローブタックの好ましい下限は1.2kgf/cm2、好ましい上限は2.3kgf/cm2である。」
第6 令和5年11月16日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和5年11月16日付けで通知した取消理由は、上記第4の申立理由3に相当するものであって、その概要は、以下のとおりである。
L*a*b*表色系における色差ΔE*abは、(L*2-L*1)の値がより大きい場合に限らず、(a*2-a*1)の値が大きい場合や、(b*2-b*1)の値が大きい場合にもその値が大きくなる。また、本件発明において、色差(ΔE*)が大きい場合には、粘着剤層の色と粘着フィルムの実使用状態において正面となる面の色の相対的な差が大きくなるので、「仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない」とはいえないことが明らかである。
したがって、Δa*あるいはΔb*が大きい場合には色差(ΔE*)が大きくなるので、「仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない」とはいえないことが明らかである。
段落【0014】、【図1】、あるいは、令和4年10月21日提出の意見書において、横軸がh1-h2で縦軸がL1-L2である図(同意見書7頁)を示して釈明をしているが、上記判断を解消することができる内容を含んでいない。
そして、本件発明がその課題を解決する作用機序、あるいは、原理が不明であることも踏まえると、本件発明のうち、実施例でメスキの評価が○であった態様、及び、当該態様に基づき実施例がなくてもメスキの評価が○であると予測できる下記(1)~(5)の範囲((2)~(5)は転記を省略)については、サポート要件を充足するといえるが、それ以外の態様については、サポート要件を充足しないと認められる。
(1)粘着剤層がα―1(L*a*b*が46.8、-0.35、-0.77)の一連の実施例(例1~17)によれば、フィルム基材がβ―4~β―12のとき(例4~12:なお、L2の値は48.11~68.11の範囲、a2*の値は4.63~18.7の範囲、b2*の値は10.23~30.88の範囲)メスキが〇であることに基づき、粘着剤層のL*a*b*が46.8、-0.35、-0.77のときは、粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*が48.11~68.11、4.63~18.7、10.23~30.88の範囲(ΔL*が-1.31~-21.31、Δa*が-4.98~-19.05、Δb*が-11~-31.65の範囲)はサポートありといえる。
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3及び5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足しない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
第7 当審の判断
1 本件特許明細書の発明の詳細な説明
本件特許明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0002】
従来から、建築物の壁や天井の表面に、化粧、装飾された粘着フィルム(所謂、壁紙。)を貼り、化粧、装飾することが行われている。壁紙を壁等に施工する際には、壁等の表面と壁紙の粘着剤層の表面との間にエアや異物を噛み込んだりして膨れや皺などの外観不良を発生させることなく、施工することが求められる。そのため作業性の観点からは、壁紙を作業し易い大きさに分割して施工することが好ましい。また壁紙の製品幅は、通常は建築物の壁や天井の幅よりも狭いため、壁紙同士をジョイントし突合せ状態にして貼り付けるのが通常である。ところが、壁紙同士をジョイントし突合せ状態にした箇所が、施工が完璧ではない;壁紙の基材フィルムが収縮した;などの何らかの原因により、施工直後から又は施工後経時的に、壁紙と壁紙との継目が僅かに隙間の開いた状態(以下、この現象を「メスキ」と呼ぶことがある。)になり、それが目立って、壁等の意匠性を損なうという問題(以下、「メスキの問題」と呼ぶことがある。)があった。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない粘着フィルムを提供することにある。本発明の更なる課題は、粘着力、耐剥れ性、耐めくれ性、及び折曲施工性に優れ、冬の寒い時期、及び夏の暑い時期の何れの時期においても良好な施工性を有し、仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない粘着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の粘着フィルムにより、上記課題を達成できることを見出した。」
「【0014】
