特許異議申立
2023-700735
低アモルファス相を有するセラミック-金属基板
- 審判番号
- 2023-700735
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-560775
- 登録番号
- 7208161
- 請求日
- 2023年07月14日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ヘレウス ドイチュラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
- 【権利者代理人】石原 進介
- 【異議申立人】小松 茂夫
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 渡辺 努
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.121-Y (H05K) / P1651.536-Y (H05K) / P1651.537-Y (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7208161号発明「低アモルファス相を有するセラミック-金属基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7208161号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7208161号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、2018年5月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年5月16日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和5年1月10日にその特許権の設定登録がされた(特許掲載公報令和5年1月18日発行)。
本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 7月14日 :特許異議申立人小松茂夫による請求項1~11に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年11月20日付け:取消理由通知書
令和6年 2月15日 :特許権者による意見書の提出
なお、特許権者は、訂正の請求を行っていない。
第2 各請求項に係る発明
本件の請求項1~11に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明11」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、以下のとおりである。
なお、本件特許発明1の記号A~Fは分説するために当審にて付した。以下、「構成A」~「構成F」という。
【請求項1】(本件特許発明1)
A セラミック基板(2)と、当該セラミック基板の少なくとも一側面上にメタライゼーション(3)と、を含むセラミック-金属基板(1)であって、
B 前記セラミック基板(2)が少なくとも1つのスクライブライン(4)及び/又は切断エッジ(8)を有し、
C アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在し、
D 前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆し、
E 前記アモルファス相(5)は、
E1 前記スクライブライン(4)から始まりかつ前記スクライブライン(4)に平行に延びると共に前記スクライブライン(4)のエッジ(6)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大50μmの範囲で延在するか、
又は
E2 前記スクライブライン(4)から始まりかつ前記スクライブライン(4)に平行に延びると共に前記スクライブライン(4)の中心線(7)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大100μmの範囲で延在するか、
又は
E3 前記切断エッジ(8)の内縁(11)から始まりかつ前記切断エッジ(8)に平行に延びると共に前記切断エッジ(8)の内縁(11)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大50μmの範囲で延在するか、
又は
E4 前記切断エッジ(8)の外縁(12)から始まりかつ前記切断エッジ(8)に平行に延びると共に前記切断エッジ(8)の外縁(12)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大100μmの範囲で延在するか、
F であることを特徴とするセラミック-金属基板(1)。
【請求項2】(本件特許発明2)
前記スクライブライン(4)及び/又は切断エッジ(8)は、レーザーアブレーションによって得られることを特徴とする請求項1記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項3】(本件特許発明3)
前記アモルファス相(5)の形成が、レーザーアブレーション中のレーザーの速度及び/又は出力によって制御されることを特徴とする請求項1又は2記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項4】(本件特許発明4)
前記スクライブライン(4)がレーザスクライブラインであり、該レーザスクライブラインの深さは、前記セラミック基板(2)の層厚の5~50%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項5】(本件特許発明5)
前記スクライブライン(4)がレーザスクライブラインであり、該レーザスクライブラインの深さは、前記セラミック基板(2)の層厚の8~45%であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項6】(本件特許発明6)
前記スクライブライン(4)がレーザスクライブラインであり、該レーザスクライブラインの深さは、前記セラミック基板(2)の層厚の10~40%であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項7】(本件特許発明7)
前記スクライブライン(4)がレーザスクライブラインであり、該レーザスクライブラインの深さは、前記セラミック基板(2)の層厚の20~40%であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項8】(本件特許発明8)
前記スクライブライン(4)がレーザスクライブラインであり、該レーザスクライブラインの深さは、前記セラミック基板(2)の平面に垂直に、少なくとも20μmであることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項9】(本件特許発明9)
