特許異議申立
2025-700939
グリーンシートおよびその製造方法
- 審判番号
- 2025-700939
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-061340
- 登録番号
- 7655762
- 請求日
- 2025年09月30日
- 審決日
- 2026年04月24日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ノリタケ株式会社
- 【権利者代理人】安部 誠
- 【異議申立人】小松 茂夫
- 審判長/審判官
- 審判長 松永 稔
- 審判官 梶尾 誠哉
- 審判官 原田 貴志
- 分類
- P1651.537-YAA(H10W)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7655762号発明「グリーンシートおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7655762号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7655762号の請求項1~3、5~7に係る特許を維持する。
特許第7655762号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7655762号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和3年3月31日の出願であって、令和7年3月25日にその特許権の設定登録がされ、同年4月2日に特許掲載公報が発行された。
本件特許の請求項1~7に係る特許についての特許異議申立人 小松 茂夫(以下「異議申立人」という。)による特許異議の申立ての経緯の概略は、次のとおりである。
令和7年 9月30日 :異議申立人による特許異議の申立て
同年12月 3日付け:取消理由通知
令和8年 1月26日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
同年 3月 3日 :異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和8年1月26日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、訂正の内容は、以下のとおりである(各訂正事項中の下線は、訂正箇所を示す。)。
なお、訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項1~7について請求されたものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「水溶性アクリル樹脂である、」と記載されているのを、「水溶性アクリル樹脂であり、前記水溶性樹脂バインダの体積と前記水溶性可塑剤の体積との合計を100vol%としたとき、前記水溶性可塑剤の体積割合は、2vol%以上35vol%以下である、」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2、3、5~7も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4の何れか一項に記載のグリーンシート。」と記載されているのを、「請求項1~3の何れか一項に記載のグリーンシート。」に訂正する。
(請求項5の記載を引用する請求項6及び7も同様に訂正する。)
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5の何れか一項に記載のグリーンシート。」と記載されているのを、「請求項1、2、3、5の何れか一項に記載のグリーンシート。」に訂正する。
(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「乾式粉末圧延法を用いて請求項1~6の何れか一項に記載のグリーンシートを製造する方法。」と記載されているのを、「乾式粉末圧延法を用いて請求項1、2、3、5、6の何れか一項に記載のグリーンシートを製造する方法。」に訂正する。
2 判断
以下、訂正の適否について判断する。
なお、本件においては、訂正前の請求項1~7について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~7に係る訂正事項1~5に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条第7項の独立特許要件は課されない。
(1) 訂正事項1(請求項1に係る訂正)について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の「水溶性アクリル樹脂」について、訂正前の請求項4に記載されている「前記水溶性樹脂バインダの体積と前記水溶性可塑剤の体積との合計を100vol%としたとき、前記水溶性可塑剤の体積割合は、2vol%以上35vol%以下である」との事項で限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか
訂正事項1による訂正は、上記アのとおり、訂正前の請求項4に記載されている事項で限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか
上記アのとおり、訂正事項1に係る事項は、訂正前の請求項4に記載されている。
