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特許異議申立

2022-700808

反射防止機能及び赤外線遮蔽機能を有する積層フィルム

審判番号
2022-700808
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-234749
登録番号
7022574
請求日
2022年08月16日
審決日
2023年08月14日
公報発行日
2023年11月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】リケンテクノス株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
  • 【権利者代理人】瀬田 寧
  • 【異議申立人】鈴木 雅也
審判長/審判官
  • 審判長 里村 利光
  • 審判官 河原 正
  • 審判官 清水 康司
分類
P1651.121-YAA(G02B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第4号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7022574号発明「反射防止機能及び赤外線遮蔽機能を有する積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7022574号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1~13〕について訂正することを認める。 特許第7022574号の請求項1~13に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7022574号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願(特願2017-234749号)は、平成29年12月7日(優先権主張 平成28年12月27日)に出願され、令和4年2月9日にその特許権の設定の登録がされ、令和4年2月18日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和4年8月16日に、請求項1~9に係る特許に対し、特許異議申立人 鈴木 雅也(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立」という。また、特許異議申立人が証拠として提出した甲第1号証を「甲1」と略し、甲第2号証等についても同様とする。)がされた。 その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和5年 1月12日付け:取消理由通知書 令和5年 2月22日 :特許権者による訂正請求書の提出 令和5年 2月22日 :特許権者による意見書の提出 令和5年 4月27日付け:特許異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和5年2月22付け訂正請求書でなされた訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。 (1) 訂正事項1 請求項1に、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム。」とあるのを、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム: 但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除き、かつ、上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものを除く。」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項3~9についても同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 請求項2に、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮厳層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成され; 建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる; 積層フィルム。」とあるのを、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮厳層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成され; 建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる; 積層フィルム: 但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除く。」に訂正する。 請求項2の記載を引用する請求項3~9についても同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 請求項4に、「可視光線透過率が88%以上である請求項1~3の何れか1項に記載の積層フィルム。」とあるのを、「可視光線透過率が88%以上である請求項3に記載の積層フィルム。」に訂正する。 請求項4の記載を引用する請求項5~9の記載についても同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 請求項7に「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%下である請求項1~6の何れか1項に記載の積層フィルム。」とあるのを、「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である請求項3~6の何れか1項に記載の積層フィルム。」に訂正する。 請求項7の記載を引用する請求項8,9の記載についても同様に訂正する。 (5) 訂正事項5 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルムであって、 可視光線透過率が88%以上である上記積層フィルム。」なる新たな請求項10を追加する。 (6) 訂正事項6 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮厳層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成され; 建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる; 積層フィルムであって、 可視光線透過率が88%以上である上記積層フィルム。」なる新たな請求項11を追加する。 (7) 訂正事項7 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルムであって、 波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である上記積層フィルム。」なる新たな請求項12を追加する。 (8) 訂正事項8 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮厳層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成され; 建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる; 積層フィルムであって、 波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である上記積層フィルム。」なる新たな請求項13を追加する。 2 訂正要件の判断 (1) 訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1による請求項1の訂正は、「上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含む」もの(以下「第1除外事項」という。)と、「上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含む」もの(以下「第2除外事項」という。)とが除かれた、積層フィルムに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 前記アで述べた第1除外事項及び第2除外事項を請求項1から除くことによって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることはないことは明らかであるから、訂正事項1による請求項1の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項1による請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。 エ 請求項3~9についても同様である。 オ 小括 よって、訂正事項1による訂正は、訂正要件を満たす。 (2) 訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2による請求項2の訂正は、「上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含む」もの(以下「第3除外事項」という。)が除かれた、積層フィルムに限定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 前記アで述べた第3除外事項を請求項2から除くことによって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることはないことは明らかであるから、訂正事項2による請求項2の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項2による請求項2の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する エ 請求項3~9についても同様である。 オ 小括 よって、訂正事項2による訂正は、訂正要件を満たす。 (3) 訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6について ア 訂正の目的 訂正事項3は、請求項3の記載を引用する請求項4について、訂正事項1又は訂正事項2による減縮を反映させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、訂正事項5は、請求項1の記載を引用する請求項4について、独立形式の記載に改めて、新たな請求項10とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、訂正事項6は、請求項2の記載を引用する請求項4について、独立形式の記載に改めて、新たな請求項12とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 上記アに照らせば、訂正事項3による請求項4の訂正、訂正事項5による請求項10を追加する訂正及び訂正事項6による請求項11を追加する訂正によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項3による請求項4、訂正事項5による請求項10を追加する訂正及び訂正事項6による請求項11を追加する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 したがって、訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項3による請求項4の訂正、訂正事項5による請求項10を追加する訂正及び訂正事項6による請求項11を追加する訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する エ 請求項5~9についても同様である。 オ 小括 よって、訂正事項3、訂正事項5及び訂正事項6による訂正は、訂正要件を満たす。 (4) 訂正事項4、訂正事項7及び訂正事項8について ア 訂正の目的 訂正事項4は、請求項3~6の記載を引用する請求項7について、訂正事項1、訂正事項2及び訂正事項3による減縮を反映させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、訂正事項7は、請求項1の記載を引用する請求項7について、独立形式の記載に改めて、新たな請求項12とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、訂正事項8は、請求項2の記載を引用する請求項7について、独立形式の記載に改めて、新たな請求項13とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 イ 新規事項追加の有無 上記アに照らせば、訂正事項4による請求項7の訂正、訂正事項7による請求項12を追加する訂正及び訂正事項8による請求項13を追加する訂正によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項が導入されることはないから、訂正事項4による請求項7、訂正事項7による請求項12を追加する訂正及び訂正事項8による請求項13を追加する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 したがって、訂正事項4、訂正事項7及び訂正事項8は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項4による請求項7の訂正、訂正事項7による請求項12を追加する訂正及び訂正事項8による請求項13を追加する訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項4、訂正事項7及び訂正事項8は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する エ 請求項8、9についても同様である。 オ 小括 よって、訂正事項4、訂正事項7及び訂正事項8による訂正は、訂正要件を満たす。 3 まとめ 本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 本件訂正は、上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~請求項13に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明13」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~請求項13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム: 但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除き、かつ、上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものを除く。 【請求項2】 樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮厳層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成され; 建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる; 積層フィルム: 但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除く。 【請求項3】 上記熱線遮蔽層の厚みが0.1~5μmである請求項1又は2に記載の積層フィルム。 【請求項4】 可視光線透過率が88%以上である請求項3に記載の積層フィルム。 【請求項5】 上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)が1.40~1.60である請求項1~4の何れか1項に記載の積層フィルム。 【請求項6】 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)が1.40以上、かつ1.60末満である請求項1~5の何れか1項に記載の積層フィルム。 【請求項7】 波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である請求項3~6の何れか1項に記載の積層フィルム。 【請求項8】 請求項1~7の何れか1項に記載の積層フィルムを含む物品。 【請求項9】 請求項1~7の何れか1項に記載の積層フィルムを含む建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウ。 【請求項10】 樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルムであって、 可視光線透過率が88%以上である上記積層フィルム。 【請求項11】 樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮厳層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成され; 建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる; 積層フィルムであって、 可視光線透過率が88%以上である上記積層フィルム。 【請求項12】 樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルムであって、 波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である上記積層フィルム。 【請求項13】 樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮厳層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成され; 建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる; 積層フィルムであって、 波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である上記積層フィルム。」 第4 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~9に係る特許に対して、当審において、令和5年1月12日付けで特許権者に通知された取消理由(以下、単に「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知」という。)の要旨は、次のとおりである。 ●理由1(進歩性) 本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、優先権主張の基礎とされた先の出願(以下、単に「先の出願」という。)の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という)が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (引用例等一覧) 甲1(引用例1):特開2007-178999号公報 甲9(引用例6):特開2008-18543号公報 甲10(引用例7):特開2008-26492号公報 甲2(引用例5):国際公開第2016/111116号 甲3(引用例2):特開2015-128824号公報 甲4(引用例3):特開2015-101930号公報 甲5(引用例4):特開2013-169713号公報 (甲1、甲9及び甲10が主引用例である。甲2~甲5は、技術常識を例示する文献である。) なお、「引用例1」~「引用例7」は、令和5年1月12日付け取消理由通知書で用いられた略称である。 第5 当審の判断 1 甲9を主引用例とする進歩性について (1) 本件特許発明1について ア 甲9発明 甲9(引用例6)の【0076】~【0079】(特に、14頁10~20行、14頁31~50行、15頁1~5行、同18~24行、15頁39行~16頁5行、16頁14~28行、17頁29~33行、18頁【表2】等)に記載からみて、甲9には、実施例5の「反射防止性フィルム」に係る発明として、次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されているものと認められる。 「(1)ジメチルテレフタレート100質量部、ジメチルイソフタレート100質量部、エチレングリコール30.3質量部、ネオペンチルグリコール150質量部、酢酸亜鉛0.1質量部及び三酸化アンチモン0.1質量部をエステル交換反応容器に仕込み、180℃にコントロールして加熱し4時間反応させ、エステル交換反応を行い、その後、5-ナトリウムスルホイソフタル酸5質量部を添加し、240℃で1時間エステル化反応を行い、次に、250℃まで温度を上げ、系内を1mmHgの減圧にして2時間重縮合反応を行ない、共重合ポリエステル樹脂(A)を得て、 (2)フラスコにイオン交換水300質量部を仕込み、窒素気流下で60℃に加温し、過硫酸アンモニウム0.3質量部及び亜硝酸水素ナトリウム0.3質量部を添加し、その後、メタクリル酸メチル20.2質量部、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン21.2質量部、ポリエチレンオキシドメタクリル酸45.5質量部及びアクリルアミド10.2質量部の混合物を4時間かけて、滴下し、滴下終了後1時間撹拌を継続し、架橋剤(B)の25質量%の水分散体を得て、 (3)前記共重合ポリエステル樹脂(A)の30質量%水分散体を65質量部、前記架橋剤(B)の25質量%水分散体を40質量部及びイオン交換水450質量部を混合し、 接着層を形成する接着剤としての接着剤塗布液を調製し、 アンチモンドープ酸化錫の30質量%メチルエチルケトン分散液(アンチモンドープ酸化錫の平均粒子径98nm)83質量部、多官能アクリレート化合物(6官能のジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと5官能のジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの混合物、平均官能基数5.5、日本化薬(株)製、DPHA)75質量部及びUVラジカル開始剤(イルガキュア184)5質量部を撹拌混合して、ハードコート層塗布液Aを調製し、 パーフルオロ-(1,1,9,9-テトラハイドロ-2,5-ビスフルオロメチル-3,6-ジオキサノネノール)104質量部及びビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイドの8質量%パーフルオロヘキサン溶液11質量部の重合反応により得られるヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテル重合体5質量部、メチルエチルケトン(MEK)43質量部、ピリジン1質量部、及びα-フルオロアクリル酸フルオライド1質量部より重合性二重結合を有する含フッ素反応性重合体溶液(固形分13質量%、α‐フルオロアクリロイル基の導入率40モル%)を調製し、また、中空シリカゾル(イソプロピルアルコールによる中空シリカゾルの25%分散液、平均粒径:60nm)2000質量部、γ-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン70質量部、及び蒸留水80質量部を混合して変性中空シリカ微粒子(ゾル)(平均粒子径:60nm)を調製し、前記含フッ素反応性重合体溶液50質量部と、変性中空シリカ微粒子50質量部と、光重合開始剤(イルガキュア907)2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合して、低屈折率層塗布液Aを調製し、 二軸延伸ポリエステルフィルム(片面に接着膜が設けられているポリエチレンテレフタレートフィルム、厚さ100μm、屈折率1.65)の接着膜のない面に、前記接着剤塗布液をグラビアコート法で塗布して、透明基材フィルムAを作成し、ここで接着層12の厚さは乾燥膜厚で15nmであり、 前記透明基材フィルムAの接着層12上に前記ハードコート層塗布液Aを、乾燥膜厚5μm程度になるようにグラビアコート法で塗布後、硬化させることにより、ハードコートフィルム10を作製し、ここでハードコート層13の屈折率は1.64であり、 作製したハードコートフィルム10のハードコート層13上に低屈折率層塗布液Aを、光学膜厚が110~125nmになるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、硬化させることにより、作成された反射防止性フィルム14であって、 暗室内で3波長蛍光灯を光源としてサンプルを目視したときに、干渉縞の強度の評価結果は、◎:干渉縞が見えない、であり、 光の波長400~800nmの5°、-5°の分光反射スペクトルを測定し、反射率スペクトルより読み取った最小反射率(%)は、0.5%である、 反射防止性フィルム14。」 