前記スクライブライン(4)がレーザスクライブラインであり、該レーザスクライブラインの深さは、前記セラミック基板(2)の平面に垂直に、少なくとも30μmであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項10】(本件特許発明10)
前記スクライブライン(4)がレーザスクライブラインであり、該レーザスクライブラインの深さは、前記セラミック基板(2)の平面に垂直に、少なくとも50μmであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)。
【請求項11】(本件特許発明11)
パワーエレクトロニクス用途のための回路キャリアとして請求項1~10のいずれか1項に記載のセラミック-金属基板(1)の使用。
第3 取消理由の概要
請求項1~11に係る特許に対して、当審が令和5年11月20日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 請求項1について
請求項1の「前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆し、」との構成が、【図1】のような構成を除外するのか否かが不明であり、どのような構成を含むのか、あるいは、請求項1でいう「メタライゼーション(3)を被覆せず」とは、メタライゼーション(3)のどの部分を被覆しないことを意味するのかが明確でない。
2 請求項2~11について
請求項2~11は、請求項1を直接若しく間接に引用する請求項であるから、上記1と同様の取消理由がある。
3 まとめ
本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
特許権者が令和6年2月15日に提出した意見書での主張を踏まえて再検討する。
請求項1の「前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆し、」との記載において、「被覆」とは、「おおいかぶせること」である。
つまり、請求項1の「前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず」とは、メタライゼーション(3)にアモルファス相(5)が覆いかぶさっていない構成である。
【図1】に関して、発明の詳細な説明には、以下のように記載されている。(下線は、説明のために当審で付したものである。)
「【0033】
以下に記載される全ての実施形態において、例えば、レーザアブレーションによって形成される溝は、セラミック基板にのみ形成され、セラミック基板上に形成されるメタライゼーションには形成されないことが好ましい。セラミック基板上に形成されたメタライゼーションは、例えば、レーザアブレーションによって形成された溝から凹んでいる。溝の領域におけるメタライゼーションの除去は、例えば、エッチングの前の処理工程によって行われる。その結果、セラミック基板のレーザアブレーションによって作成されたアモルファス相は、本質的にメタライゼーションを被覆せず、セラミック基板のみを被覆する。従って、メタライゼーションにおけるアモルファス相の凸部は本質的に存在しない。」
「【0036】
図1は、スクライブライン4を有するセラミック-金属基板1を示す。セラミック-金属基板1は、セラミック基板2の少なくとも一側部上に適用されたメタライゼーション3を有するセラミック基板2を含む。通常、エッチング処理によって形成される凹部10が、メタライゼーション3に導入される。凹部10は、セラミック基板2まで延びている。スクライブライン4は、セラミック基板2の凹部10の領域に設けられている。スクライブライン4は、セラミック-金属基板1を異なる領域に分割する。セラミック-金属基板1は、スクライブライン4に沿って破断されると考えられる。
【0037】
アモルファス相5は、本発明のコンテクストでは、一般に、レーザアブレーションによって生成されるこのスクライブライン4と本質的に平行に、セラミック基板2の上及び/又は内部に延在する。(以下略)」
[図:0001407847000001.jpg]
すなわち、【図1】の構成においては、まず、エッチング処理によって、メタライゼーション3の一部が除去されて凹部が形成される。(【0033】、【0036】)
次に、レーザアブレーションによってスクライブライン4が生成され、当該スクライブライン4と平行に、セラミック基板2にアモルファス相が延在する。(【0037】)
その際、メタライゼーション3の凹部は、その後にレーザアブレーションによって形成される溝よりも凹んだ位置であるため、レーザアブレーションによって形成される溝は、セラミック基板にのみ形成され、セラミック基板上に形成されるメタライゼーションには形成されない(【0033】)こととなる。つまり、メタライゼーション3に形成された凹部には、アモルファス相5は存在しないこととなる。
そして、【図1】の構成において、セラミック基板(2)におけるアモルファス相(5)の部分とメタライゼーション(3)が接している箇所が存在するものの、当該箇所では、メタライゼーション(3)にアモルファス相(5)が覆いかぶさっているとはいえないので、アモルファス相(5)は、メタライゼーション(3)を被覆しているものではない。
また、メタライゼーション3に形成された凹部には、アモルファス相5は存在しないことから、当該凹部においても、メタライゼーション(3)にアモルファス相(5)が被覆しているものではない。
よって、請求項1の「前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆し、」との構成は、【図1】のような構成を含むこと、メタライゼーション(3)部分にアモルファス相(5)が覆いかぶさっているような構成を除外する構成であると理解することができる。
したがって、請求項1記載の発明は明確であるといえ、請求項2~11についても同様である。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、本件特許発明について、以下のような主張をしている。
ア 理由1(実施可能要件)
「本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
本件特許請求項1は、構成C、Fに記載されているように、「アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在」する「セラミック-金属基板(1)」である。
(中略)
セラミックス基板に対し同じ条件(出力、走査速度など)でレーザー照射を行っても、アモルファス相(中略)の厚さはセラミック基板の種類によって全く異なるものである。にもかかわらず、どのように出力や走査速度を変化させれば、酸化アルミニウムと同様に、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素において同様のアモルファス相の厚さを実現することができるのかが発明の詳細な説明からは不明瞭である。
以上のように、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
(中略)