仮にメスキが生じたとしても、それが目立たなくなるようにするためには、上記式(1)を満たせばよいというのは真に驚くべきことである。図1は、実施例のデータについて、横軸に粘着剤層のL*a*b*座標から算出した彩度(C1)と上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標から算出した彩度(C2)との差(C1-C2)の値を、縦軸に上記(L1-L2)の値をとり、下記実施例の試験(イ)メスキ(メスキの目立たなさ)が○評価のものは○プロット、△評価のものは△プロット、×評価のものは□プロットしたものである。図1からは、メスキの目立たなさは彩度の差とは何ら関係なく、上記(L1-L2)の値により一義的に決まることを直感的に読み取ることができるであろう。
【0015】
本明細書において「実使用状態」とは、本発明の粘着フィルムが建築物の壁や天井を化粧、装飾するため、壁や天井に施工された状態をいう。粘着フィルムの実使用状態において正面となる面は、施工された状態において、通常、視認される面となる。
【0016】
本明細書において、上記粘着フィルムの粘着剤層のL*a*b*座標は、JIS Z8722:2009に従い、コニカミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d(商品名)」を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分を含む条件で、XYZ座標を測定し、これをL*a*b*座標に換算することにより算出した。
【0017】
本明細書において、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標は、JIS Z8722:2009に従い、コニカミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d(商品名)」を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分を含む条件で、XYZ座標を測定し、これをL*a*b*座標に換算することにより算出した。」
「【0019】
なお上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面の色が一様ではない場合、例えば、模様が印刷された面である場合には、測定面の模様を一様化したとしたときのL*a*b*座標をもって、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標とする。
【0020】
例えば、上記模様が青色地に赤色円のパッチワークであり、上記青色地の面積の割合が70%、上記赤色円の面積の割合が30%である場合には、上記青色地のL*a*b*座標、及び上記赤色円のL*a*b*座標を測定し、それぞれの面積割合を考慮してL*a*b*座標の平均値を算出すればよい。」
「【0022】
1.粘着剤:
本発明の粘着フィルムの粘着剤層は、メスキを目立たなくする観点から、粘着フィルムの実使用状態において正面となり、通常視認される面の色(L*a*b*座標)に対応する所定の色(L*a*b*座標)を有している。
【0023】
本発明の粘着フィルムの粘着剤層に用いる粘着剤としては、所定の色を有すること以外は制限されず、任意の粘着剤を用いることができる。
・・・
【0037】
本発明の粘着フィルムの粘着剤層に用いる粘着剤に所定の色を付与するためには、通常、着色剤が用いられる。また難燃剤等を、通常の目的で用いる(難燃剤の場合は難燃性、不燃性。)と同時に、所定の色を付与する目的で用いてもよい。・・・
【0046】
本発明の粘着フィルムの粘着剤層の厚み(後述のエア抜け溝を設ける態様にあっては、溝以外の部分における厚み。)は、特に制限されないが、施工時の作業性の観点から、通常10μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上であってよい。一方、貼着面にエア抜け溝を設ける態様における外観不良防止と初期粘着力との特性バランスの観点から、通常75μm以下、好ましくは55μm以下、より好ましくは50μm以下であってよい。」
「【0053】
これらの中で上記フィルム基材としては、冬の寒い時期、及び夏の暑い時期の何れの時期においても良好な施工性を付与する観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムが好ましい。
・・・
【0071】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みは、特に制限されないが、ハンドリング性の観点から、通常20μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは80μm以上であってよい。一方、施工時の作業性の観点から、通常400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下であってよい。」
「【0081】
なお上記塗膜層が本発明の粘着フィルムの実使用状態において正面となる面(施工された状態において、通常、視認される面)を形成する場合、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面を測定面として測定したL*a*b*座標は、通常、塗膜層を介して観察される上記印刷層や上記フィルム基材の色を強く反映したものになる。本発明においては、これをそのまま上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標として使用する。上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面を形成するのがどのような層であっても同様である。」