また、願書に添付した明細書(以下、「願書に添付した特許請求の範囲又は図面」を含め、「本件明細書等」という。)の【0013】には、「ここで開示されるグリーンシートの好ましい一態様では、上記水溶性樹脂バインダの体積と上記水溶性可塑剤の体積との合計を100vol%としたとき、上記水溶性可塑剤の体積割合は、2vol%以上35vol%以下である。」、【0038】には、「水溶性樹脂バインダの体積と水溶性可塑剤の体積との合計を100vol%としたとき、水溶性可塑剤の体積割合は、例えば2vol%以上であるとよく、10vol%以上が好ましい。・・・また、水溶性可塑剤の上記体積割合は、例えば、35vol%以下であって、20vol%以下が好ましい。・・・」と記載されている。
そうすると、訂正事項1による訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(2) 訂正事項2(請求項4に係る訂正)について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、請求項4を削除する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか
訂正事項2による訂正は、上記アのとおり、請求項4を削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか
訂正事項2による訂正は、上記アのとおり、請求項4を削除するものであるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(3) 訂正事項3(請求項5に係る訂正)について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、請求項1~4を引用する請求項5のうち、請求項4を引用する請求項5を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、請求項1~4を引用する請求項5のうち、請求項4を引用する請求項5を削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、請求項1~4を引用する請求項5のうち、請求項4を引用する請求項5を削除するものであるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(4) 訂正事項4(請求項6に係る訂正)について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、請求項1~5を引用する請求項6のうち、請求項4を引用する請求項6を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか
訂正事項4による訂正は、上記アのとおり、請求項1~5を引用する請求項6のうち、請求項4を引用する請求項6を削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか
訂正事項4による訂正は、上記アのとおり、請求項1~5を引用する請求項6のうち、請求項4を引用する請求項6を削除するものであるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(5) 訂正事項5(請求項7に係る訂正)について
ア 訂正の目的
訂正事項5による訂正は、請求項1~6を引用する請求項7のうち、請求項4を引用する請求項7を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるか
訂正事項5による訂正は、上記アのとおり、請求項1~6を引用する請求項7のうち、請求項4を引用する請求項7を削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか
訂正事項5による訂正は、上記アのとおり、請求項1~6を引用する請求項7のうち、請求項4を引用する請求項7を削除するものであるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
3 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は適法にされたものであるから、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1~7」といい、併せて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
窒化物系セラミック粉末と、水溶性樹脂バインダと、水溶性可塑剤と、を含み、
前記水溶性樹脂バインダのガラス転移点は50℃以下であり、
前記水溶性可塑剤の数平均分子量は300以上1500以下であり、
前記水溶性樹脂バインダは、一般式:CH2=C(R1)COOR2(式中のR1は水素原子またはメチル基を示す。R2は炭素原子数が1~20の鎖状アルキル基を示す。)で表されるアルキル(メタ)アクリレートを主モノマー(単量体全体の50質量%超を占める成分)として共重合された水溶性アクリル樹脂であり、
前記水溶性樹脂バインダの体積と前記水溶性可塑剤の体積との合計を100vol%としたとき、前記水溶性可塑剤の体積割合は、2vol%以上35vol%以下である、
グリーンシート。
【請求項2】
理論密度比((実測密度/理論密度)×100)が85%以上である、請求項1に記載のグリーンシート。
【請求項3】
JIS K 7161:2014に準拠した、1mm/minの引張速度条件における引張強度が0.8MPa以上である、請求項1または2に記載のグリーンシート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記水溶性可塑剤として、ポリエーテル系可塑剤を含む、請求項1~3の何れか一項に記載のグリーンシート。
【請求項6】
前記窒化物系セラミック粉末は、窒化ホウ素、窒化ケイ素および窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の窒化化合物を含む、請求項1、2、3、5の何れか一項に記載のグリーンシート。
【請求項7】