本件特許の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件特許発明2~11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。」(特許異議申立書3.(4)イ.(ア)及び(イ))
イ 理由2(サポート要件)
「本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。
本件特許請求項1は、構成C、Fに記載されているように、「アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在」する「セラミック-金属基板(1)」である。
(中略)
どのように出力や走査速度を変化させれば、酸化アルミニウムと同様に、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素において同様のアモルファス相の厚さを実現することができるのかが発明の詳細な説明からは不明瞭である。したがって、出願時の技術常識を鑑みても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された「酸化アルミニウム基板」を、かのような構成C,Fの「セラミック-金属基板(1)」についてまで拡張ないし一般化することはできない。その結果、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(中略)
本件特許発明2~11もまた、本件特許発明1と同様に発明の詳細な説明に記載されたものではない。」(特許異議申立書3.(4)イ.(ウ)及び(エ))
ウ 理由3(明確性要件)
「本件特許発明1が明確でない。
本件特許請求項1の構成Cは、「アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在」(下線は申立人による)することを特徴とする。
当該特徴に関し、アモルファス相であるか否かについて、本件特許明細書においてSEM像における見た目の明らかな違いで判断している。(中略)
一方、甲第3号証においては(中略)アモルファスであるか否かを、TEM像を用いて判断している。
(中略)SEM像において見た目が明らかに異なる領域が存在するからと言って必ずしもその場所がアモルファス相であるか否かの境界であるとは言えないものである。
したがって、アモルファス相であるか否かはSEM像の見た目のみでは判断できない。
また、広辞苑第6版によると、「相」とは、次のように記載されている。
(中略)
したがって、上記構成Cに記載の「相」は、すがたやかたち、外見を示すものと考えられる。さすれば、上記構成Cに記載の「相」とはどのような状態のものを指すのかが明確ではない。
(中略)上記構成Cに記載の「アモルファス相」とはどのような状態のものを指すのかが明確ではない。
本件特許明細書の段落0067には、「本発明における幅aの定義はアモルファス相がこの幅aの範囲内にあることを意味すると理解されるべきであり、幅aは、必ずしも、アモルファス相が幅a全体にわたって連続的に延在することを意味すると理解されるべきではない。アモルファス相が幅範囲のどこかにあれば十分である。また、幅aを横切る不連続アモルファス相も本発明に包含される。」(下線は、申立人による)と記載されている。とすれば、一部でも、アモルファス相の幅の数値が規定されていることと延在することとの相関が不明瞭である。
さらには、SEM像での見た目の明らかな違いと、その違いがアモルファス相を表すことの相関について裏付けがない点からも上記構成Cに記載の「アモルファス相」とはどのようなものであるのかが明確ではないし、SEM像での見た目の異なる領域とは、どの程度見た目が異なればよいのかが明確ではない。
本件特許請求項1の構成Cは、「アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在」(下線は申立人による)することを特徴とする。
当該特徴に関し、「延在」は、「延びて存在すること」(特許技術用語集-3版-、日刊工業新聞社、平成18年8月31日発行。乙1)との意味を有するものである。
(中略)
本件特許請求項1に係る発明は、どの程度長く広がったスクライブラインを有しているのか明確ではない。
さらに(中略)アモルファス相の厚みが非対称であった場合には、○1(申立書では、○の中に1)片方でもアモルファス相の厚みが条件を満たしていればよいのか、○2(申立書では、○の中に2)いずれもアモルファス相の厚みの条件を満たさなければならないのかが本件特許請求項1の記載からは明確ではない。
本件特許請求項1の構成Cは、「前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆」(下線は申立人による)することを特徴とする。
当該特徴に関し、「メタライゼーション(3)を被覆せず」とはどのような状態を指すのかが本件特許請求項1では明らかではない。さらには、本件特許明細書を参酌しても、メタライゼーションを被覆しているか否かを判断する方法について何ら記載がない。とすれば、どのような観測・測定方法を用いればメタライゼーションを被覆しているか否かを区別できるのかについても不明瞭である。
(中略)セラミック由来によって生成した金属アルミニウムもメタライゼーションとするのか否かが明確ではない。つづいて、仮にメタライゼーションが前述のようなセラミックス由来の金属成分を含まない場合について考える。セラミックスが窒化アルミニウムで金属板がアルミニウムであって場合、観測される金属アルミニウムがセラミックス由来であったのか金属板由来であったのか区別することができない。したがって上記観点においても本発明のメタライゼーションはどのようなものであるのかが明確ではない。
(中略)
本件特許発明2~11もまた明確ではない。
また、本件特許請求項3に記載の「出力」に関し、本件特許明細書では、エネルギー密度に関して制御していることがわかるが、その他を含むものであるのか否かが不明瞭である。(中略)前記内容を考慮すると出力とはどのようなものを指すのか、単なる加工エネルギーを含むのか否かが明確ではないため、本件特許発明3及びそれを引用する請求項に係る発明4~11は明確ではない。」(特許異議申立書3.(4)イ.(オ)及び(カ))
エ 理由4(進歩性)
進歩性に関する特許異議申立人の主張(特許異議申立書3.(4)エ.(ア)~(ク)))をまとめると、以下のとおりである。
本件特許発明1は、甲1発明及び甲2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明2は、甲1発明と甲2ないし甲4記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3は、甲1発明と甲2及び甲3記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明4~11は、甲1発明と甲2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第1号証:特開2016-195244号公報
甲第2号証:Laser Machining of Structural Ceramics: Computational and Experimental Analysis