イ 対比 本件特許発明1と、甲9発明とを対比する。 (ア) 熱線遮蔽材及び熱線遮蔽層 アンチモンドープ酸化錫は、熱線遮蔽(吸収)機能を有する物質であるから(例えば、甲3(引用例2)【0021】、甲4(引用例3)【0020】、甲5(引用例4)【0002】、【0036】、甲2(引用例5)[0019]第4~6行、[0021]等を参照。)、熱線遮蔽材といえる。 してみると、甲9発明の「アンチモンドープ酸化錫」及び「ハードコート層13」は、それぞれ本件特許発明1の「熱線遮蔽材」及び「熱線遮蔽層」に相当する。 (イ) 多官能(メタ)アクリレート及び塗料 甲9発明の「多官能アクリレート化合物」(「DPHA」)は、本件特許発明1の「多官能(メタ)アクリレート」に相当する。 そうすると、甲9発明の「ハードコート層塗布液A」は、本件特許発明1の「塗料」に相当する。 (ウ) 樹脂フィルム、及び、熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf) a 本件特許発明1の「樹脂フィルムの屈折率(Rf)」は、その定義、測定条件につき、特許請求の範囲の請求項1に記載がない。そこで、発明の詳細な説明の記載を参照すると、段落【0019】には、「上記屈折率(Rf)は、JIS K7142:2008のA法に従い、アッベ屈折率計を使用し、ナトリウムD線(波長589.3nm)、接触液は1-ブロモナフタレン、上記樹脂フィルムの上記熱線遮蔽層形成面がプリズムに接する表面、及び上記樹脂フィルムのマシン方向が試験片の長さ方向となる条件で測定した値である。ここで上記屈折率(Rf)は、上記樹脂フィルムが多層フィルムである場合であっても、それを考慮することなく、上述の方法で求める。また上記屈折率(Rf)は、上記樹脂フィルムが、その上記熱線遮蔽層形成面にアンカーコート層などを有する場合であっても、それを考慮することなく(樹脂フィルム上にアンカーコート層などが形成された積層体の全体を樹脂フィルムとみなして)、上述の方法で求める。即ち、上記屈折率(Rf)は、上記熱線遮蔽層が直接積層される面がプリズムに接する面となる条件で測定した値である。」と記載されている。 そうすると、本件特許発明1における「樹脂フィルムの屈折率(Rf)」は、熱線遮蔽層が直接積層される面が(アッベ屈折率計の)プリズムに接する面となる条件で測定した値と理解される。 b ここで、甲9発明においては、「二軸延伸ポリエステルフィルム」(「ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚さ100μm、屈折率1.65」)の接着膜のない面に「接着層12」(「乾燥膜厚」「15nm」)を形成して、作成された「透明基材フィルムA」の「接着層12」上に「ハードコート層13」(「熱線遮蔽層」)が積層された構造を有するから、上記aによれば、甲9発明の、「透明基材フィルムA」が、本件特許発明1の「樹脂フィルム」に相当し、甲9発明の「透明基材フィルムA」の「接着層12」の「二軸延伸ポリエステルフィルム」と反対側の面がプリズムと接する面となる条件で測定した屈折率が、本件特許発明1の「樹脂フィルムの屈折率(Rf)」に相当することになる。 c しかしながら、甲9発明の「接着剤塗布液」の組成、「接着層12」の厚み(15nm)及び「二軸延伸ポリエステルフィルム」の屈折率(1.65)を考慮しても、「透明基材フィルムA」の「接着層12」の「二軸延伸ポリエステルフィルム」と反対側の面がプリズムと接する面となる条件で測定した場合の屈折率(「樹脂フィルムの屈折率(Rf)」)は明らかでない。 そうしてみると、甲9発明の、「ハードコート層13」の屈折率(1.64)(「熱線遮蔽層の屈折率Rh」)と、「透明基材フィルムA」の「接着層12」の「二軸延伸ポリエステルフィルム」と反対側の面がプリズムと接する面となる条件で測定した屈折率(「樹脂フィルムの屈折率Rf」)との差も明らかではないから、甲9発明が、本件特許発明の「上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり」との要件を満たすかは明らかでない。 (エ) 低屈折率層 a 甲9発明の作成工程からみて、甲9発明は、ハードコート層13上に低屈折率層塗布液Aを塗布し、乾燥、硬化して形成された、光学膜厚が110~125nmの「低屈折率層」を有する。 b 上記aで述べた甲9発明の「低屈折率層」は、本件特許発明1の「低屈折率層」に相当する。 (オ) 積層フィルム 上記(ア)~(エ)より、甲9発明の「反射防止性フィルム14」は、本件特許発明1の「積層フィルム」に相当する。 また、甲9発明の「ハードコート層13」及び「低屈折率層」の組成からみて、甲9発明の「反射防止性フィルム14」は、本件特許発明1の、「積層フィルム」の、「但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除き、かつ、上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものを除く」との要件を満足する。 ウ 一致点及び相違点 上記イの対比結果を踏まえると、本件特許発明1と、甲9発明は、「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム: 但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除き、かつ、上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものを除く。」である点において一致し、以下の点で相違する。 (相違点9-1-1) 本件特許発明1においては、「上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であ」るのに対して、甲9発明においては、当該「差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であ」るとはいえない点。 (相違点9-1-2) 本件特許発明1においては、「Rh-RL」「が0.05以上であり」、「RL」「が1.2以上かつ1.4未満」であるのに対して、甲9発明においては、「Rh」は「1.64」であるものの、「RL」が不明である点。 (相違点9-1-3) 「塗料」が「(A)多官能(メタ)アクリレート」及び(B)熱線遮蔽材」を、本件特許発明1においては、それぞれ「100質量部」及び「40~630質量部」「含む」のに対して、甲9発明においては、それぞれ100質量部及び33.2質量部含む点。 エ 判断 相違点9-1-1について検討する。 (ア) 本件特許発明1は、「干渉縞の発生を抑制しつつ、透明基材フィルムに対するハードコート層の密着性を向上させることができるハードコートフィルム、それを用いた反射防止性フィルム及び反射防止性近赤外線遮蔽フィルムを提供する」(【0006】)との課題を解決すべく、「透明基材フィルム上に接着層を介してハードコート層を積層して構成され、前記透明基材フィルムとハードコート層との屈折率の差が0.02以内であり、かつ接着層の膜厚が5~30nm」(【0007】)とすることにより、「第1の発明のハードコートフィルムにおいては、透明基材フィルムとハードコート層との屈折率の差が0.02以内に設定されることから、屈折率差に基づいて生ずる干渉縞を抑えることができ」、「接着層の膜厚が5~30nmという薄い厚さに設定されることから、接着層による干渉縞の発生を避けて透明基材フィルムとハードコート層との間の接着性を高めることができ」るようにすることにより、上記課題を解決するものである。 また、甲9には、透明基材フィルム11の上に設けられる接着層12について、「接着層12は、光学的な悪影響を及ぼすことなく、透明基材フィルム11とハードコート層13との密着性を高める機能を有している。・・・略・・・透明基材フィルム11とハードコート層13との密着性を高めることができる限り、接着剤として任意の屈折率を有する公知の樹脂層が適用可能である。」(【0028】)ことが記載されている。 (イ) 上記(ア)によれば、甲9においては、透明基材フィルムとハードコート層との屈折率の差を0.02以内に設定し、接着層の膜厚を5~30nmという薄い厚さに設定しさえすれば、接着剤の屈折率を考慮する必要はなく、接着剤として任意の屈折率を有する公知の樹脂層を用いることができる。 してみると、甲9に接した当業者が、甲9発明において、厚みが高々15nm程度であって、光学的な影響を及ぼすことのない、もっぱら透明基材フィルム11とハードコート層13との密着性を高めることを目的とした「接着層12」の「屈折率」に敢えて着目し、これを調整、制御して、「ハードコート層13の屈折率」(1.64)-「透明基材フィルムA」の「接着層12」の「二軸延伸ポリエステルフィルム」と反対側の面がプリズムと接する面となる条件で測定した屈折率を-0.01~0.1の範囲内に設定しようとする動機付けはない。 特許異議申立人が提出した甲1~8、10を検討しても同様である。 してみると、甲9発明において、相違点9-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (ウ) 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、「(2)引用例6を主引例とした場合」「(2-1)本件特許発明1」(9頁17行~13頁最下行)において、 「引用発明2においては、接着層を形成するために、共重合ポリエステル樹脂を含む接着剤塗布液を用いている・・・略・・・。一方、基材としては、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いているので、いずれもポリエステル樹脂を用いているので、接着層の屈折率は二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率と同じまたはほぼ同じである。従って、ハードコート層の屈折率とハードコート層形成面となる接着層の屈折率との差は、-0.01またはほぼ-0.01である。」、 「仮に接着層の屈折率が二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率と相違する場合であっても、上記したように干渉縞は、透明基材フィルムとハードコート層の屈折率差によって生じるものであることは本件特許出願時における技術常識であるので、当業者であれば、干渉縞を抑制するために、接着層の屈析率を、二軸延伸ポリエステルフィルムとハードコート層の間の屈折率に設定することは容易に想像できる。この場合、引用発明2における二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率は1.65であり、ハードコート層の屈折率は1.64であるので、接着層の屈折率は1.64~1.65の間となるので、ハードコート層の屈折率とハードコート層形成面となる接着層の屈折率との差は、-0.01~0の間となる。」、 「従って、本件特許明細書の[0019]に記載されている測定方法に従ったとしても、上記いずれの場合にも、本件特許発明1の「上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり;」という点に関しては、引用発明2との相違点とはならないので、本件特許権者の意見書の主張は、失当である。」と主張する。 b しかしながら、ポリエステル樹脂の屈折率は、その材料、組成や、重合の程度、状態に依存して変化する。そうすると、接着剤塗布液に共重合ポリエステル樹脂が含まれるからといって、接着層の屈折率が、二軸延伸ポリエステルフィルムの屈折率(1.65)と同じまたはほぼ同じである、とはいえない。 また、上記イ(ウ)cで述べたとおり、甲9発明において、ハードコート層の屈折率とハードコート層形成面となる接着層の屈折率との差は、-0.01~0.1の範囲となるということはできない。 