「【0083】
測定方法
(イ)メスキ(メスキの目立たなさ):
1.測定サンプルの作成:
下記実施例において、粘着剤(例1の場合は、下記(α-1)である。)を用いて得た剥離紙と粘着剤層との積層体から、該積層体のマシン方向が長さ方向となるように、長さ120mm、幅50mmの長方形の小片を切り出し、該小片を、吉野石膏株式会社の石膏ボード「タイガーボード(商品名)」に、株式会社サンゲツのゴム系プライマー剤「ベンリダイン NEW RT(商品名)」を、スポンジローラーを使用して塗布、乾燥し、下地処理を行った。次に、該処理済石膏ボードの処理面の上に、上記小片の粘着剤層が上記処理済石膏ボード側となるように重ねて押圧し、上記処理済石膏ボードに上記小片を貼合した。次に、フィルム基材(例1の場合は、下記(β-1)である。)から、フィルム基材のマシン方向が長さ方向となるように、長さ60mm、幅50mmの長方形のフィルム片2枚を切り出した。次に、上記処理済石膏ボードに貼合した上記小片から、その剥離紙を除去し、上記フィルム片を、上記小片の粘着剤層の面の上に、上記フィルム片の短辺同志を幅1mmの隙間を設けつつ対向するように、上記フィルム片の粘着剤層形成面が粘着剤層側となるように貼り、測定サンプルを得た。図2に測定サンプルの概念図を示す。また上記フィルム片の短辺同志を、全く隙間を設けないように、対向するように貼ったこと以外は、同様にして、比較サンプルを作成した。
【0084】
2.評価試験:
照度50ルクスの試験室において、試験に用いる側の目の矯正視力が1.0の者が、所定の距離から、サンプルを片目で目視観察し、メスキを視認できるか否かで評価した。ここで「メスキを視認できる」とは、上記測定サンプル、又は上記比較サンプルを、観察者にその何れのサンプルであるかを教えずに片目で目視観察させる操作を5回繰り返し(うち少なくとも1回は、上記測定サンプルを観察させる。)、観察したのが何れのサンプルであるかを5回とも正答できたことを意味する。1回でも誤答があったときは、メスキを視認できないと判定した。
○:距離1.2mの位置でも測定サンプルのメスキを視認できない。
△:距離1.2mの位置では測定サンプルのメスキを視認できる。しかし、距離3.5mの位置では測定サンプルのメスキを視認できない。
×:距離3.5mの位置でも測定サンプルのメスキを視認できる。
・・・
【0091】
使用した原材料
(α)粘着剤:
(当審注:摘記を省略)
【0092】
上記(α-1)のL*、a*、b*座標は、東洋紡株式会社の厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム「E5001(商品名)」の片面の上に、バーコーターを使用して、上記(α-1)を乾燥後厚みが45μmとなるように塗布し、乾燥して粘着剤層を形成して得た積層体の粘着剤層側の面を測定面として、JIS Z8722:2009に従い、コニカミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d(商品名)」を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分を含む条件で、XYZ座標を測定し、これをL*a*b*座標に換算することにより算出した。上記(α-2)~(α-7)についても同様である。
・・・
【0095】
(C)着色剤:
(C-1)The Shepherd Color Company社の銅・クロム合金系着色剤「BLACK30C965(商品名)」。上述の方法で測定した400メッシュパス分率99質量%。
(C-2)The Shepherd Color Company社の鉄・クロム・錫・チタン合金系着色剤「BROWN 30C888(商品名)」。上述の方法で測定した400メッシュパス分率99質量%。
(C-3)The Shepherd Color Company社のニッケル・アンチモン・チタン合金系着色剤「YELLOW 30C119(商品名)」。上述の方法で測定した400メッシュパス分率99質量%。
(C-4)二酸化チタン。上述の方法で測定した400メッシュパス分率96質量%。
【0096】
(D)任意成分:
(D-1)アルベマール社の臭素系難燃剤「SAYTEX8010(商品名)」。
(D-2)日本精鉱株式会社の三酸化二アンチモン「PATOX-M(商品名)」。
(D-3)メチルエチルケトン。
【0097】
(β)フィルム基材:
(β-1)リケンテクノス株式会社の黒色のポリ塩化ビニル系樹脂フィルム「TA8340(商品名)」。実使用状態において正面となる面のL*、a*、b*座標は、L*=25.81、a*=-0.13、b*=-1.09。
(当審注:以降は摘記を省略)
・・・
【0099】
例1