甲第3号証:Enhanced Extraction Efficiency of InGaN-Based Light-Emitting Diodes Using 100-kHz Femtosecond-Laser-Scribing Technology
甲第4号証:絵とき「レーザ加工」基礎のきそ
なお、甲第5号証(特開2000-82763号公報)は、明確性違反を説明するために提出された文献である。
(2)特許異議申立人の申立理由についての検討
ア 理由1(実施可能要件)について
特許異議申立人が主張するように、セラミック基板の種類が異なることにより、同じ条件でレーザー照射を行っても、アモルファス相の厚さが異なることがいえるかもしれない。
しかし、発明の詳細な説明の【0096】~【0120】には、レーザー照射の条件として、レーザーの種類、パルス持続時間、パルスエネルギー、出力、加工速度、スポット径、周波数に関する具体的な数値の記載があり、当該記載の範囲内でレーザー照射を行うことにより、本件特許発明1で限定されたアモルファス相の厚さとすることは当業者であれば実施可能であるといえる。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
また、本件特許発明2~11についても同様である。
よって、理由1(実施可能要件)についての特許異議申立人の主張を採用することはできない。
イ 理由2(サポート要件)について
本件特許掲載公報の【0078】、【0079】には、セラミック基板として、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が挙げられており、発明の詳細な説明の【0096】~【0120】には、レーザー照射の条件として、レーザーの種類、パルス持続時間、パルスエネルギー、出力、加工速度、スポット径、周波数に関する具体的な数値の記載があることから、当該記載の範囲内でレーザー照射を行うことにより、「酸化アルミニウム基板」だけでなく、「セラミック-金属基板(1)」まで拡張ないし一般化した基板を作製できるといえ、本件特許発明1~11は発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、理由2(サポート要件)についての特許異議申立人の主張を採用することはできない。
ウ 理由3(明確性要件)について
(ア)特許異議申立人の主張は、以下の主張に分けられる。
a 「アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在」する構成(構成C)に関して
(a)アモルファス相であるか否かについて、本件特許明細書においてSEM像における見た目の明らかな違いで判断しているが、アモルファス相であるか否かはSEM像の見た目のみでは判断できない。(以下、「主張1」という。)
(b)「相」とはどのような状態のものを指すのかが明確ではない。(以下、「主張2」という。)
(c)「アモルファス相」とはどのような状態のものを指すのかが明確ではない。(以下、「主張3」という。)
(d)一部でも、アモルファス相の幅の数値が規定されていることと延在することとの相関が不明瞭である。(以下、「主張4」という。)
(e)SEM像での見た目の明らかな違いと、その違いがアモルファス相を表すことの相関について裏付けがなく、「アモルファス相」とはどのようなものであるのかが明確でなく、SEM像での見た目の異なる領域とは、どの程度見た目が異なればよいのかが明確ではない。(以下、「主張5」という。)
(f)「延在」は、「延びて存在すること」であるが、本件特許請求項1に係る発明は、どの程度長く広がったスクライブラインを有しているのか明確ではない。(以下、「主張6」という。)
(g)アモルファス相の厚みが非対称であった場合には、片方でもアモルファス相の厚みが条件を満たしていればよいのか、いずれもアモルファス相の厚みの条件を満たさなければならないのかが本件特許請求項1の記載からは明確ではない。(以下、「主張7」という。)
b 「前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆」する構成(構成D)に関して
(a)「メタライゼーション(3)を被覆せず」とはどのような状態を指すのかが本件特許請求項1では明らかではない。(以下、「主張8」という。)
(b)どのような観測・測定方法を用いればメタライゼーションを被覆しているか否かを区別できるのかについて不明瞭である。(以下、「主張9」という。)
(c)セラミック由来によって生成した金属アルミニウムもメタライゼーションとするのか否かが明確ではない。(以下、「主張10」という。)
(d)セラミックスが窒化アルミニウムで金属板がアルミニウムであった場合、観測される金属アルミニウムがセラミックス由来であったのか金属板由来であったのか区別することができず、本発明のメタライゼーションはどのようなものであるのかが明確ではない。(以下、「主張11」という。)
c 請求項3の「出力」に関して
出力とはどのようなものを指すのか、単なる加工エネルギーを含むのか否かが明確ではない。(以下、「主張12」という。)
(イ)主張1~主張12について検討する。
a 主張1~主張7について
特許異議申立人は、主張1~主張7を主張することにより、構成Cを含む本件特許発明1が明確でないことを主張しているものである。
(a)主張1について
本件特許発明1は、アモルファス相の幅をSEM像における見た目の違いで判断することを限定した発明ではなく、主張1は、構成Cが明確であるか否かに関する主張ではない。
よって、主張1を採用することはできない。
(b)主張2、3について
「相」、「アモルファス相」に関して、特許異議申立人は、広辞苑第6版の記載を根拠として明確でない旨の主張をしているものであるが、当該広辞苑第6版には、「相」について、特許異議申立人が摘記した記載以外に、以下のような記載がある。
〔理〕(phase)物質系の一部がその内部で物理的・化学的に全く同一性質を示す時、その部分が同じ相にあるという。
また、大辞林には、「相」について以下のように記載されている。
〔phase〕物質系の中で,状態が均一でかつ明確な境界をもち,他と区別される領域。
以上の記載から、「相」は、状態が均一でかつ明確な境界をもち,他と区別される領域の状態を指し、「アモルファス相」は、アモルファスの領域と他の領域との境界が明確であり、区別できる状態を指すものであって、「相」、「アモルファス相」は、いずれもどのような状態のものを指すのかが明確である。
よって、主張2、3を採用することはできない。
(c)主張4について
本件特許掲載公報の【0067】の記載より、幅aの範囲内において、アモルファス相が延在するように存在すればよく、「幅aの範囲で延在」するとの記載は明確である。
よって、主張4を採用することはできない。
(d)主張5について
本件特許発明1は、SEM像での見た目の明らかな違いについて限定した発明ではなく、SEM像での見た目の明らかな違いと、その違いがアモルファス相を表すことの相関について裏付けがないこと、SEM像での見た目の異なる領域とは、どの程度見た目が異なればよいのかが明確ではないことについての主張は、構成Cが明確であるか否かに関する主張ではない。