さらに、干渉縞は、透明基材フィルムとハードコート層の屈折率差によって生じるものであることは、先の出願の出願時における技術常識であるとしても、上記(イ)で述べたように、甲9発明においては、接着剤の屈折率を考慮する必要がないのであるから、甲9に接した当業者にとって、甲9発明において、「干渉縞を抑制するために、接着層の屈析率を、二軸延伸ポリエステルフィルムとハードコート層の間の屈折率に設定する」動機付けはない。 してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 (エ) 以上のとおりであるから、甲9発明において、相違点9-1-1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 オ 小括 相違点9-1-2及び相違点9-1-3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲9に記載された発明及び甲1~8、10に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2) 本件特許発明2について ア 対比 本件特許発明2と、甲9発明との対比は、上記(1)イと同様である。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明2と、甲9発明は、「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート;及び、(B)熱線遮蔽材;を含む塗料を用いて形成される; 積層フィルム: 但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除く。」である点において一致し、相違点9-1-1及び相違点9-1-2に加えて、下記の点でも相違する。 (相違点9-2-3) 本件特許発明2が、「建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる」のに対して、引用発明2は、そのようなものであるか不明である点。 ウ 判断 相違点9-1-1については、上記(1)エで述べたとおりである。 そうすると、甲9発明において、相違点9-1-1に係る本件特許発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 エ 小括 相違点9-1-2及び相違点9-2-3について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲9に記載された発明及び甲1~8、10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 本件特許発明3~9について 本件特許発明3~9は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備する発明であるから、上記(1)エ及び上記(2)ウと同様の理由により、甲9に記載された発明及び甲1~8、10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) 本件特許発明10~本件特許発明13 本件特許発明10~本件特許発明13のいずれかと、甲9発明とを対比すると、少なくとも上記(1)ウで抽出した相違点9-1-1と同じ点で相違する。 そうすると、上記(1)エで述べた理由と同じ理由により、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明10~13は、甲9に記載された発明及び甲1~8、10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 2 甲1を主引用例とする進歩性について (1) 本件特許発明1について ア 甲1発明 甲1の【0056】~【0060】、【0062】【表1】の記載からみて、甲1には、実施例2の「反射防止フィルム」に係る発明(以下「甲1発明」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。 「易接着層2が形成された透明基材フィルム1として、厚さ188μmのPET製透明基材フィルム(屈折率1.65)の一方の面に屈折率1.65、厚さ0.050μmの易接着層が形成されたものを用い、 ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(「A-DPH」)20gをメチルイソブチルケトン20.0gに溶解した溶液に光重合開始剤(「イルガキュア184」)0.8gを混合した後、PTO微粒子(触媒化成社製「ELCOM 1014PTV」、PTO微粒子(平均粒径100nm):20重量%、イソプロピルアルコール/ブチルセロソルブ:80重量%)900gを混合してハードコート層形成用塗布液とし、 このハードコート層形成用塗布液を上記のPET製透明基材フィルムの易接着層上にバーコーターにて約0.1m/秒で塗工し、乾燥後、紫外線照射して、厚さ2μmのハードコート層3を形成し、このハードコート層3のPTO/樹脂=80/20(重量比)であり、屈折率は1.65であり、 次に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10.0gをメチルイソブチルケトン400gに溶解した溶液に光重合開始剤(「イルガキュア184」)0.60gを混合した後、ポーラスシリカ(ポーラスシリカ(平均粒径40nm、屈折率1.35):20重量%、イソプロピルアルコール:80重量%)50gを混合して低屈折率層形成用塗布液とし、 この低屈折率層形成用塗布液を上記のハードコート層上にバーコーターにて約0.1m/秒で塗工し、乾燥後、紫外線照射して、厚さ0.09μm、屈折率1.43の低屈折率層4を形成して得られた反射防止フィルムであって、 干渉縞の評価結果は○(日立製作所社製U-4000形自動分光光度計を用いて反射率を測定し、535~550nmの最大波長と最小波長の差が0.3%未満)である、 反射防止フィルム。」 イ 対比 本件特許発明1と、甲1発明とを対比する。 (ア) 熱線遮蔽材及び熱線遮蔽層 リンドープ酸化スズ(PTO)は、熱線遮蔽(吸収)機能を有する物質であるから(例えば、甲3(引用例2)【0021】、甲4(引用例3)【0020】、甲5(引用例4)【0002】、【0036】、甲2(引用例5)[0019]第4~6行、[0021]等を参照。)、熱線遮蔽材といえる。 そうすると、甲1発明の「PTO微粒子」及び「ハードコート層3」は、それぞれ本件特許発明1の「熱線遮蔽材」及び「熱線遮蔽層」に相当する。 (イ) 多官能(メタ)アクリレート及び塗料 甲1発明の「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、本件特許発明1の「多官能(メタ)アクリレート」に相当する。 そうすると、甲1発明の「ハードコート層形成用塗布液」は、本件特許発明1の「塗料」に相当する。 また、甲1発明においては、「ハードコート層3のPTO/樹脂=80/20(重量比)」であるから、甲1発明は、本件特許発明1の「」上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている」との要件を具備する。 (ウ) 樹脂フィルム、及び、熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf) a 甲1発明の「易接着層2が形成された透明基材フィルム1」は、本件特許発明1の「樹脂フィルム」に相当する。 b 甲1発明の「PET製透明基材フィルム」(厚さ188μm)及び「易接着層」(厚さ0.050μm)の屈折率は、いずれも1.65である。 そうすると、上記(1)イ(ウ)bで述べた、本件特許発明1の「樹脂フィルムの屈折率Rf」の定義、測定方法による、甲1発明の「樹脂フィルムの屈折率Rf」は、1.65である。 また、甲1発明の「ハードコート層3」の屈折率(「熱線遮蔽層の屈折率(Rh)」)も、1.65である。 したがって、甲1発明は、本件特許発明1の、「上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり」との要件を具備する。 (エ) 低屈折率層 a 甲1発明の「低屈折率層4」は、本件特許発明1の「低屈折率層」に相当する。 b 甲1発明の「低屈折率4」の屈折率(「RL」)は1.43、「ハードコート層3」の屈折率(Rh)は1.65であるから、甲1発明は、本件特許発明1の、「熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり」との要件を具備する。 (オ) 積層フィルム a 上記(ア)~(エ)より、甲1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「積層フィルム」に相当する。 b 甲1発明の「ハードコート層3」(「熱線遮蔽層」)は、リンドープ酸化スズ(PTO)微粒子を含む。 そうすると、甲1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「積層フィルム」から除く、とされる、「上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むもの」に相当する(相違点となる)。 ウ 一致点及び相違点 以上の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と、甲1発明は、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1-1-1) 「屈折率(RL)」が、本件特許発明1においては、「1.2以上かつ1.4未満」であるのに対して、甲1発明においては、「1.43」である点。 (相違点1-1-2) 「積層フィルム」が、本件特許発明1においては、「上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除き、かつ、上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものを除く」ものであるのに対して、甲1発明においては、本件特許発明1から除く、とされる、「ハードコート層3」(「熱線遮蔽層」)が、リンドープ酸化スズ(PTO)微粒子を含むものである点。 エ 判断 事案に鑑み、相違点1-1-2について検討する。 (ア) 甲1発明は、従来の反射防止フィルムでは、ハードコート層に配合される(樹脂よりも高価な)導電性金属酸化物微粒子量が多く、高コストとなる、また、導電性金属酸化物微粒子が多く、樹脂が少ないことにより、ハードコート層の硬度(鉛筆硬度)が不足する、欠点があるところ、ハードコート層の樹脂よりも高価な導電性金属酸化物微粒子の配合量を低滅することができ、これにより、低コスト化、高硬度化を図ることができる反射防止フィルム及びディスプレイ用フィルターを提供するという課題を、透明基材フィルム上に、導電性金属酸化物微粒子を含むハードコート層を介して低屈折率層が形成されてなる反射防止フィルムにおいて、前記導電性金属酸化物微粒子をリンドープ酸化スズ微粒子とすることにより、解決したものである。 (イ) そうすると、甲1発明にとって、ハードコート層13のPTO微粒子は、上記課題を解決するために必須の構成といえるから、甲1発明において、ハードコート層13(熱線遮蔽層)がPTO微粒子を含まない構成とすることには、阻害要因がある。 特許異議申立人が提出した甲2~10を考慮しても、同様である。 してみると、甲1発明において、上記相違点1-1-2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (ウ) 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、「(1)引用例1を主引例とした場合」「(1-1)本件特許発明1」(1頁下から2行~4頁5行)において、 「引用例1には、Rh-Rfの値、Rh-RLの値、ハードコート層における樹脂およびPTO微粒子の配合量は開示されている。」、「引用発明1の反射防止フィルム(実施例2)においては、・・・略・・・干渉縞が「○」となっているので、干渉縞が抑制されている。」、 「ここで、・・・略・・・特許異義申立書に詳細に記載したように、反射色ムラの課題は本件特許出願前から当該分野でよく知られている課題にすぎないものである。」