ロールコーターを使用し、剥離紙の剥離面の上に、上記粘着剤(α-1)を乾燥後の厚みが45μmとなるように塗布し、乾燥炉で乾燥し、粘着剤層を形成した。なお得られた剥離紙と粘着剤層との積層体は上記試験(イ)メスキの試験にも用いた。続いて図3に概念図を示す装置を使用し、上記で得た剥離紙と粘着剤層との積層体4と上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(β-1)5を、積層体4の粘着剤層が上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム(β-1)5側となるように、積層体4が金属ラミネートロール6側となるようにして、温度30℃に予熱された回転する金属ラミネートロール6と回転する圧着ロール7により重ねて、押圧し、粘着フィルム8を得た。上記試験(イ)を行った。結果を表1に示す。
【0100】
例2~17
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに表1又は表2に示すものを用いたこと以外は例1と同様に行った。結果を表1又は表2に示す。
【0101】
例18~34
粘着剤として上記(α-1)の替わりに上記(α-2)を用い、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに表2又は3に示すものを用いたこと以外は例1と同様に行った。結果を表2又は表3に示す。
【0102】
例35~50
粘着剤として上記(α-1)の替わりに上記(α-3)を用い、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに表3又は表4に示すものを用いたこと以外は例1と同様に行った。結果を表3又は表4に示す。
【0103】
例51~71
粘着剤として上記(α-1)の替わりに上記(α-4)を用い、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに表4又は表5に示すものを用いたこと以外は例1と同様に行った。結果を表4又は表5に示す。
【0104】
例72
粘着剤として上記(α-1)の替わりに上記(α-3)を用い、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに上記(β-12)を用いたこと以外は例1と同様にして粘着フィルムを得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表6に示す。
【0105】
例73
粘着剤として上記(α-1)の替わりに上記(α-5)を用い、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに上記(β-8)を用いたこと以外は例1と同様にして粘着フィルムを得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表6に示す。
【0106】
例74
粘着剤として上記(α-1)の替わりに上記(α-6)を用い、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに上記(β-8)を用いたこと以外は例1と同様にして粘着フィルムを得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表6に示す。
【0107】
例75
粘着剤として上記(α-1)の替わりに上記(α-7)を用い、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(β-1)の替わりに上記(β-8)を用いたこと以外は例1と同様にして粘着フィルムを得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表6に示す。」
「【0108】
【表1】
[図:0001418181000021.jpg]
【0109】
【表2】
[図:0001418181000022.jpg]
【0110】
【表3】
[図:0001418181000023.jpg]
【0111】
【表4】
[図:0001418181000024.jpg]
【0112】
【表5】
[図:0001418181000025.jpg]
【0113】
【表6】
[図:0001418181000026.jpg]
【0114】
本発明の粘着フィルムは、仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない。本発明の好ましい粘着フィルムは、粘着力、耐剥れ性、耐めくれ性、及び折曲施工性に優れ、冬の寒い時期、及び夏の暑い時期の何れの時期においても良好な施工性を有し、仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】メスキの目立たなさの支配因子を考察するために作成したグラフである。
【図2】メスキ試験のサンプルの概念図である。
・・・」
「【図1】
[図:0001418181000027.jpg]
」
「【図2】
[図:0001418181000028.jpg]
」
2 本件発明の発明特定事項について
(1)本件発明の「L1、a1およびb1はそれぞれ、上記粘着フィルムの粘着剤層のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値であり」との記載について