乾式粉末圧延法を用いて請求項1、2、3、5、6の何れか一項に記載のグリーンシートを製造する方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由(サポート要件(特許法36条6項1号(同法113条4号)))の概要
本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、成形性、強度及び経日安定性に優れたシート状組成物(グリーンシート)を提供すること、また、かかるグリーンシートを実現する製造方法を提供することであるところ、発明の詳細な説明によれば、「水溶性樹脂バインダ」の体積と「水溶性可塑剤」の体積との合計を100vol%としたとき、「水溶性可塑剤」の体積割合が「2vol%以上35vol%以下である」ときでなければ、上記課題を解決しているとはいえず、また、上記課題を解決できることが本件特許の出願当時の技術常識であったともいえないから、訂正前の請求項1~3、5~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
2 判断
本件訂正により、請求項1に「前記水溶性樹脂バインダの体積と前記水溶性可塑剤の体積との合計を100vol%としたとき、前記水溶性可塑剤の体積割合は、2vol%以上35vol%以下である」との構成が追加されたから、本件発明1及び本件発明1の構成を含む本件発明2、3、5~7は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、上記取消理由は解消した。
3 異議申立人の主張について
異議申立人は、本件発明1~3、5~7は、サポート要件を満たしていない旨主張する。
そこで、以下検討する。
(1) 本件明細書には、以下の記載がある(下線は当審において加筆した。以下同じ。)。
「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、本発明者らは、グリーンシートの原料(即ち、グリーンシートの構成成分)に含まれる樹脂バインダの柔軟性に着目した。グリーンシートを製造する方法としては、例えば、グリーンシートの原料に圧力をかけてシート状に成型する方法が挙げられる。このとき、グリーンシートの原料に柔軟性があれば、圧力によって空気を押し出しながらグリーンシートを製造することができるため、成形性を向上させることができる。その一方で、かかる原料の柔軟性が高すぎる場合には、製造されたグリーンシートの強度が不足する虞がある。そこで、本発明者らは、樹脂に柔軟性を付与する可塑剤に注目し鋭意検討を行った。その結果、所定範囲の数平均分子量の水溶性可塑剤を用いることで、成形性、強度および経日安定性の何れにも優れたグリーンシートが実現されることが見出された。
【0009】
即ち、ここで開示されるグリーンシートは、窒化物系セラミック粉末と、水溶性樹脂バインダと、水溶性可塑剤と、を含む。そして、上記水溶性樹脂バインダのガラス転移点は50℃以下であり、上記水溶性可塑剤の数平均分子量は300以上1500以下であることを特徴とする。
【0010】
かかる構成のグリーンシートでは、上記範囲内の数平均分子量を有する水溶性可塑剤を含むことで、水溶性樹脂バインダは適度な柔軟性を有している。また、ガラス転移点が50℃以下の水溶性樹脂バインダを含むことにより、グリーンシートの製造の際に、容易に水溶性樹脂バインダがゴム状または液状のような粘度の低い状態にすることができる。そのため、グリーンシート製造時に好適に空気を押し出すことができるため、優れた成形性を有したグリーンシートが実現される。また、かかる構成では、水溶性樹脂バインダの柔軟性が適切な範囲に調整されるため、このグリーンシートは優れた強度を有している。さらに、水溶性可塑剤は親水基を有するため、空気中の水分を吸収し易い性質を有するが、水溶性可塑剤を上記数平均分子量の範囲とすることで、空気中の水分吸収量を抑制でき、優れた経日安定性が実現される。
・・・(中略)・・・
【0033】
窒化物系セラミック粉末の体積と水溶性樹脂バインダの体積との合計を100vol%とすると、窒化物系セラミック粉末の体積割合は45vol%超過であり得る。グリーンシートの熱伝導性を向上する観点から、窒化物系セラミック粉末の体積割合は、例えば50vol%以上とするとよく、好ましくは55vol%以上、より好ましくは60vol%以上である。また、水溶性樹脂バインダの割合が高い方がグリーンシートの成形性が向上するため、窒化物系セラミック粉末の体積割合は、例えば75vol%未満であって、好ましくは70vol%以下、より好ましくは65vol%以下であるとよい。」
(2) 上記(1)の【0008】~【0010】の記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、水溶性樹脂バインダのガラス転移点を50℃以下とすることで、グリーンシートの製造の際に、容易に水溶性樹脂バインダを粘度の低い状態にすることができ、また、水溶性可塑剤の数平均分子量を300以上1500以下とすることで、水溶性樹脂バインダが適度な柔軟性を有するようにすることができる結果、優れた成形性、強度、経日安定性を有するグリーンシートが実現されると記載されているから、水溶性樹脂バインダのガラス転移点を50℃以下とすることと、水溶性可塑剤の数平均分子量を300以上1500以下とすることを特定した本件発明1は、上記1で述べた本件課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものである。