、 「従って、本件特許発明1において、たとえ、熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含まないとした場合であっても、引用発明1のリンドープ酸化スズ微粒子を他の導電性金属酸化物粒子に置き換えて、本件特許発明1の如き構成を採用することは、一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択または一定の課題を解決するための均等物による置換に該当するので、訂正によって生じた新たな相違点1-1-2は、設計事項に過ぎない。」と主張する。 b しかしながら、上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、甲1発明の課題は、低コスト化、高硬度化であって、干渉縞や反射ムラの抑制ではなく、甲1発明にとって、ハードコート層13のPTO微粒子は、低コスト化、高硬度化という課題を解決するために必須の構成といえるから、甲1発明において、PTO微粒子を他の導電性金属酸化物粒子に置き換えて、ハードコート層13(熱線遮蔽層)がPTO微粒子を含まない構成とすることには、阻害要因があるといえるから、「一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択または一定の課題を解決するための均等物による置換に該当する」とはいえない。 してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 オ 小括 相違点1-1-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2) 本件特許発明2について 本件特許発明2と、甲1発明とを対比すると、本件特許発明2と、甲1発明は、少なくとも次の点で相違する。 (相違点1-2-3) 「積層フィルム」が、本件特許発明2においては、「上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除く」ものであるのに対して、甲1発明においては、本件特許発明2から除く、とされる、「ハードコート層3」(「熱線遮蔽層」)が、リンドープ酸化スズ(PTO)微粒子を含むものである点。 相違点1-2-3は、相違点1-1-2について上記(1)エで述べたとおりであるから、本件特許発明2は、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 本件特許発明3~9について 本件特許発明3~9は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。 そうすると、上記(1)エ及び上記(2)で述べたとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2が、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明3~9は、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (4) 本件特許発明10について ア 対比 本件特許発明10と、甲1発明との対比は、上記(1)イと同様である。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明10と、甲1発明とは、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム。」である点において一致し、上記相違点1-1-1に加えて、以下の点でも相違する。 (相違点1-10-2) 「積層フィルム」が、本件特許発明10においては、「可視光線透過率が88%以上である」のに対して、甲1発明においては、「可視光線透過率」が不明である点。 ウ 判断 相違点1-10-2について検討する。 (ア) 本件特許発明10の「可視光線透過率」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0077】によれば、「可視光線透過率は、JIS A5759:2008の6.4可視光線透過率試験に準拠し、島津製作所株式会社の分光光度計「SolidSpec-3700(商品名)」を使用して測定した値」である。 (イ) 甲1発明は、低屈折率層4を備える一方、厚さ2μmのハードコート層13に、「PTO微粒子(平均粒径100nm)」を、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート樹脂中に高濃度(PTO微粒子/樹脂(重量比)=80/20)で含む。 そして、樹脂中にPTO微粒子を上記高濃度で含む甲1発明の反射防止フィルムの可視光線透過率(上記(ア)参照)が88%以上である蓋然性が高いとはいえない。そうすると、相違点1-10-2は、実質的な相違点である。 (ウ) そこで、上記実質的な相違点が当業者が容易に想到し得たものといえるかについて検討する。 甲8の[0071]に記載されているように、反射防止フィルムとして可視光線透過率が高いものが好ましいことは技術常識であるものの、甲1発明は、導電性金属酸化物微粒子として「リンドープ酸化スズ微粒子」を採用することによって、可視光線透過率のみならず、低コスト化及び高硬度化という他の目的をも実現した実施例として開示された発明である。そして、甲1発明において、可視光線透過率を特に重視して、「導電性金属酸化物粒子」を他の微粒子に改変するにしても、「リンドープ酸化スズ微粒子」の代替材料として、具体的にどのような微粒子を採用すれば、上記全ての目的をバランスよく実現し得るのかは、上記技術常識のみでは、当業者といえども不明というほかない。 そして、この結論は、特許異議申立人が提出した甲2~10を検討しても同様である。 してみると、甲1発明において、相違点1-10-2に係る本件特許発明10の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。 (エ) 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、同意見書において、反射防止フィルムであれば、高い光透過性が得られるものであって、甲8の「反射防止フィルムは、全光線透過率(JIS K7361-1:1997)が90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。」との記載から、可視光線透過率を88%以上にすることに何ら困難性はない旨主張するが、上記(ウ)で述べたとおりである。 したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 エ 小括 相違点1-1-1について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5) 本件特許発明11について 本件特許発明11と、甲1発明とを対比すると、本件特許発明11と、甲1発明は、少なくとも相違点1-10-2で相違する。 相違点1-10-2については、上記(4)ウで述べたとおりであるから、本件特許発明11は、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6) 本件特許発明12について ア 対比 本件特許発明12と、甲1発明との対比は、上記(1)イと同様である。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明12と、甲1発明とは、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記樹脂フィルムの屈折率(Rf)との差(Rh-Rf)が-0.01~0.1であり; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部;及び、(B)熱線遮蔽材40~630質量部;を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム。」である点において一致し、上記相違点1-1-1に加え、以下の点でも相違する。 (相違点1-12-2) 「積層フィルム」が、本件特許発明12においては、「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である」のに対して、甲1発明においては、「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトル」が不明である点。 ウ 判断 相違点1-12-2について検討する。 (ア) 本件特許発明12の「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトル」及び「反射率が最低になる波長」については、本件特許明細書の【0086】には、 「(ホ)反射色ムラ: 積層フィルムの低屈折率層側の面に、蛍光灯の光を、入射角をいろいろと変えて当てながら目視観察し、以下の基準で評価した。なお以下の基準で評価したとき、○評価のものは、上記試験(二)最低反射率の測定で得たスムージング処理前の反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下であった。△評価のものは、上記反射率差が1.0超、かつ1.5%以下であった。×評価のものは、上記反射率差が1.5超であった。・・・略・・・ 〇:反射色ムラを認めない。 △:反射色ムラを僅かに認める。 ×:反射色ムラを明確に認める。」と記載され、上記「試験(ニ)」について、【0085】には、 「(ニ)最低反射率: 株式会社島津製作所の分光光度計「SolidSpec-3700(商品名)」及び反射ユニット「絶対反射率測定装置入射角5°(商品名)」を使用し、上記分光光度計の説明書に従い、5度正反射(積分球前に反射ユニットを設置する。)の条件で、積層フィルムの上記低屈折率層側の面とは反対側の面の上に黒色粘着シートを貼合したものを試験片として測定した可視光線(波長380~780nm)の反射率のスペクトルを、多項式近似法によりスムージング処理して得たスペクトルから、最も低い反射率を読み取って得た。」と記載されている。 (イ) 一方、甲1発明は、日立製作所社製U-4000形自動分光光度計を用いて測定した反射率の、535~550nmの最大波長と最小波長の差が0.3%未満であり、干渉縞が十分に抑制された(【0063】)ものである。 しかしながら、上記(ア)(【0085】「(ニ)最低反射率」)で述べた「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトル」の測定方法により測定された、甲1発明の反射防止フィルムの波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルがどのような形状となるか不明であり、甲1発明の、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である蓋然性が高いとはいえない。 してみると、相違点1-12-2は実質的な相違点である。 (ウ) そこで、上記実質的な相違点が当業者が容易に想到し得たものといえるかについて検討する。 甲1には、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおける、反射率が最低となる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差に着目し、これを1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下とすることは記載も示唆もされていない。 特許異議申立人が提出した甲2~10にも、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおける、反射率が最低となる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差に着目し、これを1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下とすることは記載も示唆もされておらず、また、このことが、本件先の出願の出願時における技術常識であったことを示す他の証拠もない。 