本件明細書の段落【0092】の記載から、本件発明のL1、a1およびb1は、粘着剤層そのものの色をL*a*b*座標に換算して算出されたものであると理解できる。
(2)本件発明の「L2、a2およびb2はそれぞれ、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値である」との記載について
本件特許明細書段落【0017】及び同【0097】の記載から、本件発明のL2、a2およびb2は、フィルム基材の実使用状態において正面となる面そのものの色をL*a*b*座標に換算して算出されたものであると理解できる。
また、本件特許明細書の段落【0081】にはなお書きとして不明りょうな記載がなされているものの、実施例で用いられる測定サンプルが石膏ボード上に設けた粘着剤層上に幅1mmの隙間を設けてフィルム基材から切り出したフィルム片2枚貼られたものであること(【0083】~【0084】)、及び、段落【0097】の「実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標は・・・」との記載から、「粘着フィルムの実使用状態において正面となる面」とは、粘着剤層と反対側となるフィルム基材の面であると認められる。
3 サポート要件について
(1) 前提
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0004】の記載からみて、「仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない粘着フィルムを提供すること」であると認められる。
(3) 本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、前記1のとおり、粘着剤層を用いて得た剥離紙と粘着剤層との積層体から長さ120mm、幅50mmの長方形の小片を切り出し、下地処理した石膏ボードに、粘着剤層が処理済石膏ボード側となるように重ねて押圧して小片を貼合後、剥離紙を除去した上に、フィルム基材から切り出した60mm、50mmの長方形のフィルム片2枚を幅1mmの隙間を設けつつ対抗するようにサンプルを貼ったことが記載されている。
そして、上記サンプルと、フィルム基材由来のフィルム片2枚を幅1mmの隙間を設けずに貼った比較サンプルとを所定の距離から片目で5回目視観察した観察者が、1回でも誤答した場合には、メスキを視認できないと判定し、観察者が距離1.2mで測定サンプルのメスキを視認できない場合には○、距離1.2mでメスキを視認できるが距離3.5mで視認できない場合に△、距離3.5mでメスキを視認できる場合には×と評価したこと(【0083】【0084】)が記載され、その評価結果が、粘着剤層のL1、a1、b1、L2、a2およびb2等と共に記載されている(【0099】~【0113】の【表1】~【表6】)。
(4) 本願出願日当時の技術常識について
前記第5、3に摘記した甲3の記載に基づき下記アの技術常識(以下、「技術常識1」ともいう。)が把握でき、また、前記第5、4に摘記した甲4の記載事項に基づき下記イの技術常識(以下、「技術常識2」ともいう。)が把握できる。
ア 技術常識1
甲3の490~494頁には、人によってその受け取り方が千差万別である色を正確に伝えるために、色を数値で表現する方法として、国際照明委員会(CIE)で表色系(RGB表色系)が規格化されたこと(前記第5、3(1))、RGB表色系は、その後順次改良されてきており、L*a*b*表色系はその一つであること(前記第5、3(2))、色を扱う業界においては、その色を如何に正確に表現するか(色の絶対値)が重要であるが、複数の色の相対的な差(色差)を問題にすることも多いこと、及び、L*a*b*表色系の場合(L*1、a*1、b*1)と(L*2、a*2、b*2)の色差ΔE*abは、((L*2-L*1)^2+(a*2-a*1)^2+(b*2-b*1)^2)^0.5で計算されること(前記第5、3(3))、及び、新しい色差式の提案が続けられているが、いずれにしても、色差が複数の色の相対的な差(色差)を評価するために使用されていること(前記第5、3(4))が記載されている。
以上によれば、L*a*b*表色系における色差ΔE*abは、色の相対的な差を数値で正確に表現する方法として、国際照明委員会(CIE)で規格化されたものであり、その値が大きいほど複数の色の相対的な差が大きいことを示すものであると理解できる。
イ 技術常識2
甲4の233頁の「5-4-5 色の視認性」の項には、「注視する図形の色と、地の色の間の色相・明度・彩度における差が大きくなるほど視認度は高くなる」ことが記載されている(前記第5、4(3))。
ここで、「注視する図形」には本件発明に係るメスキを、「地の色」には本件発明に係る「粘着フィルムの実使用状態において正面となる面」の色を対応させることができるから、この記載は、本件発明に係るメスキの認識しやすさについても当てはまる事項であると把握できる。
(5) 本件発明1について