そうすると、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるから(本件発明2、3、5~7についても同じ。)、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3) 異議申立人は、意見書において、本件明細書の【0033】には、窒化物系セラミック粉末の体積割合として50vol以上75vol%未満であることが必要であると記載されているから、本件明細書は、グリーンシートの性能は「水溶性樹脂バインダと水溶性可塑剤の相対比率」のみでは決定されないという技術的前提に立って記載されているところ、請求項1では、窒化物系セラミック粉末の体積割合については何ら特定されていないから、本件発明1は、窒化物系セラミック粉末の体積割合が極端に少ない態様や、過剰に多い態様をも包含することになり、結果として、本件明細書に記載された成形性、強度、経日安定性を実現できない態様まで技術的範囲に含まれており、サポート要件を満たしていない旨主張する(本件発明2、3、5~7についても同じ。)。
しかしながら、上記(1)の【0033】の記載によれば、窒化物系セラミック粉末の体積割合を「例えば50vol%以上」とするとよいのは、グリーンシートの熱伝導性を向上する観点に基づくものであり、成形性、強度及び経日安定性に優れたシート状組成物(グリーンシート)やグリーンシートを実現する製造方法を提供するという本件発明の課題とは関係がない。
また、窒化物系セラミック粉末の体積割合を「例えば75vol%未満」とするのは、水溶性樹脂バインダの割合が高い方がグリーンシートの成形性が向上するから、水溶性樹脂バインダの体積割合を確保するために、間接的に窒化物系セラミック粉末の体積割合を述べたものであって、窒化物系セラミック粉末の体積割合が75vol%を超えたら、直ちにグリーンシートの成形性の向上が阻害され、シート状組成物(グリーンシート)やグリーンシートを実現する製造方法を提供することができなくなるという性質のものではない。
そうすると、本件明細書の【0033】には、窒化物系セラミック粉末の体積割合として50vol以上75vol%未満であることが必要であるとは記載されていないから、異議申立人の主張する技術的前提は誤りである(本件発明2、3、5~7についても同じ。)。
したがって、異議申立人の主張は、その前提を欠いており採用できない。
4 小括
以上のとおり、本件発明1~3、5~7は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであるとはいえない。
したがって、請求項1~3、5~7に係る特許は、取り消されるべきものではない。
第5 特許異議申立書における申立理由について
1 サポート要件(特許法36条6項1号(同法113条4号))
(1) 異議申立人の主張する(ア-1)について(異議申立書4頁上段~7頁上段)
異議申立人は、本件明細書には、例1~例9のグリーンシートの水溶性樹脂バインダとして、DIC株式会社製の5種類の水溶性アクリル樹脂A~Eが用いられているが、これらの水溶性アクリル樹脂A~Eのいずれについても、主モノマーが一般式:CH2=C(R1)COOR2で表されるとしても、主モノマーの具体的な化学式について、本件明細書にも、DIC株式会社のカタログ(甲1)にも記載されていないから、当該5種類の水溶性アクリル樹脂A~Eを構成する主モノマーの具体的な化学式は本件明細書の自明な範囲の記載でもないところ、本件発明1は、当該5種類以外の水溶性アクリル樹脂を水溶性樹脂バインダとして含む場合も考えられるため、その場合、当該5種類の水溶性アクリル樹脂A~Eを水溶性樹脂バインダとして含む場合に解決する課題を解決できるか不明であって、主モノマーの具体的な化学式について不明な5種類の水溶性アクリル樹脂A~Eを、「前記水溶性樹脂バインダは、一般式:CH2=C(R1)COOR2(式中のR1は水素原子またはメチル基を示す。R2は炭素原子数が1~20の鎖状アルキル基を示す。)で表されるアルキル(メタ)アクリレートを主モノマー(単量体全体の50質量%超を占める成分)として共重合された水溶性アクリル樹脂」という構成についてまで拡張ないし一般化することができないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
しかしながら、上記第4の3(2)で判断したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明で特定されているように、水溶性樹脂バインダのガラス転移点を50℃以下とすることで、グリーンシートの製造の際に、容易に水溶性樹脂バインダを粘度の低い状態にすることができ、また、水溶性可塑剤の数平均分子量を300以上1500以下とすることで、水溶性樹脂バインダが適度な柔軟性を有するようにすることができ、その結果、優れた成形性、強度、経日安定性を有するグリーンシートが実現されることが記載されており、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
そうすると、異議申立人が主張するように、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された5種類の水溶性アクリル樹脂A~Eを構成する主モノマーの具体的な化学式が本件明細書に記載されていなかったとしても、そのことは上記判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(2) 異議申立人の主張する(ア-2)について(異議申立書7頁上段~中段)
異議申立人は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された5種類の水溶性アクリル樹脂A~Eが本件発明1に含まれるものとすると、本件発明1は、本件明細書の【0063】の【表3】において、課題を解決することができない例として示される例10や例15を含むことになるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