また、「アモルファス相」とはどのようなものであるのかが明確でないとの主張については、上記(b)で検討したとおりであり、採用することはできない。
よって、主張5を採用することはできない。
(e)主張6について
スクライブラインは、破断に必要な長さであれば良く、どの程度長く広がっているかについての限定がないことをもって、構成Cが明確でないということはできない。
よって、主張6を採用することはできない。
(f)主張7について
アモルファス相の厚みが対称であるか否かに関わらず、アモルファス相(5)が幅aの範囲であればよいのであって、アモルファス相の幅に関する構成Cの記載は明確である。
よって、主張7を採用することはできない。
以上のように、主張1~主張7を採用することはできず、「アモルファス相(5)が、スクライブライン(4)及び/又は切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在し、」との記載(構成C)は、明確である。
b 主張8~主張11について
特許異議申立人は、主張8~主張11を主張することにより、構成Dを含む本件特許発明1が明確でないことを主張しているものである。
(a)主張8について
主張8については、取消理由通知に記載した取消理由と同様であり、上記1で検討したとおりである。
(b)主張9について
メタライゼーションを被覆しているか否かがわかるような観測・測定方法であれば良いものであって、観測・測定方法を限定しなくても、「メタライゼーション(3)を被覆せず」との記載は明確である。
以上より、主張9を採用することはできない。
(c)主張10、11について
発明の詳細な説明の【0033】に「セラミック基板上に形成されるメタライゼーションには形成されないことが好ましい。」と記載されているように、メタライゼーションとは、セラミック基板上に形成されるものであって、「メタライゼーション」とはどのようなものであるかは明確であり、「メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆」する構成Dは明確である。
なお、セラミック由来によって生成した金属アルミニウムもメタライゼーションとするのか否かとの主張(主張10)や、セラミックスが窒化アルミニウムで金属板がアルミニウムであった場合、観測される金属アルミニウムがセラミックス由来であったのか金属板由来であったのか区別することができない(主張11)との主張は、構成Dが明確であるか否かとは関係がない主張である。
よって、主張10、11を採用することはできない。
c 主張12について
請求項3では、「出力」についての限定はないものの、発明の詳細な説明の【0099】に、出力に関しての様々な例が開示されているように、「出力」として様々なものを想定すれば良く、「出力」の限定がないことをもって、本件特許発明3が明確でないということはできない。
よって、主張12を採用することはできない。
以上のとおり、理由3(明確性要件)についての特許異議申立人の主張はいずれも採用することができない。
エ 理由4(進歩性)について
(ア)各甲号証について
a 甲第1号証(特開2016-195244号公報)
(a)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下のような記載がある。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化珪素系セラミックス集合基板の製造方法において、前記辺ブレークライン及び前記角ブレークラインをファイバレーザにより形成することを特徴とする窒化珪素系セラミックス集合基板の製造方法。
【0031】
(2) 角ブレークラインの形成
窒化珪素系セラミックス焼結基板1を窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16とに分割する際に、窒化珪素系セラミックス集合基板12の四隅に亀裂や欠けが生じるのを防止するために、隣接する辺ブレークライン13の各交点15の近傍に、辺ブレークライン13の両方と交差する各角ブレークライン14を形成する。各角ブレークライン14は窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通するスリットである。スリット状の角ブレークライン14を基板に形成することより、窒化珪素系セラミックス集合基板12の四隅での応力集中が緩和される。
【0047】
実施例1
95質量%の窒化珪素粉末、2質量%のMgO粉末、及び3質量%のY2O3粉末からなるセラミック成分100質量部に対して、バインダ樹脂成分を質量部で20%含有するシート状成形体を最高温度1850℃で5時間焼結し、厚さ0.32 mmで、縦150 mm及び横200 mmの矩形状の窒化珪素系セラミックス焼結基板1を作製した。ファイバレーザ(波長:1.06μm、出力100W、発振周波数:50 kHz)を用いて、窒化珪素系セラミックス焼結基板1の外縁部10の内側に幅35μm及び深さ120μmの4本の辺ブレークライン13を形成した。辺マージン部16の幅は窒化珪素系セラミックス焼結基板の長手方向で5 mm、窒化珪素系セラミックス焼結基板の短手方向で6mmとした。さらに、同じファイバレーザを用いて以下の条件でスリット状の角ブレークライン14を形成した。
ファイバレーザビームスポットの直径:35μm
ビームスポットの走査速度:200 mm/s
ビームスポットの照射ピッチ:4μm
ビームスポットの走査回数:10回
角ブレークラインの幅:35μm
角ブレークラインの全長:4.2 mm
角ブレークラインの進出長さL1:0.7 mm
角ブレークラインの辺ブレークラインに対する交差角:45°
【0048】
窒化珪素系セラミックス焼結基板1を各辺ブレークライン13に沿って折り、面取り部22を有する窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16及び角マージン部17とに分割した。角マージン部17は辺マージン部16に付着した状態で分離され、別個の端材にならなかった。上記の分離作業の後、アルミナ砥粒を用いた湿式ブラスト処理により、窒化珪素系セラミックス集合基板12の表面および裏面のクリーニングと表面粗さ調整を行った。
【0050】
窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面にろう材ペーストをスクリーン印刷法で塗布した。ろう材は、70質量%のAg、3質量%のIn、及び27質量%のCuからなる合金粉末(合計100質量部)に対して、0.3質量部のTiH2を添加し、さらに有機溶剤とバインダー成分を添加したペーストであった。ろう材を乾燥した後、窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に厚さ0.3 mmの第一及び第二の銅板を配置し、真空中で加圧しながら800℃で20分間加熱し、窒化珪素系セラミックス集合基板12に第一及び第二の銅板を接合した。接合後のろう材層の厚さは約30μmであった。
【図1】