前記(4)のとおり、L*a*b*座標における色同士の相対的な差を表す色差(ΔE*)はL値、a値及びb値の差と関連し、それらの差の値が小さい程色差が小さくなることをふまえれば、当業者は粘着剤層と粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL値、a値及びb値の差が本件発明1の特定の範囲である本件発明1は、粘着剤層の色と粘着フィルムの実使用状態において正面となる面の色の相対的な差(色差)が十分に小さくなり、「仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない」と理解でき、前記(3)のとおり、本件特許明細書には、その点を裏付ける多数の具体例(【表1】~【表6】の例4~例12、24~30、42~49、67~75)が記載されている。
このように、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(6)本件発明2、3及び5について
本件発明2、3及び5はいずれも本件発明1を直接または間接的に引用するものである。
本件発明2は、L1とL2の差がさらに狭い範囲であることを特定するものであり、本件発明3は粘着剤を形成するための着色剤を、本件発明5は粘着剤層のタッキネスをさらに特定するものであるから、本件発明2、3及び5も、上記(1)と同様の理由から、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明2、3及び5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(7) 申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、令和6年3月26日提出の意見書において、以下のとおり主張する。
(ア) 本件発明は、粘着剤層やフィルム基材が光透過性でない(不透明である)ことを特定するものではなく、壁等の上に形成された光透過性である粘着剤層やフィルム基材のL*a*b*は、当然壁の色の影響を受けるものであるから、本件発明は、課題を解決できるものではない。
(イ) 本件特許明細書の表1~表6には、商品フィルム単独(粘着剤層を形成していない)のL*a*b*(【0097】等)がそのまま転記され、「実使用状態にある正面」そのものが包含されているようにはみえず、本件の発明の詳細な説明には、実際に実使用状態にある正面のL*a*b*がどこにも記載されていない。
イ 検討
(ア) 上記ア(ア)の主張について
前記(5)及び(6)で検討したとおり、本件発明は、粘着剤層と粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL値、a値及びb値の差を一定範囲内とすることにより、「仮にメスキが生じたとしても、それが目立たない」との課題を解決するものである。
申立人の主張どおり、粘着剤層やフィルム基材が不透明でない場合、その背景にある壁等の色の影響を受けることは当業者であれば当然意識するところであるから、本件発明の粘着フィルムを用いてメスキをより目立たなくするためには、背景にある壁等の色に合わせた粘着剤層やフィルム基材を用いることを当然行うものといえ、上記ア(ア)の主張をもって、本件発明は課題を解決できないとはいえない。
(イ) 上記ア(イ)の主張について
本件発明の「粘着フィルムの実使用状態において正面となる面」については、前記2(2)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(8)取消理由(サポート要件違反)についての小括
以上のとおりであるから、本件発明は、本件特許明細書の記載によりその課題を解決することができるものであると理解できるものであり、当審が令和5年11月16日付けで通知した取消理由(申立理由3)によって、本件発明1~3、5に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
3 令和5年6月6日付けで通知した取消理由について
当審が令和5年6月6日付けで通知した取消理由は、上記第4の申立理由1~4である。また、申立理由4は、甲第1号証を主たる証拠として引用するものである。
なお、申立理由3については上記2に説示したとおりである。
(2)申立理由1について
ア 前提
一般に「法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。」とされているところ(知財高裁平成21年(行ケ)第10434号、平成22年8月31日判決言渡)、このような観点に基づいて、本件特許の明確性要件の適否を以下に検討する。
イ 申立理由1の概要
申立理由1は、請求項1において、粘着剤層及びフィルム基材が光を全く透過しないものに限定されていないため、L1及びL2の値は下地及びフィルム基材の厚さにより変化するものであるから、L1及びL2の意味並びに数値範囲それ自体が不明確であるというものである。
ウ 判断
前記2(1)において検討したとおり、当業者であれば、本件特許明細書の段落【0092】、【0017】及び【0097】の記載から、L1及びL2の意味について理解でき、前記3(4)の技術常識をも踏まえれば、粘着剤層及びフィルム基材が光を全く透過しないものであることが特許請求の範囲において特定されていないことをもって、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。
したがって、申立理由1によって、本件発明1~3、5に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