してみると、甲1発明において、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおける、反射率が最低となる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差に着目し、これを1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下とする動機付けはないから、甲1発明において、相違点1-12-2に係る本件特許発明12の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。 (エ) 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、「(1)引用例1を主引例とした場合」「(1-8)本件特許発明12」(9頁1行~10頁6行)において、 「相違点1-12-2に関しては、上記(1-5)の欄で説明した理由と同様の理由から、設計事項であるといえる。」と主張し、 同「(1-5)本件特許発明7」(5頁17行~6頁下から6行)において、「本件特許明細書の[0086]には、以下の記載がある。」、「「なお以下の基準で評価したとき、○評価のものは、上記試験(二)最低反射率の測定で得たスムージング処理前の反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下であった。・・・略・・・○:反射色ムラを認めない。△:反射色ムラを僅かに認める。×:反射色ムラを明確に認める。」」、 「すなわち、本件特許明細書には、反射色ムラが認められないときは、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下であることが記載されている。」、 「一方で、引用発明1においても、引用例1の表1に示されるように干渉縞が抑制されていることが示されているので、当然に本件特許発明7と同様の反射率差を示す蓋然性が高い。」、 「また、特許異議申立書に記載したように、本件特許発明の反射色ムラの課題は、本件特許出願前から当該分野でよく知られている課題にすぎない。」、 「従って、本件特許発明7と引用例1の相違点は、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化または好適化にすぎず、設計事項であるといえる。」と主張する。 b しかしながら、甲1発明において、干渉縞が抑制されているからといって、上記(ア)で述べた定義により測定された波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下であるということはできない。 また、反射色ムラの課題が、本件特許出願前から当該分野でよく知られている課題である(甲6[0003]、甲7[0011]等)としても、甲1~10には、反射色ムラや干渉縞の抑制などの観点から、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおける、反射率が最低となる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差に着目し、これを1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下とすることが記載も示唆もされておらず、また、先の出願の出願時における技術常識であるともいえないことは、上記(ウ)で述べたとおりである。 してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 エ 小括 相違点1-1-1について検討するまでもなく、本件特許発明12は、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7) 本件特許発明13について 本件特許発明13と甲1発明とを対比すると、本件特許発明13と、甲1発明は、少なくとも相違点1-12-2で相違する。 相違点1-12-2については、上記(6)ウで述べたとおりであるから、本件特許発明13は、甲1に記載された発明及び甲2~10に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 甲10を主引用例とする進歩性について (1) 本件特許発明1について ア 甲10発明 甲10の【0004】、【0024】、【0025】(特に、16頁24行~17頁12行)及び【0026】【表1】の記載からみて、甲10には、実施例1の「反射防止フィルム」に係る発明(以下「甲10発明」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。 「活性エネルギー線硬化性化合物としてトリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート[固形分濃度100%]40質量部とペンタエリスリトールトリアクリレート[固形分濃度100%]30質量部とポリエチレングリコールジアクリレート[固形分濃度100%]30質量部とからなる混合物に、光重合開始剤[「イルガキュア907」]2質量部を添加し、次いで近赤外線吸収剤[平均粒径23nmのセシウム含有酸化タングステン(モル比でCs:W:O=0.33:1:3)含有量10質量%懸濁液、全固形分濃度14質量%]270質量部と、イオン性液体[商品名「IL-A5」(カチオン種:下記[化1](5)、アニオン種:(CF3SO2)2N-)、固形分濃度100質量%]10質量部を混合したのち、全体の固形分濃度が30質量%になるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)で希釈して、(A)層用塗工液を調製し、 多官能アクリレート混合物(ポリウレタンアクリレート)[固形分濃度100%]100質量部に、光重合開始剤[「イルガキュア907」]5質量部を添加し、次いで多孔性シリカ粒子のMIBK分散体[商品名「ELCOM RT-1002SIV」、固形分濃度21質量%、多孔性シリカ粒子:比重1.8、屈折率1.30、平均粒径60nm]1200質量部を混合したのち、全体の固形分濃度が2質量%になるようにMIBKで希釈して、(B)層用塗工液を調製し、 基材フィルムとして厚さ100μmの両面易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面に、(A)層用塗工液を硬化後の厚さが6μmになるように塗布し、次いで、乾燥したのち、紫外線を照射して、ハーフキュア状態に硬化させ、 次に、このハーフキュアしたコート表面に、(B)層用塗工液を硬化後の厚さが100nmになるように塗布し、次いで、乾燥したのち、窒素ガス雰囲気下で紫外線を照射して、完全硬化させ、PETフィルム上に、屈折率1.54の近赤外線吸収性ハードコート層及び屈折率1.38の低屈折率層を順次形成させることにより作成した反射防止フィルムであって、 全光線透過率(%)は、71.4であり、800nm、850nm、900nm、1000nm、1100nm及び1200nmの分光透過率(%)は、それぞれ20、15、11,9、8及び6であり、波長800~1200nmの全領域における分光透過率は30%以下であり、500nm、600nm及び700nmの反射率(%)は、それぞれ2.0、1.7及び1.8であり、表面抵抗率(Ω/□)は、5×1012であり、耐擦傷性は、○(スチールウール#0000を使用し、荷重9.8×10-3N/mm2で5往復擦った後に目視観察を行った時、傷が付かない。)である、 反射防止フィルム。 [化1] [図:0001403641000001.jpg] (5) [式(5)中のEは、窒素、硫黄、又はリン原子を表し、R12、R13、R14、およびR15は、それぞれ独立に炭素数1~20の炭化水素基を表し、ヘテロ原子を含んでも良い。但しEが硫黄原子の場合、R15はない。]」 イ 対比 本件特許発明1と、甲10発明とを対比する。 (ア) 熱線遮蔽材及び熱線遮蔽層 近赤外線は熱線に含まれるから、甲10発明の「近赤外線吸収剤」である「セシウム含有酸化タングステン」は、熱線遮蔽材といえる。 そうすると、甲10発明の「セシウム含有酸化タングステン」及び「近赤外線吸収性ハードコート層」((A)層)は、それぞれ本件特許発明1の「熱線遮蔽材」及び「熱線遮蔽層」に相当する。 (イ) 多官能(メタ)アクリレート及び塗料 甲10発明の「トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」及び「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、本件特許発明1の「多官能(メタ)アクリレート」に相当する。 そうすると、甲10発明の「(A)層用塗工液」は、本件特許発明1の「塗料」に相当する。 (ウ) 樹脂フィルム 甲10発明の「両面易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム」は、本件特許発明1の「樹脂フィルム」に相当する。 (エ) 低屈折率層 甲10発明の「低屈折率層」((B)層)は、本件特許発明1の「低屈折率層」に相当する。 甲10発明の「低屈折率層」((B)層)の屈折率は、1.38、「近赤外線吸収性ハードコート層」((A)層)の屈折率は1.54であるから、甲10発明は、本件特許発明1の、「上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり」及び「上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり」との要件を具備する。 (オ) 積層フィルム a 上記(ア)~(エ)より、甲10発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「積層フィルム」に相当する。 b 甲10発明の「近赤外線吸収性ハードコート層」((A)層)の組成からみて、甲10発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「積層フィルム」から除く、とされる、「上記熱線遮蔽層」「が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むもの」に相当する。 ウ 一致点及び相違点 以上の対比結果を踏まえると、本件特許発明1と、甲10発明は、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート:及び、(B)熱線遮蔽材:を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム。」である点において一致し、以下の点で相違する。 (相違点10-1-1) 本件特許発明1においては、「Rh-Rf」が「-0.01~0.1」であるのに対して、甲10発明においては、「両面易接着処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム」の屈折率(「Rf」)が不明である点。 (相違点10-1-2) 「塗料」が「(A)多官能(メタ)アクリレート」及(B)熱線遮蔽材」を、本件特許発明1においては、それぞれ「100質量部」及び「40~630質量部」「含む」のに対して、甲10発明においては、それぞれ100質量部及び27質量部含む点。 (相違点10-1-3) 本件特許発明1においては、「熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除き、かつ、上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものを除く」ものであるのに対して、甲1発明においては、本件特許発明1から、除く、とされる、「近赤外線吸収性ハードコート層」((A)層)(「熱線遮蔽層」)が、上記一般式(1)で表される「イオン性液体」を含むものである点。 エ 判断 相違点10-1-3について検討する。 (ア) 甲10発明は、「近赤外線吸収性能と反射防止性能を有し、かつ耐擦傷性及び帯電防止性に優れる上、層構成が簡単でコストが低く、特にPDP用として好適なウエットプロセス法による反射防止フィルムを提供する(【0003】)という課題を解決すべく、基材フィルムの一方の面に、近赤外線吸収剤を含むハードコート層及び活性エネルギー線照射による硬化樹脂を含む低屈折率層を、それぞれ所定の厚さで順次積層してなり、かつ前記ハードコート層及び/又は低屈折率層にイオン性液体を含有させた積層体であって、波長800~1200nmの全領域における分光透過率が、それぞれある値以下である反射防止フィルムがその目的に適合し得ることを見出し(【0004】)なされたものであって、反射防止フィルムにおいて、基材フィルムの一方の面に、(A)活性エネルギー線照射による硬化樹脂と近赤外線吸収剤を含む厚さ2~20μmのハードコート層、及び(B)活性エネルギー線照射による硬化樹脂を含む、屈折率が1.43以下の厚さ50~200nmの低屈折率層が順次積層し、前記の(A)層及び/又は(B)層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を満たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一でも異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含み、かつ少なくとも波長800~1200nmの全領域における分光透過率が30%以下とすることにより、上記課題を解決したものである。 (イ) そうすると、甲10発明にとって、「近赤外線吸収性ハードコート層」((A)層)のイオン性液体(カチオン種:上記[化1](5)、アニオン種:(CF3SO2)2N-)は、上記課題を解決するために必須の構成といえるから、甲10発明において、「近赤外線吸収性ハードコート層」が当該イオン性液体を含まない構成とすることには、阻害要因があるといえる。 特許異議申立人が提出した甲1~9に記載された技術的事項を考慮しても、同様である。 してみると、甲10発明において、上記相違点10-1-3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に当業者が容易に想到し得たことではない。 (ウ) 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、「(3)引用例7を主引例とした場合」「(3-1)本件特許発明1」(17頁9行~18頁21行)において、 「本件特許発明1から、イオン性液体を除いたとしても、引用発明3には、近赤外線吸収剤としてのセシウム含有酸化タングステンや近赤外線吸収性ハードコート層の屈折率等が示されている。さらに、引用例7の[0017]には、近赤外線吸収剤として、本件特許明細書の実施例で記載されている錫ドープ酸化インジウムやアンチモンドープ酸化錫も記載されている。」、 「従って、本件特許発明1がイオン性液体を除くものであったとしても、相違点3-1-1は、当業者が容易になし得た事項である。」と主張する。 b しかながら、甲10発明において、「近赤外線吸収性ハードコート層」が当該イオン性液体を含まない構成とすることには、阻害要因があり、甲10発明において、上記相違点10-1-3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に当業者が容易に想到し得たことではないことは、上記(イ)で述べたとおりである。 してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 オ 小括 相違点10-1-1及び相違点10-1-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲10に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2について ア 対比 本件特許発明2と、甲10発明との対比は、上記(1)イと同様である。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明2と、甲10発明は、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート:及び、(B)熱線遮蔽材:を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム: 但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除く。」である点において一致し、相違点10-1-1に加えて、以下の点でも相違する。 (相違点10-2-2) 本件特許発明2が、「建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウに用いられる」のに対して、甲10発明は、そのようなものではない点。 ウ 判断 相違点10-2-2について検討する。 (ア) 甲10の技術分野(【0001】(「特にプラズマディスプレイ用として好適な反射防止フィルムに関するものである」こと))、従来技術における問題点(【0002】(特に、PDPにおいては、近赤外線を発生し、近赤外線リモートコントロール装置を使用するビデオデッキなどの電子機器の正常な動作を阻害することから、この近赤外線を極力遮断することが要求されること))、発明が解決しようとする課題(【0003】(特に、「特にPDP用として好適なウエットプロセス法による反射防止フィルムを提供する」こと))の記載からみて、「反射防止性に優れると共に、近赤外線吸収性に優れ、耐擦傷性にも優れており、かつ表面抵抗率が低く、優れた帯電防止性を有」(【0027】)する甲10発明は、PDPに特に適したものであり、PDPから発せられる、近赤外リモートコントロールで利用される波長(900nm等)を含む波長800~1200nmの近赤外線の遮断性を備えるものである。 一方、本件特許発明2の熱線遮蔽層を有する反射防止フィルムの、自動車のウインドウや建築物の窓の用途に適正した特性は、建物内部、自動車内部の温度を上昇させる、太陽光からの800nm~2.5μmの近赤外線を遮蔽する特性である(建築物や車両の窓に求められる近赤外線遮蔽特性については、特開2015-189933号公報の【0002】、特開2014-240907号公報の【0028】~【0030】等を参照。)。 そうすると、甲10発明のPDPに適した近赤外線遮蔽特性と、自動車のウインドウや建築物の窓の用途に適正した反射防止フィルムの近赤外線遮蔽特性とは、その遮蔽しようとする近赤外線の範囲が異なるから、甲10発明は、建築物の窓ガラス、自動車のルーフウインドウ、又は自動車のフロントウインドウの用途に特に適した構成とはいえず、相違点10-2-2は、実質的な相違点である。 そして、反射防止フィルムの適用分野として、建築物の窓ガラスや自動車のウインドウがあることは技術常識であるところ、仮に、甲10発明の反射防止フィルムを自動車のルーフウインドウ、フロントウインドウや建築物の窓に用いることを考え、800~1200nmだけでなく1200~2500nmの近赤外線遮蔽特性も考慮するとしても、上記(1)エで述べたように、「近赤外線吸収性ハードコート層」((A)層)のイオン性液体を、課題(【0003】)を解決するために必須の構成とする甲10発明において、この必須の構成を前提とした上で、近赤外線吸収(遮蔽)性能、耐擦傷性、帯電防止性及び低コストの全てをバランス良く実現できるかは、上記の技術常識のみからは不明というほかない。 そうすると、甲10発明において、相違点10-2-2に係る本件特許発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。 (イ) 特許異議申立書における特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は、特許異議申立書の「ウ-3:甲第10号証を主引例とした場合」「(ウ-3-2)本件特許発明2」(51頁下から6行~52頁3行)において、 「甲第1号証には、反射防止フィルムを含む建築物の窓ガラス、又は自動車の窓ガラスが記載されている。ここで、甲10発明および甲1発明は、いずれも反射防止フィルムに関する発明であるため、技術分野を同一にするものであるから、甲1発明に記載された事項を甲10発明に適用することにつき何ら困難性はない。」と主張する。 b しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、甲10発明において、相違点10-2-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 エ 小括 相違点10-1-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲10に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件特許発明3~9について 本件特許発明3~9は、本件特許発明1又は本件特許発明2の構成を全て具備し、これに限定を加えたものである。 そうすると、上記(1)エ及び上記(2)ウで述べたとおり、本件特許発明1及び本件特許発明2が、甲10に記載された発明及び甲1~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明3~9は、甲10に記載された発明及び甲1~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。 (4)本件特許発明10について ア 対比 本件特許発明10と、甲10発明との対比は、上記(1)イと同様である。 イ 一致及び相違点 本件特許発明10と、甲10発明は、 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート:及び、(B)熱線遮蔽材:を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム。」である点において一致し、相違点10-1-1及び相違点10-1-2に加えて、以下の点でも相違する。 (相違点10-10-3) 「積層フィルム」が、本件特許発明10においては、「可視光線透過率が88%以上である」のに対して、甲10発明においては、「可視光線透過率」が不明である点。 ウ 判断 相違点10-10-3について検討する。 (ア) 反射防止フィルムとして可視光線透過率が高いものが好ましいことは技術常識である。しかしながら、甲10発明は、71.4%の全光線透過率だけでなく、基材フィルムの一方の面に、(A)活性エネルギー線照射による硬化樹脂と近赤外線吸収剤を含む厚さ2~20μmのハードコート層、及び(B)活性エネルギー線照射による硬化樹脂を含む、屈折率が1.43以下の厚さ50~200nmの低屈折率層が順次積層し、(A)層が、イオン性液(カチオン種:上記[化1](5)、アニオン種:((CF3SO2)2N-)を含み、かつ少なくとも波長800~1200nmの全領域における分光透過率が30%以下とする構成を採用することにより、近赤外線吸収性能と反射防止性能を有し、かつ耐擦傷性及び帯電防止性に優れる上、層構成が簡単でコストが低く、特にPDP用として好適なウエットプロセス法による反射防止フィルムを提供するという目的を実現した実施例として具体的に開示された発明である。そして、甲10発明において、可視光線透過率を特に重視して、甲10発明のハードコート層(A)について設計変更を試みるとしても、上記構成を前提とした上で上記の全ての目的をバランス良く実現し得るのかは、上記技術常識のみでは、当業者といえども不明というほかない。 特許異議申立人が提出した甲1~9を検討しても同様である。 してみると、甲10発明において、相違点10-10-3に係る本件特許発明10の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。 (イ) 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は「(3)引用例7を主引例とした場合」「(3-5)本件特許発明10」(20頁12行~21頁17行)において、 「相違点3-10-3に関しては、上記(3-3)の欄で説明した理由と同様の理由から、当業者が容易になし得た事項である。」と主張し、 同「(3-3)本件特許発明4」において、 「引用発明3においては、近赤外線吸収剤として、セシウム含有酸化タングステン(モル比でCs:W:O=0.33:1:3)を用いている(引用例7の[0025]参照)。」、 「ここで、引用例7の[0017]には、以下の記載がある。 「これらの中では、近赤外線の吸収率が高く、かつ可視光線の分光透過率が高いことから、酸化タングステン系化合物が好ましく、特に式(7) Cs0.2~0.4WO3 ・・・(7) で表されるセシウム含有酸化タングステンが好適である。」」、 「さらに、引用例7の比較例1は、イオン性液体を用いなかった例であるが(引用例7の[0025]参照)、全光線透過率は引用発明3より高い値(91.2)となっている(引用例の表1参照)。」