しかしながら、上記第4の2のとおり、本件訂正により、請求項1に「前記水溶性樹脂バインダの体積と前記水溶性可塑剤の体積との合計を100vol%としたとき、前記水溶性可塑剤の体積割合は、2vol%以上35vol%以下である」との構成が追加された結果、水溶性可塑剤の体積割合が0vol%である例10と、40vol%である例15は、本件発明1の範囲に含まれないこととなった。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(3) 異議申立人の主張する(ア-3)について(異議申立書7頁中段~8頁上段)
異議申立人は、本件明細書には、グリーンシートの成形方法についてドクターブレード法を含む湿式プロセスでは成形性の高いグリーンシートの製造が困難であることが記載されているところ、本件発明は物の発明であるため、多種多様な成形方法によって製造されたグリーンシートを含むから、課題解決が困難である湿式プロセスで製造されたグリーンシートが含まれており、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載を超えて課題を解決できない実施形態までをその範囲に含んでいるから、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
しかしながら、本件発明1は、グリーンシートという物の発明であって、製造方法の発明ではないから、湿式プロセスで製造されたグリーンシートであることを何ら特定するものではない。
したがって、異議申立人の主張は、本件発明1の構成に基づくものではなく、採用できない(なお、仮に異議申立人が主張するように、湿式プロセスによってグリーンシートを製造することができないのであれば、その場合、グリーンシートという物は存在しないから、異議申立人の主張は、物の発明である本件発明1のグリーンシートの発明とは無関係の主張である。)。
(4) 異議申立人の主張する(ア-4)について(異議申立書8頁上段)
異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項2~7は、請求項1に従属するものであり、かつ、本件発明1を発明の詳細な説明の記載に限定するものでもないから、本件発明2~7も、本件発明1と同様に、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の請求項2、3、5~7は、請求項1に記載された発明特定事項に、さらに構成を付加して限定したものであるから、異議申立人の主張は前提を欠いている(なお、請求項4は、上記第2の1(2)のとおり、本件訂正により削除された。)。
そして、本件発明1~3、5~7が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合することは、上記第4の3(2)のとおりである。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
2 明確性要件(特許法36条6項2号(同法113条4号))
(1) 異議申立人は、異議申立書8頁中段~下段において、本件発明1のグリーンシートの水溶性樹脂バインダは、主モノマーの具体的な化学式が不明である5種類の水溶性アクリル樹脂A~Eを含むため、どのような具体的な化学式の主モノマーの水溶性アクリル樹脂を含み得るのか不明であり、本件発明1のグリーンシートの水溶性樹脂バインダの範囲が明確ではないから、本件発明1は明確ではない旨主張する(本件発明2、3、5~7についても同じ。)。
しかしながら、本件発明1では、「水溶性樹脂バインダ」について、「一般式:CH2=C(R1)COOR2(式中のR1は水素原子またはメチル基を示す。R2は炭素原子数が1~20の鎖状アルキル基を示す。)で表されるアルキル(メタ)アクリレートを主モノマー(単量体全体の50質量%超を占める成分)として共重合された水溶性アクリル樹脂」と特定されているから、本件明細書に記載された水溶性アクリル樹脂A~Eの主モノマーの具体的な化学式が明らかでないとしても、本件発明1の技術的範囲に不明確な点はない(本件発明2、3、5~7についても同じ。)。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(2) 異議申立人は、意見書において、請求項1の記載からは、成形性、強度、経日安定性を確保するためにどの程度の窒化物系セラミック粉末の体積割合が必要であるのか、水溶性樹脂バインダ及び水溶性可塑剤の体積割合がどのような前提条件下で有効に機能するのか、を当業者が合理的に理解することができず、技術的範囲が不明確であり、当業者にとって発明の成立範囲を判断できないから、本件発明1は明確ではない旨主張する(本件発明2、3、5~7についても同じ。)。
しかしながら、請求項1では、グリーンシートが、窒化物系セラミック粉末と、水溶性樹脂バインダと、水溶性可塑剤とを含むことが特定されているところ、水溶性樹脂バインダと、水溶性可塑剤に対する窒化物系セラミック粉末の分量は特段特定されておらず、窒化物系セラミック粉末は単に存在していればよいのであるから、本件発明1の技術的範囲が不明確であるとはいえない。
そうすると、請求項1に記載された本件発明1は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由によっては、本件特許の請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3、5~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項4は削除されたから、本件特許の請求項4に係る特許に対する特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しなくなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700939