(3)申立理由2について
ア 前提
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載について、「経済産業省令で定めるところにより、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めている。そして、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。また、明細書の記載が実施可能要件を満たすと言えるためには、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
イ 申立理由2の概要
申立理由2は、請求項1において、粘着剤層及びフィルム基材が光を全く透過しないものに限定されていないため、当業者は請求項1でいう数値L1及びL2を取得できないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された例1~例72の壁紙用粘着フィルム以外の本件発明1に係る壁紙用粘着フィルムを製造することができないというものである。
ウ 判断
粘着剤層及びフィルム基材が光を全く透過しないものであることが特許請求の範囲において特定されていないことをもって、L1及びL2の意味並びに数値範囲それ自体が不明確とはいえないことは前記(2)のとおりであり、当業者は、本件特許明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された例1~例72以外の、本件発明1の発明特定事項を満たす壁紙用粘着フィルムを作り、かつ、当該フィルムを使用できるといえる。
したがって、申立理由2によって、本件発明1~3、5に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
(4)申立理由4について
ア 引用発明1の認定
前記第5、1(8)に摘記した甲1の表1に記載された実施例9及び甲1の特許請求の範囲から次の発明(以下「引用発明1」という。)が認定できる。
「全光線透過率が68.9%、厚さが48μmであり、測色値のL*の値が87.6、a*の値が-4.6、b*の値が77.8である着色透明フィルムに15.1重量%の酸化チタン、0.7重量%の金属箔を含み、測色値のL*の値が88.6である接着剤層を31μmの厚さで設けた高彩度接着シートであって、
測色値BのL*の値が82.3、a*の値が-3.7、b*の値が76.6である、
高彩度接着シート。」
イ 引用発明2の認定
前記第5、1(8)に摘記した甲1の表1に記載された実施例10及び甲1の特許請求の範囲から次の発明(以下「引用発明2」という。)が認定できる。
「全光線透過率が68.9%、厚さが48μmであり、測色値のL*の値が87.6、a*の値が-4.6、b*の値が77.8である着色透明フィルムに15.0重量%の酸化チタン、0.7重量%の金属箔を含み、測色値のL*の値が83.8である接着剤層を31μmの厚さで設けた高彩度接着シートであって、
測色値BのL*の値が78.1、a*の値が-4.4、b*の値が70.4である、
高彩度接着シート。」
ウ 本件発明1について
(ア)引用発明1との対比
引用発明1の「接着剤層」及び「接着シート」は、本件発明1の「粘着剤層」及び「粘着フィルム」にそれぞれ相当する。
引用発明1の「接着剤層」の「測色値のL*の値」は、本件発明1におけるL1に相当する。
引用発明1の「測色値B」は、その測定方法(上記第5、1(5))を参照すると、接着シートをアルキッドメラミン塗装黒板(日本テストパネル(株)製:以下、単に黒板ともいう)に貼り付けて測定したものであり、測定器としてMacbeth Spectrophotometer Co1or-Eye MS-2020(Kollomorgen Corporation製)を用いて行い、測色値は、標準の光C(標準光源C)について、CIE1976(L*a*b*)色空間により表色したものである。すると、引用発明1の「測色値B」は、引用発明1の「高彩度接着シート」において、実使用状態において正面となる面の色を測定して得たものである。また、アルキッドメラミン塗装黒板(反射率は実質的に0%である)に貼り付けて測定していることから、アルキッドメラミン塗装黒板からの反射光の影響を受けない条件で測定が行われているといえるから、「測色値B」は、引用発明1の「高彩度接着シート」それ自体の色(L*a*b*)を表すものである。
したがって、引用発明1の「測色値BのL*の値」、「a*の値」及び「b*の値」は、本件発明1におけるL2、a2及びb2にそれぞれ相当する。
そうすると、引用発明1における「接着剤層」の「測色値のL*の値」-「測色値BのL*の値」は、88.6-82.3=6.3であると認められる。
(イ)引用発明2との対比
引用発明2の「接着剤層」及び「接着シート」は、本件発明1の「粘着剤層」及び「粘着フィルム」にそれぞれ相当する。
引用発明2の「接着剤層」の「測色値のL*の値」は、本件発明1における「L1」に相当する。