、 「すなわち、引用例7には、近赤外線吸収剤として、セシウム含有酸化タングステンを用い、かつイオン性液体を用いなかった場合には、91.2%という高い全光線透過率が得られることが示唆されている。」、 「従って、可視光線透過率を88%以上にすることは、当業者が容易になし得た事項である。」と主張する。 b しかしながら、上記(1)エ(ア)及び(イ)で述べたとおり、甲10発明において、イオン性液体を用いない構成とすることには、阻害要因がある。また、上記(ア)で述べたとおり、甲10発明において、可視光線透過率を88%以上にすることは、当業者が容易になし得た事項とはいえない。 してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 エ 小括 相違点10-1-1及び相違点10-1-2について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲10に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件特許発明11について 本件特許発明11と、甲10発明とを対比すると、本件特許発明11と、甲10発明は、少なくとも相違点10-10-3で相違する。 相違点10-10-3については、上記(4)ウで述べたとおりであるから、本件特許発明11は、甲10に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)本件特許発明12について ア 対比 本件特許発明12と、甲10発明との対比は、上記(1)イと同様である。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明12と、甲10発明は 「樹脂フィルムの少なくとも片面の上に熱線遮蔽層、及び低屈折率層をこの順に有し; 上記熱線遮蔽層の屈折率(Rh)と上記低屈折率層の屈折率(RL)との差(Rh-RL)が0.05以上であり; 上記低屈折率層の屈折率(RL)が1.2以上かつ1.4未満であり; 上記熱線遮蔽層が(A)多官能(メタ)アクリレート:及び、(B)熱線遮蔽材:を含む塗料を用いて形成されている; 積層フィルム。」である点において一致し、相違点10-1-1及び相違点10-1-2に加えて、以下の点でも相違する。 (相違点10-12-3) 「積層フィルム」が、本件特許発明12においては、「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である」のに対して、甲10発明においては、「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトル」が不明である点。 ウ 判断 相違点10-12-3について検討する。 (ア) 甲10発明は、500nm、600nm及び700nmの反射率(%)は、それぞれ2.0、1.7及び1.8である。 しかしながら、上記2(6)ウ(【0085】「(ニ)最低反射率」)で述べた「波長380~780nmの可視光線反射率スペクトル」の測定方法により測定された、甲10発明の反射防止フィルムの波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルがどのような形状となるか不明であり、甲10発明の、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおいて、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下である蓋然性が高いとはいえない。 してみると、相違点10-12-3は実質的な相違点である。 (イ) そこで、上記実質的な相違点が当業者が容易に想到し得たものといえるかについて検討する。 甲10には、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおける、反射率が最低となる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差に着目し、これを1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下とすることは記載も示唆もされていない。 特許異議申立人が提出した甲1~9にも、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおける、反射率が最低となる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差に着目し、これを1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下とすることは記載も示唆もされておらず、また、このことが、先の出願の出願時における技術常識であったことを示す他の証拠もない。 してみると、甲10発明において、波長380~780nmの可視光線反射率スペクトルにおける、反射率が最低となる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差に着目し、これを1.0%以下、又は1.0%超かつ1.5%以下とする動機付けはないから、甲10発明において、相違点10-12-3に係る本件特許発明12の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (ウ) 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の主張について a 特許異議申立人は「(3)引用例7を主引例とした場合」「(3-6)本件特許発明12」(21頁18行~22頁12行)において、 「相違点3-12-3に関しては、上記(3-4)の欄で説明した理由と同様の理由から、設計事項であるといえる。」と主張し、 同「(3-4)本件特許発明7」(19頁下から7行~20頁11行)において、 「本件特許明細書には、反射色ムラが認められないときは、反射率が最低になる波長近辺の波形トップと隣接する波形ボトムの反射率差が1.0%以下であることが記載されている。」、 「引用発明2においても、引用例6の表2に示されているように、干渉縞を抑制できるので、当然に本件特許発明7と同様の反射率差を示す蓋然性が高い。」、 「また、特許異議申立書に記戟したように、本件特許発明の反射色ムラの課類は、本件特許出願前から当該分野でよく知られている課題にすぎない。」、 「従って、本件特許発明7と引用発明3の相違点は、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化または好適化にすぎず、設計事項であるといえる。」と主張する。 b しかしながら、上記(イ)で述べたとおり、甲10発明において、相違点10-12-3に係る本件特許発明12の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるということはできない。 してみると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない エ 小括 相違点10-1-1及び相違点10-1-2について検討するまでもなく、本件特許発明12は、甲10に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7)本件特許発明13について 本件特許発明13と、甲10発明とを対比すると、本件特許発明13と、甲10発明は、少なくとも相違点10-12-3で相違する。 相違点10-12-3については、上記(6)ウで述べたとおりであるから、本件特許発明13は、甲10に記載された発明及び甲2~9に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 令和5年4月27日に提出された意見書における特許異議申立人の明確性要件に係る主張について 特許異議申立人は、同意見書「(4)明確性要件」(22頁13行~23頁7行)において、 「本件特許発明1においては、「但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除き、かつ、上記熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものを除く。」という文言を追加する訂正が行われ、また本件特許発明2においては、「但し、上記熱線遮蔽層が、リンドープ酸化スズ微粒子を含むものを除く。」という文言を追加する訂正が行われた。すなわち、いわゆる除くクレームとする訂正が行われた。」、 「しかしながら、除くクレームとした結果、本件特許発明1、2において、「熱線遮蔽材」という文言はあるものの、熱線遮蔽材として何を含むものであるのか不明確であり、また「低屈折率層」としても何を含むものであるのか不明確である。」、 「また、新設された請求項10~13に関しても、上記と同様の理由から不明確である。」、 「従って、本件特許発明1~13は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるので、本件特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。」と主張する。 しかしながら、いわゆる除くクレームに訂正されたことにより、本件特許発明1に係る積層フィルムから除かれることとなった、(I)熱線遮蔽層がリンドープ酸化スズ微粒子を含むもの、又は、(II)熱線遮蔽層及び/又は低屈折率層が、一般式(1) (Za+)m・(Ab-)n ・・・(1) [式中、Za+はカチオン、Ab-はアニオンを示し、a、b、m及びnは、それぞれ1~3の整数であり、a×m=b×nの関係を滴たす。Za+が複数ある場合、複数のZa+は同一であっても異なっていてもよく、Ab-が複数ある場合、複数のAb-は同一でも異なっていてもよい。] で表されるイオン性液体を含むものは明確である。 そうすると、本件特許発明1から除かれるものが明確であるから、除いた後の技術的範囲もまた明確といえるから、除くクレームとしたからといって、訂正前から存在していた「熱線遮蔽材」及び「低屈折率層」について、「熱線遮蔽材」として何を含むものであるのか不明確になることはなく、「低屈折率層」としても何を含むものであるのか不明確になることもない。 また、「熱線遮蔽材」や「低屈折率層」は、当業者に普通に使用されるものであり、「熱線遮蔽材」や「低屈折率層」にどのようなものが含まれるかは本件明細書の【0053】~【0054】の記載及び技術常識に基づき当業者は明確に把握できる。 本件特許発明2や、請求項1、請求項2の記載を引用する本件特許発明3~9についても同様である。 してみると、本件特許発明1~9は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないということはできない。 また、訂正により新設された請求項10~13は、それぞれ、訂正前の請求項1の記載を引用して記載される請求項4、訂正前の請求項1の記載を引用して記載される請求項7、訂正前の請求項2の記載を引用して記載される請求項4、訂正前の請求項2の記載を引用して記載される請求項7を、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項の形式に改めたものであり、除くクレームとされているわけではない。 そうすると、「新設された請求項10~13に関しても、上記と同様の理由から不明確である。」、「特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるので、本件特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。」との主張は、訂正の請求に付随して生じた記載不備に対してなされたものではなく、本件訂正の請求前から本件特許の請求項4,7に既に記載された事項に関するものであり、特許異議申立書において最初から主張可能なものである。してみると、同意見書における明確性要件にかかる主張のうち、請求項10~13に関する部分は、新たな取消理由として採用することができない。 第7 むすび 本件特許発明1~13は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許発明1~13を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700808

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