[図:0001407847000002.jpg]
【図4(a)】
[図:0001407847000003.jpg]
【図5(a)】
[図:0001407847000004.jpg]
【図5(b)】
[図:0001407847000005.jpg]
(b)甲1発明
(b-1)【0050】の記載から、窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に第一及び第二の銅板を配置し接合した構成が記載されている。
(b-2)【請求項2】、【0047】の記載から、窒化珪素系セラミックス集合基板は、ファイバレーザにより形成された辺ブレークライン及び角ブレークラインを有している。
(b-3)【0048】の記載から、辺ブレークラインは、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を折るためのものである。
(b-4)【0031】、【図4(a)】の記載から、角ブレークラインは、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通するスリットである。
(b-5)【0047】、【0048】、【0050】の記載から、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を作製し、辺ブレークライン及び角ブレークラインを形成し、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を各辺ブレークラインに沿って折り、面取り部22を有する窒化珪素系セラミックス集合基板12と辺マージン部16及び角マージン部17とに分割し、窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に第一及び第二の銅板を接合するものである。
また、【図5(a)】、【図5(b)】をみると、辺ブレークライン及び角ブレークラインよりも内側に第一及び第二の銅板が配置されていることが見て取れる。
そうすると、辺ブレークライン及び角ブレークラインは、窒化珪素系セラミックス集合基板に形成されており、第一及び第二の銅板には形成されないものであるといえる。
上記(b-1)~(b-5)をまとめると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
(甲1発明)
窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に第一及び第二の銅板を配置し接合した構成であって、
窒化珪素系セラミックス集合基板12は、ファイバレーザにより形成された辺ブレークライン及び角ブレークラインを有し、
辺ブレークラインは、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を折るためのものであり、
角ブレークラインは、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通するスリットであり、
辺ブレークライン及び角ブレークラインは、窒化珪素系セラミックス集合基板12に形成されており、第一及び第二の銅板には形成されないものである構成。
b 甲第2号証(Laser Machining of Structural Ceramics: Computational and Experimental Analysis)
(a)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下のような記載がある。なお、訳については、特許異議申立人が提出した訳を参考にした。
[図:0001407847000006.jpg]
[図:0001407847000007.jpg]
[図:0001407847000008.jpg]
[図:0001407847000009.jpg]
(90~93頁)
(訳)
寸法25.4mm×25.4mm×4.5mmの破片は、緻密なAl2O3、Si3N4、SiC、MgOから製造された。JK701パルスNd:YAGレーザ(波長1.06μm)を使用して、p 0.5ms、f 20Hz、e 4Jのレーザビームを、80psi(5.5bar)の圧力でカバーガスとして空気を使用しながら、5in/min(2.11mm/s)、10in/min(4.23mm/s)、12in/min(5.08mm/s)、15in/min(6.35mm/s)で1回通過させて、これらのセラミックを機械加工(切断)した。これらの速度は、破損のない合理的な切断のために過去の経験に基づいて選択されており、この研究は、残りのレーザ加工パラメータを適切に組み合わせて、任意の希望の加工速度に拡張できる。(中略)
これらの加工条件下で各セラミックの3つの試験片が機械加工され、さらなる分析に使用された。試験片はランダムな順序(最初の試験片で2.11、5.08、4.23、6.35mm/s、続いて2番目の試験片で5.08、6.35、2.11、4.23mm/s、そして3番目の試験片で4.23、2.11、6.35、5.08mm/s)で処理され、(中略)
機械加工された試験片がImageJ(商標)のソフトウェアによって各試験片の3つの異なる位置で断面図(図4.1)から切り込みの深さを測定するために断面化され、平均値が各加工条件についてレポートされた。表面はHitachi S4300N SEMによって特性評価され、これらのSEM画像は図4.1の挿入図に示されている。(後略)
(b)甲2技術
上記(a)より、甲第2号証には、以下の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。
(甲2技術)
Al2O3、Si3N4、SiC、MgOから製造された破片は、YAGレーザを使用して、レーザビームを1回通過させ、機械加工(切断)することにより製造され、
図4.1の挿入図に示されているようなSEM画像のものとなる技術。
c 甲第3号証(Enhanced Extraction Efficiency of InGaN-Based Light-Emitting Diodes Using 100-kHz Femtosecond-Laser-Scribing Technology)の記載事項
甲第3号証には、以下のような記載がある。なお、訳については、特許異議申立人が提出した訳を参考にした。
[図:0001407847000010.jpg]
[図:0001407847000011.jpg]
[図:0001407847000012.jpg]
[図:0001407847000013.jpg]
(213頁右欄~215頁左欄)
(訳)
(前略)レーザスクライビング後のサファイア基板の表面状態を評価するために、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、制限視野電子回折パターン(SADP)を使用して測定した。
(中略)レーザがウェハーに当たると、レーザ出力によって発生した熱が集束レーザビームスポット付近の温度を大幅に上昇させ、局所的にサファイア基板を溶かし、さらにパルス持続時間中に材料中に拡散する。(中略)アブレーションプロセス中に、蒸発したサファイアは通常、50μmよりはるかに大きな寸法の試験片や粒子を表面に生成する。図1(c)と(d)は、基板をスクライビングして分離した後のサファイアの断面光学画像とSEM画像を示している。かなりの量のサファイア液滴が残り、側壁に強く結合する。(中略)