引用発明2の「測色値B」は、その測定方法(上記第5、1(5))を参照すると、接着シートをアルキッドメラミン塗装黒板(日本テストパネル(株)製:以下、単に黒板ともいう)に貼り付けて測定したものであり、測定器としてMacbeth Spectrophotometer Co1or-Eye MS-2020(Kollomorgen Corporation製)を用いて行い、測色値は、標準の光C(標準光源C)について、CIE1976(L*a*b*)色空間により表色したものである。すると、引用発明2の「測色値B」は、引用発明2の「高彩度接着シート」において、実使用状態において正面となる面の色を測定して得たものである。また、アルキッドメラミン塗装黒板(反射率は実質的に0%である)に貼り付けて測定していることから、アルキッドメラミン塗装黒板からの反射光の影響を受けない条件で測定が行われているといえるから、「測色値B」は、引用発明2の「高彩度接着シート」それ自体の色(L*a*b*)を表すものである。
したがって、引用発明2の「測色値BのL*の値」、「a*の値」及び「b*の値」は、本件発明1におけるL2、a2及びb2にそれぞれ相当する。
そうすると、引用発明2における「接着剤層」の「測色値のL*の値」-「測色値BのL*の値」は、83.8-78.1=5.7となる。
(ウ)一致点・相違点
本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点と同じであり、次のとおりである。
a 一致点
本件発明1と引用発明1,2とは「フィルム基材の片面の上に粘着剤層を有する粘着フィルム。」である点で一致する。
b 相違点1
本件発明1は、「壁紙用」と特定されているのに対して、引用発明1、2においては、用途が特定されていない点。
c 相違点2
本件発明1は、「下記式(1)~(3)を満たす」、「-26≦(Ll-L2)≦4・・・(1)
-19.05≦(al-a2)≦10.25・・・(2)
-33.11≦(bl-b2)≦11.34・・・(3)
ここでL1、a1およびb1はそれぞれ、上記粘着フィルムの粘着剤層のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値であり、
L2、a2およびb2はそれぞれ、上記粘着フィルムの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値である。」と特定されているのに対して、引用発明1、2は、そのような特定を備えておらず、さらに、L1-L2の算出値(6.3、5.7)は前記式(1)を充足しない点。
(エ) 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲1には、「本発明の目的は、製造が容易な簡単な構造でありながら、被着体の種類の如何にかかわらず貼着して極めて色鮮やかな高彩度接着シートを提供することにある。」、「本発明は、全光線透過率が10~70%である着色透明フィルムの一面に、5~40重量%の白色顔料及び3重量%以下の金属箔片を含み、全光線透過率が35%以下で且つCIE1976(L*a*b*)色空間に於けるL*の値が80以上の白色度を有する白色接着剤層を被着してなる高彩度接着シートを提供することにより上記目的を達成するものである。」と記載されているとともに、関連する事項について説明する記載がある。
しかし、甲1には、接着剤層のL*a*b*座標におけるa*値およびb*値に着目した記載はなく、高彩度接着シートの実使用状態において正面となる面のL*a*b*座標における明度、a*値およびb*値と、接着剤層のL*a*b*座標におけるL*値、a*値およびb*値の関係に着目した記載もない。
また、申立人が提出した全ての証拠を勘案しても、引用発明1又は引用発明2において、相違点2に係る事項を備えるものとすることを当業者に動機づけるような記載や示唆を見いだせない。
(オ) 小括
以上から、本件発明1は引用発明1又は2、及び、甲1~甲20に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。
エ 本件発明2、3及び5について
本件発明2、3及び5は、本件発明1を直接または間接的に引用しさらに限定した発明であるから、前記ウと同様の理由から、本件発明2、3及び5は、引用発明1又は2、及び、甲1~甲20に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 取消理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~3及び5は、いずれも、引用発明1又は2、及び、甲1~甲20に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではないから、その特許を、申立理由4により取り消すべきものとすることはできない。
4 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由について
特許異議申立の理由は、上記第4のとおりであり、取消理由通知で通知した取消理由は前記2、3のとおりであるから、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由はない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700208