図3は、ナノ秒レーザスクライビングを使用して準備され、集束イオンビーム(FIB)リフトアウト技術を使用して空気にさらされたサンプルのTEM画像とSADP画像を示している。損傷領域近くのサファイア基板の回折パターンは、多結晶相及び/又はアモルファス相の組み合わせを示しますが、レーザによる損傷領域から遠く離れた回折パターンは依然として単結晶層を維持している。(後略)
d 甲第4号証(絵とき「レーザ加工」基礎のきそ)の記載事項
甲第4号証には、以下のような記載がある。
なお、アブレーションは一般にパルス幅がピコ秒、フェムト秒の場合に起こる現象ですが、高分子材料で、結合エネルギーより光子エネルギーが大きい場合には、必ずしも超短パルスでなくてもナノ秒の紫外線短パルスレーザでアブレーション現象は起こります。(98頁)
e 甲第5号証(特開2000-82763号公報)の記載事項
甲第5号証には、以下のような記載がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】このような窒化アルミニウム基板表面に加工部を高密度エネルギー法により形成すると、高密度エネルギーにさらされた被処理表面近くに金属アルミニウムの析出が発見された。(後略)
(イ)本件特許発明1について
特許異議申立人は、本件特許発明1について、甲1発明及び甲2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張しているので、この点について以下で検討する。
a 本件特許発明1と甲1発明との対比
(a)構成A、Fについて
甲1発明の「窒化珪素系セラミックス集合基板12」は、本件特許発明1の「セラミック基板(2)」に相当する。
甲1発明の「銅板」は、窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に配置し接合したものであるから、本件特許発明1の「当該セラミック基板の少なくとも一側面上にメタライゼーション(3)」に相当する。
甲1発明の「窒化珪素系セラミックス集合基板12の両面に第一及び第二の銅板を配置し接合した構成」は、セラミック(窒化珪素系セラミックス集合基板12)と金属(銅板)からなる基板といえるから、本件特許発明1の「セラミック-金属基板(1)」に相当する。
以上より、甲1発明は、本件特許発明1の構成A、Fに相当する構成を有している。
(b)構成Bについて
甲1発明の「辺ブレークライン」は、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を折るためのものであるから、破断するためのラインといえる。また、「角ブレークライン」は、窒化珪素系セラミックス焼結基板1を貫通するスリットであり、切断されるラインであるといえる。
そうすると、甲1発明の「辺ブレークライン」、「角ブレークライン」は、それぞれ、本件特許発明1の「スクライブライン(4)」、「切断エッジ(8)」に相当する。
以上より、甲1発明は、本件特許発明1の構成Bに相当する構成を有している。
(c)構成Cについて
アモルファス相の形成に関して、本件特許掲載公報の【背景技術】の項には以下のような記載がある。
【0007】
レーザアブレーションの両方の場合において、セラミック基板は、レーザビーム及び関連する熱エネルギーの導入によって溶融される。これにより、セラミック材料にスクライブラインに沿って、又はスクライブもしくは切断により生じたエッジ(以下、切断エッジと称する)に沿って、アモルファス相が形成される。
すなわち、セラミック基板に対して、レーザによりスクライブラインもしくは切断エッジを形成すると、スクライブラインもしくは切断エッジに沿ってアモルファス相が形成されることといえる。
そうすると、甲1発明の窒化珪素系セラミックス集合基板においても、ファイバレーザにより形成された辺ブレークライン及び角ブレークラインに沿ってアモルファス相が形成されるものといえる。
よって、本件特許発明1と甲1発明とは、「アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に」存在する点で共通する。
しかし、本件特許発明1は、アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在することを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
(d)構成Dについて
甲1発明は、「辺ブレークライン及び角ブレークラインは、窒化珪素系セラミックス集合基板に形成されており、第一及び第二の銅板には形成されないものである」。
上記(c)で検討したように、甲1発明においても、辺ブレークライン及び角ブレークラインに沿ってアモルファス相が形成されるといえることから、当該アモルファス相は、窒化珪素系セラミックス集合基板に形成され、銅板には形成されないものといえる。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の構成Dのように「前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆」する構成であるといえる。
(e)構成E~E4について
本件特許発明1は、
「前記アモルファス相(5)は、
前記スクライブライン(4)から始まりかつ前記スクライブライン(4)に平行に延びると共に前記スクライブライン(4)のエッジ(6)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大50μmの範囲で延在するか、
又は
前記スクライブライン(4)から始まりかつ前記スクライブライン(4)に平行に延びると共に前記スクライブライン(4)の中心線(7)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大100μmの範囲で延在するか、
又は
前記切断エッジ(8)の内縁(11)から始まりかつ前記切断エッジ(8)に平行に延びると共に前記切断エッジ(8)の内縁(11)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大50μmの範囲で延在するか、
又は
前記切断エッジ(8)の外縁(12)から始まりかつ前記切断エッジ(8)に平行に延びると共に前記切断エッジ(8)の外縁(12)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大100μmの範囲で延在するか」であることを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点で相違する。
b 一致点・相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明との一致点・相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
セラミック基板(2)と、当該セラミック基板の少なくとも一側面上にメタライゼーション(3)と、を含むセラミック-金属基板(1)であって、
前記セラミック基板(2)が少なくとも1つのスクライブライン(4)及び/又は切断エッジ(8)を有し、
アモルファス相(5)が、前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に存在し、
前記アモルファス相(5)が、メタライゼーション(3)を被覆せず、前記セラミック基板(2)のみを被覆する、
ことを特徴とするセラミック-金属基板(1)。
(相違点)
前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に存在するアモルファス相に関して、本件特許発明1は、
「前記スクライブライン(4)及び/又は前記切断エッジ(8)に平行に幅aの範囲で延在し、」
「前記スクライブライン(4)から始まりかつ前記スクライブライン(4)に平行に延びると共に前記スクライブライン(4)のエッジ(6)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大50μmの範囲で延在するか、
又は
前記スクライブライン(4)から始まりかつ前記スクライブライン(4)に平行に延びると共に前記スクライブライン(4)の中心線(7)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大100μmの範囲で延在するか、
又は
前記切断エッジ(8)の内縁(11)から始まりかつ前記切断エッジ(8)に平行に延びると共に前記切断エッジ(8)の内縁(11)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大50μmの範囲で延在するか、
又は
前記切断エッジ(8)の外縁(12)から始まりかつ前記切断エッジ8)に平行に延びると共に前記切断エッジ(8)の外縁(12)から計算される幅aが少なくとも20μm且つ最大100μmの範囲で延在する」ことを特定するのに対し、甲1発明は、そのような特定を有していない点。
c 検討
上記相違点について検討する。
甲2技術は、セラミックをファイバレーザでなく、YAGレーザを使用して機械加工(切断)し、図4.1の挿入図に示されているようなSEM画像のものとなる技術であるが、そのうち、窒化珪素すなわちSi3N4に係るSEM画像は図4.1の上から2段目の画像である。
そうすると、窒化珪素系セラミックス集合基板に関する発明である甲1発明において、そもそも甲2技術をあえて適用すべき動機は見当たらないが、甲2技術を適用したとしても、ファイバレーザに代えて、YAGレーザを使用し、レーザビームを1回通過させ、機械加工(切断)することにより、図4.1の上から2段目の画像に示されているようなSEM画像のものとなるものである。
本件特許掲載公報の【0065】には、「結晶及びアモルファス構造、即ち、特にセラミックス相及びアモルファス相は、SEM画像によって明確に決定することができる。アモルファス相の幅も、SEM画像によって導き出すことができる。」と記載されているように、アモルファス相の幅はSEM画像によって決定できることが知られているといえる。
しかし、図4.1の上から2段目のSEM画像をみても、甲1発明に甲2技術を組み合わせた場合に、アモルファス相が生成されているとしても、その幅が構成E1~E4のような幅になるとまでは認めることはできず、当業者であっても、甲1発明において、相違点に係る構成(特に、構成E1~E4)を導き出すことはできない。
よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
d 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲第2号証に関して以下の主張をしている。
「甲2記載の技術は、セラミック基板であって(上記構成a2)、SEM像において見た目が明らかに異なる領域が、スクライブライン及び/又は切断エッジに平行に延在し(上記構成c2)、SEM像での見え方に違いのある領域の厚みが約23μmであるセラミック基板である(上記構成e2)。(中略)他方、本件特許発明1の上記C、Eの「アモルファス相」は、甲第2号証に直接的には記載されていない。
しかしながら、上述したように、上記構成Cの「アモルファス相」は、本件特許明細書においてSEM像の見た目が異なる領域と定義されているため、甲第2号証に記載の図4.1に記載のSEM像において見た目が異なる領域はアモルファス相であると特定することができる。そのため、本件特許請求項1の上記構成Cの「アモルファス相」は、甲第2号証に示唆されている。
また、本件特許請求項1の上記構成Eについて、甲第2号証の図4.1、特に、図4.1の最上左のSEM像の拡大図中の0.25mm(申立人が矩形で示した)において、SEM像での見え方に違いのある領域(白く見える)の厚みが約23μmである(図から看取)。そのため、甲第2号証は、本件特許請求項1の上記構成Eを示唆している。なお、0.25mmは250μmである。」(特許異議申立書22頁)
上記特許異議申立人の主張について検討すると、そもそも、甲第2号証の図4.1の最上左のSEM像の拡大図中の0.25mm(申立人が矩形で示した)において、SEM像での見え方に違いのある領域(白く見える)の厚みが約23μmであるか否かは、図を見ただけでは不明確である。
また、仮に、甲第2号証の図4.1の最上左のSEM像での見え方に違いのある領域(白く見える)の厚みが約23μmであり、さらに、その部分がアモルファス相であるとしても、特許異議申立人が提示する甲第2号証の図4.1の最上左のSEM像は、Al2O3から製造された破片であり、窒化珪素系セラミックス集合基板に関する発明である甲1発明に組み合わせても、甲1発明におけるアモルファス相の幅が構成E1~E4のような幅になると認めることはできない。
よって、甲第2号証に関する特許異議申立人の主張を採用することはできない。
(ウ)本件特許発明2~11について
本件特許発明2~11は、本件特許発明1を直接若しくは間接に引用する発明であるから、少なくとも、上記(イ)bの相違点を有するものである。
よって、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2~11は、甲1発明及び甲2技術から容易に発明できたものでなく、また、甲第3号証及び甲第4号証を見ても、当該相違点に係る構成が容易に発明できたものではない。
したがって、本件特許発明2は、甲1発明と甲2ないし甲4記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明3は、甲1発明と甲2及び甲3記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、本件特許発明4~11は、甲1発明と甲2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第5 むすび
したがって、請求項1~11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700735